説明

イオン伝導性複合電解質膜とこれを用いた燃料電池

【課題】イオン伝導性を損なうことなく強度を向上させたイオン伝導性複合電解質膜とこれを用いた燃料電池を提供すること。
【解決手段】プロトン伝導性複合電解質膜は、イオン解離性の官能基を有しフラーレン誘導体又はスルホン化ピッチからなる電解質を5wt%以上、85wt%以下の割合で含有し、550000以上の重量平均分子量を有し対数粘度が2dL/g以上であり、ポリフッ化ビニリデン及びこれとヘキサフルオロプロピレンの共重合体等のフッ素系ポリマーからなる結着剤を15wt%以上、95wt%以下の割合で含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性複合電解質膜とこれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
化学エネルギーを電気エネルギーに転換する燃料電池は、効率的でしかも環境汚染物質を発生しないので、携帯情報機器用、家庭用、自動車用等のクリーンな電源として注目され、開発が進められている。
【0003】
燃料電池には使用される電解質の種類によって各種のタイプがあるが、メタノール等の有機材料や水素を燃料とする燃料電池は特に注目されており、その出力性能を決定する重要な構成要素は、電解質、電解質膜、触媒膜、更に、電解質膜の両側を触媒膜で挟んだ膜電極接合体(MEA)である。例えば、電解質として多種類のものが開発され、パーフロロスルホン酸系樹脂による電解質はその代表例であり、耐久性及び性能に優れるとされている。
【0004】
燃料電池の重要な構成要素は、単に、燃料電池の出力性能を左右するだけではなく、長期間にわたる安定動作を保障するための信頼性、耐久性を左右するものであり、しかも、これら構成要素の生産性にも関係しており、製造効率や生産コストにも影響を与える。電解質膜の性能向上に関連して種々の方法が報告されている。
【0005】
電解質膜は膜電極接合体(MEA)とされ、これを用いて単位セルを構成し、単位セルを複数積層し直列接続した積層型燃料電池、或いは、単位セルを複数平面状に配列し直列接続した平面スタック型燃料電池として使用される。
【0006】
燃料電池において使用される電解質膜の形成方法については多数の報告がなされている(後記の特許文献1〜特許文献5を参照。)。
【0007】
例えば、「プロトン伝動性複合体とその製造方法、並びに電気化学デバイス」と題する後記の特許文献1に、「プロトン解離性の官能基を有するカーボンクラスターと、水及び/又はアルコール分子等の液体分子を透過しにくい高分子材料とが混合されてなり、この高分子材料の混合比率が15質量%を超え、95質量%以下(特に、20質量%以上、90質量%以下)である、プロトン伝導性複合体」が記載されている。
【0008】
なお、C60フラーレンを用いたプロトン伝導体重合体は知られており(後記の特許文献1、特許文献6を参照。)、また、上述の平面スタック型燃料電池に関しては、例えば、後記の特許文献7に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
燃料電池の重要な主要構成要素である電解質膜の特性は、燃料電池の出力性能を左右し、長期間の安定動作、耐久性を左右し、しかも、燃料電池全体の生産性にも関係しており、製造効率や生産コストにも影響を与えるため、高いイオン伝導性のみならず、高い強度が要求される。従って、電解質のみならずこれを成膜化する際に、電解質を相互に結着(結合)させるための結着剤も、電解質膜の特性に大きく影響し、燃料電池全体の生産性にも影響する。
【0010】
電解質膜の形成に使用される結着剤の代表例としてPVdFが知られているが、PVdFの分子量が低い場合は、電解質膜がもろくなり、燃料電池セルの組み立て工程や、燃料電池の稼動(発電)中に、電解質膜に亀裂が入る等の問題がある。
【0011】
特に、膜電極接合体(MEA)を用いて単位セルを構成し、複数の単位セルを、積層し直列接続した積層型燃料電池、或いは、平面状に配列し直列接続した平面スタック型燃料電池のような燃料電池システムを作製しようとする場合、電解質膜に対して熱や圧力が印加される工程を避けることができず、電解質膜の強度が十分なものでないと、このような工程により電解質膜の破断等が起こり、歩留まりの低下を招いてしまう。
【0012】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、イオン伝導性を損なうことなく強度を向上させたイオン伝導性複合電解質膜とこれを用いた燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は、イオン解離性基(例えば、後述の実施の形態におけるスルホン酸基(−SO3H))を有するカーボンクラスター(例えば、後述の実施の形態におけるフラーレン誘導体、スルホン化ピッチ)と、550000以上の重量平均分子量を有し、対数粘度(対数粘度の測定方法については後で詳述する。)が2dL/g以上であるフッ素系ポリマー(例えば、後述の実施の形態におけるフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体)とが混合されてなるイオン伝導性複合電解質膜に係るものである。
【0014】
また、本発明は、上記のイオン伝導性複合電解質膜が対向電極に挟持された燃料電池に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、イオン解離性基を有するカーボンクラスターと、550000以上の重量平均分子量を有し、対数粘度が2dL/g以上であるフッ素系ポリマーとが混合されてなるので、イオン伝導性を損なうことなく強度を向上させたイオン伝導性複合電解質膜を提供することができる。
【0016】
また、本発明によれば、上記のイオン伝導性複合電解質膜が対向電極に挟持されているので、生産性に優れ良好な特性を有する燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態における、イオン伝導性複合電解質の構成を説明する図である。
【図2】同上、カチオオン解離性官能基を有するフラーレン誘導体を説明する図である。
【図3】同上、PVdF−HFP共重合体を説明する図である。
【図4】同上、DMFC(直接型メタノール燃料電池)の構成例を説明する断面図である。
【図5】同上、PEFC(高分子電解質型燃料電池)の構成例を説明する断面図である。
【図6】本発明の実施例における、高分子材料の対数粘度と電解質膜の引っ張り強度の関係を説明する図である。
【図7】同上、高分子材料の対数粘度とフラーレン誘導体を用いた電解質膜の破断伸びの関係を説明する図である。
【図8】同上、PVdF−HFP共重合体の対数粘度と電解質膜の特性及び燃料電池の特性の関係を説明する図である。
【図9】同上、電解質膜の膨潤度と出力維持率及び平均出力の関係を説明する図である。
【図10】同上、高分子材料の対数粘度とピッチ材料を用いた電解質膜の破断伸びの関係を説明する図である。
【図11】同上、高分子材料の対数粘度とピッチ材料を用いた電解質膜を実装した燃料電池の特性の関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のイオン伝導性複合電解質膜では、前記フッ素系ポリマーの対数粘度が10dL/g以下であるである構成とするのがよい。更に好ましくは、前記フッ素系ポリマーの対数粘度が3dL/g以上であるである構成とするのがよい。このような構成によれば、イオン伝導性複合電解質膜のイオン伝導性を損なうことなく、強度を向上させることができ、燃料電池に好適に使用することができ、優れた特性を有する燃料電池を実現することができる。
【0019】
また、前記フッ素系ポリマーが15wt%以上、95wt%以下の割合で混合されてなる構成とするのがよい。また、前記フッ素系ポリマーが、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体から選ばれる少なくとも1種である構成とするのがよい。このような構成によれば、イオン伝導性複合電解質膜のイオン伝導性を損なうことなく、強度を向上させることができ、燃料電池に好適に使用することができ、優れた特性を有する燃料電池を実現することができる。
【0020】
また、前記イオン解離性基がプロトン解離性基である構成とするのがよい。このような構成によれば、イオン伝導性複合電解質膜を、メタノール等の有機材料や水素を燃料とする燃料電池に好適に使用することができ、燃料電池は良好な特性を有するものとなる。
【0021】
また、前記プロトン解離性基が、ヒドロキシル基(−OH)、スルホン酸基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン基(−PO(OH)2)、リン酸二水素エステル基(−O−PO(OH)2)、ホスホノメタノ基(=CH(PO(OH)2))、ジホスホノメタノ基(=C(PO(OH)22)、ホスホノメチル基(−CH2(PO(OH)2))、ジホスホノメチル基(−CH(PO(OH)22)、ホスフィン基(−PHO(OH))、ジスルホノメタノ基(=C(SO3H)2)、ビススルホンイミド基(−SO2NHSO2−)、スルホンアミド基(−SO2NH2)、−PO(OH)−、−O−PO(OH)−からなる群より選ばれた少なくとも1種である構成とするのがよい。このような構成によれば、イオン伝導性複合電解質膜を燃料電池に好適に使用することができる。
【0022】
また、前記カーボンクラスターが、フラーレン誘導体又はスルホン化ピッチである構成とするのがよい。このような構成によれば、イオン伝導性複合電解質膜を燃料電池に好適に使用することができる。
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
[実施の形態]
<イオン伝導性複合電解質膜の構成>
図1は、本発明の実施の形態における、イオン伝導性複合電解質の構成を説明する図である。
【0025】
本発明によるイオン伝導性複合電解質膜は、電解質として、イオン解離性の官能基を有するカーボンクラスターを5wt%以上、85wt%以下の割合で含有し、電解質のマトリックスとなる結着剤を15wt%以上、95wt%以下の割合で含有する。
【0026】
電解質膜中の結着剤の含有量が15wt%未満である場合、成膜性が低下し緻密な膜の形成が困難となり電解質の強度が低下してしまう。結着剤の含有量は、好ましくは、20wt%以上、更に好ましくは、25wt%以上とするのが望ましい。結着剤の含有量が95wt%を超えると、イオン伝導性が低下してしまう。結着剤の含有量は、好ましくは、90wt%以下、更に好ましくは、85wt%以上とするのが望ましい。
【0027】
カーボンクラスターは、例えば、Ck(k=36、60、70、76、78、80、82、84等)のフラーレン分子(球状クラスター分子をなす)を母体とするフラーレン誘導体、スルホン酸基を導入したピッチ材料(以下、「スルホン化ピッチ」と呼ぶ。)である。
【0028】
イオン解離性の官能基は、例えば、ヒドロキシル基−OH、メルカプト基−SH、カルボキシル基−COOH、スルホン酸基−SO2OH、スルホンアミド基−SO2NH2、ビススルホンイミド基−SO2NHSO2−、ビススルホンイミド基−SO2NHSO2−、スルホンカルボイミド基−SO2NHCO−、ビスカルボンイミド基−CONHCO−、ホスホノメタノ基=CH(PO(OH)2)、ジホスホノメタノ基=C(PO(OH)2)2、ジスルホノメタノ基(=C(SO3H)2)、ホスホノメチル基−CH2(PO(OH)2)、ジホスホノメチル基−CH(PO(OH)2)2、スルフィノ基−SO(OH)、スルフェノ基−SOH)、硫酸基−OSO2OH、ホスホン酸基−PO(OH)2、ホスフィン基−HPO(OH)、リン酸基−O−PO(OH)2、−OPO(OH)O−、ホスフォニル基−HPO、ホスフィニル基−H2PO等であり、これらのプロトン解離性基が置換基によって置換されてなる誘導体であってもよい。
【0029】
結着剤は、550000以上の重量平均分子量を有するフッ素系樹脂からなり、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体から選ばれる少なくとも1種である。
【0030】
高分子の分子量の測定にはGPC(ゲル浸透クロマトグラフイー)等による方法が使用されるが、分子量が大きくなると、分子量の測定が困難である。ここでは、分子量と相関のある対数粘度[η]をパラメーターとして用いる。分子量が大きくなるとこの対数粘度[η]も高くなる。
【0031】
結着剤はその対数粘度[η]が2dL/g以上であり、好ましくは、3dL/g上、10dL/g以下であるものを使用する。
【0032】
結着剤はその対数粘度[η]が2dL/g未満である場合、電解質との密着性が十分とはならず、電解質の間を結着させるマトリックスとして有効に作用しない、また、結着剤はその対数粘度[η]が10dL/gを超えると、電解質膜の成膜時の作業性が悪くなるため、結着剤はその対数粘度[η]が2dL/g以上、10dL/g以下であることが望ましい。
【0033】
また、出力、出力維持率(後述する。)が高い値を有する燃料電池を実現するためには、電解質膜の湿潤度(後述する。)は小さいことが望ましく、電解質膜の湿潤度をより小さくするために、結着剤の対数粘度[η]が3dL/g以上であるものを使用するのが望ましい。電解質膜の成膜時の作業性を考慮すると、結着剤の対数粘度[η]は、3dL/g以上、10dL/g以下であるものを使用するのが望ましい。
【0034】
対数粘度[η]は、本発明では、試料(分子量の測定対象の樹脂)4gを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液(試料溶液の濃度C=4(g/L))の30℃における粘度の測定値をηm(Pa・s(パスカル秒))とするとき、ηmの自然対数を試料溶液の濃度Cで除した、[η]=ln(ηm)/Cによって定義する。
【0035】
なお、本発明では、粘度ηmは、粘度計(レオストレス600、HAAKE社製)を使用し、剪断速度(角速度)を0〜2000(sec-1)と変化させシアストレス(shear stress)が一定となった部分から粘度ηm(Pa・s(パスカル秒))を求めた。
【0036】
図2は、本発明の実施の形態において、プロトン解離性基を有するフラーレン誘導体を説明する図である。
【0037】
図2(A)に示すように、フラーレン誘導体は、フラーレン(C60)に、プロトン解離性基としてスルホン酸基(−SO3H)を末端に有する基、−CF2CF2−O−CF2CF2−SO3Hがn個結合されたフラーレン母体(C60)が、m個の連結基、−CF2CF2CF2CF2CF2CF2−によって相互に結合された構造を有している。
【0038】
図2(B)に示すように、スルホン酸基(−SO3H)を末端に有する基、−CF2CF2−O−CF2CF2−SO3Hを−GrH、連結基、−CF2CF2CF2CF2CF2CF2−を−Link−のように略記すると、フラーレン誘導体は、フラーレン母体(C60)がLinkによって連結され、各フラーレン母体(C60)に複数のGrHが結合された構造を有するポリマーである。
【0039】
図3は、本発明の実施の形態において、結着剤として使用するPVdF−HFP共重合体を説明する図である。
【0040】
図3に示すように、電解質膜の形成に使用される結着剤PVdF−HFP共重合体は、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)(CH2CF2nとヘキサフルオロプロピレン(HFP)(CF2CF(CF3))との共重合体であり、この共重合体は、交互共重合体、周期的共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れか、或いは、これらの混合体である。
【0041】
<本発明によるイオン伝導性複合電解質膜が適用される燃料電池>
次に、イオン伝導性複合電解質膜が適用される燃料電池の例について、説明する。
【0042】
図4は、本発明の実施の形態におけるDMFC(直接型メタノール燃料電池)の構成例を説明する断面図である。
【0043】
図4に示すように、メタノール水溶液が燃料25として、流路をもつ燃料供給部(セパレータ)50の入口26aから通路27aへと流され、基体である導電性のガス拡散層24aを通って、ガス拡散層24aによって保持された触媒電極22aに到達し、図4の下方に示すアノード反応に従って、触媒電極22a上でメタノールと水が反応し、水素イオン、電子、二酸化炭素が生成され、二酸化炭素を含む排ガス29aが出口28aから排出される。生成された水素イオンは、プロトン伝導性複合電解質によって形成された高分子電解質膜23中を、生成された電子はガス拡散層24a、外部回路70を通り、更に、基体である導電性のガス拡散層24bを通って、ガス拡散層24bによって保持された触媒電極22bに到達する。
【0044】
図4に示すように、空気又は酸素35が、流路をもつ空気又は酸素供給部(セパレータ)60の入口26bから通路27bへと流され、ガス拡散層24bを通って、ガス拡散層24bによって保持された触媒電極22aに到達し、図4の下方に示すカソード反応に従って、触媒電極22b上で水素イオン、電子、酸素が反応し、水が生成され、水を含む排ガス29bが出口28bら排出される。図4の下方に示すように全反応は、メタノールと酸素から電気エネルギーを取り出して水と二酸化炭素を排出するというメタノールの燃焼反応となる。
【0045】
図5は、本発明の実施の形態におけるPEFC(高分子電解質型燃料電池)の構成例を説明する断面図である。
【0046】
図5に示すように、加湿された水素ガスが燃料25として、燃料供給部50の入口26aから通路27aへと流されガス拡散層24aを通って、触媒電極22aに到達し、図5の下方に示すアノード反応に従って、触媒電極22a上で水素ガスから水素イオン、電子が生成され、余剰の水素ガスを含む排ガス29aが出口28aから排出される。生成された水素イオンは、プロトン伝導性複合電解質によって形成された高分子電解質膜23中を、生成された電子はガス拡散層24a、外部回路70を通り、更に、ガス拡散層24bを通って触媒電極22bに到達する。
【0047】
図5に示すように、空気又は酸素35が、空気又は酸素供給部60の入口26bから通路27bへと流され、ガス拡散層24bを通って触媒電極22aに到達し、図5の下方に示すカソード反応に従って、触媒電極22b上で水素イオン、電子、酸素が反応し、水が生成され、水を含む排ガス29bが出口28bら排出される。図5の下方に示すように全反応は、水素ガスと酸素から電気エネルギーを取り出して水を排出するという水素ガスの燃焼反応となる。
【0048】
図4、図5において、高分子電解質膜23は、プロトン伝導性複合電解質が結着剤(例えば、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、等…)によって結着されて形成されている。高分子電解質膜23によって、アノード20とカソード30が隔てられ、高分子電解質膜23を通して水素イオンや水分子が移動する。高分子電解質膜23は、水素イオンの伝導性が高い膜であり、化学的に安定であって機械的強度が高いことが好ましい。
【0049】
図4、図5において、触媒電極22a、22bは、集電体である導電性の基体を構成し、ガスや溶液に対して透過性をもったガス拡散層24a、24b上に密着して形成されている。ガス拡散層24a、24bは、例えば、カーボンペーパー、カーボンの成形体、カーボンの焼結体、焼結金属、発泡金属等の多孔性基体から構成される。燃料電池の駆動によって生じる水によるガス拡散効率の低下を防止するために、ガス拡散層は、フッ素樹脂等で撥水処理されている。
【0050】
触媒電極22a、22bは、例えば、白金、ルテニウム、オスミウム、白金−オスミウム合金、白金−パラジウム合金等からなる触媒が担持された担体が、結着剤(例えば、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、等…)によって結着され形成されている。担体として、例えば、アセチレンブラック、黒鉛のような炭素、アルミナ、シリカ等の無機物微粒子が使用される。結着剤を溶解させた有機溶剤に炭素粒子(触媒金属が担持されている。)が分散された溶液を、ガス拡散層24a、24bに塗布し、有機溶剤を蒸発させて結着剤によって結着された膜状の触媒電極22a、22bが形成される。
【0051】
高分子電解質膜23が、ガス拡散層24a、24b上に密着して形成された触媒電極22a、22bによって挟持され、膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)40が形成されている。触媒電極22a、ガス拡散層24aによってアノード20が構成され、触媒電極22b、ガス拡散層24bによってカソード30が構成されている。アノード20及びカソード極30は高分子電解質膜23に密着し、炭素粒子の間にプロトン伝導体が入り込み、触媒電極22a、22bに高分子電解質(プロトン伝導体)を含浸させた状態となって、触媒電極22a、22と高分子電解質膜23とが密着して接合され、接合界面で水素イオンの高い伝導性が保持され、電気抵抗が低く保持される。
【0052】
なお、図4、図5に示した例では、燃料25の入口26a、排ガス29aの出口28a、空気又は酸素(O2)35の入口26b、排ガス29bの出口28bの各開口部が、高分子電解質膜23、触媒電極22a、22bの面に垂直に配置されているが、上記の各開口部が、高分子電解質膜23、触媒電極22a、22bの面に平行に配置されている構成とすることもでき、上記の各開口部の配置に関して種々の変形が可能である。
【0053】
図4、図5に示す燃料電池の製造は、各種文献に公知されている一般的な方法を利用できるので、製造に関する詳細な説明は省略する。
【0054】
次に、イオン伝導性複合電解質膜に関する実施例について説明する。以下の各実施例、各比較例では、PVdF−HFP共重合体として、PVdF:HFP(モル比)が90:10であるものを使用した(図3において、n:m=90:10である。)。
【0055】
また、対数粘度[η]は、PVdF−HFP共重合体4gを1リットルのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液(試料溶液の濃度C=(4g/L))の30℃における粘度の測定値をηmとし、ηmの自然対数を試料溶液の濃度Cで除した、[η]=ln(ηm)/Cによって求めた。粘度ηmは、粘度計(レオストレス600、HAAKE社製)を使用し、剪断速度(角速度)を0〜2000(sec-1)と変化させシアストレス(shear stress)が一定となった部分から粘度ηm(Pa・s(パスカル秒))を求めた
【実施例】
【0056】
PVdF−HFP共重合体の対数粘度とフラーレン誘導体を用いた電解質膜の特性、及び、これを用いた燃料電池の特性について説明する。はじめに、電解質膜の作製について説明する。
【0057】
[実施例1]
本実施例で使用したPVdF−HFP共重合体の対数粘度は[η]=2([η]の次元である(dL/g)は省略する。以下、同様とする。)であり、また、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた結果、55万であった。
【0058】
イオン伝導体として図2で説明したフラーレン誘導体を使用し、次のようにして、電解質膜を作製した。フラーレン誘導体をガンマブチロラクトンに添加し2時間攪拌して分散させた。なお、シクロペンタノン、アセトン、プロピレンカーボネート等の有機溶媒を使用することもできる。この分散液に、フラーレン誘導体の重量に対して結着剤としてPVdF−HFP共重合体粉末を30wt%添加し、80℃で3時間以上攪拌し、フラーレン誘導体を均一に分散させた。
【0059】
このようにして得られたフラーレン誘導体及び結着剤を含む分散液を基材(ガラスを使用したが、ポリイミドフィルム、PETフィルム、PPフィルム等も使用することができる。)上にドクターブレードを用いて均一に伸ばし、クリーンベンチ中でゆっくりと乾燥させ薄膜を形成させた。更に、この薄膜を60℃に保持された乾燥機中で3時間乾燥させた後、乾燥された薄膜を基材からはがして電解質膜を得た。このようにして、厚さ15μmの電解質膜を作製した。
【0060】
電解質膜の厚さは、上述の分散液中の結着剤の濃度(溶媒に対する結着剤の濃度、1wt%〜30wt%)、単位面積当たりの塗布量を変化させることによって、3μm〜50μm程度の範囲で制御することができる。
【0061】
[実施例2]
本実施例で使用したPVdF−HFP共重合体の対数粘度は[η]=5であった。これを使用して、実施例1と同様にして、厚さ15μmの電解質膜を作製した。
【0062】
[実施例3]
本実施例で使用したPVdF−HFP共重合体の対数粘度は[η]=10であった。これを使用して、実施例1と同様にして、厚さ15μmの電解質膜を作製した。
【0063】
[比較例1]
本比較例で使用したPVdF−HFP共重合体の対数粘度は[η]=1であった。これを使用して、実施例1と同様にして、厚さ15μmの電解質膜を作製した。
【0064】
[比較例2]
本比較例で使用したPVdF−HFP共重合体の対数粘度は[η]=1.5であった。これを使用して、実施例1と同様にして、厚さ15μmの電解質膜を作製した。
【0065】
なお、実施例1で使用したPVdF−HFP共重合体の対数粘度の[η]=2、分子量の値55万を使用し、単純に対数粘度[η]が分子量に仮定するものとすると、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2におけるPVdF−HFP共重合体の対数粘度は、はそれぞれ、28万、41万、138万、275万となる。
【0066】
<電解質膜の引っ張り試験>
以上のようにして作製された電解質膜の引っ張り試験を行なった。引っ張り試験は、長さ30mm、幅10mm、厚み15mmの試験片を使用し、引っ張り試験機インストロン5564型(INSTRON社製)を用いて、温度25℃、相対湿度45%、引っ張り速度60mm/minで行った。結果を次に示す。
【0067】
図6は、本発明の実施例における、高分子材料(PVdF−HFP共重合体)の対数粘度と電解質膜の引っ張り強度の関係を説明する図である。図6において、横軸は歪(%)、縦軸は応力(MPa)を示し、[η]は対数粘度を示す。
【0068】
図6において、左側より、実施例3([η]=10)、実施例2([η]=5)、実施例1([η]=2)、比較例2([η]=1.5)、比較例(1[η]=1)についての電解質膜の試験曲線を示している。これらの試験曲線から得られた結果を図7に示す。
【0069】
図7は、本発明の実施例における、高分子材料(PVdF−HFP共重合体)の対数粘度[η]とフラーレン誘導体を用いた電解質膜の破断伸びの関係を説明する図である。図7(A)は、PVdF−HFP共重合体の対数粘度[η]と破断伸び(%、相対値(比較例1に対する相対値で示す。))の関係を示し、図7(B)はこの関係を図示したものである。
【0070】
図7に示す結果から明らかなように、破断伸びの対数粘度[η]に対する変化は略直線を示すが、対数粘度[η]=2を境として、異なる直線によって示され、対数粘度は[η]≧2では緩やかに変化している。図7は、PVdF−HFP共重合体の対数粘度が高くなるほど、即ち、分子量が増大するほど、破断するまでの電解質膜の伸びが大きく、強度が増大しており、よく伸びる膜になっていることを示している。
【0071】
次に、実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2による電解質膜の特性と、電解質膜を実装した燃料電池の特性について説明する。
【0072】
<電解質膜の膨潤度測定>
電解質膜の特性の1つとして膨潤度を測定した。膨潤度測定は、電解質膜を60℃に保持されたドライルーム内で12時間以上、減圧乾燥した後、重量(Wdry)を測定した。続いて、この乾燥されている電解質膜を純水中に1時間以上浸漬した後、取り出し、電解質膜の表面の水分を除去した後、重量(Wwet)を測定した。膨潤度は(Wwet−Wdry)/Wdry)×100として求めた。
【0073】
<燃料電池の特性>
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2による電解質膜を用いた燃料電池を、次のようにして作製した。
【0074】
白金担持カーボン(田中貴金属社製)を Nafion(デュポン社、登録商標)の分散液に分散させ粘度を調整して触媒インクを作製し、これをカーボンペーパー(東レ製)からなるガス拡散層に塗布してカソード側の触媒電極を作製した。また、白金ルテニウムブラック(BASF社製)を Nafion(デュポン社、登録商標)の分散液に分散させ粘度を調整して触媒インクを作製し、これをカーボンペーパー(東レ製)からなるガス拡散層に塗布してアノード側の触媒電極を作製した。
【0075】
電解質膜に、アノード側及びカソード側のガス拡散層を、130℃で15分間、0.5kNの圧力で接合して、膜電極接合体(電解質膜−触媒電極、MEA)を形成した。
この膜電極接合体を用いて単位セルを構成し、特許文献9の図10に記載されたものと同様な、単位セルを3列×2行で二次元に配列された平面スタック型燃料電池を作製した。この平面スタック型燃料電池のアノード側に燃料として100%メタノールを供給し、カソード側に酸化剤として空気を自然吸気により供給した。なお、この燃料電池は、先述した図4に示す直接型燃料電池と同じように動作する。
【0076】
以上のようにして作製された燃料電池の特性測定を行い、同時に燃料電池の単位セルの温度を測定した。結果を次に示す。
【0077】
図8は、本発明の実施例における、PVdF−HFP共重合体の対数粘度[η]と電解質膜の特性及び燃料電池の特性の関係を説明する図である。図8(A)はPVdF−HFP共重合体の対数粘度[η]と、燃料電池の平均出力(W)、出力維持率(%)、電極の剥離状態、及び、電解質膜の膨潤度(%)の関係を示し、図8(B)、図8(C)はこれらの関係を図示したものである。
【0078】
図9は、本発明の実施例における、電解質膜の膨潤度と出力維持率及び平均出力の関係を説明する図であり、この関係(図9(A)に示す。)を図示したものである。
【0079】
図8、図9において、平均出力は2時間の発電における出力の平均値を示し、出力維持率は、発電を1時間つづけその後1時間停止するという繰り返しを300回繰り返し行う起動停止試験の終了時における出力を、発電開始初期の出力に対する百分率で示すものである。また、図9に示す電極破壊は、起動停止試験の終了後、燃料電池の単位セルを解体した際に、触媒電極と電解質膜が剥離してしまうものを「×」印、しっかりと接合されているものを「○」印で示している。
【0080】
図8(B)、図8(C)に示すように、平均出力及び出力維持率は、対数粘度[η]の増加と共に増大し、対数粘度[η]=2までは急激に増大変化し、対数粘度[η]=2以上では、非常に緩やかに増大する。
【0081】
また、図8(C)に示すように、電解質膜の膨潤度は、対数粘度[η]の増加と共に減少し、対数粘度[η]=2までは急激に減少変化し、対数粘度[η]=2以上では、非常に緩やかに減少し略一定の値を示す。
【0082】
図9に示すように、電解質膜の膨潤度と平均出力及び出力維持率との関係を見ると、平均出力及び出力維持率は電解質膜の膨潤度によって大きく変化している。しかし、電解質膜の膨潤度が小さく1.4%以下となると、即ち、電解質膜の作製に用いたPVdF−HFP共重合体の対数粘度[η]が2以上である場合には、平均出力及び出力維持率は略一定値に近づくことを示している。
【0083】
以上説明したように、電解質膜の作製に用いたPVdF−HFP共重合体の対数粘度が[η]≧2と大きい場合には、作製された電解質膜の強度が高くなり、ハンドリング性能が向上した結果、平均出力が向上している。
【0084】
また、燃料電池の特性測定と同時に測定した単位セルの温度は、電解質膜の作製に用いたPVdF−HFP共重合体の対数粘度[η]が大きい電解質膜の方が低くなっており、電極エッジ部分の破損による燃料のクロスオーバーが抑えられていることを裏付けている。
【0085】
燃料電池の特性測定後、単位セルを解体した際に、電解質膜の作製に用いたPVdF−HFP共重合体の対数粘度[η]が小さい電解質膜は、電極エッジ部分で破断している箇所がみられた。
【0086】
図8、図9に示す出力維持率の向上は、電解質膜の作製において、対数粘度[η]が大きなPVdF−HFP共重合体を結着剤として使用することにより、電解質膜の膨潤が抑制された結果、触媒電極からの剥離が抑制されたためである。
【0087】
以上説明したように、分子量が55万以上(対数粘度[η]が2以上)であるPVdF−HFP共重合体を用いて電解質膜を形成することによって、この電解質膜を燃料電池へ組み込んだ際、電解質膜の亀裂等の発生が減少し、燃料電池の発電特性が向上し、電解質膜の膨潤が抑制できた結果、起動停止試験結果が示すように、起動停止による劣化を抑制することができた。即ち、フラーレン誘導体を用いた実施例1、実施例2、実施例3に示す電解質膜は、湿潤度が低下し強度が向上する等の優れた特性を有しており、また、燃料電池に実装され稼動状態における電解質膜のプロトン伝導性も損なわれておらず、この電解質膜を備える燃料電池も優れた特性を有している。
【0088】
次に、PVdF−HFP共重合体の対数粘度とピッチ材料を用いた電解質膜の特性、及び、これを用いた燃料電池の特性について説明する。
【0089】
イオン解離性官能基を含有する炭素クラスターとして、スルホン酸基を導入したピッチ材料(スルホン化ピッチ)を使用し、以下に説明するようにして、電解質膜を作製した。
【0090】
このスルホン化ピッチは、次のようにして合成されたものである。コールタール(和光純薬製、10g)を丸底フラスコに量り取り、フラスコ内部を窒素フローにより置換し、フラスコごと氷浴につけ、攪拌子で緩やかに攪拌する。フラスコをよく氷浴させたまま、これにゆっくりと25%発煙硫酸(和光純薬製)200mLを発熱しないように注意深く滴下する。更に、フラスコを氷浴に付けたまま室温下にて激しく攪拌する。3時間後、フラスコを氷浴につけたまま、温度が過熱しないように注意深くイオン交換水(500mL)を加える。得られた懸濁液の遠心分離を行い、上澄みを除去する。このような、イオン交換水(500mL)を加え得られた懸濁液の遠心分離を行い、上澄みを除去する操作(洗浄操作)を5回以上行う。上澄み水溶液から硫酸イオンが十分に除去されていることを確認した上で、得られた沈殿物を常温にて真空乾燥させることによって、黒色(やや茶褐色)の凝集物(7g)を得る。得られた凝集物を、ボールミル(フリッチュ社製)を用いて粉砕し、32μmのメッシュパスにより微粉末を回収した。
【0091】
このようにして得られたスルホン化ピッチの有機元素分析の結果は、炭素(C)が44.5wt%、水素(H)が3.38wt%、硫黄(S)が14.97wt%、窒素(N)が0wt%であった。この分析結果から、硫黄(S)が全てスルホン化している場合にはスルホン酸密度が4.68mmol/gであると計算された。
【0092】
[実施例4]
以上説明したスルホン化ピッチを試用して、電解質膜は次のようにして作製した。スルホン化ピッチをガンマブチロラクトンに添加し2時間攪拌して分散させた。なお、シクロペンタノン、アセトン、プロピレンカーボネート等の有機溶媒を使用することもできる。この分散液に、スルホン化ピッチの重量に対して結着剤として、実施例1で使用したPVdF−HFP共重合体(対数粘度[η]=2)を30wt%添加し、80℃で3時間以上攪拌し、スルホン化ピッチを均一に分散させた。
【0093】
このようにして得られたスルホン化ピッチ及び結着剤を含む分散液を基材(ガラスを使用したが、ポリイミドフィルム、PETフィルム、PPフィルム等も使用することができる。)上にドクターブレードを用いて均一に伸ばし、クリーンベンチ中でゆっくりと乾燥させ薄膜を形成させた。更に、この薄膜を60℃に保持された乾燥機中で3時間乾燥させた後、乾燥された薄膜を基材からはがして電解質膜を得た。
【0094】
電解質膜の厚さは、上述の分散液中の結着剤の濃度(溶媒に対する結着剤の濃度、1wt%〜30wt%)、単位面積当たりの塗布量を変化させることによって、3μm〜50μm程度の範囲で制御することができる。
【0095】
[実施例5]
実施例2で使用したPVdF−HFP共重合体(対数粘度[η]=5)を使用して、実施例4と同様にして、厚さ15μmの電解質膜を作製した。
【0096】
[実施例6]
実施例3で使用したPVdF−HFP共重合体(対数粘度[η]=10)を使用して、実施例4と同様にして、厚さ15μmの電解質膜を作製した。
【0097】
[比較例3]
比較例1で使用したPVdF−HFP共重合体(対数粘度[η]=1)を使用して、実施例4と同様にして、厚さ15μmの電解質膜を作製した。
【0098】
[比較例4]
比較例2で使用したPVdF−HFP共重合体(対数粘度[η]=1.5)を使用して、実施例4と同様にして、厚さ15μmの電解質膜を作製した。
【0099】
<電解質膜の引っ張り試験>
以上のようにして作製された電解質膜の引っ張り試験を行なった。引っ張り試験は、先に説明した、フラーレン誘導体を用いた電解質膜に対する引っ張り試験と同様にして行った。結果を次に示す。
【0100】
図10は、本発明の実施例における、高分子材料(PVdF−HFP共重合体)の対数粘度とピッチ材料を用いた電解質膜の破断伸びの関係を説明する図である。図11(A)は、PVdF−HFP共重合体の対数粘度と破断伸び(%、相対値(比較例3に対する相対値で示す。)の関係を示し、図11(B)はこの関係を図示したものである。
【0101】
図10に示す結果は、図7に示すフラーレン誘導体を用いた電解質膜の伸びと同様の結果を示し、破断伸びは対数粘度[η]=2を境として、異なる挙動を[η]に対して示しており、PVdF−HFP共重合体の対数粘度が高くなるほど、即ち、分子量が増大するほど、破断するまでの電解質膜の伸びが大きく、強度が増大している。
【0102】
<燃料電池の特性>
実施例4、実施例5、実施例6、比較例3、比較例4による電解質膜を用いた燃料電池(平面スタック型燃料電池)を、実施例1〜実施例3、比較例1、比較例2による電解質膜を用いた燃料電池(平面スタック型燃料電池)の場合と同様にして作製した。作製された燃料電池の特性測定を、実施例1〜実施例3、比較例1、比較例2による電解質膜を用いた燃料電池の特性評価と同様にして行った。結果を図11に示す。
【0103】
図11は、本発明の実施例における、高分子材料(PVdF−HFP共重合体)の対数粘度とピッチ材料を用いた電解質膜を実装した燃料電池の特性の関係を説明する図である。図11において、横軸は電解質膜の形成に用いたPVdF−HFP共重合体の対数粘度[η]を示し、縦軸は燃料電池の相対出力値([η]=10の場合を基準とする。)を示す。
【0104】
図11に示す結果は、図8に示すフラーレン誘導体を用いた電解質膜を実装した燃料電池の出力特性の結果に非常に類似しており、出力は、電解質膜の形成に用いたPVdF−HFP共重合体の対数粘度[η]=2を境として、急激に増大しており、電解質膜の作製に用いたPVdF−HFP共重合体の対数粘度が[η]≧2と大きい場合には、作製された電解質膜の強度が高くなり、ハンドリング性能が向上した結果、出力が向上している。
【0105】
また、実施例1、実施例2、実施例3に示すフラーレン誘導体を用いた電解質膜と同様に、ピッチ材料を用いた実施例3、実施例4、実施例5に示す電解質膜も優れた特性を有しており、従って、この電解質膜を実装した燃料電池も優れた特性を有している。
【0106】
図8、図11に示す結果から明らかなように、電解質膜の作製に用いたPVdF−HFP共重合体の対数粘度[η]が3以上である場合には、燃料電池の出力は、確実に略一定値に近いものとなっている。
【0107】
以上説明した実施例によって得られた、電解質膜の強度、湿潤度の結着剤の対数粘度[η]による変化、及び、電解質膜を用いた燃料電池の出力の結着剤の対数粘度[η]による変化はそれぞれ、本発明によって初めて見出されたものであり、この結果、プロトン伝導性を損なうことなく電解質膜の強度を向上させることができ、これを用いて優れた出力特性を有する燃料電池が実現できるようになった。
【0108】
なお、以上の説明では、電解質としてフラーレン誘導体、ピッチ材料を用い、結着剤としてPVdF−HFP共重合体を例にとって説明したが、他の電解質、他のフッ素系樹脂を結着剤とする電解質膜にできようで切ることは言うまでもない。
【0109】
以上、本発明を実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれは、燃料電池に好適に適用可能なイオン伝導性電解質膜を提供することができる。
【符号の説明】
【0111】
20…アノード、22a、22b…触媒電極、23…高分子電解質膜、
24a、24b…ガス拡散層、25…燃料、26a、26b…入口、
27a、27b…通路、28a、28b…出口、29a、29b…排ガス、
30…カソード、35…空気又は酸素、40…膜電極接合体、50…燃料供給部、
60…空気又は酸素供給部、70…外部回路
【先行技術文献】
【特許文献】
【0112】
【特許文献1】特開2005−093417号公報(段落0022、段落0056〜0072)
【特許文献2】特開2006−79944号公報(段落0017〜0019、段落0028〜0029、段落0034〜0035)
【特許文献3】特開2007−257882号公報(段落0132〜0137)
【特許文献4】特開2009−13377号公報(段落0031〜0032)
【特許文献5】特開2009−43674号公報(段落0028〜0030)
【特許文献6】特開2005−68124号公報(段落0087〜0106)
【特許文献7】特開2008−108677号公報(段落0015〜0049、図1〜図10)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン解離性基を有するカーボンクラスターと、
550000以上の重量平均分子量を有し、対数粘度が2dL/g以上であるフッ素
系ポリマーと
が混合されてなるイオン伝導性複合電解質膜。
【請求項2】
前記フッ素系ポリマーの対数粘度が10dL/g以下である、請求項1に記載のイオン伝導性複合電解質膜。
【請求項3】
前記フッ素系ポリマーの対数粘度が3dL/g以上である、請求項2に記載のイオン伝導性複合電解質膜。
【請求項4】
前記フッ素系ポリマーが15wt%以上、95wt%以下の割合で混合されてなる、請求項1に記載のイオン伝導性複合電解質膜。
【請求項5】
前記フッ素系ポリマーが、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のイオン伝導性複合電解質膜。
【請求項6】
前記イオン解離性基がプロトン解離性基である、請求項1に記載のイオン伝導性複合電解質膜。
【請求項7】
前記プロトン解離性基が、ヒドロキシル基(−OH)、スルホン酸基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン基(−PO(OH)2)、リン酸二水素エステル基(−O−PO(OH)2)、ホスホノメタノ基(=CH(PO(OH)2))、ジホスホノメタノ基(=C(PO(OH)22)、ホスホノメチル基(−CH2(PO(OH)2))、ジホスホノメチル基(−CH(PO(OH)22)、ホスフィン基(−PHO(OH))、ジスルホノメタノ基(=C(SO3H)2)、ビススルホンイミド基(−SO2NHSO2−)、スルホンアミド基(−SO2NH2)、−PO(OH)−、−O−PO(OH)−からなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項6に記載のイオン伝導性複合電解質膜。
【請求項8】
前記カーボンクラスターが、フラーレン誘導体又はスルホン化ピッチである、請求項1に記載のイオン伝導性複合電解質膜。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れか1項に記載のイオン伝導性複合電解質膜が対向電極に挟持された、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−34829(P2011−34829A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180513(P2009−180513)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】