説明

イオン付着質量分析装置(IAMS)を用いた不分離ピークの定量方法

【課題】GC×GC分析方法における装置の複雑さやその操作によるメンテナンス性の欠如、更には検出器に使用されることの多いTOFMSのダイナミックレンジの狭く、且つ大型、高価である点、又その解析はデコンボリューションソフトの使用による難点等を解消し、クロマトグラム上の不分離ピークを超えたピークの分離測定を簡単にコスト廉価に行える。
【解決手段】クロマトグラフに質量分析装置を接続した分析装置を使用する方法で、一のクロマトグラム上で分離可能なピーク数を超えたピークをイオンマススペクトル化し、又マスナンバー(m/z)の強度により成分分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ(以下、GC)に質量分析装置(以下、MS)を接続したガスクロマトグラフ質量分析装置(以下、GC/MS)に関し、特にアルカリ金属イオン付着質量分析装置(以下、IAMS)を直接接続したGC/IAMSにおいて、ピーク容量(ピークキャパシティ)を超えた状態やその他の理由で生じる不分離状態でも定量精度を確保する分析手法に関する。
【背景技術】
【0002】
(1)GC分離
GCキャピラリーカラムは、長さや内径等の物理的要因により、固有のピークキャパシティを有している。ピークキャパシティは、一つのクロマトグラム上で分離可能なピーク数(n)のことである。nは以下の式1によって定義される。
(式1)
【数1】

N:理論段数
:分離度
1:最初のピークの保持係数
:n番目のピークの保持係数
上記式は、分離度Rを一定に保った状態ではn番ピークまで検出可能であるが、それ(ピークキャパシティ)以上の成分数の検出は不可能であることを示す。
また、残留農薬分析などで前処理操作が不十分、類似分子構造成分、キャピラリーカラム選択を間違えたなどの理由により分離が不可能な場合がある。
【0003】
(2)GC×GC
ピークキャパシティを増大させる手法として、GC×GCがある。
GC×GCの手法は、第1カラムの溶出ピークを第2カラムにて再分離するというものである。検出手段としては、高速サンプリングが行えることが条件であるが、水素炎イオン化検出器(FID)や電子イオン化(EI)飛行時間質量分析計(TOFMS)などが一般的である。
【0004】
図1にGC×GCの概略図を示す。この手法では通常、極性が異なる2本のカラムを使用し、その間にモジュレーターを直列に設置する。高速分離の効果を発揮するために2番目のカラムには最初のカラムよりも短い長さのものを用いる。2本の異なるカラムとモジュレータはGCオーブン内部に設置される。
Injector(注入口:試料導入装置)から導入された試料は気化し、第一段カラムへ導入され分離される。ピークキャパシティを超えた場合、図2に示したように分離されていない成分が重なって1本のピークとなって第1カラムを溶出する。溶出ピークはモジュレーターに導入される。
モジュレーターは、冷却と加熱を一定周期で繰り返す装置となっている。この動作により、第1カラムから溶出するピークを一定間隔で分割し、第2カラムへ導入する。
第2カラムに導入された分画は、次々に再分離され、Detector(検出器)により検出される。
図3には、第2カラムで再分離されたピーク(A、B、C)をTOFMOSで検出した場合のマススペクトルの模式図を示す。
GC×GCによる定量は、第1カラムからの溶出時間、第2カラムからの溶出時間、EIイオン化マススペクトルの3つの情報を用いて行われる。
【0005】
(2−1)GC×GCのピーク検出技術
GC×GCにより、ピーク容量を増大させ分離した成分を検出する場合、ピーク幅が数ミリ〜数十ミリ秒となるため、高速応答型の検出器が要求される。特に、イオンを真空の管中で飛行させ、検出器まで到達する時間の違いによってイオンを質量電荷比(m/z)に応じて分離する飛行時間質量分析計(Time-of-flight mass spectrometer TOFMS)は精密質量測定と高速マススペクトル測定が可能であるために使用頻度が高い。この分析計は、高分解能が容易に得られ、広い質量範囲を高速で測定可能などの利点を有するが、高度なデータ処理装置が必要であり、また、ダイナミックレンジが狭いことなどの欠点もある。
【0006】
(3)GC/MS
分析試料には多くの成分が存在するが、GCはこれらの成分を分離するが定性は困難である。一方、MSは混合成分の分離は困難であるが、分離された成分の定性は容易である。
そこで、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)が提案されている。GC/MSは、試料がGC注入口から導入され、GCキャピラリーカラムにてクロマトグラフィーの原理により成分分離が行われる。GCキャピラリーカラム出口は、MSに直結され、成分はMSのイオン源によりイオン化された後、質量分離部にて分離後、電気的信号に変換され、クロマトグラムとなる。
このクロマトグラム上の分析種の保持時間、マススペクトルから定性分析を行い、クロマトグラム上のピーク面積(ピーク高さ)から定量分析を行う。
GC/MSを用いた高感度定量分析を行う場合は、選択イオン検出(Selective Ionmonitor, SIM)が用いられる。SIMでは、特定の分子量のフラグメントイオンのみを検出することで他のイオンの影響を排除することが出来る。選択したイオンだけを測定するので、SN比が向上し、感度はマスクロマトグラフィーによる方法に比べて1〜2桁優れている。
【0007】
イオン化
MSは、質量と電荷からなるイオンの性質の違いを利用するものであり、分離成分のイオン化が必要となる。イオン化は、多くの手法が用いられており、分析目的や資料に応じた選択が行われている。
電子との相互作用による「電子イオン化(EI)」やイオン付着による「イオン付着(IA)」、試料溶液をスプレーする「大気圧化学イオン化(APCI)」や化学反応による「化学イオン化(CI)」等がある。
【0008】
EIイオン化
電子イオン化(EI)は、各原子結合エネルギーが小さい分子から成る被検出ガスに適用する場合、電子衝撃の余剰エネルギーが原因となってイオン化と共に分子が分裂(解裂)するため、分子構造について有効な情報が得られるという利点がある。装置が簡単であり、分子種によるイオン化効率の差が少ないことからコンピューターを使用した未知成分の検索(ライブラリーリサーチ)が容易に実施でき、MSのイオン化に良く使用されている。
【0009】
しかし反面、有効な分子量情報を得ることが出来ないという欠点がある。そのため、EIイオン化によるGC/MSにおいて、定量精度を議論するには、成分分離(クロマトグラム)の精度と分離ピークのマススペクトル測定精度を同時に満足しなければならない。これは測定対象とする化学種に関して、EIイオン化マススペクトルの中で特徴的な質量のイオンによる全イオンクロマトグラフィー(TIC)或いはSIM(特定の質量のイオンに由来するシグナルだけを取り込むモード)により行われる。GCキャピラリーカラムにて成分分離が不十分(上記ピークキャパシティを超えた状態)であると、複数成分のマススペクトルが重なり合ってしまい、個々の成分を定性分析することは困難となる。この理由は、質量の小さなイオンは多くの化学種から生成する可能性があるためであり、一般的に質量が大きいほど選択性が高くなる。
以上の理由から、EIイオン化GC/MSにおいて、ピークキャパシティを超える状況やその他の原因による不分離成分の定量精度は劣る。また、測定するフラグメントイオン(m/z)の設定数に制限があることから、一度に測定できる成分数には限りがある。このようなことから、SIMにより多成分一斉分析を行う場合には、複雑なSIM測定メソッドを作成するか、複数回測定しなければならない。
【0010】
アルカリイオン付着(IA)イオン化
アルカリ金属の酸化物を加熱すると、表面からLiやNaなどの形で正電荷の金属イオンが放出される現象を利用する。このイオン化方式には、主に下記3通りの方法がある(特許文献10)。
【0011】
第1の方法は、ホッジ(Hodge)によるもので、フィラメントに球状のアルカリ金属酸化物を取り付けたエミッタにより金属イオンを得て、ガス分子に付着させてイオン化する方法である。(非特許文献1)
【0012】
第2の方法は、ボムビック(Bombic)によるもので、直接付着式であり、イオン源に被検出ガスのみを導入し、被検出ガス分子へ直接Liを付着させる方法である。(非特許文献2)
【0013】
第3の方法は、藤井による方法で、分子ピーク検出(解離なし)と測定感度の観点で上記の方法を改良し、測定感度の限界を調べると共にプラズマ装置と結合して非常に不安定なラジカルの測定を可能にした。(非特許文献3、非特許文献4)
【0014】
特許文献10に記載の「質量分析装置」に記載されたIAMSにはEIが装備されていて、IAによる分子量情報とEIによる構造情報が得られるので、定性精度の高い質量分析装置であることが紹介されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−273869号公報
【特許文献2】特開2002−203509号公報
【特許文献3】特開2004−513367号公報
【特許文献4】特開2000−046817号公報
【特許文献5】特開2005−283403号公報
【特許文献6】特開2004−513367号公報
【特許文献7】特表平05−506315号公報
【特許文献8】特開2008−185586号公報
【特許文献9】特開2008−542690号公報
【特許文献10】特開2001−273869号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Analytcal Chemistry vol.48 No.6 P825(1976)
【非特許文献2】Analytcal Chemistry vol.56 No.3 P396(1984)
【非特許文献3】Analytcal Chemistry vol.61 No.9 P1026(1989)
【非特許文献4】Journal of Applied Physics VOL.82 No.5 P2056(1997)
【非特許文献5】ぶんせき 2008 2 P85
【非特許文献6】J.Natl.Inst.Pulic Health,54(1):2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
GC/MSは、GCで多成分分子の試料を成分ごとに分離し、MSでそれらを定性する機能を持つ。定量には、GC/MSの選択イオン検出法(SIM)が用いられる。
しかし、これら装置の使用においてピークキャパシティ(1つのクロマトグラム上で分離可能なピーク数)の問題をクリアすることは困難で、不分離ピークの定量に使用することは出来なかった。
【0018】
GC×GCを使用する場合、以下のような問題を有している。
(1)カラムの連結
1)通常、第2カラムは、第1カラムより高分解能のカラムを使用するため、内径の細いカラムを使用する。従って、試料導入できる試料量は、第2カラムの試料負荷量を超えることは、分析精度の低下を招く。高濃度マトリックス成分の混入が予想される環境分析や農薬分析では、試料前処理を確実に行わないと、夾雑成分が分析種に重なり分析精度が低下する虞がある。
2)GCオーブンに特性の異なるカラムを収納するので、GCオーブンの最高使用温度は、カラム使用温度の低い方となり、高沸点成分の分析が行えない場合がある。
3)接続方法(コネクター)を確実に行わないと、カラム接続部におけるキャリヤーガスの漏れが生じ、ピーク強度の低下やピークテーリングによる定量精度低下を招く可能性がある。
4)GC×GCでも成分の沸点や極性が同等なものは分離が困難となる。
【0019】
(2)モジュレーター
1)モジュレーターには、液体窒素や高温空気が必要であり、分析コストがかかる。
2)GCオーブン内へのモジュレーター設置のため、装置が複雑化し、メンテナンス性に欠ける。
【0020】
(3)検出器の高速応答性能
ピーク幅が100msec以下の場合が想定されるので、数〜数十msecの検出器応答性能が要求されるため、既存の汎用装置でGC×GCが行えないことがある。
【0021】
(4)TOFMS
1)TOFMSは、高速スキャンが可能な質量分析計であるが、GCでは低分子量が分析対象成分となるため、定量性に難がある。(非特許文献5)
2)一般的にTOFMSは、ダイナミックレンジが狭い。(非特許文献6)
3)TOFMSは、大型、高価である。
【0022】
(5)データ解析
1)ピークが細切れ状態で分離されて検出されるので、定量する場合には同一成分を合算する必要がある。このため、分離ピークを一つ一つ確認しなければならなく、分析に手間がかかる。
2)TOFMSによる解析は、デコンボリューションソフトにて、重なったマススペクトルから単独成分を抽出(ピーク幅を解析パラメータとして入力)していくので、極端に強度に違いのある状態であると抽出されない。
3)TOFMSのソフトウェア(デコンボリューションソフト)による不分離ピークにおける成分同定では、ピークトップが完全に重なっていたり、成分濃度差が極端に大きなものが混在する場合には、デコンボリューションソフトが適切に実行されないことがあり、高精度な定量手法であると言えない。
4)EIイオン化によるマススペクトルが検出されるので、多くのフラグメントイオンが生成する。分子イオンが生成されにくいなどの特徴があるので、構造類似体では成分同定が難しい。
5)定量分析を行う場合、三次元パラメーター(第1カラムからの溶出時間、第2カラムからの溶出時間、検出器の電気信号)を用いて行うため複雑になる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するための手段としての本発明は、ガスクロマトグラフにアルカリ金属イオン付着質量分析装置を接続した分析装置を使用する方法であって、インジェクターから導入された試料は、分析種に対応したカラムに導入して分離させ、該カラムにおいて分離されない試料は、該アルカリ金属イオン付着質量分析装置に導入した際に、該試料に混在する成分数を反映したマススペクトルにより、質量電荷比ごとのマスクロマトグラムを構成させることを特徴とする不分離ピークの定量方法である。
【0024】
又、ガスクロマトグラフにより、ピーク容量内の分離可能なピークは分離させ、一のクロマトグラム上でピーク容量を超えたピークは、アルカリ金属イオン付着によりイオン化して成分分離し、同時に質量電荷比のイオン強度を測定し、定量測定することを特徴とする不分離ピークの定量方法である。
【0025】
又、上記不分離ピークの定量方法において、ガスクロマトグラフにより、ピーク容量内の分離可能なピークは分離させると共に、光学異性体を夾雑成分と分離せずに、一のクロマトグラム上でピーク容量を超えたピークは、アルカリ金属イオン付着によりイオン化して、質量電荷比を得て、成分分離することを特徴とする不分離ピークの定量方法である。
【0026】
又、上記不分離ピークの定量方法において、前記分析種に対応したカラムが光学異性体カラムであることを特徴とする不分離ピークの定量方法である。
【0027】
又、上記不分離ピークの定量方法において、前記ガスクロマトグラフからの分析種溶出時間と、分析種に関するアルカリ金属イオン付着マススペクトル情報との二つのパラメーターによって定量精度を確保させることを特徴とする不分離ピークの定量方法である。
【0028】
又、ガスクロマトグラフにおいて分離しない成分に混在しているピークを定量する質量分析装置であって、該質量分析装置におけるイオン化がアルカリイオン付着であることを特徴とする不分離ピークの定量装置である。
【0029】
又、前記ガスクロマトグラフにおける分離カラムが、光学異性体カラムであることを特徴とする不分離ピークの定量装置である。
【発明の効果】
【0030】
本願発明によれば、分離カラムのピークキャパシティを超えて、不分離ピーク内に存在する成分の定量、定性が容易に出来る液体窒素や加熱空気を用いることなく、モジュレーターの使用もなく、装置もシンプルな構成、メンテナンス性も良く、分離コストも廉価である。不分離ピーク中の光学異性体を夾雑成分と分離せずに定性、定量が簡単に行える。
又、ピークキャパシティを増大させる手法としてのGC×GCやGCMSとSIM測定のような複雑なメソッドをとることなく、単一の簡単な操作にてGCキャピラリーカラムの固有のピークキャパシティを超えたピーク数を有する試料や残留農薬成分の分析における前処理操作が不十分な場合でも、類似分子構造成分等の成分分析が精度よく出来る。
又、分析種溶出時間と分析種に関するIAマススペクトル情報の2つのパラメーターにて定量精度が確保され、GC×GCの操作に比して極めて簡単である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本願発明を下図(図4、図5、図6)を用いて説明する。
図4に、GC‐IAMSの概略図を示す。試料は、Injectorで気化後、カラム2に導入され、質量分析装置(IAMS)3で検出される。装置は、非常にシンプル構成となる。
IAMSに組み合わせるGCカラムは、大きく分けて3つ(無極性カラム、極性カラム、専用(光学異性体分離用)カラム)考えられるが、IAMSは、同分子量の分析種の場合、区別することは出来ないので、極性カラムと専用カラム(光学異性体分離カラム)との組み合わせが最適となる。
【0032】
GC‐IAMSを実施する場合、IAMSと組み合わせるGCカラムは、分析種の特性を考慮し、以下に示した考え方に基づいて判断する。
1)無極性カラムは、分析種が有する沸点差で分離され、同族体であれば分子量の違いで分離される。
2)極性カラムは、分析種が有する双極子モーメントなどの違いで分離される。
3)専用カラム(光学異性体分離カラム)は、例えば環状構造を有するシクロデキストリンが固定相となっている。シクロデキストリンは、環状構造の内側に疎水性があり、様々な有機化合物をファンデルワールスカにより取り込み、包接錯体を形成しやすいということになり、この現象を利用し、分析種が同族体で同分子量の場合に分子構造の違いで分離される。
【0033】
本願発明において、使用されるGCキャピラリーカラムには、代表的に以下のような液相がコーティングされたものがある。
100% Dimethyl polysiloxane
:一般分析用、特に炭化水素、高沸点成分(OV‐1など)
5% Diphenyl
95% dimethyl polysiloxane
:一般分析用、特にハロゲン化合物(SE‐52など)
7% Cyanopropyl
7% pheny
86% dimethyl polysiloxane
:多環芳香族、ステロイドTMS誘導体(OV‐1701など)
50% Pheny 50% methyl polysiloxane
:多環芳香族、ステロイド、農薬、薬剤(OV‐17など)
Polyethyleneglycol
:一般分析用、特に香料、アルコール類など(PEG‐20Mなど)
【0034】
図5は、カラムに導入された分析種(3成分)がピークキャパシティの限界を超え、または他の原因によって分離されず、1本のピークになっている状況を示す。
【0035】
図6には、IAMSにより3成分の存在が3本のマススペクトルで存在する状況を図示した。カラムでの分離が不十分でも、IAMSのマススペクトルで成分数が判明することになる。
イオン付着イオン化において、リチウム金属酸化物を使用した場合、(分子量+7)のマススペクトルが得られる。従って、1本のマススペクトルは、1成分を示す。この理由により、GC分離が不十分でも、分離種について正確な定量を実施することが可能となる。
【0036】
(2)GC‐IAMS
GCにより分離可能なピークは分離させ、クロマトグラム上での不分離成分は、IAMSによりマスクロマトグラム化して成分分離し、同時にマスナンバー(m/z)の強度を測定する。
図5,6は、GCによる不分離ピークの状態におけるIAイオン化によるマススペクトルを模試的に示したものである。3成分が重なり1本の分離ピークになっているが、IAイオン化マススペクトルでは、3本のマススペクトルが得られている。
GC‐IAMSでは、分析種溶出時間と分析種に関するIAマススペクトル情報(IAMSでは、分子量+7のマススペクトルを有する分子イオンが生成する)の2つのパラメータにて定量精度が担保される。(図7)
【0037】
本願発明において使用されるイオン源としては、アルカリイオン付着によるイオン化の方法が使用され、電子イオン化は使用されない。
【0038】
本願発明において、同分子量の分析種について定量を行う場合、IAMSではそれらを区別することは出来ない。このとき、光学異性体分離用カラムを使用することで分離が可能となる。このような分析例としては、精油成分分析などが考えられる。光学異性体とは、互いに鏡像の関係にあって重ね合わせることの出来ない構造をしている。従って、分子量は同じである。
光学異性体成分をGC‐IAMSにより分析した実施例を以下に示す。
【実施例1】
【0039】
GC(光学異性体分離カラム)‐IAMSによる分析例
<分析条件>
香料成分(エッセンシャルオイル)
1.試料導入量:1μL
2.GC(Agilent 6890,Thermo TraceGC)
Column:CHIRAMIX 30m×0.25mmID,df=0.25μm
Injection:Split(175℃)
Head Pressure:120KPa,constant pressure mode
Split flower:40ml/min
Oven temp:40℃(5min)−3℃/min−180℃(30min)
3.MS
(1)IAMS
GCインターフェイス:175℃
Makeup gas:N2(5ml/min)
ion source temp:175℃
ion source:Li+
Mass range:30−500m/z
(2)DSQll(Thermo)
GCインターフェイス:175℃
ion source temp:250℃
ionization:EI(70eV,Emission current100uA)
Mass range:10−450m/z
【0040】
対比例として、図8において、(a)のピークにおけるEIマススペクトルを図9に示す。多くのフラグメントが生じている。図8のピーク(a)における成分が1つであれば、このフラグメントを積算すれば、精度の良い定量も可能となる。
しかし、現実は従来の図10に示す通りである。
【0041】
次に、本件技術であるIAMSにより、同じピーク(a)のIAマススペクトルを示したのが図11である。ここで「m/z205」であり、分子量198(205‐7(Li+による))の一成分あることが判明した。
よって、図9のEIマススペクトルを積算すれば、ピーク(a)における分子量198を精度良く定量することが可能である。ここで、図12は、上記図9(EIマススペクトル)をライブラリーサーチした結果である。その結果、本件技術で得られた図11のIAマススペクトルから得られた分離量198を有する成分がヒットし、構造図から光学異性体であることが分かった。このことから、上記ピーク(a)において、D体或いはL体のどちらかの光学異性体成分(図12における構造式)であることが想定される。
【0042】
ここで、今回の実験において光学異性体分離カラムを用いていることから、質量分析前のガスクロマトグラフィーにおいて、上記光学異性体が分離されていると予想され、上記ピーク(a)近くのピークにもう一方の光学異性体含まれているのではないかと想定される。
このことを調べるために、隣のピーク(図8のピーク(b))におけるIAマススペクトルを示したのが図10である。「m/z205」が表示され、分子量198のもう一方(ピーク(a)における成分ではない)の光学異性体を有することが分かる。
因みに、このピークは分子量136(143‐7)や分子量154(161‐7)の成分を有し、特に分子量154成分が多く含まれているのが分かる。
【0043】
これに対し、EIMSでの測定では、多く含まれると想定される分子量154成分は測定されているものの、上記光学異性体成分の分子量198については、測定困難(図13及びそのライブラリーサーチ結果の図14)となっている。
【0044】
このことから、単一ピーク内に複数成分が含まれている場合(ここではピーク(b))、EIMSでの定量は困難であるが、IAMSでは1つの分子量に1つのマススペクトルが定量されることが分かる。
この実験では、キラルカラムを用いたことで光学異性体が分離されたこと、1つのピークに複数の成分が含まれる場合にEIMSでは定量困難ですが、IAMSでは1つの分子量に1つのマススペクトルが得られることから、定量可能となることが分かる。
又、図1と図3は、GC分離までは同じなので理論上は同じになるが、計測するもの(装置・方法)が異なるため、クロマトグラムが表記上異なってしまう。
【実施例2】
【0045】
熱分解GC(極性カラム)‐IAMSによる分析例
<分析条件>
1.試料:高密度ポリエチレン 0.2mg
2.装置,設定条件
PY202iD(フロンティアラボ)
熱分解温度:550℃
インターフェイス温度:320℃
キャリアガス:He
GC注入口:320℃
カラム:Ultra Alloy‐5(30ml×0.25mmID,0.25μm):微極性カラム
Oven温度:60℃ (20℃/min) 340℃(12min)
GCITF:300
3.MS
イオン化:IA(Li+)
イオン化室温度:210℃
イオン源雰囲気(IA):N 40Pa
SCAN範囲:20‐1000 amu
【0046】
高密度ポリエチレンの熱分解GC‐IAMSで得られたトータルイオンクロマトグラムを図15に示す。
熱分解によって、ポリエチレン構造が切断され、炭素数の異なる直鎖状飽和炭化水素と直鎖状不飽和炭化水素のピークが出現している。
上図のクロマトグラムについて、14.3分から15.3分について拡大したトータルイオンクロマトグラム(図16)、(TIC、図16最上段)を示す。
【0047】
このTICについて、それぞれのピークのマススペクトルを確認したところ、
14.40分付近のピークには、m/z454、m/z456、m/z459
15.00分付近のピークには、m/z468、m/z470、m/z472
15.20分付近のピークには、m/z482、m/z484、m/z486
が認められ、TICのピーク下にそれぞれのマスクロマトグラムを表記した。
TICで確認できた3つの単独ピークには、3成分が重なっており、それぞれの分子量情報により、不飽和度の異なる3成分であることが判明した。
GCで不分離なピークについて、IAMSからのマススペクトル情報(分子量+7)から不飽和度の違う炭化水素成分の分離が行え、定量精度を向上させることが可能となる。
このようにマスクロマトから不飽和度の違う成分を明確に分離・検出できた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】従来のGC×GC装置概略説明図である。
【図2】同上装置1stカラムで分離したピーク模式図である。
【図3】同上装置2ndカラムで分離したピーク模式図である。
【図4】本発明装置概略説明図である。
【図5】同上装置1stカラムで分離した本分離ピーク模式図である。
【図6】同上ピークに混在した成分数を反映したマススペクトル図である。
【図7】同上装置により2つのパラメーターにて定量精度取得図である。
【図8】従来E1により得られたクロマトグラムである。
【図9】同上クロマトグラム一部ピークaのマススペクトル図である。
【図10】図8上のbを本発明により得たマススペクトル図である。
【図11】本発明装置により得られた図8のピークaのマススペクトル図である。
【図12】図9をライブラリー調査した結果図である。
【図13】従来E1により得られたクロマトグラムである。
【図14】同上のピークbのマススペクトル図である。
【図15】本発明により得られたトータルイオンクロマトグラムである。
【図16】同上一部拡大、クロマトグラム及びピークマススペクトルである。
【符号の説明】
【0049】
1 Injector
2 カラム
3 質量分析装置(IAMS)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフにアルカリ金属イオン付着質量分析装置を接続した分析装置を使用する方法であって、インジェクターから導入された試料は、分析種に対応したカラムに導入して分離させ、該カラムにおいて分離されない試料は、該アルカリ金属イオン付着質量分析装置に導入した際に、該試料に混在する成分数を反映したマススペクトルにより、質量電荷比ごとのマスクロマトグラムを構成させることを特徴とする不分離ピークの定量方法。
【請求項2】
ガスクロマトグラフにより、ピーク容量内の分離可能なピークは分離させ、一のクロマトグラム上でピーク容量を超えたピークは、アルカリ金属イオン付着によりイオン化して成分分離し、同時に質量電荷比のイオン強度を測定し、定量測定することを特徴とする不分離ピークの定量方法。
【請求項3】
ガスクロマトグラフにより、ピーク容量内の分離可能なピークは分離させると共に、光学異性体を夾雑成分と分離せずに、一のクロマトグラム上でピーク容量を超えたピークは、アルカリ金属イオン付着によりイオン化して、質量電荷比を得て、成分分離することを特徴とする請求項1又は2記載の不分離ピークの定量方法。
【請求項4】
前記分析種に対応したカラムが光学異性体カラムであることを特徴とする請求項1又は3に記載の不分離ピークの定量方法。
【請求項5】
前記ガスクロマトグラフからの分析種溶出時間と、分析種に関するアルカリ金属イオン付着マススペクトル情報との二つのパラメーターによって定量精度を確保させることを特徴とする請求項1から4のうち何れか1項に記載の不分離ピークの定量方法。
【請求項6】
ガスクロマトグラフにおいて分離しない成分に混在しているピークを定量する質量分析装置であって、該質量分析装置におけるイオン化がアルカリイオン付着であることを特徴とする不分離ピークの定量装置。
【請求項7】
前記ガスクロマトグラフにおける分離カラムが、光学異性体カラムであることを特徴とする請求項6記載の不分離ピークの定量装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−281699(P2010−281699A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135573(P2009−135573)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【出願人】(390030188)ジーエルサイエンス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】