説明

イオン伝導性複合体、膜電極接合体(MEA)、及び電気化学装置

【課題】イオン伝導性微粒子とフッ化ビニリデンの単一重合体又は共重合体とを含有し、イオン伝導性に優れたイオン伝導性複合体、並びに、このイオン伝導性複合体を電解質とする膜電極接合体(MEA)、及び燃料電池などの電気化学装置を提供すること。
【解決手段】イオン伝導性複合体を、イオン解離性の基を有するイオン伝導性微粒子と、フッ化ビニリデンの単一重合体又は共重合体とで構成する。この際、フッ化ビニリデンの単一重合体又は共重合体として、β型結晶構造をとっているものを用いる。β型結晶構造のポリフッ化ビニリデンは分子鎖の方向に直交する方向に大きな双極子モーメントを有するので、イオン伝導性微粒子近傍の誘電率を高く維持でき、イオン伝導を容易にする。この結果、複合体を形成した場合のイオン伝導度の低下を、最小限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性微粒子とフッ化ビニリデンの単一重合体又は共重合体とを含有するイオン伝導性複合体、並びに、このイオン伝導性複合体を電解質とする膜電極接合体(MEA)、及び燃料電池などの電気化学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、エネルギー変換効率が高く、窒素酸化物などの環境汚染物質を生成しないことから、電源装置として盛んに研究開発が行われている。また、近年、ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話などの携帯型電子機器では、その高機能化および多機能化にともない、消費電力が増加する傾向にあり、この傾向に対応できる携帯型電子機器用電源として、燃料電池に対する期待が大きい。
【0003】
燃料電池では、負極(アノード)側に燃料が供給されて燃料が酸化され、正極(カソ−ド)側に空気または酸素が供給されて酸素が還元され、燃料電池全体では燃料が酸素によって酸化される。このとき、燃料がもつ化学エネルギーが、効率よく電気エネルギーに変換されて取り出される。燃料電池には、故障しない限り、燃料を補給することで、電源として使い続けることができる特徴がある。
【0004】
すでに様々な種類の燃料電池が提案または試作され、一部は実用化されている。燃料電池は、用いられる電解質によって、アルカリ電解質形燃料電池、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池、および高分子電解質形燃料電池(PEFC)などに分類される。このうち、PEFCは、電解質が固体で飛散するおそれがないことや、他の形式の燃料電池に比べて低い温度、例えば30℃〜130℃程度の温度で動作させることができ、起動時間が短いことなどから、携帯型電源として好適である。
【0005】
図4は、PEFCとして構成された燃料電池の構造の例を示す断面図である。燃料電池10では、水素イオン(プロトン)伝導性高分子電解質膜11の両側の面に、それぞれ、アノード(燃料極)12およびカソ−ド(酸素極)13が対向して接合され、膜電極接合体(MEA)14が形成されている。アノード12では、カーボンシートやカーボンクロスなどの多孔質導電材からなるガス透過性集電体(ガス拡散層)12aの表面に、水素イオン(プロトン)伝導性を有する高分子電解質粒子と、電子伝導性を有する触媒粒子とを含有する、多孔性のアノード触媒層12bが形成され、ガス拡散電極が形成されている。また、カソ−ド13では、同じく、カーボンシートなどの多孔質支持体からなるガス透過性集電体(ガス拡散層)13aの表面に、水素イオン(プロトン)伝導性を有する高分子電解質粒子と、電子伝導性を有する触媒粒子とを含有する、多孔性のカソ−ド触媒層13bが形成され、ガス拡散電極が形成されている。触媒粒子は、触媒材料単独からなる粒子であってもよいし、触媒材料が担体に担持された複合体粒子であってもよい。
【0006】
膜電極接合体(MEA)14は燃料流路21と酸素(空気)流路24との間に挟持され、燃料電池10に組み込まれる。発電時には、アノード12側では燃料が燃料導入口22から供給され、燃料排出口23から排出される。この間に、燃料の一部がガス透過性集電体(ガス拡散層)12aを通り抜け、アノード触媒層12bに到達する。燃料電池の燃料としては、水素やメタノールなど、種々の可燃性物質を用いることができる。カソード13側では酸素または空気が酸素(空気)導入口25から供給され、酸素(空気)排出口26から排出される。この間に、酸素(空気)の一部がガス透過性集電体(ガス拡散層)13aを通り抜け、カソード触媒層13bに到達する。
【0007】
例えば、燃料が水素である場合、アノード触媒層12bに供給された水素は、アノード触媒粒子上で下記の反応式(1)
2H2 → 4H+ +4e-・・・・・(1)
で示される反応によって酸化され、アノード12に電子を与える。生じた水素イオンH+は高分子電解質膜11を通ってカソ−ド13側へ移動する。カソ−ド触媒層13bに供給された酸素は、アノード側から移動してきた水素イオンと、カソ−ド触媒粒子上で下記の反応式(2)
2 +4H++4e- → 2H2O・・・・・(2)
で示される反応によって反応し、還元されてカソ−ド13から電子を取り込む。燃料電池10全体では、(1)式と(2)式を合わせた、下記の反応式(3)
2H2+O2 → 2H2O・・・・・(3)
で示される反応が起こる。
【0008】
水素などの気体燃料は、貯蔵用の高圧容器などが必要になるため、小型化には適さない。一方、メタノールなどの液体燃料は、貯蔵しやすいという利点があるが、改質器によって液体燃料から水素を取り出す方式の燃料電池は、構成が複雑になるので、小型化には適さない。これらに対し、メタノールを改質することなく、直接アノードに供給して反応させるダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC)には、燃料を貯蔵しやすく、かつ、構成が簡素で、小型化が容易であるという特徴がある。従来、DMFCは、多くがPEFCと組み合わされて、PEFCの1種として研究されてきており、携帯型電子機器用電源として最も期待されている。
【0009】
さて、従来、水素イオン伝導性高分子電解質膜11の材料として、Nafion(デュポン社の登録商標)などのパーフルオロスルホン酸系樹脂が一般的に用いられてきた。Nafion(登録商標)は、パーフルオロ化された疎水性の分子骨格と、親水性のスルホン酸基を有し、パーフルオロ化された側鎖とを有する高分子からなる。Nafion(登録商標)では、スルホン酸基から解離した水素イオンが、高分子マトリックス中に取込まれた水をチャネルとして拡散移動することにより、水素イオン伝導性が発現する。従って、Nafion(登録商標)膜は、水分を十分に吸収した湿潤状態で優れたプロトン伝導性を発揮する。
【0010】
しかし、水分含有量の少ない状態では、Nafion(登録商標)膜の水素イオン伝導率は急激に低下する。また、高分子中に取り込まれた水は、疎水性の高分子骨格から相分離した状態で保持されているので、不安定で、含水状態が温度によって大きく変化し、水素イオン伝導率の温度依存性が大きい。また、高温では水分が蒸発によって失われ、低温では水分が凍結するため、これらを防止するために、燃料電池が動作できる温度範囲が制限される。さらに、Nafion(登録商標)膜はメタノールの透過を阻止する性能が低く、Nafion(登録商標)膜を用いたDMFCではメタノールクロスオーバーによる発電性能の低下が著しい。さらに、パーフルオロスルホン酸系樹脂は一般に材料コストが高く、結果としてそれらを用いる電気化学装置、例えば燃料電池などのコストを引き上げる原因になる。
【0011】
そこで、後述の特許文献1には、カーボンクラスター、特にフラーレンなどの特異な分子構造をもつカーボンクラスターなどを主成分とする炭素質材料に、プロトン解離性の基を導入した炭素質材料誘導体を、水素イオン伝導性電解質膜の材料として用いることが提案されている。なお、特許文献1において、「カーボンクラスター」とは、炭素原子が多数を占め、炭素−炭素間結合の種類は問わず、炭素原子が数個から数百個結合して形成されている集合体のことであるとされ、「プロトン解離性の基」とは、その基から水素原子がプロトン(水素イオンH+)として電離し、離脱し得る官能基を意味するとされている。本願においても、「カーボンクラスター」および「プロトン解離性の基」を同様に定義するものとする。
【0012】
フラーレンなどのカーボンクラスターにプロトン解離性の基を導入したプロトン解離性分子は、凝集状態で水素イオン伝導性を示す。これは、フラーレン1分子中に多数のプロトン解離性の基が存在するので、単位体積当たりに含まれるプロトン解離性の基の個数が非常に多くなるからであると考えられている。
【0013】
その後、フラーレン間が有機基で連結されたフラーレン系高分子など、様々なフラーレン誘導体が合成され、それらのうちには、特許文献1に例示されているフラーレン誘導体に比べ化学的および熱的安定性に優り、水素イオン伝導性電解質膜の構成材料として好適であると述べられているフラーレン誘導体が報告されている(例えば、特開2003-123793号公報、特開2003-187636号公報、特開2003-303513号公報、特開2004-55562号公報、および特開2005-68124号公報参照。)。
【0014】
しかし、PEFC10などに用いられる水素イオン伝導性電解質膜11が満たすべき性能は多岐にわたり、水素イオン伝導性が高いことばかりではなく、機械的強度が優れ、かつ適度な可撓性を有すること、燃料や酸素の透過(クロスリーク)を防止する性能が十分であること、耐水性や化学的安定性や耐熱性が優れていることなどが要求される。現在容易に入手可能な水素イオン伝導性材料で、これらすべての要求に単独で応え得る材料は存在しない。例えば、フラーレン系水素イオン伝導性材料は多くが粉体であり、成膜性、膜の機械的強度および可撓性、並びに、燃料や酸素の透過防止性能が、成膜性に優れた高分子材料に比べて劣っている場合がある。
【0015】
そこで、特許文献1や後述の特許文献2には、プロトン解離性の基を有するカーボンクラスター誘導体を、成膜性に優れた高分子材料と複合体化することにより、成膜性、膜の機械的強度および可撓性、並びに燃料や酸素の透過防止性能を高める構成が提案されている。
【0016】
特許文献1には、成膜性に優れた高分子材料としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのポリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、およびポリビニルアルコール(PVA)が例示されている。
【0017】
特許文献2には、プロトン解離性の基を有するカーボンクラスター誘導体と、水及び/又はアルコール分子等の液体分子を透過しにくい高分子材料とが混合されてなり、この高分子材料の混合比率が15質量%を超え、95質量%以下、より望ましくは、20質量%以上、90質量%以下であるプロトン伝導性複合体が提案されている。この際、高分子材料が、少なくともフッ化ビニリデンの単一重合体または共重合体を含むのがよいとされ、共重合体はヘキサフルオロプロペンとの共重合体であるのがよいとされている。
【0018】
特許文献2には、次のように説明されている。すなわち、上記の構成により、カーボンクラスター誘導体が有する高いプロトン伝導性を維持しながら、上記高分子材料と同様に、成膜性や膜の機械的強度や化学的安定性に優れ、水およびメタノール等の液体分子の透過を遮断する性能に優れたプロトン伝導性複合体を実現できる。この際、カーボンクラスター誘導体は、高いプロトン伝導性を有する水素イオン伝達路を提供する。一方、上記高分子材料は、水およびメタノール等の液体分子の移動を遮断するとともに、高い成膜性と機械的強度によってカーボンクラスター誘導体の膨潤を阻止する機能を有する。
【0019】
また、後述の特許文献3には、プロトン伝導性が高く、耐熱性に優れ、製造コストも低い水素イオン伝導性材料として、スルホン酸基が導入された無定形炭素が提案されている。この材料は、有機化合物を濃硫酸または発煙硫酸中で加熱処理することによって製造することができる。この際、炭化、スルホン化、および環同士の縮合が起こり、スルホン酸基導入無定形炭素が生成する。原料の有機化合物としては、芳香族炭化水素類を用いることができるが、糖類などの天然物や合成高分子化合物を用いてもよく、また、精製された有機化合物ではない原料、例えば、芳香族炭化水素類を含む重油、ピッチ、タール、およびアスファルトなどを使用してもよい。
【0020】
上記のような固体酸も粉末状であるので、成膜するには、成膜性に優れた高分子材料と複合体化することが必要になる。特許文献3には、バインダー高分子として、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ビニルフルオリド、ビニリデンフルオリド、ヘキサフルオロプロペン、およびパーフルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素含有モノマーの単一重合体または共重合体を用いることで、電解質膜の安定性が飛躍的に向上すると記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述したように、カーボンクラスター誘導体やスルホン酸基導入無定形炭素などの、イオン解離性の基を有するイオン伝導性微粒子と、フッ化ビニリデンの単一重合体または共重合体などのフッ素含有樹脂とを複合体化することによって、イオン伝導性を有し、かつ、成膜性および膜の機械的強度や化学的安定性に優れた複合体を実現できる。とくに、フッ素含有樹脂は水やメタノールなどの透過を遮断する性能に優れているので、この複合体を用いて水素イオン伝導性電解質膜を作製すれば、ダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC)として好適な燃料電池を構成することができる。
【0022】
この際、上記フッ素含有樹脂のように、イオン解離性の基を有さず、イオン伝導に寄与しない添加物を加えた場合、一般に、複合体のイオン伝導度は著しく低下する傾向がある。従って、複合体のイオン伝導性をできるだけ高くたもつためには、イオン伝導性微粒子とともに成膜する高分子材料として、イオン伝導性微粒子の電気化学的特性をできるだけ低下させない材料を選択する必要がある。
【0023】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、イオン伝導性微粒子とフッ化ビニリデンの単一重合体又は共重合体とを含有し、イオン伝導性に優れたイオン伝導性複合体、並びに、このイオン伝導性複合体を電解質とする膜電極接合体(MEA)、及び燃料電池などの電気化学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
即ち、本発明は、
イオン解離性の基を有するイオン伝導性微粒子と、
β型結晶構造をとっている部分を有するフッ化ビニリデンの単一重合体又は共重合体 と
を含有する、イオン伝導性複合体に係わる。
【0025】
本発明は、また、前記イオン伝導性複合体が電解質として対向電極間に挟持されている膜電極接合体、及び、前記イオン伝導性複合体が電解質として対向電極間に挟持され、電気化学反応部を構成している電気化学装置に係わる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のイオン伝導性複合体は、イオン解離性の基を有するイオン伝導性微粒子と、フッ化ビニリデンの単一重合体又は共重合体とを含有するイオン伝導性複合体であるが、前記フッ化ビニリデンの単一重合体又は共重合体が、β型結晶構造をとっている部分を有していることを特徴とする。本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、上記の構成によって、複合体を形成した場合のイオン伝導度の低下を最小限に抑えることができることを見出した。この結果、イオン伝導性に優れ、かつ、成膜性および膜の機械的強度や化学的安定性に優れ、水やメタノールなどの透過を遮断する性能に優れたイオン伝導性複合体を実現することができた。
【0027】
本発明の膜電極接合体(MEA)及び電気化学装置は、本発明のイオン伝導性複合体を電解質として有しているので、電気化学的特性をほとんど損なうことなく、電解質膜の機械的強度や化学的安定性を向上させることができ、製造歩留まりや耐久性が向上する。また、水やメタノールなどの透過を遮断する性能に優れ、ダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC)として好適な燃料電池を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態1に基づく、PVDFのβ型結晶構造およびα型結晶構造を示す斜視図である。
【図2】同、P(VDF−HFP)共重合体試料のラマンスペクトルである。
【図3】同、実施例1および比較例1で得られた水素イオン伝導性複合体膜の、種々の相対湿度における水素イオン伝導度を示すグラフである。
【図4】PEFCとして構成された燃料電池の構造の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のイオン伝導性複合体において、下記の式
r=(β型結晶構造部分)/((β型結晶構造部分)+(α型結晶構造部分))
で定義される前記β型結晶構造をとっている部分の割合rが0.1以上であるのがよい。望ましくは、前記割合rが0.5以上であるのがよく、さらに望ましくは、前記割合rが0.9以上であるのがよい。
【0030】
また、前記フッ化ビニリデンの共重合体が、ヘキサフルオロプロペン(HFP)又はテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体であるのがよい。
【0031】
また、前記イオン伝導性微粒子が、前記イオン解離性の基を有するカーボンクラスター又は無定形炭素であるのがよい。この際、前記カーボンクラスターが、球状カーボンクラスター分子Cn(n=36、60、70、76、78、80、82、84等、通称フラーレン)からなる群の中から選ばれた少なくとも1種であるのがよい。
【0032】
また、前記イオン解離性の基が、プロトンH+、リチウムイオンLi+、ナトリウムイオンNa+、カリウムイオンK+、マグネシウムイオンMg2+、カルシウムイオンCa2+、ストロンチウムイオンSr2+、及びバリウムイオンBa2+のいずれかを含むのがよい。
【0033】
前記イオン解離性の基が水素イオン解離性の基であり、水素イオン伝導性を有するのがよい。この際、前記水素イオン解離性の基が、ヒドロキシ基−OH、スルホン酸基−SO3H、カルボキシ基−COOH、ホスホノ基−PO(OH)2、リン酸二水素エステル基−O−PO(OH)2、ホスホノメタノ基>CH(PO(OH)2)、ジホスホノメタノ基>C(PO(OH)2)2、ホスホノメチル基−CH2(PO(OH)2)、ジホスホノメチル基−CH(PO(OH)2)2、ホスフィン基−PHO(OH)、−PO(OH)−、及び−O−PO(OH)−からなる群の中から選ばれた1種以上の基であるのがよい。ここで、メタノ基>CH2とは、メタノ基の炭素原子が2本の結合手で前記カーボンクラスターの2個の炭素原子と単結合を形成し、橋かけ構造を作っている原子団のことである。
【0034】
本発明の電気化学装置は、燃料電池として構成されているのがよい。
【0035】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的かつ詳細に説明する。
【0036】
[実施の形態1]
実施の形態1では、主として、請求項1〜10に記載したイオン伝導性複合体の例について説明する。
【0037】
本発明の実施の形態1に基づくイオン伝導性複合体を作製するには、まず、イオン解離性の基を有するカーボンクラスター誘導体を適当な有機溶媒に加え、撹拌し、均一に分散させる。続いて、この分散液に、フッ化ビニリデンの単一重合体または共重合体の粉末を加え、撹拌し、塗液を調製する。次に、このようにして調製した塗液を基材上に均一に塗り広げ、塗膜を形成する。この塗膜から溶媒を徐々に蒸発させ、膜状のイオン伝導性複合体を作製する。
【0038】
イオン伝導性複合体膜の厚さは、塗布する塗液の濃度および単位面積当たりの塗布量を変えることなどによって制御することができる。
【0039】
また、上記有機溶媒として、シクロペンタノン、アセトン、プロピレンカーボネート、およびγ−ブチロラクトンなどを用いることができる。また、基材として、ガラス板や、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)、およびポリプロピレン(PP)などの有機高分子樹脂からなるフィルムやシートを用いることができる。
【0040】
本発明の特徴は、フッ化ビニリデンの単一重合体または共重合体が、β型結晶構造をとっている部分を有していることである。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)には、主鎖の安定なコンホメーションが3種類あり、2種類の分子パッキングとの組み合わせによって、6種類の結晶型が存在する。図1は、そのうち、本発明と関係のあるβ型結晶構造およびα型結晶構造を示す斜視図である。
【0041】
図1(a)に示すように、β型結晶構造では、単位セルは単量体2分子分からなり、主鎖をなすC−C結合(A1〜A4)はすべてトランス(T)形配座をとって、TTTT型のコンホメーションを形成している。すなわち、結合A2を中心にしてみると結合A1と結合A3とがトランス(T)形配座をとっており、結合A3を中心にしてみると結合A2と結合A4とがトランス(T)形配座をとっている。他のC−C結合においても同様である。
【0042】
β型結晶構造では、2分子分の単量体由来の構造単位が同一方向に配向している。その結果、電気陰性度の小さい水素原子は常に主鎖の一方の側(図の上側)にあり、電気陰性度の大きいフッ素原子は常にその反対側(図の下側)にある。従って、β型結晶構造をとっているPVDFは分子鎖の方向に直交する方向に大きな双極子モーメントをもつ。PVDFが示す双極子モーメントはβ型結晶構造をとったとき、最大になり、β型結晶構造を有するPVDFは強誘電性高分子として圧電素子などに利用されている。
【0043】
一方、図1(b)に示すように、α型結晶構造では、単位セルは単量体2分子分からなるが、主鎖をなすC−C結合(B2〜B5)はTGTG型のコンホメーションを形成している。すなわち、結合B2およびB4を中心にしてみると、両隣の結合、結合B1と結合B3、および結合B3と結合B5は、それぞれトランス(T)形配座をとっている。しかし、結合B3を中心にしてみると、結合B4に対してトランスの位置にあるのはC−F結合であり、結合B2はこのC−F結合から結合B3を軸として時計回り方向に120度回転した位置にあり、結合B4と結合B2とはゴーシュ(G)形配座をとっている。また、結合B5を中心にしてみると、結合B4に対してトランスの位置にあるのはC−H結合であり、結合B6はこのC−H結合から結合B5を軸として反時計回り方向に120度回転した位置にあり、結合B4と結合B6とはゴーシュ(G)形配座をとっている。
【0044】
α型結晶構造では、2分子分の単量体由来の構造単位がそれぞれ作る極性のうち、分子鎖の方向(結合B1、B3、B5の方向)に直交する方向の成分は互いに反平行の関係にあり、互いに相殺し合って消失する。このため、α型結晶構造のPVDFが示す双極子モーメントは小さい。
【0045】
PVDFを溶融状態から冷却して結晶化させると、α型結晶構造をとるPVDFが生成するので、α型構造が最も安定な構造であると考えられている。また、ラジカル重合法で製造したPVDFは、通常α型構造を形成する。α型結晶構造のPVDFをβ型結晶構造のPVDFに変換するには、延伸処理、高圧熱処理、またはキャスト時における高圧急冷など、複雑な後工程が必要となる。また、もう1つのコンホメーションであるγ型結晶構造のPVDFはα型結晶構造のPVDFを170℃以上の温度で熱処理することによって得られる(例えば、Netsu Sokutei,29,192-198(2002)参照。)。
【0046】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、イオン伝導性微粒子と複合体を形成するPVDFがβ型結晶構造を有する場合、複合体を形成した場合のイオン伝導度の低下が最小限に抑えられることを見出した。この理由が完全に明らかになったわけではないが、上述した分極の違いが関係していると考えられる。すなわち、β型結晶構造は大きな双極子モーメントを有するので、イオン伝導性微粒子近傍の誘電率を高く維持でき、イオン伝導を容易にする。これに対し、α型結晶構造が有する双極子モーメントは小さいので、イオン伝導性微粒子近傍の誘電率を高く維持することができず、イオン伝導が困難になる。
【0047】
高分子電解質の誘電率の変化によってイオン伝導度が変化する事例としては、例えば、ポリ酢酸ビニルとポリフッ化ビニリデンの複合体電解質において、両者の混合比を変えることによって複合体電解質の誘電率を変化させ、過塩素酸リチウムのイオン伝導度が10倍強〜100倍弱程度変化する結果を得た例が報告されている(Mater.Chem.Phys.,(2006),98,55-61)。
【0048】
フッ化ビニリデンの単一重合体または共重合体に含まれるβ型結晶構造およびα型結晶構造(およびγ型結晶構造)の割合は、ラマンスペクトルまたは赤外吸収スペクトルの測定によって決定することができる(例えば、特開2005−200623号公報参照。)。
【0049】
図2は、後述の実施例1および比較例1でそれぞれ用いた、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体P(VDF−HFP)の試料Aおよび試料Bのラマンスペクトルである。図2(a)に示すように、試料Aでは、β型結晶構造に帰属される840cm-1にピークが観察されるのに対し、α型結晶構造に帰属される795cm-1にピークがほとんど観察されないことから、試料Aでは大部分のPVDFがβ型結晶構造をとっていることがわかる。他方、試料Bでは、795cm-1にピークが観察されるのに対し、840cm-1にピークがほとんど観察されないことから、試料Bでは大部分のPVDFがα型結晶構造をとっていることがわかる(例えば、A.Martinelli et al.,Solid State Ionics,(2007),178,527-531参照。)。
【0050】
イオン伝導性複合体において、下記の式
r=(β型結晶構造部分)/((β型結晶構造部分)+(α型結晶構造部分))
で、前記β型結晶構造をとっている部分の割合rを定義するものとする。割合rはとくに限定されるものではない。ただし、0.1未満では十分な効果が得られないので、0.1以上であるのがよい。望ましくは、割合rが0.5以上であり、β型結晶構造をとっている部分が主であるのがよく、さらに望ましくは、割合rが0.9以上で、β型結晶構造をとっている部分が大部分であるのがよい。割合rが0.9をこえると、それ以上割合rを1に近づけてもその効果は小さく、一方、それを実現する困難は増大するので、大きな困難を伴わずに、割合rが0.9をこえる程度であるのがよい。
【0051】
フッ化ビニリデンの共重合体が、ヘキサフルオロプロペン(HFP)またはテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体であるのがよい。フッ化ビニリデンの共重合体、とくにHFPまたはTFEとの共重合体は、PVDFの結晶性が抑えられ、成膜性に優れるとともに、メタノールの透過を遮断する性能が高い。
【0052】
また、前記イオン伝導性微粒子の基材微粒子は、とくに限定されるものではないが、例えば、従来多くの研究開発が行われてきたカーボンクラスターまたは無定形炭素であるのがよい。イオン解離性の基を有するカーボンクラスター誘導体としては、例えば、特許文献1および2、並びに特開2003-123793号公報、特開2003-187636号公報、特開2003-303513号公報、特開2004-55562号公報、特開2005-68124号公報などに例示されているフラーレン誘導体などの中から、イオン伝導性や、化学的および熱的安定性を勘案して、使用条件などに応じて、適宜選択して用いるのがよい。フラーレンは、球状カーボンクラスター分子Cn(n=36、60、70、76、78、80、82、84等)であり、とくにC60及び/又はC70であるのが好ましい。現在用いられているフラーレンの製造方法では、C60およびC70の生成比率が圧倒的に高く、製造コスト的にC60及び/又はC70を用いるメリットが大きい。ただし、カーボンクラスター誘導体はフラーレン誘導体に限られるものではなく、カーボンナノホーンなどの他のカーボンナノ粒子の誘導体であってもよい。また、安価な石油ピッチなどの炭素材料に、スルホン酸基などの酸性基を導入したものであってよい。
【0053】
カーボンクラスター誘導体が有するイオン解離性の基はとくに限定されるものではないが、プロトンH+、リチウムイオンLi+、ナトリウムイオンNa+、カリウムイオンK+、マグネシウムイオンMg2+、カルシウムイオンCa2+、ストロンチウムイオンSr2+、及びバリウムイオンBa2+のいずれかを含むのがよい。
【0054】
とくに、イオン解離性の基が水素イオン解離性の基であり、カーボンクラスター誘導体が水素イオン伝導性を有するのがよい。この際、前記水素イオン解離性の基が、ヒドロキシ基−OH、スルホン酸基−SO3H、カルボキシ基−COOH、ホスホノ基−PO(OH)2、リン酸二水素エステル基−O−PO(OH)2、ホスホノメタノ基>CH(PO(OH)2)、ジホスホノメタノ基>C(PO(OH)2)2、ホスホノメチル基−CH2(PO(OH)2)、ジホスホノメチル基−CH(PO(OH)2)2、ホスフィン基−PHO(OH)、−PO(OH)−、及び−O−PO(OH)−からなる群の中から選ばれた1種以上の基であるのがよい。
【0055】
[実施の形態2]
実施の形態2では、主として、請求項11〜13に記載した膜電極接合体(MEA)、および電気化学装置の例として、実施の形態1で作製したイオン伝導性複合体を、図4を用いて説明した燃料電池10に適用した例について説明する。
【0056】
<膜電極接合体(MEA)の作製>
実施の形態1で作製した水素イオン伝導性複合体膜を適当な平面形状に切断する。これをアノード22とカソード23との間に挟み、例えば、温度130℃、圧力0.5kN/cm2の下で15分間加熱圧着することによって、膜電極接合体14を作製する。
【0057】
膜電極接合体(MEA)14は、図4を用いて説明したように、燃料流路21と酸素(空気)流路24との間に挟持され、燃料電池10に組み込まれる。発電時には、アノード12側では水素などの燃料が燃料導入口22から供給され、燃料排出口23から排出される。この間に、燃料の一部がガス透過性集電体(ガス拡散層)12aを通り抜け、アノード触媒層12bに到達する。燃料電池の燃料としては、水素やメタノールなど、種々の可燃性物質を用いることができる。カソード13側では酸素または空気が酸素(空気)導入口25から供給され、酸素(空気)排出口26から排出される。この間に、酸素(空気)の一部がガス透過性集電体(ガス拡散層)13aを通り抜け、カソード触媒層13bに到達する。
【0058】
燃料電池がダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC)である場合には、燃料のメタノールは、メタノール水溶液または純メタノールとして供給され、蒸発したメタノール分子がアノード触媒層12bに到達する。メタノール分子は、アノード触媒粒子上で下記の反応式(4)
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e-・・・・・(4)
で示される反応によって酸化され、アノード12に電子を与える。生じた水素イオンH+は高分子電解質膜11を通ってカソ−ド13側へ移動する。カソ−ド触媒層13bに供給された酸素は、アノード側から移動してきた水素イオンと、カソ−ド触媒粒子上で下記の反応式(5)
(3/2)O2+6H++6e- → 3H2O・・・・・(5)
で示される反応によって反応し、還元されてカソ−ド13から電子を取り込む。燃料電池全体では、(4)式と(5)式を合わせた、下記の反応式(6)
CH3OH+(3/2)O2 → CO2+2H2O・・・・(6)
で示される反応が起こる。
【実施例】
【0059】
本実施例および比較例では、まず、カーボンクラスター誘導体としてフラーレン系プロトン伝導体ポリマーを用い、P(VDF−HFP)共重合体試料として、実施の形態1で説明した試料Aおよび試料Bをそれぞれ用いて、実施の形態1で説明したようにして水素イオン伝導性複合体膜を作製し、この水素イオン伝導性複合体膜の水素イオン伝導度を測定した。次に、この水素イオン伝導性複合体膜を電解質として用いて、実施の形態2で説明した膜電極接合体14および燃料電池10を作製し、発電性能を調べた。但し、本発明が下記の実施例に限られるものではないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0060】
<水素イオン伝導性複合体膜の作製>
カーボンクラスター誘導体として下記の構造式(1)で示されるフラーレン系プロトン伝導体ポリマーを適量γ−ブチロラクトン(和光純薬製、特級)に加え、2時間攪拌し、均一に分散させた。この分散液に、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンとの共重合体P(VDF−HFP)の粉末を加え、必要ならさらに適量の溶媒を添加して、80℃に保ちながら3時間以上攪拌し、均一に分散させた。この際、本発明の特徴として、図1および図2を用いて説明した、大部分のPVDFがβ型結晶構造をとっているP(VDF−HFP)試料Aを用いた。
【0061】
フラーレン系プロトン伝導体ポリマーの構造式(1):
【化1】

【0062】
次に、このようにして調製した塗液をポリプロピレンシート上に均一に塗り広げ、塗膜を形成した。クリーンベンチ内でこの塗膜から溶媒を徐々に蒸発させ、膜状のイオン伝導性複合体を作製した。さらに、得られた薄膜を60℃に保った乾燥機中に3時間置き、溶媒を蒸発させ、乾燥させた。乾燥後の薄膜の厚さは12μmであった。
【0063】
イオン伝導性複合体膜の厚さは、塗布する塗液の濃度および単位面積当たりの塗布量を変えることなどによって制御することができる。例えば、塗液の濃度を溶媒に対する質量比で0.01〜0.030とし、濃度に応じて塗膜の厚さを30〜2000μmに変えることによって、イオン伝導性複合体膜の厚さを3〜50μm程度に制御できる。
【0064】
[比較例1]
比較例1では、試料Aの代わりに、図1および図2を用いて説明した、大部分のPVDFがα型結晶構造をとっているP(VDF−HFP)試料Bを用いた。これ以外は実施例1と同様にして、水素イオン伝導性複合体膜を作製した。
【0065】
表1に、実施例1および比較例1で作製された水素イオン伝導性複合体膜のP(VDF−HFP)の結晶構造、膜厚、およびフラーレン系プロトン伝導体ポリマーとP(VDF−HFP)試料との質量%を示す。
【0066】
【表1】

【0067】
<水素イオン伝導性複合体膜の水素イオン伝導度の測定>
作製した電解質膜は、1対の金電極の間に3点締めでトルクが一定になるように挟んだセルを作製し、温度50℃に設定した恒温・恒湿槽内に設置し、水素イオン伝導性複合体膜の水素イオン伝導度を、複素インピーダンス法によって測定した。測定結果は、各湿度において恒温・恒湿槽内に設置後の、インピーダンスデータの時間変化がなくなるまで少なくとも3時間程度静置した後の値として採用した。相対湿度は50%〜90%の間で変化させた。
【0068】
図3は、実施例および比較例で得られた水素イオン伝導性複合体膜の水素イオン伝導度の測定結果を示すグラフである。図3に示すように、実施例1で得られた水素イオン伝導性複合体膜のイオン伝導度は、測定したすべての相対湿度の領域で、比較例1で得られた水素イオン伝導性複合体膜のイオン伝導度の約2.8〜3.1倍程度であった。水素イオン伝導性複合体膜の膜厚、およびフラーレン系プロトン伝導体ポリマーとP(VDF−HFP)試料との混合質量比は同一であるので、これらの違いはP(VDF−HFP)の結晶構造の違いによって生じたものであることがわかる。すなわち、PVDFがβ型結晶構造をとっているP(VDF−HFP)を用いて水素イオン伝導性複合体膜を構成することによって、複合体を形成した場合のイオン伝導度の低下を最小限に抑えることができた。
【0069】
<膜電極接合体(MEA)および燃料電池集合体の作製>
上記の水素イオン伝導性複合体膜を25mm×25mmの正方形に切断し、電解質膜11として用いた。この電解質膜11を、平面形状が13mm×13mmの正方形であるアノード12とカソード13との間に挟み、温度130℃、圧力0.5kN/cm2の下で15分間加熱圧着して、膜電極接合体14を作製した。アノード12およびカソード13は、カーボンペーパー(商品名 TPG-H-090;東レ(株)製)からなる集電体に、触媒粒子とNafion(登録商標)分散液(商品名 DE-1021;デュポン社製)とを混合した塗液を塗布した後、溶媒を蒸発させ、触媒層を形成したガス拡散電極を用いた。各電極で用いた触媒粒子は、それぞれ、カーボンブラックに白金触媒Ptを担持させた担持触媒(田中貴金属工業(株)製、白金担持量70%)、およびカーボンブラックに白金ルテニウム合金触媒PtRuを担持させた担持触媒(E−TEK社製、Pt:Ru=2:1)を用いた。
【0070】
<燃料電池集合体の発電性能>
膜電極接合体(MEA)14を燃料電池10に組み込み、アノード12に燃料として純メタノールを供給し、カソード13に自然吸気にて空気を供給し、発電試験を行った。この際、それぞれ2つの燃料電池10を用い、発電試験時におけるセル温度を、温度コントローラーを用いて45℃および50℃に制御して発電試験を行った。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
いずれの温度においても、大部分のPVDFがβ型結晶構造をとっているP(VDF−HFP)試料Aを用いて水素イオン伝導性複合体膜を形成した実施例1の方が、大部分のPVDFがα型結晶構造をとっているP(VDF−HFP)試料Aを用いて水素イオン伝導性複合体膜を形成した比較例1に比べて、出力密度が大きいことがわかる。これは、各水素イオン伝導性複合体膜の水素イオン伝導どの違いが、燃料電池の出力密度の違いとなって現れたものと考えることができる。
【0073】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、上述の例は、本発明の技術的思想に基づき、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のイオン伝導性複合体とその製造方法は、イオン伝導性電解質膜の製造歩留まりを向上させ、燃料電池などの電気化学装置の普及などに寄与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0075】
【特許文献1】WO01/06519(請求項1,4,5,16及び18、第3,6−11,13及び14頁、図1−5及び7)
【特許文献2】特開2005−93417号公報(第8及び12−14頁、図1−4、6及び7)
【特許文献3】特開2006−257234号公報(第3及び5−8頁、図1)
【符号の説明】
【0076】
10…燃料電池、11…水素イオン(プロトン)伝導性高分子電解質膜、
12…アノード(負極;燃料極)、12a…ガス透過性集電体(ガス拡散層)、
12b…アノード触媒層、13…カソ−ド(正極;酸素極)、
13a…ガス透過性集電体(ガス拡散層)、13b…カソ−ド触媒層、
14…膜電極接合体(MEA)、15…アノード端子、16…カソ−ド端子、
21…燃料流路、22…燃料導入口、23…燃料排出口、24…酸素(空気)流路、
25…酸素(空気)導入口、26…酸素(空気)排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン解離性の基を有するイオン伝導性微粒子と、
β型結晶構造をとっている部分を有するフッ化ビニリデンの単一重合体又は共重合体 と
を含有する、イオン伝導性複合体。
【請求項2】
下記の式
r=(β型結晶構造部分)/((β型結晶構造部分)+(α型結晶構造部分))
で定義される前記β型結晶構造をとっている部分の割合rが0.1以上である、請求項1に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項3】
前記β型結晶構造をとっている部分の割合rが0.5以上である、請求項2に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項4】
前記β型結晶構造をとっている部分の割合rが0.9以上である、請求項3に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項5】
前記フッ化ビニリデンの共重合体が、ヘキサフルオロプロペン又はテトラフルオロエチレンとの共重合体である、請求項1に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項6】
前記イオン伝導性微粒子が、前記イオン解離性の基を有するカーボンクラスター又は無定形炭素である、請求項1に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項7】
前記カーボンクラスターが、球状カーボンクラスター分子Cn(n=36、60、70、76、78、80、82、84等、通称フラーレン)からなる群の中から選ばれた少なくとも1種である、請求項6に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項8】
前記イオン解離性の基が、プロトンH+、リチウムイオンLi+、ナトリウムイオンNa+、カリウムイオンK+、マグネシウムイオンMg2+、カルシウムイオンCa2+、ストロンチウムイオンSr2+ 及びバリウムイオンBa2+ のいずれかを含む、請求項1に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項9】
前記イオン解離性の基が水素イオン解離性の基であり、水素イオン伝導性を有する、請求項8に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項10】
前記水素イオン解離性の基が、ヒドロキシル基−OH、スルホン酸基−SO3H、カルボキシル基−COOH、ホスホノ基−PO(OH)2 、リン酸二水素エステル基−O−PO(OH)2 、ホスホノメタノ基>CH(PO(OH)2)、ジホスホノメタノ基>C(PO(OH)2)2 、ホスホノメチル基−CH(PO(OH)2)、ジホスホノメチル基−CH(PO(OH)2)2 、ホスフィン基−PHO(OH)、−PO(OH)−、及び−O−PO(OH)−からなる群の中から選ばれた1種以上の基である、請求項9に記載したイオン伝導性複合体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載したイオン伝導性複合体が電解質として対向電極間に挟持されている、膜電極接合体(MEA)。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載したイオン伝導性複合体が電解質として対向電極間に挟持され、電気化学反応部を構成している、電気化学装置。
【請求項13】
燃料電池として構成されている、請求項12に記載した電気化学装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−14337(P2011−14337A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156559(P2009−156559)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】