説明

インクジェットインキ、その製造方法およびその使用方法

【課題】種々の食品、食品と接する材料、食品包装材料等に記録した場合において、不透明の明瞭な印字記録を形成して十分な視認性を有し、水に濡れても色素の溶出がないインクジェットインキが望まれている。
【解決手段】このインクジェットインキは、いずれも食品添加物として認可されている、炭末色素、セラック樹脂、セルロース系樹脂、エタノール、および水を含んでなることを特徴とする。このインクジェットインキは、水を溶剤全体の50重量%以上含有する第1溶剤にセルロース系樹脂を溶解させた樹脂溶液に、炭末色素を分散させて分散体を得る第1工程と、エタノールを溶剤全体の50重量%以上含有する第2溶剤にセラック樹脂を溶解させたセラック溶液に、前記第1工程で得られた分散体を更に分散させる第2工程とを備えている製造方法により製造される。エタノール、水、および炭酸アンモニウムを含んでなる希釈溶剤でインクジェットインキを希釈してインクジェットプリンタで使用する方法もある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品(食品には薬用の錠剤を含む。以下同じ。)の表面、食品を包む包装材料、食品と接触する機会のある材料などに、インクジェットプリンタで印刷記録するために使用されるインキに係り、特にエタノールによる乾燥性を向上させたインクジェットインキ、その製造方法、およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品および食品用包装材料には生産地、生産者、生産履歴等の表示が必要に、また品質に関しては賞味期限や製造日等の表示が必要になってきている。そして、これらの情報を表示することは、安全性の確認が行え、商品への安心感や信頼性が得られる。また、このような観点での対応から、品質の向上も図られる。
【0003】
一方で、食品類ないし関連の包装材料に、文字、図形、デザイン等の加工を施すことも、購買意欲をそそる商品とするための重要な要素である。食品に直接記録する場合は、当然可食性の材料からなるインキを用いることが必要であるが、食品に関連した例えば包装などの材料に記録する場合においても、可食性のインキ材料を使用すると、より安心感が得られる。このような観点から、食品素材ないし食品添加物からなる材料で構成されるインキが望まれている。
【0004】
しかしながら、食品ないし食品添加物からなるインキを調製することは、インキ材料に制約がある。また、このようなインキ材料は種類が少ないことから、一般のインクジェットインキと同様に調製することは困難であった。 従来、食品関連への対応として、食品添加物からなるインキが知られている。たとえば、食品添加物着色料である水溶性染料を水に溶解したものがインクジェットインキとして公知である。しかしながら、このようなインキは、水に溶解する色素を含むため、耐水性が劣り、水に接触する対象物には使用できない。また、濃色の記録対象物に対しては、透明性がありすぎて濃度も十分にでない。
【0005】
そこで、下記の特許文献1には、耐水性に優れ、食品表面への印字に適したインクジェットインキが開示されている。このインキは、セラック樹脂をバインダーとし、エタノールと水を溶剤とし、鉄クロロフィリンナトリウムまたは(および)銅クロロフィリンナトリウムを着色剤として含む緑色インク組成物である。ところで、使用されている銅クロロフィリン等の着色材は、アルコールに対して十分な溶解性を有するものでなく水溶性の色素であるから、インキの濃度を上げるためには多量の水の使用が不可欠になる。従って、このインキは本質的に水を主体とするもので、これに少量のエタノールを混合して用いるものであった。また、食品添加物で許可されていない材料をも一部に用いていた。
【0006】
特許文献2には、ヤマモモ抽出物等を可食性の安定剤として含有するインキが示されている。この特許文献2では、色素の耐光性を安定化させることを目的としている。インキの組成は、水をインキ全体の70重量%以上も用いるインキであり、色素および安定剤は、専ら水に対する溶解性を有するもので、エタノールはインキ全体の約20重量%程度しか使用されていない。したがって、水によって容易に色素、樹脂等が溶解されやすい、いわゆる水性のインキを示したものと認められ、乾燥性の良好なアルコールを多く含むアルコールタイプのインキとは構成が異なる。
【0007】
また、印刷記録される対象物が透明なものであったり、あるいは逆に黒や濃度の濃い褐色系等である場合に、溶剤に溶解する有色の天然色素等で印刷を行なうと、インキが透明性を持ちすぎるため、必要とする印刷部分の不透明性が得られなかったり、下地の色により印字の効果が確認できないなどの問題が生じやすい。
食品用の材料でなくても良い場合、カーボンブラックや、粒子径の大きな無機粒子の利用も考えられる。しかしながら、これらを利用すると、食品や食品と接触する材料を記録対象物とする場合は、当然、制約があって本来の安全性に対する配慮が果たせなくなる。
【0008】
カーボンブラックに代わる食品素材ないし食品添加物としては、タケスミや植物のスミから構成される材料が公知となっている。
特許文献3には、バインダーとしてアカロイド樹脂を用い、可食性色材として炭末を用いた可食性インキおよびプラスチックへの印刷物が示されている。しかしながら、アカロイド樹脂は特殊な天然樹脂であり、食品衛生法による食品添加物として認可されるか否かの判断がつけにくい。
【0009】
また、特許文献4には、竹炭を用いる電磁波シールド塗料が記載されているが、食品用としての不透明性を有するインクジェット用のインキを記載したものではない。
また、特許文献5には、植物由来の炭粉末を用いる塗料が示されているものの、アクリルエマルジョンを用いるものであり、これも食品ないし食品用のインキとして使用するまでの技術的開示はない。
【0010】
その他、タケスミや木炭を使用するものとして、特許文献6には、遠赤外線用としての塗料が開示されている。特許文献7には、電磁波シールド用としての塗料が開示されている。特許文献8には、建築用材料としての塗料が開示されている。特許文献9には、エアゾール用の消臭剤成分が開示されている。更に、特許文献10および特許文献11等には、ホルムアルデヒドの吸着、VOCの吸着機能材料としての用途が記載されている。しかしながら、これらには食品用としてのインキについての記載がない。
【0011】
特許文献12には、木炭と、流動パラフィンのような非水性の溶剤とからなるインキが示されている。種々の活性剤が示されているものの、木炭を定着させるような成分についての記載は見当たらない。
特許文献13には、木炭を次亜塩素酸にて処理する方法が示されている。このインキについて具体的な調製処方の開示はないが、水を主体とする水性のインキを対象とするものと認められる。フィルム等における乾燥性の適性については記載されていない。
特許文献14には、木炭と非極性である非水性の溶剤とからなるインキが示されている。これにも木炭を定着させるような成分についての記載は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭53−127010号公報
【特許文献2】特開平09−302294号公報
【特許文献3】特開2002−212474号公報
【特許文献4】特開平10−251562号公報
【特許文献5】特開2003−268290号公報
【特許文献6】特開2000−14495号公報
【特許文献7】特開2002−94284号公報
【特許文献8】特開2003−89770号公報
【特許文献9】特開2003−119428号公報
【特許文献10】特開2004−331682号公報
【特許文献11】特開2005−105010号公報
【特許文献12】特開2007−106915号公報
【特許文献13】特開2007−126583号公報
【特許文献14】特開2007−126592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、種々の食品、食品と接する材料、食品包装材料等に記録した場合においても十分な視認性を有するインクジェットインキの提供を目的とする。また、記録対象物が濃色の場合においても、染料のように透明なために視認性が低下するということがなく、不透明の明瞭な印刷記録を形成することを目的とする。また、種々の食品、食品に接する材料、食品包装材料等に記録した場合に水に濡れても、色素の溶出がなく、見た目に嫌悪感を生じさせないようなインキおよび記録された食品ないし包装材料等の提供を目的とする。また、食品への添加が許容される材料のみにより構成させたインキ、このインキにより記録された包装材料の提供を目的とし、特に、直接食品に接することがあって、また飲食に際して、食品が接する、あるいは、記録部分が、直接口に接触するような場合においても、衛生面に関する懸念を払拭することを目的とする。
尚、本発明の対象は、口にいれて食しても問題のないものを食品として対象とするが、健康食品や薬事法で制約されるような錠剤等も口にいれるものであるため、食品と同様の記録対象物として取り扱う。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記した従来の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、乾燥性向上のためにエタノールを含むことを前提に、いずれも食品添加物として認可されている、炭末色素、セラック樹脂、セルロース系樹脂、および水を用いることにより、炭末色素がセラック樹脂および水エタノール系溶剤に安定して分散されたインクジェットインキを実現できたのである。
【0015】
すなわち、本発明に係るインクジェットインキは、いずれも食品添加物として認可されている、炭末色素、セラック樹脂、セルロース系樹脂、エタノール、および水を含んでなることを特徴とするものである。この場合、食品添加物としての認可は食品衛生法の規定による。以下、同じである。
【0016】
また、本発明は、上記の構成において、食品添加物として認可された導電剤を更に含んでいるインクジェットインキを提供する。
【0017】
そして、本発明は、いずれも食品添加物として認可されている、炭末色素1〜20重量部、セラック樹脂1〜20重量部、セルロース系樹脂0.1〜10重量部、エタノール40〜90重量部、水3〜20重量部、および導電剤0.1〜2重量部を含んでなることを特徴とするインクジェットインキを提供する。
【0018】
更に、本発明は、備長炭1〜20重量部、セラック樹脂1〜20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース0.1〜10重量部、エタノール40〜90重量部、水3〜20重量部、および乳酸ナトリウム0.1〜2重量部を含んでなることを特徴とするインクジェットインキを提供する。
【0019】
また、本発明は、上記の各構成における炭末色素が備長炭の粉末であるインクジェットインキを提供する。
【0020】
そして、本発明は、上記の各構成において、食品添加物として認可されたpH調整剤を更に含んでいるインクジェットインキを提供する。
【0021】
更に、本発明は、請求項1または請求項3に記載のインクジェットインキを製造する方法であって、水を溶剤全体の50重量%以上含有する第1溶剤にセルロース系樹脂を溶解させた樹脂溶液に、炭末色素を分散させて分散体を得る第1工程と、エタノールを溶剤全体の50重量%以上含有する第2溶剤にセラック樹脂を溶解させたセラック溶液に、前記第1工程で得られた分散体を更に分散させる第2工程とを備えていることを特徴とするインクジェットインキの製造方法を提供する。
【0022】
また、本発明は、請求項3に記載のインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで食品関連の記録対象物に記録するにあたり、エタノール、水、および炭酸アンモニウムを含んでなる希釈溶剤でインクジェットインキを希釈してインクジェットプリンタで用いることを特徴とするインクジェットインキの使用方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、炭末色素、セラック樹脂、セルロース系樹脂、エタノール、および水を用いてインキを調製したので、炭末色素がセラック樹脂および水エタノール系溶剤に安定に分散したインクジェットインキを得ることができた。そして、この発明により、食品への添加が許容される材料のみにより構成された黒色のインクジェットインキが得られた。このように食品素材および食品添加物にて構成されたインキは安心して食品包装材料に使用することができ、このインキにより記録された食品ないし包装材料は、記録の過程での食品への混入や接触があっても問題のない包装を実施することができる。本発明のインキを用いて種々の食品、食品と接する材料、食品包装材料等に記録した場合、その記録部分に十分な視認性をもたらすことができる。また、記録対象物が濃色の場合であっても、透明な染料を用いた場合のように視認性の低下を招くことがなく、不透明で明瞭な印刷記録を形成することができる。特に、直接食品に接することがあって、または飲食に際して、食品が接する、あるいは記録部分が、直接口に接触するような場合においても、衛生面に関する懸念を払拭することができる。そして、種々の食品、食品に接する材料、食品包装材料等に記録した場合に、水に濡れても黒色の色素の溶出がなく、見た目に嫌悪感を与えないという利点がある。
【0024】
また、本発明に係るインクジェットインキの製造方法によれば、まず、水に溶けやすいセルロース系樹脂が、水を主体とする第1溶剤に溶解されて樹脂溶液とされ、この樹脂溶液に炭末色素が容易に分散されて分散体となる。一方、エタノールに溶けやすいセラック樹脂が、エタノールを主体とする第2溶剤に溶解されてセラック溶液とされ、このセラック溶液に前記の分散体が混合される。これにより、分散体中の炭末色素が安定に分散されたインキを得ることができる。因みに、エタノールを主体とする第2溶剤に炭末色素を直接加えて分散させようとしても、炭末色素は第2溶剤中で安定に分散しない。
そして、本発明に係るインクジェットインキの使用方法によれば、エタノール、水、および炭酸アンモニウムを含んでなる希釈溶剤で、適宜インクジェットインキを希釈しながらインクジェットプリンタで使用するので、インクジェットプリンタで過酷な連続印字を行なう場合でも、プリンタ内でのインキの濃縮を防ぐことができ、pHをアルカリサイドに保持できる。これにより、インキ中でセラック樹脂の溶解性低下をもたらすことがなく、インキの安定性が確保されて長期の連続印字性能を安定に継続することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
「炭末色素」
本発明に係るインクジェットインキは記録対象物にインキを噴き付けて印刷記録するインクジェットプリンタ用のインキであり、全ての成分が食品添加物として認可されたもので構成されている。そして、このインキは、炭末色素を可食性の色素および不透明性の材料として用いている。
本発明で用いる炭末色素は、食品添加物として認可されたものであれば特に限定されないが、例えば植物を炭化して得た炭素を主成分とするものが食品関連用途の観点から好ましい。このような植物由来の炭末色素としては、カカオ果実の殻を焙焼したものが一般的に知られている。そして、例えば、植物を水蒸気賦活法で高温に加熱して炭化させて得たもの、植物油脂を燃焼させて得たもの等も、食品添加物色素として認められている。また、竹の炭化物である竹炭や、広葉樹や針葉樹等の木炭等も植物炭末色素として挙げられる。
【0026】
本発明では、植物を由来とする炭末色素のなかでも、特に広葉樹である、樫、なら、しい、柏等を原料として用いたものが好ましい。特に、うばめかし等を用いて得られる備長炭を用いるとより好ましい。この備長炭は、紀州および土佐等にて生産されており、多数の孔を有する構造からなっている。これは、炭化前の植物の構造に関するものと推定されるが、このような構造であるためか、非常に硬い材料である割には、インクジェット用としてどうしても必要な微細化が比較的容易にできる。また、備長炭は炭素分が多いためにインキにした際の黒色感が得られやすい。また、備長炭は、食品類へ使用されて長い文化を経てきた材料でもある。従って、食品類での使用に対しての安心感が得られる貴重な材料でもある。また、備長炭は、タケスミよりも電気抵抗が低い材料であり、インキ製造における静電気の影響を受けにくく取り扱い易い材料である。
【0027】
このような備長炭をはじめとする炭末色素は、一般的に塊状で入手されるので、これらを粉砕機にて粗粉砕し、そののちに、分散させやすい微細化を行なって使用する。このような微細化の方法としては、機械的な衝撃による各種の汎用粉砕機を用いることができる。また、更に微細化するためには、ジェットミル等の微粉砕機を用いることが望ましい。インクジェトインキとするためには、このように微粉砕された炭末色素を用いて、可食樹脂に分散させる。
【0028】
インクジェットインキの材料として使用するため、可食樹脂に分散させる炭末色素は、平均粒子径が0.01μm以上10μm以下のものが好ましい。平均粒子径が10μmよりも大きいと、可食樹脂への十分な分散に時間がかかりすぎる。また、過剰に熱の影響を受けて、可食樹脂の特性を変えてしまう恐れがある。炭末色素の平均粒子径が0.01μmよりも小さいと、印字濃度の低下という不具合を生じる。
【0029】
可食樹脂への分散に際しては、炭末色素と可食樹脂を二本ロール間で板状に圧延して分散させる方法、炭末色素と可食樹脂との高粘度混合物を3本ロールで圧延して分散させる方法、中粘度状態の混合物を高速アジテーターミルで分散させる方法、溶剤分を少なくした状態で炭末色素と可食樹脂とをボールミルによる衝撃を加える方法等を適宜選択して用いることができる。但し、分散における樹脂溶液との混合態様から、ジルコニアビーズ等を分散メディアとする横型サンドミルを用いた分散が好ましい。
【0030】
上記のように混合した炭末色素と可食樹脂からインキを調製する際には、炭末色素の平均粒子径として0.05μm以上3μm以下にすることが好ましい。更には、平均粒子径1μm以下のものを分散させることがより好ましい。このような平均粒子径の調整は横型サンドミルにより行なうことができる。すなわち、炭末色素の平均粒子径が3μmよりも大きい場合は、インキの保存中の沈降が著しく発生し、プリンタの配管系でのインキの沈降や詰りが発生しやすくなる。また、平均粒子径を0.05μmよりも微細にすることは、著しい分散エネルギーを無用に要するため得策でなく、また透明性を誘発する点でも好ましいといえない。このような平均粒子径0.05〜3μmの範囲内の炭末色素を含むインキにより、良好な不透明性および黒色の色再現が可能となる。インキ調製時に分散される炭末色素の平均粒子径については、レーザー光を用いた、例えば光散乱法等の種々の方式の粒度分布計で測定することができる。
【0031】
炭末色素は、本発明における他の成分の含有重量部と関連するが、1重量部〜20重量部の範囲でインキに含まれることが好ましい。さらに、好ましくは、1〜5重量部である。含有量が1重量部より少ないと、印字濃度が不十分となる。炭末色素の含有量が20重量部を越えると、分散の不良および連続印字適性の低下を生じる。特に、連続した記録において、安定性が悪くなる傾向にある。また、プリンタ内のインキ配管系での流動性が不足する問題を生じるおそれがある。
【0032】
「セラック樹脂」
本発明で使用するセラック樹脂は、ラックカイガラ虫由来の樹脂状物質を精製して得た可食性樹脂であり、多種類の樹脂酸およびそのエステル化物、ワックス、色素等の混合物とされていて、アルコール可溶性タイプのものが特に好ましく用いられる。このセラック樹脂は、本発明にて使用する炭末色素の分散および耐水性を有する定着に寄与し、アルコールに溶解してインキの粘度を上昇させる働きも有する。また、このセラック樹脂は、水/アルコール混合系の溶剤にも溶解する。このように水を一部混合した溶剤に使える点でも好ましいバインダーとして寄与する。
【0033】
尚、このセラック樹脂を水と一部混合する形態にする場合、安定した溶解性を維持させるために、インキのpHを7.5〜10.5のアルカリサイドに調整することが好ましい。インキのpHが7.5よりも低いと、セラック樹脂の一部が析出しやすくする。他方で、インキのpHが10.5を超えると、プリンタ内や印字時の臭気が問題になってくる。
インキのpHを上記範囲内に調整するpH調整剤としては、食品添加物であって印字後に揮発していく成分であることが耐水性の観点より好ましく、例えば水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。なかでも、残留が問題にならない観点から、水酸化アンモニウムないし炭酸アンモニウムを用いてpHを調整することが好ましい。
【0034】
本発明のインクジェットインキにおいて、食品添加可能な樹脂を用いることによって、水に浸漬したり擦ったりしても、記録したインキの溶出を極力抑えられる耐水性と耐摩擦性を持たせることができる。このような食品添加能樹脂としては、前記のセラック樹脂はもとより、ダンマル樹脂、コーパル樹脂等がアルコール系溶剤への溶解性が高いことから用いやすい。その他に、水溶性樹脂を用いることも可能である。かかる水溶性樹脂として、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、結晶セルロース、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白、アラビアゴムシクロデキストリン等を溶剤の種類に応じて樹脂の一部として用いることができる。
【0035】
「セルロース系樹脂」
本発明では、前記したセラック樹脂とともにセルロース系樹脂が併用される。このセルロース系樹脂は、水単独、あるいは水とアルコールの混合溶剤に溶解させて用いられる。
また、セラック樹脂への分散の前に、予め炭末色素をセルロース系樹脂の水溶液に分散させたのち、これをセラック樹脂溶液に分散させると、良好な分散安定性を維持することができる。この分散安定性を良好に維持させるには、水およびアルコールに対して溶解性を有するセルロース系樹脂が適しており、なかでも水およびアルコールのいずれにも溶解性の高いヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
このセルロース系樹脂は種々の分子量のものを用いることができるが、この分散および粘度の適性から低分子量のものを用いることが好ましい。特に、20℃における2重量%濃度の水溶液において、1〜7mPa・sの粘度を示す分子量のものを用いると、いっそう好ましい。
このように、セルロース系樹脂に予め炭末色素を分散させるには、セルロース系樹脂を、水単独、あるいは水とアルコールの混合溶剤に溶解させた樹脂溶液に炭末色素を分散させる。この際、セルロース系樹脂を溶解させる液としては、水を50重量%以上含有し、エタノールを50重量%未満含有する溶剤を用いる。この溶剤中のエタノール含有量が50重量%以上になると、溶剤中での炭末色素の分散が安定しなくなる。特に、次の第2工程におけるセラック樹脂溶液へ分散させたときの分散安定性が低下したり、更には導電剤を添加した際に分散の破壊を招きやすくする。
【0036】
本発明において食品添加可能な樹脂は、インキ全体の1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%の範囲で含まれることが好ましい。樹脂の含有量が1重量%好ましくは2重量%より少ないと、適度な粘度のインキが得られない。また、記録対象物に対する十分な密着も得られにくい。また、20重量%好ましくは15重量%を超えると、インキの粘度が高くなりすぎて低温での流動性が不足し、インクジェットプリンタの記録時の安定性も低下する。
尚、炭末色素10重量部に対して2〜5重量部のセルロース系樹脂を用いると、優れた分散性が得られる。セルロース系樹脂の含有量が2重量部よりも少ないと、炭末色素の分散を十分に行なうことができない、また、セルロース系樹脂の含有量が5重量部を超えると、樹脂そのものの溶解性が不十分となり、分散時の粘度が高くなりすぎる等の問題を生じるおそれがある。
【0037】
「インキの溶剤」
本発明のインクジェットインキは、1種類以上の溶剤を含むことができる。溶剤はインキ全体の50〜90重量%用いることができる。本発明では、乾燥性において優位なエタノールを多く用いる。本発明のインキは、エタノールをインキ全体の50重量%以上含むアルコールインキとすることが、乾燥性、耐水性のインキに適した処方になる。本発明において使用できるエタノールは、食品用の発酵エタノールまたは変性エタノールである。
また、本発明のインクジェットインキでは、他の成分の含有重量部と関連するが、水を3〜20重量部含有させる。この水は、炭末色素の分散において、セルロース系樹脂を溶解し、炭末色素の分散に供する。また、インキ化処方(第2工程)において、プリンタの適性に応じた導電率を調整するための導電剤の溶解性を高め、所望の導電率を得るために用いられる。前記のような含有量にてインキ中に使用されるが、水の含有量が3重量部よりも少ないと、炭末色素の分散の安定性が得られない。また、水の含有量が20重量部よりも多いと、乾燥性の低下を招き、エタノールインキとする目的の「早い乾燥性」の特性が得られなくなる。
【0038】
「湿潤剤」
また、溶剤としては、記録時の乾燥性を低下させない範囲において、さらにはノズルでの乾燥性を調整するため、プロピレングリコールのような湿潤剤を用いても構わない。このような湿潤剤は、インキの乾燥性の調整、インキ粘度の調整等の役目をなす。また、被記録物の下地によっては、浸透性を調整する効果も使用目的として適している。このようなプロピレングリコールは、インキ全体の0〜10重量%の範囲で用いると、記録対象物への適度な浸透、乾燥の調整が可能となる。プロピレングリコールの含有量が10重量%を超えると、目的とする乾燥性の向上が果たせなくなる。
【0039】
「乳化剤」
本発明において、インキ成分として、食品添加可能な乳化剤を更に含むことができる。このような乳化剤としては、例えばソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。これらの乳化剤は可食性で水系での安定性に優れるものであり、インキ中における炭末色素の分散安定性に寄与する。
これらの乳化剤はアルコール溶剤への溶解性から、インキ全体の5重量%以下で使用することが好ましく、その範囲内の使用により十分な効果が得られる。
これらの乳化剤のうち、非イオン活性剤は記録対象物の種類に応じてインキのHLBの適性があるため、記録対象物が包装用のフィルムである場合は、HLB8〜16が、また、油脂分の多い食材に対しては、HLB1〜2のようなインキ調整とすることが、記録の適性を有する。
【0040】
「導電剤」
本発明のインクジェットインクは、コンティニュアスタイプのインクジェットプリンタとオンデマンドタイプのインクジェットプリンタのいずれにも使用できるが、コンティニュアスタイプのインクジェットプリンタに用いるインキの場合は、使用するプリンタに応じた導電率の調整が行われる。かかる導電率の調整には導電剤が使用される。
このような導電剤は食品添加物として認可されたものが用いられ、例えば乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、パントテンサンナトリウム等が挙げられる。なかでも、乳酸ナトリウムは、アルコール含有溶剤によく溶解し、プリンタにおけるインキの液滴の導電率を適度に保つ役割を少量にて達成することができる。
導電剤の添加量は、他の成分の含有重量部と関連するが、0.2〜2.0重量部であることが好ましい。この範囲内の使用により、インキの導電率を適正な0.5m〜5mS/cm程度にすることができる。前記の範囲内であっても少量使用での調整が好ましい。導電剤の添加量が2.0重量部を超えると、色素の凝集を招くおそれがある。
【0041】
本発明のインクジェットインキは、エタノールを含む、またはエタノールを溶剤主体として含むので、水をインキ全体の50重量%以上含有する水性のインキに比べて乾燥性が向上する。また、非浸透性の材料においても良好な耐水性を有する記録部分を形成することができ、記録システムによっては高速の可変情報の印字も可能となる。
本発明のインキは、食品に直に、食品に接触する材料、または食品用包装材料に対して、特に好ましく使用することができる。このような包装材料は、必要に応じて表面処理を施したポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック材料、または不織布、紙等が例示される。
【0042】
更に、本発明のインキは、食品素材および食品添加物として認められたもので全体が構成されるものであり、食品のデザイン、装飾、高品位のデータの表示、品質のトレーサビリティー等にも有効となる。前記のデザインおよびそのデータとして、生産地、収穫日時、生産者、日付、特殊記号、キャラクタ画像等を記録できる。これらの表記は、経路の確実な表示方法として商品の流通形態への信頼性も付与することができる。
【0043】
本発明のインクジェットインキが記録される食品類としては、例えばガム、キャンディー、ビスケット、クッキー、饅頭、チョコレート等が例示される。また、例えばみかん、りんご、スイカ、メロン、マンゴー、柿、桃等の果物や、野菜、加工肉類等にも記録できる。また、健康食品類の錠剤等への記録も可能である。また、これら食品類を包装する包装材料も記録の対象となる。あるいは、パンの包装、食品のトレイ、弁当容器、パック等、または割りはし、楊枝、串等といった食品との接触材料にも記録することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。
[実施例1]
本実施例のインクジェットインキを調製するにあたり、樹脂溶液の調製、分散体の調製、セラック溶液の調製、および、インキの調製を行なった。
まず、「樹脂溶液の調製の調製」として、ヒドロキシプロピルセルロース(2重量%水溶液、20℃、2.5mPa・s)3重量部を水87重量部(第1溶液)に溶解させてヒドロキシプロピルセルロース水溶液(樹脂溶液)を得た。
次に、「分散体の調製」として、前記のヒドロキシプロピルセルロース水溶液90重量部と、うばめかし由来の備長炭10重量部とを混合してミルベースを作製したのち、ジルコニアビーズを収容した横型ミルにて2時間分散して、備長炭の平均粒子径が0.34μmである分散体1を得た(第1工程、後述の表1参照)。
続いて、「セラック溶液の調製」として、99度の発酵エタノール(第2溶剤)にセラック樹脂を加えて撹拌し、25重量%セラック樹脂のエタノール溶液(25%セラック溶液)を得た。
そして、「インキの調製」として、20重量部の分散体1に、25%セラック溶液28重量部、炭酸アンモニウム1重量部、50重量%乳酸ナトリウム水溶液1重量部、およびエタノール50重量部を加え、横型ミルにて分散体1中の備長炭を微細化して更に分散させた(第2工程、後述の表2参照)。得られた分散液をNo.63のフィルターにて濾過した。次いで開目0.8μmのフィルターで濾過してインクジェットインキを得た。
【0045】
[実施例2]
20重量部の分散体1の代わりに、下記の表1に示した分散体2(うばめかしの備長炭)の10重量部を用い、第2工程で加えるエタノールの量を10重量部増やしたこと以外は、実施例1と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
【0046】
[実施例3]
分散体2の代わりに、下記の表1に示した分散体3(うばめかしの備長炭)を用い、第2工程で用いるセラック溶液の量を1重量部減らし、エタノールの量を1重量部増やしたこと以外は、実施例2と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
【0047】
[実施例4]
分散体2の代わりに、下記の表1に示した分散体4(あらかしの備長炭)を用いたこと以外は、実施例2と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
【0048】
[実施例5]
分散体2の代わりに、下記の表1に示した分散体5(タケスミ)を用い、第2工程で加えるエタノールの量を5重量部減らし、プロピレングリコール5重量部を加えたこと以外は、実施例2と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
【0049】
[実施例6]
分散体2の代わりに、下記の表1に示した分散体6(うばめかしの備長炭)を用い、第2工程で用いるセラック溶液の量を2重量部増やし、エタノールの量を2.3重量部減らし、50%乳酸ナトリウムの量を0.3重量部増やしたこと以外は、実施例2と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
【0050】
[実施例7]
分散体6の代わりに、下記の表1に示した分散体7(うばめかしの備長炭)を用い、グリセリン脂肪酸エステルを0.5重量部加え、第2工程で加えるエタノールの量を0.5重量部減らしたこと以外は、実施例6と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
【0051】
[実施例8]
分散体7の代わりに、下記の表1に示した分散体8(うばめかしの備長炭)を用い、ソルビタン脂肪酸エステルを0.5重量部加え、50%乳酸ナトリウムの量を0.2重量部増やし、第2工程で加えるエタノールの量を0.7重量部減らしたこと以外は、実施例7と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
【0052】
[実施例9]
10重量部の分散体6の代わりに、下記の表1に示した分散体9(うばめかしの備長炭)の15重量部を用い、50%乳酸ナトリウムの量を0.2重量部増やし、炭酸アンモニウムの量を0.5重量部増やし、プロピレングリコール3重量部を加え、第2工程で加えるエタノールの量を8.7重量部減らしたこと以外は、実施例6と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
【0053】
[比較例1]
下記の表3に示した分散体1A(あらかしの備長炭)の20重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.5重量部、乳酸ナトリウム2重量部、および精製水77.5重量部を用いて、インクジェットインキを製造した。
【0054】
[比較例2]
下記の表3に示した分散体2A(あらかしの備長炭)の25重量部を用い、グリセリン脂肪酸エステルと精製水を省略し、25%セラック溶液40重量部とエタノール33重量部を加えたこと以外は、比較例1と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0055】
[比較例3]
下記の表3に示した分散体3A(あらかしの備長炭)の10重量部を用い、炭酸アンモニウム1重量部および精製水5重量部を加え、25%セラック溶液の量を10重量部増やしたこと以外は、比較例2と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0056】
[比較例4]
下記の表3に示した分散体4A(うばめかしの備長炭)の20重量部を用い、25%セラック溶液の量を10重量部減らしたこと以外は、比較例3と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0057】
[比較例5]
下記の表3に示した分散体5A(うばめかしの備長炭)の20重量部を用い、精製水を省略し、25%セラック溶液の量を10重量部増やし、エタノールの量を5重量部減らしたこと以外は、比較例4と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0058】
[比較例6]
下記の表3に示した分散体6A(うばめかしの備長炭)の20重量部を用い、炭酸アンモニウムを省略し、25%セラック溶液の量を10重量部減らし、乳酸ナトリウムの量を2重量部増やし、エタノールの量を8重量部増やしたこと以外は、比較例5と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0059】
[比較例7]
下記の表3に示した分散体7A(タケスミ)の20重量部を用い、炭酸アンモニウム1.5重量部を加え、乳酸ナトリウムの量を2重量部減らし、エタノールの量を0.5重量部増やしたこと以外は、比較例6と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0060】
[比較例8]
下記の表3に示した分散体8A(うばめかしの備長炭)の20重量部を用い、25%セラック溶液の量を12重量部減らし、炭酸アンモニウムの量を0.3重量部減らし、エタノールの量を12.3重量部増やしたこと以外は、比較例7と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0061】
[比較例9]
下記の表3に示した分散体9A(うばめかしの備長炭)の20重量部を用いたこと以外は、比較例8と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0062】
上記実施例と比較例で使用する分散体1〜9,1A〜9Aの処方、実施例1〜9と比較例1〜9で調製したインクジェットインキの処方と、各種物性を下記の表に示す。表1は実施例1〜9に使用する分散体1〜9の処方に関するものであり、表2は実施例1〜9に関するものであり、表3は比較例1〜9に使用する分散体1A〜9Aの処方に関するものであり、表4は比較例1〜9に関するものである。
尚、表中に示した物性項目のうち、
「再分散性」は、放置しておいたインキを20回振とうさせたのちに濾過し、そのときの分散状態で評価した。
「耐水性」は、印字した記録対象物の印字面を水で湿らせたときのインキの溶け出しの有無、水の着色および印字面を拭ったティッシュペーパへの着色により確認した。
「密着性」は、食品用ポリアミドフィルムにインキを塗布し、塗布部分を綿棒で擦ったときの剥離の有無により確認した。
「印字濃度」は、PPC用紙へインキを印字し、この印字部分の反射濃度をマクベス反射濃度計(GretagMacbeth社製の型式RD918)で測定した。
「連続吐出性」は、上記のように調製したインキを、連続式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の型式KGK JET CCS−N)に装填し、連続して印字テストを行なったときのトラブル(ノズルの詰り、印字不良(異常フォント)、噴出圧力異常など)の有無で判定した。この連続式インクジェットプリンタにて、菓子、りんご、マンゴー、食品用ポリアミドフィルム、錠剤に印字し、黒色感の良好な印字物を得た。
「高温環境での印字性能」は、室温を45℃に保持した環境室内でインクジェットプリンタで印字テストを行なったときの印字結果の状態を評価した。
「低温環境での印字性能」は、室温を5℃に保持した環境室内でインクジェットプリンタで印字テストを行なったときの印字結果の状態を評価した。
【0063】
インクジェットインキの粘度(20℃、mPa・s)はTOKI産業社製の粘度計(EHコーン型)を用いて測定し、pHはpHメータを用いて測定し、導電率(mS/cm)はHoriba社製の導電率計を用いて測定した。インキ中の炭末色素の平均粒子径は日機装株式会社製の粒度分布計(UPA型)を用いてメジアン径(d50)で測定した。
尚、各表中で、処方を示す数値は重量部を表している。また、表1、表3中で( )内に示した数値は、インクジェットインキを調製したときのインキ全体量における重量部を示している。表2、表4中の25%セラック溶液の欄で( )内に示した数値は、インキ全体量におけるセラック樹脂そのものの重量部を示している。表1、表3中で、HPCはヒドロキシプロピルセルロースを示し、(*1)を付したものは2wt%HPC水溶液の粘度が2.5mPa・sとなるものである。(*2)を付したものは2wt%HPC水溶液の粘度が3.85mPa・sとなるものである。表3中で、CMCはカルボキシメチルセルロースを示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
上記の表1〜4に示されるように、実施例1〜9のインクジェットインキは、平均粒子径、粘度、pH、導電率の各値に関して、実施例間で大きくばらつくことなくまとまっており、いずれも製品インキとして適正範囲である。但し、炭末色素としてタケスミを用いた実施例5のインクジェットインキは、他の実施例と比べると平均粒子径がやや大きく、これによって印字濃度がいくぶん低くなっている。しかしながら、これらの値も適正範囲内である。また、実施例1〜9のインクジェットインキは、再分散性、耐水性、密着性、印字濃度、45℃環境印字性能、5℃環境印字性能、および連続吐出性に関しても、全ての項目が満足できる結果であった(表2参照)。これらのことは、実施例1〜9のインクジェットインキが、炭末色素、セラック樹脂、セルロース系樹脂、エタノール、および水を含み、各成分が所定範囲の含有量で配合されているためである。更に、セルロース系樹脂を水・エタノール系の溶剤に溶かした樹脂溶液に炭末色素を分散させて分散体を得、この分散体をセラック樹脂エタノール溶液に混合して炭末色素を分散させるという製法で製造したためである。
尚、連続吐出性テストで長期の連続吐出を実施している過程において、インキからのアルコール分の蒸発によるインキの濃縮に対して、溶剤の補給分として、エタノール90重量部と水10重量部よりなるエタノール/水混合液に炭酸アンモニウム1.1重量部を溶解させた液を希釈液として用いた。この希釈液のpHは10.4であった。このときのインキのpHは9以上とアルカリサイドであるため、インキ中でのセラック樹脂の溶解性低下もなく、インキの安定性が確保され、長期の連続印字の安定性を継続することができている。
【0069】
それに対し、比較例1のインクジェットインキは、溶剤がエタノールでなく水のみでセラック樹脂を使用していないが、インキでの再分散性は良好であった。但し、耐水性および密着性は良くなかった。比較例2のインクジェットインキは、分散体2AにおいてCMCを多量のエタノールに溶かしているために、インキでのタケスミの分散状態が良くなく(再分散性)、それによって平均粒子径の測定もできなかった。また、インキでの耐水性および密着性も良くなかった。比較例3、4のインクジェットインキは、分散体3A、4Aにおいてセルロース系樹脂の替わりにセラック樹脂を用いているために、インキでの耐水性および密着性は良かった。しかしながら、分散体3A、4Aで多量のエタノールを使用しているため、再分散性が悪かった。比較例5のインクジェットインキは、分散体5Aで樹脂を全く用いず備長炭を水に分散させているので、インキでの再分散性が悪く平均粒子径の測定もできなかった。比較例6のインクジェットインキは、分散体6Aで水を全く用いず備長炭とHPCをエタノールに分散させているので、インキでの再分散性が悪く凝集状態となり平均粒子径も測定できなかった。比較例7のインクジェットインキは、分散体7Aで木炭を使用しているために、インキの粘度が経時的に増加し、再分散性の悪化はもとより粘度も製品インキの規格外となった。比較例8、9のインクジェットインキは、分散体8A、9Aでエタノールを用いず備長炭とHPCを水に分散させているので、インキでの耐水性および密着性は良いが、経時により備長炭の凝集を生じて再分散性が良くなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれも食品添加物として認可されている、炭末色素、セラック樹脂、セルロース系樹脂、エタノール、および水を含んでなることを特徴とするインクジェットインキ。
【請求項2】
食品添加物として認可された導電剤を更に含んでいる請求項1に記載のインクジェットインキ。
【請求項3】
いずれも食品添加物として認可されている、炭末色素1〜20重量部、セラック樹脂1〜20重量部、セルロース系樹脂0.1〜10重量部、エタノール40〜90重量部、水3〜20重量部、および導電剤0.1〜2重量部を含んでなることを特徴とするインクジェットインキ。
【請求項4】
備長炭1〜20重量部、セラック樹脂1〜20重量部、ヒドロキシプロピルセルロース0.1〜10重量部、エタノール40〜90重量部、水3〜20重量部、および乳酸ナトリウム0.1〜2重量部を含んでなることを特徴とするインクジェットインキ。
【請求項5】
炭末色素が備長炭の粉末である請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のインクジェットインキ。
【請求項6】
食品添加物として認可されたpH調整剤を更に含んでいる請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のインクジェットインキ。
【請求項7】
請求項1または請求項3に記載のインクジェットインキを製造する方法であって、水を溶剤全体の50重量%以上含有する第1溶剤にセルロース系樹脂を溶解させた樹脂溶液に、炭末色素を分散させて分散体を得る第1工程と、エタノールを溶剤全体の50重量%以上含有する第2溶剤にセラック樹脂を溶解させたセラック溶液に、前記第1工程で得られた分散体を更に分散させる第2工程とを備えていることを特徴とするインクジェットインキの製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載のインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで食品関連の記録対象物に記録するにあたり、エタノール、水、および炭酸アンモニウムを含んでなる希釈溶剤でインクジェットインキを希釈してインクジェットプリンタで用いることを特徴とするインクジェットインキの使用方法。

【公開番号】特開2010−248313(P2010−248313A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96989(P2009−96989)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(391040870)紀州技研工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】