説明

イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子、並びにリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの選抜方法及び育種方法

【課題】イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネを、当代検定で簡易に選抜することにより、米の劣化が起こりにくく、貯蔵性が向上した米を得ること。
【解決手段】特定な配列の塩基配列からなるイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子。および、特定な配列の塩基配列からなるイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の5’側から第1497番目の塩基がアデニンに変異しているイネを、イネ種子のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定する選抜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子、並びにリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの選抜方法及び育種方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イネの種子である米は、他の食品と比べて貯蔵が容易であるが、長期にわたって新鮮な状態を保って貯蔵することは困難であり、貯蔵期間の経過に伴って劣化が生じる。米の劣化は、糊粉層に含まれる脂質の酸化分解が原因とされ、脂質の酸化分解で生じた遊離脂肪酸がデンプンと結合することによって米の物性が低下し、遊離脂肪酸から生じた過酸化脂質が分解することによって古米臭が生じる。
【0003】
米の劣化を防ぐ方法としては、脂質の酸化を抑えて貯蔵する方法が報告されている。例えば、1)玄米の状態で、15℃程度の冷温で貯蔵する方法、2)籾の状態で貯蔵する方法、3)米の遊離脂肪酸量を測定し、遊離脂肪酸量が高い場合には精白して貯蔵する方法(特許文献1)、4)玄米を粉砕し、80〜160℃で加熱した後に貯蔵する方法(特許文献2)、5)カプサイシンや二酸化塩素ガスで貯蔵米を殺虫・殺菌処理して米を貯蔵する方法(特許文献3及び4)などが挙げられる。
【0004】
一方、リポキシゲナーゼは、脂質を過酸化する、ないしは脂質に酸素添加する作用を有する酵素であり、3種類のアイソザイムの存在が知られている。この中でも、リポキシゲナーゼ3は、米の胚芽中で検出されるリポキシゲナーゼ活性の80〜90%を占める主要なアイソザイムである。
【0005】
【特許文献1】特開2000−4784号公報
【特許文献2】特開2005−34147号公報
【特許文献3】特開平6−38678号公報
【特許文献4】特開平11−168969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来からの米の貯蔵方法に代えて、上記1)〜5)に記載の方法を実行するには、各方法に適した設備(冷却・保冷施設、籾貯蔵用のスペース等)や処理(遊離脂肪酸の測定、精白処理、加熱処理、殺虫・殺菌処理等)が必要であり、コスト、技術、及び時間の面で問題があった。
【0007】
また、米の胚芽中で発現し、米の劣化に強く関与するイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子及びその変異型遺伝子はこれまで同定されておらず、リポキシゲナーゼ3が欠失しているイネを選抜又は育種するには、イネ種子中に含まれるリポキシゲナーゼ3の活性、又はリポキシゲナーゼ3タンパク質の存在を指標に後代検定を行うしか方法がなかった。
【0008】
そこで本発明は、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネを、当代検定で簡易に選抜することにより、米の劣化が起こりにくく、貯蔵性が向上した米を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、配列表の配列番号1記載の塩基配列からなるイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子を提供する。
【0010】
本発明者らは、イネ種子中に存在するリポキシゲナーゼについて鋭意研究を重ねた結果、イネ種子中で特異的に発現し、米の劣化の原因なるイネ種子リポキシゲナーゼ3の遺伝子及びその変異型遺伝子を同定するに至った。これまでも、イネ種子で発現するリポキシゲナーゼ3遺伝子及びその変異型遺伝子を同定する試みはされてきたが、イネのリポキシゲナーゼには、少なくとも3つのアイソザイム(リポキシゲナーゼ1、2、及び3)が存在し、リポキシゲナーゼをコードする遺伝子は、ゲノム上に少なくとも20種類以上存在することが予測されているため、これらの遺伝子を同定することは非常に困難であった。
【0011】
上記のイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子が同定されたことにより、イネ種子における脂質の分解機構の解明がさらに進むと共に、上記のイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有するイネを育種素材として利用し、イネの種子中で発現する野生型のリポキシゲナーゼ3遺伝子を上記のイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子に置き換えたイネ系統及び品種を作出すれば、脂質の酸化・分解が抑制され、貯蔵性が向上した米を得ることができる。
【0012】
本発明は、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの選抜方法であって、配列表の配列番号2記載の塩基配列からなるイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の5’側から第1497番目の塩基がアデニンに変異しているイネを、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定する選抜方法を提供する。
【0013】
上記選抜方法によれば、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の5’側から第1497番目の塩基を調べることにより、米の劣化の起こりやすさや米の貯蔵性を判定でき、米の劣化が起こりにくく、貯蔵性に優れたイネの選抜及び育種を当代検定で行うことができる。
【0014】
上記選抜方法は、被検イネからゲノムDNAを抽出する抽出ステップと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、からなるプライマーセットで、ゲノムDNAを鋳型にDNA断片を増幅する増幅ステップと、増幅ステップで増幅されたDNA断片中に制限酵素MvaIの認識配列がない場合に、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定する判定ステップと、を備えることが好ましい。
【0015】
上記選抜方法によれば、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の塩基配列を調べることなく、ゲノムDNAを鋳型として増幅されたDNA断片が制限酵素MvaIによって切断されるか否かを調べることによって、簡易に米の劣化の起こりやすさや米の貯蔵性を判定できる。
【0016】
また、上記選抜方法は、被検イネからゲノムDNAを抽出する抽出ステップと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、からなるプライマーセットで、ゲノムDNAを鋳型にDNA断片を増幅する増幅ステップと、増幅ステップで増幅されたDNA断片を膜に固定する固定ステップと、配列表の配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3128番目の塩基を含む連続した塩基配列からなる標識オリゴヌクレオチドと、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3125番目の塩基を含む連続した塩基配列からなる非標識オリゴヌクレオチドと、を混合した混合プローブを、膜に固定されたDNA断片にハイブリダイズさせるハイブリダイゼーションステップと、このDNA断片にハイブリダイズした標識オリゴヌクレオチドからのシグナルを検出する検出ステップと、検出ステップで標識オリゴヌクレオチドからのシグナルが検出されない場合に、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定する判定ステップと、を備えることが好ましい。
【0017】
上記選抜方法によれば、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の塩基配列を調べたり、ゲノムDNAを鋳型として増幅されたDNA断片を制限酵素で切断したりすることなく、ドットブロッティング法又はサザンブロッティング法等の手段によって、より簡易に米の劣化の起こりやすさや米の貯蔵性を判定できる。
【0018】
また本発明は、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの育種方法であって、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3を欠失させたいイネ品種又は系統のイネと、上記のイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子を保有するイネとを交配して雑種第一代を得る交配ステップと、この雑種第一代に上記イネ品種又は系統のイネを戻し交配して得た後代個体の中から、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有する個体を選抜する選抜ステップとを備える育種方法を提供する。
【0019】
上記育種方法によれば、米の貯蔵性に優れ、かつ、その他の有用形質を保持したイネの新品種及び新系統を作製できる。
【0020】
また、上記育種方法により選抜されたイネは、その貯蔵において、省エネルギー化及び低コスト化を図ることができ、例えば、脂質酸化や異臭発生が起こりにくい高品質玄米全粒粉の製造や機能性食品等への応用が可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、米の劣化の起こりやすさや米の貯蔵性を当代検定で簡易に判定でき、脂質の酸化・分解が抑制され、貯蔵性が向上した米を得ることができる。また本発明によれば、米の劣化が起こりにくく、米の貯蔵性に優れたイネの選抜及び育種を簡易かつ迅速に行うことができ、米の内部で起こっている脂質の分解機構の解明に対しても貢献できる。さらに、本発明の育種方法によって得られた米は、その貯蔵において、省エネルギー化及び低コスト化を図ることができ、米を利用した高付加価値製品の開発に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0023】
本発明のイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子は、配列表の配列番号1記載の塩基配列からなることを特徴としている。
【0024】
「イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子」とは、イネの種子で発現するリポキシゲナーゼ3遺伝子のことをいい、「イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子」とは、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の塩基配列に変異が生じている遺伝子のことをいう。
【0025】
上記のイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子(配列番号1)は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子(配列番号2)の5’側から第1497番目のグアニンがアデニンに変異しており、この変異がナンセンス変異に該当するために、活性のあるイネ種子リポキシゲナーゼを発現できなくなったものである。
【0026】
上記のイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子は、例えば、Molecular cloning(Maniatisら、1989年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス)に記載された方法に従って、配列表の配列番号1に記載の塩基配列情報をもとに合成した標識cDNAプローブを用いて、イネcDNAライブラリー又はゲノムライブラリーからクローニングできる。
【0027】
また、上記のイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子は、イネから抽出したトータルRNA又はポリARNAを鋳型として配列表の配列番号1に記載の塩基配列情報をもとにデザインしたプライマーセットを用いることによって、RT−PCR法で合成でき、さらには、これらの遺伝子の部分配列をDNA合成機で化学合成し、酵素的手法及びサブクローニングの手法を使ってつなぎ合わせることによっても取得できる。
【0028】
本発明の選抜方法は、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの選抜方法であって、配列表の配列番号2記載の塩基配列からなるイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の5’側から第1497番目の塩基がアデニンに変異しているイネを、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定することを特徴としている。
【0029】
塩基の変異を利用してイネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネを選抜する方法としては、例えば、上記変異部位を含むDNA断片をPCR等で増幅し、塩基配列を決定したり、プライマー配列の3’末端又はプライマー配列内部に上記変異部位を含むプライマーを用いて、ゲノムDNAを鋳型にPCR等でDNA断片の増幅を行い、増幅の有無や増幅効率の違いを比較したりして、塩基の変異を検出する方法が挙げられる。
【0030】
上記選抜方法の第一の態様は、被検イネからゲノムDNAを抽出する抽出ステップと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、からなるプライマーセットで、ゲノムDNAを鋳型にDNA断片を増幅する増幅ステップと、増幅ステップで増幅されたDNA断片中に制限酵素MvaIの認識配列がない場合に、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定する判定ステップと、を備えることを特徴としている。
【0031】
抽出ステップでは、被検イネからゲノムDNAを抽出するが、ゲノムDNAの抽出方法として、例えば、CTAB法(Murrayら、Nucleic Acids Res.、1980年、8巻、p.4321−4325)やEthidium bromide法(VaradarajanとPrakash、Plant Mol. Biol. Rep.、1991年、9巻、p.6−12)によって抽出できる。ここで、ゲノムDNAを抽出する組織はイネ種子のみならず、葉、茎、根等を用いることも可能である。例えば、葉を用いることで、戻し交配世代途中の多数の個体選抜に利用することが可能になる。
【0032】
増幅ステップでは、例えば、PCR法によって行うことができる。ここで、PCR法において用いられるプライマーセットは、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、からなるプライマーセットであれば、特定の塩基配列に制限されることはないが、プライマーの長さは、PCRの条件設定の容易さ及び効率の観点から、それぞれ塩基数が10〜60個の連続した塩基であることが好ましく、15〜30個の連続した塩基であることがより好ましく、20個の連続した塩基であることがさらに好ましい。また、各プライマーの塩基配列におけるGC含量は、40〜60%であることが好ましく、プライマー内で2次構造を取らないことが好ましい。さらに、プライマーセットの各プライマー間のTm値は、両者に差がないか、あったとしても少ない方が好ましい。
【0033】
このような条件を満たすプライマーセットとしては、配列表の配列番号5に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(5’‐gccaagagcaccgtgtacacg‐3’)と、配列表の配列番号6に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(5’‐ggaagacggtcatctcgaag‐3’)が挙げられる。なお、各プライマーは、配列表の配列番号3に示される塩基配列を基にして、化学合成できる。
【0034】
判定ステップでは、増幅ステップで増幅されたDNA断片中に制限酵素MvaIの認識配列があるか否かを指標にするため、増幅されたDNA断片を制限酵素MvaIで切断し、アガロースゲル電気泳動又はポリアクリルアミドゲル電気泳動でDNA断片のバンドの数及び長さを調べればよい。増幅されたDNA断片中に制限酵素MvaIの認識配列がある場合には、電気泳動で検出されるバンドの数は切断前と比較して1本増えることとなり、バンドの長さについても短くなっていることが容易に確認できるからである。
【0035】
すなわち、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの塩基配列である配列番号3に示される塩基配列の5’側から第3128番目の塩基がアデニンに変異していれば、被検イネはイネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであるが、第3128番目の塩基は、制限酵素MvaIの認識配列上にあって、制限酵素MvaIによって切断されるか否かを決定付ける塩基であるため、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの選抜が可能となる。
【0036】
上記選抜方法の第二の態様は、被検イネからゲノムDNAを抽出する抽出ステップと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、からなるプライマーセットで、ゲノムDNAを鋳型にDNA断片を増幅する増幅ステップと、増幅ステップで増幅されたDNA断片を膜に固定する固定ステップと、配列表の配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3128番目の塩基を含む連続した塩基配列からなる標識オリゴヌクレオチドと、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3125番目の塩基を含む連続した塩基配列からなる非標識オリゴヌクレオチドと、を混合した混合プローブを、膜に固定されたDNA断片にハイブリダイズさせるハイブリダイゼーションステップと、このDNA断片にハイブリダイズした標識オリゴヌクレオチドからのシグナルを検出する検出ステップと、検出ステップで標識オリゴヌクレオチドからのシグナルが検出されない場合に、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定する判定ステップと、を備えることを特徴としている。
【0037】
抽出ステップ及び増幅ステップは、上記選抜方法の第一の態様で示した通りである。
【0038】
固定ステップでは、増幅ステップで増幅されたDNA断片を膜に固定するが、例えば、Molecular cloning(Maniatisら、1989年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス)に記載されたドットブロットハイブリダイゼーション法やサザンブロットハイブリダイゼーション法に従って、DNA断片を膜に転写し、UV光を用いたクロスリンク又は120℃で30分間のベーキングを行うことによってDNA断片を膜に固定すればよい。DNA断片を転写する膜としては、例えば、ニトロセルロース、ナイロン、PVDF、又はそれらの混合物からなる膜を使用できる。
【0039】
ハイブリダイゼーションステップでは、標識オリゴヌクレオチドと非標識オリゴヌクレオチドとを混合した混合プローブと、膜に固定されたDNA断片とをハイブリダイズさせるが、ハイブリダイゼーションの手法は、例えば、Molecular cloning(Maniatisら、1989年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス)に記載されたドットブロットハイブリダイゼーション法やサザンブロットハイブリダイゼーション法に従って行えばよい。
【0040】
混合プローブを構成する標識オリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3128番目の塩基を含む連続した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをその塩基配列を基に化学合成し、得られたオリゴヌクレオチドを標識すればよい。混合プローブを構成する非標識オリゴヌクレオチドは、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3125番目の塩基を含む連続した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをその塩基配列を基に化学合成すればよい。
【0041】
混合プローブを構成する標識オリゴヌクレオチド及び非標識オリゴヌクレオチドの長さは、それぞれ塩基数が10〜30個の連続した塩基であることが好ましく、10〜20個の連続した塩基であることがより好ましく、17〜20個の連続した塩基であることがさらに好ましい。また、各オリゴヌクレオチドは、GC含量が40〜60%であることが好ましく、2次構造を取らない配列であることが好ましい。さらに、プローブを構成する各オリゴヌクレオチド間のTm値は、両者に差がないか、あったとしても少ない方が好ましい。
【0042】
このような条件を満たす標識オリゴヌクレオチドとしては、配列表の配列番号7に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(5’‐gaggcctgggtgtggca‐3’)を標識したものが挙げられ、非標識オリゴヌクレオチドとしては、配列表の配列番号8に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(5’‐gaggcctgagtgtggca‐3’)が挙げられる。
【0043】
オリゴヌクレオチドの標識は、化学合成したオリゴヌクレオチドを、例えば、ジゴキシゲニン(DIG)、ビオチン、Rhodamine、Fluorescein、Cy3、Cy5、DNP(dinitrophenol)、及び放射性同位元素のいずれかで標識すればよく、標識部位はオリゴヌクレオチドの5’末端が好ましい。
【0044】
混合プローブを構成する標識オリゴヌクレオチドと非標識オリゴヌクレオチドの混合割合は、非標識オリゴヌクレオチドを競合プローブとして使用するため、非標識オリゴヌクレオチドの量が、標識オリゴヌクレオチドの量よりも過剰に混合されることが好ましく、その混合割合は、標識オリゴヌクレオチド:非標識オリゴヌクレオチド=1:2〜1:10であることが好ましく、標識オリゴヌクレオチド:非標識オリゴヌクレオチド=1:5であることがより好ましい。
【0045】
検出ステップでは、膜に固定されたDNA断片にハイブリダイズした標識オリゴヌクレオチドの標識化合物に起因するシグナルを検出するが、シグナルを検出する手法は、標識に使用した化合物を検出する手法として確立された方法(中山と西方、「バイオイラストレイテド2:遺伝子解析の基礎」、秀潤社、1995年;野村と稲澤、「脱アイソトープ実験プロトコール1:DIGハイブリダイゼーション、秀潤社、1994年)に従えばよく、当業者であれば容易にそのシグナルを検出できる。
【0046】
例えば、DIG標識オリゴヌクレオチドをプローブに用いた場合には、以下のようにしてDIGに起因して発生するシグナルを検出できる。
【0047】
まず、ハイブリダイゼーション後の膜を、緩衝液−1(100mM Tris−HCl、pH7.6、150mM NaCl)で十分に洗浄して非特異的に吸着したDIG標識オリゴヌクレオチドを取り除き、検出時における膜の時のバックグラウンドを低くするために、スキムミルク等のブロッキング試薬を含む上記緩衝液(緩衝液−2)に膜を90分間浸漬する。
【0048】
次に、膜を浸漬している緩衝液中に、抗DIGアルカリフォスファターゼ標識抗体(ロッシュ社)を2μL/10mLの割合で加え、30分間振盪しながら静置する。その後、膜を取り出し、新しい緩衝液−1に浸漬し、振盪しながら15分間洗浄する操作を2回繰り返して未反応の抗DIGアルカリフォスファターゼ標識抗体を取り除き、膜を平衡化緩衝液(100mM Tris−HCl、pH9.5、100mM NaCl、50mM MgCl)で処理することによって膜上のpHをアルカリ側にし、50〜100μLのCDP−star(アルカリフォスファターゼの発光基質;ロッシュ社)を膜上に滴下する。
【0049】
その後、CDP−starが膜全体にいきわたるようにして暗所で5分間反応させれば、DIG標識オリゴヌクレオチドに特異的に結合したアルカリフォスファターゼが発する化学発光シグナルを、化学発光検出解析装置やX線フィルム等で検出できる。
【0050】
判定ステップでは、上記の検出ステップで標識オリゴヌクレオチドからシグナルが検出されるか否かを指標にし、標識オリゴヌクレオチドからのシグナルが検出されない場合に、リポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定すればよい。
【0051】
また、本発明の育種方法は、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの育種方法であって、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3を欠失させたいイネ品種又は系統のイネと、上記のイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子を有するイネとを交配して雑種第一代を得る交配ステップと、この雑種第一代に上記イネ品種又は系統のイネを戻し交配して得た後代個体の中から、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有する個体を選抜する選抜ステップと、を備えることを特徴としている。
【0052】
交配ステップでは、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3を欠失させたいイネ品種又は系統と、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子を有するイネとを、当業者通常行う方法で交配させ、雑種第一代(以下、F1)を得ればよい。イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子を有するイネは、上記のイネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの選抜方法で選抜すれば取得できるが、イネ品種Daw Damがイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子を有していることが、本願の研究者らによって明らかにされている。イネ品種Daw Damは、独立行政法人農業生物資源研究所から入手することが可能である。
【0053】
選抜ステップでは、交配ステップで得たF1にイネ品種又は系統を戻し交配して得た後代個体の中から、前記イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有する個体を選抜するが、この選抜は、上記のイネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの選抜方法を使用すればよい。
【0054】
また、本発明のイネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネは、上記の育種方法により選抜されたことを特徴としており、当業者であれば上記の育種方法に従って育種することが可能である。
【実施例】
【0055】
本発明を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
1.材料及び方法
1)抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体を産生するハイブリドーマの作製
(抗原タンパク質の精製)
抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体を産生するハイブリドーマは、イネ品種日本晴(Oryza sativa L. cv. Nipponbare)の種子の胚芽から部分精製したイネ種子リポキシゲナーゼ3を抗原タンパク質として用いて作製した。イネ種子リポキシゲナーゼ3の部分精製は、Ohtaらの方法(Agric. Biol. Chem.、1986年、50巻、p.3165−3171)に若干の修正を加え、以下の手順で行った。
【0057】
具体的には、イネ種子の胚芽(3kg)を5倍容の抽出用緩衝液(50mM Tris−HCl、0.1mM EDTA、pH7.6)中で磨砕し、1時間攪拌した。磨砕液は遠心分離し、その上清に30%飽和となるように硫安を加えて溶解し、遠心分離後に再び上清に50%飽和となるように硫安を加えて溶解し、硫安沈殿を行った。その後、沈殿したタンパク質を抽出用緩衝液で溶解し、透析することにより硫安を取り除き、以下の6種類のカラムクロマトグラフィーでイネ種子リポキシゲナーゼ3を部分精製した。
【0058】
まず、陽イオン交換クロマトグラフィー(カラム:QAE−Toyopearl 550C;東ソー社)によって、3種のイネ種子リポキシゲナーゼのアイソザイムを分画し、リポキシゲナーゼ活性を指標にイネ種子リポキシゲナーゼ3の画分を回収した。
【0059】
次に、疎水性クロマトグラフィー(カラム:Butyl−Toyopearl 650C;東ソー社)、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(カラム:Cu2+−Sepharose;ファルマシア社)、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー(カラム:Bio−Gel HT;バイオラッド社)、ゲルろ過クロマトグラフィー(カラム:Sephadex G−150;ファルマシア社)で順次精製し、最後に、再度、陽イオン交換クロマトグラフィー(カラム:QAE−Toyopearl 550C;東ソー社)で分画することにより、イネ種子リポキシゲナーゼ3を部分精製した。
【0060】
得られたイネ種子リポキシゲナーゼ3の部分精製物は、−40℃で凍結保存し、抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体の抗原タンパク質として使用した。
【0061】
リポキシゲナーゼ3の活性は、Axelrodらの方法(Methods Enzymol.、1981年、71巻、p.441−451)に従って、リノール酸の過酸化物の生成により生じる吸光度(234nm)の増加を調べることにより求めた。その際、0.33mMのリノール酸を含む0.2Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)を酵素反応液とし、25℃、1分間当たり1μmolのリノール酸を過酸化するリポキシゲナーゼの活性を1ユニット(Unit)とした。
【0062】
また、タンパク質濃度の測定は、Bradfordらの方法(Anal. Biochem.、1976年、72巻、p.248−258)に従って、牛血清アルブミンを標準タンパク質として色素結合法により行った。
【0063】
(抗イネ種子リポキシゲナーゼ3産生ハイブリドーマの作製)
ハイブリドーマの作製は、青木らの方法(「蛋白質・核酸・酵素」、1987年、別冊30、p.171−185)、岩崎らの方法(「ハイブリドーマとELISA」、講談社サイエンティフィック、1983年、p.196)、及び富山らの方法(「単クローン抗体実験マニュアル」、講談社サイエンティフィック、1987年、p.246)を参考にして、以下の手順で行った。
【0064】
まず、イネ種子リポキシゲナーゼ3の部分精製物(60μg)をPBS(0.15M NaClを含む10mM Na/K リン酸緩衝液、pH7.2)に溶解し、そこにFreundの完全アジュバントを等量加えて乳化させた後、BALB/cマウスに免疫した。初回免疫から4週間後に、イネ種子リポキシゲナーゼ3の部分精製物を不完全アジュバンドと混合して乳化させたものを用いて追加免疫し、追加免疫から3日後に、免疫したBALB/cマウスから脾臓細胞(抗体産生細胞)を分離した。その後、脾臓細胞とPIAミエローマ細胞をポリエチレングリコールの存在下で細胞融合させ、96ウェルプレート上で培養した。
【0065】
細胞融合から2週間後に、各ウェルから50μLの培養上清を採取し、ELISA法でイネ種子リポキシゲナーゼ3に対するモノクローナル抗体の産生の有無を試験した。抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体を産生しているハイブリドーマは、限界希釈法によるクローニングを2回行い、クローンごとに小分けして液体窒素下で凍結保存した。
【0066】
(抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体の調製)
抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体を大量に調製するため、まず、上記の抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体を産生するハイブリドーマ(3×10個)を、予め0.5mLのプリスタンを腹腔内投与しておいたBALB/cマウスの腹腔内に投与した。
【0067】
投与2週間後に腹水を集め、50%飽和となるように硫安を加えて硫安沈殿を行い、沈殿したタンパク質をPBSに溶解し、透析後、抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体を含む透析画分に等量の平衡緩衝液(1.5M Tris−HCl、3.0M NaCl、pH8.9)を加えた。
【0068】
その後、平衡緩衝液で平衡化したProtein A Sepharose 4 Fast Flow カラム(1.5×2.5cm;ファルマシア社)に平衡緩衝液を加えた透析画分をアプライし、平衡緩衝液で洗浄した後に0.1Mクエン酸緩衝液(pH4.0)で抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体を溶出し、8分の1容の2.5M Tris−HCl(pH8.5)を加えて中和した。こうして得られた抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体は、0.05% NaNを含むPBSにバッファー交換して4℃で保存した。
【0069】
2)アフィニティーカラムによるイネ種子リポキシゲナーゼ3の精製
(抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体アフィニティーカラムの作製)
大量調製した抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体の約58mgを、東ソー社のプロトコールに従って、2.3gのToresyl−Toyopearl 650(東ソー社)に結合させ、イネ種子リポキシゲナーゼ3の精製用のアフィニティー樹脂を作製した。その後、アフィニティー樹脂は、液体クロマトグラフィー用のカラム(1.5×5.0cm)に充填し、抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体アフィニティーカラムとして、イネ種子リポキシゲナーゼ3の精製に使用した。
【0070】
(イネ種子リポキシゲナーゼ3の精製)
イネ品種日本晴の種子の胚芽(100g)を5倍容の抽出緩衝液(50mM Tris−HCl、0.1mM EDTA、0.1mM モノヨード酢酸、pH8.9)中で磨砕し、1時間攪拌した。磨砕液は遠心分離し、その上清に30%飽和となるように硫安を加えて溶解し、遠心分離後に再び上清に50%飽和となるように硫安を加えて溶解し、硫安沈殿を行った。
【0071】
その後、沈殿したタンパク質をTM緩衝液(20mM Tris−HCl、0.1mM MIA、pH7.6)で溶解し、透析することにより硫安を取り除き、TM緩衝液で平衡化した抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体アフィニティーカラムにアプライした。その後、TM緩衝液で抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体アフィニティーカラムを十分に洗浄し、アフィニティーカラムに保持されたイネ種子リポキシゲナーゼ3を0.1mMのMIAを含む50%(w/v)エチレングリコールで溶出した。
【0072】
その結果、リポキシゲナーゼ活性の比活性が400倍以上高まり、アミノ酸配列の決定が可能な純度のイネ種子リポキシゲナーゼ3が137μg得られた。
【0073】
2.実施例
(実施例1)イネ種子リポキシゲナーゼ3タンパク質のアミノ酸配列の決定:
抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体アフィニティークロマトグラフィーで精製した純度の高いイネ種子リポキシゲナーゼ3タンパク質を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分画し、CBBで染色されたバンドを切り出し、Rosenfeldら(Anal. Biochem.、1992年、203巻、p.173−179)の方法に従ってゲル内消化した。その後、逆相HPLCによりペプチドを回収し、イネ種子リポキシゲナーゼ3のアミノ酸配列の部分配列を、アミノ酸シークエンサー(Prosice 494 HT Protein Sequencing System;Applied Biosystems社)によって決定した。
【0074】
その結果、イネ種子リポキシゲナーゼ3タンパク質の3箇所の部分配列を決定でき、そのアミノ酸配列は、MADFLGYSIK、RFPLQLVK、及びDLLPAAGDYIであった。
【0075】
そこで、この3つのアミノ酸配列を基にRiceBlast(http://riceblast.dna.affrc.go.jp/)でデータベース検索を行い、これらのアミノ酸配列を包含するイネ遺伝子の塩基配列を探索した。その結果、3つの配列のいずれもがイネOs03g0700400(National Center for Biotechnology Informationのアクセッション番号NM_001057528)のアミノ酸配列に含まれていることが判明した。
【0076】
図1は、イネOs03g0700400のアミノ酸配列における、MADFLGYSIK、RFPLQLVK、及びDLLPAAGDYIの位置を示したものである。
【0077】
その結果、イネの種子で発現するイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子は、イネOs03g0700400の塩基配列と一致することが強く示唆された。
【0078】
そこで、イネ種子リポキシゲナーゼ遺伝子のゲノムDNAの塩基配列を調べ、イントロンを除いたコーディング領域の塩基配列とイネOs03g0700400の塩基配列とを比較した。
【0079】
具体的には、イネOs03g0700400の塩基配列を基に、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAを5つの領域(領域1〜5)に分け、イネ品種日本晴のゲノムDNAを鋳型に用いてPCRを行い、増幅されたDNA断片をダイレクトシークエンスして、各領域の塩基配列を決定した。
【0080】
イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の領域1の増幅には、rsLOX3−1−F:5’−tatgtcacattcacccaaaatcc−3’(配列番号9)とrsLOX3−1−R:5’−ctgatgagctggcaggtgac−3’(配列番号10)、領域2の増幅には、rsLOX3−2−F:5’−gagggatcatcgacaccatc−3’(配列番号11)とrsLOX3−2−R:5’−gtgaactgtggcaactatgatga−3’(配列番号12)、領域3の増幅には、rsLOX3−3−F:5’−aaaagaagcagctctacaatgga−3’(配列番号13)とrsLOX3−3−R:5’−catggggagcttgaggatatagt−3’(配列番号14)、領域4の増幅には、rsLOX3−4−F:5’−gagttcgactcgttccaggac−3’(配列番号15)とrsLOX3−4−R:5’−ggaagacggtcatctcgaag−3’(配列番号16)、領域5の増幅には、rsLOX3−5−F:5’−ctgtgatggagccgttcgt−3’(配列番号17)とrsLOX3−5−R:5’−gtaatcgtaggtacatattcag−3’(配列番号18)を用いて、PCRを行った。
【0081】
PCR条件は、94℃で1分間加熱した後に、98℃で10秒、68℃で1分のサイクルを35サイクル行い、引き続き、72℃で3分のサイクルを1サイクル行い、その後4℃まで急冷した。
【0082】
イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の領域1〜5に相当する各DNA断片は、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社)で精製し、これを鋳型としてダイターミネーター法による反応を行い、ABI社のDNAシークエンサーで塩基配列を決定した。
【0083】
図2は、ダイレクトシークエンスを行ったイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの5つの領域の位置を示したものである。図3は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの塩基配列を示したものである。下線で示した部分は、エクソンを示している。
【0084】
その結果、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNA(配列番号3)は、4402塩基からなり、9個のエクソンと、8個のイントロンからなることが明らかとなった。また、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノム配列からイントロンを取り除いたイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の塩基配列(配列番号2)は、Os03g0700400の塩基配列と完全に一致していることが確認された。
【0085】
以上の結果より、イネの種子で発現するイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の塩基配列は、イネOs03g0700400の塩基配列と一致し、配列表の配列番号2に記載の塩基配列からなる遺伝子は、イネ種子リポキシゲナーゼ遺伝子であることが明らかとなった。
【0086】
(実施例2)リポキシゲナーゼ3が欠失しているイネ品種Daw Damが保有するイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の検索:
リポキシゲナーゼ3が欠失しているイネ品種Daw Damのリポキシゲナーゼ3欠失性が、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の変異によるものであるかどうかについて調べた。具体的には、イネ品種Daw Damのイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの塩基配列を決定し、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの塩基配列(配列番号3)と比較した。
【0087】
イネ品種Daw Damが保有するイネ種子リポキシゲナーゼ遺伝子のゲノムDNAの塩基配列は、実施例1と同様に、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAを5つの領域(領域1〜5)に分け、イネ品種Daw DamのゲノムDNAを鋳型に用いてPCRを行い、増幅されたDNA断片をダイレクトシークエンスすることによって決定した。プライマーセット及びPCRの条件についても、実施例1と同じである。
【0088】
図4は、イネ品種Daw Damのイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの塩基配列を示したものである。下線で示した部分は、エクソンを示している。また、図5は、イネ品種Daw Damのイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAで認められた、ナンセンス変異の位置を示したものである。
【0089】
その結果、イネ品種Daw Damのイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの塩基配列(配列番号4)は、第1イントロンにおいて、配列表の配列番号3に示されるイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの第428番目から430番目の3塩基(AAA)が欠失し、第7エキソンにおいて、配列表の配列番号3に示されるイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの第3128番目の塩基(配列表の配列番号2に記載の塩基配列からなるイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の第1497番目の塩基)が、アデニンに変異していることが明らかとなった(図4において、変異したアデニン(A)は、太字で示している。)。この変異は、第7エキソンのトリプトファンを指定するコドン(TGG)を終止コドン(TGA)へと変異させるナンセンス変異であった。
【0090】
以上の結果より、イネ品種Daw Damでは、ナンセンス変異により正常なリポキシゲナーゼ3タンパク質が合成されなくなり、これがリポキシゲナーゼ3欠失性を示す原因となっていることが判明した。このため、イネ品種Daw Damで認められたナンセンス変異を有するイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子を、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子と名付けた。イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子の塩基配列は、配列表の配列番号1に示した通りである。
【0091】
(実施例3)CAPS法によるイネ種子リポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの選抜方法:
実施例2において、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子のゲノムDNAで認められた第3128番目の塩基(イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子で認められた第1497番目に相当する塩基)における変異は、制限酵素MvaIの認識部位(CCWGG)の4番目の塩基に起きている変異であることが明らかになったため、制限酵素MvaIを用いたCAPS法(KoniecznyとAusubel、1993年、Plant J.、4巻、p.403−410)によって、上記のナンセンス変異の検出を試みた。
【0092】
被検イネとして、イネ品種日本晴個体(イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子をホモで保有)にイネ品種Daw Dam個体(イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有)を交配して得たF1個体を自殖して得た15個のF2個体(Y−103〜116及びY−120)、並びにこれらの交配親であるイネ品種日本晴個体及びDaw Dam個体を用いた。
【0093】
まず、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子のゲノムDNA(配列番号3)の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーであるrsLOX3−Frag−F(5’−gccaagagcaccgtgtacacg−3’;配列番号5)と、第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーであるrsLOX3−Frag−R(5’−ggaagacggtcatctcgaag−3’;配列番号6)と、からなるプライマーセットを合成し、変異が認められた第3128番目の塩基を含むDNA断片を、それぞれ被検イネのゲノムDNAを鋳型にPCRで増幅した。
【0094】
PCRは、94℃で1分間加熱した後に、94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを35サイクル行い、引き続き、72℃で1分のサイクルを1サイクル行い、その後、4℃まで急冷することにより終了させた。
【0095】
その際、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子とイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子の双方を保有するヘテロ個体のコントロールとして、イネ品種日本晴とイネ品種Daw DamのゲノムDNAの混合物を鋳型として同様にPCRを行った。
【0096】
PCRで増幅されたDNA断片は、制限酵素MvaIで切断し、ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、電気泳動後のゲルをエチジウムブロマイドで染色し、ゲルに紫外線を照射することによってDNAバンドとして検出した。
【0097】
図6は、制限酵素MvaIを用いたCAPS法の手順に従って、被検イネのゲノムを鋳型にPCRを行い、制限酵素MvaIで切断後に電気泳動して検出されたバンドパターンである。図中の+は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子をホモで保有している個体(イネ品種日本晴型ホモ個体)、−は、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有している個体(イネ品種Daw Dam型ホモ個体)、±は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子とイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子とを共に保有している個体(ヘテロ個体)であることを示している。
【0098】
その結果、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子をホモで保有するイネ品種日本晴個体の場合は、得られたPCR断片が制限酵素MvaIによって切断され、約270bpのバンドのみが検出された。また、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異遺伝子をホモで保有し、イネ種子リポキシゲナーゼ3欠失性の表現型を示すイネ品種Daw Dam個体の場合は、制限酵素MvaIによって切断されず、約320bpのバンドのみが検出された。
【0099】
また、ヘテロ個体のコントロールの場合は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子とイネ種子リポキシゲナーゼ3変異遺伝子とを共に保有するため、制限酵素MvaIによって切断された約270bpのバンドと、制限酵素MvaIによって切断されなかった約320bpのバンドの双方が検出された。
【0100】
一方、F2個体の場合は、イネ品種日本晴個体、イネ品種Daw Dam個体、又はイネ品種日本晴個体とイネ品種Daw Dam個体の混合型のバンドパタ−ンのいずれかを示した。
【0101】
そこで、15個のF2個体について、抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体を用いたウェスタンブロッッティングによって、イネ種子中におけるイネ種子リポキシゲナーゼ3の発現の有無を調べた。
【0102】
その結果、F2個体のうち、イネ品種日本晴個体のバンドパターン、又はイネ品種日本晴個体とイネ品種Daw Dam個体の混合型のバンドパターンを示したF2個体では、イネ種子リポキシゲナーゼ3の発現が確認されたものの、イネ品種Daw Dam型個体のバンドパターンを示したF2個体では、イネ種子リポキシゲナーゼ3の発現が確認されなかった。
【0103】
よって、イネ品種日本晴個体と同じバンドパターンを示したF2個体は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子をホモで保有しているイネ品種日本晴型ホモ個体であり、イネ品種Daw Dam個体と同じバンドパターンを示したF2個体は、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有しているイネ品種Daw Dam型ホモ個体であり、F1個体と同じバンドパタ−ンを示したF2個体は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子とイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子とを共に保有しているヘテロ個体であることが明らかとなった。
【0104】
以上の結果より、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、からなるプライマーセットで、被検イネのゲノムDNAを鋳型にDNA断片を増幅し、増幅されたDNA断片中に制限酵素MvaIの認識配列がなく、制限酵素MvaIによって切断されない場合に、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定することにより、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有する個体を選別できることが明らかとなった。すなわち、制限酵素MvaIを用いたCAPS法によって、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有する個体を選別できることが明らかとなった。
【0105】
(実施例4)ドットブロットSNP法によるイネ種子リポキシゲナーゼ3欠失イネの選抜方法:
イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子のゲノムDNAで認められた第3128番目の塩基(イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子で認められた第1497番目に相当する塩基)における変異は一塩基置換であったため、一塩基多型を検出に使用されているドットブロットSNP法(Shirasawaら Theor. Appl. Genet.113:147−155)によって、上記のナンセンス変異が検出できるか否かについて試験した。
【0106】
被検イネとしては、イネ品種日本晴個体(イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子をホモで保有)にイネ品種Daw Dam個体(イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有)を交配して得たF1個体を自殖して得られた106個のF2個体と、コントロールとして、これらの親株であるイネ品種日本晴個体及びイネ品種Daw Dam個体を用いた。
【0107】
まず、CAPS法で行ったのと同様に、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子(配列番号3)の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーであるrsLOX3−Frag−F(5’−gccaagagcaccgtgtacacg−3’;配列番号5)と、第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーであるrsLOX3−Frag−R(5’−ggaagacggtcatctcgaag−3’;配列番号6)とからなるプライマーセットで、変異が認められた第3128番目の塩基を含むDNA断片を、被検イネのゲノムDNAを鋳型にPCRで増幅した。
【0108】
PCRは、94℃で1分間加熱した後に、94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを35サイクル行い、引き続き、72℃で1分のサイクルを1サイクル行い、その後、4℃まで急冷することにより終了させた。
【0109】
その際、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子とイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子の双方を保有するヘテロ個体のコントロールとして、イネ品種日本晴とイネ品種Daw DamのゲノムDNAの混合物を鋳型として同様にPCRを行った。
【0110】
その後、Shirasawaら(Theor. Appl. Genet.、2006年、113巻、p.147−155)の方法に従って、PCRで増幅された各DNA断片をナイロン膜にドットブロットし、検出プローブと競合プローブを混合した混合プローブを用いてハイブリダイゼーションを行った。
【0111】
その際、混合プローブは2種類用意し、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子を検出するためには、配列表の配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3128番目の塩基(グアニン)を含む連続した塩基配列からなるWT−rsLOX3−probe(5’−GAGGCCTGGGTGTGGCA−3’;配列番号7)の5’末端をジゴキシゲニン標識したもの(検出プローブ)と、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3125番目の塩基(アデニン)を含む連続した塩基配列からなる非標識のMut−rsLOX3−probe(5’−GAGGCCTGAGTGTGGCA−3’;配列番号8)(競合プローブ)とを、1:5の濃度比で混合した混合プローブを用いた。
【0112】
一方、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子を検出するためには、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3125番目の塩基(アデニン)を含む連続した塩基配列からなるMut−rsLOX3−probe(5’−GAGGCCTGAGTGTGGCA−3’;配列番号8)の5’末端をジゴキシゲニン標識したもの(検出プローブ)と、配列表の配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3128番目の塩基(グアニン)を含む連続した塩基配列からなる非標識のWT−rsLOX3−probe(5’−GAGGCCTGGGTGTGGCA−3’;配列番号7)(競合プローブ)とを、1:5の濃度比で混合した混合プローブを用いた。
【0113】
ハイブリダイゼーションは42℃で行い、非特異的な検出プローブのナイロン膜への吸着は、42℃の0.1×SSC/0.1%SDSに浸漬し、振盪する操作を数回繰り返すことによって取り除いた。ハイブリダイゼーション後のナイロン膜は、0.5%のブロッキング試薬(ロッシュ社)を含むDIGバッファー1(100mM Tris−HCl、pH7.6、150mM NaCl)に90分間浸漬し、そこに、抗DIGアルカリフォスファターゼ標識抗体(ロッシュ社)を2μL/10mLの割合で加え、30分間振盪しながら反応させた。
【0114】
その後、ナイロン膜を取り出し、DIGバッファー1に浸漬し、15分間振盪する操作を2回繰り返すことにより未反応の抗DIGアルカリフォスファターゼ標識抗体を取り除き、DIGバッファー3(100mM Tris−HCl、pH9.5、100mM NaCl、50mM MgCl)に5分間浸漬し、約5mLの基質溶液(0.33mg/mL ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)、0.16mg/mL 5−ブロモ-4-クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)、100mM Tris−HCl、pH9.5、0.1M Nacl、5mM MgCl)を膜上に滴下して5分間反応させた。
【0115】
その後、ナイロン膜の水分をキムタオルで拭き取り、アルカリフォスファターゼの酵素反応によって得られる発色を検出した。
【0116】
図7は、ドットブロットSNP法による解析結果を示した図である。ナイロン膜は、14(縦の列:A〜N)×8(横の行:1〜8)のマスに仕切られ、各マスには、個体ごとのDNA断片を2スポットずつ、デュプリケートでブロットした。また、A8とN3のマスにはイネ品種日本晴個体由来のDNA断片(イネ品種日本晴型ホモ・コントロール)を、A6とN1にはイネ品種Daw Dam個体由来のDNA断片(イネ品種Daw Dam型ホモ・コントロール)を、A7とN2のマスにはイネ品種日本晴とイネ品種Daw DamのゲノムDNAの混合物を鋳型にPCRを行って得たDNA断片(ヘテロ・コントロール)をブロットした。
【0117】
図7(A)は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子を検出するために、WT−rsLOX3−probe(5’−GAGGCCTGGGTGTGGCA−3’;配列番号7)の5’末端をジゴキシゲニン標識したもの(検出プローブ)と、非標識のMut−rsLOX3−probe(5’−GAGGCCTGAGTGTGGCA−3’;配列番号8)(競合プローブ)とを、1:5の濃度比で混合した混合プローブを用いて、ドットブロットSNP法で解析した結果である。
【0118】
図7(B)は、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子を検出するために、Mut−rsLOX3−probe(5’−GAGGCCTGAGTGTGGCA−3’;配列番号8)の5’末端をジゴキシゲニン標識したもの(検出プローブ)と、非標識のWT−rsLOX3−probe(5’−GAGGCCTGGGTGTGGCA−3’;配列番号7)(競合プローブ)とを、1:5の濃度比で混合した混合プローブを用いて、ドットブロットSNP法で解析した結果である。
【0119】
その結果、WT−rsLOX3−probeの5’末端をジゴキシゲニン標識したものを検出プローブとして用いた場合には、106個のF2個体のうち77個体でシグナルが検出され、Mut−rsLOX3−probeの5’末端をジゴキシゲニン標識したものを検出プローブとして用いた場合には、106個のF2個体のうち88個体でシグナルが検出された。
【0120】
図7(C)は、各F2個体のイネ種子リポキシゲナーゼ3の表現型を示したものである。図中の+は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子をホモで保有している個体(イネ品種日本晴型ホモ個体)、−は、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有している個体(イネ品種Daw Dam型ホモ個体)、±は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子とイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子とを共に保有している個体(ヘテロ個体)であることを示している。
【0121】
図7(A)でシグナルが検出され、図7(B)でシグナルが検出されなかたマスの個体はイネ品種日本晴型ホモ個体であり、A8とN3にブロットしたイネ品種日本晴個体(イネ品種日本晴型ホモ・コントロール)以外に18個体認められた。
【0122】
図7(A)でシグナルが検出されず、図7(B)でシグナルが検出されたマスの個体はイネ品種Daw Dam型ホモ個体であり、A6とN1にブロットしたイネ品種Daw Dam個体(イネ品種Daw Dam型ホモ・コントロール)以外に29個体認められた。
【0123】
図7(A)と図7(B)の双方でシグナルが検出されたマスの個体はヘテロであり、A7とN2にブロットしたヘテロ・コントロール以外に59個体認められた。
【0124】
そこで、106個のF2個体について、抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体を用いたウェスタンブロッッティングによって、イネ種子中におけるイネ種子リポキシゲナーゼ3の発現の有無を調べた。
【0125】
その結果、イネ種子リポキシゲナーゼ3は、ドットブロットSNP法でイネ品種日本晴型ホモ個体及びヘテロ個体であると判定された個体の種子では確認されたが、イネ品種Daw Dam型ホモ個体であると判定された個体の種子では確認されなかった。
【0126】
以上の結果より、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、からなるプライマーセットで、被検イネのゲノムDNAを鋳型にDNA断片を増幅し、増幅されたDNA断片をナイロン膜に固定し、配列表の配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3128番目の塩基(グアニン)を含む連続した塩基配列からなる標識オリゴヌクレオチドと、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3125番目の塩基(アデニン)を含む連続した塩基配列からなる非標識オリゴヌクレオチドと、を混合した混合プローブを、ナイロン膜に固定されたDNA断片にハイブリダイズさせ、ナイロン膜に固定されたDNA断片にハイブリダイズした標識オリゴヌクレオチドからのシグナルを検出し、標識オリゴヌクレオチドからのシグナルが検出されない場合に、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定することにより、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有する個体を選別できることが明らかとなった。すなわち、ドットブロットSNP法によって、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有する個体を選別できることが明らかとなった。
【0127】
(実施例5)イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの育種
イネ種子リポキシゲナーゼ3を欠失していることが明らかとなっている中間母本「北陸PL2」にイネ品種コシヒカリを、5回反復して戻し交配し、B4F2個体を得た。
【0128】
20個のB4F2個体の葉からゲノムDNAを抽出し、実施例3に記載した制限酵素MvaIを用いたCAPS法によって、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネ個体を選抜した。
【0129】
図8は、制限酵素MvaIを用いたCAPS法の手順に従って、各B4F2個体のゲノムを鋳型にPCRを行い、制限酵素MvaIで切断後に電気泳動して検出されたバンドパターンである。図中の+は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子をホモで保有している個体(イネ品種日本晴型ホモ個体)、−は、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有している個体(イネ品種Daw Dam型ホモ個体)、±は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子とイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子とを共に保有している個体(ヘテロ個体)であることを示している。
【0130】
その結果、9個のB4F2個体(9141、9143、9148〜9150、9157〜9160)は、イネ品種日本晴型ホモ個体、2個のB4F2個体(9151、9144)は、イネ品種Daw Dam型ホモ個体、9個のB4F2個体(9142、9145〜9147、9152〜9156)は、これらのヘテロ個体であると判定された。
【0131】
そこで、20個のB4F2個体を生育させ、そこから種子を採取し、抗イネ種子リポキシゲナーゼ3抗体を用いたウェスタンブロッッティングによって、イネ種子中におけるイネ種子リポキシゲナーゼ3の発現の有無を調べた。
【0132】
その結果、イネ種子リポキシゲナーゼ3は、イネ品種日本晴型ホモ個体及びヘテロ個体であると判定された個体の種子では確認されたが、イネ品種Daw Dam型ホモ個体であると判定された個体の種子では確認されなかった。
【0133】
以上の結果より、実施例3に記載した制限酵素MvaIを用いたCAPS法又実施例4に記載したドットブロットSNP法等によって、配列表の配列番号3に示されるイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの第3128番目の塩基(配列表の配列番号2に記載の塩基配列からなるイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の第1497番目の塩基)がアデニンに変異しているイネを選抜することにより、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネを当代検定で選抜でき、育種できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】イネOs03g0700400のアミノ酸配列における、MADFLGYSIK、RFPLQLVK、及びDLLPAAGDYIの位置を示したものである。
【図2】ダイレクトシークエンスを行ったイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの5つの領域の位置を示したものである。
【図3】イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの塩基配列を示したものである。
【図4】イネ品種Daw Damのイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAの塩基配列を示したものである。
【図5】イネ品種Daw Damのイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子のゲノムDNAで認められた、ナンセンス変異の位置を示したものである。
【図6】制限酵素MvaIを用いたCAPS法の手順に従って、被検イネのゲノムを鋳型にPCRを行い、制限酵素MvaIで切断後に電気泳動して検出されたバンドパターンである。
【図7】ドットブロットSNP法による解析結果を示した図である。(A)は、イネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子を検出するために、WT−rsLOX3−probeの5’末端をジゴキシゲニン標識したものを検出プローブに、非標識のMut−rsLOX3−probeを競合プローブに用いて、ドットブロットSNP法で解析した結果である。(B)は、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子を検出するために、Mut−rsLOX3−probeの5’末端をジゴキシゲニン標識したものを検出プローブに、非標識のWT−rsLOX3−probeを競合プローブに用いて、ドットブロットSNP法で解析した結果である。(C)は、各F2個体のイネ種子リポキシゲナーゼ3の表現型を示したものである。
【図8】制限酵素MvaIを用いたCAPS法の手順に従って、各B4F2個体のゲノムを鋳型にPCRを行い、制限酵素MvaIで切断後に電気泳動して検出されたバンドパターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1記載の塩基配列からなる、イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子。
【請求項2】
イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの選抜方法であって、
配列表の配列番号2記載の塩基配列からなるイネ種子リポキシゲナーゼ3遺伝子の5’側から第1497番目の塩基がアデニンに変異しているイネを、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定する、選抜方法。
【請求項3】
被検イネからゲノムDNAを抽出する抽出ステップと、
配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、からなるプライマーセットで、前記ゲノムDNAを鋳型にDNA断片を増幅する増幅ステップと、
前記増幅ステップで増幅されたDNA断片中に制限酵素MvaIの認識配列がない場合に、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定する判定ステップと、
を備える、請求項2記載の選抜方法。
【請求項4】
被検イネからゲノムDNAを抽出する抽出ステップと、
配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より5’側の塩基配列と相同な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、配列表の配列番号3に示される塩基配列の第3128番目の塩基より3’側の塩基配列と相補的な塩基配列の一部配列からなるプライマーと、からなるプライマーセットで、前記ゲノムDNAを鋳型にDNA断片を増幅する増幅ステップと、
前記増幅ステップで増幅されたDNA断片を膜に固定する固定ステップと、
配列表の配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3128番目の塩基を含む連続した塩基配列からなる標識オリゴヌクレオチドと、配列表の配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて第3125番目の塩基を含む連続した塩基配列からなる非標識オリゴヌクレオチドと、を混合した混合プローブを、前記膜に固定された前記DNA断片にハイブリダイズさせるハイブリダイゼーションステップと、
前記DNA断片にハイブリダイズした前記標識オリゴヌクレオチドからのシグナルを検出する検出ステップと、
前記検出ステップで前記標識オリゴヌクレオチドからのシグナルが検出されない場合に、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネであると判定する判定ステップと、
を備える、請求項2記載の選抜方法。
【請求項5】
イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネの育種方法であって、
イネ種子中のリポキシゲナーゼ3を欠失させたいイネ品種又は系統のイネ個体と、請求項1記載のイネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子を保有するイネ個体とを交配して雑種第一代を得る交配ステップと、
前記雑種第一代に前記イネ品種又は系統のイネ個体を戻し交配して得た後代個体の中から、前記イネ種子リポキシゲナーゼ3変異型遺伝子をホモで保有する個体を選抜する選抜ステップと、
を備える、育種方法。
【請求項6】
請求項5記載の育種方法により選抜された、イネ種子中のリポキシゲナーゼ3が欠失しているイネ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−27938(P2009−27938A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192499(P2007−192499)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】