説明

イミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法とこれを用いた硬化性樹脂組成物

【課題】着色や不純物が少ないイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供する。また、従来よりも優れた耐熱性と密着性を有する、電子材料用途に好適な硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】カルボン酸無水物にアミノアルコール化合物を反応させてイミドアルコール化合物を得た後、エステル化反応によってイミド(メタ)アクリル酸エステルを得る製造方法において、前記カルボン酸無水物と前記アミノアルコール化合物との反応が、不活性ガス雰囲気下、反応温度を80〜105℃に制御して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸無水物にアミノアルコール化合物を反応させて、イミドアルコール化合物を得た後、エステル化反応によってイミド(メタ)アクリル酸エステルを得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イミド(メタ)アクリル酸エステル化合物は、紫外線等の活性エネルギー線による硬化性樹脂組成物成分として使用されており、特に速硬化性、耐熱性、耐薬品性、密着性に優れるため、塗料、コーティング剤、接着剤、ドライフィルムレジスト等に使用されており、今後も様々な分野への応用が期待されている。
【0003】
イミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法としては、カルボン酸無水物にアミノアルコール化合物を反応させて、副生する水を除去してイミドアルコール化合物を得た後、酸触媒等による脱水エステル化反応によってイミド(メタ)アクリル酸エステルを得る方法(例えば、特許文献1〜2参照)や、イミドアルコール化合物に(メタ)アクリル酸クロライドを塩基存在下で反応させる方法(例えば、特許文献3参照)が一般的であるが、いずれの方法も安定性が悪く、副生成物が生成し、製品が着色する傾向にあるため、特にディスプレイ、半導体向けの電子材料用途ではその使用が限られる傾向がある。
また、この従来の方法では特にカルボン酸無水物とアミノアルコール化合物との反応で副生成物が多い問題がある。
一方、副生成物の生成、混入を低減させるためにエステル交換法によるエステルの合成が提案されており、なかでも金属アルコキシドを触媒として用いるエステル交換反応が、副生成物の生成が抑えられる、またエステル化反応後、金属アルコキシドを容易に除去できる点でよいと提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、イミド(メタ)アクリル酸エステルの合成を、金属アルコキシドを触媒として用いるエステル交換反応に適用する場合、特許文献1〜3に記載された方法で得られるイミドアルコール化合物を出発原料として用いると、イミドアルコール化合物の純度の問題から、低級(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応を行った際には、反応が途中で止まってしまう傾向にある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−239254号公報
【特許文献2】特許第3409595号
【特許文献3】特許第3003807号
【特許文献4】特開2006−117897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、着色や副生成物を抑制し、電子材料用途への使用に耐え得るイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は種々検討の結果、カルボン酸無水物とアミノアルコール化合物との反応を不活性ガス雰囲気下、反応温度を一定の条件に制御することで、イミドアルコール化合物を得る工程において着色と副生成物の生成を抑制でき、高収率でイミドアルコール化合物が得られることを見出した。
また、その結果、得られたイミドアルコール化合物を用いたエステル化反応の際に、酸触媒を使用した脱水エステル化法はもとより、従来までの方法では適用できなかった金属アルコキシドを使用したエステル交換法においても、着色と副生成物の生成を抑制しつつ、良好なエステル交換率を達成できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)カルボン酸無水物にアミノアルコール化合物を反応させてイミドアルコール化合物を得た後、エステル化反応によってイミド(メタ)アクリル酸エステルを得る反応を含むイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法であって、
前記カルボン酸無水物と前記アミノアルコール化合物との反応を、不活性ガス雰囲気下、反応温度を80〜105℃に制御して行われるイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
(2)前記不活性ガスが、窒素である上記(1)記載のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
(3)前記エステル化反応が、低級(メタ)アクリル酸エステルを用いたエステル交換反応である上記(1)又は(2)記載のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
(4)前記カルボン酸無水物にアミノアルコール化合物を反応させてイミドアルコール化合物を得た後、精製することなくエステル化反応を行うことを特徴とする上記(1)〜(3)記載のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
(5)前記カルボン酸無水物が、下記一般式(I)又は下記一般式(II)で表される上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化1】

(一般式(I)中、Rは水素又はメチル基を示す。)、
【化2】

(一般式(II)中、Rは水素又はメチル基を示す。)
(6)前記アミノアルコールが、下記一般式(III)で表される上記(1)〜(5)のいずれか一つに記載のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化3】

(一般式(III)中、nは1〜4の整数を表す。)
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の製造方法により得られるイミド(メタ)アクリル酸エステルを含む硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法により、着色と副生成物を抑制したイミド(メタ)アクリル酸エステルが得られ、且つ従来効率が悪いとされていたエステル交換法においても高エステル交換率で適用できるようになる。本発明によれば、従来よりも着色や不純物が少ないイミド(メタ)アクリル酸エステルが得られることで、それを用いた硬化性樹脂組成物も従来よりも優れた耐熱性と密着性を有することとなり、電子材料用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法の実施の形態について詳細に説明する。
【0009】
本発明のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法は、カルボン酸無水物にアミノアルコール化合物を反応させてイミドアルコール化合物を得た後、エステル化反応によってイミド(メタ)アクリル酸エステルを得る反応を含むイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法において、前記カルボン酸無水物と前記アミノアルコール化合物との反応が、不活性ガス雰囲気下、反応温度を80〜105℃に制御して行われることを特徴とする。
本発明では、まずカルボン酸無水物とアミノアルコール化合物とを副生する水を除去しながら反応させ、イミドアルコール化合物を得るが、この工程において、不活性ガス雰囲気下、反応温度を80〜105℃に制御して行う。
【0010】
本発明で使用されるカルボン酸無水物としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸、3−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、2,3−ノルボルナンジカルボン酸無水物、5−メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、4−メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−メチル−2,3−ノルボルナンジカルボン酸無水物、4−メチル−2,3−ノルボルナンジカルボン酸無水物等が挙げられる。
本発明で使用されるアミノアルコール化合物としては、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノブタノールアミン等が挙げられる。
【0011】
本発明におけるカルボン酸無水物とアミノアルコール化合物との反応時の配合量として、カルボン酸無水物に対してアミノアルコール化合物を0.90〜1.2モル当量使用する。さらには、未反応物を残さないためにも0.95〜1.1モル当量であることが好ましい。カルボン酸無水物に対してアミノアルコール化合物が0.90〜1.2モル当量の範囲を超えた場合でも、反応は進行するが、反応終了時に過剰なカルボン酸無水物やアミノアルコール化合物が残存してしまうため、精製作業が必要となり、生産性が悪化する傾向がある。
本発明におけるカルボン酸無水物とアミノアルコール化合物との反応では、ベンゼン、トルエン、キシレン等の適当な溶媒を使用し、水を除去するために共沸させることが望ましい。使用する溶媒は水との共沸点の関係から、トルエンが最も好ましい。
【0012】
イミドアルコール化合物の生成工程では、着色や副生成物の生成を防ぐために反応系内に不活性ガスを導入しながら反応を行うことが必要である。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を用いることができるが、安価で入手し易いという理由から、窒素を用いることがもっとも好ましい。不活性ガスの導入量としては50ml/分以上が好ましく、50〜500ml/分がより好ましく、100〜300ml/分が最も好ましい。
不活性ガスの導入量が50ml/分未満であると、不活性ガスの導入量が十分でなく、化合物が着色する傾向にあり、500ml/分を超えた場合は、特に不都合はないが、それ以上導入量を増やしても意味がない。
また、反応温度は80〜105℃で行うことが好ましく、さらには90〜105℃の還流下で行うことがより好ましい。したがって、反応系内を減圧することが必要となる場合がある。反応温度が80℃未満であると、反応速度が著しく低下し、また105℃を超えると、着色しやすく、副生成物が生成する傾向がある。
【0013】
本発明において、カルボン酸無水物とアミノアルコール化合物との反応後、得られたイミドアルコール溶液中の溶媒を留去して、得られた生成物を精製しても良いが、イミドアルコール化合物の生成工程において窒素導入及び温度制御を行うことで、着色の発生や副生成物の生成はかなり押さえられているため、敢えて精製工程を行う必要はなく、イミドアルコール化合物溶液をそのまま用い、直接エステル化反応を行うことが出来る。
【0014】
従来の方法では、イミドアルコール化合物生成工程において、着色しやすく、副生成物が多いため、得られたイミドアルコール化合物を精製なしにエステル化反応に用いた場合、イミド(メタ)アクリル酸エステルが着色し、また副生成物が生成、混入していた。特に、エステル化反応を、触媒として金属アルコキシドを使用したエステル交換反応とした場合では、イミドアルコール合成時に生成した副生成物の影響により、反応が途中で止まってしまう現象が起こっていた。
【0015】
本発明におけるエステル化反応は、従来のように酸触媒を使用して脱水エステル化反応としても良いが、イミドアルコール化合物の純度が高いことから、低級(メタ)アクリル酸エステル存在下、エステル化反応後、容易に除去可能な金属アルコキシドを使用したエステル交換反応を適用できる。エステル交換反応は、中性の触媒を用いることができるため、副生成物の生成が少ないことから好ましい。
【0016】
次に、本発明で用いられるエステル化反応としての脱水エステル化反応及びエステル交換反応について説明する。
脱水エステル化反応の場合は、不活性ガス雰囲気下及び温度制御を行って得られたイミドアルコール化合物と(メタ)アクリル酸とを反応溶媒中、酸触媒の存在下にエステル化反応させる。
反応に際しては、短時間反応、高エステル転換率、反応後の後処理の観点から、(メタ)アクリル酸をイミドアルコール化合物に対して小過剰に使用することが好ましい。具体的には、通常イミドアルコール化合物が含有する水酸基1モルに対して(メタ)アクリル酸を1〜3モルの範囲で使用することが好ましい。(メタ)アクリル酸の使用量がイミドアルコール化合物の水酸基1モルに対して1モル未満であると反応が十分に進行せず、また3モルを超えると反応後の中和洗浄時に過剰のアルカリが必要となり生産性が悪化する。
【0017】
脱水エステル化反応に使用される酸触媒は、一般的な脱水エステル化反応における触媒を使用することができる。例えば、硫酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸等のスルホン酸;ゼオライト、アンバーライト、アンバーリスト、ナフィオン等の固体酸;等が挙げられる。
【0018】
脱水エステル化反応における酸触媒の使用量としては、イミドアルコール化合物と(メタ)アクリル酸の合計量に対して、通常0.01〜10.0質量%の範囲であることが好ましい。0.01質量%未満であると反応の進行が遅くなる傾向があり、また10.0質量%を超えると、副反応が進行する可能性がある。
【0019】
脱水エステル化反応で使用する溶媒は、イミドアルコール化合物の合成の際に使用した溶媒をそのまま使用することが可能であり、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、取り扱いの点からトルエンを単独に用いることが好ましい。
【0020】
エステル交換反応の場合は、不活性ガス雰囲気下及び温度制御を行って得られたイミドアルコール化合物と、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の低級(メタ)アクリル酸エステルとを触媒存在下にエステル交換反応させる。
反応に際しては、短時間反応、高エステル転換率、反応後の後処理の観点から、低級(メタ)アクリル酸エステルをイミドアルコール化合物に対して、等量から過剰に使用することが好ましい。具体的には、通常イミドアルコール化合物が含有する水酸基1モルに対して、低級(メタ)アクリル酸エステルを1.2〜20モルの範囲で使用することが好ましい。低級(メタ)アクリル酸エステルの使用量がイミドアルコール化合物の水酸基1モルに対して、1.2モル未満であると反応が十分に進行せず、また20モルを超えると反応後の濃縮工程に長時間を要し生産性が悪化する。
【0021】
エステル交換反応に使用される触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸化物;リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;リチウムアミド、ナトリウムアミド、カリウムアミド等のアルカリ金属アミド;オルトチタン酸テトラメチル、オルトチタン酸テトラエチル、オルトチタン酸テトラプロピル、オルトチタン酸テトライソプロピル、オルトチタン酸テトラブチル等のチタンアルコキシド;その他アルミニウムアルコキシド;スズアルコキシド;等が挙げられる。
このうち副反応が極力抑えられ、反応終了後に水を添加することで容易に触媒除去できることから、チタンアルコキシドがより好ましい。
【0022】
エステル交換反応での触媒の使用量は、低級(メタ)アクリル酸エステルとイミドアルコール化合物の合計量に対して、通常0.01〜5.0質量%の範囲が好ましい。触媒量が多くなっても特に利点はなく不経済になるのみである。
【0023】
本発明におけるエステル化反応において、脱水エステル化反応及びエステル交換反応いずれの場合も、公知の重合禁止剤を添加、併用することができる。重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル(「メトキノン」ともいう)等のフェノール類;フェノチアジン、エチレンチオ尿素等の硫黄化合物;ジブチルジチオカルバミン酸銅等の銅塩;酢酸マンガン等のマンガン塩;ニトロ化合物、ニトロソ化合物、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル等のN−オキシル化合物;等が挙げられる。重合禁止剤の添加量は、生成エステルに対して0.1質量%以下が好ましい。0.1質量%を超えると添加剤に起因する着色を生じる場合がある。
【0024】
エステル化反応の際には、反応中の反応液の重合を防止するために少量の分子状酸素を吹き込むことが好ましい。分子状酸素としては、希釈された状態で使用することが好ましく、空気を用いることが好適である。また、分子状酸素の吹き込みは、蒸発して蒸気として存在したり、上部の釜壁面等に凝縮した(メタ)アクリル酸エステル類の重合を防止したりするためにも好ましい。
分子状酸素とは、2個の酸素原子によって作られた基底状態の三重項酸素分子(O)を意味し、反応にそのままの状態で直接関与もできるが、触媒や反応試剤との相互作用により、一重項酸素分子や酸素原子、スーパーオキシド、ペルオキシド等の状態に変換された後、反応に関与することもできる酸素分子を意味する。
分子状酸素の導入量としては、反応機の形状や攪拌動力によっても影響を受けるが、原料イミドアルコール化合物1モルに対して5〜500ml/分(空気として25〜2500ml/分)の速度で吹き込めば良い。分子状酸素導入量が5ml/分未満の場合は、重合禁止の効果が十分でなく,500ml/分を超えると、低級(メタ)アクリル酸エステルを系外に押し出してしまう効果が強くなり、原料としての低級(メタ)アクリル酸エステルのロスを招く。
【0025】
本発明におけるエステル化反応は、常圧又は減圧下60〜130℃で行うことが好ましい。温度が60℃未満であると反応速度が極端に反応が遅くなり、また130℃を超えると、エステル化反応で得られるイミド(メタ)アクリル酸エステルの重合が起こりやすく、また着色を引き起こしやすい。
【0026】
エステル化反応の形態としては、イミド(メタ)アクリル酸エステルを製造する当業者間で一般的に知られた方法で行うことができる。
脱水エステル化反応の場合は、反応時に副生する水を効率的に反応系外へ除去し、またエステル交換反応の場合は、反応時に副生する低級アルコールを低級(メタ)アクリル酸エステル及び/又は溶媒で共沸留去することが必要である。このため、反応装置としては例えば、脱水エステル化反応の場合は油水分離槽、エステル交換反応の場合は精留塔付属回分式反応槽が使用される。
【0027】
エステル化反応終了後は、過剰の低沸成分を濃縮装置で留去する。低沸成分の濃縮装置による留去の際に、触媒や原料の(メタ)アクリル酸を含む酸成分が反応溶液に残存していると反応器や生成物を汚染する場合がある。
特に、脱水エステル化反応においては、酸成分として、反応後に過剰の(メタ)アクリル酸が残存するので、低沸成分を留去するための濃縮前に、反応液を中和洗浄することが好ましい。中和方法は公知のものを採用することができるが、中和時のエステル分解(ケン化)を防ぐために、中和前に、例えば、水又は食塩等の中性塩水溶液で洗浄することが好ましい。このうち、より好ましくは食塩水である。
中和前洗浄水溶液の量は、反応終了液に対して2〜30質量%で行うことが好ましく、5〜15質量%がより好ましい。さらに、この洗浄用水溶液の濃度は0〜30質量%で行うことが好ましく、15〜20質量%がより好ましい。洗浄水の量が2質量%未満であると、十分に洗浄の効果が果たせず、また30質量%を超えると必要以上に栓浄水を用いていることとなり無駄な廃水が生じる等生産性が悪くなる傾向がある。また同様の理由で洗浄用水溶液の濃度が30質量%を超えると生産性が悪くなる傾向がある。
【0028】
脱水エステル化反応後の中和には、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ性物質の水溶液が用いられる。中和に用いられるアルカリ性物質は、反応終了液の中和当量の1.01〜1.5倍として中和を行うことが好ましい。アルカリ性物質が1.01倍未満であると中和が不十分である可能性があり、1.5倍を超えると廃水が増え、エステル分解(ケン化)も起こる可能性がある。中和に用いるアルカリ水溶液の濃度は1質量%以上30質量%未満で行うことが好ましく、5〜15質量%がより好ましい。アルカリ水溶液の濃度が1質量%未満であると、中和のために大量のアルカリ水溶液が必要となり、結果として大量の廃水が発生し、30質量%を超えるとエステル分解が起こる可能性がある。
【0029】
上記中和後、さらに水又は中性塩の水溶液により洗浄する。洗浄に用いる水又は中性塩の水溶液はpH8以下であれば良く、特に食塩水が好ましい。洗浄の完了はpHで管理し、洗浄後の洗液がpH8以下であることが好ましい。pH管理を怠ると(メタ)アクリル酸や触媒、不純物等の除去が完全に行えない場合がある。
【0030】
濃縮による低沸成分の留去は、常圧又は減圧下、液温を90℃以下に保持しながら行うことが好ましく、より好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは50〜70℃の範囲内である。液温が90℃を超えるとイミド(メタ)アクリル酸エステルの着色や重合を引き起こす可能性が高くなる。
【0031】
低沸成分の留去が完了したイミド(メタ)アクリル酸エステルは、ろ過を行うことによって残存する塩基性物質や中和塩等の不溶分を取り除くことができる。ろ過の際には効率良く不溶分を取り除くために、珪藻土等のろ過助剤を用いることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法により得られたイミド(メタ)アクリル酸エステルは、カルボン酸無水物とアミノアルコール化合物との反応を不活性ガス雰囲気下、反応温度を制御することで、イミドアルコール化合物を得る工程において、着色の発生が抑制され、副生成物の生成が少ないため、その後工程のエステル化反応においても、高エステル転換率で且つ副生成物の生成を抑制できるため、着色純度が高く、着色が少ないものとなる。
本発明の製造方法により得られたイミド(メタ)アクリル酸エステルは、色相が50(APHA)以下となり、純度98%以上となりえる。また、本発明の製造方法により得られたイミド(メタ)アクリル酸エステルは純度が高いことから、保存安定性に優れる。
なお、色相とは、JIS K6901に基づいて、目視により測定される値(APHA)である。
また、純度は、ガスクロマトグラフィ(例えば、装置:GL−Science社製のGC353B、キャリアガス:ヘリウム)を用いて測定できる。
【0033】
本発明の製造方法に得られたイミド(メタ)アクリル酸エステルを用いた硬化性樹脂組成物、また硬化性樹脂組成物からなる硬化物も本発明の範囲内である。
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明の製造方法により得られたイミド(メタ)アクリル酸エステルを含むものであり、そのほかにエチレン性不飽和基を1個以上有するモノマーやオリゴマーを1種又は2種以上、さらには各種の重合開始剤、添加剤を配合することができる。
【0034】
エチレン性不飽和基を1個以上有するモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等の直鎖アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシへキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキシド変成(メタ)アクリレート及びフェノールプロピレンオキサイド変成(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド変成(メタ)アクリレート、ノニルフェノールプロピレンオキサイド変成(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールアルキレンオキサイド変成(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート、さらにはトリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ又はジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリル酸エステル等の多官能アクリル酸エステルが挙げられ、これらは単独或いは2種類以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0035】
エチレン性不飽和基を1個以上有するオリゴマーとしては、エポキシ(メタ)アクリル酸エステル、ウレタン(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステル(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることが出来る。
【0036】
エポキシ(メタ)アクリル酸エステルとして例えば、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応によって得られるものを挙げることができる。エポキシ樹脂として具体的には、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノール・ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール・ノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。
【0037】
ウレタン(メタ)アクリル酸エステルとしては、下記ポリオールと下記有機ポリイソシアネートと下記ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルとを反応させることにより得られる化合物が挙げられる。ポリオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、ポリテトラメチレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。また、有機ポリイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、環状脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
ポリエステル(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えばポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との反応によって得られるものを挙げることができる。ポリエステルポリオールは、無水コハク酸、アジピン酸、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸等の酸とエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン等のアルコールを反応して得られる化合物が挙げられる。
【0039】
本発明の硬化性樹脂組成物中、イミド(メタ)アクリレートとエチレン性不飽和基を1個以上有するモノマーやオリゴマーとの配合割合は特に制限されないが、樹脂特性の観点からエチレン性不飽和基を1個以上有するモノマーやオリゴマーに対して、イミド(メタ)アクリレートを5〜90質量%の範囲で使用することが好ましい。この範囲から外れた場合、配合するエチレン性不飽和基を1個以上有するモノマーやオリゴマーの種類によっては、硬化物の耐熱性や密着性が低下することがある。
【0040】
本発明の硬化性樹脂組成物に配合できる重合開始剤としては、特に制限されず、公知の重合開始剤(熱重合開始剤、光重合開始剤等)を使用することが出来る。
具体的には、熱重合開始剤として例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物;1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾジ−t−オクタン及びアゾジ−t−ブタン等のアゾ系化合物;等が挙げられる。
光重合開始剤として例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、メチルベンゾイルホルメート等や、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸アミル、4−ジメチルアミノアセトフェノン等が挙げられる。
これらの重合開始剤はその用途を考慮して、1種又は2種以上使用することが出来る。また、これらの配合割合は特に制限されないが、硬化速度及び硬化物の特性面から、硬化性樹脂組成物100質量部中に0.01〜10質量部が好ましい。
【0041】
本発明の硬化性樹脂組成物に使用できる添加剤は特に制限されず、付加したい特性に合わせて、例えば、シリカ粉末、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム等の無機充填剤;三酸化アンチモン、リン酸エステル、メラミン樹脂等の難燃剤;消泡剤;応力緩和剤;帯電防止剤;レベリング剤;等を添加することができる。
【0042】
本発明において、硬化性樹脂組成物の重合方法は特に制限されず、熱重合法や光重合法を採用できる。この重合反応は、各種溶媒存在下でも行うことが出来る。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン等の溶媒が挙げられる。
【0043】
光重合法で使用する光には、主に活性エネルギー線が使用でき、具体的には紫外線や電子線が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、無電極放電ランプ及びカーボンアークランプ等が挙げられる。また、電子線源としては、例えば、コックロフトワルトシン型、バンデグラフ型、共振変圧器型の照射装置が挙げられる。
【0044】
本発明の硬化性樹脂組成物は、塗料、コーティング剤、接着剤、ドライフィルムレジスト等に利用できる。
【実施例】
【0045】
次に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。
まず、実施例中のイミドアルコール反応率、純度及びエステル転換率の分析方法、及び保存安定性試験方法を以下に記載する。
【0046】
(イミドアルコール反応率、純度及びエステル転換率の分析方法)
イミドアルコール化合物、イミド(メタ)アクリル酸エステルの純度及びエステル転換率の分析条件は以下の通りである。
ガスクロマトグラフィ:GL−Science社製、GC353B
カラム:GL−Science社製、TC−5、0.56mm×30m、df=1.5μm
キャリアガス:ヘリウム
分析温度条件:Injection(250℃)、Column(200℃)、Detection(250℃)
【0047】
(保存安定性試験方法)
直径18mm試験管に試料15g入れ、蓋をして試験管のまわりをアルミ箔で遮光し、60℃の乾燥器で1ヶ月間保存した。その後、色相をハーゼン色数法(JIS K 6901)に従って測定した。
【0048】
<実施例1>
4Lセパラブルフラスコに5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(日立化成工業(株)製、商品名:無水ハイミック酸)1000gとトルエン1300gを入れ、攪拌機、窒素導入管、滴下ろうと、温度計を設置した。窒素を100ml/分で導入、攪拌しながらモノエタノールアミン383.7gを滴下ろうとからゆっくりと滴下した。滴下終了後、滴下ろうとをDean−Stark水分定量器に替えて加温を開始し、反応液温が100±5℃で還流できるようにフラスコ内圧力を60kPa程度に調節した。還流が始まってから、反応で生成する水分を除去しながら引き続き100±5℃の還流条件で反応を続けた。
反応3時間後、理論量の水分が留出したのでガスクロマトグラフィで分析したところ、反応率が99.8%であったので、ここで反応終了とし、常圧に戻した。反応液の一部をロータリーエバポレータで濃縮して、得られたイミドアルコール化合物の純度をガスクロマトグラフィで分析したところ、99.5%であった。
【0049】
上記イミドアルコール化合物の反応終了後、アクリル酸エチル915g、重合禁止剤としてメトキノン0.876gを入れて精留塔(15段)を設置し、乾燥空気を100ml/分で導入しながら液温が75℃になるようにフラスコ内圧力を35kPaに調節して、系内の水分を除去した。系内の水分が300ppm以下であることを確認した後、触媒としてのチタンテトライソプロポキシド8.0gを入れ、反応温度が90±5℃になるようフラスコ内圧力を55kPa程度に制御した。反応液を加熱還流し、精留塔上部の温度(塔頂温度)を監視していると、生成するエタノールとアクリル酸エチル及びトルエンの共沸点に近づいたので、塔頂温度が75℃になるように還流比を調節して、エタノールをアクリル酸エチルとトルエンの共沸物として留去しながら反応を行った。
触媒を加えて4時間ほど経過したころから塔頂温度が上昇し始め、最終的には85℃まで上昇したので、還流比を徐々に大きくして反応を続けた。反応5時間目の反応液をガスクロマトグラフィ分析したところ、エステル転換率が99.2%となったので、反応終了とした。反応液を冷却し、液温が75℃となったところで、17質量%食塩水100gを加えて触媒(チタンテトライソプロポキシド)を加水分解した。15分静置した後、デカンテーションにより有機層をナス型フラスコにとり、ロータリーエバポレータを用いて、過剰なアクリル酸エチル及びトルエンを減圧下留去してから、吸引ろ過によりナスフラスコ内液をろ過して、目的とするハイミック酸イミドエチルアクリレートを1433g得た。
この得られたハイミック酸イミドエチルアクリレートの色相は20(APHA)、純度は98.9%であり、硫黄分測定の結果、硫黄分は検出限界(1ppm)以下であった。また、保存安定性試験後の色相は20(APHA)であった。
【0050】
<実施例2>
イミドアルコール化合物を実施例1と同様に合成した。イミドアルコール化合物の反応終了後、アクリル酸483g、重合禁止剤としてメトキノン0.876g、触媒としてパラトルエンスルホン酸40gを入れて、フラスコ内圧力を53kPaとし、乾燥空気を100ml/分で導入しながら昇温した。反応と共に生成する水を除去しながら、反応温度が90℃になるよう圧力を調節して反応を行った。
3時間後、理論量の水が留出したため、ガスクロマトグラフィによる分析を行ったところ、エステル転換率が99.1%であったので反応を終了とした。反応液を冷却し、40℃以下になったところで、10質量%水酸化ナトリウム水溶液300gで洗浄して過剰なアクリル酸及び触媒(パラトルエンスルホン酸)を除去した。
有機層をさらに17質量%食塩水700gを用いて、水層のpHが8となるまで洗浄した。有機層を1Lナス型フラスコにとり、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を減圧下留去してから、吸引ろ過によりナスフラスコ内液をろ過して、目的とするハイミック酸イミドエチルアクリレートを1321g得た。
得られたハイミック酸イミドエチルアクリレートの色相は40(APHA)、純度は98.6%であり、硫黄分測定の結果、硫黄分は58ppmであった。また、保存安定性試験後の色相は60(APHA)であった。
【0051】
<比較例1>
4Lセパラブルフラスコに5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(日立化成工業(株)製、商品名:無水ハイミック酸)1000gとトルエン1300gを入れ、攪拌機、滴下ろうと、温度計を設置した。大気下、常圧で加温を始め、液温118℃で還流が始まったので、モノエタノールアミン383.7gを滴下ろうとからゆっくりと滴下した。モノエタノールアミン添加後、滴下ろうとをDean−Stark水分定量器に替え、反応で生成する水分を除去しながら引き続き還流条件で反応を続けた。
反応2時間30分後、理論量の水分が留出したのでガスクロマトグラフィで分析したところ、反応率が99.6%であったのでここで反応終了とした。反応液の一部をロータリーエバポレータで濃縮して得られた化合物の純度をガスクロマトグラフィで分析したところ、95.2%であった。
上記イミドアルコール化合物の反応終了後、アクリル酸エチル915g、重合禁止剤としてのメトキノン0.876gを入れて精留塔(15段)を設置し、空気100ml/分を導入しながら液温が75℃になるようにフラスコ内圧力を35kPaに調節して、系内の水分を除去した。系内の水分が300ppm以下であることを確認した後、触媒としてのチタンテトライソプロポキシド8.0gを入れ、反応温度が90±5℃になるようフラスコ内圧力を55kPa程度に制御した。反応液を加熱還流し、精留塔上部の温度(塔頂温度)を監視していたが、温度は下がってこなかったため、チタンテトライソプロポキシドを徐々に添加した。チタンテトライソプロポキシドの全添加量が25gとなったところで塔頂温度が下がり始めたので、添加を止めた。
塔頂温度が、生成するエタノールとアクリル酸エチル及びトルエンの共沸点に近づいたので、塔頂温度が75℃になるように還流比を調節して、エタノールをアクリル酸エチルとトルエンの共沸物として留去しながら反応を行った。しかし、その後すぐに塔頂温度が上がり始めたため、ガスクロマトグラフィによる反応分析を行ったところ、エステル転換率は54.5%であった。このように反応速度が遅いことを確認ししたため、実験を終了した。
【0052】
<比較例2>
イミドアルコール化合物を比較例1と同様に合成した。イミドアルコール化合物の反応終了後、アクリル酸483g、重合禁止剤としてのメトキノン0.876g、触媒としてのパラトルエンスルホン酸40gを入れて、フラスコ内の圧力を53kPaとし、乾燥空気を100ml/分で導入しながら昇温した。反応と共に生成する水を除去しながら、反応温度が90℃になるよう圧力を調節しながら反応を行った。
3時間後、理論量の水が留出したため、ガスクロマトグラフィによる分析を行ったところ、エステル転換率が98.9%であったので反応を終了とした。反応液を冷却し、40℃以下になったところで、10質量%水酸化ナトリウム水溶液300gで洗浄して、過剰なアクリル酸及び触媒を除去した。有機層をさらに17質量%食塩水700gを用い、水層のpHが8となるまで洗浄した。有機層を1Lナス型フラスコにとり、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を減圧下留去してから、吸引ろ過によりナスフラスコ内液をろ過して、目的とするハイミック酸イミドエチルアクリレートを1314g得た。
この得られたハイミック酸イミドエチルアクリレートの色相は、150(APHA)、純度は94.2%であり、硫黄分測定の結果、硫黄分は72ppmであった。また、保存安定性試験後の色相は200(APHA)であった。
【0053】
<比較例3>
4Lセパラブルフラスコに5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(日立化成工業(株)製、商品名:無水ハイミック酸)1000gとトルエン1300gを入れ、攪拌機、窒素導入管、滴下ろうと、温度計を設置した。窒素を100ml/分で導入し、攪拌しながらモノエタノールアミン383.7gを滴下ろうとからゆっくりと滴下した。滴下終了後、滴下ろうとをDean−Stark水分定量器に替えて加温を開始し、液温118℃で還流させた。反応で生成する水分を除去しながら引き続き還流条件で反応を続けた。
反応3時間後、理論量の水分が留出したのでガスクロマトグラフィで分析したところ、反応率が99.8%であったので、ここで反応終了とし、常圧に戻した。反応液の一部をロータリーエバポレータで濃縮して、得られたイミドアルコール化合物の純度をガスクロマトグラフィで分析したところ、99.5%であった。
【0054】
上記イミドアルコール化合物の反応終了後、アクリル酸483g、重合禁止剤としてメトキノン0.876g、触媒としてパラトルエンスルホン酸40gを入れて、フラスコ内圧力を53kPaとし、乾燥空気を100ml/分で導入しながら昇温した。反応と共に生成する水を除去しながら、反応温度が90℃になるよう圧力を調節して反応を行った。
3時間後、理論量の水が留出したため、ガスクロマトグラフィによる分析を行ったところ、エステル転換率が99.0%であったので反応を終了とした。反応液を冷却し、40℃以下になったところで、10質量%水酸化ナトリウム水溶液300gで洗浄して過剰なアクリル酸及び触媒(パラトルエンスルホン酸)を除去した。
有機層をさらに17質量%食塩水700gを用いて、水層のpHが8となるまで洗浄した。有機層を1Lナス型フラスコにとり、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を減圧下留去してから、吸引ろ過によりナスフラスコ内液をろ過して、目的とするハイミック酸イミドエチルアクリレートを1342g得た。
得られたハイミック酸イミドエチルアクリレートの色相は70(APHA)、純度は96.8%であり、硫黄分測定の結果、硫黄分は76ppmであった。また、保存安定性試験後の色相は150(APHA)であった。
【0055】
(硬化性樹脂組成物及び硬化物の作製方法)
上記実施例及び比較例で合成したイミド(メタ)アクリレート50質量部、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業(株)製、商品名:「FA−512AS」)30質量部、ウレタンアクリレート(日本化薬(株)製、商品名:「UA937」)20質量部を混合し、さらに1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名:「イルガキュア184」)3質量部を混合して、光重合硬化性樹脂組成物を得た。次いで、これをMMA樹脂板上に膜厚が50μmとなるようにバーコーターを用いて塗布し、紫外線照射装置(日本電池(株)製、オゾンタイプ高圧水銀灯HALシリーズ)を使用して、照射強度300mJ/cmの紫外線を照射して完全に硬化させ、硬化物を得た。
【0056】
(密着性評価方法)
JIS K 5600−5−6に基づいて、クロスカット−テープ剥離(1mm×100マス)を行い、硬化膜の剥がれ具合により、以下の評価基準に従って評価した。
◎:ほとんど剥がれなし
○:20%程度までの剥がれ
△:50%程度までの剥がれ
×:ほとんど剥がれ
【0057】
(耐熱性評価方法)
上記で得られた光重合硬化性樹脂組成物を、ガラス板上に塗工し硬化させた硬化膜を60℃の乾燥器に入れて1ヶ月間保存した後の着色度合いを目視で観察し、以下の評価基準に従って評価した。
○:ほとんど変化なし
△:多少の着色あり
×:着色あり
【0058】
【表1】

【0059】
以上の結果から、カルボン酸無水物とアミノアルコール化合物とを不活性ガス雰囲気下、温度制御してイミドアルコール化合物を合成し、次いでエステル化反応を行うことで、着色を抑えた高純度イミド(メタ)アクリル酸エステルを得ることができ、それを用いた硬化性樹脂組成物からなる硬化物は密着性、耐熱性に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸無水物にアミノアルコール化合物を反応させてイミドアルコール化合物を得た後、エステル化反応によってイミド(メタ)アクリル酸エステルを得る反応を含むイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法であって、
前記カルボン酸無水物と前記アミノアルコール化合物との反応を、不活性ガス雰囲気下、反応温度を80〜105℃に制御して行うことを特徴とするイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスが、窒素である請求項1記載のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
前記エステル化反応が、低級(メタ)アクリル酸エステルを用いたエステル交換反応である請求項1又は2記載のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
前記カルボン酸無水物にアミノアルコール化合物を反応させてイミドアルコール化合物を得た後、精製することなくエステル化反応を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【請求項5】
前記カルボン酸無水物が、下記一般式(I)又は下記一般式(II)で表される請求項1〜4のいずれか一項に記載のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化1】

(一般式(I)中、Rは水素又はメチル基を示す。)、
【化2】

(一般式(II)中、Rは水素又はメチル基を示す。)
【請求項6】
前記アミノアルコール化合物が、下記一般式(III)で表される請求項1〜5のいずれか一項に記載のイミド(メタ)アクリル酸エステルの製造方法。
【化3】

(一般式(III)中、nは1〜4の整数を表す。)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法により得られるイミド(メタ)アクリル酸エステルを含む硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−286829(P2009−286829A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137975(P2008−137975)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】