説明

インクカートリッジ

【課題】インクタンク内に生じた気泡に起因するインク残量を正確に検知できるようになるまでの時間遅延を減少させる。
【解決手段】インクが貯留されるインクタンク内に備えられており、インクタンクに貯留されたインクの減少に伴って一定の変位経路を変位するセンサーアームの表面の一部分に、毛管力が発生するように微小凹凸が形成された拡散面474を設ける。拡散面474は、基準面474aと基準面474aに対して突出した複数の突出部474bとからなっている。基準面474aと突出部474bとは隅部474cが形成されるように角度をなして接続されている。また、互いに隣接する突出部474bの間に形成された毛管力発生領域は、他の毛管力発生領域と繋がっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを貯留するインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
記録用紙に向けてノズルからインクを吐出して印刷を行うインクジェット記録装置が知られている。このようなインクジェット記録装置には、着脱可能なインクカートリッジを備えたものがある。インクカートリッジ内のインクが空の状態でインクジェットヘッドがインクを吐出しようとすると、印刷が行なわれないだけでなく、インクジェットヘッド内にエアが侵入することがある。インクジェットヘッド内にエアが侵入すると、そのヘッドは最悪の場合、使用不能となってしまう。このような事態が生じないようにするには、インクカートリッジ内のインク残量を常に把握しておき、インクカートリッジ内のインク残量がほぼゼロになるとヘッドからのインク吐出が禁止されるような制御を行う必要がある。
【0003】
特許文献1には、インクカートリッジ内のインク残量を検出する技術が開示されている。すなわち、特許文献1に記載のインクカートリッジは、インクタンク内において揺動可能に支持されているセンサーアームを備えている。センサーアームは、一端に被検知部を有しており、他端にフロート部を有している。インクタンク内にインクが満たされている際には、ストッパによってフロートの鉛直方向に沿った位置が上昇することによるセンサーアームの回動が規制され、被検知部が検知位置に位置するようになっている。そして、ストッパによって回動が規制された状態におけるフロートの位置よりもインクの液面が下がった際には、インク残量が減少するのに伴って、フロートの鉛直方向に沿った位置が下降すると共に、被検知部の鉛直方向に沿った位置が上昇し、検知位置から非検知位置に移動するように構成されている。これにより、被検知部材を検知位置において検知できなくなった場合に、インク切れを検出することができる。
【特許文献1】特開2005−125738号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクカートリッジを持ち運ぶ場合や、インクカートリッジが装着された状態でプリンタを運搬する場合等に、インクカートリッジが振動すると、インクタンク内にインクの気泡が生じることがある。インクタンク内にインクの気泡が生じた際には、インクタンクの内壁面に付着している気泡の表面張力によってセンサーアームの回動が妨げられ場合がある。このような場合には、インク残量が十分あるにも拘らず、インク切れと検知されてしまう等の不具合が生じる。なお、インクタンク内の気泡が消滅すれば、センサーアームが正常に回動するが、センサーアームが気泡に引っかかった状態から正常に回動することができる程度に気泡が消滅するまでには、通常、数時間から数十時間程度かかる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、インクタンク内に生じた気泡に起因するインク残量を正確に検知できるようになるまでの時間遅延を減少させることができるインクカートリッジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインクカートリッジは、インクが貯留されるインクタンクと、前記インクタンク内に設けられ、前記インクタンクに貯留されたインクの減少に伴って変位する変位部材と、前記変位部材が所定の変位経路を変位するように規制する規制手段とを備えており、前記インクタンクの内壁面における前記変位経路に対応する領域の一部、および前記変位部材の表面の一部の少なくともいずれか一方に、毛管力が発生するように微小凹凸が形成された拡散面が設けられている。
【0007】
拡散面上の気泡は、気泡を構成するインクが毛管力によって拡散面上に拡散するので、平坦な表面上の気泡に比べて迅速に消滅する。この構成によると、インクタンクの内壁面に付着している気泡の表面張力によって変位部材の変位が妨げられた場合でも、インクタンクの内壁面または変位部材の表面の少なくともいずれか一方に設けられた拡散面により、気泡が迅速に消滅し、変位部材が正常に変位することができるようになる。したがって、インクタンク内に生じた気泡に起因するインク残量を正確に検知できるようになるまでの時間遅延を減少させることができる。
【0008】
本発明のインクカートリッジでは、前記拡散面が、基準面と前記基準面に対して突出した複数の突出部とからなっており、互いに隣接する前記突起部間に形成された毛管力発生領域が、他の毛管力発生領域と繋がっていることが好ましい。この構成によると、毛管力発生領域に引き込まれたインクをスムーズに拡散させることができる。よって、変位部材が正常に変位する程度に気泡が消滅するまでに必要な時間をさらに短くすることができる。
【0009】
本発明のインクカートリッジでは、前記基準面と前記突出部とが隅部を有するように角度をなして接続されていることが好ましい。この構成によると、拡散面においてより確実に気泡を消滅させることができる。
【0010】
本発明のインクカートリッジは、前記インクタンクが、本体部と、前記本体部から突出するとともに前記本体部の幅よりも狭い幅を有し、且つ、前記本体部の内部に連通する空間が内部に形成される検知部とを備えており、前記変位部材が、前記規制手段の規制により前記検知部の空間内で変位する板状の被検知部を有しており、前記拡散面が、前記被検知部の表面に形成されていてもよい。
【0011】
この構成によると、検知部が本体部から突出しているのでインクカートリッジの外部からアクセスしやすく、また、検知部の幅が本体部の幅よりも狭いので安価な透光型センサで変位部材の被検知部を検知することができる。本体部から突出しており、且つ本体部よりも狭い幅を有する検知部内の空間には気泡が停留しやすくなるが、検知部内の空間を変位する被検知部に拡散面が形成されているので、気泡による動作不良は回避される。したがって、インクタンク内に生じた気泡に起因するインク残量を正確に検知できるようになるまでの時間遅延を効果的に減少させることができる。
【0012】
本発明のインクカートリッジでは、インクジェット記録装置に装着されたときに、当該インクジェット記録装置に設けられた透過型光学式センサの発光部と受光部とによって挟まれる位置に前記検知部が設けられていてもよい。この構成によると、簡易な機構で正確に被検知部を検知させることができる。
【0013】
本発明のインクカートリッジでは、前記変位部材は、一端に前記被検知部を有していると共に、他端に前記インクタンクに貯留されたインクよりも比重が小さいフロート部を有しており、前記規制手段は、前記変位部材を揺動可能にすべく前記検知部と前記フロート部との間を枢支する支持機構と、前記変位部材の揺動範囲を規制する規制部とを有していることが好ましい。
【0014】
揺動する変位部材の端部は、インクタンクの内壁面に付着した気泡と接触した際に、比較的小さな表面張力でその揺動を妨げる方向の大きなモーメント力が働く。この構成によると、変位部材の端部に被検知部が位置している。したがって、被検知部に形成された拡散面により、被検知部に付着した気泡を迅速に消滅させ、より迅速に変位部材を正常に揺動させることができる。
【0015】
本発明のインクカートリッジでは、前記変位部材は、前記被検知部と、前記インクタンクに貯留されているインクよりも比重が小さいフロート部とを有しており、前記規制手段は、前記インクタンクに貯留されたインクの減少に伴うインク液面の変位方向に延在する壁部を有していてもよい。この構成によると、変位部材が揺動するタイプと比べて、変位部材が変位する領域が狭くなるので、インクカートリッジの設計の自由度が増す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施の形態に係るインクカートリッジ1の外観を示した斜視図であり、図2は、インクカートリッジ1の分解斜視図である。
【0017】
図1、2に示すように、インクカートリッジ1は、インクを貯留するインク貯留体100の略全体を覆うケース200と、そのケース200に取り付けられ、インクカートリッジ1が搬送される際にインク貯留体100を保護するプロテクタ300とを備えている。なお、本実施例では、インク貯留体100、ケース200及びプロテクタ300は、樹脂材料から形成されており、金属材料を有していないので、廃棄処分の際に焼却することができる。樹脂材料としては、例えば、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどである。
【0018】
図1に示すように、インクカートリッジ1は、略6面体として構成されている。すなわち、最大面積となる一対の略矩形面と、一対の当該面を連結する4方向に位置する側面との略6つの面で構成されている。以下の説明において、その6面体の最大面積となる一対の略矩形面の長辺に沿う方向を長手方向、当該面の短辺に沿う方向を短手方向、一対の当該面を連結する方向(長手方向および短手方向に直交する方向)を幅方向と称する。また、6面体の最大面積となる一対の略矩形面を正面および背面と称する。
【0019】
次に、図3を参照して、インク貯留体100について詳細に説明する。図3は、インク貯留体100を示した図である。図3に示すように、インク貯留体100は、インクを貯留するインクタンク110と、インクタンク110に貯留されているインクを外部(インクジェット記録装置1000(図7参照))に供給するインク供給部120と、インクタンク110内に大気を導入する大気導入部130と、インクタンク110内にインクを分注するインク分注部150とを主に備えている。
【0020】
なお、図3に示したインク貯留体100の状態が、インクカートリッジ1をインクジェット記録装置1000(図7参照)に装着する姿勢である。すなわち、インクカートリッジ1は、最大面積となる面が垂直となり、且つ最大面積となる面の長辺が水平方向に沿うような姿勢で装着され、このとき、インク供給部120および大気導入部130が側面に位置する。より詳細には、インク供給部120が底部側に位置し、大気導入部130が天井側に位置する。以下の説明において、インクカートリッジ1のインクジェット記録装置1000への装着姿勢での天井側を「上」、底部側を「下」として上下方向を定める。すなわち、インク貯留体100に貯留されているインクの減少に伴うインク液面の変位方向が上下方向となる。
【0021】
インクタンク110は、本体部170と、インク供給部120と大気導入部130との間において、本体部170から長手方向に突出していると共に、内部に本体部170と連通する空間が形成された検知部140とを有している。すなわち、インク貯留体100の同一壁面にインク供給部120、大気導入部130、および検知部140が設けられている。また、インクタンク110内には、インクタンク110に貯留されたインクの減少に伴って、図3における紙面左下部近傍、すなわちインク供給部120近傍を支点として揺動可能なセンサーアーム470が配置されている。
【0022】
ここで、図5を参照して、センサーアーム470について説明する。図5(a)は、センサーアーム470の正面側を示した図であり、図5(b)は、図5(a)の矢印Vb視におけるセンサーアーム470を示した図である。センサーアーム470は、インクタンク110内のインク残量を検出するための部材である。また、センサーアーム470は、インクの比重より小さい比重となる樹脂材料(例えばスチレン樹脂)から構成されており、射出成形により製造される。
【0023】
センサーアーム470は、インクタンク110内に枢支され、インク残量に応じて揺動する揺動部材であり、本体部170に設けられている略C字型のアーム挟持部425(図3参照)に取り付けられる取付軸472aを備えた取付部472と、図5(a)において取付部472の右側に位置するフロート部471と、取付部472からフロート部471に対して略垂直方向(図5(a)上方)に延びると共にさらに上方へ傾斜して延びるアーム部473とを有している。フロート部471の体積はアーム部473の体積よりも十分に大きいものとされている。そして、アーム部473の端部は、インクジェット記録装置1000に設けられたインク残量検出センサ1014(図7参照)により検知される被検知部473aとなっている。被検知部473aは、図5(a)の紙面に平行な面を有する板状である。なお、センサーアーム470がインクタンク110内に取り付けられた状態では、図3に示すように、センサーアーム470の被検知部473aは、検知部140内の空間に配置される。
【0024】
つまり、センサーアーム470は、一端(図5(a)における左側端部)に被検知部473aを有していると共に、他端(図5(a)における右側端部)にフロート部471を有しており、取付部472を中心に揺動可能である。ここで、図5(a)に示すように、回動の中心である取付部472から被検知部473aまでの長さは、取付部472からフロート部471の端部までの長さよりも長い。なお、センサーアーム470は、フロート部471がインクタンク110の底壁と当接することによって、図3における時計回りへの回動が規制される。また、被検知部473aが後述するストッパ142と当接することによって、図3における反時計回りへの回動が規制される。このように、センサーアーム470は、インクタンク110の底壁と後述するストッパ142とによって、一定の揺動経路で揺動するように揺動範囲が規制されている。
【0025】
アーム部473には、幅方向(図5(b)左右方向)に突出するリブ473bが形成され強度が保たれている。被検知部473aには、上下2箇所(図5(a)上側端部および下側端部)に、略半球状のアーム突起部473c、473dが設けられている。アーム突起部473c、473dは半球状に形成されているので、検知部140の内壁と当接する部分がアーム突起部473c、473dの先端だけとなるので、インクの表面張力の影響を抑制することができる。
【0026】
センサーアーム470は、インクの比重より小さい比重となる樹脂材料から構成されている。また、フロート部471の体積はアーム部473の体積よりも十分に大きいものとされている。より詳細には、アーム部473とフロート部471の体積比が、フロート部471がインクの液中に位置している場合には、重力および浮力によってセンサーアーム470に生じる図5(a)における反時計回りのモーメントが時計回りのモーメントよりも大きくなり、フロート部471の一部がインクの液中から露出した場合には、フロート部471に生じる浮力が減少し、反時計回りのモーメントと時計回りのモーメントとが等しくなるように設定されている。したがって、フロート部471の一部がインクの液中から露出した後は、インクの減少に伴いさらにインクの液面が下がると、その液面に追従してフロート部471が下方に移動する。フロート部471が下方に移動すると、取付部472の取付軸472aを支軸として、アーム部473が上方へ移動する。
【0027】
また、図5(a)に示すように、センサーアーム470表面、より詳細には、フロート部471の一部分と、アーム部473のリブ473bを除く部分とには、微小凹凸が設けられた拡散面474が形成されている。ここで、図6を参照しつつ、拡散面474について説明する。図6(a)は、被検知部473aの拡大図であり、図6(b)は、図6のVIb−VIb線に沿う断面図である。なお、図6(a)においては、説明のために、凹部に斜線を引いている。また、図6(b)においては、上下方向を拡大して描いている。
【0028】
図6に示すように、拡散面474は、基準面474a(図6(a)における斜線部分)と基準面474aに対して突出した複数の突出部474bとからなっている。図6(b)に示すように、基準面474aと突出部474bの側面とは滑らかな曲面で繋がるのではなく隅部474cが形成されるように角度をなして接続されている。これにより、隅部474c(基準面474aと突出部474bの側面との接続部分)は強い毛管力を発生する構造となっている。ここで、図6(a)に示すように、拡散面474に直交する方向から視た際の複数の突出部474bの形状は、画一的ではなく多様であるが、いずれも略円形状である。また、拡散面474に直交する方向から視た際の複数の突出部474bの大きさについても、大小様々である。さらに、図6(b)に示すように、基準面474aから複数の突出部474bの先端までのそれぞれの長さについても、一様ではなく様々である。
【0029】
なお、本実施の形態では、基準面474aと突出部474bとがなす角度θは約90度、拡散面474の基準面474aから突出部474bの先端までの長さ(凹凸の高さの差)t1は0.04〜0.06mm、突出部474bの平均径は0.8mm、基準面474aと突出部474bとの面積比は0.5である。
【0030】
また、互いに隣接する突出部474bの間の隙間は、当該隙間にインクが存在する際にインクに対して毛管力が発生する程度の長さ、具体的には0.4mm程度となっている。したがって、互いに隣接する突出部474bの間は毛管力発生領域となっている。そして、ある2つの突出部474b間の毛管力発生領域は、他の毛管力発生領域と繋がっている。よって、拡散面474上の液体は、当該液体が位置する毛管力発生領域に発生する毛管力によって他の領域へ拡散する。
【0031】
図3に戻って、本体部170は、本体部170の正面側および背面側に縁部を有するフレーム部180と、フレーム部180の正面側および背面側の縁部に溶着されるフィルム160とを有している。つまり、本実施の形態では、フレーム部180の正面側と背面側との両面をフィルム160で塞ぐことによって、本体部170の内部にインクが貯留される空間を形成している。したがって、インク貯留体100の厚みを、側壁により両面を塞ぐ場合と比較して薄くすることができる。
【0032】
フレーム部180は、インクタンク110の幅方向に平行な面を有しており、本体部170の内部空間を画定する立壁である外周溶着部400と、インクタンク110の幅方向に平行な面を有しており、外周溶着部400の内側に配置される内部溶着部411〜417と、インクタンク110の幅方向と直交する面を有しており、外周溶着部400と内部溶着部411〜417とを連結する連結部420、430、440とを備えている。より詳細には、連結部420は、図3の左下部分において外周溶着部400と内部溶着部411とを連結している。連結部430は、図3の上部において外周溶着部400と内部溶着部412とを連結している。連結部440は、図3の左上部から右下部にかけて外周溶着部400と内部溶着部413〜417とを連結している。ここで、図3において、外周溶着部400および内部溶着部411〜417の黒塗りされた部分は同一の仮想平面上に位置しており、当該部分にフィルム160が超音波溶着により溶着される。また、連結部420には、センサーアーム470の取付部472を挟持するアーム挟持部425が設けられる。
【0033】
図3に示すように、内部溶着部411〜417は、少なくともその一部の立壁が、フレーム部180の長手方向に対して下降傾斜する、または略直交する方向、すなわち、インクカートリッジ1の下方側に延びており、その下方側の端部が外周溶着部400に接続されていない。よって、フレーム部180にフィルム160を溶着する際のフィルム160の弛みを抑制するために、外周溶着部400の内側に複数の内部溶着部411〜417を設けたとしても、複数の内部溶着部411〜417がインクの流れを妨げることを低減することができる。また、内部溶着部411〜417が、外周溶着部400の内側に拡散されて配置されているので、フィルム160の弛みの発生を低減すると共に、インクの流れの妨げを効果的に低減することができる。
【0034】
次に、図4を参照して、検知部140の構造について説明する。図4(a)は、検知部140近傍の概略を示した図であり、図4(b)は、図4(a)のIVb−IVb線に沿う検知部140の断面図であり、図4(c)は、図4(a)のIVc−IVc線に沿う検知部140近傍の断面図である。
【0035】
図4(a)に示すように、検知部140は、本体部170から外方(図4(a)左方向)に突出しており、図4(b)、(c)に示すように、その内部には本体部170の内部に連通すると共に、上下方向に延在する空間が形成されている。そして、検知部140内の空間には、センサーアーム470の一端に設けられた被検知部473aが配置される。なお、被検知部473aは、検知部140内において上下方向に変位可能である。また、検知部140の内部には、センサーアーム470を下方から支持し、センサーアーム470の変位を規制するストッパ142が設けられている。
【0036】
ここで、検知部140は透光性を有しており、インクカートリッジ1がインクジェット記録装置1000に装着された際に、インクジェット記録装置1000に設けられた透過型のインク残量検出センサ1014の発光部1014aと受光部1014b(図7参照)との間に挟まれる位置に設けられている。また、センサーアーム470は遮光性を有している。これにより、インク残量検出センサ1014は、上述のように、インクの減少によりインクの液面が低下した際に、センサーアーム470の回動に伴ってアーム部473が上方へ移動し、被検知部473aが検知部140内において上方に移動すると、被検知部473aの変位を検出ことができる。したがって、インク残量検出センサ1014によって、インクの残量が少なくなったことを検出することができる。
【0037】
図4(b)に示すように、検知部140の幅方向に沿う長さt2は、本体部170の幅方向に沿う長さt3よりも短い。したがって、インク残量検出センサ1014の発光部1014aと受光部1014b(図7参照)との間の間隔を比較的狭くすることができるので、安価なセンサであっても被検知部473aを確実に検知することができる。
【0038】
図3に戻って、インク供給部120は、インクタンク110と連通すると共に長手方向に延在する筒状のインク供給路121と、その一部がインク供給路121内に内挿されるインク供給機構122とから構成されている。インク供給機構122は、インクカートリッジ1がインクジェット記録装置1000に装着されていない状態では、インクの流路を閉鎖し、インクジェット記録装置1000に装着され、インクジェット記録装置1000のインク抽出管1015(図7参照)が挿入されるとインクの流路を開放する。したがって、インク供給部120は、インクカートリッジ1がインクジェット記録装置1000に装着されている際に、インクタンク110内のインクをインクジェット記録装置1000に供給することができる。
【0039】
大気導入部130は、インクタンク110と連通すると共に長手方向に延在する筒状の大気連通路131と、その一部が大気連通路131内に内挿されると共に、大気連通路131の外に向かって突出する棒状のバルブ開放部132aを有する大気導入機構132とから構成されている。大気導入機構132は、インクカートリッジ1がインクジェット記録装置1000に装着されていない状態では、大気の流路を閉鎖し、インクジェット記録装置1000に装着され、バルブ開放部132aがインクジェット記録装置1000の装着面1013(図7参照)と当接し、大気連通路131内に向かって押圧された際に大気の流路を開放する。したがって、大気導入部130は、インクカートリッジ1がインクジェット記録装置1000に装着されている際に、インクタンク110内を大気と連通させることができる。
【0040】
インク分注部150は、インク貯留体100のインク供給部120および大気導入部130が設けられている側面と対向する側面における底部近傍に設けられており、長手方向に延在する分注筒部151と、分注筒部151内に圧入されるインク分注栓(図示せず)とから構成される。分注筒部151には、分注筒部151とインクタンク110とを連通する連通孔(図示せず)が形成されている。インク分注栓は、プルチゴムなどの弾性部材で構成されており、一旦、分注筒部151内に圧入されると、簡単に取り外しができないと共に、針を抜き差ししても針の進入路が閉塞されるよう構成されている。
【0041】
ここで、図8を参照しつつ、インクタンク110内のインクの残量の検出方法について説明する。図8(a)は、インク残量有りの状態を示しており、図8(b)は、インク残量無しの状態を示している。
【0042】
図8(a)に示すように、インクタンク110内にインクが多く貯留されている状態(少なくとも、被検出部473aがストッパ142と当接している際のフロート部471の位置よりも上方にインク液面が位置する状態)では、上述したように、センサーアーム470に生じる図反時計回りのモーメントが時計回りのモーメントよりも大きくなるので、フロート部471がインク内に浮いている。このとき、センサーアーム470の被検知部473aは、インク残量検出センサ1014の発光部1014a及び受光部1014bの間を遮断する検知位置に位置している。この状態がインク有りの状態であり、インクジェット記録装置1000の制御基板(図示せず)でインク有りの判別がなされる。
【0043】
その後、インクタンク110内のインクが減少してアーム部473がインクの液面から露出すると、アーム部473に生じる浮力が減少する。これにより、センサーアーム470に生じる時計回りのモーメントが小さくなるが、反時計回りのモーメントが時計回りのモーメントよりも大きいことに変わりはなく、センサーアーム470は図8(a)に示す位置に留まっている。さらにインクが減少し、フロート部471がインクの液面から露出すると、アーム部473に生じる浮力が減少する。これにより、センサーアーム470に生じる反時計回りのモーメントが小さくなる。そして、フロート部471の一部がインクの液中から露出したときに、反時計回りのモーメントと時計回りのモーメントとが等しくなる。その後、さらにインクが減少すると、低下するインクの液面に追従してフロート部471が下方に移動する。そして、インクタンク110内のインクがほぼ無くなり、インクタンク110の底面に無くなると、センサーアーム470のフロート部471が底面に当接する。このフロート部471の下方への移動により、センサーアーム470が取付部472を中心として時計周り方向に回動し、センサーアーム470の被検知部473aが上方へ変位する。被検知部473aが、インク残量検出センサ1014の発光部1014aと受光部1014bとの間を遮らない非検知位置まで変位すると、発光部1014aと受光部1014bとの間に光が通る。この状態がインク無し状態であり、インクジェット記録装置1000の制御基板(図示せず)でインク無しの判別がなされる。
【0044】
続いて、ケース200について説明する。ケース200は、図2に示すように、インク貯留体100を幅方向から挟み込む第1ケース部材210、および第2ケース部材220で構成されている。第1ケース部材210は、インク貯留体100の図2下側面を覆う部材であり、第2ケース部材220は、インク貯留体100の図2上側面を覆う部材である。第1及び第2ケース部材210、220は、樹脂材料から構成されており、射出成形により製造される。
【0045】
第1ケース部材210と第2ケース部材220とは略同形状に形成されており、インク貯留体100を挟持した状態において、インク供給部120の一部を外部に露出する略円形の貫通孔を構成するケース切欠部211、221と、大気導入部130の一部を外部に露出する略円形の貫通孔を構成するケース切欠部212、222と、検知部140の側壁とによりインク残量検出センサ1014(図7参照)を検知部140を挟み込む位置まで挿入可能な貫通孔を検知部140の両側(図2上下の両側)に構成するケース切欠部213、223とがそれぞれ形成されている。
【0046】
次に、ケース200の外形状について説明する。第1及び第2ケース部材210、220の短手方向両側端部には、第1及び第2ケース部材210、220の表面に対する凹状の段差が長手方向に延在するように形成されている。この段差部分において、第1及び第2ケース部材210、220が溶着され、ケース200に対してインク貯留体100が固着される。当該段差部分は、インク供給部120側(図2右手前側)の段差部分が第1ケース溶着部216、226であり、大気導入部130側(図2左奧側)の段差部分が第2ケース溶着部217、227である。第2ケース部材220における第1ケース溶着部226のケース切欠き部221が形成されている側とは反対側の端部には、短手方向に延びる係合部226aが形成されている。なお、図示はしないが、第1ケース部材220にも係合部226aと同様の係合部が形成されている。第2ケース溶着部217、227は、ケース200の長手方向の略中間位置に凹状に形成された係止部217a、227aを有している。
【0047】
プロテクタ300は、インク貯留体100のインク供給部120及び大気導入部130が設けられている面を覆う部材であり、インクカートリッジ1が出荷される場合に、インク供給部120及び大気導入部130を保護するための部材である。また、プロテクタ300は、樹脂材料から構成されており、射出成形により製造される。図2に示すように、プロテクタ300には、大気導入部130側(図2左奧側)に対応した箇所にプロテクタ貫通孔310が形成されているので、大気導入機構132のバルブ開放部132aを保護することができる。
【0048】
次に、図7を参照しつつ、インクカートリッジ1のインクジェット記録装置1000への装着について説明する。インクカートリッジ1をインクジェット記録装置1000に取り付ける場合には、ケース200からプロテクタ300を取り外した状態で行われる。
【0049】
図7に示すように、インクジェット記録装置1000側の装着部1010には、インクカートリッジ1を装着した際に、インクカートリッジ1のインク供給部120および大気導入部130と対向する装着面1013から当該面と直交する方向(図7右方向)に突出し、ケース200の係止部217a、227aと係止する係止棒1011と、ケース200の第1ケース溶着部216、226を下方から支持すると共に、その第1ケース溶着部216、226の形状に応じて凹状に形成された支持部1012とを備えている。係止棒1011には、支持部1012側に突起し、係止部217a、227aと略同形状に形成された凸部1011aが形成されている。
【0050】
装着部1010の装着面1013には、インク残量検出センサ1014が配設されている。インク残量検出センサ1014は、略コ字状に形成されており、コ字状の開放された一方の端部が光を発光する発光部1014aであり、他方の端部が光を受光する受光部1014bである。その発光部1014aと受光部1014bとが、ケース切欠部213、223と検知部140とにより形成される貫通孔にそれぞれ挿通されるよう、装着面1013から突出するよう取り付けられている。なお、インク残量検出センサ1014は、発光部1014aから発光された光を受光部1014bが受光した場合に、インクジェット記録装置1000に設けられた制御基板(図示せず)に信号を出力せずに(又は出力し)、発光部1014aから発光された光が遮断され受光部1014bが受光できない場合に、制御基板に信号を出力する(又は出力しない)よう構成されている。
【0051】
また、装着面1013のインク供給部120に対応する側(図7(a)下側)には、インク抽出管1015が突出して設けられる一方、装着面1013の大気導入部130に対応する側(図7(a)上側)は、その装着面1013が平面に形成されている。インク抽出管1015には、インク流路1013aが連接されており、そのインク流路1013aを通り、図示しない吐出口へインクが供給される。また、大気導入部130側の装着面1013には、大気導入路1013bが形成されており、その大気導入路1013bを通り、インクカートリッジ1(インクタンク110)内に大気が導入される。
【0052】
さらに、装着部1010には、支持部1012の先端側(図7(a)右側、インクカートリッジ1側の端部)に、ケース200の係合部216a、226aと係合して回動する係合部材1017が備えられている。係合部材1017は、ケース200の係合部216a、226aと係合する係合端部1017aと、その係合端部1017aに連接され係合部材1017を軸支する軸支部1017bと、軸支部1017bと連接されケース200の装着部1010に対向する面の反対側面を覆う被覆部1017cとを備えている。
【0053】
インクカートリッジ1の装着は、ケース200の第1ケース溶着部216、226が支持部1012に当接するように挿入し、第1ケース溶着部216、226が支持部1012上をスライドするよう押圧することで行われる。即ち、図7(a)に示すように、矢印E方向にインクカートリッジ1をスライドさせる。
【0054】
図7(b)に示すように、インクカートリッジ1が装着部1010方向(図7(b)左方)に押し込まれると、係止棒1011は、第2ケース溶着部217、227に押されて、支持部1012から離れる方向に弾性変形する。また、係合部材1017の係合端部1017aが係合部216a、226aと当接する。さらに、インクカートリッジ1を押し込むと、係合部材1017が上方へ回動する(図7(b)矢印F方向)。
【0055】
図7(c)に示すように、図7(b)の状態からさらにインクカートリッジ1を押し込むと(又は係合部材1017を使用者が図7(b)の矢印F方向に回動させると)、係止棒1011の凸部1011aがケース200の係止部217a、227aに嵌り込み係合され、インクカートリッジ1を固定する。よって、インクカートリッジ1は、装着部1010に装着された状態で、印刷の振動などにより簡単に外れてしまうことが防止される。
【0056】
また、インクカートリッジ1が装着部1010に装着されると、インク抽出管1015がインク供給部120内部に挿入され、インク供給が可能な状態となり、大気導入部130のバルブ開放部132aが装着面1013と当接して大気が導入可能な状態となり、インク残量検出センサ1014がケース切欠部213,223と検知部140とにより形成される貫通孔に挿通され、インク残量を検出可能な状態となる。
【0057】
以上のように、本実施の形態のインクカートリッジ1では、インクが貯留されるインクタンク110内に、インクタンク110に貯留されたインクの減少に伴って一定の変位経路を変位するセンサーアーム470が備えられている。そして、センサーアーム470の表面の一部分には、毛管力が発生するように微小凹凸が形成された拡散面474が設けられている。拡散面474上に気泡が付着した場合には、気泡を構成するインクが毛管力によって拡散面474上に拡散するので、平坦な表面上に付着した気泡に比べて迅速に消滅する。したがって、本実施の形態のインクカートリッジ1は、インクカートリッジ1を持ち運ぶ場合や、インクカートリッジ1が装着された状態でインクジェット記録装置1000を運搬する場合等に、インクタンク110内にインクの気泡が生じ、インクタンク110の内壁面に付着している気泡の表面張力によってセンサーアーム470の変位が妨げられた場合でも、センサーアーム470の表面に設けられた拡散面474により、気泡が迅速に消滅し、センサーアーム470が正常に変位することができるようになる。よって、インクタンク110内に生じた気泡に起因するインク残量を正確に検知できるようになるまでの時間遅延を減少させることができる。
【0058】
また、本実施の形態のインクカートリッジ1では、拡散面474は、基準面474aと基準面474aに対して突出した複数の突出部474bとからなっており、互いに隣接する突出部474bの間に形成された毛管力発生領域は、他の毛管力発生領域と繋がっている。したがって、毛管力発生領域に引き込まれたインクをスムーズに拡散させることができる。よって、センサーアーム470が正常に変位する程度に気泡が消滅するまでに必要な時間をさらに短くすることができる。
【0059】
また、本実施の形態のインクカートリッジ1の拡散面474では、基準面474aと突出部474bとは隅部474cが形成されるように角度をなして接続されている。したがって、基準面474aと突出部474bとが滑らかな曲面で連続する形状に比べて、隅部474cにより強い毛管力を発生させることができ、拡散面474においてより確実に気泡を消滅させることができる。
【0060】
さらに、本実施の形態のインクカートリッジ1では、インクタンク110は、本体部170と、本体部170から長手方向に突出しつつ、本体部170の幅よりも狭い幅を有し、且つ内部に上下方向に延在すると共に本体部170と連通する空間が形成された検知部140とを有している。そして、センサーアーム470がアーム挟持部425に取り付けられることによって、センサーアーム470の変位は、板状の被検知部473aが検知部140内の空間で変位するように規制される。また、センサーアーム470のフロート部471の一部分と、アーム部473のリブ473bを除く部分とに拡散面474が形成されている。したがって、検知部140が本体部170から突出しているのでインクカートリッジ1の外部(具体的にはインクジェット記録装置1000)からアクセスしやすく、また、検知部140の幅が本体部170の幅よりも狭いので安価な透光型センサでセンサーアーム470の被検知部473aを検知することができる。本体部170から突出しており、且つ本体部170よりも狭い幅を有する検知部140内の空間には気泡が停留しやすくなるが、検知部140内の空間を変位する被検知部473aに拡散面474が形成されているので、気泡による動作不良は回避される。よって、インクタンク110内に生じた気泡に起因するインク残量を正確に検知できるようになるまでの時間遅延を効果的に減少させることができる。
【0061】
加えて、本実施の形態のインクカートリッジ1では、検知部140は、インクカートリッジ1がインクジェット記録装置1000に装着されたときに、インクジェット記録装置1000に設けられた透過型のインク残量検出センサ1014の発光部1014aと受光部1014bとの間に挟まれる位置に設けられている。したがって、簡易な機構で確実に被検知部473aを検知させることができる。
【0062】
また、本発明の実施の形態のインクカートリッジ1では、センサーアーム470は、一端に被検知部473aを有すると共に、他端にインクよりも比重が小さいフロート部471を有しており、被検知部473aとフロート部471との間に位置する取付部472を中心に揺動可能である。そして、センサーアーム470の揺動範囲は、センサーアーム470を枢支するアーム挟持部425と、センサーアーム470が図3における時計回りに回動した場合にフロート部471と当接するインクタンク110の底壁と、センサーアーム470が図3における反時計回りに回動した場合に被検知部473aと当接するストッパ142とによって、一定の変位経路を変位するように規制されている。センサーアーム470の端部は、インクタンク110の内壁面に付着した気泡と接触した際に、比較的小さな表面張力でその揺動を妨げる方向の大きなモーメント力が働く。本実施の形態のインクカートリッジ1では、センサーアーム470の一端に設けられた被検知部473aに拡散面474が形成されている。したがって、被検知部473aに付着した気泡を迅速に消滅させ、より迅速にセンサーアーム470を正常に揺動させることができる。
【0063】
次に、図9を参照しつつ、本発明の第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態に係るインクカートリッジの構成が、第1の実施の形態に係るインクカートリッジ1の構成と主に異なる点は、インクカートリッジ1では、インクジェット記録装置1000のインク残量検出センサ1014によって検知される被検知部473aが、インクタンク110内のインクの減少に伴って回動するセンサーアーム470の一端に設けられているが、本実施の形態のインクカートリッジ500では、被検知部573が、インクタンク510内のインクの減少に伴うインク液面の変位方向に沿って変位する変位部材570に設けられている点である。
【0064】
図9は、本実施の形態のインクカートリッジ500の断面図であり、インクジェット記録装置2000に装着した状態を示す図である。図9に示すように、本実施の形態のインクカートリッジ500は、インクを貯留するインクタンク510と、インクタンク510の一壁(底壁)に設けられており、インクタンク510に貯留されているインクを外部に供給するインク供給部520と、インクタンク510内にインクを分注するインク分注部550と、インクタンク510のインク供給部520が設けられている壁を外側から覆うキャップ530とを主に備えている。なお、図9の紙面における上下方向をインクカートリッジ500の上下方向とし、紙面に垂直な方向をインクカートリッジ500の幅方向とする。
【0065】
インクタンク510は、透光性を有していると共に、上部に開口部を有する有底箱型の本体部511と、本体部511に溶着されており本体部511の開口部を塞ぐ蓋体515とで構成されおり、その内部には遮光性を有する変位部材570が配置されている。変位部材570は、インクの比重より小さい比重となる素材で形成されており、フロート部571と、図9においてフロート部571から鉛直方向上方に延びると共にさらに左上方に延びる接続部572と、接続部572のフロート部571とは反対側の端部に形成された被検知部573とを有している。また、変位部材570におけるフロート部571の占める体積比は、フロート部571がインクの液中に位置している場合には、変位部材570に生じる浮力がその重力よりも大きく、フロート部571の一部がインクの液中から露出した場合(インク液面が図9に示す線Aよりも低い場合)には、変位部材570に生じる浮力が重力と等しくなるように設定されている。なお、フロート部571の幅は、後述する検知部540内に形成される空間の幅よりも広く、接続部572および被検知部573の幅は、検知部540内に形成される空間の幅よりも狭い。そして、変位部材570の表面には、第1の実施の形態のセンサーアーム470の表面に形成されている拡散面474と同様の拡散面574が全面に亘って形成されている。
【0066】
本体部511の側面(図9左側側面)には、本体部511から突出するように検知部540が設けられている。検知部540は、インクカートリッジ500の幅よりも狭い幅を有している。検知部540の内部には、上下方向(インクタンク510に貯留されたインクの減少に伴うインク液面の変位方向)に延在すると共に、インクタンク510と連通する空間が形成されている。検知部540は、インクカートリッジ500がインクジェット記録装置2000に装着された際に、インクジェット記録装置2000に設けられた透過型のインク残量検出センサ2014の発光部2014aと受光部2014bとの間に挟まれる。また、インクタンク510の検知部540近傍の底面には、上方に延びる規制壁512が設けられている。より詳細には、インクタンク510内における検知部540内の空間と対向する位置に規制壁512が設けられている。そして、変位部材570は、フロート部571が検知部540と規制壁512との間に位置し、被検知部573が検知部540内に位置するように配置される。したがって、規制壁512によって、変位部材570の変位経路が上下方向に規制されることとなる。
【0067】
また、蓋体515には、インクタンク510内に(下方に)突出するような規制突起516が形成されている。図9に示すように規制突起516の先端部近傍は、検知部540内の空間に位置する。つまり、検知部540内の空間上部には、規制突起516の先端が配置されている。さらに、蓋体515には、インクタンク510内に大気を導入するための連通孔(図示せず)が形成されている。
【0068】
したがって、インクタンク510内にインクが十分(少なくとも、インクの液面が図9に示す線Aよりも上に位置する程度に)貯留されている際には、変位部材570に生じる浮力が重力よりも大きいため、破線で描かれた変位部材570のように、被検知部573は規制突起516の先端に当接する。つまり、被検知部573の上方への変位は規制突起516によって規制されており、被検知部573が検知部540内の空間から飛び出すことはない。このとき、被検知部573は、インクジェット記録装置2000に設けられたインク残量検出センサ2014の発光部2014aと受光部2014bとの間を遮断する検知位置に位置している。この状態がインク有りの状態であり、インクジェット記録装置2000の制御基板(図示せず)でインク有りの判別がなされる。
【0069】
その後、インクタンク510内のインクの減少しインクの液面が線Aまで下がると、変位部材570に生じる浮力が重力と等しくなる。さらに、インクの液面が下がるとその液面の低下に追従してフロート部571が検知部540と規制壁512との間の鉛直方向に延在する空間内で下方に移動する。そして、接続部572を介してフロート部571に接続されている被検知部573は、検知部540内の空間において下方に変位する。そして、インク残量がほぼゼロとなり、フロート部571がインクタンク510の底壁と当接した際には、被検知部573は、インク残量検出センサ2014の発光部2014aと受光部2014bとの間を遮断しない非検知位置に位置する。この状態がインク無しの状態であり、インクジェット記録装置2000の制御基板(図示せず)でインク無しの判別がなされる。
【0070】
インク供給部520は、インクタンク510と連通すると共に上下方向に延在する筒状のインク供給路521と、インク供給路521内に内挿されるインク供給機構522とから構成されている。インク分注部550は、インクタンク510の底壁に設けられており、インクタンク510と連通すると共に上下方向に延在する筒状の分注筒部551と、分注筒部551内に圧入されるインク分注栓553とから構成される。インク供給部520およびインク分注部550の機能は、第1の実施の形態のインク供給部120およびインク分注部150の機能とそれぞれほぼ同様であるので、これらの機能の説明は省略する。
【0071】
キャップ530は、遮光性を有しており、インクタンク510に超音波溶着等によって固着されている。図9に示すように、インクタンク510の底壁と対向しており、インクタンク510の底壁から下方に突出しているインク供給路521および分注筒部551の先端と、インクタンク510の底壁からインク供給路521および分注筒部551の先端まで延びているリブ513の先端とに当接する底壁531、および底壁531の縁部分から上方に延びており、インク供給路521および分注筒部551の側面の一部およびリブ513の側面に当接する側壁535を有している。底壁531のインク供給路521および分注筒部551に対応する部分には、開口532、533がそれぞれ設けられている。そして、インク供給路521に対応する開口532の縁部分には、下方に突出する環状突起532aが形成されている。
【0072】
以上のように、本実施のインクカートリッジ500では、第1の実施の形態のインクカートリッジ1と同様に、変位部材570の表面に設けられた拡散面574により、気泡が迅速に消滅し、変位部材570が正常に変位することができるようになるので、インク残量を正確に検知できるようになるまでの時間遅延を減少させることができる。
【0073】
また、本実施の形態のインクカートリッジ500では、変位部材570は、被検知部573とインクよりも比重が小さいフロート部571と有しており、インク液面の変位方向である上下方向に延在する規制壁512によって、変位経路が上下方向に規制されている。したがって、変位部材が揺動するタイプと比べて、変位部材570が変位する領域が狭くなるので、インクカートリッジ500の設計の自由度が増す。
【0074】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能なものである。例えば、上述の第1の実施の形態では、変位部材であるセンサーアーム470のフロート部471の一部分と、アーム部473のリブ473bを除く部分とに拡散面474が形成されている場合、第2の実施の形態では、変位部材570の全面に拡散面574が形成されている場合について説明したが、これには限られない。拡散面は、インクタンクの内壁面における変位部材の変位経路に対応する領域の一部、および変位部材の表面の一部の少なくともいずれか一方に形成されていればよい。ただし、上述したように検知部140,540の内部は狭い空間であり、気泡が停留しやすくなっているため、拡散面は被検知部473a,573に形成されることが最も望ましい。
【0075】
また、上述の第1および第2の実施の形態では、拡散面が、基準面と基準面に対して突出した複数の突出部とからなっており、互いに隣接する突出部の間に形成された毛管力発生領域が、他の毛管力発生領域と繋がっている場合について説明したが、これには限られない。例えば、拡散面が、基準面と基準面に対して陥没した複数の窪み部とからなっており、窪み部内が毛管力発生領域となっていてもよい。また、拡散面は、基準面と複数の突出部と複数の窪み部とからなっていてもよい。
【0076】
さらに、上述の第1および第2の実施の形態では、拡散面の基準面と突出部とが隅部が形成されるように約90度の角度をなして接続されている場合について説明したが、基準面と突出部の接続角度は90度には限定されない。また、基準面と突出部とが、隅部が形成されないように連続的に接続されていてもよい。
【0077】
また、上述の第1の実施の形態では、インクタンク110が、本体部170と、本体部170から長手方向に突出しつつ、本体部170の幅よりも狭い幅を有し、且つ内部に上下方向に延在すると共に本体部170と連通する空間が形成されており、当該空間内でセンサーアーム470の被検知部473aが変位する検知部140とを有している場合について説明したが、検知部140の形態はこれには限定されない。したがって、例えば、検知部140は、本体部170から突出していなくてもよいし、本体部170と同等の幅を有していてもよい。
【0078】
また、上述の第1および第2の実施の形態では、センサーアーム470、変位部材570が、インクの比重より小さい比重とされていたが、これに限られることはなく、少なくともフロート部471,571がインクの比重より小さい比重であればよい。
【0079】
加えて、上述の第1および第2の実施の形態では、検知部が、インクカートリッジがインクジェット記録装置に装着されたときに、インクジェット記録装置に設けられたインク残量検出センサの発光部と受光部との間に挟まれる位置に設けられており、透過型のセンサによって検知部内の被検知部を検知する場合について説明したが、これには限られない。例えば、反射型のサンサによって被検知部を検知するようにしてもよい。
【0080】
さらに、上述の第1の実施の形態では、変位部材であるセンサーアーム470の変位範囲が、センサーアーム470を枢支するアーム挟持部425と、センサーアーム470がフロート部471側に回動した場合にフロート部471と当接するインクタンク110の底壁と、センサーアーム470が被検知部473a側に回動した場合に被検知部473aと当接するストッパ142とによって規制されている場合について、第2の実施の形態では、変位部材570の変位範囲が、インク液面の変位方向である上下方向に延在する規制壁512によって、上下方向に規制されている場合について説明したが、変位部材の変位様態および変位部材の変位範囲を規制する手段はこれらには限定されない。
【0081】
また、上述の第1および第2の実施の形態では、インクタンク内にインクが十分貯留されている際に、変位部材(センサーアーム)の被検知部がインク残量検出センサの発光部と受光部との間を遮断し、インクタンク内のインクがほぼ無くなった際に、被検知部がインク残量検出センサの発光部と受光部との間を開放する場合について説明したが、これに限らず、被検知部は、インクタンク内にインクが十分貯留されている際に、発光部と受光部との間を開放し、インクタンク内のインクがほぼ無くなった際に、発光部と受光部との間を遮断してもよい。
【0082】
(比較試験1)ここで、上述の第1および第2の実施の形態の変位部材の表面に形成された拡散面のように、基準面および基準面に対して突出した複数の突出部からなる拡散面と、基準面および基準面に対して互いに孤立して陥没した複数の窪み部からなる拡散面(変形例1)と、基準面、互いに孤立する複数の突出部、および複数の窪み部からなる拡散面(変形例2)と、凹凸が形成されていな平坦面(比較例1)との消泡性の比較について述べる。変形例1の拡散面の凹凸高さの差(基準面から窪み部の底部まで長さ)は0.04〜0.06mm、窪み部の平均径は0.8mm、基準面と窪み部との面積比は0.5である。変形例2の拡散面の凹凸高さの差(突出部の先端から窪み部の底部までの長さ)は0.04〜0.06mm、突出部および窪み部の平均径は0.8mm、基準面と突出部および窪み部との面積比は0.5である。
【0083】
各拡散面および平坦面が形成された4つのサンプルに、直径10mm程度のインク泡をそれぞれ付着し、泡が消滅するまでの時間を測定する実験を3回行った。使用したインクは水溶性インクであり、その表面張力は約30mN/mである。また、サンプルの材料はスチレン樹脂である。かかる実験の結果、4つのサンプルでの3回の実験の平均値は、第1および第2の実施の形態と同様の拡散面では23分、変形例1の拡散面では29分、変形例2の拡散面では26分、比較例1の平坦面では31分であった。したがって、第1および第2の実施の形態の拡散面のように、基準面と基準面に対して突出した複数の突出部とからなる拡散面が最も消泡性が良いことがわかる。
【0084】
(比較試験2)次に、第1の実施の形態のインクカートリッジと、第1の実施の形態と同型であり、拡散面が形成されていない、すなわち表面が平坦であるセンサーアームが取り付けられたインクカートリッジ(比較例2)とを用いて、センサーアームの挙動を調べる実験を行った。各インクカートリッジのインクタンク内には、インク液面が検知部の長手方向中間に位置する程度の量のインクを貯留させておく。
【0085】
まず、内部に貯留されているインクを強制的に泡立たせ、センサーアームの被検知部が泡を介して検知部の上部近傍の内壁に張り付いた状態(すなわち、図3における時計回りにセンサーアームが回動し、フロート部がインクタンクの内壁と当接している状態)とする。そして、かかる状態からセンサーアームが正常な位置(被検知部がストッパと当接する位置)に戻るまでの時間を測定した。使用したインクは−20℃のシアンである。第1の実施の形態のインクカートリッジでかかる実験を2回行った結果、平均値は2分であった。また、比較例2のインクカートリッジでかかる実験を行った結果は2時間10分であった。したがって、第1の実施の形態のような拡散面が形成されたセンサーアームを用いることで、センサーアームが泡の表面張力の影響により正常に変位できない状態から、正常に変位可能になるまでに要する時間を大幅に短縮できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るインクカートリッジの斜視図である。
【図2】図1に示すインクカートリッジの分解図である。
【図3】図2に示すインク貯留体の図である。
【図4】図3に示す検出部近傍の図である。
【図5】図3に示すセンサーアームの図である。
【図6】図5に示す拡散面を説明するための図である。
【図7】図1に示すインクカートリッジのインクジェット記録装置への装着方法を説明するための図である。
【図8】図5に示す3に示すインクタンク内のインクの残量の検出方法を説明するための図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るインクカートリッジを示す図である。
【符号の説明】
【0087】
1、500 インクカートリッジ
110、510 インクタンク
140 検知部
170 本体部
470、570 センサーアーム(変位部材)
473a、573 被検知部
142 ストッパ(規制手段)
425 アーム挟持部(規制手段、支持機構)
512 規制壁(規制手段、壁部)
471 フロート部
474、572 拡散面
474a 基準面
474b 突出部
474c 隅部
1000、2000 インクジェット記録装置
1014、2014 インク残量検出センサ(透過型光学センサ)
1014a、2014a 発光部
1014b、2014b 受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクが貯留されるインクタンクと、
前記インクタンク内に設けられ、前記インクタンクに貯留されたインクの減少に伴って変位する変位部材と、
前記変位部材が所定の変位経路を変位するように規制する規制手段とを備えており、
前記インクタンクの内壁面における前記変位経路に対応する領域の一部、および前記変位部材の表面の一部の少なくともいずれか一方に、毛管力が発生するように微小凹凸が形成された拡散面が設けられていることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項2】
前記拡散面が、基準面と前記基準面に対して突出した複数の突出部とからなっており、互いに隣接する前記突起部間に形成された毛管力発生領域が、他の毛管力発生領域と繋がっていることを特徴とする請求項1に記載のインクカートリッジ。
【請求項3】
前記基準面と前記突出部とが隅部を有するように角度をなして接続されていることを特徴とする請求項2に記載のインクカートリッジ。
【請求項4】
前記インクタンクが、本体部と、前記本体部から突出するとともに前記本体部の幅よりも狭い幅を有し、且つ、前記本体部の内部に連通する空間が内部に形成される検知部とを備えており、
前記変位部材が、前記規制手段の規制により前記検知部の空間内で変位する板状の被検知部を有しており、
前記拡散面が、前記被検知部の表面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクカートリッジ。
【請求項5】
インクジェット記録装置に装着されたときに、当該インクジェット記録装置に設けられた透過型光学式センサの発光部と受光部とによって挟まれる位置に前記検知部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のインクカートリッジ。
【請求項6】
前記変位部材は、一端に前記被検知部を有していると共に、他端に前記インクタンクに貯留されたインクよりも比重が小さいフロート部を有しており、
前記規制手段は、前記変位部材を揺動可能にすべく前記検知部と前記フロート部との間を枢支する支持機構と、前記変位部材の揺動範囲を規制する規制部とを有していることを特徴とする請求項4または5に記載のインクカートリッジ。
【請求項7】
前記変位部材は、前記被検知部と、前記インクタンクに貯留されているインクよりも比重が小さいフロート部とを有しており、
前記規制手段は、前記インクタンクに貯留されたインクの減少に伴うインク液面の変位方向に延在する壁部を有していることを特徴とする請求項4または5に記載のインクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−268793(P2007−268793A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95663(P2006−95663)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】