説明

イオン電流検出装置

【課題】低コスト化を実現できるイオン電流検出装置を提供する。
【解決手段】一次コイルL1及び二次コイルL2とも直流電源から直流電圧を受けるよう構成された点火コイル1と、一次コイルの電流をON/OFF制御するスイッチング素子2と、二次コイルL2に誘起される高電圧に基づいて直流電源に向かう方向に放電する点火プラグPGと、一次コイルL1の直流電源側の端子と、二次コイルL2の直流電源側の端子との間に接続されて、点火プラグの放電方向を規制するダイオードD1と、ダイオードD1の両端に接続されて直流電源の直流電圧を受ける分圧抵抗R1,R2と、分圧抵抗R1,R2の接続点の信号電圧を受けて動作する増幅回路3と、を有し、直流電源の直流電圧に基づいて点火プラグに流れるイオン電流を、増幅回路3の出力として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼により発生するイオン電流を、簡易且つ低コストの回路構成で検出できるイオン電流検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンなどの内燃機関では、燃焼室に導入した空気及び燃料の混合気を、点火プラグの点火放電により燃焼させることでエネルギーを発生させている。このような内燃機関では、燃焼時、燃焼室内の分子がイオン化するので、適当なタイミングで点火プラグにバイアス電圧を加えると、イオン電流を取得することが可能となる。
【0003】
そして、取得したイオン電流にノック信号が重畳しているか否かによってノッキング発生の有無を把握することが可能となる(例えば、特許文献1〜特許文献2)。その他、取得したイオン電流に基づいて、OBD(On-board diagnostics)対応、排ガス低減、燃費低減などのエンジン制御が実行されている。
【0004】
図2は、特許文献1に記載の回路構成を図示したものであり、このイオン電流検出装置では、スイッチング素子QのOFF遷移時に、点火コイルの二次コイルL2に図示の向きの高電圧が発生して、点火プラグPGが負方向に点火放電する(マイナス放電)。また、このOFF遷移時には、点火プラグPGの放電電流が、二次コイルL2→ツェナーダイオードZD11及びコンデンサC11→ダイオードD22の経路で流れて、コンデンサC11が充電される。そして、この点火放電電流が収束した後に、コンデンサC11の両端電圧をバイアス電源として、実線の向きにイオン電流iが流れ、OPアンプ30からイオン電流iに対応する検出信号Rf*iが出力される。
【0005】
一方、マイナス放電に代えて、プラス放電を実現する図3のような回路構成も知られている(特許文献2参照)。図3に示す回路では、スイッチング素子QのOFF遷移時に、点火コイルの二次コイルL2に図示の向きの高電圧が発生して、点火プラグPGが正方向に点火放電している。
【0006】
そして、このOFF遷移時には、一次コイルL1→ダイオードD11→ツェナーダイオードZD11及びコンデンサC11→ダイオードD22の経路でコンデンサC11が充電される。そして、その後、点火プラグPGの両端電圧が降下すると、コンデンサC11の両端電圧をバイアス電源として、実線の向きにイオン電流iが流れ、OPアンプ30から検出信号Rf*iが出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−077763号公報
【特許文献2】特開2002−180949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図2や図3のような回路構成では、イオン電流を検出するためのバイアス回路として、コンデンサC11とツェナーダイオードZD11が必要となり、回路構成がやや複雑な上に、これらの部品コストが高いという問題があった。すなわち、これらの部品は、高温(例えば160℃)且つ高圧(例えば250V〜350V)下において所望の動作が保証される必要があり、低コスト化が困難である。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、より低コスト化を実現できるイオン電流検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明に係るイオン電流検出装置は、一次コイルと二次コイルが電磁結合され、一次コイル及び二次コイルとも直流電源から直流電圧を受けるよう構成された点火コイルと、一次コイルを介在して直流電源から直流電圧を受け、一次コイルの電流をON/OFF制御するスイッチング素子と、スイッチング素子のOFF動作時に二次コイルに誘起される高電圧に基づいて、グランドから直流電源に向かう方向に放電する点火プラグと、一次コイルの直流電源側の端子と、二次コイルの直流電源側の端子との間に接続されて、点火プラグの放電方向を一方向に規制する電流規制素子と、電流規制素子の直流電源側の端子と、二次コイルの直流電源側の端子との間に接続される第一抵抗素子及び第二抵抗素子による分圧回路と、第一抵抗素子及び第二抵抗素子の接続点の信号電圧を受けて動作する増幅回路、を有し、直流電源の直流電圧に基づいて点火プラグに流れるイオン電流を、増幅回路の出力として検出可能に構成されている。
【0011】
本発明では、直流電源の直流電圧に基づいてイオン電流を検出するので、高温且つ高圧下において所望の動作が要求される回路素子が不要となり、低コスト化を実現することができる。
【0012】
なお、「一次コイルを介在して直流電圧を受ける」とは、実施例のように、スイッチング素子のコレクタ端子に一次コイルが接続されている態様に限定されず、例えば、そのエミッタ端子に一次コイルが接続されるような態様も含む概念である。
【0013】
本発明において、第一抵抗素子及び第二抵抗素子の接続点の信号電圧は、保護抵抗素子を経由して増幅回路の入力端子に供給されているのが好ましい。同様に、増幅回路の入力端子とグランド間には、電流方向を一方向に規制する保護素子が配置されているのが好ましい。
【0014】
また、前記増幅回路は、非反転入力端子に信号電圧を受け、反転入力端子と出力端子との間に第三抵抗素子を配置したOPアンプで構成され、反転入力端子とグランドとの間に、第四抵抗素子を配置しているのが典型的である。また、一次コイルと二次コイルは、コイル巻線が逆相に巻かれて構成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記した本発明のイオン電流検出装置によれば、高圧下で所望の動作が保証される抗耐熱性の回路部品を必要としないので、回路構成が簡素な上に、低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例に係るイオン電流検出装置を説明する回路図である。
【図2】従来技術を説明する回路図である。
【図3】別の従来技術を説明する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1(a)の回路図を参照しつつ、実施例に係るイオン電流検出装置について説明する。図示の通り、このイオン電流検出装置は、一次コイルL1と二次コイルL2が電磁結合された点火コイル1と、一次コイルL1の電流をON/OFF制御するスイッチング素子2と、OPアンプAMPで構成された電流検出部3と、二次コイルL2に直列接続された点火プラグPGと、一次コイルL1や電流検出部3に直流電圧を供給するバッテリ電源VBと、点火プラグPGの点火放電時にだけON動作するダイオードD1と、を中心に構成されている。
【0018】
特に限定されるものではないが、OPアンプAMPは、バッテリ電源VBから生成された単一電源Vccで動作するよう構成されている。また、スイッチング素子2は、具体的には、例えばIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタInsulated Gate Bipolar Transistor)で構成されている。
【0019】
そして、IGBTのゲート端子には、点火パルスSGが供給され、コレクタ端子は一次コイルL1を経由してバッテリ電源VBに接続され、エミッタ端子はグランドに接続されている。また、IGBTのコレクタ端子とエミッタ端子には、不図示のツェナーダイオードのカソード端子とアノード端子が接続されている。
【0020】
点火コイル1を構成する一次コイルL1と二次コイルL2は、コイル巻線が逆相に巻かれ、スイッチング素子2がOFF遷移して一次コイルL1の電流が遮断されると、二次コイルL2に、図示の向きの高電圧が発生するよう構成されている。その結果、点火プラグPGは、グランドからバッテリ電源VBに向けて点火放電するマイナス放電が実現される(図1(b)参照)。そして、一次コイルL1と二次コイルL2のバッテリ側の端子には、マイナス放電の電流経路を実現する向きにダイオードD1が接続されている。
【0021】
電流検出部3は、OPアンプAMPと、OPアンプAMPの反転端子(−)と出力端子間に接続された帰還抵抗R3と、OPアンプAMPの反転端子(−)とグランド間に接続されたグランド抵抗R4と、OPアンプAMPの非反転端子(+)とグランド間に接続されたツェナーダイオードZDと、OPアンプAMPの反転端子(+)に接続された保護抵抗rと、ダイオードD1の両端に接続された分圧抵抗R1,R2と、を有して構成されている。
【0022】
図示の通り、分圧抵抗R1,R2の接続点は、保護抵抗rを通して、OPアンプAMPの非反転端子(+)に接続されている。そして、OPアンプAMPは、非反転増幅回路として動作して、非反転入力端子の入力電圧Viを(1+R3/R4)倍に増幅する。すなわち、OPアンプAMPの出力電圧Voは、Vo=(1+R3/R4)×Viとなる。
【0023】
なお、保護抵抗rは、OPアンプAMPの保護用素子であり省略しても良い。また、ツェナーダイオードZDは、OPアンプAMPを保護するための回路素子であり、高価な回路素子を使用する必要はない。
【0024】
続いて、上記した回路構成を有するイオン電流検出装置の回路動作を説明する。
【0025】
<点火放電時>
タイミングt0で立上ることでスイッチング素子2をON動作させた点火パルスSGが、タイミングt1に立下ると、二次コイルL2の誘起電圧に基づいて、点火プラグPGが点火放電し、その放電電流は、二次コイルL2→ダイオードD1→バッテリ電源VB→点火プラグPGの経路で流れる(図1(b)破線矢印参照)。
【0026】
なお、この点火放電時、分圧抵抗R1,R2の両端電圧は、ダイオードD1の順方向電圧降下Vfに一致するので、分圧抵抗R1,R2の接続点の電位は、バッテリ電源VBの電圧Vbに対応して、Vb−Vf×R1/(R1+R2)≒Vbとなる。そのため、OPアンプAMPの出力電圧Voは、正方向に飽和して電源電圧レベルとなる。
【0027】
<イオン電流検出時>
上記の点火放電動作において、その後、放電エネルギーが収束すると、ON状態のダイオードD1がOFF状態に遷移する。すると、その後は、バッテリ電源VB→分圧抵抗R1→分圧抵抗R2→二次コイルL2→点火プラグPGの経路でイオン電流ioが流れる。ここで、分圧抵抗R2→二次コイルL2→点火プラグPGの経路の抵抗値をRとすると、OPアンプAMPへの入力電圧Viは、
Vi=io×Rとなるので、OPアンプAMPの出力電圧Voは、
Vo=(1+R3/R4)×R×io
となり、イオン電流ioに対応した検出電圧Voを得ることができる。
【0028】
以上の通り、本実施例によれば、専用のバイアス回路を必要とせず、バッテリ電源VBに基づいてイオン電流に対応した検出電圧Voを取得できるので、回路構成の簡素化と、装置全体の低コスト化を実現することができる。すなわち、図2や図3に示すような、高価なツェナーダイオードZD11やコンデンサC11を使用することなく所望の動作を実現することができる。
【0029】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、具体的な回路構成は、何ら本発明を限定するものではない。例えば、OPアンプAMPを例示したが、これと同等に機能する回路素子でよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
L1 一次コイル
L2 二次コイル
1 点火コイル
2 スイッチング素子
3 増幅回路
D1 電流規制素子
R1 第一抵抗素子
R2 第二抵抗素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイルと二次コイルが電磁結合され、一次コイル及び二次コイルとも直流電源から直流電圧を受けるよう構成された点火コイルと、
一次コイルを介在して直流電源から直流電圧を受け、一次コイルの電流をON/OFF制御するスイッチング素子と、
スイッチング素子のOFF動作時に二次コイルに誘起される高電圧に基づいて、グランドから直流電源に向かう方向に放電する点火プラグと、
一次コイルの直流電源側の端子と、二次コイルの直流電源側の端子との間に接続されて、点火プラグの放電方向を一方向に規制する電流規制素子と、
電流規制素子の直流電源側の端子と、二次コイルの直流電源側の端子との間に接続される第一抵抗素子及び第二抵抗素子による分圧回路と、
第一抵抗素子及び第二抵抗素子の接続点の信号電圧を受けて動作する増幅回路、を有し、
直流電源の直流電圧に基づいて点火プラグに流れるイオン電流を、増幅回路の出力として検出可能に構成されたことを特徴とするイオン電流検出装置。
【請求項2】
第一抵抗素子及び第二抵抗素子の接続点の信号電圧は、保護抵抗素子を経由して増幅回路の入力端子に供給されている請求項1に記載のイオン電流検出装置。
【請求項3】
増幅回路の入力端子とグランド間には、電流方向を一方向に規制する保護素子が配置されている請求項1又は2に記載のイオン電流検出装置。
【請求項4】
前記増幅回路は、非反転入力端子に信号電圧を受け、反転入力端子と出力端子との間に第三抵抗素子を配置したOPアンプで構成され、
反転入力端子とグランドとの間に、第四抵抗素子を配置している請求項1〜3の何れかに記載のイオン電流検出装置。
【請求項5】
一次コイルと二次コイルは、コイル巻線が逆相に巻かれて構成されている請求項1〜4の何れかに記載のイオン電流検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−246798(P2012−246798A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117637(P2011−117637)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000109093)ダイヤモンド電機株式会社 (387)
【Fターム(参考)】