説明

イオンプレーティング装置および成膜方法

【課題】膜材の気化によりハースに付着した成膜堆積物の再気化を抑制、または成膜堆積物がハースに堆積するのを抑制して、ワークに安定した膜特性を有する被膜を成膜することができるイオンプレーティング装置および成膜方法を提供すること。
【解決手段】真空チャンバ3の内部におけるハース5の露出面5bの表面温度を、タブレット21の気化によりハース5の露出面5bに付着した成膜堆積物の再気化を抑制する第1の温度領域、または気化したタブレット21のハース5の露出面5bに対する付着を抑制する第2の温度領域に制御する構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンプレーティング装置に関し、特に、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマビームを利用したイオンプレーティング装置として、ハースに収容された膜材としてのタブレットを気化させるイオンプレーティング装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このイオンプレーティング装置においては、ハースに形成された貫通孔にタブレットが収容され、このタブレットが下方から突き上げ棒により突き上げられることでチャンバ内に連続的に繰り出されている。そして、チャンバ内に発生したプラズマビームがステアリングコイル等によりハースに向かって誘導され、チャンバ内に繰り出されたタブレットの上面を照射することにより、照射により発生した気体がプラズマビームを通過してイオン化し、ワークの表面に付着して成膜している。
【特許文献1】特開2002−30422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記したイオンプレーティング装置においては、プラズマビームの照射により膜材から発生した気体がワークの表面のみならずハースの上面にも付着堆積し、この堆積した成膜堆積物が再び気化することでワークに結晶性の劣化した被膜が成膜され、安定した膜特性を得ることができないという問題があった。
【0004】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、膜材の気化によりハースに付着した成膜堆積物の再気化を抑制、または成膜堆積物がハースに堆積するのを抑制して、ワークに安定した膜特性を有する被膜を成膜することができるイオンプレーティング装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のイオンプレーティング装置は、チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜用の膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する膜材支持部と、前記ハースの前記チャンバ内における露出面の表面温度を制御する温度制御部とを備えたことを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、温度制御部によりハースのチャンバ内における露出面の表面温度が制御されるため、温度制御部によりハースの露出面の表面温度を、膜材の気化によりハースに付着した成膜堆積物の再気化を抑制する温度領域、または成膜堆積物がハースに堆積するのを抑制する温度領域に制御することができる。したがって、成膜堆積物が再気化することが抑制され、ワークに結晶性の良好な被膜が成膜され、安定した膜特性を得ることができる。
【0007】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記温度制御部は、前記ハースの前記チャンバ内における露出面の表面温度を、前記膜材の気化により前記ハースの露出面に付着した成膜堆積物の再気化を抑制する第1の温度領域に制御することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、膜材の気化により気化した膜材がハースの露出面に付着して堆積した成膜堆積物の再気化を抑制することができる。
【0009】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記温度制御部は、前記ハースの前記チャンバ内における露出面の表面温度を、気化した前記膜材が前記ハースの露出面に付着するのを抑制する第2の温度領域に制御することを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、プラズマビームの照射により気化した膜材がハースの露出面に付着することが抑制されるため、ハースの露出面に成膜堆積物が堆積することがなく、成膜堆積物の再気化を予防することができる。
【0011】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記ハースの露出面の表面温度を検出する温度検出部を備え、前記膜材支持部は導電性であり、前記ハースに可変抵抗を介して接続されており、前記温度制御部は、前記温度検出部により検出された表面温度に応じて前記可変抵抗の抵抗値を可変させて前記ハースに対する通電量を調整することにより、前記ハースの前記チャンバ内における露出面の表面温度を制御することを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、温度検出部の検出結果に応じて可変抵抗の抵抗値を可変させることで、ハースの露出面の表面温度を適切な温度領域に制御することができる。
【0013】
また本発明は、上記イオンプレーティング装置において、前記膜材支持部を介して前記膜材に対する通電を制御する通電制御部を備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、通電制御部により膜材に対する通電を制御することで、プラズマビームをハースに集中的に照射させることができる。これにより、ハースの露出面に成膜堆積物が堆積した場合に、プラズマビームをハースに集中的に照射してハースに堆積した成膜堆積物を除去することができる。
【0015】
本発明の成膜方法は、上記イオンプレーティング装置を用い、プラズマビームの照射により前記膜材を気化させ、気化した前記膜材を前記ワークの表面に付着させて成膜し、成膜過程において前記ハースの露出面の表面温度を制御することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、ハースの露出面の表面温度を、膜材の気化によりハースに付着した成膜堆積物の再気化を抑制する温度領域、または成膜堆積物がハースに堆積するのを抑制する温度領域に制御して、ワークに安定した膜特性を有する被膜を成膜することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、膜材の気化によりハースに付着した成膜堆積物の再気化を抑制、または成膜堆積物がハースに堆積するのを抑制して、ワークに安定した膜特性を有する被膜を成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置は、ハースの真空チャンバの内部における露出面の表面温度を、膜材としてのタブレットの気化によりハースに付着した成膜堆積物の再気化を抑制する温度領域、または成膜堆積物がハースに堆積するのを抑制する温度領域に制御することにより、ワークに安定した膜特性を有する被膜を成膜するようにしたものである。
【0019】
図1を参照して、イオンプレーティング装置の全体構成について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るイオンプレーティング装置の模式図である。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1は、気密性の真空チャンバ3を備えており、真空チャンバ3の一の側壁3aには陰極として機能するプラズマビーム発生源としてのプラズマガン4が設けられ、真空チャンバ3の底壁3bには陽極として機能するハース5が設けられている。また、真空チャンバ3の上壁3cには成膜対象のワークWを搬送する搬送部6が設けられ、真空チャンバ3のプラズマガン4が設けられた側壁3aに対向する側壁3dには酸素ガスおよびアルゴンガス等のキャリアガスを導入するガス導入口8が形成されている。さらに、イオンプレーティング装置1には、成膜処理等の各種処理を統括制御する制御部7が設けられている。
【0021】
プラズマガン4は、ハース5に対してプラズマビームPを照射するものであり、プラズマビームPを発生させるプラズマガン本体11と、プラズマガン本体11の真空チャンバ3側においてプラズマガン本体11と同軸上に配置された第1の中間電極12および第2の中間電極13とを有して構成されている。プラズマガン本体11は、導体板14を介して直流電源16のマイナス端子に接続されており、導体板14とハース5との間で放電を生じさせることによりプラズマビームPを発生させている。第1の中間電極12および第2の中間電極13には、それぞれ永久磁石が内蔵されており、この永久磁石によりプラズマガン4により発生されたプラズマビームPが収束される。
【0022】
また、プラズマガン4の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第1のコイル15が設けられており、この第1のコイル15により第1の中間電極12および第2の中間電極13まで引き出されたプラズマビームPが真空チャンバ3の内部に誘導される。
【0023】
ハース5は、プラズマガン4から出射されたプラズマビームPを下方に吸引するものであり、導電材料で形成され、後述するハース抵抗17は、第2の電流計32、第1の電流計31を介して直流電源16のプラス端子に接続されている。また、ハース5には、プラズマビームPが入射される中央部分に貫通孔5aが形成されており、この貫通孔5aに円柱状のタブレット21が充填されている。貫通孔5aの周囲には絶縁パイプ23が設けられており、ハース5とタブレット21とが真空チャンバ3の内部において絶縁されている。これにより、ハース5とタブレット21との間で異常放電が抑制される。なお、本実施の形態における真空チャンバ3の内部とは、絶縁パイプ23とタブレット21との対向空間等のように図示しないパッキン等により真空雰囲気が保たれている部分を含むものである。
【0024】
貫通孔5aの同軸上には、タブレット21を下方から支持するタブレット支持棒25が上下方向に移動可能に設けられており、このタブレット支持棒25によりタブレット21が突き上げられてハース5に対してタブレット21が供給される。タブレット支持棒25は、上下方向に延在し、上端においてタブレット21を弾性挟持し、下端において図示しない駆動機構に接続されている。そして、タブレット支持棒25は、タブレット21を弾性挟持した状態で駆動機構によりタブレット21の消費速度に合わせて上方に移動される。また、タブレット支持棒25は、導電材料で形成され、タブレット21を支持する支持面においてタブレット21と導通し、真空チャンバ3の外部において通電制御部としての遮断スイッチ27、第1の電流計31を介して直流電源16のプラス端子に接続されている。
【0025】
ハース5の真空チャンバ3の外部に突出した部分には、周囲を取り囲むように第2のコイル29が設けられており、この第2のコイル29によりハース5に入射されるプラズマビームPの向き等が修正される。
【0026】
タブレット21は、成膜用の膜材であり、酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により円柱状に焼結成形されている。タブレット21の上面にプラズマビームPが照射されると、プラズマビームPにより加熱されて気化し、タブレット21の上方に位置するワークWの表面にZnO膜が成膜される。
【0027】
また、本実施の形態で使用されるタブレット21は、60[mm]以上のロングサイズのタブレット21であり、20[mm]程度のスモールサイズのタブレットを縦一列に重ねた状態と異なり、タブレット間の合わせ目を少なくしている。これにより、タブレット間の合わせ目で生じる異常放電を抑制している。また、タブレットが消費されて細かい破片だけが、残った場合には、破片が真空チャンバ3の内部に飛び散って汚染の原因となるが、タブレット間の合わせ目が少ないため、真空チャンバ3の内部の汚染を抑制することも可能となる。
【0028】
搬送部6は、真空チャンバ3内においてハース5の上方にワークWを支持している。
【0029】
直流電源16は、可変直流電源であり、直流電源16のマイナス端子に接続された電源ラインはプラズマガン4に直接接続され、直流電源16のプラス端子に接続された電源ラインは第1の電流計31の先の分岐点dにおいて2股に分岐し、一方が第2の電流計32およびハース抵抗17を介してハース5に接続され、他方が遮断スイッチ27を介してタブレット支持棒25に接続されている。
【0030】
第1の電流計31は、プラズマガン4に流れるガン電流、すなわち、ハース5およびタブレット21に流れるトータル電流の電流値を検出して、その検出結果を制御部7に出力している。第2の電流計32は、ガン電流が分岐点dにおいて分流されてハース5側に流れる電流値を検出して、その検出結果を制御部7に出力している。ハース抵抗17は、可変抵抗であり、制御部7により制御されて抵抗値を可変させることでハース5およびタブレット21のそれぞれに対する通電量が調整される。
【0031】
遮断スイッチ27は、タブレット21に対する通電を制御するものであり、タブレット21に対するプラズマビームPの照射量が調整される。例えば、遮断スイッチ27がONの場合には、タブレット21に対しても通電されるため、プラズマビームPはタブレット21の上方において分流して、ハース5およびタブレット21のそれぞれを照射する。一方、遮断スイッチ27がOFFの場合には、タブレット21に対する通電が遮断されるため、ハース5に対して集中的にプラズマビームPが照射される。
【0032】
このように、ハース5に対して集中的にプラズマビームPを照射できるため、ハース5の露出面5bにタブレット21の気化により成膜堆積物が堆積した場合に、プラズマビームPをハース5に集中的に照射して堆積した成膜堆積物を除去することが可能となる。なお、本実施の形態においては、通電制御部として遮断スイッチ27をON・OFFさせてタブレット21に対する通電を制御しているが、可変抵抗の抵抗値を可変させて通電を制御する構成としてもよい。
【0033】
制御部7は、ハース5およびタブレット21のそれぞれに対する通電量を調整して、プラズマ強度やタブレット21の消費レートを制御すると共に、真空チャンバ3の内部におけるハース5の露出面5bの表面温度を制御するものである。この場合、制御部7は、ハース5に流れる電流、ガン電流、ハース抵抗17の抵抗値の関係を示すマップデータを記憶しており、このマップデータを参照してハース抵抗17の抵抗値を可変させてハース5に流れる通電量を調整している。
【0034】
また、制御部7には温度検出部33が接続されており、この温度検出部33により真空チャンバ3の内部におけるハース5の露出面5bの表面温度が検出される。また、温度検出部33としては、例えば、熱電対や放射温度計等を有して構成される。そして、制御部7は、温度検出部33により検出されたハース5の露出面5bの表面温度が良好な膜特性が得られる温度領域に入るように、直流電源16の印加電圧およびハース抵抗17の抵抗値を可変させてハース5に対する通電量を調整している。
【0035】
以下、図2を参照して、良好な膜特性が得られるハースの露出面の温度領域について説明する。図2(a)は、ハースの露出面の表面温度と成膜堆積物の堆積量との関係を示す図、図2(b)は、ハースの露出面の表面温度と成膜堆積物の再気化量との関係を示す図である。
【0036】
図2(a)に示すように、ハース5の露出面5bの表面温度が1000[℃]より低い温度領域においては、プラズマビームPの照射により気化したタブレット21がハース5の露出面5bに付着して成膜堆積物が堆積することを示している。また、ハース5の露出面5bの表面温度が1000[℃]以上の温度領域においては、プラズマビームPの照射により気化したタブレット21がハース5の露出面5bに付着しないため再気化も生じないことを示している。
【0037】
図2(b)に示すように、ハース5の露出面5bの表面温度が600[℃]以下の温度領域においては、タブレット21の気化によりハース5に堆積した成膜堆積物が再気化しないことを示している。また、ハース5の露出面5bの表面温度が600[℃]以上1000[℃]以下の温度領域においては、成膜堆積物の堆積と再気化が同時に生じ、表面温度の上昇に伴って再気化量が増加し、その後、減少に転じることを示している。
【0038】
したがって、ハース5の露出面5bの表面温度が600[℃]より高く、かつ1000[℃]より低い温度領域においては、ハース5に成膜堆積物が堆積すると共に、堆積した成膜堆積物が再気化し、ワークWに対して結晶性が劣化した被膜が成膜される。一方、ハース5の露出面5bの表面温度が1000[℃]以上の温度領域に制御されると、気化したタブレット21がハース5に付着するのが抑制され、ハース5の露出面5bに成膜堆積物が堆積せず、成膜堆積物の再気化を予防することが可能となる。さらに、ハース5の露出面5bの表面温度が600[℃]以下の温度領域に制御されると、ハース5に堆積した成膜堆積物が再気化するのを抑制することが可能となる。
【0039】
このように構成されたイオンプレーティング装置1において、直流電源16がハース5とプラズマガン4との間に直流電圧を印加すると、真空チャンバ3の内部にプラズマビームPが発生し、ワークWに成膜処理が行われる。
【0040】
具体的には、直流電源16によりハース5とプラズマガン4との間に直流電圧が印加されると、プラズマビームPが発生される。このプラズマビームPは、第1のコイル15および第2のコイル29等により形成される磁界に誘導されてハース5に照射される。タブレット支持棒25によりハース5に供給されたタブレット21は、プラズマビームPの照射により上面が加熱されて気化される。
【0041】
タブレット21の気体は、プラズマビームPを通過中にイオン化してワークWの表面に付着して被膜を形成する。このとき、プラズマガン4に流れるガン電流およびタブレット21に流れる電流は、ハース抵抗17が動的に制御されることで、プラズマガン4のプラズマ強度やタブレット21の消費レートと共に、ハース5の露出面5bの表面温度が制御される。
【0042】
次に、イオンプレーティング装置による温度制御処理の一例について説明する。図3は、イオンプレーティング装置による温度制御処理のフローの一例である。なお、制御部には第1の電流計および第2の電流計からガン電流およびハースに流れる電流が出力されているものとし、初期設定としてハースの露出面の表面温度の目標温度領域を600[℃]以下の温度領域とするか、1000[℃]以上の温度領域とするかが設定されているものとする。
【0043】
先ず、制御部7により初期設定としてハース5の露出面5bの表面温度の目標温度領域が600[℃]以下に設定されているかが判定される(ステップS01)。初期設定として目標温度領域が600[℃]以下の温度領域に設定されていないと判定された場合(ステップS01:No)、初期設定として目標温度領域が1000[℃]以上の温度領域に設定されているとしてステップS04に移行する。一方、初期設定として目標温度領域が600[℃]以下の温度領域に設定されていると判定された場合(ステップS01:Yes)、温度検出部33により検出されたハース5の露出面5bの表面温度が600[℃]以下か否かが判定される(ステップS02)。
【0044】
温度検出部33により検出されたハース5の露出面5bの表面温度が600[℃]以下の場合(ステップS02:Yes)、ハース5の露出面5bに付着する成膜堆積物が再気化しない温度として処理を終了する。一方、温度検出部33により検出されたハース5の露出面5bの表面温度が600[℃]より高い場合(ステップS02:No)、ハース5の露出面5bの表面温度が600[℃]以下になるまで直流電源16の印加電圧およびハース抵抗17の抵抗値を可変させて、ハース5に対する通電量が調整される(ステップS03)。
【0045】
ステップS01において初期設定として目標温度領域が1000[℃]以上の温度領域に設定されていると判定された場合、温度検出部33により検出されたハース5の露出面5bの表面温度が1000[℃]以上か否かが判定される(ステップS04)。
【0046】
温度検出部33により検出されたハース5の露出面5bの表面温度が1000[℃]以上の場合(ステップS04:Yes)、気化したタブレット21がハース5の露出面5bに付着し、成膜堆積物が堆積しない温度として処理を終了する。一方、温度検出部33により検出されたハース5の露出面5bの表面温度が1000[℃]より低い場合(ステップS04:No)、ハース5の露出面5bの表面温度が1000[℃]以上にまるまで直流電源16の印加電圧およびハース抵抗17の抵抗値を可変させて、ハース5に対する通電量が調整される(ステップS05)。
【0047】
なお、上記した温度制御処理のフローは一例にすぎず、ハース5の露出面5bの表面温度を600[℃]以下または1000[℃]以上の温度領域に制御するフローであればどのようなフローであってもよい。例えば、ハース5の露出面5bの表面温度が800[℃]以下の場合には600[℃]以下の温度領域に近づけるように制御し、ハース5の露出面5bの表面温度が800[℃]より高い場合には1000[℃]以上の温度領域に近づけるように制御してもよい。
【0048】
以上のように、本実施の形態に係るイオンプレーティング装置1によれば、制御部7によりハース5の真空チャンバ3の内部における露出面5bの表面温度が制御されるため、制御部7によりハース5の露出面5bの表面温度を、タブレット21の気化によりハース5に付着した成膜堆積物の再気化を抑制する温度領域、または成膜堆積物がハース5に堆積するのを抑制する温度領域に制御することができる。したがって、成膜堆積物が再気化することが抑制され、ワークに結晶性の良好な被膜が成膜され、安定した膜特性を得ることが可能となる。
【0049】
なお、上記した実施の形態においては、請求項に記載の第1の温度領域を600[℃]以下の温度領域、第2の温度領域を1000[℃]以上の温度領域として説明したが、この内容に限定されるものではない。第1の温度領域は、タブレット21の気化によりハース5に付着した成膜堆積物が再び気化しない温度領域であればよく、例えば、600[℃]以上であってもよい。また、第2の温度領域は、気化したタブレット21がハース5の露出面5bに付着しない温度領域であればよく、例えば、1000[℃]以下であってもよい。
【0050】
また、上記した実施の形態においては、ハース5を真空チャンバ3の底壁3bに設け、下方からワークWの表面に成膜する構成としたが、図4に示すように、複数のハース45を真空チャンバ43の側壁43aに設け、側方からワークWの表面に成膜する構成としてもよい。この構成により、ワークWを立てた状態でワークWの表面に成膜することができ、ワークWを水平した状態のように自重により撓むことがないため、大面積の大型ワークに成膜することが可能となる。
【0051】
また、上記した実施の形態においては、ハース5の露出面5bの表面温度を制御して、ハース5の露出面5bに付着する成膜堆積物の再気化を抑制する構成としたが、ハース5に流れる電流密度を制御してハース5の露出面5bに付着するタブレット21の再気化を抑制する構成としてもよい。
【0052】
また、上記した実施の形態においては、本発明をロングサイズのタブレット21に適用した例を挙げて説明したが、本発明をショートサイズのタブレット21に適用することも可能である。また、膜材として酸化亜鉛および酸化ガリウムの粉末により焼結成形したタブレットを使用したが、ワークWを成膜するものであればこれに限定されるもではない。
【0053】
また、上記した実施の形態においては、ハース5の中央にタブレット21を収容して、ハース5とタブレット21とを近接配置した例を示して説明したが、タブレット21がハース5に近接配置されていれば、ハース5の中央にタブレット21を収容する構成に限定されない。
【0054】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように、本発明は、膜材の気化によりハースに付着した成膜堆積物の再気化を抑制、または成膜堆積物がハースに堆積するのを抑制して、ワークに安定した膜特性を有する被膜を成膜することができるという効果を有し、特にプラズマビームを利用したイオンプレーティング装置および成膜方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置の模式図である。
【図2】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、(a)は、ハースの露出面の表面温度と成膜堆積物の堆積量との関係を示す図、(b)は、ハースの露出面の表面温度と成膜堆積物の再気化量との関係を示す図である。
【図3】本発明に係るイオンプレーティング装置の実施の形態を示す図であり、イオンプレーティング装置による温度制御処理のフローの一例である。
【図4】本発明に係るイオンプレーティング装置の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 イオンプレーティング装置
3 真空チャンバ(チャンバ)
4 プラズマガン(プラズマビーム発生源)
5 ハース
7 制御部(温度制御部)
16 直流電源
17 ハース抵抗(可変抵抗)
21 タブレット(膜材)
25 タブレット支持棒(膜材支持部)
27 遮断スイッチ(通電制御部)
31 第1の電流計
32 第2の電流計
33 温度検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、陰極として機能し、前記チャンバ内にプラズマビームを発生するプラズマビーム発生源と、陽極として機能し、前記チャンバ内においてプラズマビームが照射されるハースと、前記ハースに近接配置された成膜用の膜材を前記チャンバ内に露出するように支持する膜材支持部と、前記ハースの前記チャンバ内における露出面の表面温度を制御する温度制御部とを備えたことを特徴とするイオンプレーティング装置。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記ハースの前記チャンバ内における露出面の表面温度を、前記膜材の気化により前記ハースの露出面に付着した成膜堆積物の再気化を抑制する第1の温度領域に制御することを特徴とする請求項1に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項3】
前記温度制御部は、前記ハースの前記チャンバ内における露出面の表面温度を、気化した前記膜材が前記ハースの露出面に付着するのを抑制する第2の温度領域に制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のイオンプレーティング装置。
【請求項4】
前記ハースの露出面の表面温度を検出する温度検出部を備え、
前記膜材支持部は導電性であり、前記ハースに可変抵抗を介して接続されており、
前記温度制御部は、前記温度検出部により検出された表面温度に応じて前記可変抵抗の抵抗値を可変させて前記ハースに対する通電量を調整することにより、前記ハースの前記チャンバ内における露出面の表面温度を制御することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項5】
前記膜材支持部を介して前記膜材に対する通電を制御する通電制御部を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のイオンプレーティング装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5に記載のイオンプレーティング装置を用い、プラズマビームの照射により前記膜材を気化させ、気化した前記膜材を前記ワークの表面に付着させて成膜し、成膜過程において前記ハースの露出面の表面温度を制御することを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−132939(P2010−132939A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−307518(P2008−307518)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】