説明

イオンミリング装置

【課題】 イオンミリングは、試料断面の鏡面研磨に有効な方法であるが、マスクと試料の位置あわせが、イオンミリング装置の試料ホルダ固定具の上では構造上の制約で容易でなかった。
【解決手段】 試料3を固定した試料ホルダ23とその回転機構およびマスク2とその微調整機構とが一体になった試料マスクユニット本体21を備え、この試料マスクユニット本体21を試料ホルダ固定具5に取り付け、取り外し可能、且つ、真空チャンバの外部へ取り出し可能にした。これにより、試料マスクユニット本体を別の高性能の顕微鏡下に設置して、試料の鏡面研磨したい部位とマスクの位置関係を精度良く設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンミリング装置に係り、特に試料と、試料の一部を遮蔽するマスクとの位置合わせ作業が容易に行えるようにしたイオンミリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンミリング装置は、金属、ガラス、セラミックなどの表面或いは断面を、アルゴンビームを照射するなどして研磨するための装置であり、電子顕微鏡により試料の表面あるいは断面を観察するための前処理装置として好適である。
【0003】
電子顕微鏡による試料の断面観察において、従来は観察したい部位の近傍を例えばダイヤモンドカッター、糸のこぎり等を使用して切断した後、切断面を機械研磨し、電子顕微鏡用の試料台に取り付けて像を観察していた。
【0004】
機械研磨の場合、例えば高分子材料やアルミニウムのように柔らかい試料では観察表面がつぶれる、或いは研磨剤の粒子によって深い傷が残るといった問題があった。又、例えばガラスあるいはセラミックのように固い試料では研磨が難しく、柔らかい材料と固い材料とが積層された複合材料では断面加工が極めて難しいという問題があった。
【0005】
これに対し、イオンミリングは、柔らかい試料でも表面の形態がつぶれることなく加工できる、固い試料および複合材料の研磨が可能である、鏡面状態の断面を容易に得ることができるという効果がある。
【0006】
特許文献1には、イオンミリング装置の試料ホルダおよびホルダ固定具に関して記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−293475号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イオンミリングの場合、試料の鏡面研磨したい部位にイオンビームの中心を精度良く合わせることが必要になる。また、試料の鏡面研磨したい部位のみを露出させ、その他の部分をマスクで遮蔽することが必要になる。イオンミリング装置では、通常、試料は試料ホルダに固定され、試料ホルダは試料ホルダ固定具に固定されている。真空チャンバ内に設置された試料ホルダ固定具の上で、マスクの位置を試料の加工面に対して精度良く合わせることは、イオンミリング装置の構造上の制約で容易ではなかった。このため、結果的に試料の鏡面研磨したい部位とイオンビームの中心とを精度良く位置合わせすることが容易でなかった。
【0009】
本発明の目的は、マスクの位置を試料の鏡面研磨したい部位に合わせる位置合わせ作業が容易に行えるようにしたイオンミリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、試料ホルダとその回転機構、および、試料の一部を遮蔽するマスクとそのマスクの位置を微調整できる機構とが一体になった試料マスクユニット本体を備え、この試料マスクユニット本体を試料ホルダ固定具に取り付け、取り外しができるように構成し、且つ、真空チャンバの外部へ取り出せるように構成したものである。
【0011】
本発明において、試料マスクユニット本体と試料ホルダ固定具の両方を真空チャンバの外部へ取り出せるように構成することも可能であり、本発明の実施態様に含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試料マスクユニット本体または、試料マスクユニット本体を固定した試料ホルダ固定具を、真空チャンバの外部へ引き出し、別の高性能の顕微鏡下に設置して、断面を鏡面研磨したい試料とマスクの位置関係を精度良く設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のイオンミリング装置の実施例を、図面を用いて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明によるイオンミリング装置の構成を示したものであり、(a)は平面図、(b)は側面図である。また、(a)は試料マスクユニット本体と試料ホルダ固定具が真空チャンバの外部に引き出されている状態を示し、(b)は試料マスクユニット本体と試料ホルダ固定具が真空チャンバの内部に設置されている状態を示している。以下では、イオン源からアルゴンイオンビームを照射する場合について説明する。
【0015】
アルゴンイオンのイオン源1におけるアルゴンイオンの電流密度はイオン源制御部7で制御される。真空チャンバ15は真空排気系制御部9にて真空排気系6を制御して真空又は大気の状態にでき、その状態を保持できる。
【0016】
試料ホルダ固定具5は、アルゴンイオンビームの光軸に対して任意の角度に回転傾斜できるように構成されており、回転傾斜させる方向と傾斜角度は試料微動制御部8により制御される。試料ホルダ固定具を回転傾斜させることにより、試料ホルダに固定されている試料をイオンビームの光軸に対して所定の角度に設定することができる。また、試料ホルダ固定具5は、アルゴンイオンビームの光軸に対して横方向の前後左右、すなわち、X方向とY方向に移動できるように構成することが好ましい。
【0017】
試料ホルダ固定具5は、真空チャンバ15の容器壁の一部を兼ねるフランジ10に固定されており、フランジ10をリニアガイド11に沿って引き出して真空チャンバ15を大気状態に開放した時に、試料ホルダ固定具5が真空チャンバの外部へ引き出されるように構成されている。
【0018】
マスク2と試料3の位置関係をあらかじめ微調整しておいた試料マスクユニット本体21を試料ホルダ固定具5に取り付ける。焦点を合わせるためのルーペ微動機構13を備えたルーペ12をフランジ10に設けた回転軸としてルーペアーム14を回し、所定の位置すなわちアルゴンイオンビームの光軸まで移動させる。試料ホルダ固定具5のXY移動機構を使って、ルーペ付属のXYメモリ中心に試料3の断面研磨したい部分を移動させる。そして、真空状態でアルゴンイオンビームを試料3に照射してイオンミリングを行う。
【0019】
試料マスクユニット本体の構成を図2により説明する。図2の(a)は平面図、(b)は側面図である。本発明では、少なくとも試料ホルダ23とその回転機構、マスク2とその微調整機構とを一体に構成したものを試料マスクユニット本体と称する。図2では試料ホルダ23の回転機構として試料ホルダ回転リング22と試料ホルダ回転ねじ28が備えられており、イオンビームの光軸に対して垂直に試料ホルダを回転できるようにしている。
【0020】
試料マスクユニット本体21は、マスクの位置と回転角を微調整できる機構を持ち、試料ホルダ固定具5に取り付け、取り外しができる。
【0021】
マスク2はマスクホルダ25にマスク固定ねじ27により固定される。マスクホルダ25はマスク微調整機構26を操作することによってリニアガイド24に沿って移動し、これにより試料3とマスク2の位置が微調整される。試料ホルダ23は下部側より試料ホルダ回転リング22に挿入され固定される。試料3は試料ホルダ23に接着固定される。試料ホルダ位置制御機構30により試料ホルダ23の高さ方向の位置を調整し、試料ホルダ23をマスク2に密着させる。
【0022】
試料ホルダ回転リング22は試料ホルダ回転ねじ28を回すことによって回転するように構成されており、逆回転はばね29のばね圧で戻るようになっている。
【0023】
図3は、試料の断面とマスクを平行にする方法を示した説明図である。
【0024】
試料ホルダ回転ねじ28を回してX1方向の位置調整を行い、試料3の断面とマスク2の稜線が平行になるように顕微鏡下で微調整する。このとき、試料3の断面がマスクより僅かに突出、例えば50μm程度突出するようにマスク微調整機構26を回して設定する。
【0025】
図4は、試料3の断面研磨したい部位をアルゴンイオンビーム中心に合わせる方法を示した説明図である。感光紙等を試料ホルダ23に取り付け、アルゴンイオンビームを照射することによりできた痕すなわちビーム中心とルーペの中心をルーペ微動機構13でX2,X3を駆動して合わせておく。図3で微調整した後の試料マスクユニット本体21を試料ホルダ固定具5に取り付け、試料ホルダ固定具5のX3,Y3方向の位置を調整してルーペ中心に合わせることで、アルゴンイオンビーム中心と断面研磨したい部位を合わせることができる。
【0026】
図5はアルゴンイオンビームで試料3の断面を鏡面研磨する方法を示した説明図である。アルゴンイオンビームを照射すると、マスク2で覆われていない試料3をマスク2に沿って深さ方向に取り除くことができ、且つ、試料3の断面の表面を鏡面研磨することができる。
【0027】
近年、特に半導体分野で、複合材料を電子顕微鏡で断面観察することが重要となってきており、複合材料の断面を鏡面研磨する重要性が増している。本発明により、試料の断面観察したい部位にマスクを精度よく、容易に設定することが可能になった。本発明において、複数個のマスク試料ユニット本体を備えるようにすれば、あらかじめ多くの試料をマスク位置が微調整された状態で準備することが可能になり、きわめて効率的である。また、本発明によれば、試料を試料ホルダに取り付けたままの状態で、電子顕微鏡で像観察することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施例によるイオンミリング装置の概略構成図である。
【図2】試料マスクユニット本体の概略構成図である。
【図3】試料の断面とマスクを平行にする方法を示した説明図である。
【図4】アルゴンイオンビーム中心と試料の断面研磨したい部位とを合わせる方法を示した説明図である。
【図5】イオンミリングによる試料断面研磨方法を示した説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1…イオン源、2…マスク、3…試料、5…試料ホルダ固定具、6…真空排気系、7…イオン源制御部、8…試料微動制御部、9…真空排気系制御部、10…フランジ、11…リニアガイド、12…ルーペ、13…ルーペ微動機構、14…ルーペアーム、15…真空チャンバ、21…試料マスクユニット本体、22…試料ホルダ回転リング、23…試料ホルダ、24…リニアガイド、25…マスクホルダ、26…マスク微調整機構、27…マスク固定ねじ、28…試料ホルダ回転ねじ、29…ばね、30…試料ホルダ位置調整機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ホルダに固定された試料にイオンビームを照射するためのイオン源と、前記試料ホルダを固定する試料ホルダ固定具と、前記試料ホルダに固定された試料の一部をイオンビームが照射されないように遮蔽するマスクと、前記試料の加工部位をイオンビームの光軸と合わせるために前記試料ホルダを回転する試料ホルダ回転機構と、前記マスクと試料との位置関係を調整するためのマスク微調整機構とを具備し、真空チャンバ内にてイオンミリングが行われるように構成されているイオンミリング装置であって、前記試料ホルダとその回転機構および前記マスクとその微調整機構とが一体に構成された試料マスクユニット本体を有し、前記試料マスクユニット本体が前記試料ホルダ固定具から取り外し可能であり、且つ、前記真空チャンバの外部へ取り出し可能に構成されていることを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記試料ホルダ固定具を前記イオンビームの光軸に対して横方向に移動できるようにした試料ホルダ固定具移動機構と、前記試料ホルダ固定具を前記イオンビームの光軸に対して任意の角度に傾斜できるようにした試料ホルダ固定具回転傾斜機構の少なくとも1つを備えたことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項3】
試料ホルダに固定された試料にイオンビームを照射するためのイオン源と、前記試料ホルダを固定する試料ホルダ固定具と、前記試料ホルダに固定された試料の一部をイオンビームが照射されないように遮蔽するマスクと、前記試料の加工部位をイオンビームの光軸と合わせるために前記試料ホルダを回転する試料ホルダ回転機構と、前記マスクと試料との位置関係を調整するためのマスク微調整機構とを具備し、真空チャンバ内にてイオンミリングが行われるように構成されているイオンミリング装置であって、前記試料ホルダとその回転機構および前記マスクとその微調整機構とが一体に構成された試料マスクユニット本体を有し、前記試料マスクユニット本体と前記試料ホルダ固定具とが前記真空チャンバの外部へ取り出し可能に構成されていることを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項4】
請求項3において、前記試料ホルダ固定具を前記イオンビームの光軸に対して横方向に移動できるようにした試料ホルダ固定具移動機構と、前記試料ホルダ固定具を前記イオンビームの光軸に対して任意の角度に傾斜できるようにした試料ホルダ固定具回転傾斜機構の少なくとも1つを備えたことを特徴とするイオンミリング装置。
【請求項5】
請求項4において、前記試料ホルダ固定具が前記真空チャンバの一部を兼ねるフランジに固定され、前記フランジが前記真空チャンバの外部へ引き出し可能に構成されていることを特徴とするイオンミリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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