説明

インクジェットインク画像形成のための染料セット及びインクセット

本発明は、インクジェットインクセットを調合するための染料セット、及び特定のインクセットに関する。染料セットは、フタロシアニン染料を含むシアン着色剤と、銅又はニッケル発色団含有アゾ染料を含むマゼンタ着色剤と、Yellow 1189染料及びYellow 104染料の少なくとも1つを含むイエロー着色剤から構成することができる。任意に、Acid Blue 9のようなシアンアゾ染料、又は他の類似のシアン染料をフタロシアニン染料と混合することができ、ローダミン染料を銅又はニッケル発色団含有アゾ染料と混合することができ、及び/又はAcid Yellow 17又はAcid Yellow 23をYellow 1189又はYellow 104染料と混合することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット画像形成の分野に関する。より詳細には、本発明は、シアン、マゼンタ、及びイエローの染料セットに関する。
【背景技術】
【0002】
染料含有インクのカラー特性は、印刷されたインクジェット画像の品質に重要な役割を果たす。感知される色の品質は、当分野で周知のCIELAB又はMunsellのような、幾つかの色空間のどれか1つを用いて表すことができる。Munsell色空間に関しては、所与の色は、3つの語、即ち、色相、色値、及び彩度を用いて定義される。CIELAB色空間に関しては、色は、3つの語、L、a、及びbを用いて定義される。この系では、Lは、色の明度を定義し、0〜100(100は白色である)の範囲にある。さらに、術語a及びbは共に、色相を定義し、この場合、aは、負の数(グリーン)から正の数(レッド)の範囲にあり、そしてbは、負の数(ブルー)から正の数(イエロー)の範囲にある。当業者に周知のように、所与の色をさらに記述するのにh°(色相角)及びC(彩度)のようなその他の語も用いられる。良好な彩度、色域、色相角、及び明度を有する第一の色の単一のインクジェットインクは、その他の色と共に用いるには必ずしも最適でない。換言すれば、個別の色、即ち、シアン、マゼンタ、又はイエローが許容される色品質を有さねばならないだけではなく、それが用いられるインクセットもまた、インクジェットインクが許容されるように機能するかどうかに主要な役割を果たす。このように、幾つかのインクを一緒にしてインクセットに適切に混ぜることによって画像品質を改善することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、改善された特性を有し、且つ他の特性をさほど犠牲にすることなく或る特性が改善されたインク調合物を開発する研究が続けられている。加えて、最適化された染料セット及びインクセットをそれぞれ形成する染料及びインクの組合せも、研究の焦点である。ペンの性能及び信頼性を犠牲にすることなく、インクジェット印刷の画像品質、大気耐性、彩度、及び耐光性をさらに改善するためには、依然として多くの問題が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
良好な色域、耐光性、及び彩度を呈する染料セット及びインクジェットインクセットを開発することが有益であろうと考えられる。それ故、フタロシアニン染料を含むシアン着色剤と、銅又はニッケル含有アゾ染料を含むマゼンタ着色剤と、以下の構造式1を有するイエロー着色剤を含むイエロー着色剤とを含んで成る、インクジェットインクを調合するための染料セットを提供する。
【0005】
【化3】

【0006】
式中、Rは、H、SOM、COOM、又はSONHであり、
そしてRは、H、SOM、COOM、又はSONHであり、
そしてRは、H又はCHであり、そしてn及びmは、2、3、4、5又は6であり、
そしてMは、H、Na、Li、K、アンモニウム、アルキルで置換されたアンモニウム、又はそれらの組合せである。
【0007】
あるいはまた、インクジェット印刷用のインクセットは、2wt%〜10wt%のフタロシアニン染料と混合された第一インクビヒクルを含むシアンインクジェットインクと、0.8wt%〜8wt%の銅又はニッケル含有アゾ染料と混合された第二インクビヒクルを含むマゼンタインクジェットインクと、以下の構造式1を有する1.5wt%〜9wt%のイエロー着色剤と混合された第三インクビヒクルを含むイエローインクジェットインクとを含んで成る。
【0008】
【化4】

【0009】
式中、Rは、H、SOM、COOM、又はSONHであり、
そしてRは、H、SOM、COOM、又はSONHであり、
そしてRは、H又はCHであり、そしてn及びmは、2、3、4、5又は6であり、
そしてMは、H、Na、Li、K、アンモニウム、アルキルで置換されたアンモニウム、又はそれらの組合せである。
【0010】
本発明のその他の特徴及び利点は、例示目的で本発明の特徴を説明するところの詳細な説明から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を開示、記述するにあたり、本発明が、ここに開示するある程度変更し得るような特定の処理ステップ並びに材料に限定されないことを理解されたい。また、ここで用いられる用語は、特定の実施形態を専ら記述するだけの目的で用いていることも理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物によってのみ限定されるものである故、当該用語に限定の意はない。
【0012】
本明細書並びに添付の特許請求の範囲において用いられるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別途明確に指示のない限り、複数形の意味を包含するものと留意すべきである。
【0013】
本明細書では、濃度、量、及びその他の数値データを範囲形式で提示する場合がある。そのような範囲形式は、便利且つ簡潔なために用いるものであって、従って、範囲の限界として明記された数値を含むだけでなく、各数値及び副範囲があたかも明記されているかのようにその範囲内に包含される個別の数値又は副範囲を全て包含するものと柔軟に解釈すべきことを理解されたい。例を示せば、「約0.1wt%〜約5wt%」という濃度範囲は、約0.1wt%〜約5wt%という明記された濃度を含むだけではなくて、表示された範囲内の個別の濃度及び副範囲を包含するものと解釈すべきである。従って、この数値範囲には、1wt%、2wt%、3wt%、及び4wt%のような個別の濃度と、0.1wt%〜1.5wt%、1wt%〜3wt%、2wt%〜4wt%、3wt%〜5wt%、等のような副範囲が含まれる。この同じ原理は、1つの数値のみを挙げる範囲にも適用される。例えば、「約5wt%未満」として挙げられた範囲は、0wt%と5wt%の間の全ての値及び副範囲を含むものと解釈すべきである。さらに、そのような解釈は、範囲の幅や記述する特性に関係なく適用されるべきである。
【0014】
ここで用いるとき、「有効量」とは、所望の効果を達成するのに十分である、物質や薬剤の少なくとも最小量を指す。例えば、「インクビヒクル」の有効量は、効果的なインク噴射に必要な諸性質を維持しつつ、インク組成物を作るのに要求される少なくとも最小の量である。
【0015】
ここで用いるとき、「液体ビヒクル」又は「インクビヒクル」は、インクを形成するために着色剤をその中に入れる液体流体を指す。インクビヒクルは当分野において周知であり、様々なインクビヒクルを本発明のシステム及び方法に用いることができる。当該インクビヒクルは、界面活性剤、溶媒、共溶媒、緩衝剤、殺生物剤、金属イオン封止剤、粘度修正剤、表面活性剤、水等をはじめとする、様々な各種薬剤の混合物を含むことができる。
【0016】
他の用語と共に用いるとき、用語「実質的に」は、ほとんど乃至完全にを含むものとする。
【0017】
このことを明記して、本発明は、インクジェット画像形成の分野に関する。より詳細には、本発明は、インクジェット画像形成用のインクセットに関すると共に、インクジェットインクビヒクルと共に用いられる染料セットに関する。
【0018】
一実施形態では、インクジェットインクを調合するための染料セットは、フタロシアニン染料を含むシアン着色剤と、銅又はニッケル含有アゾ染料を含むマゼンタ着色剤と、式1の構造を有する染料を含むイエロー着色剤とを含むことができる。
【0019】
別の実施形態では、インクジェット印刷用のインクセットは、染料セットの各色がインクビヒクルに含まれるところの、上述の染料セットを含むことができる。例えば、2wt%〜10wt%のフタロシアニン染料と混合された第一インクビヒクルを含むシアンインクジェットインクを含むことができる。0.8wt%〜8wt%の銅又はニッケル含有アゾ染料と混合された第二インクビヒクルを含むマゼンタインクジェットインクを含むことができる。さらに、1.5wt%〜9wt%の式1と混合された第三インクビヒクルを含むイエローインクジェットインクを含むことができる。その他の染料や顔料もまた、個々のインクに含めることができる。さらに、このインクセットとは別個のペンに、ブラック、又は追加のマゼンタ、シアン、又はイエローインクを含むその他のインクを加えることもできる。例えば、4、5、又は6ペンのインクセットは、当分野において一般的であり、ここで説明するシアン−マゼンタ−イエローインクセットは当分野で既知のそのようなシステムに取り込むことができよう。
【0020】
インク又はインクセットに関していえば、染料は、インクビヒクル内に混合されるものと考えられる。染料セットは、インクビヒクルに含められるよう構成された染料の組合せである。従って、本発明の種々の具体的実施形態について議論するとき、そのような実施形態は、別途指示のない限り、染料セットとインクセットの両方に適用させることができる。上述の染料セット又はインクセットに種々の追加の染料を任意に含むことができる。例えば、染料セット又はインクセットのシアン着色剤は、フタロシアニン染料に対し1:2〜1:100の重量比でブレンドされた染料CI Acid Blue 9(AB9と略書)をさらに含むことができる。あるいはまた、又はこれに加えて、染料セット又はインクセットのマゼンタ着色剤は、銅又はニッケル含有アゾ染料に対し1:80〜125:4の重量比でブレンドされたローダミン染料をさらに含むことができる。さらに、染料セット又はインクセットのイエロー着色剤は、以下に示す式1の構造を有するイエロー染料とブレンドされたCI Acid Yellow 17(AY17と略記)及び/又はCI Acid Yellow 23(AY23と略記)をさらに含むことができる。
【0021】
【化5】

【0022】
上式1において、RはH、SOM、COOM、又はSONHであり、RはH、SOM、COOM、又はSONHであり、RはH又はCHであり、n及びmは2、3、4、5又は6であり、そしてMは、H、Na、Li、K、アンモニウム、アルキルで置換されたアンモニウム、又はそれらの組合せである。
【0023】
式1のイエロー染料の好ましい実施形態は、下に示す式2の構造を有する染料である。
【0024】
【化6】

【0025】
式2において、Mは、H、Na又はLiである。
【0026】
式1のイエロー染料の他の好ましい実施形態は、下に示す式3の構造を有する染料である。
【0027】
【化7】

【0028】
式3において、Mは、H、Na又はLiである。
【0029】
フタロシアニン染料又は染料群に関しては、任意の機能的フタロシアニン染料又は染料群を本発明の実施形態に従って用いることができ、そしてその幾つかを例示目的でここに提示する。単独で又は組合せて用いることのできる望ましいフタロシアニン染料群は、CI Direct Blue 199(DB199と略記)及び/又は下記式によるその他の染料を含む。
【0030】
【化8】

【0031】
式中、各R基は、個々独立して、H、又はSOH、SONH、又はSONH−アルキル−OHを含む(可水溶化基のような)官能基とし得る。「アルキル」が意味することは、1〜3の炭素原子を有する低級アルキルである。一実施形態では、平均して、染料上に1〜4のSOH官能基、染料上に0.25〜2のSONH官能基、及び染料上に0.25〜2のSONH−アルキル−OH官能基が存在し得る。より詳細な実施形態では、平均して、染料上に2〜3のSOH官能基、染料上に0.5〜1のSONH官能基、及び染料上に0.5〜1のSONH−アルキル−OH官能基が存在し得る。さらに詳細には、H以外では、平均して、約2〜6の全R基が存在し得る。一実施形態では、H以外では、平均して、約4の全R基が存在し得る。「平均」が意味することは、染料ロット又はバッチにおける所与の任意の官能基の総数が、記載の平均数値範囲内の値を与えるということである。例えば、0.5〜1という官能基の範囲は、染料バッチのうち、ある分子はその官能基がなく、そして他は1つ以上のその官能基を含み得ることを意味する。従って、或る染料バッチは0.5の平均値を有することができ、そして他の染料バッチは1の平均値を有することができ、両方のバッチは、記載の範囲内にあることになる。
【0032】
上述のように、染料セット又はインクセットのフタロシアニン染料は、単一のフタロシアニン染料であるか、又は一緒にブレンドされた少なくとも2つのフタロシアニン染料の組合せとし得る。さらに、機能的である当該染料の塩の形態は何れも式4に含まれる。
【0033】
銅又はニッケル含有アゾ染料に関しては、これらの基準を満たす機能的な任意の染料を用いることができる。例としては、CI Reactive Red 23、及びpacified形態のCI Reactive Red 23がある。そのようなpacified形態のReactive Red 23の一例には、以下の式5が含まれる。
【0034】
【化9】

【0035】
式中、各Mは、H、又はNa、Li、K、NHのような一価のイオン、及びそれらの組合せとし得る。代替例としては、ニッケル金属化ナフトールアゾトリアゾール染料、及び以下の式6による構造を有する染料が挙げられる。
【0036】
【化10】

【0037】
式中、各Mは、H、又はNa、Li、K、NHのような一価のイオン、及びそれらの組合せとし得る。上式に示した染料(群)は、特定の位置がSO(又はSOM)基で官能基化されているが、これは、専ら例として提示したものである。当業者であれば、その他の可溶化基又はその他の位置もまた同様に首尾よく官能基化し得ることが理解されよう。そのような修飾も本発明に包含される。上述のように、銅又はニッケル含有アゾ染料は、単一の銅又はニッケル含有アゾ染料であるか、又は一緒にブレンドされた少なくとも2つの銅又はニッケル含有のアゾ染料とし得る。
【0038】
マゼンタ染料又はインクに任意に用いることのできるローダミン染料に関しては、機能的な任意のローダミン染料を用いることができる。例としては、CI Acid Red 52、Acid Red 289、Acid Red 388、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0039】
染料セット及び/又はインクセットのイエローに関しては、用い得るイエロー染料は、3:10〜90:1の重量比の式2とAcid Yellow 17、3:10〜90:1の重量比の式2とAcid Yellow 23、3:10〜90:1の重量比の式3とAcid Yellow 17、又は3:10〜90:1の重量比の式3とAcid Yellow 23をはじめとする、幾つかの組合せの1つとし得る。あるいはまた、4つのイエロー染料のうちの3つ、又は4つのイエロー染料全てを単一の染料バッチとして、又は単一のインクジェットインク内に用いることもできる。
【0040】
ここに記載の染料を用いて調合し得るインクセットに関しては、シアンインクジェットインクは、さらに、第一インクビヒクルに混合された0.1wt%〜1wt%のAcid Blue 9を含むことができる。あるいはまた、又はそれに加えて、マゼンタインクジェットインクは、さらに、第二インクビヒクルに混合された0.1wt%〜2.5wt%のローダミン染料を含むことができる。さらに、イエローインクジェットインクは、第三インクビヒクルに混合された0.1wt%〜5wt%のAcid Yellow 17及び/又はAcid Yellow 23をさらに含むことができる。
【0041】
開示したインクジェット画像形成用のインクセットは、DESKJET(商標)及びヒューレット−パッカード社で製造されたその他の類似プリンタのような市販のインクジェットプリンタに用いることができる。これらのインクセットは、未被覆媒体、粘土被覆媒体、無機多孔質媒体、及びゼラチン被覆媒体を含む各種の媒体上において、それぞれ耐光性及び色域が改善された、真の色を生成することができる。
【0042】
本発明の代替実施形態では、インクセットの各色、即ち、シアン、イエロー、及びマゼンタは、2以上のインクに含ませることができ、その各々は、2以上の染料含量を有する。即ち、各インク色について充填された1つ又は複数のペンがあってよく、各ペンは、異なる染料含量、異なる染料、異なるビヒクル成分、異なるビヒクル成分量等を含む。例えば、それぞれが異なる染料含量及び/又は異なるマゼンタ染料を含む、2つのマゼンタペンを存在させることができる。
【0043】
ここに説明したインクジェットインクは、優れた色域、画像品質、耐光性、及び耐久性を有する画像を実現できるインクセットの一部として用いることができる。一実施形態では、インクジェット印刷用のインクセットは、シアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクからなる3インクのインクセットを含むことができる。任意選択的に、顔料又は染料系のブラックインクも含むことができる。またさらに、代替実施形態では、それぞれが機能的量の少ない染料含量、例えば、0.1wt%〜2.0wt%の染料含量を有する、第二シアンインク及び第二マゼンタインクを存在させ得る。
【0044】
上記実施形態は、単に、幾つかの実施例を説明するために提示するものである。当業者であれば、本発明の範囲内にある諸々の修正が理解されよう。
【0045】
本発明の染料セットと共に使用することのできる典型的なインクビヒクル調合物は、全部で5.0wt%〜50.0wt%存在する1つ又は複数の溶媒若しくは共溶媒と、0.01wt%〜10.0wt%存在する1つ又は複数の非イオン性、陽イオン性、及び/又は陰イオン性界面活性剤を含むことができる。当該調合物の残部は、純水であるか、又は、殺生物剤、粘度修正剤、pH調節用材料、金属イオン封鎖剤、防腐剤等のような、当分野で既知のその他のビヒクル成分とし得る。
【0046】
用い得る溶媒若しくは共溶媒の種類としては、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、ジオール、グリコールエーテル、ポリグリコールエーテル、カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、及び長鎖アルコールを挙げることができる。当該化合物の例には、第一脂肪族アルコール、第二脂肪族アルコール、1,2−アルコール、1,3−アルコール、1,5−アルコール、エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの高次の同族体、N−アルキルカプロラクタム、未置換カプロラクタム、置換及び未置換の両ホルムアミド、置換及び未置換の両アセトアミド等が含まれる。用い得る溶媒の具体例としては、トリメチロールプロパン、2−ピロリジノン、及び1,5−ペンタンジオールが挙げられる。
【0047】
インク調合の当業者には周知のように、多くの界面活性剤のうち1つ又は複数を用いることもでき、それらには、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェニルポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドブロック共重合体、アセチレンポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド(ジ)エステル、ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミド、ジメチコンコポリオール、置換アミンオキシド、等を用いることができる。本発明の調合物に添加される界面活性剤の量は、0.01wt%〜10.0wt%の範囲とし得る。
【0048】
本発明の調合物と共に他の種々の添加剤を用いて、特定の用途に使えるようにインク組成物の諸性質を最適化することができる。これらの添加剤の例は、有害微生物の成長を阻害するのに添加されるものである。これらの添加剤は、インク調合物に日常的に用いられるところの、殺生物剤、殺菌剤、及びその他の微生物剤とし得る。適切な微生物剤の例としては、限定はしないが、Nuosept(ヌデックス社(Nudex,Inc.))、Ucarcide(ユニオンカーバイド社(Union carbide Corp.))、Vancide(R.T.ヴァンダービルト社(R.T.Vanderbilt Co.))、Proxel(アイシーアイ アメリカ(ICI America)社)、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0049】
重金属不純物の有害な影響を排除するために、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)のような金属イオン封鎖剤を含有させることができ、インクのpHを制御するために緩衝剤溶液を用いることができる。例えば、0.001wt%〜2.0wt%にて用いることができる。インクの諸性質を望み通りに変性するために、当業者に周知のその他の添加剤同様、粘度調節剤及び緩衝剤を含有させることができる。そのような添加剤は、0.01wt%〜20wt%にて存在させ得る。
【0050】
実施例
以下の実施例において、現在最もよく知られている本発明の実施形態を説明する。ここで、以下は、本発明の原理の応用についての単なる例示又は説明に過ぎないことを理解されたい。当業者であれば、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多数の修正及び代替組成物、方法、並びにシステムを案出できる。添付の特許請求の範囲は、前述の修正並びに変更を網羅すべく意図されている。従って、特定のものに関して本発明をこれまで説明してきたが、以下の実施例は、本発明の最も実用的且つ好ましい実施形態であると現在思われるものに関しさらに詳述するものである。
【実施例1】
【0051】
インクジェットインクビヒクル
本発明の染料セットと共に良く機能する2つのインクジェットインクビヒクルを調合した。これらのインクビヒクルは、本発明の実施形態に従ってインクジェットインクを形成するのに用いることができる。しかし、これらのインクビヒクルは、使用し得る唯一のインクビヒクルではない。下の表1a及び表1bは、インクビヒクルの2つの許容例を示す。
【0052】
【表1a】

【0053】
【表1b】

【実施例2】
【0054】
シアンインクジェットインク
上の表1aに提示したインクビヒクルを用いて、9つのシアンインクジェットインクを調製した。調製したインクジェットインクを下の表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
*「式1(a)」染料と「式1(b)」染料との違いは、各染料がどのように官能基化されるかに関する。両方とも、全体としては、本明細書における式1で表される染料組成物内に含まれる。しかしながら、その上のSOH、SONH、又はSONH−アルキル−OH基に関する平均の官能基比が各染料で異なっている。
【実施例3】
【0057】
マゼンタインクジェットインク
表1bに示したインクビヒクルを用いて調製したインクM5を除き、上の表1で提示したインクビヒクルを用いて8つのマゼンタインクジェットインクを調製した。調製したインクジェットインクを下の表3に示す。
【0058】
【表3】

【実施例4】
【0059】
イエローインクジェットインク
上の表1aに提示したインクビヒクルを用いて、4つのイエローインクジェットインクを調製した。調製したインクジェットインクを下の表4に示す。
【0060】
【表4】

【実施例5】
【0061】
種々のインクセットの色域
インクの種々の組合せについて、色域に関し試験した。同試験は、HP Premium Plus Photo PaperとHP Premium High Gloss Film Photo Paperの両紙上で実施した。これらの結果を、HP970Cプリンタを用いて、HP C6578D印刷ヘッド中のヒューレット−パッカード社製のインクセットを用いて印刷された印刷物と比較した。色域値の評価には以下の手順を用いた。シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルー、及び複合ブラックのカラーブロックを、下の表5aに従って以下のインクフラックスにて印刷した。
【0062】
【表5a】

【0063】
インクフラックスは、1平方インチの1/600当りのピコリットルで測定した。CIELAB色座標は、記載の7カラーブロックと白紙のバックグラウンドについて測定した。L空間におけるこれらの8点上に構築された多面体の容積を評価した。それを下表5bに示す。
【0064】
【表5b】

【0065】
上の表5bに示すように、本発明の実施形態に従って調製した各種インクセットの色域を、HP970Cプリンタに付して販売されているヒューレット−パッカード社から市販のインクセットと比較したが、当該セットの幾つかはHP970Cプリンタで利用できるインクセットより大きな色域容積を有していた。
【実施例6】
【0066】
種々のインクセットの耐光性
“The Permanence and Care of Color Photographs”by Henry Wilhelm,Preservation Publishing Co.,Grinell,Iowaに記載されているWilhelmの手順を利用することによって、インクの種々の組合せについて、耐光性に関し試験した。光学濃度0.5のシアン、マゼンタ、イエロー、及び複合ブラックのタイルを、Atlas HPUV褪色試験機を用いて、70キロルクスの強度の白色蛍光光線に曝した。用紙のバックグラウンドについて補正するために、倍率1.5によるバックグラウンド補正を導入した。劣化に至るまでの時間は、12−時間日(hour day)当り450ルクス露光、即ち、1年当たり1971キロルックス−時間という仮定に基づいて推定した。インクセットの劣化に至るまでの時間を、9つの劣化基準(即ち、一次色、複合ブラック、及びカラーバランスの褪色)のうち、最短のものと定めた。
【0067】
当該試験は、HP Premium Plus写真紙(ガラスで保護されていないもの)及びHP Premium High Gloss Film写真紙(5mmのソーダ石灰ガラスで保護)の両紙上で実施した。これらの結果を、HP970CプリンタにおけるHP C6578D印刷ヘッド中のヒューレット−パッカード社製インクセットと比較し、下の表6に示した。
【0068】
【表6】

【0069】
上の表6に示すように、本発明の実施形態に従って調製した各種インクセットの耐光性は、HP C6578D印刷ヘッドに入れて販売されているヒューレット−パッカード社市販のインクセットと比較して優れていた。
【実施例7】
【0070】
種々のインクセットの大気耐性
大気中に含まれる微量汚染物質と接触すると、インクジェット印刷物が、経時的に褪色する傾向のあることはよく知られている。インクジェット印刷物の大気耐性は、画像が、HP Premium High Gloss Film紙のような、多孔質媒体上に印刷される際に特に問題となる。大気耐性を評価すべく、米国オレゴン州コーバリスの大気を、印刷したカラーパレット上に吹き付け、そして画像の褪色を(上述の耐光性の実験に用いたような)Wilhelmの劣化基準を用いて経時的に監視した。インクセットの劣化に至る時間(時間単位)を9つの劣化基準のうち、最初のアウトに達した際の時間単位の時間として推定した。サンプル全てを並べて試験した。空気流の増大による加速因子は何ら導入せず、従って、不合格に至る時間は、絶対測定値ではなく、相対的なものとみなされる。
【0071】
【表7】

【0072】
上の表7に示すように、本発明の実施形態に従って調製した各種インクセットの大気褪色耐性は、HP C6578D印刷ヘッドに入れて販売されているヒューレット−パッカード社市販のインクセットと比較して優れていた。
【0073】
特定の好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の趣旨から逸脱することなく、様々な修正、変更、省略、及び置換を成し得ることは当業者には明らかであろう。例えば、実施例1に使用するために特定のビヒクルを示したが、その他のビヒクルも用いることができる。加えて、代替用途用として本発明のインクセットにその他のインクを用いることができる。それ故、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットインクを調合するための染料セットであって、
(a)フタロシアニン染料を含むシアン着色剤と、
(b)銅又はニッケル発色団含有アゾ染料を含むマゼンタ着色剤と、
(c)Yellow 1189染料及びYellow 104染料の少なくとも1つを含むイエロー着色剤と、
を含んで成る、染料セット。
【請求項2】
前記シアン着色剤が、フタロシアニン染料に対し1:2〜1:100の重量比で混合されたシアンアゾ染料をさらに含む、請求項1に記載の染料セット。
【請求項3】
前記マゼンタ着色剤が、銅又はニッケル発色団含有アゾ染料に対し1:80〜125:4の重量比で混合されたローダミン染料をさらに含む、請求項1に記載の染料セット。
【請求項4】
前記イエロー着色剤が、前記Yellow 1189及びYellow 104の少なくとも1つに対し3:10〜90:1の重量比で混合されたAcid Yellow 17及びAcid Yellow 23の少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載の染料セット。
【請求項5】
前記フタロシアニン染料が、DB199又は下記構造を含む染料を含んで成り、
【化1】

式中、各R基は、2〜6個のR基がH以外であるという条件付で、個々独立して、H、SOH、SONH、又はSONH−アルキル−OHである、請求項1に記載の染料セット。
【請求項6】
前記銅又はニッケル発色団含有アゾ染料が、Pacified、Non−Pacified Reactive Red 23、ニッケル金属化ナフトールアゾトリアゾール染料、又は下記構造を含む染料を含み、
【化2】

式中、Mは、H又は一価イオンである、請求項1に記載の染料セット。
【請求項7】
前記ローダミン染料が、Acid Red 52、Acid Red 289、Acid Red 388、及びそれらの混合物から成る群から選択された成分を含む、請求項3に記載の染料セット。
【請求項8】
前記シアンアゾ染料が、Acid Blue 9である、請求項2に記載の染料セット。
【請求項9】
前記フタロシアニン染料が、一緒に混合された少なくとも2つのフタロシアニン染料である、請求項1に記載の染料セット。
【請求項10】
前記銅又はニッケル発色団含有アゾ染料が、一緒に混合された少なくとも2つの銅又はニッケル発色団含有アゾ染料である、請求項1に記載の染料セット。
【請求項11】
(a)2wt%〜10wt%のシアン着色剤が第一インクビヒクルに混ぜ合わされ、
(b)0.8wt%〜8wt%の銅又はニッケル発色団含有アゾ染料が第二インクビヒクルに混ぜ合わされ、そして
(c)Yellow 1189染料、Yellow 104、及びそれらの混合物からなる群から選択された1.5wt%〜9wt%の成分が、第三インクビヒクルに混ぜ合わされている、請求項1に記載の染料セット。

【公表番号】特表2006−528262(P2006−528262A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521130(P2006−521130)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/022805
【国際公開番号】WO2005/010110
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】