説明

イオン源およびその動作方法

【課題】 イオン源において、加速器内部の真空を保ったまま真空容器内部のメンテナン
スをする。
【解決手段】 イオン源1は、開放または閉鎖できるメンテナンス開口部2とイオン取出
し口2a有する真空容器2、ターゲット21をターゲット支持具6によって移動させるタ
ーゲット移動装置5と、ターゲット21にレーザ光22を照射するレーザ光源9と、イオ
ン導入口11を有する加速器11と、イオン取出し口2aとイオン導入口11aとを接続
する連通管12と、連通管12を開放または閉鎖できるゲートバルブ13とを備え、メン
テナンス開口部2aを閉鎖し、連通管12を開放し、さらに真空容器2および加速器11
内を真空にした状態で、加速器11は、イオン23を連通管12を介してイオン導入口部
11aから導入し加速する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットにレーザを照射して発生したイオンを加速器で加速してイオンビ
ームを得るイオン源およびその動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素イオンビームは、生体組織に照射すると一定の深層における組織にピークをもって
エネルギーの大部分を与え、表層組織にはエネルギーを与えない特性がある。したがって
、がん治療における炭素イオンビームを用いた重粒子線治療は、正常組織へエネルギーを
与えずにがん細胞へのみエネルギーを与えることができるため、今後のがん治療方法とし
て有望である。
【0003】
炭素イオンビームをはじめとするイオンビームを得る方法としてレーザアブレーション
を用いたイオン源がある。この種のイオン源は、真空容器内に設けられた高圧ボックスに
収容したターゲットにレーザを照射することによってターゲットを蒸発しイオン化させる
、いわゆるレーザアブレーションによってイオンを発生させる。発生したイオンは、真空
容器のイオン取出し口を通って加速器のイオン導入口に導入され、加速器は、導入したイ
オンを加速することによってイオンビームを得る(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、発生したイオンを真空容器内で拡散させずに加速器へ導入するため、高圧ボック
スに一端を接続し、他端を加速器のイオン導入口の近傍に配置した輸送管を設け、高圧ボ
ックスから放出されたイオンを輸送管によって輸送して加速器へ導入する技術が開発され
ている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3713524号公報
【特許文献2】特開平2009−37764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1および特許文献2に記載の技術は、真空容器内およ
び加速器内が常時開放して連通しているため、ターゲットの交換や真空容器内の構造物の
清掃等といった真空容器内部のメンテナンス時には、真空容器と加速器の内部の両方を大
気開放する必要がある。したがって、真空容器内部のメンテナンス後には、真空容器と加
速器の内部の両方を真空にする必要があり、特に加速器には高い真空度が要求されるため
、真空ポンプによる排気にかかる時間コストの増大を招くおそれがあった。
【0007】
そこで本発明は、加速器内部の真空を保ちながら真空容器内部のメンテナンスをするこ
とができるイオン源の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明のイオン源は、開放または閉鎖することができるメ
ンテナンス開口部とイオン取出し口を有する真空容器と、この真空容器内に設けられ、タ
ーゲットをターゲット支持具によって移動させることができるターゲット移動装置と、真
空容器内に設けられ、ターゲットを収容し、ターゲットにレーザ光を照射するレーザ光源
と、イオン導入口を有する加速器と、真空容器のイオン取出し口と加速器のイオン導入口
とを接続する連通管と、この連通管を開放または閉鎖することができるゲートバルブとを
備え、メンテナンス開口部を閉鎖し、ゲートバルブによって連通管を開放し、さらに真空
容器および加速器内を真空にした状態で、前記イオンは、前記イオン取出し口を通って前
記連通管内を移動し、前記加速器は、前記イオン導入口から前記イオンを導入し加速する
ことを特徴とする。
【0009】
さらに、上記目的を達成するために、本発明のイオン源の動作方法は、開放または閉鎖
することができるメンテナンス開口部とイオン取出し口を有する真空容器内と、この真空
容器のイオン取出し口とイオン導入口とをゲートバルブを有する連通管によって接続した
加速器内を真空にする工程と、真空容器内に設けられたターゲット移動装置のターゲット
支持具に支持され、ターゲットにレーザ光を照射しイオンを発生させる工程と、前記加速
器によってイオンをイオン導入口から導入して加速する工程と、ゲートバルブによって連
通管を閉鎖する工程と、メンテナンス開口部を開放し、加速器内の真空を保ちながら真空
容器内部のメンテナンスを行う工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イオン源において、加速器内部の真空を保ちながら真空容器内部のメ
ンテナンスをすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るイオン源のイオンビームの発生作用を示す概略横断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るイオン源の真空容器内部のメンテナンス作用を示す概略縦断面図。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るイオン源の集束電極移動装置を新たに設けた場合を示す概略縦断面図。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るイオン源のイオンビームの発生作用を示す概略横断面図。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るイオン源の真空容器内部のメンテナンス作用を示す概略縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
(構成)
以下、本発明の第1の実施形態に係るイオン源について図1乃至図3を参照して説明す
る。図1は、本発明の第1の実施形態に係るイオン源のイオンビームの発生作用を示す概
略横断面図である。
【0014】
イオン源1は、真空容器2と、ステージ3と、ボード4と、ターゲット移動装置5と、
ターゲット支持具6と、高圧ボックス7と、集光レンズ8と、レーザ光源9と、集束電極
10と、加速装置11と、連通管12と、ゲートバルブ13と、メンテナンス扉15と、
ステージ駆動装置16と、電源ケーブル17と、電源18とから構成される。また、ター
ゲット移動装置5と、ターゲット支持具6と、高圧ボックス7と、集光レンズ8と、集束
電極10はステージ構造物31を構成する。ステージ構造物31とは、後述するようにス
テージ3上にボード4を介して設けられ、ステージ3とともに移動することができる真空
容器2内の構造物である。
【0015】
真空容器2は、イオン取出し口2aと、メンテナンス開口部2bと、レーザ照射窓2c
とを有する。真空容器2のメンテナンス開口部2bは、メンテナンス扉15によって開放
または閉鎖が可能な構成とする。加速器11は、イオン導入口11aを有し、真空容器2
のイオン取出し口2aと加速器11のイオン導入口11aとが連通管12によって接続さ
れる。加速器11は、RFQ(Radio Frequency Quadrupole
)を適用することができる。
【0016】
RFQは、サイン関数状の波形を形成した加速電極であるベーンがシリンダ内に配置さ
れ、高周波空洞共振器を構成する。この共振器の共振周波数に等しい周波数の高周波電力
をこれらに供給すると、ベーンに高周波電圧が発生する。このとき、ベーンで囲まれた中
心部分にイオン23を入射すると、イオン23は高周波電圧により加速され、イオンビー
ム24を得ることができる。
【0017】
連通管12には、ゲートバルブ13が設けられる。ゲートバルブ13は内部に弁体14
を有し、弁体14を移動させることによって、図1のように連通管12を開放させ、図2
のように連通管12を閉鎖することができる。連通管12の開放とは、真空容器2内から
加速器11への物質の行き来を可能とし、後述するイオン23を真空容器2内から加速器
11へ導入することができる状態である。また、連通管12の閉鎖とは、真空容器2内か
ら加速器11への物質の行き来を遮断し、真空容器2内のみまたは加速器11内のみを真
空にすることができる状態である。
【0018】
図1のように、弁体14を移動させて連通管12を開放することによって、真空ポンプ
(図示せず)によって真空容器2内および加速器11内を連通して真空にすることができ
る。さらに、図2のように弁体14を移動させて連通管12を閉鎖することによって、加
速器11内の真空を保ったまま真空容器2内を大気開放することができる。真空ポンプは
、真空容器2または加速器11にのみ設けてもよいし、真空容器2および加速器11の両
方に設けてもよい。真空ポンプを真空容器2および加速器11の両方に設けたときは、弁
体14によって連通管12を閉鎖した状態においても、真空容器2内および加速器11内
を各々独立して真空にすることができる。
【0019】
図2のように、真空容器2の内底にステージ3が配置される。ステージ3は、上面にボ
ード4およびステージ構造物31を設けることができる平板形状であり、後述するステー
ジ駆動措置16によって移動することができるように下部に車輪等を設けた台車とするこ
とが望ましい。
【0020】
ステージ3の上面にはボード4が配置される。さらに、ボード4の上面にターゲット移
動装置5と、高圧ボックス7と、集光レンズ8と、集束電極10とが設けられ、さらにタ
ーゲット移動装置5にターゲット支持具6が接続されてステージ構造物31を構成する。
ボード4には、後述するイオンビーム24の発生作用に適したステージ構造物31の位置
決めをし、ステージ構造物31を着脱可能に固定するための治具を設けることができる。
さらに、ステージ3とボード4との間の位置調整のための治具をステージ3またはボード
4に設けてもよい。
【0021】
さらに、ステージ3にはステージ駆動装置16が接続される。ステージ駆動装置16は
、ステージ3をメンテナンス開口部2bから真空容器2の外部へ引き出す方向へ移動させ
ることが可能である。イオンビーム24の発生作用時には、図1のようにメンテナンス開
口部2bはメンテナンス扉15によって閉鎖され、ステージ3およびステージ駆動装置1
6は真空容器2の内部に収容される。メンテナンス作用時には、図2のようにメンテナン
ス開口部2bはメンテナンス扉15によって開放され、ステージ3およびステージ駆動装
置16は真空容器2のメンテナンス開口部2bから真空容器2の外部へ取出される。
【0022】
ターゲット移動装置5は、ターゲット支持具6によってターゲット21を例えば直行2
方向に駆動することができる駆動装置である。ここで、ターゲット21を移動させる直行
2方向は、ターゲット21からイオン取出し口2aへ向かう方向に直交する2方向に定め
る。ターゲット21の移動方向は、直行2方向に限られず、ターゲット21からイオン取
出し口2aへ向かう方向に直交する1方向に移動させてもよいし、ターゲット21からイ
オン取出し口2aへ向かう方向に直交する方向へ回転させてもよい。
【0023】
ターゲット21は、イオンビーム24の元となる元素からなり、例えば炭素やシリコン
を適用することができる。ターゲット21の形状は、例えば板形状とすることができ、板
形状の一面をイオン取り出し口2aに対向させて高圧ボックス7内に配置される。
【0024】
高圧ボックス7は、ターゲット支持具6に支持されたターゲット21を収容することが
できる容器形状であり、図1に示すようにレーザ光源9から集光レンズ8を介して照射さ
れるレーザ光22をターゲット21に照射できるレーザ照射孔7aと、ターゲット21か
ら発生したイオン23をイオン取り出し口2a方向へ放出するイオン放出孔7bが形成さ
れている。さらに、高圧ボックス7およびターゲット21には、発生したイオン23をイ
オン取り出し口2a方向へ加速するための電圧が印加される。
【0025】
また、高圧ボックス7内で発生した大部分のイオン23は、ターゲット21の法線方向
へ移動してイオン放出孔7bから放出され、イオンビーム24として利用される。しかし
、一部のイオン23は他の方向へ拡散する。高圧ボックス7は、拡散したイオン23を内
部に留め、拡散したイオン23が真空容器2内を飛散し、真空容器2および他の構造物が
イオン23によって汚染されることを防ぐ。
【0026】
レーザ光源9は、YAGレーザやエキシマレーザ、COレーザ等の高エネルギーのレ
ーザを適用することができる。レーザ光源9は、真空容器2の外部に設けられ、真空容器
2のレーザ照射窓2cを通して集光レンズ8にレーザ光22を照射する。集光レンズ8は
、レーザ光源9からのレーザ光22をレーザアブレーションに適切なスポット径に集束し
、ターゲット21にレーザ光22を照射する。
【0027】
集束電極10は、内部に電圧が印加され、高圧ボックス7のイオン放出孔7bから放出
されたイオン23を集束させ加速する電極である。集束電極10は、ボード4の上面にお
いて、高圧ボックス7のイオン放出孔7bとイオン取出し口2aとに挟まれる位置におい
て設けられる。
【0028】
(作用)
以下、本発明の第1の実施形態の作用について説明する。イオン源1の作用は、通常の
イオンビーム24の発生作用と、イオンビーム24発生後の真空容器2内部のメンテナン
ス作用と、メンテナンス作用後のイオンビーム24の発生作用に分別される。
【0029】
まず、通常のイオンビーム24の発生作用について説明する。イオンビーム24の発生
作用時には、メンテナンス開口部2bからステージ構造物31を設けたステージ3を真空
容器2内に収容した後、メンテナンス扉15によってメンテナンス開口部2bを閉鎖し、
さらにゲートバルブ13の弁体14を移動させて連通管12を開放する。このとき、イオ
ンビーム24の発生に適した位置にステージ3を配置させるために真空容器2内にレール
やストッパーを設けてもよい。
【0030】
この状態で、真空ポンプ(図示せず)によって真空容器2内および加速器11内を真空
にする。ここで、真空とは、10−5Pa以下程度の真空度を指すものとする。なお、真
空ポンプが真空容器2および加速器11の各々に設けられるときには、真空容器2内およ
び加速器11内を独立して真空とした後に連通管12を開放してもよい。さらに、高圧ボ
ックス7および集束電極10に各々適切な電圧を印加する。
【0031】
レーザ光源9によって、集光レンズ8を介してレーザ光22をターゲット21に照射す
る。ターゲット21はレーザ光22を照射すると、ターゲット21が蒸発しイオン化する
、いわゆるレーザアブレーションによってイオン23が発生する。イオン23は、ターゲ
ット21表面の法線方向に放出される。さらに、高圧ボックス7およびターゲット21に
印加する電圧と集束電極10に印加する電圧の電位差によって、イオン23はイオン放出
孔7bから放出され、集束電極10の方向へ加速される。
【0032】
なお、イオン23のイオン放出孔7bからの放出は、高圧ボックス7のイオン放出孔7
bの近傍に引き出し電極を新たに設け、高圧ボックス7およびターゲット21に印加する
電圧と引き出し電極に印加する電圧の電位差によってイオン23をイオン放出孔7bから
放出してもよい。
【0033】
高圧ボックス7から放出されたイオン23は、集束電極10において集束され、さらに
加速される。集束電極10において集束し加速されたイオン23は、イオン取出し口2a
を通って連通管12内を移動し、イオン導入口11aから加速器11に導入される。加速
器11は、イオン23をさらに加速してイオンビーム23を得る。
【0034】
次に、イオンビーム24の発生後の真空容器2内部のメンテナンス作用について説明す
る。図2は、本発明の第1の実施形態に係るイオン源の真空容器2内部のメンテナンス作
用を示す概略縦断面図である。ここで、真空容器2内部のメンテナンスとは、ターゲット
21の交換や真空容器2内のステージ構造物31のメンテナンス、真空容器2の内壁の清
掃等を総称するものとする。
【0035】
イオンビーム24の発生後の真空容器2内部のメンテナンス作用時には、ゲートバルブ
13の弁体14を移動させて連通管12を閉鎖した後に、メンテナンス扉15によってメ
ンテナンス開口部2bを開放し、真空容器2内を大気開放する。
【0036】
連通管12を閉鎖することによって、真空容器2内と加速器11内の真空が分断され、
さらにメンテナンス扉15によってメンテナンス開口部2bを開放することによって、真
空容器2内のみが大気開放される。なお、メンテナンス開口部2bを開放することによっ
て真空容器2内を大気開放するだけでなく、真空容器2に設けた弁等(図示せず。)によ
って大気開放した後、メンテナンス開口部2bを開放してもよい。
【0037】
電源18は、電源ケーブル17によってステージ駆動装置16にステージ3およびステ
ージ構造物31の駆動に必要な電力を供給する。ステージ駆動装置16は、電源18から
の電力を用いてステージ3をメンテナンス開口部2bから外部へ引き出す方向へ駆動する
。したがって、図2のようにメンテナンス開口部2bは、真空容器2の側面を底部から開
口できるように設けられ、真空容器2の底部と外部の床面とがフラットな形状となること
が望ましい。
【0038】
ステージ駆動装置16によってステージ3を真空容器2の外部へ引き出した後、ボード
4を取り外すことによって、ボード4に設けられるステージ構造物31を一度に取り外す
ことが可能である。また、ステージ3を真空容器2の外部に引き出すことによって、真空
容器2内からステージ3およびステージ構造物31は取り外されるので、真空容器2の内
壁の清掃等の真空容器2自体のメンテナンスも容易となる。
【0039】
さらに、新たに用意したボード4とこのボード4に設けた新たなステージ構造物31を
ステージ3に設置し、ステージ駆動装置16によってメンテナンス開口部2bから真空容
器2内に収容することで、既にイオンビーム23を発生させたステージ構造物31のメン
テナンスを行いつつ、新たなステージ構造物31によってイオンビーム23を発生させる
ことができる。
【0040】
最後に、メンテナンス作用後のイオンビーム24の発生作用について説明する。メンテ
ナンスが終了したステージ構造物31または新たなステージ構造物31をステージ3に設
けて真空容器2へ収容し、メンテナンス扉15によってメンテナンス開口部2bを閉鎖す
る。さらにゲートバルブ13の弁体14を移動させて連通管12を開放した後に、真空容
器2内部を真空ポンプによって真空にする。または、真空容器2に真空ポンプが設けられ
ているときには、真空容器2内部を真空ポンプによって真空にした後に連通管12を開放
してもよい。この状態で、レーザ光源9によってレーザ光22をターゲット21に照射す
ることによって、上述した通常のイオンビーム24の発生作用と同様のイオンビーム24
を得ることができる。
【0041】
さらに、本実施形態は以下の変形が可能である。図3は、本発明の第1の実施形態に係
るイオン源の集束電極移動装置を新たに設けた場合を示す概略縦断面図である。
【0042】
図3のように、集束電極10を移動させることができる集束電極移動装置20をボード
4の上面に設け、集束電極移動装置20に集束電極10が接続される。この場合、イオン
ビーム24の出力や加速器11に導入するイオン23の集束径の調整時などに、集束電極
移動装置20によって集束電極10のみの位置調整が真空外から可能となる。
【0043】
(効果)
本発明の第1の実施形態によれば、イオンビーム24の発生作用後にゲートバルブ13
の弁体14を移動させて連通管12を閉鎖した状態で、メンテナンス開口部2bを開放す
ることによって、加速器11内の真空を保ったまま、真空容器2内部のメンテナンスを行
うことができる。さらに、ステージ3を移動させ、真空容器2内から引き出すことによっ
て真空容器2の外部でステージ構造物31の交換や真空容器2の内壁の清掃等を容易に行
うことが可能となる。
【0044】
(第2の実施形態)
(構成)
以下、本発明の第2の実施形態に係るイオン源について図4および図5を参照して説明
する。第1の実施形態に係るイオン源の各部と同一部分には同一符号を付し、同一の構成
についての説明は省略する。
【0045】
図4は、本発明の第2の実施形態に係るイオン源のイオンビームの発生作用を示す概略
横断面図である。第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、集束電極10の構成を
省き、新たに輸送管19を設けた点である。上述したステージ構造物31の構成も、集束
電極10に代えて輸送管19を含めるものとする。
【0046】
輸送管19は、連通管12より径の小さい円筒形状であり、高圧ボックス7のイオン放
出孔7bに一端を接続し、イオンビーム発生作用時において、他端が連通管12の内部を
通って加速器11のイオン導入口11aの近傍に位置するように配置される。
【0047】
(作用)
以下、本発明の第2の実施形態の作用について説明する。まず、イオンビーム23の発
生作用について説明する。イオンビーム24の発生作用時には、まずゲートバルブ13の
弁体14を移動させ連通管12を開放する。次に、メンテナンス扉15によってメンテナ
ンス開口部2bを開放し、ステージ駆動装置16によってメンテナンス開口部2bからス
テージ3を真空容器2内へ収容し、さらに輸送管19の他端が加速器11のイオン導入口
11aの近傍に位置するまでステージ3を移動させる。
【0048】
ステージ3の移動が完了すると、メンテナンス扉15によってメンテナンス開口部2b
を閉鎖し、真空ポンプによって真空容器2内および加速器11内を真空にする。なお、連
通管12が閉鎖した状態でステージ3を真空容器2内へ収容し、メンテナンス開口部2b
を閉鎖して真空容器2内および加速器11内を独立して真空とした後に、連通管12を開
放して輸送管19の他端を加速器11のイオン導入口11aの近傍に位置するまでステー
ジ3を移動させてもよい。
【0049】
レーザ光源9によってレーザ光22をターゲット21に照射すると、発生したイオン2
3は高圧ボックス7内をターゲット21表面の法線方向へ移動し、イオン放出孔7bを通
って輸送管19内において輸送される。輸送管19で輸送されたイオン23は、輸送管1
9と加速器11に印加されている電圧差によって輸送管19の他端から引き出される際に
加速される。このようにして加速されたイオン23は、イオン導入口11aを通って加速
器11に導入され、加速器11によってさらに加速されイオンビーム24を得る。
【0050】
次に、イオンビーム24発生後の真空容器2内部のメンテナンス作用について説明する
。図5は、本発明の第2の実施形態に係るイオン源の真空容器2内部のメンテナンス作用
を示す概略縦断面図である。
【0051】
イオンビーム24発生後の真空容器2内部のメンテナンス作用時には、まず真空容器2
内および加速器11内を真空を保ったまま、ステージ駆動装置16によってステージ3を
輸送管19の他端がゲートバルブ13の弁体14よりも真空容器2側に位置するまで移動
させる。
【0052】
この状態で、ゲートバルブ13の弁体14を移動させて連通管12を閉鎖し、さらにメ
ンテナンス扉15によってメンテナンス開口部2bを開放して加速器11内の真空を保っ
たまま真空容器2内を大気開放する。メンテナンス開口部2bを開放した後、ステージ駆
動装置16によってメンテナンス開口部2bからステージ3を真空容器2の外部へ引き出
す。
【0053】
最後に、真空容器2内が大気開放され加速器11内が真空であるときのイオンビーム2
4の発生作用について説明する。まず、メンテナンス開口部2bからステージ駆動装置1
6によってステージ3を真空容器2内に収容する。ステージ3を真空容器2内に収容する
と、メンテナンス扉15によってメンテナンス開口部2bを閉鎖する。このとき、真空容
器2に真空ポンプが設けられるときは、真空ポンプによって真空容器2内を真空にする。
【0054】
ゲートバルブ13の弁体14を移動させて連通管12を開放し、輸送管19の他端が加
速器11のイオン導入口11aの近傍に位置するまでステージ3をさらに移動させる。真
空容器2に真空ポンプが設けられないときには、加速器11側の真空ポンプによって真空
容器2内を真空にする。この状態で、レーザ光源9からレーザ光22を照射することによ
って、上述した実施形態と同様のイオンビーム24を得ることができる。
【0055】
(効果)
本発明の第2の実施形態によれば、輸送管19を用いることによって、集束電極10を
用いることなく、高圧ボックス7で発生したイオン23を周囲に拡散させることなく、加
速器11へ導くことができる。さらに、真空容器2内を真空にしたままステージ3を移動
させ、輸送管19を連通管12内から引き出し、ゲートバルブ13の弁体14を移動させ
て連通管12を閉鎖することによって、加速器11内の真空を保ったまま、真空容器2内
部のメンテナンスを行うことができる。
【0056】
なお、本発明の実施形態は上述した実施形態に限られないことは言うまでもない。例え
ば、ターゲット21の材料、レーザ光源9が照射するレーザ光22の種類や、イオンビー
ム24の出力は、イオン源1の用途や要求されるイオンビーム24の出力によって適宜変
更され得るものである。また、加速器11には、上述したRFQ以外にサイクロトロンや
シンクロトロン等を適用することができ、RFQの後段にさらに別の加速器11を設けて
イオンビーム24を得る構成とすることも可能である。
【0057】
また、ステージ3上のボード4の上面に設けられるステージ構造物31は、ターゲット
移動装置5と、ターゲット支持具6と、高圧ボックス7と、集光レンズ8と、集束電極1
0とから構成される場合に限られない。例えば、交換や清掃の頻度が高いターゲット移動
装置5およびターゲット支持具6ならびに高圧ボックス7のみをボード3の上に配置して
、他の集光レンズ8や集束電極10は、真空容器2の内底に直接設けてもよい。
【0058】
さらに、ボード4の構成を省き、ステージ3の上面にステージ構造物31を設けてもよ
い。このとき、ステージ3をステージ駆動装置16と着脱可能にし、ステージ3を複数用
意しておくことで、メンテナンス中に新たなステージ3とこれに設けられるステージ構造
物31を真空容器2内に収容し、イオンビーム24を発生させることが可能となる。また
、ステージ駆動装置16の構成を省き、手動でステージ3を引き出す構成とすることもで
きる。
【0059】
また、ステージ3およびボード4の構成を省き、ステージ構造物31を真空容器2の内
底等に直接設け、ステージ構造物31を真空容器2内に設けたまま、メンテナンス開口部
2bからメンテナンスを行ってもよい。このとき、ステージ構造物31の清掃や取り外し
を容易にするためにメンテナンス開口部2bは、真空容器2の上面等に設けることができ
る。
【0060】
さらに、真空容器2内のメンテナンス作用時には、必ずしもゲートバルブ13の弁体1
4によって連通管12を閉鎖させる必要はなく、例えば加速器11や連通管12の内部の
メンテナンス時には、弁体14によって連通管12を開放し、真空容器2および加速器1
1の内部を大気開放した状態でメンテナンスを行うことができる。
【0061】
また、加速器11内のメンテナンス作用時には、ゲートバルブ13の弁体14によって
連通管12を閉鎖させ、真空容器2内の真空を保ったまま加速器11内部のみを大気開放
して、加速器11内部のメンテナンスを行うことも可能である。
【0062】
さらに、集束電極10または輸送管19によって高圧ボックス7から放出されたイオン
23を加速器11へ収容するだけでなく、高圧ボックス7およびターゲット21に印加す
る電圧と加速器11のイオン導入口11aにおける電圧との電位差によってイオン23を
加速器11のイオン導入口11aへ導入できるまで十分加速し、収束することができると
きは、集束電極10および輸送管19の構成を省くことができる。
【0063】
また、上述したように高圧ボックス7は、イオンビーム24として利用されずに拡散し
たイオン23を内部に留め、真空容器2の内部が汚染されることを防ぐ働きがある。した
がって、ターゲット21を真空容器2のイオン取出し口2aの近傍に配置し、発生したイ
オン23を拡散させずにイオン取出し口2aを通って連通管12内に導入できるときや、
イオン23が容易に汚染除去できる元素であるときなどは、高圧ボックス7の構成を省く
ことができる。このとき、ターゲット21のみに発生したイオン23をイオン取出し口2
aへ移動させる電圧を印加するものとする。
【0064】
また、メンテナンス扉15によってメンテナンス開口部2bを開放または閉鎖するだけ
でなく、真空容器2を分割可能な構成とし、真空容器2を分割して一部を取り外してメン
テナンス開口部2bを形成することも可能である。さらに、レーザ光源9は、真空容器2
の外部に設けられるだけでなく、真空容器2内部に設けてもよいし、集光レンズ8をレー
ザ光源9に組み込んだ構成としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1・・・イオン源
2・・・真空容器
2a・・・イオン取出し口
2b・・・メンテナンス開口部
2c・・・レーザ照射窓
3・・・ステージ
4・・・ボード
5・・・ターゲット移動装置
6・・・ターゲット支持具
7・・・高圧ボックス
7a・・・レーザ照射孔
7b・・・イオン放出孔
8・・・集光レンズ
9・・・レーザ光源
10・・・集束電極
11・・・加速器
11a・・・イオン導入口
12・・・連通管
13・・・ゲートバルブ
14・・・弁体
15・・・メンテナンス扉
16・・・ステージ駆動装置
17・・・電源ケーブル
18・・・電源
19・・・輸送管
20・・・集束電極移動装置
21・・・ターゲット
22・・・レーザ光
23・・・イオン
24・・・イオンビーム
31・・・ステージ構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放または閉鎖することができるメンテナンス開口部とイオン取出し口を有する真空容
器と、
この真空容器内に設けられ、ターゲットを移動させるターゲット移動装置と、
前記ターゲットにレーザ光を照射しイオンを発生させるレーザ光源と、
イオン導入口を有する加速器と、
前記真空容器の前記イオン取出し口と前記加速器の前記イオン導入口を接続する連通管と

この連通管を開放または閉鎖することができるゲートバルブとを備え、
前記メンテナンス開口部を閉鎖し、前記ゲートバルブによって前記連通管を開放し、さら
に前記真空容器および前記加速器内を真空にした状態で、前記イオンは、前記イオン取出
し口を通って前記連通管内を移動し、前記加速器は、前記イオン導入口から前記イオンを
導入し加速することを特徴とするイオン源。
【請求項2】
開放または閉鎖することができるメンテナンス開口部とイオン取出し口を有する真空容
器と、
この真空容器内に設けられ、ターゲットを移動させるターゲット移動装置と、
前記ターゲットにレーザ光を照射しイオンを発生させるレーザ光源と、
前記真空容器内に設けられ、前記ターゲット収容し、イオン放出孔を有する高圧ボックス
と、
イオン導入口を有する加速器と、
前記真空容器の前記イオン取出し口と前記加速器の前記イオン導入口を接続する連通管と

この連通管を開放または閉鎖することができるゲートバルブとを備え、
前記メンテナンス開口部を閉鎖し、前記ゲートバルブによって前記連通管を開放し、さら
に前記真空容器および前記加速器内を真空にした状態で、前記イオンは、前記イオン放出
孔から放出され、前記イオン取出し口を通って前記連通管内を移動し、前記加速器は、前
記イオン導入口から前記イオンを導入し加速することを特徴とするイオン源。
【請求項3】
前記真空容器内にステージをさらに設け、
前記ターゲット移動装置はステージ構造物として前記ステージに設けられ、
前記メンテナンス開口部を開放し、このメンテナンス開口部から前記ステージおよび前記
ステージ構造物を前記真空容器の外部へ取出すことができることを特徴とする請求項1に
記載のイオン源。
【請求項4】
前記真空容器内にステージをさらに設け、
前記ターゲット移動装置および前記高圧ボックスはステージ構造物として前記ステージに
設けられ、
前記メンテナンス開口部を開放し、このメンテナンス開口部から前記ステージおよび前記
ステージ構造物を前記真空容器の外部へ取出すことができることを特徴とする請求項2に
記載のイオン源。
【請求項5】
前記ステージを駆動することができるステージ駆動装置をさらに備え、前記メンテナン
ス開口部を開放し、前記ステージ駆動装置によって前記ステージおよび前記ステージ構造
物を前記メンテナンス開口部から前記真空容器の外部へ引き出すことができることを特徴
とする請求項3または請求項4に記載のイオン源。
【請求項6】
前記真空容器内に設けられ、前記高圧ボックスから放出されたイオンを集束する集束電
極をさらに備え、
前記加速器は、前記連通管を介してイオン導入口部から前記集束電極によって集束された
前記イオンを導入し加速することを特徴とする請求項3乃至請求項5の何れか一項に記載
のイオン源。
【請求項7】
前記集束電極を移動させることができる集束電極移動装置をさらに備え、
前記集束電極は、集束電極移動装置を介して前記真空容器内に設けられることを特徴とす
る請求項6に記載のイオン源。
【請求項8】
前記集束電極は、前記ステージ構造物として前記ステージに設けられることを特徴とす
る請求項6または請求項7に記載のイオン源。
【請求項9】
前記高圧ボックスに一端が接続され、一端から導入した前記イオンを輸送する輸送管を
さらに備え、
前記ゲートバルブによって前記連通管を開放し、前記輸送管の他端を前記加速器の前記イ
オン導入口に近接させた状態で、前記加速器は、前記高圧ボックスから放出された前記イ
オンを前記輸送管の他端を通してイオン導入口から内部に導入し加速することを特徴とす
る請求項2乃至請求項5の何れか一項に記載のイオン源。
【請求項10】
前記ステージ構造物は、前記ステージに着脱可能なボードを介して設けられることを特
徴とする請求項3乃至請求項9の何れか一項に記載のイオン源。
【請求項11】
真空容器のメンテナンス開口部を閉鎖し、前記真空容器と、加速器と、前記真空容器の
イオン取出し口と前記加速器のイオン導入口とを接続する連通管の内部を真空にする工程
と、
前記真空容器内に設けられたターゲットにレーザ光を照射しイオンを発生させる工程と、
前記イオンを前記イオン導入口から導入して前記加速器によって加速する工程と、
ゲートバルブによって前記連通管を閉鎖する工程と、
前記メンテナンス開口部を開放し、前記加速器内の真空を保ちながら前記真空容器内部の
メンテナンスを行う工程とを備えることを特徴とするイオン源の動作方法。
【請求項12】
前記真空容器内に前記ターゲット移動装置および前記ターゲットならびに前記高圧ボッ
クスを収容し、前記メンテナンス開口部を閉鎖する工程と、
前記ゲートバルブによって前記連通管を開放する工程と、
前記真空容器と、前記加速器と、前記連通管の内部を真空にする工程と、
前記ターゲットにレーザ光を照射しイオンを発生させ、前記イオンを前記イオン導入口か
ら導入して前記加速器によって加速する工程とをさらに備えることを備えることを特徴と
する請求項9に記載のイオン源の動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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