説明

イズミフェナジンA

【課題】新規な化学物質を資源として提供する。
【解決手段】下記式に示すイズミフェナジンA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物であるイズミフェナジンAに関し、更には、これらを用いた薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の我々の生活において、天然の動植物、微生物等の体内に含まれる化学物質(以下「天然物」という。)として見出されたもののうち人体に有用な効果をもたらすものは生薬、医薬品の有効成分として使用されている。また、このようなものは更に有用な医薬品を開発するための研究材料としても様々な役割を有しており、非常に重要なものとなっている。
【0003】
このように、人体に有益な効果をもたらす天然物の探索に関する報告としては、例えば下記非特許文献1に、変形菌からビスインドール化合物、ナフトキノン化合物、グリセリド化合物等を抽出した報告がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】石橋正己、“未利用菌類の資源化:変形菌からの天然物探索”、有機合成化学協会誌、2003年、第61巻、第2号、152〜163頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら一方で、天然物の探索が多数の者によって行なわれているにもかかわらず、探索の材料として検討、調査されたものは、地球上の全生物種の中で10%にも満たないといわれている。
【0006】
本発明は、新規な化学物質を資源として提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一手段に係るイズミフェナジンAは、下記式で示される。
【化1】

【0008】
また、本発明の他の一手段に係る薬剤は、下記式で示されるイズミフェナジンA及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する。
【化2】

【0009】
なお、上記の薬剤は、限定されるわけではないが、癌の治療薬として有用であることが期待される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、新規な化学物質を資源として提供することができる。特に、本発明に係る化学物質は、癌細胞に対し細胞増殖抑制作用を発揮するため、例えば癌の治療薬として利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】イズミフェナジンAの単離についてのスキームの概略を示す図である。
【図2】イズミフェナジンAのH NMRスペクトルを示す図である。
【図3】イズミフェナジンAの13C NMRスペクトルを示す図である。
【図4】イズミフェナジンAのCOSYスペクトルを示す図である。
【図5】イズミフェナジンAのHMQCスペクトルを示す図である。
【図6】イズミフェナジンAのHMBCスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態についての記載にのみ狭く解釈されるものではない。
【0013】
本発明の一形態に係るイズミフェナジンAは、下記式にて示される。
【化3】

【0014】
本実施形態に係るイズミフェナジンAは、後述の実施例から明らかなように、日本国の土壌より抽出することができるが、これに限定されず、合成することも可能である。
【0015】
本実施形態に係るイズミフェナジンAは、癌細胞に対し細胞増殖抑制作用を発揮するため、薬剤、例えば癌の治療薬として利用が期待される。なおイズミフェナジンAを癌の治療薬として利用する場合、イズミフェナジンA及びこの塩のうち少なくともいずれかを有効成分として含有しておくことが好ましい。
【0016】
また、本実施形態に係る癌の治療薬は、上記イズミフェナジンA及びこれらの塩のうち少なくともいずれかの他、薬学的に許容しうる通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤(例えば蒸留水)、pH緩衝剤(例えばリン酸緩衝生理食塩水)、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤等の各種調剤用配合成分を含有させることができる。
【0017】
またこの癌の治療薬は、患者の性別、体重、症状に見合った適切な投与量を経口的又は非経口的に投与することができる。経口的な投与としては、通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁液、油剤、乳化剤等の投与形態を採用することができる。また、非経口的な投与としては、通常用いられる投与形態、例えば上記の液剤、懸濁液等にしたものを直接患部に投与する方法、注射等により投与する形態を採用することができる。
【実施例】
【0018】
本実施例では、千葉県千葉市若葉区富田町(いずみの森)の土壌より分離された放線菌Streptomyces sp. IFM 11204株からイズミフェナジンAを抽出し、検討した結果を示す。図1に、イズミフェナジンAの単離についてのスキームの概略を示しておく。
【0019】
まず、放線菌Streptomyces sp.IFM 11204株を、ワックスマン寒天培地へ播種し、28℃で3日間培養した。コロニー及び胞子の形成を確認した後、これらをかきとり坂口フラスコ中のワックスマン液体培地に播種し、28℃で5日間振盪培養した。この後、菌株を大量に培養するため、新たに調製したワックスマン液体培地に上記の前培養した培養液を播種し、カブ型フラスコを用い28℃で5日間振盪培養した。培養後、得られた培養液5Lを遠心分離し、菌体と上清に分けた。なおここでワックスマン培地の組成は、グルコース2%、ペプトン0.5%、肉エキス0.5%、酵母エキス0.3%、塩化ナトリウム0.5%、炭酸カルシウム0.3%とした。なお、寒天培地の場合は、上記ワックスマン培地に寒天1.5%を含ませたものとした。
【0020】
菌体はアセトンで抽出し、減圧濃縮後、得られたアセトン抽出物を水に懸濁させ、酢酸エチルで溶媒分配を行い、酢酸エチル層を得た。また、上清を酢酸エチルで抽出し、得られた酢酸エチル抽出物と、菌体より得られた酢酸エチル層とを合わせて減圧濃縮し、粗抽出物2.1gを得た。
【0021】
得られた粗抽出物をSephadex LH−20を担体とするカラム(φ25×600mm)に付し、メタノールを用いて溶出し、溶出順に1A−1Dの各画分を得た。
【0022】
そして1B(220mg)をSilicagel60Nを担体とするカラム(φ45×250mm)に付し、クロロホルム−メタノールを用いて溶出し、溶出順に2A−2Cを得た。さらに2B(41mg)をシリカゲル分取TLC(クロロホルム/メタノール 87/13)にて分離精製し、イズミフェナジンA(1.8mg)を単離した。
【0023】
(イズミフェナジンAの構造)
イズミフェナジンAは赤色非結晶固体として得られた。本化合物は、TLC分析においてドラーゲンドルフ試薬噴霧により赤褐色を呈するスポットであったことから、アルカロイド化合物であることが推定された。
【0024】
また、イズミフェナジンAに対してHRESIMSを行い、[M−H]と推測されるm/z467.1004のピークを観測した。また、H NMR、13C NMR、DEPT、HMQCにより、分子式をC2516と決定した。図2に、イズミフェナジンAのH NMRスペクトルを、図3に、イズミフェナジンAの13C NMRスペクトルを、図4に、イズミフェナジンAのCOSYスペクトルを、図5に、イズミフェナジンAのHMQCスペクトルを、図6に、イズミフェナジンAのHMBCスペクトルをそれぞれ示し、特に下記表に、イズミフェナジンAのH NMR、13C NMRのデータを示しておく。
【表1】

【0025】
上記表で示すとおり、H NMRスペクトルにおいては、7つの芳香族水素が観測され、重水添加によりシグナルが消失する4つの交換性水素シグナルが観測された。うち、δ14.34ppmにブロードシングレットとして観測された水素シグナルは、そのケミカルシフト値よりカルボン酸のヒドロキシル基由来であることが示唆された。また13C NMRスペクトルにおいては、1つのカルボニル炭素および20本の芳香族炭素シグナルを含む計25本のシグナルが観測された。
【0026】
また、イズミフェナジンAに対して紫外吸収測定(以下「UV測定」という。)を行い、紫外吸収スペクトル(以下「UVスペクトル」という。)を得た。この紫外吸収測定は、メタノールを溶媒として濃度を3×10−5mol/l、セル長を0.2cmとして行なった結果、451.0nm、384.5nm、272.5nmに吸収ピークを有していた。
【0027】
また、イズミフェナジンAに対し、比旋光度[α]の測定を行った。イズミフェナジンAの濃度はメタノール溶媒において0.14g/dlとした。この結果、比旋光度は−480度であり、光学活性を有することが確認できた。
【0028】
また、イズミフェナジンAに対し、円偏光二色性スペクトル(CD)の測定も行った。この結果、288.4nm(Δε−14.2)、277.6nm(Δε8.2)、249.2nm(Δε34.1)、203.6nm(Δε17.2)でコットン効果を示した。()内にコットン効果の強度を示す。また下記表2に、比旋光度、HRESIMS、UV測定、CD測定及びIR測定の結果を示しておく。
【表2】

【0029】
以上、COSY、HMQC、HMBCスペクトルの詳細な解析より各プロトンシグナルおよび各炭素シグナルを帰属し、更に上記UVスペクトル等の結果を参照し、本化合物は、下記で示すフェナジンを基本骨格とする2つのユニットが二量体化した新規化合物であると判明した。
【化4】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は新規化合物を有効成分とし、薬剤として産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で示されるイズミフェナジンA。
【化1】

【請求項2】
下記式で示されるイズミフェナジンA及びその塩の少なくともいずれかを有効成分として含有する薬剤。
【化2】

【請求項3】
癌の治療薬である請求項2記載の薬剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−178734(P2011−178734A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45993(P2010−45993)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】