説明

イオン粒子電源

【課題】ビーム引出開始時の加速電源の電圧低下を抑制し、質の高いビームを放出できるイオン粒子電源を提供する。
【解決手段】フィラメント電源2と、アーク電源3と、イオン源の壁1と電極6間に直流電圧を印加してイオン粒子を加速するための加速電源4とから構成する。加速電源4は、
商用交流電源に接続された交流スイッチ7と、交流スイッチ7の出力を整流して直流に変換する整流器9と、整流器9の出力を平滑して直流電圧を得るためのコンデンサ10と、
加速電源出力指令値を交流スイッチ7に与えてその出力電圧を制御するための制御手段20を備える。制御手段20は、直流電圧と電圧設定値との偏差に応じて加速電源出力基準を得る電圧制御手段22と、加速電源4とアーク電源3が共にオンしたとき、所定の関数を発生する関数発生器22とを有し、加速電源出力基準と関数発生器22の出力を加算して加速電源出力指令値を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、イオン粒子を生成・加速するためのイオン粒子電源に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、イオン粒子電源はイオン源でイオン粒子を生成し、生成されたイオン粒子をイオン源から引出し、加速して核融合装置のプラズマを加熱するために用いる装置である。
【0003】
イオン粒子電源は、イオン源内のフィラメントを加熱する目的で電流を流すためのフィラメント電源、フィラメントとイオン源の壁の間に100V程度の電圧を印加してイオン粒子を生成させるアーク電源、及びイオン源と電極の間に数10kVから数100kVの電圧を印加し、両者間の電位差によりイオン粒子を加速する加速電源から構成されている。
【0004】
イオン粒子電源の運転タイムシーケンスとしては、通常、フィラメント電源、アーク電源の順に立ち上げて粒子を予備電離させた後、一旦アーク電源を立ち下げ、その後、加速電源、アーク電源の順に立ち上げて粒子ビームを引出す。
【0005】
また、加速電源の電圧制御については、加速電圧設定値と加速電圧出力値の差分に比例ゲイン、積分ゲインを乗じた値を加速電源出力指令値とするのが普通である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−346968号公報(第3頁、図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のイオン粒子電源においては、アーク電源のONによって、イオン粒子が生成することによって加速電源の負荷インピーダンスが急激に低下し、出力側に設けられたコンデンサから負荷へ電流が流れることによってコンデンサ電圧が一時的に低下し、出力電圧が変動するという問題があった。特に電圧制御を交流入力側のサイリスタスイッチによって行う場合は、応答時間が遅いため変動の回復が遅れるという問題があった。このように加速電源の出力電圧が低下している期間は、電子の放出量の制御が不能になり、ビームの質が低下してしまう。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、ビーム引出開始時の加速電源の電圧低下を抑制し、質の高いビームを放出できるイオン粒子電源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のイオン粒子電源は、イオン源内に設けられたフィラメントを加熱するためのフィラメント電源と、前記フィラメントと前記イオン源の壁に電圧を印加してイオン粒子を生成させるためのアーク電源と、前記イオン源の壁と電極間に直流電圧を印加して前記イオン粒子を加速するための加速電源とから成るイオン粒子電源であって、前記加速電源は、商用交流電源に接続された交流スイッチと、この交流スイッチの出力を整流して直流に変換する整流器と、この整流器の出力を平滑して前記直流電圧を得るためのコンデンサと、加速電源出力指令値を前記交流スイッチに与えてその出力電圧を制御するための制御手段とを具備し、前記制御手段は、前記直流電圧と電圧設定値との偏差に応じて加速電源出力基準を得る電圧制御手段と、前記加速電源と前記アーク電源が共にオンしたとき、所定の関数を発生する関数発生器とを有し、前記加速電源出力基準と前記関数発生器の出力を加算して前記加速電源出力指令値を得るようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ビーム引出開始時の加速電源の電圧低下を抑制し、質の高いビームを放出できるイオン粒子電源を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係るイオン粒子電源のブロック構成図。
【図2】実施例1の加速電源の出力電圧変動抑制効果の説明図。
【図3】本発明の実施例2に係るイオン粒子電源のブロック構成図。
【図4】実施例2の加速電源の出力電圧変動抑制効果の説明図。
【図5】本発明の実施例3に係るイオン粒子電源のブロック構成図。
【図6】アーク電圧と負荷抵抗の関係を示す説明図。
【図7】本発明の実施例4に係るイオン粒子電源のブロック構成図。
【図8】フィラメント電圧と負荷抵抗の関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施1に係るイオン粒子電源を図1及び図2を参照して説明する。図1は実施例1に係るイオン粒子電源のブロック構成図である。
【0014】
図示しない真空チャンバー内に配置されたイオン源の壁1の内部には数10本のフィラメントから成るフィラメント5が設けられ、フィラメント電源2はこのフィラメント5に数100Aの電流を供給してフィラメント5を加熱する。
【0015】
アーク電源3は、加熱されたフィラメント5とイオン源の壁1の間に直流または交流の数100Vの電圧を印加し、イオン源の壁1内にイオン粒子を生成する。生成されたイオン粒子は、加速電源4によって電極6とイオン源の壁1間に印加された高電圧の作る電界によって加速され、電極6の開口部を通過して外部に引き出される。
【0016】
以下、加速電源4の内部構成について説明する。図示しない商用交流電源から給電される交流スイッチ7は後述する制御部20によってその出力電圧が制御される。交流スイッチ7の出力は昇圧用変圧器8を介してダイオード整流器9に与えられる。尚、加速電源4の電圧定格によっては昇圧用変圧器8を省略することもできる。ダイオード整流器9の直流出力はコンデンサ10に与えられて加速電源4の出力電圧が平滑化される。コンデンサ10に印加される電圧すなわち加速電源4の出力電圧は、電圧検出器11で検出され制御部20に与えられる。
【0017】
以下制御部20の内部構成を説明する。
【0018】
電圧検出器11で検出された加速電源4の出力電圧は減算器21によって電圧設定値から減算され、その偏差が電圧制御器22に与えられる。電圧制御器22においてはこの偏差が最小となるように必要に応じてPID制御を行って加速電源出力基準を出力して加算器23の一方の入力とする。尚、加速電源は、電圧制御器22の出力がオーバーシュートして過電圧が出力されることを嫌うため、電圧制御器22は通常比例及び積分制御のみとする。このため電圧制御器22の応答速度には限界がある。
【0019】
AND回路24は、加速電源4が作動したタイミングで得られる加速電源ON信号とアーク電源3が作動したタイミングで得られるアーク電源ON信号の論理積を関数発生器25に与える。関数発生器25はこの信号を受けると直ちに予め設定された時間関数f(t)を加算電圧として出力し、加算器23の他方の入力とする。
【0020】
そして、加算器23の出力は加速電源出力指令値として交流スイッチ7に与えられる。交流スイッチ7はその出力が加速電源出力指令値に一致するように内部のスイッチング素子をオンオフ制御する。交流スイッチ7のスイッチング素子は通常サイリスタが用いられるが、IGBTなどの自己消弧型素子を用いても良い。
【0021】
時間関数f(t)が所定時間の間所定の一定値を出力するように設定されているとき、加速電源4の出力電圧変動がどのようになるかについて図2を参照して説明する。
【0022】
図2(a)に示すように、時刻t=t0で加速電源4をオンし、時刻t=t1でアーク電源3をオンする。このとき、図示したように加速電源出力指令値は一定値の加速電源出力基準に対しt=t1からt=t2までの間関数発生器25の出力が加算電圧として加算される。その結果、加速電源出力電圧はt=t1で若干落ち込むが、加算電圧の効果によって短時間で回復する。図2(b)には、関数発生器25による加算電圧がない場合の加速電源4の出力電圧変動を比較図として示している。この図との比較によって、関数発生器25による加算電圧が加速電源4の出力電圧変動を抑制していることが判る。
【0023】
本実施例によれば、アーク電源と加速電源が共にオンとなった時刻から一定時間の間、加速電源の出力基準値に一定値を加算するので、加速電源の出力電圧が落込んだ時に加速電源の出力指令値が高くなり、電圧の回復時間を短縮して加速出力電圧の変動を抑制し、質の高いビームを放出するイオン粒子電源を提供できる。
【0024】
尚、加速電源の出力基準値に加算する加算電圧を時間の関数とすることも可能である。このようにすれば、加速電源の出力電圧の落込みの是正をきめ細かく行うことができる。
【実施例2】
【0025】
以下、本発明の実施2に係るイオン粒子電源を図3及び図4を参照して説明する。
【0026】
図3は本発明の実施例2に係るイオン粒子電源のブロック構成図である。この実施例2の各部について、図1の本発明の実施例1に係るイオン粒子電源の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、加速電源4の出力電流を検出する電流検出器12を設けた点、関数発生器25Aの関数を、電流検出器12で検出された出力電流Iの関数f(I、t)となるように構成した点である。
【0027】
図4は実施例2における加速電源の出力電圧変動抑制効果の説明図であり実施例1の図2相当図である。図4に示したように、t=t1でアーク電源がオンすると加速電源出力電流Iは急激に立ち上がる。この立ち上がりの微分要素を主体として関数f(I、t)を設定し、図示するように関数f(I、t)を加速電源出力基準に加算して加速電圧出力指令値を得るようにすれば、出力電圧の落ち込みを抑制することが可能となる。
【0028】
この実施例2によれば、加速電源出力指令値を一定の加速電源出力基準よりも関数値分だけ高くすることができるため、加速電源出力電圧の落込み時間が短縮される。関数f(I、t)を適切に選定すれば電圧の回復曲線をきめ細かく調整することが可能となる。
【実施例3】
【0029】
以下、本発明の実施3に係るイオン粒子電源を図5及び図6を参照して説明する。
【0030】
図5は本発明の実施例3に係るイオン粒子電源のブロック構成図である。この実施例3の各部について、図1の本発明の実施例1に係るイオン粒子電源の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例3が実施例1と異なる点は、関数発生器25Bの関数を、加速電源4の電圧設定値Eとアーク電源3の電圧設定値Eaの関数f(E、Ea、t)となるように構成した点である。
【0031】
加速電源4の電圧制御は交流スイッチ7による制御であるため応答時間が比較的遅い。このため、コンデンサ10の電圧が落ち込んでからそれを補償するのでは遅いため、事前に電圧落込み量を予測して電圧を上積みする。コンデンサの電荷量変化を△Q、出力電流をI、時間変化を△t、コンデンサ容量をC、コンデンサ電圧変化を△Vとすると、ΔQ=IΔt=CΔVで表されるため、コンデンサ電圧の落込み△Vは電流時間積IΔtに比例する。加速電源の負荷は抵抗負荷であるため、電流は加速電圧設定値Eに比例する。従って、コンデンサ電圧の落込みは加速電圧設定値Eに比例することになる。また、図6に示すように、アーク電圧が30Vのときには負荷抵抗はR10と高く、アーク電圧を130Vとすれば負荷抵抗はR20と低くなり、負荷抵抗はアーク電圧に反比例する。このため、一例として(1)式に示すように、加速電圧設定値Eとアーク電圧設定値Eaより電流を予測することができる。
【0032】
電流I=A×加速電圧設定値×アーク電圧設定値Ea・・・(1)
ここでAはイオン源の性能と各電源の定格によって決まる定数である。このことから、加速電圧設定値Eとアーク電圧設定値Eaより(2)式によってコンデンサ電圧の落込みを予測し、落込み量を補償するための加算電圧を出力する関数f(E、Ea、t)を決めることが可能となる。
【0033】
電圧落込み量△V=電流I×△t/C=A×E×Ea×△t/C・・・(2)
この実施例3によっても、加速電源出力指令値を一定の加速電源出力基準よりも関数値分だけ高くすることができるため、加速電源出力電圧の落込み時間が短縮される。関数f(E、Ea、t)を適切に選定すれば電圧の回復曲線をきめ細かく調整することが可能となる。
【0034】
尚、関数f(E、Ea、t)の時間変化は、電圧制御器22の応答時間等によって決めることができるが、実際に観測される電圧落ち込みの時間変化から決めるようにしても良い。
【実施例4】
【0035】
以下、本発明の実施4に係るイオン粒子電源を図7及び図8を参照して説明する。
【0036】
図7は本発明の実施例2に係るイオン粒子電源のブロック構成図である。この実施例4の各部について、図5の本発明の実施例3に係るイオン粒子電源の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例4が実施例3と異なる点は、関数発生器25Cの関数を、加速電源4の電圧設定値Eとアーク電源3の電圧設定値Eaに、フィラメント電源2の電圧設定値Efも加えた関数f(E、Ea、Ef、t)となるように構成した点である。
【0037】
実施例3においてはフィラメント電源2の電圧設定値を一定としていたのに対し、本実施例においてはフィラメント電源設定値Efを関数内に盛り込むことによりフィラメント電源設定値Efが変化した場合においても電圧落込み量を正確に予測できる。従って、加速電源出力電圧の変動を更にきめ細かく調整することができる。
【0038】
図8に示すように、フィラメント電圧が15Vから10V、5Vと低下すると、アーク電圧が130Vのときの負荷抵抗はR20からR21、R22と上昇し、アーク電圧が30Vのときの負荷抵抗もR10からR11、R12と上昇する。
【0039】
従って、一例として(3)式に示すように、加速電圧設定値E、アーク電圧設定値Ea及びフィラメント電圧設定値Efより加速電流を予測することができる。
【0040】
電流I=E/{(1/(A×Ea)+(B/Ef)−C}・・・(3)
ここでB、Cはイオン源の性能と各電源の定格によって決まる定数である。このことから、加速電圧設定値E、アーク電圧設定値Ea及びフィラメント電圧設定値Efより(4)式によってコンデンサ電圧の電圧落込み量△Vを予測し、落込み量を補償するための加算電圧を出力する関数f(E、Ea、Ef、t)を決めることが可能となる。
【0041】
△V=E/{(1/(A×Ea)+(B/Ef)−C}×△t/C・・・(4)
この実施例4によっても、加速電源出力指令値を一定の加速電源出力基準よりも関数値分だけ高くすることができるため、加速電源出力電圧の落込み時間が短縮される。関数f(E、Ea、Ef、t)を適切に選定すれば電圧の回復曲線をきめ細かく調整することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 イオン源の壁
2 フィラメント電源
3 アーク電源
4 加速電源
5 フィラメント
6 電極
7 交流スイッチ
8 昇圧変圧器
9 ダイオード整流器
10 コンデンサ
11 電圧検出器
12 電流検出器
20 制御部
21 減算器
22 電圧制御器
23 加算器
24 AND回路
25、25A、25B、25C 関数発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源内に設けられたフィラメントを加熱するためのフィラメント電源と、
前記フィラメントと前記イオン源の壁に電圧を印加してイオン粒子を生成させるためのアーク電源と、
前記イオン源の壁と電極間に直流電圧を印加して前記イオン粒子を加速するための加速電源とから成るイオン粒子電源であって、
前記加速電源は、
商用交流電源に接続された交流スイッチと、
この交流スイッチの出力を整流して直流に変換する整流器と、
この整流器の出力を平滑して前記直流電圧を得るためのコンデンサと、
加速電源出力指令値を前記交流スイッチに与えてその出力電圧を制御するための制御手段と
を具備し、
前記制御手段は、
前記直流電圧と電圧設定値との偏差に応じて加速電源出力基準を得る電圧制御手段と、
前記加速電源と前記アーク電源が共にオンしたとき、所定の関数を発生する関数発生器と
を有し、
前記加速電源出力基準と前記関数発生器の出力を加算して前記加速電源出力指令値を得るようにしたことを特徴とするイオン粒子電源。
【請求項2】
前記関数発生器は、所定の時間に所定の一定値を出力するようにしたことを特徴とする
請求項1に記載のイオン粒子電源。
【請求項3】
前記関数発生器は、前記加速電源の出力電流に応じた関数を出力するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のイオン粒子電源。
【請求項4】
前記関数発生器は、前記加速電源の前記電圧設定値と、前記アーク電源のアーク電圧設定値に応じた関数を出力するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のイオン粒子電源。
【請求項5】
前記関数発生器は、前記加速電源の前記電圧設定値と、前記アーク電源のアーク電圧設定値と、前記フィラメント電源のフィラメント電圧設定値に応じた関数を出力するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のイオン粒子電源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−134632(P2011−134632A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293962(P2009−293962)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】