説明

イオン注入装置及びそのイオンビームの均一性調整方法

【課題】自動制御により短時間でイオンビームのビーム電流を均一化する。
【解決手段】複数のビーム電流計測器16を、複数のグループに分ける。各フィラメント3に流す電流を任意量変化させ、そのときの各グループの電流値の変化量をそれぞれ求め、その各変化量に基づいて、各グループの電流値が設定値に近づくように各フィラメント3に流す電流を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入装置及びそのイオンビームの均一性調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば液晶ディスプレイや半導体装置の製造において、液晶ガラス基板や半導体基板にリン(P)やボロン(B)などの不純物を注入するために、イオン注入装置が用いられる。
図4にイオン注入装置の従来例を示す。このイオン注入装置50は、内部に供給された材料ガスをプラズマ化し、このプラズマ56からイオンビーム58を引き出すイオン源51と、このイオン源51よりもイオンビーム58の進行方向の下流側に設置され被処理物59を収容する処理容器52とを備えている。
【0003】
イオン源51は、内部でプラズマ56を発生させるプラズマ生成容器55と、プラズマ生成容器55の内部に設置された複数(この例で3つ)のフィラメント53を有する。フィラメント53の各々には、互いに独立してフィラメント電源54が接続されており、この各フィラメント電源54から各フィラメント53に対して、各フィラメント53を加熱するための電流を互いに独立して流すことができる。このよう構成されたイオン源51においては、各フィラメント53から熱電子を放出し、プラズマ生成容器55の内部で熱電子を材料ガスの分子に衝突させてプラズマ56を発生させる。発生したプラズマ56は、引出し電極系57により引き出されるとともに所定のエネルギーまで加速される。
【0004】
処理容器52には、ガラス基板等の被処理物59を載せてイオンビーム58を横切る方向(図で紙面に垂直な方向)に移動可能な移動ステージ60が設置されており、移動ステージ60が移動することにより被処理物59の表面全体にイオンビーム58を照射することができる。
またこのイオン注入装置50は、イオンビーム58に交差する面内における複数位置においてイオンビーム58のビーム電流を計測する複数のビーム電流計測器61を備えている。各ビーム電流計測器61は、例えばファラデーカップからなり、移動ステージ60の移動方向と直角方向(図で左右方向)に配列されている。なお、上記の移動ステージ60は、ビーム電流計測器61によるイオンビーム58のビーム電流の計測時には、イオンビーム58を遮らない位置に移動する。
【0005】
被処理物59の面内におけるイオンの注入量を均一化するために、上記のイオンビーム58のビーム電流は均一であることが要求される。従来、ビーム電流を均一にするために、ビーム電流計測器61で計測したビーム電流値に応じて、ビーム電流が均一化するように各フィラメント53に流す電流を調節していた。また、この均一化作業は、作業者がビームプロファイルを見て、マニュアル操作により、フィラメント53へ流す電流を調整することにより行なっていた。このため、装置の状態により変化するビーム電流を常に均一な状態に維持するためには、常に作業者がビーム電流の状態を監視し均一化作業を行なう必要があった。
【0006】
このような問題に鑑み、下記特許文献1では、イオンビームのビーム電流均一化作業を自動制御で行なう技術が提案されている。
図5を参照して、特許文献1に示されたイオン注入装置におけるイオンビームの均一性調整方法を説明する。
この均一性調整方法では、まず、各ビーム電流計測値によってビーム電流をそれぞれ計測し(この結果得られるのがビームプロファイルA)、全てのビーム電流の平均値(AVE)を演算し、演算した平均値が設定値(SET)に対して許容範囲(STP)内にあるか否か判断し、STP内に無い場合、平均値が設定値に近づくように、全てのフィラメント電流を互いにほぼ同じ量だけ増減させる電流値制御ルーチンを行う。この結果、ビームプロファイルBが得られる。次に、ビーム電流計測器をフィラメント53の数にグループ分けし(この場合、グループ1,2,3)、ビーム電流の全計測値の中から最大値及び最小値を決定し、最大値が属するグループ(この場合、グループ1)に対応するフィラメント53に流すフィラメント電流を減少させ、かつ最小値が属するグループ(この場合、グループ3)に対応するフィラメント53に流すフィラメント電流を増加させる均一性制御ルーチンを行う。この結果、ビームプロファイルCが得られる。この均一性調整方法では、上記の電流値制御ルーチンと均一性制御ルーチンを少なくとも一回ずつ行う。
【0007】
【特許文献1】特開2000−315473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1のイオンビームの均一性調整方法では、上記の電流値制御ルーチンと均一性制御ルーチンを少なくとも一回ずつ行うとしているが、実際には、所望の均一性を得るためには(特に均一性レベルを高くするほど)、上記の各ルーチンを何回も繰り返し行なう必要がある。このため、均一性調整作業に時間がかかるという問題がある。
【0009】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、自動制御により短時間でイオンビームのビーム電流を均一化することができるイオン注入装置及びそのイオンビームの均一性調整方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明のイオン注入装置及びそのイオンビームの均一性調整方法は、以下の手段を採用する。
本発明は、材料ガスをプラズマ化するための熱電子を放出する複数のフィラメントと、各フィラメントに互いに独立に電流を流す少なくとも一つのフィラメント電源と、前記プラズマから引き出されたイオンビームのビーム電流を当該イオンビームに交差する面内における複数位置において計測する複数のビーム電流計測器と、を備え、前記イオンビームを被処理物に照射するイオン注入装置であって、前記フィラメント電源を制御する制御装置を備えるとともに、前記複数のビーム電流計測器は複数のグループに分けられており、前記制御装置は、(a)全てのフィラメントに電流を流すように前記フィラメント電源を制御して、前記複数のビーム電流計測器からイオンビームのビーム電流を取得し、(b)前記各グループ内における前記ビーム電流計測器の電流計測値の平均値を前記各グループの電流値として、前記フィラメント毎に、フィラメントに流す電流を任意量変化させるように前記フィラメント電源を制御して、そのときの前記各グループの電流値の変化量をそれぞれ求め、(c)前記各変化量に基づいて、前記各グループの電流値が設定値に近づくように前記フィラメント電源を制御して、前記各フィラメントに流す電流を調整する。
また、本発明は、材料ガスをプラズマ化するための熱電子を放出する複数のフィラメントと、各フィラメントに互いに独立に電流を流す少なくとも一つのフィラメント電源と、前記プラズマから引き出されたイオンビームのビーム電流を当該イオンビームに交差する面内における複数位置において計測する複数のビーム電流計測器、とを備え、前記イオンビームを被処理物に照射するイオン注入装置における前記イオンビームの均一性調整方法であって、前記複数のビーム電流計測器を、複数のグループに分けておき、(a)ビーム電流取得手段が、全てのフィラメントに電流を流すように前記フィラメント電源を制御して、前記複数のビーム電流計測器からイオンビームのビーム電流を取得し、(b)前記各グループ内における前記ビーム電流計測器の電流計測値の平均値を前記各グループの電流値として、変化量取得手段が、前記フィラメント毎に、当該フィラメントに流す電流を任意量変化させるように前記フィラメント電源を制御して、そのときの前記各グループの電流値の変化量をそれぞれ求め、(c)電流制御手段が、前記各変化量に基づいて、前記各グループの電流値が設定値に近づくように前記フィラメント電源を制御して、前記各フィラメントに流す電流を調整する、ことを特徴とする。
【0011】
上記の装置及び方法では、各フィラメントに流す電流を任意量変化させ、そのときの各グループの電流値の変化量をそれぞれ求め、その各変化量に基づいて、各グループの電流値が設定値に近づくように各フィラメントに流す電流を制御する。具体的には、上記の各変化量に基づいて、各フィラメントに流す電流の変化量に対する各グループの電流値の変化量の数理モデルを同定し、この数理モデルから、各フィラメントに対する各グループの重み係数を算出する。そして、この重み係数を用いて、各グループを設定値にするために各フィラメントに流すべき電流の調整量(増減量)を算出することができる。したがって、上記の調整量に従って、各フィラメントに流す電流を制御することにより、自動制御によりビーム電流を均一化することができる。また、上記の重み係数を用いることにより、ビーム電流を均一化するための各フィラメントの電流調整量が明確に定まるので、特許文献1の調整方法と異なり、調整作業は基本的に一回で済む。したがって、短時間でビーム電流を均一化することができる。
【0012】
また、上記のイオン注入装置において、前記制御装置は、前記(b)において求めた各変化量と以前に取得した対応する各変化量の平均値を、変化量毎にそれぞれ算出し、算出した前記各変化量の平均値をそれぞれ平均変化量として、該各平均変化量に基づいて、前記各グループの電流値が設定値に近づくように前記フィラメント電源を制御して、前記各フィラメントに流す電流を調整する。
また、上記のイオンビーム調整方法において、平均変化量取得手段が、前記(b)において求めた各変化量と以前に取得した対応する各変化量の平均値を、変化量毎にそれぞれ算出し、前記電流制御手段が、算出した前記各変化量の平均値をそれぞれ平均変化量として、該各平均変化量に基づいて、前記各グループの電流値が設定値に近づくように前記フィラメント電源を制御して、前記各フィラメントに流す電流を調整する。
【0013】
このように、求めた各変化量と以前に取得した対応する各変化量の平均値を、変化量毎にそれぞれ算出し、これを平均変化量として用いるので、均一性作業の回数を重ねる度に、上記の数理モデルにおける各変化量が真の値に近づくため、ビーム均一性が向上していく。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、自動制御により短時間でイオンビームのビーム電流を均一化することができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態にかかるイオン注入装置10の概略図である。
イオン注入装置10は、内部で発生させたプラズマ7からイオンビーム8を引き出すイオン源12と、このイオン源12よりもイオンビーム8の進行方向の下流側に設置され被処理物1を収容する処理容器14とを備えている
【0017】
イオン源12は、この例では、図示しない永久磁石によってプラズマ生成容器13の内部にプラズマ7を閉じ込めるためのカスプ磁場を形成するバケット型イオン源12であり、内部でプラズマ7を発生させるプラズマ生成容器13と、プラズマ生成容器13の内部に設置された複数(この例で4つ)のフィラメント3を有する。
なお、イオン源12は、バケット型イオン源に限られず、他の形式のイオン源、例えば、カスプ磁場を用いない無磁場型イオン源や単一のマグネットコイルを用いるカウフマン型イオン源等であってもよい。
【0018】
フィラメント3には、それぞれ、フィラメント電源14が接続されており、この各フィラメント電源14から各フィラメント3に対して、各フィラメント3を加熱するための電流(以下「フィラメント電流」という)を互いに独立して流すことができる。このよう構成されたイオン源12においては、各フィラメント3から熱電子を放出し、プラズマ生成容器13の内部で熱電子を材料ガスの分子に衝突させてプラズマ7を発生させる。発生したプラズマ7は、引出し電極系6により引き出されるとともに所定のエネルギーまで加速される。上記の材料ガスは、例えば、水素で希釈したフォスフィン(PH)やジボラン(B)等である。
【0019】
処理容器14には、ガラス基板等の被処理物1を載せてイオンビーム8を横切る方向(図で紙面に垂直な方向)に移動可能な移動ステージ5が設置されており、移動ステージ5が移動することにより被処理物1の表面全体にイオンビーム8を照射することができる。
【0020】
図1に示したイオン注入装置10は、非質量分離型であり、プラズマ生成容器13と処理容器14とが隣接して配置され、両者が相互に内部空間が連通するように連結されている。プラズマ生成容器13と処理容器14の内部は、処理容器14に接続された図示しない真空排気装置によって一括して真空に排気される。なお、イオン注入装置10は、質量分離型でもよく、この場合、プラズマ生成容器13と処理容器14の間にイオンビーム8の経路を囲む隔壁が配置され、相互に内部空間が連通するように、プラズマ生成容器13、処理容器14および上記の隔壁が連結される。
【0021】
またこのイオン注入装置10は、イオンビーム8に交差する面内における複数位置においてイオンビーム8のビーム電流を計測する複数のビーム電流計測器16を備えている。各ビーム電流計測器16は、例えばファラデーカップからなり、移動ステージ5の移動方向と直角方向(図で左右方向)に配列されている。ビーム電流計測器16は例えば20〜30個程度設けられる。なお、上記の移動ステージ5は、ビーム電流計測器16によるイオンビーム8のビーム電流の計測時には、イオンビーム8を遮らない位置に移動する。
【0022】
イオン注入装置10は、さらに、フィラメント電源14を制御する制御装置18を備えている。また、上記の複数のビーム電流計測器16は複数のグループに分けられている。このグループは、複数のビーム電流計測器16を、その配列方向の少なくとも1以上の個所で区切って、各区間内にあるビーム電流計測器16の集合を一つのグループとしたものである。図3に示すように、本実施形態では、複数のビーム電流計測器16が、グループ1からグループ4に分けられている。
【0023】
図1に示すように、上記の制御装置18は、ビーム電流取得手段19と、変化量取得手段20と、電流制御手段21とを有し、以下の制御を行う。
制御装置18は、(a)全てのフィラメント3に電流を流すようにフィラメント電源14を制御して、複数のビーム電流計測器16からイオンビーム8のビーム電流を取得し、(b)各グループ内におけるビーム電流計測器16の電流計測値の平均値を各グループの電流値として、フィラメント3毎に、フィラメント3に流す電流を任意量変化させるようにフィラメント電源14を制御して、そのときの各グループの電流値の変化量をそれぞれ求め、(c)各変化量に基づいて、各グループの電流値が設定値に近づくようにフィラメント電源14を制御して、各フィラメント電流を調整する。
【0024】
上記(a)の制御は、ビーム電流取得手段19が行う。上記(b)の制御は、変化量取得手段20が行う。上記(c)の制御は、電流制御手段21が行う。なお、制御装置18が備える中央演算処理装置(CPU)、メモリ、プログラム等が協働することによって、ビーム電流取得手段19、変化量取得手段20および電流制御手段21のそれぞれの機能が実現される。
【0025】
以下、図1に加え、図2及び図3をも参照して、上記の制御装置18によって実行される均一性調整方法を具体的に説明する。図2は、制御装置18による制御のフローチャートであり、図3は、均一性調整方法を説明する模式図である。ここで、各フィラメント3に1から4まで連続番号を付与しておく。
まず、全てのフィラメント3に所定のフィラメント電流を流して、イオンビーム8を出力し、各ビーム電流計測器16で計測したビーム電流を取得する(S31)。このとき、図3の符号Aで示すようなビームプロファイルが得られたとする。
【0026】
次に、N番のフィラメント3に流すフィラメント電流を任意量(例えば数μA)変化させる(S32)。初期状態では、N=1である。この場合、フィラメント電流の変化量は、フィラメント3間で同一でもよいし、異なっていてもよい。
次に、各グループ内におけるビーム電流計測器16の電流計測値について、変化前と変化後の平均値をそれぞれ計算し、その平均値の変化量を算出する(S33)。ここで、「各グループ内におけるビーム電流計測器16の電流計測値の平均値」を「各グループの電流値」と定義する。図3に示す符号AVG1〜4は、順にグループ1〜4の電流値を示している。
また、ステップS33において取得した変化量をグループ毎に保存しておく(S34)。
【0027】
次に、Nが4であるか否かを判断し(S35)、Nが4でない場合は、N番のフィラメント3のフィラメント電流を元(変化前)の電流に戻し、Nに1を加算し(S37)、ステップS32に戻る。
ステップS35において、N=4となったら、すなわち1番から4番のフィラメント3についての各グループの電流値の変化量を取得したら、各フィラメント3に対する各グループの重み係数を算出する(S38)。
【0028】
ここで、変化させたいグループの変化量をΔG1〜ΔG4とし、調整すべき各フィラメント3の変化量をΔa〜Δdとし、ステップS33において取得した各変化量をaG1〜dG4とすると、下記[数1]に示す行列式(1)を定義できる。この行列式(1)は、フィラメント3に流す電流の変化量に対する各グループの電流値の変化量の数理モデルである。また、[数1]を変換すると下記[数2]の行列式(2)が得られる。この行列式(2)から、各フィラメント3に対する各グループの重み係数を算出することができる。
【0029】
【数1】

【数2】

【0030】
次に、ステップS38で算出した重み係数に従って、各グループの電流値が設定値に近づくように各フィラメント電源14を制御して、各フィラメント電流を調整する(S39)。すなわち、図3に示すように、各グループの電流値AVG1〜4を設定値Bに一致させるための各グループの電流値の変化量はΔG1〜ΔG4であり、上記の重み係数を用いて、各グループの電流値を設定値Bにするための各フィラメント電流の調整量(増減量)Δa〜Δdを算出し、この調整量に従って、各フィラメント電流を調整する。
【0031】
次に、ビームプロファイルを測定し、所定の均一性範囲内にあるか否かを判断し(S41)、均一性範囲内にあると判断した場合は、ステップS38で取得した重み係数およびステップ33で取得した変化量のデータを保存し(S42)、終了する。ステップS41でビーム電流が所定の均一性範囲内にないと判断した場合は、ステップS31に戻る。なお、上記の一連のステップからなるルーチン(均一性制御ルーチン)を行なった場合、通常、ビーム電流は均一性範囲内となるため、均一性調整作業は、基本的に一回の均一性制御ルーチンで完了する。
【0032】
このように、このイオン注入装置10及びそのイオンビームの均一性調整方法によれば、各フィラメント3に対する各グループの重み係数を算出し、この重み係数を用いて、各グループの電流値AVG1〜4を設定値Bにするために各フィラメント3に流すべき電流の調整量(増減量)Δa〜Δdを算出し、算出した調整量Δa〜Δdに従って、各フィラメント電流を制御することにより、自動制御によりビーム電流を均一化することができる。また、上記の重み係数を用いることにより、ビーム電流を均一化するための各フィラメント電流の調整量が明確に定まるので、上述した特許文献1の調整方法と異なり、調整作業は基本的に一回で済む。したがって、短時間でビーム電流を均一化することができる。さらに、ビーム電流計測器16及び分割するグループ数を多くすることにより、高分解能でビーム電流を均一化することができる。
【0033】
また、上述した均一性調整作業を実施した後は、各フィラメント3に対する各グループの重み係数が分かっているので、正規の調整後における装置の稼働中にビーム均一性を再調整する必要が生じた場合に、各フィラメント3に対する各グループの電流値の変化量を求める演算、またそのためのビーム電流値の計測を再度行なうことなく、上記の重み係数に基づいて、各フィラメント電流を調整することにより、容易にビーム均一性を再調整することができる。なお、上記の特許文献1の方法では、装置稼働中にビーム均一性の再調整を行なう場合、再度、電流値制御ルーチンと均一性制御ルーチンを少なくとも一回ずつ行う必要がある。
【0034】
上述した実施形態において、各グループの電流値の変化量は、そのときの均一性制御ルーチンにおいて取得したもののみを使用したが、ステップS33において新たに取得した変化量と以前の均一性制御ルーチンにおいて取得した対応する変化量の平均値を、変化量毎にそれぞれ算出し、算出した各変化量の平均値をそれぞれ平均変化量として、各平均変化量に基づいて、各グループの電流値が設定値Bに近づくようにフィラメント電源14を制御して、各フィラメント電流を調整するようにしてもよい。以前に取得した変化量は、1回分に限らず、複数回分でも良い。このように毎回取得した変化量を蓄積し、平均化していくことで、均一性作業の回数を重ねる度に、各グループの電流値の変化量が真の値に近づくため、ビーム均一性が向上していく。なお上記の各変化量の平均値を算出する処理は、制御装置18の図示しない平均変化量取得手段が行い、各平均変化量に基づいて各フィラメント電流を調整する処理は電流制御手段21が行う。
【0035】
なお、上記の複数のフィラメント電源14は、必ずしも別個のものである必要はなく、それらを一つにまとめて、各フィラメント3に互いに独立してフィラメント電流を流すことのできる一つのフィラメント電源としてもよい。
また、上記のフィラメント3の数、ビーム電流計測器16の数、およびグループの数は、それぞれ実施形態に示した数に限定されず、任意の数とすることができる。
【0036】
上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態にかかるイオン注入装置の概略図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるイオン注入装置における制御装置による制御のフローチャートである。
【図3】本発明のイオンビームの均一性調整方法を説明する模式図である。
【図4】イオン注入装置の従来例を示す図である。
【図5】特許文献1のイオンビームの均一性調整方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
1 被処理物
3 フィラメント
5 移動ステージ
6 引出し電極系
7 プラズマ
8 イオンビーム
10 イオン注入装置
12 イオン源
13 プラズマ生成容器
14 フィラメント電源
16 ビーム電流計測器
18 制御装置
19 ビーム電流取得手段
20 変化量取得手段
21 電流制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料ガスをプラズマ化するための熱電子を放出する複数のフィラメントと、各フィラメントに互いに独立に電流を流す少なくとも一つのフィラメント電源と、前記プラズマから引き出されたイオンビームのビーム電流を当該イオンビームに交差する面内における複数位置において計測する複数のビーム電流計測器と、を備え、前記イオンビームを被処理物に照射するイオン注入装置であって、
前記フィラメント電源を制御する制御装置を備えるとともに、前記複数のビーム電流計測器は複数のグループに分けられており、
前記制御装置は、(a)全てのフィラメントに電流を流すように前記フィラメント電源を制御して、前記複数のビーム電流計測器からイオンビームのビーム電流を取得し、(b)前記各グループ内における前記ビーム電流計測器の電流計測値の平均値を前記各グループの電流値として、前記フィラメント毎に、フィラメントに流す電流を任意量変化させるように前記フィラメント電源を制御して、そのときの前記各グループの電流値の変化量をそれぞれ求め、(c)前記各変化量に基づいて、前記各グループの電流値が設定値に近づくように前記フィラメント電源を制御して、前記各フィラメントに流す電流を調整する、ことを特徴とするイオン注入装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記(b)において求めた各変化量と以前に取得した対応する各変化量の平均値を、変化量毎にそれぞれ算出し、算出した前記各変化量の平均値をそれぞれ平均変化量として、該各平均変化量に基づいて、前記各グループの電流値が設定値に近づくように前記フィラメント電源を制御して、前記各フィラメントに流す電流を調整する、請求項1記載のイオン注入装置。
【請求項3】
材料ガスをプラズマ化するための熱電子を放出する複数のフィラメントと、各フィラメントに互いに独立に電流を流す少なくとも一つのフィラメント電源と、前記プラズマから引き出されたイオンビームのビーム電流を当該イオンビームに交差する面内における複数位置において計測する複数のビーム電流計測器、とを備え、前記イオンビームを被処理物に照射するイオン注入装置における前記イオンビームの均一性調整方法であって、
前記複数のビーム電流計測器を、複数のグループに分けておき、
(a)ビーム電流取得手段が、全てのフィラメントに電流を流すように前記フィラメント電源を制御して、前記複数のビーム電流計測器からイオンビームのビーム電流を取得し、
(b)前記各グループ内における前記ビーム電流計測器の電流計測値の平均値を前記各グループの電流値として、変化量取得手段が、前記フィラメント毎に、当該フィラメントに流す電流を任意量変化させるように前記フィラメント電源を制御して、そのときの前記各グループの電流値の変化量をそれぞれ求め、
(c)電流制御手段が、前記各変化量に基づいて、前記各グループの電流値が設定値に近づくように前記フィラメント電源を制御して、前記各フィラメントに流す電流を調整する、ことを特徴とするイオンビームの均一性調整方法。
【請求項4】
平均変化量取得手段が、前記(b)において求めた各変化量と以前に取得した対応する各変化量の平均値を、変化量毎にそれぞれ算出し、
前記電流制御手段が、算出した前記各変化量の平均値をそれぞれ平均変化量として、該各平均変化量に基づいて、前記各グループの電流値が設定値に近づくように前記フィラメント電源を制御して、前記各フィラメントに流す電流を調整する、請求項3記載のイオンビームの均一性調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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