イオン移動度分光計
複数の電極を有する少なくとも1つのイオンチャネルの形状のイオンフィルタを有するイオン移動度分光計について記載される。導電層に印加される時間変化する電位により、充填剤はイオン種を選択的に入れることができる。電位は、駆動電界成分および横電界成分を有し、好ましい実施形態において、電極のそれぞれは、駆動電界および横電界の両方の成分を生成するのに関与する。デバイスは、ドリフトガスフローがなくても用いることができる。分光計の種々の用途であるようなマイクロスケール分光計を製作するための微細加工技術について記載される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、イオン移動度分光計に関し、さらに詳細には電界非対称性イオン移動度(FAIM)分光計に関する。本発明のある態様は、マイクロマシン型FAIM分光計に関する。本発明の態様はまた、イオン移動度分光測定法の実行方法およびそのような分光計に用いるための構成要素に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
イオン移動度分光測定法は、ガス試料における分子種の存在を検出するために用いられる汎用性の広い技術である。この技術は、試料中の爆薬、薬物および化学薬剤の検出において特定の用途があるが、これらの用途に限定されるわけではない。携帯型の検出器は、手荷物検査および防衛業界では一般に用いられる。しかし、それにもかかわらず、従来の携帯型デバイスは、依然として比較的大きいものである。
【0003】
イオン移動度分光測定法は、電界を通って検出器までの異なるイオン種の差動移動に左右され、電界の変数の適切な選択によって、仮にそうであるとしても、異なる特性を有するイオンは異なる時間に検出器に到達することになる。飛行時間(TOF)型イオン移動度分光測定法では、ドリフト(drift)ガスフローに逆らって検出器までドリフトチューブに沿って進むように電界に曝すときに、イオンによってかかる時間を測定する。電界を変化させることによって、異なる特性のイオンは、異なる時間に検出器に到達し、試料の組成を分析することができる。分光測定法のこの形は、その解像度に関してドリフトチューブの長さに左右される。ドリフトチューブが長ければ長いほど、検出器はより高性能になる。これは、事実上用いられうるドリフトチューブをより小さくすることに対する制限があることから、そのような分光計の可能な小型化を制限する。さらに、比較的高い電界強度が必要である場合には、ドリフトチューブの長さに関する制限はまた、デバイスにおいて比較的高い電圧を用いる必要性を生じることになり、作業者に対して潜在的に危険となる恐れがあり、デバイスの小型化の可能性を制限する。
【0004】
TOF型イオン移動度分光測定法に関する変形は、米国特許第5,789,745号明細書に記載され、ドリフトガスフローに逆らって検出器に向かってイオンを移動するために、可動電位を利用する。複数の離隔された電極は、可動電位井戸(a moving potential well)を生成するために交互にパルス発生され、可動電位井戸と共に選択されたイオンを搬送する。このデバイスは、他にも理由があるものの、ドリフトガスフローを生成するためにポンプを必要とするために、小型化に適していない。
【0005】
電界非対称性イオン移動度分光測定法(FAIMS)は、飛行時間型イオン移動度分光測定法(TOFIMS)から派生した方法であり、潜在的により小さな形状因子を提供する。しかし、既存の設計は、可動ガスフローおよび高電圧を用い、マイクロチップの実現には望ましくない。スケーリングは、分子拡散によってさらに妨げられ、その影響はミクロンレ領域では大きくなる。FAIMsに関連する背景技術については、L.A.ブリヤコフ(L.A.Buryakov)ら著、Int.J.Mass.Spectrom.Ion Process.128(1993)143およびE.V.クリロフ(E.V.Krylov)ら著、Int.J.Mass.Spectrom.Ion Process.225(2003)39−51に見られる。これらは、参照によって本願明細書に援用されるものとする。
【0006】
従来のFAIMSは、試料の成分がイオン化される反応領域に大気圧における空気を引き寄せることによって動作する。気相の化合物中の化学薬剤は、それらの親イオンに曝されると、イオンクラスタを形成する。イオンクラスタの移動度は主に、形状および重量の関数である。イオンは、一方は低電圧直流バイアスを有し、他方は周期的な高電圧パルス波形を有する2つの金属電極間で飛ばされ、イオンが衝突し、電流が記録される検出器プレートに達する。イオンは、パルス位相の中では一方の電極に向かって急速に駆動され、パルス間では対向する電極に向かってゆっくり駆動される。一部のイオンは、検出器プレートに到達する前に、電極に衝突する。適切な差動移動度を有する他のイオンは、端部に到達し、このデバイスを一種の差動移動度イオンフィルタにする。生成される電流対直流バイアスのグラフは、特徴的な差動イオン移動度スペクトルを提供する。スペクトルにおけるピークの強度は、変化量に対応し、薬剤の相対濃度を表す。
【0007】
この配置構成は、従来のTOFIMSよりさらに小型化することができる可能性を提供するが、ガスフローを生成するための必需品として、ポンプ、絞り(diaphragm)または類似物を必要とし、現在の技術を用いることにより、そのようなデバイスのサイズを小さくすることに限界がある。そのようなデバイスの代表的な実例が、米国特許第6,495,823号明細書および米国特許第6,512,224号明細書に記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
検知技術に用いるための小型イオン移動度分光計を提供することは利点となるであろう。これらは人目をはばかる用途または大規模の流通に適しているほか、より小さなサイズはデバイスにおけるより低い電圧の利用を可能にすると思われる。可動部品が全くないか、または従来のデバイスより少ないデバイスもまた、従来のセンサより堅牢であるという点で利点となることから、交通量の多い領域または過酷な環境における配備にも適している。
【0009】
本発明者らは、その動作のためにドリフトガスフローを必要としないFAIMSの別の変形を開発した。代わりに、イオンを検出器に向かって移動させるために、電界が用いられる。これにより、ガスポンプまたは類似物を必要とすることなく、固体素子の構成を可能にし、他の方法で可能であると考えられる場合より、デバイスのさらなる小型を可能にするほか、堅牢な構成を可能にする。ポンプを必要とせず、電子機器のサイズを縮小しうるため、システムは、全体としてサイズおよびコストを削減することができる。サイズの縮小により、電極間のギャップのサイズをさらに小さくすることができ、したがって、小型化につながるより低い電圧、さらに集積した電子機器、より高い精度および制御可能な波形、電力消費および解像度に関する性能の向上を可能にする。イオンフィルタは、単に電界特性を変更することによって、容易に再調整可能であるため、検出されたイオンのスペクトルは、複数の分析に関する情報を同時に提供することができる。フィルタおよび次の分析を制御するソフトウェアを変更し、したがってシステムを高度にカスタマイズ可能にすることによって、さらなる検体の検出を組み込んでもよい。
【0010】
本発明の他の利点としては、この場合もソフトウェアの制御によって達成しうる時間の経過と共に複数の変数を調整することによる偽陽性(fales positives)の削減が挙げられる。出力を組み合わせ、局所的な干渉の有害な影響を削減し、分類の信頼性を向上するほか、システムを全体としてより堅牢にするために、多くの検出器をネットワーク化してもよい。
【0011】
最後に、本発明は、微量なレベルにおける検出を可能にするほど高感度であり、高速である。イオナイザと検出器との間の距離を削減することにより、検出対象のイオンが存在するに違いない時間を削減し、短命のイオンの検出を可能にする。システムは、低電圧かつ低電力で動作してもよく、一定の範囲の環境においてより長い運転可能な用途を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明の第1の態様によれば、イオナイザと、イオンフィルタと、イオン検出器と、を備えるイオン移動度分光計が提供され、
イオンフィルタは、少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、イオンは、そのイオンチャネルに沿ってイオナイザからイオン検出器まで通過することができ、
イオンフィルタは、イオンチャネル付近に配置される複数の電極を備え、
分光計は、第1の駆動電界がイオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が第1の電界に対して直角に生成されるように、電極を制御するための電極制御手段をさらに備え、上記の複数の電極のそれぞれは、駆動電界および横電界の両方の成分を生成するのに関与する。
【0013】
かかる構成は、駆動電界がチャネルを通ってイオンを推進するために用いることを可能にし、電荷などの変数に基づいてイオンの移動度に選択的に作用させるために横電界を用いることができる。したがって、本発明の分光計は、ドリフトガスフローがない状態で用いてもよく、そのために、必要とする可動部品は従来の分光計より少ない。さらに、本発明の場合には、効果的に動作させるために、長いドリフトチューブは必要ではない。駆動電界および横電界は、同時に印加されることが好ましい。駆動電界および横電界の両方の成分を生成するために、同一の電極を用いることにより、必要な電極の数を最小限に抑えるほか、デバイスのサイズを縮小する。しかし、本発明のある実施形態において、さらなる電極が存在してもよく、分光計における電極のすべてが駆動電界および横電界の両方の成分を生成するのに関与する必要はない。駆動電界は、長手方向の電界であることが好ましい。
【0014】
駆動電界は静電界であることが好ましい。すなわち、電界が時間の経過と共に変化しないことが好ましい。しかし、たとえば、解像度ピークの幅を調整し、特定の用途において最適な性能向きの機器を構成するために、時間変化する駆動電界を用いることができる。一部の機器において、電界が掃引され、一定の範囲の電界強度にわたってデータを収集されてもよい。このように、向上した(さらに正確な)結果を達成するために、後処理用の別の変数として、駆動電界強度を用いてもよい。電界は、電極の両端の直流バイアスの印加によって生成されてもよい。連続的な静電界は、イオンチャネルに沿ってイオンを駆動するために十分であるが、横電界は移動度と、形状、質量および電荷などの変数と、に基づいて、イオンを分離することが分かっている。電界のこの組み合わせにより、ドリフトガスフローの必要性を排除する。
【0015】
横電界は、時間の経過と共に変化してもよく、電極の両端の交流電圧の印加によって生成されてもよい。交流電圧は、非対称であることが好ましい。したがって、本発明の好ましい実施形態において、横電界は、交流成分および直流成分を含む。直流成分は、交流成分に対向していることが好ましい。すなわち、交流成分はイオンチャネルの一方の側壁に向かってイオンを駆動する傾向にあるのに対し、直流成分はチャネルの他方の側壁に向かってイオンを駆動する傾向にある。直流ランプ電圧または掃引電圧もまた、加えられてもよく、掃引を行い、感度および選択性または他の効果を向上するために、振幅、動作周期などの交流電圧の変数もまた、変更してもよい。
【0016】
電極制御手段は、電界の一部またはすべてを変更することができることが好ましく、これにより、特定のイオンを検出することができるようにするために電界を調整することができる。
【0017】
電極は、イオンチャネルの入口および出口に隣接して配置されることが好ましい。あるいは、電極は、チャネル自体の中に配置されてもよい。
【0018】
少なくとも2つの電極対を設けてもよい。一方の電極は、チャネルの各隅に位置していることが好都合である。すなわち、4つの電極が、4対の電極対、すなわち横電界を生成するために機能する2対の横方向の電極対および駆動電界を生成する2対の長手方向の電極対を形成する。各電極は、2対、すなわち1対の横電極対および1対の駆動電極対からなる部材である。電極対は、チャネル自体によって横方向に分離されるのに対し、構造的安定性を提供するために、電極対は、抵抗(たとえば、1〜100KΩcmの抵抗のシリコン)半導体材料または絶縁材料によって垂直方向に分離されてもよい。4つの電極は、各イオンチャネルに設けられることが好ましい。
【0019】
イオナイザは、任意の好都合な手段、たとえば、イオン化放射線源、紫外線源などを備えていてもよい。
【0020】
フィルタは、複数のイオンチャネルを含むことが好ましく、5個以上、10個以上、15個以上および20個以上のイオンチャネルであれば好都合である。チャネルは、コーム状の配置構成を形成するための複数の電極指によって画定されることが好都合である場合がある。好ましい実施形態において、フィルタは2つ以上の互いに嵌合する電極アレイを備え、各アレイは複数の電極指を有する。複数のイオンチャネルが存在することにより、比較的大きなイオン化体積をチャネルに隣接して用いることができ、それにより、単独のイオンチャネルを有し、それゆえ比較的小さいイオン化体積に制限された従来のデバイスに比べて、分光計の感度を向上することができる。
【0021】
イオンチャネルは、細長いことが好ましい。すなわち、イオンチャネルは(イオンが流れる方向に沿って)比較的短い長さ、(短横(短手)方向において)比較的短い幅および(長横(長手)方向において)比較的長い深さを有する。
【0022】
任意に、互いに嵌合する指は湾曲してもよく、さらに詳細には蛇行してもよく、その結果、湾曲または蛇行したチャネルを画定してもよい。これは、まっすぐな電極の場合には、チャネルの壁に拡散するイオンが原因で生じる拡散損失を低減するという利点がある。チャネル内の部分電位井戸の形成のために、湾曲または蛇行した電極によって、これらの拡散損失が低減される(この意味では、チャネル幅は効果的に増大される)。湾曲または蛇行したチャネルはまた、空間電荷反発力の有害な影響も低減する。
【0023】
したがって、本発明の別の態様において、この一般的な形成に関して電極によって画定されるチャネルを有するイオンフィルタを提供する。複数のイオンチャネルを形成する2つの互いに嵌合される電極を備えるイオンフィルタもまた、設けられる。記載したように、そのような配置構成を用いてもよく、またはドリフトガスフローを用いてもよい。互いに嵌合されるフィルタの配置構成によって形成されるより小さなギャップサイズは依然として、電圧の低下と、それゆえドリフトガスフローが用いられる場合であっても、制御電子機器がより簡単であるという利点を提供する。
【0024】
フィルタは、電極を形成するために上に導電面が設けられている抵抗基板または半導体基板を備えることが好ましい。導電面は、基板の2つの面に配置されてもよい。基板は、シリコンを含んでもよい。導電面は、金属、ドープトポリシリコンなどを含んでもよい。好ましい実施形態において、分光計がマイクロマシンの大きさである場合には、基板および導電面には、所望の形状および構成を形成するため、およびイオンチャネルを設けるために、従来の半導体処理技術を用いて、好都合なことにエッチングを施されてもよい。これにより、多くのチャネルを平行に小さな大きさで形成することが可能となる。
【0025】
イオンチャネルの長さは、フィルタの深さより小さいことが好ましく、著しく小さければ好ましく、たとえば、少なくとも10倍小さい。好ましい実施形態において、フィルタは略ウェーハ状の形状を有し、チャネル長さはフィルタ深さのごく一部である。一部の好ましい実施形態において、チャネル長さは、1000ミクロン未満、900ミクロン未満および800ミクロン未満であるのに対し、フィルタ深さは、10,000ミクロンより大きい。好ましいチャネル長さは、1000〜100ミクロンであり、800〜300ミクロンであればさらに好ましく、500〜300ミクロンであれば最も好ましい。
【0026】
イオンチャネルの幅(すなわち、横電界が生成されるチャネルの両端のギャップ間隔)もまた、チャネル長さより小さいことが好ましい。好ましい実施形態において、ギャップ間隔は、10〜100ミクロンである。そのような配置構成により、比較的低い電圧および電力消費を用いて、チャネル幅の両端に比較的大きな電界を生成することができる。本発明の好ましい実施形態において、電界は、イオンフラグメンテーションまたはイオン分解を生じるほど十分に大きくてもよい。これにより、大きなイオン種をより小さなイオン種に破砕することができ、検出器の感度を向上させ、干渉による不明瞭な結果の可能性を低減することができる。
【0027】
分光計は、フィルタを加熱するための手段を備えることが好ましい。フィルタは、少なくとも150℃に加熱し得ることが好ましい。フィルタを加熱することにより、性能を向上させることができ、フィルタからの汚染物質の除去を支援する。個別のヒータ(たとえば、フィルタは基板に装着される)を設けてもよいが、加熱手段はフィルタと一体化されることが好ましい。好ましい実施形態において、フィルタは、たとえば、電圧が基板の両端に印加されるときに、ジュール効果加熱によって加熱される基板を備える。基板がフィルタに組み込まれる場合には、フィルタの電極が作動されると、そのような電圧が印加されることになる。本発明の好ましいマイクロスケールの実施形態は、比較的低い電圧をジュール効果による効果的な加熱を提供するために用いることができる。
【0028】
分光計は、複数の機能層を備えることが好都合であり、各層はウェーハ状の形状を有する。この配置構成は、大量生産(たとえば、バッチ製作工程または並列製作工程)半導体技術を用いることを可能にするため、マイクロマシン型分光計の組立時に有利である。組立られる製品を用いることができる前に、長期にわたる汚染除去ステップおよび前処理ステップを必要としないように、半導体技術の利用は一般に、クリーンルーム環境で製作が行われることを意味する。そのような分光計はまた、層構造であるために比較的コンパクトであり、したがって、他の方法よりさらに小型化することが可能となる。たとえば、イオナイザ、フィルタおよび検出器のそれぞれは、機能層を備えていてもよい。ある実施形態において、単独の物理的なウェーハ状の層に1層以上の機能層を組み合わせることが可能である。たとえば、フィルタ層および検出器層は、検出器電極として絶縁体上のシリコン(SOI)ウェーハ処理層を用い、背面に集積回路を堆積させるか、またはデバイスから制御電子機器を単に移動させることによって、一体化させることが可能である。イオナイザは、注入スラブの下側に金属の放射性同位元素フィルムをパターン形成することによって注入層と一体化させることが可能である。一実施形態において、センサは、ちょうど2層、単独のSOIウェーハに組立られる集積フィルタおよび検出器層と、下側に金属イオン化材料がパターン形成された多孔性注入キャップと、から構成されることが可能である。この実施形態は、1つの接合ステップを必要とするだけに過ぎない。
【0029】
実施形態において、チャネルは、フィルタの面に実質的に垂直である。フィルタは、1:1(mm)を超える面の面積対チャネル長さの比を有することが好ましく、10:1を超えるか、または100:1(ミリメートル)を超えればさらに好ましい。たとえば、フィルタは、8mm×8mmの面の面積および約200μmのチャネル長さを有してもよい。
【0030】
分光計は、1つ以上の以下の別の追加要素をさらに備えてもよく、好ましい実施形態において、これらのそれぞれは追加機能層を形成し、
a)望ましくない粒子が分光計に入らないようにすると同時に、デバイス内に検体を拡散することができるようにするために、注入層が存在してもよい。注入層は、多孔性セラミックなどの多孔性材料から形成されることが好都合である。
b)分光計から水蒸気を除去するための除湿器層。この層は、吸湿材料を含んでもよく、あるいは、乾燥剤または類似物を用いてもよい。層は、吸湿材料を定期的に一掃するために用いてもよい加熱素子をさらに含んでもよい。
c)検体を効果的に濃縮するために、検体を蓄積し、定期的に除去するための濃縮素子(preconcentrator)層。この層はまた、所望の範囲の検体を吸収するために、適切に大きなサイズの孔を有する分子ふるいなどの吸湿材料を含んでもよい。次に、定期的に吸収された検体を除去するために、加熱素子を作動してもよい。
d)化学反応に作用させ、その結果、性能を部分修正するために、層から活性領域に除去または吸着される所望の化学物質またはドーパントを注入した材料を含むドーパント層。これは、一定の化合物の大気圧イオン化を強化するために、たとえば、アンモニアであってもよく、または、スペクトルおよびその結果として解像度において化合物の分離を強化するために周知であるたとえば、水であってもよい。
【0031】
検出器は、基板に位置する電極を備えていてもよい。検出器はウェーハ状の半導体基板、たとえば、シリコンであることが好都合である。検出器は、制御回路などをさらに備えていてもよい。これは、半導体基板上に形成されることが好都合である。検出器は、電極の監視またはデバイスの制御のためのプロセッサ手段などに制御回路および/または電極を接続するためのコネクタをさらに備えてもよい。
【0032】
分光計はまた、イオンの移動方向に逆らって、フィルタを通るガス向流を生成するための手段も備えてもよい。無傷の分子または部分イオン化生成物がフィルタに入るほど、試料のすべてがイオン化されることはめったにない。フィルタ領域におけるそのような分子は、さらなる反応および相互作用につながる可能性があり、ピークシフティングなどの有害な影響を生じる。ガス向流を用いることにより、フィルタからの汚染物質の除去またはフィルタ内の反応性の低い環境の維持を支援することができる。用いられるガスは、反応性が低いたとえば、窒素またはヘリウムであってもよく、またはイオン化に対する汚染物質の親和力に作用するように選択されてもよく、たとえばアンモニア、DCMなどが用いられてもよい。ガス向流はまた、フィルタ内のイオンの移動度を変更するために用いられることができる。(従来のイオン分光計におけるガスフローと違い、)フローはイオンを移動するために必要ではないため、ガス向流はきわめて低い流速であってもよく、たとえば、フィルタの側面間の最小の圧力差は一般に十分である。したがって、比較的少ない電力消費の小型ポンプまたは絞りを用いてもよく、または加圧ガス貯槽を用いてもよい。
【0033】
本発明の別の態様によれば、試料を分析するための方法であって、
イオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を形成するステップと、
第1の電界に直角に第2の横電界を形成するステップと、
イオンチャネルの入口に隣接してイオンを生成するために、試料をイオン化するステップと、
イオンチャネルを通過した生成イオンを検出するステップと、
を含む方法が提供される。
【0034】
駆動電界は、静電界であることが好ましい。すなわち、電界が時間の経過と共に変化しないことが好ましい。しかし、前述のように、時間変化する電界も用いることができる。電界は、電極の両端の直流バイアスの印加によって生成されてもよい。
【0035】
横電界は、時間の経過と共に変化してもよく、電極の両端の交流電圧の印加によって生成されてもよい。本発明の好ましい実施形態において、横電界は、交流成分および直流成分を含む。直流成分は、交流成分に対向していることが好ましい。すなわち、交流成分はイオンチャネルの一方の側壁に向かってイオンを駆動する傾向にあるのに対し、直流成分はイオンチャネルの他方の側壁に向かってイオンを駆動する傾向にある。前述のように、変数を変更してもよい。
【0036】
駆動電界および横電界は、同時に形成されることが好ましい。駆動電界および横電界は、複数の電極によって生成され、各電極が駆動電界および横電界の両方の成分に寄与することが好ましい。
【0037】
方法はまた、イオンの移動方向に対向してフィルタにわたってガスの向流を適用するステップを含んでもよい。
【0038】
方法は、イオンチャネルの両端に十分に大きな電界を印加することによって、イオンを破砕するステップをさらに含んでもよい。
【0039】
イオンチャネルは、たとえば、ジュール加熱を生成するために、基板の両端に十分に大きな電圧を印加することによって、加熱されてもよい。
【0040】
本発明の別の態様によれば、イオン移動度分光計などの分光計において用いるためのイオンフィルタが提供され、フィルタは、イオンが通過しうる少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、複数の電極がイオンチャネルの付近に配置され、電極はイオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を生成することができ、第1の電界に対して直角に第2の横電界を生成することができるように構成され、上記の複数の電極のそれぞれは、駆動電界および横電界の両方の成分を生成するのに関与する。
【0041】
少なくとも2つの電極対を設けてもよい。一方の電極は、チャネルの各隅に位置していることが好都合である。電極対は、チャネル自体によって横方向に分離されるのに対し、構造的安定性を提供するために、電極対は、絶縁材料によって垂直方向に分離されてもよい。4つの電極は、各イオンチャネルに設けられることが好ましい。
【0042】
フィルタは、複数のイオンチャネルを含むことが好ましく、5個以上、10個以上、15個以上および20個以上のイオンチャネルであれば好都合である。チャネルは、コーム状の配置構成を形成するための複数の電極指によって画定されることが好都合である場合がある。好ましい実施形態において、フィルタは2つ以上の互いに嵌合する電極アレイを備え、各アレイは、前述のように任意に湾曲した複数の電極指を有する。
【0043】
イオンチャネルは、細長いことが好ましい。すなわち、イオンチャネルは(イオンが流れる方向に沿って)比較的短い長さ、(短横方向において)比較的短い幅および(長横方向において)比較的長い深さを有する。
【0044】
フィルタは、電極を形成するためにその上に導電面が設けられる抵抗基板を備えることが好ましい。導電面は、抵抗基板の2つの面に配置されてもよい。基板は、シリコンを含んでもよい。導電面は、金属、ポリシリコンなどを含んでもよい。好ましい実施形態において、分光計がマイクロマシンの大きさである場合には、基板および導電面には、所望の形状および構成を形成するため、およびイオンチャネルを設けるために、従来の半導体処理技術を用いて、好都合なことにエッチングを施されてもよい。これにより、多くのチャネルを平行に小さな大きさで形成することが可能となる。
【0045】
イオンチャネルの長さは、フィルタの深さより小さいことが好ましく、著しく小さければ好ましく、たとえば、少なくとも10倍小さい。一部の好ましい実施形態において、フィルタは略ウェーハ状の形状を有し、チャネル長さはフィルタ深さのごく一部である。特に好ましい実施形態において、チャネル長さは、1000ミクロン未満、900ミクロン未満および800ミクロン未満であるのに対し、フィルタ深さは、10,000ミクロンより大きい。好ましいチャネル長さは、1000〜100ミクロンであり、800〜300ミクロンであればさらに好ましく、500〜300ミクロンであれば最も好ましい。
【0046】
本発明の別の態様によれば、イオナイザと、イオンフィルタと、イオン検出器と、を備えるイオン移動度分光計が提供され、
イオンフィルタは、複数のイオンチャネルを画定し、イオンは、そのイオンチャネルに沿ってイオナイザからイオン検出器まで通過することができ、
イオンフィルタは、イオンチャネル付近に配置される複数の電極を備え、
分光計は、第1の駆動電界がイオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が第1の電界に対して直角に生成されるように、電極を制御するための電極制御手段をさらに備える。
【0047】
本発明はまた、イオン移動度分光計などの分光計に用いるためのイオンフィルタが提供され、フィルタは、イオンが通過しうる複数のイオンチャネルを画定し、複数の電極がイオンチャネルの付近に配置され、電極はイオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を生成することができ、第1の電界に対して直角に第2の横電界を生成することができるように構成される。
【0048】
本発明のさらに別の態様によれば、イオン移動度分光計の製作方法であって、
導電層が2つの面に設けられている略平面抵抗基板を設けるステップと、
電極が付近に配置されている複数のイオンチャネルを画定する2つ以上の互いに嵌合する電極アレイを備えるフィルタを提供するために、パターン形成、たとえばエッチングを施すステップと、
検出器電極を備える略平面イオン検出器層に上記のフィルタの1つの面を接合するステップと、
検体をイオン化するための手段を含む略平面イオン化層に上記のフィルタの対向する面を接着、たとえば接合するステップと、
を含む方法が提供される。
【0049】
方法は、第1の駆動電界がイオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が第1の電界に対して直角に生成されるように、電極を制御するための電極制御手段を設けるステップと、をさらに含むことが好ましい。
【0050】
本発明のこれらの態様および他の態様は、添付の図を参照して、一例としてここでは記載されるに過ぎない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
図面の詳細な説明
図1は、従来のFAIMS(電界非対称性イオン移動度分光測定法)の動作に関する概略図に示されている。空気は、大気圧で試料の成分がイオン化される反応領域に引き寄せられる。イオン12a、12bは、一方は低電圧直流バイアスを有し、他方は周期的な高電圧パルス波形を有する2つの金属電極14a、14bの間で飛ばされ、イオンが衝突し、電流が記録される検出器プレート(図示せず)に達する。イオンは、パルス位相の中では一方の電極に向かって急速に駆動され、パルス間では対向する電極に向かってゆっくり駆動される。一部のイオン12aは、検出器プレートに到達する前に、電極に衝突する。適切な差動移動度を有する他のイオン12bは、端部に到達し、これを一種の差動移動度イオンフィルタにする。生成される電流対直流バイアスのグラフは、特徴的な差動イオン移動度スペクトルを提供する。スペクトルにおけるピークの強度は、変化量に対応し、薬剤の相対濃度を表す。
【0052】
本発明のフィルタの動作の概略図が、図2aおよび図2bに示される。この設計は、拡大縮小の制限を克服または低減することを意図している。本発明者の手法は、低電圧動作をもたらす革新的な電極の幾何構成に重点を置いている。互いに嵌合される電極構造は、高抵抗率のシリコンによって狭いチャネルの密なアレイをエッチングすることによって形成される。イオンは、ポンプレス動作を達成するために、可動ガスフローの代わりに、電界に左右される新規な運搬機構によってチャネルを通って駆動される。イオンチャネル22は、導電層26を保持するシリコン基板24によって画定され、導電層26は、イオンチャネルへの入口およびイオンチャネルからの出口の各隅にある電極を画定する。示された増幅器28は、アナログ加算器を表す。金属プレートは、高抵抗率のシリコンによって取って代わることを留意されたい。チャネルの両端で生成される高電圧パルスおよび低電圧直流バイアスに加えて、チャネルを通るイオンを駆動し、可動ガスフローの必要性を排除するために、別の直流源30が駆動電界を形成する。理論的な分析は、拡散に起因するチャネル側壁へのイオン損失を回避するほど十分に高速にイオンを推進することができることを示している。図2aは複数のイオンチャネルを有する好ましい実施形態を示し、図2bは明確にするために制御電子機器と共に、単独のイオンチャネルを示している。フィルタは通常、チャネルの両端で40〜200Vの電界によって動作され、高電圧パルスは通常3MHz〜10または20MHzである。駆動電界は一般に、10〜40Vであってもよい。
【0053】
図3は、本発明のセンサの斜視図を示す。センサは、記載されているように、共に接合される複数の分離層から形成される。イオンチャネルは、イオンの移動がシリコン基板面に垂直に向けられるように垂直方向に向けられる。この幾何構成により、サブシステムを積層され、イオンフローの順序で接合される分離ウェーハ層に分離することができ、最小の可能なサイズの十分に集積されたガスセンサを製作することができる。
【0054】
センサの分解斜視図が、図4に示されている。分光計は、フィルタ層に加えて、複数の層を備える。上から下まで、これらの層は、注入層50、除湿器層60、濃縮素子層70、イオナイザ層80、フィルタ層90および検出器層100である。
【0055】
これは、考案された一実施形態に過ぎず、きわめて簡素化されるか、または種々の態様に改良されることができる。たとえば、フィルタ層および検出器層は、検出器電極として絶縁体上のシリコン(SOI)ウェーハ処理層を用い、背面に集積回路を堆積させるか、またはデバイスから制御電子機器を単に移動させることによって、一体化させることが可能である。除湿器層および濃縮素子層は、同一の層に共に一体化されることも可能であり、またはデバイスの外側であって、センサの共振器ハウジングの中に移動されることも可能である。イオナイザは、注入スラブの下側に金属の放射性同位元素フィルムをパターン形成することによって注入層と一体化させることが可能である。最も簡素な場合において、センサは、ちょうど2層、単独のSOIウェーハに製作される集積フィルタおよび検出器層と、下側に金属イオン化材料がパターン形成された多孔性注入キャップと、から構成されることが可能である。この実施形態は、1つの接合ステップを必要とするだけに過ぎない。
【0056】
本発明者らの概念は、性能の向上のために小さなサイズ特性を利用することによって抜きんでている。微細構造のフィルタ層は、低電圧を用い、可動ガスフローの必要性を排除する検体運搬の新規な方法を実現し、ポンプレス動作を可能にする。マイクロスケールの断熱により、高速のマイクロスケール濃縮素子の低電力動作を促進する。密に集積された検出器は、感度を向上させる。センサ共振器の小さなサイズにより、性能を劣化する湿度を除去するための簡単な手法を可能にする。本発明者らの微小電子機械システム(MEMS)実装のバッチ製作の利点により、いたるところに存在する配備のシナリオにうまく適合させる。
【0057】
構成
図4に示されているように、別個のサブシステム層を共に接合することによって、完成したセンサが形成される。この構成は、簡単な整備および製作しやすさのために、各サブシステムを独立したウェーハの上に製作することが可能である。各サブシステム層の機能および組立の詳細は、以下で与えられる。層は、スルーチップバイアまたは簡単なワイヤボンディングを用いて電気的に相互接続される。
【0058】
図5:注入層
機能:この層の機能は、粒子が検出器に入らないようにすると同時に、検体を分析領域に拡散可能にすることである。
【0059】
構成:この層は、粒子が通過しないほど十分に小さい孔のサイズを有する微孔性媒体(セラミックなど)から構成される。図示されているように。簡単な平面構成を有する。
【0060】
製作:微孔性媒体は、さらに製作する必要がない適切なサイズのウェーハとして入手される。それは、センサーウェーハ積層の最上部に単に接合されるだけである。
【0061】
図6:除湿器層
機能:この層の機能は、センサ共振器の湿度を制御することである。水蒸気がFAIMS中の化合物の分離に作用し、それが制御されない場合には、解像度の向上を助けることができるが、測定における不確定要素を加える可能性があり、性能の劣化につながる。湿度の制御は、水蒸気の除去またはセンサ共振器の乾燥によって達成される。乾燥は、分析領域に入る前に、センサ入口で湿度を選択的に除去する材料を用いることによって達成される。この材料は、吸収した水分を一掃するために定期的に加熱される。
【0062】
構成:特殊な吸収フィルム62が、この部分の上面に沿って浮かせたマイクロホットプレート64を覆う。マイクロホットプレートは、窒化シリコン膜66の上に堆積される蛇行したポリシコンワイヤからなる。構成要素はすべて、シリコン基板68の上に形成される。吸収フィルムは、直径3Å以下の孔を有する分子ふるい化合物を含む。孔は、水分子を吸収するのに十分なほどちょうどの大きさであるが、小さすぎて検体化合物を吸収することはできない。
【0063】
製作:ポリシリコンおよび窒化シリコンの堆積が行われ、リソグラフィを用いてマイクロホットプレートにパターン形成が施される。あるいは、工業用のCMOS工程が用いられる。次に、吸収フィルムが、上部に堆積され、エッチングによる剥離が用いられ、構造を浮かせる。
【0064】
図7:濃縮素子層
機能:この層の機能は、分析用の検体を濃縮することである。これは、除湿器層において用いられた材料のような分子ふるい材料72を用いて達成されるが、この材料は選択性に乏しい。分析周期中に濃縮した検体プルームを除去するために加熱される。
【0065】
構成:特殊な吸収フィルム72が、この部分の上面に沿って浮かせたマイクロホットプレート74を覆う。マイクロホットプレートは、窒化シリコン膜76の上に堆積される蛇行したポリシコンワイヤからなる。吸収フィルムは、大きな孔サイズを有する分子ふるい化合物を含む。孔サイズは、所望の検体のすべてが吸収されるように選択される。
【0066】
製作:ポリシリコンおよび窒化シリコンの堆積が行われ、リソグラフィを用いてマイクロホットプレートにパターン形成が施される。あるいは、工業用のCMOS工程が用いられる。次に、吸収フィルムが、上部に堆積され、エッチングによる剥離が用いられ、構造を浮かさせる。
【0067】
図8:イオナイザ層
機能:イオン化層の機能は、検体をイオン化することである。最初はこの目的のために放射性同位元素が用いられるが、紫外発光ダイオード(UV−LED)が代替物であってもよい。UV−LEDは、潜在的により選択性があるが、適切な種類は未だ利用可能ではない。照射はイオン化組立体の内部に完全に閉じ込められているため、センサ性能が劣化することになるフィルタ領域ではイオン化は生じない。
【0068】
構成:この層は、本質的に中空の共振器であり、その中でイオン化が行われる。イオン化刺激を形成するために、UV−LEDまたは放射性フォイル82が接着される。処理がより安全であり、潜在的により選択性があり、循環することができ、公衆の中で警報を発することが少ないことから、UV−LEDがより望ましい。放射性源は電力を消費せず、安全である場合がある。残念なことに、適切なUV−LEDは未だ利用可能ではないが、開発に対する進展が著しい。許容可能な紫外線減は、280nmより短い波長を放射しなければならない。
【0069】
製作:窒化シリコン膜84が堆積され、金属シード層がその上に堆積される。開口部が膜および層の両方にパターン形成される。次に、放射線源82がシード層の上に電気メッキされる。最後に、バルクエッチが行われて、共振器を形成する。
【0070】
図9:フィルタ層
機能:フィルタ層の機能は、選択されたイオン種を検出器に入れて、選択されていないイオン種のすべてを中和することである。これは、イオン化された検体を2つの直交電界が同時に作用するマイクロチャネル92のアレイに導入することによって達成される。マイクロチャネルの壁に拡散される時間を有する前に、フィルタ領域を通って迅速にイオンを推進するために、駆動静電界が印加される。低い電界移動度に対する高い電界移動度の特定の比を備えたイオン種を選択するために、横方向に振動する電界が印加される。
【0071】
構成:この層は、わずかに離隔された1対の互いに嵌合される電極94a、94bからなる。電極は、幅が数ミクロンおよび深さが数百ミクロンであり、きわめて高い(通常10〜100)のアスペクト比のチャネル92を形成し、その中でフィルタ動作が行われる特徴部を備えた高抵抗率のシリコン96から製作される。フィルタ層によって占められる体積の大部分は、開放空間である。チャネルの大きな結合されたアパーチャは、イオンをフィルタ領域に効率的に結合することができ、イオン処理能力、ひいてはデバイスの感度をきわめて高くすることができることを意味する。狭いチャネル幅は、電圧はギャップ距離に対応するため、横電界を形成するために必要な電圧がきわめて小さく、通常数十ボルトであることを意味する。高抵抗率のシリコンが用いられるため、電極は抵抗器として作用する。各電極の上から下まで通過する電流は、構造によってイオンを駆動するために用いられる駆動静電界を生成する。
【0072】
製作:フィルタ層は、主に従来の微小機械加工技術を用いて製作される。絶縁体上のシリコン(SOI)ウェーハは、薄い導電性電極面96を形成し、オーム接触98を促進するために、両側に特別にドープされた高抵抗率のデバイス層によって特別仕様に形成される。深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)が用いられ、高いアスペクト比の特徴部を形成する。20:1のアスペクト比が十分であることを計算は示している。当然のことながら、他のアスペクト比、たとえば10:1または20:1を超えるアスペクト比を用いてもよい。チャネルを開放し、覆われた電極面へのアクセスを設けるために、バックエッチングおよび次に、酸化物エッチングによる剥離が行われる。
【0073】
フィルタ構造は、さまざまな従来の微細加工技術によって製作されることができる。1つの代表的な工程は、以下のステップを含む。用いられる基板は、高抵抗率のシリコンウェーハである。アルミニウムがウェーハの上面および下面に堆積され、次に、各面にフォトレジストコーティングが施される。上面はマスクで覆われ、フォトリソグラフィを施される。その後で、上面のアルミニウムコーティングがウェットエッチングされ、電極のアレイを形成する。フォトレジストが、両面から剥ぎ取られ、下面の電極を形成するために工程が繰り返される。上面に別のレジストコーティングが塗布され、その後で、シリコンが深掘り反応性イオンエッチングを用いてより下の面からエッチングされ、チャネルを形成する。最後に、フォトレジストが剥ぎ取られ、別の処理のために充填剤が用意される。
【0074】
この技術の変形において、シリコンウェーハは最初は、下面でガラス基板に接合されてもよい。次に、種々のエッチングステップが上面から行われ、チャネルおよび電極を形成し、その後で、ガラス基板が、酸エッチングされ、ウェーハの下面を露出させ、ウェーハと接触していたガラス支持材を残したままにする。他の変形としては、ガラス以外の基板の使用および異なる順序で列挙されたステップの実行が挙げられる。
【0075】
図13は、本発明のフィルタ構造の一部の電子顕微鏡写真を示す。
【0076】
図10:検出器層
機能:検出器層の機能は、イオンフィルタ層を駆動する信号を生成し、フィルタを通ったイオン種の電流を収集して測定し、検出電流と駆動信号を相関することによって計算された分光測定法データを出力することである。
【0077】
構成:すべてのシステム回路102、すなわち、フィルタ電極ドライバ、検出器トランスインピーダンス増幅器、データ変換器および制御論理回路がこの層に含まれる。回路は、酸化物層106によって保護され、イオン収集電極104が上に露出される。より良好な不動態化を行うために、漏れ電流から収集電極を保護するために、中間の金属層108を追加してもよい。回路から基板の下部のハンダパッド110までのバイアが、フリップチップ実現のために形成される。分析時間を短縮するために、複数の検出器チャネルを用いてもよい。この構想は、フィルタ電極および関連回路を並列に複製することが必要である。
【0078】
製作:すべての回路および電極は、必要な電圧を可能にする工業用の混合信号型BiCMOS工程を用いて製作される。提供されるウェーハは、回路と背面との間にバイアを形成するために、DRIEおよび金属化ステップを用いて後処理され、続いて、ハンダバンプが形成される。
【0079】
ある実施形態において、たとえば、検出器電極として作用する基板にフィルタ層を接合または製作することによって、検出器電極は、フィルタ層に一体化されてもよい。
【0080】
制御アルゴリズムおよび分析アルゴリズム
フィルタ層電極は、低電圧および従来の集積回路を用いて制御されるため、フィルタ領域内の電界強度を従来の設計で可能である場合よりも正確でより複雑な態様で制御することができる。したがって、差動移動度をより正確に決定することができ、その結果、この精度のために、解像度が向上すると期待される。さらに複雑な制御アルゴリズムおよび分析アルゴリズムにより、既存のFAIMS設計の場合のようなちょうど2つの点ではなく、複数の電界強度で、検体のイオン移動度をサンプリングすることによって、誤認警報をより少なくすることができると考えられる。
【0081】
組立てられた分光計は、分光計を制御し、データを監視するために用いることができるコンピュータなどのプロセッサ手段に接続してもよい。
【0082】
試料デバイスは、記載したように構成され、アセトンの試験試料を監視するために用いられた。図11は、デバイスにわたってアセトンのフローが増大したときに、デバイスの変化する応答を示すグラフである。図12は、アセトンがデバイス内に導入されるときのデバイスからの応答におけるシフトを示しており、感知応答を得ることができることを示している。
【0083】
本発明による分光計の実施形態は、従来の分光計に比べて、設計に関して複数の利点が得られると考えられる。これらの利点は、以下の通りである。
a)緊密な集積化および小さなセンササイズ。完成品は、1平方センチメートル未満の設置面積および1立方センチメートル未満の体積で製作することができる十分に集積されたモノリシックセンサである。その小型サイズにより、多くの新たな用途および開発のシナリオを可能にすると期待することができ、そのモノリシック構成により高い力に対して弾力性に優れていることになる。
b)簡素なシステム設計、改変、製作および検査。本発明の手法は、3次元センサを2次元層に分けている。これらの層は、独立かつ並列に設計される。これらは、既存の微小機械加工工程を用いて製作されることができ、従来のウェーハプローブ機器を用いて容易に試験を行うことができる。
c)さらなる実装および組立の必要性の低減または排除。小区分はウェーハボンディングによる気密性の態様で接続されるため、外部の実装をほとんどまたは全く必要としない。ポンプレス設計により、外部ポンプによって製作後の組立の必要性を排除する。MEMS実装は、デバイスの総コストの大部分である可能性がある。したがって、簡素化された実装の要件を備えた設計は好ましい。
d)フリップチップの実現。イオンは、上に向かって引き寄せられ、下で検出器に向けられる。検出器層はすべての回路を含み、最下層であるため、スルーチップバイアは背面にあるハンダパッドと回路を接続することができ、フリップチップデバイスを形成する。フリップチップ接続構想は、取付けのための最小の基板上の面積を必要とし、最小の可能重量を提供し、最も信頼性の高い相互接続を有する。
e)従来の微細加工技術を用いた製作。SOIのDRIEなどの標準的な微小機械加工製作技術のみが必要とされる。したがって、最小のプロセス開発が必要とされ、基本材料は、経済的な価格で大量に容易に入手可能であり、既に量産可能な製品が既に存在する。
【0084】
本発明のある実施形態において、分光計は、膜、特に半透膜をさらに備えていてもよい。たとえば、膜は、延伸PTFE(「ゴアテックス(GORE−TEX)」(RTM)という名前で販売されているものなど)から製作されてもよい。そのような半透膜は、本発明では種々の用途が見つけられる可能性がある。
【0085】
分光計の注入口は、膜によって覆われていてもよい。これは、複数の機能を有する。一つは、塵および粒子がデバイスに入らないようにすると同時に、半透膜により、依然としてガス状の検体が入ることができるようにことである。膜は、分光計の活性領域から有極性分子を排除してもよい。過剰な有極性分子は、デバイスの解像度を低下させ、データに作用するクラスタ化を生じる可能性がある。膜は、センサに直に隣接する領域に検体を濃縮させるために作用し、それにより感度を向上させる。さらに、液体は膜を通り過ぎてもよいため、検体は液体から気相においてデバイスに拡散することができ、それにより、液体試料の分析を可能にすることができる。膜は、加熱素子を組み込んでいてもよい。膜の温度が変化することにより、膜にわたる拡散工程に影響することができ、さらなる選択性を可能にする。
【0086】
デバイスから特定の分子種を排除するために、適切な膜材料の選択もまた、用いてもよい。
【0087】
特に膜がまた加熱素子を組み込んでいる場合は、膜はまた濃縮素子として用いられてもよい。温度が上昇するまで検体が維持される場合には、検体は膜の中で拡散されてもよい。これにより、比較的高濃度の検体をデバイスに放出する。膜は、分光計の注入口を単に覆うだけでもよいが、好ましい実施形態において、デバイスにつながる注入チューブの形状をとってもよい。試料はチューブに沿って連続的に通過し、時間の経過と共に何らかの試料データを生じると同時に、必要に応じて注入チューブから検体の濃縮プラグを外してもよい。液体をサンプリングするために、注入チューブを試料の中に浸漬してもよく、これにより検体を液体から膜の中に拡散することが可能となる。膜の加熱により、検体を分光計の中に放出する。これらの実施例が、図14および図15に示されている。
【0088】
また、試料導入デバイスとして、別個の膜を用いてもよい。埋め込み型シリコンウェーハに含まれるPDMS(ポリジメチルシリコーン)膜(または他の適切な材料)は、液体またはガス状の試料を導入することができる。試料からの検体は、膜の中に吸収される。次に、試料導入デバイスは、分光計に隣接して位置決めされ、シリコンウェーハを通過した電流は、ウェーハおよびその結果として膜を加熱するために機能する。続いて、吸収された検体は、分光計に隣接する位置で脱離される。この配置構成により、分光計から離れた位置でサンプリングを行うことができる。サンプリングデバイスは、電流がシリコンウェーハを通過することができるようにするために、分光計の電子機器に接続可能であってもよい。
【0089】
分光計に標準器を組み込むために、種々の膜関連デバイスを用いてもよい。標準器の使用により、分光計の応答の較正を可能にし、一部の環境では温度または湿度の変化量もまた補正することができる。膜標準器は、標準器事態の濃度ではなく、選択された膜の物理的特性に著しく左右される略一定の速度で検体を放出する。したがって、そのような標準器は、製作が比較的簡単で堅牢であり、正確な再較正を必要とすることなく再充電することができる。膜標準器の搭載は、種々の態様で達成してもよい。固体の場合には、標準器は、膜硬化工程中に導入されてもよい。液体または気体の場合には、膜を用いて標準器の試料を包囲してもよく、気体の場合には、膜を制御可能な頭隙に充満させて格納させることができる。用意の調った較正を可能にするために、膜標準器は、分光計とは別個の構成要素であってもよく、分光計に一体に組み込まれてもよい。たとえば、標準器は、分光計につながる注入パイプに接続されてもよい。これは、図16に示されている。また、サンプリングデータの連続的な監視および検証のために、内部標準器を用いてもよい。用いられる標準器は、特定の用途に依存するが、好ましい標準器は、高い陽子/電子親和力を有するか、または陽子/電子を提供することができ、対象の化合物から分離することができ、当然のことながら干渉を発生することによってかき消されることはない。
【0090】
検出器アレイに複数のフィルタおよび/または検出器を組み合わせて、さまざまな検体に対する感度を向上させてもよい。単独のフィルタの場合には、あるイオン種を透過するようにフィルタをを調整するために、補償電圧を掃引することが必要である。時間の大部分では、所定の検体に対して補償電圧を調整することはできず、電圧が掃引されるため、遅延時間が生じる。複数のフィルタおよび/または検出器を組み合わせることにより、各フィルタは、所定の特定の検体を検出するために1つの電圧に調整されたままにすることができると同時に、アレイ方式により、さまざまな異なる検体の検出を可能にする。センサアレイからの出力は離散スペクトルとなり、複数のチャネルが所定の検体数に対応する。また、選別を向上させ、干渉の影響を低減するために、各デバイスにおいて同一の電圧であるが異なるドーパントの化学的性質を有するように調整された複数のフィルタを有することも可能である。または冗長性のために、さらに複数の同一のフィルタを用いることも可能である。
【0091】
単独のフィルタに関して複数の検出器電極を用いることによって、感度のさらなる向上を達成することができる。単独の検出器電極が用いられる場合には、これは複数のイオンタイプを含む総イオン電流を測定すると同時に、1つのタイプのみを目的としうる単独のプレートである。イオンがフィルタを離れるときに、イオンによって取られる出口経路に直交する一連の別々の検出器電極を用いてもよい。これは、検出器に向かってイオンを引き寄せる直交電界を形成する。イオンが電極に向かって移動する速度は、イオンの移動度に左右され、電界の直線成分が依然としてあるために、異なる移動度のイオンは異なる検出器電極に衝突する。これは、フィルタを通過する異なるイオン種を検出する際により良好な感度を可能にする。実施例の検出器電極アレイが、図17に示されている。
【0092】
検出器の感度を向上させる別の手段は、個別のイオンが検出器プレートに衝突するときに電荷を徐々に増大するコンデンサに検出器電極を結合することによる。コンデンサの定期的な放電により、イオンの寄与を時間の経過と共に合計することができ、それによって、デバイスの感度および信号対雑音比を増大させることができる。
【0093】
または、ある環境では感度を向上させるために、代わりにスイッチ積分器を用いてもよい。イオン検出器は、積分器へのスイッチに接続される。これは、出力電圧を測定するために切り換えられ、第2のスイッチはデバイスをリセットするために繰り返される。スイッチ積分器の実施例が、図18に示されている。
【0094】
ある実施形態において、本発明の分光計は、検出用のスイッチモードで動作してもよい。すなわち、検出器は、規則的な間隔で試料を取得するために定期的に作動される。この動作モードを用いて、電力消費を加減し、デバイスの動作寿命を延長してもよい。これは、デバイスが試料の長期にわたる監視のために用いられることを意図している場合に、たとえば、セキュリティ用途において特に利点となる。
【0095】
分光計の動作はまた、デバイスの性能を変更するために、デバイスが実行される温度および/または圧力を変更することを含んでもよい。
【0096】
本発明はこれまでフィルタを通るイオンを駆動するために、電界のみを用いることに関して記載してきたが、前述のように、向流または電界によって駆動されるイオンフローと同一の方向のフローとして、ガスフローと組み合わせてフィルタを用いることも可能であることは明白であろう。
【0097】
ガスフローは、実施形態では分光計へのイオンの導入に関してのみ用いてもよいのに対し、一旦イオンがデバイスに入ると、電界は動作する。あるいは、イオンを選択的に入れるために、横電界のみによって、フィルタを動作させてもよい。イオンの長手方向の移動は、単に長手方向のガスフローによって制御される。
【0098】
本発明の一部の実施形態において、フィルタ構造は、ガスフローモードで動作するための完全に固体の金属素子として製作されてもよく、または金属コーティングされたシリコンまたは他のウェーハ構造として製作されてもよい。金属コーティングは、たとえば、スパッタリング、気化、電気メッキ、無電界電気メッキ、原子層蒸着または化学気相蒸着によって形成されてもよい。固体の金属デバイスは、水切断、レーザ切断、機械加工、フライス加工またはLIGAによって製作されてもよい。この配置構成は純粋に電界によって駆動されたデバイスの利点は備えていないが、ガスフロー推進を備えた小型化されたフィルタを利用することができることにより、動作電圧の低減などの利点を有する。イオンチャネルの互いに嵌合されるアレイを用いることにより、用いられるより低い電圧をある程度まで補償する。
【0099】
上述したように、イオンを分光計に結合するために、ガスフローを用いてもよい。別の導入方法は、電気スプレーイオン化を用いることである。溶媒の中で溶解された検体は、帯電されるキャピラリの薄い針先を通って押し出される。これは、逆に帯電されたピンホールの孔に向かって加速される発射された液滴の帯電を誘発する。これにより、非放射性のイオナイザの使用を可能にするほか、一部の検体を劣化させる可能性がある加熱することなく液相のイオン化を可能にし、ペプチドなどの一部の高分子のイオン化も可能にする。
【0100】
本発明のフィルタ構造は本質的にウェーハ構造を有するという形で記載してきたが、ウェーハ構造ではなくはるかに長いイオンチャネルを有するフィルタを形成するために、適切なフィルタ構造は複数の積層された平面層から構成されてもよいことは明白であろう。
積層の交互の層は、電気的に並列に接続されてもよい。ウェーハ構造はマイクロスケールの製作には特に適しているが、金属コーティングされたセラミック層などのマクロスケールの構成要素のほか、EFAB工程を用いるなどのマイクロスケールを用いて、積層された平面配置構成を達成してもよい。この実施形態において、イオンチャネルの長さの増大のために、チャネルを通ってイオンを駆動するために、本発明のこの実施形態はガスフローおよび電界の組み合わせによって動作することが好ましい。このフィルタ構造の概略図が、図19に示されている。
【0101】
本発明のフィルタ構造は、差動によって駆動されてもよい。すなわち、横電界の交流成分が、異なる位相でイオンチャネルの対向する側に印加されてもよい。
【0102】
イオンチャネルは、その壁に位置する不活性導電粒子をさらに含んでもよい。これらは、ナノ粒子、たとえば金のナノ粒子であってもよい。イオンチャネルがシリコンを含む場合には、時間の経過と共に、表面の一部の酸化が生じ、デバイスの電気特性を変化させる。不活性粒子は酸化されることはないため、チャネルの表面の酸化に関係なく、イオン接触用の導電面を形成する。
【0103】
本発明の分光計は、1つ以上の他の検出デバイスまたは分析デバイスに結合されてもよい。または、分光計は、1つ以上の他の分析技術と組み合わせて動作してもよい。分光計は、そのようなデバイスから検体を受け入れてもよく、検体を上記のデバイスに運搬してもよい。代表的な別の検出技術または分析技術としては、質量分析法、ガスクロマトグラフィ、イオン移動度分光測定法、液体クロマトグラフィ、キャピラリ電気泳動法、水素炎イオン化検出法、熱伝導率検出法および固相微量抽出法が挙げられる。これらの技術のいずれかまたはすべてを本発明と組み合わせてもよく、本発明によれば、本発明の分光計はまた、他の分光計と組み合わせてもよい。
【0104】
本発明の分光計の2つの代表的な用途は、薬物の呼吸分析およびワインの品質制御が挙げられる。薬物の呼吸分析の場合には、デバイスは、被験者の呼気における規制された物質の使用に起因する揮発性の代謝物を検出するために用いることができる。これは、髪、血液または尿の分析に一般に依存する既存の分析技術よりはるかに高速で簡単である。検出対象の代謝物は、選別対象の物質に左右される。
【0105】
ワインは、飲料の風味および品質を損なう腐敗またはコルク栓に影響されやすい。コルク栓を施されたワインには、トリクロロアニソールおよびテトラクロロアニソール、トリクロロフェノールおよびテトラクロロフェノールなどの複数の汚染物質が含まれている。本発明の分光計を用いてこれらの化合物を検出することができる。一部の実施形態において、分光計は、標準的なワイン瓶の首の中に着座することを目的としたコルク形状のハウジングに組み込むことができ、ワインサンプルの迅速な試験を可能にする。結果を迅速に読み取ることができるようにするために、簡単な赤色光または緑色光による警報をデバイスに組み込んでもよい。あるいは、デバイスは、瓶詰めの品質制御を保証するために、ワインの瓶詰め生産ラインに組み込まれてもよい。瓶詰めを行う前にコルクの上に引き込まれる空気をサンプリングし、コルク自体の汚染物質を検査するために、デバイスを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】従来のFAIMSフィルタ構造の概略図である。
【図2a】本発明の実施形態による分光計と共に用いることができるようなFAIMSフィルタ構造の概略図である。
【図2b】本発明の実施形態による分光計と共に用いることができるようなFAIMSフィルタ構造の概略図である。
【図3】本発明の実施形態による分光計の斜視図である。
【図4】図3の分光計の分解斜視図である。
【図5】図3の分光計の注入層の斜視図である。
【図6】図3の分光計の除湿器層の斜視図である。
【図7】図3の分光計の濃縮素子層の斜視図である。
【図8】図3の分光計のイオナイザ層の斜視図である。
【図9】図3の分光計のフィルタ層の斜視図である。
【図10】図3の分光計の検出器層の斜視図である。
【図11】試料フローが変化するときの本発明による分光計の応答を示すグラフである。
【図12】検体としてのアセトンに対する本発明による分光計の応答を示すグラフである。
【図13】フィルタ構造を示す本発明の実施形態によるイオンフィルタの一部の電子顕微鏡写真である。
【図14】本発明に関する加熱膜注入チューブの使用を示す。
【図15】本発明に関する試料流体に対する注入チューブの使用を示す。
【図16】本発明への標準器の組み込みを示す。
【図17】本発明と共に用いることができるような検出器電極アレイを示す。
【図18】本発明と共に用いることができるようなスイッチ積分器を示す。
【図19】積層された平面層から形成されるフィルタ構造の実施例を示す。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、イオン移動度分光計に関し、さらに詳細には電界非対称性イオン移動度(FAIM)分光計に関する。本発明のある態様は、マイクロマシン型FAIM分光計に関する。本発明の態様はまた、イオン移動度分光測定法の実行方法およびそのような分光計に用いるための構成要素に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
イオン移動度分光測定法は、ガス試料における分子種の存在を検出するために用いられる汎用性の広い技術である。この技術は、試料中の爆薬、薬物および化学薬剤の検出において特定の用途があるが、これらの用途に限定されるわけではない。携帯型の検出器は、手荷物検査および防衛業界では一般に用いられる。しかし、それにもかかわらず、従来の携帯型デバイスは、依然として比較的大きいものである。
【0003】
イオン移動度分光測定法は、電界を通って検出器までの異なるイオン種の差動移動に左右され、電界の変数の適切な選択によって、仮にそうであるとしても、異なる特性を有するイオンは異なる時間に検出器に到達することになる。飛行時間(TOF)型イオン移動度分光測定法では、ドリフト(drift)ガスフローに逆らって検出器までドリフトチューブに沿って進むように電界に曝すときに、イオンによってかかる時間を測定する。電界を変化させることによって、異なる特性のイオンは、異なる時間に検出器に到達し、試料の組成を分析することができる。分光測定法のこの形は、その解像度に関してドリフトチューブの長さに左右される。ドリフトチューブが長ければ長いほど、検出器はより高性能になる。これは、事実上用いられうるドリフトチューブをより小さくすることに対する制限があることから、そのような分光計の可能な小型化を制限する。さらに、比較的高い電界強度が必要である場合には、ドリフトチューブの長さに関する制限はまた、デバイスにおいて比較的高い電圧を用いる必要性を生じることになり、作業者に対して潜在的に危険となる恐れがあり、デバイスの小型化の可能性を制限する。
【0004】
TOF型イオン移動度分光測定法に関する変形は、米国特許第5,789,745号明細書に記載され、ドリフトガスフローに逆らって検出器に向かってイオンを移動するために、可動電位を利用する。複数の離隔された電極は、可動電位井戸(a moving potential well)を生成するために交互にパルス発生され、可動電位井戸と共に選択されたイオンを搬送する。このデバイスは、他にも理由があるものの、ドリフトガスフローを生成するためにポンプを必要とするために、小型化に適していない。
【0005】
電界非対称性イオン移動度分光測定法(FAIMS)は、飛行時間型イオン移動度分光測定法(TOFIMS)から派生した方法であり、潜在的により小さな形状因子を提供する。しかし、既存の設計は、可動ガスフローおよび高電圧を用い、マイクロチップの実現には望ましくない。スケーリングは、分子拡散によってさらに妨げられ、その影響はミクロンレ領域では大きくなる。FAIMsに関連する背景技術については、L.A.ブリヤコフ(L.A.Buryakov)ら著、Int.J.Mass.Spectrom.Ion Process.128(1993)143およびE.V.クリロフ(E.V.Krylov)ら著、Int.J.Mass.Spectrom.Ion Process.225(2003)39−51に見られる。これらは、参照によって本願明細書に援用されるものとする。
【0006】
従来のFAIMSは、試料の成分がイオン化される反応領域に大気圧における空気を引き寄せることによって動作する。気相の化合物中の化学薬剤は、それらの親イオンに曝されると、イオンクラスタを形成する。イオンクラスタの移動度は主に、形状および重量の関数である。イオンは、一方は低電圧直流バイアスを有し、他方は周期的な高電圧パルス波形を有する2つの金属電極間で飛ばされ、イオンが衝突し、電流が記録される検出器プレートに達する。イオンは、パルス位相の中では一方の電極に向かって急速に駆動され、パルス間では対向する電極に向かってゆっくり駆動される。一部のイオンは、検出器プレートに到達する前に、電極に衝突する。適切な差動移動度を有する他のイオンは、端部に到達し、このデバイスを一種の差動移動度イオンフィルタにする。生成される電流対直流バイアスのグラフは、特徴的な差動イオン移動度スペクトルを提供する。スペクトルにおけるピークの強度は、変化量に対応し、薬剤の相対濃度を表す。
【0007】
この配置構成は、従来のTOFIMSよりさらに小型化することができる可能性を提供するが、ガスフローを生成するための必需品として、ポンプ、絞り(diaphragm)または類似物を必要とし、現在の技術を用いることにより、そのようなデバイスのサイズを小さくすることに限界がある。そのようなデバイスの代表的な実例が、米国特許第6,495,823号明細書および米国特許第6,512,224号明細書に記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
検知技術に用いるための小型イオン移動度分光計を提供することは利点となるであろう。これらは人目をはばかる用途または大規模の流通に適しているほか、より小さなサイズはデバイスにおけるより低い電圧の利用を可能にすると思われる。可動部品が全くないか、または従来のデバイスより少ないデバイスもまた、従来のセンサより堅牢であるという点で利点となることから、交通量の多い領域または過酷な環境における配備にも適している。
【0009】
本発明者らは、その動作のためにドリフトガスフローを必要としないFAIMSの別の変形を開発した。代わりに、イオンを検出器に向かって移動させるために、電界が用いられる。これにより、ガスポンプまたは類似物を必要とすることなく、固体素子の構成を可能にし、他の方法で可能であると考えられる場合より、デバイスのさらなる小型を可能にするほか、堅牢な構成を可能にする。ポンプを必要とせず、電子機器のサイズを縮小しうるため、システムは、全体としてサイズおよびコストを削減することができる。サイズの縮小により、電極間のギャップのサイズをさらに小さくすることができ、したがって、小型化につながるより低い電圧、さらに集積した電子機器、より高い精度および制御可能な波形、電力消費および解像度に関する性能の向上を可能にする。イオンフィルタは、単に電界特性を変更することによって、容易に再調整可能であるため、検出されたイオンのスペクトルは、複数の分析に関する情報を同時に提供することができる。フィルタおよび次の分析を制御するソフトウェアを変更し、したがってシステムを高度にカスタマイズ可能にすることによって、さらなる検体の検出を組み込んでもよい。
【0010】
本発明の他の利点としては、この場合もソフトウェアの制御によって達成しうる時間の経過と共に複数の変数を調整することによる偽陽性(fales positives)の削減が挙げられる。出力を組み合わせ、局所的な干渉の有害な影響を削減し、分類の信頼性を向上するほか、システムを全体としてより堅牢にするために、多くの検出器をネットワーク化してもよい。
【0011】
最後に、本発明は、微量なレベルにおける検出を可能にするほど高感度であり、高速である。イオナイザと検出器との間の距離を削減することにより、検出対象のイオンが存在するに違いない時間を削減し、短命のイオンの検出を可能にする。システムは、低電圧かつ低電力で動作してもよく、一定の範囲の環境においてより長い運転可能な用途を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
本発明の第1の態様によれば、イオナイザと、イオンフィルタと、イオン検出器と、を備えるイオン移動度分光計が提供され、
イオンフィルタは、少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、イオンは、そのイオンチャネルに沿ってイオナイザからイオン検出器まで通過することができ、
イオンフィルタは、イオンチャネル付近に配置される複数の電極を備え、
分光計は、第1の駆動電界がイオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が第1の電界に対して直角に生成されるように、電極を制御するための電極制御手段をさらに備え、上記の複数の電極のそれぞれは、駆動電界および横電界の両方の成分を生成するのに関与する。
【0013】
かかる構成は、駆動電界がチャネルを通ってイオンを推進するために用いることを可能にし、電荷などの変数に基づいてイオンの移動度に選択的に作用させるために横電界を用いることができる。したがって、本発明の分光計は、ドリフトガスフローがない状態で用いてもよく、そのために、必要とする可動部品は従来の分光計より少ない。さらに、本発明の場合には、効果的に動作させるために、長いドリフトチューブは必要ではない。駆動電界および横電界は、同時に印加されることが好ましい。駆動電界および横電界の両方の成分を生成するために、同一の電極を用いることにより、必要な電極の数を最小限に抑えるほか、デバイスのサイズを縮小する。しかし、本発明のある実施形態において、さらなる電極が存在してもよく、分光計における電極のすべてが駆動電界および横電界の両方の成分を生成するのに関与する必要はない。駆動電界は、長手方向の電界であることが好ましい。
【0014】
駆動電界は静電界であることが好ましい。すなわち、電界が時間の経過と共に変化しないことが好ましい。しかし、たとえば、解像度ピークの幅を調整し、特定の用途において最適な性能向きの機器を構成するために、時間変化する駆動電界を用いることができる。一部の機器において、電界が掃引され、一定の範囲の電界強度にわたってデータを収集されてもよい。このように、向上した(さらに正確な)結果を達成するために、後処理用の別の変数として、駆動電界強度を用いてもよい。電界は、電極の両端の直流バイアスの印加によって生成されてもよい。連続的な静電界は、イオンチャネルに沿ってイオンを駆動するために十分であるが、横電界は移動度と、形状、質量および電荷などの変数と、に基づいて、イオンを分離することが分かっている。電界のこの組み合わせにより、ドリフトガスフローの必要性を排除する。
【0015】
横電界は、時間の経過と共に変化してもよく、電極の両端の交流電圧の印加によって生成されてもよい。交流電圧は、非対称であることが好ましい。したがって、本発明の好ましい実施形態において、横電界は、交流成分および直流成分を含む。直流成分は、交流成分に対向していることが好ましい。すなわち、交流成分はイオンチャネルの一方の側壁に向かってイオンを駆動する傾向にあるのに対し、直流成分はチャネルの他方の側壁に向かってイオンを駆動する傾向にある。直流ランプ電圧または掃引電圧もまた、加えられてもよく、掃引を行い、感度および選択性または他の効果を向上するために、振幅、動作周期などの交流電圧の変数もまた、変更してもよい。
【0016】
電極制御手段は、電界の一部またはすべてを変更することができることが好ましく、これにより、特定のイオンを検出することができるようにするために電界を調整することができる。
【0017】
電極は、イオンチャネルの入口および出口に隣接して配置されることが好ましい。あるいは、電極は、チャネル自体の中に配置されてもよい。
【0018】
少なくとも2つの電極対を設けてもよい。一方の電極は、チャネルの各隅に位置していることが好都合である。すなわち、4つの電極が、4対の電極対、すなわち横電界を生成するために機能する2対の横方向の電極対および駆動電界を生成する2対の長手方向の電極対を形成する。各電極は、2対、すなわち1対の横電極対および1対の駆動電極対からなる部材である。電極対は、チャネル自体によって横方向に分離されるのに対し、構造的安定性を提供するために、電極対は、抵抗(たとえば、1〜100KΩcmの抵抗のシリコン)半導体材料または絶縁材料によって垂直方向に分離されてもよい。4つの電極は、各イオンチャネルに設けられることが好ましい。
【0019】
イオナイザは、任意の好都合な手段、たとえば、イオン化放射線源、紫外線源などを備えていてもよい。
【0020】
フィルタは、複数のイオンチャネルを含むことが好ましく、5個以上、10個以上、15個以上および20個以上のイオンチャネルであれば好都合である。チャネルは、コーム状の配置構成を形成するための複数の電極指によって画定されることが好都合である場合がある。好ましい実施形態において、フィルタは2つ以上の互いに嵌合する電極アレイを備え、各アレイは複数の電極指を有する。複数のイオンチャネルが存在することにより、比較的大きなイオン化体積をチャネルに隣接して用いることができ、それにより、単独のイオンチャネルを有し、それゆえ比較的小さいイオン化体積に制限された従来のデバイスに比べて、分光計の感度を向上することができる。
【0021】
イオンチャネルは、細長いことが好ましい。すなわち、イオンチャネルは(イオンが流れる方向に沿って)比較的短い長さ、(短横(短手)方向において)比較的短い幅および(長横(長手)方向において)比較的長い深さを有する。
【0022】
任意に、互いに嵌合する指は湾曲してもよく、さらに詳細には蛇行してもよく、その結果、湾曲または蛇行したチャネルを画定してもよい。これは、まっすぐな電極の場合には、チャネルの壁に拡散するイオンが原因で生じる拡散損失を低減するという利点がある。チャネル内の部分電位井戸の形成のために、湾曲または蛇行した電極によって、これらの拡散損失が低減される(この意味では、チャネル幅は効果的に増大される)。湾曲または蛇行したチャネルはまた、空間電荷反発力の有害な影響も低減する。
【0023】
したがって、本発明の別の態様において、この一般的な形成に関して電極によって画定されるチャネルを有するイオンフィルタを提供する。複数のイオンチャネルを形成する2つの互いに嵌合される電極を備えるイオンフィルタもまた、設けられる。記載したように、そのような配置構成を用いてもよく、またはドリフトガスフローを用いてもよい。互いに嵌合されるフィルタの配置構成によって形成されるより小さなギャップサイズは依然として、電圧の低下と、それゆえドリフトガスフローが用いられる場合であっても、制御電子機器がより簡単であるという利点を提供する。
【0024】
フィルタは、電極を形成するために上に導電面が設けられている抵抗基板または半導体基板を備えることが好ましい。導電面は、基板の2つの面に配置されてもよい。基板は、シリコンを含んでもよい。導電面は、金属、ドープトポリシリコンなどを含んでもよい。好ましい実施形態において、分光計がマイクロマシンの大きさである場合には、基板および導電面には、所望の形状および構成を形成するため、およびイオンチャネルを設けるために、従来の半導体処理技術を用いて、好都合なことにエッチングを施されてもよい。これにより、多くのチャネルを平行に小さな大きさで形成することが可能となる。
【0025】
イオンチャネルの長さは、フィルタの深さより小さいことが好ましく、著しく小さければ好ましく、たとえば、少なくとも10倍小さい。好ましい実施形態において、フィルタは略ウェーハ状の形状を有し、チャネル長さはフィルタ深さのごく一部である。一部の好ましい実施形態において、チャネル長さは、1000ミクロン未満、900ミクロン未満および800ミクロン未満であるのに対し、フィルタ深さは、10,000ミクロンより大きい。好ましいチャネル長さは、1000〜100ミクロンであり、800〜300ミクロンであればさらに好ましく、500〜300ミクロンであれば最も好ましい。
【0026】
イオンチャネルの幅(すなわち、横電界が生成されるチャネルの両端のギャップ間隔)もまた、チャネル長さより小さいことが好ましい。好ましい実施形態において、ギャップ間隔は、10〜100ミクロンである。そのような配置構成により、比較的低い電圧および電力消費を用いて、チャネル幅の両端に比較的大きな電界を生成することができる。本発明の好ましい実施形態において、電界は、イオンフラグメンテーションまたはイオン分解を生じるほど十分に大きくてもよい。これにより、大きなイオン種をより小さなイオン種に破砕することができ、検出器の感度を向上させ、干渉による不明瞭な結果の可能性を低減することができる。
【0027】
分光計は、フィルタを加熱するための手段を備えることが好ましい。フィルタは、少なくとも150℃に加熱し得ることが好ましい。フィルタを加熱することにより、性能を向上させることができ、フィルタからの汚染物質の除去を支援する。個別のヒータ(たとえば、フィルタは基板に装着される)を設けてもよいが、加熱手段はフィルタと一体化されることが好ましい。好ましい実施形態において、フィルタは、たとえば、電圧が基板の両端に印加されるときに、ジュール効果加熱によって加熱される基板を備える。基板がフィルタに組み込まれる場合には、フィルタの電極が作動されると、そのような電圧が印加されることになる。本発明の好ましいマイクロスケールの実施形態は、比較的低い電圧をジュール効果による効果的な加熱を提供するために用いることができる。
【0028】
分光計は、複数の機能層を備えることが好都合であり、各層はウェーハ状の形状を有する。この配置構成は、大量生産(たとえば、バッチ製作工程または並列製作工程)半導体技術を用いることを可能にするため、マイクロマシン型分光計の組立時に有利である。組立られる製品を用いることができる前に、長期にわたる汚染除去ステップおよび前処理ステップを必要としないように、半導体技術の利用は一般に、クリーンルーム環境で製作が行われることを意味する。そのような分光計はまた、層構造であるために比較的コンパクトであり、したがって、他の方法よりさらに小型化することが可能となる。たとえば、イオナイザ、フィルタおよび検出器のそれぞれは、機能層を備えていてもよい。ある実施形態において、単独の物理的なウェーハ状の層に1層以上の機能層を組み合わせることが可能である。たとえば、フィルタ層および検出器層は、検出器電極として絶縁体上のシリコン(SOI)ウェーハ処理層を用い、背面に集積回路を堆積させるか、またはデバイスから制御電子機器を単に移動させることによって、一体化させることが可能である。イオナイザは、注入スラブの下側に金属の放射性同位元素フィルムをパターン形成することによって注入層と一体化させることが可能である。一実施形態において、センサは、ちょうど2層、単独のSOIウェーハに組立られる集積フィルタおよび検出器層と、下側に金属イオン化材料がパターン形成された多孔性注入キャップと、から構成されることが可能である。この実施形態は、1つの接合ステップを必要とするだけに過ぎない。
【0029】
実施形態において、チャネルは、フィルタの面に実質的に垂直である。フィルタは、1:1(mm)を超える面の面積対チャネル長さの比を有することが好ましく、10:1を超えるか、または100:1(ミリメートル)を超えればさらに好ましい。たとえば、フィルタは、8mm×8mmの面の面積および約200μmのチャネル長さを有してもよい。
【0030】
分光計は、1つ以上の以下の別の追加要素をさらに備えてもよく、好ましい実施形態において、これらのそれぞれは追加機能層を形成し、
a)望ましくない粒子が分光計に入らないようにすると同時に、デバイス内に検体を拡散することができるようにするために、注入層が存在してもよい。注入層は、多孔性セラミックなどの多孔性材料から形成されることが好都合である。
b)分光計から水蒸気を除去するための除湿器層。この層は、吸湿材料を含んでもよく、あるいは、乾燥剤または類似物を用いてもよい。層は、吸湿材料を定期的に一掃するために用いてもよい加熱素子をさらに含んでもよい。
c)検体を効果的に濃縮するために、検体を蓄積し、定期的に除去するための濃縮素子(preconcentrator)層。この層はまた、所望の範囲の検体を吸収するために、適切に大きなサイズの孔を有する分子ふるいなどの吸湿材料を含んでもよい。次に、定期的に吸収された検体を除去するために、加熱素子を作動してもよい。
d)化学反応に作用させ、その結果、性能を部分修正するために、層から活性領域に除去または吸着される所望の化学物質またはドーパントを注入した材料を含むドーパント層。これは、一定の化合物の大気圧イオン化を強化するために、たとえば、アンモニアであってもよく、または、スペクトルおよびその結果として解像度において化合物の分離を強化するために周知であるたとえば、水であってもよい。
【0031】
検出器は、基板に位置する電極を備えていてもよい。検出器はウェーハ状の半導体基板、たとえば、シリコンであることが好都合である。検出器は、制御回路などをさらに備えていてもよい。これは、半導体基板上に形成されることが好都合である。検出器は、電極の監視またはデバイスの制御のためのプロセッサ手段などに制御回路および/または電極を接続するためのコネクタをさらに備えてもよい。
【0032】
分光計はまた、イオンの移動方向に逆らって、フィルタを通るガス向流を生成するための手段も備えてもよい。無傷の分子または部分イオン化生成物がフィルタに入るほど、試料のすべてがイオン化されることはめったにない。フィルタ領域におけるそのような分子は、さらなる反応および相互作用につながる可能性があり、ピークシフティングなどの有害な影響を生じる。ガス向流を用いることにより、フィルタからの汚染物質の除去またはフィルタ内の反応性の低い環境の維持を支援することができる。用いられるガスは、反応性が低いたとえば、窒素またはヘリウムであってもよく、またはイオン化に対する汚染物質の親和力に作用するように選択されてもよく、たとえばアンモニア、DCMなどが用いられてもよい。ガス向流はまた、フィルタ内のイオンの移動度を変更するために用いられることができる。(従来のイオン分光計におけるガスフローと違い、)フローはイオンを移動するために必要ではないため、ガス向流はきわめて低い流速であってもよく、たとえば、フィルタの側面間の最小の圧力差は一般に十分である。したがって、比較的少ない電力消費の小型ポンプまたは絞りを用いてもよく、または加圧ガス貯槽を用いてもよい。
【0033】
本発明の別の態様によれば、試料を分析するための方法であって、
イオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を形成するステップと、
第1の電界に直角に第2の横電界を形成するステップと、
イオンチャネルの入口に隣接してイオンを生成するために、試料をイオン化するステップと、
イオンチャネルを通過した生成イオンを検出するステップと、
を含む方法が提供される。
【0034】
駆動電界は、静電界であることが好ましい。すなわち、電界が時間の経過と共に変化しないことが好ましい。しかし、前述のように、時間変化する電界も用いることができる。電界は、電極の両端の直流バイアスの印加によって生成されてもよい。
【0035】
横電界は、時間の経過と共に変化してもよく、電極の両端の交流電圧の印加によって生成されてもよい。本発明の好ましい実施形態において、横電界は、交流成分および直流成分を含む。直流成分は、交流成分に対向していることが好ましい。すなわち、交流成分はイオンチャネルの一方の側壁に向かってイオンを駆動する傾向にあるのに対し、直流成分はイオンチャネルの他方の側壁に向かってイオンを駆動する傾向にある。前述のように、変数を変更してもよい。
【0036】
駆動電界および横電界は、同時に形成されることが好ましい。駆動電界および横電界は、複数の電極によって生成され、各電極が駆動電界および横電界の両方の成分に寄与することが好ましい。
【0037】
方法はまた、イオンの移動方向に対向してフィルタにわたってガスの向流を適用するステップを含んでもよい。
【0038】
方法は、イオンチャネルの両端に十分に大きな電界を印加することによって、イオンを破砕するステップをさらに含んでもよい。
【0039】
イオンチャネルは、たとえば、ジュール加熱を生成するために、基板の両端に十分に大きな電圧を印加することによって、加熱されてもよい。
【0040】
本発明の別の態様によれば、イオン移動度分光計などの分光計において用いるためのイオンフィルタが提供され、フィルタは、イオンが通過しうる少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、複数の電極がイオンチャネルの付近に配置され、電極はイオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を生成することができ、第1の電界に対して直角に第2の横電界を生成することができるように構成され、上記の複数の電極のそれぞれは、駆動電界および横電界の両方の成分を生成するのに関与する。
【0041】
少なくとも2つの電極対を設けてもよい。一方の電極は、チャネルの各隅に位置していることが好都合である。電極対は、チャネル自体によって横方向に分離されるのに対し、構造的安定性を提供するために、電極対は、絶縁材料によって垂直方向に分離されてもよい。4つの電極は、各イオンチャネルに設けられることが好ましい。
【0042】
フィルタは、複数のイオンチャネルを含むことが好ましく、5個以上、10個以上、15個以上および20個以上のイオンチャネルであれば好都合である。チャネルは、コーム状の配置構成を形成するための複数の電極指によって画定されることが好都合である場合がある。好ましい実施形態において、フィルタは2つ以上の互いに嵌合する電極アレイを備え、各アレイは、前述のように任意に湾曲した複数の電極指を有する。
【0043】
イオンチャネルは、細長いことが好ましい。すなわち、イオンチャネルは(イオンが流れる方向に沿って)比較的短い長さ、(短横方向において)比較的短い幅および(長横方向において)比較的長い深さを有する。
【0044】
フィルタは、電極を形成するためにその上に導電面が設けられる抵抗基板を備えることが好ましい。導電面は、抵抗基板の2つの面に配置されてもよい。基板は、シリコンを含んでもよい。導電面は、金属、ポリシリコンなどを含んでもよい。好ましい実施形態において、分光計がマイクロマシンの大きさである場合には、基板および導電面には、所望の形状および構成を形成するため、およびイオンチャネルを設けるために、従来の半導体処理技術を用いて、好都合なことにエッチングを施されてもよい。これにより、多くのチャネルを平行に小さな大きさで形成することが可能となる。
【0045】
イオンチャネルの長さは、フィルタの深さより小さいことが好ましく、著しく小さければ好ましく、たとえば、少なくとも10倍小さい。一部の好ましい実施形態において、フィルタは略ウェーハ状の形状を有し、チャネル長さはフィルタ深さのごく一部である。特に好ましい実施形態において、チャネル長さは、1000ミクロン未満、900ミクロン未満および800ミクロン未満であるのに対し、フィルタ深さは、10,000ミクロンより大きい。好ましいチャネル長さは、1000〜100ミクロンであり、800〜300ミクロンであればさらに好ましく、500〜300ミクロンであれば最も好ましい。
【0046】
本発明の別の態様によれば、イオナイザと、イオンフィルタと、イオン検出器と、を備えるイオン移動度分光計が提供され、
イオンフィルタは、複数のイオンチャネルを画定し、イオンは、そのイオンチャネルに沿ってイオナイザからイオン検出器まで通過することができ、
イオンフィルタは、イオンチャネル付近に配置される複数の電極を備え、
分光計は、第1の駆動電界がイオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が第1の電界に対して直角に生成されるように、電極を制御するための電極制御手段をさらに備える。
【0047】
本発明はまた、イオン移動度分光計などの分光計に用いるためのイオンフィルタが提供され、フィルタは、イオンが通過しうる複数のイオンチャネルを画定し、複数の電極がイオンチャネルの付近に配置され、電極はイオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を生成することができ、第1の電界に対して直角に第2の横電界を生成することができるように構成される。
【0048】
本発明のさらに別の態様によれば、イオン移動度分光計の製作方法であって、
導電層が2つの面に設けられている略平面抵抗基板を設けるステップと、
電極が付近に配置されている複数のイオンチャネルを画定する2つ以上の互いに嵌合する電極アレイを備えるフィルタを提供するために、パターン形成、たとえばエッチングを施すステップと、
検出器電極を備える略平面イオン検出器層に上記のフィルタの1つの面を接合するステップと、
検体をイオン化するための手段を含む略平面イオン化層に上記のフィルタの対向する面を接着、たとえば接合するステップと、
を含む方法が提供される。
【0049】
方法は、第1の駆動電界がイオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が第1の電界に対して直角に生成されるように、電極を制御するための電極制御手段を設けるステップと、をさらに含むことが好ましい。
【0050】
本発明のこれらの態様および他の態様は、添付の図を参照して、一例としてここでは記載されるに過ぎない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
図面の詳細な説明
図1は、従来のFAIMS(電界非対称性イオン移動度分光測定法)の動作に関する概略図に示されている。空気は、大気圧で試料の成分がイオン化される反応領域に引き寄せられる。イオン12a、12bは、一方は低電圧直流バイアスを有し、他方は周期的な高電圧パルス波形を有する2つの金属電極14a、14bの間で飛ばされ、イオンが衝突し、電流が記録される検出器プレート(図示せず)に達する。イオンは、パルス位相の中では一方の電極に向かって急速に駆動され、パルス間では対向する電極に向かってゆっくり駆動される。一部のイオン12aは、検出器プレートに到達する前に、電極に衝突する。適切な差動移動度を有する他のイオン12bは、端部に到達し、これを一種の差動移動度イオンフィルタにする。生成される電流対直流バイアスのグラフは、特徴的な差動イオン移動度スペクトルを提供する。スペクトルにおけるピークの強度は、変化量に対応し、薬剤の相対濃度を表す。
【0052】
本発明のフィルタの動作の概略図が、図2aおよび図2bに示される。この設計は、拡大縮小の制限を克服または低減することを意図している。本発明者の手法は、低電圧動作をもたらす革新的な電極の幾何構成に重点を置いている。互いに嵌合される電極構造は、高抵抗率のシリコンによって狭いチャネルの密なアレイをエッチングすることによって形成される。イオンは、ポンプレス動作を達成するために、可動ガスフローの代わりに、電界に左右される新規な運搬機構によってチャネルを通って駆動される。イオンチャネル22は、導電層26を保持するシリコン基板24によって画定され、導電層26は、イオンチャネルへの入口およびイオンチャネルからの出口の各隅にある電極を画定する。示された増幅器28は、アナログ加算器を表す。金属プレートは、高抵抗率のシリコンによって取って代わることを留意されたい。チャネルの両端で生成される高電圧パルスおよび低電圧直流バイアスに加えて、チャネルを通るイオンを駆動し、可動ガスフローの必要性を排除するために、別の直流源30が駆動電界を形成する。理論的な分析は、拡散に起因するチャネル側壁へのイオン損失を回避するほど十分に高速にイオンを推進することができることを示している。図2aは複数のイオンチャネルを有する好ましい実施形態を示し、図2bは明確にするために制御電子機器と共に、単独のイオンチャネルを示している。フィルタは通常、チャネルの両端で40〜200Vの電界によって動作され、高電圧パルスは通常3MHz〜10または20MHzである。駆動電界は一般に、10〜40Vであってもよい。
【0053】
図3は、本発明のセンサの斜視図を示す。センサは、記載されているように、共に接合される複数の分離層から形成される。イオンチャネルは、イオンの移動がシリコン基板面に垂直に向けられるように垂直方向に向けられる。この幾何構成により、サブシステムを積層され、イオンフローの順序で接合される分離ウェーハ層に分離することができ、最小の可能なサイズの十分に集積されたガスセンサを製作することができる。
【0054】
センサの分解斜視図が、図4に示されている。分光計は、フィルタ層に加えて、複数の層を備える。上から下まで、これらの層は、注入層50、除湿器層60、濃縮素子層70、イオナイザ層80、フィルタ層90および検出器層100である。
【0055】
これは、考案された一実施形態に過ぎず、きわめて簡素化されるか、または種々の態様に改良されることができる。たとえば、フィルタ層および検出器層は、検出器電極として絶縁体上のシリコン(SOI)ウェーハ処理層を用い、背面に集積回路を堆積させるか、またはデバイスから制御電子機器を単に移動させることによって、一体化させることが可能である。除湿器層および濃縮素子層は、同一の層に共に一体化されることも可能であり、またはデバイスの外側であって、センサの共振器ハウジングの中に移動されることも可能である。イオナイザは、注入スラブの下側に金属の放射性同位元素フィルムをパターン形成することによって注入層と一体化させることが可能である。最も簡素な場合において、センサは、ちょうど2層、単独のSOIウェーハに製作される集積フィルタおよび検出器層と、下側に金属イオン化材料がパターン形成された多孔性注入キャップと、から構成されることが可能である。この実施形態は、1つの接合ステップを必要とするだけに過ぎない。
【0056】
本発明者らの概念は、性能の向上のために小さなサイズ特性を利用することによって抜きんでている。微細構造のフィルタ層は、低電圧を用い、可動ガスフローの必要性を排除する検体運搬の新規な方法を実現し、ポンプレス動作を可能にする。マイクロスケールの断熱により、高速のマイクロスケール濃縮素子の低電力動作を促進する。密に集積された検出器は、感度を向上させる。センサ共振器の小さなサイズにより、性能を劣化する湿度を除去するための簡単な手法を可能にする。本発明者らの微小電子機械システム(MEMS)実装のバッチ製作の利点により、いたるところに存在する配備のシナリオにうまく適合させる。
【0057】
構成
図4に示されているように、別個のサブシステム層を共に接合することによって、完成したセンサが形成される。この構成は、簡単な整備および製作しやすさのために、各サブシステムを独立したウェーハの上に製作することが可能である。各サブシステム層の機能および組立の詳細は、以下で与えられる。層は、スルーチップバイアまたは簡単なワイヤボンディングを用いて電気的に相互接続される。
【0058】
図5:注入層
機能:この層の機能は、粒子が検出器に入らないようにすると同時に、検体を分析領域に拡散可能にすることである。
【0059】
構成:この層は、粒子が通過しないほど十分に小さい孔のサイズを有する微孔性媒体(セラミックなど)から構成される。図示されているように。簡単な平面構成を有する。
【0060】
製作:微孔性媒体は、さらに製作する必要がない適切なサイズのウェーハとして入手される。それは、センサーウェーハ積層の最上部に単に接合されるだけである。
【0061】
図6:除湿器層
機能:この層の機能は、センサ共振器の湿度を制御することである。水蒸気がFAIMS中の化合物の分離に作用し、それが制御されない場合には、解像度の向上を助けることができるが、測定における不確定要素を加える可能性があり、性能の劣化につながる。湿度の制御は、水蒸気の除去またはセンサ共振器の乾燥によって達成される。乾燥は、分析領域に入る前に、センサ入口で湿度を選択的に除去する材料を用いることによって達成される。この材料は、吸収した水分を一掃するために定期的に加熱される。
【0062】
構成:特殊な吸収フィルム62が、この部分の上面に沿って浮かせたマイクロホットプレート64を覆う。マイクロホットプレートは、窒化シリコン膜66の上に堆積される蛇行したポリシコンワイヤからなる。構成要素はすべて、シリコン基板68の上に形成される。吸収フィルムは、直径3Å以下の孔を有する分子ふるい化合物を含む。孔は、水分子を吸収するのに十分なほどちょうどの大きさであるが、小さすぎて検体化合物を吸収することはできない。
【0063】
製作:ポリシリコンおよび窒化シリコンの堆積が行われ、リソグラフィを用いてマイクロホットプレートにパターン形成が施される。あるいは、工業用のCMOS工程が用いられる。次に、吸収フィルムが、上部に堆積され、エッチングによる剥離が用いられ、構造を浮かせる。
【0064】
図7:濃縮素子層
機能:この層の機能は、分析用の検体を濃縮することである。これは、除湿器層において用いられた材料のような分子ふるい材料72を用いて達成されるが、この材料は選択性に乏しい。分析周期中に濃縮した検体プルームを除去するために加熱される。
【0065】
構成:特殊な吸収フィルム72が、この部分の上面に沿って浮かせたマイクロホットプレート74を覆う。マイクロホットプレートは、窒化シリコン膜76の上に堆積される蛇行したポリシコンワイヤからなる。吸収フィルムは、大きな孔サイズを有する分子ふるい化合物を含む。孔サイズは、所望の検体のすべてが吸収されるように選択される。
【0066】
製作:ポリシリコンおよび窒化シリコンの堆積が行われ、リソグラフィを用いてマイクロホットプレートにパターン形成が施される。あるいは、工業用のCMOS工程が用いられる。次に、吸収フィルムが、上部に堆積され、エッチングによる剥離が用いられ、構造を浮かさせる。
【0067】
図8:イオナイザ層
機能:イオン化層の機能は、検体をイオン化することである。最初はこの目的のために放射性同位元素が用いられるが、紫外発光ダイオード(UV−LED)が代替物であってもよい。UV−LEDは、潜在的により選択性があるが、適切な種類は未だ利用可能ではない。照射はイオン化組立体の内部に完全に閉じ込められているため、センサ性能が劣化することになるフィルタ領域ではイオン化は生じない。
【0068】
構成:この層は、本質的に中空の共振器であり、その中でイオン化が行われる。イオン化刺激を形成するために、UV−LEDまたは放射性フォイル82が接着される。処理がより安全であり、潜在的により選択性があり、循環することができ、公衆の中で警報を発することが少ないことから、UV−LEDがより望ましい。放射性源は電力を消費せず、安全である場合がある。残念なことに、適切なUV−LEDは未だ利用可能ではないが、開発に対する進展が著しい。許容可能な紫外線減は、280nmより短い波長を放射しなければならない。
【0069】
製作:窒化シリコン膜84が堆積され、金属シード層がその上に堆積される。開口部が膜および層の両方にパターン形成される。次に、放射線源82がシード層の上に電気メッキされる。最後に、バルクエッチが行われて、共振器を形成する。
【0070】
図9:フィルタ層
機能:フィルタ層の機能は、選択されたイオン種を検出器に入れて、選択されていないイオン種のすべてを中和することである。これは、イオン化された検体を2つの直交電界が同時に作用するマイクロチャネル92のアレイに導入することによって達成される。マイクロチャネルの壁に拡散される時間を有する前に、フィルタ領域を通って迅速にイオンを推進するために、駆動静電界が印加される。低い電界移動度に対する高い電界移動度の特定の比を備えたイオン種を選択するために、横方向に振動する電界が印加される。
【0071】
構成:この層は、わずかに離隔された1対の互いに嵌合される電極94a、94bからなる。電極は、幅が数ミクロンおよび深さが数百ミクロンであり、きわめて高い(通常10〜100)のアスペクト比のチャネル92を形成し、その中でフィルタ動作が行われる特徴部を備えた高抵抗率のシリコン96から製作される。フィルタ層によって占められる体積の大部分は、開放空間である。チャネルの大きな結合されたアパーチャは、イオンをフィルタ領域に効率的に結合することができ、イオン処理能力、ひいてはデバイスの感度をきわめて高くすることができることを意味する。狭いチャネル幅は、電圧はギャップ距離に対応するため、横電界を形成するために必要な電圧がきわめて小さく、通常数十ボルトであることを意味する。高抵抗率のシリコンが用いられるため、電極は抵抗器として作用する。各電極の上から下まで通過する電流は、構造によってイオンを駆動するために用いられる駆動静電界を生成する。
【0072】
製作:フィルタ層は、主に従来の微小機械加工技術を用いて製作される。絶縁体上のシリコン(SOI)ウェーハは、薄い導電性電極面96を形成し、オーム接触98を促進するために、両側に特別にドープされた高抵抗率のデバイス層によって特別仕様に形成される。深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)が用いられ、高いアスペクト比の特徴部を形成する。20:1のアスペクト比が十分であることを計算は示している。当然のことながら、他のアスペクト比、たとえば10:1または20:1を超えるアスペクト比を用いてもよい。チャネルを開放し、覆われた電極面へのアクセスを設けるために、バックエッチングおよび次に、酸化物エッチングによる剥離が行われる。
【0073】
フィルタ構造は、さまざまな従来の微細加工技術によって製作されることができる。1つの代表的な工程は、以下のステップを含む。用いられる基板は、高抵抗率のシリコンウェーハである。アルミニウムがウェーハの上面および下面に堆積され、次に、各面にフォトレジストコーティングが施される。上面はマスクで覆われ、フォトリソグラフィを施される。その後で、上面のアルミニウムコーティングがウェットエッチングされ、電極のアレイを形成する。フォトレジストが、両面から剥ぎ取られ、下面の電極を形成するために工程が繰り返される。上面に別のレジストコーティングが塗布され、その後で、シリコンが深掘り反応性イオンエッチングを用いてより下の面からエッチングされ、チャネルを形成する。最後に、フォトレジストが剥ぎ取られ、別の処理のために充填剤が用意される。
【0074】
この技術の変形において、シリコンウェーハは最初は、下面でガラス基板に接合されてもよい。次に、種々のエッチングステップが上面から行われ、チャネルおよび電極を形成し、その後で、ガラス基板が、酸エッチングされ、ウェーハの下面を露出させ、ウェーハと接触していたガラス支持材を残したままにする。他の変形としては、ガラス以外の基板の使用および異なる順序で列挙されたステップの実行が挙げられる。
【0075】
図13は、本発明のフィルタ構造の一部の電子顕微鏡写真を示す。
【0076】
図10:検出器層
機能:検出器層の機能は、イオンフィルタ層を駆動する信号を生成し、フィルタを通ったイオン種の電流を収集して測定し、検出電流と駆動信号を相関することによって計算された分光測定法データを出力することである。
【0077】
構成:すべてのシステム回路102、すなわち、フィルタ電極ドライバ、検出器トランスインピーダンス増幅器、データ変換器および制御論理回路がこの層に含まれる。回路は、酸化物層106によって保護され、イオン収集電極104が上に露出される。より良好な不動態化を行うために、漏れ電流から収集電極を保護するために、中間の金属層108を追加してもよい。回路から基板の下部のハンダパッド110までのバイアが、フリップチップ実現のために形成される。分析時間を短縮するために、複数の検出器チャネルを用いてもよい。この構想は、フィルタ電極および関連回路を並列に複製することが必要である。
【0078】
製作:すべての回路および電極は、必要な電圧を可能にする工業用の混合信号型BiCMOS工程を用いて製作される。提供されるウェーハは、回路と背面との間にバイアを形成するために、DRIEおよび金属化ステップを用いて後処理され、続いて、ハンダバンプが形成される。
【0079】
ある実施形態において、たとえば、検出器電極として作用する基板にフィルタ層を接合または製作することによって、検出器電極は、フィルタ層に一体化されてもよい。
【0080】
制御アルゴリズムおよび分析アルゴリズム
フィルタ層電極は、低電圧および従来の集積回路を用いて制御されるため、フィルタ領域内の電界強度を従来の設計で可能である場合よりも正確でより複雑な態様で制御することができる。したがって、差動移動度をより正確に決定することができ、その結果、この精度のために、解像度が向上すると期待される。さらに複雑な制御アルゴリズムおよび分析アルゴリズムにより、既存のFAIMS設計の場合のようなちょうど2つの点ではなく、複数の電界強度で、検体のイオン移動度をサンプリングすることによって、誤認警報をより少なくすることができると考えられる。
【0081】
組立てられた分光計は、分光計を制御し、データを監視するために用いることができるコンピュータなどのプロセッサ手段に接続してもよい。
【0082】
試料デバイスは、記載したように構成され、アセトンの試験試料を監視するために用いられた。図11は、デバイスにわたってアセトンのフローが増大したときに、デバイスの変化する応答を示すグラフである。図12は、アセトンがデバイス内に導入されるときのデバイスからの応答におけるシフトを示しており、感知応答を得ることができることを示している。
【0083】
本発明による分光計の実施形態は、従来の分光計に比べて、設計に関して複数の利点が得られると考えられる。これらの利点は、以下の通りである。
a)緊密な集積化および小さなセンササイズ。完成品は、1平方センチメートル未満の設置面積および1立方センチメートル未満の体積で製作することができる十分に集積されたモノリシックセンサである。その小型サイズにより、多くの新たな用途および開発のシナリオを可能にすると期待することができ、そのモノリシック構成により高い力に対して弾力性に優れていることになる。
b)簡素なシステム設計、改変、製作および検査。本発明の手法は、3次元センサを2次元層に分けている。これらの層は、独立かつ並列に設計される。これらは、既存の微小機械加工工程を用いて製作されることができ、従来のウェーハプローブ機器を用いて容易に試験を行うことができる。
c)さらなる実装および組立の必要性の低減または排除。小区分はウェーハボンディングによる気密性の態様で接続されるため、外部の実装をほとんどまたは全く必要としない。ポンプレス設計により、外部ポンプによって製作後の組立の必要性を排除する。MEMS実装は、デバイスの総コストの大部分である可能性がある。したがって、簡素化された実装の要件を備えた設計は好ましい。
d)フリップチップの実現。イオンは、上に向かって引き寄せられ、下で検出器に向けられる。検出器層はすべての回路を含み、最下層であるため、スルーチップバイアは背面にあるハンダパッドと回路を接続することができ、フリップチップデバイスを形成する。フリップチップ接続構想は、取付けのための最小の基板上の面積を必要とし、最小の可能重量を提供し、最も信頼性の高い相互接続を有する。
e)従来の微細加工技術を用いた製作。SOIのDRIEなどの標準的な微小機械加工製作技術のみが必要とされる。したがって、最小のプロセス開発が必要とされ、基本材料は、経済的な価格で大量に容易に入手可能であり、既に量産可能な製品が既に存在する。
【0084】
本発明のある実施形態において、分光計は、膜、特に半透膜をさらに備えていてもよい。たとえば、膜は、延伸PTFE(「ゴアテックス(GORE−TEX)」(RTM)という名前で販売されているものなど)から製作されてもよい。そのような半透膜は、本発明では種々の用途が見つけられる可能性がある。
【0085】
分光計の注入口は、膜によって覆われていてもよい。これは、複数の機能を有する。一つは、塵および粒子がデバイスに入らないようにすると同時に、半透膜により、依然としてガス状の検体が入ることができるようにことである。膜は、分光計の活性領域から有極性分子を排除してもよい。過剰な有極性分子は、デバイスの解像度を低下させ、データに作用するクラスタ化を生じる可能性がある。膜は、センサに直に隣接する領域に検体を濃縮させるために作用し、それにより感度を向上させる。さらに、液体は膜を通り過ぎてもよいため、検体は液体から気相においてデバイスに拡散することができ、それにより、液体試料の分析を可能にすることができる。膜は、加熱素子を組み込んでいてもよい。膜の温度が変化することにより、膜にわたる拡散工程に影響することができ、さらなる選択性を可能にする。
【0086】
デバイスから特定の分子種を排除するために、適切な膜材料の選択もまた、用いてもよい。
【0087】
特に膜がまた加熱素子を組み込んでいる場合は、膜はまた濃縮素子として用いられてもよい。温度が上昇するまで検体が維持される場合には、検体は膜の中で拡散されてもよい。これにより、比較的高濃度の検体をデバイスに放出する。膜は、分光計の注入口を単に覆うだけでもよいが、好ましい実施形態において、デバイスにつながる注入チューブの形状をとってもよい。試料はチューブに沿って連続的に通過し、時間の経過と共に何らかの試料データを生じると同時に、必要に応じて注入チューブから検体の濃縮プラグを外してもよい。液体をサンプリングするために、注入チューブを試料の中に浸漬してもよく、これにより検体を液体から膜の中に拡散することが可能となる。膜の加熱により、検体を分光計の中に放出する。これらの実施例が、図14および図15に示されている。
【0088】
また、試料導入デバイスとして、別個の膜を用いてもよい。埋め込み型シリコンウェーハに含まれるPDMS(ポリジメチルシリコーン)膜(または他の適切な材料)は、液体またはガス状の試料を導入することができる。試料からの検体は、膜の中に吸収される。次に、試料導入デバイスは、分光計に隣接して位置決めされ、シリコンウェーハを通過した電流は、ウェーハおよびその結果として膜を加熱するために機能する。続いて、吸収された検体は、分光計に隣接する位置で脱離される。この配置構成により、分光計から離れた位置でサンプリングを行うことができる。サンプリングデバイスは、電流がシリコンウェーハを通過することができるようにするために、分光計の電子機器に接続可能であってもよい。
【0089】
分光計に標準器を組み込むために、種々の膜関連デバイスを用いてもよい。標準器の使用により、分光計の応答の較正を可能にし、一部の環境では温度または湿度の変化量もまた補正することができる。膜標準器は、標準器事態の濃度ではなく、選択された膜の物理的特性に著しく左右される略一定の速度で検体を放出する。したがって、そのような標準器は、製作が比較的簡単で堅牢であり、正確な再較正を必要とすることなく再充電することができる。膜標準器の搭載は、種々の態様で達成してもよい。固体の場合には、標準器は、膜硬化工程中に導入されてもよい。液体または気体の場合には、膜を用いて標準器の試料を包囲してもよく、気体の場合には、膜を制御可能な頭隙に充満させて格納させることができる。用意の調った較正を可能にするために、膜標準器は、分光計とは別個の構成要素であってもよく、分光計に一体に組み込まれてもよい。たとえば、標準器は、分光計につながる注入パイプに接続されてもよい。これは、図16に示されている。また、サンプリングデータの連続的な監視および検証のために、内部標準器を用いてもよい。用いられる標準器は、特定の用途に依存するが、好ましい標準器は、高い陽子/電子親和力を有するか、または陽子/電子を提供することができ、対象の化合物から分離することができ、当然のことながら干渉を発生することによってかき消されることはない。
【0090】
検出器アレイに複数のフィルタおよび/または検出器を組み合わせて、さまざまな検体に対する感度を向上させてもよい。単独のフィルタの場合には、あるイオン種を透過するようにフィルタをを調整するために、補償電圧を掃引することが必要である。時間の大部分では、所定の検体に対して補償電圧を調整することはできず、電圧が掃引されるため、遅延時間が生じる。複数のフィルタおよび/または検出器を組み合わせることにより、各フィルタは、所定の特定の検体を検出するために1つの電圧に調整されたままにすることができると同時に、アレイ方式により、さまざまな異なる検体の検出を可能にする。センサアレイからの出力は離散スペクトルとなり、複数のチャネルが所定の検体数に対応する。また、選別を向上させ、干渉の影響を低減するために、各デバイスにおいて同一の電圧であるが異なるドーパントの化学的性質を有するように調整された複数のフィルタを有することも可能である。または冗長性のために、さらに複数の同一のフィルタを用いることも可能である。
【0091】
単独のフィルタに関して複数の検出器電極を用いることによって、感度のさらなる向上を達成することができる。単独の検出器電極が用いられる場合には、これは複数のイオンタイプを含む総イオン電流を測定すると同時に、1つのタイプのみを目的としうる単独のプレートである。イオンがフィルタを離れるときに、イオンによって取られる出口経路に直交する一連の別々の検出器電極を用いてもよい。これは、検出器に向かってイオンを引き寄せる直交電界を形成する。イオンが電極に向かって移動する速度は、イオンの移動度に左右され、電界の直線成分が依然としてあるために、異なる移動度のイオンは異なる検出器電極に衝突する。これは、フィルタを通過する異なるイオン種を検出する際により良好な感度を可能にする。実施例の検出器電極アレイが、図17に示されている。
【0092】
検出器の感度を向上させる別の手段は、個別のイオンが検出器プレートに衝突するときに電荷を徐々に増大するコンデンサに検出器電極を結合することによる。コンデンサの定期的な放電により、イオンの寄与を時間の経過と共に合計することができ、それによって、デバイスの感度および信号対雑音比を増大させることができる。
【0093】
または、ある環境では感度を向上させるために、代わりにスイッチ積分器を用いてもよい。イオン検出器は、積分器へのスイッチに接続される。これは、出力電圧を測定するために切り換えられ、第2のスイッチはデバイスをリセットするために繰り返される。スイッチ積分器の実施例が、図18に示されている。
【0094】
ある実施形態において、本発明の分光計は、検出用のスイッチモードで動作してもよい。すなわち、検出器は、規則的な間隔で試料を取得するために定期的に作動される。この動作モードを用いて、電力消費を加減し、デバイスの動作寿命を延長してもよい。これは、デバイスが試料の長期にわたる監視のために用いられることを意図している場合に、たとえば、セキュリティ用途において特に利点となる。
【0095】
分光計の動作はまた、デバイスの性能を変更するために、デバイスが実行される温度および/または圧力を変更することを含んでもよい。
【0096】
本発明はこれまでフィルタを通るイオンを駆動するために、電界のみを用いることに関して記載してきたが、前述のように、向流または電界によって駆動されるイオンフローと同一の方向のフローとして、ガスフローと組み合わせてフィルタを用いることも可能であることは明白であろう。
【0097】
ガスフローは、実施形態では分光計へのイオンの導入に関してのみ用いてもよいのに対し、一旦イオンがデバイスに入ると、電界は動作する。あるいは、イオンを選択的に入れるために、横電界のみによって、フィルタを動作させてもよい。イオンの長手方向の移動は、単に長手方向のガスフローによって制御される。
【0098】
本発明の一部の実施形態において、フィルタ構造は、ガスフローモードで動作するための完全に固体の金属素子として製作されてもよく、または金属コーティングされたシリコンまたは他のウェーハ構造として製作されてもよい。金属コーティングは、たとえば、スパッタリング、気化、電気メッキ、無電界電気メッキ、原子層蒸着または化学気相蒸着によって形成されてもよい。固体の金属デバイスは、水切断、レーザ切断、機械加工、フライス加工またはLIGAによって製作されてもよい。この配置構成は純粋に電界によって駆動されたデバイスの利点は備えていないが、ガスフロー推進を備えた小型化されたフィルタを利用することができることにより、動作電圧の低減などの利点を有する。イオンチャネルの互いに嵌合されるアレイを用いることにより、用いられるより低い電圧をある程度まで補償する。
【0099】
上述したように、イオンを分光計に結合するために、ガスフローを用いてもよい。別の導入方法は、電気スプレーイオン化を用いることである。溶媒の中で溶解された検体は、帯電されるキャピラリの薄い針先を通って押し出される。これは、逆に帯電されたピンホールの孔に向かって加速される発射された液滴の帯電を誘発する。これにより、非放射性のイオナイザの使用を可能にするほか、一部の検体を劣化させる可能性がある加熱することなく液相のイオン化を可能にし、ペプチドなどの一部の高分子のイオン化も可能にする。
【0100】
本発明のフィルタ構造は本質的にウェーハ構造を有するという形で記載してきたが、ウェーハ構造ではなくはるかに長いイオンチャネルを有するフィルタを形成するために、適切なフィルタ構造は複数の積層された平面層から構成されてもよいことは明白であろう。
積層の交互の層は、電気的に並列に接続されてもよい。ウェーハ構造はマイクロスケールの製作には特に適しているが、金属コーティングされたセラミック層などのマクロスケールの構成要素のほか、EFAB工程を用いるなどのマイクロスケールを用いて、積層された平面配置構成を達成してもよい。この実施形態において、イオンチャネルの長さの増大のために、チャネルを通ってイオンを駆動するために、本発明のこの実施形態はガスフローおよび電界の組み合わせによって動作することが好ましい。このフィルタ構造の概略図が、図19に示されている。
【0101】
本発明のフィルタ構造は、差動によって駆動されてもよい。すなわち、横電界の交流成分が、異なる位相でイオンチャネルの対向する側に印加されてもよい。
【0102】
イオンチャネルは、その壁に位置する不活性導電粒子をさらに含んでもよい。これらは、ナノ粒子、たとえば金のナノ粒子であってもよい。イオンチャネルがシリコンを含む場合には、時間の経過と共に、表面の一部の酸化が生じ、デバイスの電気特性を変化させる。不活性粒子は酸化されることはないため、チャネルの表面の酸化に関係なく、イオン接触用の導電面を形成する。
【0103】
本発明の分光計は、1つ以上の他の検出デバイスまたは分析デバイスに結合されてもよい。または、分光計は、1つ以上の他の分析技術と組み合わせて動作してもよい。分光計は、そのようなデバイスから検体を受け入れてもよく、検体を上記のデバイスに運搬してもよい。代表的な別の検出技術または分析技術としては、質量分析法、ガスクロマトグラフィ、イオン移動度分光測定法、液体クロマトグラフィ、キャピラリ電気泳動法、水素炎イオン化検出法、熱伝導率検出法および固相微量抽出法が挙げられる。これらの技術のいずれかまたはすべてを本発明と組み合わせてもよく、本発明によれば、本発明の分光計はまた、他の分光計と組み合わせてもよい。
【0104】
本発明の分光計の2つの代表的な用途は、薬物の呼吸分析およびワインの品質制御が挙げられる。薬物の呼吸分析の場合には、デバイスは、被験者の呼気における規制された物質の使用に起因する揮発性の代謝物を検出するために用いることができる。これは、髪、血液または尿の分析に一般に依存する既存の分析技術よりはるかに高速で簡単である。検出対象の代謝物は、選別対象の物質に左右される。
【0105】
ワインは、飲料の風味および品質を損なう腐敗またはコルク栓に影響されやすい。コルク栓を施されたワインには、トリクロロアニソールおよびテトラクロロアニソール、トリクロロフェノールおよびテトラクロロフェノールなどの複数の汚染物質が含まれている。本発明の分光計を用いてこれらの化合物を検出することができる。一部の実施形態において、分光計は、標準的なワイン瓶の首の中に着座することを目的としたコルク形状のハウジングに組み込むことができ、ワインサンプルの迅速な試験を可能にする。結果を迅速に読み取ることができるようにするために、簡単な赤色光または緑色光による警報をデバイスに組み込んでもよい。あるいは、デバイスは、瓶詰めの品質制御を保証するために、ワインの瓶詰め生産ラインに組み込まれてもよい。瓶詰めを行う前にコルクの上に引き込まれる空気をサンプリングし、コルク自体の汚染物質を検査するために、デバイスを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】従来のFAIMSフィルタ構造の概略図である。
【図2a】本発明の実施形態による分光計と共に用いることができるようなFAIMSフィルタ構造の概略図である。
【図2b】本発明の実施形態による分光計と共に用いることができるようなFAIMSフィルタ構造の概略図である。
【図3】本発明の実施形態による分光計の斜視図である。
【図4】図3の分光計の分解斜視図である。
【図5】図3の分光計の注入層の斜視図である。
【図6】図3の分光計の除湿器層の斜視図である。
【図7】図3の分光計の濃縮素子層の斜視図である。
【図8】図3の分光計のイオナイザ層の斜視図である。
【図9】図3の分光計のフィルタ層の斜視図である。
【図10】図3の分光計の検出器層の斜視図である。
【図11】試料フローが変化するときの本発明による分光計の応答を示すグラフである。
【図12】検体としてのアセトンに対する本発明による分光計の応答を示すグラフである。
【図13】フィルタ構造を示す本発明の実施形態によるイオンフィルタの一部の電子顕微鏡写真である。
【図14】本発明に関する加熱膜注入チューブの使用を示す。
【図15】本発明に関する試料流体に対する注入チューブの使用を示す。
【図16】本発明への標準器の組み込みを示す。
【図17】本発明と共に用いることができるような検出器電極アレイを示す。
【図18】本発明と共に用いることができるようなスイッチ積分器を示す。
【図19】積層された平面層から形成されるフィルタ構造の実施例を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオナイザ、イオンフィルタおよびイオン検出器を備えるイオン移動度分光計であって、
前記イオンフィルタは、少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿って前記イオナイザから前記イオン検出器までイオンが通過することができ、
前記イオンフィルタは、前記イオンチャネルの付近に配置される複数の電極を備え、
前記分光計は、第1の駆動電界が前記イオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が前記第1の電界に対して直角に生成されるように、前記電極を制御するための電極制御手段をさらに備え、前記複数の電極のそれぞれは、前記駆動電界および前記横電界の両方の成分を生成するのに関与する、
イオン移動度分光計。
【請求項2】
前記駆動電界は静電界である、
請求項1に記載の分光計。
【請求項3】
前記横電界は、時間の経過と共に変化する、
請求項1または2に記載の分光計。
【請求項4】
前記横電界は、交流成分および直流成分を含む、
請求項3に記載の分光計。
【請求項5】
前記電極は、前記イオンチャネルの入口および出口に隣接して配置される、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項6】
少なくとも2つの電極対が設けられる、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項7】
前記フィルタは、複数のイオンチャネルを備える、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項8】
前記イオンチャネルは、コーム状の配置構成を形成する複数の電極指によって画定される、
請求項7に記載の分光計。
【請求項9】
前記フィルタは、2つ以上の互いに嵌合される電極アレイを備え、各アレイは複数の電極指を有する、
請求項1〜8のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項10】
前記フィルタは、略ウェーハ状の形状を有する、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項11】
前記分光計は複数の機能層を備え、各層はウェーハ状の形状を有する、
請求項1〜10のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項12】
注入層、除湿器層および濃縮素子層のうち1つ以上をさらに備える、
請求項1〜11のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項13】
半透膜をさらに含む、
請求項1〜12のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項14】
前記膜は、加熱素子を備える、
請求項13に記載の分光計。
【請求項15】
前記膜は、注入チューブの形状である、
請求項13または14に記載の分光計。
【請求項16】
標準器を備える、
請求項1〜15のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項17】
複数のイオンフィルタを備える、
請求項1〜16のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項18】
複数のイオン検出器を備える、
請求項1〜17のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項19】
前記分光計によってガスフローを生成するための手段をさらに備える、
請求項1〜18のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項20】
前記ガスフローは、イオンの移動方向に逆らって向流である、
請求項19に記載の分光計。
【請求項21】
前記フィルタを過熱するための手段をさらに備える、
請求項1〜20のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項22】
前記加熱手段は、ジュール効果加熱によって加熱される基板を備える、
請求項21に記載の分光計。
【請求項23】
前記イオンチャネルは、その長さに沿って前記チャネルの壁に位置する不活性導電粒子を含む、
請求項1〜22のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項24】
前記イオンフィルタは、ウェーハ状の形状を備える、
請求項1〜23のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項25】
前記イオンフィルタは、複数の積層された平面層を備える、
請求項1〜23のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項26】
前記イオンチャネルは、湾曲または蛇行される、
請求項1〜24のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項27】
1つ以上の他の検出デバイスまたは分析デバイスに結合される、
請求項1〜26のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項28】
間隔をおいて定期的にサンプリングするために前記分光計を動作させるための制御手段をさらに備える、
請求項1〜27のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項29】
前記イオン検出器は、定期的に放電されるコンデンサに結合される電極を備える、
請求項1〜28のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項30】
試料を分析するための方法であって、
イオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を形成するステップと、
前記第1の電界に直角に第2の横電界を形成するステップと、
前記イオンチャネルの入口に隣接してイオンを生成するために、試料をイオン化するステップと、
前記イオンチャネルを通過した生成イオンを検出するステップと、
を含む方法。
【請求項31】
前記駆動電界および前記横電界は複数の電極によって生成され、各電極は前記駆動電界および前記横電界の両方の成分に寄与する、
請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記駆動電界は静電界である、
請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記横電界は、時間の経過と共に変化する、
請求項30、31または32に記載の方法。
【請求項34】
間隔をおいてサンプリングするステップを定期的に繰り返すステップをさらに含む、
請求項30〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
イオン移動度分光計などの分光計に用いるためのイオンフィルタであって、
前記フィルタは、少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿ってイオンが通過することができ、
複数の電極が前記イオンチャネルの付近に配置され、
前記電極が前記イオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を生成することができ、
前記第1の電界に対して直角に第2の横電界を生成することができるように構成され、
前記複数の電極のそれぞれは、前記駆動電界および前記横電界の両方の成分を生成するのに関与する、
イオンフィルタ。
【請求項36】
イオナイザ、イオンフィルタおよびイオン検出器を備えるイオン移動度分光計であって、
前記イオンフィルタは、複数のイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿って前記イオナイザから前記イオン検出器までイオンが通過することができ、
前記イオンフィルタは、前記イオンチャネルの付近に配置される複数の電極を備え、
前記分光計は、第1の駆動電界が前記イオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が前記第1の電界に対して直角に生成されるように、前記電極を制御するための電極制御手段をさらに備える、
イオン移動度分光計。
【請求項37】
イオン移動度分光計などの分光計に用いるためのイオンフィルタであって、
前記フィルタは、複数のイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿ってイオンが通過することができ、
複数の電極が前記イオンチャネルの付近に配置され、
前記電極が前記イオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を生成することができ、
前記第1の電界に対して直角に第2の横電界を生成することができるように構成される、
イオンフィルタ。
【請求項38】
イオン移動度分光計の製作方法であって、
導電層が2つの面に設けられている略平面抵抗基板を設けるステップと、
電極が付近に配置されている複数のイオンチャネルを画定する2つ以上の互いに嵌合する電極アレイを備えるフィルタを提供するために、前記基板にパターン形成を施すステップと、
検出器電極を備える略平面イオン検出器層に前記フィルタの1つの面を接合するステップと、
検体をイオン化するための手段を含む略平面イオン化層に前記フィルタの対向する面を接着するステップと、
を含む方法。
【請求項39】
イオナイザ、複数のイオンフィルタおよびイオン検出器を備えるイオン移動度分光計であって、
各イオンフィルタは、少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿って前記イオナイザから前記イオン検出器までイオンが通過することができ、
各イオンフィルタは、前記イオンチャネルの付近に配置される複数の電極を備え、
前記分光計は、第1の駆動電界が前記イオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が前記第1の電界に対して直角に生成されるように、前記電極を制御するための電極制御手段をさらに備える、
イオン移動度分光計。
【請求項40】
イオナイザ、イオンフィルタおよびイオン検出器を備えるイオン移動度分光計であって、
前記イオンフィルタは、少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿って前記イオナイザから前記イオン検出器までイオンが通過することができ、
前記イオンフィルタは、前記イオンチャネルの付近に配置される複数の電極を備え、
前記分光計は、第1の駆動電界が前記イオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が前記第1の電界に対して直角に生成されるように、前記電極を制御するための電極制御手段と、間隔をおいて定期的にサンプリングを行うために前記分光計を動作させるための追加的な制御手段と、をさらに備える、
イオン移動度分光計。
【請求項41】
イオン移動度分光計などの分光計に用いるためのイオンフィルタであって、
前記フィルタは複数のイオンチャネルを画定する1対の互いに嵌合する電極を備え、前記イオンチャネルに沿ってイオンが通過することができる、
イオンフィルタ。
【請求項1】
イオナイザ、イオンフィルタおよびイオン検出器を備えるイオン移動度分光計であって、
前記イオンフィルタは、少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿って前記イオナイザから前記イオン検出器までイオンが通過することができ、
前記イオンフィルタは、前記イオンチャネルの付近に配置される複数の電極を備え、
前記分光計は、第1の駆動電界が前記イオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が前記第1の電界に対して直角に生成されるように、前記電極を制御するための電極制御手段をさらに備え、前記複数の電極のそれぞれは、前記駆動電界および前記横電界の両方の成分を生成するのに関与する、
イオン移動度分光計。
【請求項2】
前記駆動電界は静電界である、
請求項1に記載の分光計。
【請求項3】
前記横電界は、時間の経過と共に変化する、
請求項1または2に記載の分光計。
【請求項4】
前記横電界は、交流成分および直流成分を含む、
請求項3に記載の分光計。
【請求項5】
前記電極は、前記イオンチャネルの入口および出口に隣接して配置される、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項6】
少なくとも2つの電極対が設けられる、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項7】
前記フィルタは、複数のイオンチャネルを備える、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項8】
前記イオンチャネルは、コーム状の配置構成を形成する複数の電極指によって画定される、
請求項7に記載の分光計。
【請求項9】
前記フィルタは、2つ以上の互いに嵌合される電極アレイを備え、各アレイは複数の電極指を有する、
請求項1〜8のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項10】
前記フィルタは、略ウェーハ状の形状を有する、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項11】
前記分光計は複数の機能層を備え、各層はウェーハ状の形状を有する、
請求項1〜10のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項12】
注入層、除湿器層および濃縮素子層のうち1つ以上をさらに備える、
請求項1〜11のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項13】
半透膜をさらに含む、
請求項1〜12のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項14】
前記膜は、加熱素子を備える、
請求項13に記載の分光計。
【請求項15】
前記膜は、注入チューブの形状である、
請求項13または14に記載の分光計。
【請求項16】
標準器を備える、
請求項1〜15のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項17】
複数のイオンフィルタを備える、
請求項1〜16のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項18】
複数のイオン検出器を備える、
請求項1〜17のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項19】
前記分光計によってガスフローを生成するための手段をさらに備える、
請求項1〜18のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項20】
前記ガスフローは、イオンの移動方向に逆らって向流である、
請求項19に記載の分光計。
【請求項21】
前記フィルタを過熱するための手段をさらに備える、
請求項1〜20のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項22】
前記加熱手段は、ジュール効果加熱によって加熱される基板を備える、
請求項21に記載の分光計。
【請求項23】
前記イオンチャネルは、その長さに沿って前記チャネルの壁に位置する不活性導電粒子を含む、
請求項1〜22のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項24】
前記イオンフィルタは、ウェーハ状の形状を備える、
請求項1〜23のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項25】
前記イオンフィルタは、複数の積層された平面層を備える、
請求項1〜23のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項26】
前記イオンチャネルは、湾曲または蛇行される、
請求項1〜24のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項27】
1つ以上の他の検出デバイスまたは分析デバイスに結合される、
請求項1〜26のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項28】
間隔をおいて定期的にサンプリングするために前記分光計を動作させるための制御手段をさらに備える、
請求項1〜27のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項29】
前記イオン検出器は、定期的に放電されるコンデンサに結合される電極を備える、
請求項1〜28のいずれか一項に記載の分光計。
【請求項30】
試料を分析するための方法であって、
イオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を形成するステップと、
前記第1の電界に直角に第2の横電界を形成するステップと、
前記イオンチャネルの入口に隣接してイオンを生成するために、試料をイオン化するステップと、
前記イオンチャネルを通過した生成イオンを検出するステップと、
を含む方法。
【請求項31】
前記駆動電界および前記横電界は複数の電極によって生成され、各電極は前記駆動電界および前記横電界の両方の成分に寄与する、
請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記駆動電界は静電界である、
請求項30または31に記載の方法。
【請求項33】
前記横電界は、時間の経過と共に変化する、
請求項30、31または32に記載の方法。
【請求項34】
間隔をおいてサンプリングするステップを定期的に繰り返すステップをさらに含む、
請求項30〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
イオン移動度分光計などの分光計に用いるためのイオンフィルタであって、
前記フィルタは、少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿ってイオンが通過することができ、
複数の電極が前記イオンチャネルの付近に配置され、
前記電極が前記イオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を生成することができ、
前記第1の電界に対して直角に第2の横電界を生成することができるように構成され、
前記複数の電極のそれぞれは、前記駆動電界および前記横電界の両方の成分を生成するのに関与する、
イオンフィルタ。
【請求項36】
イオナイザ、イオンフィルタおよびイオン検出器を備えるイオン移動度分光計であって、
前記イオンフィルタは、複数のイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿って前記イオナイザから前記イオン検出器までイオンが通過することができ、
前記イオンフィルタは、前記イオンチャネルの付近に配置される複数の電極を備え、
前記分光計は、第1の駆動電界が前記イオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が前記第1の電界に対して直角に生成されるように、前記電極を制御するための電極制御手段をさらに備える、
イオン移動度分光計。
【請求項37】
イオン移動度分光計などの分光計に用いるためのイオンフィルタであって、
前記フィルタは、複数のイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿ってイオンが通過することができ、
複数の電極が前記イオンチャネルの付近に配置され、
前記電極が前記イオンチャネルの長さに沿って第1の駆動電界を生成することができ、
前記第1の電界に対して直角に第2の横電界を生成することができるように構成される、
イオンフィルタ。
【請求項38】
イオン移動度分光計の製作方法であって、
導電層が2つの面に設けられている略平面抵抗基板を設けるステップと、
電極が付近に配置されている複数のイオンチャネルを画定する2つ以上の互いに嵌合する電極アレイを備えるフィルタを提供するために、前記基板にパターン形成を施すステップと、
検出器電極を備える略平面イオン検出器層に前記フィルタの1つの面を接合するステップと、
検体をイオン化するための手段を含む略平面イオン化層に前記フィルタの対向する面を接着するステップと、
を含む方法。
【請求項39】
イオナイザ、複数のイオンフィルタおよびイオン検出器を備えるイオン移動度分光計であって、
各イオンフィルタは、少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿って前記イオナイザから前記イオン検出器までイオンが通過することができ、
各イオンフィルタは、前記イオンチャネルの付近に配置される複数の電極を備え、
前記分光計は、第1の駆動電界が前記イオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が前記第1の電界に対して直角に生成されるように、前記電極を制御するための電極制御手段をさらに備える、
イオン移動度分光計。
【請求項40】
イオナイザ、イオンフィルタおよびイオン検出器を備えるイオン移動度分光計であって、
前記イオンフィルタは、少なくとも1つのイオンチャネルを画定し、前記イオンチャネルに沿って前記イオナイザから前記イオン検出器までイオンが通過することができ、
前記イオンフィルタは、前記イオンチャネルの付近に配置される複数の電極を備え、
前記分光計は、第1の駆動電界が前記イオンチャネルの長さに沿って生成され、第2の横電界が前記第1の電界に対して直角に生成されるように、前記電極を制御するための電極制御手段と、間隔をおいて定期的にサンプリングを行うために前記分光計を動作させるための追加的な制御手段と、をさらに備える、
イオン移動度分光計。
【請求項41】
イオン移動度分光計などの分光計に用いるためのイオンフィルタであって、
前記フィルタは複数のイオンチャネルを画定する1対の互いに嵌合する電極を備え、前記イオンチャネルに沿ってイオンが通過することができる、
イオンフィルタ。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2008−508693(P2008−508693A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524405(P2007−524405)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【国際出願番号】PCT/GB2005/050124
【国際公開番号】WO2006/013396
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(507036902)オウルストーン リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【国際出願番号】PCT/GB2005/050124
【国際公開番号】WO2006/013396
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(507036902)オウルストーン リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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