説明

イミドオリゴマー及びこれを加熱硬化させてなるポリイミド樹脂

【課題】熱成形が容易であり、加熱硬化後のポリイミド樹脂として優れた耐熱性を有するとともに、容易且つ安価に得ることのできるイミドオリゴマーを提供する。
【解決手段】非軸対称性芳香族ジアミン1分子又は非軸対称性酸二無水化物1分子に由来する非軸対称部位をオリゴマー鎖の中心部のみに有し、且つ架橋性末端がアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基からなり、下記一般式(1)により表されることを特徴とするイミドオリゴマー又は中心部が非対称性酸二無水物からなるオリゴマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性のイミドオリゴマー、特に熱成形性に優れ、且つ加熱硬化することで耐熱性に優れたポリイミド樹脂を得ることのできるイミドオリゴマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は耐熱性に優れており、非常に高い熱分解温度を示すことから、ロケットや人工衛星分野のカーボンファイバー強化構造材マトリックスとして用いられている(例えば、非特許文献1参照)。また、近年,Siウエハーを利用するLSIの分野では、情報の高密度化高速化に伴いSi−Cを用いた電子部品が盛んに研究されており、Si−Cを用いたLSI等では400℃を超える温度での動作が想定されているものの、耐熱性に優れているといわれる従来のポリイミド樹脂を用いたとしても対応することができない。そこで、ポリイミド樹脂に限らず、様々な耐熱性高分子フィルムの使用も検討されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
一方で、ポリイミド樹脂は高耐熱性であるが故、結晶構造が強固であり、溶解・溶融特性に欠け、成形が困難であるという問題がある。このような問題に対して、近年、熱硬化性を有するイミドオリゴマーの研究開発が進められている。すなわち、4−フェニルエチニルフタル酸無水化物等の架橋反応性官能基をイミドオリゴマーの末端に付加することで、イミドオリゴマーを成形した後に、加熱によりオリゴマー鎖間の架橋反応を進行して樹脂を硬化し、高耐熱性を有するポリイミド樹脂成形体を得ようとするものである。
【0004】
さらに、このようなイミドオリゴマーの溶解・溶融特性、あるいは得られるポリイミド樹脂の物性を改善する目的で、例えば、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水化物のような非軸対称性のビフェニル酸二無水化物を導入したイミドオリゴマーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。なお、通常のポリイミド構造は直線性が高く分子間相互作用が非常に大きいのに対して、このような非軸対称性分子を導入することによってポリイミド鎖が螺旋性を示すため、分子間相互作用が小さくなり、熱溶融性や着色性が改善されることが明らかとなっている(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
その他、ジアミンとして、例えば、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンのような軟性のジアミンと、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルのような剛性のジアミンとを、特定の割合で用いたイミドオリゴマーが、樹脂トランスファー成形(RTM)や樹脂注入(RI)技術によるポリイミド樹脂の成形に適していることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1,2において用いられているような非軸対称性の酸二無水化物あるいは芳香族ジアミンモノマーは、合成が難しく比較的高価であることから、このようにして得られた高耐熱性・易熱成形性のイミドオリゴマーを様々な分野へと応用することは、事実上困難であった。
【0007】
また、イミドオリゴマーの末端に使用する架橋性反応基についても検討されており、従来、特に4−フェニルエチニルフタル酸が、成形性、耐熱性、力学特性等のバランスに優れているとされ、最も広く用いられている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、従来のイミドオリゴマーに使用されている架橋性反応基は、架橋反応(熱硬化)に高温を要し、一方で硬化後のポリイミド樹脂は非常に強固となるため、成形の柔軟性に欠け、工程が制限されてしまうことから、様々な分野の樹脂成形品への応用に十分であるとは言えない。
【0008】
【特許文献1】特開2000−219741号
【特許文献2】米国特許6,359,107号
【特許文献3】特開2007−99969号
【非特許文献1】柿本雅明監修,「最新ポリイミド材料と応用技術」,シーエムシー出版
【非特許文献2】「SiCパワーエレクトロニクス実用化・導入普及戦略に係る調査研究」,財団法人新機能素子研究開発協会,平成17年3月
【非特許文献3】Masatoshi Hasegawaら,Macromolecules,1999,32,p382
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みて行われたものであり、その解決すべき課題は、熱成形が容易であり、加熱硬化後のポリイミド樹脂として優れた耐熱性を有するとともに、容易且つ安価に得ることのできるイミドオリゴマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが、前記従来技術の課題に鑑み鋭意検討を行った結果、2つのアミノ基が同一軸上に導入されていない非軸対称性の芳香族ジアミン、あるいは2つのジカルボン酸基が同一軸上に導入されていない非軸対称性の酸二無水化物の1分子をイミドオリゴマー鎖の中心部のみに配置し、且つ末端の架橋性反応基としてアリルナジック酸無水化物又はプロパギルアミンを使用することで、優れた溶解・溶融特性を有し、且つ低温で一次硬化可能な熱成形性に優れたイミドオリゴマーが得られることを見出し、さらにこのイミドオリゴマーを加熱硬化して得られたポリイミド樹脂が、優れた耐熱性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明にかかるイミドオリゴマーは、非軸対称性芳香族ジアミン1分子又は非軸対称性酸二無水化物1分子に由来する非軸対称部位をオリゴマー鎖の中心部のみに有し、且つ架橋性末端がアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基からなり、下記一般式(1)又は(2)により表されることを特徴とするものである。
【化1】

【化2】

(上記式(1),(2)において、Wは、直接結合、−O−、−CH−、−C−、−C(CH−、−CF−、−C−、−C(CF−、−C(=O)−、−NH−、−NH−C(=O)−、−C(=O)−NH−、−S−、−S(=O)−、又は−S(=O)−であり、Xは酸二無水化物残基、Yはジアミン残基、Zはアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基、nは各イミド繰り返し構造の平均重合度で1〜10である。)
【0012】
また、前記イミドオリゴマーにおいて、一般式(1)又は(2)におけるWが−O−、又は−CH−であることが好適である。
また、前記イミドオリゴマーにおいて、各イミド繰り返し構造の平均重合度nがそれぞれ1〜6であり、且つイミドオリゴマー全体の平均分子量が8000以下であることが好適である。
【0013】
また、前記イミドオリゴマーにおいて、酸二無水化物残基Xが、ピロメリット酸二無水化物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物、4,4’−ビフタリック酸二無水化物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルフォン酸、4,4’−オキシジフタル酸二無水化物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水化物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水化物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水化物、2,2−ビス(4−カルボン酸フェニル)プロパン酸二無水化物から選ばれる少なくとも1種以上の酸二無水化物に由来することが好適である。
【0014】
また、前記イミドオリゴマーにおいて、ジアミン残基Yが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェニル)スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン,3,3’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選ばれる少なくとも1種以上のジアミンに由来することが好適である。
【0015】
また、本発明にかかるアミック酸オリゴマーは、非軸対称性芳香族ジアミン1分子又は非軸対称性酸二無水化物1分子に由来する非軸対称部位をオリゴマー鎖の中心部のみに有し、且つ架橋性末端がアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基からなり、下記一般式(3)又は(4)により表されることを特徴とするものである。
【化3】

【化4】

(上記式(3),(4)において、Wは、直接結合、−O−、−CH−、−C−、−C(CH−、−CF−、−C−、−C(CF−、−C(=O)−、−NH−、−NH−C(=O)−、−C(=O)−NH−、−S−、−S(=O)−、又は−S(=O)−であり、Xは酸二無水化物残基、Yはジアミン残基、Zはアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基、nは各イミド繰り返し構造の平均重合度で1〜10である。)
【0016】
また、本発明にかかるポリイミド樹脂は、前記イミドオリゴマー又は前記アミック酸オリゴマーを加熱硬化させてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、2つのアミノ基が同一軸上に導入されていない非軸対称性の芳香族ジアミンの1分子、あるいは2つのジカルボン酸基が同一軸上に導入されていない非軸対称性の酸二無水化物の1分子をイミドオリゴマー鎖の中心部のみに配置し、且つ末端の架橋性反応基としてアリルナジック酸無水化物又はプロパギルアミンを使用することにより、優れた溶解・溶融特性を有し、且つ低温で一次硬化可能な熱成形性に優れたイミドオリゴマー容易且つ安価に得ることができ、また、このイミドオリゴマーを加熱硬化して得られたポリイミド樹脂は、優れた耐熱性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明にかかるイミドオリゴマーは、非軸対称性芳香族ジアミン1分子又は非軸対称性酸二無水化物1分子に由来する非軸対称部位をオリゴマー鎖の中心部のみに有し、且つ架橋性末端がアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基からなるものである。
ここで、本発明に用いられる非軸対称性ジアミンは下記一般式(5)に表され、また、本発明に用いられる非軸対称性酸二無水化物は下記一般式(6)により表される。
【化5】

【0019】
ここで、上記一般式(5)により表される化合物は、直接あるいは特定の官能基を介して結合した2つのベンゼン環上のそれぞれ3位と4’位にアミノ基が結合したものであり、それぞれのアミノ基の結合位置がWを中心とした軸対称位置をとらない、すなわち、非軸対称性の芳香族ジアミンである。
【化6】

【0020】
また、上記一般式(6)により表される化合物は、直接あるいは特定の官能基を介して結合した2つのベンゼン環上のそれぞれ2,3位と3’,4’位にカルボン酸が結合したものであり、それぞれのジカルボン酸無水化物基の結合位置がWを中心とした軸対称位置をとらない、すなわち、非軸対称性の酸二無水化物である。
【0021】
上記一般式(5),(6)中、Wは、直接結合、−O−、−CH−、−C−、−C(CH−、−CF−、−C−、−C(CF−、−C(=O)−、−NH−、−NH−C(=O)−、−C(=O)−NH−、−S−、−S(=O)−、又は−S(=O)−である。
【0022】
上記一般式(5)により表される非軸対称性芳香族ジアミンは、より具体的には、3,4’−ベンジジン(Wが直接結合)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(Wが−O−)、3,4’−ジアミノジフェニルメタン(Wが−CH−)、3,4’−ジアミノジフェニルエタン(Wが−C−)、3,4’−ジアミノジフェニルイソプロパン(Wが−C(CH−)、3,4’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン(Wが−CF−)、3,4’−ジアミノジフェニルテトラフルオロエタン(Wが−C−)、3,4’−ジアミノジフェニルヘキサフルオロイソプロパン(Wが−C(CF−)、3,4’−ジアミノベンゾフェノン(Wが−C(=O)−)、3,4’−ジアミノジフェニルアミン(Wが−NH−)、N−(4−アミノフェニル)−3−アミノ安息香酸アミド(Wが−NH−C(=O)−)、N−(3−アミノフェニル)−4−アミノ安息香酸アミド(Wが−C(=O)−NH−)、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド(Wが−S−)、3,4’−ジアミノジフェニルスルフォキシド(Wが−S(=O)−)、3,4’−ジアミノジフェニルスルフォン(Wが−S(=O)−)となる。これらのうち、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、又は3,4’−ジアミノジフェニルメタンを特に好適に用いることができる。なお、これらの非軸対称性芳香族ジアミンは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0023】
また、上記一般式(6)により表される非軸対称性酸二無水化物は、より具体的には、2,3,3’4’−ビフタル酸二無水化物(Wが直接結合)、2,3,3’4’−オキシジフタル酸二無水化物(Wが−O−)、2,3,3’4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水化物(Wが−CH−)、2,3,3’4’−ジフェニルエタンテトラカルボン酸二無水化物(Wが−C−)、2,3,3’4’−イソプロピリデンジフタル酸二無水化物(Wが−C(CH−)、2,3,3’4’−ジフルオロジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水化物(Wが−CF−)、2,3,3’4’−テトラフルオロジフェニルエタンテトラカルボン酸二無水化物(Wが−C−)、2,3,3’4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水化物(Wが−C(CF−)、2,3,3’4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物(Wが−C(=O)−)、2,3,3’4’−ジフェニルアミンテトラカルボン酸二無水化物(Wが−NH−)、3,4,2’3’−N−フェニル安息香酸アミドテトラカルボン酸二無水化物(Wが−NH−C(=O)−)、2,3,3’4’−N−フェニル安息香酸アミドテトラカルボン酸二無水化物(Wが−C(=O)−NH−)、2,3,3’4’−ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水化物(Wが−S−)、2,3,3’4’−ジフェニルスルフォキシドテトラカルボン酸二無水化物(Wが−S(=O)−)、2,3,3’4’−ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水化物(Wが−S(=O)−)となる。これらのうち、2,3,3’4’−オキシジフタル酸二無水化物、又は2,3,3’4’−ジフェニルメタンテトラカルボン酸二無水化物を特に好適に用いることができる。なお、これらの非軸対称性酸二無水化物は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0024】
すなわち、本発明にかかるイミドオリゴマーは、上記一般式(5)により表される非軸対称性芳香族ジアミン1分子のそれぞれの末端アミノ基、あるいは上記一般式(6)により表される非軸対称性酸二無水化物1分子のそれぞれのジカルボン酸無水化物基に、任意の酸二無水化物とジアミンとの重縮合により形成したイミドオリゴマー鎖がそれぞれ等量(等モル)付加した化合物であって、これにより、非軸対称性芳香族ジアミン又は非軸対称性酸二無水化物1分子に由来する非軸対称部位をオリゴマー鎖の中心部のみに有することになる。
【0025】
また、本発明にかかるイミドオリゴマーにおいては、架橋性末端を形成するための化合物として、アリルナジック酸無水化物又はプロパギルアミンが用いられる。
本発明において架橋性末端化合物として用いられるアリルナジック酸無水化物は、ナジック酸無水化物(2のカルボキシル基が置換されたノルボルネンの無水化物)にアリル基(2−プロペニル基)が置換された化合物であり、下記一般式(7)により表される化合物である。
【化7】

【0026】
また、本発明において架橋性末端化合物として用いられるプロパギルアミンは、下記一般式(8)により表される化合物である。
【化8】

【0027】
すなわち、上記一般式(7)により表されるアリルナジック酸無水化物は、その酸無水化物基が、イミドオリゴマー鎖末端の任意のアミノ基と縮合してイミド結合を形成し、架橋性反応基として付加される。また、上記一般式(8)により表されるプロパギルアミンは、そのアミノ基が、イミドオリゴマー鎖末端の任意のジカルボン酸基と縮合してイミド結合を形成し、架橋性反応基として付加される。
【0028】
通常のイミドオリゴマーは、架橋性末端化合物により末端を修飾することにより熱硬化性が付与される。架橋性末端化合物としては、従来、例えば、4−フェニルエチニルフタル酸無水化物が広く用いられているものの、これら従来の架橋性末端化合物は、架橋反応(熱硬化)に高温を要し、一方で硬化後のポリイミド樹脂は非常に強固となるため、成形の柔軟性に欠け、取り扱いにくい。これに対して、本発明のイミドオリゴマーは、架橋性末端化合物として、アリルナジック酸無水化物又はプロパギルアミンを用いることによって、従来よりも低温で一次硬化することが可能となる。このため、例えば、低温での一次硬化によりおおよその型をとり、次いで細かく成形した後に高温で二次硬化する等、目的とする製品に適した成形方法を柔軟に採用することができる。
【0029】
本発明にかかるイミドオリゴマーは、下記一般式(1)又は(2)により表される。
【化9】

【化10】

【0030】
上記一般式(1),(2)において、Xは酸二無水化物残基である。本発明のイミドオリゴマーに用いる酸二無水化物は、軸対称性であって、ジアミンと縮合反応してポリイミド構造を形成し得るものであればよく、特に限定されるものではない。本発明に用いる酸二無水化物としては、例えば、ピロメリット酸二無水化物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物、4,4’−ビフタリック酸二無水化物、3,3',4,4'−ジフェニルスルフォン酸、4,4’−オキシジフタル酸二無水化物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水化物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水化物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水化物、2,2−ビス(4−カルボン酸フェニル)プロパン酸二無水化物等が挙げられる。これらのうち、特に4,4'−オキシジフタル酸二無水化物、4,4’−ビフタリック酸二無水化物、3,3',4,4'−ジフェニルスルフォン酸、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水化物を好適に用いることができる。
【0031】
上記一般式(1),(2)において、Yはジアミン残基である。本発明のイミドオリゴマーに用いるジアミンは、軸対称性であって、酸二無水化物と縮合反応してポリイミド構造を形成し得るものであればよく、特に限定されるものではない。本発明に用いるジアミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェニル)スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、3,3’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらのうち、特に4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4−アミノフェニル)スルフォン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを好適に用いることができる。
【0032】
上記一般式(1),(2)において、Zはアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基である。本発明のイミドオリゴマーにおいては、アリルナジック酸無水化物又はプロパギルアミンにより末端を修飾することで、従来の架橋性末端化合物(例えば、4−フェニルエチニルフタル酸無水化物)よりも低温で一次硬化することが可能となる。このため、本発明のイミドオリゴマーは、ポリイミド樹脂成形品の製造に際して、目的とする製品に応じた適当な成形方法を柔軟に選択・採用することができ、より幅広い成形品への応用が可能となる。
【0033】
また、上記一般式(1),(2)において、nは各イミド繰り返し構造の平均重合度であり、1〜10である。なお、この平均重合度は、イミドオリゴマーの製造に用いる非軸対称性芳香族ジアミン、酸二無水化物及びジアミンの比率を変化させることで適宜調整することが可能である。本発明のイミドオリゴマーにおいて、各イミド繰り返し構造の平均重合度nが10を超えると、熱溶融性に劣り、成形が困難になる場合がある。イミドオリゴマーの成形性の観点から、各イミド繰り返し構造の平均重合度は1〜6であることが好ましく、さらに好ましくは2〜5である。各イミド繰り返し構造の平均重合度が前記範囲内であると、特に成形性に優れたイミドオリゴマーが得られる。
【0034】
本発明にかかるイミドオリゴマーにおいては、上記一般式(1),(2)に示されるように、上記非軸対称性芳香族ジアミン1分子あるいは非軸対称性酸二無水化物1分子に由来する非軸対称部位がオリゴマー鎖の中心部のみにしか存在しないにもかかわらず、例えば、図1に示すようにオリゴマー鎖は全体として螺旋構造を示している。そして、この結果、本発明にかかるイミドオリゴマーは比較的低い温度で熱溶融するため、熱成形が容易であり、また、加熱硬化後のポリイミド樹脂の熱分解温度が500℃以上に達し、耐熱性においても非常に優れている。
【0035】
なお、例えば、特許文献1に記載されているような従来の螺旋性のイミドオリゴマーは、熱成形性及び加熱硬化後のポリイミド樹脂の耐熱性に優れてはいるものの、比較的高価な非軸対称化合物をオリゴマー鎖全体にわたって有しているため、製造において多大なコストがかかってしまうという問題があった。これに対し、本発明にかかる螺旋性のイミドオリゴマーは、オリゴマー鎖中に非軸対称化合物を1分子有するだけでよく、高価な非軸対称化合物の使用を大幅に削減できるため、優れた熱成形性及び加熱硬化後のポリイミド樹脂の耐熱性を有するイミドオリゴマーを、容易且つ安価に得ることができる。
【0036】
また、本発明にかかるイミドオリゴマーは、例えば、下記(A)〜(C)の工程によって調製することができる。
(A)上記一般式(1)で表される非軸対称性芳香族ジアミンを中心とするイミドオリゴマーを製造する場合、まず最初に、非軸対称性芳香族ジアミンと、これに対して大過剰量の酸二無水化物とを反応させることによって、非軸対称性芳香族ジアミン1分子を中心とした両側鎖に酸二無水化物を縮合したオリゴマー前駆体を調製する。
一方、上記一般式(2)で表される非軸対称性酸二無水化物を中心とするイミドオリゴマーを製造する場合、非軸対称性酸二無水化物と、これに対して大過剰量のジアミンとを反応させ、非軸対称性芳香族酸二無水物1分子を中心とした両側鎖にジアミンを縮合したオリゴマー前駆体を調製する。
ここで、酸二無水化物又はジアミンの添加量は、非軸対称性芳香族ジアミン又は非軸対称性酸二無水物1モルに対して大過剰量であればよいが、より具体的には、例えば、非軸対称性芳香族ジアミン又は非軸対称性酸二無水化物に対して2〜20倍モル程度であればよい。なお、ここで非軸対称性芳香族ジアミンに対して用いる酸二無水化物の残基が上記一般式(1)中、Xに相当し、非軸対称性酸二無水化物に対してジアミンの残基が上記一般式(2)中、Yに相当する。また、反応に用いる溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N−N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、γ−ブチロラクタム等の非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0037】
(B)つづいて、以上で得られたオリゴマー前駆体(未反応の酸二無水化物又は芳香族ジアミンを含む)に、さらにジアミン又は酸二無水化物を添加し、重縮合反応を行なうことによって、オリゴマー前駆体の両側にポリアミック酸構造を付加したアミック酸オリゴマーを調製する。
なお、ここで用いるジアミンの残基が上記一般式(1)中、Yに相当し、酸二無水物の残基が上記一般式(2)中、Xに相当する。また、ジアミンを添加する場合、適当量の酸二無水化物をさらに添加してもよく、また、酸二無水物を添加する場合、適当量のジアミンをさらに添加してもよい。オリゴマー前駆体に対する酸二無水化物及びジアミンの添加割合を変化させることで、一分子当りのイミド繰り返し構造の付加モル数を適宜調整することができる。本発明においては、上記一般式(1),(2)中、nで表される各イミド繰り返し構造の平均重合度が1〜10となるように、上記各成分の添加割合を調整する必要がある。
【0038】
また、上記(B)工程の反応は(A)工程と連続して行うことができるが、以上に例示したような非プロトン性溶媒中で重合反応を行なった場合、通常、分子内にアミド部位とカルボン酸部位とを有するアミック酸オリゴマーとして得られる。このアミック酸オリゴマーは、例えば、低温でイミド化剤を添加するか、あるいは高温で加熱還流することによって、前記アミド部位とカルボン酸部位とを脱水・環化(イミド化)させ、イミドオリゴマーとすることができる。
【0039】
(C)さらに、以上で得られたイミドオリゴマー又はアミック酸オリゴマーの末端に、架橋性末端化合物として、アリルナジック酸無水化物又はプロパギルアミンを付加する。
なお、ここで用いる架橋性末端化合物の残基が、上記一般式(1),(2)中、Zに相当する。ここで、アリルナジック酸無水化物は、ジアミンにおける未反応アミノ基と反応してイミド結合を形成し、プロパギルアミンは、酸二無水化物における未反応ジカルボン酸基と反応して、イミド結合を形成する。架橋性末端化合物の添加量は、反応可能なカルボン酸基あるいはアミノ酸基の当量に合わせて適宜調整すればよいが、通常の場合、非軸対称性芳香族ジアミン又は非軸対称性酸二無水物1モルに対して約2モル程度であればよい。
【0040】
上記(C)工程の反応は(A)〜(B)工程と連続して行なうことができ、通常、(A)〜(C)の全工程をアミック酸オリゴマーの状態で行い、最後にイミドオリゴマーへと変換させる。すなわち、(B)工程により得られたアミック酸オリゴマーの状態で(C)工程による架橋性反応基含有化合物の付加を行い、つづいて、例えば、低温でイミド化剤を添加するか、あるいは高温で加熱還流することによって、アミド部位とカルボン酸部位とを脱水・環化(イミド化)させ、分子末端に架橋性反応基を有するイミドオリゴマーを得る。
【0041】
なお、上記(A)〜(C)工程において、イミド化を行っていないアミック酸オリゴマーについても、本発明の範疇である。このようなアミック酸オリゴマーは、加熱による脱水・環化反応によって、容易にイミドオリゴマーへと変換することができる。例えば、本発明のアミック酸オリゴマー溶液を、150〜245℃程度の高温で加熱還流することによって、本発明のイミドオリゴマーとすることができる。あるいは、例えば、アミック酸オリゴマー溶液を、ガラス板等の剥離性の良好な支持体上へと塗布し、250〜350℃程度に加熱することによってイミド化し、本発明のイミドオリゴマーを得ることもできる。
【0042】
また、上記(A)〜(C)の反応工程においては、いずれもアルゴンあるいは窒素のような不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。
【0043】
以下に、本発明にかかるイミドオリゴマー(一般式(1))の製造例として、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(非軸対称性芳香族ジアミン)、4,4’−オキシジフタル酸二無水化物(酸二無水化物)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(ジアミン)、及びアリルナジック酸無水化物(架橋性末端化合物)を用いた場合の、上記(A)〜(C)工程の反応を図示する。
【0044】
【化11】

【0045】
以上のようにして得られたイミドオリゴマーは、反応後の溶液をそのまま用いることも可能であるが、例えば、反応終了後の溶液を多量の水中に攪拌しながら投入し、ろ過により単離した後、100℃程度で乾燥させたり、あるいは真空下室温乾燥させることで、粉末状のイミドオリゴマーとして用いるができる。また。このようにして得られたイミドオリゴマー粉末は、必要に応じて適当な溶媒中に溶解した溶液として使用することもできる。
【0046】
また、以上のようにして得られたイミドオリゴマーは、オリゴマー単独で、あるいは炭素繊維等の繊維状補強材に含浸させた状態で加熱硬化することで、耐熱性に優れたポリイミド樹脂とすることができる。加えて、本発明にかかるイミドオリゴマーは、螺旋構造を示すため、成形性に優れていることから、例えば、金型等により容易に成形することが可能であり、あるいは繊維状補強材等への含浸も比較的容易に行うことができる。
【0047】
また、イミドオリゴマーの加熱硬化に際し、加熱温度及び加熱時間については、所望のポリイミド樹脂の物性に合わせて適宜調整することができる。なお、本発明にかかるイミドオリゴマーは、約160〜180℃程度で一次硬化を開始する。より具体的には、例えば、予備的に60〜140℃程度の温度で一定時間加熱することでイミドオリゴマーを熱溶融し、その後、160〜180℃で一定時間加熱して一次硬化を行い、その後、250〜400℃の温度で一定時間加熱して二次硬化して、耐熱性及び機械的特性に優れたポリイミド樹脂硬化物を得ることができる。なお、それぞれの加熱工程における加熱温度を高くするか、あるいは加熱時間を長くすることによって、通常、ポリイミド樹脂硬化物の耐熱性が向上する。
【0048】
なお、本発明のイミドオリゴマーを用いたポリイミド樹脂成形体の製造は、公知の方法にしたがって行なえばよい。例えば、本発明のイミドオリゴマーの粉末を金型内に充填し、160〜180℃、0.5〜5MPa程度で、1〜12時間程度加熱圧縮成形して一次成形品を得ることができる。つづいて、250〜400℃、0.5〜5MPa程度で、1〜5時間程度加熱圧縮成形することにより、耐熱性及び機械的特性に優れたポリイミド樹脂成形体を得ることができる。なお、一次成形品を得る必要がなければ、直接250〜400℃程度の高温で加熱処理圧縮処理を行なってもよい。また、例えば、本発明のイミドオリゴマー溶液を炭素繊維等の繊維状補強材に含浸させ、60〜140℃で1〜5時間程度加熱乾燥した後、さらに加圧下、250〜370℃で1〜5時間程度加熱して、ポリイミド樹脂の繊維含有複合体を得ることができる。また、例えば、本発明のイミドオリゴマー溶液を、ガラス板等の剥離性の良好な支持体上へと塗布し、250〜350℃で1〜12時間程度加熱して、ポリイミド樹脂フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0049】
実施例1
【化12】

アルゴン気流下、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル3.08gと4,4’−オキシジフタリック酸無水化物19.08gを乾燥N,N−ジメチルアセトアミド200mlに溶解させ、約30分間室温下で撹拌した。その後1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを17.98g投入し、約1時間撹拌した。最後に、アリルナジック酸無水化物5.88gを加え、室温下で約1時間撹拌後、無水酢酸/ピリジン=2/1溶液を1当量加え、約12時間加温した。灰白色の懸濁液を得た。イオン交換水800mlに懸濁液を投入し、ろ過後、水洗を数回繰り返し、メタノールで洗浄濾過後、室温下一晩真空乾燥させ、黄白色の粉末状イミドオリゴマーを得た。なお、得られたイミドオリゴマーについて、ストレスレオメーター(AR2000:ティ・エイ・インスツルメント社製)により測定した結果、軟化開始温度は70℃であった。GPC(Aliance2695:Waters社製)により測定した結果、数平均分子量(Mn)は3.1x10g/molであった(NMP溶媒)。
【0050】
つづいて、以上のようにして得られたイミドオリゴマー粉末をポリイミドフィルムに所要量とり、ホットプレス上100℃で1時間溶融・脱泡した後、170℃、2MPa、3時間プレスし、フィルムの形成を確認した。さらに350℃,2MPaで1時間加圧し、ポリイミド樹脂硬化物を得た。
【0051】
以上で得られたポリイミド樹脂硬化物について、窒素気流下、TG−DTA(EASTAR6000:SII社製)により分析した結果、5%熱分解温度(τ)は512.3℃(窒素気流下,昇温速度10℃/分)であった。また、DSC(Q200:TA社製)による測定では、ポリイミド樹脂硬化物のガラス転移温度(T)は255.0℃、窒素気流下,昇温速度:10℃/分)であった。
【0052】
実施例2
【化13】

2,3,3’,4’−オキシジフタル酸二無水化物2.95gアルゴン気流下N,N−ジメチルアセトアミド17mlに溶解させ、1,3-ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン2.339gを加え約30分間室温下撹拌、その後4,4’−オキシジフタル酸2.947gを加え約1時間撹拌すると粘調な溶液を得た。アリルナジック酸無水化物3.88gを加え、室温下約1時間撹拌後、約12時間溶媒を還流させた。イオン交換水400mlに反応液を投入し、濾過後水洗を数回繰り返し、メタノールで洗浄濾過後、120℃で一晩乾燥させ、黄色の粉末状イミドオリゴマーを得た。なお、得られたイミドオリゴマーについて、ストレスレオメーター(AR2000:ティ・エイ・インスツルメント社製)により測定した結果、軟化開始温度は120℃であった。
【0053】
以上で得られたイミドオリゴマー粉末をポリイミドフィルムに所要量を取り、ホットプレス上100℃で1時間溶融・脱泡した後、170℃、2MPa、3時間プレスし、フィルムの形成を確認した。さらにホットプレス上で300℃30分脱泡・加圧を繰り返し、370℃1時間加熱し(昇温速度5℃/分)、ポリイミド樹脂硬化物を得た。窒素気流下、TG−DTAによる分析の結果、5%熱分解温度が502.5℃(昇温速度10℃/分)、TMAによるTが316.0℃(昇温速度10℃/分)CTEは28ppmであることを確認した。また、厚さ約50μmのフィルムの初期弾性率は1.5GPa、破断強度112.7MPa、破断伸度11.1%であった。
【0054】
上記実施例1,2の結果から、非軸対称性部位となる3,4’−ジアミノジフェニルエーテル又は2,3,3’,4’−オキシジフタル酸二無水化物の1分子のみがオリゴマー鎖の中心に位置するように設計し、且つ架橋性末端をアリルナジック酸とした実施例1,2のイミドオリゴマーにおいては、70〜120℃程度で溶融を開始することから熱成形が比較的容易であることがわかった。さらに、170℃程度の低温で一定時間加圧保持することによって一次硬化が生じ、フィルムが得られることから、従来よりも低温での一次成形が可能であることがわかった。また、このイミドオリゴマーを熱硬化して得られたポリイミド樹脂硬化物の5%熱分解温度(τ)は500℃以上であり、耐熱性にも非常に優れていることが確認された。また、得られたポリイミド樹脂硬化物の機械的特性も良好なものであることがわかった。
【0055】
なお、上記実施例1のイミドオリゴマーの化学構造の模式図を図1に、分子軌道計算に基づく上記実施例1のイミドオリゴマーの立体構造図を図2に示す。同図に示すように、上記イミドオリゴマーにおいては、非軸対称性部位となる3,4’−ジアミノジフェニルエーテルがオリゴマー鎖の中心に1分子のみ有していることによって、オリゴマー鎖が全体として螺旋性を示していることがわかる。そして、以上のようにオリゴマー鎖が螺旋性を示す結果、直線性(結晶性)の高い従来のイミドオリゴマーと比較して、より低い温度で容易に熱成形を行なうことが可能となると考えられる。また、架橋性末端化合物としてアリルナジック酸無水化物を使用することによって、従来よりも低温で一次硬化を行うことができるため、より幅広い成形品への応用が可能となると考えられる。さらに、加熱硬化後のポリイミド樹脂においては、優れた耐熱性及び機械的特性が得られる。
【0056】
比較例1
【化14】

アルゴン気流下、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル3.08gと4,4’−オキシジフタリック酸無水化物19.08gを乾燥N,N−ジメチルアセトアミド200mlに溶解させ、約30分間室温下で撹拌した。その後1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを17.98g投入し、約1時間撹拌した。最後に、4−フェニルエチニルフタル酸無水化物7.68gを加え、室温下で約1時間撹拌後、約12時間溶媒を還流させ、灰白色の懸濁液を得た。イオン交換水800mlに懸濁液を投入し、ろ過後、水洗を数回繰り返し、メタノールで洗浄濾過後、120℃で一晩乾燥させ、黄白色の粉末状イミドオリゴマーを得た。なお、得られたイミドオリゴマーについて、ストレスレオメーター(AR2000:ティ・エイ・インスツルメント社製)により測定した結果、軟化開始温度は120℃であった。GPC(Aliance2695:Waters社製)により測定した結果、数平均分子量(Mn)は5.2x10g/molであった(NMP溶媒)。
【0057】
以上で得られたイミドオリゴマー粉末をポリイミドフィルムに所要量とり、ホットプレス上100℃で1時間溶融・脱泡した後、170℃、2MPa、3時間プレスしたものの、フィルムの形成は確認されなかった。つづいて、同様にしてホットプレス上210℃で1時間溶融・脱泡した後、さらに350℃,2MPaで1時間加圧し、ポリイミド樹脂硬化物を得た。また、厚さ約50μmのフィルムの初期弾性率は1.6GPa、破断強度102.7MPa、破断伸度15.1%であった。窒素気流下、TG−DTA(EASTAR6000:SII社製)により分析した結果、5%熱分解温度(τ)は537.0℃(窒素気流下,昇温速度10℃/分)であった。また、DSC(Q200:TA社製)による測定では、ポリイミド樹脂硬化物のガラス転移温度(T)は185.2℃(窒素気流下,昇温速度:10℃/分)であった。
【0058】
比較例2
【化15】

2,3,3’,4’−オキシジフタル酸二無水化物2.95gをアルゴン気流下N,N−ジメチルアセトアミド17mlに溶解させ、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン2.339gを加えて、室温下約30分間撹拌し、その後4,4’−オキシジフタル酸2.947gを加え約1時間撹拌すると粘調な溶液を得た。4−フェニルエチニルフタル酸無水化物0.497gを加え、室温下約1時間撹拌後、約12時間溶媒を還流させた。イオン交換水400mlに反応液を投入し、濾過後水洗を数回繰り返し、メタノールで洗浄濾過後、室温下、一晩乾燥させ、黄白色の粉末状イミドオリゴマーを得た。なお、得られたイミドオリゴマーについて、ストレスレオメーター(AR2000:ティ・エイ・インスツルメント社製)により測定した結果、軟化開始温度は120℃であった。
【0059】
以上で得られたイミドオリゴマー粉末をポリイミドフィルムに所要量とり、ホットプレス上100℃で1時間溶融・脱泡した後、170℃、2MPa、3時間プレスしたものの、フィルムの形成は確認されなかった。つづいて、同様にしてホットプレス上で300℃30分脱泡・加圧を繰り返し、370℃で1時間加熱し(昇温速度5℃/分)、ポリイミド樹脂硬化物を得た。窒素気流下、TG−DTAによる分析の結果、5%熱分解温度が508.5℃(昇温速度10℃/分)、DSCによるTが375.5℃(昇温速度10℃/分)CTEは28ppmであることを確認した。また、厚さ約50μmのフィルムの初期弾性率は2.6GPa、破断強度118.7MPa、破断伸度13.1%であった。
【0060】
上記比較例1,2の結果から、架橋性末端として4−フェニルエチニルフタル酸無水化物を使用したイミドオリゴマーは、非軸対称性部位がオリゴマー鎖の中心のみとなるように設計した場合であっても、硬化後のポリイミド樹脂の耐熱性、機械的特性は比較的良好であるものの、170℃で一定時間加圧保持しても硬化反応は進行せず、フィルムの形成は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1のイミドオリゴマーの化学構造の模式図である。
【図2】実施例1のイミドオリゴマーの分子軌道計算に基づく立体構造図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非軸対称性芳香族ジアミン1分子又は非軸対称性酸二無水化物1分子に由来する非軸対称部位をオリゴマー鎖の中心部のみに有し、且つ架橋性末端がアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基からなり、下記一般式(1)又は(2)により表されることを特徴とするイミドオリゴマー。
【化1】

【化2】

(上記式(1),(2)において、Wは、直接結合、−O−、−CH−、−C−、−C(CH−、−CF−、−C−、−C(CF−、−C(=O)−、−NH−、−NH−C(=O)−、−C(=O)−NH−、−S−、−S(=O)−、又は−S(=O)−であり、Xは酸二無水化物残基、Yはジアミン残基、Zはアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基、nは各イミド繰り返し構造の平均重合度で1〜10である。)
【請求項2】
請求項1に記載のイミドオリゴマーにおいて、一般式(1)又は(2)におけるWが−O−、又は−CH−であることを特徴とするイミドオリゴマー。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載のイミドオリゴマーにおいて、各イミド繰り返し構造の平均重合度nがそれぞれ1〜6であり、且つイミドオリゴマー全体の平均分子量が8000以下であることを特徴とするイミドオリゴマー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のイミドオリゴマーにおいて、酸二無水化物残基Xが、ピロメリット酸二無水化物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水化物、4,4’−ビフタリック酸二無水化物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルフォン酸、4,4’−オキシジフタル酸二無水化物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水化物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水化物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水化物、2,2−ビス(4−カルボン酸フェニル)プロパン酸二無水化物から選ばれる少なくとも1種以上の酸二無水化物に由来することを特徴とするイミドオリゴマー。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のイミドオリゴマーにおいて、ジアミン残基Yが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェニル)スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン,3,3’−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンから選ばれる少なくとも1種以上のジアミンに由来することを特徴とするイミドオリゴマー。
【請求項6】
非軸対称性芳香族ジアミン1分子又は非軸対称性酸二無水化物1分子に由来する非軸対称部位をオリゴマー鎖の中心部のみに有し、且つ架橋性末端がアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基からなり、下記一般式(3)又は(4)により表されることを特徴とするアミック酸オリゴマー。
【化3】

【化4】

(上記式(3),(4)において、Wは、直接結合、−O−、−CH−、−C−、−C(CH−、−CF−、−C−、−C(CF−、−C(=O)−、−NH−、−NH−C(=O)−、−C(=O)−NH−、−S−、−S(=O)−、又は−S(=O)−であり、Xは酸二無水化物残基、Yはジアミン残基、Zはアリルナジック酸残基又はプロパギルアミン残基、nは各イミド繰り返し構造の平均重合度で1〜10である。)
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載のイミドオリゴマー又は請求項6に記載のアミック酸オリゴマーを加熱硬化させてなることを特徴とするポリイミド樹脂。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−121095(P2010−121095A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298723(P2008−298723)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【Fターム(参考)】