説明

イオン液体を用いた環境浄化方法およびその装置

【課題】不揮発性のイオン液体からなる吸収液を用いて、常温において常圧から真空における圧力スイングで駆動し、非加熱条件で高効率に環境を浄化できる低消費エネルギーの方法ならびに装置を提供する。
【解決手段】生活空間の空気を、吸収塔において、イオン液体に作用させ、空気中に含まれる二酸化炭素を選択的に吸収させて取り除き、浄化された空気を環境中に戻し、一方、脱離塔において、二酸化炭素を吸収したイオン液体から、減圧あるいは真空条件下で二酸化炭素を脱離して、イオン液体を再生し、これらの繰り返しにより、常温における圧力スイングのみで環境空間を浄化し、熱エネルギーの削減を可能とする環境浄化方法およびその装置を提供できる。
【効果】宇宙ステーションなどの閉鎖空間において、人間などの排出した二酸化炭素を含む空気から、二酸化炭素を選択的に除去して、空気を浄化することが実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙ステーションなどの閉鎖空間において、人間などの活動により汚染された環境を浄化する方法および装置に関するものであり、更に詳しくは、宇宙空間や宇宙船内で生命を維持するために、二酸化炭素を除去して、清浄な環境を保つための方法および装置に関するものである。本発明は、宇宙でも蒸発しないイオン液体吸収液を用いて、宇宙空間で貴重なエネルギーを消費することなく、しかも、宇宙ステーションなどで容易に利用できる減圧あるいは真空を用いて、環境内の二酸化炭素を選択的に吸収し、イオン液体吸収液を再生、利用することを可能とする新しい環境浄化方法およびその装置に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、二酸化炭素を分離・回収する技術としては、アミン類化合物を用いた化学吸収法や、アルコールやポリエチレングリコールを用いた物理吸収法など、種々の方法が提案されている。しかしながら、それらの技術は、大気圧条件の地上におけるプロセスを想定しており、真空の宇宙においては、吸収液そのものが蒸発、揮散してしまい、利用することは不可能である。
【0003】
そのため、ゼオライトや活性炭などの固体材料あるいはアミン類化合物を固体化した材料を吸着剤とした環境浄化システムが提案されている(例えば、特許文献1および非特許文献1を参照)。しかし、これらの方法は、吸着剤から二酸化炭素を脱離させるのに〜200℃近くの高温を要し、宇宙空間では貴重なエネルギーを、大量に使用することが必要とされる。
【0004】
そこで、当技術分野においては、真空の宇宙においても、貴重なエネルギーを大量に消費することなく、実用に供することが可能で、宇宙ステーションなどで二酸化炭素を除去して、清浄な環境を保つことを可能にする新しい環境浄化方法およびその装置を開発することが強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3479950号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「宇宙で生きる」、新田慶治ほか、第34〜43頁、1994年、オーム社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、固体材料を吸着剤とした浄化システムにおいて、二酸化炭素を脱離させ、再生する工程において必要とされる高温の熱エネルギー消費の問題を確実に解決することを可能とする新しい技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、真空の宇宙においても、蒸発、揮散することなく利用可能な、イオン液体を主成分とした吸収液を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、宇宙でも蒸発しないイオン液体吸収液を用いて、吸収塔/脱離塔で、常圧近傍(800〜1500hPa)において、二酸化炭素を吸収させ、脱離塔で減圧することで、二酸化炭素を脱離させ、吸収液を再生することが可能であり、それにより、従来の固体吸着剤を再生するのに必要であった高温の熱エネルギー消費の必要がなく、宇宙環境で容易に用いることができる真空あるいは減圧条件を使用して、熱エネルギーの消費を著しく低減することを可能とする新しい環境浄化方法およびその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)不揮発性のイオン液体からなる吸収液を用いて、密閉状態を維持できる処理対象空間における二酸化炭素を含む空気から、二酸化炭素を選択的に除去して、該空間内の環境を浄化する方法であって、1)圧力スイングにより二酸化炭素の着脱が可能な吸収液を用い、吸収塔において、二酸化炭素を取り除き、脱離塔において、吸収した二酸化炭素を減圧あるいは真空条件で脱離して、吸収液を再生すること、2)前記不揮発性のイオン液体が、単一のカチオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)との組み合わせからなる吸収液、少なくとも2種類のカチオンと単一のアニオンからなる吸収液、単一のカチオンと少なくとも2種類のアニオンからなる吸収液、または少なくとも2種類のカチオンと少なくとも2種類のアニオンからなる吸収液であること、を特徴とする環境浄化方法。
(2)吸収塔において、二酸化炭素と同時に水蒸気を取り除き、脱離塔において、二酸化炭素および水を脱離して、吸収液を再生する、前記(1)に記載の方法。
(3)脱離塔の温度を、80℃またはそれより高くすることで、二酸化炭素を脱離して、吸収液の再生を可能とする、前記(1)または(2)記載の方法。
(4)吸収塔の温度を、0℃以下またはそれより低くすることで、二酸化炭素を吸収して取り除くことを可能とする、前記(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(5)吸収塔における圧力が、800〜1500hPaであり、脱離塔における圧力が、100hPa以下である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の方法。
(6)吸収液が、アニオンに1種類以上のアルキルカルボン酸(C2n+1COO−,n=0〜10)あるいはその誘導体を含む吸収液である、前記(1)に記載の方法。
(7)吸収液が、カルボン酸基(−COO)を有するものである、前記(1)に記載の方法。
(8)前記不揮発性のイオン液体が、不揮発性の二酸化炭素吸着剤を含む、前記(1)から(7)のいずれかに記載の方法。
(9)吸収塔における二酸化炭素の吸収と、脱離塔における二酸化炭素脱離を、繰り返し連続的に行う、前記(1)から(8)のいずれかに記載の方法。
(10)吸収塔における吸収液と処理ガスとの接触時間あるいは反応時間を制御することで、再生ガス中の二酸化炭素の濃度を一定とすることを可能とする、前記(1)から(9)のいずれかに記載の方法。
(11)密閉状態を維持できる処理対象空間と、該処理対象空間で劣化した二酸化炭素を含む空気から不揮発生のイオン液体からなる吸収液を用いて、二酸化炭素を選択的に除去する吸収塔/脱離塔と、前記処理対象空間と、前記吸収塔/脱離塔とを、ポンプおよびバルブを介して連結した流通系と、前記吸収塔/脱離塔の温度、圧力条件を制御するための温度および/または圧力制御手段とから構成され、前記吸収塔/脱離塔を減圧あるいは真空として、吸収液に取り込まれた二酸化炭素および水蒸気を脱離させ、吸収液の再生を行うようにしたことを特徴とする環境浄化装置。
(12)前記吸収液が、前記不揮発性のイオン液体が単一のカチオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)との組み合わせからなる吸収液、2種類以上のカチオンと単一のアニオンからなる吸収液、単一のカチオンと2種類以上のアニオンからなる吸収液、または2種類以上のカチオンと2種類以上のアニオンからなる吸収液である、前記(11)に記載の装置。
(13)前記流通系として、処理対象空間内の二酸化炭素含有空気を吸収塔/脱離塔に流し、吸収塔/脱離塔で浄化した洗浄空気を処理対象空間に流し、吸収塔/脱離塔で吸収、脱離した吸収液を、減圧/真空の条件で処理して回収した吸収液を、再利用するようにした、前記(11)に記載の装置。
【0010】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、不揮発性のイオン液体からなる吸収液を用いて、密閉状態を維持できる処理対象空間における、二酸化炭素を含む空気から、二酸化炭素を選択的に除去して、該空間内の環境を浄化する方法であって、圧力スイングにより、二酸化炭素の着脱が可能な吸収液を用い、吸収塔において、二酸化炭素を取り除き、脱離塔において、吸収した二酸化炭素を減圧あるいは真空条件で脱離して、吸収液を再生することを特徴とするものである。
【0011】
本発明では、前記不揮発性のイオン液体として、単一のカチオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)との組み合わせからなる吸収液、2種類以上のカチオンと単一のアニオンからなる吸収液、単一のカチオンと2種類以上のアニオンからなる吸収液、または2種類以上のカチオンと2種類以上のアニオンからなる吸収液が用いられる。
【0012】
その具体例として、前記カチオンが、アルキルアンモニウム、アルキルピリジニウム、アルキルピロリジニウム、アルキルホスホニウム、又はアルキルイミダゾリウム、あるいは、それらアルキル鎖に不飽和アルキル部位、アミノ基、エーテル基、又はカルボニル基の官能基があるもの、また、前記アニオンが、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、ペンタン酸塩、ペンタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘプタン酸塩、オクタン酸塩、ノナン酸塩、デカン酸塩、安息香酸塩などが好適なものとして挙げられる。
【0013】
本発明は、環境浄化方法およびその装置に関するものであり、不揮発性のイオン液体からなる吸収液を用いて、常温において、常圧から真空における圧力スイングで駆動し、非加熱条件で、高効率に、環境を浄化することを可能とする、宇宙ステーションなどの閉鎖空間において、人間などの排出した二酸化炭素を含む空気から、二酸化炭素を選択的に除去して、空気を浄化する、低消費エネルギーの環境浄化方法ならびにその装置である。
【0014】
本発明では、生活空間の空気を、吸収塔において、イオン液体に作用させ、空気中に含まれる二酸化炭素を、選択的に吸収させて取り除き、浄化された空気を環境中に戻す。一方、脱離塔において、二酸化炭素を吸収したイオン液体から、減圧あるいは真空条件下で、二酸化炭素を脱離して、イオン液体を再生する。これらの繰り返しにより、常温における圧力スイングのみで、環境空間を浄化し、熱エネルギーの削減を可能とする。
【0015】
本発明では、図1に概略を示した吸脱着試験装置を用いて、二酸化炭素の吸収、脱離サイクルの操作を行うことができる。その操作方法について具体的に説明すると、イオン液体吸収液を、密閉された容器に入れ、例えば、25℃に制御した恒温層にセットする。Nガスのみを、所定の流量で流して、系内を窒素ガスで置き換え、CO濃度計の読みが、0ppmを示すのを確認する。
【0016】
次に、約5%のCOを含んだNバッファーの混合ガスとNガスとを、所定の流量比で混合し、その混合ガスを、バイパス側からCO濃度計に送り込み、CO濃度が0.4±0.01%であることを確認する。バイパス側のコックを閉じ、混合ガスを、吸収容器に導入し、ガスフローメーターの指示値から、処理ガスの流量を、CO濃度計の指示値から、処理ガス中のCO濃度を、読み取る。
【0017】
上記の計測を、CO濃度計の指示値が0.4±0.01%を示すまで行い、吸収容器に接続したガス導入口のコックとガスフローメーターへの出口側コックを閉じ、真空ポンプにより、所定の圧力で、所定時間(例えば、30分程度)減圧し、吸収液からCOを取り除く。真空ポンプのコックを閉じ、真空計の指示を読みながら、Nガスのみを流し、吸収容器内を常圧に戻す。以上の操作を、CO吸収、脱離サイクルとし、繰り返し、CO除去操作を行う。
【0018】
ここでは、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート([BMIM][CH3COO]と略記する。)と、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド([BMIM][TfN]と略記する。)とを混合したイオン液体溶液を、CO吸収液として用いて、操作は、上記手順にしたがって、適宜のサイクルで行う。
【0019】
排出されたガス中におけるCO濃度は、イオン液体吸収液を用いた場合には、低減させることができる。1回目と2回目のサイクルで、ほぼ同じ結果を示し、短時間の減圧処理で、吸収液を再生することができる。更に、約〜0.09dm程度の少量の吸収液を用いた場合、100倍以上の約〜10dmのガスを流通させても、CO吸収能力が維持される。
【0020】
図5は、本発明による環境浄化装置の一実施形態の概要を示すもので、宇宙ステーションなどの閉鎖空間において、人間などが排出した二酸化炭素を含む空気から、二酸化炭素を選択的に除去して、空気を浄化する例を示している。図において、1は処理対象環境、4、6は、CO吸収塔/脱離塔、2、3、5、7−11はバルブである。本発明では、これらの各手段の具体的構成は、任意に設計することができる。
【0021】
次に、この環境浄化装置の動作について具体的に説明する。処理対象環境1で劣化したガスを、ポンプなどにより、バルブ2を介し、CO吸収塔4あるいは6に送り込む。仮に吸収塔4を使用する場合は、バルブ3を開け、バルブ5は閉じておく。吸収塔4で、COおよび水蒸気が取り除かれ、清浄となったガスは、バルブ7を介して、処理対象環境1に戻される。その際、バルブ9は閉じておく。
【0022】
劣化したガスから、所定量のCOおよび水蒸気を、吸収塔4において、吸収した後で、バルブ3およびバルブ7を閉じ、バルブ5とバルブ8を開け、吸収塔6により、COおよび水蒸気を取り除き、清浄ガスを、処理対象空間1に戻す。その際、バルブ10は閉じておく。
【0023】
一方、吸収塔6でCOなどの吸収処理を行っている間に、バルブ9およびバルブ10を開け、吸収塔4を減圧あるいは真空として、吸収液に取り込まれたCOおよび水蒸気を脱離させ、吸収液の再生を行う。吸収液の再生が終わり次第、バルブ9およびバルブ11を閉じる。
【0024】
吸収塔6の処理量が所定量になったところで、バルブ5およびバルブ8を閉じ、バルブ3とバルブ7を開け、吸収塔4において、前記と同様に、COおよび水蒸気を取り除き、空気を浄化する。その間、吸収塔6の再生を、吸収塔4で行ったのと同様の操作で行う。以上のサイクルを続けることで、処理対象環境を連続的に浄化することが可能となる。なお、本発明では、一実施形態として、2つ一組からなる吸収塔/脱離塔での装置が示されるが、更に、複数の吸収塔/脱離塔を用いても同様の装置の製作が可能である。
【0025】
本発明のイオン液体吸収液を用いることで、高濃度の二酸化炭素を含む空気から選択的に二酸化炭素を取り除き、空気を浄化することができ、二酸化炭素を吸収したイオン液体は、減圧あるいは真空下における処理により、容易に再生することが可能である。イオン液体吸収液から二酸化炭素を脱離する再生工程を、常温近傍の非加熱条件で行うことで、プロセスの消費エネルギーを削減することができる。
【0026】
宇宙空間では、高温を発生するのに必要なエネルギーは、非常に貴重であるが、減圧あるいは真空の環境は容易に使用できるため、本発明の環境浄化技術を、宇宙ステーションなどに利用することで、エネルギー効率を著しく向上することが可能となり、イオン液体を用いて、二酸化炭素の除去と吸収液の再生を、一組以上の吸収塔と脱離塔を用いて行うことで、連続的に環境を浄化する方法および装置を利用することが可能となる。
【0027】
イオン液体吸収液は、不揮発性であり、常温において、二酸化炭素の着脱を圧力スイングにより多数に渡り行うことができるため、吸収液を頻繁に交換すること無く、長期間に渡り、装置を稼働することが可能となり、また、吸湿性のあるイオン液体吸収液を用いることで、二酸化炭素と同時に、水蒸気成分を取り除き、環境を浄化することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)イオン液体吸収液を用いることで、高濃度の二酸化炭素を含む空気から、選択的に二酸化炭素を取り除き、空気を浄化することができ、二酸化炭素を吸収したイオン液体は、減圧あるいは真空下における処理により、容易に再生することができる。
(2)イオン液体吸収液から二酸化炭素を脱離する再生工程を、常温近傍の非加熱条件で行うことで、これらのプロセスの消費エネルギーを削減することができる。
(3)宇宙空間では、高温を発生するのに必要なエネルギーは、非常に貴重であるが、減圧あるいは真空の環境は、容易に使用できるため、本発明のプロセスを宇宙ステーションなどに利用することで、エネルギー効率を著しく向上することが可能となる。
(4)イオン液体を用いて、二酸化炭素の除去と吸収液の再生を、一組以上の吸収塔と脱離塔を用いて行うことで、連続的に環境を浄化する方法および装置を確立することができる。
(5)イオン液体吸収液は不揮発性であり、常温において、二酸化炭素の着脱を圧力スイングにより多数に渡り行うことができるため、吸収液を頻繁に交換すること無く、長期間に渡り装置を稼働することが可能となる。
(6)吸湿性のあるイオン液体吸収液を用いることで、二酸化炭素と同時に、水蒸気成分を取り除き、環境を浄化することが可能となる。
(7)吸収液と処理するガスとの接触時間をコントロールすることで、再生されたガス中の二酸化炭素の濃度を長時間一定とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】二酸化炭素の吸脱着試験装置の概略を示す。
【図2】吸脱着試験装置を用いた二酸化炭素の濃度変化の結果を示す。
【図3】吸脱着試験装置に用いた二酸化炭素の濃度変化(0〜500分)を示す。
【図4】吸脱着試験装置に用いた二酸化炭素の濃度変化(計測全領域)を示す。
【図5】イオン液体を用いた環境浄化装置の概略を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
本実施例では、二酸化炭素の吸脱着試験装置を用いて、二酸化炭素の吸収、脱離サイクルの実験を行った。図1に、二酸化炭素の吸脱着試験装置の概略を示す。以下に、図面に基づいて、その操作手順を具体的に説明する。
【0032】
1)124gのイオン液体吸収液を、密閉された容器(吸収容器と記述する。)に入れ、該吸収容器を、25℃に制御した恒温槽にセットした。
2)Nガスのみを所定の流量で流して、系内を窒素ガスで置き換え、CO濃度計の読みが、0ppmを示すのを確認した。
【0033】
3)約5%のCOを含んだNバッファーの混合ガスとNガスとを、所定の流量比で混合し、その混合ガスを、バイパス側から、CO濃度計に送り込み、CO濃度が、0.4±0.01%であることを確認した。
4)バイパス側のコックを閉じ、混合ガスを、吸収容器に導入した。
【0034】
5)ガスフローメーターの指示値から、処理ガスの流量を、また、CO濃度計の指示値から、処理ガス中のCO濃度を、読み取った。
6)上記の計測を、CO濃度計の指示値が、0.4±0.01%を示すまで行った。
7)吸収容器に接続したガス導入口のコックとガスフローメーターへの出口側コックを閉じ、真空ポンプにより、所定の圧力で、所定時間(ここでは、30分とした。)減圧し、吸収液からCOを取り除いた。
【0035】
8)真空ポンプのコックを閉じ、真空計の指示を読みながら、Nガスのみを流し、吸収容器内を常圧に戻した。
9)以上の操作を、CO吸収サイクル、および脱離サイクルとして繰り返し、CO除去試験を行った。
【0036】
本実施例では、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート([BMIM][CH3COO]と略記する。)と、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド([BMIM][TfN]と略記する。)とを混合したイオン液体溶液を、CO吸収液として用いた。その結果を、表1〜3に示した。
【0037】
なお、実験は、上記手順にしたがって、3サイクル行った。1サイクル目と2サイクル目では、混合ガスの流量を、標準状態換算で328ml/minに、3サイクル目では、66ml/minに設定した。一方、吸収液を使用せずに、上記の手順でガスを流した場合の結果を、表4〜5に示した。1サイクル目は、混合ガスの流量を、標準状態換算で328ml/minに、2サイクル目は、66ml/minに設定した。
【0038】
図2に、CO濃度計の指示値の変化を、経過時間に対してプロットした。図から分かる通り、排出されたガス中におけるCO濃度は、イオン液体吸収液を用いた場合には、低減できることが分かった。1回目と2回目のサイクルで、ほぼ同じ結果を示し、短時間の減圧処理で、吸収液を再生できることも確認された。更に、約〜0.09dmの少量の吸収液を用いたのにもかかわらず、100倍以上の約〜10dmのガスを流通させても、CO吸収能力が維持されることが明らかになった。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【0044】
次に、新たに、124gのイオン液体吸収液を、吸収容器に測り取り、同様の手順で、CO吸収試験を行った。なお、実験条件として、1サイクル目では、混合ガスの流量を、標準状態換算で32.5ml/minとし、2サイクル目、3サイクル目では、混合ガスの流量を、66ml/minとした。それらの結果を、表6〜11に示した。また、吸収液無しの同条件で、混合ガスを流した場合の結果を、表12〜13
に示した。本実施例では、CO濃度が、原料の混合ガスの組成と近い値になるまで、計測を引き続き行った。
【0045】
図3に、CO濃度計の指示値の変化を、経過時間に対してプロットした。経過時間が比較的短い0〜500分の範囲では、図2に示した結果と同様に、排出されたガス中のCO濃度は、原料ガスの濃度より低い値を示すことが明らかになった。更に、大量の混合ガスを、長時間に渡り流通すると、図4に示した通り、CO濃度は、徐々に増加して、原料ガスの濃度である約4000ppmへと変化することが確認された。
【0046】
吸収液に対して、混合ガスの流量を小さくして、接触時間を長くした場合には、CO濃度を、より低下させた状態で、ガスを再生できることが分かる。また、32.5ml/minの低流量の条件では、約0.09dmの吸収液に対して、24時間以上に渡り、40dmを超えるガスを流通させても、CO濃度を、1000ppm以上低下させて、維持できることが明らかになった。
【0047】
【表6】

【0048】
【表7】

【0049】
【表8】

【0050】
【表9】

【0051】
【表10】

【0052】
【表11】

【0053】
【表12】

【0054】
【表13】

【実施例2】
【0055】
本実施例では、イオン液体を用いた環境浄化装置の構築を試みた。図5に、本発明によるイオン液体を用いた環境浄化装置の一実施形態の概要を示す。この環境浄化装置は、宇宙ステーションなどの閉鎖空間において、人間などが排出した二酸化炭素を含む空気から、二酸化炭素を選択的に除去して、空気を浄化する例を示している。図5において、1は、処理対象環境、4、および6は、CO吸収塔/脱離塔、2、3、5、および7−11は、バルブである。
【0056】
処理対象環境1で劣化したガスを、ポンプなどにより、バルブ2を介し、CO吸収塔/脱離塔4あるいは6に送り込んだ。吸収塔4を使用する場合は、バルブ3を開け、バルブ5は閉じておく。吸収塔/脱離塔4で、COおよび水蒸気が取り除かれ、清浄となったガスは、バルブ7を介して、処理対象環境1に戻した。その場合は、バルブ9は閉じておく。
【0057】
劣化したガスから、所定量のCOおよび水蒸気を、吸収塔/脱離塔4において吸収した後で、バルブ3およびバルブ7を閉じ、バルブ5とバルブ8を開け、吸収塔/脱離塔6により、COおよび水蒸気を取り除き、清浄ガスを処理対象空間1に戻した。その場合は、バルブ10は閉じておく。
【0058】
一方、吸収塔/脱離塔6で、COなどの吸収処理を行っている間に、バルブ9およびバルブ10を開け、吸収塔/脱離塔4を、減圧あるいは真空として、吸収液に取り込まれたCOおよび水蒸気を、脱離させ、吸収液の再生を行った。吸収液の再生が終わり次第に、バルブ9およびバルブ11を閉じた。
【0059】
吸収塔/脱離塔6の処理量が、所定量になったところで、バルブ5およびバルブ8を閉じ、バルブ3とバルブ7を開け、吸収塔/脱離塔4において、前記と同様に、COおよび水蒸気を取り除き、空気を浄化した。その間、吸収塔/脱離塔6の再生を、吸収塔/脱離塔4で行ったのと同様の操作で行った。
【0060】
以上のサイクルを続けることで、処理対象環境を連続的に浄化することが可能となった。なお、本実施例では、一実施形態として、2つ一組からなる吸収塔/脱離塔での装置を示したが、更に、複数の吸収塔/脱離塔を用いても、同様の装置の製作が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上詳述したように、本発明は、イオン液体を用いた環境浄化方法およびその装置に係るものであり、本発明により、イオン液体吸収液を用いて、高濃度の二酸化炭素を含む空気から、選択的に二酸化炭素を取り除き、空気を浄化することができ、二酸化炭素を吸収したイオン液体は、減圧あるいは真空下における処理により、容易に再生することが可能である。本発明では、イオン液体吸収液から二酸化炭素を脱離する再生工程を、常温近傍の非加熱条件で行うことで、これらのプロセスの消費エネルギーを削減することができる。
【0062】
宇宙空間では、高温を発生するのに必要なエネルギーは、非常に貴重であるが、減圧あるいは真空の環境は、容易に使用できるため、本発明の技術は、宇宙ステーションなどに利用することで、エネルギー効率を著しく向上することが可能となり、イオン液体を用いて、二酸化炭素の除去と吸収液の再生を、一組以上の吸収塔と脱離塔を用いて行うことで、連続的に環境を浄化する方法および装置として利用することが可能である。
【0063】
本発明で用いるイオン液体吸収液は、不揮発性であり、常温において、二酸化炭素の着脱を、圧力スイングにより多数に渡り行うことができるため、吸収液を頻繁に交換すること無く、長期間に渡り、装置を稼働することが可能である。本発明は、吸湿性のあるイオン液体吸収液を用いることで、二酸化炭素と同時に、水蒸気成分を取り除き、環境を浄化することが可能な環境浄化方法および装置に関する新技術を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不揮発性のイオン液体からなる吸収液を用いて、密閉状態を維持できる処理対象空間における二酸化炭素を含む空気から、二酸化炭素を選択的に除去して、該空間内の環境を浄化する方法であって、(1)圧力スイングにより二酸化炭素の着脱が可能な吸収液を用い、吸収塔において、二酸化炭素を取り除き、脱離塔において、吸収した二酸化炭素を減圧あるいは真空条件で脱離して、吸収液を再生すること、(2)前記不揮発性のイオン液体が、単一のカチオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)との組み合わせからなる吸収液、少なくとも2種類のカチオンと単一のアニオンからなる吸収液、単一のカチオンと少なくとも2種類のアニオンからなる吸収液、または少なくとも2種類のカチオンと少なくとも2種類のアニオンからなる吸収液であること、を特徴とする環境浄化方法。
【請求項2】
吸収塔において、二酸化炭素と同時に水蒸気を取り除き、脱離塔において、二酸化炭素および水を脱離して、吸収液を再生する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱離塔の温度を、80℃またはそれより高くすることで、二酸化炭素を脱離して、吸収液の再生を可能とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
吸収塔の温度を、0℃以下またはそれより低くすることで、二酸化炭素を吸収して取り除くことを可能とする、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
吸収塔における圧力が、800〜1500hPaであり、脱離塔における圧力が、100hPa以下である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
吸収液が、アニオンに1種類以上のアルキルカルボン酸(C2n+1COO−,n=0〜10)あるいはその誘導体を含む吸収液である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
吸収液が、カルボン酸基(−COO)を有するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記不揮発性のイオン液体が、不揮発性の二酸化炭素吸着剤を含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
吸収塔における二酸化炭素の吸収と、脱離塔における二酸化炭素脱離を、繰り返し連続的に行う、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
吸収塔における吸収液と処理ガスとの接触時間あるいは反応時間を制御することで、再生ガス中の二酸化炭素の濃度を一定とすることを可能とする、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
密閉状態を維持できる処理対象空間と、該処理対象空間で劣化した二酸化炭素を含む空気から不揮発生のイオン液体からなる吸収液を用いて、二酸化炭素を選択的に除去する吸収塔/脱離塔と、前記処理対象空間と、前記吸収塔/脱離塔とを、ポンプおよびバルブを介して連結した流通系と、前記吸収塔/脱離塔の温度、圧力条件を制御するための温度および/または圧力制御手段とから構成され、前記吸収塔/脱離塔を減圧あるいは真空として、吸収液に取り込まれた二酸化炭素および水蒸気を脱離させ、吸収液の再生を行うようにしたことを特徴とする環境浄化装置。
【請求項12】
前記吸収液が、前記不揮発性のイオン液体が単一のカチオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)との組み合わせからなる吸収液、2種類以上のカチオンと単一のアニオンからなる吸収液、単一のカチオンと2種類以上のアニオンからなる吸収液、または2種類以上のカチオンと2種類以上のアニオンからなる吸収液である、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記流通系として、処理対象空間内の二酸化炭素含有空気を吸収塔/脱離塔に流し、吸収塔/脱離塔で浄化した洗浄空気を処理対象空間に流し、吸収塔/脱離塔で吸収、脱離した吸収液を、減圧/真空の条件で処理して回収した吸収液を、再利用するようにした、請求項11に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−55785(P2012−55785A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198387(P2010−198387)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本研究の一部は、平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 産業技術研究助成事業、「イオン液体を用いた新しいガス分離・精製方法の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】