説明

イオンビーム照射装置

【課題】 大型の基板に対してもその全面に均一性良くイオンビーム照射を行うことができ、しかもイオンビーム寸法を基板寸法よりも小さくしてイオンビーム供給装置の大型化、処理室の大型化等を抑えることができるようにする。
【解決手段】 このイオンビーム照射装置は、互いに直列に接続された処理室10a、10bと、1枚以上の基板2を搬送する基板搬送装置と、各処理室10a、10bにZ方向に長いリボン状のイオンビーム54a、54bをそれぞれ供給して、基板搬送と協働して、基板2上に二つのビーム照射領域を、互いにZ方向の一部分を重ね合わせて形成するイオンビーム供給装置50a、50bとを備えている。更に、イオンビーム54a、54bの一端付近のビーム電流密度分布をそれぞれ調整するビーム電流密度分布調整機構70a、70bを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板(例えばフラットパネルディスプレイ用のガラス基板等)にイオンビームを照射して、基板に例えばイオン注入、イオンビーム配向処理等の処理を施すイオンビーム照射装置に関し、より具体的には、基板にリボン状(これはシート状または帯状と呼ばれることもある。以下同様)のイオンビームを照射することと、基板をイオンビームの主面と交差する方向に搬送することとを併用する方式のイオンビーム照射装置に関する。このイオンビーム照射装置は、基板にイオン注入を行う場合は、イオン注入装置とも呼ばれる。
【背景技術】
【0002】
リボン状のイオンビームと基板駆動とを併用して、基板の全面にイオンビーム照射を行うイオンビーム照射装置が従来から幾つか提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に記載のイオンビーム照射装置は、イオン源から長辺方向(換言すれば長手方向。以下同様)の寸法が、基板の対応する辺の寸法よりも大きいリボン状のイオンビームを引き出し、そのイオンビームを長ギャップ長の分析電磁石を通して質量分離を行った後に基板に照射し、かつ基板をイオンビームの主面と交差する方向に駆動し、それによって基板の全面にイオン注入を行うものである。
【0004】
特許文献2に記載のイオンビーム照射装置は、2組のイオン源および分析電磁石等を、二つのリボン状のイオンビームの位置がその長辺方向において部分的に重なるように上下段違いに配置して、基板に照射されるイオンビームの長辺方向の寸法を、等価的に、各イオン源から引き出したイオンビーム単独の場合よりも大きくして、基板の大型化に対応することができるようにしたものである。上記二つの分析電磁石は、曲げられた後の二つのイオンビームを互いに近づけるために、両イオンビームを互いに逆方向に曲げるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−327713号公報(図1−図4)
【特許文献2】特開2009−152002号公報(図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えばフラットパネルディスプレイの生産性を高める等のために、基板は大型化する傾向にある。
【0007】
その場合、特許文献1に記載のイオンビーム照射装置では、イオン源のサイズでイオンビームの大きさ(長さ)が決まってしまうので、基板の大型化に対応するためには、イオン源を長くて大きなものにしなければならないという課題がある。長くて大きなイオン源の製作には大きな困難が伴う。均一性の良いイオンビームを発生させることのできるイオン源の大きさには、現実的には限界がある。また、大きなイオン源は、製作だけでなく、工場等への搬送、搬入等も難しくなる。
【0008】
分析電磁石を設ける場合は、それも非常に大きくしなければならないので、その製作にも大きな困難が伴う。製作だけでなく、工場等への搬送、搬入等にも困難を生じさせる。
【0009】
特許文献2に記載のイオンビーム照射装置は、基板の大型化に対応することができるけれども、(a)イオンビームを互いに逆方向に曲げる二つの分析電磁石が特別に必要である、(b)一つの処理室内で基板に二つのイオンビームを上下2段で照射することになるので、処理室が大型化する、(c)一つの処理室内で基板に二つのイオンビームを照射して所望の処理を全て行うことになるので、イオンビーム照射に伴って基板から発生するアウトガス量が多くなり、それによってイオンビームの中性化等の様々な支障を来す、等の点でなお改善の余地がある。
【0010】
そこでこの発明は、大型の基板に対してもその全面に均一性良くイオンビーム照射を行うことができ、しかもイオンビーム寸法を基板寸法よりも小さくしてイオンビーム供給装置の大型化、処理室の大型化等を抑えることができるようにすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るイオンビーム照射装置は、基板にイオンビーム照射を行うための部屋であって互いに直列に接続された第1および第2の処理室と、1枚以上の前記基板を、少なくとも前記第1の処理室から第2の処理室にかけて搬送する基板搬送装置と、互いに直交する2方向をX方向およびZ方向とすると、前記第1の処理室に、X方向の寸法よりもZ方向の寸法が大きいリボン状の第1のイオンビームを、その主面が前記第1の処理室における前記基板の搬送方向と交差する向きに、かつ当該イオンビームのZ方向の一端が前記基板の面内に位置し他端が面外に位置する位置関係で供給して、前記基板の搬送と協働して、前記基板上に第1のビーム照射領域を形成する第1のイオンビーム供給装置と、前記第2の処理室に、X方向の寸法よりもZ方向の寸法が大きいリボン状の第2のイオンビームを、その主面が前記第2の処理室における前記基板の搬送方向と交差する向きに、かつ当該イオンビームのZ方向の一端が前記基板の面内に位置し他端が面外に位置する位置関係で供給して、前記基板の搬送と協働して、前記基板上に第2のビーム照射領域を形成すると共に、当該第2のビーム照射領域のZ方向の一部分と前記第1のビーム照射領域のZ方向の一部分とを重ね合わせる第2のイオンビーム供給装置と、前記第1のイオンビームのZ方向の前記一端付近のビーム電流密度分布を調整する第1のビーム電流密度分布調整手段と、前記第2のイオンビームのZ方向の前記一端付近のビーム電流密度分布を調整する第2のビーム電流密度分布調整手段とを備えていることを特徴としている。
【0012】
このイオンビーム照射装置によれば、基板上において第1のビーム照射領域のZ方向の一部分と第2のビーム照射領域のZ方向の一部分とを重ね合わせて基板の全面にイオンビームを照射することができるので、かつ第1および第2のビーム電流密度分布調整手段を用いて前記重ね合わせ部分のイオンビーム照射量分布(例えばイオン注入の場合はドーズ量分布。以下同様)を調整することができるので、大型の基板に対してもその全面に均一性良くイオンビーム照射を行うことができる。
【0013】
前記第1のイオンビーム供給装置から供給する前記第1のイオンビームのZ方向におけるビーム電流密度分布を前記第1の処理室において測定する第1のビームモニタと、前記第2のイオンビーム供給装置から供給する前記第2のイオンビームのZ方向におけるビーム電流密度分布を前記第2の処理室において測定する第2のビームモニタと、前記第1および第2のビームモニタで測定した前記第1および第2のイオンビームのビーム電流密度分布を合成して一つのビーム電流密度分布として表示する機能を有している制御装置とを更に備えていても良い。
【0014】
前記制御装置は、前記合成したビーム電流密度分布の均一性が所定値よりも悪い場合に、前記第1および第2のビーム電流密度分布調整手段の少なくとも一方を制御して、当該均一性を所定値以上に良くする機能を更に備えていても良い。
【0015】
前記第1および第2の処理室、前記第1および第2のイオンビーム供給装置ならびに前記第1および第2のビーム電流密度分布調整手段等を有するイオンビーム照射ユニットを複数備えていても良い。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、基板上において第1のビーム照射領域のZ方向の一部分と第2のビーム照射領域のZ方向の一部分とを重ね合わせて基板の全面にイオンビームを照射することができるので、かつ第1および第2のビーム電流密度分布調整手段を用いて前記重ね合わせ部分のイオンビーム照射量分布を調整することができるので、大型の基板に対してもその全面に均一性良くイオンビーム照射を行うことができる。
【0017】
しかも、第1および第2のイオンビーム供給装置から供給するイオンビームのZ方向の寸法は基板のZ方向の寸法よりも小さくて済むので、特許文献1に記載の技術に比べて、両イオンビーム供給装置の大型化を抑えることができる。
【0018】
また、特許文献2に記載の技術のような特別な分析電磁石を設けなくて済む。
【0019】
更に、一つの基板に対して二つの処理室において上記のような基板寸法よりも小さいイオンビームをそれぞれ照射する構造であるので、特許文献2に記載の技術に比べて、各処理室が大型化するのを抑えることができる。また、特許文献2に記載の技術に比べて、一つの処理室内で発生するアウトガス量を減らすことができるので、アウトガスに伴うイオンビームの中性化等の課題を軽減することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、当該請求項に記載のようなビームモニタおよび制御装置を備えていて、第1および第2のイオンビームのビーム電流密度分布を合成したビーム電流密度分布を表示することができるので、基板に照射されるイオンビーム全体のビーム電流密度分布を確認することができる。従って例えばそれを、第1および第2のビーム電流密度分布調整手段によるビーム電流密度分布の調整等に活用することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、制御装置が、前記合成したビーム電流密度分布の均一性を所定値以上に良くする機能を更に備えているので、より容易に、基板の全面に均一性良くイオンビーム照射を行うことができる。
【0022】
請求項4、5に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、当該請求項に記載のようなイオンビーム照射ユニットを複数備えているので、イオンビーム照射を行った基板に対して更にイオンビーム照射を行うことができる。従って、より多様なイオンビーム照射特性を実現することができる。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、一つの制御装置を複数のイオンビーム照射ユニットにおける制御装置として共用しているので、制御装置の数を減らすことができる。また、各イオンビーム照射ユニットの前記合成したビーム電流密度分布の確認、調整、比較等がより容易になる。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば次の更なる効果を奏する。即ち、基板搬送装置は基板を立てた状態で搬送するものであるので、基板の処理面にパーティクルが付着するのを抑えることができる。また、各部屋のフットプリント(占有床面積)を小さくすることができ、ひいてはイオンビーム照射装置全体のフットプリントを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明に係るイオンビーム照射装置の一実施形態の一部分を示す概略横断面図であり、線A1 −A1 の部分で図2に続く。
【図2】この発明に係るイオンビーム照射装置の一実施形態の残りの部分を示す概略横断面図であり、線A1 −A1 の部分で図1に続く。
【図3】図1、図2に示したイオンビーム照射装置を各室の部分で縦に切断して示す概略縦断面図であり、線A2 −A2 部分で図4に続く。
【図4】図1、図2に示したイオンビーム照射装置を各室の部分で縦に切断して示す概略縦断面図であり、線A2 −A2 部分で図3に続く。
【図5】基板搬送装置の一例を部分的に示す概略図である。
【図6】図5に示す基板搬送装置の側面を拡大して示す概略図である。
【図7】リボン状のイオンビームの一例を部分的に示す概略斜視図である。
【図8】第1の処理室において基板にイオンビームを照射する前の状態の一例を拡大して示す図であり、ビーム電流密度分布調整機構および基板をイオンビームの進行方向に見て示している。
【図9】第2の処理室において基板にイオンビームを照射する前の状態の一例を拡大して示す図であり、ビーム電流密度分布調整機構および基板をイオンビームの進行方向に見て示している。
【図10】第2の処理室においてイオンビームを照射した後の基板の一例を拡大して示す図である。
【図11】第1および第2のイオンビームの合成のビーム電流密度分布の一例を示す概略図である。
【図12】第1および第2のイオンビームの合成のビーム電流密度分布の他の例を示す概略図であり、(A)はビーム電流密度分布の調整前を示し、(B)は調整後を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1〜図4に、この発明に係るイオンビーム照射装置の一実施形態を示す。これらの図においては、各室の壁面の断面を太線で表している。
【0027】
この明細書および図面では、1点で互いに直交する3方向をX方向、Y方向およびZ方向としている。例えば、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は垂直方向である。またこの明細書において、イオンビームを構成するイオンは正イオンの場合を例に説明している。
【0028】
このイオンビーム照射装置は、真空に排気される部屋であって、互いに直列に接続されていて、基板2にイオンビーム照射をそれぞれ行うための第1の処理室10aおよび第2の処理室10bを備えている。上記接続の態様は、直接接続されていても良いし、真空弁を介して接続されていても良いし、この例のように待機室8および真空弁21、22を介して接続されていても良い。
【0029】
基板2は、処理対象となる材料の総称であり、例えば、ガラス基板、配向膜付ガラス基板、半導体基板、その他の基板である。その平面形状は、例えば四角形であるが、それに限られるものではなく、円形等でも良い。
【0030】
第1の処理室10aに、基板2を大気中から当該処理室10aへ搬入するための入口側真空予備室6が、この例では待機室8を介して接続されている。この入口側真空予備室6は、真空に排気されるときと、ベント(大気圧状態に戻すこと)されるときとがある。この例では、入口側真空予備室6は二つ設けられている。そのようにすると、一方の入口側真空予備室6を大気圧状態に戻しているときに他方の入口側真空予備室6を真空排気することができるので、スループットが向上するけれども、入口側真空予備室6は一つでも良い。
【0031】
第2の処理室10bに、基板2を当該処理室10bから大気中へ搬出するための出口側真空予備室12が、この例では待機室8を介して接続されている。この出口側真空予備室12は、真空に排気されるときと、ベント(大気圧状態に戻すこと)されるときとがある。この例では、出口側真空予備室12は二つ設けられている。そのようにすると、一方の出口側真空予備室12を大気圧状態に戻しているときに他方の出口側真空予備室12を真空排気することができるので、スループットが向上するけれども、出口側真空予備室12は一つでも良い。
【0032】
更にこの例では、入口側真空予備室6とそれに隣り合う処理室10aとの間、各処理室10a、10b間、および、出口側真空予備室12とそれに隣り合う処理室10bとの間に、真空に排気される部屋であって基板2を待機させておく待機室8がそれぞれ設けられている。
【0033】
上記待機室8を設けることは必須ではないけれども、それを設けておくと、待機室8に基板2を待機させておくことができるので、そこで、イオンビーム照射によって温度が上昇した基板2の冷却(主として放射冷却)を行うことができる。それによって、基板2や基板表面の膜等の変形、変質、劣化等を抑えることが容易になる。また、待機室8に基板2を待機させておくことによって、基板2を滞りなく速やかに次の工程へ搬送することができるので、スループットをより向上させることができる。
【0034】
各入口側真空予備室6と大気中間、各部屋6、8、10a、10b、12間および各出口側真空予備室12と大気中間には、真空弁16〜27がそれぞれ設けられている。即ち各部屋は、真空弁を介して接続されている。もっとも、処理室10a、10b間を仕切る真空弁(例えば真空弁21、22)は設けなくても構わないが、それを設けておくと、処理室10a、10bにおける処理の影響(例えばイオンビーム照射に伴うアウトガスによる真空度低下等)が他方へ及ぶのをより効果的に防止することができる。
【0035】
このイオンビーム照射装置は更に、1枚以上の基板2を、矢印Bで示すようにX方向に沿って、少なくとも処理室10aから処理室10bにかけて搬送する基板搬送装置を備えている。より具体的にはこの例では、1枚以上の基板2を、大気中から入口側真空予備室6、各待機室8、各処理室10a、10bおよび出口側真空予備室12を経て大気中へと搬送する基板搬送装置30(図5、図6参照)を備えている。各基板2は、この例では、ホルダ(これはトレイとも呼ばれる)34(図5、図6参照)にそれぞれ保持されて、立てた状態で入口側真空予備室6から出口側真空予備室12まで搬送される。なおこの実施形態では、一例として、基板2の上記搬送方向がX方向の場合を例に説明している。
【0036】
より具体的には、この例では基板搬送装置30は、複数枚の基板2を、互いに独立して、大気中から入口側真空予備室6、各待機室8、各処理室10a、10bおよび出口側真空予備室12を経て大気中へと搬送するものである。「互いに独立して」というのは、複数枚の基板2が常に一斉に同じように搬送されるのではなく、必要に応じて、所望の基板2を個別に搬送したり、複数枚の基板2を互いに連動して搬送したりすることができる、という意味である。
【0037】
基板搬送装置30は上記のように各基板2を立てた状態で搬送するものであるので、各基板2の処理面にパーティクルが付着するのを抑えることができる。また、各部屋のフットプリント(占有床面積)を小さくすることができ、ひいてはこのイオンビーム照射装置全体のフットプリントを小さくすることができる。
【0038】
基板搬送装置30の構造の一例を図5、図6を参照して説明する。なお、図5は一例として、一つの待機室8およびそれを挟む入口側真空予備室6、処理室10aの部分を示しているが、他の部分においても基本的にはこれと同じ構造をしている。
【0039】
この基板搬送装置30は、ローラコンベヤの一種であり、移動台32、フリーローラ36〜38、駆動ローラ39、モータ40等を有している。
【0040】
移動台32は、基板2を保持したホルダ34を、立てた状態で保持して、X方向に、即ち上記矢印B方向(または必要に応じてその逆方向)に移動させるものである。
【0041】
各入口側真空予備室6、各待機室8、各処理室10a、10bおよび各出口側真空予備室12内の底面近くには、上記フリーローラ36がX方向に多数並べられている。より具体的には、図5に示す例のように、各部屋内の底面46近くに、各部屋の一端付近から他端付近にかけて、多数のフリーローラ36がX方向に並べられている。このフリーローラ36の上を、基板2が取り付けられたホルダ34を保持した移動台32が、X方向に自由に移動する。フリーローラ37、38は、移動台32の上記移動をガイドするものである。
【0042】
移動台32の上記移動は、例えば、底面46の外側に設けられたモータ40によって、回転軸42およびその軸受部44を経由して、駆動ローラ39を回転させることによって行われる。駆動ローラ39は、各部屋6、8、10a、10b、12に、移動台32のX方向の長さに応じた間隔で、X方向に通常は複数個設けられている。その場合、複数の駆動ローラ39を一つのモータ40で連動させて駆動しても良い。また、各駆動ローラ39に対向するフリーローラ38を駆動ローラにして、駆動ローラ39と同期させて駆動しても良い。
【0043】
基板2をX方向における一方向にのみ搬送する場合は、モータ40を一方向に回転させて移動台32を一方向に移動させれば良い。例えば、入口側真空予備室6、待機室8および出口側真空予備室12においてはそのようにすれば良い。基板2をX方向において往復方向に搬送する場合は、モータ40を往復回転させて移動台32を往復方向に移動させれば良い。例えば各処理室10a、10bにおいては、必要とするイオンビーム照射量(例えばイオン注入の場合はドーズ量)に応じて、基板2をX方向に奇数回(例えば1回、3回、5回等)搬送しても良い。そのような搬送にも対応することができるように、この例では、各処理室10a、10bのX方向の長さを、他の部屋の2倍程度に長くしている。
【0044】
なお、入口側真空予備室6および出口側真空予備室12をこの例のように二つずつ設けている場合は、それらに隣接する待機室8内で、基板2を、Y方向にも若干移動させて、X方向搬送のためのセンター合せを行う機構が、例えば基板搬送装置30の一部として設けられている。
【0045】
但し、基板搬送装置30の上記構造はあくまでも一例であり、他の公知の構造を採用しても良い。
【0046】
各入口側真空予備室6の入口の外側に、基板2を実質的に水平状態(基板2a参照)から垂直等の起立状態(基板2b参照)に立てる基板起立装置4がそれぞれ設けられている。この基板起立装置4も、この例では一例として、基板2を上記ホルダ34に保持した状態で扱う。そして起立状態の基板2を(具体的には基板2を保持したホルダ34を)、順次、大気中から対応する入口側真空予備室6へ搬入することができる。入口側真空予備室6が一つの場合は、基板起立装置4も一つで良い。
【0047】
なお、各基板起立装置4は、基板2を起立させる機能と、その基板2を入口側真空予備室6に渡す機能とを有する多関節ロボットのようなものでも良い。次に述べる各基板転倒装置14についても同様である。
【0048】
各出口側真空予備室12の出口の外側に、基板2を起立状態(基板2b参照)から実質的に水平状態(基板2a参照)に倒す基板転倒装置14がそれぞれ設けられている。この基板転倒装置14も、この例では一例として、基板2を上記ホルダ34に保持した状態で扱う。そして起立状態の基板2を(具体的には基板2を保持したホルダ34を)、順次、対応する出口側真空予備室12から大気中へ搬出することができる。出口側真空予備室12が一つの場合は、基板転倒装置14も一つで良い。
【0049】
上記のような基板起立装置4および基板転倒装置14によれば、真空予備室6、12の外側で基板2を立てたり倒したりすることができるので、その動作を真空予備室内で行う場合に比べて、各真空予備室6、12を小さくすることができる。しかも、上記動作を行う機構を真空予備室6、12内に設けなくて済むので、真空予備室6、12内でパーティクルが発生するのを抑えることができる。
【0050】
このイオンビーム照射装置は更に、第1および第2のイオンビーム供給装置50aおよび50bを備えている。
【0051】
図7も参照して、第1のイオンビーム供給装置50aは、第1の処理室10aに、X方向の寸法WX1よりもZ方向の寸法WZ1が大きいリボン状の第1のイオンビーム54aを、その主面80aが処理室10aにおける基板2の搬送方向(これは前述したように例えばX方向。以下同様)と交差する向きに、かつ当該イオンビーム54aのZ方向の一端53aが基板2の面内に位置し他端55aが面外に位置する位置関係で供給して、上記基板2の搬送と協働して、基板2上に第1のビーム照射領域91を形成するものである。このビーム照射領域91については、図8〜図10を参照して後で更に説明する(下記のビーム照射領域92についても同様)。
【0052】
第2のイオンビーム供給装置50bは、第2の処理室10bに、X方向の寸法WX2よりもZ方向の寸法WZ2が大きいリボン状の第2のイオンビーム54bを、その主面80bが処理室10bにおける基板2の搬送方向と交差する向きに、かつ当該イオンビーム54bのZ方向の一端53bが基板2の面内に位置し他端55bが面外に位置する位置関係で供給して、上記基板2の搬送と協働して、基板2上に第2のビーム照射領域92を形成すると共に、当該第2のビーム照射領域92のZ方向の一部分と上記第1のビーム照射領域91のZ方向の一部分とを重ね合わせるものである。上記Z方向の一部分は、より具体的にはこの例では、Z方向の端部付近である。
【0053】
イオンビーム54a、54bの概略を、図7に拡大して示す。このイオンビーム54a、54bは、リボン状と言ってもX方向の寸法WX1、WX2が紙や布のように薄いという意味ではない。例えば、各イオンビーム54a、54bのX方向の寸法WX1、WX2はそれぞれ30mm〜80mm程度である。各イオンビーム54a、54bのZ方向の寸法WZ1、WZ2は、各基板2のZ方向の寸法に依る。この例では、各基板2のZ方向の寸法の1/2より幾分大きくしている。一例を示せば、それぞれ40cm〜80cm程度である。このイオンビーム54a、54bの大きい方の面、即ちYZ面に沿う面が主面80a、80bである。各基板2は、上記基板搬送装置30によって、この主面80a、80bと交差する方向(例えばX方向)に搬送される。
【0054】
第1のイオンビーム供給装置50aは、この例では一例として、イオン源52aから、上記のようなリボン状のイオンビーム54aを引き出し、そのイオンビーム54aを分析電磁石56aを通して運動量分析(例えば質量分離)を行った後に基板2に照射する構成のものである。イオン源52から引き出されたイオンビーム54aの長手方向の寸法は、後述するビーム電流密度分布調整機構70aに達するまでは、ビーム軌道上でほぼ保存される。
【0055】
第2のイオンビーム供給装置50bも、この例では上記イオンビーム供給装置50aと同じ構成をしている。即ち、イオンビーム供給装置50aを構成しているのと同様のイオン源52bおよび分析電磁石56bを有している。
【0056】
但し、両イオンビーム供給装置50a、50bは、上記構成のものに限られるものではなく、他の構成のものでも良い。例えば、比較的小さなイオン源から扇状に広がる(発散する)イオンビームを引き出し、そのイオンビームを発散途中で分析電磁石を通して質量分離を行った後に、ビーム平行化器(例えば4重極子デバイス、ビーム平行化マグネット等)によって平行ビーム化してリボン状のイオンビームにした後に基板2に照射する構成のものでも良い(例えば特開2006−139996号公報参照)。イオンビームの質量分離を行う必要がなければ、分析電磁石を設ける必要はない。
【0057】
このイオンビーム照射装置は更に、各イオンビーム54a、54bのZ方向の上記一端53a、53b付近のビーム電流密度分布をそれぞれ調整する第1および第2のビーム電流密度分布調整機構70aおよび70bを備えている。各ビーム電流密度分布調整機構70a、70bは、この例では一例として、図1、図2に示すように、処理室10a、10bの入口付近にそれぞれ設けられているが、その位置に限られるものではない。
【0058】
主に図8を参照して、第1のビーム電流密度分布調整機構70aは、この例では、イオンビーム54aのZ方向の上記一端53aを含む部分を遮って整形する可動のマスク72aと、このマスク72aを矢印Fで示すようにZ方向の上下方向に往復直線駆動するマスク駆動装置74aとを有している。マスク72aのイオンビーム54a側の端部73aは斜めになっており、このマスク72aによってイオンビーム54aの一端53a付近を斜めに遮って斜めにカットして、イオンビーム54aの一端53a付近のビーム電流密度分布を、例えば図8中に示すビーム電流密度分布J1 のように斜めに低下させることができる。このマスク72aの端部73aの形状や、端部73aのZ方向の位置によって、基板2に照射されるイオンビーム54aの一端53a付近のビーム電流密度分布を調整することができる。それによって、後述する重ね合わせ部分93(図10参照)のイオンビーム照射量分布を調整することができる。
【0059】
主に図9を参照して、第2のビーム電流密度分布調整機構70bは、この例では、イオンビーム54bのZ方向の上記一端53bを含む部分を遮って整形する可動のマスク72bと、このマスク72bを矢印Gで示すようにZ方向の上下方向に往復直線駆動するマスク駆動装置74bとを有している。マスク72bのイオンビーム54b側の端部73bは斜めになっており、このマスク72bによってイオンビーム54bの一端53b付近を斜めに遮って斜めにカットして、イオンビーム54bの一端53b付近のビーム電流密度分布を、例えば図9中に示すビーム電流密度分布J2 のように斜めに低下させることができる。このマスク72bの端部73bの形状や、端部73bのZ方向の位置によって、基板2に照射されるイオンビーム54bの一端53b付近のビーム電流密度分布を調整することができる。それによって、後述する重ね合わせ部分93(図10参照)のイオンビーム照射量分布を調整することができる。
【0060】
そして、上記両イオンビーム54a、54bのビーム電流密度分布J1 、J2 が上記のように斜めに低下している領域のZ方向の位置が互いに重なるようにしている。その重なる部分(および、その結果形成される後述する重ね合わせ部分93)のZ方向の中心位置をZ0 で示す。この重なる部分は、例えば、基板2のZ方向における中央付近であるが、それに限られるものではない(後述する重ね合わせ部分93についても同様)。
【0061】
上記両マスク72a、72bは、固定のものでも良いけれども、この例のように可動式のものが好ましい。上記調整を行うことができるからである。
【0062】
また、上記両ビーム電流密度分布調整機構70a、70bは、より具体的にはそれらを構成するマスク駆動装置74a、74bは、例えば、後述する制御装置60によって制御される。
【0063】
なお、基板2の全面に均一な処理を施す場合は、イオンビーム54a、54bのZ方向のビーム電流密度分布は、それぞれ、図8、図9に示すビーム電流密度分布J1 、J2 のように、基板2の面内に位置する部分はできるだけ均一なものが好ましい。基板2の面外に位置する部分のビーム電流密度分布はあまり大事ではない。基板2の処理に利用しないからである。
【0064】
このイオンビーム照射装置においては、上記基板搬送装置30によって各基板2を上記のように搬送しながら、処理室10a、10bにおいて各基板2にイオンビーム54a、54bをそれぞれ照射することによって、各基板2の全面にイオンビームを照射することができる。
【0065】
即ち、第1の処理室10aにおいては、図8、図9に示すように、各基板2をX方向に搬送しながら各基板2にイオンビーム54aを照射することによって、各基板2上に第1のビーム照射領域91を形成することができる。このビーム照射領域91は、図中にハッチングを付して示している。このハッチングは断面を表すものではない。次に述べるビーム照射領域92も同様である。
【0066】
第2の処理室10bにおいては、図9、図10に示すように、処理室10aで処理後の各基板2をX方向に搬送しながら各基板2にイオンビーム54bを照射することによって、各基板2上に第2のビーム照射領域92を形成すると共に、当該第2のビーム照射領域92のZ方向の一部分と上記第1のビーム照射領域91のZ方向の一部分とを重ね合わせて(その重ね合わせ部分を符号93で示す)、基板2の全面にイオンビームを照射することができる。
【0067】
各基板2上におけるイオンビーム照射量分布D3 の一例を図10中に示している。下半分のイオンビーム照射量分布D1 は、図8に示すビーム電流密度分布J1 のイオンビーム54aの照射によって得られたものであり、上半分のイオンビーム照射量分布D2 は、図9に示すビーム電流密度分布J2 のイオンビーム54bの照射によって得られたものであり、イオンビーム照射量分布D3 は両イオンビーム照射量分布D1 、D2 を合成したものである。基板2の全面において均一なイオンビーム照射量分布D3 が得られている。イオンビーム照射量分布は、前述したようにイオン注入の場合はドーズ量分布である。
【0068】
このようにこのイオンビーム照射装置においては、基板2上において第1のビーム照射領域91のZ方向の一部分と第2のビーム照射領域92のZ方向の一部分とを重ね合わせて基板2の全面にイオンビームを照射することができるので、かつ第1および第2のビーム電流密度分布調整機構70a、70bを用いて前記重ね合わせ部分93のイオンビーム照射量分布を調整することができるので、大型の基板2に対してもその全面に均一性良くイオンビーム照射を行うことができる。
【0069】
しかも、第1および第2のイオンビーム供給装置50a、50bから供給するイオンビーム54a、54bのZ方向の寸法WZ1、WZ2は基板2のZ方向の寸法よりも小さくて済むので、特許文献1に記載の技術に比べて、両イオンビーム供給装置50a、50bの大型化を抑えることができる。即ち、イオン源52a、52bのZ方向の寸法を小さく抑えることができるので、特許文献1に記載のものに比べて小型のもので済む。分析電磁石56a、56bを設ける場合は、それらのZ方向の寸法も小さく抑えることができるので、特許文献1に記載のものに比べて小型のもので済む。従って、これらのイオン源52a、52b、分析電磁石56a、56bの製作が容易になるだけでなく、それらの工場等への搬送、搬入等も容易になる。
【0070】
また、特許文献2に記載の技術のような特別な分析電磁石を設けなくて済む。即ち、特許文献2に記載の技術では、イオンビームを互いに逆方向に曲げるという特別な分析電磁石が二つ必要であり、そのぶん構造が複雑になっていた。分析電磁石を設けないと、特許文献2に記載の技術を利用することはできない。また、両分析電磁石はイオンビームを曲げる方向が逆のため、別の設計、製作が必要であり、同じ構造の分析電磁石2台で済ませることができなかった。これに対して、このイオンビーム照射装置では、前述したように、分析電磁石56a、56bは必須のものではない。それらを設ける場合でも、イオンビーム54a、54bを曲げる方向を互いに同じにして(図1、図2参照)、両分析電磁石56a、56bを互いに同じ構造にすることができるので、同じ構造の分析電磁石2台で済ませることができ、従って設計、製作等が容易である。
【0071】
更に、一つの基板2に対して二つの処理室10a、10bにおいて上記のような基板寸法よりも小さいイオンビーム54a、54bをそれぞれ照射する構造であるので、特許文献2に記載の技術に比べて、各処理室10a、10bが大型化するのを抑えることができる。処理室が大型化すると、その製作だけでなく、工場等への搬送、搬入等も難しくなるけれども、このイオンビーム照射装置ではそれを防止することができる。
【0072】
また、一つの基板2に対して二つの処理室10a、10bにおいて上記のような基板寸法よりも小さいイオンビーム54a、54bをそれぞれ照射する構造であるので、特許文献2に記載の技術に比べて、一つの処理室内で発生するアウトガス量を減らすことができる。従って、アウトガスに伴うイオンビーム54a、54bの中性化等の課題を軽減することができる。例えば、アウトガスが多くなると、イオンビーム54a、54bの中性化が起こりやすくなり、ビーム電流によるイオンビーム量の計測に誤差を生じさせる。アウトガスが上流へ拡散して分析電磁石56a、56bに達すると、そこでイオンビームが中性化して磁界による偏向を受けなくなり、所望のイオンビーム量が減少する。このイオンビーム照射装置によれば、これらの課題を軽減することができる。
【0073】
更にこの実施形態のイオンビーム照射装置では、二つの処理室10a、10bに共通の入口側真空予備室6および出口側真空予備室12を設けているので、二つの処理室に入口側真空予備室および出口側真空予備室をそれぞれ設けている場合に比べて、イオンビーム照射装置の大型化を抑えることができると共に、スループットの低下を抑えることができる。スループットの低下を抑えることができるのは、各処理室10a、10bへ基板2を搬出入する際に、真空排気とベントを行うために多くの時間を要する真空予備室を毎回通さずに済むからである。
【0074】
更に、二つの処理室10a、10b間を搬送する際に基板2は大気中を通らないので、基板2へのパーティクル付着を抑えることができる。
【0075】
なお、上記両処理室10a、10bにおける処理内容は、各基板2の全面に一様な処理を施す場合は互いに実質的に同じ処理内容にすれば良いけれども、互いに異なる処理内容にしても良い。各処理室10a、10bにおける処理内容は、例えば、イオンビーム54a、54bの特性(例えばイオン種、エネルギー、ビーム電流)、および、処理室10a、10bにおける基板2の搬送速度、搬送回数等によって決まる。従って例えば、両処理室10a、10bにおける処理内容を互いに実質的に同じにする場合は、これらを互いに実質的に同じにすれば良い。
【0076】
この実施形態のイオンビーム照射装置は更に、第1のイオンビーム供給装置50aから供給する第1のイオンビーム54aのZ方向におけるビーム電流密度分布を第1の処理室10aにおいて測定する第1のビームモニタ58aと、第2のイオンビーム供給装置50bから供給する第2のイオンビーム54bのZ方向におけるビーム電流密度分布を第2の処理室10bにおいて測定する第2のビームモニタ58bと、両ビームモニタ58aおよび58bで測定した第1および第2のイオンビーム54a、54bのビーム電流密度分布を合成して一つのビーム電流密度分布として表示する機能を有している制御装置60とを備えている。各ビームモニタ58a、58bで測定したデータは、制御装置60に供給される。制御装置60は、上記表示を行う表示部62を有している。
【0077】
各ビームモニタ58a、58bは、基板2に近づけて配置して、基板2に近い位置でイオンビーム4を測定するのが好ましい。各ビームモニタ58a、58bは、この例ではZ方向に並設された複数のビーム検出器(例えばファラデーカップ)を有している多点ビームモニタであるが、それに限られるものではなく、例えば1個のビーム検出器がZ方向に移動する構造のもの等でも良い。
【0078】
例えば、イオンビーム54a、54bのビーム電流密度分布がそれぞれ図8、図9に示すビーム電流密度分布J1 、J2 の場合、制御装置60は両ビーム電流密度分布J1 、J2 を加算することによって、図11に示すような合成のビーム電流密度分布J3 を求めて、それを表示部62に表示する。
【0079】
上記のようなビームモニタ58a、58bおよび制御装置60を備えていると、基板2に照射されるイオンビーム全体のビーム電流密度分布を制御装置60において確認することができる。従って例えばそれを、第1および第2のビーム電流密度分布調整機構70a、70bによるビーム電流密度分布の調整等に活用することができる。
【0080】
ビームモニタ58a、58bは、イオンビーム54a、54bの上記一端53a、53b付近の測定用のビーム検出器を他よりも密に配置したり、可動のビーム検出器を用いる場合はそれを一端53a、53b付近でより細かく動かすこと等によって、一端53a、53b付近の測定の分解能を他よりも高くしておいても良い。そのようにすると、上記二つのビーム電流密度分布J1 、J2 が重なる部分付近の測定をよりきめ細かく行うことができる。
【0081】
制御装置60は、上記合成したビーム電流密度分布J3 の均一性が所定値(例えば5%程度。以下同様)よりも悪い場合に、上記第1および第2のビーム電流密度分布調整機構70a、70bの少なくとも一方を制御して、当該均一性を所定値以上に良くする機能を更に備えていても良い。それによって、より容易に、基板2の全面に均一性良くイオンビーム照射を行うことができる。制御装置60は、具体的には上記マスク駆動装置74a、74bを制御する。
【0082】
例えば、合成のビーム電流密度分布J3 が図11に示すものである場合は、均一性は所定値以上に良いので、調整の必要はない。合成のビーム電流密度分布J3 が、例えば図12(A)に示すように、上記重ね合わせ部分93に対応する部分96で大きくなっていて、ビーム電流密度分布J3 の均一性が所定値よりも悪い場合は、ビーム電流密度分布調整機構70a、70bを構成するマスク72a、72bの少なくとも一方を、Z方向においてより多くイオンビーム内に入る方向に(簡単に言えば、マスク72aは図8中の下方に、マスク72bは図9中の上方に)移動させるように制御する。どちらのマスク72a、72bを移動させれば良いかは、基板2上の上記重ね合わせ部分93のZ方向の中心位置Z0 と、上記大きくなっている部分96との位置関係によって知ることができる。例えば、上記大きくなっている部分96が上記中心位置Z0 よりも下にずれていれば、マスク72aをより多くイオンビーム54a内に入る方向に移動させれば良い。
【0083】
上記のようにすると、イオンビーム54aおよび/または54bの一端53aおよび/または53bがマスク72aおよび/または72bによってより大きくカットされるので、上記二つのビーム電流密度分布J1 、J2 が重なる部分のビーム電流が小さくなり、上記大きくなっている部分96のビーム電流密度が小さくなる。従って、制御装置60によって、マスク駆動装置74a、74bを介して、マスク72aおよび/または72bの移動およびその距離を制御することによって、例えば図12(B)に示すように、合成のビーム電流密度分布J3 の均一性を所定値以上に良くすることができる。
【0084】
上記部分96のビーム電流密度が他よりも小さい場合は、上記とは逆に制御すれば良い。
【0085】
上記第1および第2の処理室10a、10b、第1および第2のイオンビーム供給装置50a、50bならびに第1および第2のビーム電流密度分布調整機構70a、70bを有するイオンビーム照射ユニットを複数備えていても良い。
【0086】
上記ビームモニタ58a、58bおよび制御装置60を設ける場合は、上記に加えて、これらをも有するイオンビーム照射ユニットを複数備えていても良い。いずれの場合も、複数のイオンビーム照射ユニットを構成する複数の処理室10a、10bは互いに直列に接続しておく。かつ、上記基板搬送装置30は、基板2を、少なくとも直列に接続された複数の処理室10a、10bの一端から他端にかけて搬送するものにする。
【0087】
例えば、図1、図2等に示す処理室10aおよびそれ用のイオンビーム供給装置50aから、処理室10bおよびそれ用のイオンビーム供給装置50bにかけての要素で構成されるイオンビーム照射ユニットを、図2等に示す出口側真空予備室12とその上手に隣接する待機室8との間に、所要数だけ挿入すれば良い。
【0088】
上記のようなイオンビーム照射ユニットを複数備えていると、イオンビーム照射を行った基板2に対して更にイオンビーム照射を行うことができる。従って、より多様なイオンビーム照射特性を実現することができる。例えば、(a)複数のイオンビーム照射の合計によって、各基板2に対して、最終的に必要なイオンビーム照射特性を実現したり、(b)複数のイオンビーム照射の合計によって、各基板2に対して、最終的に必要なイオンビーム照射量を実現したり、(c)複数のイオンビーム照射の合計によって、各基板2に対して、最終的に必要な注入深さ分布を実現したり、(d)複数のイオンビーム照射の合計によって、各基板2に対して、Z方向におけるイオンビーム照射量分布を均一化したりすることができる。
【0089】
イオンビーム照射ユニットを複数設ける場合、上記制御装置60を各ユニットにそれぞれ設けても良いし、一つの制御装置60を、複数のイオンビーム照射ユニットにおける制御装置として共用しても良い。
【0090】
後者のように共用すると、制御装置60の数を減らすことができる。また、各イオンビーム照射ユニットの前記合成したビーム電流密度分布の確認、調整、比較等がより容易になる。当該ビーム電流密度分布を、一つの制御装置60において表示することができるからである。
【0091】
イオンビーム54a、54bのZ方向の上記一端53a、53b付近のビーム電流密度分布を調整するビーム電流密度分布調整手段として、上記ビーム電流密度分布調整機構70a、70bの代わりに、またはそれと併用して、例えば上記特許文献1に記載されているような公知のビーム電流密度分布調整手段を用いても良い。即ち、各ビーム電流密度分布調整手段は、(a)イオン源52a、52bを、Z方向に複数のフィラメントを有するマルチフィラメント型のイオン源として、その各フィラメントに流すフィラメント電流を制御するという手段でも良いし、(b)イオンビーム54a、54bの経路に、イオンビーム54a、54bの長手方向Zにおけるビーム電流密度分布を制御する電界レンズや磁界レンズ等のレンズ手段を設けておいてそれを制御するという手段でも良い。あるいは、(c)イオンビーム54a、54bの経路に、特開2007−172927号公報に記載されているような、イオンビーム54a、54bを遮るための複数の可動遮蔽板を設けておいてそれを制御するという手段でも良い。このようなビーム電流密度分布調整手段も、例えば上記制御装置60によって制御される。
【0092】
基板2を搬送する搬送ラインは、図1、図2等に示す例のように直線でも良いし、搬送ラインを途中で折り返して、その折り返しの前後に複数の処理室10a、10bを分散して配置しておいても良い。そのようにすると、イオンビーム照射装置の全長を小さく抑えることができる。この効果は、上記イオンビーム照射ユニットを複数設ける場合により顕著になる。
【符号の説明】
【0093】
2 基板
10a 第1の処理室
10b 第2の処理室
30 基板搬送装置
50a 第1のイオンビーム供給装置
50b 第2のイオンビーム供給装置
54a 第1のイオンビーム
54b 第2のイオンビーム
58a 第1のビームモニタ
58b 第2のビームモニタ
60 制御装置
70a 第1のビーム電流密度分布調整機構(ビーム電流密度分布調整手段)
70b 第2のビーム電流密度分布調整機構(ビーム電流密度分布調整手段)
91 第1のビーム照射領域
92 第2のビーム照射領域
93 重ね合わせ部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にイオンビーム照射を行うための部屋であって互いに直列に接続された第1および第2の処理室と、
1枚以上の前記基板を、少なくとも前記第1の処理室から第2の処理室にかけて搬送する基板搬送装置と、
互いに直交する2方向をX方向およびZ方向とすると、前記第1の処理室に、X方向の寸法よりもZ方向の寸法が大きいリボン状の第1のイオンビームを、その主面が前記第1の処理室における前記基板の搬送方向と交差する向きに、かつ当該イオンビームのZ方向の一端が前記基板の面内に位置し他端が面外に位置する位置関係で供給して、前記基板の搬送と協働して、前記基板上に第1のビーム照射領域を形成する第1のイオンビーム供給装置と、
前記第2の処理室に、X方向の寸法よりもZ方向の寸法が大きいリボン状の第2のイオンビームを、その主面が前記第2の処理室における前記基板の搬送方向と交差する向きに、かつ当該イオンビームのZ方向の一端が前記基板の面内に位置し他端が面外に位置する位置関係で供給して、前記基板の搬送と協働して、前記基板上に第2のビーム照射領域を形成すると共に、当該第2のビーム照射領域のZ方向の一部分と前記第1のビーム照射領域のZ方向の一部分とを重ね合わせる第2のイオンビーム供給装置と、
前記第1のイオンビームのZ方向の前記一端付近のビーム電流密度分布を調整する第1のビーム電流密度分布調整手段と、
前記第2のイオンビームのZ方向の前記一端付近のビーム電流密度分布を調整する第2のビーム電流密度分布調整手段とを備えていることを特徴とするイオンビーム照射装置。
【請求項2】
前記第1のイオンビーム供給装置から供給する前記第1のイオンビームのZ方向におけるビーム電流密度分布を前記第1の処理室において測定する第1のビームモニタと、
前記第2のイオンビーム供給装置から供給する前記第2のイオンビームのZ方向におけるビーム電流密度分布を前記第2の処理室において測定する第2のビームモニタと、
前記第1および第2のビームモニタで測定した前記第1および第2のイオンビームのビーム電流密度分布を合成して一つのビーム電流密度分布として表示する機能を有している制御装置とを更に備えている請求項1記載のイオンビーム照射装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記合成したビーム電流密度分布の均一性が所定値よりも悪い場合に、前記第1および第2のビーム電流密度分布調整手段の少なくとも一方を制御して、当該均一性を所定値以上に良くする機能を更に備えている請求項2記載のイオンビーム照射装置。
【請求項4】
前記第1および第2の処理室、前記第1および第2のイオンビーム供給装置ならびに前記第1および第2のビーム電流密度分布調整手段を有するイオンビーム照射ユニットを複数備えており、
前記複数のイオンビーム照射ユニットを構成する複数の処理室は互いに直列に接続されており、
前記基板搬送装置は、前記基板を、少なくとも前記直列に接続された複数の処理室の一端から他端にかけて搬送するものである請求項1記載のイオンビーム照射装置。
【請求項5】
前記第1および第2の処理室、前記第1および第2のイオンビーム供給装置、前記第1および第2のビーム電流密度分布調整手段、前記第1および第2のビームモニタならびに前記制御装置を有するイオンビーム照射ユニットを複数備えており、
前記複数のイオンビーム照射ユニットを構成する複数の処理室は互いに直列に接続されており、
前記基板搬送装置は、前記基板を、少なくとも前記直列に接続された複数の処理室の一端から他端にかけて搬送するものである請求項2または3記載のイオンビーム照射装置。
【請求項6】
一つの制御装置を、前記複数のイオンビーム照射ユニットにおける前記制御装置として共用している請求項5記載のイオンビーム照射装置。
【請求項7】
前記基板搬送装置は、前記基板を立てた状態で搬送するものである請求項1ないし6のいずれかに記載のイオンビーム照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−192583(P2011−192583A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59164(P2010−59164)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】