説明

イオン交換複合膜体および電気透析装置

【課題】 化学工業、電子・電気工業、発酵工業、生物工業、医薬品工業などの産業や海水処理に使用される脱塩や純水の製造に適するイオン交換複合膜体の提供。
【解決手段】 カチオン交換膜またはアニオン交換膜の一方の面に、カチオン性基および/またはアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなるイオン交換複合膜体であって、上記カチオン性基および/またはアニオン性基が、平均粒子径が10nm〜10μmの範囲のアニオン性粒状重合体および/またはカチオン性粒状重合体に由来する基であることを特徴とするイオン交換複合膜体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学工業、電子・電気工業、発酵工業、生物工業、医薬品工業などの産業や海水処理に使用される脱塩や純水の製造に適するイオン交換複合膜体および電気透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種産業や海水の脱塩、純水の製造に電気透析装置が使用されている。該装置はカチオン交換膜およびアニオン交換膜を交互に対向して多数配置し、脱塩室と濃縮室を交互に形成して、両端に陽極室および陰極室が配置されている。被処理水を給水し、電極に電圧を印加することにより、脱塩室のカチオンは陰極側へ、アニオンは陽極側に移動し、ついにはイオン交換膜を透過し、隣りの濃縮室に移動する。このような電気透析装置において、脱塩室の膜界面および近傍において、透過すべきイオンの欠乏によりイオンの濃度分極が起こりやすく効率のよい脱塩ができなくなり、また、イオン濃度が低くなった場合、電気抵抗が高くなり高電圧を印加しないとイオンを移動させることができなくなるという問題がある。
【0003】
近年、純水を製造する際、電気透析装置の脱塩室にイオン交換樹脂などのイオン交換体を充填する方法が開発されている。この方法によってイオンの移動が促進されるために脱塩室の電気抵抗が低くなり、イオン濃度が低くなってもわずかなイオンも除去することが可能となり、純水製造の効率が向上してきている。しかしながら、イオン交換膜の間にイオン交換樹脂を充填する際、イオン交換樹脂を遊離型または塩型で使用することによって凝集構造が形成され、同一樹脂の連結性が不十分となり電気抵抗が高くなったり、2種類のイオン交換樹脂の比重差から均一な充填が困難になったりするという問題があり、イオン交換体を均一に充填することは非常に煩雑であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、純水などの製造に用いる電気透析装置において、脱塩室の膜界面および近傍において透過すべきイオンの欠乏による濃度分極を低減させて、脱塩室の塩を膜界面および近傍までに速やかに移動させることを可能にし、かつ煩雑なイオン交換樹脂の充填操作を必要としないイオン交換複合膜体および電気透析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的は以下の構成の本発明によって達成される。
1.カチオン交換膜またはアニオン交換膜の一方の面に、カチオン性基および/またはアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなるイオン交換複合膜体であって、上記カチオン性基および/またはアニオン性基が、平均粒子径が10nm〜10μmの範囲のアニオン性粒状重合体および/またはカチオン性粒状重合体に由来する基であることを特徴とするイオン交換複合膜体。
2.イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなる前記1に記載のイオン交換複合膜体。
3.マトリックス樹脂が、エチレン系、プロピレン系、ジエン系、ビニル系、(メタ)アクリル系単量体を主単量体とする共重合体、該共重合体の水素添加物、ポリスルホン系、ポリアリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリウレタン系、フッ素系およびシリコーン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の重合体である前記2に記載のイオン交換複合膜体。
【0006】
4.イオン性構造体層が、繊維状、糸状、織布状、不織布状、柱状、板状または球状である前記1に記載のイオン交換複合膜体。
5.イオン性構造体層が、微細で透水可能な空隙を有する前記1に記載のイオン交換複合膜体。
6.陽極室および陰極室の間に脱塩室および濃縮室を交互に形成した電気透析装置において、前記1に記載のカチオン性イオン交換複合膜体とアニオン性イオン交換複合膜体とから、それらのイオン性構造体層を対向させて脱塩室が形成されていることを特徴とする電気透析装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明のイオン交換複合膜体を電気透析装置に使用することにより、脱塩室の膜界面および近傍においてイオンの濃度分極を低減させることができ、煩雑なイオン交換樹脂の充填操作を必要としないで、かつ脱塩室のイオンを膜界面および近傍までに速やかに移動させることを可能にし、また、イオン濃度が低くなった場合においても低電圧で効率よくイオンの移動を可能とし脱塩効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のイオン交換複合膜体は、カチオン交換膜またはアニオン交換膜の一方の面に、カチオン性基および/またはアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなるイオン交換複合膜体であって、上記カチオン性基および/またはアニオン性基が、平均粒子径が10nm〜10μmの範囲、好ましくは10nm〜1μmの範囲のアニオン性粒状重合体および/またはカチオン性粒状重合体に由来する基であることを特徴としており、上記イオン性構造体層は必要に応じて固着剤としてのマトリックス樹脂を含有することができ、また、上記イオン性構造体層は、繊維状、糸状、織布状、不織布状、柱状、板状または球状であり、また、微細で透水可能な空隙を有することが好ましい。
【0009】
本発明のイオン交換複合膜体の製造方法の1例としては、カチオン交換膜またはアニオン交換膜の一方の面に、カチオン性および/またはアニオン性粒状重合体とマトリックス樹脂とからなる繊維状、糸状、織布状、不織布状、柱状、板状および/または球状のイオン性構造体層を積層する方法が挙げられる。
【0010】
本発明において用いられるカチオン交換膜またはアニオン交換膜としては、本出願人により提案された膜であり、例えば、特開2000−072898号公報または特開2000−309654号公報に記載されたカチオン交換膜またはアニオン交換膜、および従来から公知の炭化水素系およびフッ素系のカチオン交換膜またはアニオン交換膜は何れも本発明において使用できる。
【0011】
本発明において用いられるイオン性構造体層は、平均粒子径が10nm〜10μmの範囲、好ましくは10nm〜1μmの範囲のカチオン性および/またはアニオン性粒状重合体からなり、必要に応じて固着剤としてのマトリックス樹脂を含有している。
【0012】
本発明において、イオン性構造体層を構成するカチオン性粒状重合体としては、第一級〜第三級のアミノ基、第四級アンモニウム基、ピリジニウム基などのカチオン性基およびそれらの塩の基を有する重合体が挙げられ、アニオン性粒状重合体としては、スルホン酸、カルボン酸、硫酸エステル、燐酸エステルなどのアニオン性基およびそれらの塩の基を有する重合体が挙げられる。
【0013】
イオン性基をその塩の基とするに際しては、カチオン性基に対しては、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、有機酸などの酸類が使用され、アニオン性基に対しては、例えば、アルカリ金属、アンモニア、アミン、アルカノールアミンなどのアルカリまたは塩基類が使用される。
【0014】
また、イオン性粒状重合体は、非イオン性の粒状重合体を調製後、例えば、アミノ化および第四級アンモニウム化、加水分解、スルホン化、硫酸エステル化などの化学修飾処理によって調製することができる。また、イオン性粒状重合体にはイミノジ酢酸基、ポリアミン基などの金属イオンとのキレート形成基の導入の如く化学的処理により非イオン性重合体がカチオン性化またはアニオン性化される処理方法であれば、例示以外の化学修飾処理法も使用することができる。
【0015】
イオン性粒状重合体を調製するために使用される代表的な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシプロピルスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホエチル、2−(メタ)アクリロイルアミノ−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルアミノ−2−プロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸などおよびそれらの塩などのアニオン性単量体;4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジンおよびその第四級化物;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、4−ビニルベンジルジメチルアミン、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルアミンなどおよびそれらの塩などのカチオン性単量体が挙げられる。
【0016】
イオン性粒状重合体は、これらのカチオン性またはアニオン性単量体を重合することにより得られるが、その際、必要に応じて公知の非イオン性単量体をイオン性単量体と共重合させることができる。非イオン性単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸ラウリルや(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。非イオン性単量体の使用割合は、全単量体中0〜80質量%程度である。
【0017】
また、化学修飾処理によってイオン性粒状重合体に変換される非イオン性粒状重合体を調製するために使用される代表的な単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレンなどのスチレン系誘導体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールなどの(メタ)アクリル酸エステル誘導体;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド誘導体、アクリロニトリル、酢酸ビニルなどの化学的修飾処理可能な単量体が挙げられる。
【0018】
上記の単量体を重合する際、必要に応じて化学修飾処理反応を実質的に受けない公知の非イオン性単量体を共重合させることも可能であり、かかる単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。
【0019】
上記イオン性単量体などを用いて調製されるイオン性および非イオン性の粒状重合体は、必ずしも架橋されている必要はないが、製膜に際して有機溶剤を使用する場合もあることからから、該粒状重合体は架橋していることが好ましい。粒状重合体の架橋は、通常、上記のイオン性粒状重合体などを重合する際に架橋性単量体を共重合させることによって行われる。
【0020】
架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸−1,3−ブチレングリコールなどの2官能性単量体、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどの3官能単量体やその他の4官能性(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらの架橋性単量体は重合体を構成する前記単量体100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部、さらに好ましくは0.5〜10質量部の範囲で使用する。
【0021】
以上の如き単量体および架橋性単量体を用いて粒状重合体を調製する代表的な方法としては、水系または非水系におけるラジカル重合が挙げられる。重合の形態としては、例えば、エマルジョン重合、ソープフリー重合、懸濁重合、分散重合、逆相乳化重合などの重合方法が挙げられるが、重合の形態は特にこれらを限定されない。
【0022】
重合開始剤としては、従来公知のラジカル重合で使用される開始剤は何れも使用可能であり、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(メチルイソブチレート)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロリド、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジアセテート、2,2′−アゾビス(N,N′−ジメチレンイソブチルアミジン)ジハイドロクロリドなどのアゾ系化合物;クメンハイドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリルなどの有機過酸化物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩などの重合開始剤が挙げられる。
【0023】
本発明において、イオン性構造体層を構成するマトリックス樹脂としては、イオン性構造体層を形成する際、加熱乾燥などによって皮膜を形成することができる性質を有し、耐薬品性、耐溶剤性、耐水性などの物性に優れ、化学的にも安定で加水分解や酸化分解に対する耐久性に優れた樹脂のマトリックスが本発明の目的に最も好ましいマトリックス樹脂である。例えば、エチレン系、プロピレン系、ジエン系、ビニル系、(メタ)アクリル系単量体を主単量体とする共重合体、該共重合体の水素添加物、ポリスルホン系、ポリアリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリウレタン系、フッ素系およびシリコーン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の重合体が挙げられる。
【0024】
さらに、得られるイオン性構造体層に可撓性を付与するため、ブタジエン−スチレン、イソプレン−スチレン系などのジエン系、またはポリエチレン、ポリエチレンアイオノマー、ポリプロピレン、ポリオレフィンターポリマー、エチレン−酢酸ビニル系樹脂などのポリオレフィン系樹脂の添加も可能である。
【0025】
本発明において用いられるイオン性構造体層の作製方法は、カチオン性および/またはアニオン性粒状重合体とマトリックス樹脂の水または有機溶剤の分散液とを混合および分散させた分散液を用いることが好ましい。
【0026】
まず、カチオン性および/またはアニオン性粒状重合体とマトリックス樹脂の水または有機溶剤の分散液とを混合および分散させて分散液を調製する。その際、イオン性粒状重合体は微粉末状態、水または有機溶剤に分散した状態で使用される。
【0027】
イオン性粒状重合体をマトリックス樹脂の水または有機溶剤の分散液に混合および分散させる方法は、特に制限されないが、例えば、超音波処理、ディゾルバー、ホモミキサー、スターラーなどによる撹拌などが挙げられる。イオン性構造体層を構成するイオン性粒状重合体とマトリックス樹脂との使用割合は、両者の合計に対してマトリックス樹脂が、2〜95質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは、10〜80質量%の範囲である。
【0028】
上記のイオン性構造体層中のカチオン性粒状重合体とアニオン性粒状重合体との混合比率は、カチオン交換膜またはアニオン交換膜に固着して積層する場合は変化させることが望ましい。例えば、上記イオン交換膜に板状のイオン性構造体層を積層する場合、カチオン交換膜にはアニオン性粒状重合体を多く配合した分散液を用い、あるいはアニオン交換膜にはカチオン性粒状重合体を多く配合した分散液を用いることが望ましい。
【0029】
上記の分散液を調製する際、使用する溶剤としては、マトリックス樹脂を溶解または微細に分散する水または有機溶剤である。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどの含窒素系溶剤;ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;ジメチルスルホキシド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、キシレン、ジクロルエチレン、クロロホルム、シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0030】
これらの有機溶剤の中では、イオン性粒状重合体とマトリックス樹脂を混合する際、イオン性粒状重合体は微粉末または有機溶剤に分散した状態で使用されるため、イオン性粒状重合体の分散性および分散安定性に優れた含窒素系溶剤が好ましい。また、系を不安定にしない限りにおいて他の有機溶剤または水系を併用することも可能である。
【0031】
本発明において用いられるイオン性構造体層は、繊維状、糸状、織布状、不織布状、柱状、板状または球状の構造体である。その作製方法としては上記のようにして調製された分散液を適当な紡糸方法、塗布方法(手段)を用いずにそのまま、または公知の紡糸方法、塗布方法を用いて紡糸、塗布またはキャスト(流延)し、その後、紡糸、塗布した分散液を乾燥などにより溶剤を除去する。
【0032】
上記の分散液を紡糸原液として使用する方法としては、乾式紡糸、湿式紡糸、乾湿式紡糸の何れの紡糸方法も採用できる。紡糸処理後、延伸、熱処理などの後処理を行い繊維を作製する。その際、得られた繊維の形状には何ら制限はない。紡糸後、織布状、不織布状などに加工することができる。
【0033】
板状のイオン性構造体層を作製する方法としては、分散液を塗布液として使用して基材上に塗布またはキャストし、その後、塗布した塗布液を乾燥などにより溶剤を除去して板状のイオン性構造体層を作製する。その際、使用される基材としては、例えば、ガラス板、アルミニウム板やポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのプラスチックシート、フィルムあるいは成形板、シリコーン樹脂またはポリプロピレン樹脂コート離型紙などが挙げられる。上記の板状のイオン性構造体層は、織布あるいは不織布などの支持体を塗布液に貼り合わせ、強度を付与することも可能である。
【0034】
上記で作製された板状のイオン性構造体層にイオン交換膜を、熱、圧力あるいは接着剤として上記の分散液を用いて固定し積層した複合膜体を作製することができる。さらに、基材として従来公知のイオン交換膜を使用して、該膜上に板状のイオン性構造体層を固定し積層した複合膜体を作製することができる。
【0035】
上記基材上に塗布液を塗布する方法としては、例えば、ロールコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、スクイズコーティング、エアドクターコーティング、グラビアコーティング、ロッドコーティング、スプレーコーティング、含浸などの従来公知の塗布方法が挙げられる。
【0036】
上記の方法で基材上に塗布された塗布液は、例えば、ドラム乾燥、送風乾燥、赤外線ランプなどの方法で乾燥される。本発明のイオン性構造体層の厚みは、1〜2,000μmの範囲、さらに好ましくは10〜1,000μmの範囲である。
【0037】
さらに、イオン性構造体層は、微細で透水可能な空隙を有する多孔性構造体であることが望ましい。その作製方法としては、塗布液中に尿素などの空隙形成材料を添加し、塗布乾燥後、構造体を水中に投入し空隙形成材料を除去することによって多孔性構造体を作製することができる。
【0038】
以上のようにして得られるイオン性構造体層を、カチオン交換膜またはアニオン交換膜の一方の面に積層して、本発明のアニオン性またはカチオン性イオン交換複合膜体を作製する。これらのアニオン性またはカチオン性イオン交換複合膜体を用いて脱塩室を形成する場合には、これらの複合膜体のイオン性構造体層が脱塩室の内側になるように設置する。
【0039】
上記の方法で作製したイオン交換複合膜体を用いて本発明の電気透析装置の構成について説明する。該装置は、陽極室および陰極室の間に脱塩室および濃縮室を交互に多数形成した電気透析装置において、前記アニオン性交換複合膜体とカチオン性イオン交換複合膜体とが、そのイオン構造体層が対向するように脱塩室を形成し、脱塩室に被処理水が流入および処理水が排出する流路と、濃縮室に水が流入および排出する流路を設置し、陽極および陰極に電圧を印加して脱塩室に流入させた被処理水中の溶存イオンを濃縮室に移動させる装置である。
【0040】
上記の該電気透析装置により、脱塩室の膜界面および近傍において電解質の濃度分極を低減させることができ、煩雑なイオン交換樹脂の充填操作を必要としないで、かつ脱塩室の塩を膜界面および近傍までに速やかに移動させることを可能にし、また、イオン濃度が低くなった場合においても低電圧で効率よくイオンの移動を可能とし脱塩効率の向上を図ったものである
【0041】
従って、本発明の電気透析装置は、化学工業、電子・電気工業、発酵工業、生物工業、医薬品工業などの産業や海水処理に使用される脱塩や純水の製造に適し、具体的には医薬品製造、食品業界用の純水、半導体製造、電子部品業界向けの純水の製造や医薬品、化学品、食品製造における脱塩など、幅広い用途に適用できる。
【実施例】
【0042】
次に合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中の「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。
合成例1(ポリマーA:カチオン性粒状重合体)
・4−ビニルピリジン 20.0部
・ジビニルベンゼン 2.0部
・2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロリド 0.4部
・水 1,000部
上記成分をフラスコに仕込み、窒素気流下、80℃で8時間重合した。重合生成物を凍結乾燥して、内部が架橋した粒状重合体を得た。該粒状重合体の平均粒子径は走査型電子顕微鏡で測定したところ約350nmであった。
【0043】
合成例2(ポリマーB:アニオン性粒状重合体)
・スチレン 41.6部
・アクリロニトリル 7.1部
・ヒドロキシエチルメタクリレート 8.1部
・ジビニルベンゼン 8.7部
・過硫酸カリウム 0.5部
・水 1,000部
【0044】
上記成分をフラスコに仕込み、窒素気流下、80℃で8時間重合した。得られた重合体の平均粒子径は約180nmであった。上記粒状重合体を濾過により分離し、乾燥後粉砕して粒状重合体を得た。この粒状重合体100部を、650部の98%濃硫酸に徐々に添加し、50℃で24時間、次いで80℃で3時間撹拌した。その後、冷却し、反応混合液を大量の氷水に投入した。炭酸ナトリウムで中和した後、濾過して粒状重合体を分離し、十分水洗した。
【0045】
得られた粒状重合体は、赤外線吸収スペクトルおよびイオンクロマトグラフィーなどの分析によって、芳香環にほぼ1個のスルホン酸基が導入されていることが確認できた。この粒状重合体の平均粒子径は約240nmであった。
【0046】
実施例1
ポリマーA8.6部をN−メチル−2−ピロリドン20.0部に分散し、該分散液とポリスルホン樹脂の20%N−メチル−2−ピロリドン溶液71.4部と1時間混合した。その後、真空ポンプで脱泡処理して塗布液を調製した。この塗布液をポリプロピレン樹脂コート離型紙上にナイフコーターで塗布し、さらに、塗布面上にポリエステル織布(目開き:200μm、開口率:50%、厚さ:100μm)を密着させ、熱風乾燥した。作製されたアニオン交換膜は約100μmであった。
【0047】
ポリマーB11.0部をN−メチル−2−ピロリドン25.0部に分散し、該分散液とポリスルホン樹脂の20%N−メチル−2−ピロリドン溶液64.0部を1時間混合し、脱泡処理して塗布液を調製した。この塗布液をポリプロピレン樹脂コート離型紙上にナイフコーターで塗布し、さらに、塗布面上にポリエステル織布を密着させ、熱風乾燥した。作製されたカチオン交換膜は約100μmであった。
【0048】
次に、ポリマーA1.0部をN−メチル−2−ピロリドン4.0部に分散させた。この分散液とポリスルホン樹脂の10%N−メチル−2−ピロリドン溶液66.7部とを1時間混合し、さらに、この分散液とポリマーB5.7部とN−メチル−2−ピロリドン22.8部とからなる分散液を混合し、脱泡処理してイオン性構造体の分散液を調製した。この塗布液を上記の方法で作製したカチオン交換膜上にナイフコーターで塗布し、熱風乾燥した。さらに、ヨードメタン雰囲気中に室温で12時間放置後、水洗、風乾してイオン性構造体層が固定され積層されたカチオン交換膜を作製した。上記の方法で作製されたイオン性構造体層が積層された膜は、約150μmの膜厚で、かつ均一な厚みを有していた。
【0049】
さらに、ポリマーA4.0部をN−メチル−2−ピロリドン16.0部に分散させた。この分散液とポリスルホン樹脂の10%N−メチル−2−ピロリドン溶液66.7部とを1時間混合し、さらに、この分散液とポリマーB2.7部とN−メチル−2−ピロリドン10.8部とからなる分散液を混合し、脱泡処理してイオン性構造体の分散液を調製した。この塗布液をアニオン交換膜上にナイフコーターで塗布し、熱風乾燥した。さらに、ヨードメタン雰囲気中に室温で12時間放置後、水洗、風乾してイオン性構造体層が固定され積層されたアニオン交換膜を作製した。上記の方法で作製されたイオン性構造体層が積層された膜は、約150μmの膜厚を有していた。
【0050】
実施例2
実施例1で作製したイオン性構造体層が積層されたカチオン交換膜またはイオン性構造体層が積層されたアニオン交換膜(何れも膜面積3.14cm2)の両側を0.01モル/LのKCl水溶液で満たし、両液中にそれぞれ銀・塩化銀電極を置き、イオン性構造体層側から一定電流を加え、その電流変化に応答する電圧変化を測定し、限界電流値を求め、上記のイオン性構造体層を積層していないイオン交換膜と比較した結果を下記表1に纏めた。イオン性構造体層が積層されたアニオン交換膜およびカチオン交換膜は何れも比較例の膜(イオン性構造体層が形成されていない膜)に比べて限界電流値が大きく、電気透析膜としてより有利であった。
【0051】

【0052】
実施例3
本発明のイオン交換複合膜体して、カチオン交換膜およびアニオン交換膜にイオン性構造体層を固定して積層したイオン交換複合膜体を使用した電気透析装置の概略を図1に示した。
実施例2で示された特性を有するイオン性構造体層が固定され積層されたカチオン交換膜およびアニオン交換膜(何れも膜面積100cm2)を、間隔が2mmで、交互に10枚ずつ、脱塩室と濃縮室を交互に形成するように、かつイオン構造体層が脱塩室の内側になるように配置した。このように構成された脱塩室および濃縮室を具備し、両端に陽極室と陰極室を設置した電気透析装置を使用して、1%の食塩水(電気伝導度17.2ms/cm)1,000mlを流速5.5L/分で脱塩処理を行った。
【0053】
比較例として上記のイオン性構造体層を積層していないイオン交換膜を使用した以外は上記と同様に脱塩処理を行った。その結果、1μS/cmまで脱塩精製するためには、比較例では初期電流が1.8Aで18Vの印加電圧が必要であったが、本発明によれば初期電流が1.5Aで印加電圧は7.0Vであり、比較例に比べて約1/3の消費電力で効率よく脱塩精製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
電気透析装置において、イオン交換層として、カチオン交換膜およびアニオン交換膜に前記イオン性構造体層を形成したイオン交換複合膜体を使用しているので、脱塩室の膜界面および近傍において透過すべきイオンの欠乏により起こるイオンの濃度分極やイオン濃度が低くなった場合に起こる電気抵抗が高くなるという問題が解決し、また、イオン性構造体層は既にイオン交換膜に積層され一体になっているので、イオン交換樹脂を遊離型または塩型で使用することによって形成されるイオン交換樹脂の凝集構造が原因の電気抵抗が高くなることはなく、当然イオン交換樹脂粒子の分離はなくなる。
【0055】
従って、本発明の電気透析装置は、化学工業、電子・電気工業、発酵工業、生物工業、医薬品工業などの産業や海水処理に使用される脱塩や純水の製造に適し、具体的には医薬品製造、食品業界用の純水、半導体製造、電子部品業界向けの純水の製造や医薬品、化学品、食品製造における脱塩など、幅広い用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の電気透析装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1:イオン性構造体層
2:アニオン交換膜
3:カチオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン交換膜またはアニオン交換膜の一方の面に、カチオン性基および/またはアニオン性基を有するイオン性構造体層を形成してなるイオン交換複合膜体であって、上記カチオン性基および/またはアニオン性基が、平均粒子径が10nm〜10μmの範囲のアニオン性粒状重合体および/またはカチオン性粒状重合体に由来する基であることを特徴とするイオン交換複合膜体。
【請求項2】
イオン性構造体層が、固着剤としてのマトリックス樹脂を含有してなる請求項1に記載のイオン交換複合膜体。
【請求項3】
マトリックス樹脂が、エチレン系、プロピレン系、ジエン系、ビニル系、(メタ)アクリル系単量体を主単量体とする共重合体、該共重合体の水素添加物、ポリスルホン系、ポリアリレート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリウレタン系、フッ素系およびシリコーン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の重合体である請求項2に記載のイオン交換複合膜体。
【請求項4】
イオン性構造体層が、繊維状、糸状、織布状、不織布状、柱状、板状または球状である請求項1に記載のイオン交換複合膜体。
【請求項5】
イオン性構造体層が、微細で透水可能な空隙を有する請求項1に記載のイオン交換複合膜体。
【請求項6】
陽極室および陰極室の間に脱塩室および濃縮室を交互に形成した電気透析装置において、請求項1に記載のカチオン性イオン交換複合膜体とアニオン性イオン交換複合膜体とから、それらのイオン性構造体層を対向させて脱塩室が形成されていることを特徴とする電気透析装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−21193(P2006−21193A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166217(P2005−166217)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】