説明

イオン性ポリマー粒子分散液およびその製造方法

【課題】燃料電池の触媒層と芳香族炭化水素系電解質膜との接着性を向上させる材料として用いることができる、芳香族炭化水素系イオン性ポリマー粒子分散液を提供する。
【解決手段】芳香族炭化水素系イオン性ポリマーが難溶である貧溶媒と、該貧溶媒と混和性を有しかつ前記イオン性ポリマーが易溶である良溶媒に、前記イオン性ポリマーを溶解させたイオン性ポリマー液とを、連続的に混合することにより、イオン性ポリマー粒子を生成させてなる芳香族炭化水素系イオン性ポリマー粒子分散液を調製し、貧溶媒析出法で芳香族炭化水素系イオン性ポリマー粒子を触媒層12b,13bにプロトン伝導材料として分散析出させることで芳香族炭化水素系電解質膜11との密着性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性ポリマー粒子分散液およびその製造方法に関する。特に、固体高分子型燃料電池用電極に用いる、イオン性ポリマー粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動し高出力密度が得られる燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。燃料電池には、固体高分子型燃料電池(PEFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、アルカリ型燃料電池(AFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)などがある。なかでも、固体高分子型燃料電池は、比較的低温で作動して高出力密度が得られることから、電気自動車用電源として期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池の構成は、一般的には、膜電極接合体(Membrane and Electrode Assembly、以下「MEA」ともいう)をセパレータで挟持した構造となっている。MEAは、例えば、電解質膜が一対の触媒層および導電層(ガス拡散層)により挟持されてなるものである。
【0004】
触媒層は、電解質と導電材に活性金属触媒が担持された混合物により形成された多孔性のものである。また、導電層は、カーボンクロスなどのガス拡散基材表面にカーボン粒子および撥水剤などからなるカーボン撥水層が形成されてなるものが用いられている。
【0005】
固体高分子型燃料電池では、以下のような電気化学的反応が進行する。まず、アノード極側の触媒層に供給された燃料ガスに含まれる水素は、下記式(1)に示すように活性金属触媒により酸化されてプロトンおよび電子となる。次に、生成したプロトンは、アノード極側触媒層に含まれるプロトン伝導材料、さらにアノード極側触媒層と接触している電解質膜を通り、カソード極側触媒層に達する。また、アノード極側触媒層で生成した電子は、アノード極側触媒層を構成している導電材、さらにアノード極側触媒層の固体高分子電解質膜と異なる側に接触している導電層、セパレータおよび外部回路を通してカソード極側触媒層に達する。そして、カソード極側触媒層に達したプロトンおよび電子は、下記式(2)に示すように活性金属触媒によりカソード極側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する。燃料電池では、上述した電気化学的反応を通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。
【0006】
アノード極側触媒層:H 2 →2H + +2e - (1)
カソード極側触媒層:1/2O 2 +2H + +2e - →H 2 O(2)
【0007】
そのため、電解質膜は、高いプロトン伝導性、および、電極に挟まれたセパレータとしての機能などを有することが求められる。
【0008】
固体高分子型燃料電池の製造過程は、例えば、特許文献1に記載されており、電解質膜と2つの電極は、一般に、電解質膜を加熱しつつ、加圧するホットプレスによって接合される。たとえば、2つの電極間に電解質膜を挟みこみ、さらにこれらを2枚のプレス板間に挿入した後、125℃から130℃に温度を上昇させ、約10MPaの圧力で約60秒間ホットプレスを行って、電解質膜と2つの電極を接合させている。
【0009】
特許文献2、特許文献3および特許文献4には、それぞれ、イオン交換体ポリマー分散液が記載されている。しかしながら、炭化フッ素系材料が使用されており、高価であるという問題がある。
【0010】
特許文献5には、イオン性液体を含むポリマー分散液が記載されている。しかしながら、該分散液は、液体状態である。そこで、固体高分子型燃料電池にも利用可能なポリマー分散液が求められる。
【0011】
【特許文献1】特開平5−135785号公報
【特許文献2】特開2003−55568号公報
【特許文献3】特開2004−35864号公報
【特許文献4】特開2004−75979号公報
【特許文献5】特開2004−256711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、かかる不都合を解消するものであって、触媒層の材料として用いることができる、イオン性ポリマー粒子分散液およびとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる状況のもと、発明者は、以下の点についてさらに検討した。
膜電極接合体において、従来から電解質膜として広く使用されているパーフルオロアルキレンスルホン酸ポリマー(例えば、デュポン社製ナフィオン(商品名))は、スルホン化されていることにより優れたプロトン導伝性を備え、さらに、フッ素樹脂としての耐薬品性とを備えているが非常に高価である。よって、これらの問題点についても、避けることを検討した。
【0014】
そこで、パーフルオロアルキレンスルホン酸ポリマーに代わる廉価な電解質膜として、例えば、分子構造にフッ素を含まないか、フッ素含有量を低減した炭化水素系高分子化合物のスルホン化物を用いて膜電極接合体を構成することについて検討した。この点については、従来からも検討されており、炭化水素系ポリマーとしては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾール等のような複数のベンゼン環が2価の有機基を介してまたは直接結合した主鎖を備えるものが知られている。また、炭化水素系ポリマーとして、米国特許第5403675号明細書には、剛直ポリフェニレン化合物が記載されている。
【0015】
しかしながら、電解質膜、特に炭化水素系ポリマーからなる電解質膜は、触媒層に挟持させて一体化しようとすると、該電解質膜と、触媒層との間で十分な密着性が得られにくいことを見出した。また、電解質膜と触媒層の間の密着性が低い膜電極接合体では、該電解質膜と触媒層との間におけるプロトンの授受が阻害されるために十分な発電性能が得られない。
【0016】
この密着性が低い原因は、電解質膜の材料として前記炭化水素系ポリマーを使っている場合でも触媒層でパーフルオロアルキレンスルホン酸ポリマーを使うためであることが本発明者の研究の末、明らかになった。前記炭化水素系ポリマーは、パーフルオロアルキレンスルホン酸ポリマーのように溶媒中に分散することができず、そのため触媒層に入れることができていなかったためである。
【0017】
かかる状況の下、本願発明者が鋭意検討した結果、下記手段により上記課題を解決しうることを見出した。
(1)イオン性ポリマーが難溶である貧溶媒と、該貧溶媒と混和性を有しかつ前記イオン性ポリマーが易溶である良溶媒に、前記イオン性ポリマーを溶解させたイオン性ポリマー液とを、連続的に混合することにより、イオン性ポリマー粒子を生成させてなるイオン性ポリマー粒子分散液であって、前記イオン性ポリマーが、芳香族炭化水素系ポリマーであるイオン性ポリマー粒子分散液。
(2)前記芳香族炭化水素系ポリマーが、スルホアルキル化芳香族炭化水素系ポリマーである、(1)に記載のイオン性ポリマー粒子分散液。
(3)前記イオン性ポリマー粒子の体積平均粒径が1nm〜200nmである、(1)または(2)に記載のイオン性ポリマー粒子分散液。
(4)イオン性ポリマー溶液の添加流量に対する貧溶媒の添加流量が体積流量比で3以上である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のイオン性ポリマー粒子分散液。
(5)前記イオン性ポリマーがスルホン酸基を含む、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のイオン性ポリマー粒子分散液。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載のポリマー粒子分散液を用いてなる燃料電池用電極。
(7)一対の電極と、該電極間に設けられた電解質膜とを有し、かつ、前記電極が(6)に記載の燃料電池用電極である、膜電極接合体。
(8)(7)に記載の膜電極接合体を用いた燃料電池。
(9)イオン性ポリマーが難溶である貧溶媒と、該貧溶媒と混和性を有しかつ前記イオン性ポリマーが易溶である良溶媒に、前記イオン性ポリマーを溶解させたイオン性ポリマー液とを、連続的に混合させ、イオン性ポリマー粒子を生成することを含み、かつ、前記イオン性ポリマーが、芳香族炭化水素系ポリマーであるイオン性ポリマー粒子分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のイオン性ポリマー粒子分散液を用いた電極を採用することにより、最大出力に優れた燃料電池を作製することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0020】
<<イオン性ポリマー粒子分散液>>
まず、本発明のイオン性ポリマー粒子分散液の調整方法の一例について、図面(図3)に基づいて説明する。
なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明は、これらの内容に限定されるものではない。
【0021】
本発明のイオン性ポリマー粒子分散液は、イオン性ポリマーが難溶である貧溶媒と、貧溶媒と混和性を有し、かつ、イオン性ポリマーが易溶である良溶媒にイオン性ポリマーを溶解させたイオン性ポリマー溶液とを連続的に混合することにより、イオン性ポリマー粒子を生成する、いわゆる連続方式の貧溶媒析出法を利用した製造方法である。ここで、連続的に混合とは、貧溶媒とイオン性ポリマー液がそれぞれ流動した状態で混合し、時間ともに新しい混合が生まれ続いている状態を表す。
【0022】
本発明において、イオン性ポリマー粒子は、貧溶媒とイオン性ポリマー液を連続的に混合してイオン性ポリマー粒子分散液を生成する混合析出工程によりつくられる。以下、本発明の好ましい一態様について図面を参照してより具体的に説明する。
すなわち、図3に示す様に、通常、貧溶媒とイオン性ポリマー液を連続的に混合してイオン性ポリマー粒子分散液を生成する混合析出工程(A)を含む。さらには、イオン性ポリマー粒子分散液中のイオン性ポリマー粒子を分散させて安定化させる分散定化工程(B)や、イオン性ポリマー粒子分散液を濃縮する濃縮工程(C)を含むことが好ましい。なお、本発明において使用される機器の構成については、上記の各工程の内容と共に説明する。
【0023】
上記の混合析出工程(A)においては、図示を省略するが、通常、イオン性ポリマーを溶解して成るイオン性ポリマー液をイオン性ポリマー液タンクから供給し、貧溶媒タンクから貧溶媒を供給する。その場合、これらイオン性ポリマー液および貧溶媒は、送液ポンプを使用し且つ熱交換器を介在させることにより、所定の温度に調節して供給する。イオン性ポリマー粒子の析出に適した温度とは、対象のイオン性ポリマーによっても異なるが、通常は0〜90℃、好ましくは0〜50℃であり、より具体的には、イオン性ポリマー液の温度は、10〜50℃であり、貧溶媒の温度は0〜40℃である。
また、混合析出工程(A)へイオン性ポリマー液および貧溶媒を供給するにあたり、上記の熱交換器に代え、イオン性ポリマー液タンクおよび貧溶媒タンクに温度制御手段を設けることにより、イオン性ポリマー液および貧溶媒の温度制御を行ってもよい。
【0024】
本発明において、イオン性ポリマーとしては、主に、水に難溶性のものが対象となる。すなわち、この場合、イオン性ポリマーに対しての貧溶媒が水であり、良溶媒がいわゆる有機溶媒である。但し、水溶性のイオン性ポリマーに本発明が適用できないわけではなく、イオン性ポリマーと溶媒との組み合わせの問題である。例えば、イオン性ポリマーとして、芳香族炭化水素系ポリマーを用いる場合、良溶媒は、ジメチルアセトアミドが好ましく、貧溶媒は水が好ましい。
【0025】
本発明において、水に難溶なイオン性ポリマーとは、水、特に20℃での水に対する溶解度が通常10mg/mL以下であるものを言う。本発明で対象とする水に難溶なイオン性ポリマーの、20℃での水に対する溶解度は、5mg/mL以下が好ましく、さらに好ましくは1mg/mL以下である。上記の溶解度が小さいものほど、特に、水を貧溶媒として用いた場合に、より有利に微細な粒子とすることができるので好ましい。
【0026】
本発明で用いるイオン性ポリマーとしては、芳香族炭化水素系ポリマーを用いることが好ましく、(化1)で表されるスルホアルキル基を側鎖に導入した主鎖に芳香族環を有するスルホアルキル化芳香族炭化水素系ポリマーを用いることがより好ましい。具体例としては、1977年イギリスのICI社によって開発された(化2)で代表される構造単位を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ドイツBASF社で開発された半結晶性のポリアリールエーテルケトン(PAEK)、住友化学工業等で販売されている(化3)で代表される構造単位を有するポリエーテルケトン(PEK)、テイジンアモコエンジニアリングプラスチックスで販売されているポリケトン(PK)、住友化学工業、テイジンアモコエンジニアリングプラスチックスや三井化学等で販売されている(化4)で代表される構造単位を有するポリエーテルスルホン(PES)、ソルベイアドバンスドポリマーズ(株)で販売されている(化5)で代表される構造単位を有するポリスルホン(PSU)、東レ、大日本化学工業、トープレン、出光石油化学や呉羽化学工業等で販売されている(化6)で代表される構造単位を有するリニア或いは架橋型のポリフェニレンサルフィッド(PPS)、旭化成工業、日本ジーイープラスチックス、三菱エンジニアリングプラスチックスや住友化学工業で販売されている(化7)で代表される構造単位を有する変性ポリフェニレンエーテル(PPE)等のエンジニアリングプラスチック或いはそのポリマアロイに(化1)で表されるスルホアルキル基を側鎖に導入した芳香族炭化水素系ポリマーである。このうち、主鎖の耐酸化劣化特性の観点からスルホアルキル化PEEK、PEAK、PEK、PK、PPS、PES、PSUが好ましい。
【0027】
【化1】

【0028】
また、特開平9−102322号公報に開示されている、炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合によって作られた主鎖と、スルホン酸基を有する炭化水素系側鎖とから構成される、スルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、特開平9−102322号公報に開示されているスルホン酸型ポリスチレン−グラフト−ETFE、米国特許第4,012,303号および米国特許第4,605,685号に開示されている、炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合によって作成された膜に、α,β,β−トリフルオロスチレンをグラフト重合させ、これにスルホン酸基を導入して電解質膜とした、スルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFEなどを用いることもできる。
【0029】
本発明で用いられるイオン性ポリマーのイオン交換基当量重量は250〜2500g/molであることが好ましく、300〜1500g/molであることがより好ましく、350〜1000g/molであることがさらに好ましい。イオン交換基当量重量を2500g/mol以下とすることにより、出力性能が向上する傾向にあり、250g/mol以上とすることにより、該ポリマーの耐水性が向上する傾向にあり、好ましい。
【0030】
ここで、本発明におけるイオン性ポリマーが難溶である貧溶媒とは、例えば、イオン性ポリマーの溶解度が10mg/mL以下のものをいう。
貧溶媒は、1種類または2種類以上を混合してもよい。本発明で用いる貧溶媒としては、水が好ましい。
【0031】
良溶媒としては、イオン性ポリマーを溶解しかつ貧溶媒と混和する溶媒であれば、特に定めるものではなく、2種類以上の良溶媒の混合溶媒であってもよい。
本発明で用いる良溶媒は、イオン性ポリマー粒子分散液から、容易に除去が可能な有機溶媒が好ましい。斯かる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、n−メチルピロリドン、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルフォルムアミド、エチレンジアミン、アセトニトリル、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキサイド、ジクロロメタン、ジメチルアセトアミドが挙げられる。
【0032】
なお、本発明において、貧溶媒と混和性を有し、かつ、イオン性ポリマーが易溶である良溶媒としては、貧溶媒と双溶解性である溶媒、すなわち、貧溶媒との混合の際にその混合温度および混合割合において液−液の2相に分離しない溶媒が好ましい。良溶媒に対するイオン性ポリマーの溶解度は、10mg/mL以上であればよく、好ましくは20mg/mL以上である。上限は特に限定されないが、200mg/mL程度である。イオン性ポリマー液におけるイオン性ポリマーの濃度は、室温で飽和溶解度を超えない濃度であればよいが、好ましくは、溶解度の50〜100質量%が好ましく、70〜90質量%がより好ましい。
ここで、貧溶媒と連続的に混合する際の、イオン性ポリマーが溶解している良溶媒の流量は、0.1〜20000ml/minが好ましく、0.2〜10000ml/minがより好ましい。
一方、良溶媒と連続的に混合する際の、貧溶媒の流量は、1〜50000ml/minが好ましく、2〜50000ml/minがより好ましい。
【0033】
また、例えば、1〜200nmのサブミクロンオーダーのイオン性ポリマー粒子を含有するためには、貧溶媒とイオン性ポリマー溶液を混合する際、貧溶媒と良溶媒の体積流量比(前者:後者)を1:1〜100:1に設定するのが好ましく、5:1〜100:1に設定するのがより好ましく、10:1〜100:1に設定するのがさらに好ましい。さらに、貧溶媒とイオン性ポリマー溶液を混合により、より粒径が小さく、分散安定性に優れたイオン性ポリマー粒子分散液を得るためには、貧溶媒またはイオン性ポリマー溶液に、分散安定剤を含有させるのが好ましい。
【0034】
混合析出工程(A)においては、貧溶媒とイオン性ポリマー液を混合することにより、イオン性ポリマー粒子分散液を生成する。かかる混合析出工程(A)において、より粒径が小さく、分散安定性に優れたイオン性ポリマー粒子分散液を得るためには、イオン性ポリマー液または貧溶媒、あるいは、イオン性ポリマー液と貧溶媒の両方に対し、1種類または2種類以上の分散安定剤を添加してもよい。
【0035】
分散安定剤の選択は、イオン性ポリマーおよび良溶媒の種類にもよるが、一般的には、非イオン系、アニオン系、カチオン系界面活性剤、ポリマー、りん脂質などから選ばれる。特に好ましい安定剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(商品名:トウィーン)、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル(商品名:スパン)、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル、エーロゾル(AOT)、ラウリル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(商品名:プルロニック)、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ヒドロキシプロピルセルロース、デキストラン、ゼラチン、カゼイン、レシチン等である。
安定剤の濃度は、生成されるイオン性ポリマー粒子分散液においてイオン性ポリマーに対する重量比率が0.01〜10の範囲となる様に設定するのが好ましい。
【0036】
混合析出工程(A)における貧溶媒とイオン性ポリマー溶液の体積流量比は、上記の様に通常は貧溶媒の方が圧倒的に大きいため、上記の熱交換器やタンクの温度制御手段により貧溶媒の温度を制御しておけば、得られるイオン性ポリマー粒子分散液の温度は貧溶媒温度と略等しくなる。従って、貧溶媒の温度は、イオン性ポリマー粒子の析出に適した温度としておけばよい。他方、イオン性ポリマー液の温度は、貧溶媒と同じ温度に設定するか、あるいは、混合析出工程(A)に導入する以前の管路内で粒子が析出する虞のない温度に設定しておけばよい。
【0037】
上記の様な混合析出工程(A)で得られたイオン性ポリマー粒子分散液、すなわち、析出したイオン性ポリマー粒子が溶媒中に分散した懸濁液は、必要に応じて直ちに分散安定化工程(B)に供給してさらに分散安定化させてもよい。分散安定化工程(B)においては、粉砕メディア(衝撃粉砕用鋼球など)を使用しない湿式粉砕法を適用し、イオン性ポリマー粒子分散液中のイオン性ポリマー粒子を粉砕・分散することにより、粒子サイズをさらに小さくすることができる。粉砕メディアを使用しない湿式粉砕法としては、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー(例えば、米国MFI社製の商品名「マイクロフルイダイザー、(株)スギノマシン製の商品名「アルティマイザー」、(株)吉田機械興業製の商品名「ナノマイザー」として各々知られるホモジナイザー」、ピストンギャップ式ホモジナイザー(例えば、APV Gaulin社製のホモジナイザー)等を使用し、流体の運動エネルギーおよびキャビテーションによる衝撃エネルギーで凝集粒子を破壊・粉砕する方法が挙げられる。
【0038】
上記の様な工程で得られたイオン性ポリマー粒子分散液は、必要に応じて直ちに濃縮工程(C)に供給して濃縮したり良溶媒を取り除くことができる。固形分濃度の調整においては、蒸留、膜分離などの当該技術分野において既知の方法を利用し、貧溶媒および良溶媒を部分的に除去することができる。特に蒸留などの操作によって固形分濃度を調整した場合は、懸濁液中の粒子が凝集することもあるため、再度、分散安定化を実施してもよい。
【0039】
本発明のイオン性ポリマー粒子製造方法の好ましい態様によれば、イオン性ポリマー溶液を迅速かつ均一に分散させることができる。その結果、体積平均粒径が、例えば、1nm〜1μm、さらには、1〜200nmのイオン性ポリマー粒子分散液を得ることができる。
体積平均粒径は例えば動的散乱式粒径分布測定装置で簡単に測定することができる。
【0040】
本発明のイオン性ポリマー粒子分散液は、例えば、燃料電池が有する膜電極接合体の触媒層に添加して用いることができる。以下、本発明のイオン性ポリマー粒子分散液を用いた燃料電池用電極、膜電極接合体および燃料電池の好ましい例について説明する。
【0041】
<<電解質膜>>
本発明で用いる電解質膜として、公知の電解質を膜状に製膜したものおよび公知の電解質膜を広く採用することができる。
その中でも、フッ素系ポリマーが化学的安定性に優れていることから好ましく使用できる。具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、Aciplex(登録商標、旭化成工業株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)の商品名で知られる高いプロトン伝導性を有するパーフルオロスルホン酸膜が挙げられる。
また、本発明では、電解質として、例えば、主鎖に芳香族環を有するスルホアルキル化芳香族炭化水素系ポリマーを電解質として用いることができる。特に、下記(化1)で表されるスルホアルキル基を側鎖に導入したスルホアルキル化芳香族炭化水素系ポリマーを電解質として用いることが好ましい。
スルホアルキル化芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、このような1977年イギリスのICI社によって開発された下記(化2)で代表される構造単位を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ドイツBASF社で開発された半結晶性のポリアリールエーテルケトン(PAEK)、住友化学工業等で販売されている下記(化3)で代表される構造単位を有するポリエーテルケトン(PEK)、テイジンアモコエンジニアリングプラスチックスで販売されているポリケトン(PK)、住友化学工業、テイジンアモコエンジニアリングプラスチックスや三井化学等で販売されている下記(化4)で代表される構造単位を有するポリエーテルスルホン(PES)、ソルベイアドバンスドポリマーズ(株)で販売されている下記(化5)で代表される構造単位を有するポリスルホン(PSU)、東レ、大日本化学工業、トープレン、出光石油化学や呉羽化学工業等で販売されている下記(化6)で代表される構造単位を有するリニア或いは架橋型のポリフェニレンサルフィッド(PPS)、旭化成工業、日本ジーイープラスチックス、三菱エンジニアリングプラスチックスや住友化学工業で販売されている下記(化7)で代表される構造単位を有する変性ポリフェニレンエーテル(PPE)等のエンジニアリングプラスチック或いはそのポリマアロイに下記(化1)で表されるスルホアルキル基を側鎖に導入した芳香族炭化水素系ポリマーが挙げられる。
このうち、主鎖の耐酸化劣化特性の観点から、主鎖構造は、PEEK、PEAK、PEK、PK、PPS、PESおよびPSUが好ましい。
【0042】
【化2】

【0043】
また、本発明では、電解質膜として、特開平9−102322号公報に開示されている、炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合によって作られた主鎖と、スルホン酸基を有する炭化水素系側鎖とから構成される、スルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、特開平9−102322号公報に開示されているスルホン酸型ポリスチレン−グラフト−ETFE、米国特許第4,012,303号および米国特許第4,605,685号に開示されている、炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとのコポリマーによって作製された膜に、α,β,β−トリフルオロスチレンをグラフト重合させ、これにスルホン酸基を導入して電解質とした、スルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFEなどを用いることもできる。
【0044】
本発明で用いられる電解質膜のイオン交換基当量重量は、好ましくは、250〜2500g/molであり、より好ましくは、300〜1500g/molであり、さらに好ましくは、350〜1000g/molである。イオン交換基当量重量を2500g/mol以下とすることにより、出力性能が低下しにくくなる傾向にあり、250g/mol以下とすることにより該電解質の耐水性が低下しにくくなる傾向にあり、それぞれ好ましい。
【0045】
なお、本発明でいう、イオン交換基当量重量とは、イオン交換性を有する官能基の単位モルあたりの電解質であるポリマーの分子量を表し、値が小さいほどイオン交換性の官能基の含量が高いことを示す。イオン交換基当量重量は、1H−NMRスペクトロスコピー、元素分析、特公平1−52866号公報に記載の酸塩基滴定、非水酸塩基滴定(規定液はカリウムメトキシドのベンゼン・メタノール溶液)等により測定が可能である。
【0046】
電解質膜の製膜方法に特に制限はないが、溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)あるいは溶融状態より製膜する方法(溶融プレス法または溶融押し出し法)等が可能である。具体的には前者については、例えば、電解質であるイオン交換ポリマーを含む溶液をガラス板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜できる。製膜に用いる溶媒は、電解質であるイオン交換ポリマーを溶解し、その後に除去し得るものであれば特に制限はなく、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、または、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコールが好適に用いられる。
【0047】
本発明で用いる電解質膜の厚みは特に制限はないが、10〜300μmが好ましく、10〜200μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。10μm以上とすることにより、より実用に適した強度を有するものとなり、300μm以下とすることにより、膜抵抗の低減つまり発電性能向上がより向上する傾向にあり好ましい。溶液キャスト法の場合、電解質膜の厚みは、電解質であるイオン交換ポリマーの溶液濃度の調整または基板上へ塗布する厚さの調整により制御できる。溶融状態より製膜する場合、電解質膜の厚みは、溶融プレス法または溶融押し出し法等で得た所定厚さのフィルムを所定の倍率に延伸することで制御できる。
【0048】
<<電解質膜の他の成分>>
また、本発明に用いる電解質膜を製造する際に、通常のポリマーに使用される可塑剤、安定剤、離型剤等の添加剤を本発明の目的に反しない範囲内で使用できる。
【0049】
本発明に用いる電解質膜には、膜特性を向上させるため、必要に応じて、酸化防止剤、繊維、微粒子、吸水剤、可塑剤、相溶剤等を添加してもよい。これら添加剤の含有量は電解質膜の全体量に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0050】
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価または二価のイオウ系、三価〜五価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0051】
繊維としては、パーフルオロカーボン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等が好ましい例として挙げられ、具体的には特開平10−312815号公報、特開2000−231928号公報、特開2001−307545号公報、特開2003−317748号公報、特開2004−63430号公報、特開2004−107461号公報に記載の繊維が挙げられる。
【0052】
微粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等からなる微粒子が好ましい例として挙げられ、具体的には特開平6−111834号公報、特開2003−178777号公報、特開2004−217921号公報に記載の微粒子が挙げられる。
【0053】
吸水剤(親水性物質)としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、シリカゲル、合成ゼオライト、アルミナゲル、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には特開平7−135003号公報、特開平8−20716号公報、特開平9−251857号公報に記載の吸水剤が挙げられる。
【0054】
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、脂肪族一塩基酸エステル系化合物、脂肪族二塩基酸エステル系化合物、二価アルコールエステル系化合物、オキシ酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、カーボネート類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には特開2003−197030号公報、特開2003−288916号公報、特開2003−317539号公報に記載の可塑剤が挙げられる。
【0055】
さらに本発明に用いる電解質膜には、(1)膜の機械的強度を高める目的、および(2)膜中の酸濃度を高める目的で種々のポリマーを含有させてもよい。
(1)機械的強度を高める目的には、分子量10,000〜1,000,000で本発明の電解質と相溶性のよい高分子化合物が適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンが挙げられる。これらのポリマーは、2種類以上を併用してもよい。これらのポリマーの含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上のものが好ましく、300℃以上のものがより好ましい。
(2)酸濃度を高める目的には、ナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子のスルホン化物などのプトロン酸部位を有するポリマーなどが好ましく、含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0056】
本発明に用いる電解質膜の特性としては、以下の諸性能を持つものが好ましい。
イオン伝導度は例えば25℃95%RHにおいて、0.005S/cmであることが好ましく、0.01S/cm以上であるものがより好ましい。
強度としては例えば引っ張り強度が10MPa以上であることが好ましく、20MPa以上であるものがさらに好ましい。
【0057】
本発明に用いる電解質膜は安定した吸水率および含水率を持つものが好ましい。また、本発明に用いる電解質膜は、アルコール類、水およびこれらの混合溶媒に対し、溶解度は実質的に無視できる程度であることが好ましい。また上記溶媒に浸漬した時の重量減少、形態変化も実質的に無視できる程度であることが好ましい。
膜状に形成した場合のイオン伝導方向は表面から裏面の方向が、それ以外の方向に対し高い方が好ましいが、ランダムであってもよい。
本発明に用いる電解質膜の耐熱温度は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上がより好ましく、300℃以上がさらに好ましい。耐熱温度は例えば1℃/分の測度で加熱していったときの重量減少5%に達した時間として定義できる。この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
【0058】
さらに、電解質膜を燃料電池に用いる場合、アノード燃料とカソード燃料の酸化還元反応を促進させる活性金属触媒を添加してもよい。これにより、電解質膜中に浸透した燃料が他方極側に到達すること無く電解質膜中でより消費されやすくなり、クロスオーバーをより効果的に防ぐことができる。用いられる活性金属触媒は、後述する活性金属触媒が適しており、白金または白金を基にした合金が好ましい。
【0059】
<<燃料電池の構成>>
次に、本発明の膜電極接合体および、該膜電極接合体を用いた燃料電池について説明する。
図1は本発明の膜電極接合体の断面概略図の一例を示したものである。MEA10は、電解質膜11と、それを挟んで対向するアノード電極12及カソード電極13を備える。
アノード電極12とカソード電極13は、例えば、導電層12a、13aと触媒層12b、13bからなる。触媒層12b、13bは、活性金属触媒を担持した導電材とイオン性ポリマー粒子分散液とを含む。触媒層12b、13bを電解質膜11に密着させるために、導電層シート12a、13aに触媒層12b、13bを塗設したものを、電解質膜11にホットプレス法(好ましくは120〜250℃、2〜100kg/cm2)で圧着するか、適当な支持体に触媒層12b、13bを塗設したものを、電解質膜11に転写しながら圧着した後、導電層12a、13aで挟み込む方法を一般に用いる。
【0060】
図2は燃料電池の構造の一例を示す。燃料電池はMEA10と、MEA10を挟持する一対のセパレーターからなる集電体17およびガスケット14を有する。アノード極側の集電体17にはアノード極側給排気口15が設けられ、カソード極側の集電体17にはカソード極給排気口16設けられている。アノード極側給排気口15からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側給排気口16からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
【0061】
膜電極接合体10に使用される触媒層は、本発明のイオン交換性ポリマー粒子分散液を用い、かつ、活性金属触媒を担持した導電材により構成されるものであり、必要に応じて撥水剤や結着剤が含まれていてもよい。また、触媒を担持していない導電材と必要に応じて含まれる撥水剤や結着剤とからなる層(導電層)を、触媒層の外側に形成してもよい。触媒層には、導電材に活性金属触媒を担持した触媒が用いられる。活性金属触媒としては、水素の酸化反応および酸素の還元反応を促進する金属であればいずれのものでもよく、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、あるいはそれらの合金が挙げられる。このような触媒の中で、特に白金が多くの場合用いられる。
通常用いられる活性金属触媒の粒子サイズは、2〜10nmの範囲であり、粒子サイズが小さい程単位質量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが、小さすぎると凝集させずに分散させることが難しくなる傾向にあるので、2nm以上が好ましい。
【0062】
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極側(水素極側)に比べ、カソード極側(空気極側)が大きい。これは、アノード極側に比べ、カソード極側の反応(酸素の還元)が遅いためである。カソード極側の活性向上を目的として、活性金属触媒として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元活性金属触媒を用いることができる。アノード燃料に一酸化炭素を含む化石燃料改質ガスを用いる燃料電池においては、COによる触媒被毒を抑制することが重要である。この目的のために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元活性金属触媒、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元活性金属触媒を用いることができる。
【0063】
活性金属触媒を担持させる導電材としては、電子導伝性物質であればいずれのものでも良く、例えば各種金属や炭素材料などが挙げられる。炭素材料としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、およびアセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が挙げられ、これらが単独あるいは混合して使用される。特に、アセチレンブラック、Vulcan XC−72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
【0064】
触媒層の機能は、(1)燃料を活性金属触媒に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを電解質膜に輸送すること、である。(1)のために触媒層は、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性であることが必要である。(2)は上記で述べた活性金属触媒が、(3)は同じく上記で述べた導電材が担う。(4)の機能を果たすために、触媒層にプロトン伝導材料を混在させる。
【0065】
ここで、本発明のイオン性ポリマー粒子は、触媒層のプロトン伝導材料として働く。この場合、イオン性ポリマー粒子は、電解質膜と同じ構造単位を少なくとも1つ含むポリマーであることが好ましく、高分子電解質膜と同じ構造単位で構成されいているポリマーであることがさらに好ましく、高分子電解質膜と同じポリマーであることが最も好ましい。
【0066】
触媒層にはさらに撥水剤を含むものが好ましく、撥水剤としては、例えば、フッ素化カーボン、撥水性を有する含フッ素樹脂が好ましく、特に耐熱性、耐酸化性の優れたものがより好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、およびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が使用される。
【0067】
活性金属触媒の使用量は、0.03〜10mg/cm2の範囲が電池出力と経済性の観点から適している。活性金属触媒を担持する導電材の量は、活性金属触媒の質量に対して、1〜10倍が適している。
【0068】
導電層は、電極基材、透過層、あるいは裏打ち材とも呼ばれ、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
【0069】
活性金属触媒を担持する方法としては、熱還元法、スパッタ法、パルスレーザーデポジション法、真空蒸着法などが挙げられる(例えば、WO2002/054514号公報など)。
【0070】
次に、アノード電極およびカソード電極の作製方法について説明する。本発明のイオン交換性ポリマー粒子分散液を用い、活性金属触媒を担持した導電材と混合した分散液(触媒層塗布液)を分散する。
分散液の溶媒はヘテロ環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン、N−メチルピロリドン等)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、非極性溶媒(トルエン、キシレン等)、塩素系溶媒(メチレンクロリド、エチレンクロリド等)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセタミド等)、水等が好ましく用いられ、この中でもヘテロ環化合物、アルコール類、多価アルコール類、アミド類が好ましく用いられる。
通常、活性金属触媒を担持した導電材中に、本発明のイオン交換性ポリマー粒子分散液中のイオン交換性ポリマー粒子が(活性金属触媒量に対して重量比で0.2〜3倍)の割合で含まれるように混合する。
【0071】
分散方法は、攪拌による方法でも良いが、超音波分散、ボールミル等を用いることもできる。得られた分散液はカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等の塗布法を用いて塗布することができる。
【0072】
分散液の塗布について説明する。塗布工程においては、上記分散液を用いて、押出成型によって製膜してもよいし、これらの分散液をキャストまたは塗布して製膜してもよい。この場合の支持体は特に限定されないが、好ましい例としては、ガラス基板、金属基板、高分子フィルム、反射板等を挙げることができる。高分子フィルムとしては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系高分子フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のエステル系高分子フィルム、ポリトリフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系高分子フィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。塗布方式は公知の方法でよく、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等を用いることができる。特に、支持体として導電性多孔質体(カーボンペーパー、カーボンクロス)を用いると触媒層と導電層を有する電極が作製できる。
【0073】
これらの操作はカレンダーロール、キャストロール等のロールまたはTダイを用いたフィルム成形機で行なうこともでき、プレス機器を用いたプレス成形とすることもできる。さらに延伸工程を追加し、膜厚制御、膜特性改良を行ってもよい。この他の方法として、上記のようにペースト状にした分散液を通常のスプレー等を用いて電解質膜に直接噴霧して触媒層を形成する方法等も用いることができる。噴霧時間と噴霧量を調節することで均一な触媒層を形成することができる。
【0074】
塗布工程の乾燥温度は乾燥速度に関連し、材料の性質に応じて選択することができる。好ましくは−20℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。乾燥時間は短時間であるほうが生産性の観点から好ましいが、あまり短時間であると気泡、表面の凹凸等の欠陥の原因となる。このため、乾燥時間は1分〜48時間が好ましく、5分〜10時間がより好ましく、10分〜5時間がさらに好ましい。また、湿度の制御も重要であり、25〜100%RHが好ましく、50〜95%RHがさらに好ましい。
【0075】
塗布工程における塗布液(分散液)中には金属イオンの含量が少ない物が好ましく、特に遷移金属イオン、中でも鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオンは少ない物が好ましい。遷移金属イオンの含量は500ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。従って、前述の工程で使用する溶媒も、これらのイオンの含量の低いものが好ましい。
【0076】
さらに塗布工程を経た後に表面処理を行なってもよい。表面処理としては、粗面処理、表面切削処理、除去処理、コーティング処理を行なってもよく、これらは電解質膜あるいは多孔質導電シートとの密着を改良できることがある。
【0077】
燃料電池用電極の厚さは5〜200μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。
【0078】
膜電極接合体の製造方法は、例えば、電解質膜と、触媒層、導電層等を接合しMEAを作製する。作製方法については特に制限はなく、公知の方法を適用することが可能である。
【0079】
MEAの作製には、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:白金担持カーボン材料、プロトン伝導材料として本発明のイオン性ポリマー粒子分散液、溶媒を基本要素とする触媒層ペースト(インク)を電解質膜の両側に直接塗布し、多孔質導電シート等の導電層を熱圧着(ホットプレス)して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒層ペーストを多孔質導電シート(導電層)表面に塗布し、触媒層を形成させた後、電解質膜と熱圧着(ホットプレス)し、5層構成のMEAを作製する。塗布の支持体が異なる以外は上記(1)と同様である。
(3)Decal法:触媒層ペーストを支持体(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート等)上に塗布し、触媒層を形成させた後、電解質膜に触媒層のみを熱圧着(ホットプレス)により転写させ3層のMEAを形成させ、多孔質導電シートを圧着し、5層構成のMEAを作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料として、本発明のイオン交換性ポリマー粒子分散物とともに混合したインクを電解質膜、多孔質導電シートまたはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを当該固体電解質に含浸させ、白金粒子を膜中で還元析出させて触媒層を形成させる。触媒層を形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEAを作製する。
【0080】
上記、ホットプレスを行なう場合は、以下のものが好ましい。
電解質はスルホン酸を置換基として持つプロトン型でもよいし、特開2004−165096号公報、特開2005−190702号公報に記載されているように、スルホン酸が塩形態である塩型であってもよい。塩型である場合のスルホン酸のカウンターカチオンは、1価または2価のカチオンが好ましく、1価のカチオンがさらに好ましい。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カリウムが好ましく、これらのカチオンおよびプロトンの群から複数の物を採用してもよい。ナトリウム塩、カリウム塩であるものが特に好ましい。
【0081】
上記塩を用いる場合にはさらに以下の工程が必要である。
燃料電池用途として使用するには、電解質膜がプロトン伝導性を有する必要性がある。そのために、酸との接触によって、電解質膜の塩置換率を接触する前の99%以下にする。触媒層と電解質膜を接合した後に酸と接触させることによって、電極接合時に受ける熱履歴による膜の含水率およびイオン伝導性の低下を回復させることができる。
【0082】
酸と接触させる方法としては、塩酸、硫酸、硝酸、有機スルホン酸のような酸性水溶液に浸漬または酸性水溶液を噴霧する公知の方法を使用することができるが、浸漬する方法が簡便で好ましい。また、鉱酸である塩酸、硫酸、硝酸を用いる方法が好ましく、使用する酸性水溶液の濃度は、イオン伝導性の低下状況、浸漬温度、浸漬時間等にも依存するが、例えば、0.0001〜5規定の酸性水溶液を好適に用いることができ、0.1〜2規定の範囲が特に好ましい。浸漬温度は多くの場合は室温であれば十分に転化することができ、浸漬時間を短縮する場合は、酸性水溶液を加温してもよい。この場合には30〜100℃の範囲が好ましく、50〜95℃の範囲がより好ましい。浸漬時間は、酸性水溶液の濃度および浸漬温度に依存するが、概ね10分間〜24時間の範囲で好適に実施することができるが、生産性の観点から上記範囲で、6時間以下が好ましく、4時間以下が特に好ましい。この酸性溶液に含まれる不純物は1重量%以下が好ましく、0.1%以下がさらに好ましい。
【0083】
燃料電池運転の際に、膜の内部を移動するプロトンが酸として機能することによって置換したカチオンが洗い流され、より高いイオン伝導性を発現させる方法等も用いることができる。このようにして製造された膜電極接合体を用いて燃料電池を製造する方法を説明する。
【0084】
固体高分子型燃料電池は、以上のように形成された電解質膜と電極との接合体の外側に燃料流路と酸化剤流路を形成する溝付きの集電体としての燃料配流板と酸化剤配流板を配したものを単セルとし、このような単セルを複数個、冷却板等を介して積層することにより構成される。このうち、集電体(バイポーラプレート)は、表面等にガス流路を有するグラファイト製または金属製の流路形成材兼集電体である。こうした集電体の間に電解質膜とガス拡散電極との接合体を挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池スタックを作製することができる。
【0085】
燃料電池の単セル電圧は一般的に1.2V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレーターを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
【0086】
燃料電池の作動温度は、高温であるほど触媒活性が上がるために好ましいが、通常は水分管理が容易な50℃〜120℃で運転させる。酸素や水素の供給圧力は、高いほど燃料電池出力が高まるため好ましいが、膜の破損等によって両者が接触する確率も増加するため適当な圧力範囲、例えば、1〜3気圧の範囲に調整することが好ましい。
【0087】
燃料電池の燃料として用いることのできるのは、アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
【0088】
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層に供給する方法には、(1)ポンプ等の補機を用いて強制循環させる方法(アクティブ型)と、(2)補機を用いない方法(例えば、液体の場合には毛管現象や自然落下により、気体の場合には大気に触媒層を晒し供給するパッシブ型)の2通りがあり、これらを組み合わせることも可能である。前者は、反応ガスの加圧調湿等を行い、高出力化ができる等の利点がある反面、より小型化がし難い欠点がある。後者は、小型化が可能な利点がある反面、高い出力が得られにくい欠点がある。
【0089】
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、水素型燃料電池は、高出力が得られる利点を活かし、様々な家庭用給湯発電装置、輸送機器の動力、携帯電子機器のエネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる給湯発電装置としては、家庭用、集合住宅用、病院用、輸送機器としては、自動車、船舶、携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。さらに非常用電源の用途も提案されている。
【実施例】
【0090】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0091】
<<イオン性ポリマーの作成>>
P−1
特開2006-344578の実施例1の固体電解質と同様な作り方をしてスルホン化ポリスルホン電解質を得た。
【0092】
P−2
特開2006-344578の実施例3の固体電解質と同様な作り方をしてスルホン化ポリスルホン電解質を得た。
【0093】
<<イオン性ポリマー粒子分散液の作製>>
実施例1〜6
貧溶媒とイオン性ポリマー溶液を連続的に混合してイオン性ポリマー粒子分散液を得た。イオン性ポリマー溶液は、水に難溶性のイオン性ポリマー(P−1またはP−2)を良溶媒であるN−メチルピロリドンに溶解した溶液を使用した。貧溶媒としては水を使用した。
具体的には、イオン性ポリマーを溶解してなるイオン性ポリマー液をイオン性ポリマー液タンクから供給し、貧溶媒タンクから貧溶媒を供給した。これらの供給は同時に行い、それぞれの供給流量は、表1に示した。ここで、イオン性ポリマー液の温度は、45℃で、貧溶媒は25℃で、供給した。
溶液と貧溶媒の流量や溶液の濃度を変えることにより表1のようにイオン性ポリマー粒子分散液を得た。得られたイオン性ポリマー粒子分散液を動的光散乱式粒径分布測定装置(堀場製作所製の「LB−550」(商品名))を使用してイオン性ポリマー粒子の体積平均粒径を測定した。その結果も表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
表1からも明らかなように、イオン性ポリマーとしてP−1でもP−2でも本発明のイオン性ポリマー粒子分散液の製造方法でイオン性ポリマー粒子分散液が製造できることが確認された。また、イオン性ポリマー液流量に比べ貧溶媒流量が大きいほどイオン性ポリマー粒子を小さくできることが確認された。また、イオン性ポリマー溶液濃度が低いほどイオン性ポリマー粒子を小さくできることが確認された。すなわち、貧溶媒流量およびイオン性ポリマー溶液濃度を調整することにより、イオン性ポリマーの粒径を調整できることが分かった。
【0096】
比較例1
P−1を良溶媒であるN−メチルピロリドンに濃度1.5質量%になるように溶解した。これを上記動的光散乱式粒径分布測定装置で測定したがポリマー粒子分散物は観察されなかった。
【0097】
実施例7
<<触媒層の作製>>
白金担持カーボン(VulcanXC72に白金50質量%が担持)2gと、ポリテトラフルオロエチレン粉末0.1gとを混合した後、実施例2で作製したイオン性ポリマー粒子分散液40mlを加えて超音波分散器で30分間分散させ、触媒層用のペーストを調製した。得られた触媒層用のペーストを補強材入り支持体(ポリテトラフルオロエチレンフィルム(サンゴバン製))上に塗設して、乾燥した後、所定の大きさに打ち抜き、触媒層を作製した。なお、塗布量は白金担持量として、約0.2mg/cm2とした。
【0098】
<<電解質膜の製膜>>
上記のP−1を10重量%の濃度になるようにN−メチルピロリドン溶媒に溶解した。この溶液をスピンコートによりガラス上に展開し、風乾した後、80℃で真空乾燥して膜厚50μmの電解質膜M−1を作製した。
【0099】
[イオン伝導度]
Journal of the Electrochemical Society 143巻4号1254-1259頁(1996年)に従い、4端子交流法を用いて測定を行なった。電解質膜M−1を長さ2cm、幅1cmに切り抜き、PTFE板に5mm間隔に白金線を4本固定し、この上に電解質膜M−1を載せ、さらに四フッ化エチレン樹脂(PTFE)を積層し、ビス固定することで試験セルを組み立てた。インピーダンスアナライザーとしてソーラトロン製1480型および1255B型を組み合わせて恒温、恒湿下あるいは恒温水中で交流インピーダンス法により測定を行なった。以下の式に従い、イオン伝導度を求めた。
【数1】

測定するための電解質膜M−1は、硫酸水溶液を用いてあらかじめプロトン化した。
【0100】
<<膜電極接合体の作製>>
電解質膜M−1の両面に上記で得られた触媒層を、該触媒層用のペースの塗布面が電解質膜に接するように張り合わせ、熱圧着し、圧力をかけたまま降温した後、補強材入り支持体を剥離した。次に、電解質膜M−1中の塩は硫酸水溶液を用いてをプロトン化した。
【0101】
<<燃料電池特性>>
(1)最大出力および高電流密度領域出力
上記で得られた膜電極接合体に電極と同サイズにカットしたE−TEK製ガス拡散電極(導電層)を積層し、エレクトロケム社製標準燃料電池試験セルにセットし、試験セルを燃料電池評価システム((株)エヌエフ回路設計ブロック製、As−510)に接続した。アノード電極側に加湿した水素ガスを、カソード電極側に加湿した模擬大気を流し、電圧が安定するまで運転した。その後、アノード電極とカソード電極間に、負荷をかけて電流−電圧特性を記録した。いずれのサンプルもセル内の温度80℃においてはセル内の相対湿度100%、水素ガス供給背圧は2気圧、模擬大気ガス供給背圧は2気圧で出力測定した。膜/電極接合体の80℃100%の最大出力および1.0A/cm2における高電流密度領域出力を表2に示した。
【0102】
実施例8
実施例7で作製した触媒層に使用している実施例2で作製したイオン性ポリマー粒子分散液40ml添加する代わりに実施例3で作製したイオン性ポリマー粒子分散液80mlを添加した以外は実施例7と同様にして、膜電極接合体を作製した。
【0103】
比較例2
実施例7で作製した触媒層に使用している実施例2で作製したイオン性ポリマー粒子分散液40ml添加する代わりに比較例1で作製したイオン性ポリマー粒子分散液80mlを添加した以外は実施例7と同様にして、膜電極接合体を作製した。
【0104】
比較例3
実施例7の触媒層に使用している実施例2のイオン性ポリマー粒子分散液40mlを添加する代わりにナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製、5重量%溶液)15ml添加した以外は実施例7と同様にして、膜電極接合体を作製した。
【0105】
【表2】

【0106】
表2を見て分かるように本発明のイオン性ポリマー粒子分散液を電極に使用したものは高出力であった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のイオン性ポリマー粒子分散液を用いた電極は、電解質膜との密着性が優れ、かつ、優れた発電性能を備える固体高分子型燃料電池を作製することができる。
さらに、本発明の電極を用いた燃料電池は、コージュネシステム、燃料電池車などに利用できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】膜電極接合体の構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】燃料電池の構造の一例を示す概略断面図である。
【図3】イオン性ポリマー微粒子分散液の調整方法の一例を示す。
【符号の説明】
【0109】
10・・・膜電極接合体(MEA)
11・・・電解質膜
12・・・アノード電極
12a・・・アノード極導電層
12b・・・アノード極触媒層
13・・・カソード電極
13a・・・カソード極導電層
13b・・・カソード極触媒層
14・・・ガスケット
15・・・アノード極ガス給排口
16・・・カソード極ガス給排口
17・・・集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性ポリマーが難溶である貧溶媒と、該貧溶媒と混和性を有しかつ前記イオン性ポリマーが易溶である良溶媒に、前記イオン性ポリマーを溶解させたイオン性ポリマー液とを、連続的に混合することにより、イオン性ポリマー粒子を生成させてなるイオン性ポリマー粒子分散液であって、前記イオン性ポリマーが、芳香族炭化水素系ポリマーであるイオン性ポリマー粒子分散液。
【請求項2】
前記芳香族炭化水素系ポリマーが、スルホアルキル化芳香族炭化水素系ポリマーである、請求項1に記載のイオン性ポリマー粒子分散液。
【請求項3】
前記イオン性ポリマー粒子の体積平均粒径が1nm〜200nmである、請求項1または2に記載のイオン性ポリマー粒子分散液。
【請求項4】
イオン性ポリマー溶液の添加流量に対する貧溶媒の添加流量が体積流量比で3以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン性ポリマー粒子分散液。
【請求項5】
前記イオン性ポリマーがスルホン酸基を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のイオン性ポリマー粒子分散液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー粒子分散液を用いてなる燃料電池用電極。
【請求項7】
一対の電極と、該電極間に設けられた電解質膜とを有し、かつ、前記電極が請求項6に記載の燃料電池用電極である、膜電極接合体。
【請求項8】
請求項7に記載の膜電極接合体を用いた燃料電池。
【請求項9】
イオン性ポリマーが難溶である貧溶媒と、該貧溶媒と混和性を有しかつ前記イオン性ポリマーが易溶である良溶媒に、前記イオン性ポリマーを溶解させたイオン性ポリマー液とを、連続的に混合させ、イオン性ポリマー粒子を生成することを含み、かつ、前記イオン性ポリマーが、芳香族炭化水素系ポリマーであるイオン性ポリマー粒子分散液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−70630(P2009−70630A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235971(P2007−235971)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】