説明

イオン交換および順相カラムによる2次元液体クロマトグラフ

【課題】生体試料のような複雑なサンプルの分離には、多次元液体クロマトグラフィが有効であるが、現行のいるシステム(イオン交換(IEX)―逆相(RP)カラムを連結した2次元液体クロマトグラフィ(2D−HPLC))では、蛋白質などのプロテオームしか応用されていない。一方、親水性の大きい成分(例えば、糖鎖や糖ペプチド)の分離分析では、上記の逆相型2次元液体クロマトグラフィの適用が困難である。
【解決手段】IEXカラムとHILLICカラムを用い、アセトニトリル溶媒(50%以上)でHILLICモードを機能させることで、IEX−HILLICカラムを連結したオンライン2D(IEX−HILLIC)HPLCシステムで親水性の高い成分(例えば、糖鎖や糖ペプチド)の分離分析を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィ装置に係わり、特に、順相及びイオン交換分離カラムを有する順相型2次元液体クロマトグラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料のような複雑なサンプルの分離には、多次元液体クロマトグラフィ(nD−HPLC)が有効である。プロテオミックスの分野では、イオン交換(IEX)―逆相(RP)カラムを連結した2次元液体クロマトグラフィ(2D−HPLC)で分離し、質量分析計(MS)でオンライン分析する方法および装置がよく使われている(非特許文献1)。
【0003】
一方、親水性の大きい成分(例えば、糖鎖や糖ペプチド)の分離分析では、上記の逆相型2次元液体クロマトグラフィの適用が困難である。従って、イオン交換(IEX)―逆相(RP)―順相(NP/HILLIC)カラムを組み合わせた3次元液体クロマトグラフィ(2D−HPLC)が、最も分離能力が高く、よく用いられてきた(図1参照)(非特許文献2)。しかし、逆相モードと順相モードではグラヂエント溶出溶媒の組成が逆転するために(“溶離液の干渉”とも言われる)、分取、脱溶媒および濃縮、再注入を繰り返すオフライン処理が必要となり、時間と労力がかかるだけでなく、サンプルの損失や検出感度の低下を招く恐れがある。
【0004】
【非特許文献1】A.J.Link,et.al.,Nat.Biotechnol.17(1999)676.
【非特許文献2】T.Takahashi,et.al.,Anal.Biochem.226(1995)139.
【非特許文献3】M.A.Strege,et.al.,Anal.Chem.72(2000)4629.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、イオン交換(IEX)―順相(NP/HILIC)カラムを直列に組み合わせた2D−HPLCを順相(ヒリック)モードで用いることにより、上記の従来型技術である逆相型2D−HPLCや3D−HPLCの問題点を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般に、IEXカラムは水系で用いられるので、RPカラムとの相性がよい。しかし、IEXカラムがアセトニトリル溶媒(50%以上)、つまり、HILLICモードでも機能することはあまり知られていなかった(非特許文献3)。本発明は、この点に注目してIEX−HILLICカラムを連結したオンライン2D(IEX−HILLIC)HPLCシステムで親水性の高い成分(例えば、糖鎖や糖ペプチド)の分離分析の実現を図るものである。
【0007】
本発明は、特に、生体内に存在する親水性物質を分析する、液体クロマトグラフ装置において、イオン交換と順相(/ヒリック)分離モードを組み合わせて分離分析を行うものに適する2次元液体クロマトグラフィ装置を提供するものである。
【0008】
より具体的には、本発明は、複数の溶液を混合し送液する手段(例えばグラジエントポンプ)と、試料注入手段と、前段分離カラム(例えばイオン交換を行う)および後段分離カラム(順相/ヒリック(親水性相互作用))と、分離された成分を検出する一つまたは複数の手段から構成される液体クロマトグラフ装置において、イオン交換と順相(/ヒリック)分離モードを組み合わせて分離分析を行うことを特徴とする2次元液体クロマトグラフィ装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サンプル中の非イオン性、イオン性の親水性成分(例えば、糖鎖や糖ペプチド)の一斉分離分析をオンラインで実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好ましい実施形態としては、前記2次元液体クロマトグラフィ装置において、前段分離カラムが陽イオン、または陰イオン交換カラムであることを特徴とする2次元液体クロマトグラフィ装置がある。また、前記2次元液体クロマトグラフィ装置において、前段分離カラムが陽イオンと陰イオン交換充填剤を1本のカラムに充填したものであることを特徴とする2次元液体クロマトグラフィ装置がある。更に、前記2次元液体クロマトグラフィ装置において、前段分離カラムが陽イオンと陰イオン交換充填剤を1本のカラムに充填し、陽(陰)イオンと陰(陽)イオン交換カラムを直列に接続したものであることを特徴とする2次元液体クロマトグラフィ装置もある。
【0011】
そして、前記2次元液体クロマトグラフィ装置において、検出手段として質量分析計を用いることを特徴とする2次元液体クロマトグラフィ装置がある。
【0012】
以下に、本発明の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1はプロテオミックスで一般的に用いられている2次元液体クロマトグラフィ装置の構成を示し、図2はイオン交換(DEAE),逆相、順相(NP/HILIC)カラムを組み合わせた、従来のオフライン3次元液体クロマトグラフィ装置の構成を示す。
【0014】
図3は、本発明の第1の実施形態であり、最も単純な順相型2次元液体クロマトグラフィ装置の構成である。各構成ユニットの機能と動作原理を以下に記述する。
【0015】
ステップ1:ポンプは、水溶液Aおよび有機溶媒溶液Bを混合(Bの組成比が高い)し、一定流量で送液を行う。試料注入装置(AS)は、一定量の試料を高圧流路に注入する。
【0016】
ステップ2:注入された試料中のイオン性の成分は前段のイオン交換(IEX)カラムで保持され、非イオン性の成分は後段の順相(HILIC)カラムに保持される。
【0017】
ステップ3:順相(HILLIC)カラムに保持された成分を、次第に有機溶媒液Bの組成比下げて送液することにより、分離、溶出させる(HILICモードでのグラジエント溶出)。
【0018】
ステップ4:高塩濃度水溶液Cと有機溶媒溶液Bを混合し、一定時間送液することにより、前段のイオン交換(IEX)カラムに保持されていた成分を溶出させる。溶出した成分は後段の順相(HILLIC)カラムに保持される。
【0019】
ステップ5:ステップ3に戻る。
【0020】
ステップ6:ステップ4−5を繰り返す。
【0021】
図4は、ヒト血清中の2−アミノピリジン(PA)誘導体化糖鎖を上記の方法で分離分析したクロマトグラムである。検出手段としては、蛍光検出器(励起波長:300nm、蛍光波長:420nm)を使用した。また、イオン交換カラム(内径2mm、長さ75mm)としてはDEAE(デエチルアミノエタン)型を、また、HILICカラム(内径2mm、長さ150mm)としてはツヴィッターイオン(ZIC)型を用いている。ポンプ流量(0.2ml/min)は一定である。最初の(0−65)分までの1回目のHILLICグラジエント溶出(水/ACN=20/8035/65)では、中性糖鎖とIEXカラムでの保持が弱いモノシアリル糖鎖が溶出し分離される(ステップ3)。(65−70)分間、500mM酢酸アンモニューム(25%)を送液することにより(ステップ4)、保持が強いジシアリル糖鎖はDEAEカラムからZIC−HILLICカラムに移動し、(70−110)分間の2回目のHILLICグラジエント溶出(水/ACN=25/75 35/65)で分離分析される(ステップ5)。同様に、保持が強いトリ、テトラシアリル糖鎖も、順次分離分析が可能である(ステップ6)。このように、全体の分離分析時間は180分と長いが、本方法では一回の試料注入で中性からテトラシアリル糖鎖までを一斉分離することが可能となる。
【0022】
図5は、本発明の第2の実施形態である。図3の第1の実施形態との違いは、10方流路切り替えバルブと順相(HILLIC)トラップカラムA,Bを追加し、2台のポンプでIEX分離カラムおよびHILICトラップ&HILLIC分離カラムに最適な溶液組成の送液を行えるようにしたものである。各構成ユニットの機能と動作原理を以下に記述する。
【0023】
ステップ1:ポンプ1は、水溶液Aおよび有機溶媒溶液Bを混合(Bの組成比が高い)し、一定流量で送液を行う。試料注入装置(AS)は、一定量の試料を流路に注入する。
【0024】
ステップ2:注入された試料中のイオン性の成分は前段のイオン交換(IEX)カラムで保持され、非イオン性の成分は10方バルブのHILICトラップカラムAに、一端保持される。
【0025】
ステップ3:10方バルブの流路を切り替えて、HILLICトラップカラムAに保持された成分を、ポンプ2において次第に有機溶媒溶液Bの組成比下げて送液することにより、分離、溶出させる(HILLICモードでのグラジエント溶出)。この間に、ポンプ1は高塩濃度水溶液Cと有機溶媒溶液Bを混合し、一定時間送液することにより、前段のイオン交換(IEX)カラムに保持されていた成分を溶出させ、もう一方のトラップカラムBに保持させる。その後、水溶液Aおよび有機溶媒溶液Bを混合(Bの組成比が高い)した溶液を、一定時間、送液を行い、トラップカラムB中の塩(高塩濃度水溶液C)を洗い流す。
【0026】
ステップ4:ステップ3を繰り返す。
【0027】
この第2の実施形態の利点は、イオン交換カラムからの溶出し使用する、塩濃度が高い溶液(C)を、HILLIC分離カラムに導入しないようにできる点である。本方法は、検出器として質量分析計(MS)を用いる場合、検出感度、装置のメインテナンス上有効である。ただし、HILLICトラップカラムA,Bで保持が弱い成分はドレインに流出してしまうといった欠点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】プロテオミックスで一般的に用いられている2次元液体クロマトグラフィ装置の構成を示す。
【図2】イオン交換(DEAE),逆相、順相(NP/HILIC)カラムを組み合わせた、従来のオフライン3次元液体クロマトグラフィ装置の構成を示す。
【図3】本発明の第1の実施形態である順相型2次元液体クロマトグラフィ装置の応用例である。
【図4】ヒト血清中の2−アミノピリジン(PA)誘導体化糖鎖を本発明の方法で分離分析したクロマトグラムである。
【図5】本発明の第2の実施形態である順相型2次元液体クロマトグラフィ装置の構成と示す。
【符号の説明】
【0029】
A…水溶液、B…有機溶媒溶液、AS…試料注入装置、IEX…イオン交換カラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溶液を混合し送液する手段と、試料注入手段と、イオン交換による前段分離カラムおよび(順相/ヒリック)による後段分離カラムと、分離された成分を検出する一つまたは複数の検出手段から構成される液体クロマトグラフ装置において、イオン交換と(順相/ヒリック)分離モードを組み合わせて分離分析を行うことを特徴とする2次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項2】
前記試料注入手段はグラジエントポンプであることを特徴とする請求項1記載の2次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項3】
前記後段分離カラムは、親水性相互作用を持つものである特徴とする請求項1記載の2次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項4】
請求項1記載の2次元液体クロマトグラフィ装置において、前段分離カラムが陽イオン、または陰イオン交換カラムであることを特徴とする2次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項5】
請求項1記載の2次元液体クロマトグラフィ装置において、前段分離カラムが陽イオンと陰イオン交換充填剤を1本のカラムに充填したものであることを特徴とする2次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項6】
請求項1記載の2次元液体クロマトグラフィ装置において、前段分離カラムが陽イオンと陰イオン交換充填剤を1本のカラムに充填し、陽(陰)イオンと陰(陽)イオン交換カラムを直列に接続したものであることを特徴とする2次元液体クロマトグラフィ装置。
【請求項7】
請求項1に記載の2次元液体クロマトグラフィ装置において、前記検出手段として質量分析計を用いることを特徴とする2次元液体クロマトグラフィ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−309699(P2008−309699A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158899(P2007−158899)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】