説明

イブプロフェン、シクロデキストリンと第3の作用物質の錯体、および薬学におけるその利用方法

本発明は、短縮されたTmaxおよび増大したCmaxといったように単独のイブプロフェンに比べ改善された薬物動態特性を呈するイブプロフェン/シクロデキストリン/リジン錯体の形でイブプロフェンを含有する医薬組成物に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イブプロフェン、シクロデキストリンと第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)の錯体に関するものであり、該錯体は、著しく増大した溶解度を呈し、加圧された高密度流体技術、特にCO技術によって得られるものである。
【0002】
本発明は同様に、薬学の分野におけるこれらの錯体の利用方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0003】
特に薬学の分野において関心対象となっている数多くの活性物質は、水中ひいては生体液体中において、非常に低い溶解度を呈するか、または不溶性である。このことは、これらの活性物質の生物学的利用能が低いことそして定められた治療上の目標を達成するために患者に投与される用量が大幅に増大すること、したがって医療的処置に関連する副作用が増大することを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
抗炎症性の活性成分という特定のケースにおいては、薬理作用が可能なかぎり急速であること、そして前記活性成分への曝露もまた可能なかぎり大きいことが同様に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、イブプロフェン/シクロデキストリン/第3の作用物質の錯体の形でイブプロフェンを含有する医薬組成物に関するものである。
【0006】
本発明の枠内では、第3の作用物質はアルギニンまたはリジンである。
【0007】
有利には、加圧された高密度流体および少なくとも一つの拡散剤の存在下でのイブプロフェン/シクロデキストリン/アルギニンまたはイブプロフェン/シクロデキストリン/リジン混合物の拡散工程を含む錯化方法によって前記錯体を得ることができる。
【0008】
本発明は同様に、加圧された高密度流体および少なくとも一つの拡散剤の存在下でのイブプロフェン/シクロデキストリン/アルギニンまたはイブプロフェン/シクロデキストリン/リジン混合物の拡散工程を含む錯化方法によって得ることができる、イブプロフェン/シクロデキストリン/アルギニンまたはイブプロフェン/シクロデキストリン/リジン錯体の形でイブプロフェンを含有する医薬組成物にも関するものであり、ラットに経口投与した後、イブプロフェンの吸収は、同じ動物に対し、同じ用量
で単独で投与されるイブプロフェンを含有する薬学形態を用いて得られるCmaxおよび/またはAUCに比べ、
−Cmaxが10〜20倍高く、
−および/またはAUCが7〜10倍大きく
なるようなものであることを特徴とする、医薬組成物である。
【0009】
有利な仕方では、イブプロフェンの吸収は、Tmaxが、同じ動物に対し、同じ用量で単独で投与されるイブプロフェンを含有する薬学形態を用いて得られるTmaxより1.5倍〜2.5倍低くなるようなものである。
【0010】
「シクロデキストリン」というのは、本発明においては、シクロデキストリン、修飾シクロデキストリンおよびそれらの混合物を意味する。有利な仕方では、これはβ−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンである。有利には、これはβ−シクロデキストリンである。
【0011】
「加圧された高密度流体」というのは、本発明において、その臨界値より高い温度または圧力で利用されるあらゆる流体を意味する。有利には、これは純粋なCOまたは、当業者によって従来利用されている有機溶媒と混合したCOである。
【0012】
「拡散剤」というのは、本発明において、イブプロフェンおよびシクロデキストリンの相互作用を促進するあらゆる溶媒を意味する。
【0013】
有利には、この拡散剤は、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、界面活性剤を伴うまたは伴わない水、およびそれらの混合物から成る群から選択される。さらに有利な仕方では、水である。
【0014】
本発明を特徴づけるために利用される、ラットにおけるイブプロフェンの吸収および代謝に関するパラメータは以下の通りである:
−Cmaxは、経時的なイブプロフェンの最大の血漿濃度に対応する。これはng/ml単位で表わされる。
−時間単位で表わされるTmaxは、Cmaxを達成するのに必要な時間である。
−AUCは、T0(イブプロフェンの経口投与時点)からT8(投与8時間後)までの「時間に応じた血漿濃度」曲線下面積である。これは、ng・h/ml単位で表わされる。
【0015】
本発明に従った組成物は、活性成分のはるかに強力で急速な吸収、ひいては先行技術の組成物と比べたイブプロフェンに対する曝露の著しい改善を可能にする。
【0016】
イブプロフェンは、対応する時間よりも短時間の内に、より高い最大の血漿濃度で、より急速にかつより広く吸収される。
【0017】
有利には本発明は、加圧された高密度流体および少なくとも一つの拡散剤の存在下でのイブプロフェン/シクロデキストリン/アルギニンまたはイブプロフェン/シクロデキストリン/リジン混合物の拡散工程を含む錯化方法によって得ることができる、イブプロフェン/シクロデキストリン/アルギニンまたはイブプロフェン/シクロデキストリン/リジン錯体の形でイブプロフェンを含有する医薬組成物に関するものであり、ラットに経口投与した後、イブプロフェンの吸収は、同じ動物に対し、同じ用量で単独で投与されるイブプロフェンを含有する薬学形態を用いて得られるCmaxおよび/またはAUCに比べ、
−Cmaxが12.5〜18倍高く、
−および/またはAUCが7.5〜9倍大きく
なるようなものであることを特徴とする医薬組成物に関するものである。
【0018】
より好ましくは、イブプロフェンの吸収は、Tmaxが、同じ動物に対し、同じ用量で単独で投与されるイブプロフェンを含有する薬学形態を用いて得られるTmaxの1/2になるようなものである。
【0019】
活性物質/シクロデキストリン/第3の作用物質のモル比は、シクロデキストリンへの活性物質の最適な包含を可能にするような仕方で選択することが可能である。
【0020】
有利には、本発明に従ったイブプロフェン/シクロデキストリン/第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)の錯体は、1モルのイブプロフェンに対して、シクロデキストリンが0.1モル〜3モルの間、好ましくは0.5モル〜2モルの間に含まれ;アルギニンまたはリジンが0.1モル〜3モルの間、好ましくは0.5モル〜2モルの間に含まれるようなものである。かくして、本発明に従った医薬組成物は、好ましくは、イブプロフェン/シクロデキストリンのモル比が1/0.1〜1/3の間に含まれ、イブプロフェン/リジンのモル比が1/0.1〜1/3の間に含まれることを特徴とする。同じ要領で、本発明に従った医薬組成物は、好ましくは、イブプロフェン/シクロデキストリンのモル比が1/0.1〜1/3の間に含まれ、イブプロフェン/アルギニンのモル比が1/0.1〜1/3の間に含まれることを特徴とする。
【0021】
好ましくは、本発明に従った錯体は、イブプロフェン、シクロデキストリンと第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)のそれぞれ1/1/1というモル比により特徴づけられる。
【0022】
本発明に従ったイブプロフェン、シクロデキストリンと第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)の錯体は、以下で記述するような方法により得ることができる。
【0023】
本発明に従った錯体の調製方法は、以下の連続的工程を含む:
a)イブプロフェンをシクロデキストリンと第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)とに接触させる工程;
b)一つまたは複数の拡散剤の存在下で工程(a)で得た混合物と加圧された高密度流体とを静的モードで接触させることによって分子の拡散工程を実施する工程、
c)かくして形成されたイブプロフェン−シクロデキストリン−第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)の錯体を回収する工程。
【0024】
熟成工程と呼ばれる静止モードでの分子の拡散工程(b)は、基本的に、イブプロフェンをシクロデキストリンの中に包接することを可能にする、加圧下、特に超臨界圧力下の高密度媒質内での分子の拡散段階からなる。この拡散段階の間に追求される目標は、イブプロフェン、シクロデキストリンと第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)の間で包接錯体を形成することにある。
【0025】
かくして形成された錯体は、イブプロフェン、シクロデキストリンと第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)を非共有結合的に会合させる。
【0026】
相互作用の作用物質として役立つ第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)は、シクロデキストリン内に包接されたイブプロフェンとの強い相互作用および/または形成された錯体との強い相互作用という二つのもっともらしい仮説にしたがって相互に作用する。
【0027】
第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)の存在は、主に生体液体、特に水中での錯体の溶解特性を改善し、かつシクロデキストリン中のイブプロフェンの包接レベルを増大させることを可能にする。
【0028】
特に形成された系の溶解および生物学的利用能に関するものである、物理化学的特性の改善は、以下のことに起因する可能性がある:
−イブプロフェン、シクロデキストリンまたはその二つと第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)との非共有結合性相互作用(錯体形成、塩形成など)
−溶解媒質のpHの局所的変動
−共晶を呈する系の獲得
−系とその溶解媒質の間の界面の修飾(界面活性効果、粒度分布の変化)。
【0029】
「静的モード」というのは、本発明においては、すべての試薬を同時に存在させて反応を展開させる方法または反応を意味する。例えば、本発明の工程(b)では、オートクレーブ内にイブプロフェン、水、第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)そして超臨界COを入れ、数時間反応させる。生成物の質量は反応中には変化しない。逆に、動的モードでは、試薬は、反応または生成の変化にしたがって添加する。多くの場合、動的モードでは、流体の循環がある。生成物の質量は生成中に変化する。
【0030】
有利な仕方では、本発明に従った方法の分子の拡散工程(b)は撹拌下で実施される。
【0031】
本発明の特定の実施形態においては、工程(a)に際して、イブプロフェン、第3の作用物質(アルギニンまたはリジン)およびシクロデキストリンは、一つの容器の中に固体または液体の形で導入され、該容器内には、適切に選択された割合で加圧された高密度流体および拡散剤が注入されている。圧力および温度条件ならびに処置の持続時間は、適切なあらゆる方法によって決定される。
【0032】
拡散剤は、混合物の合計質量に対して1〜50質量%の間、有利には、混合物の合計質量に対して20〜25質量%の間に含まれる量で、連続的に、または非連続的に添加され得る。
【0033】
工程(b)の分子拡散に必要な時間は、適切なあらゆる方法によって決定される。この工程(b)は、充分な溶解速度を得るために望まれる回数だけくり返すことができる。有利には、工程(b)は約1〜16時間、有利には2時間持続する。
【0034】
工程(b)の圧力および温度条件は、分子拡散を促進するような形で選択される。有利には、超臨界流体の圧力は、5MPa〜40MPaの間に含まれ、有利には15MPaであり、また温度は0〜120℃の間に含まれ、有利には100℃である。
【0035】
有利には、本発明に従った方法の工程(b)は、閉鎖型反応容器、特にオートクレーブの中で実施される。
【0036】
方法は、バッチ式または連続式で実施可能である。有利には、本発明に従った方法は、バッチ式で実施される。
【0037】
拡散剤の存在下で加圧された高密度の媒質中において分子の拡散工程を実施することによって、イブプロフェン粒子とシクロデキストリンとの強い相互作用が可能となり、これにより水性媒質中での溶解が容易になる。
【0038】
本発明に従った錯体の薬物動態特性は、ラットにおいて明らかにされた。これらの特性により出願人は、鎮痛または抗炎症を目的とするヒト用薬剤の調製の枠内でのそれらの運用を想定することが可能となる。
【0039】
かくして、本発明に従った錯体内に含有されるイブプロフェンの薬物動態特性および生物学的利用能特性は、ヒトにおいて明らかにされた。得られた結果は、以下の実施例5で説明されている。
【0040】
この臨床研究から、種間変動に起因して、薬学動態パラメータCmaxおよびTmaxに影響を及ぼす比率は、ラットで観察されるものとは異なるものではあるが、単独で摂取したイブプロフェンに比べ、本発明に従った錯体の治療的有効性が特に増大しているということを同等に示すものである。
【0041】
かくして、ヒトにおいては、200mgという経口投与されるイブプロフェンの量に対し、単独のイブプロフェンTmaxは、本発明に従った錯体のイブプロフェンで観察されるTmaxよりも50%大きい。Cmaxに関しては、つねに用量が200mgである本発明に従った錯体であり、このパラメータは、単独のイブプロフェンについて観察されるCmaxの136%に相当すると思われる。
【0042】
最後に、きわめて興味深いことに、単独イブプロフェンに比べて2分の1の用量(200mgではなく100mg)の本発明に従った錯体の形をしたイブプロフェンに対し、Tmaxはつねに同じだけ短縮され、Cmaxに関しては、20%未満しか削減されないということを指摘することができる。
【0043】
このことにより、同一の鎮痛および/または抗炎症性効果、さらには大幅に改善された効果を得、および/または副作用を制限しながら、イブプロフェンを単独で含有する市販の従来の組成物に比べて少ないイブプロフェン用量の本発明に従った錯体を利用することを想定することを可能にする。
【0044】
したがって、本発明は、イブプロフェン一度の摂取用量が50mg〜400mgの間に含まれる、抗炎症性効果をもつ薬剤を調製するための本発明に従った組成物の利用にも関するものである。
【0045】
本発明の目的の一つは、イブプロフェンの一度の摂取用量が50mg〜400mgの間に含まれることを特徴とする、経口経路で用いる抗炎症性の前記医薬組成物にある。
【0046】
好ましくは、抗炎症性効果をもつ薬剤の調製のためには、一度の経口摂取量が約100mg〜約300mgの間に含まれ、さらに一層好ましくは約200mgである、本発明に従った錯体の形をしたイブプロフェンが用いられる。
【0047】
本発明の重要な点は、本発明に従った組成物で得られるイブプロフェンの血漿プロファイル(Cmax、AUC、Tmax)が投与すべき用量に及ぼす直接的影響である。
【0048】
同じイブプロフェン用量でのより高い活性成分吸収およびそのより大きい曝露を考慮すると、本発明に従った組成物は、先行技術の組成物よりも大きい治療効果を有する。
【0049】
かくして、鎮痛効果のために従来用いられる用量、つまり一度に50〜400mg、好ましくは約200mgの摂取用量で、本発明に従った組成物を投与することにより、本発明の枠内で、抗炎症性活性(先行技術の組成物では、多くの場合、一度の摂取用量は600mg必要である)を得ることが可能となる。
【0050】
同様にして、同一の治療効果を得るために、本発明に従った組成物では、先行技術の組成物の場合よりも少ないイブプロフェン用量が用いられる。
【0051】
最後に、出願人は、本発明に従った組成物の経口投与後のラットにおけるイブプロフェンの最大血漿濃度が、この同じ動物に同じ用量で単独で投与されるイブプロフェンを含む薬学形態で得られる血漿濃度に比べて、
−一方では、より高いこと(10〜20倍)、
−そして他方では、これらの最大濃度が、投与後より短い時間で達成されることを示した。
【0052】
合理的に考えて、この動物においては、約15分でCmaxに達することができる。
【0053】
これらの特徴は、イブプロフェンの急速かつ強力な吸収を例示している。同等の用量で投与された生成物のこの「フラッシュ」効果は、ほぼ即座に痛みを軽減するために、経口摂取の後に、非常に急速に、鎮痛または抗炎症性効果を得たい場合のヒトの療法において特に有利である。
【0054】
イブプロフェンの錯化率の評価
基質内の活性物質の錯化率は、示差熱分析(DTA)によって評価される。
【0055】
DTAの枠内では、テスト対象の生成物に対し、窒素フラックスで一定の温度勾配が適用される。
【0056】
錯化の効率は、結晶性形状で「遊離状態にとどまっている」活性成分の融解に関する熱ピークの低下(または消滅)を測定することによって評価されるものである。
【0057】
イブプロフェンの可溶化試験
作業プロトコル:
溶解溶液中のイブプロフェンの量はHPLCにより実施される:
利用される機器:
WATERS社のHPLCシステム:
−分離モジュール2695、
−UV検出器2487
クロマトグラフィ条件:
カラム:NUCLEOSIL C18 150×4.6mm
移動相:
チャンネルA:アセトニトリル
チャンネルB:0.5mLのリン酸、340mLのアセトニトリル、1000mL(充分量)の水。
【0058】
溶離勾配
【表1】

【0059】
流量:2ml/分
検出器波長:214nm
検出器感度:2AUFS
注入量:20μl
炉の温度:30℃
分析時間:30分
対照溶液の調製:
・SM:100mlのフラスコに対照イブプロフェン200mgを導入する。50mlのアセトニトリルで溶解し、容積一杯まで水で補完する。
・範囲:
T1:SMをアセトニトリル50/水50中で1/40に希釈。
T2:T3をアセトニトリル50/水50中で1/20に希釈。
T3:SMをアセトニトリル50/水50中で1/10希釈。
T4:SMをアセトニトリル50/水50中で3/20希釈。
T5:SMをアセトニトリル50/水50中で1/5に希釈。
【0060】
2g/Lでの分解動力学の作業条件:
pH3.0のリン酸緩衝溶液の調製(Ph.Eur.4000500):
100mLの水R中に0.7mLのリン酸Rを希釈させる。同じ溶媒で900mLまで補完し、濃縮された水酸化ナトリウム溶液RでpH3.0に調整し、その後、水Rで1000mLまで補完する。
【0061】
試験の実施:
作業条件
100mlの三角フラスコ内に、イブプロフェンの100mgに相当する試験的投与量を導入する。pH3.0の緩衝液50mlを添加する。37℃+/−2℃の恒温槽の中で1分あたり400回転で磁気撹拌下に付す。15分、30分、60分、120分の時点で、磁気撹拌下で2mlのサンプル採取を実施する。Gelman GHP Acrodiscの0.45μmのポリプロピレンフィルタでサンプルをろ過する。溶液は清澄でなくてはならない。
【0062】
方法論、結果の表示:
・各々の対照溶液を20μlずつを注入する。
濃度との関係においてイブプロフェンのピークの表面積の直線回帰を実施する。相関係数は0.995超でなくてはならない。
・検査対照の溶液を20μl注入する。
各々の検査対照の溶液中のイブプロフェンピークの区域を測定する。
そこから対照の回帰直線にしたがってμg/ml単位の濃度Xを演繹する。
【0063】
実施例の中で示されているイブプロフェンの可溶化率は、可溶化されたイブプロフェンの濃度を出発溶液の合計のイブプロフェン濃度で除することで計算される15、30、60および120分間にわたる可溶化率の平均である。
【0064】
参考として示されている以下の実施例は、イブプロフェン、β−シクロデキストリン、拡散剤としての水を用いて実施された。
【実施例】
【0065】
実施例1:イブプロフェン、β−シクロデキストリン錯体
反応装置の中に、2グラムのイブプロフェン、12.6グラムのβ−シクロデキストリン、ならびに1.7グラムの拡散剤(水)を導入する。その後、二酸化炭素を15MPaの圧力下そして60℃の温度下で導入する。全体を2時間、これらの作業条件で保持する。
【0066】
得られた錯体について、可溶化率ならびに錯化率を測定する。
【0067】
イブプロフェンの可溶化率は90%に近い。
【0068】
錯化率はDTAにより96.6%と評価される。
【0069】
実施例2:イブプロフェン、β−シクロデキストリン、アルギニン錯体
反応装置の中に、2グラムのイブプロフェン、12.6グラムのβ−シクロデキストリンおよび1.7グラムのアルギニン、ならびに2.1グラムの拡散剤(水)を導入する。その後、二酸化炭素を15MPaの圧力下そして60℃の温度下で反応装置の中に導入する。全体を2時間、これらの作業条件で保持する。
【0070】
得られた錯体について、錯化率および可溶化率を測定する。
【0071】
イブプロフェンの可溶化率は100%である。
【0072】
錯化率はDTAにより100%と評価される。
【0073】
実施例3:イブプロフェン、β−シクロデキストリン、L−リジン錯体
反応装置の中に、2グラムのイブプロフェン、12.6グラムのβ−シクロデキストリンおよび1.4グラムのリジン、ならびに2.1グラムの拡散剤(水)を導入する。その後、二酸化炭素を15MPaの圧力下そして60℃の温度下で反応装置の中に導入する。全体を2時間、これらの作業条件で保持する。
【0074】
得られた錯体について、錯化率および可溶化率を測定する。
【0075】
イブプロフェンの可溶化率は100%である。
【0076】
錯化率はDTAにより100%と推定される。
【0077】
実施例4:薬物動態学的評価
異なるイブプロフェン錯体の単回経口投与についての、ラットにおける比較薬物動態学の探求調査を実施した。
【0078】
研究概要:
・投与された用量=20mg/kgのイブプロフェン(IBU)
・1グループにつきn=3匹の動物から成る6グループ
【0079】
投与される異なる組成物は、以下の通りである:
−IBU単独
−IBU+アルギニン(モル比1/1)
−IBU+リジン(モル比1/1)
−IBU+アルギニン+β−シクロデキストリン(実施例2に準ずる)
−IBU+リジン+β−シクロデキストリン(実施例3に準ずる)
−IBU+β−シクロデキストリン(実施例1に準ずる)。
【0080】
これらの組成物の調製のために用いられる担体は、精製水である。
・採血時間:採血は、T0(投与時)そして投与から0.25−0.5−1−2−4−6−8および24時間後に行なわれる。
・イブプロフェン血漿濃度の測定:血漿試料を、HPLC−MS−MSによる分析に先立ち、アセトニトリル中に沈殿させる。
利用される機器:「選択反応検出(英語で「Selected Reaction Monitoring」)」を伴うTSQ quantum
−検出モード:マイナスイオンモード
−キャピラリー温度:325℃
−キャピラリー電圧:4.0kV
161.2m/zフラグメントに向かう205.2m/zの分子イオンの遷移を追跡する。
クロマトグラフィ条件:
カラム:Synergi Fusion−RP80、2×50mm、4ミクロン
移動相:
チャンネルA:水中の13.3mMのギ酸アンモニウム/6.7mMのギ酸
チャンネルB:水/アセトニトリル(1/9、v/v)中の6mMのギ酸アンモニウム/3mMのギ酸。
【0081】
溶離勾配:
【表2】

【0082】
・曲線プロット/血漿プロファイルの獲得=投与後の時間に応じた血漿濃度
・薬物動態パラメータの計算:
以下のパラメータは、当業者にとって公知のソフトウェアKINETICA(登録商標)を利用して得られる:
−ng/ml単位で表わされるCmaxは、観察された最大イブプロフェン血漿濃度に対応する。
−時間数で表わされるTmaxは、Cmaxに達するための投与後の時間である。
−ng・h/ml単位で表わされるAUCまたはAUCT8は、投与後8時間までの曲線下面積に対応する。24時間という最後の採取時点で得られる濃度は、定量化限界よりも低い。
【0083】
得られた結果:
得られた結果は、下表に示されている:
【表3】

【0084】
結論:
単独イブプロフェンと比較して、イブプロフェン/シクロデキストリン/アルギニンまたはイブプロフェン/シクロデキストリン/リジン錯体の存在下でイブプロフェン血漿曝露の最大の増加が見られる。
【0085】
実際、シクロデキストリン/アルギニンまたはシクロデキストリン/リジン錯体で達成されたイブプロフェン最大濃度Cmaxは、試験されたその他の形態で得られたものよりも高い。
【0086】
最後に、対応するTmaxは同様により小さいものであり、このことは、本発明に従った組成物でのイブプロフェンのより急速な吸収を実証している。
【0087】
イブプロフェン/シクロデキストリン/アルギニン錯体の場合、ラットにおける経口投与でのイブプロフェンの吸収は、同じ動物試料に対し、同じ用量で、単独で投与されるイブプロフェンを含有する薬学形態を用いて得られるTmax、Cmax、AUCに比べて:
−Tmaxが1/2であり、
−Cmaxが13倍高く、
−AUCが7.7倍大きい。
【0088】
イブプロフェン/シクロデキストリン/リジン錯体の場合、ラットにおける経口投与でのイブプロフェンの吸収は、同じ動物試料に対し、同じ用量で、単独で投与されるイブプロフェンを含有する薬学形態で得られるTmax、Cmax、AUCに比べて:
−Tmaxが1/2であり、
−Cmaxが18.4倍高く、
−AUCが8.8倍大きい。
【0089】
従ってアルギニンまたはリジンと共にそして好ましくはリジンと共にシクロデキストリンを添加すること(超臨界流体技術により調製された錯体)によって、ラットにおける経口投与での腸内吸収が著しく改善される。
【0090】
実施例5:臨床研究
次の3つのイブプロフェン形態を24名の健康なボランティアにおいて単回経口投与後の薬物動態パラメータおよび生物学的利用能を評価するために、臨床研究が行なわれた:
−100mgのイブプロフェンを含有するイブプロフェン/シクロデキストリン/リジンの本発明に従った錯体(実施例3に準ずる)、
−200mgのイブプロフェンを含有するイブプロフェン/シクロデキストリン/リジンの本発明に従った錯体(実施例3に準ずる)、
−イブプロフェン単独200mg。
【0091】
方法論:
対象を無作為に3つのグループに分け、テスト対象の特製薬品(イブプロフェン/シクロデキストリン/リジン錯体(200mgのイブプロフェン);イブプロフェン/シクロデキストリン/リジン錯体(100mgのイブプロフェン);イブプロフェン200mgの一つを単回経口投与した。
【0092】
イブプロフェン血漿濃度の決定のための採血を、T0および投与後15分、20分、25分、30分、45分、1時間、1時間15分、1時間30分、1時間45分、2時間、3時間、4時間、6時間、10時間、14時間および24時間の時点で実施した。
【0093】
投与/採取/用量のこの手順を、週に1回の割合で7週間にわたり7回反復した。
【0094】
結果は、7回の試験の平均を表わし、下表の中で提示されている:
【0095】
【表4】

【0096】
同一の数量の活性成分、つまり200mgのイブプロフェンでは、本発明に従った錯体の利用が、活性成分の単独のCmaxの136%に相当するCmaxを得ることを可能にすることが確認でき、一方Tmaxについては、同じ用量でのパラメータの33%の短縮が確認される。
【0097】
100mgのイブプロフェンを含有する本発明に従った錯体に関しては、単独で投与されたイブプロフェンの2倍用量に比べて、Tmaxはつねに33%減少することが確認できる。Cmaxについては、本発明に従った錯体の場合にCmaxがなおも錯化されていない2倍用量のCmaxの値の82%に相当する点に留意すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェン/シクロデキストリン/リジン錯体の形でイブプロフェンを含有する医薬組成物であり、加圧された高密度流体および少なくとも一つの拡散剤の存在下でのイブプロフェン/シクロデキストリン/リジン混合物の拡散工程を含む錯化方法によって前記錯体を得ることができる、医薬組成物。
【請求項2】
加圧された高密度流体が二酸化炭素であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
拡散剤が、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、界面活性剤を伴うまたは伴わない水、およびそれらの混合物から成る群から選択され、有利には水であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
イブプロフェン/シクロデキストリンのモル比が1/0.1〜1/3の間に含まれ、イブプロフェン/リジンのモル比が1/0.1〜1/3の間に含まれていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項5】
イブプロフェン/シクロデキストリンのモル比が1/1に等しく、イブプロフェン/リジンのモル比が1/1に等しいことを特徴とする、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
ラットに経口投与した後、イブプロフェンの吸収は、同じ動物に対し、同じ用量で単独で投与されるイブプロフェンを含有する薬学形態を用いて得られるCmaxおよび/またはAUCに比べ、
−Cmaxが10〜20倍高く、
−および/またはAUCが7〜10倍大きく
なるようなものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項7】
イブプロフェンの吸収は、Tmaxが、同じ動物に対し、同じ用量で単独で投与されるイブプロフェンを含有する薬学形態を用いて得られるTmaxの1.5倍〜2.5倍低いことを特徴とする、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
イブプロフェンの量が50mg〜400mgの間に含まれることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の経口経路で用いる抗炎症性の医薬組成物。
【請求項9】
イブプロフェンの一度の摂取用量が50mg〜400mgの間に含まれることを特徴とする、抗炎症性効果をもつ薬剤の調製を目的とした、請求項1〜8のいずれか一つに記載の医薬組成物の利用方法。
【請求項10】
イブプロフェンの一度の摂取用量が200mgに等しいことを特徴とする、請求項10に記載の利用方法。
【請求項11】
イブプロフェン/シクロデキストリン/アルギニン錯体の形でイブプロフェンを含有する医薬組成物であり、加圧された高密度流体および少なくとも一つの拡散剤の存在下でのイブプロフェン/シクロデキストリン/アルギニン混合物の拡散工程を含む錯化方法によって前記錯体を得ることができる、医薬組成物。
【請求項12】
加圧された高密度流体が二酸化炭素であることを特徴とする、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
拡散剤が、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、界面活性剤を伴うまたは伴わない水、およびそれらの混合物から成る群から選択され、有利には水であることを特徴とする、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
イブプロフェン/シクロデキストリンのモル比が1/0.1〜1/3の間に含まれ、イブプロフェン/アルギニンのモル比が1/0.1〜1/3の間に含まれていることを特徴とする、請求項11〜13のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項15】
イブプロフェン/シクロデキストリンのモル比が1/1に等しく、イブプロフェン/アルギニンのモル比が1/1に等しいことを特徴とする、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
ラットに経口投与した後、イブプロフェンの吸収は、同じ動物に対し、同じ用量で単独で投与されるイブプロフェンを含有する薬学形態を用いて得られるCmaxおよび/またはAUCに比べ、
−Cmaxが10〜20倍高く、
−および/またはAUCが7〜10倍大きく
なるようなものであることを特徴とする、請求項11〜15のいずれか一つに記載の医薬組成物。
【請求項17】
イブプロフェンの吸収は、Tmaxが、同じ動物に対し、同じ用量で単独で投与されるイブプロフェンを含有する薬学形態を用いて得られるTmaxの1.5倍〜2.5倍低いことを特徴とする、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
イブプロフェンの量が50mg〜400mgの間に含まれることを特徴とする、請求項11〜17のいずれか一つに記載の経口経路で用いる抗炎症性の医薬組成物。
【請求項19】
イブプロフェンの一度の摂取用量が50mg〜400mgの間に含まれることを特徴とする、抗炎症性効果をもつ薬剤の調製を目的とした、請求項11〜17のいずれか一つに記載の医薬組成物の利用方法。
【請求項20】
イブプロフェンの一度の摂取用量が200mgに等しいことを特徴とする、請求項19に記載の利用方法。

【公表番号】特表2010−522730(P2010−522730A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500319(P2010−500319)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000416
【国際公開番号】WO2008/135674
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(504249145)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE MEDICAMENT
【Fターム(参考)】