説明

イオンビーム照射装置

【課題】 プラズマ発生装置を備えていても、その下流側に設けられたイオンビーム電流測定装置によるイオンビーム電流の測定に誤差が生じるのを抑制する。
【解決手段】 このイオンビーム照射装置は、プラズマ発生装置24と、その下流側に設けられたイオンビーム電流測定装置30とを備えている。イオンビーム電流測定装置30は、ビーム電流検出器32、第1抑制電極34および第2抑制電極36を備えている。更に、負の第1抑制電圧V1 を第1抑制電極34に印加する第1抑制電源40と、正の第2抑制電圧V2 を出力する第2抑制電源42と、プラズマ発生装置24がオンのときは、第2抑制電極36を第2抑制電源42に接続し、プラズマ発生装置24がオフのときは、第2抑制電極36を第2抑制電源42から切り離して第1抑制電源40に接続する切り換え器44とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオンビームをターゲットに照射してイオン注入等の処理を施すイオンビーム照射装置に関する。より具体的には、プラズマによってイオンビーム照射に伴うターゲット表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置と、当該プラズマ発生装置よりも下流側に設けられていて、イオンビームを受けてそのビーム電流を測定するイオンビーム電流測定装置とを備えているイオンビーム照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンビームをターゲットに照射してイオン注入等の処理を施すイオンビーム照射装置であって、プラズマを生成して当該プラズマを前記ターゲットの上流側に供給して、イオンビーム照射に伴うターゲット表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置と、当該プラズマ発生装置よりも下流側に設けられていて、前記イオンビームを受けてそのビーム電流を測定するイオンビーム電流測定装置とを備えているイオンビーム照射装置が従来から提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この出願において、「上流側」、「下流側」とは、それぞれ、イオンビーム進行方向における上流側、下流側のことを言う。
【0004】
特許文献1に記載されている後段多点ファラデーが、上記イオンビーム電流測定装置に該当する。上記後段多点ファラデーは、簡単に言えば、下記のようなイオンビーム電流測定装置50を複数並べたものである。
【0005】
従来のイオンビーム照射装置を構成するプラズマ発生装置およびイオンビーム電流測定装置周りの一例を部分的に図4に示す。ターゲットの図示は省略している。
【0006】
プラズマ26を発生させるプラズマ発生装置24の下流側にイオンビーム電流測定装置50が設けられている。このイオンビーム電流測定装置50は、例えば、特許文献2に記載されたのと同様のものであり、イオンビーム4を受けてそのビーム電流を検出するファラデーカップ52と、その入口側に設けられていて抑制電源58から負の抑制電圧V3 (例えば−600V程度)が印加される抑制電極54と、その入口側に設けられた接地電位のマスク56とを備えている。ファラデーカップ52には、例えば、それに流れるビーム電流を測定する電流計60が接続される。このイオンビーム電流測定装置50によって、イオンビーム4のビーム電流を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−34360号公報(図1)
【特許文献2】特開2000−65942号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来のイオンビーム照射装置においては、図4に示すように、プラズマ発生装置24から放出されたプラズマ26中のイオン(この明細書では正イオン。以下同様)27および電子28が、イオンビーム電流測定装置50の入口付近にまで達する。
【0009】
その場合、電子28は、負の抑制電圧V3 が印加されている抑制電極54によって押し戻されて抑制電極54を通過することはできないけれども、イオン27は、負の抑制電圧V3 が印加されている抑制電極54に引き寄せられて、抑制電極54を通過してファラデーカップ52に流入する。これによって、イオンビーム4のビーム電流の測定に誤差が生じる。特に、イオンビーム4のビーム電流が小さい場合には、この誤差が、イオンビーム4のビーム電流の測定に大きく影響し、正常な測定に支障を来す。
【0010】
そこでこの発明は、上記のようなプラズマ発生装置を備えていても、その下流側に設けられたイオンビーム電流測定装置によるイオンビーム電流の測定に誤差が生じるのを抑制することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るイオンビーム照射装置は、イオンビームをターゲットに照射するイオンビーム照射装置であって、プラズマを生成して当該プラズマを前記ターゲットの上流側に供給して、イオンビーム照射に伴うターゲット表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置と、前記プラズマ発生装置よりも下流側に設けられていて、前記イオンビームを受けてそのビーム電流を測定するイオンビーム電流測定装置とを備えているイオンビーム照射装置において、前記イオンビーム電流測定装置は、前記イオンビームを受けてそのビーム電流を検出するビーム電流検出器と、前記ビーム電流検出器の入口側に設けられている第1抑制電極と、前記第1抑制電極の入口側に設けられている第2抑制電極と、接地電位を基準にして負の第1抑制電圧を出力して、それを前記第1抑制電極に印加する第1抑制電源と、接地電位を基準にして正の第2抑制電圧を出力する第2抑制電源と、前記プラズマ発生装置がオンのときは、前記第2抑制電極を前記第2抑制電源に接続し、前記プラズマ発生装置がオフのときは、前記第2抑制電極を前記第2抑制電源から切り離すように切り換える切り換え器とを備えていることを特徴としている。
【0012】
このイオンビーム照射装置においては、第1抑制電極には、プラズマ発生装置のオン・オフに拘わらず、第1抑制電源から負の第1抑制電圧が印加される。
【0013】
第2抑制電極に関しては、プラズマ発生装置がオンのときは、切り換え器によって、第2抑制電極を第2抑制電源に接続するので、第2抑制電源から第2抑制電極に正の第2抑制電圧が印加される。この場合、プラズマ発生装置から放出されたプラズマ中のイオンは、正の第2抑制電圧が印加されている第2抑制電極によって押し戻されて、第2抑制電極を通過することができない。従って、上記イオンがビーム電流検出器に流入するのを抑制して、イオンビーム電流の測定に誤差が生じるのを抑制することができる。プラズマ発生装置から放出されたプラズマ中の電子は、負の第1抑制電圧が印加されている第1抑制電極によって押し戻されて、第1抑制電極を通過することができない。従って、上記電子がビーム電流検出器に流入するのを抑制して、イオンビーム電流の測定に誤差が生じるのを抑制することができる。
【0014】
プラズマ発生装置がオフのときは、切り換え器によって、第2抑制電極を第2抑制電源から切り離すので、第2抑制電極には正の第2抑制電圧は印加されない。従って、第2抑制電極の存在がイオンビーム電流測定に影響を及ぼすことを防止することができる。
【0015】
前記切り換え器は、前記プラズマ発生装置がオフのときは、前記第2抑制電極を、前記第2抑制電源から切り離して前記第1抑制電源に接続するものでも良いし、接地するものでも良いし、浮遊電位にするものでも良い。
【0016】
前記プラズマ発生装置のオン・オフに応じて、前記切り換え器の前記切り換えを制御する制御装置を更に備えていても良い。
【0017】
前記第2抑制電源は、それから出力する前記第2抑制電圧の大きさが可変のものでも良い。
【0018】
前記イオンビーム電流測定装置は、前記第2抑制電極の入口側に設けられていて前記第2抑制電極の開口よりも小さい開口を有しており、かつ電気的に接地されたマスクを更に備えていても良い。
【発明の効果】
【0019】
請求項1〜4に記載の発明によれば、プラズマ発生装置がオンのとき、プラズマ発生装置から放出されたプラズマ中のイオンは、正の第2抑制電圧が印加されている第2抑制電極によって押し戻されて、第2抑制電極を通過することができず、上記プラズマ中の電子も、負の第1抑制電圧が印加されている第1抑制電極によって押し戻されて、第1抑制電極を通過することができない。従って、上記イオンおよび電子がビーム電流検出器に流入するのを抑制することができるので、プラズマ発生装置を備えていても、イオンビーム電流測定装置によるイオンビーム電流の測定に誤差が生じるのを抑制することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、プラズマ発生装置のオン・オフに応じて、切り換え器の切り換えを制御する制御装置を更に備えているので、切り換え器の切り換えを自動化することができる。これによって、省力化を図ることができると共に、人為的な切り換え誤りが発生することを防止して、イオンビーム電流測定の信頼性をより高めることができる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、第2抑制電源は、それから出力する第2抑制電圧の大きさが可変のものであるので、イオンビームのエネルギーが可変であっても、当該イオンビームのエネルギーに応じた大きさの第2抑制電圧にすることができる。その結果、第2抑制電極に印加された第2抑制電圧がイオンビーム電流測定に及ぼす影響を抑制することが容易になる。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、当該請求項に記載のようなマスクを更に備えているので、第2抑制電極に印加された第2抑制電圧によって発生する電界が、第2抑制電極の上流側のビームラインに漏れ出すのを抑制することができる。その結果、上記電界がイオンビームの軌道に影響を及ぼすことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係るイオンビーム照射装置の一実施形態を示す概略平面図である。
【図2】図1中の後段多点ファラデーを構成するイオンビーム電流測定装置の一例を、プラズマ発生装置と共に示す概略図である。
【図3】図2中のイオンビーム電流測定装置を拡大して部分的に示す概略図である。
【図4】従来のイオンビーム照射装置を構成するプラズマ発生装置およびイオンビーム電流測定装置周りの一例を部分的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、この発明に係るイオンビーム照射装置の一実施形態を示す。なお、この明細書および図面においては、イオンビーム4の進行方向をZ方向とし、このZ方向と実質的に直交する平面内において互いに直交する2方向をX方向およびY方向としている。例えば、X方向およびZ方向は水平方向であり、Y方向は垂直方向であるが、これに限られるものではない。
【0025】
このイオンビーム照射装置は、後段多点ファラデー22を構成するイオンビーム電流測定装置(図2のイオンビーム電流測定装置30参照)および制御装置48以外については、上記特許文献1に記載のイオンビーム照射装置とほぼ同様の構成をしている。
【0026】
即ちこのイオンビーム照射装置は、図示しないイオン源から発生させた、リボン状のイオンビームの元になる小さな断面形状をしているイオンビーム4を、図示しない走査器によってX方向に走査し、かつビーム平行化器6を通して平行ビーム化して、X方向の寸法がY方向の寸法よりも大きいリボン状のイオンビーム4にした後に、ホルダ16に保持されたターゲット(例えば半導体基板)14に照射して、ターゲット14にイオン注入等の処理を施すよう構成されている。ターゲット14は、ホルダ16と共に、ビーム平行化器6からのイオンビーム4の照射領域内で、ターゲット駆動装置18によって、Y方向に沿う方向に機械的に往復走査(往復駆動)される。これによって、ターゲット14の全面にイオンビーム4を照射することができる。
【0027】
但し、イオン源からリボン状のイオンビーム4を発生させて、X方向の走査を経ることなく、かつビーム平行化器6を用いることなく、リボン状をしているイオンビーム4をターゲット14に照射する構成でも良い。
【0028】
更にこの実施形態では、一例として、ビーム平行化器6の下流側に、イオンビーム4をY方向において絞る電界レンズ8およびイオンビーム4を整形するマスク10が設けられているが、これらはこの発明に必須のものではない。
【0029】
ターゲット14の上流側に(より具体的には上流側近傍に)、ガスを電離させてプラズマを生成して当該プラズマ26(図2参照)をターゲット14の上流側に(より具体的には上流側近傍に)供給して、当該プラズマ26中の電子によって、イオンビーム照射に伴うターゲット14表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置24が設けられている。このプラズマ発生装置24は、例えば、特許第3387488号公報、特許第3414380号公報に記載されているような公知の装置である。
【0030】
ターゲット14の上流側および下流側に、イオンビーム4を受けてそのビーム電流を測定するイオンビーム電流測定装置の一例として、イオンビーム4のビーム電流をX方向における複数点で測定する前段多点ファラデー20および後段多点ファラデー22がそれぞれ設けられている。後段多点ファラデー22は上記プラズマ発生装置24よりも下流側に設けられており、以下においてはこの後段多点ファラデー22に着目して説明する。
【0031】
上記後段多点ファラデー22を構成するイオンビーム電流測定装置30の一例を、上記プラズマ発生装置24と共に図2に示す。この図2では、上記ターゲット14の図示は省力している。
【0032】
このイオンビーム電流測定装置30は、イオンビーム4を受けて当該イオンビーム4のビーム電流を検出するビーム電流検出器32と、このビーム電流検出器32の入口側(換言すれば、上流側近傍。以下同様)に設けられている第1抑制電極34と、この第1抑制電極34の入口側に設けられている第2抑制電極36とを備えている。これによって、イオンビーム4のビーム電流を測定することができる。更にこの実施形態では、第2抑制電極36の入口側にマスク38が設けられている。このマスク38は、電気的に接地されている。
【0033】
ビーム電流検出器32は、例えば、有底筒状のファラデーカップである。このビーム電流検出器32には、例えば、それに流れるビーム電流を測定する電流計46が接続される。
【0034】
各抑制電極34、36およびマスク38は、イオンビーム4を通す開口35、37、39をそれぞれ有している。この実施形態では、マスク38の開口39を、第2抑制電極36の開口37よりも小さくしている。その理由は後述する。
【0035】
このイオンビーム電流測定装置30は、更に、接地電位を基準にして負の第1抑制電圧V1 を出力して、それを第1抑制電極34に印加する第1抑制電源40と、接地電位を基準にして正の第2抑制電圧V2 を出力する第2抑制電源42と、上記プラズマ発生装置24がオン(動作中。即ちプラズマ26を発生させる状態)のときは、第2抑制電極36を第2抑制電源42に接続し、プラズマ発生装置24がオフ(停止中。即ちプラズマ26を発生させない状態)のときは、第2抑制電極36を第2抑制電源42から切り離すように切り換える切り換え器44とを備えている。切り換え器44は、より具体的にはこの実施形態では、プラズマ発生装置24がオフのときは、第2抑制電極36を、第2抑制電源42から切り離して第1抑制電源40に接続する。
【0036】
第1抑制電圧V1 は、例えば、−300V〜−600V程度である。その内のより具体例を示せば−600Vである。第2抑制電圧V2 は、例えば、+200V〜+400V程度である。その内のより具体例を示せば+400Vである。但し、これらの電圧はあくまでも一例であり、これらに限られるものではない。プラズマ発生装置24で発生させるプラズマ26中のイオンの種類(プラズマ発生装置24では主に希ガスを用いるので、例えばAr+ 、Xe+ 等)、当該イオンのエネルギー、プラズマ26中の電子のエネルギー、両抑制電極34、36間の距離等に応じて、両電圧V1 、V2 の大きさを適宜選定すれば良い。より具体例を挙げると、第2抑制電圧V2 の絶対値は、プラズマ26中のイオンが有するエネルギーに相当する電圧よりも大きく、かつイオンビーム4が有するエネルギーに相当する電圧よりも小さくしておけば良い。第1抑制電圧V1 の絶対値は、プラズマ26中の電子が有するエネルギーに相当する電圧よりも大きくしておけば良い。
【0037】
切り換え器44の種類は問わない。例えば、接点を有するものでも良いし、半導体スイッチを用いた無接点のもの等でも良い。
【0038】
また切り換え器44は、プラズマ発生装置24のオン・オフに応じて、手動で上記のように切り換えても良いし、この実施形態のように、プラズマ発生装置24のオン・オフに応じて切り換え器44の上記のような切り換えを制御する制御装置48(図1参照)を設けておいて、それの制御によって切り換えても良い。
【0039】
制御装置48は、この実施形態では、プラズマ発生装置24に対して、そのオン・オフを制御する制御信号S1 を供給すると共に、切り換え器44に対して、それをプラズマ発生装置24のオン・オフに応じて上記のように切り換える制御を行う制御信号S2 を供給する。即ちこの実施形態では、制御信号S1 がプラズマ発生装置24をオンさせるものであるときは、制御信号S2 は切り換え器44を第2抑制電源42側に切り換え、制御信号S1 がプラズマ発生装置24をオフさせるものであるときは、制御信号S2 は切り換え器44を第1抑制電源40側に切り換える。
【0040】
上記のような制御装置48を設けておくと、切り換え器44の切り換えを自動化することができる。これによって、省力化を図ることができると共に、人為的な切り換え誤りが発生することを防止して、イオンビーム電流測定の信頼性をより高めることができる。
【0041】
図1中に示す後段多点ファラデー22は、上記のようなイオンビーム電流測定装置30をX方向に複数並設したものである。より具体的には、ビーム電流検出器32をX方向に複数並設したものである。第1抑制電極34、第2抑制電極36およびマスク38は、各ビーム電流検出器32に対応するように複数設けても良いし、複数のビーム電流検出器32に共通するものを一つずつ設けても良い。第1抑制電源40、第2抑制電源42および切り換え器44は、共通のものを一つずつ設けるのが簡単で良い。
【0042】
次にイオンビーム電流測定装置30周りの動作を説明する。第1抑制電極34には、プラズマ発生装置24のオン・オフに拘わらず、第1抑制電源40から負の第1抑制電圧V1 が印加される。
【0043】
第2抑制電極36に関しては、プラズマ発生装置24がオンのときは、切り換え器44によって、第2抑制電極36を第2抑制電源42に接続するので(図2に示す状態)、第2抑制電源42から第2抑制電極36に正の第2抑制電圧V2 が印加される。この場合、プラズマ発生装置24から放出されたプラズマ26中のイオン27は、図3を参照して、正の第2抑制電圧V2 が印加されている第2抑制電極36によって押し戻されて、第2抑制電極36を通過することができない。従って、上記イオン27がビーム電流検出器32に流入するのを抑制して、イオンビーム電流の測定に誤差が生じるのを抑制することができる。プラズマ発生装置24から放出されたプラズマ26中の電子28は、図3を参照して、負の第1抑制電圧V1 が印加されている第1抑制電極34によって押し戻されて、第1抑制電極34を通過することができない。従って、上記電子28がビーム電流検出器32に流入するのを抑制して、イオンビーム電流の測定に誤差が生じるのを抑制することができる。
【0044】
従って、プラズマ発生装置24を備えていても、イオンビーム電流測定装置30によるイオンビーム電流の測定に誤差が生じるのを抑制することができる。
【0045】
プラズマ発生装置24がオフのときは、切り換え器44によって、第2抑制電極36を第2抑制電源42から切り離すので、第2抑制電極36には正の第2抑制電圧V2 は印加されない。従って、第2抑制電極36の存在がイオンビーム電流測定に影響を及ぼすことを防止することができる。
【0046】
また、いずれもプラズマ発生装置24がオフのときの話として、切り換え器44は、この実施形態のように、第2抑制電極36を第2抑制電源42から切り離して第1抑制電源40に接続するものでも良いし、第2抑制電極36を接地するものでも良いし、第2抑制電極36をどこにも接続せずに浮遊電位にするものでも良い。第2抑制電極36を第1抑制電源40に接続すると、第2抑制電極36にも負の第1抑制電圧V1 を印加することができるので、第2抑制電極36も第1抑制電極34と同様の作用を奏することができる。即ち、イオンビーム4の入射に伴ってビーム電流検出器32内から放出された電子(2次電子)が上流側へ逃げるのを抑制すると共に、上流側から電子がビーム電流検出器32内へ流入するのを抑制することができる。もっとも、このような作用は第1抑制電極34だけで十分な場合もあり、従って第2抑制電極36を上記のように接地しても良いし、浮遊電位にしても良い。
【0047】
第2抑制電源42を、それから出力する第2抑制電圧V2 の大きさが可変の電源としても良い。そのようにすると、イオンビーム4のエネルギーが可変であっても、当該イオンビーム4のエネルギーに応じた大きさの第2抑制電圧V2 にすることができるので、第2抑制電極36に印加された第2抑制電圧V2 がイオンビーム電流測定に及ぼす影響を抑制することが容易になる。また、様々なエネルギーのイオンビーム4に対応することができるので、汎用性も向上する。
【0048】
これを詳述すると、例えば、扱うイオンビーム4のエネルギー範囲が広い(例えば、数十eV〜数百keV)場合に、第2抑制電極36に印加する第2抑制電圧V2 の値を一定値にしておくと、極低エネルギーのイオンビーム4がビーム電流検出器32に入射できない可能性が生じる。プラズマ発生装置24で発生されたプラズマ26中に存在するイオンのエネルギーは、プラズマ発生装置24で適宜調整(即ちイオンビーム4のエネルギーよりも低く)することは可能であるが、第2抑制電極36に印加される第2抑制電圧V2 の大きさを変更できないと、イオンビーム電流の測定に誤差を生じさせたり、測定が困難になる場合が生じることがある。従って第2抑制電源42は、イオンビーム4のエネルギーに応じて抑制電圧V2 の大きさが調整可能なものが好ましい。
【0049】
マスク38を設けることは必須ではないけれども、この実施形態のように、第2抑制電極36の開口37よりも小さい開口39を有していて、電気的に接地されたマスク38を設けておくと、第2抑制電極36に印加された第2抑制電圧V2 によって発生する電界が、第2抑制電極36の上流側のビームラインに漏れ出すのを抑制することができる。その結果、上記電界がイオンビーム4の軌道に影響を及ぼすことを防止することができる。
【0050】
なお、上記後段多点ファラデー22は、イオンビーム4のX方向におけるビーム電流密度分布を測定することができるように、上記イオンビーム電流測定装置30をX方向に複数並設した場合の例であるけれども、イオンビーム電流測定装置30は必ずしもそのように複数設けなければならないものではない。例えば、プラズマ発生装置24の下流側に、一つのイオンビーム電流測定装置30が設けられていても良い。このイオンビーム電流測定装置30によっても、イオンビーム4のビーム電流を測定することができる。また上記のような作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0051】
4 イオンビーム
14 ターゲット
22 後段多点ファラデー
24 プラズマ発生装置
30 イオンビーム電流測定装置
32 ビーム電流検出器
34 第1抑制電極
36 第2抑制電極
38 マスク
40 第1抑制電源
42 第2抑制電源
44 切り換え器
48 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームをターゲットに照射するイオンビーム照射装置であって、
プラズマを生成して当該プラズマを前記ターゲットの上流側に供給して、イオンビーム照射に伴うターゲット表面の帯電を抑制するプラズマ発生装置と、
前記プラズマ発生装置よりも下流側に設けられていて、前記イオンビームを受けてそのビーム電流を測定するイオンビーム電流測定装置とを備えているイオンビーム照射装置において、
前記イオンビーム電流測定装置は、
前記イオンビームを受けてそのビーム電流を検出するビーム電流検出器と、
前記ビーム電流検出器の入口側に設けられている第1抑制電極と、
前記第1抑制電極の入口側に設けられている第2抑制電極と、
接地電位を基準にして負の第1抑制電圧を出力して、それを前記第1抑制電極に印加する第1抑制電源と、
接地電位を基準にして正の第2抑制電圧を出力する第2抑制電源と、
前記プラズマ発生装置がオンのときは、前記第2抑制電極を前記第2抑制電源に接続し、前記プラズマ発生装置がオフのときは、前記第2抑制電極を前記第2抑制電源から切り離すように切り換える切り換え器とを備えていることを特徴とするイオンビーム照射装置。
【請求項2】
前記切り換え器は、前記プラズマ発生装置がオフのときは、前記第2抑制電極を、前記第2抑制電源から切り離して前記第1抑制電源に接続するものである請求項1記載のイオンビーム照射装置。
【請求項3】
前記切り換え器は、前記プラズマ発生装置がオフのときは、前記第2抑制電極を、前記第2抑制電源から切り離して接地するものである請求項1記載のイオンビーム照射装置。
【請求項4】
前記切り換え器は、前記プラズマ発生装置がオフのときは、前記第2抑制電極を、前記第2抑制電源から切り離して浮遊電位にするものである請求項1記載のイオンビーム照射装置。
【請求項5】
前記プラズマ発生装置のオン・オフに応じて、前記切り換え器の前記切り換えを制御する制御装置を更に備えている請求項1ないし4のいずれかに記載のイオンビーム照射装置。
【請求項6】
前記第2抑制電源は、それから出力する前記第2抑制電圧の大きさが可変のものである請求項1ないし5のいずれかに記載のイオンビーム照射装置。
【請求項7】
前記イオンビーム電流測定装置は、前記第2抑制電極の入口側に設けられていて前記第2抑制電極の開口よりも小さい開口を有しており、かつ電気的に接地されたマスクを更に備えている請求項1ないし6のいずれかに記載のイオンビーム照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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