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イオン分析装置及びその使用方法
説明

イオン分析装置及びその使用方法

本発明は、微分型イオン移動度分析及び質量分析を実行するイオン分析装置に関する。実施形態において、装置は、微分型イオン移動度デバイスを質量分析器の真空空間内の、質量分析器よりも前段に備える。また、装置の排気システムは微分型イオン移動度デバイスを0.005kPaから40kPaの圧力で操作するように構成される。さらに装置は、50kHzから25MHzの周波数帯域の周波数を与えるデジタル非対称波形生成器を含む。実施例は優れた分解能とイオン通過を示す。イオン移動度デバイスは多重極、例えば十二重極とすることができ、径方向のイオン収束は双極子場に加えて四重極電場をデバイスに与えることにより達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微分型イオン移動度分析と質量分析装置、特に、質量分析を用いた微分型移動度分析の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
微分型イオン移動度分析(DMS)はイオン移動度分析(IMS)の原理に基づく技術である。IMSでは、イオンは定圧のガス媒質を通り、軸方向に一定の電場によって導かれる。荷電種を加速する電場の推進力と、イオンとガス分子が衝突することによる減衰力の兼ね合いにより、与えられた電場方向のイオンの平均ドリフト速度が定まる。
【0003】
イオン移動度は、与えられた電場に対する、IMSセルに入射されたイオン群の平均ドリフト速度の比(K=uAV/E)によって定義される。従って、所定の長さを通過するイオンのドリフト時間は与えられる電場と移動度によって定まる。後者には、イオンの衝突断面積のほかにイオンとガス媒体を含む分子の間の相互作用の状態も反映されている。それぞれ異なる衝突断面積を有する複数種のイオンは、ガス媒体との相互作用(の違い)にも依存して、異なる平均速度でセルを通過する複数のグループに分かれる。IMSにおける分離は主としてイオンの体積/電荷比の違いによってなされる。
【0004】
IMSにおける最近の開発は主として、質量分析法(MS)を用いた分子量の決定とともになされる巨大分子の構造解析を含む応用によって推進されている。IMSを複雑な試料の分析における必須のツールとして確立した別の特徴は、化合物の同重体(つまり、同一のm/z比を持つ化合物)を分離する点と、マススペクトルのS/N比を高める点にある。
【0005】
いわゆるIMS-MS装置では、イオン移動度ドリフトセルは質量分析計の前段部で、質量分析計の真空部の外に取り付けられ、大気圧で使用される。そのため、移動度の分離は大気圧イオン化源で生成されたイオンに限定される。大気圧IMSでは、拡散によりイオンビームが広がり、典型的には直径0.2から0.5mmという小さな開口部をイオンが通過する際の、MSインターフェースにおけるサンプリング効率に悪影響を及ぼすため、質量分析計の真空部へのイオン導入効率が低いという難点がある。
【0006】
低圧では拡散がより支配的になり、イオン損失が大きくなるが、イオンを再び集めるためにIMSデバイスの後段にイオン光学デバイスを挿入することができる。これにより、複雑な混合物の分析に用いることができるIMS装置及び技術の範囲を飛躍的に広げる低圧及び真空IMSの開発を可能にした。中間圧IMSセルは、大気圧イオン化源だけでなく、あらゆる真空イオン化源との相性がよい。イオン移動度に基づくイオン分離は0.1mtorr程度の低圧で行われている。大気圧IMSと同じく、IMSドリフトセルとイオン光学系を出たイオンは質量分析計の前段部に運ばれる。
【0007】
イオン移動度Kは、与えられる電場と圧力の変化に対して非線形に変化する。この依存性は通常、数式(1)(非特許文献1)のようにパラメータE/Nの偶数乗で移動度Kを級数展開することによって近似される。ここで、Eは電場であり、Nはガス数密度である。
K(E/N)=K(0)[1+α2(E/N)24(E/N)4+...]・・・(1)
【0008】
ゼロ電場極限におけるイオン移動度K(0)は閾値を定義するのに用いることができ、その閾値以下では、平均ドリフト速度を電場に対して線形に見積もることができる。つまり、イオン移動度K(0)は一定であり、速度は電場に正比例してuAV=K(0)Eとなる。大気圧において使用されるドリフトセルは通常、ゼロ電場極限よりも下で使用され、ガスを通じてイオンをガイドするために必要な電場の勾配は、減圧下で使用されるドリフトセルに比べて大きい。減圧使用時には、E/Nの値はKの非線形範囲に広がりうる。イオンは数式(1)と、対応する移動度係数あるいはKのE/N依存性を決めるアルファ係数を用いて分類される。Aタイプのイオンではα2>0、α4>0であり、移動度はE/Nとともに増加する。Cタイプのイオンではその効果は逆転して移動度はE/Nとともに減少し、α2<0、α4<0となる。Bタイプのイオンはより複雑な挙動を示し、α2>0、α4<0となる。イオン移動度におけるイオン−分子相互作用の基本特性をパラメータの比E/Nに対するKの依存性により明らかにするため、タウンゼント単位(Townsend unit, Td)が導入される。ここで、1Td=10-21Vm2である。
【0009】
ドリフトセルIMSを用いた初期の研究から、イオン種の移動度特性に基づいてイオンを分離するいくつかの技術が開発されている。特に、電場非対称イオン移動度分析(field asymmetric ion mobility spectrometry: FAIMS)(非特許文献2)としても知られる微分型イオン移動度分析(differential mobility spectrometry: DMS)(非特許文献3)は、電場とガス密度E/Nに対するイオン移動度Kの依存性を用いる。IMSとは対照的に、DMSではイオンはガスの流れに引き込まれ、高電場と逆極性の低電場が交互に切り替わる周期的な非対称波形の存在下で振動する。電場は、ガスが流れる方向に対して垂直な方向に与えられる。高移動度と低移動度の差に依存する波形サイクル単位で、イオンは平均的に正味に変位する。その結果、イオンは徐々に軸外にドリフトし、ガスの流れを閉じ込めている電極上で電荷を失う。この変位をDC電圧によって補償すると、所定の移動度依存性を有するイオンはデバイスを通過することができる。一定の大きさの補償電圧と波形周波数を走査し、電位計を用いるか、質量分析計の前段部に通過したイオンを導入することで通過したイオンを収集することにより、スペクトルを得ることができる。
【0010】
これまで、ガスの流れを横断する方向にイオンを収束する能力に応じて、2つの基本的なDMSシステムが開発されている。第1のタイプでは、イオンは、同軸配置され、異なる半径を有する2つの同心円筒の間に制限されたガスの流れによって運ばれる。非対称波形と補償電圧は通常、内側の電極に与えられる。2つの円筒状の電極の間に形成される対数電場は横方向にイオンを収束し、波形を大きくすると高い通過率が維持される(非特許文献4)。第2の形態では、イオンは2枚の平行な板の間で振動するように力を受ける。2枚の平行な板のうちの一つには非対称で周期的な波形と補償電圧が流され、反対側の電極は接地される。2枚の板の間に形成される双極子場は収束特性を持たず、電極上での損失イオン数は非対称波形の大きさに概ね比例する。このような双極子場を通過させることは、E/Nに対するKの非線形依存性のタイプによって分類される全てのタイプのイオンについて可能であり、通過が選択的になる、つまり所定の波形に対して特定のタイプのイオンのみが通過可能である、円筒形デザインとは対照的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許公開公報第2003/0020012号
【特許文献2】国際公開公報第02/50866号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】E.A Mason, E.W. McDaniel, Transport Properties of Ions in Gases; Wiley, 1988
【非特許文献2】R.W. Purves, et al, Rev. Sci. Instrum., 69, 4094, 1998
【非特許文献3】I.A. Buryakov, et al, Int. J. Mass Spectrom. Ion Processes, 128, 143, 1993
【非特許文献4】R. Guevremont, R.W. Purves, Rev. Sci. Instrum., 70, 1370, 1999
【非特許文献5】Shvartsburg et al, J. Am. Soc Mass Spectrom. 2005, 16, 2-12
【非特許文献6】E.G. Nazarov et al, Anal in Chem., 78, 7697, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者は、従来、DMSの性能と応用が、この比較的新しい技術に関連する数多くの欠点によって制約されていることを見出した。特に、IMSとは異なり、文献に記載されているDMSデバイスは、もっぱら大気圧あるいは準大気圧においてのみ使用されており、質量分析器の真空空間の外部に接続されて用いられてきた。
【0014】
一般的に、MSの入口(例えばキャピラリや臨界オリフィス)における排気速度は1Lmin-1程度であり、これがDMSデバイスやFAIMSデバイスの板間のギャップを通じてゆっくりと排気するのに適した速度であることが見出された。これにより分離を起こさせるのに必要な層流条件が得られる。
【0015】
しかし、一定流量で使用すると、DMSを通るイオンの所定の滞留時間を簡便に調整して装置の能力を高めることができないという欠点がある。これは特にDMS電極間の分離ギャップもまた固定されている場合に顕著である。大気圧あるいは大気圧付近でDMSを使用し、分離を誘起するのに十分な高電場条件(〜100Td)を形成するためには、電極間の距離を可能な限り短くする必要があり、これが、システムのサンプリング効率に制限を与え、感度を低下させている。特に、エレクトロスプレーされたイオンを、DMSデバイスの狭いギャップを通過させ、質量分析してサンプリングする場合に問題となる。さらに、通過したイオンの電流が、エレクトロスプレーイオン化源で生成されるイオン電流よりもはるかに低い10pAを超えないことが実験的に示されている(非特許文献5)。要約すると、イオンの損失と、DMSに起因する、イオンの流れに対する制約のために、MSで分析に用いることができるイオンの数が非常に少なくなる。
【0016】
従来、DMSデバイスは大気圧"soft"イオン化源、特に1μLmin-1程度の比較的低流量で使用されるエレクトロスプレーイオン化源と組み合わせられてきた。この制約は、高流量でスプレーした場合、十分に蒸発させることができないと大きな液滴が形成されてしまうことに主に起因しており、この制約がDMSの性能を大きく低下させている。大気条件でこのようなデバイスを使用しても期待する性能を得ることができないため、MSプラットフォームの前段部としてDMSを用い、ハイスループットLCMS分析で要求されるような高流量で分析を行うことが目標とされ続けている。
【0017】
さらに、大気圧でDMSデバイスを使用する場合には、対象が不揮発性の塩を含まない清浄な試料と液体クロマトグラフィー(LC)バッファに制限される。生体液のような「汚れた」試料を直接分析すると、DMSの性能は急速に低下する。このようなタイプの試料と、LC分離を支援するために用いる不揮発性のバッファの併用に耐えうる強固なイオン化源が開発されているが、MSへのDMSインターフェースとは併用できずにいる。
【0018】
現在のDMS技術の別の制約は分解能の低さであり、これは補償電圧に関するピーク幅から測定される。その分解能は20程度に制限されており、明らかに、ドリフトセルIMSにおいて得られる分解能よりもかなり低い。今までDMSが使用されてきたE/N範囲が狭いために、分解能を改善する方法が限られている。
【0019】
特許文献1に記載のFAIMSデバイスでは、試料から生成した親イオンを通常の方法で質量分析し、衝突セルで生成したフラグメントイオンをFAIMS分離している。この場合、FAIMSデバイスの圧力を、衝突セルを使用する圧力と整合させる必要がある。具体的には、親イオンは低圧チャンバ内の第1の質量分析器を選択的に通り抜け、増圧下で使用される第2の圧力チャンバ内の衝突セルに入射され(第2の圧力チャンバは低圧チャンバ内に配置される)、衝突セル内で親イオンが断片化される。
【0020】
引き続き、第2段階の質量分析を行うために、第2の圧力チャンバから低圧チャンバへイオンを入射する前に、FAIMSによりフラグメントイオンは選別される。
【0021】
この配置は、同一のm/z比を持つフラグメントイオン(同重イオン)を分離することのみを目的として構成されており、そうしなければ第2の質量分析器で測定すると1本のスペクトル線として現れてしまう。従って、FAIMSデバイスの圧力範囲は、衝突セルの圧力によって制限される。実際に、第2の圧力チャンバへの専用の衝突ガス供給によってFAIMSデバイスの圧力が定まる。従って、使用可能な圧力範囲が狭く、それゆえ利用可能なE/N比の範囲も狭くなる。
【0022】
非特許文献6に記載された別のDMS配置では、イオンは平面電極システムを通って運ばれ、DMS内部の圧力は流路コントローラシステム、ニードルバルブ、及び小型のポンプを用いて調整することができる。DMSは質量分析器の外に配置されており、平面電極の間のギャップを通って運ばれたイオンは、DCバイアスによって2mmの入口穴を通過して質量分析器の入口オリフィスに向かうように偏向される。このシステムを用いた場合の有効な圧力範囲は0.4-1.55atm(405-1570.5mbar)とされている。0.6-0.8atmの圧力範囲では二量化が抑えられ、高分解能が得られることが見出された。本発明者はDMSから質量分析器へのイオンの輸送が、ガスの流れに大きく依存しており、MSインターフェースをまたぐ圧力差を抑えることが感度に大きな効果をもたらすことを見出した。つまり、Nazarovらにより調べられた圧力よりも低くすると、MSの入口キャピラリあるいはオリフィスを通じたDMSからのイオン輸送効率には逆効果になる。
【0023】
このように、現在、DMS及びFAIMSデバイスは大気圧及び/又は大気圧付近で使用されており、E/Nの値は100Td(1Td=10-21Vm2)程度に制限されている。この値は、1atm=1013.25mbar、300Kにおいて、0.5mmのギャップ間に約1220Vの電圧を印加することに相当する。このような圧力では、ブレイクダウンイベントが波形の大きさの上限に制約を与え、そのためにE/N比の利用可能範囲が制限される。さらに、DMSからMSへのイオン輸送効率も悪くなる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
最も一般的には、本発明は、DMSデバイス(例えばイオンのフィルタリングに非対称波形を利用するもの)を質量分析器の筐体の最初の排気ステージに位置させることを提案する。また、ある提案では、特定の圧力と波形周波数をDMSデバイスに与えることにより良好な分解能とイオン通過特性を達成する。さらに、別の提案では、多重極DMSデバイスを用い、双極子場を、多重極に与える、より高次の電場と組み合わせて用いることにより半径方向にイオンを収束させる。
【0025】
第1の態様では、本発明が提供するイオン分析装置は、
試料からイオンを生成するイオン化源と、
イオン検出器と
を備え、使用時に、イオンを前記イオン源から前記イオン検出器に向かってイオン光軸に沿って飛行させる装置であって、該装置がさらに、
微分型イオン移動度分光器を含む第1真空領域と、
質量分析器を含む第2真空領域と
を含む真空空間と
前記第2真空領域の圧力を前記第1真空領域の圧力よりも低くするように構成された排気手段と、
前記イオン化源を前記第1真空領域に接続するイオン入口穴と
を備え、
使用時に、質量分析の前に前記試料から生成したイオンの微分型イオン移動度分析を実行するように、前記イオン光軸上で前記第1真空領域が前記第2真空領域よりも前段に配置されており、
使用時に、前記微分型イオン移動度分光器を含む前記第1真空領域が0.005kPaから40kPaの範囲の圧力に設定され、前記微分型イオン移動度分光器が20kHzから25MHzの範囲の周波数を有する非対称波形により駆動されること
を特徴とする。
【0026】
本明細書において用いる「イオン光軸」という用語は当業者には馴染みのあるものであり、イオンが装置を通り抜ける間に通過する経路に関係するものである。イオン経路(イオン光軸)は部分的にあるいは全体的に直線状とすることができ、また部分的あるいは全体的に曲線状にすることもできる。
【0027】
後述するように、実施形態において、装置は非対称波形を生成する波形生成器を含む。つまり、微分型イオン移動度分光器、例えば、微分型イオン移動度分光器の少なくとも一つの電極に非対称波形を与えるように構成される。波形生成器と微分型イオンの望ましい特徴については本明細書において説明する。
【0028】
MSのこれら領域(例えば第1真空領域、本明細書ではDMS領域ともいう)において減圧下でDMSを使用することにより、真空チャンバの外部で使用される従来のDMSデバイスに比べて、E/N値の範囲を飛躍的に広げることができる。そして、ガスの流れを変形させ、MS真空インターフェースの入口穴キャピラリあるいはオリフィスを通じてイオンを輸送しなければならないという煩雑さもない。
【0029】
加えて、後述するパッシェン曲線(Paschen curve)を用いて示されるように、ブレイクダウン開始前に、減圧状態でより高いE/N値を達成することができる。
【0030】
さらに、波形の大きさを実質的に減少させることができる、より低圧の手段を用いると、はるかに高い周波数で波形を使用することができる。これは、出力が電圧と周波数に比例(P∞V2f)するためである。より高い周波数の非対称波形を使用すると、イオン振動振幅を抑えることができ、境界電極上で電荷を失うイオンの数を最小化でき、通過性を高めることができる。矩形非対称波形を用いる場合、例えば高電圧・高周波数スイッチを用いる場合、より低電圧、つまりより低電力消費にできることは特に利点である。
【0031】
質量分析器の真空空間内でイオンの微分型移動度分離を行う別の利点は、MSの入口穴あるいはキャピラリを通じて真空閉空間に放出されるガスの高速拡散を利用できる点である。このとき、適当な手段によりガスの流れを整えることにより、大気圧あるいは準大気圧におけるフィルタリングに比べて高速で適切なイオンのフィルタリングを行うことができる。
【0032】
質量分析器の第1排気ステージにおいてイオンの微分型移動度分析を行う特筆すべき利点は、例えばエレクトロスプレーイオン化(ESI)源において形成され、MSの温調入口キャピラリを通って運ばれる帯電した液滴や付加イオン、を完全に脱溶媒和できる点である。ESI DMSあるいはESI FAIMSを大気条件あるいは大気条件付近で使用する当業者には、DMSチャンネルを通じて運ばれる付加イオンがMSに入射する際に分解して、微分型イオン移動度スペクトルを複雑にし、分析全体の有効性を大きく低下させてしまうことが良く知られている。
【0033】
更に別の利点は、質量分析よりも前にMSの真空空間において微分型移動度分離を行うと、実用上、イオン化源を再設計する必要がなく、既存の外部イオン化源の構成を利用できる点にある。
【0034】
上記のように定めた特定の圧力と周波数帯域の組み合わせにより、特に良好な結果が得られることを見出した。本発明者は、これらの圧力と周波数範囲が、本明細書において定義する微分型イオン移動度分光器の有効な使用条件となることを見出した。実施形態では、圧力と周波数を特定の範囲内で選択することによって良好な分解能とイオン通過性が達成されている。対照的に、本発明者は、これらの範囲外の圧力及び周波数では分解能とイオン透過のいずれか、または両方が許容できないものになることも見出した。
【0035】
本明細書で記載する実施形態は、選別されたイオンの通過特性を最適化する、質量分析器に含まれる装置を検討する上でのDMSデバイスの配置や構成を示すものであり、分解能を制御可能にしたものである。これは様々な応用に有用な装置である。例えば、高分解能モードでは、補償電圧を走査して高品質な微分型移動度スペクトルを得ることができる。別の応用では、低分解能モードを、一つのグループのイオンを通過させ、他のグループのイオンを排除するように選択するために用いることができる。例えば、これは溶媒クラスターイオンを排除するために好適に用いることができる。後者の場合、DMSは質量分析器の性能を向上させるように機能る。このように、実施形態では、微分型移動度に従ってイオンのフィルタリングあるいは選択を行うのに有効な、質量分析器とDMSデバイスを含む装置を提供する。
【0036】
特に望ましい圧力範囲は0.01kPaから40kPaであり、より望ましくは0.01kPaから20kPa(0.1mbarから200mbar)、さらに望ましくは0.1kPaから20kPa(1mbarから200mbar)、最も望ましくは0.5kPaから5kPa(5mbarから50mbar)である。
【0037】
好ましくは、装置は、所望の圧力を与えるように構成された圧力制御手段を備える。例えば、そのような圧力制御手段として、本明細書に記載する排気手段及び/又はガスフロー手段を用いることができる。
【0038】
特に望ましい周波数帯域は0.5MHzから20MHzであり、より望ましくは0.1MHzから20MHz、さらに望ましくは0.25MHzから15MHz、さらに望ましくは0.3MHzから10MHz、最も望ましくは0.4MHzから8MHzである。
【0039】
実施形態では、装置は周波数コントローラを含み、周波数コントローラは本明細書に記載する周波数帯域を与えるように構成される。好ましくは、装置は、より詳しく後述するように波形生成器を備え、望ましくは、波形生成器は本明細書に記載する周波数範囲を生成するように構成される。これらの場合、波形生成器に周波数制御機能を付与することができる。実施形態では、例えばデジタル波形生成器により与えられるデジタル波形(後段参照)を用い、周波数はデジタル波形生成器によって制御される。
【0040】
本発明者は、大気圧において約100Tdという電気絶縁破壊限界によって、DMSデバイスを使用することができる、ガス媒質の数密度に対する電場が制限されていることに留意する。本明細書で記載する減圧下では、その範囲を広げることが可能であり、例えば、電気絶縁破壊のリスクなく500Tdにまで広げることが可能である。このようなE/Nの拡張は、分析性能を改善するために用いることができ、及び/又は印加電圧をより低くするように用いることもできる。好ましいことに、これにより非対称波形生成器の複雑さ、サイズ、及びコストを抑えることができる。
【0041】
本発明者は、特定の周波数帯域の非対称波形を使用し、特定の圧力範囲において使用することにより、性能を改善できることを見出した。特に、実施形態から、良好な分析性能が良好な通過特性と結びついていることが分かる。
【0042】
本明細書で定義する圧力と周波数の範囲は、複数の異なる圧力と周波数における分解能とイオン通過特性に関する研究の結果から本発明者により導き出されたものである。本発明者によって成された広範なシミュレーションにより、効果的なパフォーマンスを得ることができる圧力と周波数の「動作範囲(working region)」に関する知見が得られた。
【0043】
特に、本発明者は、シミュレーションとモデル実験から、例えば高電場条件から低電場条件への変化のような非対称波形の変化が生じた後に、イオン分布が定常状態のドリフト速度に達するのに要する時間に起因する、高周波数側の境界が存在することを見出した。定常状態のドリフト速度に達する時間が、波形が特定の状態(例えば高電場状態あるいは低電場状態)に対して長くなると、分解能が急激に悪化することを見出した。これが、波形周波数に上限を生じさせる。特に、本明細書において特定する周波数よりも高くなると、分解能が悪化する。
【0044】
低周波数側の境界や限界も本発明者により推定された。周波数が低すぎると、イオンの振動振幅が大きくなりすぎ、イオンの損失が大きくなることが確認された。特に、本明細書において特定する周波数よりも低いと、イオン通過特性が悪くなる。
【0045】
高圧側の境界に関し、本発明者はE/Nの値を真空DMSの利点を十分に引き出せる範囲内に維持する、つまりイオン移動度K(E/N)を非線形領域内にするためには、印加電圧を圧力に比例させなければならないことを確認した。ある特定の圧力よりも高くなると、電圧はガスの電圧破壊を引き起こすほどに高くなる。
【0046】
低圧側の境界に関し、本発明者は、ガスの流れが、DMSチャンネルを通じて効率よくイオンを通過させるために十分な層流でなければならないことを見出した。特に、本明細書で特定するよりも低い圧力ではイオン通過が悪くなるか、あるいはイオン通過が起こらない。
【0047】
このような圧力及び周波数の境界を合わせて「動作領域(working region)」と定義する。この動作領域内で使用する実施形態では、良好な分解能とイオン通過の両方を達成することができた。
【0048】
さらに、いくつかの場合において、本発明者は、圧力を決めると効果的な周波数帯域が決まる、またその逆も成り立つことを見出した。
【0049】
このように、所定の分析ギャップdで使用するデバイスを用いると、非対称波形の周波数を変化させて、様々な移動度の値を持つ複数のイオンから、ある特定のイオンを選択することができる。また、使用領域を、低、中、及び高移動度の領域の中から変更することができる。
【0050】
好ましくは、非対称波形の周波数、例えばデジタル駆動波形(後段参照)を使用時に変更する。特に望ましくは、周波数は、低、中、及び高移動度の異なる使用領域の間で変化させる。つまり、実施形態では、装置は可変波形生成器を含み、好ましくは使用時に、波形や波形の周波数を変化するように構成する。このような実施形態は、固定周波数生成器を用いて非対称波形を生成する従来のデバイスに比べ大幅に柔軟性を有する。
【0051】
別の実施形態では、波形の周波数は測定毎に調節される。例えば、試料に応じて調整される。
【0052】
微分型イオン移動手段の分析ギャップdの典型的な値は1mmから25mmの範囲であり、望ましくは、2mmから20mm、更に望ましくは5mmから15mmの範囲である。
【0053】
本発明者は、dの値に応じて、性能を最大限発揮させるように圧力及び/又は周波数を調整できることを見出した。
【0054】
dが非常に小さな値である場合、例えば1mm以上2.5mm未満である場合、特にdが約2mmである場合には、0.7kPaから27kPaの圧力範囲及び/又は0.3Mhzから20MHzの周波数帯域とすることが望ましい。より望ましい範囲は2kPaから10.5kPa及び/又は1.5MHzから5MHzである。特に効果的な圧力は約5.9kPaであり、特に効果的な周波数は約2.5MHzである。
【0055】
dが小さな値、例えば2.5mm以上7.5mm未満である場合、特に4mmから6mmである場合、さらにはdが約5mmである場合には、0.4kPaから13.2kPaの圧力範囲及び/又は0.2MHzから10MHzの周波数帯域とすることが望ましい。より望ましい範囲を0.5kPaから6.6kPa及び/又は0.6MHzから2.5MHzである。特に効果的な圧力は2.6kPaであり、特に効果的な周波数は1MHzである。
【0056】
dが中間的な値、特に7.5mm以上15mm未満の範囲である場合、特に9mmから13mmである場合、9mmから11mmである場合、さらにはdが約10mmである場合には、0.2kPaから10.5kPaの圧力範囲及び/又は0.05MHzから6MHzの周波数帯域とすることが望ましい。より望ましい範囲は0.2kPaから4.6kPa及び/又は0.3MHzから1.5MHzである。特に効果的な圧力は1.3kPaであり、特に効果的な周波数は0.5MHzである。
【0057】
dが大きな値、特に15mm以上25mm以下の範囲である場合、特に17mmから23mmである場合、18mmから22mmである場合、さらにはdが約20mmである場合には、0.008kPaから6.6kPaの圧力範囲及び/又は0.03MHzから5MHzの周波数帯域とすることが望ましい。より望ましい範囲は0.008kPaから3.3kPa及び/又は0.15MHzから1MHzである。特に効果的な圧力は0.7kPaであり、特に効果的な周波数は0.3MHzである。
【0058】
実施形態では、圧力と周波数を、(a)0.7kPaから27kPa及び0.3MHzから20MHz、(b)0.4kPaから13.2kPa及び0.2MHzから10MHz、(c)0.2kPaから10.5kPa及び0.05MHzから6MHz、(d)0.008kPaから6.6kPa及び0.03MHzから5MHzの中から選択する。
【0059】
実施形態において、圧力と周波数は、(a)2kPaから10.5kPa及び1.5MHzから5MHz、(b)0.5kPaから6.6kPa及び0.6MHzから2.5MHz、(c)0.2kPaから4.6kPa及び0.3MHzから1.5MHz、(d)0.008kPaから3.3kPa及び0.15MHzから1MHzの中から選択される。
【0060】
微分型イオン移動度分光器に与える非対称波形はデジタル波形であることが望ましい。つまり、微分型イオン移動度分光器には、デジタル駆動の非対称波形を与えることが望ましい。実際には、低電圧信号波形に応じて、高電圧(好ましくは時間的に変化する矩形波電圧)を微分型イオン移動度分光器に印加する。本明細書において、微分型イオン移動度分光器に対してデジタル波形を与える、とは、信号波形に応じて生成される高電圧を印加することを含む。デジタル波形(デジタル駆動波形)とその結果生じる電圧は、当業者に馴染みのあるものであり、高電圧が二つの電圧レベル(高電圧レベルと低電圧レベル)の間でスイッチされるという特徴を有する。スイッチングは、低電圧と電流デジタル回路制御手段とによって駆動するスイッチング手段によってなされる。好ましくは、このような低電圧信号は、直接デジタル合成法(Direct Digital Synthesis method:DDS)により与えられる。
【0061】
本明細書で引用する特許文献2には、好ましいデジタル駆動方法と装置が記載されている(例えば図1)。高電圧源と低電圧源に直列に接続された二つのスイッチブロックを備える高電圧スイッチ回路が記載されている。二つのスイッチブロックは、低電圧デジタル信号によって二者択一的に導電状態と切電状態が切り替わるように制御され、高電圧スイッチ回路が高電圧と低電圧の間でスイッチして高電圧矩形波を生成する。これは、一斉に導電状態あるいは切電状態になるデジタル信号により制御される。このシステムを用いると、使用周波数を広域にわたって調整することができる。特許文献2に記載の装置は本発明のDMS-MSシステムとは無関係であるが、驚くべきことに本発明者は、本発明の低圧DMS-MSデバイスを特定の圧力及び周波数の範囲で使用する際、これが特に効果的であることを見出した。共通の電極に対して信号を伝送したり分離したりする必要がある場合、デジタル駆動法を用いることでこのような柔軟性を付与できる。
【0062】
好ましくは、装置はデジタル制御信号(デジタル波形)を発生するように構成された波形生成器を含む。本明細書では、このような波形生成器もまたデジタル波形生成器と呼ぶ。好ましくは、装置は、デジタル波形に応じて時間的に変化する矩形波を生成する電圧スイッチング手段を含む。デジタルスイッチング手段は波形生成器(デジタル波形生成器)の一部とすることができる。
【0063】
好ましくは、装置は、矩形波電圧の負荷サイクルを変化させる負荷サイクル変化手段を含む。実施形態において、負荷サイクル変化手段は、前述の波形生成器(デジタル波形生成器)である。
【0064】
デジタル波形を与えることにより、性能が更に改善することを見出した。特に、デジタル波形を、本明細書において特定する周波数と低圧に組み合わせることによって、驚くほどに良好な分解能とイオン通過特性が得られることを見出した。デジタル駆動手段を用いると、より柔軟に使用できるという顕著な利点が得られる。例えば、より広い範囲の周波数を用いることができる。
【0065】
好ましくは、(デジタル)波形生成器は、異なる周波数(例えばある範囲の周波数)を生成するように構成される。つまり、波形生成器は、周波数可変の波形生成器であり、例えば、波形に応じて生成される矩形波電圧の周波数を、好ましくは本明細書に記載の周波数帯域で変化させることができるものである。
【0066】
デジタル駆動の更なる利点は、異なる波形間の超高速(好ましくは実質的に瞬時の)スイッチングが可能な点である。そのようなスイッチングの例については、本明細書中で議論する。
【0067】
デジタル波形の更なる利点は、柔軟な負荷サイクルであり、特に高負荷サイクルを達成できる点である。高負荷サイクルにより、高電場レベルと低電場のレベルの差をより大きくすることができ、広範なE/Nと組み合わせて、高電場と低電場の間で、より大きな移動度の差を引き出すことができる。好ましくは、(デジタル)波形生成器は異なる負荷サイクル(例えば負荷サイクルの範囲)を生成するように構成される。上述のとおり、低電圧デジタル波形に応じて生成される矩形波電圧の負荷サイクルが可変であることが好ましい。
【0068】
好ましくは、装置は、第1波形と第2波形をスイッチングする波形スイッチング手段を含む。これにより、例えば、広範な移動度を有するイオンを通過させる第1波形と、移動度の差に従ってイオンを分離する第2波形の間でスイッチングさせることができる。典型的には、これは、矩形波を有する第1波形と、方形波を有する第2波形を選択することにより達成できる。
【0069】
実施形態では、波形スイッチング手段は波形生成器である。このように、望ましくは、波形生成器は波形をスイッチ可能にするように構成される。例えば、波形生成器は第1波形から第2波形(第2波形は第1波形と異なる)にスイッチ可能なものである。
【0070】
特に望ましい実施形態では、波形は、負荷サイクルが50%である第1波形と負荷サイクルが50%ではない第2波形(例えば、50%より大きい、あるいは50%より小さい)の間でスイッチ可能である。好ましくは、これによりイオン通過モードとイオン分離モードを切り替え可能にする。
【0071】
好ましくは、波形生成器は負荷サイクルを変化させるように構成される。これは、望ましくは0.05から0.5の範囲であり、イオン、特に異なる高電界移動度を有するイオンを効果的に分離する。
【0072】
本明細書でより詳しく議論するように、デジタル駆動法を用いることの更なる利点は、広範なE/Nと組み合わせた非対称波形の負荷サイクルの柔軟性である。E/Nの範囲を拡張すると、高電場の場合と低電場の場合の間で、より大きな移動度の差をつけることができる。負荷サイクルが大きい場合にのみ、つまり高負荷サイクルによって高電場適用時と低電場適用時の大きな違いが得られる場合にのみ、このような差を利用できる。
【0073】
典型的には、装置は、微分型イオン移動度分光器にガス媒体を供給するように第1真空領域へのガスの流れを形成するガスフロー手段を含む。このガスフロー手段は、望ましくは、本明細書で記載するガス注入システムの一部である。ガスの流れはイオン化源と関連付けることが望ましい。従って、特に望ましくは、装置は、微分型イオン移動度分光器にガス媒体を供給するように、イオン化源からイオン入口を通って第1真空領域に入るガスの流れを形成するガスフロー手段を含む。好都合なことに、これは、イオン化源からのガスの流れを利用して達成できる。このように、実施形態では、イオン化源は前述したガスの流れを与えるイオン化源ガスフロー手段を備える。
【0074】
実施形態では、ガスフロー手段により形成されるガスの流れは、装置を通り、特に微分型イオン移動度分光器を通り、イオン光軸に沿ってイオンを運ぶ。
【0075】
ガスフロー手段により供給されるガスは、イオン化源内部のガスと同じでもよく、異なってもよい。好ましくは異なる。これらのガスは異なる組成を有する(例えば、同タイプのガスで異なる質量を有する)か、あるいは異なるタイプのガスである。このような実施形態では、ガスフロー手段は好ましくはイオン化源と関連づけないことが望ましい。
【0076】
その代わりに、あるいは付加的に、装置は、使用時にイオンの装置通過、特に微分型イオン移動度分光器の通過を促す電場を与えるイオン輸送電場手段を含む。好ましくは前述の電場は実質的にイオン光軸(即ちイオン飛行方向)と一致する長手方向のものである。所望の長手方向の電場を与えるために、本明細書で議論するタイプの「分割電極」DMS(長手方向に順に配置された複数の電極を有する)を用いることができる。
【0077】
実施形態では、前述の電場は、微分型イオン移動度分光器により与えられる微分型イオン移動度電場に重畳される。
【0078】
このように、実施形態では、微分型イオン移動度分光器は、DMSを通ってイオンを飛行させることを目的とする軸方向の電場を形成した状態で備えられる。軸方向の電場は、輸送イオンガイドの技術分野において知られる種々の手段により形成することができる。例えば、補助抵抗の、又は分割された、もしくは傾いたロッドセットの使用、またはメインロッドの抵抗被覆手段の使用、あるいはメインロッドの分割によりなされる。
【0079】
移動度セルを通ってイオンを飛行させる電場を用いることにより、固定ガスフローあるいは小さなカウンターガスフローでDMSを使用できるという利点が得られる。
【0080】
実施形態では、DMSデバイスは大気圧インターフェース領域から効果的に切り離される。他の実施形態では、準大気圧イオン化源または中間圧Maldiイオン化源に用いることができる。
【0081】
この実施形態は、例えば、質量分析器が広範なm/z範囲のイオンを、イオンのm/z値に関して同効率で受け入れることが望ましい場合に用いることができる。そのような質量分析器の例としては、イオントラップ質量分析器、時間飛行型(Time-of-Flight:ToF)分析器、及びトラップToF分析器がある。DMSデバイスをイオン注入口から切り離すことは、第1真空領域において広範なm/z値を有するイオンを輸送するように設計されたデバイスが使用できることを意味する。
【0082】
DMSデバイスが通過モードで使用されている場合、質量分析器は全てのイオンを分析する。このように、DMSを質量分析器の真空区画内に配置し、DMSの性能に最適化された圧力下で、ガスの強い動的な影響がない状態で使用してもよい。これにより、ガスの強い動的影響の存在下でDMSセルを使用するための煩雑な設計作業を回避でき、好ましい。
【0083】
更なる利点は、本明細書に記載のイオン収束手段を、イオンを最大限通過させるように最適化された圧力下で使用できる点にある。更なる利点は、イオン化源(例えばAPI)インターフェースで用いるガスとは別のガスを、独立にDMSに導入できる点にある。上記のとおり、イオン化源は真空空間の外側あるいは内側のいずれに配置してもよい。
【0084】
あらゆるイオン化源を用いることができる。イオン化源は大気圧イオン化源、中間圧イオン化源、真空イオン化源のいずれであってもよい。
【0085】
イオン化源を真空チャンバの外に配置する場合、好ましくは、イオン化源はエレクトロスプレーイオン化(ESI)、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)、化学イオン化(CI)、大気圧イオン化(API)、大気圧MALDI、ペニング(Penning)イオン化の中から選択する。
【0086】
ある実施形態では、イオン化源を真空空間内のイオン化源真空チャンバ内に配置する。このような実施形態では、イオン化源はマトリックス支援レーザーイオン化(MALDI)源であり、望ましくは中間圧MALDI源あるいは高真空MALDIである。
【0087】
実施形態では、イオン化源真空チャンバはガス注入口を備え、ガス注入口は好ましくは本明細書で議論するように第1真空領域へのガスの流れを形成する。
【0088】
好ましくは、第1真空領域は第1区画と第2区画を含む。つまり、DMS分析を行う第1真空領域は二つの区画に分割してもよい。典型的には、それぞれの区画は従来と同様の真空区画であり、通常の方法で排気される。好ましくは、区画を分離する壁に設けられた適当なアパーチャ又はオリフィス(例えばスキマー)を通じて、イオンが区画間を通過する。
【0089】
いくつかの実施形態では、第1真空領域に2つよりも多い区画がある。例えば3つや4つである。
【0090】
第1区画と第2区画の圧力は実質的に略同一であっても、異なってもよい。望ましくは、第1区画の圧力を第2区画の圧力よりも高くする。このような実施形態では、排気手段は第1区画の圧力を第2区画の圧力よりも高くするように構成されることが望ましい。好ましくは、排気手段は第1区画と第2区画の圧力を独立に調整する。
【0091】
好ましくは、装置は、ガスを真空空間(例えば第1及び/又は第2真空領域、第1及び/又は第2真空区画)に供給するガス注入システムを含む。望ましくは、ガス注入システムは第1区画と第2区画へのガスの流れを独立に調整できるように構成する。特に望ましくは、排気手段とガス注入手段は第1区画と第2区画の圧力を独立に調整する。
【0092】
しかし、第1区画を第2区画よりも低圧にするように装置を使用してもよい。
【0093】
第1真空領域(DMS領域)が第1真空区画と第2真空区画とを備える場合は、微分型イオン移動度分光器を第1区画内に配置することが望ましい。
【0094】
別の配置では、微分型イオン移動度分光器を第2区画内に配置する。
【0095】
更に別の実施形態では、微分型イオン移動度分光器はイオン入口とイオン出口を有し、微分型イオン移動度分光器は、イオン入口が第1区画に、イオン出口が第2区画に位置するように配置される。つまり、好ましくは、微分型イオン移動度分光器は双方の真空区画にまたがる。この場合、第1区画と第2区画の圧力制御を、微分型イオン移動度分光器を通るガスの流れの調節に用いることができるという利点がある。
【0096】
第1真空領域(DMS領域)は、微分型イオン移動度分光器以外の構成を含んでもよい。例えば、イオン光学収束手段を第1真空領域に配置することができ、好ましくは微分型イオン移動度分光器の前段あるいは後段に配置することができる。イオン光学収束手段は多重極、イオンファンネル、もしくは四重極アレイデバイスとすることができる。
【0097】
実施形態では、第1真空領域は、微分型イオン移動度分光器の前段に配置されたイオン光学収束手段を含む。
【0098】
第1真空領域が第1真空区画と第2真空区画とを備える場合、好ましくは、第1真空区画はイオン光学収束手段を含む。好ましくは、第1真空区画とは独立して、第2区画がイオン光学収束手段を含む。
【0099】
実施形態では、第2真空領域(MS領域)は質量分析器以外の構成を含んでもよい。例えば、第2真空領域は衝突冷却セルを含んでもよく、好ましくは光軸上で質量分析器の前段に配置する。
【0100】
第2真空領域(MS領域は)2つ以上の真空区画を含んでもよい。そのような配置では、質量分析器は真空区画のいずれかひとつに配置される(MS真空区画)。好ましくは、質量分析器は最後の真空区画に配置される(つまり、イオン光軸に沿った最後の真空区画)。
【0101】
望ましくは、第1真空領域において、装置は、イオン注入口と関連付けられたガスフロー修正手段を含む。ガスフロー修正手段は、第1真空領域へのガスの流れの乱れを抑えるように構成される。好ましくは、ガスフロー修正手段は、使用時に微分型イオン移動度分光器に対して略層流のガスフローを形成するように構成される。
【0102】
好ましくは、イオン注入口は第1真空領域に出口部を有し、ガスフロー修正手段はイオン注入口出口部に接続されるかイオン注入口出口部に隣接しており、微分型イオン移動度分光器から離れている。
【0103】
当業者は、ガスフロー修正手段の適当な形状を選択することができる。特に望ましく略円錐形の部材である。
【0104】
実施形態では、好ましくは、イオン注入口はキャピラリとオリフィスから選択される。イオン源を真空空間の外に配置する場合、イオン注入口は真空閉空間の外側から第1真空領域へのイオン経路を形成する。
【0105】
当業者に周知である適当なデバイスを微分型イオン移動度分光器とすればよい。実際、本発明の長所は、従来型のDMSセルを第1真空領域内で使用できるように改良されている点にある。DMSセルの性能は、圧力と電圧を低下させて衝突の態様を変化させることにより改良することができる。
【0106】
好ましくは、微分型イオン移動度分光器(例えばDMSセル)は
(a) 2つの平行平板電極、
(b) 2つの同心円筒電極、及び
(c) 共通軸の周りで円周状に配置された複数の細長い電極からなり、電極の長軸が平行である多重極
の中から選択された電極配置を備える。
【0107】
多重極を用いることが特に望ましい。好ましくは、多重極の共通軸をイオン光軸とする。好ましくは、電極を共通軸周りに対称に配置する。好ましくは、多重極は円形断面を有する。好ましくは、多重極の各電極を円周配置になるように湾曲させる。
【0108】
望ましくは、微分型イオン移動度分光器は、本明細書中に記載の波形生成器を備え、多重極の少なくとも一つの電極に対して非対称波形を与えるように構成する。このようにして、電極間に交流電場を形成する。上述したように、波形生成器は、多重極の少なくとも一つの電極に対してデジタル波形(好ましくは波形に応じた電圧)を与えるように構成することが望ましい。
【0109】
好ましくは、装置は、多重極に双極子場を生成する双極子場手段を含む。
【0110】
望ましくは、双極子場手段は波形生成器であり、波形生成器は多重極内部(即ち、多重極の電極で定義される空間内部)に双極子場を与えるように構成される。実際には、上述のとおり、波形に応じた電圧を多重極に印加する。
【0111】
さらに望ましくは、波形生成器は、多重極内部に付加的な電場、好ましくはより高次の電場(例えば四重極電場)を与えるように構成される。望ましくは、より高次の電場は双極子場に重畳される。このように、好ましくは、より高次の電場と双極子場を多重極の電極で定義される空間の内部に形成する。
【0112】
多重極は、好ましくは四重極(n=4)、六重極(n=6)、八重極(n=8)、及び十二重極(n=12)から選択される。しかし、nは4から12の範囲のいずれの値でも好ましい。
【0113】
多重極の望ましい実施形態は、十二重極(12-pole)であり、例えば図2及び図3に示すようなものである。
【0114】
好ましい(内接)半径は1mmから10mmである(d=2mm〜20mm)。好ましい長さは20mmから150mmである。
【0115】
図2及び図3に示すような望ましい実施形態では、(内接)半径は約2.5mm(d=5mm)であり、長さは約70mmである。
【0116】
好ましくは、装置は、微分型イオン移動度分光器(DMS)の電極の少なくとも一つに対して付加電圧を重畳して、選択したイオンをDMSの中心長軸に対する半径方向に効果的に収束させる付加電圧手段を含む。このようにして、半径方向の閉じ込めが達成される。
【0117】
望ましくは、付加電圧手段は、付加電場がイオンを半径方向に収束するように、多重極の内部に付加電場を形成する。好ましくは、付加電圧は本明細書に記載の波形生成器によって制御する。例えば、波形生成器で生成した信号を用いて、DMSに印加する電圧を制御する。実施形態では、共通電源を用いて「通常の」DMS電圧と付加電圧を印加する。
【0118】
装置は、望ましくは波形生成器が、多重極の内部に(i) 双極子場と(ii) より高次の電場を与えるように構成することが好ましい。好ましくは、より高次の場は四重極電場、あるいはさらに高次の電場である。実施形態では、より高次の電場はn=4〜12から選択する。この次数の上限は電極の数であり、nは電極の数より小さいか、電極の数と同じである。
【0119】
典型的には、より高次の電場と双極子場は同時に与えられ、好ましくは同一の波形周波数と負荷サイクルで与えられる。好ましくは、より高次の電場を双極子場に重畳する。しかし、実施形態では、双極子場のみを与えるように、より高次の電場を双極子場と独立に切断ことができる。これは、例えば、特定のイオンのみを選択的に半径方向に収束させる、及び/又は多重極を収束なしのモードで使用するために用いる。
【0120】
実施形態では、多重極は、収束モードと収束なしのモードの使用(即ち、より高次の電場のon/off)を切り替え可能である。波形生成器によって収束モードと収束なしのモードを切り替え可能にすることが好ましい。
【0121】
望ましくは、より高次の電場は(非対称)RF構成要素とDC構成要素とを含む。
【0122】
実施形態では、DC信号は、典型的にはRF信号用の電源と独立の電源であるDC電源によって与えられる。
【0123】
より一般的には、望ましくは、微分型イオン移動度分光器は装置の他の部分とは独立に、特に質量分析器とは独立に、スイッチを切る(電極にポテンシャルを与えない)ことができる。これにより、装置を従来の質量分析器としても用いることができ、好ましい。
【0124】
実施形態では、微分型イオン移動度分光器は長手方向に配置された複数の電極を備える。この種の「分割電極」に、本明細書で議論するような電場(付加的なあるいはガスフローに代わる)を作用させ、イオンがDMSを通過することを可能にする。
【0125】
好ましくは、装置は、使用時に、微分型イオン移動度分光器の少なくとも一つの電極に補償電圧を印加する補償電圧手段を含む。
【0126】
典型的には、装置は制御手段を含み、該制御手段は微分型イオン移動度分光器を動作させ、好ましくは波形生成器を制御する。
【0127】
望ましくは、排気手段は、第1真空領域に接続された少なくとも一つの真空ポンプと第2真空領域に接続された少なくとも一つの真空ポンプとを含む。好ましくは、MS真空領域に必要な低圧を達成するため、MS真空領域にはターボ分子ポンプが接続する。
【0128】
望ましくは、真空ポンプの少なくともいくつかについて、排気手段は真空ポンプと真空領域の間に配置された絞りを含む。実施形態では、それぞれの絞りは独立にバルブを備える。
【0129】
好ましくは、排気手段及び/又はガスフロー手段(例えばイオン化源からのガスフロー)は本明細書で説明する第1真空領域の圧力を与えるように構成される。望ましくは、排気手段とイオン化源は第1真空領域を0.005kPa〜40kPa(0.05mbar〜400mbar)、より望ましくは0.1kPa〜20kPa(1mbar〜200mbar)にするように構成される。
【0130】
望ましくは、排気手段とイオン化源は第2真空領域を10-4kPa(10-3mbar)よりも低くするように構成される。
【0131】
望ましくは、第1真空領域と第2真空領域とは1つのオリフィスのみで接続される。
【0132】
あらゆる質量分析器を用いることができる。質量分析器は当業者により選択可能である。望ましくは、質量分析器は四重極フィルタ、飛行時間型分析器、直線RFイオントラップ、及び静電イオントラップから選択される。
【0133】
好ましくは、装置は質量分析器であり、望ましくはTOF質量分析器である。
【0134】
第2真空領域は複数の質量分析器を備えてもよいが、装置は1つの質量分析器のみを含むことが望ましい。
【0135】
他の実施形態では、装置はハイブリッド又はタンデムMSを備える。特に望ましくは、装置は前述の質量分析器の後段に、さらに質量分析器を含む。このような配置では、第1質量分析装置により対象イオンを選択し、選択したイオンを断片化して生じたフラグメントイオンあるいは娘イオンを第2質量分析器で分析するように構成することができる。
【0136】
別の態様では、本発明が提供する質量分析器は、
イオン化源と、
第1真空領域と第2真空領域を含む真空空間であって、該第1真空空間は前記イオン源からイオンを該第1真空空間に導入するイオン注入口を備える真空空間と、
前記第1真空領域に配置された微分型イオン移動度分光器と、
前記第2真空空間に配置された質量分析器であって、使用時にはイオンがイオン光軸に沿って前記イオン化源から前記第1真空領域を通って該質量分析器へ飛行し、使用時には試料から生成したイオンが質量分析を行う前に微分型イオン移動度分析される質量分析器と、
を備え、
使用時には前記微分型イオン移動度分光器を含む前記第1真空領域の圧力は0.005kPa 〜40kPaの範囲内であり、前記微分型イオン移動度分光器を20kHz〜25MHzの範囲の周波数を有する非対称波形により駆動する
ことを特徴とする。
【0137】
第1の態様に関連する付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。
【0138】
さらに別の態様において、本発明は、本明細書に記載した装置と分析器とを用いてイオンを分析する方法を提供する。
【0139】
さらに別の態様では、本発明はイオンを分析する方法を提供し、該方法は
(a) イオン化源においてサンプルからイオンを生成する
(b) イオン注入口を通じて、真空空間の第1真空領域に前記イオンを輸送する
(c) 前記第1真空領域において、前記イオンの質量分析を行う前に前記イオンの微分型イオン移動度分析を行う
(d) 微分型イオン移動度分析の後、前記イオンを前記真空空間の第2真空領域に移送する
(e) 前記第2真空領域において前記イオンの質量分析を行う
ステップを含み、
ステップ(c)が20kHz〜25MHzの範囲内の周波数を有する非対称波形を前記イオンに与えることを含み、ステップ(c)が0.005kPa〜40kPaの範囲の圧力において実行される
ことを特徴とする。
【0140】
このように、この態様の方法では、イオン化源で生成したイオンは装置の真空空間の第1領域に運ばれ、そこで特定の条件下でDMS分析が行われ、続いて真空空間の第2領域に運ばれ、そこでは質量分析が行われる。
【0141】
望ましくは、ステップ(b)は、微分型イオン移動度分析がガス中で実行されるように、前述のイオン化源から前述の第1真空領域へのガスの流れを供給することを含む。
【0142】
好ましくは、第1真空領域において、ガスの流れは、微分型イオン移動度分析を実行する前にガスの流れの揺らぎを抑えるように修正される。望ましくは、微分型イオン移動度分析は、ガスの略層流で行われる。
【0143】
その代わりに、あるいは付加的に、上述のとおり、イオンは電場(好ましくは長手方向の電場)の作用によって微分型イオン移動度分光器を通過する。このような配置では、微分型イオン移動度分光器を通過するガスが実質的に存在しない(例えば、静的なガス環境)ことが望ましい。
【0144】
実施形態では、微分型イオン移動度分析の前及び/又は後にイオンを収束させる。
【0145】
本明細書で議論するように、好ましくは、微分型イオン移動度分析は0.01kPa〜40kPa(0.1mbar〜400mbar)の圧力で行われ、望ましくは0.1kPa〜20kPa(1mbar〜200mbar)の圧力で行われる。
【0146】
本明細書で議論するように、望ましくは、質量分析は10-4kPa(10-3mbar)よりも低い圧力で行われる。
【0147】
第1の態様に関連する付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。
【0148】
さらに別の態様において、本発明が提供するイオン分析装置は、
試料からイオンを生成するイオン化源と、
イオン検出器と
を備え、
使用時にはイオンは前記イオン化源から前記イオン検出器までイオン光軸に沿って飛行し、前記装置はさらに、
微分型イオン移動度分光器を含む第1真空領域と、
質量分析器を含む第2真空領域と、
を含む真空空間と、
前記第2真空領域の圧力が前記第1真空領域の圧力よりも低くなるように構成された排気手段と、
前記イオン化源を前記第1真空領域に接続するイオン注入口と
を備え、
使用時に、前記試料から生成されたイオンが質量分析の前に微分型イオン移動度分析されるように、前記イオン光軸上において前記第1真空領域が前記第2真空領域の前段に位置しており、
前記微分型イオン移動度分光器は多重極を備え、そこでは複数の細長い電極が共通軸周りで円周状に配置され、電極の長軸が平行になっており、
前記装置は、前記多重極の内部に(i)双極子場と(ii)より高次の電場を与えるように構成された波形生成器を含む
ことを特徴とする。
【0149】
本明細書に記載のとおり、この配置ではイオンを半径方向に収束できることを見出した。
【0150】
好ましくは、上記の共通軸はイオン光軸である。
【0151】
典型的には、より高次の電場と双極子場は多重極内部に同時に形成する。好ましくは、より高次の電場を双極子場に重畳する。例えば、より高次の電場を多重極の電極により定義される空間の内部に与えることができる。
【0152】
望ましくは、より高次の電場とは四重極場である。
【0153】
好ましくは、他の態様のいずれかの付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。特に、多重極、電場、及び多重極に印加する電圧に関する、第1の態様での議論は、この態様にも適用される。
【0154】
別の態様において、本発明が提供するイオン分析方法は、
(a) イオン化源において試料からイオンを生成する
(b) イオン注入口を通じて真空空間の第1真空領域に前記イオンを輸送する
(c) 前記第1真空領域において、前記イオンの質量分析に先立って前記イオンの微分型イオン移動度分析を行う
(d) 微分型イオン移動度分析の後、前記イオンを前記真空空間の第2領域に輸送する
(e) 前記第2真空領域において前記イオンの質量分析を実行する
ステップを含み、
ステップ(c)は、共通軸の周りで円周状に配置され、電極の長軸が平行に配置された複数の細長い電極を備えた多重極により微分型イオン移動度分析を実行することを含み、また、ステップ(c)が前記多重極内に(i)双極子場と(ii)より高次の電場を与えることを含む
ことを特徴とする。
【0155】
好ましくは、他の態様のいずれかの付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。特に、多重極、電場、及び多重極に印加する電圧に関する第1の態様での議論は、この態様にも適用される。
【0156】
さらに別の形態において、本発明が提供するイオン分析装置は、
試料からイオンを生成するイオン化源と、
イオン検出器と
を備え、
使用時に、イオンは前記イオン化源から前記イオン検出器までイオン光軸に沿って飛行し、前記装置はさらに、
微分型イオン移動度分光器を含む第1真空領域と、
質量分析器を含む第2真空領域と、
を含む真空空間と、
前記第2真空領域の圧力が前記第1真空領域の圧力よりも低くなるように構成された排気手段と、
前記イオン化源を前記第1真空領域に接続するイオン注入口と、
を備え、
使用時に、前記試料から生成されたイオンが質量分析の前に微分型イオン移動度分析されるように、前記イオン光軸上において前記第1真空領域が前記第2真空領域の前段に位置している
ことを特徴とする。
【0157】
この配置の利点は第1の態様について上述したとおりである。
【0158】
好ましくは、他の態様のいずれかの付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。
【0159】
別の態様において、本発明が提供するイオン分析方法は、
(a) イオン化源において試料からイオンを生成する
(b) イオン注入口を通じて真空空間の第1真空領域に前記イオンを輸送する
(c) 前記第1真空領域において、前記イオンの質量分析に先立って前記イオンの微分型イオン移動度分析を行う
(d) 微分型イオン移動度分析の後、前記イオンを前記真空空間の第2領域に輸送する
(e) 前記第2真空領域において前記イオンの質量分析を実行する
ステップを含むことを特徴とする。
【0160】
好ましくは、他の態様のいずれかの付加的な望ましい特徴はこの態様にも適用される。
【0161】
別の態様において、本発明は、イオン飛行方向に順に配置された複数の電極を備える微分型イオン移動度セル(DMS cell)を提供する。典型的には、DMSセルは細長く、イオンの飛行方向はセルの長手方向に合致する。従って、前記複数の電極は長手軸の方向に順に配置されることが望ましい。好ましくは、DMSセルは、使用時にイオンがDMSセルを通り抜ける電場を生成するように、前述の複数の電極に対して電圧を与えるイオン輸送電場手段を含む。
【0162】
本明細書中で議論するように、この種の「分割電極」を用いて、電場(付加的にあるいはガスフローの代わりに)を作用させることにより、イオンをDMSを通過させる。
【0163】
別の態様において、本発明は、複数の電極と、使用時にイオンがDMSセルを通り抜ける電場を生成するように、前述の複数の電極に対して電圧を与えるイオン輸送電場手段とを含む微分型イオン移動度セル(DMS cell)を提供する。
【0164】
別の関連する態様は、本明細書に記載のDMSセルを備えたイオン分析器を提供する。好ましくは、分析器は質量分析器であり、DMSセルは質量分析器の真空区画内に配置される。
【0165】
本発明のいずれの態様も別の一つ以上の態様と組み合わせることができる。さらに、好ましくは、他の態様のいずれかの付加的な望ましい特徴は別の態様にも適用される。特に、方法あるいは使用に関連する付加的な特徴は装置にも適用でき、逆も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0166】
本発明の実施形態と、本発明の利点及び/又は実施について説明する情報を、添付図面を用い、あくまでも一例として以下に示す。
【0167】
【図1】「鋸歯形の」補償電圧を含む非対称周期波形の変化に応じて定まるイオンの動きを示す簡略化したDMS配置の概略図。
【図2】微分型イオン分光を行う電極配列を示す図。
【図3】電極の十二重極配置と、双極子場の規格化電圧と等電位を示す図。
【図4】mbar単位の圧力に対するTd単位のE/Nの対数プロットを示す図。
【図5】質量分析器の真空空間の外部に接続された、従来技術であるDMS-MSを示す図。
【図6】DMSデバイスをMSの第1排気ステージに内蔵した、本発明の望ましい一実施形態の概略図。
【図7】十二重極配置を通る適切なガスフロー条件を確立するための円錐形ガス成形体の概略図。
【図8】DMSデバイスをMSの第1真空区画と第2真空区画に拡張した、本発明の別の望ましい一実施形態の概略図。
【図9】DMSデバイスをMSの第1排気ステージに位置させ、イオン化源をMSの真空空間と一体化したイオン化源真空チャンバ内に配置した、本発明のさらに別の望ましい一実施形態の概略図。
【図10】DMSをMSの第2排気ステージに位置させ、イオン化源をMSのキャピラリ注入口に接続した、本発明のさらに別の望ましい一実施形態の概略図。
【図11】図2、図3の十二重極DMS配置を用い、半径5mm、30Torrの条件で得られたDMSスペクトル。
【図12】十二重極DMSセルと、各電極に印加する電圧を示す図。図12aは双極子場(RF又はDC)を示し、図12bは四重極場(RF又はDC)を示す。
【図13】双極子場と四重極子場を組み合わせて得たDMSスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0168】
図1を参照して、電場と圧力に対するイオン移動度の非線形依存性に基づいてDMS分離する基本原理とメカニズムを示す。イオンは2つの電極2の間に形成されたガスの流れ1に乗る。高周波非線形波形3が2つの電極のうちの一つに与えられる。遅い補償DC電圧4がその波形に重畳される。「鋸歯形の」DC傾斜が1Hz未満であるのに対し、非対称波形の周波数は、通常数百kHz〜1MHzである。DMSを大気圧で使用する場合、非対称波形の大きさは所定の電極配置内を流れるガスの破壊限界によって制限される。平行平板DMSシステムでは、電場は通常、3KVmm-1を超えることはない。
【0169】
また図1を参照すると、純矩形波形とは実質的に異なる波形を用いてイオンを分離することができる。電圧の時間の関数としての擬似正弦波的な変動に基づく波形群は広く用いられており、倍正弦(bi-sinusoidal)波、短縮正弦(clipped sinusoidal)波や、他の略矩形波がある。非対称波形は正のパルス領域が負のパルス領域に合致する(A1=A2)ように設計される。この時間依存電場の特定配置では、電場と圧力の変化に依存する移動度を持たないイオンは、従って、ゼロ補償電圧で通過する。波形は負荷サイクル5によって特徴づけられ、通常、波形周期Tに対する短い正のパルス幅THで定義される。特定のタイプのイオンを分離する最適化された負荷サイクルが存在する。例えば、負荷サイクルが0.33程度である場合に、DMSスペクトルではタイプAとタイプCのイオンを最も良好に分離できる。Bタイプのイオンはより複雑な挙動を示し、実験中に負荷サイクルを変化させる機能を有することが装置性能を向上させるために重要になる。
【0170】
図1にはまた、システムをうまく通過する安定したイオン軌道6と、上部DMS電極に衝突する第2のイオン軌道7を示す。損失イオン7をうまく輸送するには、小さな平均変位dx8を補償するような適当な補償電圧を、波形サイクルごとにDMS電極に印加する必要がある。補償電圧を走査することにより、電場と圧力に対して異なる非線形移動度依存性を有するイオンを、DMSギャップを通して輸送することができ、電位計に接続されたプレート上で収集する、あるいは図示しない質量分析器9によってモニタリングすることができる。
【0171】
図2にDMSデバイスを構成する、いくつかの可能な電極配置を示す。平面状あるいは平行平板のシステム20と、異なる半径を持つ2つの同心円筒の軸配置22が最も広く用いられる。他の配置は、中心軸周りに同軸配置した電極からなる多重極システムを含む。ここでは、2つの十二重極配置24, 26を例示する。このような多極子を用い、V=Vocos(nθ/2)の関係に従って、各電極に対して電圧Vを印加することにより多極子場を形成することができる。ここで、nは電場の次数、つまり双極子の場合にはn=2であり、θはシステムの軸に対する電極配列の角度であり、Voは所定の内接半径について双極子場の強さを定義する入力電圧である。図3に、十二重極システム32について、規格化された双極子場を等ポテンシャル線30と共に示す。同じ数式を用いてより高次の電場を導入することができる。例えば、円筒状のFAIMS配置の場合と同じように、収束のために四重極電場(n=4)を双極子場に重畳することができる。
【0172】
図4に、2つの平行平板電極間の距離が5mmである場合の、圧力を1-100mbarの範囲に低下させたときのE/Nの値の範囲を示す。例えば、圧力1mbarで、5mm間隔に対して25V印加すると、E/Nの値は約200Tdとなり、大気圧で達成される値を優に上回る。上述のとおり、電力消費は大幅に抑え、はるかに高い周波数を用いてDMSチャンネルの通過を強めることができる。破壊が起こる限界について、パッシェン曲線(Paschen curve)では、約1mbarにおける5mmの間隔に対する印加電圧の上限は約125Vとされている。このときのE/Nの値は約1000Tdである。
【0173】
図5に、平面DMS52を質量分析器の前段部の外側に接続した従来の装置50を示す。イオンはDMSの前段部でエレクトロスプレー54され、ガスフロー56によってDMSチャンネルを通過する。このとき、高周波非対称波形と遅い鋸歯形の補償電圧が平板電極58に印加されている。デバイスを通過したイオンの電流をモニタリングするため、DMSの後段部に二枚の検出プレート60を配置する。検出プレートの一枚に設けられた円形のアパーチャ62により、イオンは入口キャピラリ64を通ってMSに入る。これはまた、DMSチャンネルを通じたガスの低速排気にも用いられる。MS真空インターフェースでの入口キャピラリの典型的な流速は約1Lmin-1で、これによりDMSにおけるガスの滞留時間が事前に定まる。イオンは、真空ポンプ68によって圧力P1に維持されたMSの第1排気ステージ66に入射し、中間圧RFレンズ70によりガイドされ、スキマーあるいはアパーチャ72を通ってターボ分子ポンプによって低圧P2に維持された第2真空チャンバに入射する。多重極デバイス76を横切り、最後のアパーチャ78を通って収束され、追加の真空ポンプ82により高真空条件に維持された質量分析チャンバ80に入射する間に、イオンはガス分子との衝突によって更に冷却される。本実施例では、四重極マスフィルタ84を用いて質量分析し、検出器、通常は電子増倍管86によりイオンをモニタリングすることによりマススペクトルを作成する。
【0174】
DMSを質量分析器の第1排気ステージに組み込んだ、本発明の望ましい実施形態の概略図を図6に示す。図示したDMS-MS装置100では、イオンは大気圧イオン化(API)源領域102で生成され、入口キャピラリ106を通って装置の第1排気ステージ104に運ばれる。第1真空チャンバの圧力P1は、ロータリーポンプ108と絞り110により約1mbarに維持されており、圧力ゲージ112に示される。第1真空チャンバ104と第2真空チャンバ116を接続するスキマー又はアパーチャ114を通じても排気される。チャンバ104内の圧力はロータリーポンプ108に接続された排気ラインに組み込まれた絞り110によって制御される。
【0175】
イオンと、イオン化源領域102の雰囲気を形成するための雰囲気ガス、望ましくは純窒素ガスは流速約1Lmin-1で導入される。これは内径0.5mm、長さ約10mmの入口キャピラリの典型的な排気速度の値である。エレクトロスプレーイオン化源を用いる特別な場合には、液滴と付加イオンの脱溶媒和は、入口キャピラリの温度を大気条件から250℃の間の範囲まで上昇させることにより行われる。真空に入る際、イオン及び中性粒子は噴流を形成する。ガスフローは円錐形あるいはベル形状を有するレンズ118により成形され、DMSデバイス120を備えた細長い電極セットに向かう。真空チャンバへの入口から数mm後方の領域では超音速ジェットが真空内に拡散することによって定在バレル衝撃波が形成される。DMS 120の電極を通るガスフローを方向付け、部分的に制限することにより、この領域でのイオン損失を最小化できる。略層流条件は、イオンをDMSを通過させ、さらに、後続のイオン光学収束エレメント112に向かわせるように形成する。
【0176】
第1真空チャンバはDMS電極を通じてある程度排気されているため、絞り110によりガスフローを制御することができる。イオンファンネルやq-arrayタイプのデバイスであるイオン光学収束エレメント122は、広範な領域に広がるイオンの動きを制限し、イオンビームをスキマーあるいはアパーチャ114を通して、第2真空チャンバに輸送する。第2真空チャンバはターボポンプ124によってより低圧に維持されており、その圧力は第2ゲージ126で計測されている。約10-3mbarの圧力下で八重極あるいは他の多重極デバイス128することによりイオンを衝突冷却させ、またイオンをさらに収束させて第3真空チャンバ132に入射する。第3真空チャンバ132は追加の真空ポンプ134に接続されており、質量分析器136及び質量分析したイオンを検出する手段を備えている。
【0177】
図7に、入口キャピラリ150と、衝撃波の影響を低減してガスを十二重極DMSデバイス154に向かわせる円錐形エレメント152の簡略図を示す。円錐形ガスフロー整形器の入口の直径を入口キャピラリの入口の直径に一致させ、出口の直径を円筒系の十二重極の直径に一致させることにより、スムーズにガスを真空部に輸送することができる。
【0178】
図8に、別の望ましい実施形態である、質量分析器の真空チャンバ内にDMSデバイス配置した装置160を示す。この例では、API源162でイオンを生成し、キャピラリ164により収集して、MSの第1排気ステージ166に導入する。MSの第1排気ステージ166は、絞り170を通じて排気する真空ポンプ168によって圧力P1に維持される。イオンはイオンファンネル型デバイス172に入射し、追加のレンズ174によりガイドされてDMS 176に入る。DMS電極は第1真空ステージ172と、真空ポンプによって圧力P1よりも低圧P2に維持された第2真空ステージとにまたがっている。この望ましい実施形態では、第2絞り180を通じて同一の真空ポンプ168が両方のチャンバを排気する。絞り168, 180を調節し、圧力ゲージ182, 184を用いて圧力をモニタリングすることにより、ガスフローを用いてイオンをDMSチャンネルを通過させるのに最適化した圧力差P1-P2にすることができる。フィルタリングされたイオンは、続いて第2イオンファンネル型デバイス186でガイドされ、スキマーあるいはアパーチャ188を通って、ターボ分子ポンプ192で圧力P3に維持された連続した第3真空チャンバに導入される。このチャンバ内の圧力は圧力ゲージ194によりモニタリングされている。イオンは八重極196内で衝突により冷却され、アパーチャ198を通って収束されて、ターボ分子ポンプ202によって高真空P4に維持された質量分析チャンバ200に入射する。この例では、圧力は熱陰極ゲージ204によりモニタリングされ、イオンはマスフィルタ206で質量分析されて、検出器208で収集される。
【0179】
図9に、質量分析器の最初の排気ステージにDMSを配置し、減圧下で使用する別の望ましい実施形態である装置250を示す。イオンはレーザ脱離イオン化、望ましくはマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)源により生成する。パルスレーザ光252は窓253を通して、分析対象試料を載置したターゲットプレート254に入射する。サンプルプレート254は小さな真空区画256に置かれており、ガス注入口258からガスを導入し、後段部で圧力P1に調整している。
【0180】
レンズ260によりイオンを収束して、真空ポンプ266により圧力P2に維持された第2真空区画264に運ぶ。圧力は圧力ゲージ268によりモニターし、入口258を通るガス流量とポンプ266に付加された絞り270を制御することにより調整する。圧力P2に対して圧力P1を大きくし、ガスを第1真空区画から第2真空区画に流す。ガスフローにより、あるいはDMS電極272を分割し、各DMS電極に対して別々にDCオフセットを与えることにより形成した長手方向の弱い電場により、イオンはDMSチャンネルを通って輸送される。付加的な、非対称波形に重畳された弱いDC電場によっても、軸方向に沿ってイオンが分離される。イオンはレンズ274とスキマー276を通って、続いて配置された第2真空チャンバ278に導入される。第2真空チャンバ278は、ゲージ282でその圧力がモニタリングされており、真空ポンプ280によって低圧に維持されている。イオンファンネル284によりイオンを収束させ、より低圧に維持された別の真空区画288に入射させる。この区画は第2のスキマーあるいはアパーチャ286を通じ、真空ポンプ290によって、より低圧に維持されている。イオンはイオンガイド292を通る間に冷却され、最終的にアパーチャを通して質量分析チャンバ294に入射される。
【0181】
図10に、質量分析器の真空チャンバ内にDMSを配置した、別の望ましい実施形態の装置300を示す。API源302でイオンを生成し、入口キャピラリ304で集めて、真空ポンプ308により圧力P1に維持された質量分析器の第1排気ステージに導入する。絞り310は圧力ゲージ312に示される圧力レベルを調整するために用いる。イオンファンネル314により収束され、スキマー316を通ったイオンは、真空ポンプ324により圧力P2に維持された第2真空チャンバ内に配置された、分割DMS320のチャンネル318に導入される。圧力ゲージ326により圧力をモニタリングし、絞り310を用いて圧力レベルを調節する。DMSをうまく通過したイオンはアパーチャ328を通り抜け、続いて配置された、真空区画330に入射する。この区画にはイオンを衝突冷却するための八極子デバイス332が配置されている。圧力はターボ分子ポンプ334により維持し、そのレベルはゲージ336でモニタリングする。そして、イオンは質量分析領域338へと通り抜ける。DMSを用いてフィルタリングすることなくイオンを通過させることが望ましい場合には、非対称波形を取り除き、代わりに径方向に閉じ込めるRF電圧を印加して、移動度と関係なく単純に広域のm/z範囲のイオンを通過させる。
【0182】
図11は、十二重極配置について、微分型移動度に従い、イオン分離を示すイオンシミュレーションを行ったものである。これらのシミュレーションでは、デバイスを通る軸方向のガスフローは100ms-1に設定し、イオン滞留時間は約0.7msとした。X軸に沿って双極子場を与え、圧力を30Torrに設定した。電圧はE/N値が約250Tdになるように印加した。図11はデバイスにおいて二つのモデルイオンであるC3H7+とC3H5+を分離した例を示すものであり、図中のプロットは、1MHzの周波数で切り替わる双極子を生成する非対称波形を与え、補償電圧を走査することにより得た。ベースライン分離が得られ、イオンは半値全幅が約2Vとなった。通過率は約65%である。
【0183】
四重極場を重畳して、イオンの通過特性と分解能を向上させる効果について、図12及び図13を参照して以下に説明する。
【0184】
図12aに、十二重極配置の場合について、RF及び/又はDC補償電場として与える通常の双極子場を生成するための電圧比を示す。
【0185】
分析空間内部において、この電場は、使用時にイオンがX方向に沿って振動する平面DMSにおいて生成される双極子場に対応する。
【0186】
図12bに、DMSの分析空間において四重極場を生成するための電圧比を示す。このような電場は、各電極に与える波形の大きさを適宜に調整することで前述の双極子場に重畳してもよい。
【0187】
図12a、図12bに示した電場を組み合わせる、つまり重畳することによりイオンの通過特性が改善される。これは、微分型移動度に従い、双極子非対称RF及びDC補償双極子場によって選択されたイオンを、閉じ込め四重極場が閉じ込めるためである。
【0188】
径方向の収束は、RF四重極場に加えて付加的なDC四重極場を与え、注意深く相対強度を調整することによってのみ達成できる。RF四重極場とDC四重極場の強度は、双極子の大きさに比べてかなり小さい。特筆すべきは、マイナスの高電圧はX方向に沿って印加され、矩形波のプラスの高電圧パルスはY軸に沿って印加される点である。
【0189】
シミュレーションでは十分な収束がなされた。その結果を図13a、13bに示す。図13aのDMSスペクトルは、次の電圧を与えることによって得た。RF双極子VH=600, VL=-257.14、RF四重極VH=40, VL=-17.14、DC四重極VQ=5。これらの条件では広い補償電圧の範囲で高い通過率を得られたが、分解能は低下した。
【0190】
図13bに示すように、四重極場の強さを、RF四極子VH=20, VL=-8.57、DC四重極VQ=3に抑えると、純粋な双極子場の場合に対し、通過率は約20%の改善に留まったが、分解能は維持された。
【0191】
このように、四重極場を重畳させると、分解能を低下させることなく通過率を向上させることができる。また、四重極場の強度を大きくして透過率をさらに高め、制御可能な程度に分解能を低下させてもよい。後者の装置はDMSをノイズ低減デバイスとして使用する場合に有用である。
【0192】
DMSの通過率と分解能に対する使用圧力と波形周波数の効果を検証するために更なるシミュレーションを行った。
【0193】
低圧
圧力0.01mbar、内径2.5mmの多重極配置におけるシミュレーションでは、一波形周期の間の衝突回数が不十分であり、拡散が起こることが示された。DMSチャンネルを通るイオンの通過率は実質的にゼロとなった。圧力の大きさを1オーダー増加させる、つまり0.1mbarにすることで、DMSの性能に大きな効果がもたらされた。上述した2つのモデルイオンを使用したシミュレーション結果では透過率が約5%となり、DMSでイオン分離を行うに十分なものになった。拡散を抑え、透過率を向上させるには、0.1mbarより高い圧力が概ね適切である。また、0.1mbarより高い圧力で、より高次の電場を用いることによってのみ拡散効果を相殺し得る点は留意しなければならない。
【0194】
低周波数
圧力10mbarにおける、さらなるDMSのシミュレーション分析では、上記2つのモデルイオンの場合に、周波数を1MHzから10KHzに抑えるとイオン通過率に大きな効果が得られることが分かった。イオン振動振幅はデバイスの大きさに比べて広く(例えば2mmの高さ)、DMS電極におけるイオン損失は深刻になり、シミュレーションでの通過率は1%未満となった。イオン振動振幅は分析空間の大きさよりも小さく維持しなければならない。例えば、上述した両モデルイオンの、1MHzにおけるイオン振動振幅は0.5mmより大きく、つまり、計算において用いた5mmの分析空間に比べて1桁小さい。
【0195】
高周波数
上述のとおり、周波数に関するDMSの有用な使用範囲は、イオンの通過時間によって制限される。さらなるシミュレーションでは、25MHzで使用した場合、透過率が80%を超えるほどに高まるにもかかわらず、イオン分離は悪化し、C3H7+イオンとC3H5+イオンの分離が見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料からイオンを生成するイオン化源と、
イオン検出器と
を備え、使用時に、イオンを前記イオン源から前記イオン検出器に向かってイオン光軸に沿って飛行させる装置であって、該装置がさらに、
微分型イオン移動度分光器を含む第1真空領域と、
質量分析器を含む第2真空領域と
を含む真空空間と
前記第2真空領域の圧力を前記第1真空領域の圧力よりも低くするように構成された排気手段と、
前記イオン化源を前記第1真空領域に接続するイオン入口穴と
を備え、
使用時に、質量分析の前に前記試料から生成したイオンの微分型イオン移動度分析を実行するように、前記イオン光軸上で前記第1真空領域が前記第2真空領域よりも手前に配置されており、
使用時に、前記微分型イオン移動度分光器を含む前記第1真空領域が0.005kPaから40kPaの範囲の圧力に設定され、前記微分型イオン移動度分光器が20kHzから25MHzの範囲の周波数を有する非対称波形により駆動されること
を特徴とするイオン分析装置。
【請求項2】
前記第1真空領域の圧力が0.1 kPaから20 kPaの範囲内であって、前記周波数が0.3MHzから10MHzの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のイオン分析装置。
【請求項3】
前記圧力と前記周波数が、(a)0.7kPaから27kPa及び0.3MHzから20MHz、(b)0.4kPaから13.2kPa及び0.2MHzから10MHz、(c)0.2kPaから10.5kPa及び0.05MHzから6MHz、及び(d)0.008kPaから6.6kPa及び0.03MHzから5MHzの中から選択されることを特徴とする請求項1に記載のイオン分析装置。
【請求項4】
前記圧力と前記周波数が、(a)2kPaから10.5kPa及び1.5MHzから5MHz、(b)0.5kPaから6.6kPa及び0.6MHzから2.5MHz、(c)0.2kPaから4.6kPa及び0.3MHz から1.5MHz、及び(d)0.008kPaから3.3kPa及び0.15MHzから1MHzの中から選択されることを特徴とする請求項1に記載のイオン分析装置。
【請求項5】
前記微分型イオン移動度分光器の分析ギャップdが1mmから25mmの範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項6】
前記分析ギャップdが1mm以上2.5mm未満の範囲内であり、前記圧力が0.7kPaから27kPaの範囲内であり、前記周波数が0.3MHzから20MHzの範囲内であることを特徴とする請求項5に記載のイオン分析装置。
【請求項7】
前記分析ギャップdが2.5mm以上7.5mm未満の範囲内であり、前記圧力が0.4kPaから13.2kPaの範囲内であり、前記周波数が0.2MHzから10MHzの範囲内であることを特徴とする請求項5に記載のイオン分析装置。
【請求項8】
前記分析ギャップdが7.5mm以上15mm未満の範囲内であり、前記圧力が0.2kPaから10.5kPaの範囲内であり、前記周波数が0.05MHzから6MHzの範囲内であることを特徴とする請求項5に記載のイオン分析装置。
【請求項9】
前記分析ギャップdが15mm以上25mm以下であり、前記圧力が0.008kPaから6.6kPaの範囲内であり、前記周波数が0.03MHzから5MHzの範囲内であることを特徴とする請求項5に記載のイオン分析装置。
【請求項10】
前記微分型イオン移動度分光器に与えられる前記非対称波形がデジタル波形生成器によって生成されることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項11】
前記装置が、前記非対称波形を前記微分型イオン移動度分光器の少なくとも一つの電極に対して与えるように構成された波形生成器と、第1波形と第2波形を切り替える波形切り替え手段とを含むことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項12】
前記波形が、負荷サイクル50%である第1波形と、負荷サイクルが50%ではない第2波形の間で切り替え可能であることを特徴とする請求項11に記載のイオン分析装置。
【請求項13】
前記波形が、イオン通過モードとイオン分離モードとの間で切り替え可能であることを特徴とする請求項11に記載のイオン分析装置。
【請求項14】
前記装置が、前記波形の負荷サイクルを0.55から0.5の範囲内で変更できるように構成されていることを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項15】
前記装置が、使用時に前記イオンが前記微分型イオン移動度分光器を通過するような電場を与えるイオン通過電場手段を含むことを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項16】
前記装置が、前記微分型イオン移動度分光器にガス媒体を供給するように前記第1真空領域へのガスの流れを形成するガスフロー手段を含むことを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項17】
前記ガスフロー手段により供給されるガスが、前記イオン化源のガスとは異なることを特徴とする請求項16に記載のイオン分析装置。
【請求項18】
前記第2真空領域が前記質量分析器の前段に衝突冷却セルを含むことを特徴とする請求項1から17のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項19】
前記装置が、前記第1真空領域において前記イオン入口と関連付けられたガスフロー修正手段を含み、該ガスフロー修正手段が、使用時に、前記微分型イオン移動度分光器に対して実質的に層流のガスフローを形成することを特徴とする請求項1から18のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項20】
前記微分型イオン移動度分光器が、
(a) 2枚の平行平板電極
(b) 2つの同心円筒電極、及び
(c) 共通軸の周りで円周状に配置された複数の細長い電極からなり、電極の長軸が平行である多重極
から選択された電極配置を備えることを特徴とする請求項1から19のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項21】
前記微分型イオン移動度分光器が多重極を備え、前記装置が、前記多重極の内部に(i) 双極子場、及び(ii)より高次の電場を形成するように構成された波形生成器を含むことを特徴とする請求項20に記載のイオン分析装置。
【請求項22】
使用時に、前記第2真空領域の圧力が10-4kPaよりも低いことを特徴とする請求項1から21のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項23】
前記質量分析器が、四重極フィルタ、飛行時間型分析器(TOF)、直線RFイオントラップ、及び静電イオントラップのいずれかであることを特徴とする請求項1から22のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項24】
イオン分析方法であって、
(a) イオン化源においてサンプルからイオンを生成する
(b) イオン注入口を通じて、真空空間の第1真空領域に前記イオンを輸送する
(c) 前記第1真空領域において、前記イオンの質量分析を行う前に前記イオンの微分型イオン移動度分析を行う
(d) 微分型イオン移動度分析の後、前記イオンを前記真空空間の第2真空領域に移送する
(e) 前記第2真空領域において前記イオンの質量分析を行う
ステップを含み、
使用時に、前記微分型イオン移動度分光器を含む前記第1真空領域の圧力が0.005kPaから40kPaの範囲内であり、前記微分型イオン移動度分光器が20kHzから25MHzの範囲の周波数を有する非対称波形により駆動されることを特徴とするイオン分析方法。
【請求項25】
イオン分析装置であって、
試料からイオンを生成するイオン化源と、
イオン検出器と
を備え、
使用時に、イオンは前記イオン化源から前記イオン検出器までイオン光軸に沿って飛行し、前記装置はさらに、
微分型イオン移動度分光器を含む第1真空領域と、
質量分析器を含む第2真空領域と、
を含む真空空間と、
前記第2真空領域の圧力が前記第1真空領域の圧力よりも低くなるように構成された排気手段と、
前記イオン化源を前記第1真空領域に接続するイオン注入口と
を備え、
使用時に、前記試料から生成されたイオンが質量分析の前に微分型イオン移動度分析されるように、前記イオン光軸上において前記第1真空領域が前記第2真空領域の前段に位置しており、
前記微分型イオン移動度分光器は多重極を備え、そこでは複数の細長い電極が共通軸周りで円周状に配置され、電極の長軸が平行になっており、
前記装置は、前記多重極の内部に(i)双極子場と(ii)より高次の電場を与えるように構成された波形生成器を含む
ことを特徴とするイオン分析装置。
【請求項26】
前記波形生成器がデジタル波形生成器であることを特徴とする請求項25に記載のイオン分析装置。
【請求項27】
前記のより高次の電場が四重極電場であることを特徴とする請求項25または26に記載のイオン分析装置。
【請求項28】
前記のより高次の電場を、前記双極子場とは独立にオフにすることが可能であることを特徴とする請求項25から27のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項29】
前記のより高次の電場が、RF要素及びDC要素を含んでいることを特徴とする請求項25から28のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項30】
イオン分析方法であって、該方法は
(a) イオン化源において試料からイオンを生成する
(b) イオン注入口を通って真空空間の第1真空領域にイオンを輸送する
(c) 前記第1真空領域において、前記イオンの質量分析に先立って前記イオンの微分型イオン移動度分析を行う
(d) 微分型イオン移動度分析の後、前記イオンを前記真空空間の第2領域に移動する
(e) 前記第2真空領域において前記イオンの質量分析を実行する
ステップを含み、
ステップ(c)は、共通軸の周りで円周状に配置され、電極の長軸が平行に配置された複数の細長い電極を備えた多重極による微分型イオン移動度分析の実行を含み、ステップ(c)が前記多重極内に(i)双極子場と(ii)より高次の電場を与えることを含む
ことを特徴とするイオン分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−525672(P2012−525672A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507814(P2012−507814)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000873
【国際公開番号】WO2010/125357
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】