説明

インク、インクカートリッジ、及びインクジェット記録方法

【課題】黒濃度及び光沢性に優れるモノクロ画像を記録することができるインク、該インクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】カーボンブラック、該カーボンブラックを分散させるための樹脂、樹脂微粒子及び水溶性有機溶剤を含有するインクであって、前記樹脂微粒子が、エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットと、エチレン性不飽和酸モノマー及びその塩から選ばれるモノマーに由来するユニットとを少なくとも含み、かつ、前記エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットに占める飽和アルキル基含有モノマーに由来するユニットの割合が95.0質量%以上であり、前記水溶性有機溶剤が、20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤を含むことを特徴とするインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録にも好適なインク、該インクを利用したインクカートリッジ、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録技術の進歩により、一般家庭においても容易かつ安価に、銀塩写真やオフセット印刷で実現されているような高精細で高い光沢性を有する画像を記録することが可能になってきている。ここでいう「光沢性」とは、表面に光沢を有する記録媒体(いわゆる光沢紙類)に記録した画像において、画像に映りこんだ照明などの反射光による「ぎらつき」が抑えられ、なおかつ、前記反射光が鮮明に見えるような画像上での反射光の状態を示す。
【0003】
高い光沢性を実現するために、色材として染料を含有する染料インクを用いると、粒状性がなく良好な画像が得られるが、一方で、該画像は堅牢性に劣るという課題がある。このため、近年では、色材として顔料を含有するインクが用いられるようになってきている。このようなインクとしては、記録媒体への顔料の定着性や、画像の耐擦過性などをより向上させることを目的として、水溶性の樹脂により顔料が分散されてなるインクが広く使用されるようになっている。
【0004】
しかし、一般的に顔料インクにより記録された画像の発色性は、染料インクの場合と比べ不十分であるという課題がある。また、顔料が粒子であることに起因して、特に、表面に光沢を有する記録媒体に記録した画像の光沢性が染料インクの場合と比べ不十分であるという課題もある。特にこれらの課題は、光沢紙を用いた場合に顕著に生じ、写真などの画像を記録する上で、顔料インクにより記録された画像の発色性及び光沢性を向上することが強く要求されている。
【0005】
とりわけ顔料インクにより記録されたモノクロ画像については、顔料層内部の空隙によって光の内部散乱が起き、生じた光が画像の反射光として見えることにより、染料インクにより記録されたモノクロ画像に比べて、見た目の黒濃度が顕著に低下する。また、ブラック系のインクには、顔料の中でも比較的高屈折率のカーボンブラックを使用するため、画像がぎらつきやすく、光沢性も不十分である。
【0006】
上記したような、顔料インクによって記録したモノクロ画像の性能向上という課題を解決するために、これまでに様々な試みがなされてきた。例えば、薄いブラックインクによる画像のぎらつきを抑制するために、インク中の樹脂エマルションの含有量をカーボンブラックの含有量の2倍以上とすることに関する提案がある(特許文献1参照)。また、発色性を向上させるために、屈折率の異なる2種以上の樹脂から構成される、多層構造やミクロドメイン構造を有する樹脂微粒子をインクに含有させることに関する提案がある(特許文献2参照)。さらに、発色性及び光沢性を向上させるために、樹脂微粒子を固着させたカーボンブラックと、樹脂微粒子とをインクに含有させることに関する提案がある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−225037号公報
【特許文献2】特開2000−072991号公報
【特許文献3】特開2004−331946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、上記で挙げたような従来の技術では、カーボンブラックを含有するインクで光沢紙に記録した画像において特に重要視される、黒濃度及び光沢性が不十分であることがわかった。先ず、特許文献1に記載の発明においては、インク中に屈折率の低い樹脂エマルションが、屈折率の高いカーボンブラックに対して2倍量以上含まれるため、画像のぎらつきは抑制され光沢性は高められている。しかし、画像から白色光が反射することで黒濃度の低下がみられ、発色性の点では十分とは言い難い。また、特許文献2に記載された発明では、樹脂微粒子の内部に屈折率差を発生させるため、通常用いられるモノマーユニットの中でも比較的屈折率の高い芳香族ユニットを有する樹脂微粒子を使用している。そのため、画像の屈折率を低下させることができず、画像のぎらつきの抑制が不十分であり、光沢性として十分に満足できるものとはなっていない。さらに、特許文献3に記載された発明では、得られる画像表面の平滑性が失われているため、光沢性が不十分である。
【0009】
したがって、本発明の目的は、黒濃度及び光沢性が共に優れるモノクロ画像を記録することができるインクジェット記録にも好適なインク、該インクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクは、カーボンブラック、前記カーボンブラックを分散するための樹脂、樹脂微粒子及び水溶性有機溶剤を含有してなるインクであって、前記樹脂微粒子が、エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットと、エチレン性不飽和酸モノマー及びその塩から選ばれるモノマーに由来するユニットとを少なくとも含み、かつ、前記エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットに占める飽和アルキル基含有モノマーに由来するユニットの割合が95.0質量%以上であり、前記水溶性有機溶剤が、20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、黒濃度及び光沢性が共に優れるモノクロ画像を記録することができるインク、該インクを用いたインクカートリッジ及びインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。以下、カーボンブラックのことを「顔料」と記載する場合がある。なお、本発明における平均粒径とは、体積基準の平均粒径(D50)であり、粒径分布の50%累積値のことである。
【0013】
先ず、本発明者らは、樹脂により分散されたカーボンブラックを含有するインクで記録するモノクロ画像の発色性を向上する手法について検討を行った。モノクロ画像の発色性、すなわち画像の黒濃度を向上させるためには、顔料層での光の吸収が重要であり、光の吸収量が多くなれば、画像の黒濃度が向上する。ここで、カーボンブラックを含有するインクにより記録される画像では、カーボンブラックによって形成される顔料層の表面が粗いことに起因して、画像表面に光が入射した際に、光の「表面散乱」が発生しやすい。また、画像を形成している顔料層の内部には、顔料の他に空気が内包される空隙が散在しており、この空隙により光の「内部散乱」が起こる。カーボンブラックを含有するインクにより記録された画像においては、光の「表面散乱」と「内部散乱」が生じ、これらが画像の反射光として見えることにより、光の吸収量が見かけ上減少し、画像の黒濃度が低下する要因となっているという知見を得た。
【0014】
一方、カーボンブラックを含有するインクで記録するモノクロ画像の光沢性を向上させるためには、カーボンブラックが高屈折率であるために生じるぎらつきを低減するのが重要である。このため、顔料層中に空気が内包される空隙をあえて形成し、低屈折率である空気を利用して顔料層全体の屈折率を下げれば、画像の光沢性が向上する。しかし、上記したように、空隙が存在することで「内部散乱」に起因する光が生じ、画像の黒濃度が低下する。
【0015】
上記の知見から、本発明者らは、インクにカーボンブラック及び樹脂微粒子を含有させ、以下のような層構成を有する画像を形成すればよいという知見を得た。先ず、顔料層中にあえて空隙を存在させることで、顔料層全体の屈折率を下げ、画像の光沢性を高める。さらに、この顔料層上に樹脂微粒子によって樹脂層を形成することで、「内部散乱」に起因する光を顔料層内に留め、反射光を低減することによって黒濃度を高めることができるのではないかとの考えに至った。
【0016】
本発明者らは、かかる観点から検討を行った結果、顔料層上に樹脂層を形成するために、以下の方法を見出した。すなわち、インクを記録媒体に付与する際に、インク滴やそれにより形成されるドットにおいて、カーボンブラックと樹脂微粒子とに沈降速度差を生じさせることによって、樹脂微粒子とカーボンブラックとを層分離させることが有効であるとの結論を得た。勿論、一部の樹脂微粒子は顔料層中に混在し得るが、沈降速度差を発生させることで、顔料層の空隙が樹脂微粒子によって埋められるのはある程度抑制されるので、顔料層全体の屈折率が下がり、画像の光沢性が高まる。そして、このような沈降速度差を発生させるためには、インクを記録媒体へ付与する過程で樹脂微粒子を膨潤させ、その粒径を増大させればよいと考えた。さらに、顔料層表面の凹凸の凹部分を樹脂微粒子で埋めるようにすることで、画像表面の平滑化が図られ、これによって、光の「表面散乱」が抑制され、画像の黒濃度が高まり、画像の光沢性もさらに高まると考えた。そして、このような樹脂微粒子による画像表面の平滑化は、インクが記録媒体に付与され、定着する過程において樹脂微粒子に柔軟性をもたせることで達成できると考えた。
【0017】
インクを記録媒体へ付与する過程で樹脂微粒子を膨潤させることで、樹脂微粒子の粒径が増大すると、カーボンブラックとの沈降速度差が非常に大きくなる。すると、インクが記録媒体に付与された後、樹脂微粒子により形成される樹脂層はカーボンブラックにより形成される顔料層の上に形成される。その結果、顔料層中の空隙による「内部散乱」に起因して生じた光が、樹脂層により顔料層の方向に反射され、画像の反射光として見えなくなることで、画像の黒濃度が高まったと考えられる。さらに、樹脂微粒子を構成する分子間に作用する分子間力は弱い力であるため、インクが記録媒体に付与された後でもしばらくの間は柔軟性を保っている。このため、顔料層表面の凹凸の凹部分が樹脂微粒子によって埋められることで、画像表面が平滑化して光の「表面散乱」が生じにくくなり、黒濃度が高まったと考えられる。このように、画像の黒濃度を向上させるには、上記のように画像層を形成させ、全波長領域の光を吸収させることが重要である。
【0018】
特許文献1に記載されたインクにより記録された画像において黒濃度の向上がみられなかった理由としては、インク中に樹脂微粒子を膨潤させる水溶性有機溶剤が存在していないことが考えられる。その結果、顔料、樹脂微粒子及び空隙が混在した層が形成されるため、空隙による「内部散乱」に起因して生じた光が画像の反射光として見えることで、画像の黒濃度が低下したものと考えられる。
【0019】
本発明において、画像の光沢性が向上した理由としては、顔料層中に空気が内包される空隙を存在させるようにすることで、顔料層全体の屈折率を下げることができたためと考えられる。つまり、顔料層中に、高屈折率のカーボンブラック、カーボンブラックより屈折率が低い樹脂微粒子、樹脂微粒子よりも屈折率がさらに低い空気が存在するという状態になることにより、顔料層全体の屈折率を低下させることができたためである。さらに、上記した通り、樹脂微粒子で形成される樹脂層により画像表面の平滑性を高め、結果として画像からの反射光が鮮明に見え、かつ、ぎらつきのない優れた光沢性が得られたと考えられる。
【0020】
本発明者らは、上記の画像形成を達成するための具体的な要件として、インクを構成する水溶性有機溶剤の比誘電率と、樹脂微粒子とに着目して検討を行った。そして、水溶性有機溶剤としては、比誘電率が18.0以上30.0未満のものを用いることとした。また、樹脂微粒子としては、膨潤性と柔軟性を持たせるため、樹脂微粒子の構成ユニットとして、分子間力の低い飽和アルキル基含有エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットと、エチレン性不飽和酸モノマー及びその塩から選ばれるモノマーに由来するユニットとを有するものを用いることとした。
【0021】
先ず、インクに添加する水溶性有機溶剤の比誘電率が低い場合や高い場合には、画像の黒濃度が不十分であった。具体的には、比誘電率が18.0未満や30.0以上の水溶性有機溶剤をインクに添加した場合には、画像の黒濃度の向上は見られなかった。逆に、比誘電率が18.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤を用いたインクにおいては、画像の黒濃度の向上が確認され、さらに、光沢性も僅かに向上することが確認された。また、上記範囲の比誘電率を有する水溶性有機溶剤を用いても、樹脂微粒子を構成する、エチレン性不飽和疎水性モノマー由来のユニットに占める、飽和アルキル基含有モノマー由来のユニットの割合が95.0質量%未満の場合は、画像の黒濃度は向上しなかった。
【0022】
本発明者らは、上記構成により画像の黒濃度及び光沢性が共に向上したメカニズムを、次のように考えている。先ず、カーボンブラックの比重は樹脂微粒子の比重に対して十分高いため、液滴状態のインク中の顔料と樹脂微粒子はそれぞれある程度局在化し、樹脂微粒子の方が顔料よりも液滴の上層に存在する。次に、インクが記録媒体に付着すると、水分などの蒸発が生じるため、水溶性有機溶剤が濃縮されることになる。すると、上記範囲の比誘電率を有する水溶性有機溶剤が前記樹脂微粒子に浸透することによって、樹脂微粒子が膨潤し、その粒径が増大する。
【0023】
一方、比誘電率が18.0未満である水溶性有機溶剤は浸透性が高いが、樹脂微粒子への浸透作用よりも、記録媒体中に拡散する作用の方が支配的となるため、顔料層上に形成される樹脂層が薄くなる。加えて、比誘電率が18.0未満である水溶性有機溶剤は、インク中の水に対する溶解度が低いものもあり、樹脂微粒子を膨潤させることができる含有量とすると、例えば、インクジェット方式の記録ヘッドにおける耐固着性が得られない場合もある。また、比誘電率が30.0以上である水溶性有機溶剤は分極率が高く、樹脂微粒子のアニオン性基との静電反発を起こし易いため、樹脂微粒子への浸透、膨潤が不十分であり、顔料層の上に形成される樹脂層が薄くなる。つまり、水溶性有機溶剤の比誘電率が18.0未満又は30.0以上である場合に形成される樹脂層では、内部散乱によって生じた光を顔料層の方向に反射することができないため、黒濃度が不十分となる。また、このような樹脂層では、画像表面が平滑とならないため、光沢性もあまり向上しない。
【0024】
使用する樹脂微粒子の、エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットに占める飽和アルキル基含有モノマーに由来するユニットの割合が95.0質量%以上である場合に高い効果が得られた理由を、本発明者らは以下のように考えている。すなわち、他のエチレン性不飽和疎水性モノマーと異なり、飽和アルキル基には極性がないため、樹脂微粒子を構成する分子間には非常に弱いファンデルワールス力のみが働く。そのため、上記範囲の比誘電率を有する水溶性有機溶剤による膨潤は妨げられることなく、樹脂微粒子が膨潤し、粒径が大幅に増大したものと考えられる。一方、上記割合が95.0質量%未満である場合は、エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットの極性が高いため、樹脂微粒子を構成する分子間に上記範囲の比誘電率を有する水溶性有機溶剤が浸透しづらく、膨潤が妨げられる。この場合、顔料層上に形成される樹脂層が薄くなり、また、樹脂微粒子の柔軟性が不十分であるため、樹脂層の表面が平滑とならず、黒濃度が不十分となり、光沢性も低くなる。
【0025】
以上の検討結果から、本発明のインクにより、黒濃度及び光沢性に優れる画像が得られる理由をまとめると以下のようになる。本発明のインクを記録媒体に付与すると、カーボンブラックによる顔料層の上に樹脂微粒子による樹脂層が形成され、さらに顔料層表面の凹凸の凹部分が樹脂微粒子によって埋められることで、画像表面が平滑化される。このため、顔料層表面が粗いために生じる光の「表面散乱」と、顔料層中の空隙に起因する光の「内部散乱」が低減され、画像の黒濃度を高めることができる。さらに、顔料層表面の凹部分が樹脂微粒子により埋められることで画像表面が平滑化し、また、顔料層中に空隙を存在させることで顔料層全体の屈折率を低下させることができ、高い光沢性が得られたと考えられる。
【0026】
<インク>
以下、インクジェット用としても好適な、本発明のインクを構成する各成分について説明する。
【0027】
(カーボンブラックと、これを分散するための樹脂)
本発明のインクに使用する色材はカーボンブラックであり、樹脂を用いることでインク中、より具体的には水性媒体中に分散されるものである。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ガスブラックなどの従来公知のカーボンブラックをいずれも用いることができ、複数種のカーボンブラックを組み合わせてもよい。インク中のカーボンブラックの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。また、カーボンブラックの平均粒径は50nm以上150nm以下、さらには80nm以上130nm以下であることが好ましい。
【0028】
カーボンブラックを分散するために使用する樹脂、すなわち樹脂分散剤としては、カーボンブラックを、アニオン性基の作用によってインクを構成する水性媒体中に安定に分散させることのできる水溶性樹脂が好適に用いられる。なお、本発明において、樹脂が水溶性であることとは、該樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、粒径を測定しうる粒子を形成しないものであることとする。このような条件を満たす樹脂を、本明細書においては水溶性の樹脂として記載する。インク中の樹脂分散剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0029】
分散剤として使用される樹脂としては、以下に挙げるような親水性ユニット及び疎水性ユニットを少なくとも構成ユニットとして有するものが好ましい。なお、本明細書における(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを示すものとする。
【0030】
重合により親水性ユニットとなるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸などのカルボキシ基を有するモノマー、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基を有するモノマー、(メタ)アクリル酸−2−ホスホン酸エチルなどのホスホン酸基を有するモノマーなどの酸モノマー、これらの酸モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマーなどが挙げられる。なお、酸モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。
【0031】
また、重合により疎水性ユニットとなるモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有するモノマー、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸(イソ)プロピル、(メタ)アクリル酸(n−、iso−、t−)ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルなどの脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0032】
本発明においては、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットや脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルに由来するユニットなどのアクリル成分を少なくとも有するアクリル系の水溶性樹脂を用いることが好ましい。さらには、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環を有するモノマーに由来する疎水性ユニットとを少なくとも有する共重合体を用いることが特に好適である。
【0033】
本発明においては、分散剤として使用される樹脂は、重量平均分子量が1,000以上15,000以下のものが好ましい。また、分散剤として使用される樹脂は、酸価が90mgKOH/g以上200mgKOH/g以下のものが好ましい。
【0034】
本発明のインクは、カーボンブラックをインク中、より具体的には水溶性有機溶剤を含む水性媒体中に分散させるための樹脂を含む。分散形態は、樹脂分散剤をカーボンブラックの粒子表面に物理的に吸着させることによって分散されていることに限らず、樹脂を用いることで分散されていてもよい。すなわち、上述した分散剤として樹脂を用いる樹脂分散顔料の他に、マイクロカプセル顔料や樹脂結合型顔料などを用いることができる。「マイクロカプセル顔料」とは、樹脂や高分子で顔料を被覆してマイクロカプセル化して分散する顔料をいい、「樹脂結合型顔料」とは、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基が化学的に結合している顔料をいう。無論、上記に挙げた樹脂による分散方法の異なるカーボンブラックを組み合わせて使用することも可能である。なお、後述する樹脂微粒子は、カーボンブラックの分散に寄与している必要はなく、カーボンブラックの粒子表面に樹脂微粒子が吸着していないことが好ましい。
【0035】
本発明においては、インク中のカーボンブラックを分散させるための樹脂の含有量(質量%)が、前記カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で0.15倍以上0.30倍以下であることが好ましい。すなわち、樹脂の含有量/カーボンブラックの含有量=0.15以上0.30以下であることが好ましい。なお、質量比率を算出する場合の含有量とは、インク全質量を基準とした、各成分の含有量のことである。前記質量比率が0.15倍未満であると、カーボンブラックの粒子表面に樹脂が十分に吸着せず、カーボンブラックを十分に安定に分散できないおそれがある。すると、インクが記録媒体に付与された際にカーボンブラックの急激な凝集が起こり、顔料層の凹凸が特に顕著となる。その結果、画像における光の「表面散乱」が増加し、高いレベルの画像の黒濃度及び光沢性が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が0.30倍を超えると、カーボンブラックの粒子表面に吸着する樹脂が十分ないしは過剰となり、カーボンブラックの分散状態が特に安定となる。すると、インクが記録媒体に付与された際に緩やかな凝集が起こり、カーボンブラックは密に定着するようになる。また、過剰な樹脂がカーボンブラックの粒子間を埋めることで、顔料層の空隙が減少する。さらに、十分な樹脂が吸着したカーボンブラック粒子の表面特性は樹脂の性質に近づくため、インクが記録媒体に付与された後に、カーボンブラックと、インク中に含有させる樹脂微粒子が混ざって存在しやすくなる。その結果、樹脂微粒子による樹脂層と顔料層との分離が十分ではなくなるため、高いレベルの画像の黒濃度及び光沢性が十分に得られない場合がある。
【0036】
(樹脂微粒子)
本発明のインクには樹脂微粒子を含有させる。この樹脂微粒子は、インク中においていわゆるエマルションの状態として存在するものである。本発明で使用する樹脂微粒子は、エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットと、エチレン性不飽和酸モノマー及びその塩から選ばれるモノマーに由来するユニットとを少なくとも含んでなる。さらに、前記エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットに占める、飽和アルキル基含有モノマーに由来するユニットの割合(質量%)が95.0質量%以上であるものである。本発明においては、上記割合が100.0質量%であること、つまり、樹脂微粒子を構成するエチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットの全てが、飽和アルキル基含有モノマーに由来するユニットであることが特に好ましい。上記の条件を満足するものであれば、樹脂微粒子の形態はいずれのものであってもよい。樹脂微粒子の形態としては、例えば、単一組成の樹脂で構成される樹脂微粒子や、複数層の樹脂で構成される樹脂微粒子が挙げられる。インク中の樹脂微粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.3質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0037】
本発明においては、コア層とシェル層とを有する樹脂微粒子を用いることが好ましい。コア層を構成するユニットがエチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットを含み、シェル層を構成するユニットが、エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニット、並びに、エチレン性不飽和酸モノマー及びその塩から選ばれるモノマーに由来するユニットを含むことが好ましい。飽和アルキル基含有モノマーに由来するユニットは、コア層及びシェル層のいずれか一方のみに含まれていてもよいが、コア層及びシェル層の両方に含まれていることがより好ましい。このような樹脂微粒子は、インクが記録媒体に付与される際に、特定範囲の比誘電率を有する水溶性有機溶剤が飽和アルキル基含有モノマーに由来するユニットに作用することで、該溶剤が樹脂微粒子に浸透しやすく、容易に膨潤して粒径が増大するものとなる。すなわち、前述のように、画像の黒濃度及び光沢性を向上するためには、インクが記録媒体に付与される際に樹脂微粒子の粒径を増大させ、顔料層の上に樹脂微粒子による樹脂層を形成する必要がある。そして、この樹脂微粒子の粒径の増大は、特定範囲の比誘電率を有する水溶性有機溶剤が樹脂微粒子に浸透し、膨潤させることにより引き起こされる。
【0038】
コア層とシェル層とを有する樹脂微粒子の場合、コア層及びシェル層を構成する全てのエチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットに占める、飽和アルキル基含有モノマーに由来するユニットの割合(質量%)が95.0質量%以上であることを要する。飽和アルキル基は極性がなく、分子間には、非常に弱いファンデルワールス力のみが働くため、前記水溶性有機溶剤は、樹脂微粒子の表面だけではなく、粒子内部に入り込み、中心付近まで浸透し易い。そのため、飽和アルキル基含有モノマーに由来するユニットがコア層及びシェル層の両方に含まれている樹脂微粒子の場合、内部に水溶性有機溶剤が留まりやすく、樹脂微粒子の粒径が特に増大しやすく、好適である。
【0039】
上記でいう飽和アルキル基含有モノマーは、エチレン性不飽和基に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合などを介して飽和アルキル基が結合してなるモノマーであり、アルキル基部分には置換基を有さないことが好ましい。飽和アルキル基含有モノマーとしては、鎖状構造や環状構造の飽和アルキル基含有モノマーがあり、具体的には、以下のものが挙げられる。なお、本明細書における(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを示すものとする。(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、エチルビニルエーテルなどの直鎖状構造の飽和アルキル基含有モノマー、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの分岐鎖状構造の飽和アルキル基含有モノマー、(メタ)アクリル酸シクロプロピル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの環状構造の飽和アルキル基含有モノマーが挙げられる。
【0040】
本発明においては、飽和アルキル基含有モノマーとして、鎖状構造の飽和アルキル基含有モノマーを用いることが特に好ましい。鎖状構造の飽和アルキル基含有モノマーと比べて、環状構造の飽和アルキル基含有モノマーにはファンデルワールス力がより強く働きやすい。このため、鎖状構造の飽和アルキル基含有モノマーを使用した樹脂微粒子と比べて、環状構造の飽和アルキル基含有モノマーを使用した樹脂微粒子は、柔軟性が劣る。そして、飽和アルキル基含有モノマーが環状構造のものである場合は、鎖状構造のものである場合と比べて、樹脂層の形成過程において、顔料層の凹部分を樹脂微粒子がうまく埋めることができず、平滑性が十分に得られない場合がある。そのため、光の表面散乱が増加し、黒濃度が相対的に低くなる場合や、写像性の低下により光沢性も相対的に低くなる場合がある。
【0041】
本発明においては、さらに、鎖状構造の飽和アルキル基含有モノマーのなかでも、鎖状構造の飽和脂肪族第一級アルコールの(メタ)アクリル酸エステルを用いることがより好ましい。アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルは反応性が高く、合成された樹脂微粒子が分散安定性の高いものとなる。さらに、前記水溶性有機溶剤による樹脂微粒子の膨潤がより効率的に生じることで、樹脂微粒子の粒径増大が特に顕著となるためである。なお、本発明においては、前記水溶性有機溶剤によって樹脂微粒子が膨潤しづらい場合があるため、樹脂微粒子の構成ユニットにアミド構造を有するユニットが含まれていないことがより好ましい。
【0042】
本発明で使用するエチレン性不飽和酸モノマーは、その構造中に、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などの酸性基を有するものである。本発明に好適に使用できるエチレン性不飽和酸モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸などのカルボキシ基を有するモノマー、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基を有するモノマー、(メタ)アクリル酸−2−ホスホン酸エチルなどのホスホン酸基を有するモノマー、これらの酸モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマーを挙げることができる。なお、酸モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。
【0043】
インク中の樹脂微粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.30質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。含有量が0.30質量%未満であると、樹脂微粒子が少なく、顔料層の上に十分な厚さの樹脂層を形成することができない。このため、「内部散乱」に起因する光を顔料層内に留めることが十分に達成されず、高いレベルの画像の黒濃度や光沢性が十分に得られない場合がある。一方、含有量が5.0質量%を超えると、インク中の固形分の含有量が高くなり、インクを記録媒体に付与した際に、記録媒体に形成されるドットが高くなって画像表面の平滑性が低下する場合がある。そのため表面散乱光の発生が顕著となり、高いレベルの画像の黒濃度や光沢性が十分に得られない場合がある。さらに、インク中の樹脂微粒子の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.50質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0044】
本発明で使用する樹脂微粒子は、合成方法に関して特に限定されるものではないが、ソープフリー重合法から得られる樹脂微粒子を用いることが好ましい。さらには、ソープフリー重合法によって得られる、コアシェル構造を有する樹脂微粒子を用いることが特に好ましい。先に述べたように、画像の高い黒濃度及び光沢性を得るためには、顔料層の上に樹脂層を形成させることが必要である。しかし、合成時に乳化剤又は界面活性剤を併用する乳化重合では、樹脂微粒子の水分散液中にこれらが残留するおそれがある。この残留する乳化剤や界面活性剤がカーボンブラックに吸着し、カーボンブラックと樹脂微粒子の親和性が高まると、上記の層形成を阻害する場合があり、結果として高いレベルの画像の黒濃度及び光沢性が得られない場合がある。
【0045】
本発明で使用する樹脂微粒子は、平均粒径が30nm以上200nm以下、さらには40nm以上170nm以下であることが好ましい。また、本発明で使用する樹脂微粒子は、最低造膜温度が15℃以下であることが好ましい。一方、最低造膜温度の下限は−50℃以上であることが好ましい。樹脂微粒子の最低造膜温度は、使用するモノマーの種類やその組成比、樹脂微粒子の重量平均分子量などを変更することで調整することができる。なお、樹脂微粒子の最低造膜温度は、ISO2115の試験法に準拠して測定することができる。
【0046】
(20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤)
本発明者らは検討の結果、前記した構成を有する樹脂微粒子は、特定範囲の比誘電率を有する水溶性有機溶剤によって容易に膨潤することを見出した。すなわち、前記樹脂微粒子は、特定範囲の比誘電率を有する水溶性有機溶剤と共存すると、その粒径が数%〜数十%程度大きくなる。なお、樹脂微粒子の膨潤性は、特定範囲の比誘電率を有する水溶性有機溶剤との接触前後での粒径変化により確認することができる。
【0047】
本発明のインクは、20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤を含有することが必須である。インク中の上記水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。なお、これまでに説明してきた通り、特定の比誘電率を有する水溶性有機溶剤により樹脂微粒子が膨潤し、本発明の効果が得られる。したがって、インク中に20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤が少なくとも1種含まれていれば、それ以外の水溶性有機溶剤がインクに含まれていてもよい。
【0048】
20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤は、この範囲の比誘電率を示すものであれば特に限定されない。本発明においては、水溶性有機溶剤の具体例として、1,2,6−ヘキサントリオール(比誘電率:28.5)、2−ピロリドン(比誘電率:27.5)、1,5−ペンタンジオール(比誘電率:26.9)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(比誘電率:23.9)、平均分子量200のポリエチレングリコール(比誘電率:19.5)が特に好ましく用いられる。なお、本発明では、比誘電率を、LCRメータ4284A(日本ヒューレットパッカード製)を用いて、温度20℃、測定周波数1MHzの条件で測定した。
【0049】
本発明においては、比誘電率が18.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤の20℃における蒸気圧が、水よりも低いことが好ましい。このような蒸気圧を有する水溶性有機溶剤は、インクが記録媒体に付与された際に、水の蒸発により上記水溶性有機溶剤の濃度が相対的に高まるため、特に効率よく樹脂微粒子を膨潤させることができ、好適である。
【0050】
20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤の含有量は、インク中の樹脂微粒子の含有量との関係で決定するのが好ましい。本発明においては、樹脂微粒子の含有量(質量%)が、20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)に対して、質量比率で0.10倍以上1.0倍以下であることが好ましい。すなわち、樹脂微粒子の含有量/20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤の含有量=0.10以上1.0以下であることが好ましい。なお、質量比率を算出する場合の含有量とは、インク全質量を基準とした、各成分の含有量のことである。前記質量比率が0.10倍未満であると、樹脂微粒子に対して過剰量の水溶性有機溶剤が存在し、樹脂微粒子は膨潤するだけでなくかえって溶解してしまう場合がある。そのため、顔料層上の樹脂微粒子による樹脂層の厚みが十分ではなく、「内部散乱」に起因する光を顔料層内に留めておくことが達成できず、高いレベルの黒濃度が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が1.0倍を超えると、樹脂微粒子を十分に膨潤させることができず、高いレベルの黒濃度が十分に得られない場合がある。さらに、本発明のインクにおいては、樹脂微粒子の含有量(質量%)が、20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)に対して、質量比率で0.15倍以上0.35倍以下であることが好ましい。
【0051】
(水溶性のウレタン樹脂)
本発明のインクの好ましい形態としては、インクにさらに、水溶性のウレタン樹脂を含有させることが挙げられる。本発明にかかるインクにおいて、水溶性のウレタン樹脂を併用することで、画像の黒濃度及び光沢性を高いレベルで両立することができることを見出した。なお、本発明において、樹脂が水溶性であることとは、該樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、粒径を測定しうる粒子を形成しないものであることとする。このような条件を満たす樹脂を、本明細書においては水溶性の樹脂として記載する。
【0052】
このような結論に至った経緯について以下に述べる。先に述べたように、本発明では、顔料層に空隙を形成しつつ、樹脂層を顔料層上に形成するようにインクを構成することで、画像の黒濃度及び光沢性の向上を図っている。このインクに水溶性のウレタン樹脂を含有させることで、顔料の凝集を緩和することにより、顔料層の空隙を安定的に形成できる。
【0053】
本発明のインクに使用する水溶性のウレタン樹脂は、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られるものであり、さらに、鎖延長剤を反応させたものでもよい。また、ウレタン樹脂及びその他の樹脂を結合させたハイブリッド型の樹脂などであってもよい。インク中の水溶性ウレタン樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0054】
また、本発明者らは、さらなる検討の結果、水溶性のウレタン樹脂の中でもポリ(オキシテトラメチレン)構造を有するポリエーテル系ウレタン樹脂を用いると、より高いレベルの画像の黒濃度及び光沢性が得られることを見出した。この理由として本発明者らは、以下のように考えている。ポリ(オキシテトラメチレン)構造が顔料粒子の表面と相互作用することで、顔料粒子の近傍にウレタン樹脂を存在させることができる。このため、インクが記録媒体に定着する過程において、顔料の凝集を効果的に緩和することができ、その結果、より高いレベルの画像の黒濃度及び光沢性が得られたと考えている。
【0055】
本発明のインクがウレタン樹脂を含有する場合、前記ウレタン樹脂の含有量(質量%)は、前記カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で0.15倍以上0.30倍以下であることが好ましい。すなわち、ウレタン樹脂の含有量/カーボンブラックの含有量=0.15以上0.30以下であることが好ましい。なお、質量比率を算出する場合の含有量とは、インク全質量を基準とした、各成分の含有量のことである。前記質量比率が0.15倍未満であると、顔料近傍のウレタン樹脂量が十分ではなく、インクが記録媒体に付与された際の顔料の凝集を十分に緩和することができない場合がある。その結果、画像表面の平滑性が低下し、高いレベルの画像の黒濃度及び光沢性が十分に得られない場合がある。一方、前記質量比率が0.30倍を超えると、顔料近傍に存在するウレタン樹脂が十分ないしは過剰となり、カーボンブラックの分散状態が特に安定となる。すると、インクが記録媒体に付与された際に緩やかな凝集が起こり、カーボンブラックは密に定着するようになる。また、過剰なウレタン樹脂がカーボンブラックの粒子間を埋めることで、顔料層の空隙が減少するため、高いレベルの画像の黒濃度及び光沢性が十分に得られない場合がある。
【0056】
(その他の樹脂)
本発明のインクには、上記で説明したカーボンブラックの樹脂分散剤、樹脂微粒子、上記した必要に応じて添加される水溶性ウレタン樹脂などの他にも、別の樹脂を添加することができる。このような樹脂は、水性媒体中にカーボンブラックや樹脂微粒子をさらに安定して分散させるための分散剤として用いても、又は他の目的でインクに添加してもよい。
【0057】
(水性媒体)
本発明のインクには、水及び前記した特定の比誘電率を有する水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させる。本発明においては、水性媒体として水を少なくとも含有する、水性インクとすることが特に好ましい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。なお、この水溶性有機溶剤の含有量は、20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満である水溶性有機溶剤の含有量を含むものとする。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。また、水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0058】
(その他の成分)
本発明のインクには、上記成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。インク中のこれらのような水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上20.0質量%以下、さらには1.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じて所望の物性値を有するインクとするために、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有してもよい。なお、本発明者らは、常温で固体の水溶性有機化合物や先に挙げたような種々の添加剤は、上記樹脂微粒子を膨潤させる作用が水溶性有機溶剤に比べてかなり低いことを確認した。このため、本発明においては、常温で固体の水溶性有機化合物や先に挙げたような種々の添加剤の比誘電率は考慮しなくてもよい。
【0059】
<インクカートリッジ>
本発明のインクカートリッジは、インクと、このインクを収容するインク収容部とを備える。そして、インク収容部に収容されているインクが、上記で説明した本発明のインクである。インクカートリッジの構造としては、インク収容部が、負圧によりインクを含浸した状態で保持する負圧発生部材を収容する負圧発生部材収容室、及び、負圧発生部材により含浸されない状態でインクを収容するインク収容室で構成されるものが挙げられる。又は、上記のようなインク収容室を持たず、インクの全量を負圧発生部材により含浸した状態で保持する構成や、負圧発生部材を持たず、インクの全量を負圧発生部材により含浸されない状態で収容する構成のインク収容部としてもよい。さらには、インク収容部と記録ヘッドとを有するように構成された形態のインクカートリッジとしてもよい。
【0060】
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられ、本発明においては、熱エネルギーを利用するインクジェット記録方法を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。また、記録媒体としては、どのようなものを用いてもよいが、本発明においては、インク中の顔料や樹脂微粒子を記録媒体の表面やその近傍に存在させることができるような記録媒体を用いることが好ましい。このような記録媒体としては、インク受容層を有する記録媒体が挙げられ、特に、表面に光沢を有する光沢紙などの記録媒体に用いた場合に顕著な効果が得られるので好適である。
【0061】
本発明のインクは、別のインクと組み合わせて、インクセットとしても用いることができる。別インクの色相は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、レッド、グリーン、及びブルーなどのインクから1種又は2種以上を選択することができる。また、インクセットを構成するインクとして、上記のインクと互いに同じ色相を有し、顔料の含有量がそれぞれ異なる複数のインクを用いてもよい。このような複数のインクの組み合わせとしては、濃シアン、中シアン、及び淡シアンなどのシアンの色相を有するインク、さらには、濃マゼンタ、中マゼンタ、及び淡マゼンタなどのマゼンタの色相を有するインクが挙げられる。また、インクセットを構成するインクとして、色材を含有しないクリアインクを用いてもよい。勿論、本発明はこれらの色相のインクに限られるものではなく、また、濃、中、淡などのインクの名称もこれらに限られるものではない。
【実施例】
【0062】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0063】
<顔料分散体の調製>
(顔料分散体1〜6)
表1の上段に示した組成(単位:部)の、カーボンブラック(MA−100;三菱化学製)、各樹脂の水溶液(水溶性樹脂を10.0%水酸化ナトリウム水溶液で中和することにより得られたもの。樹脂〔固形分〕の含有量20.0%)及び水の混合物を調製した。樹脂1としては、酸価170mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン−アクリル酸共重合体を、樹脂2としては、酸価170mgKOH/g、重量平均分子量8,000のベンジルメタクリレート−アクリル酸共重合体をそれぞれ用いた。この混合物を、0.3mm径のジルコニアビーズの充填率を80%としたビーズミル(LMZ2;アシザワファインテック製)に入れ、回転数1,800rpmで5時間分散した。その後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行うことにより凝集成分を除去し、さらにイオン交換水で希釈することで、表1の下段に示す特性を有する各顔料分散体を得た。
【0064】

【0065】
(顔料分散体7)
先に挙げた特許文献3の実施例3にしたがって、樹脂微粒子が固着しているカーボンブラックを合成した。スチレン−アクリル酸共重合体によってカーボンブラックを分散し、カーボンブラックの含有量が10%である顔料分散体を調製した。この顔料分散体100部に、モノマー(メタクリル酸メチル5.7部及びアクリル酸0.3部)、水酸化カリウム0.07部、過硫酸カリウム0.05部、水20部の混合物を添加し、窒素雰囲気下、70℃で5時間重合を行った。その後、水を加えて10倍に希釈し、凝集成分を除去するために遠心分離を行った。さらに、スチレン−アクリル酸共重合体を除去するため、12,500rpmで2時間遠心分離を行い、沈降分を分取した。この沈降分をイオン交換水で希釈することで、カーボンブラックの含有量が15.0%、樹脂微粒子の含有量が7.5%である顔料分散体7を得た。顔料分散体7中のカーボンブラックは、その粒子表面にメタクリル酸メチル−アクリル酸共重合体で構成される樹脂微粒子が固着することによって分散されてなるものであり、樹脂微粒子/カーボンブラックの比率は0.50であった。
【0066】
<樹脂微粒子の合成>
(樹脂微粒子P1〜P6、P8〜P10)
以下の手順にしたがって、P1〜P6、P8〜P10の各コアシェル構造を有する樹脂微粒子をソープフリー重合法により合成した。先ず、S1〜S9の各シェルポリマーを合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、100.0部のエチレングリコールモノブチルエーテルを添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で110℃に昇温させた。このフラスコに、下記表2に示す種類及び質量部の各モノマーの混合物と、エチレングリコールモノブチルエーテルに1.3部のt−ブチルパーオキサイド(重合開始剤)を溶解した液体を3時間かけて滴下した。その後、エージングを2時間行い、さらにエチレングリコールモノブチルエーテルを減圧下で除去して、固形の樹脂を得た。このようにして得られたポリマーを、その酸価と当量の水酸化カリウム及び適量のイオン交換水を加えて80℃で中和溶解して、シェルポリマー(固形分)の含有量が30.0%であるシェルポリマーの水溶液を得た。このようにして得られたシェルポリマーS1〜S9の酸価及び重量平均分子量の値を表2に示した。
【0067】

【0068】
次に、撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、上記で得られた各シェルポリマーの水溶液をポリマーの固形分が60部となるように添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で80℃まで昇温させた。このフラスコに、コアポリマーとなる下記表3に示す種類の各モノマーの混合物を40部となるように添加した後、水16.7部に1.0部の過硫酸カリウム(重合開始剤)を溶解した液体を3時間かけて滴下した。その後、エージングを2時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂微粒子(固形分)の含有量が25.0%である樹脂微粒子P1〜P6、P8〜P10の水分散液を得た。
【0069】

【0070】
表4に得られた樹脂微粒子P1〜P6、P8〜P10の特性を示す。なお、表4中のコアシェル比とは、シェルポリマーに対するコアポリマーの質量比率である。得られた樹脂微粒子の平均粒径はいずれも80〜120nm程度であり、最低造膜温度は5℃未満であった。
【0071】

【0072】
(樹脂微粒子P7)
以下の手順にしたがって、乳化剤を用いた乳化重合法により樹脂微粒子P7を合成した。具体的には、乳化剤(Rhodafac RS 710;Rhodia Novecare製)の30%水溶液の存在下でコアポリマーを重合した後にシェルポリマーを重合した。シェルポリマーの重合には二官能モノマーを使用し、重合後に加熱を行って架橋させた。具体的な合成は、特開2004−211089号公報の実施例2の合成方法にしたがって行い、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂微粒子(固形分)の含有量が25.0%の樹脂微粒子P7の水分散液を得た。コアポリマーの組成は、メタクリル酸メチル17.5部、アクリル酸ヘキシル17.5部であった。また、シェルポリマーの組成は、メタクリル酸メチル29.2部、アクリル酸ヘキシル29.2部、エチレングリコールジメタクリレート0.6部、モノメタクリロイルオキシエチルサクシネート6.0部であった。コアシェル構造を有する樹脂微粒子P7のコアシェル比は0.54であった。
【0073】
(樹脂微粒子P11)
以下の手順にしたがって、コア層とシェル層に屈折率差のある樹脂微粒子P11を合成した。具体的には、先に挙げた特許文献2のポリマー微粒子1の製造方法にしたがって合成を行い、適量のイオン交換水で固形分を調整して、樹脂微粒子(固形分)の含有量が25.0%である樹脂微粒子P11の水分散液を得た。コアポリマーの組成はスチレン50部、シェルポリマーの組成はメタクリル酸ドデシル45部、メタクリル酸5部であった。コアシェル構造を有する樹脂微粒子P11のコアシェル比は1.00あった。
【0074】
(樹脂微粒子P12)
以下の手順にしたがって、単層の樹脂微粒子P12を合成した。具体的には、先に挙げた特許文献1の調製例1にしたがって合成を行い、適量のイオン交換水で固形分を調整して、樹脂微粒子(固形分)の含有量が25.0%である樹脂微粒子P12の水分散液を得た。樹脂微粒子P12の組成は、メタクリル酸エチル60部、メタクリル酸メチル36部、メタクリル酸4部であった。
【0075】
(樹脂微粒子P13)
以下の手順にしたがって、単層の樹脂微粒子P13を合成した。具体的には、先に挙げた特許文献3の実施例3にしたがって合成を行い、適量のイオン交換水で固形分を調整して、樹脂微粒子(固形分)の含有量が25.0%である樹脂微粒子P13の水分散液を得た。樹脂微粒子P13の組成は、スチレン70部、アクリル酸30部であった。
【0076】
<水溶性ウレタン樹脂の合成>
(ポリオキシテトラメチレン構造を有する水溶性ウレタン樹脂U1の合成)
温度計、撹拌機、窒素導入管、冷却管を備えた4つ口フラスコを用いて、合成を行った。まず、数平均分子量2,000のポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(オキシテトラメチレンユニットの平均繰り返し数=27.5)を480g、イソホロンジイソシアネートを282g、ジブチル錫ジラウレートを0.007gフラスコ内に仕込んだ。その後、窒素ガス雰囲気下、100℃で1時間反応させた。その後、65℃以下に冷却し、ジメチロールプロピオン酸0.007g、ネオペンチルグリコール及びメチルエチルケトン447.8gを添加し、80℃で16時間反応させた。その後、メチルエチルケトン408.1g、メタノールを加えて反応を停止した。このようにして、酸価55mgKOH/g、ポリスチレン換算の重量平均分子量が33,000である、直鎖状のポリオキシテトラメチレン構造を有するポリエーテル系ポリウレタン樹脂U1を得た。このウレタン樹脂U1は、ポリ(オキシテトラメチレン)構造を54%含み、ネオペンチルグリコールとイソホロンジイソシアネートとの重付加反応構造を有する。そして、適量のイオン交換水で固形分を調整して、水溶性ウレタン樹脂(固形分)の含有量が25.0%であるウレタン樹脂U1の水溶液を得た。
【0077】
(ポリオキシテトラメチレン構造を有さない水溶性ウレタン樹脂U2の合成)
ウレタン樹脂U1の合成方法において、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコールに代えて、数平均分子量2,000のポリプロピレングリコールを480g使用すること以外は、同様の合成を行った。このようにして、酸価55mgKOH/g、ポリスチレン換算の重量平均分子量が29,000である、直鎖状のポリエーテル系ポリウレタン樹脂U2を得た。このウレタン樹脂U2は、ポリ(オキシプロピレン)構造を54%含み、ネオペンチルグリコールとイソホロンジイソシアネートとの重付加反応構造を有する。そして、適量のイオン交換水で固形分を調整して、水溶性ウレタン樹脂(固形分)の含有量が25.0%であるウレタン樹脂U2の水溶液を得た。
【0078】
<インクの調製>
表5−1〜5−4の上段に示した各成分(単位:%)を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ1.2μmのメンブレンフィルター(HDCIIフィルター;ポール製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。なお、表5−1〜5−4には各水溶性有機溶剤について、LCRメータ4284A(日本ヒューレットパッカード製)を用いて、温度20℃、測定周波数1MHzの条件で測定した比誘電率の値を括弧内に示す。表5中のポリエチレングリコールは平均分子量200のものである。アセチレノールE100(川研ファインケミカル製)はアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物であり、ノニオン性界面活性剤である。HS500(林原商事製)は糖類である。BYK348(ビックケミー製)はポリジメチルシロキサン化合物であり、シリコーン系界面活性剤である。
【0079】

【0080】

【0081】

【0082】

【0083】
<評価>
上記で得られた各インクをそれぞれ充填したインクカートリッジを、熱エネルギーの作用によりインクを吐出するインクジェット記録装置(商品名:PIXUS Pro9500;キヤノン製)のフォトブラックのポジションに搭載した。この記録装置では、解像度が600dpi×600dpiで、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、1滴当たりの質量が3.5ng(ナノグラム)のインク滴を8滴付与する条件で記録した画像を記録デューティ100%であると定義するものである。そして、キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド(キヤノン製)に、記録デューティが100%である、5cm×5cmのベタ画像を含むパターンを記録した。本発明においては、下記の評価基準でB以上を許容できるレベル、Aが優れているレベル、AAが特に優れているレベルとし、Cを許容できないレベルとした。評価結果を表6−1及び6−2に示した。
【0084】
(黒濃度の評価)
上記で得られた記録物を常温で24時間保存した後、ベタ画像を目視で確認して、黒濃度の評価を行った。評価基準は以下の通りである。
AA:反射による白色光はなく、締まりのある黒色であった。
A:反射による白色光が若干あるものの、締まりのある黒色であった。
B:反射による白色光があるものの、許容できる黒濃度であった。
C:黒濃度が低かった。
【0085】
(光沢性の評価)
上記で得られた記録物におけるベタ画像について、マイクロヘイズメータープラス(BYKガードナー製)を用いて20°光沢度を測定し、光沢性の評価を行った。評価基準は以下の通りである。なお、20°光沢度が低すぎると画像の光沢性が低く、高すぎると画像がぎらつき、いずれの場合も好ましくない。
AA:20°光沢度が45以上65未満であった。
A:20°光沢度が40以上45未満、又は、65以上70未満であった。
B:20°光沢度が35以上40未満、又は、70以上75未満であった。
C:20°光沢度が35未満、又は、75以上であった。
【0086】

【0087】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラック、該カーボンブラックを分散させるための樹脂、樹脂微粒子及び水溶性有機溶剤を含有してなるインクであって、
前記樹脂微粒子が、エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットと、エチレン性不飽和酸モノマー及びその塩から選ばれるモノマーに由来するユニットとを少なくとも含み、かつ、前記エチレン性不飽和疎水性モノマーに由来するユニットに占める飽和アルキル基含有モノマーに由来するユニットの割合が95.0質量%以上であり、
前記水溶性有機溶剤が、20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤を含むことを特徴とするインク。
【請求項2】
インク全質量を基準とした、前記樹脂微粒子の含有量(質量%)が、前記20℃での比誘電率が18.0以上30.0未満の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)に対して、質量比率で0.10倍以上1.0倍以下である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記樹脂微粒子の含有量(質量%)が、インク全質量を基準として、0.30質量%以上5.0質量%以下である請求項1又は2に記載のインク。
【請求項4】
インク全質量を基準とした、前記カーボンブラックを分散させるための樹脂の含有量(質量%)が、前記カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で0.15倍以上0.30倍以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインク。
【請求項5】
さらに、水溶性のウレタン樹脂を含有してなり、インク全質量を基準とした、該水溶性のウレタン樹脂の含有量(質量%)が、前記カーボンブラックの含有量(質量%)に対して、質量比率で0.15倍以上0.30倍以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインク。
【請求項6】
前記樹脂微粒子が、ソープフリー重合法を用いて重合されたものである請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインク。
【請求項7】
前記飽和アルキル基含有モノマーが、鎖状構造の飽和脂肪族第一級アルコールの(メタ)アクリル酸エステルである請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインク。
【請求項8】
インクと、前記インクを収容するインク収容部とを備えたインクカートリッジであって、
前記インクが、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項9】
インクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出させて記録媒体に画像を記録するインクジェット記録方法であって、
前記インクが、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2012−72361(P2012−72361A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173123(P2011−173123)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】