説明

イソプロピルウノプロストン含有眼用組成物

【課題】 澄明なイソプロピルウノプロストンを含有する眼用組成物において、この組成物に適した防腐剤を新たに見出し、より高い防腐、抗菌効果を発揮する処方を提供すること。
【解決手段】 イソプロピルウノプロストンおよびクロルヘキシジンまたはその塩を含有する澄明な眼用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澄明な眼用組成物に関し、更に詳細には、イソプロピルウノプロストンを含有する澄明な眼用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イソプロピルウノプロストンは、その化学名が(Z)‐7‐[(1R,2R,3R,5S)‐3,5‐ジヒドロキシ‐2‐(3‐オキソデシル)シクロペンチル]‐5‐ヘプテン酸イソプロピルである化合物であり、眼圧降下作用を有し、緑内障治療薬レスキュラ(商品名)として市販されている。
【0003】
このレスキュラをはじめ、ほとんどの眼科用組成物には、開封後の微生物汚染を防止する目的で、防腐剤が配合されているが、一般的に防腐剤は防腐効果を有する反面、細胞毒性を有し、単に保存効力が得られるまで高濃度に配合すればよいというものではない。
【0004】
特に、緑内障治療薬は疾患治療上の理由から連続投与を必要とするため、防腐剤の細胞毒性による角膜疾患が憂慮されており、可能な限り少ない防腐剤によって十分な防腐、抗菌効果を発揮させることが求められている。
【0005】
この十分な防腐、抗菌効果という観点から、日本薬局方では、参考情報として保存効力試験法が規定されている。その概要は、多回投与容器中に充てんされた製剤自体又は製剤に添加された保存剤の効力を微生物学的に評価する方法であり、製剤に試験の対象となる菌種を強制的に接種、混合し、経時的に試験菌の消長を追跡することによって保存効力を評価する、というものである。
【0006】
一般的に、製剤中に配合可能で、低い濃度で有効な眼用の防腐剤としては、塩化ベンザルコニウムや塩化ベンゼトニウムなどが知られており、これらは通常0.002〜0.01%(w/v)の濃度で用いられ、刺激性がなく長期保存しても安定である。同じく逆性石鹸類に属するものとしてクロルヘキシジンまたはその塩も知られており、その代表例であるグルコン酸クロルヘキシジンは、通常0.01%(w/v)の濃度で使用される(非特許文献1参照)。
【0007】
従来より、上述の防腐剤の一部とイソプロピルウノプロストンの組合せは公知である。例えば、特許文献1にはイソプロピルウノプロストンおよび塩化ベンザルコニウム0.05%(w/v)の組合せが、また、特許文献2には、イソプロピルウノプロストン、油脂(ミグリオール812)、グルコン酸クロルヘキシジン等を含有する、非澄明なエマルション型製剤が開示されている。しかしながら、これらの開示は単に処方の組合せ可能性を開示したに過ぎず、この組合せに於いて十分な保存効力が得られるかどうかについては未検証であり、また保存効力についての言及もない。更に、非澄明なエマルション型製剤は一般に、保存条件によっては乳化状態を保てないことがあり、また、ろ過滅菌時の成分失活が大きく、更に使用時に霧視が発生することがあるなど問題点が多く、澄明で十分な保存効力を持った眼用組成物が求められていた。
【0008】
【特許文献1】特表2001−515502
【特許文献2】WO2005−044276
【非特許文献1】本瀬賢治「点眼剤」76〜83頁、南山堂
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、澄明なイソプロピルウノプロストンを含有する眼用組成物を製品開発すべく研究を行っていたところ、このような眼用組成物では、一般的に用いられている防腐剤を通常濃度で配合しても、期待される防腐、抗菌効果が得られないという問題点を有することを見いだした。
【0010】
そこで、澄明なイソプロピルウノプロストン含有眼用組成物においては、この組成物に適した防腐剤を新たに見出し、これによって、より高い防腐、抗菌効果を発揮する処方の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべくイソプロピルウノプロストンを含有する澄明な眼用組成物に適する防腐剤について鋭意検索を行った結果、クロルヘキシジンまたはその塩はその防腐剤濃度に比して、高い保存効力を有することを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明はイソプロピルウノプロストンおよびクロルヘキシジンまたはその塩を含有する澄明な眼用組成物である。
【0013】
また、本発明は、クロルヘキシジンまたはその塩がグルコン酸クロルヘキシジンである澄明な眼用組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の澄明な眼用組成物は、イソプロピルウノプロストンを含有する高眼圧症や緑内障の治療に適した組成物であるが、さらに十分に高いレベルの組成物の防腐・保存作用を有している。発明者らの経験によれば、イソプロピルウノプロストンを含有する澄明な眼用組成物に、クロルヘキシジンまたはその塩を除く一般的な防腐剤成分を配合しても、防腐、抗菌作用が低下してしまい、満足な保存効力が得られないが、本発明ではこのような防腐、抗菌作用の低下がなく、優れた保存効力が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の眼用組成物は、イソプロピルウノプロストンを有効成分として含有する澄明なものである。ここで、澄明とは、第15改正日本薬局方の通則に定義される方法、すなわち、眼科用組成物を内径15mmの無色の試験管に入れ、黒色又は白色の背景を用い、液層を30mmとして観察した際に、澄明又はほとんど澄明であることをいう。この眼用組成物としては、眼に対して適用されるものであれば、その形態は問わないが、通例、点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装用剤などが例示でき、特に点眼剤が好ましい。
【0016】
本発明の眼用組成物において、有効成分であるイソプロピルウノプロストンの配合量は、十分な眼圧低下効果が得られる量であれば、その配合量は問わないが、通例は眼用組成物の0.01%(w/v)〜0.5%(w/v)、好ましくは0.05%(w/v)〜0.3%(w/v)、より好ましくは0.1%(w/v)〜0.2%(w/v)である。
【0017】
また、本発明の眼用組成物に防腐剤成分として含有されるクロルヘキシジンは、十分な防腐、抗菌効果を有するものであれば、その塩の種類は問わないが、具体的には、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジンなどが挙げられる。また、その配合量は保存効力を保てる限りで最小とすることが好ましく、通例0.0005%(w/v)〜0.05%(w/v)、好ましくは0.001%(w/v)〜0.01%(w/v)、より好ましくは0.003%(w/v)〜0.007%(w/v)である。
【0018】
本製剤には、更に非イオン界面活性剤を配合することが好ましい。この非イオン界面活性剤としては、本発明の効果を妨げない範囲で種々の公知のものが利用できる。具体的には、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどから選択される一種または二種以上を例示できる。
【0019】
これらのうち、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーとしては、具体的にはポリオキシエチレン(n=3)ポリオキシプロピレン(n=17)グリコール、ポリオキシエチレン(n=20)ポリオキシプロピレン(n=20)グリコール、ポリオキシエチレン(n=42)ポリオキシプロピレン(n=67)グリコール、ポリオキシエチレン(n=54)ポリオキシプロピレン(n=39)グリコール、ポリオキシエチレン(n=105)ポリオキシプロピレン(n=5)グリコール、ポリオキシエチレン(n=120)ポリオキシプロピレン(n=40)グリコール、ポリオキシエチレン(n=160)ポリオキシプロピレン(n=30)グリコール、ポリオキシエチレン(n=196)ポリオキシプロピレン(n=67)グリコール、ポリオキシエチレン(n=200)ポリオキシプロピレン(n=70)などとして、また、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85、イソステアリン酸PEG−20ソルビタン、ステアリン酸PEG−6ソルビタン、オレイン酸PEG−6ソルビタンなどとして入手できる。ここで、カッコ内のnの数値はポリオキシエチレン鎖、またはポリオキシプロピレン鎖の酸化エチレンのモル数である。これらの中でも乳化安定性の面から、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリソルベート類が好適に用いられる。
【0020】
これらの非イオン界面活性剤は、製剤上許容可能な範囲で自由にその配合量を調整できるが、具体的には通常0.01%(w/v)〜1.0%(w/v)、好ましくは0.03%(w/v)〜0.8%(w/v)、より好ましくは0.05%(w/v)〜0.5%(w/v)である。
【0021】
なお、本発明の眼用組成物は、油成分を含有しないものであることが好ましい。油成分を含有すると保存効力が低下し、また、使用時に霧視が発生するなどの問題点があり、さらに、油成分を配合した非澄明なエマルション型とした場合には、保存条件によっては乳化状態を保てないことがあり、また、ろ過滅菌時の成分失活が大きいといった問題点があるため好ましくない。
【0022】
配合しないことが好ましい油成分としては例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは脂肪酸トリグリセリドを主成分とする動植物油が例示できる。
【0023】
本発明による眼用組成物は、公知の一般的な手順によって調製可能であり、例えば、精製水、イソプロピルウノプロストンおよび非イオン界面活性剤を混合し、必要に応じてこれを加温して溶解し、その後さらに他成分を加えることにより調製可能である。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。また、実施例中の「%」及び「部」は、いずれも特に注記しない限り質量/容量パーセントである。
【0025】
実 施 例 1
表1に示す組成で本発明品1および比較品1ないし4の眼用組成物を調製した。本発明品1の調製は次のようにして行った。すなわち、表1に示す組成中、一部の精製水を約80℃に加温し、ホウ酸0.50g、トロメタモール0.40g及びクエン酸水和物0.10gを加えて溶解した。これに、あらかじめ混合したイソプロピルウノプロストン0.12g、ポリソルベート80 0.50g及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 0.50gを加えて溶解させた。これを室温に戻し、グルコン酸クロルヘキシジン液0.025gを加えて溶解し、更に精製水の残量を加えて全量を100mLとすることにより調製した。比較品1および3も、これとほぼ同様な製法により調製した。
【0026】
一方、比較品2は、次のようにして調製した。すなわち、表1に示す組成のうち、一部の精製水を約80℃に加温し、パラオキシ安息香酸メチル0.03g、パラオキシ安息香酸プロピル0.015g、ホウ酸0.50g、トロメタモール0.40g及びクエン酸水和物0.10gを加えて溶解した。次いで、これにあらかじめ混合したイソプロピルウノプロストン0.12g、ポリソルベート80 0.50g及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 0.50gを加えて溶解させた。これを室温に戻し、更に適量の精製水を加えて全量を100mLとすることにより調製した。
【0027】
また比較品4は、表1に示す組成のうち、一部の精製水に、ホウ酸0.50g、トロメタモール0.40g及びクエン酸水和物0.10gを加えて溶解した後、グルコン酸クロルヘキシジン液0.025gを加えて溶解し、更に適量の精製水を加えて全量を100mLとすることにより調製した。
【0028】
組 成:
【表1】

【0029】
試 験 例 1
保存効力試験:
第十五改正日本薬局方の保存効力試験法に準拠して、これらの点眼剤についての保存効力を評価した。ここでは、試験菌として、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)(E.coli)、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)(P.aeru)、スタヒロコッカス・アウレウス(Staphyrococcus aureus)(S.aureu)の細菌類及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)(A.niger)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)(C.albi)の真菌類を用いた。なお、保存効力試験の評価基準は以下のとおりである。
【0030】
< 保存効果試験評価 >
適: 接種した各細菌類に対する14日間培養後の菌数の割合が0.1%未満であり、
28日間培養後の菌数の割合が、14日後のレベルと同等若しくはそれ以下、か
つ各真菌類に対する14日間培養後の菌数の割合が接種菌数と同レベル若しくは
それ以下であり、28日間培養後の菌数の割合が接種菌数と同レベル若しくはそ
れ以下である。
不適: 上記判定基準を満たさなかったとき。
【0031】
各眼用組成物の評価結果を表2に示す。
【表2】

【0032】
イソプロピルウノプロストンを含有しない眼用組成物(比較品4)において、一般的には良好な保存効力を示す塩化ベンザルコニウム濃度(0.0100%(w/v))であっても、更にイソプロピルウノプロストンおよびその溶解剤としての非イオン界面活性剤を含有する眼用組成物(比較品1)においては、十分な保存効力が得られないことがわかる。また、比較品2および3に示すとおり、パラオキシ安息香酸メチルおよびパラオキシ安息香酸プロピル、またはソルビン酸カリウムを一般的な濃度で配合した眼用組成物も、比較品1と同様に、十分な保存効力が得られていない。
【0033】
他方、本発明品1については、グルコン酸クロルヘキシジンの一般的な配合量である0.1%(w/v)の半分の濃度である、0.005%(w/v)しか配合していないにも拘わらず、十分な保存効力が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、優れた保存効力を有するイソプロピルウノプロストンを有効成分として含有する澄明な眼用組成物を得ることができる。
【0035】
従って、本発明の澄明な眼用組成物は、高眼圧症や緑内障の治療に適した組成物として、点眼剤、洗眼剤、コンタクトレンズ装用剤などの形態で眼科医療に利用しうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプロピルウノプロストンおよびクロルヘキシジンまたはその塩を含有する澄明な眼用組成物。
【請求項2】
クロルヘキシジンまたはその塩がグルコン酸クロルヘキシジンである請求項1に記載の澄明な眼用組成物。
【請求項3】
クロルヘキシジンまたはその塩の配合量が0.0005〜0.05%(w/v)である請求項1または2に記載の澄明な眼用組成物。
【請求項4】
油成分を含有しないものである、請求項1ないし3のいずれかの項に記載の澄明な眼用組成物。



【公開番号】特開2009−73788(P2009−73788A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245938(P2007−245938)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(390031093)テイカ製薬株式会社 (38)
【Fターム(参考)】