説明

イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物

【課題】本発明の目的は、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積を抑制できるイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を提供することである。
【解決手段】A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用し、且つ該(B)成分の総量がホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上となるような配合割合で該(B)成分を配合して、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に関する。より具体的には、本発明は、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積抑制効果が優れた、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用の眼科組成物に関する。また、本発明は、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法、及びイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンタクトレンズの装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズの装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0003】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合させることにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。そのため、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0004】
一方、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの表面には、通常のハイドロゲルコンタクトレンズの表面には見られない顕著な凹凸が存在することが近年報告されている(非特許文献1)。このような顕著な凹凸は、滑らかな表面を有するものに比べて生体由来物質や汚れ等を付着させ易いだけでなく、摩擦の増大を生じさせることも予想され、とりわけ過敏な眼組織では、装用中に異物感や乾燥感などの不快感を引き起こすことも十分に考えられる。
【0005】
一般に、コンタクトレンズに使用される眼科組成物については、コンタクトレンズの種類に応じて、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが肝要である。特に、ソフトコンタクトレンズは、素材によってイオン性の有無や含水率の高低等が種々異なるため、ソフトコンタクトレンズ用の眼科組成物は、適用されるソフトコンタクトレンズの特性に応じて製剤設計を行うことが肝要である。
【0006】
また、花粉症は、花粉に含まれる花粉タンパク質が抗原となって粘膜等と接触することにより引き起こされるアレルギー症状である。近年、花粉症の患者が増加しており、大きな社会問題になりつつある。眼科分野でも、花粉症の予防や悪化抑制に有用な眼科組成物の開発が強く求められている。
【0007】
一方、クロモグリク酸及び/又はその塩は、肥満細胞の脱顆粒を抑制してヒスタミン等の化学伝達物質の遊離を抑制する抗アレルギー剤として、これまでにも眼科用組成物において使用されている(特許文献1)。しかしながら、上述のようなソフトコンタクトレンズ用の眼科組成物の製剤設計の困難性から、ソフトコンタクトレンズ(シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを含む)の装用時に使用可能なクロモグリク酸及び/又はその塩を含有する眼科組成物はこれまで市販されていない。
【0008】
また、ホウ酸及び/又はその塩は、緩衝作用を付与し、製剤安定性を付与すること等を目的としてこれまでにも眼科組成物で使用されている。
【0009】
しかしこれまで、クロモグリク酸及び/又はその塩、或いはホウ酸及び/又はその塩が、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対して如何なる作用を及ぼすかについては全く解明されていない。ましてや、クロモグリク酸及び/又はその塩と、特定量のホウ酸及び/又はその塩とを併用した場合に、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに如何なる作用を及ぼすかについては皆目見当がつかないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第98/13040号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】針谷明美等、第51回日本コンタクトレンズ学会総会プログラム講演抄録集、110頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者は、各種のソフトコンタクトレンズ(以下、SCLと表記することもある)に対する花粉タンパク質の吸着特性について種々検討していたところ、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、イオン性SHCLと表記することもある)には花粉タンパク質が著しく吸着し易いという全く新しい知見を得た。一般に、タンパク質は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対しては吸着し難いと考えられており、かかる知見は全く意外なものである。そして一般的に、コンタクトレンズ装用時には、眼が乾き易くなり、その結果、涙液による洗浄作用が低下して、花粉等の異物が眼に滞留し易くなるため、花粉症の発症リスクが高くなると考えられている。その上、コンタクトレンズに花粉タンパク質が多量に吸着し蓄積していくとすれば、花粉症の発症リスクを著しく高めることになる。このように、コンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積は、アレルギー症状を誘発する一因にもなりかねない。更に、コンタクトレンズに吸着した花粉タンパク質の除去が不十分になれば、コンタクトレンズの装用感が損なわれて不快感を誘発し、使用期間が短縮化されることにもなる。そのため、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積を抑制できるような手段の開発が求められている。
【0013】
そこで、本発明は、イオン性SHCLからの花粉タンパク質の除去を促進し、再付着も防止することで、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制できるイオン性SHCL用眼科組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、驚くべきことに、クロモグリク酸及び/又はその塩と、特定量のホウ酸及び/又はその塩とを併用すると、これらの相乗作用によって、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制することが可能になることを見出した。更に、本発明者は、このイオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用は、クロモグリク酸及び/又はその塩と、特定量のホウ酸及び/又はその塩との組み合わせに、テルペノイド類、ビタミンB6類、及び/又はクロルフェニラミン類を更に併用することによって一層増強させ得ることも見出した。
【0015】
また、本発明者等は更に検討を進めたところ、驚くべきことに、クロモグリク酸及び/又はその塩と、特定量のホウ酸及び/又はその塩とを併用すると、イオン性SHCLの摩擦をも低減できることを見出した。このイオン性SHCLの摩擦低減効果は、クロモグリク酸及び/又はその塩と、特定量のホウ酸及び/又はその塩との組み合わせに、テルペノイド類を更に併用することによって一層向上させることが可能である。
【0016】
本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0017】
即ち、本発明は、下記に掲げるイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を提供する。
項1-1. (A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有し、且つ該(B)成分の総量がホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上であることを特徴とする、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-2. (B)成分の配合割合が0.5w/v%以上である、項1-1に記載のイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-3. 更に、(C)テルペノイド類を含有する、項1-1又は1-2に記載のイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-4. 更に、(D)ビタミンB6類を含有する、項1-1〜1-3のいずれかに記載のイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-5. 更に、(E)クロルフェニラミン類を含有する、項1-1〜1-4のいずれかに記載のイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-6. (A)成分として、クロモグリク酸ナトリウムを含む、項1-1〜1-5のいずれかに記載のイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-7. (A)成分の配合割合が0.05〜4.0w/v%である、項1-1〜1-6のいずれかに記載のイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-8. (B)成分として、ホウ酸及びホウ砂を含む、項1-1〜1-7のいずれかに記載のイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-9. 点眼剤である、項1-1〜1-8のいずれかに記載のイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【0018】
また、本発明は、下記に掲げるイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法を提供する。
項2.(A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有し、且つ該(B)成分の総量がホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上であるイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させることを特徴とする、該イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法。
【0019】
また、本発明は、下記に掲げるイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用を付与する方法を提供する。
項3. イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合し、且つ、ホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上となるように(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【0020】
また、本発明は、下記に掲げるイオン性SHCLの摩擦を低減する方法を提供する。
項4. (A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有し、且つ該(B)成分の総量がホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上であるイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させることを特徴とする、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減させる方法。
【0021】
また、本発明は、下記に掲げるイオン性SHCLの摩擦低減作用を眼科組成物に付与する方法を提供する。
項5. イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合し、且つ、ホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上となるように(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの摩擦を低減する作用を該眼科組成物に付与する方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物によれば、イオン性SHCLの装用中に花粉タンパク質とイオン性SHCLが接触しても、イオン性SHCLからの花粉タンパク質の除去を促進し、再付着も防止することで、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制できる。よって、花粉症又は花粉症予備軍の使用者にとってアレルギー症状の発症リスクを低減させることができる。更に、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物によれば、イオン性SHCLの装用中又は装用前後にイオン性SHCLを清潔に保持することもできる。
【0023】
更に、本発明者等は、イオン性SHCLは、著しく摩擦が大きいことを確認した。このことは、イオン性SHCL装用時に不快感(異物感や乾燥感など)や目の疲れ等を引き起こす原因となり得る。さらに、摩擦の大きなコンタクトレンズは、眼瞼の裏側の粘膜とコンタクトレンズ表面とが擦れあう際に、又は眼球表面上でコンタクトレンズが動くたびに、角結膜に上皮障害を引き起こす惧れもある。これに対して、本発明によれば、イオン性SHCL表面の摩擦を顕著に低減することができるので、イオン性SHCL装用時の不快感や目の疲れ等を低減でき、また角結膜上皮障害を防止して、快適且つ安全にイオン性SHCLを使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】参考試験例1において、各種ソフトコンタクトレンズへの花粉タンパク質の吸着性を評価した結果を示す図である。
【図2】試験例1において、各種試験液(実施例1及び比較例1−5)がイオン性SHCLに吸着した花粉タンパク質を除去する効果を評価した結果を示す図である。
【図3】試験例2において、各種試験液(実施例2−4)がイオン性SHCLに吸着した花粉タンパク質を除去する効果を評価した結果を示す図である。
【図4】試験例3において、各種試験液(実施例5−8及び比較例6)がイオン性SHCLに吸着した花粉タンパク質を除去する効果を評価した結果を示す図である。
【図5】参考試験例2において、各種試験液(参考例1−3)がイオン性SHCLに吸着した花粉タンパク質を除去する効果を評価した結果を示す図である。
【図6】試験例4において、各種試験液(実施例9−10及び比較例7−9)について、イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.イオン性SHCL用眼科組成物
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(A)成分と表記することもある)を含有する。
【0026】
クロモグリク酸は、5,5'-(2-ヒドロキシトリメチレンジオキシ)ビス(4-オキソ-4H-1-ベンゾピラン-2-カルボン酸)とも称される公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0027】
クロモグリク酸の塩は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、例えば、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、アミノ酸、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等);無機塩基との塩[アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等);アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等);その他の金属塩(アルミニウム塩等)等]等が挙げられる。これらのクロモグリク酸の塩の中でも、好ましくは無機塩基との塩であり、より好ましくはアルカリ金属塩であり、更に好ましくはナトリウム塩(クロモグリク酸ナトリウム)である。これらのクロモグリク酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0028】
また、クロモグリク酸及び/又はその塩は、水和物の形態でも使用できる。
【0029】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物において、(A)成分としては、クロモグリク酸及びその塩の中から、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。(A)成分の中でも、好ましくはクロモグリク酸の塩、より好ましくはクロモグリク酸の無機塩基との塩、更に好ましくはクロモグリク酸のアルカリ金属塩、特に好ましくはクロモグリク酸ナトリウムが挙げられる。
【0030】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物において、(A)成分の配合割合については、(A)成分の種類、該イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(A)成分が総量で0.05〜4.0w/v%、好ましくは0.1〜3.0w/v%、更に好ましくは0.2〜2.0w/v%が例示される。
【0031】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)成分に加えて、ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(B)成分と表記することもある)を、ホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上となるような配合割合で含有する。このように(A)成分と共に、特定量以上の(B)成分を併用することによって、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用、或いはイオン性SHCLの摩擦低減作用を格段顕著に発揮させることが可能になる。
【0032】
ホウ酸は、三酸化二ホウ素が水化して生ずる酸素酸の総称であり、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸等が含まれる。ホウ酸は、公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0033】
また、ホウ酸の塩は、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として、特に制限されるものではないが、例えば、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、アミノ酸、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等);無機塩基との塩[アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等);アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等);その他の金属塩(アルミニウム塩等)等]等が挙げられる。これらのホウ酸の塩の中でも、好ましくは無機塩基との塩であり、より好ましくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩であり、更に好ましくはアルカリ金属塩であり、特に好ましくはナトリウム塩である。これらのホウ酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0034】
また、ホウ酸及び/又はその塩は、水和物の形態でも使用できる。
【0035】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物において、(B)成分は、ホウ酸及びその塩の中から
1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。本発明に使用される(B)成分としては、具体的には、オルトホウ酸、メタホウ酸、テトラホウ酸
、オルトホウ酸ナトリウム、メタホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸ナトリウム、オルトホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、テトラホウ酸カリウム、オルトホウ酸アンモニウム、メタホウ酸アンモニウム、テトラホウ酸アンモニウム、ホウ砂等が例示される。好ましくは、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物には、(B)成分として、ホウ酸とホウ砂の組合せが用いられる。尚、ホウ酸、ホウ砂は、日本薬局方適合品が好適に用いられ、これらは市販のものを用いることができる。
【0036】
(B)成分として、例えばホウ酸とホウ砂を組み合わせて使用する場合、これらの比率については、特に制限されるものではないが、ホウ酸100重量部当たり、ホウ砂が総量で、通常0.1〜200重量部、好ましくは1〜100重量部、更に好ましくは4〜50重量部が挙げられる。
【0037】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物において、(B)成分の配合割合は、イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、該(B)成分の総量がホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上を充足する限り、特に制限されない。ここで、(B)成分のホウ素原子含量換算の配合割合とは、ホウ酸及び/又はその塩に含まれるホウ素原子の含量に換算した配合割合であり、イオン性SHCL用眼科組成物に含まれる(B)成分の配合割合から容易に算出可能である。例えば、イオン性SHCL用眼科組成物が(B)成分として0.5w/v%のオルトホウ酸と0.02w/v%のホウ砂を含有する場合には、オルトホウ酸(分子量61.83)には1原子のホウ素が含まれ、ホウ砂(分子量381.37)には4原子のホウ素が含まれることから、オルトホウ酸に由来するホウ素原子の含有割合は0.00809mol/100mL、ホウ砂に由来するホウ素原子の含有割合は0.00021mol/100mLとなり、(B)成分総量のホウ素原子含量換算での配合割合は0.00830mol/100mLとなる。イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用をより一層向上させるという観点、或いはイオン性SHCLの摩擦をより一層低減させるという観点から、イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(B)成分の総量がホウ素原子含量換算で、好ましくは0.008〜0.1mol/100mL、より好ましくは0.008〜0.08mol/100mL、更に好ましくは0.008〜0.05mol/100mLとなる配合割合が例示される。
【0038】
また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物の総量に対する(B)成分の配合割合は、該(B)成分の総量がホウ素原子含量換算の配合割合で0.008mol/100mL以上となるように適宜調整して決定され得る。好ましくは、(B)成分の配合割合として、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用をより一層向上させるという観点、或いはイオン性SHCLの摩擦をより一層低減させるという観点から、イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.5w/v%以上、更に好ましくは0.5〜5w/v%、特に好ましくは0.5〜3w/v%の割合で配合される。
【0039】
また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物において、上記(A)成分に対する上記(B)成分の比率については、特に制限されるものではないが、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用をより一層向上させるという観点、或いはイオン性SHCLの摩擦をより一層低減させるという観点から、(A)成分の総量100g当たり、(B)成分の総量がホウ素原子含量換算で0.001〜50mol、好ましくは0.01〜20mol、更に好ましくは0.1〜10molとなる範囲が例示される。
【0040】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)及び(B)成分に加えて、テルペノイド類(以下、(C)成分と表記することもある)を含有することが好ましい。このように更に(C)成分を含むことによって、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用、或いはイオン性SHCLの摩擦を低減する作用を一層増強させることができる。
【0041】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に使用されるテルペノイド類については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り、特に制限されない。かかるテルペノイド類として、具体的には、メントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール、シネオール、シトロネロール、カルボン、アネトール、オイゲノール、リモネン、リナロール、酢酸リナリル、これらの誘導体等が挙げられる。これらの化合物はd体、l体又はdl体のいずれでもよい。また、本発明において、テルペノイド類として、上記化合物を含有する精油を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ユーカリ油、ベルガモット油、ペパーミント油、クールミント油、スペアミント油、ハッカ油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ローズ油、樟脳油等が挙げられる。これらのテルペノイド類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0042】
これらのテルペノイド類の内、イオン性SHCLへの花粉タンパク質蓄積抑制作用を一層高めるという観点、或いはイオン性SHCLの摩擦をより一層低減させるという観点から、好ましくはメントール、メントン、カンフル、ボルネオール、ゲラニオールが挙げられ、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油、ローズ油等が例示される。更に好ましくは、メントール及びカンフル、より好ましくはl-メントール、dl-メントール、d-カンフル及びdl-カンフルが挙げられ、特に好ましくはl-メントール及びdl-メントールが挙げられ、これらを含有する精油としてクールミント油、ペパーミント油、ハッカ油、樟脳油等が例示される。
【0043】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に上記(C)成分を配合する場合、該(C)成分の配合割合については、特に制限されないが、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する効果を一層高めるという観点、或いはイオン性SHCLの摩擦をより一層低減させるという観点から、イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、テルペノイド類が総量で0.0001〜0.2w/v%、好ましくは0.0005〜0.1w/v%、更に好ましくは0.001〜0.07w/v%が挙げられる。なお、テルペノイド類を含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイド含有量が上記配合割合を満たすように設定される。
【0044】
また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物において、上記(A)成分に対する上記(C)成分の比率については、前述する配合割合を満たす限り特に制限されるものではないが、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する効果をより一層向上させるという観点、或いはイオン性SHCLの摩擦をより一層低減させるという観点から、上記(A)成分の総量100重量部当たり、上記(C)成分の総量が0.001〜500重量部、好ましくは0.005〜300重量部、更に好ましくは0.01〜100重量部となる比率を充足することが望ましい。なお、テルペノイドを含む精油を使用する場合は、配合される精油中のテルペノイド類含有量が上記比率を満たすように設定される。
【0045】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)及び(B)成分に加えて、ビタミンB6類(以下、(D)成分と表記することもある)を含有することが好ましい。このように更に(D)成分を含むことによっても、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用を一層増強させることができる。
【0046】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に使用されるビタミンB6類については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り、特に制限されないが、具体的には、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン、及びこれらの塩が挙げられる。
【0047】
本発明で使用される上記(D)成分の内、ピリドキシン、ピリドキサール、及びピリドキサミンの塩については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)等が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは無機酸塩、より好ましくは塩酸塩及びリン酸塩、特に好ましくは塩酸塩が挙げられる。これらのピリドキシン、ピリドキサール、及びピリドキサミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0048】
これらのビタミンB6類の内、イオン性SHCLへの花粉タンパク質蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはピリドキシン及びその塩、より好ましくはピリドキシン及びその無機酸塩、更に好ましくはピリドキシン塩酸塩及びピリドキシンリン酸塩、特に好ましくはピリドキシン塩酸塩(塩酸ピリドキシン)が挙げられる。
【0049】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に上記(D)成分を配合する場合、該(D)成分の配合割合については、特に制限されないが、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する効果を一層高めるという観点から、イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、該(D)成分が総量で0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.01〜0.5w/v%、更に好ましくは0.02〜0.2w/v%が挙げられる。
【0050】
また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物において、上記(A)成分に対する上記(D)成分の比率については、前述する配合割合を満たす限り特に制限されるものではないが、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する効果をより一層向上させるという観点から、上記(A)成分の総量100重量部当たり、上記(D)成分の総量が0.001〜500重量部、好ましくは0.01〜100重量部、更に好ましくは0.1〜50重量部となる比率を充足することが望ましい。
【0051】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)及び(B)成分に加えて、クロルフェニラミン類(以下、(E)成分と表記することもある)を含有することが好ましい。このように更に(E)成分を含むことによっても、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用を一層増強させることができる。
【0052】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に使用されるクロルフェニラミン類については、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される限り、特に制限されないが、具体的には、クロルフェニラミン類として、クロルフェニラミン及びその塩が挙げられる。
【0053】
クロルフェニラミンは、3-(4-クロロフェニル)-N,N-ジメチル-3-ピリジン-2-イル-プロピルアミンとも称される公知の化合物である。
【0054】
クロルフェニラミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、マレイン酸塩、フマル酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;金属塩等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩、更に好ましくはマレイン酸塩(マレイン酸クロルフェニラミン)が挙げられる。これらのクロルフェニラミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0055】
また、クロルフェニラミン及びその塩は、水和物の形態であってもよく、更にd体、l体、dl体のいずれであってもよい。
【0056】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物には、(E)成分として、クロルフェニラミン及びその塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。これらの(E)成分の中でも、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはクロルフェニラミンの塩、更に好ましくはマレイン酸クロルフェニラミンが挙げられる。
【0057】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に上記(E)成分を配合する場合、該(E)成分の配合割合については、特に制限されないが、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する効果を一層高めるという観点から、イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、該(E)成分が総量で0.0006〜0.15w/v%、好ましくは0.001〜0.1w/v%、更に好ましくは0.006〜0.05w/v%が挙げられる。
【0058】
また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物において、上記(A)成分に対する上記(E)成分の比率については、前述する配合割合を満たす限り特に制限されるものではないが、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する効果をより一層向上させるという観点から、上記(A)成分の総量100重量部当たり、上記(E)成分の総量が0.001〜500重量部、好ましくは0.01〜100重量部、更に好ましくは0.1〜50重量部となる比率を充足することが望ましい。
【0059】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、更に界面活性剤を含有していてもよい。本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0060】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類;POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、αオレフィンスルホン酸等が例示される。
【0061】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物において、上記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
上記の界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤;より好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、又はPOE・POPブロックコポリマー類が用いられる。
【0063】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の配合割合の一例として、イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.7w/v%、更に好ましくは0.01〜0.5w/v%が例示される。
【0064】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、ホウ酸及びその塩から構成されるホウ酸緩衝剤以外の緩衝剤を更に含有していてもよい。本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に配合できるホウ酸緩衝剤以外の緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、リン酸緩衝剤である。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、リン酸緩衝剤として、リン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);トリス緩衝剤として、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン又はその塩(塩酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0065】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に、ホウ酸緩衝剤以外の緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0066】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、より確実に本発明の効果を奏させるという観点から、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン及びプロピレングリコールが挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0067】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
【0068】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明のイオン性SHCL用眼科組成物のpHの一例として、3.5〜9.5、好ましくは3.5〜8.5、更に好ましくは4.0〜8.0となる範囲が挙げられる。
【0069】
また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明のイオン性SHCL用眼科組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.5〜5.0、更に好ましくは0.6〜3.0、特に好ましくは0.7〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0070】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、フマル酸ケトチフェン、ペミロラストカリウム等。
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、パンテノール、パントテン酸カルシウム等。アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、グリチルリチン酸二カリウム、プラノプロフェン、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グアイアズレン、ε−アミノカプロン酸、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、塩化リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、コンドロイチン硫酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム等。
【0071】
また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等。
糖類:例えば、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
【0072】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、所望量の上記(A)及び(B)成分、及び必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製される。
【0073】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、その剤型については、眼科分野で使用可能である限り特に制限されないが、例えば、液状、軟膏状等が挙げられる。これらの中でも、液状が好ましい。また液状の中でも水性液状が好ましい。本発明のイオン性SHCL用眼科組成物を水性液状にする場合、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を水性担体として使用すればよく、このような水として、具体的には、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等が例示される。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。ここで、水性液状とは、水を含有する液状の形態を意味し、通常は、イオン性SHCL用眼科組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上を含有するものを意味する。
【0074】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、眼科分野で用いられるものであってSHCLに接触するように使用されるものであれば、その製剤形態については制限されない。例えば、イオン性SHCL用点眼剤(イオン性SHCLを装着したまま使用可能な点眼剤)、イオン性SHCL用洗眼剤(イオン性SHCLを装着したまま使用可能な洗眼剤)、イオン性SHCL装着液、イオン性SHCLケア用液剤(イオン性SHCL消毒液、イオン性SHCL保存液、イオン性SHCL洗浄液、及びイオン性SHCL洗浄保存液等)等を挙げることができる。これらの中でも、イオン性SHCL用点眼剤は、イオン性SHCL装用中に手軽に使用できるので、イオン性SHCL装用中に花粉タンパク質が蓄積すること、或いはイオン性SHCLの摩擦を効果的に抑制できイオン性SHCL装用中の不快感を防止して快適にイオン性SHCLを装用することを可能にするという点で好適である。そして、点眼剤は、他の眼科組成物に比べて一般に1日当たりの使用頻度が高いため、本発明の効果をより一層有効に奏させ得る。これらの観点を総合的に鑑みれば、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物の好適な一例として、イオン性SHCL用点眼剤が挙げられる。
【0075】
また、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物の使用方法としては、該イオン性SHCL用眼科組成物をイオン性SHCLに接触させることとなる工程を有する公知の方法であれば、特に限定はない。例えば、イオン性SHCL用点眼剤の場合、イオン性SHCLの装着前又は装用中に、該点眼剤の適量を点眼すればよい。また、イオン性SHCL用洗眼剤の場合も、イオン性SHCLの装着前又は装用中、該洗眼剤の適量を洗眼に使用すればよい。なお、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物がイオン性SHCL用点眼剤又はイオン性SHCL用洗眼剤である場合、イオン性SHCLを装用している時はもちろん、装用していない時でも点眼や洗眼の目的で使用することができる。また、イオン性SHCL装着液の場合、イオン性SHCLの装着時にイオン性SHCLと該装着液の適量を接触させることより使用される。更に、イオン性SHCLケア用液剤の場合であれば、適量の該ケア用液剤中にイオン性SHCLを浸漬したり、該ケア用液剤にイオン性SHCLを接触させて擦り洗いすること等によって使用される。
【0076】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物において、適用対象となるイオン性SHCLの種類については特に制限されず、現在市販されている、或いは将来市販される全てのイオン性SHCLを適用対象にできる。なお、ここでイオン性とは、当業者が通常理解するように、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、素材中のイオン性成分含有率が1mol%以上であることをいう。また、適用対象となるイオン性SHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下、特に好ましくは40%以下が挙げられる。
【0077】
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
【0078】
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率は、ISO18369-4:2006の記載に従って重量測定方法により測定され得る。
【0079】
一般に材質が柔らかい非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに比べ、材質が硬いシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、異物の吸着・蓄積によるレンズの変形や濡れ性低下により、使用感の悪化を感じさせ易く、眼粘膜障害を引き起こし易い傾向にある。本発明のイオン性SHCL用眼科組成物によれば、このように使用感悪化や眼粘膜障害を引き起こし易い硬い材質のイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を有効に抑制することができ、それによりレンズの変形や変質を防いで、使用感の悪化や眼粘膜障害を効果的に防止することもできる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物の好適な適用対象として、硬度が比較的高いイオン性SHCLが挙げられる。好ましくは、適用対象となるイオン性SHCLの硬度は、下記のテクスチャーアナライザーによる測定方法により測定した場合の硬度が、3g以上、好ましくは4g以上、より好ましくは6g以上、更に好ましくは8g以上である。また、適用対象となるイオン性SHCLの硬度の上限値については、特に制限されないが、好ましくは15g以下、更に好ましくは12g以下である。
【0080】
コンタクトレンズの硬度は、テクスチャーアナライザー(製品名:TA.XT.plus TEXTUREANALYSER(Stable Micro Systems Limited製))を用いて、具体的に以下のようにして測定され得る。
【0081】
まず、測定対象となるコンタクトレンズをパッケージから取り出し、余分な水分をふき取って、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム溶液)で濯いだ後、生理食塩水を満たしたプラスチックシャーレの底に凸面が上方になるように配置する。次いで、測定器のプローブの真下に該コンタクトレンズが来るように調節し、以下の測定条件下で測定を行う。
【0082】
[測定条件]
測定器の設定:
テストモード 圧縮測定
プローブタイプ φ10mmシリンダープローブ
Target Mode Distance
Distance 2.5mm
Triger Type Auto
Triger Force 0.1g
Test Speed 1.0mm/sec
プローブがレンズ頂点を押し下げ始めてから2.5mm(2.5秒)レンズを押しつぶす際の応力を測定し、その最大値を硬度として記録する。
【0083】
本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、イオン性SHCLからの花粉タンパク質の除去を促進し、再付着も防止できるので、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を有効に抑制できる。よって、コンタクトレンズ上に吸着された花粉タンパク質が、長時間眼に接触し続ける事を防ぎ、花粉によるアレルギーの予防や悪化の防止にも有効である。更に、本発明のイオン性SHCL用眼科組成物は、(A)成分に基づく抗アレルギー作用を発揮することができる。従って、花粉症又は花粉症予備軍のイオン性SHCL使用者への適用に好適である。
【0084】
2.イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法、及びイオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積抑制作用を付与する方法
また、前述するように、(A)成分と共に特定量の(B)成分を併用することによって、イオン性SHCL装用眼が花粉に晒されても、イオン性SHCLからの花粉タンパク質の除去を促進し、再付着を防止できるので、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制することが可能になる。従って、本発明は、更に別の観点から、(A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有し、且つ該(B)成分の総量がホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上であるイオン性SHCL用眼科組成物を、イオン性SHCLと接触させることを特徴とする、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法を提供する。更には、イオン性SHCL用眼科組成物に、(A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合し、且つ、ホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上となるように(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する作用を該眼科組成物に付与する方法を提供する。
【0085】
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となるイオン性SHCLの種類等については、前記「1.イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【0086】
3.イオン性SHCLの摩擦低減方法;及びイオン性SHCLの摩擦を低減する作用を眼科組成物に付与する方法
前述するように、(A)成分と共に特定量の(B)成分を併用することによって、イオン性SHCL表面の摩擦を低減することができる。
【0087】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有し、且つ該(B)成分の総量がホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上であるイオン性SHCL用眼科組成物を、イオン性SHCLと接触させることを特徴とする、イオン性SHCLの摩擦を低減させる方法を提供する。更に、本発明は、イオン性SHCL用眼科組成物に、(A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合し、且つ、ホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上となるように(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、イオン性SHCLの摩擦を低減する作用を該眼科組成物に付与する方法をも提供する。
【0088】
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となるイオン性SHCLの種類等については、前記「1.イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0090】
参考試験例1:SCLに対する花粉タンパク質吸着特性の評価
表1に示す4種のソフトコンタクトレンズを試験に用いて、ソフトコンタクトレンズに対する花粉タンパク質の吸着特性を評価した。
【0091】
まず、試験に使用するレンズを、生理食塩液4mLに1枚ずつ浸漬させ、室温にて一晩保存した(レンズの前処理)。
【0092】
花粉タンパク質抗原((株)エル・エス・エル社製 Cedar Pollen Extract-Ja、性状:凍結乾燥粉末(Cedar Pollen粗抽出物 Mountain ceder、Juniperus Asheiiの花粉から抽出))を、生理食塩液に溶解し、5mg/30mL花粉タンパク質液を調製した。24穴プレートの各穴に花粉タンパク質液を1.0mLずつ入れ、前処理済みのレンズの余分な水分をふき取り浸漬した。34℃120rpmにて18時間振とう処理を行った。レンズを取り出し、生理食塩液100mLに一度くぐらせた後、ビーカーのふちを使って軽く水分を切り、24穴プレートの各穴に入れた花粉タンパク質分離用液(1%炭酸ナトリウム及び1%SDS水溶液)1mLに浸漬させた。34℃120rpmで3時間振とうし、レンズに吸着した花粉タンパク質を花粉タンパク質分離用液中に分離させた。
【0093】
マイクロBCAアッセイキット(Thermo SCIENTIFIC,Pierce #23235)を用いて、花粉タンパク質分離用液中の花粉タンパク質量を、アルブミン換算値として定量し、レンズに対する花粉タンパク質吸着量を求めた。
【0094】
【表1】

【0095】
なお、各ソフトコンタクトレンズの硬度は、上述のようにテクスチャーアナライザー(製品名:TA.XT.plus TEXTURE ANALYSER(Stable Micro Systems Limited製))を用いて
測定した値である。
【0096】
結果を図1に示す。イオン性SHCLであるレンズAを用いた場合には、非シリコン製レンズであるレンズC及びレンズDや、非イオン性SHCLであるレンズBと比較すると、顕著に高い花粉タンパクの吸着が認められた。この結果から、花粉タンパク質は、ソフトコンタクトレンズの中でもイオン性SHCLに対して極めて多量に吸着する傾向があり、イオン性SHCLには、花粉タンパク質を非常に吸着し易いという特有の課題が存在することが確認された。
【0097】
試験例1:イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制の評価(1)
上記参考試験例1にて花粉タンパク質の顕著な吸着が確認されたレンズA(イオン性SHCL)を用いて、下記の試験を実施した。
【0098】
先ず、レンズAを、5mLの生理食塩液に1枚ずつ浸漬させ、一晩室温にて保存した(レンズの前処理)。花粉タンパク質抗原((株)エル・エス・エル社製 Cedar Pollen Extract-Ja、性状:凍結乾燥粉末(Cedar Pollen粗抽出物 Mountain ceder、Juniperus Asheiiの花粉から抽出))を生理食塩液に溶解し、5mg/50mL花粉タンパク質液を調製した。24穴プレートの各穴に、1.0mLの花粉タンパク質液を入れ、前処理したレンズの余分な水分をふき取った後に浸漬させ、34℃、400rpmで24時間振とうを行った。
【0099】
花粉タンパク質液に浸漬させたレンズAを取り出し、生理食塩水100mLに素早く(約1秒)浸漬させて余分な液をすすいだ後、水分をふき取り、24穴プレートに入れた表2に記載の各試験液(実施例1及び比較例1−5)1.0mLに浸漬して34℃、400rpmで4時間振とうを行った。その後、レンズAを取り出し、各試験液を採取した。
【0100】
マイクロBCAアッセイキット(Thermo SCIENTIFIC,Pierce #23235)を用いて、各試験液中に存在する花粉タンパク質の量を、アルブミン換算値として定量し、レンズAから脱着した花粉タンパク質の量を求めた。次式により、コントロール(比較例1)の試験液における花粉タンパク質の量に対する、他の比較例及び実施例の試験液における花粉タンパク質の量の割合(花粉タンパク質脱着率:%)を算出した。
【0101】
【数1】

【0102】
【表2】

【0103】
結果を図2に示す。図2に示されるように、クロモグリク酸ナトリウムを単独で含有する場合(比較例2)には花粉タンパク質脱着率が若干上昇したが、クロモグリク酸ナトリウムと0.2w/v%程度の配合割合のホウ酸及びホウ砂(ホウ素原子含量換算の配合割合:0.00331 mol/100mL)を併用した場合(比較例3)では、花粉タンパク質脱着率は低下しコントロールと同等であった。一方、全く予想外なことに、クロモグリク酸ナトリウムと0.5w/v%程度の配合割合のホウ酸及びホウ砂(ホウ素原子含量換算の配合割合:0.00830mol/100mL)を併用した場合(実施例1)には、花粉タンパク質脱着率が著しく向上することが明らかとなった。また、ホウ酸緩衝剤以外の他の緩衝剤についても同様の検討を行ったところ、クロモグリク酸ナトリウムと他の緩衝剤を併用した場合には、0.5w/v%以上の緩衝剤を用いても、クロモグリク酸ナトリウムを単独で含有する場合と花粉タンパク質脱着効果は変わらないか、或いは低下させてしまうことが認められた。即ち、花粉タンパク質脱着率の著しい向上は、クロモグリク酸ナトリウムと、特定の割合のホウ酸及び/又はホウ砂とを組み合わせた場合に獲得される特有の効果であることが明らかとなった。
【0104】
試験例2:イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制の評価(2)
上記表1に記載のレンズA(イオン性SHCL)を用いて、下記の試験を実施した。
【0105】
先ず、レンズAを、5mLの生理食塩液に1枚ずつ浸漬させ、一晩室温にて保存した(レンズの前処理)。花粉タンパク質抗原((株)エル・エス・エル社製 Cedar Pollen Extract-Ja、性状:凍結乾燥粉末(Cedar Pollen粗抽出物 Mountain ceder、Juniperus Asheiiの花粉から抽出))を生理食塩液に溶解し、5mg/50mL花粉タンパク質液を調製した。24穴プレートの各穴に、1.0mLの花粉タンパク質液を入れ、前処理したレンズの余分な水分をふき取った後に浸漬させ、34℃、400rpmで18時間振とうを行った。
【0106】
花粉タンパク質液に浸漬させたレンズAを取り出し、生理食塩水100mLに素早く(約1秒)浸漬させて余分な液をすすいだ後、水分をふき取り、24穴プレートに入れた表3に記載の各試験液1mLに浸漬して34℃、400rpmで24時間振とうした。その後、レンズAを取り出し、生理食塩水100mLに素早く(約1秒)浸漬させて余分な液をすすいだ後、ビーカーのふちを使って、軽く水分を切り、24穴プレートに入れた花粉タンパク質分離用液(1%炭酸ナトリウム及び1%SDS含有水溶液)0.5mLに浸漬させた。34℃、400rpmで3時間振とうし、レンズに吸着した花粉タンパク質を花粉タンパク質分離用液中に分離させた。
【0107】
マイクロBCAアッセイキット(Thermo SCIENTIFIC,Pierce #23235)を用いて、花粉タンパク質分離用液中の花粉タンパク質の量を、アルブミン換算値として定量し、レンズAから脱離した花粉タンパク質の量(花粉タンパク質吸着量)を求めた。次いで、次式により、コントロール試験液を用いた場合の花粉タンパク質吸着量に対する、他の比較例及び実施例の試験液を用いた場合の花粉タンパク質吸着量の割合から、花粉タンパク質吸着改善率(%)を算出した。
【0108】
【数2】

【0109】
【表3】

【0110】
得られた結果を図3に示す。図3より明らかなように、ホウ酸及び/又はその塩を0.5w/v%(ホウ素原子含量換算の配合割合:0.00830mol/100mL)以上の割合で、クロモグリク酸ナトリウムと組み合わせることにより、顕著に高い花粉タンパク質吸着改善率が達成され、イオン性SHCLへの花粉タンパク質の蓄積が効果的に抑制されることが明らかとなった。
【0111】
試験例3:イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制の評価(3)
上記表1に記載のレンズA(イオン性SHCL)を用いて、表4に示す試験液(実施例5−8、及び比較例1、6)について、各試験液での浸漬処理時間を24時間から18時間に変更した以外は上記試験例2と同様の方法で、イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制効果を評価した。
【0112】
【表4】

【0113】
得られた結果を図4に示す。図4より明らかなように、本発明の特定割合のホウ酸及び/又はホウ砂とクロモグリク酸ナトリウムの組合せに対し、更に、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ピリドキシン、又はメントールを配合することにより、イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制効果が更に増強されることが明らかとなった。
【0114】
参考試験例2:イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制の評価(4)
上記試験例3で、特定割合のホウ酸及び/又はホウ砂とクロモグリク酸ナトリウムと共に配合することによりイオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制効果を増強する作用を発揮することが確認された、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ピリドキシン、又はメントールについて、以下の試験を実施した。
【0115】
具体的には、表5に示す試験液(比較例1、及び参考例1−3)について、花粉タンパク質液での浸漬処理時間を18時間から24時間に変更した以外は上記試験例2と同様の方法で、イオン性SHCLに対する花粉タンパク質の蓄積抑制効果を評価した。
【0116】
【表5】

【0117】
この結果を図5に示す。図5より明らかなように、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ピリドキシン、又はメントールを単独で用いた場合には、イオン性SHCLに対する花粉タンパク質蓄積抑制効果は無いことが確認された。
【0118】
参考試験例3:イオン性SHCL表面の摩擦の評価:
イオン性SHCL表面の物性を測定するために、粘着性、粘弾性、乾燥性等の様々な表面物性変化を摩擦の増減の面から評価することが知られている剛体振り子物性試験器RPT−3000W((株)エー・アンド・デイ製)を用いて、イオン性SHCL表面の摩擦力の評価を行った。試験に使用したイオン性SHCLはレンズI(イオン性SHCL、主要構成モノマー:TrisVC、NVP(USAN:BalafilconA)、含水率36.0%、BC 8.6、DIA 14.0mm)であり、市販品である。
【0119】
このイオン性SHCLを生理食塩水中に一晩浸漬させたものを試験サンプルとして用いた。測定条件は、温度25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で測定を実施し、測定開始から5分後の対数減衰率を以って、イオン性SHCL表面の摩擦の評価を行った。ここで測定される対数減衰率はレンズ表面の摩擦の大小を示し、対数減衰率が高いほど摩擦が大きいことを示す。
【0120】
その結果、イオン性SHCLであるレンズIの対数減衰率は、約0.23と著しく高い値であった。従って、イオン性SHCLは対数減衰率が高く、摩擦が非常に大きいことが認められた。
【0121】
試験例4:イオン性SHCL表面の摩擦に対する低減効果の評価:
イオン性SHCLとして上記参考試験例3で使用したレンズIを用い、レンズ表面の摩擦低減効果について以下の方法により評価を行った。
【0122】
先ず、下記の表に示される各試験液(実施例9−10及び比較例7−9)を調製した。イオン性SHCL(レンズI)を生理食塩水に4時間以上浸漬して前処理した後、10mlの各試験液中に1枚づつ浸漬させ、一晩静置した。その後、レンズ表面の水分を軽くふき取り、温度25℃、相対湿度60%条件の下、振り子重量200g、センサー径4mmの条件で、対数減衰率を10秒毎に計3分間測定した。
【0123】
【表6】

【0124】
この結果を下記の図6に示す。図6に示されるように、全く予想外のことに、ホウ酸及び/又はその塩を0.5w/v%(0.00830mol/100mL)以上の割合でクロモグリク酸ナトリウムと組み合わせて用いることにより、イオン性SHCL表面の摩擦を相乗的に低減できることが認められた。更に、これらにメントールを組み合わせることにより、より一層効果的にイオン性SHCL表面の摩擦を低減できることも明らかとなった。
【0125】
製剤例
表7に記載の処方で、イオン性SHCL用点眼剤(実施例11−20)が調製される。
【0126】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有し、且つ該(B)成分の総量
がホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上であることを特徴とする、イオン性シリコ
ーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項2】
(B)成分の配合割合が0.5w/v%以上である、請求項1に記載のイオン性シリコーンハ
イドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項3】
更に、(C)テルペノイド類を含有する、請求項1又は2に記載のイオン性シリコーンハ
イドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項4】
更に、(D)ビタミンB6類を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のイオン性シリ
コーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項5】
更に、(E)クロルフェニラミン類を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のイオン
性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項6】
点眼剤である、請求項1〜5のいずれかに記載のイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項7】
(A)クロモグリク酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と、(B)ホウ酸及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有し、且つ該(B)成分の総量
がホウ素原子含量換算で0.008mol/100mL以上であるイオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を、イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させることを特徴とする、該イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの花粉タンパク質の蓄積を抑制する方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−136986(P2011−136986A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268080(P2010−268080)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】