説明

イオン検出方法および装置

【課題】簡単な構造で空間中に存在するマイナスイオンおよびプラスイオンの量をできるだけ正確に検出すること。
【解決手段】気体中に存在するイオンの量を検出するための方法であって、ケーシング11の内部に、マイナスイオンを収集するための検出電極13a,13bおよびプラスイオンを収集するための検出電極12a,12bを、当該ケーシング11内を流れる気体に接触するようにかつ当該気体の流れ方向に直角の方向の断面において点対称となるような位置に設け、マイナスイオンを収集するための検出電極13a,13bにプラスの電圧を印加し、プラスイオンを収集するための検出電極12a,12bにマイナスの電圧を印加し、各電極12,13により収集されたイオンの電荷量に基づいて気体中に存在するマイナスイオンおよびプラスイオンのそれぞれの量を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中などに存在するマイナスイオンおよびプラスイオンの量を検出するイオン検出方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中には、帯電した気体分子や微粒子であるマイナスイオンおよびプラスイオンが存在する。また、空気清浄器やイオン発生器などによって大量のマイナスイオンなどが空気中に放出されることもある。
【0003】
これらの空気中に存在するマイナスイオンおよびプラスイオンの挙動は複雑であり、それを正確に計測することは困難である。しかし、プラズマを使用した空気清浄機の殺菌効果、またはマイナスイオンの人体の酸化防止効果などが注目されている中で、正負両イオンを同時に正確に計測する必要性は増大している。このような状況の中、イオンの持つエネルギーは微弱であるので、従来のイオン検出装置ではコンピュータによるデータ処理により漸く実用化されているものも少なくない。
【0004】
従来において、プラスイオンとマイナスイオンの両方を検出する装置として、電荷集電板と反発電極板とを組み合わせたイオン測定器が提案されている(特許文献1)。これによると、図6に示すように、イオン測定器80は、空気導入管81内に、プラス用の電荷集電板82、反発電極板83、マイナス用の電荷集電板84、および反発電極板85を備える。反発電極板83と反発電極板85とは、それらの間に絶縁層86を挟んで配置される。
【0005】
空気導入管81内に入る空気にはプラスイオンとマイナスイオンとが含まれる。プラスイオン検出部に入ったプラスイオンは、反発電極板83に近づくと跳ね返されて電荷集電板82にぶつかり、収集される。マイナスイオンは反発電極板83に引き寄せられて中和される。マイナスイオン検出部に入ったマイナスイオンは、反発電極板85に近づくと跳ね返されて電荷集電板84にぶつかり、収集される。プラスイオンは反発電極板85に引き寄せられて中和される。帯電した電荷集電板82,84の電荷を検出し演算することにより、プラスイオンおよびマイナスイオンの量を検出する。
【0006】
また、ケーシングの1つの面に2つの検出電極を設けたイオン検出装置が提案されている(特許文献2)。これによると、2つの検出電極のうち、一方にプラスの電圧を印加し他方にマイナスの電圧を印加する。各検出電極により捕獲されたイオンの電荷量に基づいてイオンの量を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−194777
【特許文献2】特許第3759103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上に述べた特許文献1の装置において、正負両イオンを同時に正確に計測するためには、各電荷集電板82,84に同時に同量の空気が流通することが必要である。そして、稼動中に塵埃等が絶縁層86に付着しないようにする必要がある。また、電荷集電板82,84を支持する絶縁物にも塵埃が付着しないようにする必要がある。イオン量を正確に測定するためには、絶縁層86は1011Ω以上の高い絶縁性を保持する必要があるからである。絶縁層86に塵埃等が付着すると、絶縁性が低下し、イオン量を正確に測定できなくなる。
【0009】
また、突気の取り込み口において、正負のイオン検出用に分割された空気通路に、上部と下部、または左方と右方とで微妙な差異が生じることがさけられない。
【0010】
また、特許文献2の装置では、簡単な構造で正負両イオンを計測することができるが、体積当りのイオン量を測定することができない。
【0011】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、簡単な構造で空間中に存在するマイナスイオンおよびプラスイオンの量をできるだけ正確に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るイオン検出方法は、気体中に存在するイオンの量を検出するための方法であって、ケーシングの内部に、マイナスイオンを収集するための電極およびプラスイオンを収集するための電極を、当該ケーシング内を流れる気体に接触するようにかつ当該気体の流れ方向に直角の方向の断面において点対称となるような位置に設け、前記マイナスイオンを収集するための電極にプラスの電圧を印加し、前記プラスイオンを収集するための電極にマイナスの電圧を印加し、前記各電極により収集されたイオンの電荷量に基づいて気体中に存在するマイナスイオンおよびプラスイオンのそれぞれの量を検出する。
【0013】
本発明に係るイオン検出装置は、気体中に存在するイオンの量を検出するための装置であって、ケーシングと、前記ケーシングの内部において当該ケーシング内を流れる気体に接触するように配置された、マイナスイオンを収集するための電極およびプラスイオンを収集するための電極と、を備え、前記マイナスイオンを収集するための電極およびプラスイオンを収集するための電極は、前記ケーシング内を流れる気体の流れ方向に直角の方向の断面において点対称となるような位置に設けられている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、簡単な構造で空間中に存在するマイナスイオンおよびプラスイオンの量をできるだけ正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の検出装置を示す斜視図である。
【図2】検出装置の断面図である。
【図3】検出装置の電極の配置を説明する図である。
【図4】検出装置の回路構成の例を示すブロック図である。
【図5】検出装置の他の実施形態を示す正面図である。
【図6】従来の検出装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜図3において、検出装置1は、ケーシング11、4つの検出電極12a,12b,13a,13b、支持体14、およびファン15などを備える。
【0017】
ケーシング11は、金属板によって角筒状に形成されており、正面視が正方形に近い長方形である。ケーシング11は、検出装置1の全体をシールドするものである。ケーシング11を接地電位としておくのが好ましい。
【0018】
2つの検出電極12a,12bは、プラスイオンを収集するためのものであり、残りの2つの検出電極13a,13bは、マイナスイオンを収集するためのものである。これらの検出電極12a,12b,13a,13bは、金属板によって互いに同じ形状の角筒状に形成されており、正面視が正方形に近い長方形である。
【0019】
これら検出電極12a,12b,13a,13bは、ケーシング11内において、ケーシング11内を流れる気体に接触するようにかつ当該気体の流れ方向に直角の方向の断面において点対称となるような位置に設けられている。
【0020】
すなわち、図3において、検出装置1の正面視において、その中心である点TPに対して、4つの検出電極12a,12b,13a,13bは点対称に配置されている。つまり、点TPを中心として180度回転させた場合に、検出電極は同じ形状の配置となる。
【0021】
そして、プラスイオンを収集するための2つの検出電極12a,12bおよびマイナスイオンを収集するための2つの検出電極13a,13bが、それぞれ、長方形の対角線上の頂点の位置に配置されている。
【0022】
換言すれば、プラスイオン用(プラスイオン検出用)の検出電極12とマイナスイオン用(マイナスイオン検出用)の検出電極13とをそれぞれ2つずつ設け、それらを、上下に対称にかつ左右に対称に配置する。これにより、プラスイオン用の検出電極12a,12bとマイナスイオン用の検出電極13a,13bとは、全体として千鳥状に配置されている。
【0023】
したがって、プラスイオンを収集するための2つの検出電極12a,12bとマイナスイオンを収集するための2つの検出電極13a,13bとは、空間的な配置が互いに等価である。つまり、検出装置1がどのような姿勢であっても、2つの検出電極12a,12bと2つの検出電極13a,13bとは、ケーシング11に入ってくる気体に対して、また空間中に存在するイオンに対して、同程度の接触機会を有する。
【0024】
これにより、検出装置1においては、プラスイオンおよびマイナスイオンを均一に取り込むことが可能である。
【0025】
なお、4つの検出電極12a,12b,13a,13bは点対称に配置されているが、厳密な意味で点対称でなくてもよい。つまり、これら検出電極12a,12b,13a,13bがプラスイオンおよびマイナスイオンを実質的に均一に取り込むことができればよい。
【0026】
さて、これら検出電極12a,12b,13a,13bは、ケーシング11の内部において絶縁体14により支持されている。絶縁体14として、例えばテフロン(登録商標)などの合成樹脂、セラミックスなどが用いられる。
【0027】
本実施形態では、ケーシング11の内部において、検出電極12a,12b,13a,13bの隙間を絶縁体14で埋めているので、ここに空気が流れることがなく、したがって塵埃が付着しにくい。しかし、必ずしも絶縁体14で埋める必要はない。例えば、検出電極12a,12b,13a,13bを、例えば合成樹脂またはセラミックスなどでできた碍子のような支持材によって支持してもよい。
【0028】
なお、ケーシング11および検出電極12,13に用いる金属材料として、例えば、銅、銅合金、アルミニウム合金、鉄などが用いられる。表面に酸化膜などができないように、適当な材料のメッキ例えば金メッキを施してもよい。
【0029】
ファン15は、モータで回転駆動するものであり、図2の左方から右方に向かう空気の流れを生成する。ファン15の個数は、1個でもよく、または2個以上でもよい。例えば、各検出電極12a,12b,13a,13bに対して一個ずつ配置してもよい。ファン15によって、各検出電極12a,12b,13a,13bの内部に強制的に空気流を発生させる。
【0030】
図4において、イオン検出装置1の電気回路DKは、検出電極12にマイナスの電位を与えるための電源21、検出電極13にプラスの電位を与えるための電源22、抵抗器R11,R12、増幅器23,24、および計測表示部25,26などからなる。
【0031】
検出電極12には、電源21によってマイナスの電圧が印加される。これによって、検出電極12には、マイナスと逆極性の電荷を帯びたプラスイオンが選択的に捕獲される。また、検出電極13には、電源22によってプラスの電圧が印加される。これによって、検出電極13には、プラスと逆極性の電荷を帯びたマイナスイオンが選択的に捕獲される。電源21,22の電圧は、例えば2〜30ボルトの範囲、一例としては5ボルト、20ボルト、30ボルト程度の電圧が用いられる。
【0032】
すなわち、大気中に存在するイオンにはプラスイオンとマイナスイオンとがあるが、イオンの性質として、同極性の電位には反発し、異極性の電位には吸引される。そこで、上に述べたように検出電極12に負電位を与えておくと、マイナスイオンは反発し、プラスイオンのみを捕獲することができる。検出電極13については、正電位を与えておくと、プラスイオンは反発し、マイナスイオンのみを捕獲することができる。
【0033】
イオンは、1個当たり、1.6022×10-19 クーロンの電荷Qをもっているので、捕獲された個数nに応じた電圧が出力される。単位面積(1平方センチメートル)当たりの捕獲されたイオンの個数(個/sec/cm2 )によって、イオンの量が表される。イオンの量の次元は、通常、単位体積当たりのイオンの個数である。しかし、計測の方法によっては、単位時間当たりのイオンの個数となる。
【0034】
捕獲されたイオンによって、抵抗器R11(Ω)の両端には、(Q×R11×n)で求められる電圧が得られる。
【0035】
例えば、抵抗R11を10GΩとした場合に、検出電極12で10万個のマイナスイオンが捕獲されたとすれば、
ES=1.6022×10-19 ×1010×105 =160.22μV/sec
したがって、検出電極12の面積を10cm2 とすれば、1平方センチメートル当たり、1.6022mVの電圧として取り込むことができる。
【0036】
増幅器23,24は、検出電極12,13から出力される電圧をそれぞれ増幅する。計測表示部25,26は、入力された電圧に基づいて演算を行い、捕獲されたイオンの量を表示する。
【0037】
上のように構成された検出装置1では、プラスイオン用の検出電極12とマイナスイオン用の検出電極13とが、点TPを中心として点対称に、つまり上下左右に対称に配置されているので、検出装置1がどのような姿勢であっても、プラスイオンおよびマイナスイオンを均一に取り込むことができ、プラスイオンおよびマイナスイオンの量を正確に検出することができる。
【0038】
また、検出装置1では、反発電極およびそれを支持する絶縁物が用いられていないので、構造が簡単である。また、反発電極および支持のための絶縁物に塵埃が付着するおそれがないので、信頼性が高い。
【0039】
また、ファン15によって各検出電極12a,12b,13a,13bの内部に一定量の空気流を発生させることにより、微量なイオンの計測時の感度を向上させることができる。これにより、立方センチ当りのイオン量の計測が可能となっている。
【0040】
次に、検出電極12,13の個数および配置についての他の実施形態について説明する。
【0041】
図5(A)に示す検出装置1Bは、図1と同様な角筒状のケーシング11Bの内部に、円筒形の4つの検出電極12Ba,12Bb,13Ba,13Bbが、点TPを中心として点対称となるように配置されている。
【0042】
図5(B)に示す検出装置1Cは、円筒状のケーシング11Cの内部に、円筒形の4つの検出電極12Ca,12Cb,13Ca,13Cbが、点TPを中心として点対称となるように配置されている。
【0043】
図5(C)に示す検出装置1Dは、簡易型であり、円筒状のケーシング11Dの内部に、角筒形の2つの検出電極12Da,13Daが、点TPを中心として点対称となるように配置されている。なお、図5(C)に示す検出装置1Dでは、上下方向(鉛直方向)にイオンの存在にムラがあっても、プラスイオンおよびマイナスイオンとも同等に捕獲できるが、左右方向(水平方向)にムラがあった場合にはバランスが取れない場合がある。したがって、この配置は、イオンの存在が左右方向にムラがない場合に用いることができる。
【0044】
図5(C)に示す検出装置1Dを90度回転させた場合には、イオンの存在が上下方向にムラがない場合に用いることができる。
【0045】
図5(D)に示す検出装置1Eは、角筒状のケーシング11Eの内部に、角筒形の6つの検出電極12Ea,12Eb,12Ec,13Ea,13Eb,13Ecが、点TPを中心として点対称となるように配置されている。
【0046】
図5(E)に示す検出装置1Fは、円筒状のケーシング11Fの内部に、円筒形の6つの検出電極12Fa,12Fb,12Fc,13Fa,13Fb,13Fcが、点TPを中心として点対称となるように配置されている。
【0047】
これらいずれの検出装置1B〜1Fにおいても、プラスイオン用の検出電極12とマイナスイオン用の検出電極13とが、点TPを中心として点対称に、つまり空間的な条件が同じに配置されているので、検出装置1B〜1Fがどのような姿勢であっても、プラスイオンおよびマイナスイオンを均一に取り込むことができ、プラスイオンおよびマイナスイオンの量を正確に検出することができる。
【0048】
なお、これら検出電極12、13を8つ以上用いて検出装置1を構成してもよい。また、プラスイオン用とマイナスイオン用の検出電極12,13の配置を入れ替えてもよい。
【0049】
上に述べた実施形態において、ケーシング11、検出電極12、13、電気回路DK、および検出装置1の各部または全体の構成、構造、材質、形状、個数、配置、回路などは、本発明の主旨に沿って適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0050】
1,1B〜1F 検出装置
11 ケーシング
12 検出電極
13 検出電極
14 絶縁体
15 ファン
DK 電気回路
TP 点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中に存在するイオンの量を検出するための方法であって、
ケーシングの内部に、マイナスイオンを収集するための電極およびプラスイオンを収集するための電極を、当該ケーシング内を流れる気体に接触するようにかつ当該気体の流れ方向に直角の方向の断面において点対称となるような位置に設け、
前記マイナスイオンを収集するための電極にプラスの電圧を印加し、
前記プラスイオンを収集するための電極にマイナスの電圧を印加し、
前記各電極により収集されたイオンの電荷量に基づいて気体中に存在するマイナスイオンおよびプラスイオンのそれぞれの量を検出する、
ことを特徴とするイオン検出方法。
【請求項2】
前記各電極を、互いに同じ形状の筒状に形成し、筒の中を気体が流れるように配置する、
請求項1記載のイオン検出方法。
【請求項3】
気体中に存在するイオンの量を検出するための装置であって、
ケーシングと、
前記ケーシングの内部において当該ケーシング内を流れる気体に接触するように配置された、マイナスイオンを収集するための電極およびプラスイオンを収集するための電極と、
を備え、
前記マイナスイオンを収集するための電極およびプラスイオンを収集するための電極は、前記ケーシング内を流れる気体の流れ方向に直角の方向の断面において点対称となるような位置に設けられている、
ことを特徴とするイオン検出装置。
【請求項4】
前記各電極は、互いに同じ形状の筒状に形成され、筒の中を気体が流れるように配置されている、
請求項3記載のイオン検出装置。
【請求項5】
前記ケーシングは金属からなり、
前記各電極は、前記ケーシングの内部において絶縁体により支持されている、
請求項3または4記載のイオン検出装置。
【請求項6】
前記マイナスイオンを収集するための電極およびプラスイオンを収集するための電極が、それぞれ2つずつ設けられ、
前記マイナスイオンを収集するための2つの電極および前記プラスイオンを収集するための2つの電極が、それぞれ、前記断面において長方形の対角線上の頂点の位置に配置されている、
請求項3ないし5のいずれかに記載のイオン検出装置。
【請求項7】
前記ケーシングには、前記各電極の内部を互いに同じ量の気体が流れるように通風するためのファンが設けられている、
請求項3ないし6のいずれかに記載のイオン検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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