説明

イブプロフェン及びトラネキサム酸含有固形製剤

【課題】イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、高温保存条件下でも膨張が生起して、製剤にひび割れなどが発生しない抑制された固形製剤を提供すること。
【解決手段】イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、(A)フマル酸又は酒石酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上と(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、没食子酸又はエデト酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上を含有する固形製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温保存条件下における膨張が抑制された、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イブプロフェン(ibuprofen)は、慢性関節リウマチ、関節痛及び関節炎、神経痛及び神経炎、脊腰痛等の疾患、症状の消炎、鎮痛に有効なほか、風邪症侯群、急性気管支炎、慢性気管支炎の急性増悪期の消炎、解熱などにも有効な非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)として広く使用されている薬物である。しかしながら、イブプロフェンには胃腸障害などの副作用があることや、鎮痛効果が比較的弱いことから、種々の薬物との配合製剤が検討されてきている。
【0003】
例えば、イブプロフェンとブセチンなどのアニリン誘導体系解熱鎮痛剤とを配合した解熱鎮痛剤(特許文献1参照)、イブプロフェンとカフェインとを配合した製剤(特許文献2参照)、イブプロフェンとコデインとを配合した鎮痛組成物(特許文献3及び4参照)、イブプロフェンとアセトアミノフェンとを配合した解熱鎮痛剤(特許文献5及び6参照)、イブプロフェンとアセトアミノフェンとアリルイソプロピルアセチル尿素またはブロムワレリル尿素を配合する解熱鎮痛剤(特許文献7参照)、イブプロフェンと塩化リゾチームとを配合した感冒薬(特許文献8参照)、イブプロフェンとトラネキサム酸とを含む解熱鎮痛剤(特許文献9参照)などが報告されている。とりわけトラネキサム酸は、抗プラスミン作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用などを有する薬物として広く使用されているものであり、イブプロフェンとトラネキサム酸とを組み合わせた配合が多数開発されてきている。例えば、イブプロフェンとトラネキサム酸にさらにカフェインを配合した解熱鎮痛剤(特許文献10参照)、アスコルビン酸を配合した解熱鎮痛組成物(特許文献11参照)、アセトアミノフェンなどの非ピリン系解熱鎮痛薬と組み合わせた医薬製剤(特許文献12参照)、プソイドエフェドリン及び/又はフェニレフリンを配合した鼻炎用医薬組成物(特許文献13参照)、フェニルプロパノールアミンやプソイドエフェドリンなどのα受容体刺激剤及びフラボノイドとをさらに配合してなる感冒用医薬組成物(特許文献14参照)、クレマスチン及び/又はブロムヘキシンを配合した医薬組成物(特許文献15参照)などが報告されている。
【特許文献1】特公昭64−8602号公報
【特許文献2】特公平1−24131号公報
【特許文献3】特開平3−7218号公報
【特許文献4】特開平5−194227号公報
【特許文献5】特開平5−148139号公報
【特許文献6】特開平11−158066号公報
【特許文献7】特開平5−246845号公報
【特許文献8】特開平7−188004号公報
【特許文献9】特開平9−48728号公報
【特許文献10】特許第3667381号公報
【特許文献11】特開2006−1920号公報
【特許文献12】特開2005−187328号公報
【特許文献13】特開2005−232128号公報
【特許文献14】特開2005−194269号公報
【特許文献15】特開2006−124380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、イブプロフェンとトラネキサム酸を含む固形製剤の研究開発を鋭意行ってきた。そしてこれらの保存性と安定性について検討してきたところ、これらの固形製剤は1〜25℃で保存すれば長期間に亘り安定に保存することが十分可能であるが、高温保存条件下では膨張が生起して、製剤にひび割れなどが発生することを独自に見出した。
【0005】
そして、本発明者らは、イブプロフェンとトラネキサム酸を含む固形製剤における高温保存条件下での膨張の問題を解決するために、この原因(膨張メカニズム)を探求してきた。イブプロフェンとトラネキサム酸を含む固形製剤は、高温保存条件下で膨張するが、このような膨張は、成分の分解などによるものではなく、吸湿によるものでもなく、従来の知識から想定されるいかなる膨張メカニズムにも当てはめて理解することができず、その原因(膨張メカニズム)を充分に解明することは非常に困難であり、今なお解明されていない。
【0006】
本発明者らは、膨張現象の再現条件として、高温保存条件下での膨張は、イブプロフェンとトラネキサム酸を同時に配合したときだけに起こり、それぞれを単一成分としたときには起こらないことを既に見いだしている。そのため、例えば、両方の成分を別々にした多層錠や有核錠にしてイブプロフェンとトラネキサム酸の接触を少なくするという解決手段も一応は考えられる。しかし、多層錠や有核錠は製造が煩雑になり、それによるコスト増加、生産効率の低下が生じるだけでなく、各層の界面における膨張の問題が残るために必ずしも好ましい解決手段ということはできなかった。
【0007】
一方、本発明者らは、メカニズムの解明から離れた直接的な解決手段として、糖衣やフィルムコーティング等の被覆により製剤の膨張を押え込むことを試みた。しかし、固形製剤の膨張の程度が大きく、糖衣やフィルムコーティング等の被覆だけで防止することは困難であった。
【0008】
また、従来から行われているように、イブプロフェンとトラネキサム酸を含む固形製剤を1〜25℃で保存することにより膨張を十分抑制するという手段もあり得るが、流通上や保管上や、さらに使用上の不便は大きい。
【0009】
したがって、本発明は、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を、1〜25℃で保存することなく、高温条件下で保存した場合であっても、膨張が抑制された固形製剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、イブプロフェン及びトラネキサム酸に2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を添加して固形製剤とすると、高温保存条件下においても膨張する問題が生じない安定な固形製剤を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は次の[1]〜[2]に関する。
[1] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有する固形製剤。
[2] 2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有してなる、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤のための膨張抑制剤。
【0012】
好ましい実施の態様において、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤のための膨張抑制剤は、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有してなる、膨張抑制用キットである。好ましい実施の態様において、膨張抑制用キットに含有される2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩は、それぞれ異なった工程において別々に添加して使用可能となっている。
【0013】
また、本発明は、次の[3]〜[9]にも関する。
[3] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、膨張抑制成分として、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有する固形製剤。
[4] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を製造する方法であって、
2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を添加する工程、
を含むことを特徴とする製造方法。
[5] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を製造する方法であって、
膨張抑制成分として、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を添加する工程、
を含むことを特徴とする製造方法。
[6] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を製造するための、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩の使用(use)。
[7] 膨張抑制された、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤を製造するための、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩の使用(use)。
[8] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤の膨張を抑制するための、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩の使用(use)。
[9] 2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を添加することによって、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤の膨張を抑制する方法(method)。
【0014】
また、本発明は、次の[10]〜[12]にも関する。
[10] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、
(A)フマル酸又は酒石酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上、
(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、没食子酸又はエデト酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上、
上記成分(A)及び(B)を含有する固形製剤。
[11] 成分(A)が、フマル酸、フマル酸ステアリルナトリウム又は酒石酸ナトリウムカリウムから選ばれる1種以上の成分である[10]記載の固形製剤。
[12] 成分(B)が、クエン酸、クエン酸カルシウム、クエン酸トリエチル、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、無水クエン酸、無水クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、没食子酸プロピル、エデト酸カルシウム二ナトリウム又はエデト酸ナトリウムから選ばれる1種以上の成分である[10]又は[11]に記載の固形製剤。
【0015】
また、本発明は、次の[13]〜[14]にも関する。
[13] 2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有してなる、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤のための膨張抑制剤。
[14] 2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩として、下記の成分(A)及び(B):
(A)フマル酸又は酒石酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上、
(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、没食子酸又はエデト酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上、
を含有してなる、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤のための膨張抑制剤。
【0016】
好ましい実施の態様において、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤のための膨張抑制剤は、成分(A)及び(B)含有してなる、膨張抑制用キットである。好ましい実施の態様において、膨張抑制用キットに含有される成分(A)及び(B)は、それぞれ異なった工程において別々に添加して使用可能となっている。
【0017】
また、本発明は、次の[15]〜[16]にも関する。
[15] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する、膨張抑制された固形製剤を製造する方法であって、
次の成分(A):
(A)フマル酸又は酒石酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上、
を添加する工程、
及び、次の成分(B):
(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、没食子酸又はエデト酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上、
を添加する工程、
を含む方法。
[16] イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤の膨張を抑制する方法であって、
次の成分(A):
(A)フマル酸又は酒石酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上、
を添加する工程、
及び、次の成分(B):
(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、没食子酸又はエデト酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上、
を添加する工程、を含む方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を添加することにより、高温保存条件下においてもイブプロフェン及びトラネキサム酸を含む固形製剤の膨張が抑制され、もし輸送及び保管時に高温保存条件下を経てしまったとしても、膨張が生起することがなく、製剤にひび割れなどが生じることもない。従って、固形製剤の製品としての価値は、様々な流通や保管の条件下でも維持され、さらに使用上も便利なものとなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示される実施の形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明は、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有する固形製剤、並びに2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有してなる、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤のための膨張抑制剤に関する。
【0021】
本発明の固形製剤は、高温保存条件下での膨張が抑制されたものであり、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を添加することによって、製造することができる。
【0022】
好適な実施の態様において、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を添加する工程は、2種以上の成分のそれぞれを、別な工程において添加することによって行うことができる。
【0023】
好適な実施の態様において、本発明の固形製剤は、イブプロフェン及び/又はトラネキサム酸へ、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩のうちの1種以上の成分を添加し、混合又は造粒する工程、この混合物又は造粒物(整粒物)へ、前工程においてイブプロフェン及びトラネキサム酸を一緒に添加しなかった場合は残余成分と、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩のうちの1種以上の成分を添加し、混合して打錠する工程、を含む製造方法によって、得ることができる。
【0024】
本発明の固形製剤に含まれるイブプロフェンは、イブプロフェンのみならず、イブプロフェンの製薬上許容される塩をも使用することができ、これらは市販のものを使用することができる。本発明の固形製剤中に含まれるイブプロフェンの割合は、固形製剤全体に対してイブプロフェンとして1〜70質量%が好ましく、5〜60質量%が更に好ましく、7〜50質量%が特に好ましい。
【0025】
本発明の固形製剤に含まれるトラネキサム酸は、トラネキサム酸のみならず、トラネキサム酸の製薬上許容される塩をも使用することができ、これらは市販のものを使用することができる。本発明の固形製剤中に含まれるトラネキサム酸の割合は、固形製剤全体に対してトラネキサム酸として1〜70質量%が好ましく、5〜60質量%が更に好ましく、7〜50質量%が特に好ましい。
【0026】
本発明の固形製剤に含まれる2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩は、それぞれ、公知の方法により製造することもでき、また市販のものも使用することができる。
【0027】
本発明で使用される有機酸としては、例えば、ギ酸;酢酸;プロピオン酸;酪酸;ソルビン酸;安息香酸;フタル酸;サリチル酸;シュウ酸;マロン酸;コハク酸;グルタル酸;アジピン酸;マレイン酸;フマル酸;クエン酸;エデト酸(エチレンジアミン四酢酸);乳酸;リンゴ酸;酒石酸;アスコルビン酸;エリソルビン酸;没食子酸;グリシン、アラニン、アルギニン、シスタチオン、システイン、ランチオニン、ヒスチジン、ホモセリン、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、リシン、メチオニン、バリン、ノルバリン、オルニチン、プロリン、サルコシン、セリン、スレオニン、チロニン、チロシン等のアミノ酸等の水酸基や第三アミン構造を有することもある種々カルボン酸が挙げられる。なお、本発明で使用される有機酸には、分子内脱水縮合により酸無水物となり得る有機酸についてはその有機酸の酸無水物(例えば、無水フタル酸等)も含まれる。
【0028】
有機酸のエステルとしては、例えば、有機酸と1価又は多価のアルコールによるエステルを挙げることができる。1価のアルコールとしては、一般に1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜5個の炭素原子、さらに好ましくは1〜4個の炭素原子、さらに好ましくは1〜3個の炭素原子を有する1価のアルコールを挙げることができる。本発明において、有機酸のエステルを形成するために好適に使用される1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(プロパン−1−オール)、イソプロパノール(プロパン−2−オール)、ブチルアルコール(ブタン−1−オール)、s−ブチルアルコール(ブタン−2−オール)、イソブチルアルコール(2−メチルプロパン−1−オール)、t−ブチルアルコール(2−メチルプロパン−2−オール)、アミルアルコール(ペンタン−1−オール、ペンチルアルコール)、3−メチルブタン−1−オール(イソペンチルアルコール、イソアミルアルコール)、2−メチルブタン−1−オール、ペンタン−3−オール、ペンタン−2−オール、3−メチルブタン−2−オール、2-メチルブタン−2−オール(t−ペンチルアルコール)、2,2−ジメチルプロパン−1−オール(ネオペンチルアルコール)等を挙げることができ、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール(プロパン−1−オール)、イソプロパノール(プロパン−2−オール)、ブチルアルコール(ブタン−1−オール)、s−ブチルアルコール(ブタン−2−オール)、イソブチルアルコール(2−メチルプロパン−1−オール)、t−ブチルアルコール(2−メチルプロパン−2−オール)、3−メチルブタン−1−オール(イソペンチルアルコール、イソアミルアルコール)等を挙げることができ、特に好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール(プロパン−1−オール)、イソプロパノール(プロパン−2−オール)、3−メチルブタン−1−オール(イソペンチルアルコール、イソアミルアルコール)等を挙げることができる。多価アルコールとしては、例えば、5価又は6価のアルコールを挙げることができる。本発明において、有機酸のエステルを形成するために好適に使用される多価アルコールとしては、例えば、カテキン及びその誘導体を挙げることができ、好ましくはエピカテキン、エピガロカテキン等を挙げることができる。有機酸とアルコールによるエステルは、有機酸のモノエステルであってもよく、有機酸の有するカルボキシル基の数を上限として、2個以上のエステル結合を有する有機酸エステルとすることもでき、例えば、有機酸のジエステル、有機酸のトリエステル等とすることができる。好ましい有機酸のモノエステルとして、上記アルコールとの有機酸のモノエステルをあげることができる。特に好ましい有機酸のモノエステルとして、例えば、有機酸のモノメチルエステル、有機酸のモノエチルエステル等を挙げることができる。好ましい有機酸のジエステルとして、上記アルコールとの有機酸のジエステルを挙げることができる。特に好ましい有機酸のジエステルとして、例えば、有機酸のジメチルエステル、有機酸のジエチルエステル、有機酸のエチルメチルエステル等を挙げることができる。2個以上のエステル結合を有する有機酸エステルにおいて、各エステル結合を形成するアルコールは、同一のアルコールであってもよく、異なったアルコールであってもよい。好ましい実施の一態様において、2個以上のエステル結合を有する有機酸エステルは、各エステル結合が、同一のアルコールによって形成されてなるものである。
【0029】
有機酸の塩、具体的には製薬上許容される塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅等の遷移金属塩等の無機塩(有機酸の無機塩)が挙げられる。エステルとしては、アルコールから誘導されるものやフェノールから誘導されるものが挙げられる。
【0030】
本発明においては、好ましい有機酸として、例えば、酢酸、酪酸、ソルビン酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸)、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、没食子酸、アミノ酸を挙げることができ、特に、フマル酸、クエン酸、エデト酸、リンゴ酸、酒石酸、没食子酸が好ましい。
【0031】
有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩としては、例えば、酢酸、酢酸カルシウム、酢酸セルロース、酢酸トコフェロール、酪酸エチル、酪酸リボフラビン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸ベンジル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、ブチルフタリルブチルグリコレート、無水フタル酸、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸フェニル、マロン酸、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム六水和物、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、フマル酸ステアリルナトリウム、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、クエン酸、クエン酸カルシウム、クエン酸トリエチル、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、無水クエン酸、無水クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム(エデト酸カルシウム二ナトリウムともいう)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(エデト酸ナトリウムともいう)、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム二水塩(エデト酸四ナトリウムともいう)、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水塩(エデト酸四ナトリウム四水塩ともいう)、乳酸、乳酸カルシウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸マグネシウム、リンゴ酸カルシウム、リンゴ酸バリウム、リンゴ酸ジメチルエステル、リンゴ酸ジエチルエステル、酒石酸、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、酒石酸モノメチルエステル、酒石酸ジエチルエステル、アスコルビン酸、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸、没食子酸ナトリウム、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソアミル、エピカテキンガレート(没食子酸エピカテキン)、エピガロカテキンガレート(没食子酸エピガロカテキン)、アミノ酸およびアミノ酸の塩が好ましい。
【0032】
本発明において、有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩としては、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、フマル酸ステアリルナトリウムなどのフマル酸、そのエステル又はそれらの塩、クエン酸、クエン酸カルシウム、クエン酸トリエチル、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、無水クエン酸、無水クエン酸ナトリウムなどのクエン酸、そのエステル又はそれらの塩、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム(エデト酸カルシウム二ナトリウム)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(エデト酸ナトリウム)などのエデト酸、そのエステル又はそれらの塩、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウムなどのリンゴ酸、そのエステル又はそれらの塩、酒石酸、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウムなどの酒石酸、そのエステル又はそれらの塩、没食子酸、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソアミルなどの没食子酸、そのエステル又はそれらの塩が好ましく、特に、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、フマル酸ステアリルナトリウム、クエン酸、クエン酸カルシウム、クエン酸トリエチル、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、無水クエン酸、無水クエン酸ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、没食子酸プロピルが好ましい。
【0033】
本発明の固形製剤中に含まれる有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩の割合は、固形製剤全体に対して有機酸として0.01〜30質量%が好ましく、0.1〜20質量%が更に好ましい。また、有機酸がフマル酸の場合、その割合は、固形製剤全体に対してフマル酸として0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%が更に好ましく、1〜3質量%が特に好ましい。有機酸がクエン酸の場合、その割合は、固形製剤全体に対してクエン酸として0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%が更に好ましく、1〜3質量%が特に好ましい。有機酸がエデト酸の場合、その割合は、固形製剤全体に対してエデト酸として0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%が更に好ましく、1〜3質量%が特に好ましい。有機酸がリンゴ酸の場合、その割合は、固形製剤全体に対してリンゴ酸として0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%が更に好ましく、1〜3質量%が特に好ましい。有機酸が酒石酸の場合、その割合は、固形製剤全体に対して酒石酸として0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%が更に好ましく、1〜3質量%が特に好ましい。有機酸が没食子酸の場合、その割合は、固形製剤全体に対して没食子酸として0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%が更に好ましく、1〜3質量%が特に好ましい。
【0034】
本発明の固形製剤は、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩が含まれるものである。好適な実施の態様において、本発明の固形製剤は、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有するものであって、
(A)フマル酸又は酒石酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上の成分であり、
(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、没食子酸又はエデト酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上の成分である、
上記成分(A)及び(B)を含有する固形製剤が好ましい。
【0035】
好適な実施の態様において、本発明の固形製剤は、
イブプロフェン及び/又はトラネキサム酸へ、上記成分(B)を添加し、混合又は造粒する工程、
この混合物又は造粒物(整粒物)へ、前工程においてイブプロフェン及びトラネキサム酸を一緒に添加しなかった場合は残余成分と、上記成分(A)を添加し、混合して打錠する工程、を含む製造方法によって、得ることができる。
【0036】
好適な実施の態様において、このような工程中における成分(A)の添加と、成分(B)の添加の組み合わせによって、優れた膨張抑制効果を達成することができる。
【0037】
中でも、上記成分(A)がフマル酸、フマル酸ステアリルナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウムから選ばれるものが好ましい。また、上記成分(B)がクエン酸、クエン酸カルシウム、クエン酸トリエチル、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、無水クエン酸、無水クエン酸ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸水素カリウム、酒石酸ナトリウム、没食子酸プロピルから選ばれるものが好ましい。
【0038】
本発明の固形製剤におけるイブプロフェンとトラネキサム酸の配合比は、イブプロフェン1質量部に対してトラネキサム酸0.1〜10質量部が好ましく、0.2〜2.5質量部が更に好ましい。なお、本発明の固形製剤の投与量は、経口投与の場合、1日投与量として、イブプロフェンとして300〜600mgが好ましく、トラネキサム酸として1日あたり400〜750mgが好ましい。
【0039】
本発明の固形製剤には、医薬成分として、イブプロフェンとトラネキサム酸以外の薬物、例えば、解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、ノスカピン類、気管支拡張剤、去痰剤、催眠鎮静剤、ビタミン類、抗炎症剤、胃粘膜保護剤、生薬類、漢方処方、カフェイン類等からなる群より選ばれる1種又は2種以上を含んでいても良い。
【0040】
解熱鎮痛剤としては、例えば、アスピリン、アスピリンアルミニウム、アセトアミノフェン、エテンザミド、サザピリン、サリチルアミド、ラクチルフェネチジン、サリチル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
抗ヒスタミン剤としては、例えば、アゼラスチン塩酸塩、イソチペンジル塩酸塩、クレマスチンフマル酸塩、ケトチフェンフマル酸塩、ジフェニルピラリン塩酸塩、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジフェテロール塩酸塩、トリプロリジン塩酸塩、トリペレナミン塩酸塩、トンジルアミン塩酸塩、フェネタジン塩酸塩、メトジラジン塩酸塩、ジフェンヒドラミンサリチル酸塩、カルビノキサミンジフェニルジスルホン酸塩、アリメマジン酒石酸塩、ジフェンヒドラミンタンニン酸塩、ジフェニルピラリンテオクル酸塩、メブヒドロリンナパジシル酸塩、プロメタジンメチレン二サリチル酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩、 dl−クロルフェニラミンマレイン酸塩、d−クロルフェニラミンマレイン酸塩、メキタジン、ジフェテロールリン酸塩等が挙げられる。
鎮咳剤としては、例えば、アロクラミド塩酸塩、クロペラスチン塩酸塩、カルベタペンタンクエン酸塩、チペピジンクエン酸塩、ジブナートナトリウム、デキストロメトルファン臭化水素酸塩、デキストロメトルファン・フェノールフタリン塩、チペピジンヒベンズ酸塩、クロペラスチンフェンジゾ酸塩、コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩等が挙げられる。
【0042】
ノスカピン類としては、例えば、ノスカピン塩酸塩、ノスカピン等が挙げられる。
【0043】
気管支拡張剤としては、例えば、dl−メチルエフェドリン塩酸塩や、 dl−メチルエフェドリンサッカリン塩等が挙げられる。
【0044】
去痰剤としては、例えば、グアヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン、ブロムヘキシン塩酸塩、アンブロキソール塩酸塩、カルボシステイン等が挙げられる。
【0045】
催眠鎮静剤としては、ブロムワレリル尿素やアリルイソプロピルアセチル尿素等が挙げられる。
【0046】
ビタミン類としては、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンC、ヘスペリジン及びその誘導体並びにそれらの塩類等が挙げられる。
【0047】
抗炎症剤としては、塩化リゾチーム、セラプターゼ、グリチルリチン酸及びその類縁物質等が挙げられる。
【0048】
胃粘膜保護剤としては、アミノ酢酸、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウム・アミノ酢酸塩(アルミニウムグリシネート)、水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウムの共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸カルシウム・炭酸マグネシウムの共沈生成物、水酸化マグネシウム・硫酸アルミニウムカリウムの共沈生成物、炭酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられる.
【0049】
生薬類としては、オキソアミヂン(ニンニク加工物)、マオウ(麻黄)、ナンテンジツ(南天実)、オウヒ(桜皮)、オンジ(遠志)、カンゾウ(甘草)、キキョウ(桔梗)、シャゼンシ(車前子)、シャゼンソウ(車前草)、セキサン(石蒜)、セネガ、バイモ(貝母)、ウイキョウ(茴香)、オウバク(黄柏)、オウレン(黄連)、ガジュツ、カミツレ、ケイヒ(桂皮)、ゲンチアナ、ゴオウ(牛黄)、獣胆(ユウタン(熊胆)を含む)、シャジン(沙参)、ショウキョウ(生姜)、ソウジュツ(蒼朮)、チョウジ(丁子)、チンピ(陳皮)、ビャクジュツ(白朮)、ジリュウ(地竜)、チクセツニンジン(竹節人参)、ニンジン(人参)等が挙げられる。
【0050】
漢方処方としては、葛根湯、桂枝湯、香蘇散、柴胡桂枝湯、小柴胡湯、小青竜湯、麦門冬湯、半夏厚朴湯、麻黄湯等が挙げられる。
【0051】
カフェイン類としては、例えば、無水カフェインや、カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン等が挙げられる。
【0052】
本発明の固形製剤は、添加物として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等をさらに含んでいても良い。
【0053】
賦形剤としては、乳糖、デンプン類、結晶セルロース、ショ糖、糖アルコール等が挙げられる。
【0054】
結合剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、プルラン等が挙げられる。
【0055】
崩壊剤としては、カルメロース、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム等が挙げられる。
滑沢剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、硬化油、タルク等が挙げられる。
【0056】
本出願人は、すでにイブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤において、高温での保存時における膨張が、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム等のステアリン酸金属塩に起因するものであることを見出している(PCT/JP2007/001080明細書参照)。従って、本発明の固形製剤においては、これらステアリン酸金属塩を実質的に含有しないものが好ましい。
【0057】
本発明の固形製剤の剤形としては例えば、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、錠剤、散剤等が挙げられ、特に錠剤が好ましい。なお、固形製剤は糖衣やフィルムコーティング等により被覆されていても良い。
【0058】
本発明の固形製剤は常法に従って製造することができる。例えば剤形が錠剤である場合、イブプロフェン、トラネキサム酸、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩及び各種薬物や通常用いられる各種添加物を用いて日本薬局方製剤総則等の常法に基づき、混合又は造粒し、得られた混合物又は造粒物と、所望により滑沢剤を混合した後に打錠することで、本発明の固形製剤を製造することができる。
【0059】
また、イブプロフェン、トラネキサム酸、一種の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩及び各種薬物や通常用いられる各種添加物を用いて日本薬局方製剤総則等の常法に基づき、混合又は造粒し、得られた混合物又は造粒物と、別の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩、所望によりさらに有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩、及び/又は滑沢剤を混合した後に打錠することで、本発明の固形製剤を製造することができる。
【0060】
また、イブプロフェン、トラネキサム酸、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩及び各種薬物や通常用いられる各種添加物を用いて日本薬局方製剤総則等の常法に基づき、イブプロフェンとトラネキサム酸を分けて各々造粒し、得られたこれら2種の造粒物と、所望によりさらに有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩、及び/又は滑沢剤を混合した後に打錠することで、本発明にかかる固形製剤を製造することができる。
なお、固形製剤中には、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩が含まれてさえすればよく、2種の造粒物いずれにも有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩が含まれていてもよい。また、分けて造粒するに際しては、有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩は同一でも異なっていてもよい。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
イブプロフェン1350g(米沢浜理製:商品名 日本薬局方イブプロフェン)、トラネキサム酸1260g(第一三共プロファーマ製:商品名 日本薬局方トラネキサム酸)、無水クエン酸106.2g(小松屋化学製:商品名 日本薬局方無水クエン酸)、クロスカルメロースナトリウム486g、D−マンニトール1560.6gを高速攪拌造粒機(深江工業製:FS−10型)に投入して混合後、精製水466gを添加して練合した。この造粒物を流動層乾燥機(フロイント産業製:FLO−5型)に投入して乾燥後、整粒機(岡田精工製:ND−10型)を用いて整粒した。この整粒物4762.8g及びフマル酸ステアリルナトリウム97.2g(JRS PHARMA社製:商品名 プルーブ)を混合機(コトブキ製:PM50型)に投入して混合した後、直径8.5mmの杵を取り付けた打錠機(畑鉄工所製:HT−AP18SS型)を用いて打錠し、1錠の質量が270mgの錠剤18000錠を得た。
【0063】
[比較例]
イブプロフェン900g(米沢浜理製:商品名 日本薬局方イブプロフェン)、トラネキサム酸1499.4g(第一三共プロファーマ製:商品名 日本薬局方トラネキサム酸)、ヒドロキシプロピルセルロース106.2g(日本曹達製:商品名 HPC−L)、クロスカルメロースナトリウム360g(ニチリン化学工業製:商品名 キッコレートND−2HS)、結晶セルロース1897.2g(旭化成ケミカルズ製:商品名 セオラスPH−101)を高速攪拌造粒機(深江工業製:FS−10型)に投入して混合後、精製水466gを添加して練合した。この造粒物を流動層乾燥機(フロイント産業製:FLO−5型)に投入して乾燥後、整粒機(岡田精工製:ND−10型)を用いて整粒した。この整粒物4762.8g及びステアリン酸マグネシウム97.2gを混合機(コトブキ製:PM50型)に投入して混合した後、直径8.5mmの杵を取り付けた打錠機(畑鉄工所製:HT−AP18SS型)を用いて打錠し、1錠の質量が270mgの錠剤18000錠を得た。
【0064】
[試験例] 膨張の評価
実施例1および比較例で得た錠剤1錠を各々ガラス瓶(2K規格)に入れ、密栓した後、40℃の恒温容器に、1ヶ月間、2ヶ月間および3ヶ月間保存した。デジタルマイクロメーターで測定した製造直後の錠剤の厚みと保存後の錠剤の厚みから、以下の式(1)で定義される膨張率(%)を算出した。
【0065】
膨張率(%) = (D−D0)/D0 × 100 (1)

式中、Dは保存後の錠剤の厚みであり、D0は製造直後の錠剤の厚みである。
結果を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から明らかなように、有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有しない錠剤(比較例)では、40℃1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間保存後の膨張率が高く、錠剤の割れや欠けが生じやすかった。比較例においては40℃3ヶ月保存後の時点で製品として明らかに不適な錠剤となっており、これ以降の保存期間にわたる保存試験は意味がないと判断して、以後の試験は行わなかった。その一方で、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩(クエン酸及びフマル酸ステアリルナトリウム)を配合した本発明の錠剤(実施例1)では、40℃1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間保存後の膨張率はそれぞれ0.5%、0.4%、0.5%、0.6%、0.5%、0.6%であり、顕著な膨張抑制効果を認めた。また、本発明の錠剤(実施例1)は、上記のような苛酷な高温条件での保存後でも錠剤の割れや欠けが認められず、極めて安定な錠剤であることがわかった。
【0068】
[実施例2]
無水クエン酸をリンゴ酸(川崎化成工業製:商品名 リンゴ酸 食添用40M)に変更した以外は、実施例1と同様にして、錠剤を得た。
【0069】
[実施例3]
無水クエン酸を没食子酸プロピル(和光純薬工業製:商品名 没食子酸プロピル)に変更した以外は、実施例1と同様にして、錠剤を得た。
【0070】
[実施例4]
無水クエン酸を酒石酸(関東化学製:商品名 L(+)−酒石酸)に変更した以外は、実施例1と同様にして、錠剤を得た。
【0071】
[実施例5]
無水クエン酸をエデト酸ナトリウム(関東化学製:商品名 EDTA2Na)にかえる以外は、実施例1と同様にして、錠剤を得た。
【0072】
[製造例1]
第十五改正日本薬局方 製剤総則の「錠剤」の項に準じて、以下の処方により、フィルムコーティング錠を製造した。
イブプロフェン 900.0g
トラネキサム酸 1500.0g
無水カフェイン 150.0g
d−クロルフェニラミンマレイン酸塩 7.0g
ジヒドロコデインリン酸塩 48.0g
dl−メチルエフェドリン塩酸塩 120.0g
グアイフェネシン 500.0g
カルメロースカルシウム 200.0g
無水クエン酸 100.0g
フマル酸ステアリルナトリウム 100.0g
軽質無水ケイ酸 130.0g
乳糖水和物 945.0g
ケイ酸カルシウム 100.0g
ヒプロメロース 200.0g
トリアセチン 20.0g
酸化チタン 20.0g
黄色5号 微量
カルナウバロウ 微量
合計 5040.0g
【0073】
[製造例2]
第十五改正日本薬局方 製剤総則の「錠剤」の項に準じて、以下の処方により、フィルムコーティング錠を製造した。
イブプロフェン 1350.0g
トラネキサム酸 1260.0g
無水カフェイン 720.0g
軽質無水ケイ酸 200.0g
無水クエン酸 150.0g
フマル酸ステアリルナトリウム 100.0g
クロスカルメロースナトリウム 500.0g
D−マンニトール 190.0g
結晶セルロース 300.0g
ヒプロメロース 300.0g
トリアセチン 30.0g
酸化チタン 30.0g
カルナウバロウ 微量
合計 5130.0g
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有し、これによって高温保存条件下でも膨張が生じない安定な固形製剤を提供するものである。イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する医薬製剤は、これらの成分が有する薬効のみではなく、薬効増強や副作用低減といった付加的な効果を得られることも知られており、本発明はこのような有用な医薬製剤を安定に提供することを可能とする。本発明で得られた固形製剤を使用すれば、長期間の保存や高温条件下での使用が可能となり、製薬産業において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、
2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有する固形製剤。
【請求項2】
イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤であって、
(A)フマル酸又は酒石酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上、
(B)クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、没食子酸又はエデト酸、若しくはそれらのエステル又はそれらの塩から選ばれる1種以上、
上記成分(A)及び(B)を含有する固形製剤。
【請求項3】
成分(A)がフマル酸、フマル酸ステアリルナトリウム又は酒石酸ナトリウムカリウムから選ばれるものである請求項2記載の固形製剤。
【請求項4】
2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を含有してなる、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤のための膨張抑制剤。
【請求項5】
2種以上の有機酸若しくはそのエステル又はそれらの塩を添加することによって、イブプロフェン及びトラネキサム酸を含有する固形製剤の膨張を抑制する方法。

【公開番号】特開2009−235020(P2009−235020A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85435(P2008−85435)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】