説明

イカ内臓から抽出したオリゴペプチドとその調製方法、混合物及び海洋水産飼料タンパク源としての用途

本発明は、イカ内臓から抽出するオリゴペプチド及びその調製方法に関するもので、その特徴はアミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含み、相対分子量範囲は1400〜5800で、下記の方法により調製して得られることである。スルメイカの内臓を酵素分解した後、分画分子量18000Da限外ろ過膜でろ過し、さらにゲルクロマトグラフィーで分離・精製して、アミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含むオリゴペプチド物質を得る。その後、ソルビン酸カリウムを加え、均一に撹拌して乾燥させる。また本発明は、上記のイカ内臓から抽出するオリゴペプチド6%〜8%、大豆粕粉末50%〜60%、魚粉3%〜6%、コーンミール27%〜33%及び造粒用でん粉2%〜5%からなる混合物に関するものでもある。この混合物は、海洋魚、エビ、貝類等の海洋水産物養殖飼料のタンパク源として利用することができ、特に海洋水産魚類の飼料タンパク源に適している。この混合物を使用して海洋魚類を養殖すれば、魚類の摂食量を大幅に高め、魚類個体の単位重量を増加させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規オリゴペプチドに関し、具体的には、イカ内臓から抽出したオリゴペプチド及びその調製方法、さらに、この物質の混合物及び該混合物の海洋水産養殖における飼料タンパク源としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の遠洋漁業の迅速な発展に伴い、イカの漁獲量は年々増加し、2009年のイカ漁獲量は30万トンを超え、我が国の主要な水産加工原料になっている。しかし我が国のイカ加工の技術水準は低く、加工処理で松かさイカ、干物、イカ塩辛、缶詰及び調味料などの製品を得た後、一般に20%〜30%の廃棄物(内臓、頭、足、表皮、イカスミなど)が生じるが、これら廃棄物はタンパク質、脂肪、多糖などの栄養物質を豊富に含んでおり、珠海市出入国検験検疫局の呉莉敏の研究(非特許文献1)によると、イカ内臓100g当たりには、脂肪21.15g、タンパク質21.24g、カルシウム51.46mg、鉄609.07μg、リン95.88μgなどが含まれている。ただしこれらの物質は極めて腐乱変質しやすい上に人体に有害な重金属カドミウムを含んでいる。通常はこれら廃棄物の処理方法は埋めてしまうことであるが、これは漁業資源の大きな浪費であるだけでなく、環境汚染の問題もはらんでいる。従って、イカ廃棄物を如何に効果的に処理しその価値を高め総合的に利用するかが、国民と社会にますます重視されるようになってきている。
【0003】
中国水産科学院黄海水産研究所の王彩理ら(非特許文献2)は、バナメイエビに対するイカ内臓液化タンパクの摂餌誘引性について研究し、イカ内臓スラリーの摂餌誘引効果が最も高く、ベタイン、タウリン、アリシンより強いことを発見した。上海水産品加工技術開発センターの王建中ら(非特許文献3)は、イカ内臓の総合利用研究において、イカ内臓とその他の廃棄物を利用し自己酵素による加水分解を行うことで、イカ油や内臓加水分解液を開発すると共に、加水分解液からカドミウムを除去するという難題も解決した。中国海洋大学水生生物製品安全性実験室の劉春娥ら(非特許文献4)は、イカ内臓タンパク質の酵素分解技術の研究において、アミノ酸収率を主な指標とし、様々なプロテアーゼを用いてイカ内臓タンパク質の加水分解技術研究を行い、中性プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、トリプシン、パパインには良好な分解効果があり、アミノ酸転換率は50%以上に達することを示した。浙江工商大学の励建栄らの特許であるアメリカオオアカイカ内臓の一種の総合利用技術(中国特許出願第200610053372.6号)では、イカ内臓を蒸煮、酵素液化、加熱、遠心分離するなどの手順により得られた下層イカポリペプチドから、水産動物飼料タンパク源に用いるイカペーストを作製し、クルマエビへの食餌試験を行うことにより、イカペーストを添加すると摂餌量が明らかに増加し、幼エビの生存率と体重とが高まることが示されている。福建融▲しん▼海生物技術有限公司の蘇祖鳳の特許であるイカ内臓を用いた水産飼料摂餌誘引物質の生産方法(中国特許出願第200810071073.4号)では、イカ内臓を蒸煮、静置、自然酵素分解発酵することにより、油分を分離した後の沈殿に80〜90℃と60〜65℃との二回、低温真空濃縮を行っている。
【0004】
既存の飼料タンパク源の製造技術は主に、酵素分解後に高温蒸煮、濃縮する方法が取られているが、こうした工程では、タンパク質が変性しやすく、コラーゲンが生成され、栄養成分が低下するばかりか、水産動物に対する製品の摂餌誘引性が大きく損なわれてしまう。蘇祖鳳らの方法を採用し、SJN2−2000複効蒸発器を利用して酵素分解液に二次濃縮を行い、蒸発温度を90℃以下に制御し、濃縮温度を大きく下げたとしても、やはりこの難題を根本から解決することはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】呉莉敏、『農産品加工』、(中国)、2007年、(8): 94−96
【非特許文献2】王彩理ら、『水産養殖』、(中国)、2003年、第24巻、第5号、p.40−41
【非特許文献3】王建中ら、『中国海洋薬物』、(中国)、1999年、第1巻、p.55−58
【非特許文献4】劉春娥ら、『食品工業科技』、(中国)、2004年、第9巻、第25号、p.83−86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高温蒸煮方法を放棄し、限外ろ過膜(UF膜)を利用してイカ内臓から新規オリゴペプチドを抽出することであり、もう一つの目的は、このオリゴペプチドの調製方法を開発すること、さらにこのオリゴペプチドを含む混合物とその使用法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
我々は、スルメイカ(Todarodes pacificus)内臓を有機溶剤で脱脂した後、アルカラーゼとトリプシンで酵素分解し、その後、限外ろ過膜を用いて脱脂済み酵素分解液をろ過し、さらにゲルクロマトグラフィーで分離・精製し、アミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含むオリゴペプチドを得た後、これに、ソルビン酸カリウムを加えて均一に撹拌し、乾燥させた。本発明のオリゴペプチド、大豆粕粉末、コーンミール、でん粉、魚粉などを配合比率に従い造粒して得られた混合物は海洋水産養殖飼料のタンパク源として使用でき、魚・エビ・貝類などに大変良い摂餌誘引作用がある。これにより本発明の目的を実現した。
【0008】
本発明のイカ内臓から抽出したオリゴペプチドは、アミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含み、相対分子量範囲は1400〜5800であり、下記に述べる方法により調製して得られることを特徴とする。(1)スルメイカ内臓を破砕し、水を加えて均一に混ぜ、石油エーテルかn−ヘキサン、もしくは石油エーテルとn−ヘキサンの混合溶剤で脱脂し、有機溶剤層を除去し、水層を室温下に1〜3時間放置し、50〜60℃で1〜3時間加熱し、温度50〜60℃の水を加え、pHを8.0〜8.5に調節し、その後50〜60℃の温度保持状態において、原料1g当たり2000〜3000ユニットの比率によりアルカラーゼで1〜3時間酵素分解させた後、原料1g当たり2000〜3000ユニットの比率によりトリプシンで1〜3時間酵素分解させ、不溶性物質を除去し、酵素分解液を得る。(2)手順(1)で得られた酵素分解液を分画分子量18000Daの限外ろ過膜でろ過し、次にゲルクロマトグラフィーで分離・精製して、アミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含むオリゴペプチドを得る。
【0009】
本発明のイカ内臓から抽出したオリゴペプチドは、ソルビン酸カリウムなどの防腐剤を加えることもでき、手順(2)で得られたオリゴペプチド1000g当たりソルビン酸カリウム0.025〜0.050gを加え、均一に混ぜて乾燥させることが好ましい。試験調製においては、オリゴペプチドの純度が51%〜63%の時が、コスト制御に有利である。
【0010】
本発明のイカ内臓から抽出したオリゴペプチドの調製方法は、以下の手順を含むことを特徴とする。
(1)スルメイカの内臓を破砕し、水を加えて均一に混ぜ、石油エーテルかn−ヘキサン、もしくは石油エーテルとn−ヘキサンの混合溶剤で脱脂し、有機溶剤層を除去し、水層を室温下に1〜3時間放置し、50〜60℃で1〜3時間加熱し、温度50〜60℃の水を加え、pHを8.0〜8.5に調節し、その後50〜60℃の温度保持状態において、原料1g当たり2000〜3000ユニットの比率によりアルカラーゼで1〜3時間酵素分解させた後、原料1g当たり2000〜3000ユニットの比率によりトリプシンで1〜3時間酵素分解させ、不溶性物質を除去し、酵素分解液を得る。
(2)手順(1)で得られた酵素分解液を分画分子量18000Daの限外ろ過膜でろ過し、次にゲルクロマトグラフィーで分離・精製して、アミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含むオリゴペプチドを得る。
【0011】
本発明のイカ内臓から抽出したオリゴペプチドの調製方法は、手順(2)で得られたオリゴペプチドに、ソルビン酸カリウムなどの防腐剤を加えることもでき、オリゴペプチド1000g当たりソルビン酸カリウム0.025〜0.050gを加え、均一に混ぜて乾燥させることが好ましい。
【0012】
イカ内臓から抽出したオリゴペプチドの分子質量計算方法:
logMw=−bKav+c
ここで、実効分配係数Kavは排除された程度を示し、Mwは物質の分子質量を示し、b、cは定数でゲルカラム自身の性質に関係し、標準タンパク質試料によりb、cを計算することができる。
【0013】
ゲルクロマトグラフィーの分離・精製及び分子質量測定の操作は以下の通りである。
(1)中・大型のゲルクロマトグラフ・カラムを用いて分離・精製を行う。スルメイカの内臓を上記の本発明方法に従い脱脂処理した後、酵素分解を行い、分画分子量18000Daの限外ろ過膜で、イカ内臓の酵素分解液をろ過する。中・大型のゲルクロマトグラフを用いて分離し、このとき、ゲルクロマトグラフ型番号:Sephadex G−25、カラム型番号:200×10cm、緩衝液は0.05mol/Lリン酸塩緩衝液(0.16mol/L NaClを含む)、pH=7.0、溶媒流速は10mL/min、ベッドボリュームは約12000mLであり、試料を濃度50〜100mg/mLの溶液に調合し、0.45μmの精密ろ過膜でろ過し、500〜1000mLを取って試料注入し分離・精製し、下記に述べる手順の方法で分析測定する。
(2)小型ゲルクロマトグラフを用いて分子質量の測定を行う。分析条件選択:ゲルクロマトグラフ型番号: Sephadex G−25、カラム型番号:100×1cm、緩衝液は0.05mol/Lリン酸塩緩衝液(0.16 mol/LNaClを含む)、pH=7.0、溶媒流速0.20mL/min、測定波長280nm、ベッドボリューム約60mL。
(3)標準タンパク質試料を濃度5mg/mLの溶液に調合し、0.30μmの精密ろ過膜でろ過し、0.5mLを取って試料注入し、(Kav、logMw)の対応点3つ(28.5, 4.16)、(53.7,3.13)、(74.9,2.26)を得、計算により公式:logMw=−0.041Kav +5.33(R=0.9998)を得た。
(4)手順(1)で分離・精製したスルメイカ内臓の酵素加水分解液を、0.30μmの精密ろ過膜でろ過した後、濃度を10mg/mLに調整する。小型ゲルクロマトグラフを用いて、0.5mLを取り試料注入し、イカ内臓から抽出したオリゴペプチドの直線状の(Kav、logMw)点、それぞれ(53.3,3.15)、(38.2,3.76)を得、対応する分子質量を計算すると1400及び5800であった。
【0014】
本発明のイカ内臓から抽出したオリゴペプチドを含む混合物は、全質量分率100%で計算すると、イカ内臓から抽出したオリゴペプチド6%〜8%、大豆粕粉末50%〜60%、魚粉3%〜6%、コーンミール27%〜33%、及び造粒用でん粉2%〜5%からなることを特徴とする。使用する大豆粕粉末、魚粉、コーンミール及び造粒用でん粉は水産飼料用であり、市販されている。
【0015】
本発明の混合物の調製方法では、上記の比率により、イカ内臓から抽出したオリゴペプチド、大豆粕粉末、魚粉、コーンミールを均一に混ぜ、配合材料:水=1:4(質量比)の比率で適量の水を加え、均一に混ぜ、噴霧乾燥し、乾燥エキス粉末を得、配合比率により乾燥エキス粉末に造粒用でん粉を加えて造粒し、乾かして混合物を得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明の混合物は、海洋水産養殖(海洋魚類、エビ、貝類などを含む)飼料のタンパク源として使用でき、特に水産海洋魚類の飼料タンパク源に適している。
【0017】
本発明のイカ内臓から抽出したオリゴペプチドの調製過程における温度は60℃を超えず、乾燥時には噴霧乾燥装置を用いて乾燥し、短時間で効果がよいため、この物質が加水分解又は変性しないことを保証している。本発明の混合物は魚類に強い食餌誘引性があり、その主な成分であるイカ内臓から抽出したオリゴペプチドには、強力な魚臭があり、水産養殖飼料のタンパク源に最適である。本発明が提供する混合物を利用して海洋魚類を養殖すると、魚類の摂餌量を大幅に高め、魚類個体の単位重量を増やすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
具体的な実施方法:
以下の実施例は本発明についてのさらなる説明であり、本発明に対する制限ではない。実施例中の主な原材料、主な計器設備、主な生物学的及び化学的試薬などは以下の通りである。
【0019】
主な原材料:
広州市黄沙海産品市場からスルメイカ(Todarodes pacificus)内臓を収集し、−15℃で保存し、使用の12時間前に室温で解凍した。「大江牌」通常魚用配合飼料は上海大江(集団)股▲ふん▼有限公司より購入した。使用した大豆粕粉末、コーンミールは済寧双華工貿有限公司より購入、使用した魚粉は栄成新希望魚粉有限公司より購入した。
【0020】
主な計器設備:
発酵槽:LABFORS実験室卓上式小型発酵槽、生産地;スイス
均質装置:予華A8G型、生産地;河南省鞏義市
据置型遠心分離機:Bechman J2−Hs高速冷凍遠心分離機、生産地;米国
中・大型ゲルクロマトグラフ型番号:Sephadex G−25、カラム型番号:200×10 cm、緩衝液は0.05mol/Lリン酸塩緩衝液(0.16 mol/L NaClを含む)、pH=7.0、溶媒流速50mL/min、ベッドボリューム約12000mL
835−50アミノ酸自動分析計(日本日立社)
クロマトグラフWaters 2690、質量分析装置Waters Platform ZMD 4000
【0021】
主な生物学的及び化学的試薬:
トリプシン:100万ユニット(酵素活性)/g、大連保税区聯合博泰生物技術有限公司、製品番号:RM00102
アルカラーゼ(Alcalase):50万ユニット(酵素活性)/g、Novozymes社
有機試薬:有機試薬は広州試剤公司から購入(分析用試薬)
無機試薬:無機試薬は広州試剤公司から購入(分析用試薬)
純水:実施例で用いた水は全て純水であり、MiniQ純水調製システムで調整した。
【実施例1】
【0022】
スルメイカ内臓20kgを収集し、予華A8G型均質装置で撹拌・破砕し、水2Lを加え、さらに沸点範囲60〜90℃の石油エーテル(20L)を加えて撹拌・脱脂し、石油エーテル層を除去し、水層を室温に3時間放置し、50℃のオーブンで3時間加熱した。温度50℃の水8Lを加え、均一に混ぜ、飽和NaOH溶液でpHを8.5近くに調節し、さらに5mol/L濃度のNaOH溶液でpHを8.5に調節し、50℃の温度保持状態において、イカ内臓を発酵槽に入れ、原料3000ユニット/gで6×10ユニットのアルカラーゼを加えて3時間酵素分解させた後、さらに原料3000ユニット/gKで6×10ユニットのトリプシンを加えて3時間酵素分解させた。Bechman J2−Hs高速冷凍遠心分離機を用いて5000回転/分で遠心分離し、不溶性物質を除去した。分画分子量18000Daの限外ろ過膜で、脱脂した酵素分解液をろ過すると、オリゴペプチドを豊富に含む成分が得られ、次に中・大型Sephadex G−25ゲルクロマトグラフで分離・精製すると、アミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含むオリゴペプチドが得られた。オリゴペプチド1000g当たりソルビン酸カリウム0.025gの割合で、ソルビン酸カリウム0.0059gを加え、乾燥後、イカ内臓から抽出したオリゴペプチドを得た。
【0023】
イカ内臓から抽出したオリゴペプチド80g、大豆粕粉末600g、魚粉30g、コーンミール270gを量って取り、水4Lを加え、均一に混ぜた後、噴霧乾燥し、乾燥エキス粉末を得、造粒用でん粉20gを量って取り、造粒し、乾かして混合物を得た。
【実施例2】
【0024】
スルメイカ内臓20kgを収集し、予華A8G型均質装置で撹拌・破砕し、水12 Lを加え、さらに石油エーテルとn−ヘキサン混合溶剤(1:1)20Lを加えて撹拌・脱脂し、石油エーテル層を除去し、水層を室温に1時間放置し、60℃のオーブンで1時間加熱した。温度60℃の水8Lを加え、均一に混ぜ、飽和NaOH溶液でpHを8.0近くに調節し、さらに希薄濃度のNaOH溶液でpHを8.0に調節した。60℃の温度保持状態において、イカ内臓を発酵槽に入れ、4×10ユニットのアルカラーゼを加えて1時間酵素分解させた後、さらに4×10ユニットのトリプシンを加えて1時間酵素分解させた。Bechman J2−Hs高速冷凍遠心分離機を用いて5000回転/分で遠心分離し、不溶性物質を除去した。分画分子量18000Daの限外ろ過膜で、脱脂した酵素分解液をろ過すると、オリゴペプチドを豊富に含む成分が得られ、次に中・大型Sephadex G−25ゲルクロマトグラフで分離・精製すると、アミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含むオリゴペプチドが得られた。オリゴペプチド1000g当たりソルビン酸カリウム0.050gの割合で、ソルビン酸カリウム0.0078gを加え、乾燥後、イカ内臓から抽出したオリゴペプチドを得た。
【0025】
イカ内臓から抽出したオリゴペプチド60g、大豆粕粉末500g、魚粉60g、コーンミール330gを量って取り、水4Lを加え、均一に混ぜた後、噴霧乾燥し、乾燥エキス粉末を得、造粒用でん粉50gを量って取り、造粒し、乾かして混合物を得た。
【実施例3】
【0026】
実施例1のイカ内臓から抽出したオリゴペプチド65g、大豆粕粉末535g、魚粉30g、コーンミール330gを量って取り、水4Lを加え、均一に混ぜた後、噴霧乾燥し、乾燥エキス粉末を得、造粒用でん粉40gを量って取り、造粒し、乾かして混合物を得た。
【実施例4】
【0027】
実施例2のイカ内臓から抽出したオリゴペプチド75g、大豆粕粉末575g、魚粉50g、コーンミール280gを量って取り、水4Lを加え、均一に混ぜた後、噴霧乾燥し、乾燥エキス粉末を得、造粒用でん粉を20g量って取り、造粒し、乾かして混合物を得た。
【実施例5】
【0028】
アミノ酸組成分析:
実施例1と2で得られた、イカ内臓から抽出したオリゴペプチドをそれぞれ加水分解管に入れ、6mol/Lの塩酸溶液を加え、真空密封した。110℃で24h加水分解させ、冷ましてから定容・ろ過・蒸気乾燥し、0.02 mol/Lの塩酸溶液を加えて空気中に30 min置き、835−50アミノ酸自動分析計(日本日立社)を用いて、トリプトファン以外のアミノ酸含有量を測定し、次の結果を得た。
I:L:G:S:D:P:K:H:Y:T=1.05:1.02:3.01:0.96:0.98:1.00:0.97:0.98:0.95:1.00
【0029】
液体クロマトグラフィー/質量分析計(LC―MS)を用いた分子質量の測定:
液体クロマトグラフフィー条件:クロマトグラフWaters 2690、検出器:Waters 996、分析カラムLichrospher C−18 (2.6×250mm)、移動相:メタノール−水−0.5%酢酸勾配溶出、測定波長220nm、カラム温度30℃、試料注入量、10μL、流速0.3mL/min。質量分析条件:質量分析装置Waters Platform ZMD 4000、イオン化法ESI、キャピラリー電圧4.80kV、コーン電圧32 V、Gas Flow:4.2L/h、イオン源温度120℃、溶媒脱気温度250℃、質量範囲:1000〜8000m/z、光電子増倍管(PMT)電圧670V、Analyser Vacuum2.6e〜5mBar。
【0030】
液体クロマトグラフィー/質量分析計(LC―MS)を用いてオリゴペプチドの分子質量を測定する際、分子イオンピークは現れず、一部の基を除去した後のフラグメントピークのみ得られた。
【0031】
アミノ酸配列測定:エドマン(Edman)分解法でイカオリゴペプチドのアミノ酸配列を測定した。配列解析によりオリゴペプチドは−ILGGSDPKHYTG−の順序の連結構造を持つことが示された。
【0032】
イカ内臓から抽出したオリゴペプチドのアミノ酸について、アミノ酸組成分析、ゲルクロマトグラフィー分析、オリゴペプチド分子質量測定及びアミノ酸配列測定を行ったことにより、その中に−ILGGSDPKHYTG−オリゴペプチド構造フラグメントが含まれ、相対分子質量は1400から5800の間であるという結果が得られた。
【実施例6】
【0033】
ボラの食餌実験
2009年4月、1齢のボラ50尾を、本発明の飼料タンパク源を添加しない対照群(10尾)、実施例1〜3の混合物を10%添加した実験群(各10尾)、及び新鮮なイカ内臓液を10%添加した実験群(10尾)に分け、かつ同一の一般飼料(「大江牌」通常魚用配合飼料)を給餌した。1.5立方メートル程度の池5つに魚を入れ、最初の一ヶ月は毎日水を1/5換え、後の半月は毎日水を1/3換え、7日、15日、30日及び45日後の総体重と相応の時間間隔内の飼料の総消費量を記録し、これらの重量の変化状況と飼料の消費状況を分析した。このうち17日目に対照群のボラが1尾死亡したため、データは10尾に換算した後のデータである。結果は表1の通りである。新鮮なイカ内臓液は、イカ内臓を3時間自己酵素により分解させて得られた、未加工の物質である。表1から明確に見て取れるように、本発明の飼料タンパク源を添加しない対照群及び一般の新鮮なイカ内臓酵素分解液を添加した実験群と比べ、イカ内臓から抽出したオリゴペプチドを含む本発明の混合物は、飼料タンパク源としてボラの摂餌量を大幅に高め、ボラ個体の単位重量を増やすことができた。
【0034】
【表1】

【実施例7】
【0035】
バスの食餌実験
2009年8月、生後45日のオオクチバス50尾を、本発明の飼料タンパク源を添加しない対照群(10尾)、実施例1〜3の混合物を10%添加した実験群(各10尾)、及び新鮮なイカ内臓液10%を添加した実験群(10尾)に分け、かつ同一の一般飼料(「大江牌」通常魚用配合飼料)を給餌した。1.5立方メートル程度の池5つに魚を入れ、最初の一ヶ月は毎日水を15%換え、後の一ヶ月は毎日水を20%換え、7日、15日、30日及び60日後の総体重と相応の時間間隔内の飼料の総消費量を記録し、これらの重量の変化状況と飼料の消費状況を分析した。このうち5日目に対照群のバスが1尾死亡したため、データは10尾に換算した後のデータである。結果は表2の通りである。新鮮なイカ内臓液は、イカ内臓を3時間自己酵素により分解させて得られた、未加工の物質である。表2から明確に見て取れるように、本発明の飼料タンパク源を添加しない対照群及び一般の新鮮なイカ内臓酵素分解液を添加した実験群と比べ、イカ内臓から抽出したオリゴペプチドを含む本発明の混合物は、飼料タンパク源としてバスの摂餌量を大幅に高め、バス個体の単位重量を増やすことができた。
【0036】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含み、相対分子量範囲が1400〜5800であり、
(1)スルメイカ(Todarodes pacificus)の内臓を撹拌・破砕し、水を加えて均一に撹拌し、石油エーテルかn−ヘキサン、もしくは石油エーテルとn−ヘキサンの混合溶剤で脱脂し、有機溶剤層を除去し、水層を室温下に1〜3時間放置し、50〜60℃で1〜3時間加熱し、温度50〜60℃の水を加え、pH8.0〜8.5に調節し、その後50〜60℃に保温した状態において、原料1g当たり2000〜3000ユニットの比率によりアルカラーゼで1〜3時間酵素分解させた後、原料1g当たり2000〜3000ユニットの比率によりトリプシンで1〜3時間酵素分解させ、不溶性物質を除去して酵素分解液を得る工程、および
(2)手順(1)で得られた酵素分解液を、分画分子量18000Da限外ろ過膜でろ過し、次にゲルクロマトグラフィーで分離・精製して、アミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含むオリゴペプチド物質を得る工程により調製して得られることを特徴とするイカ内臓から抽出するオリゴペプチド。
【請求項2】
手順(2)で得られたオリゴペプチド物質1000gにつきソルビン酸カリウム0.025〜0.050gを加え、均一に撹拌して乾燥させることを特徴とする請求項1に記載のイカ内臓から抽出するオリゴペプチド。
【請求項3】
イカ内臓から抽出するオリゴペプチドの調製方法であって、
(1)スルメイカ(Todarodes pacificus)の内臓を撹拌・破砕し、水を加えて均一に撹拌し、石油エーテルかn−ヘキサン、もしくは石油エーテルとn−ヘキサンの混合溶剤で脱脂し、有機溶剤層を除去し、水層を室温下に1〜3時間放置し、50〜60℃で1〜3時間加熱し、温度50〜60℃の水を加え、pH8.0〜8.5に調節した後、50〜60℃に保温した状態において、原料1g当たり2000〜3000ユニットの比率によりアルカラーゼで1〜3時間酵素分解させた後、原料1g当たり2000〜3000ユニットの比率により、トリプシンで1〜3時酵素分解し、不溶性物質を除去して酵素分解液を得る工程、および
(2)手順(1)で得られた酵素分解液を、分画分子量18000Da限外ろ過膜でろ過し、次にゲルクロマトグラフィーで分離・精製して、アミノ酸構造フラグメント−ILGGSDPKHYTG−を含むオリゴペプチド物質を得る工程を含むことを特徴とする調製方法。
【請求項4】
手順(2)で得られたオリゴペプチド物質1000gにつきソルビン酸カリウム0.025〜0.050gを加え、均一に撹拌して乾燥させることを特徴とする請求項3に記載のイカ内臓から抽出するオリゴペプチドの調製方法。
【請求項5】
全質量分率100%として計算すると、請求項2に記載のイカ内臓から抽出するオリゴペプチド6%〜8%、大豆粕粉末50%〜60%、魚粉3%〜6%、コーンミール27%〜33%及び造粒用でん粉2%〜5%からなることを特徴とする請求項1に記載のイカ内臓から抽出するオリゴペプチドの混合物。
【請求項6】
請求項5に記載の混合物の海洋水産飼料としての応用。


【公表番号】特表2012−530788(P2012−530788A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531229(P2012−531229)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際出願番号】PCT/CN2010/078397
【国際公開番号】WO2012/027926
【国際公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【出願人】(511282070)中国科学院南海海洋研究所 (2)
【Fターム(参考)】