説明

イットリア膜の成膜方法

【課題】エアロゾル化ガスデポジション法によって良好な膜質を得ることが可能なイットリア膜の成膜方法を提供すること。
【解決手段】エアロゾル化ガスデポジション法によって、高純度イットリア膜を成膜する成膜方法であって、平均粒子径が1μm以上10μm以下であり、かつ比表面積が1m/g以上4m/g以下であるイットリア微粒子Pを密閉容器2に収容し、密閉容器2にガスを導入することによって、イットリア微粒子PのエアロゾルAを生成させ、密閉容器2に接続された搬送管6を介して、密閉容器2よりも低圧に維持された成膜室3にエアロゾルAを搬送し、成膜室3に収容された基材S上にイットリア微粒子Pを堆積させる。上記条件を満たすイットリア微粒子を用いることで、緻密かつ、基材への密着力が高いイットリア薄膜を成膜することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾル化ガスデポジション法によるイットリア膜の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イットリア(酸化イットリウム)膜は高い耐熱性、耐プラズマ性及び光透過性を有し、耐熱用保護膜、耐プラズマ用保護膜、光学薄膜等として利用される。イットリア膜は、従来、ゾルゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、スパッタリング法、溶射法等によって成膜されているが、成膜速度、成膜条件、膜質等の点においてそれぞれ難点があり、成膜方法について改善の余地がある。
【0003】
エアロゾル化ガスデポジション法は、エアロゾル化容器に収容された原料微粒子(エアロゾル原料)を、ガスによって巻上げてエアロゾル化し、エアロゾル化容器内と成膜室内との圧力差によるガス流によって搬送して基材に衝突させ、堆積させる成膜方法である。当該方法では、高速に加速された原料微粒子が有する運動エネルギーが局所的に熱エネルギーに変換され、成膜が成される。基材の加熱は局所的であるため基材はほとんど熱の影響を受けず(常温成膜)、また、成膜速度が他の成膜方法に比して高速であり、一般に、高密度、高密着性を有する膜を成膜することが可能である。
【0004】
イットリア微粒子を原料とするエアロゾル化ガスデポジション法として、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載の方法が知られている。特許文献1には、平均粒径0.47μmの酸化イットリウム微粒子と平均粒径2.1μmの酸化アルミニウム微粒子との粒子混合物のエアロゾルを生成し、基材上に透光性を有する酸化イットリウム膜を形成する方法が記載されている。特許文献2には、平均粒径0.5μmのイットリア微粒子のエアロゾルを生成し、上記エアロゾルを基材上に噴射してイットリア微粒子を堆積させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−84893号公報(段落[0019]〜[0021])
【特許文献2】特開2009−185374号公報(段落[0037])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の成膜方法では、緻密な膜を安定して作製することが困難であると考えられる。特に、平均粒子径が小さい微粒子ほど、得られるイットリア膜は圧粉状になり、容易に剥離しやすくなる傾向がある。本発明者は特に、エアロゾル原料であるイットリア微粒子の粒子の性状(平均粒径、比表面積等)に着目し、良好な膜質を有するイットリア膜の成膜方法を検討した。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、エアロゾル化ガスデポジション法によって良好な膜質を得ることが可能なイットリア膜の成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るイットリア膜の成膜方法は、平均粒子径が1μm以上10μm以下であり、かつ比表面積が1m/g以上4m/g以下であるイットリア微粒子を密閉容器に収容することを含む。
上記イットリア微粒子のエアロゾルは、上記密閉容器にガスを導入することによって生成される。
上記エアロゾルは、上記密閉容器に接続された搬送管を介して、上記密閉容器よりも低圧に維持された成膜室に搬送される。
上記イットリア微粒子は、上記成膜室に収容された基材上に堆積される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係るエアロゾル化ガスデポジション装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るエアロゾル化ガスデポジション法による成膜の様子を示す図である。
【図3】本発明に係る実施例及び比較例の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係るイットリア膜の成膜方法は、平均粒子径が1μm以上10μm以下であり、かつ比表面積が1m/g以上4m/g以下であるイットリア微粒子を密閉容器に収容することを含む。
上記イットリア微粒子のエアロゾルは、上記密閉容器にガスを導入することによって生成される。
上記エアロゾルは、上記密閉容器に接続された搬送管を介して、上記密閉容器よりも低圧に維持された成膜室に搬送される。
上記イットリア微粒子は、上記成膜室に収容された基材上に堆積される。
【0011】
平均粒子径が1μm以上10μm以下であり、かつ比表面積が1m/g以上4m/g以下であるイットリア微粒子をエアロゾル原料とすることによって、良好な膜質(高密度、高密着力等)を有するイットリア膜を基材上に成膜することが可能である。通常、エアロゾル化ガスデポジション法のエアロゾル原料として用いられる原料微粒子は、粒径が0.1μm〜1μm程度のものが一般的である。これは、多くの材料が、この程度の粒径により良好に成膜されること、あるいは、この程度の粒径を有する原料微粒子がエアロゾル化し易いことによる。一方、本発明者らは、検討の結果、通常用いられる粒子径よりも大きい粒子径を有するイットリア微粒子により、良好な膜質を有するイットリア膜が成膜されることを見出した。当該イットリア微粒子の平均粒子径が1μm未満の場合、あるいは比表面積が4m/gを超える場合には、緻密に堆積成膜することが困難であり、密度の低い圧粉体となりやすい。
【0012】
ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布測定法で測定した粒度分布の積算%が50%の値(D50)を意味する。また、平均粒子径の値は、島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置「SALD2000」による測定値を用いた。また、「比表面積」は、ガス吸着法により測定された値であり、ここでは島津製作所製「フローソーブII2300」による測定値を用いた。
【0013】
上記イットリア微粒子としては、高純度(例えば99.50%以上)のイットリア微粒子が用いられる。高純度イットリア微粒子は、乾式法で作製されたイットリア微粒子と、湿式法で作製されたイットリア微粒子とに区別される。イットリア微粒子は、その製造方法によって微粒子特性が若干異なることから、製法に応じてその平均粒子径及び比表面積を選定することで、所望の膜特性を有するイットリア膜を安定して成膜することができる。
【0014】
例えば乾式法で作製されたイットリア微粒子を用いる場合には、平均粒子径が1.8μm以上9.6μm以下であり、かつ比表面積が1.0m/g以上2.6m/g以下であるイットリア微粒子が好適である。イットリア微粒子の平均粒子径が1.8μm未満の場合には緻密に膜を成膜することが困難であり、密度の低い圧粉体(粉末の圧縮体)となりやすい。平均粒子径が9.6μmより大きい場合は、密着力が弱く膜剥離が生じたり、圧粉体が形成されたりして好ましくない。
【0015】
ここで、乾式法とは、固体や液体を物理的に微粒子化する方法(ブレークダウン法)のひとつであり、例えば、電気溶融を用いた製法が採用可能である。この製法では、原料を溶融させることで、まず大きな塊が作製される。その後、塊を粉砕・分級することで、所定の粒子径を有する微粒子が作製される。乾式法によれば、湿式法に比べて1μm以下の平均粒子径を有するイットリア微粒子を安定して得ることができる。
【0016】
一方、湿式法で作製されたイットリア微粒子を用いる場合には、平均粒子径が6μm以上7μm以下であり、かつ比表面積が3m/g以上4m/g以下であるイットリア微粒子が好適である。イットリア微粒子の平均粒子径が6μm未満の場合には緻密に膜を成膜することが困難であり、密度の低い圧粉体(粉末の圧縮体)となりやすい。平均粒子径が7μmより大きい場合は、密着力が弱く膜剥離が生じたり、圧粉体が形成されたりして好ましくない。
【0017】
ここで、湿式法とは、化学的気相析出法や液相合成法などのように原子や分子から微粒子をビルドアップして合成する方法をいう。湿式法は、乾式法に比べて、高純度なイットリア微粒子を得られ易い。湿式法で得られるイットリア微粒子の平均粒子径は、典型的には、一次粒子が凝集した二次粒子の平均粒子径である。
【0018】
上記イットリア膜の成膜方法は、上記イットリア微粒子を上記密閉容器に収容する工程の前に、上記イットリア微粒子を脱気する工程をさらに具備してもよい。
【0019】
イットリア微粒子を脱気することにより、イットリア微粒子が水分により凝集し、あるいは薄膜に不純物が混入することを防止することが可能である。
【0020】
上記エアロゾルを生成する工程は、上記密閉容器内に設置された、上記イットリア微粒子で被覆されているガス噴出体から上記ガスを噴出させることで、上記イットリア微粒子を上記容器内で巻き上げ、上記ガス中に混合させてもよい。
【0021】
上述のように、本発明の実施形態に係るイットリア微粒子は、粒子径が比較的大きいものであるが、ガスをイットリア微粒子中から噴出させることによって、良好にエアロゾル化させることが可能である。
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るエアロゾル化ガスデポジション装置1(以下、AGD装置1)の概略構成を示す図である。
【0023】
同図に示すように、AGD装置1は、エアロゾル化容器2と、成膜チャンバ3と、排気系4と、ガス供給系5と、搬送管6とを具備する。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3はそれぞれ独立した室を形成し、搬送管6によって接続されている。排気系4は、エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3とに接続されている。ガス供給系5は、エアロゾル化容器2に接続されている。また、エアロゾル化容器2にはエアロゾル原料Pが収容されている。成膜チャンバ3には基材Sが収容されている。
【0024】
エアロゾル化容器(密閉容器)2は、エアロゾル原料Pを収容し、その内部でエアロゾルを生成する。エアロゾル化容器2は密閉可能な構造を有し、また、エアロゾル原料Pを出し入れするための図示しない蓋部を有する。エアロゾル化容器2は、排気系4及びガス供給系5に接続されている。エアロゾル化容器2には、エアロゾル原料Pを攪拌するためにエアロゾル化容器2を振動させる振動機構、あるいはエアロゾル原料Pを脱気(水分等の除去)させるために加熱する加熱手段が設けられていてもよい。
【0025】
成膜チャンバ3は、基材Sを収容する。成膜チャンバ3は内部の気圧を維持することが可能に構成されている。成膜チャンバ3は、排気系4に接続されている。また、成膜チャンバ3には、基材Sを保持するためのステージ7と、ステージ7を移動させるためのステージ駆動機構8が設けられている。ステージ7は、成膜前に基材Sを脱気させるために基材Sを加熱する加熱手段を有していてもよい。また、成膜チャンバ3には、内部の圧力を指示する真空計が設けられてもよい。
【0026】
排気系4は、エアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を真空排気する。排気系4は、真空配管9と、第1バルブ10と、第2バルブ11と、真空ポンプ12とを有する。真空ポンプ12に接続された真空配管9は分岐され、エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3に接続されている。第1バルブ10は真空配管9の分岐点とエアロゾル化容器2の間の真空配管9上に配置され、エアロゾル化容器2の真空排気を遮断することが可能に構成されている。第2バルブ11は真空配管9の分岐点と成膜チャンバ3の間の真空配管9上に配置され、成膜チャンバ3の真空排気を遮断することが可能に構成されている。真空ポンプ12の構成は特に限定されず、複数のポンプユニットからなるものとしてもよい。真空ポンプ12は例えば、直列に接続されたメカニカルブースターポンプとロータリーポンプとすることができる。
【0027】
ガス供給系5は、エアロゾル化容器2に、エアロゾル化容器2の圧力を規定し、かつ、エアロゾルを形成するためのキャリアガスを供給する。キャリアガスは、例えば、N、Ar、He等である。ガス供給系5は、ガス配管13と、ガス源14と、第3バルブ15と、ガス流量計16と、ガス噴出体17とを有する。ガス源14とガス噴出体17はガス配管13によって接続され、ガス配管13上に第3バルブ15及びガス流量計16が配置されている。ガス源14は、例えばガスボンベであり、キャリアガスを供給する。ガス噴出体17は、エアロゾル化容器2内に配置され、ガス配管13から供給されたキャリアガスを均一に噴出させる。ガス噴出体17は、例えば、ガス噴出孔が多数設けられた中空体とすることができ、エアロゾル原料Pに被覆される位置に配置されることによりエアロゾル原料Pを有効に巻き上げ、エアロゾル化させることが可能となる。ガス流量計16は、ガス配管13中を流通するキャリアガスの流量を指示する。第3バルブ15は、ガス配管13中を流通するキャリアガスの流量を調節し、あるいは遮断することが可能に構成されている。
【0028】
搬送管6は、エアロゾル化容器2内で形成されたエアロゾルを成膜チャンバ3内に搬送する。搬送管6は、一端はエアロゾル化容器2に接続され、他端にはノズル18が設けられている。ノズル18は小径の丸孔あるいはスリット状の開口を有し、後述するようにノズル18の開口径によってエアロゾルの噴出速度が規定される。ノズル18は、基材Sに対向する位置に設けられ、また、エアロゾルの基材Sに対する噴出距離あるいは噴出角度を規定するためにノズル18の位置及び角度を規定する、ノズル可動機構に接続されていてもよい。
【0029】
基材Sは、ガラス、金属、セラミックス等の材料で構成される。上述のように、AGD法は常温成膜であり、また、化学的プロセスを経ない物理的成膜法であるため、幅広い材料を基材として選択することが可能である。また、基材Sは平面的なものに限られず、立体的なものであってもよい。
【0030】
AGD装置1は、以上のように構成される。なお、AGD装置1の構成は上述のものに限られない。例えば、エアロゾル化容器2に接続された、ガス供給系5とは別系統のガス供給機構を設けることも可能である。上述の構成では、ガス供給系5によって供給されるキャリアガスによって、エアロゾル化容器2の圧力調整及びエアロゾル原料Pの巻上げによるエアロゾルの形成がされる。なお、当該別系統のガス供給手段から圧力調節を担うガスを別途供給することにより、エアロゾルの形成状態(形成量、主に巻き上げられる粒子径等)とは独立にエアロゾル化容器2内の圧力を調節することが可能である。
【0031】
以下、エアロゾル原料Pについて説明する。
【0032】
エアロゾル原料Pは、エアロゾル化容器2内でエアロゾル化され、基材S上に成膜される。エアロゾル原料Pには、平均粒子径が1μm以上10μm以下であり、かつ比表面積が1m/g以上4m/g以下である高純度イットリア微粒子が用いられる。本実施形態において、高純度イットリア微粒子には、乾式法で製造されたイットリア微粒子と、湿式法で製造されたイットリア微粒子とが含まれる。これらイットリア微粒子の種類に応じて、微粒子の平均粒子径及び比表面積の好適な範囲を以下のように規定してもよい。
【0033】
[高純度イットリア微粒子(乾式)]
乾式法で製造された高純度イットリア微粒子としては、例えばY純度が99.50%以上の高純度イットリア微粒子が用いられる。この種のイットリア微粒子をエアロゾル原料Pとして用いる場合の平均粒子径は1.8μm以上9.6μm以下であり、比表面積は1.0m/g以上2.6m/g以下である。平均粒子径が1.8μm以上9.6μm以下のイットリア微粒子をエアロゾル原料とすることによって良好な特性(緻密性、基材Sへの密着性等)を有するイットリア薄膜を形成することが可能である。イットリア微粒子の平均粒子径が1.8μm未満の場合には緻密な膜を成膜することが困難であり、密度の低い圧粉体(粉末の圧縮体)となる傾向がある。平均粒子径が9.6μmより大きい場合は、密着力が弱く膜剥離が生じたり、圧粉体が形成されたりする場合がある。
【0034】
平均粒子径が1.8μm以上9.6μm以下であっても、粒径分布が不均一であり、粒子径が小さい粒子及び粒子径が大きい粒子が多量に含まれる場合は、比表面積が1.0m/g以上2.6m/g以下の範囲から逸脱する。なお、通常、AGD法に用いられるエアロゾル原料は、粒子径が0.1μm〜1μm程度のものが一般的であるのに対し、本実施形態に係るエアロゾル原料Pの粒子径はそれよりも大きい。
【0035】
平均粒子径が1.8μm以上9.6μm以下であり、かつ比表面積が1.0m/g以上2.6m/g以下であるイットリア微粒子としては、例えば、第一稀元素化学工業株式会社製、FY−10(品名)(平均粒子径9.6μm、比表面積1.0m/g)を用いることができる。
【0036】
[高純度イットリア微粒子(湿式)]
湿式法で製造された高純度イットリア微粒子としては、例えばY純度が99.50%以上の高純度イットリア微粒子が用いられる。この種のイットリア微粒子をエアロゾル原料Pとして用いる場合の平均粒子径は6μm以上7μm以下であり、比表面積は3m/g以上4m/g以下である。平均粒子径が6μm以上7μm以下のイットリア微粒子をエアロゾル原料とすることによって良好な特性(緻密性、基材Sへの密着性等)を有するイットリア薄膜を形成することが可能である。イットリア微粒子の平均粒子径が6μm未満の場合は成膜することが困難であり、平均粒子径が7μmより大きい場合は、密着力が弱く剥離が生じたり、圧粉体(粉末の圧縮体)が形成されたりする場合がある。
【0037】
平均粒子径が6μm以上7μm以下であっても、粒径分布が不均一であり、粒子径が小さい粒子及び粒子径が大きい粒子が多量に含まれる場合は、比表面積が3m/g以上4m/g以下の範囲から逸脱する。なお、通常、AGD法に用いられるエアロゾル原料は、粒子径が0.1μm〜1μm程度のものが一般的であるのに対し、本実施形態に係るエアロゾル原料Pの粒子径はそれよりも大きい。
【0038】
平均粒子径が6μm以上7μm以下であり、かつ比表面積が3m/g以上4m/g以下であるイットリア微粒子としては、例えば、第一稀元素化学工業株式会社製、SSE−R1−7(品名)(平均粒子径6.6μm、比表面積3.5m/g)を用いることができる。
【0039】
続いて、AGD装置1及びエアロゾル原料Pを用いるAGD法について説明する。図2は、本実施形態に係るAGD法によるイットリア薄膜の成膜の態様を模式的に説明する図である。
【0040】
エアロゾル化容器2内に所定量のエアロゾル原料Pを収容する。なお、事前にエアロゾル原料Pを加熱し、脱気処理をしてもよい。また、エアロゾル原料Pが収容されている状態でエアロゾル原料Pを脱気するために、エアロゾル化容器2を加熱してもよい。イットリア微粒子を脱気することにより、イットリア微粒子が水分により凝集し、あるいは薄膜に不純物が混入することを防止することが可能である。
【0041】
次に、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を真空排気する。
真空ポンプ12が運転されている状態で、第1バルブ10及び第2バルブ11を開放し、エアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を十分に圧力が低下するまで真空排気する。エアロゾル化容器2が十分に減圧されたら、第1バルブ10を閉止する。なお、成膜チャンバ3は、成膜中は真空排気されている。
【0042】
次に、ガス供給系5によりエアロゾル化容器2にキャリアガスを導入する。第3バルブ15を開放し、キャリアガスをガス噴出体17からエアロゾル化容器2内に噴出させる。エアロゾル化容器2内に導入されたキャリアガスにより、エアロゾル化容器2内の圧力は上昇する。一方、成膜チャンバ3は真空排気が維持されているため、キャリアガスは、成膜チャンバ3に連通している搬送管6に向かって流動する。また、ガス噴出体17から噴出されたキャリアガスにより、図2に示すようにエアロゾル原料Pが巻き上げられ、エアロゾル化容器内に浮遊し、キャリアガス中にエアロゾル原料Pが分散したエアロゾル(図2にAで示す)が形成される。生成されたエアロゾルは、エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の圧力差により、搬送管6に流入し、ノズル18から噴出される。第3バルブ15の開度を調節することにより、エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の圧力差及び、エアロゾルの形成状態を制御することが可能である。
【0043】
なお、本実施形態に係るエアロゾル原料P、即ちイットリア微粒子は、通常用いられるエアロゾル原料に比べ大きく、巻き上がり難い。ここで、エアロゾル原料P中に配置されているガス噴出体17からキャリアガスを噴出させることにより、エアロゾル原料Pを有効に巻き上げ、分散させることが可能である。
【0044】
ノズル18から噴出されるエアロゾル(図2にA’で示す)は、エアロゾル化容器2と成膜チャンバの圧力差及びノズル18の開口径によって規定される流速を持って噴出される。このエアロゾルは、基材Sの表面あるいは既成の膜上に到達し、エアロゾルに含まれるエアロゾル原料P、即ちイットリア微粒子が基材Sの表面あるいは既成の膜上に衝突する。エアロゾル原料Pが有する運動エネルギーが局所的に熱エネルギーに変換され、粒子が全体的あるいは部分的に溶融して結合し、膜が形成される。このことから、エアロゾル原料Pの粒子径は、微粒子が有する運動エネルギーの大きさ、あるいは溶融の程度に大きな影響を与える。即ち、イットリア微粒子の粒子径により、形成される膜の品質が左右される。
【0045】
基材Sを移動させることにより、基材S上の所定の範囲にイットリア薄膜(図2にFで示す)が成膜される。ステージ7をステージ駆動機構8によって移動させることで、ノズル18に対する基材Sの相対位置が変化する。ステージ7を、基材Sの被成膜面に平行な一方向に移動させることにより、ノズル18の開口径と同一の幅を有する線状に薄膜を形成することができる。ステージ7を往復させることにより、既成の膜上にさらに成膜することが可能であり、これにより、所定の膜厚でイットリア薄膜を形成することができる。また、ステージ7を2次元的に移動させることにより、所定の領域に薄膜が形成される。ノズル18の基材Sの被成膜面に対する角度は直角でもよく、斜めであってもよい。ノズル18を被成膜面に対して斜向させることにより、成膜品質を低下させる微粒子の凝集体が付着した場合であっても、その付着物を除去することが可能となる。
【0046】
イットリア薄膜は以上のようにして形成される。上述のように、平均粒子径が1μm以上10μm以上であり、比表面積が1m/g以上4m/g以下であるイットリア微粒子をエアロゾル原料Pとして用いることにより、緻密であり、基材Sに対する密着力が高いイットリア薄膜を形成することが可能である。
【0047】
以下、本発明に係る実施例及び比較例について説明する。実施例及び比較例の結果を図3に示す。なお、説明には上述のAGD装置1を用いる。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「SSE−R1−7」(平均粒子径6.6μm(D50)、比表面積3.5m/g、製法:湿式))を80g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。当該高純度イットリア微粒子の製造方法は以下のとおりである。
5Lビーカーに硝酸イットリウム溶液(Y濃度20.2重量%)500gとイオン交換水2000gを入れて撹拌混合し、Y濃度が約4重量%の硝酸イットリウム溶液を得た。25%アンモニア水200gをイオン交換水1500gで希釈した希釈アンモニア水を先に調整した硝酸イットリウム溶液に撹拌しながら滴下し、水酸化イットリウムの沈殿物を得た。得られた沈殿物をろ過し、イオン交換水で洗浄した。洗浄した水酸化イットリウムを電気炉にて900℃で焼成した後、乳鉢にて粉砕した。
【0049】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0050】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量10L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は31kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(アルミナ)S上に成膜された。
【0051】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。幅30mm、長さ15mm、膜厚53μm(1.06μm/pass)の透光性を有する白色系のイットリア薄膜が形成された。当該薄膜は緻密であり、基材Sとの密着性も良好(粘着テープによる剥離試験によっても剥離せず)であった。
【0052】
(実施例2)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「SSE−R1−7」(平均粒子径6.6μm(D50)、比表面積3.5m/g、製法:湿式))を80g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。
【0053】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0054】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量10L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は31kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(スライドグラス)S上に成膜された。
【0055】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。幅30mm、長さ15mm、膜厚25μm(0.5μm/pass)の透光性を有する白色系のイットリア薄膜が形成された。当該薄膜は緻密であり、基材Sとの密着性も良好(粘着テープによる剥離試験によっても剥離せず)であった。
【0056】
(実施例3)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「SSE−R1−7」(平均粒子径6.6μm(D50)、比表面積3.5m/g、製法:湿式))を80g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。
【0057】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0058】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量8L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は35kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(スライドグラス)S上に成膜された。
【0059】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は50回、即ち、積層回数は100回(pass)とした。幅30mm、長さ15mm、膜厚12μm(0.12μm/pass)の透光性を有する白色系のイットリア薄膜が形成された。当該薄膜は緻密であり、基材Sとの密着性も良好(粘着テープによる剥離試験によっても剥離せず)であった。
【0060】
(実施例4)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「FY−10」(平均粒子径9.6μm(D50)、比表面積1.0m/g、製法:乾式))を60g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。当該高純度イットリア微粒子の製造方法は以下のとおりである。
市販のイットリア粉末を電融用電気炉を用いて、電気アーク熱(約3000℃)によって溶融を行った。その後、イットリアの溶融物を徐冷し、高密度化したインゴットを得た。得たインゴットを1mm以下に粗粉砕し、1250℃にて焼成を行った。
上記の電融用電気炉で得た粗イットリア粉末を遊星ミルを用いて、次の要領で乾式粉砕を行った。粗粉末250gとジルコニアボール(Ф10mm)1000g、さらに粉砕助剤としてエタノール0.6gを500mlのジルコニアポットに入れた。3分30秒間粉砕を行い得た高純度イットリア微粒子。本実施例の粉砕方法は湿式粉砕、乾式粉砕のいずれも遊星ミルで行ったが、その他の粉砕機を用いて目標粒度を得ることも出来る。例えば、粗粉末に対して応力を加えることによって粒子を粉砕する粉砕機、ボールミル、振動ミル、ビーズミル、ジェットミル等が使用できる。
【0061】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0062】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量12L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は33kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(スライドグラス)S上に成膜された。
【0063】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。幅30mm、長さ15mm、膜厚16μm(0.32μm/pass)の透光性を有する比較的濃い灰色系のイットリア薄膜が形成された。当該薄膜は緻密であり、基材Sとの密着性も良好(粘着テープによる剥離試験によっても剥離せず)であった。
【0064】
(実施例5)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「FY−10」(平均粒子径9.6μm(D50)、比表面積1.0m/g、製法:乾式))を60g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。
【0065】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0066】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量16L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は40kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(スライドグラス)S上に成膜された。
【0067】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。幅30mm、長さ15mm、膜厚36μm(0.72μm/pass)の透光性を有する比較的濃い灰色系のイットリア薄膜が形成された。当該薄膜は緻密であり、基材Sとの密着性も良好(粘着テープによる剥離試験によっても剥離せず)であった。
【0068】
(実施例6)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「FY−7」(平均粒子径6.7μm(D50)、比表面積1.1m/g、製法:乾式))を80g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。当該高純度イットリア微粒子の製造方法は以下のとおりである。
実施例4で記述した粗イットリア粉末を遊星ミルを用いて、次の要領で乾式粉砕を行った。粗粉末250gとジルコニアボール(Ф10mm)1000g、さらに粉砕助剤としてエタノール0.6gを500mlのジルコニアポットに入れ、5分間粉砕を行った。
【0069】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0070】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量12L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は37kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(アルミナ)S上に成膜された。
【0071】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。幅30mm、長さ15mm、膜厚18μm(0.36μm/pass)の透光性を有する比較的薄い茶色系のイットリア薄膜が形成された。当該薄膜は緻密であり、基材Sとの密着性も良好(粘着テープによる剥離試験によっても剥離せず)であった。
【0072】
(実施例7)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「FY−7」(平均粒子径6.7μm(D50)、比表面積1.1m/g、製法:乾式))を100g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。
【0073】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0074】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量12L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は35kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(スライドグラス)S上に成膜された。
【0075】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は50回、即ち、積層回数は100回(pass)とした。幅30mm、長さ15mm、膜厚10μm(0.1μm/pass)の透光性を有する比較的薄い茶色系のイットリア薄膜が形成された。当該薄膜は緻密であり、基材Sとの密着性も良好(粘着テープによる剥離試験によっても剥離せず)であった。
【0076】
(実施例8)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「FY−5」(平均粒子径5.0μm(D50)、比表面積1.3m/g、製法:乾式))を60g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。当該高純度イットリア微粒子の製造方法は以下のとおりである。
実施例4で記述した粗イットリア粉末を遊星ミルを用いて、次の要領で乾式粉砕を行った。粗粉末250gとジルコニアボール(Ф10mm)1000g、さらに粉砕助剤としてエタノール0.6gを500mlのジルコニアポットに入れ、7分間粉砕を行った。
【0077】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0078】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量12L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は33kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(スライドグラス)S上に成膜された。
【0079】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。幅30mm、長さ15mm、膜厚11μm(0.22μm/pass)の透光性を有する灰色系のイットリア薄膜が形成された。当該薄膜は緻密であり、基材Sとの密着性も良好(粘着テープによる剥離試験によっても剥離せず)であった。
【0080】
(実施例9)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「FY−5」(平均粒子径5.0μm(D50)、比表面積1.3m/g、製法:乾式))を60g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。
【0081】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0082】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量16L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は40kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(スライドグラス)S上に成膜された。
【0083】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。幅30mm、長さ15mm、膜厚17μm(0.34μm/pass)の透光性を有する灰色系のイットリア薄膜が形成された。当該薄膜は緻密であり、基材Sとの密着性も良好(粘着テープによる剥離試験によっても剥離せず)であった。
【0084】
(実施例10)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「FY−2」(平均粒子径1.8μm(D50)、比表面積2.6m/g、製法:乾式))を80g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。当該高純度イットリア微粒子の製造方法は以下のとおりである。
実施例4で記述した粗イットリア粉末を遊星ミルを用いて、次の要領で湿式粉砕を行った。粗粉末150gとジルコニアビーズ(Ф2mm)1000gを500mlのジルコニアポットに入れ、純水150mlを投入し、10分間粉砕を行った。粉砕で得たスラリーを乾燥、解砕した。
【0085】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0086】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量12L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は35kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(アルミナ)S上に成膜された。
【0087】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。幅30mm、長さ15mm、膜厚8μm(0.16μm/pass)の透光性を有する茶白色系のイットリア薄膜が形成された。当該薄膜は緻密であり、基材Sとの密着性も良好(粘着テープによる剥離試験によっても剥離せず)であった。
【0088】
(比較例1)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「SSE−R1−2」(平均粒子径1.9μm(D50)、比表面積5.4m/g、製法:湿式))を80g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。当該高純度イットリア微粒子の製造方法は以下のとおりである。
5Lビーカーに塩化イットリウム溶液(Y濃度20.2重量%)500gとイオン交換水1500gを入れて撹拌混合し、Y濃度が約5重量%の塩化イットリウム溶液を得た。次に重炭酸アンモニウム250gをイオン交換水2250gで溶解した重炭酸アンモニウム溶液を先に調整した塩化イットリウム溶液に撹拌しながら滴下し、炭酸イットリウムの沈殿物を得た。得られた沈殿物をろ過し、イオン交換水で洗浄した。洗浄した炭酸イットリウムを電気炉にて900℃で焼成した後、乳鉢にて粉砕した。
【0089】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0090】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量12L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は35kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(アルミナ)S上に成膜された。
【0091】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。基材上には、イットリア微粒子の圧粉体が形成された。当該圧粉体は拭取れる程度のポーラスなものであった。
【0092】
(比較例2)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「SSE−R1−10」(平均粒子径10.9μm(D50)、比表面積2.9m/g、製法:湿式))を80g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。当該高純度イットリア微粒子の製造方法は以下のとおりである。
5Lビーカーに硝酸イットリウム溶液(Y濃度20.2重量%)500gとイオン交換水2000gを入れて撹拌混合し、Y濃度が約4重量%の硝酸イットリウム溶液を得た。蓚酸200gをイオン交換水で溶解し、30%に調整した蓚酸水溶液を先に調整した硝酸イットリウム溶液に撹拌しながら滴下し、蓚酸イットリウムの沈殿物を得た。得られた沈殿物をろ過し、イオン交換水で洗浄した。洗浄した蓚酸イットリウムを電気炉にて900℃で焼成した後、乳鉢にて粉砕した。
【0093】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0094】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量12L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は35kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(アルミナ)S上に成膜させた。
【0095】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。堆積中の観察によれば、堆積膜は密着力が弱く、積層と共に、部分的に、堆積と層状剥離を繰り返していた。
【0096】
(比較例3)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「FY−1」(平均粒子径0.8μm(D50)、比表面積3.0m/g、製法:乾式))を80g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。当該高純度イットリア微粒子の製造方法は以下のとおりである。
実施例4で記述した粗イットリア粉末を遊星ミルを用いて、次の要領で湿式粉砕を行った。粗粉末150gとジルコニアビーズ(Ф2mm)1000gを500mlのジルコニアポットに入れ、イオン交換水150mlを投入し、15分間粉砕を行った。粉砕で得たスラリーを乾燥、解砕した。
【0097】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0098】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量12L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は35kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(アルミナ)S上に成膜させた。
【0099】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。基材上には、イットリア微粒子の圧粉体が形成された。当該圧粉体は拭取れる程度のポーラスなものであった。
【0100】
(比較例4)
エアロゾル原料Pとして、第一稀元素化学工業株式会社製、高純度イットリア微粒子(品名「FY−12」(平均粒子径11.8μm(D50)、比表面積0.9m/g、製法:乾式))を80g用いた。ノズル18は、スリット長30mm、スリット幅0.3mmのスリット状ノズルとした。当該高純度イットリア微粒子の製造方法は以下のとおりである。
実施例4で記述した粗イットリア粉末を遊星ミルを用いて、次の要領で乾式粉砕を行った。粗粉末250gとジルコニアボール(Ф10mm)1000g、さらに粉砕助剤としてエタノール0.6gを500mlのジルコニアポットに入れ、3分間粉砕を行った。
【0101】
上記エアロゾル原料Pをアルミナトレーに入れ、大気中で500℃、1時間加熱することで、脱気処理した。その後、エアロゾル化容器2に収容し、排気系4によりエアロゾル化容器2及び成膜チャンバ3を10Pa以下まで真空排気した。なお、エアロゾル化容器2は、脱気を促進するため、成膜の間マントルヒーターを用いて150℃に維持した。
【0102】
エアロゾル化容器2の真空排気を停止し、ガス供給系5からエアロゾル化容器2にNガス(キャリアガス)を流量12L/minで導入した。エアロゾル化容器2と成膜チャンバ3の差圧は35kPaとなった。エアロゾル化容器2内のエアロゾル原料Pはエアロゾル化し、搬送管6を通過してノズル18から噴出し、基材(アルミナ)S上に成膜させた。
【0103】
基材Sが載置されたステージ7を、ステージ駆動機構8によって1mm/sの速度で15mm駆動させ、ステージ7の駆動方向を反転させることを繰り返し、往復させた。往復回数は25回、即ち、積層回数は50回(pass)とした。堆積中の観察によれば、堆積膜は密着力が弱く、積層と共に、部分的に、堆積と層状剥離を繰り返していた。
【0104】
以上の実施例1〜3及び比較例1〜2から、平均粒子径が6μm以上7μm以下であり、比表面積が3m/g以上4m/g以下の条件を満たす、湿式法で作製されたイットリア微粒子をエアロゾル原料としてエアロゾル化ガスデポジション法により成膜することで、緻密であり、基材に対する密着性が良好な高純度イットリア薄膜が形成された。一方、この条件から逸脱するイットリア微粒子をエアロゾル原料として成膜した場合、良好なイットリア薄膜は形成されなかった。
【0105】
また、以上の実施例4〜10及び比較例3〜4から、平均粒子径が1.8μm以上9.6μm以下であり、比表面積が1.0m/g以上2.6m/g以下の条件を満たす、乾式法で作製されたイットリア微粒子をエアロゾル原料としてエアロゾル化ガスデポジション法により成膜することで、緻密であり、基材に対する密着性が良好な高純度イットリア薄膜が形成された。一方、この条件から逸脱するイットリア微粒子をエアロゾル原料として成膜した場合、良好なイットリア薄膜は形成されなかった。
【0106】
本発明は上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更され得る。
【符号の説明】
【0107】
S 基材
1 エアロゾル化ガスデポジション装置
2 エアロゾル化容器
3 成膜チャンバ
4 排気系
5 ガス供給系
6 搬送管
7 ステージ
8 ステージ駆動機構
9 真空配管
10 第1バルブ
11 第2バルブ
12 真空ポンプ
13 ガス配管
14 ガス源
15 第3バルブ
16 ガス流量計
17 ガス噴出体
18 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1μm以上10μm以下であり、かつ比表面積が1m/g以上4m/g以下であるイットリア微粒子を密閉容器に収容し、
前記密閉容器にガスを導入することによって、前記イットリア微粒子のエアロゾルを生成させ、
前記密閉容器に接続された搬送管を介して、前記密閉容器よりも低圧に維持された成膜室に前記エアロゾルを搬送し、
前記成膜室に収容された基材上に前記イットリア微粒子を堆積させる
イットリア膜の成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載のイットリア膜の成膜方法であって、
前記イットリア微粒子は、1.8μm以上9.6μm以下の平均粒子径と、1.0m/g以上2.6m/g以下の比表面積とを有する、乾式法で作製されたイットリア微粒子である
イットリア膜の成膜方法。
【請求項3】
請求項1に記載のイットリア膜の成膜方法であって、
前記イットリア微粒子は、6μm以上7μm以下の平均粒子径と、3m/g以上4m/g以下の比表面積とを有する、湿式法で作製されたイットリア微粒子である
イットリア膜の成膜方法。
【請求項4】
請求項1に記載のイットリア膜の成膜方法であって、
前記イットリア微粒子を前記密閉容器に収容する工程の前に、前記イットリア微粒子を脱気する工程をさらに具備する
イットリア膜の成膜方法。
【請求項5】
請求項1に記載のイットリア膜の成膜方法であって、
前記エアロゾルを生成する工程は、前記密閉容器内に設置された、前記イットリア微粒子で被覆されているガス噴出体から前記ガスを噴出させることで、前記イットリア微粒子を前記容器内で巻き上げ、前記ガス中に混合させる
イットリア膜の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−162855(P2011−162855A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28202(P2010−28202)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(504273254)有限会社 渕田ナノ技研 (9)
【出願人】(000208662)第一稀元素化学工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】