説明

イリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法

【課題】イリジウムの塩化物溶液から、高純度で粉砕性が良好な金属イリジウムを製造する方法を提供する。
【解決手段】イリジウムの塩化物溶液に酸化剤を加えて加熱する工程と、前記酸化剤を加えて加熱した溶液にアルカリを加えてイリジウムを水酸化物にする工程と、前記溶液からイリジウムの水酸化物を回収した後、還元雰囲気で500〜700℃の温度にて焼成して粗イリジウムを作製する工程と、前記粗イリジウムを粉砕する工程と、前記粉砕した粗イリジウムを、還元雰囲気で800〜1000℃の温度にて焼成して金属イリジウムを作製する工程と、を含んだイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法、特に、イリジウムの塩化物溶液からの高純度で粉砕性が良好な金属イリジウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イリジウムは高硬度、高耐熱性、高耐食性を有することから各種無機材料融解用のるつぼや防食材料等に広く利用されている。特に、近年では電気的特性にも優れていることから電極材料としての利用が期待されている。
【0003】
上述のようなイリジウムを使用した各種製品からの金属イリジウムの回収方法としては、一般に、塩酸等によってイリジウムを溶融させてイリジウムの塩化物溶液を作製し、これをアルカリで中和することによりイリジウムを水酸化物として回収した後、還元焼成するものが知られている。
【0004】
このような方法として、例えば、特開2004−190058号公報(特許文献1)には、イリジウムの精製方法の記載はあるが、金属イリジウムの製造方法までの記載が無い。このように、イリジウムの塩化物溶液から金属イリジウムを回収する方法については参考とする従来技術がほとんど無い状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−190058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属イリジウムは、上記種々の製品の製造工程において、その構成材料として用いる際に、高純度で粉砕性が良好であることが好ましい。ここで、従来のイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法によれば、まず、イリジウムの塩化物溶液を加熱して酸化剤を添加することで、イリジウムイオンの価数を4価に調整した後、さらにアルカリを加えて溶液中のイリジウムを水酸化物として沈殿させて回収する。続いて、還元雰囲気下で焼成することで金属イリジウムを作製している。しかしながら、従来は、前記焼成を、脱酸のために800〜1000℃の温度で1回行っているが、このような焼成では、イリジウムが焼結して、粉砕性が不良になってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、イリジウムの塩化物溶液から、高純度で粉砕性が良好な金属イリジウムを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、イリジウムを水酸化物として回収した後、焼成を異なる適切な温度範囲で2段階に分けて行い、且つ、当該2段階の焼成工程の間に粉砕工程を設けることで、高純度且つ粉砕性が良好な金属イリジウムが得られることを見出した。
【0009】
以上の知見を背景にして完成した本発明は一側面において、
イリジウムの塩化物溶液に酸化剤を加えて加熱する工程と、
前記酸化剤を加えて加熱した溶液にアルカリを加えてイリジウムを水酸化物にする工程と、
前記溶液からイリジウムの水酸化物を回収した後、還元雰囲気で500〜700℃の温度にて焼成して粗イリジウムを作製する工程と、
前記粗イリジウムを粉砕する工程と、
前記粉砕した粗イリジウムを、還元雰囲気で800〜1000℃の温度にて焼成して金属イリジウムを作製する工程と、
を含んだイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法である。
【0010】
本発明に係るイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法は一実施形態において、前記還元雰囲気で500〜700℃の温度にて焼成して粗イリジウムを作製する工程における焼成時間が1〜10時間である。
【0011】
本発明に係るイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法は別の一実施形態において、前記還元雰囲気で800〜1000℃の温度にて焼成して金属イリジウムを作製する工程における焼成時間が1〜5時間である。
【0012】
本発明に係るイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法は更に別の一実施形態において、前記イリジウムを水酸化物にする工程で用いるアルカリが水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イリジウムの塩化物溶液から、高純度で粉砕性が良好な金属イリジウムを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るイリジウムの塩化物溶液から金属イリジウムを製造するプロセスの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る本発明に係るイリジウムの塩化物溶液から金属イリジウムを製造する方法を説明する。
【0016】
図1に、本発明に係るイリジウムの塩化物溶液から金属イリジウムを製造するプロセスの一例を示す。本発明に係るイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法は、まず、処理対象の原料として、イリジウムを使用した各種製品から塩酸等によってイリジウムを溶融させる等によって得られたイリジウムの塩化物溶液を準備する。
【0017】
次に、イリジウムの塩化物溶液に、過酸化水素、過マンガン酸カリウム等の酸化剤を加えて、例えば80℃程度で加熱する。これにより、塩化物溶液中のイリジウムイオンの価数を4価に調整する。
【0018】
次に、酸化剤を加えて加熱したイリジウムの塩化物溶液に、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリを加えてイリジウムを水酸化物にする。このイリジウムの水酸化物は、溶液中に沈殿する。
このように、イリジウムを水酸化物にしておくことで、後工程で水素を含むガス中で還元したとき、生成物がH2Oであるため、有毒で腐食性を有するガスが発生することなく、固体の塩化アンモニウムの生成及びそれによるダグトの閉塞等の問題が生じることが無い。
【0019】
次に、溶液中のイリジウムの水酸化物を濾過等によって回収した後、還元雰囲気で500〜700℃の温度で焼成して粗イリジウムを作製する。この還元雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム又はアルゴン等の不活性ガスと、水素等の還元ガスとで形成することができる。還元雰囲気で焼成を行うことにより、焼成の際のイリジウムの酸化による酸素の混入を抑制することができる。また、後述のように800〜1000℃の高温で焼成する前に、このように500〜700℃という比較的低温度で焼成を行って水分を除去しておくと、焼成温度が低いためにイリジウム塩が完全に分解せず、塩素や酸素を多く含んでしまうが、粉砕性が良好となり、粉砕機からの汚染を良好に抑制することができ、後に高純度の金属イリジウムを作製することができる。
上記焼成温度が500℃未満であれば、イリジウム塩の分解が不十分であり、粗イリジウムを作製することが困難となり、このまま粉砕後、後述のように800〜1000℃の温度での焼成を行うとイリジウム塩が再び凝集して塊状となり、粉砕性が不良となる。また、上記焼成温度が700℃超であると、イリジウム塩が焼結してしまい、粉砕性が不良となる。
この工程の焼成温度は好ましくは550〜650℃であり、より好ましくは580〜620℃である。
焼成時間は、1〜10時間であるのが好ましい。焼成時間が1時間未満であると、イリジウム塩の分解が不十分となる。焼成時間が10時間超であると、イリジウム塩が焼結して粉砕性が不良となる。
【0020】
次に、粗イリジウムを、粉砕し、例えば目開きが200μm以下の篩等を用いて分級することで、粒径を200μm以下のものにする。このように粉砕して分級しておくことで、後の高温での焼成工程でのイリジウムの焼結を良好に抑制することができる。
【0021】
次に、粉砕して分級した粗イリジウムを、還元雰囲気で800〜1000℃の温度で焼成して金属イリジウムを作製する。この還元雰囲気は、例えば、窒素、ヘリウム又はアルゴン等の不活性ガと、水素等の還元ガスとで形成することができる。還元雰囲気で焼成を行うことにより、焼成の際のイリジウムの酸化による酸素の混入を抑制することができる。
このように800〜1000℃という高温で焼成を行ってイリジウムの塩を完全に分解して含有していた塩素や酸素を除去して、特に酸素品位が低い高純度の金属イリジウムを作製することができる。
また、上述のように、まず、イリジウムの水酸化物を500〜700℃の温度で焼成し、粉砕して分級した後、800〜1000℃の温度で焼成することで、イリジウムが焼結して粉砕性が不良になってしまうことを良好に抑制することができる。
上記焼成温度が800℃未満であれば、粗イリジウム中に残っていたイリジウム塩の分解が不十分であり、作製する金属イリジウム中の塩素含有量が多くなって高純度の金属イリジウムを作製することが困難となる。また、上記焼成温度が1000℃超であると、一度粉砕していても再び焼結してしまい、粉砕性が不良となる。この工程の焼成温度は好ましくは800〜900℃であり、より好ましくは820〜830℃である。
焼成時間は、1〜5時間であるのが好ましい。焼成時間が1時間未満であると、残留しているイリジウム塩の分解が不十分となる。焼成時間が5時間超であると、イリジウムが焼結してしまし、粉砕性が不良となる。
以上のプロセスにより、酸素品位が低く、粉砕性が良好な金属イリジウムを作製することができる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を示すが、これは本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0023】
(実施例1)
まず、イリジウムの塩化物としてイリジウムクロロ錯体含む化合物を純粋に溶解し、濃度20g/Lのイリジウムの塩化物溶液を準備した。
次に、このイリジウムの塩化物溶液に酸化剤として過マンガン酸カリウムを加えて、80℃で加熱した。
次に、酸化剤を加えて加熱したイリジウムの塩化物溶液に、アルカリとして水酸化ナトリウムを加えてイリジウムを水酸化物にした。
次に、溶液中のイリジウムの水酸化物を濾過によって回収した後、還元雰囲気(5%水素−95%アルゴンガス)で600℃の温度で3時間焼成して粗イリジウムを作製した。このとき、粗イリジウム中の酸素濃度は15〜16質量%であった。
次に、粗イリジウムをメノウ乳鉢を用いて粉砕し、篩を用いて粒径を180μm以下のものに分級した。
次に、粉砕して分級した粗イリジウムを還元雰囲気(5%水素−95%アルゴンガス)で850℃の温度で3時間焼成して金属イリジウムを作製した。
次に、金属イリジウムをメノウ乳鉢を用いて粉砕し、篩を用いて粒径を180μm以下のものに分級した。これにより99%の金属イリジウムを回収した。
次に、回収した金属イリジウムの酸素品位を測定したところ、650ppmと以上に低品位であった。これにより、粉砕性が良好で高純度の金属イリジウムが作製できたことが確認された。
【0024】
(比較例1)
イリジウムの水酸化物を濾過によって回収するまでは実施例1と同様の処理を行った。
次に、回収したイリジウムの水酸化物を、実施例1のように低温での焼成を行わず、ただちに還元雰囲気(5%水素−95%アルゴンガス)において850℃で3時間焼成した。
得られた焼成物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕しようとしたが、焼結していたため粉砕できなかった。
【0025】
(比較例2)
濾過により回収したイリジウムの水酸化物を還元雰囲気(5%水素−95%アルゴンガス)で600℃の温度で3時間焼成して粗イリジウムを作製するまでは実施例1と同様の処理を行った。
次に、粗イリジウムをメノウ乳鉢を用いて粉砕し、篩を用いて粒径を180μm以下のものに分級して99%以上を回収した。
回収した粗イリジウムを実施例1のように高温焼成せず、そのまま酸素品位を測定したところ、5〜6質量%と高品位であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウムの塩化物溶液に酸化剤を加えて加熱する工程と、
前記酸化剤を加えて加熱した溶液にアルカリを加えてイリジウムを水酸化物にする工程と、
前記溶液からイリジウムの水酸化物を回収した後、還元雰囲気で500〜700℃の温度にて焼成して粗イリジウムを作製する工程と、
前記粗イリジウムを粉砕する工程と、
前記粉砕した粗イリジウムを、還元雰囲気で800〜1000℃の温度にて焼成して金属イリジウムを作製する工程と、
を含んだイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法。
【請求項2】
前記還元雰囲気で500〜700℃の温度にて焼成して粗イリジウムを作製する工程における焼成時間が1〜10時間である請求項1に記載のイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法。
【請求項3】
前記還元雰囲気で800〜1000℃の温度にて焼成して金属イリジウムを作製する工程における焼成時間が1〜5時間である請求項1又は2に記載のイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法。
【請求項4】
前記イリジウムを水酸化物にする工程で用いるアルカリが水酸化ナトリウム又は水酸化カルシウムである請求項1〜3のいずれかに記載のイリジウムの塩化物溶液からの金属イリジウムの製造方法。

【図1】
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