説明

イメージング方法及び変位計測方法及び装置、並びに、超音波画像診断装置

【課題】各関心点における実際に生じたビーム方向角度を超音波エコーデータから精度よく求め、その高精度なビーム方向における変位や速度、歪の計測を実現する。
【解決手段】変位計測方法は、超音波ステアリングビームで計測対象物を横軸方向に走査して超音波エコーデータフレームを生成するステップ(a)と、複数の異なる時相において生成される超音波エコーデータに対して、重心周波数が3次元周波数ベクトル(fx,fy,fz)を表す場合に、回転角φ=tan-1(fy/fx)、極角θ=cos-1[fz/(fx2+fy2+fz21/2]、周波数(fx2+fy2+fz21/2に基づいて、各関心点におけるビーム方向及び該ビーム方向における周波数を求めるステップ(b)と、各関心点の複数の異なる時相間の該ビーム方向における変位を算出するステップ(c)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体、物質、材料、生体等の計測対象物内部の力学的な特性や物理量(変位、歪、速度、加速度等)を非破壊で定量的に計測する変位計測方法及び変位計測装置に関し、例えば、加圧源又は加振源、放射圧等の力源により対象物に力を作用させ、これにより対象物内部に生ずる変位ベクトル分布ないし歪テンソル、歪速度テンソル、加速度ベクトル等を計測するために適切にビームフォーミングを行い、その上でエコーデータやイメージングデータを生成する新しい方法及び装置に関する。また、自ら動く組織(心臓、肺壁等)や、体動や呼吸、心拍や脈拍等を力源として動く組織も対象とすることができ、無論、心腔や血管内の血流ベクトルの計測にも使用できる。これらの同時計測が行われることもある。また、これらの計測結果より、力学的な特性や熱物性の計測等が行われることもあり、応用範囲は多義にわたる。
【0002】
典型的な応用分野としては、生体内部を観察する超音波診断装置、核磁気共鳴撮像装置、光学診断装置等(ガン病変、梗塞症、硬化症、血栓、血行動態、酸素飽和度等の診断)、放射線治療等の医療分野において、組織の変形能や血行動態や動態能を見て診断できるだけでなく、治療部位等の組織変位をトラッキングすることにより各種治療の安全性や信頼性を確保できると共に治療効果を向上させることができる。関心部位の治療効果として組織変性をモニタリングする手段にも適用される。但し、本発明はこれらに限られるものではなく、非破壊的計測法として、様々な対象において、その評価、検査、診断等に適用することができる。
【背景技術】
【0003】
例えば、医療分野においては、放射線治療、強力超音波照射、レーザ照射、電磁RF波照射、電磁マイクロ波照射、冷凍(冷却)治療等により、病変部の治療を施すことが提案されている。この場合には、上記のトラッキングと治療効果を非侵襲的にモニタリングを行うことが提案されている。また、抗癌剤等の薬剤投与の効果等を非侵襲で観察することが提案されている。例えば、放射線治療等を施すと、病変部の温度が変化することから、その変性(温度変化を含む)を非侵襲により計測できれば、治療効果をモニタリングできる。或いは、病変部の血流の観測により病変の進行を鑑別する等の診断にも役立ち、病変部や治療部位の生体組織の関心部位に作用する力によって生じる、その関心部位の変位や歪やその変化を計測し、その計測結果に基づいて、例えば弾性係数等の生体組織の性状を求め、関心部位を含む組織性状の違い等に基づいて診断及び治療の効果等を観察する技術が提案されている。
【0004】
ところで、対象物の関心部位の温度は、その部位の弾性率、粘弾性率、弾性率と粘弾性率に関わる遅延時間や緩和時間、密度、粘性等に相関することが知られている。したがって、対象物内部のずり弾性率やポアソン比等の弾性率、粘ずり弾性率や粘ポアソン比等の粘弾性率、これらの各弾性率と対応する粘弾性率に関わる遅延時間や緩和時間、密度、粘性等を非破壊で計測することができれば、関心部位の温度又は温度分布を計測することができる。ここで、ずり弾性率及び粘ずり弾性率は、それぞれ、せん断弾性率及び粘せん断弾性率とも称される物性量である。また、温度変化に伴い計測される歪分布を用いて温度分布を直接的に推定することができ、これらの方法により、温度分布が計測されれば、各種加熱治療のモニタリングや、熱物性分布を求めることにより治療プランニングに応用することもできる。
【0005】
一方、医療分野で用いられている超音波診断装置は、超音波探触子(以下、単に「探触子」という)等の超音波トランスデューサから超音波を生体内に送信し、生体内から反射される超音波エコー信号(以下、単に「エコー信号」という)を超音波探触子により受信し、受信したエコー信号に基づいて生体内の組織等の分布を計測して、観察可能な画像等に変換するものである(ここで、超音波トランスデューサには様々な開口形状のものや様々な素子が使用されたものが存在し、また、生成することができるが、特にどのタイプかに限定されるものではない)。従って、任意の力源により生じた変位を計測することにより、あるいは計測した変位データに基づいて歪テンソルや弾性定数分布等を求めることにより、肝臓ガン等のような病変組織と正常な生体組織の違いを外部から非侵襲で観察することができる。
【0006】
また、低周波振動や放射圧等の周波数成分を持つ力源を使用した場合に生じるずり弾性波の伝搬速度分布を計測して、これより、ずり弾性率分布を計測イメージングすることも行われている。その伝搬速度の計測には、変位計測を行うために使用される計算方法が使用される(瞬時位相の変化の計測)。但し、変位(歪)波の及んだ場所を実時間計測すればよく、フレーム間の瞬時位相の変化の有無を検出できればよい。従って、その瞬時位相の変化の計測精度まで追求されないことが多い(位相変化を求めるための処理対象であるエコー信号にコヒーレンス性が有ることを求められないことがある)。すなわち、組織変位の高精度計測を行うことは、この場合、ずり波の詳細且つ高精度計測を行うことに該当する。但し、低周波振動を印加した場合は特にそうであるが、反射現象により定在波が生じると計測が困難となる。また、ずり波の波長そのものが長いため、ずり波伝搬速度を使用する方法の固有の限界として空間分解能が低い。
【0007】
このことから、従来、超音波を時間間隔をおいて複数回送信し、前回送信時のエコー信号と今回送信時のエコー信号の変化に基づいて、生体内の各部の変位を計測することが提案されている。そして、計測された各部の変位に基づいて歪等の生体内部の力学的物理量を求め、これに基づいて組織性状の異同の分布を非侵襲で診断することが提案されている。具体的には、対象物内に3次元、2次元、又は、1次元の関心領域を設定し、その関心領域内に生じた3次元変位ベクトルの3成分、2成分、又は、1成分(の分布)を計測する。そして、計測された変位データ、及び変位データに基づいて評価される歪データから、関心領域内の弾性定数分布等を演算により求めることが行なわれている。
【0008】
なお、探触子は、変位ないし歪センサとして機能するものであるが、変位・歪センサとしては、超音波探触子に限らず、磁場や光、レーザの検出素子等、周知のものを適用できる(接触又は非接触)。また、力源としては、超音波探触子そのものを加圧源又は加振源とすること、加圧・加振源として別の力源を適用すること、又は、生体内の心臓の動きや心拍を力源とすることがある。また、放射圧が使用されることもある。また、超音波探触子を変位又は歪センサとして用い、照射する超音波によって関心領域が変形する場合には、関心部位を変形させる格別な力源を設ける必要はない。また、組織性状の違いには、弾性定数のほか、治療により変化した弾性定数や上昇した治療部位の温度や熱物性等が含まれる。
【0009】
しかし、最も古典的な従来の変位計測においては、超音波ビーム方向のみの変位が生じているものとして超音波エコー信号(直交検波や包絡線検波したものや複素解析信号を含む。以下、同様)のビーム方向の1次元処理を行うことにより変位成分を求めていることから、超音波ビーム方向に直交する方向の変位成分が存在する実際の計測においては、ビーム方向の変位成分の計測精度は低い(非特許文献1)。また、その直交する方向の変位成分の計測も不可能である。その様な意味では、心腔内や体表と平行して走行する血管内の血流を精度よく計るには限界があり、また、対外からの変形制御が困難である部位や心拍等と同期して変形するためにやはり制御が困難となる組織(深部組織でいうと肝等)を対象とすることは難しくなることがある。
【0010】
これに対して、超音波エコー信号の多次元(つまり、3次元又は2次元)相互相関や超音波エコー信号の多次元クロススペクトラムの位相の勾配を求め、この位相の勾配から変位ベクトルを求める方法を本願発明者は提案している(非特許文献1、非特許文献2等)。また、本願発明者は、多次元解析信号を用いる場合において使用できる多次元自己相関法や多次元ドプラ法等も提案している(非特許文献3等)。これらは、目的に合う様に、計測精度及び計算時間等を指標として、使い分けされ、また、適切に組み合わせて使用されることもある。
【0011】
また、これらの多次元の計測方法に加えて、本願発明者の発明した多次元位相マッチング法が有効である(非特許文献1〜5)。この多次元位相マッチングとは、ビーム方向の大変位によるエイリアシングを回避するだけでなく計測対象の全ての方向の計測精度を向上させるべく、同エコーフレーム間においてこれらの多次元の方法(多次元相互相関法又は多次元クロススペクトラム位相勾配法)を用いて得られた粗い(coarse)計測結果を用いて、多次元空間(すなわち、走査方向やエレベーション方向にも)において、対応する組織からのエコーの粗い(coarse)マッチングを行って信号間の相関性やコヒーレント性を向上させた上で、前記多次元クロススペクトラム位相勾配法や多次元自己相関法や多次元ドプラ法等の多次元の方法を用いて多次元変位ベクトルを細かく(fine)計測する(非特許文献1〜3)か、又は、計測精度は低下するもののその粗い(coarse)計測後に多次元の方法の代わりに1次元処理等の低次元処理を用いてビーム方向のみの変位計測が行われたり(非特許文献4、5等)、又は、それらの粗い(coarse)計測では各方向に1次元エコーデータが使用される等されている。
【0012】
クロススペクトルの位相の勾配を使用する場合、特に、粗い計測に使用する場合においては、エコーデータを間引き、粗いサンプリング間隔でエコーデータを処理することがある(非特許文献3)。位相マッチングそのものは、周波数空間で複素エクスポネンシャルを用いた位相の回転を行う方法(非特許文献1〜5)があるが、計算時間を要するため、この点においては、空間領域において探索領域内又は局所領域内のエコーデータをシフティングする方法が良い(非特許文献1〜5)。クロススペクトルの位相の勾配から変位成分を求めた場合は、計測結果がアナログ値であるので、エコーデータのサンプリング間隔の整数倍に近似した上で、シフティングを行う(相互相関関数を使用した場合は変位成分の計測結果は元よりエコーデータのサンプリング間隔の整数倍である)。クロススペクトルを使用した方が相互相関関数を使用する場合よりも演算量は少なく、より実時間性に富む。
【0013】
これらによれば、例えば、加圧器又は加振器(探触子が兼ねることがある)の他に、放射圧(探触子が送受信することがある)等の他の力源や、対象物内に制御不可能な力源(生体観察の場合には、例えば、心拍、呼吸、血管、体動等。肺、空気、血管、血液等は関心領域に含めることが多い)が存在する場合でも、変位ベクトルやビーム方向の変位成分を計測することが可能である。この様に、多次元位相マッチングは、取得したエコーデータが取り損ねとなることを回避するものである。なお、これらの多次元変位ベクトル計測法は1次元の方法と同様に実時間の表示を可能とする高速演算を行うものである。
【0014】
しかし、その様なマッチングを行ったとしても、超音波ビーム方向に直交する方向の変位成分が残る限り、それらの計測精度は低くなる。すなわち、それらの計測精度はマッチングの粗さの如何による。また、特に変位ベクトル計測を行う場合においては、通常の診断装置を用いた場合に、横方向にはキャリア周波数を有さないこと、及び、ビーム幅が広く横方向はビーム方向に比べて帯域が狭いことから、超音波ビーム方向に直交する方向の変位成分計測の精度及び空間分解能が低くなる。従って、多次元の変位ベクトル及び多次元の歪テンソル成分の計測精度は、超音波ビームの走査方向の変位成分の計測精度に大きく依存して低いという問題を生じる。
【0015】
これに関して、本願発明者は、走査方向やエレベーション方向にもキャリア周波数を持つエコーを生成して、前記変位ベクトル計測を適用することにより、格段に精度の高い計測を既に実現した。その場合に、走査方向やエレベーション方向の変位成分のみならず、ビーム方向の変位成分の計測精度をも向上せしめた。いわゆる、横方向変調である(例えば、非特許文献3、非特許文献6、非特許文献7等)。ジェンセン(Jensen)らの様に、所望する点拡がり関数を生成するべくフラウンホーファー(Fraunhofer)近似に基づいてアポダイゼーション関数を決定するものもあれば(非特許文献8、非特許文献9)、本願発明者による最適化理論に基づいてアポダイゼーション関数を決定するものもある(非特許文献10、非特許文献11等)。また、超音波の伝搬特性に関する知見に基づいて、アポダイゼーション関数を決める試みも行われており(例えば、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献12等)、べき乗関数を応用すると良いこと等も確認されている。上記の横方向変調であれば、エコーイメージングにも使用でき、ビーム方向の周波数と同程度の高い周波数を横方向に持たせることができる。これより、横方向変調方式が超音波診断装置の1つの基本動作モードとなることが期待されている。
【0016】
その際の送受信のビームフォーミングには、1セットのエコーデータにおいてモノスタティック(monostatic)又はマルチスタティック(multistatic)の開口面合成が行われることもあれば、同一の時刻に交差ビームを送波して同交差ビームを受波することもあれば、同時刻に交差する偏向平面波を送波して広い領域から得た受波ビーム群を重ね合わせる(高速ビームフォーミング)こともあれば、これらの交差ビームを異なる物理開口を用いて実現して重ね合わせる、又は、交差ビームを異なる時刻に得たもので重ね合わせることもあり、本願発明者は色々な方法を実現した(非特許文献6)。アポダイゼーション(すなわち、ビーム形状)を考慮せずにこの横方向変調を行うこともあろうが、上記の最適化したアポダイゼーションを行うと広帯域のエコーを得ることができ、高分解能の変調超音波画像が得られると共に変位ベクトル計測の精度も向上する。
【0017】
この横方向変調においては、アポダイゼーションを施すにせよしないにせよ、3次元エコーデータフレーム(すなわち、3次元変位計測のための解析対象となる超音波エコーの3次元データ)を得るためには4方向又は3方向から偏向させて重ね合わせた交差ビームが必要であり、2次元エコーデータフレーム(すなわち、2次元変位計測のための解析対象となる超音波エコーの2次元データ)を得るためには2方向からの交差ビームが必要である(非特許文献3)。なお、本願においても、通常の場合と同様に、連続して生成されることのある3次元又は2次元のエコーデータフレームの個々は、近似的に、とある時相の組織の分布状態を表すエコーデータフレームとして扱われ、それらのフレーム間の時間の逆数をフレームレートという。従って、それら3次元又は2次元のエコーデータフレームの個々を異なる時相のものとして扱うためには、組織変位が存在することを考えると、極力短時間に受信された複数又は単数のエコーデータから生成されることが望ましい。以下、本願に記載される時相は、この意味で使われる。
【0018】
その組織変位ベクトル計測には、多次元クロススペクトラム位相勾配法(非特許文献1、2)、多次元自己相関法(非特許文献3)、多次元ドプラ法(非特許文献3)、多次元相互相関法(非特許文献1、2)等を使用できるが、これらは、いずれも、全方向の変位成分を同時に算出できる方法であり、複数の時相におけるエコーデータフレーム間の組織変位ベクトルの分布を算出できるものである。移動平均処理等を含めて、全ての処理が多方向に変位成分が存在することを前提としているため、非常に高い計測精度が得られる(非特許文献13)。同エコーデータフレームに、Demodulation(特許文献1)を施し、各方向のみに搬送周波数を持つエコーデータフレームを生成して、一方向変位計測法を使用することもできる。Demodulation法には、1つの時相において複数枚のエコーデータフレームを送受信により生成するアナログの方法(非特許文献14、15)があるが、異なる時刻に生成したビームのエコー信号を使用した場合には、その間における組織変位が計測誤差となり、また、対象の動きがビーム走査に比べて至極早い場合にも計測精度が低くなる。これに対し、本願発明者が実現したDemodulation(特許文献1)は、1つの時相において1枚のエコーフレームを生成すれば、残りは全てディジタル信号処理で済むため、精度が高い。しかし、そのアナログの方法とディジタルの方法とに共通する問題として、搬送周波数を持つ方向に直交する方向の変位があるため、計測精度が低下するのを防ぐべく移動平均処理を多次元処理にしても、達成できる精度は多次元変位ベクトル計測法を使用した場合に比べると低い(非特許文献13)。
【0019】
また、ビームフォーミングの点からすると、これらの横方向変調を行うと、1つの超音波エコーデータフレーム(すなわち、上記の超音波エコーの3次元又は2次元データ)を得るのに通常の正面放射の場合の数倍多くのビームを生成しなければならず、そのために多くの時間を要するし、これに加えて、エコーデータを収集するためやエコーデータを生成するための信号処理(アポダイゼーション、スイッチング、遅延処理、位相整合、加算処理等)の量が多くなるため時間をさらに要することとなり、フレームレートが低下してしまうことがある。さらに、開口面合成処理により横方向変調を実現する際は、開口面合成の特徴として受信時のダイナミックフォーカシングに加えて送信時のダイナミックフォーカシングも実現できるが、一素子ごとの送信パワーが弱い場合には、得られるエコー信号のSN比が低くなる問題を生じる。また、深部の組織を対象とする際には、通常の物理開口からの正面放射を行う場合と比べて広い物理開口を要するため、体表付近の骨等が障害物となる場合には、深部の組織を対象とすることができない。また、横方向やエレベーション方向の視野領域も狭くなる。
【0020】
この他に、変位ベクトルの高精度計測には、上記の如く、多方向にビームを実現し、これを重ね合わせることなく、各々のビーム方向のエコーデータを用いて高精度に計測されたその方向の変位成分を合成することで高精度な変位ベクトル計測を実現する方法がある(本願においては、多方向ビームフォーミング法と称す。非特許文献3参照)。各ビーム方向における変位計測には、横方向変調法の時と同様に、一方向変位計測法ではなく、上記の多次元ベクトル計測法を使用した方が良い(非特許文献3)。すなわち、各ビーム方向に直交する方向の変位成分が存在することを考慮した方が良い。しかし、横方向変調の場合と同様に、フレームレートが低くなることがある。また、これらのビームフォーミングにおいて、異なる時刻に生成したビームのエコー信号を使用した場合には、その間における組織変位が計測誤差となり、また、対象の動きがビーム走査に比べて至極早い場合にも計測精度が低くなる。
【0021】
このような点に鑑み、その後、本願発明者は、ビームフォーミングに時間を要さずに、また、1つのエコーデータフレームを生成する間の組織変位による誤差を最小限にとどめることのできるビームフォーミング法に基づいて、実時間の高精度な変位ベクトル又は1方向変位の計測を実現することを可能とした(特許文献1、非特許文献16等)。
【0022】
特許文献1に開示された変位計測方法は、計測対象物の略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とさらにこれらの方向に略直交するエレベーション方向とを3軸とする3次元の直交座標系、又は、略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とを2軸とする2次元の直交座標系を取り、少なくとも1素子の超音波素子を使用して、1つのステアリング角度を有する超音波ステアリングビームで計測対象物を横軸方向に走査することにより得られる3次元又は2次元の超音波エコーデータフレームを電子的及び/又は機械的に生成するステップ(a)と、2以上の異なる時相において生成される前記超音波エコーデータフレームに所定のブロックマッチングを施して、変位ベクトル分布を算出するステップ(b)とを具備する。
【0023】
その際の送受信のビームフォーミングには、1セットのエコーデータにおいてモノスタティック(monostatic)又はマルチスタティック(multistatic)の開口面合成が行われることもあれば、偏向ビームを生成して走査することもあれば、座標系に依存するが、例えば、デカルト座標系においては、同一の時刻又は同一の時相において正面方向又は偏向した平面波等(複数回の場合もある)を送波して広い領域から得た受波エコー信号から偏向受波ビーム群を生成することもあれば(高速ビームフォーミング:任意の座標系において言うならば、同一の時刻又は同一の時相においてその軸方向に直交する横方向に広く拡がる波を軸方向に、又は、軸方向に対して偏向した任意方向に直交する座標得軸方向に広く拡がる波をその偏向方向に送波する、複数回の場合もあり)、その他にも、色々な形態を取ることができる。機械走査単独、又は、電子走査と併せて行うこともある。1つのステアリング角度を有する超音波ステアリングビームで計測対象物を横軸方向に走査することにより得られる3次元又は2次元の超音波エコーデータフレームを電子的及び/又は機械的に生成することが行われる。
【0024】
また、特許文献1に開示された変位計測装置は、単数又は複数の駆動信号に従って超音波を送信すると共に、超音波エコーを受信して単数又は複数の受信信号を出力する単数又は複数の超音波振動子を含む超音波探触子と、単数又は複数の駆動信号を生成すると共に、単数又は複数の受信信号を処理する駆動・出力調整手段と、計測対象物の計測対象物の略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とさらにこれらの方向に略直交するエレベーション方向とを3軸とする3次元の直交座標系、又は、略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とを2軸とする2次元の直交座標系を取り、1つの偏向角度を有する超音波ステアリングビームで計測対象物を横軸方向に走査することにより得られる3次元又は2次元の超音波エコーデータフレームを電子的及び/又は機械的に生成するように各部を制御する計測制御手段と、2以上の異なる時相において生成される超音波エコーデータフレームに所定のブロックマッチングを施して、変位ベクトル分布を算出するデータ処理部とを具備する。
【0025】
その際の送受信のビームフォーミングには、1セットのエコーデータにおいてモノスタティック(monostatic)又はマルチスタティック(multistatic)の開口面合成が行われることもあれば、偏向ビームを生成して走査することもあれば、座標系に依存するが、例えば、デカルト座標系においては、同一の時刻又は同一の時相において正面方向又は偏向した平面波等(複数回の場合もある)を送波して広い領域から得た受波エコー信号から偏向受波ビーム群を生成することもあれば(高速ビームフォーミング:任意の座標系において言うならば、同一の時刻又は同一の時相においてその軸方向に直交する横方向に広く拡がる波を軸方向に、又は、軸方向に対して偏向した任意方向に直交する座標得軸方向に広く拡がる波をその偏向方向に送波する、複数回の場合もあり)、その他にも、色々な形態を取ることができる。機械走査単独、又は、電子走査と併せて行うこともある。1つのステアリング角度を有する超音波ステアリングビームで計測対象物を横軸方向に走査することにより得られる3次元又は2次元の超音波エコーデータフレームを電子的及び/又は機械的に生成することが行われる。
【0026】
特許文献1に開示されたビームフォーミング法は、通常において使用されるアポダイゼーション、スイッチング、遅延処理、位相整合、加算処理等、また、時には機械走査を行い、これらを基礎として、計測対象物の3次元関心空間、又は、2次元又は横方向を主とした1次元関心領域に、ある1つの偏向角度を持った超音波偏向ビームを送信し、前記計測対象物において発生する超音波エコーを同一の偏向角度のビームとして取得する、いわゆるステアリングビームを基礎として使用し、必要に応じてそのビームで計測対象物を走査した状態にて得られるエコーデータフレーム(3次元又は2次元)を得て、これとは異なる時相において得られた同ステアリングビームとの位相差又は同エコーデータフレームとの位相差に基づいて、上記変位ベクトル計測法又は1方向変位計測法と適切に組み合わせて使用することにより、局所変位ベクトル又は横方向を主とした局所1方向変位、又は、その分布の計測を可能とした。また、本願発明者は、変位ベクトル計測のために、スペクトルを周波数空間で分割し、分割されたスペクトル(から得られる多次元解析信号)の各々から組織変位ベクトル成分に関するドプラ方程式を得るという多次元自己相関法や多次元ドプラ法を応用した方法(スペクトル周波数分割法)も発明した。
【0027】
その際の送受信のビームフォーミングには、1セットのエコーデータにおいてモノスタティック(monostatic)又はマルチスタティック(multistatic)の開口面合成が行われることもあれば、偏向ビームを生成して走査することもあれば、座標系に依存するが、例えば、デカルト座標系においては、同一の時刻又は同一の時相において正面方向又は偏向した平面波等(複数回の場合もある)を送波して広い領域から得た受波エコー信号から偏向受波ビーム群を生成することもあれば(高速ビームフォーミング:任意の座標系において言うならば、同一の時刻又は同一の時相においてその軸方向に直交する横方向に広く拡がる波を軸方向に、又は、軸方向に対して偏向した任意方向に直交する座標得軸方向に広く拡がる波をその偏向方向に送波する、複数回の場合もあり)、その他にも、色々な形態を取ることができる。開口面合成を行った場合は、その特徴として、受信時のダイナミックフォーカシングに加えて送信時のダイナミックフォーカシングも実現できる。機械走査単独、又は、電子走査と併せて行うこともある。1つのステアリング角度を有する超音波ステアリングビームで計測対象物を横軸方向に走査することにより得られる3次元又は2次元の超音波エコーデータフレームを電子的及び/又は機械的に生成することが行われる。本願においては、そのようなビームフォーミング法を、一方向ステアリング角度ビームフォーミング法と称す。
【0028】
このビームフォーミング法は、非特許文献6に記載されているように、方向の異なる複数のステアリングビームを生成する必要がなく、ビーム走査による1エコーデータフレームを得る間の組織変位による影響(誤差)を最小に留めたものである。また、該ビームフォーミングが必ずしも最良の計測及びイメージングを実現するとは限らず、該ビームフォーミングを実現できるハードウェア構成で実行可能な、横方向変調法(特許文献1:欠点の解決に新しい仮想音源や仮想受信機を使用する)や、超音波トランスデューサの物理開口からの正面方向へのビーム放射を行う機能等の他のビームフォーミングも、変位計測法と併せて選択できる。また、特許文献1に開示された超音波診断装置は、それらのビームフォーミング及び変位計測法の選択機能を具備する。さらに、任意方向の広い関心領域に渡り、同一時刻又は同一の時相において超音波が送波されたり、開口面合成が行われることもある。その他の仮想音源が使用されることもあり(例えば、特許文献1を参照)、また、高速イメージングのためのその他のビームフォーミング方法が応用されることもある。
【0029】
特許文献1によれば、1方向に偏向したステアリングビームでスキャンするビームフォーミングを基礎とし、さらに、適宜、エコー信号に所定の処理を施した上で前記変位計測法と適切に組み合わせることにより、実時間の高精度な変位ベクトル又は横方向を主とした1方向変位の計測を実現する新しい変位計測方法、変位計測装置、及び超音波診断装置を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開2011−78744号公報
【非特許文献】
【0031】
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【非特許文献2】C. Sumi, "Fine elasticity imaging on utilizing the iterative rf-echo phase matching method," IEEE Trans. on Ultrasonics, Ferroelectrics and Frequency Control, vol. 46, no. 1, pp. 158-166, January 1999
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【非特許文献4】炭、河野、鈴木、「生体軟組織の3次元せん断弾性定数空間分布イメージングの実現に向けて、」、日本音響学会1999年秋季研究発表会講演論文集, pp. 1201-1202, 1999年9月. (C. Sumi, T. Kouno, Y. Suzuki, "3D imaging of shear modulus distribution in living soft tissues," pp. 1201-1202, Sep 1999.)
【非特許文献5】C. Sumi, T. Ebisawa, "Phantom experiments of axial strain measurements using multidimensional autocorrelation method, multidimensional Doppler method and direct strain measurement method," Acoustical Science and Technology vol. 30, no. 2, pp. 117-123, 2009
【非特許文献6】C. Sumi et al, "Effective lateral modulations with applications to shear modulus reconstruction using displacement vector measurement," IEEE Trans. on Ultrasonics, Ferroelectrics and Frequency Control, vol. 55, pp. 2607-2625, Dec. 2008
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【非特許文献8】J. A. Jensen, "A new method for estimation of velocity vectors," IEEE Trans. Ultrason., Ferroelect., Freq. Contr., vol. 45, pp. 837-851, 1998
【非特許文献9】M. E. Anderson, "Multi-dimensional velocity estimation with ultrasound using spatial quadrature," IEEE Trans. Ultrason., Ferroelect., Freq. Contr., vol. 45, pp. 852-861, 1998
【非特許文献10】C. Sumi et al, "A demonstration of optimal apodization determination for proper lateral modulation," Jpn, J. Appl. Phys., vol. 48(7B), July 2009
【非特許文献11】C. Sumi et al, "Proper Analytic Point Spread Function for Lateral Modulation," Jpn, J. Appl. Phys., vol. 49(7B), 07HF07, July 2010
【非特許文献12】C. Sumi, "Increasing accuracy of tissue shear modulus reconstruction using ultrasonic strain tensor measurement - Regularization and lateral modulation," in Acoustical Imaging, vol. 29, pp. 59-69, Springer, 2008
【非特許文献13】C. Sumi et al, "Ultrasonic agar phantom experiment for comparison of measurement accuracy of tissue elasticity obtained by displacement vector measurement using lateral modulation with multidimensional autocorrelation and Doppler methods and corresponding one-dimensional methods, Jourinal of Reports in Medical Imaging, vol. 4, 2011 (in press)
【非特許文献14】J. A. Jensen, "A new estimator for vector velocity estimation," IEEE Trans. Ultrason., Ferroelect., Freq. Contr., vol. 48, pp. 886-894, 2001
【非特許文献15】M. E. Anderson, "A heterodyning demodulation technique for spatial quadrature," in 2000 IEEE Ultrasonics Symposium
【非特許文献16】炭、他、「座標回転による組織内変位ベクトル計測の高精度化」、電子情報通信学会超音波研究会資料、US2010-82、pp. 25-32、2010年11月
【非特許文献17】C. Sumi, "Usefulness of Ultrasonic Strain Measurement-Based Shear Modulus Reconstruction for Diagnosis and Thermal Treatment," IEEE Trans. Ultrason., Ferroelect., Freq. Contr., vol. 52, pp. 1670-1689, 2005
【非特許文献18】C. Sumi and H. Yanagimura, "Reconstruction of thermal property distributions of tissue phantoms from temperature measurements-thermal conductivity, thermal capacity and thermal diffusivity," Phys. Med. Biol., vol. 52, pp. 2845-2863, 2007
【非特許文献19】Y. Yamakoshi, J. Sato, and T. Sato, "Ultrasonic imaging of internal vibration of soft tissue under forced vibration," IEEE Trans. Ultrason., Ferroelect., Freq. Contr., vol. 37, pp. 45-53, 1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
しかしながら、上記の横方向変調法以外のビームフォーミング、すなわち、多方向ビームフォーミング、一方向ステアリング角度ビームフォーミング法、正面方向のビームフォーミング法、及び、その他のビームフォーミング法に基づく組織変位計測においては、ビーム方向角度に関して精度がないままに処理されていたために、計測精度が低くなることが、本願発明者によって確認された。計算に使用されるその角度は、通常、ビームフォーミング時にアレイ素子群の各素子に遅延時間を設けて設定したものであり、超音波素子の指向性から誤差が生じ、また、超音波素子の指向性や、計測対象内における散乱や反射の方向、減衰、これらによる周波数変調の影響が全く考慮されておらず、実際に実現されたビームの方向が使用されているわけではない。実際に生成されたビームの方向が位置により変化することも考慮されていなかった。この問題は、上記の全方向の瞬時周波数を評価する場合の横方向変調法を使用しない、全ての変位計測法において生じる。すなわち、ビーム方向の変位や速度、歪を計測するために最も一般的に使用されてきたドプラ法や自己相関法においても、同様の問題が生じる。
【0033】
本発明が実施される前においては、ステアリングビームを使用した場合において、ビームフォーミング時又はビームフォーミング後に、ビーム方向を座標軸の1つとして軸方向に取り直すべく、その設定した精度の低いステアリング角度データを用いて座標の回転を計算時間を要して行う必要があった。その座標回転には、周波数空間で複素エクスポネンシャルを用いた位相の回転を行う方法(特許文献1)があり、ナイキスト定理の範囲において誤差を生じさせない方法があるが、通常は、線形補間等の補間近似に基づいて計算することにより計算時間を短縮化することが行われている。この補間近似は、空間領域や周波数領域で行われることがある。しかし、これらの座標回転の計算を伴う場合には、実質的に実時間性が失われ、使用するステアリング角度データの精度が低いことに加え、近似計算を行った場合には、計測誤差を生じる。また、精度を追求すると計算時間がかさむので、1つのステアリングビームに対して1つ以上のビーム角度データが使用されることもなかった。つまり、ビーム方向に関して空間分解能が必要とされることは見出されていなかった。
【0034】
また、エコーイメージングに関し、横方向変調を1つの動作モードとする場合においては、上記の幾つかのエコーデータフレームの生成法があるが、開口面合成と複数の交差ビームの同時送信受信以外においては、その生成に時間を要する。通常のビームフォーミングに比べて処理が多く、特に、異なる時間に得たビームから交差ビームを得る場合においては、その時間差内の組織変位がエコー画像を劣化させるし、これを用いた組織変位計測においては精度も低下する。そこで、本願発明者は、単一ステアリング角度ビームフォーミングにおいてミラーセッティングを行う方法(特許文献1)を発明したが、得られる画像は、局所局所において鏡上に写したエコー画像であり、あくまでも、変調されている様に見える擬似画像である。そこで、本願発明者は、通常の正面方向のビームフォーミング、又は、この単一ステアリング角度ビームフォーミング法を基礎とした上で、横方向変調を実現することが必要であると考えた。
【課題を解決するための手段】
【0035】
このような点に鑑み、本発明の1つの観点に係る変位計測方法は、まず、一方向ステアリング角度ビームフォーミング法、正面方向のビームフォーミング法、又は、その他のビームフォーミング法に基づく組織変位計測において、各関心点における実際に生じたビーム方向角度を超音波エコーデータから高精度で求め、超音波素子の指向性や、計測対象内における散乱や反射の方向、減衰、これらによる周波数変調の影響を考慮して、その高精度なビーム方向の変位成分や速度成分、又は、歪成分の計測を実現する。この変位計測方法には、本願発明者が開発した多次元自己相関法や多次元ドプラ法(移動平均処理は多次元処理)、又は、本願発明者が発明したスペクトル周波数分割法(特許文献1及び非特許文献16等:1つのビームに多次元自己相関法又は多次元ドプラ法を使用する)等が含まれる。
【0036】
さらに、本発明においては、横方向にも周波数が存在することが加味されており、本願発明者の開発した多次元自己相関法や多次元ドプラ法(移動平均処理は多次元処理)、又は、本願発明者の発明したスペクトル周波数分割法(特許文献1及び非特許文献16等:1つのビームに多次元自己相関法又は多次元ドプラ法を使用する)等が含まれる(移動平均等は多次元処理)。また、一方向変位計測法が使用されることもある(移動平均処理は多次元で行うことが好ましい)。但し、スペクトル周波数分割法においては、この高精度な角度データを使用する場合には計算時間を要しても計測精度を追求する価値のある場合が有り、その場合には、該一方向変位計測又は該変位ベクトル計測のために座標回転処理を行うことも含まれる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の1つの観点によれば、一方向(ほとんどが、横方向か深さ方向)の高精度な変位計測を実現することができる。また、多方向ビームフォーミング法においては、使用する各ステアリングビームに本発明を適用することにより、精度の高いビーム方向の変位成分を高精度で計測し、それらを合成して任意方向の変位ベクトルの高精度な計測を実現することができる。
【0038】
本発明が実施される前においては、ビームフォーミング時又はビームフォーミング後に、ビーム方向を座標軸の1つとして軸方向に取り直してその方向の変位成分の高精度計測を行うべく座標の回転を計算時間を要して行う必要があったが、本発明によれば、その座標回転処理を行うことなく同目的を達成することにより、実時間で高精度な計測を実現することができる。つまり、特許文献1の発明を応用すれば、ビーム方向角度には空間分解能があり、まずのところ、各位置でその角度データを用いて座標回転を行うことは有用であるが、さらに、本発明によれば、各関心点において行われるビーム方向角度の高精度な計測に基づいて軸方向を定め、各関心点で求められる瞬時位相の変化とその方向の瞬時周波数を使用してその方向の変位成分を求めることにより、回転処理を全く行うこと無く実時間の高精度計測が実現される。
【0039】
また、エコーイメージングに関し、横方向変調を1つの動作モードとする場合においては、上記の幾つかの横方向変調エコーデータフレームの生成法があるが、通常の正面方向のビームフォーミング又はこの単一ステアリング角度ビームフォーミング法を基礎とした場合においても、本発明は短時間に容易に横方向変調を実現することができる。さらに、非特許文献3、6、7等に記載の横方向変調を行った場合を含め、ビームフォーミング後において正弦変調と余弦変調を可変とすることも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るイメージング及び変位計測装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】変位・歪検出センサの機械走査機構の動作を説明するための図である。
【図3】ビームフォーミングを実現するためのアポダイゼーション、スイッチング、遅延処理、位相整合、加算処理を行う構成要素の例を示す図である。
【図4】本発明に適用可能な変位・歪検出センサの例を示す図である。
【図5】(a)及び(b)は、2次元関心領域及び3次元関心領域における1方向偏向角度のビームステアリングによる横方向走査を示す図である。(c)及び(d)は、対応する2次元及び3次元のスペクトルを示す図である。
【図6】機械走査によりビームを偏向させる場合を示す図である。
【図7】2次元関心領域における横方向変調時の偏向ビームの交差(a)とそのスペクトル(b)を示す図である。
【図8】(a)は、偏向ビームから成る超音波エコーデータフレームの座標の回転を説明するための図であり、(b)は、周波数領域における座標回転を説明するための図である。
【図9】(a)は、座標系の横軸方向のキャリア周波数を高くするべく偏向角度を大きくした際にビームピッチが粗い場合に生じる折り返し現象(ナイキスト定理が満足されない場合)を説明するための図であり、(b)は、ビームの偏向角度を大きくすることによりサイドローブ及びグレーティングローブが大きく成長した場合の周波数領域におけるフィルタリング除去が可能である例を説明するための図であり、(c)は、ビームの偏向角度を大きくした際にナイキスト定理の最高周波数以上の横方向キャリア周波数を実現するべく、その最高周波数より高い周波数帯域において信号スペクトル以外のスペクトルをゼロ詰めすることによる広帯域化(座標系の横方向サンプリング間隔の補間)を説明するための図である。
【図10】2次元計測の場合に、空間領域(a)及び周波数領域(b)において、関心点(x,y)におけるビーム方向角度αと、スペクトルの重心(周波数)及び瞬時周波数(fx,fy)とを示す図である。
【図11】3次元計測の場合に、空間領域(a)及び周波数領域(b)において、関心点(x,y,z)におけるビーム角度φ(方位角)及びθ(極角)と、スペクトルの重心及び瞬時周波数(fx,fy,fz)とを示す図である。
【図12】2次元計測の場合に、関心点(x,y)におけるビーム方向変位d、組織変位dβ、ビーム角度α及び組織変位方向の角度β、組織変位ベクトルDを示す図である。
【図13】2次元計測の場合に、関心点(x,y)における座標回転−α後の空間領域(a)、2次元周波数領域(b)、1次元周波数領域(c)を示す図である。
【図14】2次元計測の場合に、スペクトル周波数分割法のためのスペクトル分割と、スペクトルの重心(周波数)及び瞬時周波数(fx,fy)とを示す図である。
【図15】2次元計測の場合に、多方向ビームフォーミング法を用いて、関心点(x,y)におけるビーム方向角度α及びαと、各ビーム方向における変位d1及びd2とが計測された場合を示す図である。
【図16】(a)及び(b)は、2次元計測の場合に、正面方向のビームフォーミング後における変調処理を示す図である。(c)及び(d)は、2次元計測の場合に、横方向余弦変調と横方向正弦変調との可逆性を示す図である。
【図17】(a)及び(b)は、2次元計測の場合に、横方向余弦変調及び横方向変調における低周波スペクトルの除去を示す図である。(c)及び(d)は、2次元計測の場合に、横方向余弦変調と横方向正弦変調との可逆性を示す図である。
【図18】(a)及び(b)は、3次元計測の場合に、正面方向ビームフォーミング後における変調処理を示す図である。(c)及び(d)は、3次元計測の場合に、横方向余弦変調と横方向正弦変調との可逆性を示す図である。
【図19】(a)及び(b)は、3次元計測の場合に、横方向余弦変調及び横方向変調における低周波スペクトルの除去を示す図である。(c)及び(d)は、3次元計測の場合に、横方向余弦変調と横方向正弦変調との可逆性を示す図である。
【図20】2次元関心領域内における局所の剛体変位を仮定した場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るイメージング及び変位計測装置の全体構成を示すブロック図である。この装置は、計測対象物6の3次元(又は2次元又は横方向を主とする1次元)の関心領域7内の歪テンソル場、歪速度テンソル場、加速度ベクトル場等における変位ベクトル成分(分布や時系列)、歪テンソル成分(分布や時系列)、瞬時位相の変化(分布や時系列)、ずり波の伝搬速度や伝搬方向(分布や時系列)、ずり波の振動変位や振動振幅(分布や時系列)、及び、これらの時空間偏微分(の分布や時系列)等を計測する装置であると共に、この装置等を使用して得られるそれらの計測結果を用いて、ずり弾性率分布、ポアソン比分布、粘ずり弾性率分布、粘ポアソン比分布、遅延時間分布、緩和時間分布、密度分布、粘成分布等を計測する装置である。この装置において、本発明の一実施形態に係るイメージング及び変位計測方法が実施される。さらに、この装置を用いて、本発明の一実施形態に係る超音波診断装置が構成される。
【0042】
図1に示すように、計測対象物6の表面に接して、又は、適当な媒質を介して変位・歪検出センサ5が設けられる。本実施形態では、変位・歪検出センサ5として複数の超音波振動子を含む1次元又は2次元アレイ型等の超音波探触子(超音波トランスデューサ)が使用される。単一の超音波振動子からなる超音波探触子が使用されることもある。単数又は複数の超音波振動子は、単数又は複数の駆動信号に従って超音波を送信すると共に、超音波エコーを受信して単数又は複数の受信信号を出力する。送信ビームフォーミング処理によって、単数又は複数の超音波振動子から送信される超音波は送信超音波ビームを形成し、また、受信ビームフォーミング処理によって、単数又は複数の超音波振動子により受信される超音波は受信超音波ビームを形成する。
【0043】
変位・歪検出センサ5と計測対象物6との距離を機械的に調整可能とする位置調整部4が設けられてもよい。また、変位・歪検出センサ5と計測対象物6との相対距離を機械的に調整可能とする位置調整部4'が設けられてもよい。さらに、変位・歪検出センサ5を駆動するための単数又は複数の駆動信号を生成する超音波送信器及び超音波パルサ、及び変位・歪検出センサ5から出力される単数又は複数の受信信号(エコー信号)を処理する受信器及び増幅器を備えた駆動・出力調整部5'が備えられている。また、計測対象物6を積極的に変形させる場合に使用する加圧・加振器等の力源又は放射圧源8又は8'、及び、その位置を機械的に決める位置調整部4"が備えられてもよい。力源としては、超音波探触子そのものを加圧源又は加振源又は放射圧源とすること、又は、放射圧により生成した力源や生体内の心臓の動きや心拍を力源8"とすることがある。
【0044】
駆動・出力調整部5'から出力されるエコー信号は、計測制御部3を介してデータ格納部2に格納される。従って、駆動・出力調整部5'はアナログ/ディジタル(AD)変換器も有することがあるし、AD変換器が駆動・出力調整部5'の外部に存在することもある。後述の通り、駆動・出力調整部5'は、送信ビームフォーミングを行うが、受信ビームフォーミングをも行うことがあり、受信ビームフォーミング処理が施されたエコー信号を表す超音波エコーデータフレームが生成されてデータ格納部2に格納される場合もある。あるいは、受信ビームフォーミング前の超音波振動子の出力した複数の受信信号がデータ格納部2に格納され、データ処理部1により読み出され、データ処理部1が、受信ビームフォーミング処理を行い、受信ビームフォーミング処理が施されたエコー信号を表す超音波エコーデータフレームを生成する場合もある。任意方向の広い関心領域に渡り、同一の時刻又は同一の時相において複数素子を使用して超音波が送波されたり、1素子送信に基づく開口面合成が行われることもある(その場合、開口面合成の特徴として受信時のダイナミックフォーカシングに加えて送信時のダイナミックフォーカシングも実現できる)。生成された超音波エコーデータフレームは、計測制御部3を介してデータ格納部2に格納されることがある。
【0045】
いずれの場合にせよ、変位計測を行う指令が計測制御部3から出力されると、複数の異なる時相において生成された超音波エコーデータフレームから、任意の時相における関心領域7内の変位ベクトル成分(分布、時系列)又は1方向変位(分布、時系列)、瞬時位相の変化(分布、時系列)、又は、ずり波の振動変位や振動振幅(分布、時系列)を後述する演算処理により求めることとなり、前者の場合において、データ処理部1は、データ格納部2に格納された超音波エコーデータフレームを読み出して演算する。また、後者の場合においては、超音波エコーデータフレームを生成するための受信ビームフォーミングと変位、瞬時位相の変化(分布、時系列)、又は、ずり波の振動変位や振動振幅(分布、時系列)を求めるための演算処理が別のプロセッサーにより行われることもある。変位ベクトル成分(分布、時系列)又は1方向変位(分布、時系列)、瞬時位相の変化(分布、時系列)、又は、ずり波の振動変位や振動振幅(分布、時系列)の演算結果は、データ格納部2に格納されることがある。
【0046】
また、データ処理部1は、これらの時空間偏微分の分布である、歪(テンソル成分、分布、時系列)、歪速度(テンソル成分、分布、時系列)、加速度(ベクトル成分、分布、時系列)等を演算により求めるようにしてもよい。すなわち、関心領域7内の変位(ベクトル成分、分布、時系列)が演算により求められる場合には、歪(テンソル成分、分布、時系列)は、求められた変位(ベクトル成分、分布、時系列)に3次元、2次元、又は1次元の空間微分フィルタ処理(フィルタの遮断周波数は、一般的なフィルタと同様に、適宜、時空間方向毎に、各空間位置及び各時刻において異なるものに設定されることがある)を施すことにより求められる。また、加速度(ベクトル成分、分布、時系列)は、計測された変位(ベクトル成分、分布、時系列)に時間微分フィルタ処理を2回施すことにより求められ、歪速度(テンソル成分、分布、時系列)は、計測された変位(ベクトル成分、分布、時系列)に時間微分フィルタ処理を1回施すことにより得られる速度(ベクトル成分、分布、時系列)に空間微分フィルタ処理を施すことにより求められるか、あるいは、計測された歪(テンソル成分、分布、時系列)に時間微分フィルタ処理を1回施すことにより求められる。また、瞬時位相の変化の及んだ位置の計測により、ずり波の伝搬速度や伝搬方向(分布、時系列)も計算できる。
【0047】
さらに、データ処理部1は、当該データ処理部等を使用して計測された歪(テンソル成分、分布、時系列)、歪速度(テンソル成分、分布、時系列)、加速度(ベクトル成分、分布、時系列)等から、ずり弾性率分布、ポアソン比分布、粘ずり弾性率分布、粘ポアソン比分布、遅延時間分布、緩和時間分布、密度分布、粘性分布等を演算により求めるようにしてもよい。また、計測されたずり波の伝搬速度からずり弾性率分布を求めてもよい(例えば、非特許文献19を参照)。当発明においては、その場合に使用する密度、体積弾性率、粘弾性率、等の他物性値は、計測されたデータや典型値が使用される。近似されて、密度にみが使用されることもある。また、その密度が一定値と仮定されることがある。これらの演算結果は、データ格納部2に格納されることがある。
【0048】
計測制御部3は、データ処理部1、データ格納部2、位置調整部4、位置調整部4"、及び、駆動・出力調整部5'をコントロールするようにしてもよい。なお、これらの位置調整部4と4'と4"は、計測者の手により直接的に操作されて、変位・歪検出センサ5や力源8の位置決めが行われることもある。なお、計測対象物6が固定されている場合には、位置調整部4'は不要である。また、変位・歪検出センサ5が電子走査型の場合には、位置調整部4は必ずしも必要ない。つまり、関心領域7の大きさによっては、機械走査を行うことなく測定できる場合がある。
【0049】
また、変位・歪検出センサ5は、計測対象物6に直接接触させて計測するほか、強力超音波(HIFU)治療を行う際に治療効果のモニタリングを行う場合には、計測対象物6'を液体槽9中の液体に浸漬し、変位・歪検出センサ5を液体槽9中の液体に浸して、非接触的に計測を行うこともある。力源としては、加圧器又は加振器(探触子が兼ねることがある)の他に、強力超音波(HIFU、探触子となることもある)や放射圧(探触子が兼ねることがある)等の他の力源や、対象物内に制御不可能な力源(生体観察の場合には、例えば、心拍、呼吸、血管、体動等。肺、空気、血管、血液等は関心領域に含めることが多い)が使用される。強力超音波と放射圧は、両効果を同時に得るために使用されることもあり、また、駆動エネルギー放射信号波形の制御により、切り替え動作させることもある。
【0050】
図2は、変位・歪検出センサの機械走査機構の動作を説明する図である。変位・歪検出センサ5の動作には、機械的なステアリングも含む。図1に示す位置調整部4は、例えば、図2に示すように、変位・歪検出センサ5と計測対象物6との相対的な位置決めを機械的に行うもので、上下左右並進、回転、扇状の回転を機械的に行う機械走査機構を使用することもあるし、人間の手で位置調整部4が実現されることもある。
【0051】
再び図1を参照すると、駆動・出力調整部5'の出力は、時間的に連続的に、あるいは所定の間隔をおいて、データ格納部2に格納される。データ処理部1は、計測制御部3を介して駆動・出力調整部5'を制御することにより、3次元(又は2次元あるいは1次元)の関心領域7内のエコー信号の基本波(n=1)、第n次高調波(n=2〜N)、又は、全成分を取得して、上記のデータ演算処理を施して所望の変位、歪、歪速度、加速度データを求めることもある。
【0052】
上記の通り、駆動・出力調整部5'とデータ処理部1は、計測制御部3の指令に従って、変位・歪検出センサ5との間で送受する駆動信号及びエコー信号について、送信固定フォーカシング処理又はマルチ送信固定フォーカシング処理、及び、受信ダイナミックフォーカシング処理等のフォーカシング処理を行うビームフォーミングを行う。また、超音波強度について、アポダイゼーションを行って、例えば、超音波ビームのビーム形状をシャープにするべく各素子において送信・受信される超音波信号に重み付けを行う処理(アポダイゼーション)を行いながら、ビームフォーミング処理を行い、3次元(又は2次元あるいは1次元)の関心領域7内のエコー信号が取得される。これらは、通常の超音波診断装置に搭載されている、アポダイゼーション、スイッチング、遅延処理、位相整合、加算処理等の機能により実現される。これらを実現するための構成要素の例を図3に示す。
【0053】
図3は、ビームフォーミングを実現するためのアポダイゼーション、スイッチング、遅延処理、位相整合、加算処理を行う構成要素の例を示すブロック図である。変位・歪検出センサ5に含まれている各々の超音波振動子5aには、増幅器等を介して遅延素子11が接続され、さらに、遅延素子11には、アポダイゼーション素子又はスイッチ12が接続されている。アポダイゼーション素子は、信号の増幅器や減衰器等によって構成され、スイッチは、チャンネルのオンとオフとを切り替える。遅延素子11、及び、アポダイゼーション素子又はスイッチ12は、計測制御部3(図1)により適宜制御される。複数のアポダイゼーション素子又はスイッチ12は、加算器13に接続されている。
【0054】
超音波エコーを受信する際には、複数の超音波振動子5aから増幅器等、遅延素子11、及び、アポダイゼーション素子(乗算や除算が計算機械により実現されることもある)又はスイッチ12を介して出力される複数のエコー信号が加算器13によって加算されて、受信フォーカスが絞り込まれた各々の受信ビームを表す信号が生成される。この信号は、アナログ/ディジタル(A/D)変換器によってA/D変換され、超音波エコーデータフレームが生成される。
【0055】
一方、超音波ビームを送信する際には、駆動信号が、加算器13によって、アポダイゼーション素子又はスイッチ12、遅延素子11、及び、増幅器等を介して、複数の超音波振動子5aに分配される。これらの構成要素11〜13の全てが、図1に示すデータ処理部1で実現されることもあるし、部分的に駆動・出力調整部5'で実現されることもあり、構成要素の接続の順番等も含めて構成そのものには様々な形態が存在する。
【0056】
本実施形態においては、これらの構成要素により、上記の正面方向へのビームフォーミング、又は、上記の多方向ビームフォーミング、又は、上記の1つの偏向角度を持つステアリングビーム等が実現され、また、必要に応じて、ステアリングビームによって計測対象物6が横方向(深さ方向に略直交する方向)に走査され、エコーデータフレームが生成される。又は、任意方向の広い関心領域に渡り、同一の時刻又は同一の時相において超音波が送波されたり、開口面合成が行われ、それらの走査を行った際に得られるエコーデータフレームが生成される。但し、計測対象物6内の異なる点が、必ずしも平行に走査されるとは限らない。ステアリングビームを使用する場合には、関心領域内の各点において、大きい偏向角度又は交差角度が実現される様にビームフォーミングされることがある。また、単一振動子と機械走査の組み合わせ等を使用する場合を含めて、開口面合成を行う場合においては、適切にフィルタリング処理や増幅処理された受信信号がA/D変換され、その他の全ての処理が計算機で行われることもある。
【0057】
図4は、本発明に適用可能な変位・歪検出センサの例を示す図である。本発明においては、変位・歪検出センサ5として、電子走査型2次元又は1次元超音波素子アレイ、又は、機械走査が可能な2次元又は1次元超音波素子アレイを用いることができる。機械走査が可能であるアレイ型でない超音波素子(センサ)が使用されることもある。また、セクタ型トランスデューサ等の任意のトランスデューサが使用され得る。ビームステアリングを行う場合には、偏向角度を稼ぐために、それらで計測対象物6が機械走査されることがある(電子走査のみで偏向角度を大きくした場合、偏向角度が超音波素子の指向性の範囲を超えると、実現される偏向ビーム受信信号のsignal-to-noise ratioが低下する問題を生じる)。
【0058】
図5は、1方向偏向角度のビームステアリングによる横方向走査を示す図であり、θは偏向角度を表している(0°<θ<90°)。前記正面方向へのビームフォーミングは、θ=0°のときである。図5の(a)は、1次元アレイを用いて2次元領域を走査する場合を示しており、図5の(b)は、2次元アレイを用いて3次元空間を走査する場合を示している。また、図6は、機械走査によりビームを偏向させる場合を示す図であり、θmは偏向角度を表している(0°<θm<90°)。深さ方向へのビームフォーミングは、θm=0°のときである。ビームフォーミング時又はビームフォーミング後において、計測対象物内の略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とさらにこれらの方向に略直交するエレベーション方向とを3軸とする任意の3次元の直交座標系、又は、略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とを2軸とする任意の2次元の直交座標系を設定することもある。あるいは、1つの任意方向の軸を基に任意の直交座標系が設定されることもある。さらに、任意方向の広い関心領域に渡り、同一の時刻又は同一の時相において超音波が送波されたり、開口面合成が行われることもある。
【0059】
本実施形態の1つの例においては、1つの偏向角度を持つビームステアリング(図5)や、これを基礎として多方向ビームフォーミング(図7)が行われる。多方向ビームフォーミングにおいては、上記の通り、同一のタイミングにおいて複数のビームが送受信されることもあれば、複数のビームが別のタイミングにおいて送受信されることもある。また、それらの1つの偏向角度を持つビームステアリングや多方向ビームフォーミングには、開口から正面方向に放射されるビームが含まれ、高調波エコーを使用する場合や造影剤を使用する場合において得られるビーム等、その他のビームを含む使用可能なビームが使用されることがある。また、それらのビームフォーミングにおいて、任意方向の広い関心領域に渡り、同一の時刻又は同一の時相において超音波が送波されたり等による高速ビームフォーミングや開口面合成が行われることもある。
【0060】
上記の通り、ビームステアリングは、電子的にビームフォーミング(アポダイゼーション、スイッチング、遅延処理、位相整合、加算処理等)そのものにより行われる場合と、機械的なステアリングによる機械走査(図2、図6参照)により、変位・歪検出センサ5を傾け、ビームを偏向させて実現される場合とがある。また、電子的なビームフォーミングと機械走査とが同時に行われることもある。また、それらのビームフォーミングにおいて、任意方向の広い関心領域に渡り、同一の時刻又は同一の時相において超音波が送波されたり等による高速ビームフォーミングや開口面合成が行われることもある。機械走査が行われる場合には、機械走査によるステアリング角度(図6中のθm)を任意の方法又はデバイス装置により感知して、座標系が設定されることがある。位置や方向を検出するためのセンサが変位・歪検出センサ5に装着されることや、備えられたものが使用されることがある。また、複数の変位・歪検出センサ5が使用されることもあり、その場合にも、同様のセンサが使用されることもある。
【0061】
ビームフォーミング時又はビームフォーミング後において、計測対象物内の略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とさらにこれらの方向に略直交するエレベーション方向とを3軸とする任意の3次元の直交座標系、又は、略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とを2軸とする任意の2次元の直交座標系が設定される。その他、深さ方向に限らず、1つの任意方向の軸を基に任意の直交座標系が設定されることもある。エコーデータフレームの生成のために、並進や座標回転(図8)を行う必要を生じ、エコーデータの補間処理が必要となることがあり、その場合には、周波数空間で複素エクスポネンシャルを用いた位相の回転を行う方法(特許文献1)があり、ナイキスト定理の範囲において誤差を生じさせない方法であるが、通常は線形補間等の補間近似に基づいて計算することにより計算時間が短縮化されることもある。この補間近似は、空間領域や周波数領域で行われる。しかし、これらの座標回転の計算は、実質的に、実時間性が失われる方向にある処理であるため、極力、避けることが望ましい。また、同一の時刻又は同一の時相において任意方向の広い領域に超音波が送波されたり等による高速ビームフォーミングや開口面合成が行われることもある。
【0062】
図6に示される通り、横方向等の一方向に支配的に変位している対象を扱う場合には、変位ベクトル計測ではなく一方向変位計測を適用することが可能である。そのために、少なくとも単一ビームが使用される。この一方向変位計測の応用は、通常では計測が困難な横方向変位の高精度計測が主たるものとなろう。しかし、変位ベクトル計測を行う場合は、その支配的な変位方向を検出する必要がないので便利である。そのために、単一又は複数のビームが使用される。
【0063】
その際には、走査方向変位に関して十分な計測精度を得るべく、極力、電子走査(任意方向の広い関心領域に渡り、同一の時刻や同一の時相において超音波が送波されたり等による高速ビームフォーミングや開口面合成が行われることもある)や機械走査によるビームステアリングのステアリング角度(例えば、図5、図7中のθ)を大きくし、走査方向のキャリア周波数を高く設定することを心がける(超音波周波数が高い方がイメージが良く、変位の計測精度も高い)。電子的に偏向角度をあまり大きくするとエコーの十分なSN比が得られず、従って、必要に応じて、電子的なビームステアリングと機械的なビームステアリングとを組み合わせて行うこともある。
【0064】
この走査方向のキャリア周波数は高いほど良いが、ビームピッチにより決まる走査方向の最高周波数がサンプリング定理に基づいて折り返し現象(図9の(a))を生じない様に超音波ビーム間隔で決まるサンプリング周波数の1/2以下に設定される必要がある。つまり、必要に応じて、ビームピッチを細かくする必要がある。
【0065】
しかし、ビームの偏向角度を大きくすると、サイドローブ及びグレーティングローブが大きく成長するため、周波数領域においてそれらのスペクトルを零としてこれをフィルタリング除去する処理を行う(図9の(b))。また、スペクトラムを抽出することにより、ビーム角度の異なるビームを分離することができる。さらに、到来方向の異なる信号の分離を行うこともできる。例えば、多方向ビームフォーミングの複数のビームを同一のタイミングで送受信した場合には、異なる方向のビームに分離して処理することができる。
【0066】
また、ビームの偏向角度を大きくしてナイキスト定理の最高周波数以上の横方向キャリア周波数を実現できる場合には、最高周波数より高い周波数帯域において信号スペクトル以外のスペクトルをゼロ詰めすることによる広帯域化(すなわち、座標系の横方向サンプリング間隔の補間)を行う(図9の(c))か、空間においてビーム数を補間するか、密なビームピッチでビームフォーミングを行う。これらの処理は、本願発明者が過去に発明した横方向変調法(前記)を本発明に適用する場合にも有効である。
【0067】
トランスデューサを使用する場合において、各々のトランスデューサの開口形状に合わせて直交座標系(各トランスデューサの開口の曲率等を含む設定され得る任意の直交座標系等)が設定されることもあるし、特許文献1に記載の仮想音源や仮想受信機を用いる場合を含め、限界はあるものの、遅延処理による整相加算やアポダイゼーション処理により、トランスデューサの開口形状に捉われずに任意方向の任意形状のビームや視野領域を生成できるので、これに従い、任意の直交座標系において、それらのビームフォーミングが行われることがある。また、任意方向の広い領域に渡り、同一の時刻や同一の時相において超音波が送波されたり等による高速ビームフォーミングや開口面合成が行われることもある。
【0068】
空間分布を計測対象とする場合にも、同様に、これらの構成要素により、上記の正面方向へのビームフォーミング、又は、上記の多方向ビームフォーミング、又は、上記の1つの偏向角度を持つステアリングビーム、又は、その他のビームフォーミングが実現され、また、必要に応じて、ステアリングビームによって計測対象物6が横方向(深さ方向に略直交する方向)に走査される。但し、計測対象物6内の異なる点が、必ずしも平行に走査されるとは限らない。ステアリングビームを使用する場合には、関心領域内の各点において、大きい偏向角度又は交差角度が実現される様にビームフォーミングが行われることがある。また、任意方向の広い関心領域に渡り、同一の時刻又は同一の時相において超音波が送波されたり等による高速ビームフォーミングや開口面合成が行われることにより、それらのビームフォーミングおよび走査が行われた状態において得られるエコーデータフレームが生成されることもある。以下、同様である。
【0069】
データ処理部1は、変位計測と並行して、又は、独立して、それらのビームフォーミングに基づいて、超音波エコーデータフレームを得て、エコーイメージングを行うことがある。データ処理部1は、任意直交座標系において、単一方向ビーム又は複数方向ビームを使用して得られたエコーデータに、検波(直交検波や二乗検波等)処理を施す。その際には、コヒーレントの状態又はインコヒーレントにした状態における重ね合わせを行って得られたエコーデータフレームを得て、例えば、グレイ画像(Bモード画像)の輝度データやその他の表示形式の画像データを生成したり、計測された変位、速度、歪等、一連の計測データを単動又は重畳して表示することもできる。
【0070】
また、スペクトル周波数分割法により、周波数空間にて分割された多次元スペクトルから求まる多次元解析信号又はエコーデータも、コヒーレントの状態又はインコヒーレントにした状態における重ね合わせを行って同様に表示に使用されることがある(エコー画像におけるスペックルの低減効果がある)。それらのエコーデータの重ね合わせは、重み付けをした上で、行われることがある。例えば、重ね合せる各エコーデータのエネルギーが同一となる様にすることがある。
【0071】
再度、断っておくことになるが、変位計測方法、すなわち、それらの多次元変位ベクトル又は1方向変位を計測するために使用される方法は、いずれも、異なる2つ以上の時相において取得された超音波エコー信号の位相を指標とするものである。そこでは、エコー画像の生成に使用されるエコー信号と、変位等の計測に使用されるエコー信号とが異なることもある。
【0072】
データ処理部1は、計測された変位(ベクトル成分、分布、時系列)データに空間微分フィルタや時間微分フィルタを施すことにより、歪(テンソル成分、分布、時系列)や歪速度(テンソル成分、分布、時系列)や加速度(ベクトル成分、分布、時系列)や速度(ベクトル成分、分布、時系列)、瞬時位相の変化、ずり波の伝搬速度や伝搬方向(分布、時系列)、ずり波の振動変位や振動振幅(分布、時系列)を算出する。
【0073】
これらにおいて、3次元関心領域、又は、2次元又は横方向を主とした1次元関心領域内において得られた該超音波エコー信号の基本波成分、又は、キャリア周波数が高いことにより超音波ビーム方向における変位成分の計測精度が向上する高調波成分、且つ、基本波で構成される超音波ビームに較べて超音波走査方向に広帯域(細いビームを実現できる)であることにより超音波走査方向の計測精度を向上させることが可能である高調波成分、又は、高調波成分のみではそのSN比が低くなることがあるために超音波エコー信号の全成分を有効に利用することがある。すなわち、超音波エコー信号そのものを、抽出した基本波(n=1)のみ、抽出した第n次高調波(n=2〜N)のみ、又は、これらの組み合わせを用いて、エコーイメージングが行われる、また、後述の如く、変位ベクトルの計測、又は、横方向を主として1方向変位の計測が行われることがある。
【0074】
以上説明したように、本実施形態に係るイメージング及び変位計測装置は、計測対象物の3次元関心空間又は2次元関心領域内に生じた変位ベクトル(分布、時系列)又は1方向変位(分布、時系列)、歪(テンソル、分布、時系列)、これらに加えて、歪速度(テンソル、分布、時系列)や加速度(ベクトル、分布、時系列)や速度(ベクトル、分布、時系列)、瞬時位相の変化、ずり波の伝搬速度や伝搬方向(分布や時系列)、ずり波の振動変位や振動振幅(分布や時系列)等を、3次元関心空間又は2次元領域内に亘って測定した超音波エコーデータフレームから計測する装置であって、3次元空間や2次元領域内のエコーイメージングを行うこともある。また、時として、例えば、略ビーム方向又は横方向等の1次元領域のエコーイメージングや任意方向の組織変位又は組織変位ベクトル計測が行われることもある。
【0075】
この装置は、変位・歪検出センサ5(超音波トランスデューサ)及び計測対象物6の相対的な位置決め・上下左右並進、回転、扇状の回転を機械的に行うための機械走査機構と、変位・歪検出センサ5に駆動信号を供給する送信器又は超音波パルサ及び変位・歪検出センサ5から出力されるエコー信号を処理する受信器又は増幅器を含む駆動・出力調整部5'と、ビームフォーミング処理[フォーカシング処理(送信固定フォーカシング/受信ダイナミックフォーカシング、又は、マルチ送信固定フォーカシング/受信ダイナミックフォーカシング、任意方向の広い関心領域に渡る同一時刻又は同一の時相における送波等による高速ビームフォーミング)、及び、アポダイゼーション処理(超音波ビームの改善、すなわち、ビーム形状をシャープにするべく各素子から送信される超音波信号に重み付けを行う処理)]を基本とした所定のビームステアリングを行う駆動・出力調整部5'又はデータ処理部1と、変位・歪検出センサ5の出力を格納するためのデータ格納部2とを有する。開口面合成を行う場合には、エコー信号のA/D変換後において、データ処理部1及びデータ格納部2が主体となって処理をする。
【0076】
これより、変位(ベクトル、分布、時系列)や歪(テンソル、分布、時系列)や歪速度(テンソル、分布、時系列)や加速度(ベクトル、分布、時系列)や速度(ベクトル、分布、時系列)、瞬時位相の変化、ずり波の伝搬速度や伝搬方向(分布、時系列)、ずり波の振動変位や振動振幅(分布、時系列)等を計測するためのデータ処理(信号処理)手段が構成され、計測されたこれらの変位(ベクトル、分布、時系列)や歪(テンソル、分布、時系列)や歪速度(テンソル、分布、時系列)や加速度(ベクトル、分布、時系列)や速度(ベクトル、分布、時系列)等もデータ格納部2に格納される。さらに、ビームステアリングとして機械的な走査と組み合わせて、超音波エコー信号を取得することもできる。
【0077】
この場合において、データ処理部1は、超音波データの取得(収集)及び信号処理を施すことにより計測された前記3次元関心空間内の3次元又は2次元変位ベクトル(分布、時系列)、2次元関心領域内の2次元変位ベクトル(分布、時系列)、3次元関心空間、又は、2次元又は1次元領域内の1方向変位(分布、時系列)に、帯域制限を施した空間微分フィルタ(3次元、2次元、又は、1次元空間フィルタ)又は周波数空間において帯域制限のある空間微分フィルタの周波数応答(3次元、2次元、又は、1次元周波数応答)を掛けることにより、歪(テンソル、分布、時系列)を求めることを特徴とする。
【0078】
また、データ処理部1は、これらの時系列に、帯域制限を施した時間微分フィルタ又は周波数空間において帯域制限のある時間微分フィルタの周波数応答をかけることにより、歪速度(テンソル、分布、時系列)や加速度(ベクトル、分布、時系列)や速度(ベクトル、分布、時系列)を求めるようにしても良い。
【0079】
また、少なくとも1つ以上の歪テンソル場(変位ベクトル場)を前記計測対象物の前記3次元関心空間、又は、2次元又は1次元関心領域内に発生せしめることができるように、力源として加圧器又は加振器、放射圧を使用しても良い。あるいは、計測対象物6である生体の動き(心拍、脈拍、呼吸等)を力源として、これに同期して計測対象物6の前記3次元関心空間、又は、2次元又は1次元関心領域内に生じる歪(テンソル場)や変位(ベクトル場)を計測することもできる。
【0080】
さらに、これらの動き(motion)データや変形(deformation)データに基づき、逆問題解析が行われ、力学的物性値や応力テンソル成分、圧力、力源などが求められることがある。また、瞬時位相の変化の及んだ位置の計測により、ずり波の伝搬速度や伝搬方向が計算され、さらに、ずり弾性率分布が求められることもある(但し、前者に比べて得られる空間分解能が低い)。その場合に使用する密度、体積弾性率、粘弾性率等の他物性値は、計測されたデータや典型値が使用される。また、近似して、密度のみを使用することもある。さらには、密度を一定値と仮定することもある。
【0081】
また、超音波トランスデューサのタイプは、次の態様をとることができる。すなわち、変位又は歪の検出センサとして、機械走査の可能な超音波素子、電子走査型2次元超音波素子アレイ(機械走査が可能)、又は、電子走査型1次元超音波素子アレイ(機械走査が可能)を使用して、ビームフォーミングにより所定のステアリングビームを実現し、エコー信号を取得することができる。また、任意方向の広い関心領域に渡り、同一時刻や同一の時相における送波や高速ビームフォーミング、また、開口面合成が行われることもある。
【0082】
このような変位又は歪の検出センサを用いてエコー信号を取得する際に、検出センサを対象物に接触させて測定を行う場合には、この検出センサの接触部そのものが力源となって、これが加圧・加振器を兼ねることがある。さらに、強力超音波(HIFU)治療を行う場合において、患部を水浸させる場合には、上述の変位又は歪の検出センサ及び対象物を、適切な液体中に浸して測定を行うことにより非接触に計測を行うことができる。力源として、加圧器又は加振器(探触子が兼ねることがある)の他に、強力超音波(HIFU、探触子となることがある)や放射圧(探触子が送受信することがある)等の他の力源や、対象物内に制御不可能な力源(生体観察の場合には、例えば、心拍、呼吸、血管、体動等。肺、空気、血管、血液等は関心領域に含めることが多い)が使用される。強力超音波と放射圧は、両効果を同時に得るために使用されることもあり、また、駆動エネルギー放射信号波形の制御により、切り替え動作させることもある。
【0083】
また、安定的に弾性率分布や粘弾性率分布を計測するために、変位又は歪の検出センサである超音波トランスデューサそのものを力源としてこれを用いて対象を圧迫する場合には、検出センサと対象物の間に弾性率や粘弾性率計測のための参照物を挟んだ状態において計測を行うことがある。また、治具を用いて参照物をトランスデューサ側に装着したり、参照物とトランスデューサが一体になっているものを使用することもある。
【0084】
基本的には、前述した態様の変位又は歪の検出センサを用いて所定のビームステアリングを行って取得される3次元関心空間、又は、2次元又は1次元関心領域内の超音波エコー信号から所定のデータ処理(信号処理)により求められる前記3次元関心空間内の3次元又は2次元変位ベクトル(分布、時系列)、2次元関心領域内の2次元変位ベクトル(分布、時系列)、3次元関心空間、又は、2次元又は横方向(又は深さ方向)を主とした1次元関心領域内の1方向変位(分布、時系列)を評価し、これら変位計測データから歪(テンソル、分布、時系列)や歪速度(テンソル、分布、時系列)や加速度(ベクトル、分布、時系列)や速度(ベクトル、分布、時系列)、瞬時位相の変化(分布、時系列)、ずり弾性波の伝搬速度や伝搬方向(分布、時系列)、ずり波の振動変位や振動振幅(分布、時系列)を評価することができる。
【0085】
以下、データ処理部1において使用される変位計測法とエコーイメージング法について詳細に説明する。
フーリエ変換やヒルベルト変換等の公知の方法(例えば、非特許文献3)に基づき、2次元関心領域と3次元関心空間のエコーデータに対して、それぞれ、図5の(c)に示すような単一(single)クォードラント(quadrant:4分象限)のスペクトルと、図5の(d)に示すような単一(single)オクタント(octant:8分象限)のスペクトルとが得られる。図中のθは、単一方向のステアリングビームを使用した際のステアリング角度(図5の(a)と(b))であり、例えば、トランスデューサ開口の正面方向へビームフォーミングした場合におけるθ=0°のときにも適用される図である。周波数領域において、2つの象限にスペクトルが存在するが、原点を中心として対称である同一のスペクトルである。その単一(single)クォードラント(quadrant:4分象限)のスペクトルと、単一(single)オクタント(octant:8分象限)のスペクトルを逆フーリエ変換すると、各々より、2次元解析信号又は3次元解析信号を得る(非特許文献3)。
【0086】
これに対し、横方向変調(非特許文献3、6、7等)や多方向ビームフォーミングを行った場合、例えば、2次元関心領域を対象とした場合には、図7の(a)に示すビームフォーミングを行った場合において、図7の(b)に示すスペクトルが得られ、独立した単一(single)クォードラント(quadrant:4分象限)のスペクトルを2つと、さらに別のステアリング角度を持つステアリングビームを生成した場合には3つ以上の単一クォードラントのスペクトルとが得られる。
また、3次元関心空間を対象とした場合には、3つ以上のステアリング角度を使用すると、対応する3つ以上の図5(d)に示される様な単一(single)オクタント(octant:8分象限)のスペクトルが得られる。従って、各々の独立した単一スペクトルから多次元解析信号が得られる(非特許文献3)。
【0087】
上記の座標回転(図8)により、座標軸方向の瞬時周波数又は第1次モーメント(重心周波数)の値を調節できる(特許文献1)。なお、この場合に、複数ビーム(ステアリング角度が0°である場合を含む)は、設定される座標系の正面方向の軸に対して対称であることもあるし、非対称であることもある。複数のトランスデューサが一度に使用されることもある。なお、この座標回転等のエコーデータの移動は、フレーム規模の大きいデータに対して施されることもあるし、局所変位の計測においては、その規模の周辺の探索領域程度の大きさのデータに対して施されることもある。
【0088】
(I)ビーム方向変位計測又は1方向変位計測
本発明は、まず、一方向ステアリング角度ビームフォーミング法、正面方向のビームフォーミング法、及び、その他のビームフォーミング法に基づく組織変位計測において、各関心点における実際に生じたビーム方向角度を超音波エコーデータから精度よく求め、超音波素子の指向性や、計測対象内における散乱や反射の方向、減衰、これらによる周波数変調の影響を考慮し、その高精度なビーム方向の変位成分や速度成分、歪成分の計測を実現する。その計測においては、任意直交座標系が使用される。上記の通り、エコーデータは開口面合成により得られることもある。計測結果のイメージングの際に、画素位置に合わせた表示データを得るべく、計測結果を補間することもあるし、表示系を計測結果の座標に合わせて使用することもある。補間方法は、先に記載したもの等が適切に使用される。
【0089】
本発明において使用されるビーム方向は、各関心点(x,y)において、その位置を中心とする局所エコーデータから局所スペクトラムを求めてその第1次モーメント(重心周波数)を求めるか、又は、多次元自己相関法又は多次元ドプラ法と同様に多次元解析信号(非特許文献3)を基に多次元移動平均処理を行って各方向の瞬時周波数を求めることによって得られる(非特許文献3)。例えば、2次元エコーデータフレームにおいて2次元変位ベクトルを計測する場合に、周波数領域で周波数ベクトルが(fx,fy)と表されたとき、その関心点におけるビーム方向の角度αは、図10中においてα=tan-1(fy/fx)で表される。従って、以下の方法を用いることができる。
【0090】
方法(1): 図12中に示されるビーム方向の変位成分d(x,y)は、その位置で求められる2フレーム間の瞬時位相の時間変化Δθ(x,y)(同様に多次元移動平均処理を施す。非特許文献3参照)を(fx2+fy21/2で割ることにより、
d(x,y)=Δθ(x,y)/(fx2+fy21/2 ・・・(A)
として求められる。これにより、例えば、組織変位が超音波画像や他の形態画像等から図12中の角度β方向であるとわかれば、その変位dβは、
dβ(x,y)=d(x,y)/cos(β-α)
=Δθ(x,y)/(fxcosβ+fysinβ) ・・・(A')
として求められる。この様に、座標の回転処理を行うこと無く、実時間で計算できる。基本として、電気的又は機械的にステアリングビームを生成する場合に、そのビーム方向は従来通り組織変位の方向に極力向けることが望ましい。瞬時位相の時間変化と各方向の瞬時周波数の計算は、多次元自己相関法と多次元ドプラ法にて計算する方法と同様である(非特許文献3参照)と説明したが、1方向変位計測法(通常の自己相関法かドプラ法)をx軸方向とy軸方向(図10)の各々に施す場合に、移動平均処理は多次元処理にした場合と同様であると説明することもできる。
【0091】
特殊な場合として、例えば、頸動脈等の体表と並行して走行している血管中の血流方向はβ≒90°である。従って、
dβ(x,y)=d(x,y)/sinα
=Δθ(x,y)/fy
であり、深さ方向の変位成分は、dx(x,y)=0又はdx(x,y)≒0、すなわち、dβ(x,y)≒dy(x,y)(横方向変位)であるので、この場合は、本願発明者が発明したLateralドプラ(特許文献1)と等価である。この様に、方法(1)は、Lateral Dopplerを含み、横軸を横方向変位の方向に合わせる必要が無い。また、任意方向の変位を計測できる。なお、式(A)による方法(1)は、任意のビーム角度αにおいて使用できる。任意の開口形状をしているトランスデューサの使用時において、ステアリングせずに正面方向にビームを構成した場合(α=0°)においても使用できる(但し、この場合に、β=90°は対象外とすることが望ましい)。
【0092】
また、3次元計測の場合には、図11において、関心点(x,y,z)におけるビーム方向の変位成分d(x,y,z)は、その位置で求められる2フレーム間の瞬時位相の時間変化Δθ(x,y,z)(同様に多次元移動平均処理を施す。非特許文献3参照)を(fx2+fy2+fz21/2で割ることにより、
d(x,y,z)=Δθ(x,y,z)/(fx2+fy2+fz21/2
として求められ、回転角φと極角θは、
tanφ=fy/fx
cosθ=fz/(fx2+fy2+fz21/2
を満足するものとして求められる。組織変位dβの方向がわかれば、2次元のときと同様に組織変位dβが求まる。
【0093】
通常の1方向変位計測法: 通常の1方向変位計測法を用いた場合に、ビームフォーミング時に設定した精度の低いビーム角度α'方向の変位成分が、使用するトランスデューサの公称超音波周波数f0、又は、角度−α'だけ座標の回転を行った上でビーム方向の局所の2次元又は1次元のフーリエ変換(移動平均は多次元処理が望ましい)により評価されるスペクトルの重心、又は、前記の瞬時周波数f0'(図13)を用いて、
d(x,y)=Δθ(x,y)/f0 又は、 d(x,y)=Δθ(x,y)/f0'
として求められ、角度β方向の変位が、精度の無い角度α'を用いて、
dβ(x,y)=d(x,y)/cos(β-α')
として求められる。また、実際の処理上においては、正面方向にビームフォーミングを行い、α'とfyを零として計測することが広く行われており、その場合、組織変位は、
dβ(x,y)=d(x,y)/cosβ
=Δθ(x,y)/fxcosβ
と計算されるのに対し、方法(1)によれば、Δθ(x,y)を(fxcosβ+fysinβ)で割るので、正面方向のビーム角度の空間分解能のある計測に基づけば、fysinβが零では無いことによる計測誤差を生じない。従って、以下の方法も用いることができる。
【0094】
方法(2): この座標回転を行う場合においても、ビーム方向角度に空間分解能と精度を持たせることの有効性を確認できる。また、この座標回転を行う場合においても、空間分解能は無く精度はそれに及ばないが、関心領域内のエコー信号全体を対象としたスペクトルの重心から同様にして評価されたビーム方向角度を使用することも有効である。つまり、精度よく求められたビーム角度αを用いて、−αだけ回転させると良い。前者においては、関心領域内の各関心点において局所エコーデータを回転させる必要を生じるが、後者においては、関心領域全体を回転させればよく、精度は低くなるが、計算量は格段に少ない。使用する周波数は、トランスデューサの公称周波数f0を使用することも可能であるが、ビーム方向の局所か関心領域全体の2次元か1次元のフーリエ変換(移動平均は多次元処理が望ましい)により評価されるスペクトルの重心、又は、前記の瞬時周波数f0'が使用される。なお、座標回転は、先に記述した通り、空間領域又は周波数領域において行われる。精度よくビーム方向変位成分d(x,y)が求められ、以下、同様である。
【0095】
3次元計測の場合にも、同様であり、精度よく求められた角度φ(方位角)とθ(極角)を用いて座標系を回転させれば良い。使用する周波数は、トランスデューサの公称周波数f0を使用することも可能であるが、ビーム方向の局所か関心領域全体の3次元又は2次元、又は、1次元のフーリエ変換(移動平均は多次元処理が望ましい)により評価されるスペクトルの重心、又は、前記の瞬時周波数f0'を使用することが望ましい。精度よくビーム方向変位成分d(x,y,z)が求められ、以下、同様である。
【0096】
但し、2次元と3次元の両計測においては、通常の1方向変位計測法と同様に、方法(1)とは異なり、座標回転の計算に時間を要するために実時間性が失われ、さらに、エコーの回転に近似計算を使用した場合には計測誤差を生じる。
【0097】
方法(3): また、スペクトル周波数分割法を使用する場合、すなわち、1つのビームに多次元自己相関法又は多次元ドプラ法を施す場合に、同様にして各位置で精度良く求められたビーム方向にスペクトルを分割して(図14)、分割された各スペクトルから多次元自己相関法又は多次元ドプラ法のドプラ方程式を得て、それらを連立して解くことにより変位ベクトルを求めることができる。これより、そのビーム方向の変位成分d(x,y)を高精度に算出でき、且つ、上記と同様に、dβ(x,y)を高精度に求めることができる。
【0098】
3次元計測の場合には、同様に、精度よく求められたビーム方向角度方向を含む任意平面(半平面を含む)で、3つ又は4つ、又は、それ以上のスペクトルに分割し、各分割された各スペクトルから多次元自己相関法又は多次元ドプラ法のドプラ方程式を得て、それらを連立して解くことにより3次元変位ベクトルを求めることができる。4つ以上のスペクトルに分割した場合には、連立方程式は最小二乗法により解かれる。これより、そのビーム方向の変位成分d(x,y,z)を高精度に算出でき、以下、同様である。
なお、スペクトルの分割、又は、抽出において、適切に窓を用いることもある。
【0099】
方法(4): また、同スペクトル周波数分割法を使用する場合に、本願発明者は、図13の中央の図の様に座標系の正面方向のスペクトル(上記の通り、角度−αの座標回転、すなわち、角度−αのエコーデータの回転により求まる)を2つに分割して多次元自己相関法又は多次元ドプラ法を使用すると通常の自己相関法やドプラ法よりも高い精度がビーム方向変位成分の計測に得られることを確認している[非特許文献5](つまり、横方向変調無しの多次元自己相関法と多次元ドプラ法)。従って、空間分解能のある精度の高いビーム角度αを使用する場合、方法(2)と同様に、各関心点において座標回転を行うため、計算時間を要して実時間性を失うが、精度を追求して、この様な計測が行われることもある(同時に求まるビーム方向に直交する方向の変位成分は使用しない)。また、方法(2)と同様、この座標回転を行う場合において、関心領域内のエコー信号全体を対象としたスペクトルの重心から評価されるビーム方向角度を使用することも、精度は低下するが、計算量を減じることができ、有効である。使用する周波数は、トランスデューサの公称周波数f0を使用することも可能であるが、ビーム方向の局所か関心領域全体の2次元か1次元のフーリエ変換(移動平均は多次元処理が望ましい)により評価されるスペクトルの重心、又は、前記の瞬時周波数f0'が使用される。なお、座標回転は、先に記述した通り、空間領域又は周波数領域において行われる。精度よくビーム方向変位成分d(x,y)が求められ、以下、同様である。つまり、ビーム方向の変位成分d(x,y)が算出され、上記と同様に、dβ(x,y)が求まる。エコーの回転に近似計算を行うと計測誤差となることがある。
【0100】
3次元計測の場合にも、ビーム角度φ(方位角)とθ(極角)を用いてエコーデータを回転させて座標軸方向を重心位置としてスペクトルを置き、4象限に分割されるスペクトルの内3つ、又は、全4つ、又は、座標軸を含む任意平面(半平面を含む)により分割される3つ又は4つ、又は、それ以上の数に分割されたスペクトルから多次元自己相関法又は多次元ドプラ法のドプラ方程式を得て、それらを連立して解くことにより3次元変位ベクトルを求めることができる。4つ以上のスペクトルに分割した場合には、連立方程式は最小二乗法により解かれる。求められた3次元変位ベクトルの成分の内、そのビーム方向における変位成分d(x,y,z)を使用し、以下、同様である。
なお、スペクトルの分割、又は、抽出において、適切に窓を用いることもある。
【0101】
方法(3)と方法(4)においては、各分割された各エコーの信頼度やSN比に応じて、重み付けをして連立方程式を解くことがある(最小二乗法や正則化が使用されることもある)。また、エコーイメージングには、上記の周波数分割を行って得られる各スペクトル(各解析信号)が使用されることもあり、また、これらを重み付けして重畳して重ね合わせ表示することもある(使用しない周波数帯域のスペクトルは、重みを零とすることと等価である)。また、周波数分割を施さずに得られる複素解析信号と組み合わされることもある。それらの重ね合わせは、各々を検波した上で重ね合わせる場合と、生rf信号を重ね合わせした上で検波する場合とがある。横方向変調と同様である。
【0102】
また、方法(1)〜(4)においては、上記の如く、必要に応じて機械的ステアリング角度θm(図6)の検出をセンサで行い、また、必要に応じて表示ディスプレイをインターフェースとしてのペンでなぞる等して触れることで補正すべき角度を入力し、ビームフォーミング時かビームフォーミング後に角度αや角度β若しくは座標系を適切に定めるべく、電子的ステアリング角度(図5)や機械的ステアリング角度(図6)の補正値を数値で表示したり、補正の間に視覚的にその補正が適切であるか否かがわかる様に角度を極座標系において表示したり、その補正すべき角度の数値を用いて電子的ステアリング(開口面合成により実現される場合もある)及び機械的ステアリングにより自動的に補正することができる。例えば、対象の超音波画像そのものや同時にか該当する同一の時相において得られたその他の医用画像を含む形態画像中において血管壁等の組織構造の情報を自動的に得ることやペンでなぞることにより組織変位の方向を評価したり、組織変位の計測結果も基礎としてステアリング角度の補正値を自動的に得ることもある。この様に、任意の方法又はデバイス装置を使用することができる。X線CTやMRI等の他の医用画像とのマッチングにも有用である。
【0103】
また、方法(1)〜(4)においては、本願発明者が過去に発明した前記多次元位相マッチング法(非特許文献1〜5)が有効である。この多次元位相マッチング法により、ビーム方向の大変位によるエイリアシングを回避でき、また、計測対象の全ての方向の計測精度を向上させることができる。対象とするエコーフレーム間において多次元相互相関法や多次元クロススペクトラム位相勾配法等のブロックマッチング法を用いて得られた粗い(coarse)計測結果を用いて、多次元空間(すなわち、走査方向やエレベーション方向にも)において、対応する組織からのエコーの粗い(coarse)マッチングを行って信号間の相関性やコヒーレント性を向上させた上で、方法(1)〜(4)を用いて細かく(fine)計測することがある。この位相マッチングにおける粗い計測と細かい計測に使用されるエコーデータが、同一の受信信号でも異なるビームフォーミングにより生成されたものである場合や、異なる受信信号から生成されたものである場合がある。また、関心領域内の近傍の位置において先に得られた変位計測結果を使用して、位相マッチングが行われることもある。2次元関心領域において、変位2成分が計測対象である場合を図20に示す。3次元関心空間領域においても同様である。
【0104】
この他に、ブロックマッチング法として、相互相関法やSAD(Sum Absolute Difference)法があり、動画圧縮等においても使用される変位計測法がある。しかし、これらの計測法を該組織変位の計測に応用した場合に、ディジタル信号のサンプリング間隔の整数倍(すなわち、ディジタル値)としてしか、変位ベクトルを評価することができない。従って、細かい(fine)計測には使用できないが、上記の粗い(coarse)計測に使用されることがある。
【0105】
方法(2)と方法(4)においては、処理において座標系の回転を行うため、少なくとも、想定される変位の大きさを基に定める探索領域規模の大きさでエコーデータを回転させることになる。位相マッチングを行うタイミングとしては、(i)座標の回転を終えた後、粗い計測と細かい計測を続けて行うことがあるが、(ii)座標系の回転前に粗い計測を終え、位相マッチングを行った上で、回転処理を施し、細かい計測を行うこともあり、また、(iii)座標系の回転前に粗い計測を終え、得られた粗い計測結果を座標回転後の座標系における変位ベクトルで表し、位相マッチングを行い、その上で、細かい計測を行うことがある。
【0106】
(II)変位ベクトル計測
また、多方向ビームフォーミング法においては、各関心点において、生成された各ビーム方向を計測し、例えば、上記方法(1)から(4)の各々を適用することにより、精度の高いビーム方向の変位成分dを高精度に計測することができ、それらを合成して任意方向の変位ベクトルの高精度な計測を実現できる。
【0107】
例えば、上記方法(1)から(4)のいずれかにより、2次元変位ベクトル計測が行われる場合に、図15に示す通り、複数の方向の異なるビームを関心点(x,y)において交差させる。計測された2つのビーム角度が図中、α1及びα2と表されており、また、計測された各ビーム方向の変位成分がd1及びd2と表される場合に、組織変位ベクトルD=(dx,dy)は、
cosα1dx+sinα1dy=d1
cosα2dx-sinα2dy=d2 ・・・(B)
を解くことにより求められる。
【0108】
つまり、組織変位ベクトルD=(dx,dy)は、
dx=(sinα2d1+sinα1d2)/(sinα2cosα1+sinα1cosα2
dy=(cosα2d1-cosα1d2)/(sinα2cosα1+sinα1cosα2
を解くことにより求められる。特に、骨等の障害物が存在しない場合には、横方向に対称であるステアリングビームが使用されることもある(α1=α2)。3本以上の方向の異なるステアリングビームを使用した場合には、最小二乗法に基づいて2次元変位ベクトルが求められる。
【0109】
ここで、同エコーデータに対して、同一の関心点(x,y)において多次元自己相関法又は多次元ドプラ法の連立方程式を立て、その内のビーム角度α1のビームに関するドプラ方程式が、
fx1dx+fy1dy=Δθ1
(但し、fxとfy1の各々はビーム角度α1=tan-1(fy1/fx1)なる関係を持つ関心点(x,y)における深さ方向と横方向の瞬時周波数、Δθ1は同位置における瞬時位相の時間変化)
と表されたとすると、これを(fx2+fy21/2で割ることにより、
(fx1/(fx2+fy21/2)dx+(fy1/(fx2+fy21/2)dy=d1
が求められ、式(B)の1つ目の式と等しいことが確認される。また、同様にビーム角度α2のビームに関しては、式(B)の2つ目の式と等しいことが確認される。従って、この多方向ビームフォーミング法において方法(1)を使用した場合には、横方向変調法と等価であることが確認される。
【0110】
また、方法(1)から(4)のいずれかにより、3次元変位ベクトル計測が行われる場合に、少なくとも3本、又は、それ以上の方向の異なるステアリングビームを関心点(x,y,z)において交差させる。例えば、計測された3つのビーム角度が(φ1,θ1)と(φ2,θ2)と(φ3,θ3)であり、計測された各ビーム方向の変位成分がd1とd2とd3と表される場合に、組織変位ベクトルD=(dx,dy,dz)は、
sinθ1cosφ1dx+sinθ1sinφ1dy+cosθ1dz=d1
sinθ2cosφ2dx+sinθ2sinφ2dy+cosθ2dz=d2
sinθ3cosφ3dx+sinθ3sinφ3dy+cosθ3dz=d3
を解くことにより求められる。但し、図15に示した2次元ベクトル計測の時の角度α1とα2の様に逆方向に正方向は取らずに、図11に示した3次元座標系における方位角と極角の各々の正方向を全てのビームの方位角と極角の正方向としている。この3次元ベクトル計測においても、2次元ベクトル計測の場合と同様に、横方向変調と等価であることを確認できる。
【0111】
特に、骨等の障害物が存在しない場合には、対称であるステアリングビームが使用されることもある。また、上記、ステアリングビームには、代わりに、正面方向のビームが含まれることがある。4本以上の方向の異なるステアリングビームを使用した場合には、最小二乗法に基づいて3次元変位ベクトルが求められる。
【0112】
なお、一方向変位計測の場合と同様に、必要に応じて機械的ステアリング角度θm(図6)が使用されることがある。また、同様に、位相マッチングが行われる。その場合に、粗い計測は、多方向のステアリングビームにより得られるエコーデータが重ね合わせされている状態で行われる場合も有り、また、各ステアリング方向の計測毎に対応するエコーデータが使用されることもある。また、例えば、正面方向のビームから成るエコーデータ等、他のビームフォーミング方法により得られたエコーデータが使用されることもある。
【0113】
(III)新しい横方向変調処理及びイメージング
また、エコーイメージングに関し、横方向変調を1つの動作モードとする場合においては、上記の幾つかの横方向変調エコーデータの生成法があるが、通常の正面方向のビームフォーミング又はこの単一ステアリング角度ビームフォーミング法を基礎とした中で、短時間に容易に横方向変調を実現する。
【0114】
図16の(a)に示される通り、正面方向にビームを送受信した場合に、スペクトルが図16の(b)に示す様に得られたものとすると、横方向の低周波スペクトルを零詰めして捨てることにより、横方向余弦変調を実現できる。つまり、ビームフォーミング後、スペクトル解析を行い、該処理を行えばよい。通常のイメージングを提示することもできるし、有効な方法である。ビームがステアリングされている場合には、そのビーム方向の中心付近のスペクトルを同様に捨てると、ビーム方向に直交する方向の変調を実現できる。この場合には、横方向に広帯域となる様に、例えば、方形窓をアポダイゼーション関数として使用すると有効である。
【0115】
また、図16の(c)に示す様に、スペクトル解析後にどちらか一方の象限のスペクトルの符号を反転させると、図16の(d)に示す様なアポダイゼーションを行った横方向正弦変調を実現できる(図16は、横方向周波数が正のスペクトルの符号を反転した場合を示しているが、負のスペクトルの符号を反転させることも可能である)。従って、図16の(d)に示す様な横方向正弦変調を行った場合に、スペクトル解析後に符号を反転させると図16の(a)に示すアポダイゼーションを行った場合のエコー画像を得ることができ、上記の如く横方向の低周波成分を捨てていれば、横方向の余弦変調にすることもできる。これにより、横方向余弦変調と横方向正弦変調の可逆性を数理的に確認できる。工学上、これまで他に応用された事例は無い。
【0116】
これらの処理は、本願発明者が行っている前記横方向余弦変調(非特許文献3、6、7等、図17の(a))又は横方向正弦変調(図17の(d))を行った場合にも適用でき、同様に、低周波成分の除去による瞬時周波数を高くする処理(但し、帯域幅は狭くなりビーム幅は太くなる、図17の(b))及び余弦変調と正弦変調を入れ替える(図17)こともできる(図17は、横方向周波数が正のスペクトルの符号を反転した場合を示しているが、負のスペクトルの符号を反転させることも可能である)。例えば、2次元イメージングにおいて、2つの方形窓からなるアポダイゼーション関数を用いて横方向余弦変調を行った場合に、横方向に広帯域なビームを生成できるが、変調周波数が低い場合には、点拡がり関数に横方向の波が確認できなくなる場合があり、この場合に、正弦変調にすると、波を得ることができる効果等がある。
【0117】
3次元空間においても、正面方向にビームフォーミングした場合(図18)と複数のステアリングビームを使用した場合(図19)とを実現できる。すなわち、これらのビームフォーミングにおいて、ビームの生成後に、低周波スペクトルを捨てる(横方向の低周波スペクトル又はビーム方向中心付近のスペクトルとを除く)ことや、横方向の正弦変調と余弦変調を入れ替えることができる。正弦変調と余弦変調の入れ替えは、2次元の場合を含めて説明すると、ビームフォーミングを行った後、フーリエ空間において、深さ方向の周波数軸に対して対称の関係にある象限に存在する独立したスペクトルのいずれか一方の符号を反転させれば実現できる。なお、ビームフォーミングを行った後、フーリエ空間において、深さ方向の周波数軸に対して対称の関係にある象限に存在する独立したスペクトルのいずれか一方の符号を反転させればよく、図18及び図19の各々は、その一例を示すものである。
【0118】
該変調は、エコーイメージングならびに、組織変位や組織変位ベクトル計測に応用される。一般的には、エコーイメージングには余弦変調が適しているし、組織変位ベクトル計測には正弦変調が適しており、当発明は、この余弦変調と正弦変調を互いに変換することを可能にするものである。但し、冪乗関数を使用した適切な横方向変調を行えた場合等、変位計測のために正弦変調を行っても特段に効果が得られない場合もある。それらの際に使用される組織変位計測法は本発明によるもの以外の方法も使用することができる。なお、本発明は、正面方向のみならず、中心が偏向している場合にも使用できる。3次元空間においても、同様に、それらのイメージングを実現できる。
【0119】
以上により、本発明は、生成される超音波ビームを詳細に評価することを可能とし、これにより得られるデータを使用して、横方向の高分解能な超音波エコーイメージングと高精度な組織変位、瞬時位相の変化、ずり波の振動変位や振動振幅等の計測を実現するものである。エコーイメージングに関しては、通常の超音波診断装置で行われている正面方向のビームフォーミングにおいて、エコーデータの収集後の信号処理により、本願発明者が過去に発明した横方向変調を実現できるものである。また、いずれの横方向変調を行った場合においても、余弦変調と正弦変調を入れ替えることが可能である。また、組織変位計測に関しては、各位置においてビーム方向を求めることにより、通常のドプラ(ビーム方向変位)はもとより、一方向変位(例えば、横方向変位)や変位ベクトルを簡便かつ高精度に計測することを可能にするものである。なお、本発明が必ずしも最良の計測及びイメージングを実現するとは限らず、該ビームフォーミングを実現し得る同ハードウェア構成で実行可能な様々なビームフォーミングを行う機能も、他の変位計測法と併せて選択できることも特徴とする。例えば、障害物等が無く、また、複数ビームの生成間の組織変位も問題とならず、また、最初から高い横方向変調周波数を持つ横方向変調を行えるのであれば、正面方向のビームフォーミング後に横方向変調を実現するよりも前者を選択するべきである。従って、本実施形態に係るイメージング及び変位計測装置は、計測制御部3又はデータ処理部1等において、実質的にビームフォーミング法と変位計測法の最適な組み合わせの選択機能/方法(自動選択を含む)を有することもある。
【0120】
データ処理部1において算出された3次元関心空間内の3次元又は2次元変位ベクトル、2次元関心領域内の2次元変位ベクトル、3次元関心空間又は2次元関心領域内の1方向変位に帯域制限を施した微分フィルタ(3次元、2次元、又は、1次元空間フィルタ)を畳み込み積分するか、又は、周波数空間において帯域制限のある微分フィルタの周波数応答(3次元、2次元、又は、1次元周波数応答)をかけることにより歪テンソル成分又は歪が求められる。同様に、これらの変位(ベクトル成分、分布、時系列)又は歪(テンソル成分、分布、時系列)に帯域制限を施した時間微分フィルタを施すことにより、歪(テンソル成分、分布、時系列)や歪速度(テンソル成分、分布、時系列)や加速度(ベクトル成分、分布、時系列)や速度(ベクトル成分、分布、時系列)が求められる。また、瞬時位相の変化の検出や計測、ずり波の伝搬速度や伝搬方向(分布、時系列)が求められる。
【0121】
以上の計測結果として、計測された変位ベクトル成分又は変位、又は、歪テンソル成分又は歪、又は、歪速度テンソル成分又は歪速度、又は、加速度ベクトル成分又は加速度、又は、速度ベクトル成分又は速度、又はその分布、又はその時系列の内のいずれかか、その際に使用した、又は、使用していない同一の時相の超音波エコーデータフレーム(異なるビームフォーミング)、又は、ほぼ同一の時相、又は、重ね合せることのできる異なる時相(例えば、心拍と同期して得たもの等)の超音波エコーデータフレームに上記の包絡線検波や二乗検波等の検波を行って得られるBモードグレー画像のいずれかを、CRT等の表示部10(図1)に画像表示することも可能である。テンソル量に関しては主歪や主歪速度が求められ、これらが画像表示されることもある。必要に応じて、いわゆるカラードプラやパワードプラ、エラストグラフィ(Elastography)等の様に、それらの分布がBモードグレー画像中にカラー表示されたりして、空間的な位置や、方向や、大きさ(強さ)に関して分解能を持つ表示方法は、全て使用可能である。また、ベクトル量や主歪や主歪速度は、ベクトル線図で示されることもある。さらに、これらが互いに重畳されて表示されることもある。なお、瞬時位相の変化や瞬時位相の変化の及んだ位置(分布、時系列)、ずり波の伝搬(伝搬速度や伝搬方向、振動変位や振動振幅の分布や時系列等)等に関しても同様に表示されることがある。これらの結果が、核磁気共鳴画像に重畳表示されることもある。また、核磁気共鳴信号に基づく変位(ベクトル)又は位相計測を行った場合も、同様に、計測結果が他の医用画像に重畳されて表示されることもある。
【0122】
また、本実施形態により計測された変位ベクトル分布データから求めた歪テンソル分布データに基づいて、ずり弾性定数分布を演算により求めることができる。なお、ずり弾性率を求める場合には、ずり弾性率が既知の物体を参照物として利用するものとし、関心領域内に参照領域を設定する。この参照領域は、ずり弾性率の絶対値が既知の領域、又は、ずり弾性率を推定済の領域を設定する。安定的にずり弾性率分布を計測するためには、参照領域は、支配的に変形している方向に直交する方向に広く存在することが必要である。したがって、超音波トランスデューサそのものを力源として対象物を圧迫する場合には、トランスデューサと対象物との間に参照物を挟んで圧迫を加えてもよい。この場合に、参照物は、治具を用いてトランスデューサ側に装着することもできる。応力テンソル分布や圧力分布、力源分布も求められることがある。分解能は低いが、ずり波の伝搬速度や伝搬方向等からも力学的特性が求められる。
【0123】
ところで、変位ベクトル分布、歪テンソル分布、ずり弾性率分布、粘性分布を計測する狙いは、定量的に静力学又は動力学に関わる物体、物質及び材料の非破壊による特性評価及び検査、生物の非侵襲的診断及び検査を行うことにある。例えば、ヒト生体軟組織を対象とした場合には、病変の進行や組織性状の変化に伴う組織の静的弾性特性が変化することに着目したのである。また、体外より振動を加えたり、圧迫することに代えて、放射圧を使用する、また、心拍や脈拍等による組織変形を計測しても同様であり、組織のずり弾性率の値及びその分布形態から組織性状鑑別を行うことができる。また、血流等の体液流動の特性の計測も可能である。この様に計測された結果は、数値表示だけでなく、表示部10に同様に表示される。
【0124】
また、本発明に係るイメージング及び変位計測装置は、放射線治療(強力超音波照射、レーザ照射、電磁RF波照射、電磁マイクロ波照射、等)による生体組織の治療効果(温度変化を含む:例えば、非特許文献17、18参照)のモニタリングに使用されることもある。この場合に、イメージング及び変位計測装置は、表示部10の表示機能に基づき、治療前、治療間、治療後において、治療の制御を行うべく計測されるずり弾性率等の力学的特性の分布を計測して表示部10に画像表示するだけでなく、本発明の各実施形態により計測される変位ベクトル分布、変位ベクトル成分分布、歪テンソル成分分布、歪テンソル成分の勾配分布、応力テンソル分布、圧力分布、力源分布、瞬時位相の変化の分布、ずり波の伝搬(伝搬速度や伝搬方向、振動変位や振動振幅の分布等)等の静止画像、動画像、各分布の経時的変化(差分値)を画像等、各分布の任意の位置における値、及び、各分布の任意の位置における値の経時的変化(グラフ)を表示部10に表示するようにしてもよい。
【0125】
また、イメージング及び変位計測装置は、超音波画像表示機能との併用により、体積弾性率及び密度の空間的変化そのもののリアルタイム測定及び画像化も可能として、体積弾性率及び密度の空間的変化そのものの画像に、計測結果として、変位ベクトル分布、変位ベクトル成分分布、歪テンソル成分分布、歪テンソル成分の勾配分布、応力テンソル分布や圧力分布、力源分布、瞬時位相の変化の分布、ずり波の伝搬(伝搬速度や伝搬方向、振動変位や振動振幅の分布等)等の静止画像、動画像、各分布の経時的変化(差分値)を重畳表示することもできる。変位ベクトル分布やずり波の伝搬に関しては、ベクトル線図において表示することもできる。また、温度分布が計測された場合には、これより、熱物性分布を求め、治療計画を立てることも可能である。核磁気共鳴信号に基づく変位(ベクトル)計測や温度分布計測を行った場合も、同様に、計測結果が核磁気共鳴画像に重畳されて表示されることもあるが、別の医用画像に重畳表示されることがある。
【0126】
また、穿刺型放射線治療「強力超音波照射、レーザ照射、電磁RF波照射(不感電極も針電極)、電磁マイクロ波照射(不感電極も針電極)等による生体組織の治療効果(温度変化を含む)のモニタリング及び治療の制御、治療計画を立てるためにイメージング及び変位計測装置を使用する場合も同様である。また、抗癌剤投与により生体組織の治療効果(温度変化を含む)のモニタリング及び治療の制御、治療計画を立てるためにイメージング及び変位計測装置を使用する場合も同様である。
【0127】
これらの治療効果のモニタリングにおいては、特に、力源が存在しない、あるいは、積極的に力源を使用しない場合には、変位ベクトル及び歪テンソルを計測することにより治療そのものによる組織の変性、組織の膨張・収縮( 縮退)、組織の温度変化等の検出にもイメージング及び変位計測装置を応用できる。
【0128】
また、イメージング及び変位計測装置は、生物や物体・物質・材料(生成時及び成長時を含む)を対象に、非破壊検査として、変位ベクトル分布、歪テンソル分布等の力学量、及び、ずり弾性率分布等の力学的特性の計測及びモニタリングを行うこともある。心臓等の複雑な動きをするものや、様々な血流、それも、上記の通り、体表と並行した横方向の流れや心腔内等の複雑な流れの計測をも可能とするものである。また、血流計測イメージングや加熱治療に使用される造影剤等の材料開発に向け、その力学的特性や熱物性の計測等が行われることもあり、応用範囲は多義にわたる。既存の造影剤を使用した場合にも適用でき、例えば、末梢血管における計測精度の向上が期待できる。また、広い分野で、顕微鏡として使用されることもある。生物やヒトを対象とした場合には、例えば、バイオ応用、組織培養、再生医療等に使用される。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、物体、物質、材料、生体等の計測対象物内部の力学的量や特性を非破壊でイメージングしたり定量的に計測できるイメージング及び変位計測装置、並びに、超音波診断装置において利用することが可能である。
【符号の説明】
【0130】
1 データ処理部
2 データ格納部
3 計測制御部
4、4'、4" 位置調整部
5 変位・歪検出センサ
5a 超音波振動子
5' 駆動・出力調整部
6 計測対象物
7 関心領域
8、8'、8" 力源
9 液体槽
10 表示部
11 遅延素子
12 アポダイゼーション素子又はスイッチ
13 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物の略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とさらにこれらの方向に略直交するエレベーション方向とを3軸とする任意の3次元の直交座標系、又は、略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とを2軸とする任意の2次元の直交座標系を取り、少なくとも1素子の超音波素子を使用して、1つのステアリング角度を有する超音波ステアリングビームで計測対象物を横軸方向に走査することにより得られる3次元又は2次元の超音波エコーデータフレームを生成するステップ(a)と、
複数の異なる時相において生成される超音波エコーデータフレームに対して、関心領域内の各関心点において多次元解析信号から求まる各軸方向の瞬時周波数又は関心点を含む局所領域内の超音波エコーデータのスペクトルから求まる各軸方向の第1次モーメントとしての重心周波数が3次元周波数ベクトル(fx,fy,fz)を表す場合に、回転角φ=tan-1(fy/fx)、極角θ=cos-1[fz/(fx2+fy2+fz21/2]、周波数(fx2+fy2+fz21/2に基づいて、又は、該重心周波数が2次元周波数ベクトル(fx,fy)を表す場合に、角度φ=tan-1(fy/fx)、周波数(fx2+fy21/2に基づいて、各関心点におけるビーム方向及び該ビーム方向における周波数を求めるステップ(b)と、
各関心点の複数の異なる時相間の該ビーム方向における変位成分を算出するステップ(c)と、
を具備する変位計測方法。
【請求項2】
ステップ(b)が、各関心点を含む局所領域内の超音波エコーデータの各スペクトルからではなく、関心領域内のエコーデータ全体のスペクトルから求まる各軸方向の第1次モーメントとしての重心周波数が3次元周波数ベクトル(fx,fy,fz)を表す場合に、回転角φ=tan-1(fy/fx)、極角θ=cos-1[fz/(fx2+fy2+fz21/2]に基づいて、又は、該重心周波数が2次元周波数ベクトル(fx,fy)を表す場合に、角度φ=tan-1(fy/fx)に基づいて、ビーム方向を求めることを含む、請求項1記載の変位計測方法。
【請求項3】
ステップ(a)が、機械的なステアリングを行った場合に、任意の方法又は装置によりステアリング角度を感知して、ビームフォーミング時又はビームフォーミング後に座標系を設定する処理を行うことを含む、請求項1又は2記載の変位計測方法。
【請求項4】
ステップ(c)が、各関心点において求められる複数の異なる時相間の瞬時位相の変化を前記ビーム方向における周波数で割ることにより、前記ビーム方向における変位成分を算出することを含む、請求項1記載の変位計測方法。
【請求項5】
ステップ(c)が、前記ビーム方向に基づいて関心点からの超音波エコーデータを含む超音波エコーデータを回転させ、前記ビーム方向を正面とする新たな直交座標系において前記ビーム方向における変位成分を算出することを含む、請求項1記載の変位計測方法。
【請求項6】
ステップ(c)が、前記ビーム方向に基づいて関心点からの超音波エコーデータを含む超音波エコーデータの多次元スペクトルを分割し、分割された多次元スペクトルから求まる多次元解析信号又はエコーデータフレームからドプラ方程式を得て、それらを連立して解いて求められる変位ベクトルから前記ビーム方向における変位成分を算出することを含む、請求項1記載の変位計測法。
【請求項7】
ステップ(a)が、0度のステアリング角度を設定して超音波ステアリングビームを生成することを含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の変位計測方法。
【請求項8】
各関心点において、ステップ(b)において求まる前記ビーム方向と、ステップ(c)において求まる前記ビーム方向における変位成分と、任意の方法又は装置により与えられる変位の方向データとを用いて、変位方向における変位を算出するステップ(d)をさらに具備する、請求項1〜7のいずれか1項記載の変位計測方法。
【請求項9】
複数の異なる時相において同一の複数のステアリング角度を有する超音波ステアリングビームで計測対象物を横軸方向に走査することにより得られる複数の3次元又は2次元の超音波エコーデータフレームを生成し、
各関心点において、各々のステアリング角度を有する超音波ステアリングビームについて複数の異なる時相において生成される超音波エコーデータフレームにステップ(b)及び(c)が適用され、
各関心点において求まる複数のビーム方向における変位成分を合成することにより変位ベクトルを算出するステップ(d)をさらに具備する、請求項1〜7のいずれか1項記載の変位計測方法。
【請求項10】
駆動信号に従って超音波を送信すると共に、超音波エコーを受信して受信信号を出力する少なくとも1つの超音波振動子を含む超音波探触子と、
少なくとも1つの駆動信号を生成すると共に、少なくとも1つの受信信号を処理する駆動・出力調整手段と、
計測対象物の計測対象物の略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とさらにこれらの方向に略直交するエレベーション方向とを3軸とする任意の3次元の直交座標系、又は、略深さ方向と深さ方向に略直交する横方向とを2軸とする任意の2次元の直交座標系を取り、少なくとも1つのステアリング角度を有する超音波ステアリングビームで計測対象物を横軸方向に走査することにより得られる3次元又は2次元の超音波エコーデータフレームを生成するように各部を制御する計測制御手段と、
請求項1〜9のいずれか1項記載の変位計測方法におけるステップ(b)及び(c)、又は、ステップ(b)〜(d)を実行するデータ処理部と、
を具備する変位計測装置。
【請求項11】
前記計測制御手段が、ビームフォーミングに関して、(i)超音波トランスデューサの物理開口の正面方向への超音波ビームを使用することと、(ii)1つのステアリング角度を有する超音波ステアリングビームを使用することと、(iii)該ステアリング角度を基礎とする複数方向の超音波ビームを使用することとの内の少なくとも1つを含むビームフォーミングを、計測対象を決めることにより、変位計測法との組み合わせとして選択可能である、又は、変位計測法との組み合わせとして自動的に選択する機能を有する、請求項10記載の変位計測装置。
【請求項12】
前記計測制御手段が、(i)又は(ii)が選択された場合に、前記データ処理手段によってビームフォーミングが行われた後、得られる単一スペクトルの横方向の低周波スペクトル又はビーム方向中心付近のスペクトルを除くことによりビーム方向に直交する方向に変調し、(iii)が選択された場合に、前記データ処理手段によってビームフォーミングが行われた後、得られる複数のスペクトルの中心側のスペクトルを除くことにより中心方向に直交する方向の変調周波数を高くする機能を有する、請求項11記載の変位計測装置。
【請求項13】
前記計測制御手段が、前記データ処理手段によってビームフォーミングが行われた後、フーリエ空間において、深さ方向の周波数軸に対して対称の関係にある象限に存在する独立したスペクトルのいずれか一方の符号を反転させることにより、横方向変調において余弦変調と正弦変調とを反転させる機能を有する、請求項10〜12のいずれか1項記載の変位計測装置。
【請求項14】
前記データ処理部が、超音波エコー信号の高調波信号を用いる、請求項10〜13のいずれか1項記載の変位計測装置。
【請求項15】
前記データ処理部が、造影剤からの超音波エコー信号を用いる、請求項10〜14のいずれか1項記載の変位計測装置。
【請求項16】
前記データ処理部が、算出された変位ベクトル成分又は変位、又はその分布、又はその時系列データに空間微分フィルタ又は時間微分フィルタを施すことにより、歪テンソル成分又は歪、又は、歪速度テンソル成分又は歪速度、又は、加速度ベクトル成分又は加速度、又は、速度ベクトル成分又は速度、又はその分布、又はその時系列をも求める、請求項10〜15のいずれか1項記載の変位計測装置。
【請求項17】
前記データ処理部が、算出された変位ベクトル成分又は変位、歪テンソル成分又は歪、歪速度テンソル成分又は歪速度、主歪又は主歪速度、加速度ベクトル成分又は加速度、速度ベクトル成分又は速度、瞬時位相の変化、ずり波伝搬速度又は伝搬方向、又は、ずり波の振動変位又は振動振幅又はそれらの分布又はそれらの時系列と、超音波エコーデータフレームそのもの又はそれらの重ね合わせを検波して得られる信号又は検波後に重ね合わせして得られる信号と、それら異なる画像の重畳データとの内の少なくとも1つに基づく画像を、計測結果として表示部に表示させる、請求項10〜16のいずれか1項記載の変位計測装置。
【請求項18】
請求項10〜17のいずれか1項記載の変位計測装置を具備する超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−349(P2013−349A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134573(P2011−134573)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本音響学会 2011年春季研究発表会 講演論文集 1−11−15及び1−P−1(a)(平成23年3月2日発行、発行者:社団法人 日本音響学会)にて発表 日本生体医工学会誌「生体医工学」第49巻特別号 ES1−3−4(平成23年4月発行、発行者:日本生体医工学会)にて発表、電子情報通信学会技術研究報告 Vol.111、No.61、US2011−8(平成23年5月17日発行、発行者:社団法人 電子情報通信学会)にて発表
【出願人】(502350504)学校法人上智学院 (50)
【Fターム(参考)】