説明

イオン液体用カチオン原料及びその製造方法

【課題】リチウムイオン電池や燃料電池用電解質又はレアメタル回収用溶媒に用いられるイオン液体を合成するのに有用な、スルホン酸基やホスホン酸基の結合したカチオン原料を提供する。
【解決手段】化学構造が(X)−Y−fullerene−(Z)であるイオン液体用カチオン原料(ここで、Xはイミダゾール基又はベンズイミダゾール基; YはS又はSO; Zはスルホン酸基,ホスホン酸基又はその前駆体; mは1〜4の整数; nは1〜10の整数; m+n=2〜12)、及び、(工程1)イミダゾール基又はベンズイミダゾール基をフラーレンに結合する工程と、(工程2)スルホン酸基,ホスホン酸基又はその前駆体をフラーレンに結合する工程とを含み、必要により(工程3)スルフィド結合をスルホン結合に酸化する工程を含む該イオン液体用カチオン原料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池や燃料電池の電解質又はレアメタル回収用溶媒として用いられるイオン液体を合成するのに有用なカチオン原料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体は、低融点,高耐熱性,不揮発性,高イオン伝導性,広電位窓,水相との層分離等の特徴を有し、リチウムイオン電池や燃料電池の電解質又は反応・抽出溶媒として最近注目を集めている。
イオン液体はイミダゾリウムイオン,ピリジニウムイオン,テトラアルキルアンモニウムイオン,テトラアルキルホスホニウムイオン等の有機カチオンと、BF,PF,CFSO,(CFSON等のアニオンとから構成されている。
【0003】
上記カチオンは有機化合物なので、目的に応じて設計できる。しかし、従来、その特徴を充分に生かせるカチオン原料は存在しなかった。
例えば、燃料電池の電解質用としてスルホン酸基を有するイミダゾリウムイオン(特許文献1参照)は、スルホン酸基を導入するのにアルキルスルトンを用いるためにスルホン酸基が一個しか導入できない上に、耐酸化性の低いメチレン基が4つも導入される。また、金属イオン架橋による不溶化やOHラジカルスキャベンジャーであるCeイオンの利用に必要なイオン交換基であるホスホン酸基の導入は不可能である(本発明者の発明に係る特許文献2参照)。
【0004】
本発明者は、スルホン酸基やホスホン酸基が結合した化学修飾フラーレンの製造方法(本発明者の発明に係る特許文献3参照)及びイミダゾール化フラーレンの製造方法(本発明者の発明に係る特願2007−305494号明細書参照)を応用して、イミダゾール基又はベンズイミダゾール基がフラーレンと結合し、該フラーレンにスルホン酸基,ホスホン酸基又はその前駆体が結合した化学修飾フラーレンを合成することで、スルホン酸基やホスホン酸基を複数個導入できるイオン液体用のカチオン原料を実現して本発明を完成した。
【0005】
本発明のカチオン原料を用いてイオン液体を合成するには、まずイミダゾール環の1位のイミノ基をMH(ここで、MはLi,Na又はK)を用いてNMに変え、ハロゲン化アルキルと反応させて三級アミンとした後、次のような公知の方法(非特許文献1参照)で3位の三級アミンを四級化してイミダゾリウムカチオンとすることで達成される。
(1)アニオン交換法
(2)酸エステル法
(3)中和法
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2006/025482号
【特許文献2】特開2009−046571号公報
【特許文献3】特許第3984280号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】北爪智哉・渕上寿雄・沢田英夫・伊藤敏幸共著、「イオン液体―常識を覆す不思議な塩―」、コロナ社、2005年発行、p.6-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、リチウムイオン電池や燃料電池の電解質又はレアメタル回収用溶媒として用いられるイオン液体に、スルホン酸基やホスホン酸基を複数個導入できるカチオン原料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、化学構造が(X)−Y−fullerene−(Z)であるイオン液体用カチオン原料である(ここで、Xはイミダゾール基又はベンズイミダゾール基; YはS又はSO; Zはスルホン酸基,ホスホン酸基又はその前駆体; mは1〜4の整数; nは1〜10の整数; m+n=2〜12)。
【0010】
また、上記課題を解決するため、本発明は、上記のイオン液体用カチオン原料の製造方法であって、2−メルカプトイミダゾール又は2−メルカプトベンズイミダゾールのメルカプト基をジオキサン又はジメチルアセトアミド中でMHによりSMに変え、フラーレンと常圧又は加圧下、20〜200℃で10〜200時間反応させる、イミダゾール基又はベンズイミダゾール基をフラーレンに結合する工程(ここで、MはLi,Na又はK)と、スルホン酸化試薬MSOの場合は(ジメチルアセトアミド+水)、ホスホン酸化試薬MPO(OR)の場合はジオキサンという特定の反応溶媒を選択し、該溶媒中にフラーレンとMSO又はMPO(OR)とを分散させ、常圧又は加圧下で、20〜200℃の反応温度を用いて10〜200時間反応させる、スルホン酸基,ホスホン酸基又はその前駆体をフラーレンに結合する工程(ここで、MはLi,Na又はK; RはC〜Cのアルキル基又はフェニル基)とを含む。
【0011】
上記の製造方法は、過酸化水素,過酢酸,過マンガン酸カリ,過ホウ酸ナトリウム等の酸化剤により、常圧又は加圧下、20〜200℃で10〜200時間という反応条件を用いて、X−S−fullereneをX−SO−fullereneに酸化する工程をさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカチオン原料を用いることにより、リチウムイオン電池や燃料電池の電解質として用いられるイオン液体に、リチウムイオンやプロトンの伝導度を大きくし、また金属イオン架橋による不溶化やOHラジカルスキャベンジャーのCeイオンを利用する目的で、スルホン酸基やホスホン酸基を複数個導入することが可能になる。
また、本発明のカチオン原料は、金属イオン架橋用のホスホン酸基を有するので、レアメタル回収用溶媒として用いられるイオン液体の合成にも使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、化学構造が(X)−Y−fullerene−(Z)であるイオン液体用カチオン原料である(ここで、Xはイミダゾール基又はベンズイミダゾール基; YはS又はSO; Zはスルホン酸基,ホスホン酸基又はその前駆体; mは1〜4の整数; nは1〜10の整数; m+n=2〜12)。
【0014】
上記の構造式で、結合数mは好ましくは1又は2である。結合数nは好ましくは2〜7の範囲にあり、スルホン酸基,ホスホン酸基又はその前駆体の一種類がフラーレンに結合していてもよく、複数の種類が混合して結合していてもよい。
また、精製して結合数m,nが実質的に単一でもよく、結合数m,nが異なるものの混合物でも構わない。反応条件を工夫して(m+n)を12よりも大きくすることも可能である。
【0015】
基体のfullereneとしては、C60,C70,C76,C78,C84等のフラーレンを用いることができるし、それらの混合物を用いることも可能である。特に、C60の製造工程で得られる、精製前のC60が50〜90%,C70が40〜10%,高次フラーレンが10%以下の混合物を用いると原料コストが安くなるので有利である。
本発明において、スルホン酸基の前駆体にはスルホニルハライド基やスルホン酸エステル基、またホスホン酸基の前駆体にはホスホン酸エステル基が含まれる。これらの前駆体は、加水分解によりスルホン酸基やホスホン酸基に変換することが可能であるが、場合によっては、そのまま使用しても構わない。
【0016】
本発明のカチオン原料の製造方法は、下記の(工程1)及び(工程2)を含み、必要により(工程3)を含むことを特徴とする。
【0017】
(工程1)
2−メルカプトイミダゾール又は2−メルカプトベンズイミダゾールのメルカプト基をジオキサン又はジメチルアセトアミド中でMHによりSMに変え、フラーレンと常圧又は加圧下、20〜200℃で10〜200時間反応させる、イミダゾール基又はベンズイミダゾール基をフラーレンに結合する工程(ここで、MはLi,Na又はK)。
【0018】
上記の工程においては、イミダゾール環に結合した2位のメルカプト基の方が1位のイミノ基よりも酸性が強いので優先的にSMに変り、次式のようにフラーレンの二重結合に付加する。この場合、中間体として生じるカルバニオンは、反応溶媒からHを引き抜いて安定化する。
【化1】

【0019】
反応に使用する溶媒としては、ジオキサンやジメチルアセトアミドのような非プロトン系極性有機溶媒が好ましく用いられる。テトラヒドロフランも用いることができるが、沸点が低く反応温度が上げられないので、ジオキサンの方が好ましい。
また、同じアミド系溶媒でも、ジメチルホルムアミドはフラーレンに付加してしまうので、ジメチルアセトアミドを用いることが好ましい。
【0020】
(工程2)
スルホン酸化試薬MSOの場合は(ジメチルアセトアミド+水)、ホスホン酸化試薬MPO(OR)の場合はジオキサンという特定の反応溶媒を選択し、該溶媒中にフラーレンとMSO又はMPO(OR)とを分散させ、常圧又は加圧下で、20〜200℃の反応温度を用いて10〜200時間反応させる、スルホン酸基,ホスホン酸基又はその前駆体をフラーレンに結合する工程(ここで、MはLi,Na又はK; RはC〜Cのアルキル基又はフェニル基)。
【0021】
上記の工程によるフラーレンとスルホン酸化試薬との反応結果を下表に示す。
表中の溶媒結合の場合は、反応溶媒に由来する有機化合物がフラーレンに結合する副反応が生じるので好ましくない。この場合の生成物の赤外吸収スペクトルには複雑なピークが現れ、単純なスペクトルを示す目的反応の生成物と容易に区別することができる。
ちなみに、DMFは(CHNCOHであり、DMAcは(CHNCOCHで同じアミド系溶媒に属していて、両者の化学構造の差はわずかであるにもかかわらず、反応結果が全く異なることは驚くべき発見であり、上記工程で特定の反応溶媒を選択する理由となっている。
【0022】
【表1】

【0023】
ここで、反応溶媒に水を添加する一つの理由は、スルホン酸化試薬の有機溶媒に対する溶解度を高めるためである。水を添加するもう一つの理由は、下式のように、反応時に生成するカルバニオンが、溶媒分子と結合する前に水からプロトンを引き抜いて安定化するためである。
【化2】

【0024】
反応後に得られるSOM型は、必要により、イオン交換法でリチウムイオン電池用のSOLi型や燃料電池用のSOH型に変換することが可能である。
【0025】
上記の工程で使用するホスホン酸化試薬MPO(OR)は、非プロトン系極性有機溶媒を用い、通常20〜100℃の条件で次の反応により調製される。
【化3】

【0026】
この中にフラーレンを入れてホスホン酸化反応を行うが、溶媒としてジメチルホルムアミドを用いると溶媒結合が生じるので、ジオキサンを用いる必要があることが生成物の赤外吸収スペクトル分析から判明した。
この場合、同じ環状エーテル系のテトラヒドロフランを使用することも可能であるが、沸点が低いため反応温度が低くなるので、ジオキサンを用いることが好ましい。
【0027】
ホスホン酸化反応時に生成するカルバニオンは、溶媒のジオキサン又はホスホン酸エステルのアルキル基からプロトンを引き抜いて安定化する。
【化4】

【0028】
ホスホン酸化反応で得られたホスホン酸エステル基は、公知の方法でトリメチルシリルブロマイドと反応させてエステル交換を行った後、水を加えることで加水分解してホスホン酸基PO(OH)に変換することができる。また、ホスホン酸エステル基の加水分解は熱濃塩酸中で行うことも可能である。
また、前記の方法でスルホン酸化反応を行い、予めスルホン酸基を結合した後、上記のホスホン酸エステル基を結合することで、スルホン酸基とホスホン酸基が共存している化学修飾フラーレンを合成することも可能である。この場合、反応順序を逆にして、最初にホスホン酸エステル基を結合し、次いでスルホン酸基を結合することも可能である。
【0029】
(工程3)
過酸化水素,過酢酸,過マンガン酸カリ,過ホウ酸ナトリウム等の酸化剤により、常圧又は加圧下、20〜200℃で10〜200時間という反応条件を用いて、X−S−fullereneをX−SO−fullereneに酸化する工程。
【0030】
上記の工程における反応溶媒は酸化剤の種類によって異なり、過酸化水素や過酢酸についてはメタノール、酢酸,トリフロロ酢酸,過マンガン酸カリについては水や水/メチレンクロライド、過ホウ酸ナトリウムについてはメタノール等が好適に用いられる。
【0031】
上述した三工程を実施する順序は、工程1−工程2−(工程3)、工程2−工程1−(工程3)、工程1−(工程3)−工程2等、様々なバリエーションを取ることが可能であり、目的物に応じて適宜選択することが可能である。
次に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
300mlの三口フラスコに、フラーレンC60 720mgとジメチルアセトアミド200mlを入れた。ここに亜硫酸カリウムKSO 790mg(フラーレンの5倍モル)を水10mlに溶かして添加した後、80℃で4日間加熱撹拌した。
反応終了後、溶媒を乾燥除去して残渣をエタノールで抽出した。固形分を濾別し、濾液のエタノールを乾燥除去した後、赤外吸収スペクトルをKBrを用いて測定したところ、1117cm−1にSO伸縮,619cm−1にCS伸縮のピークが表れた。
【0033】
また、ICP−AES(誘導結合プラズマ原子発光スペクトル法)によりS,K分析を行い、燃焼法でC,H,Oの元素分析を行った結果は、C57.5%,S11.4%,K14.7%,H0.55%,O13.0%であり、スルホン酸基SOKとHが4〜5個程度結合していることが確認された。
さらに、試料をDOに溶解してNMRを測定したところ、ベータ位のプロトンと推定されるピークが確認された。得られたスルホン酸化フラーレンの収率は、フラーレンベースでおよそ30%であった。
【0034】
300mlの三口フラスコにジオキサン80gを入れ、2−メルカプトイミダゾール0.4gと水素化リチウム0.05gを加えて50℃で攪拌した。水素の泡の発生が収まった後、上記のスルホン酸基SOKが結合したフラーレン1.4gを加えて、80℃で2晩攪拌したところ、反応したフラーレンが溶媒に溶けてきた。
反応終了後、未反応のスルホン酸化フラーレンを濾過して除き、濾液のジオキサンをエバポレーターで蒸発させて除去し、残渣をメタノールで洗浄後、KBrを用いて赤外吸収スペクトルを測定した。得られたIRには上述したスルホン酸基の吸収以外に、2500〜3128cm−1にイミダゾール基特有の吸収が見られ、イミダゾール基がスルホン酸化フラーレンに結合していることが確認された。
【0035】
(比較例1)
実施例1において、ジメチルアセトアミドの代わりにジメチルホルムアミドを用いて同様に操作し、スルホン酸化後の生成物の赤外吸収スペクトルを測定したところ、多くのピークが現れ、溶媒のジメチルホルムアミドがフラーレンに結合していることが確認された。
【0036】
(実施例2)
実施例1において、2−メルカプトイミダゾールの代わりに2−メルカプトベンズイミダゾール、溶媒のジオキサンの代わりにジメチルアセトアミドを用いて同様に操作し、ベンズイミダゾール基が結合したスルホン酸化フラーレンを得た。
【0037】
(実施例3)
300mlの三口フラスコにジエチルホスファイトHPO(OEt) 690mg,ジオキサン200mlを入れ、LiH40mgを添加した。80℃で加熱撹拌するとHが発生し、やがて溶液が透明になったので、フラーレンC60を720mg加え、そのまま80℃で4日間加熱撹拌した。
反応終了後、溶媒を乾燥除去し、残渣を(エタノール+THF)で抽出した。固形分を濾別し、濾液の(エタノール+THF)を乾燥除去した後、KBrで赤外吸収スペクトルを測定したところ、2926cm−1にC,1209cm−1にP=O,1043cm−1にP−O−Cの吸収が表れ、ホスホン酸エステル基PO(OEt)が結合していることが確認された。
【0038】
このホスホン酸エステル化フラーレン500mgにトリメチルシリルブロマイド1gを加えて室温で一晩エステル交換を行った後、水を加えて加水分解した。得られた生成物を乾燥後、KBrで赤外吸収スペクトルを測定したところ、Cの吸収は消失しており、3348cm−1にOH,1184cm−1にP=O,1074cm−1にP−O−Cの吸収が表れた。
得られたホスホン酸化フラーレンをICP−AESでP分析を行い、燃焼法でC,H,Oの元素分析を行った結果は、C73.9%,P10.6%,H1.4%,O15.5%であり、ホスホン酸基PO(OH)とHが3〜4個程度結合していることが確認された。
【0039】
さらに、試料をDOに溶解してNMRを測定したところ、ベータ位のプロトンと推定されるピークが確認された。得られたホスホン酸化フラーレンの収率は、フラーレンベースでおよそ35%であった。
上記のホスホン酸化フラーレンを用いて、実施例1と同様な操作で2−メルカプトイミダゾールと反応させたところ、イミダゾール基が結合したホスホン酸化フラーレンが得られた。生成物のS分析を行ったところ、1個のイミダゾール基が結合していることが判明した。
【0040】
(比較例2)
実施例3において、ジオキサンの代わりにジメチルホルムアミドを用いて同様に操作し、ホスホン酸エステル化反応を行ったところ、生成物の赤外吸収スペクトルには多くのピークが現れ、溶媒のジメチルホルムアミドが結合していることが確認された。
【0041】
(実施例4)
300mlの三口フラスコにジオキサン80gを入れ、2−メルカプトイミダゾール0.4gと水素化リチウム0.05gを加えて50℃で攪拌した。水素の泡の発生が収まった後、0.72gのフラーレンC60を加えて、80℃で2晩攪拌したところ、反応したフラーレンが溶媒に溶けて黒褐色の溶液になった。
反応終了後、ジオキサンをエバポレーターで蒸発させて除去し、残渣をメタノールで洗浄後、赤外吸収スペクトルを測定した。得られたIRには、2500〜3128cm−1にイミダゾール基特有の吸収が見られ、イミダゾール化フラーレンが生成していることが確認された。
【0042】
実施例2の原料フラーレンC60の代わりに、上記のイミダゾール化フラーレンを用いて実施例2と同様に操作し、HPO(OEt)と反応させたところ、ホスホン酸化エステル基が結合したイミダゾール化フラーレンが得られた。
【0043】
(実施例5)
実施例1で得られたスルホン酸化フラーレンを原料として、実施例3と同様な操作を行ったところ、赤外吸収スペクトルにはスルホン酸基とホスホン酸エステル基の吸収が表れ、両者が共存していることが確認された。ICP−AESでP分析を行ったところ、ホスホン酸基は2個程度結合していると推定された。
得られた(スルホン酸+ホスホン酸エステル)化フラーレンを原料として用い、実施例1と同様に操作して、イミダゾール基をフラーレンに結合した。
【0044】
(実施例6)
実施例3で得られたイミダゾール基が結合したホスホン酸化フラーレンを、溶媒としてトリフロロ酢酸を用い、過酸化水素と70℃で2晩反応させて生成物の赤外吸収スペクトルを測定したところ、SOの吸収が現れ、スルフィド結合がスルホン結合に酸化されたことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学構造が(X)−Y−fullerene−(Z)であるイオン液体用カチオン原料(ここで、Xはイミダゾール基又はベンズイミダゾール基; YはS又はSO; Zはスルホン酸基,ホスホン酸基又はその前駆体; mは1〜4の整数; nは1〜10の整数; m+n=2〜12)。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン液体用カチオン原料の製造方法であって、
2−メルカプトイミダゾール又は2−メルカプトベンズイミダゾールのメルカプト基をジオキサン又はジメチルアセトアミド中でMHによりSMに変え、フラーレンと常圧又は加圧下、20〜200℃で10〜200時間反応させる、イミダゾール基又はベンズイミダゾール基をフラーレンに結合する工程(ここで、MはLi,Na又はK)と、
スルホン酸化試薬MSOの場合は(ジメチルアセトアミド+水)、ホスホン酸化試薬MPO(OR)の場合はジオキサンという特定の反応溶媒を選択し、該溶媒中にフラーレンとMSO又はMPO(OR)とを分散させ、常圧又は加圧下で、20〜200℃の反応温度を用いて10〜200時間反応させる、スルホン酸基,ホスホン酸基又はその前駆体をフラーレンに結合する工程(ここで、MはLi,Na又はK; RはC〜Cのアルキル基又はフェニル基)と
を含むイオン液体用カチオン原料の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法において、
過酸化水素,過酢酸,過マンガン酸カリ,過ホウ酸ナトリウム等の酸化剤により、常圧又は加圧下、20〜200℃で10〜200時間という反応条件を用いて、X−S−fullereneをX−SO−fullereneに酸化する工程をさらに含むイオン液体用カチオン原料の製造方法。

【公開番号】特開2010−270071(P2010−270071A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123830(P2009−123830)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(509143941)
【Fターム(参考)】