説明

イオンビーム発生装置

【課題】イオンビーム発生装置の第2電極と、第2電極と接続される電源との間に、並列接続してバイパス回路を設けることにより、電源の焼損を防ぐことができる。
【解決手段】イオンビーム発生装置は、プラズマ発生源5と、プラズマ発生源1により発生されたプラズマを閉じ込めるための放電槽10と、放電槽の前面に設けられた引出し電極20とを備え、該引出し電極20は、放電槽10側に設けられ、かつ正極直流電源7と接続するための第1電極2と、第1電極2の前面に設けられ、かつ負極直流電源8と接続するための第2電極3と、第2電極3の前面に設けられ、接地された第3電極4と、第2電極2と接続され、かつ該負極直流電源8と並列接続されたバイパス回路14とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム発生装置に関し、特にイオンビーム発生装置の電源保護に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電子ビーム銃やイオン源用などの電源で、負荷でアークなどが発生してもショート状態になっても破損しない安定で高出力の固体電源を提供するために、交流入力電圧を未調整の直流電圧へ変換する整流器/フィルタ100と、複数の切替え型直流−直流変換器モジュール112とからなり、該変換器モジュールは、入力減結合回路網116、入力コンデンサ125、電圧調整器114、方形波インバータ118、昇圧変圧器150および出力側の整流器/フィルタ回路160とからなる電子ビーム高電圧切換え電源が開示されている。
【0003】
特許文献2に記すように、真空スパッタリング装置1は、イオンガン3を備え、イオンガン3のイオン抽出システム5は、直流電圧供給源21に接続された加速器電極22を備えている。イオンガン3内のプラズマは、r.f.コイル6から供給されるr.f.電力によって生成され、基板12上に材料をスパッタリングするためのターゲット9の方へ放出されるイオン8のビームを形成する。磁石7は、プラズマが形成された結果として放出された電子をプラズマ生成室4の壁に隣接する位置に閉じ込める。r.f.電源32はr.f.コイル6にr.f.電力を供給する。制御回路は、直流電圧供給源21から加速器電極22に流れる電流から、r.f.電源手段32を制御する制御信号を導くように構成された構成要素23、30;23、30、38、39、40、41を備えている。この制御信号は、高速加速器電極の電流/時間積分または高速加速器電極の電力/時間積分を実行し、基板12上へのスパッタリングされた材料の付着速度を求めるコンピュータ31に供給することができる。あるいは、この制御信号を直接閉ループ加速器電極の電流制御または加速器電極の電力制御のためにr.f.電源手段32に供給することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−103952号公報
【特許文献2】特表2003−522296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記す方式は、装置構成が複雑で、かつ多大な装置費用がかかるという問題があった。
また、特許文献2に記す、イオンガンは、直流電圧供給源21に接続された加速器グリッド22と、第2の直流電圧供給源25と接続された第2の加速器グリッド27との間で、ショートと思われる状態となってしまうことがある。これにより、直流電圧供給源21から定格電流以上の電流が第2の加速器グリッド27に流れ込むことで、第2の直流電圧供給源25が焼損してしまうという問題が発生していた。
【0006】
そこで、本発明は、従来のイオンビーム発生装置が有する,上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で、容易に取り付け可能で安価な装置を取り付けることにより、電源の焼損を防ぐことができるイオンビーム発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るイオンビーム発生装置は、プラズマ発生源と、プラズマ発生源により発生されたプラズマを閉じ込めるための放電槽と、放電槽の前面に設けられた引出し電極とを備え、該引出し電極は、放電槽側に設けられ、かつ正極直流電源と接続するための第1電極と、第1電極の前面に設けられ、かつ負極直流電源と接続するための第2電極と、第2電極の前面に設けられ、接地された第3電極と、第2電極と接続され、かつ該電源と並列接続されたバイパス回路とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、イオンビーム発生装置の第2電極と、第2電極と接続される電源との間に、並列接続してバイパス回路を設けることにより、電源の焼損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に適用可能なイオンビーム発生装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照して、本発明に適用可能なイオンビーム発生装置の構造を説明する。
イオンビーム発生装置は、プラズマを閉じ込めるための放電室10、高周波電磁界を真空に導入するための石英ベルジャー(誘電体窓)13、放電室10内にプラズマを生成するためのガス(例えば、Arガス)を導入するためのガス導入管11、導入されたガスに石英ベルジャー13を介して電力を印加して、放電室10内に誘導結合プラズマ(ICP)を発生させるためのICPコイル1(プラズマ発生源)を有している。
ICPコイル1は、RFマッチングユニット6を介して高周波電源5と接続されている。
【0011】
さらに、イオンビーム発生装置は、壁面でのプラズマ損失を防ぐためのカスプマグネット(永久磁石)9、生成されたプラズマの分布を制御するための電磁石12、及びプラズマ中のイオンを引き出すための引出し電極20を有している。
【0012】
引出し電極20は、放電槽側に設けられ、かつ正極直流電源7と接続された第1電極2と、第1電極2の前面に設けられ、かつ負極直流電源8と接続された第2電極3と、第2電極3の前面に設けられ、接地された第3電極(接地電極)4と、第2電極3と接続され、かつ該負極直流電源8と並列接続されたバイパス回路14とを備える。
第1電極2、第2電極3、及び第3電極(接地電極)4はそれぞれ5mm程度の複数の孔を有し、第1電極2には正極電圧を、第2電極3には負極電圧を投入すると、プラズマからアルゴンイオンを引出し、基板に照射することができる。
第1電極2と接続された電源7は、正極直流電源であり、本例では1000Vの電圧、1200mAの電流を用いている。
第2電極3と接続された電源8は、負極直流電源であり、本例では5000Vの電圧、240mAの電流を用いている。
【0013】
バイパス回路14は、ダイオード15と抵抗16から構成されている。
ダイオード15を保護するために抵抗器16を設けているが、適合する抵抗器がない場合は、抵抗器16を省略してもよい。
【0014】
バイパス回路14は、第2電極3から負極直流電源8に流れてくる電流を、分流して接地側に流すことが目的なので、ダイオード15に接続された抵抗器16は、第2電極3に接続されている負極直流電源8の内部抵抗によって決定する。
ここで、抵抗器16の抵抗値をRΩと、負極直流電源8の内部抵抗をRΩと、負極直流電源8への負荷電流値をI(A)とする。
(A)の値が、負極直流電源8の固有の許容する電流値、すなわち、負極直流電源8の出力電流値以下である必要がある。
第2電極3から正極直流電源7に到達する電流値をIとすると、抵抗器16の抵抗値は以下の式で表される。
=R*I/(I−I
従って、第2電極3から負極直流電源8に流れてくる電流を、接地側に分流させるためには、抵抗器16の抵抗値をRは、R*I/(I−I)Ω以下であればよい。
【0015】
次に、イオンビーム発生装置の動作を説明する。
ガス導入管11からアルゴンガスを導入し、放電槽10にガスを充填する。次に、高周波電源5を作動し、高周波13.56MHzの電力をICPコイル1に投入すると、放電槽10の内部に導入されたガスからプラズマが生成する。
第1電極2に正極直流電源7から正極電圧(1000V、1200mA)を印加し、第2電極3に負極直流電源8から負極電圧(5000V、240mA)を印加すると、プラズマからイオンが引き出され、イオンビームが基板へ照射される。
【0016】
第1電極2に正極直流電源7からの電圧が印加されているので、イオンビームが引き出されると正極直流電源7から第1電極2に電流が流れる。プラズマから引き出されたイオンは、通常、第1電極2、第2電極3、及び第3電極4の複数の孔を通過して、対象物に向かって引き出されるので、第2電極3に直接流れこむことはない。
【0017】
しかしながら、まれに第1電極2と第2電極3の間にアークが発生し、第1電極2と第2電極3の間のインピーダンスが20kΩから100Ω以下程度まで極端に低下することがある。
このようにアークが発生した場合、前述した第1電極2の電流は、第2電極3を通してアースに流れることになる。アークが発生したことによるインピーダンス低下により、第1電極2に接続された正極直流電源7の電流値が、正極直流電源7の最大電流になってしまう。このため、この最大電流が流入した負極電源8は焼損にいたる恐れがある。
【0018】
そこで本発明は、アーク発生時における第1電極2の電流が、第2電極3に流れてくる場合に、流れ込んできた電流を接地側にバイパスする。
具体的には、第2電極3と、負極直流電源8との間に、並列接続したバイパス回路14を設ける。
アークが発生した場合、第1電極2から第2電極3方向に流れる電流が、負極直流電源8には流れずに、バイパス回路(ダイオード抵抗器ユニット)14側に流れる。これにより、負極直流電源8の焼損を防止することができる。
なお、バイパス回路14は、ダイオード15と、ダイオード15を保護するための抵抗器16を有するが、抵抗器は適合したものがないときはなくてもよい。
【0019】
バイパス回路(ダイオード抵抗ユニット)14のケース内には、ダイオード15と抵抗器16を設置されている。第2電極3と負極直流電源8を接続しているケーブルを分岐したケーブルは、コネクターを介してダイオード抵抗ユニット14内部のダイオード16、抵抗器16の順番に接続されている。さらにケーブルはコネクターを介して接地されている。このように、本発明にかかるイオンビーム発生装置は、構造が非常に簡素で、安価、かつ、利便性の高いシステムである。
【符号の説明】
【0020】
1 ICPコイル(プラズマ発生源)
2 第1電極
3 第2電極
4 第3電極(接地)
5 RF電源
6 RF整合器
7 第1電極(正極電源)
8 第2電極(負極電源)
9 カスプマグネット
10 放電槽
11 ガス導入管
12 電磁マグネット
13 石英ベルジャー(誘電体窓)
14 バイパス回路
15 ダイオード
16 抵抗器
20 引出し電極




【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ発生源と、
前記プラズマ発生源により発生されたプラズマを閉じ込めるための放電槽と、
前記放電槽の前面に設けられた引出し電極とを備え、
該引出し電極は、前記放電槽側に設けられ、かつ正極直流電源と接続するための第1電極と、
前記第1電極の前面に設けられ、かつ負極直流電源と接続するための第2電極と、
前記第2電極の前面に設けられ、接地された第3電極と、
前記第2電極と接続され、かつ該負極直流電源電源と並列接続されたバイパス回路とを
備えることを特徴とするイオンビーム発生装置。
【請求項2】
前記バイパス回路は、ダイオードと抵抗器を有することを特徴とする請求項1に記載のイオンビーム発生装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−134674(P2011−134674A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295128(P2009−295128)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】