説明

イオン伝導体

【課題】イオン伝導媒体が固定化された状態であって、無加湿条件下であっても優れたイオン伝導性を示すイオン伝導体、これを用いた電気化学セル及び燃料電池を提供すること。
【解決手段】イオン伝導体は、プロトンを受容する官能基を少なくとも1つ含む高分子とプロトンを供与するブレンステッド酸とを含有する。
また、官能基は、次の式(1)で表される平衡状態を形成している。
【化27】


(式中のQは価数を満たすC及び/又はN、Mは3価のN、2価のO及び2価のSから成る群より選ばれた少なくとも1種、Zは3価のN、2価のO及び2価のSから成る群より選ばれた少なくとも1種を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導体に係り、更に詳細には、イオン伝導媒体が固定化された状態であって、無加湿条件下であっても優れたイオン伝導性を示すイオン伝導体、これを用いた電気化学セル及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーを多大に消費している国々においては、環境問題、エネルギー問題の解決が大きな課題となっている。
燃料電池は、発電効率が高く環境負荷抑制に優れており、これらの問題の解決に貢献が期待されている次世代型エネルギー供給デバイスである。
また、燃料電池は、電解質の種類により分類されるが、中でも固体高分子形燃料電池は、小型で且つ高出力を得ることができる。このため、小規模の定置型用、移動体用、携帯端末用のエネルギー供給源としての適用について研究、開発が進められている。
【0003】
このような固体高分子形燃料電池において、イオン伝導を担う固体高分子電解質膜としては、一般に、パーフルオロカーボン系主鎖とスルホン酸基をもつ側鎖とを有するパーフルオロスルホン酸系電解質膜が使用されている。
パーフルオロスルホン酸系電解質膜は、スルホン酸基を主体とする領域とパーフルオロカーボン系主鎖を主体とする領域とにミクロ相分離していると考えられている。更に、スルホン酸基を含む相において、スルホン酸基はクラスターを形成していると考えられている。
そして、パーフルオロカーボン系主鎖が凝集している部位が、電解質膜の化学的安定性に寄与しており、スルホン酸基が集まってクラスターを形成している部位が、電解質膜のイオン伝導に寄与していると考えられている。
【0004】
このような優れた化学的安定性とイオン伝導性とを兼ね備えるパーフルオロスルホン酸系電解質膜であっても、例えば移動体用の動力源と期待される固体高分子形燃料電池への適用には種々の制約がある。また、コストが高いといった問題もある。
【0005】
例えば、現状の固体高分子形燃料電池は、室温から80℃程度の比較的低い温度領域で運転されている。
このような運転温度に制約されるのは、次の(1)及び(2)のような理由による。
(1)用いられているパーフルオロスルホン酸系ポリマーが120〜130℃近傍にガラス転移点を有し、これよりも高温領域ではプロトン伝導に寄与しているイオンチャンネル構造の維持が困難となるため、実質的には100℃以下での使用が望ましいこと。
(2)水をプロトン伝導媒体として使用するため、水の沸点である100℃を超えると加圧が必要となり、装置が大がかりになること。
【0006】
また、燃料電池の運転温度が低いと、燃料電池の発電効率が低くなると共に、触媒においてCO被毒が顕著に起こることがある。
一方で、燃料電池の運転温度が100℃以上になると、燃料電池の発電効率は向上する。更に、排熱利用が可能となるため、より効率的にエネルギーを活用できる。
【0007】
燃料電池を自動車へ適用するに当たり、運転温度を120℃まで上昇させることができると、例えば、発電効率の向上だけでなく、排熱に必要なラジエータ負荷を低減することができる。また、例えば、現行の移動体に使用されているラジエータと同等仕様のものを適用することができるため、システムをコンパクト化できる。
【0008】
そこで、コストの低減や、より高い温度での運転を実現し得る固体高分子電解質膜として、芳香族炭化水素系高分子材料を用いたものの適用が検討されている(特許文献1〜6参照。)。
【特許文献1】特開平6−93114号公報
【特許文献2】特開平9−245818号公報
【特許文献3】特開平11−116679号公報
【特許文献4】特開平11−67224号公報
【特許文献5】特表平11−510198号公報
【特許文献6】特開平9−73908号公報
【0009】
但し、上記固体高分子電解質膜においても、水をプロトン伝導媒体として使用するため、水の沸点である100℃を超えると加圧が必要となり、装置が大がかりとなる。
【0010】
一方で、無加湿条件でプロトン伝導可能な電解質膜について、様々な試みがなされている。例えば、イミダゾールなどの官能基を有する塩基性高分子とリン酸を複合した電解質膜が検討されている(非特許文献1参照。)。
【非特許文献1】ソリッドステートイオニクス(Solid State Ionics)、(オランダ)、2001年、第138巻、第3−4号、p259−265
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記非特許文献1に記載された電解質膜においても、十分なプロトン伝導度が得られていない。
【0012】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、イオン伝導媒体が固定化された状態であって、無加湿条件下であっても優れたイオン伝導性を示すイオン伝導体、これを用いた電気化学セル及び燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、次の(1)〜(3)の要件を満足するイオン伝導体とすることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
(1)プロトンを受容する官能基を少なくとも1つ含む高分子を含有するイオン伝導体であること。
(2)プロトンを供与するブレンステッド酸を含有するイオン伝導体であること。
(3)上記官能基が、所定の平衡状態を形成しているイオン伝導体であること。
【0014】
即ち、本発明のイオン伝導体は、プロトンを受容する官能基を少なくとも1つ含む高分子と、プロトンを供与するブレンステッド酸とを含有するものである。
また、かかる官能基は、次の式(1)で表される平衡状態を形成している。
【0015】
【化5】

【0016】
(式中のQは価数を満たす炭素(C)及び/又は窒素(N)、Mは3価の窒素(N)、2価の酸素(O)及び2価の硫黄(S)から成る群より選ばれた少なくとも1種、Zは3価の窒素(N)、2価の酸素(O)及び2価の硫黄(S)から成る群より選ばれた少なくとも1種を示す。)
【0017】
また、本発明の電気化学セルは、上記本発明のイオン伝導体を適用して成るものである。
【0018】
更に、本発明の燃料電池は、上記本発明のイオン伝導体を適用して成るものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上述した(1)〜(3)の要件を満足するイオン伝導体とすることなどとしたため、イオン伝導媒体が固定化された状態であって、無加湿条件下であっても優れたイオン伝導性を示すイオン伝導体、これを用いた電気化学セル及び燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のイオン伝導体について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、含有量や濃度などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0021】
本発明のイオン伝導体は、プロトンを受容する官能基を少なくとも1つ含む高分子と、プロトンを供与するブレンステッド酸とを含有するものである。
また、このような官能基は、次の式(1)で表される平衡状態を形成している。
【0022】
【化6】

【0023】
(式中、Qは価数を満たすC及びNのいずれか一方又は双方の元素、Mは3価のN、2価のO又は2価のS、及びこれらの任意の組合せに係る元素、Zは3価のN、2価のO又は2価のS、及びこれらの任意の組合せに係る元素を示す。)
【0024】
このような構成とすることにより、イオン伝導媒体が固定化された状態であって、無加湿条件下であっても優れたイオン伝導性を示すイオン伝導体となる。
なお、QがC及びNの双方の元素である場合や、MやZが3価のN、2価のO又は2価のSの任意の組合せに係る元素である場合は、高分子中にプロトンを受容する官能基を複数種含むときにあり得る。
【0025】
また、上述した官能基の典型例としては、次の式(2)〜(4)で表される平衡状態を形成する官能基を挙げることができる。
【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
なお、これらの式(2)〜(4)で表される平衡状態を形成する官能基は、高分子中に複数個含ませることができ、複数種含ませることもできる。
【0030】
更に、上述した官能基は、例えば(5)〜(11)式で表される尿素構造、メラミン構造、チオ尿素構造、グアナミン構造、グアニジン構造、ウレタン構造、アミド構造などの構成部位として、高分子中に含ませることができる。
【0031】
【化10】

【0032】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素、高分子主鎖の一部を構成する基、高分子側鎖の一部を構成する基、高分子の末端を構成する基を示し、少なくとも1つは水素であり、且つ、少なくとも2つは高分子主鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも2つは高分子側鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子主鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子側鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基である。)
【0033】
【化11】

【0034】
(式中、R〜R10は、それぞれ独立して、水素、高分子主鎖の一部を構成する基、高分子側鎖の一部を構成する基、高分子の末端を構成する基を示し、少なくとも1つは水素であり、且つ、少なくとも2つは高分子主鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも2つは高分子側鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子主鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子側鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基である。)
【0035】
【化12】

【0036】
(式中、R11〜R14は、それぞれ独立して、水素、高分子主鎖の一部を構成する基、高分子側鎖の一部を構成する基、高分子の末端を構成する基を示し、少なくとも1つは水素であり、且つ、少なくとも2つは高分子主鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも2つは高分子側鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子主鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子側鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基である。)
【0037】
【化13】

【0038】
(式中、R15〜R19は、それぞれ独立して、水素、高分子主鎖の一部を構成する基、高分子側鎖の一部を構成する基、高分子の末端を構成する基を示し、少なくとも1つは水素であり、且つ、少なくとも2つは高分子主鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも2つは高分子側鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子主鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子側鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基である。)
【0039】
【化14】

【0040】
(式中、R20〜R24は、それぞれ独立して、水素、高分子主鎖の一部を構成する基、高分子側鎖の一部を構成する基、高分子の末端を構成する基を示し、少なくとも1つは水素であり、且つ、少なくとも2つは高分子主鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも2つは高分子側鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子主鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子側鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基である。)
【0041】
【化15】

【0042】
(式中、R25及びR26は、それぞれ独立して、水素、高分子主鎖の一部を構成する基、高分子側鎖の一部を構成する基、高分子の末端を構成する基を示し、少なくとも2つは高分子主鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも2つは高分子側鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子主鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子側鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基である。)
【0043】
【化16】

【0044】
(式中、R27及びR28は、それぞれ独立して、水素、高分子主鎖の一部を構成する基、高分子側鎖の一部を構成する基、高分子の末端を構成する基を示し、少なくとも2つは高分子主鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも2つは高分子側鎖の一部を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子主鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基であるか又は少なくとも1つは高分子側鎖の一部を構成する基と少なくとも1つは高分子の末端を構成する基である。)
【0045】
その中でも、(5)式で表される尿素構造、(6)式で表されるメラミン構造及び(7)式で表されるチオ尿素構造は、複数のプロトン受容サイトを有し、水素結合ネットワークが形成可能であること、且つプロトン受容サイトの塩基性度がプロトン受容及びプロトン受容後のプロトン供与に対して適していることから優れたプロトン伝導性を示す。また、上記の構造は、触媒を被毒しにくい塩基性度であることから、電極上で優れた水素酸化、酸素還元特性を示す。更に、上記の構造は、ポリマー中に導入することが容易であり優れた耐久性を有する高分子電解質膜を安価に作製可能である。上記の構造は以上の観点で優れており、このような構造の構成部位として官能基が含まれていることが望ましい。
【0046】
上記高分子主鎖の一部を構成する基、高分子側鎖の一部を構成する基としては、例えば、2価以上である脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、酸素を含む特性基、硫黄を含む特性基、窒素を含む特性基、複素環基などを挙げることができる。
【0047】
具体的には、2価脂肪族炭化水素基として、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基、ビニレン基、プロペニレン基などを挙げることができる。
また、2価脂環式炭化水素基として、例えば4員環の構造を有する(12)式、(13)式で表される2価の基、5員環の構造を有する(14)式、(15)式で表される2価の基、6員環の構造を有する(16)〜(18)式で表される2価の基、7員環の構造を有する(19)〜(21)式で表される2価の基、8員環の構造を有する(22)〜(25)式で表される2価の基などを挙げることができる。
【0048】
【化17】

【0049】
更に、2価芳香族炭化水素基として、例えばフェニレン基、ナフチレン基などを挙げることができる。
また、2価の酸素を含む特性基として、例えばエーテル基、エポキシ基、カルボニル基、エステル基、アシル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、スベロイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基などを挙げることができる。
更に、2価の硫黄を含む特性基として、例えばチオエーテル基、チオカルボニル基、スルフィニル基、スルホニル基などを挙げることができる。
また、2価の窒素を含む特性基として、例えばイミノ基、ニトリロ基、ヒドラゾ基、アゾ基、アゾキシ基などを挙げることができる。
更に、2価複素環基として、例えば5員環の構造を有する(26)〜(34)式で表される化合物から誘導される2価の基や6員環の構造を有する(35)〜(43)式で表される化合物から誘導される2価の基などを挙げることができる。
【0050】
【化18】

【0051】
【化19】

【0052】
また、上述した高分子主鎖の一部を構成する基、高分子側鎖の一部を構成する基について、例えば脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、酸素を含む特性基、硫黄を含む特性基、窒素を含む特性基、複素環基においては、全部又は一部の水素が、置換されているものを用いることもできる。
例えば水素が1価である脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン基、酸素を含む特性基、硫黄を含む特性基、窒素を含む特性基、複素環基で置換されているものを用いることもできる。
【0053】
具体的には、1価脂肪族炭化水素基として、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、プロパルギル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、エチニル基などを挙げることができる。
また、1価脂環式炭化水素基として、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−シクロヘキセニル基などを挙げることができる。
更に、1価芳香族炭化水素基として、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基、ベンズヒドリル基、トリチル基、スチリル基、シンナミル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などを挙げることができる。
また、1価ハロゲン基として、例えばフルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、ヨードシル基、ヨージル基などを挙げることができる。
更に、1価の酸素を含む特性基として、例えばヒドロキシ基、ヒドロペルオキシ基、エーテル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基、フェノキシ基、ベンジロキシ基、カルボン酸基、カルボキシル基、エステル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ホルミロキシ基、アセトキシ基、ベンゾイロキシ基、アシル基、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ラウロイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、クロロホルミル基、ピルボイル基、オキサロ基、メトキサリル基、エトキサリル基、シクロヘキサンカルボニル基、ベンゾイル基、トルオイル基、シンナモイル基、ナフトイル基、アセトニル基、フェナシル基、サリチル基、サリチロイル基、アニシル基、アニソイル基などを挙げることができる。
また、1価の硫黄を含む特性基として、例えばメルカプト基、メチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、チオホルミル基、チオアセチル基、メルカプトカルボニル基、ヒドロキシチオカルボニル基、ジチオカルボニル基、チオカルバモイル基、スルフィノ基、スルホ基、メシル基、ベンゼンスルホニル基、トルエンスルホニル基、トシル基、スルファモイル基、スルホアミノ基などを挙げることができる。
更に、1価の窒素を含む特性基として、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、フェニルイミノ基、シアノ基、イソシアノ基、シアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、ヒドロキシアミノ基、アセトアミノ基、ベンズアミド基、スクシンイミド基、カルバモイル基、ニトロソ基、ニトロ基、aci−ニトロ基、ヒドラジノ基、フェニルアゾ基、ナフチルアゾ基、アジド基、ピクリル基などを挙げることができる。
更にまた、1価複素環基として、例えばフリル基、フルフリル基、チエニル基、テニル基、テノイル基、ピロロイル基、ピリジル基、ピペリジノ基、ピペリジル基、キノリル基などを挙げることができる。
【0054】
また、高分子の末端を構成する基としては、水素、1価である脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、ハロゲン基、酸素を含む特性基、硫黄を含む特性基、窒素を含む特性基、複素環基などを挙げることができる。
【0055】
また、上述した高分子の末端を構成する基についても、例えば脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、酸素を含む特性基、硫黄を含む特性基、窒素を含む特性基、複素環基においては、全部又は一部の水素が、置換されているものを用いることもできる。
【0056】
ここで、上記説明においては、高分子として、炭素を含む有機高分子を中心に説明をしたが、炭素の全部又は一部をシリコンやチタン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウムに置き換えた高分子を本発明において適用することもできる。
更に、酸化ケイ素(SiO)や酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ゲルマニウム(GeO)、(44)〜(48)式で表される構造を含む高分子を本発明において適用することができる。この場合には、製造時の成膜性が向上する。
【0057】
【化20】

【0058】
(式(44)〜(48)中、R29〜R37は、それぞれ独立して、水素、高分子側鎖の一部を構成する基、高分子の末端を構成する基を示す。)
例えば、(44)式で表される構造を主成分として含む高分子としては、次の式(49)で表されるものを挙げることができる。
【0059】
【化21】

【0060】
また、(44)式で表される構造を主成分として含む高分子は、例えばゾルゲル法などにより得ることができる。
更に、(44)式で表される構造を主成分として含む高分子は、通常、上述した官能基を高分子側鎖又は末端に有することが多い。
【0061】
更に、上述した官能基は、R〜R28の種類によって、高分子中の主鎖や側鎖又は末端、更には双方に含まれることがある。
【0062】
また、上述したブレンステッド酸としては、例えばオキソ酸、イミド酸、チオ酸、ハロゲン化水素酸を挙げることができる。これらは単独で用いても組み合わせて用いてもよい。
【0063】
オキソ酸としては、例えばトリフルオロメタンスルホン酸や硫酸、リン酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、酢酸などを挙げることができる。
【0064】
また、イミド酸としては、例えばビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸、ビス(フルオロスルホニル)イミド酸などを挙げることができる。
【0065】
更に、チオ酸としては、例えば上記オキソ酸の酸素原子(=O)及び(−O−)の何れか一方又は双方をそれぞれチオキシ基(=S)やチオ基(−S−)に置換したものを挙げることができる。
【0066】
更にまた、ハロゲン化水素酸としては、例えばフッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素などを挙げることができる。
【0067】
更に、上述したブレンステッド酸は、プロトンを供与する官能基として、プロトンを受容する官能基を少なくとも1つ含む高分子及びその他の高分子のいずれか一方又は双方に含まれていてもよい。換言すれば、プロトン供与性を維持し得れば、上述したブレンステッド酸は、上記官能基が含まれる高分子や他の高分子と共有結合等により結合されていてもよい。
【0068】
更にまた、イオン伝導体中において、プロトンを受容する官能基の含有量(mf)に対する上述したブレンステッド酸の含有量(mb)の割合(mb/mf)は、モル比で1以下であることが好ましい。
割合がモル比で1を超えると、プロトン受容サイトがプロトンで満たされ、効率的なプロトン伝導に必要なプロトン受容サイトの量が不十分となることがある。
【0069】
次に、本発明の電気化学セルについて詳細に説明する。
上述の如く、本発明の電気化学セルは、上記本発明のイオン伝導体を用いたものであって、例えばこれを用いた燃料電池やリチウムイオン電池、色素増感型太陽電池などを挙げることができる。
このような電気化学セルは、イオン伝導媒体が固定化さた状態であって、更に、無加湿条件下であっても優れたイオン伝導性を示すので、高温、無加湿条件下であっても運転可能な電気化学セルとすることができる。また、イオン伝導に起因する電圧低下を抑制することができる。
これらの典型例としては、高温、無加湿条件下での運転が可能である燃料電池を挙げることができる。
【0070】
次に、本発明の燃料電池について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の燃料電池は、上記本発明のイオン伝導体を用いたものであって、例えば低温(100℃以下)から中温(100〜600℃)の範囲に動作温度がある燃料電池を挙げることができる。
このような燃料電池は、イオン伝導媒体が固定化された状態であって、更に、無加湿条件下であっても優れたイオン伝導性を示すので、例えば水に依存することなく燃料電池の出力を向上させることができる。また、このような燃料電池は、システム容量や重量を低減することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1)
尿素(以下、「U」と略記することがある。)と、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸(以下、「HTFSI」と略記する。)とを、U:HTFSI=8:2(モル比)で混合し、100℃で30分間加熱して、液体状化合物を得た。以下、「UH8」と略記することがある。
次いで、1.30gのUH8とイオン交換水2.5mLとを混合して溶液aを得、次いで、溶液aとホルマリン0.81gとを氷浴で冷却しながら混合して溶液bを得た。
更に、溶液bを多孔質膜(MILLPORE社製、OMNIPORETM、孔径:0.45μm、空隙率:80%)に含浸させた。
しかる後、溶液bを含浸させた多孔質膜をポリテトラフルオロエチレン製シートに貼り付け、室温で2時間静置した。その後、60℃で一晩減圧乾燥し、更に180℃で5時間加熱して、本例のイオン伝導体を得た。得られたイオン伝導体の膜厚は125μmであった。また、得られたイオン伝導体は、次の式(50)のようなものである。
【0073】
【化22】

【0074】
(実施例2)
1−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]ウレア(以下、「TMSU」と略記することがある。)3.33gと、尿素0.30gとを、メタノール200mLに溶解させて、溶液cを得た。
一方で、1.41gのHTFSIとイオン交換水0.5mLとを混合して溶液dを得た。
次いで、溶液cと溶液dとを混合して、溶液eを得た。
更に、溶液eをポリプロピレン製容器にキャストし、室温で24時間静置した。その後、50℃で10時間、60℃で一晩減圧乾燥して、本例のイオン伝導体を得た。得られたイオン伝導体の膜厚は180μmであった。また、得られたイオン伝導体は、次の式(51)のようなものである。
【0075】
【化23】

【0076】
(実施例3)
窒素置換した50mLの3つ口フラスコ中に、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナート(以下、「MOI」と略記することがある。)3.88gと、テトラヒドロフラン(THF)12.5mLと投入し、撹拌した。これにアニリン2.33gを滴下し、水浴中で1時間撹拌して、溶液fを得た。溶液fをエバポレーションして、1−(2−メタクリロイルオキシエチル)−3−フェニルウレア(以下、「MOA」と略記することがある。)5.73gを得た。
次いで、MOAとメタクリル酸メチル(MMA)とを、MOA:MMA=1:2(モル比)で混合し、ラジカル重合させて、ポリマー(以下、「PMMOA」と略記することがある。)を得た。
次いで、1.20gのPMMOAをジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させて、溶液gを得た。この溶液gと0.22gのHTFSIを混合して、溶液hを得た。
更に、溶液hをポリテトラフルオロエチレン製シャーレにキャストし、オーブン中90℃で20時間乾燥し、減圧乾燥オーブン中50℃で3時間、90℃で一晩減圧乾燥して、本例のイオン伝導体を得た。得られたイオン伝導体の膜厚は420μmであった。また、得られたイオン伝導体は、次の式(52)のようなものである。式中、Rはフェニル基を示し、m:n=1.28:1である。また、数平均分子量(Mn)は4900、量平均分子量/数平均分子量の比で表される分子量分布(Mw/Mn)は1.8であった。
【0077】
【化24】

【0078】
(比較例1)
イオン交換水中に、ポリ(4−ビニルイミダゾール)と、リン酸とを、ポリ(4−ビニルイミダゾール)中の4−ビニルイミダゾールとリン酸のモル比が1:1となるような割合で投入し、48時間撹拌し、溶解して、均一の溶液jを得た。
次いで、溶液jをポリテトラフルオロエチレン製プレートにキャストし、アルゴン雰囲気下、70℃で減圧乾燥して、本例のイオン伝導体を得た。得られたイオン伝導体の膜厚は200μmであった。また、得られたイオン伝導体は、次の式(53)のようなものである。
【0079】
【化25】

【0080】
(比較例2)
ジアリルジメチルアンモニウムクロライドをイオン交換樹脂によってイオン交換して、ジアリルジメチルアンモニウムのジハイドロゲンホスフェート塩を得た。これをラジカル重合させて、ポリマーを得た。
次いで、得られたポリマーをDMFに溶解させて、溶液kを得た。
しかる後、溶液kをポリテトラフルオロエチレン製プレートにキャストし、アルゴン雰囲気下、120℃で減圧乾燥して、本例のイオン伝導体を得た。得られたイオン伝導体の膜厚は210μmであった。また、得られたイオン伝導体は、次の式(54)のようなものである。
【0081】
【化26】

【0082】
[性能評価]
<イオン伝導性評価>
各例のイオン伝導体(円形、直径:1.28cm)を、円柱ステンレスを電極とし、ポリテトラフルオロエチレンで密封したコインセルに挟んだ。これを恒温槽に入れ、各測定温度(40℃、180℃)でセルを1時間静置した。その後、インピーダンスアナライザー(東陽テクニカ社製、SI 1260)を用い、無加湿条件下、電圧10mV、周波数範囲1Hz〜1MHzで、膜の抵抗を測定した。
各例のイオン伝導体において測定した抵抗値と、各例のイオン伝導体のモル濃度とから、各例のイオン伝導体のモルイオン伝導度を算出した。得られた結果を表1に示す。
【0083】
<耐熱性評価>
各例のイオン伝導体について、耐熱性の指標となる5%重量減少温度を下記の方法により測定した。熱重量分析装置(TGA)(島津製作所社製、TGA−50)を用い、20ml/分の窒素気流下、昇温速度10℃/分で測定を行った。得られた結果を表1に併記する。
【0084】
【表1】

【0085】
表1より、本発明の範囲に属する実施例1〜3は、本発明外の比較例1及び2よりもモルイオン伝導度が高いことが分かる。
実施例1〜3においては、グロータス型のプロトン伝導を行うに当たり、プロトン伝導時に所定の平衡状態の形成を利用し、分子の反転を行うことなくプロトン伝導が可能な分子構造を有することでモルイオン伝導度が向上したと考えられる。また、高分子とブレンステッド酸とを複合化させ、プロトン濃度を高めたこともプロトン伝導性の向上に寄与していると考えられる。
一方、比較例1及び2においては、グロータス型のプロトン伝導を行うに当たり、プロトン伝導時に分子の反転が必要であり、プロトン伝導媒体であるイミダゾールの高分子への固定化により、イミダゾール部位の運動が制限され、モルイオン伝導度が低下したと考えられる。
なお、実施例1〜3においても分子の反転によるプロトン伝導は行われていると推測される。
【0086】
また、耐熱性を示す5%重量減少温度については、実施例1〜3の結果は、比較例1及び2の結果と同程度であり、100℃以上の運転温度においても適用できることが分かる。
実施例1〜3においては、尿素構造を高分子中に含ませているが、尿素構造を適用することは、更に次の(1)〜(3)のような利点があり、イオン伝導体製造時の成膜性に優れ、更に電気化学セル用電解質膜として適したイオン伝導体となる。(1)固定化が容易である。(2)イオン伝導体が複数のプロトン受容サイトを有し、水素結合ネットワークが形成可能である。(3)塩基性が弱く触媒を被毒しない。
これらから、イオン伝導媒体(プロトン伝導媒体)が固定化された状態であっても、無水条件下で優れたイオン伝導性(プロトン伝導性)を示すイオン伝導体(プロトン伝導体)が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトンを受容する官能基を少なくとも1つ含む高分子と、
プロトンを供与するブレンステッド酸と、
を含有するイオン伝導体であって、
上記官能基が、次の式(1)
【化1】

(式中のQは価数を満たす炭素(C)及び/又は窒素(N)、Mは3価の窒素(N)、2価の酸素(O)及び2価の硫黄(S)から成る群より選ばれた少なくとも1種、Zは3価の窒素(N)、2価の酸素(O)及び2価の硫黄(S)から成る群より選ばれた少なくとも1種を示す。)で表される平衡状態を形成している、
ことを特徴とするイオン伝導体。
【請求項2】
上記官能基が、次の式(2)、(3)及び(4)
【化2】

【化3】

【化4】

から成る群より選ばれた少なくとも1種の式で表される平衡状態を形成している、
ことを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導体。
【請求項3】
上記官能基が、尿素構造、メラミン構造、チオ尿素構造、グアナミン構造、グアニジン構造、ウレタン構造及びアミド構造から成る群より選ばれた少なくとも1種の構造の構成部位であることを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン伝導体。
【請求項4】
上記官能基が、上記高分子の主鎖及び/又は側鎖に含まれている、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体。
【請求項5】
上記ブレンステッド酸が、オキソ酸、イミド酸、チオ酸及びハロゲン化水素酸から成る群より選ばれた少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体。
【請求項6】
上記ブレンステッド酸が、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、リン酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸及び塩化水素から成る群より選ばれた少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体。
【請求項7】
上記ブレンステッド酸が、プロトンを供与する官能基として、上記高分子及び/又は他の高分子に含まれている、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体を適用して成ることを特徴とする電気化学セル。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1つの項に記載のイオン伝導体を適用して成ることを特徴とする燃料電池。

【公開番号】特開2009−59577(P2009−59577A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225894(P2007−225894)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】