説明

インクジェットインキ組成物

【課題】非浸透系基材へ印字でき、塗膜の光沢不良を抑制しつつ、優れた塗膜耐性と乾燥性、及び延伸性を実現できるインクジェットインキ組成物を提供する。
【解決手段】バインダー樹脂のうち少なくとも1つが酸価100mgKOH/g以下であるアクリル系バインダー樹脂、塩基性分散剤、顔料、および有機溶剤を含み、有機溶剤のうち少なくとも1つが乳酸エステル系溶剤であり、アクリル系バインダー樹脂(A)と塩基性分散剤(B)の比率が下記の範囲であるインクジェットインキ。1.0≦A/B≦10.0(重量比)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料、塩基性分散剤、バインダー樹脂、及び有機溶剤とを含む、インクジェットインキ組成物を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
従来インクジェットインキとしては、酸性染料、直接染料、塩基性染料等の水溶性染料をグリコールエーテル系溶剤と水に溶解したものが良く用いられているが、近年では、耐久性の求められるサイン業界向けに顔料を用いたインキが多く使用されるようになってきた。しかし、インキを製造する場合、顔料を安定に高濃度で分散することが難しく、製造工程や製品そのものに対して種々の問題を引き起こすことが知られている。例えば、微細な粒子からなる顔料を含む分散体は往々にして高粘度を示し、高粘度化が顕著な場合は保存中にゲル化を起こし、使用困難となることさえある。特にインクジェットインキは微細なノズルを通って吐出されるため、高い安定性が求められている。保存中の増粘はノズル詰まりによる不吐出の原因となり致命的な欠陥となる。
【0003】
そこで一般的には、分散状態を良好に保つために分散剤が利用されている。特に塩基性の官能基としてアミノ基を有する分散剤が好んで使われている。例えば特許文献1、特許文献2などに記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1、特許文献2では、分散安定性は高いが、塗膜の耐性が低い等問題があり、組み合わせるバインダー樹脂によっては、塗膜の光沢不良を引き起こし、塗膜耐性、印字安定性が落ちる場合があるなど好ましいものではなかった。
【0005】
さらに、これまでの溶剤インキはサイン業界向け用途が中心であり塩化ビニルへの密着が良好であったが、ポリカーボネート、アクリル、ガラスなどの基材への対応がなかった。これらの基材への対応は、活性エネルギー線硬化型インキが期待されているが、活性エネルギー硬化型インキでは臭気が強く、且つメディアにインキが濡れ広がる前に即座に硬化する為、粒状感が残る問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−284642号公報
【特許文献2】特開2006−56990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、乳酸エステル系溶剤を用いることにより塩化ビニルシートだけではなく非浸透系基材へも印字でき、塩基性分散剤と酸価100mgKOH/g以下のアクリル系バインダー樹脂を用いることにより塗膜の光沢不良を抑制しつつ、優れた塗膜耐性と乾燥性、及び延伸性を実現できるインクジェットインキ組成物を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、バインダー樹脂のうち少なくとも1つが酸価100mgKOH/g以下であるアクリル系バインダー樹脂、塩基性分散剤、顔料、および有機溶剤を含み、有機溶剤のうち少なくとも1つが乳酸エステル系溶剤である事を特徴とするインクジェットインキ組成物に関する。
更に酸価100mgKOH/g以下であるアクリル系バインダー樹脂(A)と塩基性分散剤(B)の比率が下記の範囲であることを特徴とするインクジェットインキ組成物に関する。
1.0≦A/B≦ 10.0 (重量比)
【0009】
更にアクリル系バインダー樹脂がメタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸ブチルエステル、スチレンまたはα-メチル-スチレンを構成モノマー成分として少なくとも1つ以上含むことを特徴とするインクジェットインキ組成物に関する。
更にアクリル系バインダー樹脂のガラス転移点が50℃以上、かつ、重量平均分子量Mwが5、000以上、50,000以下であることを特徴とするインクジェットインキ組成物に関する。
更に塩基性分散剤がポリエステル系塩基性分散剤、またはポリアクリル系塩基性分散剤であることを特徴とするインクジェットインキ組成物に関する。
更に乳酸エステル系溶剤の沸点が100℃以上250℃以下であることを特徴とするインクジェットインキ組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乳酸エステル系溶剤を用いることにより塩化ビニルシートだけではなく、非浸透系基材へも印字でき、インキ組成物中の塩基性分散剤と酸価100mgKOH/g以下のバインダー樹脂を用いることにより、塗膜の光沢不良を抑制しつつ、優れた塗膜耐性と乾燥性、及び延伸性を実現できるインクジェットインキ組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明では、有機溶剤のうち少なくとも1つに乳酸エステル系溶剤を使用する。乳酸エステル系溶剤の比率は、インキ中に50%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。また、乳酸エステル系溶剤はヘッドのメニスカスでのインキの乾燥を抑える一方、各種メディアに対しては良好な乾燥および再現性ある画像を形成することができる。乳酸エステル系溶剤は、エステル系の溶剤としては比較的臭気が少なく、人体への負荷も少ない。また、乳酸エステル系溶剤には、植物由来の乳酸を使用した乳酸エステル系溶剤と合成した乳酸を使用した乳酸エステル系溶剤の2種が存在し、どちらの乳酸エステル系溶剤でも本発明は成立するが、植物由来の乳酸を使用した乳酸エステル系溶剤の方が環境への負荷が少なく望ましい。乳酸エステル系溶剤としては、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸ブチルエステルが好適に用いられる。
【0012】
本発明のインクジェットインキ組成物において、バインダー樹脂のうち少なくとも1つに酸価100mgKOH/g以下のアクリル系バインダー樹脂を使用する。バインダー樹脂は印刷物の塗膜耐性、密着性を向上させることができる。しかし、酸価が100mgKOH/g以上の樹脂は、得られた印刷物の塗膜がアルコールやガソリンといった溶剤に対する耐性が十分に得られない。
本発明では、酸価100mgKOH/g以下のアクリル系バインダー樹脂(A)の酸価は塗膜耐性、塩基性分散剤との相溶性の観点から100mgKOH/g以下、好ましくは10mgKOH/g以下であるのがよい。
【0013】
酸価100mgKOH/g以下であるアクリル系バインダー樹脂(A)と塩基性分散剤(B)の比率は、 1.0≦A/B≦ 10.0 (重量比)、好ましくは 2.0≦A/B≦ 8.0 (重量比)、更に好ましくは 3.0≦A/B≦ 6.0 (重量比)であるのがよい。A/Bの値が小さいと、バインダー樹脂が少ないために、塗膜形成が不十分であり塗膜耐性が劣る。A/Bの値が大きいと、バインダー樹脂が多いために、塩基性分散剤との相溶性が悪くなり、塗膜の光沢不良や塗膜耐性の劣化が発生する。これは、相溶性が悪いとバインダー樹脂が均一な塗膜を形成できないことによる。
【0014】
塩基性分散剤は顔料の分散性およびインク組成物の保存安定性を向上させるために使用する。
塩基性分散剤の具体例としては、ルーブリゾール社製のソルスパーズ11200、ソルスパーズ13240、ソルスパーズ16000、ソルスパーズ18000、ソルスパーズ20000、ソルスパーズ26000、ソルスパーズ28000、ソルスパーズ31845、ソルスパーズ32500、ソルスパーズ32550、ソルスパーズ32600、ソルスパーズ33000、ソルスパーズ34750、ソルスパーズ35100、ソルスパーズ35200、ソルスパーズ37500、ソルスパーズ38500、ソルスパーズ39000、ソルスパーズ53095が挙げられる。ポリエステル系塩基性分散剤の具体例としては、 ルーブリゾール社製のソルスパーズ13940、17000、24000、32000、味の素ファインテクノ社製のアジスパーPB821、PB822、PB823、PB824、PB827等が挙げられる。これらを顔料、溶剤の種類にあわせて使用することができる。分散剤はインキ中に0.1〜10重量%含まれることが好ましい。延伸性の観点からはポリエステル系塩基性分散剤が好ましい。塗膜耐性、アクリル系バインダー樹脂との相溶性の観点からはポリアクリル系塩基性分散剤を使用することが好ましく、より好ましくはメタクリル酸メチルエステルを含むのがよく、さらに好ましくはメタクリル酸メチルエステルを分散剤の樹脂組成比率のうち30%以上含むのがよい。
【0015】
アクリル系バインダー樹脂は、三菱レイヨン社製のBR−50、BR−52、MB−2539、BR−60、BR−64、BR−73、BR−75、MB−2389、BR−80、BR−82、BR−83、BR−84、BR−85、BR−87、BR−88、BR−90、BR−90、BR−95、BR−96、BR−100、BR−101、BR−102、BR−105、BR−106、BR−107、BR−108、BR−110、BR−1122、BR−113、MB−2660、MB−2952、MB−3012、MB−3015、MB−7033、BR−115、MB−2478、BR−116、BR−117、BR−118、BR−122、ウィルバー・エリス社製のA−11、A−14、A−21、B−60、B−64、B−66、B−72、B−82、B−44、B−48N、B−67、B−99N、BASF社製のJONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL683、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL JDX−C3000、JONCRYL JDX−C3080が挙げられる。アクリル系樹脂以外でも、スチレンーマレイン酸系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、エチレンー酢ビ系樹脂、石油樹脂、クマロンインデン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、塩酢ビ系樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂等を併用してもよい。樹脂はインキ中に0.1〜20重量%含まれることが好ましい。これらの樹脂を2種類以上を組み合わせても良い。
【0016】
アクリル系バインダー樹脂はメタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸ブチルエステル、スチレンまたはα-メチル-スチレンを構成モノマー成分として少なくとも1つ以上含むアクリル系樹脂である事が好ましい。特に塗膜の耐性の点からメタクリル酸メチルエステルを含むことが好ましく、より好ましくはメタクリル酸メチルエステルを50%以上含むのがよい。
バインダー樹脂は、重量平均分子量が5,000以上50,000以下、好ましくは10,000以上40,000以下、更に好ましくは15,000以上35,000以下であるのがよい。分子量が高すぎるとインキ組成物の粘度が高くなり、十分な流動性が得られない。分子量が低すぎると塗膜の耐性が弱く十分な塗膜耐性が得られない。重量平均分子量はゲルパーミッションクロマトグラフィーによりスチレン換算分子量として求められる。
バインダー樹脂は、ガラス転移点が50℃以上。好ましくは60℃以上であるのがよい。ガラス転移点が低すぎると、塗膜耐性が弱く、乾燥性の劣る印刷物となる。
本発明に使用する乳酸エステル系溶剤の沸点は100℃以上250℃以下、好ましくは130℃以上200℃以下であるのがよい。沸点が低すぎると、乾燥が速くノズル詰まりなどの不具合が発生する可能性がある。また、沸点が高すぎると、乾燥が遅くブロッキング、滲みなどの不具合が発生する可能性がある。上記の乾燥性のバランスから、乳酸エチルエステルが特に好ましい。
【0017】
更に主溶剤の乳酸エステル系溶剤に追加して沸点150℃以上の(ポリ)アルキレングリコール誘導体を使用することができる。
これらの化合物としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類が上げられる。
更に、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、エチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルブチレート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルブチレート、プロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルブチレート等のグリコールモノアセテート類があげられる。
エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、エチレングリコールプロピオネートブチレート、エチレングリコールジプロピオネート、エチレングリコールジブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールブチレート、ジエチレングリコールプロピオネートブチレート、ジエチレングリコールジプロピオネート、ジエチレングリコールジブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールプロピオネートブチレート、プロピレングリコールジプロピオネート、プロピレングリコールジブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールプロピオネートブチレート、ジプロピレングリコールジプロピオネート、ジプロピレングリコールジブチレート等のグリコールジアセテート類があげられる。これらの溶剤を2種以上追加してもよい。中でも、樹脂溶解性、ノズル上での乾燥性の観点から(ポリ)エチレングリコールジエーテル系溶剤、(ポリ)エチレングリコールモノエーテルモノエステル系溶剤が好ましい。具体的にはエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
【0018】
本発明に使用される顔料は、印刷インキ、塗料等に使用される種々の顔料が使用できる。このような顔料をカラーインデックスで示すと、ピグメントブラック7、ピグメントブルー15,15:1,15:3,15:4,15:6,60、ピグメントグリーン7,36、ピグメントレッド9,48,49,52,53,57,97,122,149,168,177,178,179,206,207,209,242,254,255、ピグメントバイオレット19,23,29,30,37,40,50、ピグメントイエロー12,13,14,17,20,24,74,83,86,93,94,95,109,110,117,120,125,128,137,138,139,147,148,150,151,154,155,166,168,180,185、213、ピグメントオレンジ36,43,51,55,59,61,71,74等があげられる。また、カーボンブラックについては中性、酸性、塩基性等のあらゆるカーボンブラックを使用することができる。顔料はインキ中に0.1〜10重量%含まれることが望ましい。
【0019】
本発明のインキ組成物は可塑剤、表面調整剤、紫外線防止剤、光安定化剤、酸化防止剤、加水分解防止剤等の種々の添加剤を使用することができる。
【0020】
本発明の印刷媒体としては、ポリカーボネート、硬質塩ビ、軟質塩ビ、ポリスチレン、発砲スチロール、PMMA、ポリプロピレン、ポリエチレン、PETなどのプラスチック基材やこれら混合または変性品、並びにステンレス、鉄などの金属基材、ガラスなどが挙げられる。
【0021】
本発明のインキ組成物は、まず始めにペイントシェーカー、サンドミル、ロールミル、メディアレス分散機等によって、単一もしくは混合溶媒中に顔料を分散剤によって分散し、得られた顔料分散体を本発明の溶剤で希釈して製造されるものである。
【実施例】
【0022】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「重量部」を表す。
(合成例1)
[片末端領域に2つの遊離ヒドロキシル基を有するビニル重合体(A―1)の合成]
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メチルメタクリレートを500部、チオグリセロール11部と、酢酸プロピル511部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を90℃に加熱して、AIBN0.50部を添加した後7時間反応した。固形分測定により95%が反応したことを確認後、室温まで冷却して、重量平均分子量9500の、片末端領域に2つの遊離ヒドロキシル基を有するビニル重合体(A-1)の50%溶液を得た。
(合成例2〜4)
[片末端領域に2つの遊離ヒドロキシル基を有するビニル重合体(A―2)〜(A−4)の合成]
表1に示す原料と仕込み量を用いた以外は合成例1と同様にして合成を行い、片末端領域に2つの遊離ヒドロキシル基を有するビニル重合体(A―2)〜(A−4)の固形分50%溶液を得た。
【0023】
【表1】

【0024】
表1中の略称は以下に示す通りである。
・MMA:メチルメタクリレート
・BMA:n―ブチルメタクリレート
・AIBN:2、2‘−アゾビス(イソブチロニトリル)
【0025】
(製造例1)
[分散剤(G−1)の製造]
ガス導入管、温度計、コンデンサー拡販機を備えた反応容器に、ビニル重合体(A―1)の固形分50%溶液1022部と、イソホロンジイソシアネート45.2部と、酢酸プロピル45.1部と、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.11部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を100℃に加熱して、3時間反応した後、40℃まで冷却して、イソホロンジアミン34.6部、酢酸プロピル330.1部の混合液を30分かけて滴下し、さらに1時間反応したあと、室温まで冷却して反応を終了した。その後、乳酸エチルを加え120℃で加温し酢酸プロピルがなくなるまでストリッピングを行い、固形分40%溶液の分散剤(G−1)を得た。
(製造例2〜4)
[分散剤(G−2)〜(G−4)の製造]
表2に示す原料と仕込み量を用いた以外は製造例1と同様にして合成を行い、分散剤(G−2)〜(G−4)の溶液を得た。
【0026】
【表2】

【0027】
表2中の略称は以下に示すとおりである。
・IPDI:イソホロンジイソシアネート
・DBTDL:ジブチル錫ジラウレート
・IPDA:イソホロンジアミン
【0028】
まず、下記のような配合で顔料分散体Aを作成した。この分散体は有機溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約1時間分散して作成した。
【0029】
・LIONOL BLUE FG−7400G(東洋インキ製造社製 フタロシアニン顔料)35.0部
・アジスパーPB821(味の素ファインテクノ社製 顔料分散剤)12.5部
・BGAc 52.5部
更に、下記のような配合で顔料分散体Bを作成した。この分散体は有機溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約1.5時間分散して作成した。
【0030】
・ YELLOW PIGMENT E4GN(ランクセス社製 ニッケル錯体アゾ顔料) 30.0部
・ソルスパーズ24000(ルーブリゾール社製 顔料分散剤)16.5部
・DEDG 53.5部
【0031】
更に、下記のような配合で顔料分散体Cを作成した。この分散体は有機溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約1時間分散して作成した。
【0032】
・REGAL400R(キャボット社製 カーボンブラック)35.0部
・分散剤G−1 35.0部
・乳酸エチル 30.0部
【0033】
更に、下記のような配合で顔料分散体Dを作成した。この分散体は有機溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約1時間分散して作成した。
【0034】
・Hostaperm Red E5B02(クラリアント社製 キナクリドン顔料)30.0部
・分散剤G−2 30.0部
・乳酸エチル 40.0部
【0035】
更に、下記のような配合で顔料分散体Eを作成した。この分散体は有機溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約1時間分散して作成した。
【0036】
・LIONOL BLUE FG−7400G(東洋インキ製造社製 フタロシアニン顔料)35.0部
・分散剤G−3 35.0部
・乳酸ブチル 30.0部
【0037】
更に、下記のような配合で顔料分散体Fを作成した。この分散体は有機溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約1時間分散して作成した。
【0038】
・LIONOL BLUE FG−7400G(東洋インキ製造社製 フタロシアニン顔料)35.0部
・分散剤G−4 35.0部
・乳酸エチル 30.0部
BGAc:エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
DEDG:ジエチレングリコールジエチルエーテル
【0039】
(製造例1)
[バインダー樹脂(H−1)の製造]
反応容器に乳酸エチル 250部を入れ、容器に窒素ガスを注入しながら80℃に加熱して、同温度でメチルメタクリレート 100.0部、及び2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN) 3.5部の混合物を1時間かけて滴下することにより重合反応を行った。
滴下終了後、さらに80℃で3時間反応させた後、AIBN 1.0部を乳酸エチル50部に溶解させたものを添加し、さらに80℃で1時間反応を続けて、アクリル樹脂の溶液を得た。
乳酸エチルを添加して固形分20%に調整し、バインダー樹脂(H−1)溶液を得た。アクリル樹脂の重量平均分子量は、約25,000であった。
(製造例2〜6)
[バインダー樹脂(H−2)〜(H−6)の製造]
表3に記載した原料と仕込み量を用いた以外は製造例1と同様にして合成を行い、バインダー樹脂(H−2)〜(H−13)の溶液を得た。分子量は温度、重合開始剤の量を変えて表のような製造例のものを用意した。
【0040】
【表3】

【0041】
表3中の略称は以下に示すとおりである。
【0042】
MMA:メチルメタクリレート
BMA:ブチルメタクリレート
MAA:メタアクリル酸
ST :スチレン
表3のような樹脂を使用して、表4、5の配合で実施例1〜14、比較例1〜3のインキを作成した。
【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
表5中のバインダー樹脂、及び溶剤は以下に示すとおりである。
【0046】
DHX3/5:Nobel NC社製 ニトロセルロース樹脂
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
表4から明らかのように、アクリル樹脂と、塩基性分散剤の比率を本発明にて特定した化合物を使用する実施例1〜14のインク組成物は、延伸性、耐アルコール性、耐擦性、光沢(白化具合)、乾燥性、印字安定性、他基材への密着性、経時での色変化ともに全て優れている。これに対し表5の比較例1では、乳酸エステル系溶剤を含んでいない為乾燥性が劣り他基材への密着に劣る。比較例2では、バインダー樹脂の酸価が高く塗膜耐性、光沢に劣る。比較例3では、バインダー樹脂にニトロセルロースを使用しており延伸性、塗膜耐性、光沢、他基材への密着、経時での色変化に劣る。
評価方法について下記に示す。
【0047】
<延伸性>
実施例1〜14、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、バーコーターを用いて12μmにて表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに塗工し、長さ70mm、幅25mmの試験片を切削し、テンシロンを使用して、温度25℃、速度300mm/分の条件で、延伸率150%となるまで延伸した。試験片の延伸前後における印刷物の表面光沢を60℃光沢計にて測定し評価を実施。
◎:100%と150%での光沢の変化率が10%未満
○:100%と150%での光沢の変化率が20%未満
△:100%と150%での光沢の変化率が30%未満
×:100%と150%での光沢の変化率が30%以上
<耐アルコール性>
実施例1〜14、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、バーコーターを用いて12μmにて表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに塗工し、ラビングテスター(テスター産業製、型式AB301)にて耐アルコール性を評価。評価条件としては試験用布片(金巾3号)にてエタノール/水=70/30で希釈した液を1滴たらし加重200g、50往復で実施し、塗布面が全く剥ぎ取られなかったものを5、試験用布片に着色が見られたが、印刷面には目立った変化の見られないものを4、試験片が着色、印刷面にも若干の色落ちが見られるものを3、剥ぎ取られたが基材が見えたものを2、インキが剥ぎ取られ、基材が半分以上見えるものを1と評価した。
<耐擦性>
実施例1〜14、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、バーコーターを用いて12μmにて表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに塗工し、(テスター産業製、型式AB301)にて耐擦性を評価。評価条件としては試験用布片(金巾3号)にて加重1000g、50往復で実施し塗布面が全く剥ぎ取られなかったものを5、試験用布片に着色が見られたが、印刷面には目立った変化の見られないものを4、試験片が着色、印刷面にも若干の色落ちが見られるものを3、剥ぎ取られたが基材が見えたものを2、インキが剥ぎ取られ、基材が半分以上見えるものを1と評価した。
【0048】
<光沢(白化具合)>
実施例1〜14、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、バーコーターを用いて12μmにて表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに塗工し、白化具合を目視評価。評価条件としては、20人にて目視評価を実施し、平均値を記載。
4:白化は確認できず問題なし
3:やや白化しているように見受けられるが使用可能レベルである
2:白化している
1:白化しており、塗膜表面に粒状感がある
<乾燥性>
実施例1〜14、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、バーコーターを用いて12μmにて表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに塗工し、40℃で乾燥するまでの時間を計測した。具体的には、10秒毎に触手試験を行い、手にインキが付着しなくなる時間を計測した。
【0049】
<印字安定性>
実施例1〜14、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、50℃まで加温できるピエゾ素子を有するヘッドを搭載したインクジェットプリンターを用いて1時間の連続吐出を行い、このときの吐出つまりの数を評価。
◎:全ノズルに対し、吐出つまりなし
○:全ノズルに対し、0〜2%未満のノズルに吐出つまりが観察された。
△:全ノズルに対し、2〜5%未満のノズルに吐出つまりが観察された。
×:全ノズルに対し、5%以上のノズルに吐出つまりが観察された。
【0050】
<他基材への密着性>
実施例1〜14、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、バーコーターを用いて12μmにてガラス(♯0050:松浪硝子工業)、PET(ダイヤホイル:三菱樹脂)に塗工し、乾燥後、塗膜を1mm間隔で100マスにクロスカットした部分にセロハンテープを貼り付け、上面から消しゴムでこすり、セロハンテープの塗工面への密着を十分に行った後、セロハンテープを90°で剥離させたときの塗膜の基材への密着程度から判断した。
◎:膜が全く剥がれない。
○:膜が75%以上100%未満残る。
△:膜が75%未満残る。
×:膜が100%剥がれる。
【0051】
<経時での色変化>
実施例1〜14、比較例1〜3で得られたインキ組成物について、50℃6週間の経時促進を行い、経時前後のインキ組成物について、バーコーターを用いて12μmにて表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに塗工し、X-Rite社製 X-rite 528を使用し、視野角2°、光源C、計算方法ハンターにて経時前後のLabを測定し、△(デルタ)Eを算出した。
○:△Eが2未満
×:△Eが2以上
結果を表6、表7に示す。
【0052】
【表6】

【0053】
【表7】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂のうち少なくとも1つが酸価100mgKOH/g以下であるアクリル系バインダー樹脂、塩基性分散剤、顔料、および有機溶剤を含み、有機溶剤のうち少なくとも1つが乳酸エステル系溶剤であることを特徴とするインクジェットインキ。
【請求項2】
酸価100mgKOH/g以下であるアクリル系バインダー樹脂(A)と塩基性分散剤(B)の比率が下記の範囲であることを特徴とする請求項1記載のインクジェットインキ。
1.0≦A/B≦ 10.0 (重量比)
【請求項3】
アクリル系バインダー樹脂がメタクリル酸メチルエステル、メタクリル酸ブチルエステル、スチレンまたはα-メチル-スチレンを構成モノマー成分として少なくとも1つ以上含むことを特徴とする請求項1または2記載のインクジェットインキ。
【請求項4】
アクリル系バインダー樹脂のガラス転移点が50℃以上、かつ、重量平均分子量Mwが5、000以上、50,000以下であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載のインクジェットインキ。
【請求項5】
塩基性分散剤がポリエステル系塩基性分散剤、またはポリアクリル系塩基性分散剤であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載のインクジェットインキ。
【請求項6】
乳酸エステル系溶剤の沸点が100℃以上250℃以下であることを特徴とする請求項1ないし5記載いずれか記載のインクジェットインキ。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載のインクジェットインキを用いて印刷してなる印刷物。

【公開番号】特開2011−144288(P2011−144288A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7215(P2010−7215)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】