説明

イソフラボノイドの生産方法

【課題】イソフラボノイドの生産方法の提供。
【解決手段】マメ科以外の植物の2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素(以下IFS)を単離し、IFSをコードする遺伝子を同定する。該IFSやIFSをコードする遺伝子を用い、アヤメ科植物のIFSを単離し、このIFSをコードする遺伝子を同定する。酵母やシロイヌナズナを用いてIFSを発現させ、イソフラボノイドを生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マメ科以外の植物の2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素(イソフラボン骨格合成酵素、以下、IFSと示す)に関する。さらに詳しくは、ジャーマンアイリス(Iris germanica、以下Igと示す)、キショウブ(Iris pseudacorus、以下Ipと示す)またはイチハツ(Iris tectorum、以下Itと示す)等のアヤメ科植物から単離したIFSに関する。
【背景技術】
【0002】
2−ヒドロキシイソフラバノン(2−Hydroxyisoflavanone)、イソフラボン(ゲニステイン(Genistein))等のイソフラボノイドは、マメ科、アヤメ科等の植物に含まれ、近年、健康補助食品として注目されている。そこで、マメ科のダイズやカンゾウのIFSをコードする遺伝子をシロイヌナズナやタバコ等に導入して、これらのイソフラボノイドを生産することが試みられたが、生産量1gあたり、数nmolのイソフラボンが蓄積されただけであった。さらに、IFSと基質を競合する酵素について、その遺伝子をノックアウトしたシロイヌナズナを用い、イソフラボノイドの生産を向上する試みがなされたが、生産量1gあたり、最大でも200nmolに及ばないイソフラボンが蓄積されただけであり、高濃度のイソフラボノイドを得ることはできなかった(例えば、非特許文献1,2参照)。
【0003】
イソフラボノイドは、植物体内において、(2S)−フラバノン(ナリンゲニン(Naringenin))にIFSが作用することで2−ヒドロキシイソフラバノンとして合成され、さらに、この2−ヒドロキシイソフラバノンに2−ヒドロキシイソフラバノン脱水酵素(以下、HIDとする)が作用することでイソフラボンとして合成されることが知られている。
本発明者らは、イソフラボンの合成に働くHIDに着目し、ダイズおよびカンゾウのHIDをコードするポリヌクレオチドを特定し、これらを宿主細胞内で発現させることや、植物細胞に導入することでイソフラボン類の生産量が変化した植物を得ることを開示している(例えば、特許文献1、2参照)。また、上記のように、ダイズやカンゾウのIFSのみでは、イソフラボノイドを効率的に生産できないことから、IFSとHIDとを組み合わせ、高濃度のイソフラボノイドを生産することも検討している。
【0004】
イソフラボノイドは、ダイズやカンゾウ等のマメ科の植物に含まれることが特に注目されているが、蘚苔類のハリガネゴケ科、裸子植物のヒノキ科、マキ科、単子葉植物のアヤメ科の植物にも含まれており、イソフラボノイドの生産方法のひとつとして、アヤメ根茎の乾燥粉末をアルコールで抽出する方法(例えば、特許文献3参照)等も開示されている。
しかし、マメ科以外の植物について、IFSやHIDを単離することや、IFSやHIDをコードする遺伝子を同定し、これらによってイソフラボノイドの生産を行うことは検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4474518号
【特許文献2】国際公開第00/46356号パンフレット
【特許文献3】特開2004−67590号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yu,O.,Jung,W.,Shi,J.,Croes,R.A.,Fader,G.M.,McGonigle,B.and Odell,J.T.(2000) "Production of the isoflavones genistein and daidzein in non−legume dicot and monocot tissues." Plant Physiol.124:781−793.
【非特許文献2】Liu,C.J.,Blount,J.W.,Steele,C.L.and Dixon,R.A.(2002) "Bottlenecks for metabolic engineering of isoflavone glycoconjugates in Arabidopsis." Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:14578−14583.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マメ科以外の植物のIFSを単離し、IFSをコードする遺伝子を同定することを課題とする。さらに、該IFSやIFSをコードする遺伝子を用い、イソフラボノイドを生産することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、Ig、IpまたはIt等の複数のアヤメ科植物からIFSを単離し、これらのIFSをコードする遺伝子を同定することで、本発明を完成するに至った。本発明で同定された遺伝子は、マメ科のダイズやカンゾウ由来のIFSをコードする遺伝子と30%程度の同一性しか示さない、新規の特徴を有するものであった。
アヤメ科植物の中でも、Ig由来のIFS(以下、IgIFSと示す)は、酵母やシロイヌナズナを用いてその遺伝子を発現させたところ、マメ科植物由来のIFSを用いた場合と比較してイソフラボノイドの生産量が約100倍であることが確認された。このように、本発明において単離されたIFSは、高い酵素活性を有するものであり、イソフラボノイドの生産に有用なものであった。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(22)で示されるIFS、該IFSやIFSをコードする遺伝子を用いるイソフラボノイドを生産させる方法等に関する。
(1)配列表配列番号11で示されるアミノ酸配列に、78.5%以上の同一性を示すアヤメ科植物のIFS。
(2)配列表配列番号1、9または12のいずれかで示されるアミノ酸配列を実質的に有する上記(1)に記載のIFS。
(3)上記(1)または(2)に記載のIFSをコードするヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチド。
(4)配列表配列番号2、10または13のいずれかで示されるヌクレオチド配列からなる上記(3)に記載のポリヌクレオチド。
(5)配列表配列番号2、10または13のいずれかで示されるヌクレオチド配列に対して80%以上の同一性を有し、且つIFSをコードするポリヌクレオチド。
(6)アヤメ科植物からクローニングされた上記(4)または(5)に記載のポリヌクレオチド。
(7)アヤメ科植物がIg、IpまたはItである上記(6)に記載のポリヌクレオチド。
(8)上記(3)〜(7)のいずれかに記載されたポリヌクレオチドが挿入されたベクター。
(9)宿主細胞中で、上記(3)〜(7)のいずれかに記載されたポリヌクレオチドを発現しうる発現系を含む組換え体DNAまたはRNA。
(10)上記(8)に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞。
(11)宿主細胞が酵母である上記(10)に記載の形質転換された宿主細胞。
(12)上記(3)〜(7)のいずれかに記載されたポリヌクレオチドが挿入されたトランスジェニック植物。
(13)植物がシロイヌナズナである上記(12)に記載のトランスジェニック植物。
(14)アヤメ科植物由来のIFSをコードする遺伝子を導入した形質転換体またはトランスジェニック植物にイソフラボノイドを生産させる方法。
(15)さらに、HIDをコードする遺伝子を組み合わせて導入した形質転換体またはトランスジェニック植物にイソフラボノイドを生産させる上記(14)に記載の方法。
(16)形質転換体が酵母を宿主細胞とする形質転換体であり、トランスジェニック植物がシロイヌナズナを宿主植物とするトランスジェニック植物である上記(14)または(15)に記載の方法。
(17)アヤメ科植物がIg、IpまたはItである上記(14)〜(16)のいずれかに記載の方法。
(18)アヤメ科植物由来のIFSが配列表配列番号11で示されるアミノ酸配列に、78.5%以上の同一性を示すIFSである上記(14)〜(17)のいずれかに記載の方法。
(19)アヤメ科植物由来のIFSが配列表配列番号1、9または12のいずれかで示されるアミノ酸配列を実質的に有するIFSである上記(14)〜(18)のいずれかに記載の方法。
(20)アヤメ科植物由来のIFSをコードする遺伝子が、配列表配列番号1、9または12のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチドである上記(14)〜(19)のいずれかに記載の方法。
(21)アヤメ科植物由来のIFSをコードする遺伝子が、配列表配列番号2、10または13のいずれかで示されるヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチドである上記(14)〜(18)のいずれかに記載の方法。
(22)上記(14)〜(21)のいずれかに記載の方法により生産されたイソフラボノイド。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアヤメ科植物由来のIFSおよびIFSをコードする遺伝子を使用することにより、酵母、植物細胞や植物体等を用いてイソフラボノイドを高濃度に生産する技術の確立が可能となる。イソフラボノイドのうち、イソフラボンは特に女性ホルモンであるエストロゲン様の作用を有する。従って、本発明によって、高濃度に生産されたイソフラボノイドは、健康食品や化粧品等、様々な用途に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】Ig抽出液のイソフラボノイド合成活性を示した図である(実施例1)。
【図2】形質転換体のスクリーニング方法の概要等を示した図である(実施例1)。
【図3】IgIFSによる生成物を示した図である(実施例1)。
【図4】IgIFSを発現している形質転換体(酵母ミクロソーム)の生成物を確認した図である(実施例1)。
【図5】IgIFSを発現している形質転換体(酵母ミクロソーム)におけるイソフラボノイドの生産量を示した図である(実施例1)。
【図6】IgIFSとP450のアミノ酸配列のアライメントを示した図である(実施例1)。
【図7】IgIFSを含む系統樹を示した図である(実施例1)。
【図8】培養細胞でのイソフラボノイド合成酵素活性(IFS活性)の経時変化とRT−PCRを示した図である(実施例1)。
【図9】IgIFSとIp由来のIFS(以下、IpIFSと示す)のアライメントを示した図である(実施例2)。
【図10】アヤメ科植物とマメ科植物のIFSの系統樹を示した図である(実施例2)。
【図11】IgIFSとIt由来のIFS(以下、ItIFSと示す)のアライメントを示した図である(実施例3)。
【図12】各発現ベクターを示した図である(実施例4)。
【図13】IgIFSを発現しているトランスジェニック植物(シロイヌナズナ)の生成物を確認した図である(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の「IFS」には、配列表配列番号11で示されるアミノ酸配列に、78.5%、より好ましくは80%、さらに好ましくは85%以上の同一性を示すアヤメ科植物のIFSであればいずれのIFSも含まれる。由来となるアヤメ科植物としては、アヤメ科の植物であればいずれであっても良く、例えば、Ig、IpまたはIt等が挙げられる。
このような本発明の「IFS」として、例えば配列表配列番号1で示されるアミノ酸配列を実質的に有するIgIFS、配列表配列番号9で示されるアミノ酸配列を実質的に有するIpIFS、または配列表配列番号12で示されるアミノ酸配列を実質的に有するItIFS等が挙げられる。ここで、「アミノ酸配列を実質的に有する」とは、IFS活性を有する限り、当該アミノ酸配列に欠失、置換、付加、挿入等の変異があるものも含むことを意味する。欠失、置換、付加、挿入されるアミノ酸の数は、例えば、1〜100個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜10個、特に1〜5個であり得る。特に、アミノ酸残基を同様の特性のアミノ酸残基で置換したものであり、典型的なかかる置換は、Ala、Val、LeuおよびIle間、SerおよびThr間、AspおよびGlu間、AsnおよびGln間、LysおよびArg間、PheおよびTyr間の置換である。
【0013】
また、これらのIFSをコードするポリヌクレオチドとして、例えば、配列表配列番号11で示されるアミノ酸配列に78.5%、より好ましくは80%、さらに好ましくは85%以上の同一性を示すアヤメ科植物のIFSをコードするヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチド等が挙げられる。
ここで、「ヌクレオチド配列を実質的に有する」とは、IFSをコードする配列からなるポリヌクレオチドのほか、該配列と縮重による配列の相違、5'末端あるいは3'末端又はその両末端に適当な配列が付加されたポリヌクレオチド等も含む意味である。
このような「ポリヌクレオチド」として、例えば、配列表配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチド、配列表配列番号9で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチド、または配列表配列番号12で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチド等が挙げられる。また、配列表配列番号1、9または13のいずれかで示されるヌクレオチド配列に対して80%、より好ましくは85%、さらに好ましくは90%以上の同一性を有し、且つIFSをコードするポリヌクレオチド等が挙げられる。
【0014】
本発明の「ベクター」とは、大腸菌、酵母等の宿主細胞や、植物に導入することで、発現させたい遺伝子を発現させるためのものを指す。本発明において発現させたい遺伝子としては、上記の配列表配列番号11で示されるアミノ酸配列に78.5%、より好ましくは80%、さらに好ましくは85%以上の同一性を示すアヤメ科植物のIFSをコードするヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチド等が挙げられる。本発明においてこれらの遺伝子を発現させるベクターとして、従来知られているいずれのベクターも用いることができるが、例えば、酵母発現ベクターであるpYES−DEST52(invitrogen社)やpESC−Leu(Stratagene社)等を用いることができる。
【0015】
このような発現させたい遺伝子を組み込んだベクターは、酵母や大腸菌等を宿主として導入することができる。これらの宿主は該ベクターによって形質転換できるものであれば何を宿主としても良く、例えば、酵母や大腸菌等を宿主とすることができる。トランスジェニック植物も同様であり、宿主とする植物として例えば、シロイヌナズナ等を挙げることができる。
【0016】
本発明の「イソフラボノイドを生産させる方法」は、イソフラボノイドの生産にあたり、アヤメ科植物由来のIFSをコードする遺伝子を導入した形質転換体やトランスジェニック植物を用い、これらにイソフラボノイドを生産させる方法であれば良い。さらに、アヤメ科植物由来のIFSをコードする遺伝子の導入に合わせ、HIDをコードする遺伝子を組み合わせて導入した形質転換体またはトランスジェニック植物を用いて、これらにイソフラボノイドを生産させる方法であっても良い。本発明における「組換え体DNAまたはRNA」とは、これらの形質転換体やトランスジェニック植物におけるDNAまたはRNAのことを指す。これらの「組換え体DNAまたはRNA」は、酵母や植物において、IFSやHID等の遺伝子を発現させインビトロでフラバノン(基質)をイソフラボノイドへ変換したり、インビボでイソフラボノイドを生産したりするのに用いることができる。
ここで生産される「イソフラボノイド」としては、2−ヒドロキシイソフラバノン、イソフラボン等が挙げられる。
【0017】
本発明において導入する遺伝子は、「アヤメ科植物由来のIFS」をコードする遺伝子であれば上記のような遺伝子を導入することができ、組み合わせて導入する「2−ヒドロキシイソフラバノン脱水酵素をコードする遺伝子」のHIDの由来は特に問わない。例えばマメ科のダイズやカンゾウ由来であっても良く、アヤメ科のIg、IpまたはIt由来であっても良い。
【0018】
以下に、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0019】
試料
1)植物材料
スクロース(30g/l),プロリン(250mg/l),トリプトンペプトン(200mg/l),α−ナフタレン酢酸(1mg/l),ベンジルアデニン(0.5mg/l)を含むMS培地で暗所,25℃で培養したIgの不定根カルチャーを用いた(参考文献1)。寒天(9g/l)を含む上記培地で3週間不定根を培養後、寒天を含まない液体培地に不定根を移した。通常のアッセイでは、液体培地で培養後5日目の細胞を回収して,酵素アッセイに用いた。また液体培地に植え次ぎ後経時的(1日,3日,5日,10日,20日,30日)に不定根を回収し−80℃で保存し、イソフラボノイド合成酵素活性(IFS活性)の経時変化の解析とRT−PCRに用いた。
10%スクロースと14mM 2−メルカプトエタノールを含む100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)中で不定根を破砕し,ガーゼで濾過した。濾過されたホモジネートを遠心分離(10,000g,10分間)した後、超遠心分離(160,000g,90分間)でミクロソームを得た。最終的な沈殿物を上記バッファーで懸濁し、Ig抽出液とした(1.0mg/mlミクロソームタンパク質)。
このIg抽出液(1ml)を1mM NADPH存在下でナリンゲニン(10μg)と30℃で60分インキュベートしてイソフラボノイド合成活性(IFS活性)を調べ、結果を図1に示した。また超遠心分離後の上清に2−ヒドロキシイソフラバノン(10μg)を加え、30℃で60分インキュベートしてイソフラボン合成活性(HID活性)を調べ、結果を図1に示した。
参考文献1:Akashi,T.,M.Ishizaki,et al.(2005)."Isoflavonoid production by adventitious−root cultures of Iris germanica(Iridaceae)." Plant Biotechnology 22:207−215.
【0020】
2)cDNAライブラリーおよびスクリーニング
上記と同様に液体培地で4日間培養したIgの不定根カルチャーから、Staraigt A's mRNA isolation system(Novagen社)を使用してmRNAを単離した。このmRNAからCloneMiner(登録商標)cDNA Liblary Construction Kit(Invitrogen社)によりdestination vector(pDONR222)を用いてcDNAライブラリー(4×107primary clones)を構築した。その後、Manufacturer's protocol(invitrogen社)に従い、cDNAを酵母発現ベクター(pYES−DEST52、invitrogen社)のGAL1プロモーターの下にcDNAを組み換えた。
P450はシトクロムP450還元酵素(CPR)と電子伝達系を構成し,P450が活性を示すためにはCPRが必要となることから、マメ科植物ミヤコグサ(Lotus japonicus)から得たCPR cDNA(LjCPR、配列表配列番号3)を酵母発現ベクター(pESC−Leu,Stratagene社)に組み込み,pESC−LjCPRベクターを作成した。これを酵母BJ2168株(ニッポンジーン社,Nippon Gene Co.,Ltd.)に導入した後、この酵母にさらにpYES−DEST52に組み込んだIgのcDNAライブラリーを導入し、形質転換体を作製した。この形質転換体は、ロイシンとウラシルを含まないsynthetic complete(SC)培地(Yeast Nitrogen base w/o amino acids(6.7g/l、Difco社),グルコース(20g/l)、CSM Drop−out −Leu−Ura (670mg/l,Formedium社))、寒天プレート上で培養した。
約500の形質転換体を寒天プレートから取り出し、組換えタンパク質を発現させるために、1mMのσ−aminolevulinic acids(Sigma社)を加えた10mlのYPG培地(yeast extract(10g/l),peptone(20g/l)、galactose(20g/l))が入ったコニカルチューブ(50ml)内に接種した。その一部を1つのプールとして、合計10個の独立したプールを得た。
スクリーニングの第二段階のために、それぞれのプールから取り出した少量のカルチャーを上記と同様の寒天プレートの上においた。ナリンゲニン(0.5mg)を残ったプールにいれ、形質転換体を30℃で24時間培養した。
カルチャーを酢酸エチルで抽出し溶媒を溜去した。抽出物をエタノールに溶解し、HPLCによって解析した後、スクリーニングの次の段階のために10プールのうちポジティブなプールを小分けした(約50clones/pool)。
ポジティブなプールのアッセイを繰り返し、イソフラボノイドを生産するクローンを単離した。イソフラボノイド(2−ヒドロキシイソフラバノン及びイソフラボン)の生産は次の条件でHPLCを行い確認した。
最終的に、イソフラボノイドを生産する単一酵母コロニーをIgIFS/LjCPRを発現している形質転換体として同定した。この形質転換体からプラスミドを抽出して,IgIFSのアミノ酸配列(配列表配列番号1)を特定するとともに、IgIFSをコードする遺伝子(cDNA)(配列表配列番号2)を同定した。
このスクリーニング方法の概要およびIgIFS/LjCPRを発現している形質転換体におけるイソフラボノイドの生産を図2に示した。
HPLC条件:
CAPCELL PAK C18 MG column(4.6x150mm;Shiseido社)、40℃、流量:0.8ml/min、30%〜80%(v/v)のメタノール溶媒使用、25分間直線濃度勾配(linear gradient elution)
【0021】
3)酵素活性の測定(in vitro)
上記によって得られた本発明の形質転換体と、コントロールとして、pESC−Leu(ストラタジーン社)およびpYES2(インビトロゲン社)を酵母BJ2168株に導入して得た形質転換体を用いた。また、比較として、マメ科カンゾウのIFS(CYP93C2、配列表配列番号4)を組み込んだ発現ベクター(pYES−CYP93C2)を上記と同様に作成し(参考文献2)、CYP93C2/LjCPRを発現している形質転換体を得て、これを比較として用いた。
参考文献2:Akashi,T.,T.Aoki,et al.(1999). "Cloning and functional expression of a cytochrome P450 cDNA encoding 2−hydroxyisoflavanone synthase involved in biosynthesis of the isoflavonoid skeleton in licorice." Plant Physiology 121(3):821−828.
【0022】
IgIFSまたはマメ科カンゾウのIFS(CYP93C2)の発現は、参考文献3に従って行った。
即ち、酵母を10%スクロースと14mM 2−メルカプトエタノールを含む100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.5)に懸濁し,ガラスビーズを用いて細胞を破砕した.酵母ホモジネートを遠心分離(10,000g,10分間)した後、超遠心分離(160,000g,90分間)でミクロソームを得た。最終的な沈殿物を上記バッファーで懸濁した(1.0mg/mlミクロソームタンパク質)。
上記形質転換体のミクロソーム(0.3mgミクロソームタンパク質)を0.1mM(RS)−ナリンゲニン(Sigma社)と1mM NADPH(和光純薬工業)とともに(全容量1ml)、30℃で15分間インキュベートした。反応ミクスチャーのエタノール抽出物を上記と同じ条件でHPLCを行い解析した。HPLCによる溶出物(elute)は、multiwavelength detector(MD−2010,JASCO社)によってモニターした。
その結果、図3,図4A.に示すようにIgIFSを発現している形質転換体(酵母ミクロソーム)ではナリンゲニンからイソフラボノイド(2−ヒドロキシイソフラバノン(図3、4A.:2HI)とイソフラボン(図3、4A.:Genistein))と共に少量の3−ヒドロキシナリンゲニン(3−OH Naringenin、図3、4A.:3HF)とフラボン(アピゲニン(図3,4A.:Apigenin))を生成することが示された。従って,このタンパク質がイソフラボノイドの生成に関わっていることが確認された。
また、比較として用いたマメ科カンゾウのIFS(CYP93C2)を発現している形質転換体(酵母ミクロソーム)では図3に示したように、2−ヒドロキシイソフラバノン(図3:2HI)を88%、イソフラボン(図3:Genistein))を5%、と共に少量の3−ヒドロキシナリンゲニン(図3:3HF)を7%生成することが示された。
【0023】
反応の立体選択性(stereoselectivity)を決定するために、30℃で60分間インキュベートし、残った基質を、TLC(Kieselgel F254,Merck, Darmstadt,Germany;chroloform:methanol[98:2,v/v])から回収し、chiral column(参考文献4、Chiralcel OD−RH column(4.6x150mm;Daicel社)、40℃、流量:0.4ml/min、30%アセトニトリル溶媒使用)において、上記と同じ条件でHPLCを行い解析した。
その結果、図4B.に示すように,S−ナリンゲニンのみ減少し,この酵素はS−体のみを基質にすることが確認された.
【0024】
また、上記の反応ミクスチャーに(RS)−naringeninの代わりに表1に示した基質(0.1mM)をそれぞれ加え、基質特異性を調べた。その結果、表1に示すようにIgIFSは、カンゾウIFS(CYP93C2)と比べてナリンゲニン対する活性が最も高く,リクイリチゲニンに対する活性は低かった。
【0025】
さらに、様々な濃度の(S)−naringenin(0.2,0,5,1.0,1.5,5.0,10,20および50μM)とNADPH((500μM)を組換え酵母ミクロソームとともに全量4ml、30℃で15分間インキュベートし、Km値およびVmax値をLineweaver−Burk plotにより調べ、結果を表2に示した。参考(比較)として、F3H(naringenin),IFS(licorice)(liquiritigenin)またはIFS(soybean)(naringenin)のKm,Kcat値を参考文献5〜7より引用して示した。
参考文献3:Ayabe,S.,T.Akashi,et al.(2002). "Cloning of cDNAs encoding P450s in the flavonoid/isoflavonoid pathway from elicited leguminous cell cultures." Methods in Enzymology 357: 360−369.
参考文献4:Shimada,N.,T.Aoki,et al.(2003). "A cluster of genes encodes the two types of chalcone isomerase involved in the biosynthesis of general flavonoids and legume−specific 5−deoxy(iso)flavonoids in Lotus japonicus." Plant Physiol. 131: 941−951
参考文献5:Halbwirth,H.,Fischer,T.C.,Schlangen,K.,Rademacher,W.,Schleifer,K−J.Forkmann,G. and Stich,K(2006) "Screening for inhibitors of 2−oxoglutarate−dependent dioxygenases: Flavanone 3β−hydroxylase and flavonol synthase" Plant science 171: 194−205.
参考文献6:Akashi,T.,Aoki,T. and Ayabe,S.(1999). "Cloning and functional expression of a cytochrome P450 cDNA encoding 2−hydroxyisoflavanone synthase involved in biosynthesis of the isoflavonoid skeleton in licorice." Plant Physiology 121:821−828.
参考文献7:Kochs, G. and H. Grisebach (1986). "Enzymic synthesis of isoflavones." Eur. J. Biochem. 155: 311−318.
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
4)生体内変換(in vivo)
in vivoで,IgIFSとマメ科カンゾウのIFS(CYP93C2)のイソフラボノイド生産能を比較した。
即ち、上記で作成したIgIFS/LjCPRまたはCYP93C2/LjCPRを発現している形質転換体をそれぞれ用い、寒天を含まないSC培地(5ml)に接種し、28℃で24時間おいた。その後、細胞を遠心分離(3,000xg,5min)によって分離し、この細胞を1mM−aminolevulinic acid、4mg(RS)−naringenin(equivalent of 0.75mM(S)−naringenin)および0.5%(v/v)Tween80が添加された10ml YPG培地(yeast extract(10g/l),peptone(20g/l)、galactose(20g/l))(OD600=0.5)で24時間、48時間または72時間培養した。
培地の一部(1ml)を採取し、酢酸エチルで抽出したものを、上記と同じ条件でHPLCを行い解析した。この結果を図5および表3に示した。
図5および表3に示したように、72時間培養した場合に、IgIFSをコードする遺伝子を導入した組換え酵母細胞では、イソフラボノイド(2HI+genistein)の生産量が550μmol/lであったのに対し、CYP93C2/LjCPRを発現している組換え酵母細胞ではわずかに5.5μmol/lであった。従って、この結果より、従来のマメ科由来のIFSを用いた場合と比較して、本発明のIgIFSを用いた場合では、イソフラボノイドの生産量が約100倍に向上することが示された。
【0029】
【表3】

【0030】
5)系統解析(Phylogenetic analysis)
MEGA4 software( http://www.megasoftware.net/よりダウンロード)を用いて系統解析を行った。
IgIFSを含む植物P450のアミノ酸配列をClastalW( http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/top−j.html)を用いて整列することでアライメントを調べ(図6)、neighbor−joining method(近隣結合法)(参考文献8)を用いて系統樹を構築した。
アライメントを調べることにより、IgIFSはCYP93ファミリーとは30%程度の同一性を有し、CYP75B(F3'H)と最も同一性が高い(約40%)ことが示された。また、IgIFSにおけるI−helix中央の保存された残基はThrであり、CYP93C2のL371とK375に相当するアミノ酸残基はそれぞれ,Leu,Ileであることが示された。
P450の世代の分岐(Age of divergence)はMEGA4 softwareのmanufacture's protocolに従って,P450の核酸配列を用いて算出した。構築した系統樹を図7に示した。
参考文献8:Saitou,N. and M.Nei(1987). "The neighbor−joining method: a new method for reconstructing phylogenetic trees." Mol Biol Evol 4(4):406−25.
【0031】
6)RT−PCR解析
上記のIg由来の不定根カルチャーからmRNAを抽出し,cDNAを合成した。ExTaq DNA polymerase(Takara社)、IgIFS特異的プライマー(IgIFS1−F(配列表配列番号5)、IgIFS1−R(配列表配列番号6)(Sigma社で受託合成)を用いてRT−PCRを行った。
RT−PCRは、94°C 1分で変性させた後、94°C,1分;55°C,1分;72°C,1分の3ステップを30サイクル行った。1.2%(w/v)のアガロースゲルで電気泳動した後、増幅物をエチジウムブロマイドで染色した。PCRのための鋳型の濃度はアクチンcDNAと同様に増幅されるよう調整して用いた。
その結果、ジャーマンアイリスでのイソフラボノイド生合成酵素の活性の変化(図8、上図)とIgIFS遺伝子の発現が対応していることが示され(図8、下図)、IgIFSが植物でイソフラボノイドの生産に関わっている事が強く示唆された.
【実施例2】
【0032】
キショウブ(Iris pseudacorus)からIpIFSを取得した。
即ち、スクロース(30g/l),プロリン(250mg/l),トリプトンペプトン(200mg/l),α−ナフタレン酢酸(1mg/l),ベンジルアデニン(0.5mg/l)を含むMS培地でキショウブ(Iris pseudacorus)のカルスを培養した。
キショウブカルスからStaraigt A's mRNA isolation system(Novagen社)を使用してmRNAを抽出し,SuperscriptIII(Invitrogen社)を用いてcDNAを合成した。このcDNAを鋳型として、ExTaq DNA polymerase(Takara社)、プライマー(IFS−F(配列表配列番号7)、IFS−R(配列表配列番号8)ともにSigma社で受託合成)を用いてRT−PCRを行った。
RT−PCRは、94°C 1分で変性させた後、94°C,1分;55°C,1分;72°C,1分の3ステップを30サイクル行った。1.2%(w/v)のアガロースゲルで電気泳動した後、増幅物をエチジウムブロマイドで染色した。この増幅産物をアガロースゲルから切り出し、pT7Blue T−vector(Novagen社)に導入後、DNAシーケンサー(ABI3100,アプライドバイオシステム社)で解析した。得られた配列は、配列解析ソフトウェア(Genetyx−Mac Ver15,ゼネティックス社)で解析し、IpIFSのアミノ酸配列を配列表配列番号9に、IpIFSをコードする塩基配列を配列表配列番号10にそれぞれ示した。
【0033】
IpIFSのアミノ酸配列のうち、IgIFSの一部(配列表配列番号11:配列表配列番号1の241番目から442番目のアミノ酸配列)に対するアライメントを調べ、図9に示した。IpIFSとIgIFSとの同一性(アミノ酸配列)は78.5%であった。
また、実施例1、5)系統解析(Phylogenetic analysis)の記載に従い、MEGA4 softwareを用いて系統解析を行った。アヤメ科植物のIFSとマメ科植物のIFSのアミノ酸配列を、ClastalWを用いて整列することでアライメントを調べ、neighbor−joining method(近隣結合法)を用いて系統樹を構築した。その結果、図10に示すようにアヤメ科植物のIFSとマメ科植物のIFSは別のクレードに属し、IgIFSとIpIFSは近縁であることが確認された。
【実施例3】
【0034】
イチハツ(Iris tectorum)からItIFSを取得した。
イチハツの根からStaraigt A’s mRNA isolation system(Novagen社)を使用してmRNAを抽出し,SuperscriptIII(Invitrogen社)を用いてcDNAを合成した。このcDNAを鋳型として、ExTaq DNA polymerase(Takara社)、プライマー(IFS−F(配列表配列番号7)、IFS−R(配列表配列番号8)ともにSigma社で受託合成)を用いてRT−PCRを行った。
RT−PCRは、94°C 1分で変性させた後、94°C,1分;55°C,1分;72°C,1分の3ステップを35サイクル行った。1.0%(w/v)のアガロースゲルで電気泳動した後、増幅物をエチジウムブロマイドで染色した。この増幅産物をアガロースゲルから切り出し、pT7Blue T−vector (Novagen社)に導入後、DNAシーケンサー(ABI3100,アプライドバイオシステム社)で解析した。得られた配列は、配列解析ソフトウェア(Genetyx−Mac Ver15, ゼネティックス社)で解析した。ItIFSのアミノ酸配列を配列表配列番号12に、ItIFSをコードする塩基配列を配列表配列番号13にそれぞれ示した。
【0035】
IgIFS、IpIFS、ItIFSの全アミノ酸配列のアライメントを配列解析ソフトウェア(Genetyx−Mac Ver15)を用いて調べ、図11に示した。ItIFSとIgIFSとのアミノ酸配列の同一性は91%であり、ItIFSとIpIFSとのアミノ酸配列の同一性は82%であった。IgIFS、IpIFS、ItIFSは互いに高い相同性を示し、アヤメ属では類似タンパク質がイソフラボン生合成に関わっていることが示唆された。
【実施例4】
【0036】
モデル植物シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)でのイソフラボノイド生産
植物形質転換用ベクターはpRI909(タカラバイオ社)を用いた。pRI909のカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモータ(CAMV35S)の下流にジャーマンアイリスのIgIFS cDNAを組み込んだ発現ベクター(pRI909-IgIFS)を作成した(図12)。
また、マメ科IFSと生産量を比較するためにpRI909のCAMV35Sの下流にマメ科カンゾウCYP93C2 cDNAを組み込んだ発現ベクター(pRI909-CYP93C2)も作成した。pRI909-IgIFS、pRI909-CYP93C2およびコントロールとしてpRI909をAgrobacterium tumefaciens(LBA4404、タカラバイオ社)にエレクトロポレーション法で導入した。
形質転換株はカナマイシン(50mg/L)を含むLB寒天培地で28℃2日間培養した。生じたコロニーを、カナマイシン(50mg/L)を含むLB液体培地で、28℃で一晩前培養をした後、28℃で一晩本培養を行った。シロイヌナズナの形質転換は花序浸し法によって行った。得られたT0種子を表面殺菌し、カナマイシン(50mg/L)、カルベニシリン(50mg/L)を含むMS培地に播種し選抜した。発芽した組換え個体を培養土に移し、T1種子を回収してホモ個体を選抜した。
得られたホモ個体(IgIFS導入株(1個体),CYP93C2導入株(2個体)、pRI909導入株(1個体))を恒温・恒湿室(コイトトロン,18〜25℃,明期14時間)で栽培した。
【0037】
栽培によって20cm以上に成長した各個体の茎頂から5cmを採取し、重量を計測し、サンプルとした。各サンプルを液体窒素で凍結粉砕し、10mLの特級メタノールを加え、1晩静置した。濾過した抽出液を濃縮し、特級エタノール、純水に溶解させてガラスバイアル(マルエム社)に移した。移したサンプルを吹き付け濃縮(AIR PUMP SPP−6GA、高槻電気工業株式会社)し、1N塩酸メタノールで90℃、1時間酸処理して配糖体の酸加水分解を行った。酸処理したサンプルを再度吹き付け濃縮し、IgIFS導入株とpRI909導入株はサンプルの生重量1gにつき2mL、CYP93C2導入株は3倍の濃度になるように75%メタノールで溶解させ、エキクロディスク(Millex(登録商標)−LH、ミリポア社)でろ過した。これらをHPLC(TSK−gel ODS−Tm(東ソー社);流速、1mL/min;カラム温度、40℃;20分でメタノール濃度40%から80%のグラジエント分析)で分析した。
【0038】
何も導入していないシロイヌナズナ(コントロール株)はフラボノ-ルのkaempferolとquercetinを含むが、IgIFS導入株では両物質はほとんど検出されず、genisteinのみが検出された(図13)。CYP93C2導入株ではフラボノール量はコントロール株とほとんど変わらなかったが、少量のgenisteinが新たに検出された。IgIFS導入株とCYP93C2導入株でのgenistein生産量はそれぞれ38.2μg/g(F.W.),2.1μg/g(F.W.)であり、IgIFS導入株の方がCYP93C2導入株よりgenistein生産量は約18倍高かった。従ってこの結果より、アイリスのIFS遺伝子を用いた組換え植物でのイソフラボノイド生産が有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のアヤメ科植物のIFSおよびアヤメ科植物のIFSをコードする遺伝子を使用することにより、酵母、植物細胞や植物体等を用いてイソフラボノイドを高濃度に生産することができる。本発明によって、高濃度に生産されたイソフラボノイドは、健康食品や化粧品等、様々な用途に利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表配列番号11で示されるアミノ酸配列に、78.5%以上の同一性を示すアヤメ科植物の2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素。
【請求項2】
配列表配列番号1、9または12のいずれかで示されるアミノ酸配列を実質的に有する請求項1に記載の2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素。
【請求項3】
請求項1または2に記載の2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素をコードするヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列表配列番号2、10または13のいずれかで示されるヌクレオチド配列からなる請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列表配列番号2、10または13のいずれかで示されるヌクレオチド配列に対して80%以上の同一性を有し、且つ2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素をコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
アヤメ科植物からクローニングされた請求項4または5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
アヤメ科植物がジャーマンアイリス、キショウブまたはイチハツである請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれかに記載されたポリヌクレオチドが挿入されたベクター。
【請求項9】
宿主細胞中で、請求項3〜7のいずれかに記載されたポリヌクレオチドを発現しうる発現系を含む組換え体DNAまたはRNA。
【請求項10】
請求項8に記載のベクターにより形質転換された宿主細胞。
【請求項11】
宿主細胞が酵母である請求項10に記載の形質転換された宿主細胞。
【請求項12】
請求項3〜7のいずれかに記載されたポリヌクレオチドが挿入されたトランスジェニック植物。
【請求項13】
植物がシロイヌナズナである請求項12に記載のトランスジェニック植物。
【請求項14】
アヤメ科植物由来の2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素をコードする遺伝子を導入した形質転換体またはトランスジェニック植物にイソフラボノイドを生産させる方法。
【請求項15】
さらに、2−ヒドロキシイソフラバノン脱水酵素をコードする遺伝子を組み合わせて導入した形質転換体またはトランスジェニック植物にイソフラボノイドを生産させる請求項14に記載の方法。
【請求項16】
形質転換体が酵母を宿主細胞とする形質転換体であり、トランスジェニック植物がシロイヌナズナを宿主植物とするトランスジェニック植物である請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
アヤメ科植物がジャーマンアイリス、キショウブまたはイチハツである請求項14〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
アヤメ科植物由来の2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素が配列表配列番号11で示されるアミノ酸配列に、78.5%以上の同一性を示す2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素である請求項14〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
アヤメ科植物由来の2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素が配列表配列番号1、9または12のいずれかで示されるアミノ酸配列を実質的に有する2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素である請求項14〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
アヤメ科植物由来の2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素をコードする遺伝子が、配列表配列番号1、9または12のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチドである請求項14〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
アヤメ科植物由来の2−ヒドロキシイソフラバノン合成酵素をコードする遺伝子が、配列表配列番号2、10または13のいずれかで示されるヌクレオチド配列または該ヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を実質的に有するポリヌクレオチドである請求項14〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
請求項14〜21のいずれかに記載の方法により生産されたイソフラボノイド。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図13】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−95644(P2012−95644A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212020(P2011−212020)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】