イオン源用電極及びその製造方法
【課題】 電極板と冷却管との接合性が良く、冷却効率が高く、かつ耐食性に優れ、長寿命のイオン源用電極を提供する。
【解決手段】 イオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ形成された複数の薄板1,2が重ね合わせ接合された電極本体部4と、薄板とは異なる金属材料からなり、電極本体部を一方側の端部から他方側の端部まで貫通し、さらに電極本体部の両端からそれぞれ延び出す延長部分を有する複数の冷却管3a,3b,3cと、薄板とは異なる金属材料からなり、冷却管の延長部分が内部を貫通するように電極本体部の両側にそれぞれ取り付けられ、冷却管との間隙がそれぞれシール溶接され、熱間静水圧処理により薄板と冷却管とが接合されて一体化した一対の端板7とを有する。
【解決手段】 イオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ形成された複数の薄板1,2が重ね合わせ接合された電極本体部4と、薄板とは異なる金属材料からなり、電極本体部を一方側の端部から他方側の端部まで貫通し、さらに電極本体部の両端からそれぞれ延び出す延長部分を有する複数の冷却管3a,3b,3cと、薄板とは異なる金属材料からなり、冷却管の延長部分が内部を貫通するように電極本体部の両側にそれぞれ取り付けられ、冷却管との間隙がそれぞれシール溶接され、熱間静水圧処理により薄板と冷却管とが接合されて一体化した一対の端板7とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに記載する実施の形態は、核融合装置の中性粒子入射装置やイオンミキシング装置などにイオン源として用いられるイオン源用電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核融合装置の中性粒子入射装置やイオンミキシング装置にはプラズマから高速イオンビームを生成するイオン源が用いられている。例えば核融合装置に用いられる中性粒子入射装置のイオン源においては、プラズマ生成部に水素などのガスを導入し、フィラメントを介してアーク放電を行うことによりプラズマを生成する。このプラズマ中のガスが電離したイオンを、複数の電極からなる電極列に高電圧を印加して形成した電界によってプラズマから引き出して加速する。このようにして高エネルギーを有する高速のイオンビームが発生する。イオンビームはそのままでは核融合装置のコイルの磁場によって曲げられてしまうため、ガスを満たした中性化セルを通過させてイオンとガスとの衝突反応により運動エネルギーを保存したまま中性粒子ビームに変換し、炉心プラズマに入射させる。
【0003】
上述したイオン源におけるイオン加速用の電極列は、3段または5段の電極で構成されている。各電極には多数のイオンビーム引出し孔が形成され、プラズマからイオンビームを引き出すようになっている。特にイオン源に最も近い1段目の電極は高温のイオンビームと直接接触する構造となっている。このため、電極には電極自体の熱負荷を下げ、耐久性能を向上させる冷却チャンネルが形成されている。通常、この冷却チャンネルは、効果的に冷却を果たすために多数形成されるイオンビーム引出し孔間にそれぞれ設けられる。
【0004】
図15に示すように、従来の1段目のイオン源用電極53は、耐熱性が高く線膨張係数が小さく、かつ、入手性に優れるモリブデンからなる電極板53a,53bを備えている。電極板53a,53b には多数のビーム引出し孔54が等ピッチ間隔に形成されている。また、電極板53a,53b には、これらのビーム引出し孔54に隣接して配置され、冷媒が流れる多数の冷却チャンネル55が形成されている。
【0005】
より詳しく述べると、2枚のMo電極板53a,53b のうち、一方の板53aには冷却チャンネル55を有する溝付き板を用い、他方の板53b には平坦な平板を用い、これら2枚のモリブデン板53a,53b を接合し、さらにMo電極板53a,53b を貫通する複数のビーム引出し孔54を開口形成したものである。
【0006】
ところで、上記のような構成のイオン源用電極を用いてイオンビームを引き出すとき、イオン源用電極にはイオン源用電極自体の熱負荷を下げるため冷却チャンネル45の中に冷媒である純水を通す。通常、電極板の材料として高熱負荷に耐え、かつビーム引出し孔の熱負荷による位置の精度維持のために線膨張の小さい材料、さらには入手性に優れるなどの理由からモリブデンが用いられている。このモリブデン板は、その素材が焼結金属であるために、純水などの冷却水により腐食されるという欠点がある。本願の発明者らの経験によれば、その電極として使用可能な寿命は1年ないし2年と非常に短いという知見を得ている。これらのことから、腐食しにくく、耐食性に優れ、かつ長寿命のイオン源用電極がユーザーから要望されている。
【0007】
モリブデン板の腐食対策として、モリブデン板の冷却チャネルの内周面をニッケルやセラミックでコーティングしたイオン源用電極がある。
【0008】
また、モリブデン板の腐食対策として、モリブデン板の冷却チャネル内に銅管を配置し、銅管をモリブデン板の冷却チャネル内壁にろう付けしたイオン源用電極がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−129638号公報
【特許文献2】特開平5−29093号公報
【特許文献3】特開平6−314600号公報
【特許文献4】特許第2523742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、モリブデン板の冷却チャネル内壁へのニッケルの健全なコーティングは難しく、コーティングの不健全部から腐食が進行し、冷却水の漏水事故を引き起こすおそれがある。コーティングの健全性が得難いのは、冷却水の流路になる溝の幅と深さが2mmないし3mmと非常に狭く、このような微細な溝の内部のコーティングが要求されるからである。そのコーティング方法あるいは手段として電気メッキやPVD(物理蒸着)、CVD(化学蒸着)などの最先端のコーティング技術を用いても微細な溝の内部のコーティングは難しい。また、溝の横断面形状は冷却効率を高めるために円形状よりも矩形状であることのほうが望ましく、矩形状の溝の内壁およびコーナー部分のコーティング厚みが均一かつ健全であるようにコーティングするのは非常に難しい。
【0011】
また、モリブデン板のチャネル内壁に銅管を健全にろう付けすることは非常に難しい。例えば、ろう材の量が不足すると、Mo板とCu管との間に接合不良箇所を生じて両者の密着性が悪くなり、電極の冷却効率が大きく低下する。とくにMo板に対するろう材(Ag-Cu-Ti系の銀ろう)の濡れ性が良くないことから、ある部分には十分な量のろう材が供給されている場合であっても、他の部分にはろう材が欠乏することが起こりうる。このため、Cu管がモリブデン板に健全に接合されない接合不良箇所を生ずる。この対策として、モリブデン板のチャネル内へのろう材の供給量を増量することが考えられる。しかし、ろう材の量が過剰になると、Cu管の管壁の一部がろう材の融液に溶かされてCu管に孔があき、その孔から冷却水の漏水事故を生じるおそれがある。とくにCu管は細くて薄肉(0.3mm×3.0mm)であることから、ろう付け加工時にCu管の管壁に孔があきやすい。
【0012】
本発明は、電極板と冷却管との接合性が良く、冷却効率が高く、かつ耐食性に優れ、長寿命のイオン源用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここに記載する実施の形態に係るイオン源用電極は、プラズマ中のイオンを加速させて高速のイオンビームを生成するイオン源用電極であって、イオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ形成された複数の薄板が重ね合わせ接合された電極本体部と、前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記電極本体部を一方側の端部から他方側の端部まで貫通し、さらに前記電極本体部の両端からそれぞれ延び出す延長部分を有する複数の冷却管と、前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記冷却管の延長部分が内部を貫通するように前記電極本体部の両側にそれぞれ取り付けられ、前記冷却管との間隙がそれぞれシール溶接され、熱間静水圧処理により前記薄板と冷却管とが接合されて一体化した複数の端板と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】イオン源用電極を有する中性粒子入射装置の概要を示す内部透視断面図。
【図2】実施の形態に係るイオン源用電極(ヘッダー付電極)を示す斜視図。
【図3】実施の形態に係るイオン源用電極(ヘッダー付電極)を示す外観写真。
【図4】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための模式図。
【図5】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための模式図。
【図6】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための分解斜視図。
【図7】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための断面模式図。
【図8】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための断面模式図。
【図9】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するために一部に写真を合成した内部透視断面模式図。
【図10】実施の形態に係るイオン源用電極を模式的に示す斜視図。
【図11】他の実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための模式図。
【図12】他の実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための模式図。
【図13】熱間静水圧処理後の電極サンプルの外観写真。
【図14】図13の電極サンプルに形成された各種断面形状の冷媒流路を拡大して示す断面写真。
【図15】従来のイオン源用電極の要部を拡大して示す断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここに記載する好ましい実施の形態を以下に説明する。
【0016】
(1)実施の形態に係るイオン源用電極は、プラズマ中のイオンを加速させて高速のイオンビームを生成するイオン源用電極であって、イオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ形成された複数の薄板が重ね合わせ接合された電極本体部と、前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記電極本体部を一方側の端部から他方側の端部まで貫通し、さらに前記電極本体部の両端からそれぞれ延び出す延長部分を有する複数の冷却管と、前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記冷却管の延長部分が内部を貫通するように前記電極本体部の両側にそれぞれ取り付けられ、前記冷却管との間隙がそれぞれシール溶接され、熱間静水圧処理により前記薄板と冷却管とが接合されて一体化した複数の端板と、を有することを特徴とする。
【0017】
上記の実施形態によれば、冷却管を流れる冷却水により電極本体部が直接的に冷却されるのに加えて、さらに熱伝導性に優れた端板により両側から電極本体部が間接的に冷却されるため、直接冷却と間接冷却が相俟って電極本体部の冷却効率が大幅に向上する。すなわち、冷却管と端板を同等の金属材料(銅または銅合金)としているため、冷却管と端板の密着性および接合性が高められ、端板−電極本体部−端板の間での固体熱伝導による電極本体部からの除熱効果が大幅に向上する。
【0018】
また、上記の実施形態によれば、冷却管と端板を同等の金属材料としているので、さらに冷却管と端板とのシール溶接の信頼性が高まり、冷却水の漏水事故発生率を従来に比べて大幅に低減することができる。
【0019】
(2)上記(1)の電極において、2つの薄板の対向面にそれぞれ溝を形成し、前記2つの薄板を重ね合わせて一方の溝と他方の溝とでスペースを形成し、前記スペースのなかに前記冷却管を配置した状態で熱間静水圧処理し、これにより前記2つの薄板と前記冷却管とが接合されて一体化していることが好ましい(図4〜図9)。
【0020】
上記の実施形態によれば、2つの薄板に溝をそれぞれ形成することで、薄板の各々に対して冷却管を正確に位置決めでき(図4)、冷却管と電極本体部の薄板との密着性が向上するとともに、冷却管内の流路の表面積が増加して、電極の冷却効率が大幅に向上する。
【0021】
(3)上記(2)の電極において、溝の横断面形状が矩形状または扁平状で、かつ冷却管の横断面形状が矩形状または扁平状であり、矩形状の溝により形成されるスペースに矩形状の冷却管が配置されるか、または扁平状の溝により形成されるスペースに扁平状の冷却管が配置されていることが好ましい。
【0022】
溝の形状と冷却管の形状(外形)は同じであることが好ましいが、両者の形状が必ずしも同じである必要はない。異なる形状の溝と冷却管とを組み合わせてもよい。例えば、矩形状の溝のなかに円形状の冷却管を挿入し、これを熱間静水圧処理すると、高温下の高圧力により溝の周壁と冷却管が共に変形して互いに密着し合い、最終的には流路の形状が扁平状となる。
【0023】
ここで「扁平状」とは、円形状または矩形状の冷却管が一方向に圧縮されて扁平化され、正規の形状から外れた形状のことをいう。具体的には、図14中に符号21で示した扁平円形状(歪円形状)あるいは同図中に符号22で示した扁平矩形状(歪矩形状)のような形状をここでは総称して扁平状というものとする。
【0024】
上記の実施形態によれば、冷却管の横断面形状を矩形状または扁平状とすることで、円形状の冷却管流路(冷却孔)よりも流路の表面積が増加して、電極の冷却効率が向上する。これにより電極の熱損傷に起因する故障発生率が大幅に低減され、高熱負荷機器としてのイオン源の信頼性がさらに高まる。
【0025】
(4)上記(1)〜(3)の電極において、薄板がモリブデンの焼結体からなり、冷却管および端板が銅または銅合金からなることが好ましい。
【0026】
電極本体部を構成する薄板の材料には耐熱金属であるモリブデンが適している。モリブデンは線膨張係数(25℃で5.43×10-6/℃)が小さい点でもイオン源用電極に適した材料である。しかし、モリブデンは高融点(2630℃)であるため溶製することが非常に難しく、またコスト面でもモリブデン溶製品を製造することは困難である。このため、粉末冶金法により製造されたモリブデン焼結体を用いる。しかし、粉末冶金法では厚みのある肉厚物を製造することができないので、モリブデン焼結体の厚みは3〜5mm程度である。このため、複数枚のMo薄板を積み重ねたものをイオン源用電極として用いる。なお、薄板の材料にはモリブデン以外の他の耐熱金属、例えばタンタルの焼結体を用いることも可能である。
【0027】
冷却管には純銅または銅合金が適している。純銅は純度99.99%以上の無酸素銅が好ましい。銅合金はCu-Ag系合金、Cu-Cr-Zr系合金、Cu-Ni系合金、Cu-Ni-Ag系合金、Cu-Ni-Al系合金、Cu-Ni-Zn系合金などを用いることができる。これらの銅および銅合金は、高温耐食性に優れ、かつ高熱負荷の環境でも高い信頼性を有しているからである。冷却管に純銅または銅合金を用いることにより、Mo薄板からの除熱効果が高められ、電極の冷却効率が向上する。
【0028】
(5)実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法は、プラズマ中のイオンを加速させて高速のイオンビームを生成するイオン源用電極の製造方法において、(a)複数の薄板および複数の冷却管をそれぞれ準備する際に、前記薄板と前記冷却管とが異なる金属材料からなり、前記複数の薄板にはイオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ厚さ方向に貫通しており、前記複数の冷却管には冷媒を通流させるための冷媒流路がそれぞれ形成されており、(b)前記冷却管が前記ビーム引出し孔を遮らないように一方の薄板上に前記複数の冷却管を並列に配置し、前記一方の薄板上に並列配置した複数の冷却管の主要部位が挟み込まれ、かつ前記複数の冷却管の両端側部位が前記複数の薄板から外方にそれぞれはみ出すように他方の薄板を前記一方の薄板に重ね合わせ、これにより前記複数の薄板および前記複数の冷却管を組み合わせてなる電極本体部アッセンブリを形成し、(c)前記冷却管と同じ金属材料からなる複数の端板を準備し、前記冷却管の端面と前記端板の端面とが面一になるように位置合せし、前記複数の端板が前記複数の冷却管の両端側部位を覆うように前記端板を前記電極本体部アッセンブリの両側にそれぞれ取り付け、これにより前記電極本体部アッセンブリおよび前記複数の端板を組み合わせてなる電極アッセンブリを形成し、(d)面一にされた前記冷却管と前記端板との間の間隙を真空または不活性ガスの雰囲気下でシール溶接し、(e)前記電極アッセンブリを容器内に収容し、前記容器に蓋を被せ、前記容器と蓋とを真空または不活性ガスの雰囲気下でシール溶接し、これにより前記容器と蓋とで前記電極アッセンブリを外気から遮断し、(f)前記容器に格納した電極アッセンブリを熱間静水圧処理し、これにより前記電極アッセンブリを構成する前記薄板と冷却管と端板を接合して一体化し、(g)前記容器を解体して前記容器から一体化した電極を取り出す、ことを特徴とする。
【0029】
上記の実施形態によれば、冷却管と端板を同等の金属材料(銅または銅合金)としているため、製造時において、冷却管と端板とを高品質(無欠陥)かつ容易にシール溶接することができるという利点がある。冷却管と端板とのシール溶接の信頼性を高めることで、電極の冷却効果が向上し、かつ冷却水が漏水するおそれが低減される。
【0030】
また、上記の実施形態によれば、運転時において、冷却管と同等の金属材料(銅または銅合金)の端板による電極本体部の間接的な冷却が付加されるため、冷却管内を流れる冷媒による電極本体部の直接的な冷却と相俟って、電極の冷却効率がさらに向上する。
【0031】
上記工程(f)の熱間静水圧処理では接合面同士のコンタクト(密着)の条件が重要になる。このコンタクト(密着)条件のうち保持時間は、温度、雰囲気、加圧力などの複数のパラメータによって変動する。すなわち、温度が高く、かつ加圧力が高ければ、原子の相互拡散は促進され、保持時間は短くてよい。しかし、熱間静水圧処理によるMo電極板とCu冷却管との接合では、接合を容易とする接合面の精度、たとえば、面粗さを5S以下に保つようにしたとき、機械加工後にバフ研磨が必要となり、また、その平坦度、さらには接合面の清浄度を保つためには加工中および加工後の保管にも注意が必要である。特に、イオン源用電極の総板厚は例えば約3〜10mm程度と薄いことから、電極アッセンブリの接合面全体を均等に加圧し、かつ、溝の変形を抑えながら加圧力を制御することには工夫を要する。
【0032】
また、熱間静水圧処理時の加圧力は、接合面の面粗さや接合温度で適正加圧力が決まる。温度が高い場合は加圧力を小さく設定し、温度が低い場合は加圧力を大きく設定する。また、接合面の凹凸が細かい場合は加圧力を小さく設定し、逆に接合面の凹凸が粗い場合は加圧力を大きく設定する。
【0033】
熱間静水圧処理には各種の方法があるが、そのうちの1つの方法として共晶反応を利用する拡散接合法がある。この共晶反応を利用する拡散接合法は、ワークに比較的小さい圧力を作用させればよいという利点がある。しかし、共晶反応を利用する拡散接合法を行なう際に、すべての部材を共晶反応が起こる温度域まで昇温させる必要がある。このため、接合面に平坦な面が得られず、加熱状態で接合面の密着が十分でない場合には、共晶反応は起こらず、接合面に液相が生成しないで、そこにボイド(欠陥)が発生するおそれがある。
【0034】
一方、共晶反応を利用した拡散接合によるイオン源用電極では接合を容易にする接合予定面の精度、たとえば表面の面粗さを5S以下に保つようにしたとき、機械加工後の接合予定面をバフ研磨することが必要である。さらに、こうした後工程を経た後においても、接合予定面の平坦度および清浄度を保ち続けるようにその保管に十分注意する必要がある。
【0035】
また、熱間静水圧処理において、固体間の拡散接合を生じさせるために必要な温度は、一般に、その材料の融点に対して0.7倍以上の温度あるいはその材料の再結晶温度以上とされている。また、その雰囲気は、拡散接合に必要な温度においてワークの表面酸化などが問題にならない雰囲気とする必要がある。そのため、熱間静水圧処理の雰囲気は、高真空あるいはアルゴンまたはヘリウムなどの不活性ガス雰囲気とする。
【0036】
(6)上記(5)の方法において、前記(a)工程において、第1の溝を有する第1の薄板および第2の溝を有する第2の薄板をそれぞれ準備し、前記(b)工程において、前記第1の溝と前記第2の溝とを向き合わせ、前記第1の溝と前記第2の溝とで形成されるスペースのなかに前記冷却管が配置されるように、前記第1の薄板と前記第2の薄板との間に前記冷却管を挟みこみ、これにより前記電極本体部アッセンブリを形成する、ことが好ましい(図4、図5)。
【0037】
上述したように、溝の形状と冷却管の形状(外形)は同じであることが好ましいが、両者の形状が必ずしも同じである必要はない。異なる形状の溝と冷却管とを組み合わせてもよい。矩形状の溝のなかに円形状の冷却管を挿入し、これを熱間静水圧処理すると、高温・高圧により溝の周壁と冷却管が共に変形して互いに密着し合い、最終的には冷却管の流路の形状が円形状から歪円形状(扁平状)に変わる。これにより冷却管と電極本体部の薄板との密着性が向上するとともに、冷却管内の流路の表面積が増加して、電極の冷却効率が大幅に向上する。
【0038】
(7)上記(5)の方法において、工程(d)および工程(e)のシール溶接には、真空雰囲気下で行なう電子ビーム溶接をそれぞれ用いることが望ましい。電極アッセンブリの内部間隙に存在するガスが排除され、また電極アッセンブリを格納する容器の内部に存在するガスが排除されるからである。
【0039】
これらの内部ガスが完全排除されることで、工程(f)の熱間静水圧処理において冷却管と薄板との間で金属原子の拡散が理想的に進行し、実質的に欠陥の無い健全な拡散接合部が得られるという利点がある。
【0040】
以下、添付の図面を参照して種々の好ましい実施の形態を説明する。
【0041】
先ず、本発明のイオン源用電極が利用される核融合装置の関連部分の構成について概要を説明する。図1に示すように、核融合装置に用いられる中性粒子入射装置31のイオン源32は、水素などの第1のガス33が導入されフィラメント34を有するプラズマ生成部35において、当該フィラメント34を介してアーク放電を行うことによりプラズマを生成する。そして、このプラズマ中の第1のガス33が電離したイオンを、電極列38の各電極19に高電圧をそれぞれ印加することにより形成した電界によってプラズマから引出して加速し、高エネルギーを有する高速イオンビーム40を発生するものである。
【0042】
イオンビーム40はそのままでは核融合装置のコイルの磁場によって曲げられてしまうため、第2のガスを満たした中性化セル39を通過させてイオンと第2のガスとの衝突反応により運動エネルギーを保存したまま中性粒子ビーム41に変換し、炉心プラズマ42に入射させる。
【0043】
上述したイオン源におけるイオン加速用の電極列38は、平行に離間配置された3段あるいは5段(図示しない)の電極19により構成されており、電極19に多数形成されたビーム引出し孔8を通してプラズマからイオンビームを引出すようになっており、特にイオン源に最も近い1段目の電極19は高温のイオンビーム40と直接接触する構造となっている。このため電極19は、電極自体の熱負荷を下げて耐久性能を向上させるための冷却機構を備えている。この冷却機構は、詳細については後述するが、電極全体を効果的に冷却するために、図2、図3、図10に示すようにビーム引出し孔8と干渉しないように配置された冷却管3(3a,3b,3c,…)を有する。
【0044】
(第1の実施の形態)
図2〜図10を参照して第1の実施形態を説明する。
【0045】
図10に示すように、本実施形態のイオン源用電極19は、多数のビーム引出し孔8を有する電極本体部アッセンブリ4、左右一対の端板7、および複数の冷却管3a,3b,3cを備えている。電極本体部アッセンブリ4は、図5に示すようにモリブデン焼結体からなる2枚のMo薄板1,2の間に複数の冷却管3a,3b,3cを挟み込んだ複合部品である。電極本体部アッセンブリ4の概略サイズは縦350mm×横450mm×厚さ5mmである。本実施形態では薄板1と薄板2を同じ板厚としたが、薄板1と薄板2を異なる板厚にしてもよい。
【0046】
図2と図3に示すように、プラズマからイオンビームを引き出すための多数のビーム引出し孔8が電極本体部アッセンブリ4の全面にわたって規則的に配列されている。これらのビーム引出し孔8は、図5、図6、図10に示すように電極本体部4を厚み方向(Z方向)にそれぞれ貫通している。
【0047】
左右一対の端板7は、図2、図3、図6、図10に示すように電極本体部4を両側から挟むようにそれぞれ取付けられ、多数の冷却管3(3a,3b,3c,…)に冷却水を均等に分配するためのヘッダーとして機能する部材である。一方側の端板の流路92に図示しない冷却水供給源から冷却水が供給され、冷却管3(3a,3b,3c,…)を通過した後の冷却水が他方側の端板の流路92から排出されるようになっている。
【0048】
各端板7は、無酸素銅からなる2つの端板部材5,6を重ねて接合した複合部品である。一方の端板部材5は厚肉部と薄肉部を有する階段状のブロック板である。他方の端板部材6は一様な厚みをもつ平板である。端板部材5の厚肉部には厚み方向(Z方向)に延び出して一端が開口する3つの流路92が形成されている。各流路92は、一端が図示しない冷却水供給源に連通し、他端が端板7の内部において冷却管3a,3b,3cに連通している。端板(ヘッダー)7の概略サイズは縦350mm×横50mm×薄肉部の厚さ5mm(×厚肉部の厚さ15mm)である。
【0049】
2つの端板部材5,6の対向面には横断面が半円形状の溝91がそれぞれ形成されている。図6に示すように、2つの端板部材5,6を重ね合せたときに、これら2つの溝91が組み合わされて横断面が円形状のスペースが形成される。この円形状スペースのなかに冷却管3a,3b,3cの両端側部位がそれぞれ挿入されている。すなわち、電極本体部アッセンブリ4の両側部から外方にそれぞれ突出する冷却管3a,3b,3cの延長部分が端板7の円形状スペース91のなかに挿入されている。これにより電極本体部アッセンブリ4と左右一対の端板7とが組み合わされた電極アッセンブリ10が得られるようになっている。
【0050】
冷却管3a,3b,3cは、それぞれがY軸方向にほぼ平行に延び出し、電極本体部アッセンブリ4を端部から端部まで貫通し、さらに両端側部位の各々が左右一対の端板7の外側端面の近傍まで到達し、各端板7の内部において流路92にそれぞれ連通している。各冷却管3a,3b,3cは、無酸素銅からなる継目無し管である。各冷却管3a,3b,3cの概略サイズは外径3.0mm×厚さ0.5mmである。これらの冷却管3a,3b,3cは、図5に示すように電極本体部アッセンブリ4においてビーム引出し孔8と干渉しないような位置にそれぞれ組み込まれている。すなわち、冷却管3a,3b,3cは、ビーム引出し孔8を横切らないように電極本体部アッセンブリ4のなかに配置されている。
【0051】
次に、図4〜図10を参照して本実施形態のイオン源用電極を製造する方法について説明する。
【0052】
先ず図4に示す溝付きのMo薄板1,2と複数本のCu冷却管3a,3b,3cをそれぞれ準備する。溝付きのMo薄板1,2は、板厚3〜5mm程度のモリブデン焼結板を機械切削加工したものである。すなわち、Mo薄板1,2の主面に冷却管3a,3b,3cの数と同数の溝9が機械切削加工により形成されている。これら複数の溝9は、Mo薄板1,2の主面においてY軸方向に平行かつ所定ピッチ間隔に配列されている。また、Cu冷却管3a,3b,3cは、所定長に切り揃えられた外径2〜5mmの無酸素銅継目無し管である。
【0053】
さらに、端板7を構成する端板部材5,6をそれぞれ準備する。一方の端板部材5は、無酸素銅からなる厚肉部と薄肉部を有する階段状のCuブロック板である。他方の端板部材6は、無酸素銅からなる一様な板厚の平坦なCu平板である。これらのCu端板部材5,6には、冷却管3a,3b,3cが挿入される半円形状の溝91が機械切削加工またはプレス成形加工によりそれぞれ形成されている。
【0054】
これらのMo薄板1,2、Cu冷却管3a,3b,3cおよびCu端板部材5,6を熱間静水圧処理により接合して一体化する前に、各部材1,2,3a,3b,3c,5,6の接合予定面を所望の表面粗さにそれぞれ仕上げる。各部材1,2,3a,3b,3c,5,6の接合予定面の表面粗さの仕上げには、サンドペーパー研磨、バフ研磨、化学薬液と硬質微粒子を組合せた研磨法などを用いることができる。例えばバフ研磨により仕上げる場合は、接合予定面の表面粗さを5S以下に保つようにする。
【0055】
溝付きMo薄板1,2のXY平面視野において、全ての溝9はビーム引出し孔8と交差しないように形成されている。一方の薄板2の溝9のなかに冷却管3a,3b,3cの主要部位(中央の部分)が位置し、かつ冷却管3a,3b,3cの両端側部位が該薄板から外方にそれぞれはみ出すように冷却管3a,3b,3cをそれぞれ配置する。次いで、対向面の溝9が冷却管3a,3b,3cにそれぞれ1対1に対応するように、他方の薄板1を一方の薄板2の上に重ね合わせる。その結果として、溝付きMo薄板1,2の両溝9で形成されるスペースのなかに冷却管3a,3b,3cが配置されることになる。すなわち、冷却管3a,3b,3cの主要部位は薄板1,2の間に挟みこまれ、冷却管3a,3b,3cの両端側部位は薄板1,2から外方にそれぞれはみ出している。このようにして薄板1,2と冷却管3a,3b,3cとからなる電極本体部アッセンブリ4を組み立てた。
【0056】
次いで、冷却管3a,3b,3cの端面と2組の端板部材5,6の端面とがそれぞれ面一になるように位置合せし、端板部材5,6が冷却管3a,3b,3cの両端側部位をそれぞれ覆うように端板部材5,6を電極本体部アッセンブリ4の両側にそれぞれ取り付けた。これにより電極本体部アッセンブリ4および複数の端板部材5,6を組み合わせてなる電極アッセンブリ10を形成した。
【0057】
次いで、面一にされた冷却管3a,3b,3cと端板部材5,6との間の間隙を真空または不活性ガスの雰囲気下でシール溶接する。本実施形態で採用する熱間静水圧処理法は、高温中で高圧のガス圧を接合予定面に印加する方法である。熱間静水圧処理において、薄板1,2、端板部材5,6および冷却管3a,3b,3cを健全に拡散接合する(ボイドを発生させない)ためには、構成部品の接合予定面にガスが侵入しないように、部品相互間の間隙を予めシール溶接で塞ぐ必要がある。具体的には、薄板1,2、端板部材5,6および冷却管3a,3b,3cを用いて図6に示す電極アッセンブリ10を組み立てた後に、面一にされた冷却管3a,3b,3cの管端と端板7の端面との間に生じる間隙をシール溶接して塞ぐ。このシール溶接には電子ビーム溶接を採用した。とくに冷却管3a,3b,3cの肉厚は0.5mmと薄いために溶接には細心の注意を払って行い、電子ビーム溶接のビーム電流などの制御を確実に行い、欠陥のない健全なシール溶接を行う必要がある。電子ビーム溶接は接合容器内の空気を脱気するために真空排気を30分以上行った後、冷却管3a,3b,3cの管端と端板7の端面との間の間隙を塞ぐシール溶接を行った。
【0058】
本実施形態では、端板部材5,6を冷却管3a,3b,3cと同等の金属材料(無酸素銅)としているため、冷却管3a,3b,3cと端板部材5,6とを無欠陥で高品質にシール溶接することができ、冷却管3a,3b,3cと端板部材5,6とのシール溶接の信頼性が高まるという利点がある。シール溶接部27の気密性・シール性は、溶接ビード外観検査や蛍光探傷試験により評価した。また、必要に応じてヘリウムリーク試験を実施して、シール溶接部27の気密性・シール性を評価した。
【0059】
次いで、図7に示すように、シール溶接部27を有する電極アッセンブリ10を容器11内に収納し、容器11に上蓋12を被せる。そして、図8に示すように、容器11と上蓋12とをシール溶接し、電極アッセンブリ10をシール溶接部28を有する蓋付き容器11内に完全密封する。なお、容器11と蓋12の材料には溶接性と入手性に優れるステンレス鋼板(SUS304など)を用いた。このシール溶接にも電子ビーム溶接を採用した。電子ビーム溶接は、容器11内の空気を完全に脱気するために、真空排気を30分間以上行った後、シール溶接を行った。なお、容器のシール溶接部28の気密性・シール性は、上記と同様に溶接ビード外観検査や蛍光探傷試験、あるいは必要に応じてヘリウムリーク試験を用いて評価した。冷却管3a,3b,3cと端板部材5,6とを電子ビーム溶接したシール溶接部27の外観の一例を図9に示す。
【0060】
このようにして作製した容器格納電極アッセンブリ18を図9に示す熱間静水圧処理装置13のなかに装入し、第1バルブV1を開けて真空ポンプ14を起動し、装置13の内部を真空排気した。装置13内の真空度が10-2パスカル程度に到達したところで、真空ポンプ14を停止させ、第1バルブV1を閉じて脱気を完了する。
【0061】
次いで、第2バルブV2を開けて高圧ポンプ15を起動し、装置13のなかに高圧のアルゴンガスを充填した。まず初期圧の設定値とした10メガパスカル程度まで昇圧した。次いで、装置内の加熱ヒータ16をONにして昇温を開始した。昇温と共に装置13内のガス圧力が上昇し、高圧ポンプ15の駆動と停止を繰り返した。これにより、熱間静水圧処理の接合条件である温度900℃で、ガス圧力147メガパスカルまで加圧し、この状態を2時間保持した。なお、図中の矢印17は、ガス圧力の方向を示したものであるが、容器格納電極アッセンブリ18を等方圧で全体加圧することができる。その後、加熱ヒータ16をOFFにし、高圧ポンプ15を停止させ、第2バルブV2を閉じ、別のバルブ(図示せず)を開け、装置13内の高圧力のガス放出と共に放出されたガス回収などを行いながら、常温・常圧まで冷却、降圧させた。
【0062】
このようにして密封容器11,12に格納した電極アッセンブリ18を熱間静水圧処理し、Mo薄板1,2とCu冷却管3a,3b,3cとCu端板部材5,6とを固相接合(溶融しないで接合する方法)により一体化した。特に冷却管3a,3b,3cの内部にも高温・高圧のガスにより、薄板1、2および端板部材5,6に設けた溝内に配置された冷却管の外周と薄板1、2および端板部材5,6の溝内面は高温・高圧のガス圧により拡散接合されることで、強固で健全な接合・一体化物が得られる。
【0063】
熱間静水圧処理装置13内の圧力、温度がそれぞれ大気圧と常温に近い状態になった後に、装置13から容器格納電極19を取り出した。密封容器11,12を解体し、容器11のなかから一体化した電極19を取り出した。取り出した電極19のシール溶接部27を機械切削により除去し、Mo薄板1,2およびCu端板部材5,6を所定の形状に機械加工する。
【0064】
次いで、図10に示すように、円形状の銅板からなる盲板29を冷却管3a,3b,3cの両端にそれぞれ溶接し、すべての冷却管3a,3b,3cの両端開口をCu盲板29で塞ぐ。さらに端板7の流路92の開口からドリル刃を挿入し、冷却管3a,3b,3cの外周壁を穿孔し、冷却管3a,3b,3cの流路を端板7の流路92にそれぞれ連通させる。
【0065】
以上のようにして、高熱負荷対応のイオン源用電極を得ることができた。
【0066】
本実施形態においては、熱間静水圧処理によるために、高温・高圧の圧力媒体のガスを用いて、適正な形で加圧するかであり、そのためにはMo薄板1,2、Cu端板部材5,6およびCu冷却管3a,3b,3cの接合面にガスが進入しないようにシール溶接が重要である。薄板1、2および端板部材5,6の半割れの構造は圧力媒体のガスが加わるように接合容器(キャニング)に入れてシール溶接する。また、冷却管3a,3b,3cと端板部材5,6のシール溶接も同様に、本実施形態ではシール溶接の組合せは、いずれも冷却管3a,3b,3cとシール溶接が可能な同種の材料を選択することで、そのシール溶接の健全性を高めた。したがって、熱間静水圧処理によるモリブデン電極を構成する薄板1,2、端板部材5,6および冷却管3a,3b,3cの接合・一体化することを実現できた。
【0067】
また、本実施形態のイオン源用電極は、端板部材5,6は、Cu冷却管3a,3b,3cに冷却水を供給するヘッダーとしての機能を有するため、これらを熱伝導性に優れた銅で構成することにより、Cu冷却管3a,3b,3c内を流れる冷却水との間での熱交換が迅速になり、電極の冷却効率がさらに向上する。さらに、Cu端板7による電極本体部アッセンブリ4の間接的な冷却が付加されるため、Cu冷却管3a,3b,3c内を流れる冷却水による電極本体部アッセンブリ4の直接的な冷却と相俟って、電極の冷却効率がさらに向上する。
【0068】
(第2の実施の形態)
次に、図11と図12を参照して第2の実施の形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0069】
第2の実施形態に係るイオン源用電極では、Mo薄板1A,2Aに断面矩形状の溝9Aをそれぞれ形成し、これら断面矩形状の溝9Aのスペース内に断面円形状のCu冷却管3a,3b,3cの主要部をそれぞれ配置し、電極本体部4Aを形成した。さらに、電極本体部4Aの両側に端板部材5,6をそれぞれ取り付け、電極アッセンブリを形成し、上記第1の実施形態と同様にCu冷却管3a,3b,3cの管端とCu端板7の端面とをそれぞれシール溶接した。このようにして形成した電極アッセンブリを熱間静水圧処理により接合・一体化することで、Cu冷却管3a,3b,3cは、Mo薄板1A,2Aの矩形状溝9Aに倣った断面形状となる。
【0070】
このような方法で製作した矩形状の冷却管および冷却溝の断面形状を、一実施例としてその断面写真を図14に示す。図14に示す断面形状の冷却流路20,21,22の形状は、冷却溝形状をそれぞれ変えたもので、本実施形態の製造方法の検証試験の一実施例サンプルであり、これらの形状のみに制約されるものではない。図14には長辺、短辺が同じ寸法の矩形状の実施例を示すが、短辺および長辺が異なるいわゆる長方形の断面でも本実施例の方法においては同様の冷却溝の断面形状は得られる。したがって、その作用および効果も同様で、かつ長方形の形状特有の水平面の除熱を高める効果も期待できる。具体的には、冷却流路20は断面正方形状の溝に断面正方形状の冷却管を装入して熱間静水圧処理したもの(第1の実施形態)、冷却流路21は断面正方形状の溝に断面円形状の冷却管を装入して熱間静水圧処理したもの(第2の実施形態;扁平円形状流路)、冷却流路22は断面矩形状の溝に断面正方形状の冷却管を装入して熱間静水圧処理したもの(扁平矩形状流路)である。
【0071】
上記の実施形態によれば、冷却管の横断面形状を矩形状または扁平状とすることで、円形状の冷却管流路(冷却孔)よりも流路の表面積が増加して、冷却能がさらに高まる。このため、高熱負荷としての機器および機能性が向上し、電極に起因する故障発生率が大幅に低減され、機器の信頼性がさらに高まる。
【0072】
ここに記載する実施の形態のイオン源用電極によれば、イオンビーム照射時のビームの熱をMo電極から確実に除去し、高熱負荷の機器であるが、熱ひずみや熱変形を最小にすることで、長寿命、耐久性に優れた信頼性の高いものとなる。このようなイオン源用電極は国内外の大型プロジェクトで進められている核融合装置のプラズマ実験などに大いに寄与するものである。
【符号の説明】
【0073】
1,1A,2,2A…薄板(焼結金属Mo板)、3a,3b,3c…冷却管(Cu管)、
4,4A…電極本体部アッセンブリ、
5,6…端板部材、7…端板(ヘッダー)、8…ビーム引出し孔、
9,9A, 91…溝、92…冷媒流路、
10…電極アッセンブリ、11…容器、12…蓋、
13…熱間静水圧処理装置、14…真空ポンプ、15…高圧ポンプ、16…加熱ヒータ、17…加圧ガス、
18…容器格納電極アッセンブリ、
19…イオン源用電極(一体化した電極)、
20,21,22…HIP接合後の冷却流路、
23a,23b,23c…冷却管、27,28…シール溶接部、
31…中性粒子入射装置、32…イオン源、33…ガス、34…フィラメント、35…プラズマ生成部、37…高電圧電源、38…加速部(加速電極列)、39…中性化セル、40…イオンビーム、41…中性粒子ビーム、42…炉心プラズマ。
【技術分野】
【0001】
ここに記載する実施の形態は、核融合装置の中性粒子入射装置やイオンミキシング装置などにイオン源として用いられるイオン源用電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核融合装置の中性粒子入射装置やイオンミキシング装置にはプラズマから高速イオンビームを生成するイオン源が用いられている。例えば核融合装置に用いられる中性粒子入射装置のイオン源においては、プラズマ生成部に水素などのガスを導入し、フィラメントを介してアーク放電を行うことによりプラズマを生成する。このプラズマ中のガスが電離したイオンを、複数の電極からなる電極列に高電圧を印加して形成した電界によってプラズマから引き出して加速する。このようにして高エネルギーを有する高速のイオンビームが発生する。イオンビームはそのままでは核融合装置のコイルの磁場によって曲げられてしまうため、ガスを満たした中性化セルを通過させてイオンとガスとの衝突反応により運動エネルギーを保存したまま中性粒子ビームに変換し、炉心プラズマに入射させる。
【0003】
上述したイオン源におけるイオン加速用の電極列は、3段または5段の電極で構成されている。各電極には多数のイオンビーム引出し孔が形成され、プラズマからイオンビームを引き出すようになっている。特にイオン源に最も近い1段目の電極は高温のイオンビームと直接接触する構造となっている。このため、電極には電極自体の熱負荷を下げ、耐久性能を向上させる冷却チャンネルが形成されている。通常、この冷却チャンネルは、効果的に冷却を果たすために多数形成されるイオンビーム引出し孔間にそれぞれ設けられる。
【0004】
図15に示すように、従来の1段目のイオン源用電極53は、耐熱性が高く線膨張係数が小さく、かつ、入手性に優れるモリブデンからなる電極板53a,53bを備えている。電極板53a,53b には多数のビーム引出し孔54が等ピッチ間隔に形成されている。また、電極板53a,53b には、これらのビーム引出し孔54に隣接して配置され、冷媒が流れる多数の冷却チャンネル55が形成されている。
【0005】
より詳しく述べると、2枚のMo電極板53a,53b のうち、一方の板53aには冷却チャンネル55を有する溝付き板を用い、他方の板53b には平坦な平板を用い、これら2枚のモリブデン板53a,53b を接合し、さらにMo電極板53a,53b を貫通する複数のビーム引出し孔54を開口形成したものである。
【0006】
ところで、上記のような構成のイオン源用電極を用いてイオンビームを引き出すとき、イオン源用電極にはイオン源用電極自体の熱負荷を下げるため冷却チャンネル45の中に冷媒である純水を通す。通常、電極板の材料として高熱負荷に耐え、かつビーム引出し孔の熱負荷による位置の精度維持のために線膨張の小さい材料、さらには入手性に優れるなどの理由からモリブデンが用いられている。このモリブデン板は、その素材が焼結金属であるために、純水などの冷却水により腐食されるという欠点がある。本願の発明者らの経験によれば、その電極として使用可能な寿命は1年ないし2年と非常に短いという知見を得ている。これらのことから、腐食しにくく、耐食性に優れ、かつ長寿命のイオン源用電極がユーザーから要望されている。
【0007】
モリブデン板の腐食対策として、モリブデン板の冷却チャネルの内周面をニッケルやセラミックでコーティングしたイオン源用電極がある。
【0008】
また、モリブデン板の腐食対策として、モリブデン板の冷却チャネル内に銅管を配置し、銅管をモリブデン板の冷却チャネル内壁にろう付けしたイオン源用電極がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平3−129638号公報
【特許文献2】特開平5−29093号公報
【特許文献3】特開平6−314600号公報
【特許文献4】特許第2523742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、モリブデン板の冷却チャネル内壁へのニッケルの健全なコーティングは難しく、コーティングの不健全部から腐食が進行し、冷却水の漏水事故を引き起こすおそれがある。コーティングの健全性が得難いのは、冷却水の流路になる溝の幅と深さが2mmないし3mmと非常に狭く、このような微細な溝の内部のコーティングが要求されるからである。そのコーティング方法あるいは手段として電気メッキやPVD(物理蒸着)、CVD(化学蒸着)などの最先端のコーティング技術を用いても微細な溝の内部のコーティングは難しい。また、溝の横断面形状は冷却効率を高めるために円形状よりも矩形状であることのほうが望ましく、矩形状の溝の内壁およびコーナー部分のコーティング厚みが均一かつ健全であるようにコーティングするのは非常に難しい。
【0011】
また、モリブデン板のチャネル内壁に銅管を健全にろう付けすることは非常に難しい。例えば、ろう材の量が不足すると、Mo板とCu管との間に接合不良箇所を生じて両者の密着性が悪くなり、電極の冷却効率が大きく低下する。とくにMo板に対するろう材(Ag-Cu-Ti系の銀ろう)の濡れ性が良くないことから、ある部分には十分な量のろう材が供給されている場合であっても、他の部分にはろう材が欠乏することが起こりうる。このため、Cu管がモリブデン板に健全に接合されない接合不良箇所を生ずる。この対策として、モリブデン板のチャネル内へのろう材の供給量を増量することが考えられる。しかし、ろう材の量が過剰になると、Cu管の管壁の一部がろう材の融液に溶かされてCu管に孔があき、その孔から冷却水の漏水事故を生じるおそれがある。とくにCu管は細くて薄肉(0.3mm×3.0mm)であることから、ろう付け加工時にCu管の管壁に孔があきやすい。
【0012】
本発明は、電極板と冷却管との接合性が良く、冷却効率が高く、かつ耐食性に優れ、長寿命のイオン源用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここに記載する実施の形態に係るイオン源用電極は、プラズマ中のイオンを加速させて高速のイオンビームを生成するイオン源用電極であって、イオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ形成された複数の薄板が重ね合わせ接合された電極本体部と、前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記電極本体部を一方側の端部から他方側の端部まで貫通し、さらに前記電極本体部の両端からそれぞれ延び出す延長部分を有する複数の冷却管と、前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記冷却管の延長部分が内部を貫通するように前記電極本体部の両側にそれぞれ取り付けられ、前記冷却管との間隙がそれぞれシール溶接され、熱間静水圧処理により前記薄板と冷却管とが接合されて一体化した複数の端板と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】イオン源用電極を有する中性粒子入射装置の概要を示す内部透視断面図。
【図2】実施の形態に係るイオン源用電極(ヘッダー付電極)を示す斜視図。
【図3】実施の形態に係るイオン源用電極(ヘッダー付電極)を示す外観写真。
【図4】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための模式図。
【図5】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための模式図。
【図6】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための分解斜視図。
【図7】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための断面模式図。
【図8】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための断面模式図。
【図9】実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するために一部に写真を合成した内部透視断面模式図。
【図10】実施の形態に係るイオン源用電極を模式的に示す斜視図。
【図11】他の実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための模式図。
【図12】他の実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法を説明するための模式図。
【図13】熱間静水圧処理後の電極サンプルの外観写真。
【図14】図13の電極サンプルに形成された各種断面形状の冷媒流路を拡大して示す断面写真。
【図15】従来のイオン源用電極の要部を拡大して示す断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここに記載する好ましい実施の形態を以下に説明する。
【0016】
(1)実施の形態に係るイオン源用電極は、プラズマ中のイオンを加速させて高速のイオンビームを生成するイオン源用電極であって、イオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ形成された複数の薄板が重ね合わせ接合された電極本体部と、前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記電極本体部を一方側の端部から他方側の端部まで貫通し、さらに前記電極本体部の両端からそれぞれ延び出す延長部分を有する複数の冷却管と、前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記冷却管の延長部分が内部を貫通するように前記電極本体部の両側にそれぞれ取り付けられ、前記冷却管との間隙がそれぞれシール溶接され、熱間静水圧処理により前記薄板と冷却管とが接合されて一体化した複数の端板と、を有することを特徴とする。
【0017】
上記の実施形態によれば、冷却管を流れる冷却水により電極本体部が直接的に冷却されるのに加えて、さらに熱伝導性に優れた端板により両側から電極本体部が間接的に冷却されるため、直接冷却と間接冷却が相俟って電極本体部の冷却効率が大幅に向上する。すなわち、冷却管と端板を同等の金属材料(銅または銅合金)としているため、冷却管と端板の密着性および接合性が高められ、端板−電極本体部−端板の間での固体熱伝導による電極本体部からの除熱効果が大幅に向上する。
【0018】
また、上記の実施形態によれば、冷却管と端板を同等の金属材料としているので、さらに冷却管と端板とのシール溶接の信頼性が高まり、冷却水の漏水事故発生率を従来に比べて大幅に低減することができる。
【0019】
(2)上記(1)の電極において、2つの薄板の対向面にそれぞれ溝を形成し、前記2つの薄板を重ね合わせて一方の溝と他方の溝とでスペースを形成し、前記スペースのなかに前記冷却管を配置した状態で熱間静水圧処理し、これにより前記2つの薄板と前記冷却管とが接合されて一体化していることが好ましい(図4〜図9)。
【0020】
上記の実施形態によれば、2つの薄板に溝をそれぞれ形成することで、薄板の各々に対して冷却管を正確に位置決めでき(図4)、冷却管と電極本体部の薄板との密着性が向上するとともに、冷却管内の流路の表面積が増加して、電極の冷却効率が大幅に向上する。
【0021】
(3)上記(2)の電極において、溝の横断面形状が矩形状または扁平状で、かつ冷却管の横断面形状が矩形状または扁平状であり、矩形状の溝により形成されるスペースに矩形状の冷却管が配置されるか、または扁平状の溝により形成されるスペースに扁平状の冷却管が配置されていることが好ましい。
【0022】
溝の形状と冷却管の形状(外形)は同じであることが好ましいが、両者の形状が必ずしも同じである必要はない。異なる形状の溝と冷却管とを組み合わせてもよい。例えば、矩形状の溝のなかに円形状の冷却管を挿入し、これを熱間静水圧処理すると、高温下の高圧力により溝の周壁と冷却管が共に変形して互いに密着し合い、最終的には流路の形状が扁平状となる。
【0023】
ここで「扁平状」とは、円形状または矩形状の冷却管が一方向に圧縮されて扁平化され、正規の形状から外れた形状のことをいう。具体的には、図14中に符号21で示した扁平円形状(歪円形状)あるいは同図中に符号22で示した扁平矩形状(歪矩形状)のような形状をここでは総称して扁平状というものとする。
【0024】
上記の実施形態によれば、冷却管の横断面形状を矩形状または扁平状とすることで、円形状の冷却管流路(冷却孔)よりも流路の表面積が増加して、電極の冷却効率が向上する。これにより電極の熱損傷に起因する故障発生率が大幅に低減され、高熱負荷機器としてのイオン源の信頼性がさらに高まる。
【0025】
(4)上記(1)〜(3)の電極において、薄板がモリブデンの焼結体からなり、冷却管および端板が銅または銅合金からなることが好ましい。
【0026】
電極本体部を構成する薄板の材料には耐熱金属であるモリブデンが適している。モリブデンは線膨張係数(25℃で5.43×10-6/℃)が小さい点でもイオン源用電極に適した材料である。しかし、モリブデンは高融点(2630℃)であるため溶製することが非常に難しく、またコスト面でもモリブデン溶製品を製造することは困難である。このため、粉末冶金法により製造されたモリブデン焼結体を用いる。しかし、粉末冶金法では厚みのある肉厚物を製造することができないので、モリブデン焼結体の厚みは3〜5mm程度である。このため、複数枚のMo薄板を積み重ねたものをイオン源用電極として用いる。なお、薄板の材料にはモリブデン以外の他の耐熱金属、例えばタンタルの焼結体を用いることも可能である。
【0027】
冷却管には純銅または銅合金が適している。純銅は純度99.99%以上の無酸素銅が好ましい。銅合金はCu-Ag系合金、Cu-Cr-Zr系合金、Cu-Ni系合金、Cu-Ni-Ag系合金、Cu-Ni-Al系合金、Cu-Ni-Zn系合金などを用いることができる。これらの銅および銅合金は、高温耐食性に優れ、かつ高熱負荷の環境でも高い信頼性を有しているからである。冷却管に純銅または銅合金を用いることにより、Mo薄板からの除熱効果が高められ、電極の冷却効率が向上する。
【0028】
(5)実施の形態に係るイオン源用電極の製造方法は、プラズマ中のイオンを加速させて高速のイオンビームを生成するイオン源用電極の製造方法において、(a)複数の薄板および複数の冷却管をそれぞれ準備する際に、前記薄板と前記冷却管とが異なる金属材料からなり、前記複数の薄板にはイオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ厚さ方向に貫通しており、前記複数の冷却管には冷媒を通流させるための冷媒流路がそれぞれ形成されており、(b)前記冷却管が前記ビーム引出し孔を遮らないように一方の薄板上に前記複数の冷却管を並列に配置し、前記一方の薄板上に並列配置した複数の冷却管の主要部位が挟み込まれ、かつ前記複数の冷却管の両端側部位が前記複数の薄板から外方にそれぞれはみ出すように他方の薄板を前記一方の薄板に重ね合わせ、これにより前記複数の薄板および前記複数の冷却管を組み合わせてなる電極本体部アッセンブリを形成し、(c)前記冷却管と同じ金属材料からなる複数の端板を準備し、前記冷却管の端面と前記端板の端面とが面一になるように位置合せし、前記複数の端板が前記複数の冷却管の両端側部位を覆うように前記端板を前記電極本体部アッセンブリの両側にそれぞれ取り付け、これにより前記電極本体部アッセンブリおよび前記複数の端板を組み合わせてなる電極アッセンブリを形成し、(d)面一にされた前記冷却管と前記端板との間の間隙を真空または不活性ガスの雰囲気下でシール溶接し、(e)前記電極アッセンブリを容器内に収容し、前記容器に蓋を被せ、前記容器と蓋とを真空または不活性ガスの雰囲気下でシール溶接し、これにより前記容器と蓋とで前記電極アッセンブリを外気から遮断し、(f)前記容器に格納した電極アッセンブリを熱間静水圧処理し、これにより前記電極アッセンブリを構成する前記薄板と冷却管と端板を接合して一体化し、(g)前記容器を解体して前記容器から一体化した電極を取り出す、ことを特徴とする。
【0029】
上記の実施形態によれば、冷却管と端板を同等の金属材料(銅または銅合金)としているため、製造時において、冷却管と端板とを高品質(無欠陥)かつ容易にシール溶接することができるという利点がある。冷却管と端板とのシール溶接の信頼性を高めることで、電極の冷却効果が向上し、かつ冷却水が漏水するおそれが低減される。
【0030】
また、上記の実施形態によれば、運転時において、冷却管と同等の金属材料(銅または銅合金)の端板による電極本体部の間接的な冷却が付加されるため、冷却管内を流れる冷媒による電極本体部の直接的な冷却と相俟って、電極の冷却効率がさらに向上する。
【0031】
上記工程(f)の熱間静水圧処理では接合面同士のコンタクト(密着)の条件が重要になる。このコンタクト(密着)条件のうち保持時間は、温度、雰囲気、加圧力などの複数のパラメータによって変動する。すなわち、温度が高く、かつ加圧力が高ければ、原子の相互拡散は促進され、保持時間は短くてよい。しかし、熱間静水圧処理によるMo電極板とCu冷却管との接合では、接合を容易とする接合面の精度、たとえば、面粗さを5S以下に保つようにしたとき、機械加工後にバフ研磨が必要となり、また、その平坦度、さらには接合面の清浄度を保つためには加工中および加工後の保管にも注意が必要である。特に、イオン源用電極の総板厚は例えば約3〜10mm程度と薄いことから、電極アッセンブリの接合面全体を均等に加圧し、かつ、溝の変形を抑えながら加圧力を制御することには工夫を要する。
【0032】
また、熱間静水圧処理時の加圧力は、接合面の面粗さや接合温度で適正加圧力が決まる。温度が高い場合は加圧力を小さく設定し、温度が低い場合は加圧力を大きく設定する。また、接合面の凹凸が細かい場合は加圧力を小さく設定し、逆に接合面の凹凸が粗い場合は加圧力を大きく設定する。
【0033】
熱間静水圧処理には各種の方法があるが、そのうちの1つの方法として共晶反応を利用する拡散接合法がある。この共晶反応を利用する拡散接合法は、ワークに比較的小さい圧力を作用させればよいという利点がある。しかし、共晶反応を利用する拡散接合法を行なう際に、すべての部材を共晶反応が起こる温度域まで昇温させる必要がある。このため、接合面に平坦な面が得られず、加熱状態で接合面の密着が十分でない場合には、共晶反応は起こらず、接合面に液相が生成しないで、そこにボイド(欠陥)が発生するおそれがある。
【0034】
一方、共晶反応を利用した拡散接合によるイオン源用電極では接合を容易にする接合予定面の精度、たとえば表面の面粗さを5S以下に保つようにしたとき、機械加工後の接合予定面をバフ研磨することが必要である。さらに、こうした後工程を経た後においても、接合予定面の平坦度および清浄度を保ち続けるようにその保管に十分注意する必要がある。
【0035】
また、熱間静水圧処理において、固体間の拡散接合を生じさせるために必要な温度は、一般に、その材料の融点に対して0.7倍以上の温度あるいはその材料の再結晶温度以上とされている。また、その雰囲気は、拡散接合に必要な温度においてワークの表面酸化などが問題にならない雰囲気とする必要がある。そのため、熱間静水圧処理の雰囲気は、高真空あるいはアルゴンまたはヘリウムなどの不活性ガス雰囲気とする。
【0036】
(6)上記(5)の方法において、前記(a)工程において、第1の溝を有する第1の薄板および第2の溝を有する第2の薄板をそれぞれ準備し、前記(b)工程において、前記第1の溝と前記第2の溝とを向き合わせ、前記第1の溝と前記第2の溝とで形成されるスペースのなかに前記冷却管が配置されるように、前記第1の薄板と前記第2の薄板との間に前記冷却管を挟みこみ、これにより前記電極本体部アッセンブリを形成する、ことが好ましい(図4、図5)。
【0037】
上述したように、溝の形状と冷却管の形状(外形)は同じであることが好ましいが、両者の形状が必ずしも同じである必要はない。異なる形状の溝と冷却管とを組み合わせてもよい。矩形状の溝のなかに円形状の冷却管を挿入し、これを熱間静水圧処理すると、高温・高圧により溝の周壁と冷却管が共に変形して互いに密着し合い、最終的には冷却管の流路の形状が円形状から歪円形状(扁平状)に変わる。これにより冷却管と電極本体部の薄板との密着性が向上するとともに、冷却管内の流路の表面積が増加して、電極の冷却効率が大幅に向上する。
【0038】
(7)上記(5)の方法において、工程(d)および工程(e)のシール溶接には、真空雰囲気下で行なう電子ビーム溶接をそれぞれ用いることが望ましい。電極アッセンブリの内部間隙に存在するガスが排除され、また電極アッセンブリを格納する容器の内部に存在するガスが排除されるからである。
【0039】
これらの内部ガスが完全排除されることで、工程(f)の熱間静水圧処理において冷却管と薄板との間で金属原子の拡散が理想的に進行し、実質的に欠陥の無い健全な拡散接合部が得られるという利点がある。
【0040】
以下、添付の図面を参照して種々の好ましい実施の形態を説明する。
【0041】
先ず、本発明のイオン源用電極が利用される核融合装置の関連部分の構成について概要を説明する。図1に示すように、核融合装置に用いられる中性粒子入射装置31のイオン源32は、水素などの第1のガス33が導入されフィラメント34を有するプラズマ生成部35において、当該フィラメント34を介してアーク放電を行うことによりプラズマを生成する。そして、このプラズマ中の第1のガス33が電離したイオンを、電極列38の各電極19に高電圧をそれぞれ印加することにより形成した電界によってプラズマから引出して加速し、高エネルギーを有する高速イオンビーム40を発生するものである。
【0042】
イオンビーム40はそのままでは核融合装置のコイルの磁場によって曲げられてしまうため、第2のガスを満たした中性化セル39を通過させてイオンと第2のガスとの衝突反応により運動エネルギーを保存したまま中性粒子ビーム41に変換し、炉心プラズマ42に入射させる。
【0043】
上述したイオン源におけるイオン加速用の電極列38は、平行に離間配置された3段あるいは5段(図示しない)の電極19により構成されており、電極19に多数形成されたビーム引出し孔8を通してプラズマからイオンビームを引出すようになっており、特にイオン源に最も近い1段目の電極19は高温のイオンビーム40と直接接触する構造となっている。このため電極19は、電極自体の熱負荷を下げて耐久性能を向上させるための冷却機構を備えている。この冷却機構は、詳細については後述するが、電極全体を効果的に冷却するために、図2、図3、図10に示すようにビーム引出し孔8と干渉しないように配置された冷却管3(3a,3b,3c,…)を有する。
【0044】
(第1の実施の形態)
図2〜図10を参照して第1の実施形態を説明する。
【0045】
図10に示すように、本実施形態のイオン源用電極19は、多数のビーム引出し孔8を有する電極本体部アッセンブリ4、左右一対の端板7、および複数の冷却管3a,3b,3cを備えている。電極本体部アッセンブリ4は、図5に示すようにモリブデン焼結体からなる2枚のMo薄板1,2の間に複数の冷却管3a,3b,3cを挟み込んだ複合部品である。電極本体部アッセンブリ4の概略サイズは縦350mm×横450mm×厚さ5mmである。本実施形態では薄板1と薄板2を同じ板厚としたが、薄板1と薄板2を異なる板厚にしてもよい。
【0046】
図2と図3に示すように、プラズマからイオンビームを引き出すための多数のビーム引出し孔8が電極本体部アッセンブリ4の全面にわたって規則的に配列されている。これらのビーム引出し孔8は、図5、図6、図10に示すように電極本体部4を厚み方向(Z方向)にそれぞれ貫通している。
【0047】
左右一対の端板7は、図2、図3、図6、図10に示すように電極本体部4を両側から挟むようにそれぞれ取付けられ、多数の冷却管3(3a,3b,3c,…)に冷却水を均等に分配するためのヘッダーとして機能する部材である。一方側の端板の流路92に図示しない冷却水供給源から冷却水が供給され、冷却管3(3a,3b,3c,…)を通過した後の冷却水が他方側の端板の流路92から排出されるようになっている。
【0048】
各端板7は、無酸素銅からなる2つの端板部材5,6を重ねて接合した複合部品である。一方の端板部材5は厚肉部と薄肉部を有する階段状のブロック板である。他方の端板部材6は一様な厚みをもつ平板である。端板部材5の厚肉部には厚み方向(Z方向)に延び出して一端が開口する3つの流路92が形成されている。各流路92は、一端が図示しない冷却水供給源に連通し、他端が端板7の内部において冷却管3a,3b,3cに連通している。端板(ヘッダー)7の概略サイズは縦350mm×横50mm×薄肉部の厚さ5mm(×厚肉部の厚さ15mm)である。
【0049】
2つの端板部材5,6の対向面には横断面が半円形状の溝91がそれぞれ形成されている。図6に示すように、2つの端板部材5,6を重ね合せたときに、これら2つの溝91が組み合わされて横断面が円形状のスペースが形成される。この円形状スペースのなかに冷却管3a,3b,3cの両端側部位がそれぞれ挿入されている。すなわち、電極本体部アッセンブリ4の両側部から外方にそれぞれ突出する冷却管3a,3b,3cの延長部分が端板7の円形状スペース91のなかに挿入されている。これにより電極本体部アッセンブリ4と左右一対の端板7とが組み合わされた電極アッセンブリ10が得られるようになっている。
【0050】
冷却管3a,3b,3cは、それぞれがY軸方向にほぼ平行に延び出し、電極本体部アッセンブリ4を端部から端部まで貫通し、さらに両端側部位の各々が左右一対の端板7の外側端面の近傍まで到達し、各端板7の内部において流路92にそれぞれ連通している。各冷却管3a,3b,3cは、無酸素銅からなる継目無し管である。各冷却管3a,3b,3cの概略サイズは外径3.0mm×厚さ0.5mmである。これらの冷却管3a,3b,3cは、図5に示すように電極本体部アッセンブリ4においてビーム引出し孔8と干渉しないような位置にそれぞれ組み込まれている。すなわち、冷却管3a,3b,3cは、ビーム引出し孔8を横切らないように電極本体部アッセンブリ4のなかに配置されている。
【0051】
次に、図4〜図10を参照して本実施形態のイオン源用電極を製造する方法について説明する。
【0052】
先ず図4に示す溝付きのMo薄板1,2と複数本のCu冷却管3a,3b,3cをそれぞれ準備する。溝付きのMo薄板1,2は、板厚3〜5mm程度のモリブデン焼結板を機械切削加工したものである。すなわち、Mo薄板1,2の主面に冷却管3a,3b,3cの数と同数の溝9が機械切削加工により形成されている。これら複数の溝9は、Mo薄板1,2の主面においてY軸方向に平行かつ所定ピッチ間隔に配列されている。また、Cu冷却管3a,3b,3cは、所定長に切り揃えられた外径2〜5mmの無酸素銅継目無し管である。
【0053】
さらに、端板7を構成する端板部材5,6をそれぞれ準備する。一方の端板部材5は、無酸素銅からなる厚肉部と薄肉部を有する階段状のCuブロック板である。他方の端板部材6は、無酸素銅からなる一様な板厚の平坦なCu平板である。これらのCu端板部材5,6には、冷却管3a,3b,3cが挿入される半円形状の溝91が機械切削加工またはプレス成形加工によりそれぞれ形成されている。
【0054】
これらのMo薄板1,2、Cu冷却管3a,3b,3cおよびCu端板部材5,6を熱間静水圧処理により接合して一体化する前に、各部材1,2,3a,3b,3c,5,6の接合予定面を所望の表面粗さにそれぞれ仕上げる。各部材1,2,3a,3b,3c,5,6の接合予定面の表面粗さの仕上げには、サンドペーパー研磨、バフ研磨、化学薬液と硬質微粒子を組合せた研磨法などを用いることができる。例えばバフ研磨により仕上げる場合は、接合予定面の表面粗さを5S以下に保つようにする。
【0055】
溝付きMo薄板1,2のXY平面視野において、全ての溝9はビーム引出し孔8と交差しないように形成されている。一方の薄板2の溝9のなかに冷却管3a,3b,3cの主要部位(中央の部分)が位置し、かつ冷却管3a,3b,3cの両端側部位が該薄板から外方にそれぞれはみ出すように冷却管3a,3b,3cをそれぞれ配置する。次いで、対向面の溝9が冷却管3a,3b,3cにそれぞれ1対1に対応するように、他方の薄板1を一方の薄板2の上に重ね合わせる。その結果として、溝付きMo薄板1,2の両溝9で形成されるスペースのなかに冷却管3a,3b,3cが配置されることになる。すなわち、冷却管3a,3b,3cの主要部位は薄板1,2の間に挟みこまれ、冷却管3a,3b,3cの両端側部位は薄板1,2から外方にそれぞれはみ出している。このようにして薄板1,2と冷却管3a,3b,3cとからなる電極本体部アッセンブリ4を組み立てた。
【0056】
次いで、冷却管3a,3b,3cの端面と2組の端板部材5,6の端面とがそれぞれ面一になるように位置合せし、端板部材5,6が冷却管3a,3b,3cの両端側部位をそれぞれ覆うように端板部材5,6を電極本体部アッセンブリ4の両側にそれぞれ取り付けた。これにより電極本体部アッセンブリ4および複数の端板部材5,6を組み合わせてなる電極アッセンブリ10を形成した。
【0057】
次いで、面一にされた冷却管3a,3b,3cと端板部材5,6との間の間隙を真空または不活性ガスの雰囲気下でシール溶接する。本実施形態で採用する熱間静水圧処理法は、高温中で高圧のガス圧を接合予定面に印加する方法である。熱間静水圧処理において、薄板1,2、端板部材5,6および冷却管3a,3b,3cを健全に拡散接合する(ボイドを発生させない)ためには、構成部品の接合予定面にガスが侵入しないように、部品相互間の間隙を予めシール溶接で塞ぐ必要がある。具体的には、薄板1,2、端板部材5,6および冷却管3a,3b,3cを用いて図6に示す電極アッセンブリ10を組み立てた後に、面一にされた冷却管3a,3b,3cの管端と端板7の端面との間に生じる間隙をシール溶接して塞ぐ。このシール溶接には電子ビーム溶接を採用した。とくに冷却管3a,3b,3cの肉厚は0.5mmと薄いために溶接には細心の注意を払って行い、電子ビーム溶接のビーム電流などの制御を確実に行い、欠陥のない健全なシール溶接を行う必要がある。電子ビーム溶接は接合容器内の空気を脱気するために真空排気を30分以上行った後、冷却管3a,3b,3cの管端と端板7の端面との間の間隙を塞ぐシール溶接を行った。
【0058】
本実施形態では、端板部材5,6を冷却管3a,3b,3cと同等の金属材料(無酸素銅)としているため、冷却管3a,3b,3cと端板部材5,6とを無欠陥で高品質にシール溶接することができ、冷却管3a,3b,3cと端板部材5,6とのシール溶接の信頼性が高まるという利点がある。シール溶接部27の気密性・シール性は、溶接ビード外観検査や蛍光探傷試験により評価した。また、必要に応じてヘリウムリーク試験を実施して、シール溶接部27の気密性・シール性を評価した。
【0059】
次いで、図7に示すように、シール溶接部27を有する電極アッセンブリ10を容器11内に収納し、容器11に上蓋12を被せる。そして、図8に示すように、容器11と上蓋12とをシール溶接し、電極アッセンブリ10をシール溶接部28を有する蓋付き容器11内に完全密封する。なお、容器11と蓋12の材料には溶接性と入手性に優れるステンレス鋼板(SUS304など)を用いた。このシール溶接にも電子ビーム溶接を採用した。電子ビーム溶接は、容器11内の空気を完全に脱気するために、真空排気を30分間以上行った後、シール溶接を行った。なお、容器のシール溶接部28の気密性・シール性は、上記と同様に溶接ビード外観検査や蛍光探傷試験、あるいは必要に応じてヘリウムリーク試験を用いて評価した。冷却管3a,3b,3cと端板部材5,6とを電子ビーム溶接したシール溶接部27の外観の一例を図9に示す。
【0060】
このようにして作製した容器格納電極アッセンブリ18を図9に示す熱間静水圧処理装置13のなかに装入し、第1バルブV1を開けて真空ポンプ14を起動し、装置13の内部を真空排気した。装置13内の真空度が10-2パスカル程度に到達したところで、真空ポンプ14を停止させ、第1バルブV1を閉じて脱気を完了する。
【0061】
次いで、第2バルブV2を開けて高圧ポンプ15を起動し、装置13のなかに高圧のアルゴンガスを充填した。まず初期圧の設定値とした10メガパスカル程度まで昇圧した。次いで、装置内の加熱ヒータ16をONにして昇温を開始した。昇温と共に装置13内のガス圧力が上昇し、高圧ポンプ15の駆動と停止を繰り返した。これにより、熱間静水圧処理の接合条件である温度900℃で、ガス圧力147メガパスカルまで加圧し、この状態を2時間保持した。なお、図中の矢印17は、ガス圧力の方向を示したものであるが、容器格納電極アッセンブリ18を等方圧で全体加圧することができる。その後、加熱ヒータ16をOFFにし、高圧ポンプ15を停止させ、第2バルブV2を閉じ、別のバルブ(図示せず)を開け、装置13内の高圧力のガス放出と共に放出されたガス回収などを行いながら、常温・常圧まで冷却、降圧させた。
【0062】
このようにして密封容器11,12に格納した電極アッセンブリ18を熱間静水圧処理し、Mo薄板1,2とCu冷却管3a,3b,3cとCu端板部材5,6とを固相接合(溶融しないで接合する方法)により一体化した。特に冷却管3a,3b,3cの内部にも高温・高圧のガスにより、薄板1、2および端板部材5,6に設けた溝内に配置された冷却管の外周と薄板1、2および端板部材5,6の溝内面は高温・高圧のガス圧により拡散接合されることで、強固で健全な接合・一体化物が得られる。
【0063】
熱間静水圧処理装置13内の圧力、温度がそれぞれ大気圧と常温に近い状態になった後に、装置13から容器格納電極19を取り出した。密封容器11,12を解体し、容器11のなかから一体化した電極19を取り出した。取り出した電極19のシール溶接部27を機械切削により除去し、Mo薄板1,2およびCu端板部材5,6を所定の形状に機械加工する。
【0064】
次いで、図10に示すように、円形状の銅板からなる盲板29を冷却管3a,3b,3cの両端にそれぞれ溶接し、すべての冷却管3a,3b,3cの両端開口をCu盲板29で塞ぐ。さらに端板7の流路92の開口からドリル刃を挿入し、冷却管3a,3b,3cの外周壁を穿孔し、冷却管3a,3b,3cの流路を端板7の流路92にそれぞれ連通させる。
【0065】
以上のようにして、高熱負荷対応のイオン源用電極を得ることができた。
【0066】
本実施形態においては、熱間静水圧処理によるために、高温・高圧の圧力媒体のガスを用いて、適正な形で加圧するかであり、そのためにはMo薄板1,2、Cu端板部材5,6およびCu冷却管3a,3b,3cの接合面にガスが進入しないようにシール溶接が重要である。薄板1、2および端板部材5,6の半割れの構造は圧力媒体のガスが加わるように接合容器(キャニング)に入れてシール溶接する。また、冷却管3a,3b,3cと端板部材5,6のシール溶接も同様に、本実施形態ではシール溶接の組合せは、いずれも冷却管3a,3b,3cとシール溶接が可能な同種の材料を選択することで、そのシール溶接の健全性を高めた。したがって、熱間静水圧処理によるモリブデン電極を構成する薄板1,2、端板部材5,6および冷却管3a,3b,3cの接合・一体化することを実現できた。
【0067】
また、本実施形態のイオン源用電極は、端板部材5,6は、Cu冷却管3a,3b,3cに冷却水を供給するヘッダーとしての機能を有するため、これらを熱伝導性に優れた銅で構成することにより、Cu冷却管3a,3b,3c内を流れる冷却水との間での熱交換が迅速になり、電極の冷却効率がさらに向上する。さらに、Cu端板7による電極本体部アッセンブリ4の間接的な冷却が付加されるため、Cu冷却管3a,3b,3c内を流れる冷却水による電極本体部アッセンブリ4の直接的な冷却と相俟って、電極の冷却効率がさらに向上する。
【0068】
(第2の実施の形態)
次に、図11と図12を参照して第2の実施の形態を説明する。なお、本実施形態が上記の実施形態と重複する部分の説明は省略する。
【0069】
第2の実施形態に係るイオン源用電極では、Mo薄板1A,2Aに断面矩形状の溝9Aをそれぞれ形成し、これら断面矩形状の溝9Aのスペース内に断面円形状のCu冷却管3a,3b,3cの主要部をそれぞれ配置し、電極本体部4Aを形成した。さらに、電極本体部4Aの両側に端板部材5,6をそれぞれ取り付け、電極アッセンブリを形成し、上記第1の実施形態と同様にCu冷却管3a,3b,3cの管端とCu端板7の端面とをそれぞれシール溶接した。このようにして形成した電極アッセンブリを熱間静水圧処理により接合・一体化することで、Cu冷却管3a,3b,3cは、Mo薄板1A,2Aの矩形状溝9Aに倣った断面形状となる。
【0070】
このような方法で製作した矩形状の冷却管および冷却溝の断面形状を、一実施例としてその断面写真を図14に示す。図14に示す断面形状の冷却流路20,21,22の形状は、冷却溝形状をそれぞれ変えたもので、本実施形態の製造方法の検証試験の一実施例サンプルであり、これらの形状のみに制約されるものではない。図14には長辺、短辺が同じ寸法の矩形状の実施例を示すが、短辺および長辺が異なるいわゆる長方形の断面でも本実施例の方法においては同様の冷却溝の断面形状は得られる。したがって、その作用および効果も同様で、かつ長方形の形状特有の水平面の除熱を高める効果も期待できる。具体的には、冷却流路20は断面正方形状の溝に断面正方形状の冷却管を装入して熱間静水圧処理したもの(第1の実施形態)、冷却流路21は断面正方形状の溝に断面円形状の冷却管を装入して熱間静水圧処理したもの(第2の実施形態;扁平円形状流路)、冷却流路22は断面矩形状の溝に断面正方形状の冷却管を装入して熱間静水圧処理したもの(扁平矩形状流路)である。
【0071】
上記の実施形態によれば、冷却管の横断面形状を矩形状または扁平状とすることで、円形状の冷却管流路(冷却孔)よりも流路の表面積が増加して、冷却能がさらに高まる。このため、高熱負荷としての機器および機能性が向上し、電極に起因する故障発生率が大幅に低減され、機器の信頼性がさらに高まる。
【0072】
ここに記載する実施の形態のイオン源用電極によれば、イオンビーム照射時のビームの熱をMo電極から確実に除去し、高熱負荷の機器であるが、熱ひずみや熱変形を最小にすることで、長寿命、耐久性に優れた信頼性の高いものとなる。このようなイオン源用電極は国内外の大型プロジェクトで進められている核融合装置のプラズマ実験などに大いに寄与するものである。
【符号の説明】
【0073】
1,1A,2,2A…薄板(焼結金属Mo板)、3a,3b,3c…冷却管(Cu管)、
4,4A…電極本体部アッセンブリ、
5,6…端板部材、7…端板(ヘッダー)、8…ビーム引出し孔、
9,9A, 91…溝、92…冷媒流路、
10…電極アッセンブリ、11…容器、12…蓋、
13…熱間静水圧処理装置、14…真空ポンプ、15…高圧ポンプ、16…加熱ヒータ、17…加圧ガス、
18…容器格納電極アッセンブリ、
19…イオン源用電極(一体化した電極)、
20,21,22…HIP接合後の冷却流路、
23a,23b,23c…冷却管、27,28…シール溶接部、
31…中性粒子入射装置、32…イオン源、33…ガス、34…フィラメント、35…プラズマ生成部、37…高電圧電源、38…加速部(加速電極列)、39…中性化セル、40…イオンビーム、41…中性粒子ビーム、42…炉心プラズマ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ中のイオンを加速させて高速のイオンビームを生成するイオン源用電極であって、
イオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ形成された複数の薄板が重ね合わせ接合された電極本体部と、
前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記電極本体部を一方側の端部から他方側の端部まで貫通し、さらに前記電極本体部の両端からそれぞれ延び出す延長部分を有する複数の冷却管と、
前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記冷却管の延長部分が内部を貫通するように前記電極本体部の両側にそれぞれ取り付けられ、前記冷却管との間隙がそれぞれシール溶接され、熱間静水圧処理により前記薄板と冷却管とが接合されて一体化した複数の端板と、
を有することを特徴とするイオン源用電極。
【請求項2】
2つの薄板の対向面にそれぞれ溝を形成し、前記2つの薄板を重ね合わせて一方の溝と他方の溝とでスペースを形成し、前記スペースのなかに前記冷却管を配置した状態で熱間静水圧処理し、これにより前記2つの薄板と前記冷却管とが接合されて一体化していることを特徴とする請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記溝の横断面形状が矩形状または扁平状で、かつ前記冷却管の横断面形状が矩形状または扁平状であり、
前記矩形状の溝により形成されるスペースに前記矩形状の冷却管が配置されるか、または前記扁平状の溝により形成されるスペースに前記扁平状の冷却管が配置されていることを特徴とする請求項2記載の電極。
【請求項4】
前記薄板がモリブデンの焼結体からなり、前記冷却管および前記端板が銅または銅合金からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電極。
【請求項5】
プラズマ中のイオンを加速させて高速のイオンビームを生成するイオン源用電極の製造方法において、
(a)複数の薄板および複数の冷却管をそれぞれ準備する際に、前記薄板と前記冷却管とが異なる金属材料からなり、前記複数の薄板にはイオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ厚さ方向に貫通しており、前記複数の冷却管には冷媒を通流させるための冷媒流路がそれぞれ形成されており、
(b)前記冷却管が前記ビーム引出し孔を遮らないように一方の薄板上に前記複数の冷却管を並列に配置し、前記一方の薄板上に並列配置した複数の冷却管の主要部位が挟み込まれ、かつ前記複数の冷却管の両端側部位が前記複数の薄板から外方にそれぞれはみ出すように他方の薄板を前記一方の薄板に重ね合わせ、これにより前記複数の薄板および前記複数の冷却管を組み合わせてなる電極本体部アッセンブリを形成し、
(c)前記冷却管と同じ金属材料からなる複数の端板を準備し、前記冷却管の端面と前記端板部材の端面とが面一になるように位置合せし、前記複数の端板が前記複数の冷却管の両端側部位を覆うように前記端板を前記電極本体部アッセンブリの両側にそれぞれ取り付け、これにより前記電極本体部アッセンブリおよび前記複数の端板部材を組み合わせてなる電極アッセンブリを形成し、
(d)面一にされた前記冷却管と前記端板との間の間隙を真空または不活性ガスの雰囲気下でシール溶接し、
(e)前記電極アッセンブリを容器内に収容し、前記容器に蓋を被せ、前記容器と蓋とを真空または不活性ガスの雰囲気下でシール溶接し、これにより前記容器と蓋とで前記電極アッセンブリを外気から遮断し、
(f)前記容器に格納した電極アッセンブリを熱間静水圧処理し、これにより前記薄板と冷却管と端板とを接合して一体化し、
(g)前記容器を解体し、前記容器から一体化した電極を取り出す、
ことを特徴とするイオン源用電極の製造方法。
【請求項6】
前記(a)工程において、第1の溝を有する第1の薄板および第2の溝を有する第2の薄板をそれぞれ準備し、
前記(b)工程において、前記第1の溝と前記第2の溝とを向き合わせ、前記第1の溝と前記第2の溝とで形成されるスペースのなかに前記冷却管が配置されるように、前記第1の薄板と前記第2の薄板との間に前記冷却管を挟みこみ、これにより前記電極本体部アッセンブリを形成する、ことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記工程(d)および工程(e)において、前記シール溶接に電子ビーム溶接をそれぞれ用いることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項1】
プラズマ中のイオンを加速させて高速のイオンビームを生成するイオン源用電極であって、
イオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ形成された複数の薄板が重ね合わせ接合された電極本体部と、
前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記電極本体部を一方側の端部から他方側の端部まで貫通し、さらに前記電極本体部の両端からそれぞれ延び出す延長部分を有する複数の冷却管と、
前記電極本体部を構成する薄板とは異なる金属材料からなり、前記冷却管の延長部分が内部を貫通するように前記電極本体部の両側にそれぞれ取り付けられ、前記冷却管との間隙がそれぞれシール溶接され、熱間静水圧処理により前記薄板と冷却管とが接合されて一体化した複数の端板と、
を有することを特徴とするイオン源用電極。
【請求項2】
2つの薄板の対向面にそれぞれ溝を形成し、前記2つの薄板を重ね合わせて一方の溝と他方の溝とでスペースを形成し、前記スペースのなかに前記冷却管を配置した状態で熱間静水圧処理し、これにより前記2つの薄板と前記冷却管とが接合されて一体化していることを特徴とする請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記溝の横断面形状が矩形状または扁平状で、かつ前記冷却管の横断面形状が矩形状または扁平状であり、
前記矩形状の溝により形成されるスペースに前記矩形状の冷却管が配置されるか、または前記扁平状の溝により形成されるスペースに前記扁平状の冷却管が配置されていることを特徴とする請求項2記載の電極。
【請求項4】
前記薄板がモリブデンの焼結体からなり、前記冷却管および前記端板が銅または銅合金からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の電極。
【請求項5】
プラズマ中のイオンを加速させて高速のイオンビームを生成するイオン源用電極の製造方法において、
(a)複数の薄板および複数の冷却管をそれぞれ準備する際に、前記薄板と前記冷却管とが異なる金属材料からなり、前記複数の薄板にはイオンビームを引出すための複数のビーム引出し孔がそれぞれ厚さ方向に貫通しており、前記複数の冷却管には冷媒を通流させるための冷媒流路がそれぞれ形成されており、
(b)前記冷却管が前記ビーム引出し孔を遮らないように一方の薄板上に前記複数の冷却管を並列に配置し、前記一方の薄板上に並列配置した複数の冷却管の主要部位が挟み込まれ、かつ前記複数の冷却管の両端側部位が前記複数の薄板から外方にそれぞれはみ出すように他方の薄板を前記一方の薄板に重ね合わせ、これにより前記複数の薄板および前記複数の冷却管を組み合わせてなる電極本体部アッセンブリを形成し、
(c)前記冷却管と同じ金属材料からなる複数の端板を準備し、前記冷却管の端面と前記端板部材の端面とが面一になるように位置合せし、前記複数の端板が前記複数の冷却管の両端側部位を覆うように前記端板を前記電極本体部アッセンブリの両側にそれぞれ取り付け、これにより前記電極本体部アッセンブリおよび前記複数の端板部材を組み合わせてなる電極アッセンブリを形成し、
(d)面一にされた前記冷却管と前記端板との間の間隙を真空または不活性ガスの雰囲気下でシール溶接し、
(e)前記電極アッセンブリを容器内に収容し、前記容器に蓋を被せ、前記容器と蓋とを真空または不活性ガスの雰囲気下でシール溶接し、これにより前記容器と蓋とで前記電極アッセンブリを外気から遮断し、
(f)前記容器に格納した電極アッセンブリを熱間静水圧処理し、これにより前記薄板と冷却管と端板とを接合して一体化し、
(g)前記容器を解体し、前記容器から一体化した電極を取り出す、
ことを特徴とするイオン源用電極の製造方法。
【請求項6】
前記(a)工程において、第1の溝を有する第1の薄板および第2の溝を有する第2の薄板をそれぞれ準備し、
前記(b)工程において、前記第1の溝と前記第2の溝とを向き合わせ、前記第1の溝と前記第2の溝とで形成されるスペースのなかに前記冷却管が配置されるように、前記第1の薄板と前記第2の薄板との間に前記冷却管を挟みこみ、これにより前記電極本体部アッセンブリを形成する、ことを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記工程(d)および工程(e)において、前記シール溶接に電子ビーム溶接をそれぞれ用いることを特徴とする請求項5記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−45747(P2013−45747A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185097(P2011−185097)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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