説明

イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤の膨張抑制方法

【課題】
イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤の高温保存条件下における膨張抑制手段を提供すること。
【解決手段】
イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤と膨張抑制剤を密閉系で保存することを特徴とする固形製剤の膨張抑制方法、並びに、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤並びに膨張抑制剤が密閉系に含まれてなることを特徴とする固形製剤の膨張が抑制された包装体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温保存条件下におけるイブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤の膨張抑制方法、固形製剤の膨張が抑制された包装体、及び膨張抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イブプロフェン(ibuprofen)は、慢性関節リウマチ、関節痛及び関節炎、神経痛及び神経炎、脊腰痛等の疾患、症状の消炎、鎮痛に有効なほか、風邪症侯群、急性気管支炎、慢性気管支炎の急性増悪期の消炎、解熱などにも有効な非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)として広く使用されている薬物である。しかしながら、イブプロフェンには胃腸障害などの副作用があることや、鎮痛効果が比較的弱いことから、種々の薬物との配合製剤が検討されてきている。
【0003】
例えば、イブプロフェンとブセチンなどのアニリン誘導体系解熱鎮痛剤とを配合した解熱鎮痛剤(特許文献1参照)、イブプロフェンとカフェインとを配合した製剤(特許文献2参照)、イブプロフェンとコデインとを配合した鎮痛組成物(特許文献3及び4参照)、イブプロフェンとアセトアミノフェンとを配合した解熱鎮痛剤(特許文献5及び6参照)、イブプロフェンとアセトアミノフェンとアリルイソプロピルアセチル尿素またはブロムワレリル尿素を配合する解熱鎮痛剤(特許文献7参照)、イブプロフェンと塩化リゾチームとを配合した感冒薬(特許文献8参照)、イブプロフェンとトラネキサム酸とを含む解熱鎮痛剤(特許文献9参照)などが報告されている。とりわけトラネキサム酸は、抗プラスミン作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用などを有する薬物として広く使用されているものであり、イブプロフェンとトラネキサム酸とを組み合わせた配合が多数開発されてきている。例えば、イブプロフェンとトラネキサム酸にさらにカフェインを配合した解熱鎮痛剤(特許文献10参照)、アスコルビン酸を配合した解熱鎮痛組成物(特許文献11参照)、アセトアミノフェンなどの非ピリン系解熱鎮痛薬と組み合わせた医薬製剤(特許文献12参照)、プソイドエフェドリン及び/又はフェニレフリンを配合した鼻炎用医薬組成物(特許文献13参照)、フェニルプロパノールアミンやプソイドエフェドリンなどのα受容体刺激剤及びフラボノイドとをさらに配合してなる感冒用医薬組成物(特許文献14参照)、クレマスチン及び/又はブロムヘキシンを配合した医薬組成物(特許文献15参照)などが報告されている。
【特許文献1】特公昭64−8602号公報
【特許文献2】特公平1−24131号公報
【特許文献3】特開平3−7218号公報
【特許文献4】特開平5−194227号公報
【特許文献5】特開平5−148139号公報
【特許文献6】特開平11−158066号公報
【特許文献7】特開平5−246845号公報
【特許文献8】特開平7−188004号公報
【特許文献9】特開平9−48728号公報
【特許文献10】特許第3667381号公報
【特許文献11】特開2006−1920号公報
【特許文献12】特開2005−187328号公報
【特許文献13】特開2005−232128号公報
【特許文献14】特開2005−194269号公報
【特許文献15】特開2006−124380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、イブプロフェンとトラネキサム酸を含む固形製剤の研究開発を鋭意行ってきた。そしてこれらの保存性と安定性について検討してきたところ、これらの固形製剤は1〜25℃で保存すれば長期間に亘り安定に保存することが十分可能であるが、高温保存条件下では膨張が生起して、製剤にひび割れなどが発生することを独自に見出した。
【0005】
そして、本発明者らは、イブプロフェンとトラネキサム酸を含む固形製剤における高温保存条件下での膨張の問題を解決するために、この原因(膨張メカニズム)を探求してきた。イブプロフェンとトラネキサム酸を含む固形製剤は、高温保存条件下で膨張するが、このような膨張は、成分の分解などによるものではなく、吸湿によるものでもなく、従来の知識から想定されるいかなる膨張メカニズムにも当てはめて理解することができず、その原因(膨張メカニズム)を充分に解明することは非常に困難であり、今なお解明されていない。
【0006】
本発明者らは、膨張現象の再現条件として、高温保存条件下での膨張は、イブプロフェンとトラネキサム酸を同時に配合したときだけに起こり、それぞれを単一成分としたときには起こらないことを既に見いだしている。そのため、例えば、両方の成分を別々にした多層錠や有核錠にしてイブプロフェンとトラネキサム酸の接触を少なくするという解決手段も一応は考えられる。しかし、多層錠や有核錠は製造が煩雑になり、それによるコスト増加、生産効率の低下が生じるだけでなく、各層の界面における膨張の問題が残るために必ずしも好ましい解決手段ということはできなかった。
【0007】
一方、本発明者らは、メカニズムの解明から離れた直接的な解決手段として、糖衣やフィルムコーティング等の被覆により製剤の膨張を押え込むことを試みた。しかし、固形製剤の膨張の程度が大きく、糖衣やフィルムコーティング等の被覆だけで防止することは困難であった。
【0008】
また、従来から行われているように、イブプロフェンとトラネキサム酸を含む固形製剤を1〜25℃で保存することにより膨張を十分抑制するという手段もあり得るが、流通上や保管上や、さらに使用上の不便は大きい。
【0009】
したがって、本発明は、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を、1〜25℃で保存することなく、高温条件下で保存した場合であっても、固形製剤の膨張を抑制する方法を提供することを課題とする。
【0010】
さらに、本発明は、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を含む包装体であって、1〜25℃で保存することなく、高温条件下で保存した場合であっても、固形製剤の膨張が抑制された包装体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含む固形製剤を密閉系で保存し、且つその密閉系に後述する膨張抑制剤を封入すると、高温保存条件下においても膨張する問題が生じることなく、固形製剤が安定して保存されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、次の[1]〜[2]にある。
[1] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤と膨張抑制剤を密閉系で保存することを特徴とする固形製剤の膨張抑制方法(method)。
[2] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤並びに膨張抑制剤が含まれてなることを特徴とする、固形製剤の膨張が抑制された包装体。
【0013】
また、本発明は、次の[3]から[6]にもある。
[3] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤とともに密閉系に封入して保存するための膨張抑制剤。
[4] 膨張抑制剤が、シリカゲル、シリカアルミナゲル(アロフェン)、天然ゼオライト、合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)、塩化カルシウム、生石灰(酸化カルシウム)、ベントナイトクレイ(モンモリロナイト)からなる群より選択された1種又は2種以上である、[1]に記載の方法。
[5] 膨張抑制剤が、シリカゲル、シリカアルミナゲル(アロフェン)、天然ゼオライト、合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)、塩化カルシウム、生石灰(酸化カルシウム)、ベントナイトクレイ(モンモリロナイト)からなる群より選択された1種又は2種以上である、[2]に記載の包装体。
[6] 膨張抑制剤が、シリカゲル、シリカアルミナゲル(アロフェン)、天然ゼオライト、合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)、塩化カルシウム、生石灰(酸化カルシウム)、ベントナイトクレイ(モンモリロナイト)からなる群より選択された1種又は2種以上である、[3]に記載の膨張抑制剤。
【0014】
また、本発明は、次の[7]にもある。
[7] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤の膨張抑制のための、
シリカゲル、シリカアルミナゲル(アロフェン)、天然ゼオライト、合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)、塩化カルシウム、生石灰(酸化カルシウム)、ベントナイトクレイ(モンモリロナイト)からなる群より選択された1種又は2種以上の物質の使用(use)。
【0015】
本発明において、上記物質のなかでも、好ましくはシリカゲル及び/又は合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)を使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温保存条件下においてもイブプロフェン及びトラネキサム酸を含む固形製剤の膨張が抑制され、もし輸送及び保管時に高温保存条件下を経てしまったとしても、膨張が生起することがなく、製剤にひび割れなどが生じることもない。従って、固形製剤の製品としての価値は、様々な流通や保管の条件下でも維持され、さらに使用上も便利なものとなっている。
【0017】
さらに、本発明によれば、高温条件下における固形製剤の膨張を抑制するために、固形製剤の成分に変更を加える必要がなく、単に膨張抑制剤を追加して封入するだけでよいために、膨張抑制手段として極めて簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、該固形製剤と膨張抑制剤とを密閉系で保存することによる固形製剤の膨張を抑制する方法、およびイブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤並びに膨張抑制剤を含まれてなることを特徴とする、固形製剤の膨張が抑制された包装体に関する。
【0019】
本発明にかかる固形製剤に含まれるイブプロフェンは、イブプロフェンのみならず、イブプロフェンの製薬上許容される塩をも使用することができ、これらは市販のものを使用することができる。本発明にかかる固形製剤中に含まれるイブプロフェンの割合は、固形製剤全体に対してイブプロフェンとして1〜70質量%が好ましく、5〜60質量%が更に好ましく、7〜50質量%が特に好ましい。
【0020】
本発明にかかる固形製剤に含まれるトラネキサム酸は、トラネキサム酸のみならず、トラネキサム酸の製薬上許容される塩をも使用することができ、これらは市販のものを使用することができる。本発明にかかる固形製剤中に含まれるトラネキサム酸の割合は、固形製剤全体に対してトラネキサム酸として1〜70質量%が好ましく、5〜60質量%が更に好ましく、7〜50質量%が特に好ましい。
【0021】
本発明にかかる固形製剤におけるイブプロフェンとトラネキサム酸の配合比は、イブプロフェン1質量部に対してトラネキサム酸0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜2.5質量部が更に好ましい。なお、本発明にかかる固形製剤の投与量は、経口投与の場合、1日投与量として、イブプロフェンとして1日あたり300〜600mgが好ましく、トラネキサム酸として1日あたり400〜750mgが好ましい。
【0022】
本発明における膨張抑制剤は、密閉系でイブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤とともに封入して保存した際に、当該固形製剤の膨張を抑制可能なものである。膨張抑制剤としては、例えば、シリカゲル、シリカアルミナゲル(アロフェン)、天然ゼオライト、合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)、塩化カルシウム、生石灰(酸化カルシウム)、ベントナイトクレイ(モンモリロナイト)から選択された1種又は2種以上を挙げることができる。好ましい膨張抑制剤として、シリカゲル、シリカアルミナゲル(アロフェン)、合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)から選択された1種又は2種以上を挙げることができる。また、更に好ましい膨張抑制剤として、シリカゲル、合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)から選択された1種又は2種以上を挙げることができる。特に好ましい膨張抑制剤として、合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)を挙げることができる。また、膨張抑制剤は通常固形製剤1質量部に対して0.001〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部用いればよい。
【0023】
本発明にかかる固形製剤は、イブプロフェンとトラネキサム酸以外の薬物、例えば、解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、ノスカピン類、気管支拡張剤、去痰剤、催眠鎮静剤、ビタミン類、抗炎症剤、胃粘膜保護剤、生薬類、漢方処方、カフェイン類等からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでいても良い。
【0024】
解熱鎮痛剤としては、例えば、アスピリン、アスピリンアルミニウム、アセトアミノフェン、エテンザミド、サザピリン、サリチルアミド、ラクチルフェネチジン、サリチル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0025】
抗ヒスタミン剤としては、例えば、アゼラスチン塩酸塩、イソチペンジル塩酸塩、クレマスチンフマル酸塩、ケトチフェンフマル酸塩、ジフェニルピラリン塩酸塩、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジフェテロール塩酸塩、トリプロリジン塩酸塩、トリペレナミン塩酸塩、トンジルアミン塩酸塩、フェネタジン塩酸塩、メトジラジン塩酸塩、ジフェンヒドラミンサリチル酸塩、ジフェニルジスルホン酸カルビノキサミン、アリメマジン酒石酸塩、タンニン酸ジフェンヒドラミン、テオクル酸ジフェニルピラリン、ナパジシル酸メブヒドロリン、プロメタジンメチレン二サリチル酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩、 dl−クロルフェニラミンマレイン酸塩、d−クロルフェニラミンマレイン酸塩、メキタジン、ジフェテロールリン酸塩等が挙げられる。
【0026】
鎮咳剤としては、例えば、アロクラミド塩酸塩、クロペラスチン塩酸塩、クエン酸カルベタペンタン、クエン酸チペピジン、ジブナートナトリウム、デキストロメトルファン臭化水素酸塩、デキストロメトルファン・フェノールフタリン塩、チペピジンヒベンズ酸塩、フェンジゾ酸クロペラスチン、コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩等が挙げられる。
【0027】
ノスカピン類としては、例えば、ノスカピン塩酸塩、ノスカピン等が挙げられる。
【0028】
気管支拡張剤としては、例えば、dl−メチルエフェドリン塩酸塩や、 dl−メチルエフェドリンサッカリン塩等が挙げられる。
【0029】
去痰剤としては、例えば、グアヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン、ブロムヘキシン塩酸塩、アンブロキソール塩酸塩、カルボシステイン等が挙げられる。
催眠鎮静剤としては、ブロムワレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素等が挙げられる。
【0030】
ビタミン類としては、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンC、ヘスペリジン及びその誘導体並びにそれらの塩類等が挙げられる。
【0031】
抗炎症剤としては、塩化リゾチーム、セラプターゼ、グリチルリチン酸及びその類縁物質等が挙げられる。
【0032】
胃粘膜保護剤としては、アミノ酢酸、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウム・アミノ酢酸塩(アルミニウムグリシネート)、水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウムの共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸カルシウム・炭酸マグネシウムの共沈生成物、水酸化マグネシウム・硫酸アルミニウムカリウムの共沈生成物、炭酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる.
【0033】
生薬類としては、オキソアミヂン、マオウ、ナンテンジツ、オウヒ、オンジ、カンゾウ、キキョウ、シャゼンシ、シャゼンソウ、石蒜、セネガ、バイモ、ウイキョウ、オウバク、オウレン、ガジュツ、カミツレ、ケイヒ、ゲンチアナ、ゴオウ、獣胆(ユウタンを含む)、シャジン、ショウキョウ、ソウジュツ、チョウジ、チンピ、ビャクジュツ、地竜、チクセツニンジン、ニンジン等が挙げられる。
【0034】
漢方処方としては、葛根湯、桂枝湯、香蘇散、柴胡桂枝湯、小柴胡湯、小青竜湯、麦門冬湯、半夏厚朴湯、麻黄湯等が挙げられる。
【0035】
カフェイン類としては、例えば、無水カフェインや、カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン等が挙げられる。
【0036】
本発明にかかる固形製剤は、製剤添加物として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等をさらに含んでいても良い。
【0037】
賦形剤としては、乳糖、デンプン類、結晶セルロース、蔗糖、マンニトール等が挙げられる。結合剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、プルラン等が挙げられる。崩壊剤としては、カルメロース、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム等が挙げられる。滑沢剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が挙げられる。
【0038】
本発明にかかる固形製剤の剤形としては例えば、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、散剤等が挙げられ、特に錠剤が好ましい。固形製剤は糖衣やフィルムコーティング等により被覆されていても良い。
【0039】
本発明にかかる固形製剤は常法に従って製造することができる。例えば剤形が錠剤である場合、イブプロフェン、トラネキサム酸、及び各種薬物や通常用いられる各種製剤添加物を用いて日本薬局方製剤総則等の常法に基づき、混合または造粒し、得られた混合物または造粒物と、所望により滑沢剤を混合した後に打錠することで、本発明にかかる固形製剤を製造することができる。また、イブプロフェン、トラネキサム酸及び各種薬物や通常用いられる各種製剤添加物を用いて日本薬局方製剤総則等の常法に基づき、イブプロフェンとトラネキサム酸を分けて造粒し、これら造粒物と、所望により滑沢剤を混合した後に打錠することで、本発明にかかる固形製剤を製造することができる。
【0040】
本発明によれば、密閉系に膨張抑制剤とともに封入した形態で、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を保存することにより、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤の膨張を抑制することができる。密閉系で固形製剤を保存するためには、密閉可能な容器(包装)を用いればよい。本発明において、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤並びに膨張抑制剤が密閉系に含まれてなる包装体とは、固形製剤及び膨張抑制剤が密閉可能な容器(包装)に封入されて密閉されてなるものを意味する。本発明で使用される容器(包装)としては、固形製剤の包装(容器)として使用して密閉可能なものであれば特に制限はなく、例えば、瓶、缶、箱、袋等の形態のものを挙げることができ、例えば、ガラス、樹脂、金属等を材料としたものを挙げることができ、これらの材料を複合構造や多層構造としたものも好適に使用可能である。本発明の包装体としては、例えば、固形製剤及び膨張抑制剤を収納したガラス瓶、あるいはPTP包装した固形製剤と膨張抑制剤を適当なシートを用いてピロー包装やスティック包装したもの等を挙げることができる。
【0041】
本発明において密閉された包装(容器)の内部には、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤並びに膨張抑制剤が含まれているが、本発明による膨張抑制作用を妨げないものであれば、公知の保存剤をさらに封入することもできる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[製造例]
イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤の製造
イブプロフェン900g(米沢浜理製:商品名 日本薬局方イブプロフェン)、トラネキサム酸1499.4g(第一三共プロファーマ製:商品名 日本薬局方トラネキサム酸)、ヒドロキシプロピルセルロース106.2g、結晶セルロース1897.2g、クロスカルメロースナトリウム360gを高速攪拌造粒機(深江工業製:FS−10型)に投入して混合後、精製水466gを添加して練合した。この造粒物を流動層乾燥機(フロイント産業製:FLO−5型)に投入して乾燥後、整粒機(岡田精工製:ND−10型)を用いて整粒した。この整粒物4762.8g及びステアリン酸マグネシウム97.2gを混合機(コトブキ製:PM50型)に投入して混合した後、直径8.5mmの杵を取り付けた打錠機(畑鉄工所製:HT−AP18SS型)を用いて打錠し、1錠の質量が270mgの錠剤18000錠を得た。
[製剤例1](膨張抑制剤として合成ゼオライトを封入した実施例)
製造例で得た錠剤20錠及び合成ゼオライト1g(新越化成工業製:商品名 MS三方)をガラス瓶(10K規格瓶)に入れ保存した。
[製剤例2](膨張抑制剤としてシリカゲルを封入した実施例)
製造例で得た錠剤20錠及びシリカゲル(新越化成工業製:商品名 シリカゲル三方)1gをガラス瓶(10K規格瓶)に入れ保存した。
[製剤例3](比較例)
製造例で得た錠剤20錠をガラス瓶(10K規格瓶)に入れ保存した。
【0043】
[試験例1]
膨張の評価
製剤例1〜3のガラス瓶を、50℃の恒温容器に、12日間保存した。デジタルマイクロメーターで測定した製造直後の錠剤の厚みと保存後の錠剤の厚みから、以下の式(1)で定義される膨張率(%)を算出した。
膨張率(%) = (D−D0)/D0 × 100 (1)
式中、Dは保存後の錠剤の厚みであり、D0は製造直後の錠剤の厚みである。
実施例1、並びに比較例1で得られた試験結果を次の表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有した製剤において、膨張抑制剤を配合しない製剤(製剤例3(比較例))では、50℃12日間の保存後の膨張率(%)は、10.4%と高い膨張率を認めた。その一方で、合成ゼオライトを配合した本発明にかかる製造例では、50℃12日間の保存後の製剤の膨張率(%)は、2.7%と極めて低かった。シリカゲルを配合した本発明にかかる製造例2では、50℃12日間の保存後の製剤の膨張率(%)は、4.9%と低かった。また、製剤例3(比較例)は膨張率が高いため、脆くなり、錠剤の割れや欠けが生じやすかったが、本発明にかかる固形製剤(製剤例1、2)は、上記のような苛酷な高温条件での保存後でも錠剤の割れや欠けが認められず、安定な錠剤であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有し、高温保存条件下でも膨張が生じない安定な固形製剤を提供するものである。イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する医薬は、これらの成分が有する薬効のみではなく、薬効増強や副作用低減といった付加的な効果を得られることも知られており、本発明はこのような有用な医薬を安定に提供することを可能とする。本発明による固形製剤を使用すれば、長期間の保存や高温条件下での使用が可能となり、製薬産業において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤と膨張抑制剤を密閉系で保存することを特徴とする固形製剤の膨張抑制方法。
【請求項2】
イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤並びに膨張抑制剤が密閉系に含まれてなることを特徴とする、固形製剤の膨張が抑制された包装体。
【請求項3】
イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤とともに密閉系に封入して保存するための膨張抑制剤。

【公開番号】特開2008−295731(P2008−295731A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144893(P2007−144893)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】