説明

インクジェットカートリッジ

【課題】一方の空間に吸収体が収納され、他方の空間にインクが収容された形式のインクジェットカートリッジにおける物流の際に、インクの密封された状態が維持されたインクジェットカートリッジを提供すること。
【解決手段】インクジェットカートリッジ301は、インクを収容するインクタンク部103と、収容されたインクが供給され吐出する記録ヘッド部104と、インクタンク部103と記録ヘッド部104との間を接続するインク供給路150とを有している。そして、インク供給路150におけるインクタンク部側には、インク供給路150を密閉するシール部材118が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクタンク部と記録ヘッド部とが一体に、あるいはそれぞれ結合されて一部材として形成されたインクジェットカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に用いられるインクタンクとしては、記録ヘッドが備えられているインクジェットカートリッジがある。このインクジェットカートリッジは、例えば図9に示されるように、インクを吐出する吐出口804を有する記録ヘッド部801と、記録ヘッド部801に供給するインクを収容するインクタンク部802とが一体に形成されているものである。インクタンク部802には、インクが浸透した吸収体803が収納されている。吸収体803は、スポンジ等によって形成されている。そして、記録ヘッド部801とインクタンク部802とが一体となってインクジェット記録装置側の保持体に対して着脱できるようになっている。
【0003】
このようなインクジェットカートリッジがカラー印刷による記録に対応した形式である場合、例えば3色以上に対応した3種類以上のインクが吐出されることが必要とされることがある。このとき、記録ヘッド部に形成される吐出口の位置及び配列としては、可能な限り少ない半導体基板にまとめられた方が、工程上、製造が容易となる。複数の色に対応した複数のノズル列同士の位置関係を高精度(ミクロン単位)に形成しようとした場合、一つの基板に各色ノズルを並べた方がノズル列同士の位置関係を保ったまま製造されるからである。従って、複数の色に対応したノズル列であっても、着弾の際に各色相互の色ズレが起こり難くなる。このような理由から、一つの半導体基板に複数の色を並べる方式が採用されている。
【0004】
しかしながら、インクタンクと記録ヘッドとが一部材として形成されながら一つの記録ヘッド部に対して複数のインクを共存させた場合、異なる色のインクの間で消費量が異なる場合がある。従って、他の色のインクが十分に残っていても、一つの色のインクがなくなってしまったことで全ての色のインクを収納したインクジェットカートリッジを交換することが必要となる。
【0005】
これに対して、インクジェットカートリッジの記録ヘッド部を各色ごとに分離させ、且つ、インクタンク部と記録ヘッド部とが一体に形成された形態のいわゆるインクジェットカートリッジも知られている。このインクジェットカートリッジのように色別に記録ヘッド部を構成すると、インクを各色最後まで使い切ることができるのでインクの使用効率が上昇する。また、廃インク量が少なくなるので、環境に与える影響が少なく済む。
【0006】
しかしながら、その反面、インクジェットカートリッジ全体の容積に対してインクを収容するための容積が占める割合である容積効率が低下してしまい、同じインク容量のインクジェットカートリッジに対して相対的にサイズが大きくなってしまう。インクジェットカートリッジにおけるインクタンク部のそれぞれにスポンジ等の吸収体が収納された方式では、発明者らの検討によれば、使用可能インク量はインクタンク部の容積の約50%である。
【0007】
また、この形式のインクジェットカートリッジにおいても、吸収体は、インクを保持すると共に、記録ヘッド部においてノズルに達するインクに適切な負圧を吸収体表面の凹凸での毛細管力によって発生させている。このように記録ヘッド部に負圧を発生させることで、記録時以外には記録ヘッド部からインクが漏れ出ないようにされている。記録ヘッド部における負圧を発生させる手段としては、この方式とは別に水頭差を利用するインクジェット記録装置の方式がある。しかし、この方式だと、インクタンクを吐出口が形成されている吐出口面よりも高い位置に配置する必要が生じることから、インクジェットカートリッジをこの構造としたままでキャリッジに装着することは難しい。また、インクタンク部から記録ヘッド部までのインク供給をチューブで行う必要が生じるので、構造が複雑になり、製造にかかるコストが高いものになってしまう。
【0008】
一方、記録ヘッドの内部に負圧を形成する方式としては、これらの方式とは別に機械的なレギュレター装置で負圧を発生させる手段がある。しかし、インクジェット記録装置に必要とされる負圧(−100Pa〜−3000Pa)を精度良く発生させ続けることは技術的に難易度が高く、かつ部品点数が増えることからコストが上がってしまう傾向にある。また、負圧を発生させるための部分が大きくなり、インクジェットカートリッジにおけるその部分の占有する体積が大きくなるので、インクを収容するためのインクタンク部の割合が少なくなってしまう。また、姿勢や環境が変化しても記録ヘッド部からインクの漏れないインク貯留部を別途準備する必要がある。
【0009】
さらに別の方式として、筐体内部の可撓性フィルムによって形成された袋にインクを収納し、インクの収容された袋の内部にバネを配置してバネによって袋の形状を保ちつつ袋の内部の圧力を調節する方式が用いられている。この方式のインクジェットカートリッジによれば、インクを貯留させると同時にインクの貯留部に負圧を発生させることが可能とされている。しかしながら、この方式のインクジェットカートリッジは、部品点数が多いことと、安定した負圧を発生させるために繊細かつ可撓性のある袋が必要とされることから製造コストがかかる。沈降系顔料インクを用いる機種や、その他の特殊な用途に適用される記録装置でないとコストに合わず、この方式のインクジェットカートリッジを採用するメリットが少ない。沈降系顔料インクが用いられる場合には、インクの顔料成分が底部に沈んでいくので、インクを攪拌するための機構が求められる。この方式のインクジェットカートリッジによれば、インク貯留部にインクを攪拌するだけのスペースが確保されるという利点がある。従って、沈降する顔料インクに対して、攪拌が行われてからインクの吐出が行われることが可能になる。
【0010】
これらの課題を解決する一つの手段として、一方の空間に吸収体が収納され、他方の空間にインクが収容され、それらの間を仕切り壁で区切ると共に、仕切り壁の一部に連通部が形成された方式のインクタンクがある。この形式のインクタンクは、いわゆる半生ディスポーザル形式と呼ばれている。このようなインクタンクの形式における使用可能インク量は、タンク容積の約70%以上に達し、比較的高い容積効率を有している。
【0011】
この方式における従来のインクタンクの一形態を図10に示す。吸収体室903には、インクを吸収して保持する吸収体907が収納されている。また、インクタンクの吸収体室903における記録ヘッドから遠い側の壁面の一部には、外気を取り入れる大気連通口905が形成されている。そして、その吸収体室903における記録ヘッドに近い側の部位には、記録ヘッドにインクを供給するための供給口906と、吸収体907より高い毛管力で吸収体907のインクを供給口906近くに導いて寄せ集める圧接部材908が配置されている。圧接部材908は、インクタンク部から記録ヘッドへと向かうインク流路に配置されたインク取り入れ用の毛管部品(例えば高密度フィルター)にインクを渡す機能を備えている。インクタンク900がキャリッジ上に載置されている状態においては、吸収体907や圧接部材908の毛管力によって負圧を発生させることが可能とされている。これにより、吐出口からインクが漏れることを防いでいる。
【0012】
このように一方の空間に吸収体が収納され、他方の空間にインクが収容された形式のインクタンク900では、安定したインク供給が可能であり、記録ヘッドの内部に負圧を形成するのに構造が簡単で部品点数が少なく済む。従って、インクタンクにおける製造コストが少なく済む。また、この方式には、インク貯留部901の容器を透明にし、その内部に例えば反射プリズム902といった光学的な手段を配置することでインクの有無あるいは残量を確認可能とすることができるというさらなる利点がある。
【0013】
しかし、この方式によるインクタンクは、発明者らによって検討され、多くのインクタンクに採用販売されてきたが、その構造及び性質から物流形態に注意を払う必要がある。
【0014】
この形式のインクタンク900は、出荷の際には、工場等でインク貯留部901及び吸収体室903にインクが満たされた状態で出荷される。しかしながら、工場を出荷されてからユーザーの手に渡るまでの物流の状態の際には、搬送によって生じる振動や保管時の気圧温度変化によって、インクタンク中のインクが不安定な状態に晒され、インクが外に漏れる可能性がある。
【0015】
特に、吸収体室903からインク貯留部901への空気の流通が、例えばインク凍結と解凍の繰り返しによるインクの体積の変動で発生する。このときのインクの流れる方向は一方的で、流れが生じたときは吸収体室903からインク貯留部901へ流れる。そして、インク貯留部901が空気で置換され、その代わりにインクが吸収体室903に流入する。吸収体室903でのインクが過剰になると、ついには吸収体907がインクに完全に浸されることになる。吸収体907がインクに浸されると、毛管力が消失されてしまう。その際に、記録ヘッド部の吐出口を含むインクタンクを密封しておかないと、インクが外へ漏れる虞が生じる。
【0016】
一方の空間に吸収体が収納され、他方の空間にインクが収容された形式のインクタンクの物流時においては、このような不具合を防止するために、インクが外部に漏れないように厳密に密封されることが求められる。図10に示されるように、大気連通口905がシール909で塞がれ、供給口906にはエラストマー911を内面に配置したキャップ910が装着されている。
【0017】
このように、記録ヘッド部における吐出口からのインクの漏れを防ぐための手段として、例えば特許文献1に開示されているものがある。特許文献1では、樹脂または金属材料によって形成された例えば球体の弁体を、バネによって付勢しながらインクタンク部と記録ヘッド部との間のインク流路に配置し、弁体が摺動することでインクの流通を調節しているバルブが開示されている。しかしながら、このバルブの開閉動作方向は、インクの流れる方向に対して平行であるので、密封されている流路内では簡単な構造と簡単な操作でバルブを確実に開閉させることに困難性がある。
【0018】
また、前述したように、物流時にはインクタンクの周囲の環境が大きく変わる可能性がある。従って、インクタンク部の内部の圧力も周囲の環境によって大きく変わる可能性がある。また、インクタンクの周囲の空気が、長期間物流状態に晒されている間にインクタンクの壁面を透過してインクタンク部の内部に入り込むこともある。これにより、インクタンク部の内部の圧力が高くなり、インクタンク部の内部が密閉されていると、インクタンク部の内圧によってシールを剥がしてしまう虞がある。
【0019】
これに関して、大気連通口に疎水膜を配置し、大気連通口を介して気体の透過は許容するが、液体の流通は許容しないインクジェットカートリッジが特許文献2に開示されている。大気連通口を介して気体の透過を許容するので、インクタンク部の圧力に応じて内部の空気を排出することができ、内部の圧力を調整することができるとされている。しかしながら、このような疎水膜としての機能を保つためにはインクに対する撥水性が必要とされる。ところが、長期間に亘る物流の期間中に疎水膜がインクやインクの蒸発した蒸気に晒され続けることでこの撥水性が劣化することが認められている。インクジェットカートリッジの物流期間としては、数年以上が経過することも考えられるので、この疎水膜に関して、撥水性が物流期間を耐え得るのかを十分に確認してからでないと採用できないという問題がある。
【0020】
【特許文献1】特開平5-254138号公報
【特許文献2】特開平8-118676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ところで、一方の空間に吸収体が形成され、他方の空間にインクが収容された形式のインクタンクにおいて、インクタンク部と記録ヘッド部とが一体に形成されるインクジェットカートリッジの形式が考えられる。この形式のインクジェットカートリッジでは、スポンジによって形成された吸収体等によって、簡単な構造で負圧が形成される。このような形式のインクジェットカートリッジが用いられた場合、物流の際には、不安定な環境によって生じるインクの漏れを防ぐために、記録ヘッド部の吐出口を覆うようにシールテープが貼付されることが考えられる。
【0022】
しかしながら、インクタンク部と記録ヘッド部とが一部材として形成されているような形式では、接着力の高いシールテープは採用できない。すなわち、この形式のインクジェット記録装置においては、一般に、インクジェットカートリッジにおける記録ヘッド部の吐出口径は、非常に小さく形成されている。物流の際の吐出口からのインクの漏れを防ぐようなシールテープを貼付しようとすれば、そのシールテープは長期間の物流の期間のインクタンク部の内圧の変化に対応できるような接着力が求められる。従って、シールテープの貼付される面には、十分な量の糊剤が塗布されることが求められる。しかし、シールテープが吐出口を覆うように貼付された場合、シールテープの貼付面に塗布されている糊材が吐出口の内部に入り込み、そのまま吐出口内部に残ることが考えられる。
【0023】
また、一般に、記録ヘッド部における吐出口周辺の部位は、高い強度が確保されているわけではない。従って、そのような強力な接着力を有するシールテープが吐出口周辺に貼付された場合、使用する段階でシールテープを剥ぐ際に記録ヘッド部の吐出口周辺を変形させる虞が生じる。従って、記録ヘッド部の吐出口周辺にシールテープを貼付する場合、接着力は高くすることができず、あえて接着力を弱く設定している。このように、記録ヘッド部の吐出口を覆うようにシールテープを貼付することによって吐出口からのインクの漏れを防ぎ、密封構造を形成することは難しい。
【0024】
また、このことから、吐出口周辺を覆うように貼付されるシールテープはあまり強い接着力によって貼付されるわけではないので、インクタンク部の内部の圧力が高くなると、物流中にシールテープが剥がれてしまい、インクの漏れが生じる虞がある。このように、シールテープの接着力が高いわけではないので、インクタンク部と記録ヘッド部とが一部材として形成されているような形式のインクジェットカートリッジは、物流の際の不安定な環境に耐えられずに、インクの漏れが生じる虞があった。
【0025】
そこで、本発明の目的は上記の事情に鑑み、吸収体の収納部とインクの収容部とを有する形式のインクタンク部と、記録ヘッド部とを一体としたインクジェットカートリッジの物流の際に、インク漏れのないインクジェットカートリッジを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明のインクジェットカートリッジによれば、インクを収容するインクタンク部と、前記インクタンク部に収容されたインクが供給され、該供給されたインクを吐出する記録ヘッド部と、前記インクタンク部と前記記録ヘッド部のそれぞれに設けられ、前記インクタンク部と前記記録ヘッド部とを接続して当該インクタンク部から記録ヘッド部へインクを供給するためのそれぞれのインク供給路部材とを有するインクジェットカートリッジにおいて、前記インクタンク部側のインク供給路部材と前記記録ヘッド部側のインク供給路部材との間にシール部材が挟まれるように配置されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、不安定な環境に晒される物流の際に、インクジェットカートリッジにおいてインクの密封された状態が維持されるので、物流の際に、インクジェットカートリッジ内に収容されているインクが外部に漏れることを抑えることができる。従って、インクジェットカートリッジの開封の際や使用の際に、インクがインクジェットカートリッジの周囲に付着することが抑えられる。これにより、ユーザーへのインクの付着を防ぐことができ、インクジェット記録装置が快適に取り扱われることになる。また、インクが記録ヘッド部の周囲に付着することで、インクの着弾精度の低下を招くことを抑えることができ、高い着弾精度によってインクが吐出される。従って、記録によって得られる画像の品質が高く保たれる。また、長期間記録ヘッド部にインクが付着することにより記録ヘッド部が腐食することを防ぐことができる。従って、インクジェットカートリッジの耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(第一実施形態)
以下、本発明を実施するための第一実施形態を添付図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本発明の第一実施形態で適用されるインクタンクと記録ヘッド部とが一部材として形成されたインクジェットカートリッジにおける動作状態の断面図である。図1に示されるインクジェットカートリッジは、動作状態にあるときの図なので、後述する記録ヘッド部、インク供給口、大気連通口を塞ぐためのシール部材は既に剥がされており、ここでは貼付されていない。
【0030】
図1に示されるインクジェットカートリッジ101は、インクタンク部103と、記録ヘッド部104とを有している。本実施形態では、インクタンク部103及び記録ヘッド部104は、それぞれが製造された後にお互いが結合されている。なお、インクタンク部103及び記録ヘッド部104は、一体に形成されていても良い。これらが一体に、あるいは結合されて、一部材のインクジェットカートリッジ101として形成されていれば良い。このとき、インクタンク部103及び記録ヘッド部104が後で結合されて組み立てられる場合は、物流時にはそれぞれが結合されて組み立てられていることとする。インクタンク部103は、インクを貯留しつつ記録ヘッド部104へインクを供給している。記録ヘッド部104には、吐出口102がその先端の記録媒体に対向する位置に形成されている。そして、インクジェットカートリッジ101は、インクタンク部103と記録ヘッド部104との間に、インクタンク部103に収容されているインクを記録ヘッド部104へ供給するインク供給路150を有している。また、インクジェットカートリッジ101には、外部より吐出口102からインクを吐出するための電気エネルギーと電気信号を伝達する配線105が取り付けられている。
【0031】
インクタンク部103は、インクによって浸された吸収体106を保持している吸収体室107と、吸収体室107にインクを補充するためのインク貯留部108とを有している。吸収体106は表面に多数の孔を有しており、その孔によって発生する毛管力によって形成された負圧により吐出口102でのメニスカスが安定して形成されている。
【0032】
インクタンク部103におけるインク貯留部108は、インク流通路109で吸収体室107と連通している。本実施形態では、インク貯留部108には、インク流通路109で吸収体室107と連通している以外は、他の空間と連通している通路はない。吸収体室107の記録ヘッド部104に近接した位置には、吸収体室107から記録ヘッド部104へインクを供給するインク供給口110が形成されている。また、インク流路におけるインク吸収体106の下流の部位には、吸収体106よりも高い毛管力を持った圧接部材111が、インクの吐出方向と同方向にのみ動くように規制されながら配置されている。吸収体室107の、インク供給口110とは逆側の位置には、インクジェットカートリッジ101の外部と連通した大気連通口112が形成されている。
【0033】
圧接部材111は、弾性作用を持つ吸収体106に対して圧接されており、これにより、吸収体106よりも大きな毛管力が発生され、さらなる負圧が形成されている。圧接部材111は、水平方向には動きを規制されているが、インクの吐出方向と同方向に対しては移動可能とされており、吸収体106により押されてインクタンク部103の外側への力が働いている。
【0034】
記録ヘッド部104は、インクジェットチップ114を有している。インクジェットチップ114は、半導体基板によって形成され、フォトリソ技術により形成された微細な吐出口102と、その吐出口102にインクを供給するためのインク流路が形成されている。吐出口102は、インクタンク部103から供給されたインクを、吐出可能なように開口されている。また、各々の吐出口102に対応した位置には、複数の微細な電気熱抵抗体としてのヒータが配列されている。ヒータは、インクジェットチップ114に配置され、電気エネルギーを熱エネルギーに変換し、インクに熱エネルギーを与えて液滴として吐出させている。そして、そのヒータに電気エネルギーを供給するために、インクジェット記録装置本体のキャリッジに配置された電極に対応した位置に、電極パッド115が配置されている。また、インクジェット記録装置本体側のキャリッジからインクジェットカートリッジ101側の電極パッド115に供給された電気をインクジェットチップ114のヒータに伝達するために、電極パッド115とヒータとの間には配線105が配置されている。インクジェットチップ114における半導体基板の一部には、インクを流通させる穴が形成され、その穴を介してインクタンク部103からインクジェットチップ114へインクが供給されている。
【0035】
また、インク貯留部108には、光学的な手段によってインクの有無あるいは残量を表示するための反射プリズム113が配置されている。インクタンク部103は、ポリプロピレンに代表される透明樹脂によって形成されている。インクの屈折率は、空気の屈折率に比較して透明樹脂の有する屈折率に遥かに近い。反射プリズム113をインク貯留部108内面に形成した場合、インクの有無を反射プリズム113による光反射の有無によって判断できる。これは、一枚の記録媒体に対する記録の途中でインク切れにより記録できない状態になってしまうと、途中までの記録に費やした記録媒体とその記録に要した時間が無駄になってしまい、このような不都合を避けるために設けられているものである。
【0036】
本実施形態のインクジェットカートリッジは、インクタンク部において、インクを収容するインク貯留部108と吸収体106を収納する吸収体室107とが別々に形成されている。従って、比較的内部のスペースに余裕があるインク貯留部108に、インクの有無、残量を検知するための反射プリズム113を配置することが可能となる。
【0037】
そして、吸収体室107内部の吸収体106の有しているインクが吐出口102へのインク供給によって消費されると、吸収体室107上部に配置された大気連通口112から取り入れた空気を、インク流通路109を通じてインク貯留部108へ供給している。こうすることで、インク貯留部108内部のインクと大気連通口より取り入れた空気とを置換し、吸収体室107へインクを補充している。このようにして、吸収体室107にはインク貯留部108内部のインクがなくなるまでインクが供給され続ける。インク貯留部108から吸収体室107へのインクの補充がされなくなるとインクがなくなってしまったこととなり、これと同時に、吸収体106によって形成される負圧が上昇し、また、インクの流抵抗が増大する。これにより、吐出口102へのインクの供給が困難になり、ついには記録ができなくなってしまう。このような状態とならないように、インク貯留部108に反射プリズムを配置することは有効である。
【0038】
ここで、前述したようにインクタンク部103のインク供給口110にある圧接部材111は、吸収体106に対して押し付けられていることから、吸収体106の反発力によってインクタンク部103より外向きに出ようとする力が働いている。その結果、記録ヘッド部104のインク流入口116の方向へ押し付けられる力を受けながら圧接されている。
【0039】
図2には、インクジェットカートリッジ101が、キャリッジ201に取り付けられようとしている状態が示されている。また、図3には、インクジェットカートリッジ101が、キャリッジ201に取り付けられ、インクジェットカートリッジが使用可能とされた状態が示されている。インクジェットカートリッジ101が用いられる際には、図2、図3に示されるように、インクジェット記録装置本体側にあるキャリッジ201に対して着脱可能に装着されて配置される。装着された後のインクジェットカートリッジ101は、電極パッド115がキャリッジ側の電極ピン202に対応した位置に配置されて接触することにより、これらの間が電気的に接続されることになる。
【0040】
上述したようなインクジェットヘッドカートリッジ101を含むインクジェット記録装置は、一般に向けて発売されることが多く、ユーザーは世界各地に存在することが想定される。従って、工場から出荷された後は、あらゆる物流環境を想定することが望ましい。そして、メーカーは、ユーザーの手に届くまで品質を保証することが求められている。従って、インクジェット記録装置の物流の際における包装及び梱包において、工夫することが求められている。
【0041】
本発明は、この物流の際のインクタンク部103に貯留されているインクを密封する構造に特徴を有しており、以下、これについて説明する。
【0042】
図4には、本発明の第一実施形態におけるインクジェットカートリッジが示されており、物流の際の形態におけるインクジェットカートリッジ301の断面図を示す。インク供給口110の周辺の部位に対してシール部材118が接着され、本実施形態では熱溶着によって接着される。シール部材118は、インクタンク部側のインク供給路150における記録ヘッド部側を密閉している。これにより、インク供給路150における圧接部材111とフィルター117との間にシール部材118が介在することになり、圧接部材111とフィルター117とが接触しないようになっている。
【0043】
ここで、インクタンク部側のインク供給路150の記録ヘッド部側とは、シール部材118によって分断されたインク供給路150のうち、インクタンク部103から延びた側のインク供給路150の記録ヘッド部側のことである。従って、本実施形態では、インクタンク部103から延びたインク供給路150の記録ヘッド部側の端部がシール部材118によって覆われることで密閉されている。
【0044】
また、記録ヘッド部側のインク供給路150のインクタンク部側は、シール部材118により覆われることで密閉されている。ここで、記録ヘッド部側のインク供給路150のインクタンク部側とは、シール部材118によって分断されたインク供給路150のうち、記録ヘッド部104の方へ延びた側のインク供給路150のインクタンク部側の位置のことである。
【0045】
記録ヘッド部104内部のインク供給路150には、インクの漏れや空気の混入なく接続させる構造として、圧接部材111よりもインクに対する高い毛管力を有する高密度のフィルター117がインク流入口116末端に配置されている。このように、インクジェットカートリッジ101では、その動作状態において、インクタンク部103のインク貯留部108から記録ヘッド部104の吐出口102までのインクの流路が形成されている。ここで、圧接部材111あるいはフィルター117等、インクタンク部103に収容されているインクを記録ヘッド部104に供給するための部材をインク供給路部材130とする。
【0046】
インクジェットカートリッジ101は、インクタンク部103と記録ヘッド部104のそれぞれに設けられ、インクタンク部103と記録ヘッド部104とを接続するインク供給路部材130を有している。すなわち、インクジェットカートリッジ101は、インクタンク部103から記録ヘッド部104へインクを供給するために、記録ヘッド部側及びインクタンク部側のそれぞれのインク供給路部材130を有している。
【0047】
シール部材118は、インクタンク部側のインク供給路部材130と記録ヘッド部側のインク供給路部材130との間に挟まれるように配置されている。つまり、圧接部材111とフィルター117との間に挟まれるように配置されている。
【0048】
シール部材118には、シール折り返し部119が形成され、U字状に折り返されたシール部材118における一方の一端がシールゲート125によって挟まれつつ、インクジェットカートリッジ(物流時)301の外部に至っている。そして、外部に突出したシール部材118の一端部には、ユーザーの手で摘むことが可能な長さでシールタブ120が形成されている。折り返されたシール部材118における他方の一端は、シールゲート125の内側にとどまっている。シールゲート125は、シール部材118がインクジェットカートリッジ301の外部に突出することが可能で、且つ、インクの蒸発を少なく抑えるために、シール部材118がようやく通ることができる程度の狭い開口になっている。シール部材118は、インク供給口110の周辺部位に溶着され、シールゲート部で上下に挟まれることで、インクジェットカートリッジ301に安定して取り付けられている。本実施形態では、シール部材118は、圧接部材111が吸収体106の内部に押し込まれた状態でインクタンク部103の壁面に貼付されている。従って、シール部材118が、インク供給口110の周辺部位におけるインクタンク部103の壁面を形成する面と略同一の面として存在することが可能になるので、この面にシール部材118を強固に接着することで貼付することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、シール部材118は、圧接部材111を吸収体106の内部に押し込んだままインクタンク部103の壁面に溶着されることで、シール部材118が壁面に対して溶着するためのスペースを確保している。しかしながら、シール部材118の配置については、本実施形態のようにインクタンク部103の壁面に溶着されて配置される形態に限定されない。
【0050】
シール部材118は、記録ヘッド側あるいはインクタンク部側のインク供給路部材130の少なくとも一方がシール部材を挟んでインクタンク部側または記録ヘッド部側に押し込まれた状態で配置されても良い。その際、フィルター117が記録ヘッド部側に押し込まれた状態でシール部材118が挟み込まれて固定されても良い。本実施形態では、シール部材118は、インクタンク部側のインク供給路部材130がインクタンク部側に押し込まれた状態でインクタンク部103の壁面に溶着され、インクタンク部側のインク供給路部材130を覆うように配置されている。これにより、シール部材118とインクタンク部103の壁面とを接着するための面積を稼いでいる。
【0051】
シール部材118の材料は、インクタンク部103と同じか、あるいは、似た樹脂によって形成されており、相溶性によって、シール部材118がインクタンク部103に対して熱溶着可能とされている。シール部材118の材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル等が適用される。
【0052】
また、インクタンク部103の大気連通口112にも、使用時に取外すことが可能な大気連通口シール121が溶着されている。
【0053】
本実施形態では、シール部材118は、インクタンク部側のインク供給路部材を覆うと共に、記録ヘッド部側のインク供給路部材のインクタンク部側を覆うように配置されている。すなわち、シール部材118は、圧接部材111を覆うと共にフィルター117を覆っている。そして、記録ヘッド部104の吐出口102が形成された面には、吐出口102を覆うように吐出口用シール部材122が貼付されて配置されている。インクジェットカートリッジ301のインク供給路150、記録ヘッド部104の内部を含み、シール部材118及び吐出口用シール部材122によって一部が画成された空間には、物流用液体が充填されている。これにより、物流時に記録ヘッド部104の内部及び吐出口102が物流用液体によって満たされた状態が維持されることになる。
【0054】
記録ヘッド部104の内部は、使用される際には常時インク等の液体に晒され続けるので、その表面は、インク等の液体に対しては耐食性及び耐久性を有する材料によって形成される。しかしながら、記録ヘッド部104の内部は、長期間乾燥状態に晒されることは想定されていない。従って、記録ヘッド部104の内部が乾燥した状態が続くと、記録ヘッド部104を形成する材料によっては、それによって記録ヘッド部104の変形等の不都合が生じることが考えられる。従って、そのような不都合が起こらないように、記録ヘッド部を形成する材料が乾燥に対して耐食性あるいは耐久性を有していない可能性があるのであれば、記録ヘッド部104の内部に物流用液体が貯留されることとする。本実施形態では、記録ヘッド部104の内部に物流用液体が貯留されるので、物流の際にも記録ヘッド部104の内部が常時液体によって晒された状態が続くようにされる。これにより、物流時に、記録ヘッド部104の内部が長期間乾燥に晒されることにより記録ヘッド部104に不都合が生じることが抑えられる。
【0055】
物流用液体が蒸発することによる不揮発性成分や不純物が吐出口102の近傍に固着することを防ぎ、また、記録ヘッド部104の内部に空気が入り込むことを防ぐために、吐出口用シール部材122が吐出口102を覆うように貼付される。このときの吐出口用シール122による接着力は、インクタンク部103内部の圧力変化に対応させる必要はないので、インク供給路150をシール部材118によって密閉するような強力な接着力によって接着しなくても良い。従って、吐出口用シール部材122の貼付面に塗布された糊材が、吐出口102の内部に残留しないような分量の糊材によって接着が行われる。これにより、吐出口102の内部に糊材が残留することで、吐出口102の目づまりを引き起こすことを抑えることができ、また、それによってインクの着弾精度が低下することを抑えることができる。そして、物流用液体の蒸発をより確実に防ぐために、シール部材108が拡大されても良く、インクジェットカートリッジの全体を覆うようにシール部材108が形成されても良い。物流用液体としては、例えば透明インクが充填される。
【0056】
以上のように、本実施形態のインクジェットカートリッジ301では、シール部材118によってインク供給路150におけるインクタンク部側を密閉するので、シール部材118によって強固に密閉したとしても、糊材がインクの吐出に影響を与えない。従って、シール部材118によってインクタンク部103の密閉を行っても、インクの着弾精度を低下させずに済む。また、本実施形態のインクジェットカートリッジを用いると、糊材の量の制限を受けずにシール部材がインクタンク部103に強固に接着されるので、物流中の振動、温度変化や気圧変動によるインクタンク部103内部の圧力変動に耐えることができる。これにより、物流の際に、シール部材118に剥離が生じることが抑えられ、インクジェットカートリッジからのインクの漏れを抑えることができる。また、インクタンク部の密閉された状態が長く維持されるので、インクタンク部103内部に貯留されたインクの蒸発を抑えることができ、これにより生じるインク使用量の減少やインクの増粘を抑えることができる。従って、本実施形態のインクジェットカートリッジを購入したユーザーが包装を開封した際に、ユーザーに対して、工場から出荷した直後の品質が維持された製品が供給できる。
【0057】
本実施形態のインクジェットカートリッジを使用する際には、先ず、大気連通口シール121を剥がす。次いで、タンクシールタブ120をひき抜き、シール部材118がインクジェットカートリッジ301から取り去られる。これにより、圧接部材111を支持するものがなくなることになるので、圧接部材111が吸収体106からの応力を受けて押し出されることでスライドし、インク流入口116のフィルター117と接触する。また、大気連通口シール121が剥がされてからシール部材118が剥がされるので、大気連通口112が連通してインクタンク部103内部の圧力が大気圧と釣り合った状態となってからシール部材118が剥がされることになる。従って、一旦インクタンク部103内部の圧力が下げられてから記録ヘッド部104がインクタンク部103と連通することになる。これにより、物流時にインクタンク部103内部の圧力が高くなり、そのまま圧力が高い状態でインクタンク部103内部のインクが記録ヘッド部104に導入されることで、記録ヘッド部104の吐出口102からインクが漏れることを抑えることができる。シールを剥がす順序については、インクジェットカートリッジに表示することでユーザーに注意を促しても良いし、マニュアルに記載することでユーザーに説明することとしても良い。また、別の方法によってユーザーに知らせることとしても良い。
【0058】
このとき、圧接部材118が吸収体106から押圧されていることから、圧接部材118とフィルター117とは圧接することになる。これにより、吸収体106によって形成される負圧を保ちながら、圧接部材118及びフィルター117がインクを記録ヘッド部104へ導き、吐出口102へのインクの供給が可能となる。この状態で、吐出口用シール部材122を剥がすことでインクの吐出が可能となる。
【0059】
なお、インクタンク部103が密閉された状態を保つためには、インク供給路150を密閉するシール部材118及び大気連通口112を密閉する大気連通口シール121の両方が、より強い接着力によって貼付されて密閉する方が望ましい。前述のように、本実施形態では、これまで制限を受けていたシール部材118による密閉を、インク供給路150で行うことで接着力を向上させることを可能にした。そして、接着力が向上されるので、インクタンク部103の内部の圧力の変化にかかわらず接着状態が維持され、これにより、物流時にもインクタンク部103内の密閉状態が維持される。ここで、シール部材118の接着力が高められても大気連通口シール121による接着力が変わらないのであれば、インクタンク部103内部の圧力の上昇によって大気連通口シール121が剥がされる可能性があり、そこからインクが漏れる虞が生じる。従って、シール部材118の接着力が高められるのであれば、それに応じて大気連通口シール121の接着力も高められることが望ましい。
【0060】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態におけるインクジェットカートリッジの物流形態について説明する。なお、上記第一実施形態と同様に構成できる部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0061】
図5には、本発明の第二実施形態におけるインクジェットカートリッジの物流形態401が示されている。第二実施形態でのシール部材126では、シール折り返し部119が形成され、そこでシール部材126がU字状に折り返されると共に、シール部材126が、インクタンク部103のインク供給口110の周囲に熱溶着されている。シール折り返し部119で折り返されたシール部材126がシールゲート部125に到達すると、そのうち一方がそこでシール部材126の延びる方向に対して同一面内の直交する方向(図面における紙面の表裏方向)に延びる。本実施形態では、折り返されて重ねられたシール部材126のうち、記録ヘッド部側に配置された方のシール部材が、シールゲート部125からシール部材126の延びる方向に対して同一面内の直交する方向に延びている。そして、そこからインクジェットカートリッジ401の側面に沿うように延び、大気連通口112を覆うように密閉する大気連通口シール121と一体になっている。また、大気連通口シール121の一端部には、ユーザーがインクジェットカートリッジ401を使用する際に大気連通口シール121を剥がすときに摘むためのタブ151が形成されている。
【0062】
本実施形態のシール部材126を用いれば、第一実施形態で説明した効果に加え、ユーザーが複数種類のシールを剥ぐ手間が省くことができる。大気連通口シール121とシール部材126とは、一体に形成されているので、大気連通口シール121を剥げば、自然にシール部材126が剥がされることになるからである。
【0063】
また、タブ151が大気連通口シール121側に形成されているので、シール部材126を剥がす際には、必ず大気連通口シール121が先に剥がされ、次いでシール部材126が剥がされることになる。第一実施形態においては、まず、大気連通口シールが剥がされ、次いでシール部材が剥がされることを、インクジェットカートリッジへの表記あるいはマニュアル等に記載することでユーザーに知らせることとした。しかしながら、本実施形態においては、タブ151を摘んで大気連通口シール121及びシール部材126が一体となったシールを剥がすという工程を行えば、自然にこの順序通りにシールが剥がされることになる。従って、シールを剥がす順序についてユーザーに対して説明しなくても通常通りにシールが剥がされれば所定の順序通りにシールが剥がされるので、ユーザーが順序について意識する必要がなく、取り扱いが容易となる。なお、本実施形態においても、シールを剥がす順序について、インクジェットカートリッジへの表記あるいはマニュアル等に記載することでユーザーに対して知らせることとしても良い。
【0064】
また、シール製品の部品点数が少なくなるので、これらを剥いだ後にゴミとなったシール部材が一つにまとまって散らばらずに済む。
【0065】
また、本実施形態では、折り返されて重ねられたシール部材126のうち、記録ヘッド部側に配置された方のシール部材が大気連通口シール121と一体になっているので、シール部材126が剥がされる際には、溶着されていない部分が先に引っ張られる。従って、まずシール部材126のうち溶着されていない部分がシールゲート部125に向かって移動し、それから溶着されていない部分を介して溶着部分が引っ張られ徐々に剥がされていく。その際、先に引っ張られた溶着部分が既にシールゲート部125に向かって移動した後なので、シール部材126の記録ヘッド側の部分には緩みが生じている。溶着されている部分は、緩みを持った部分によって引っ張られるので、インク吐出方向(上下方向)の成分を有して引っ張られることになる。そのため、シール部材126の剥離が比較的容易に行われる。なおシール部材126の剥離の容易性を考慮しないのであれば、折り返されて重ねられたシール部材126のうち、インクタンク部側に配置された方のシール部材が大気連通口シール121と一体になることとしても良い。また、折り返されずに一枚のシール部材が大気連通口シール121と一体になることとしても良い。
【0066】
なお、本実施形態では、シール部材126は、シールゲート部125からシール部材126の延びる方向に対して同一面内の直交する方向に延びた分の長さは、シール部材126の延びる方向におけるシールゲート125の長さの分だけとした。そして、この長さの分だけのシール部材126が、インクジェットカートリッジ401に沿うように延び、大気連通口シール121と一体になっていることとした。つまり、インクジェットカートリッジ401に沿うように延びるシール部材126の幅は、インク供給路部材130の間でシール部材126の延びる方向におけるシールゲート125の長さの分だけとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されず、例えば、インクタンク部103に貯留されているインクの蒸発を抑えるために、インクジェットカートリッジ401に沿うように延びる分のシール部材126の幅を、さらに大きくしても良い。また、シール部材126が、シール部材126の延びる方向におけるインクジェットカートリッジ401の全体を覆うようにしても良い。また、シール部材126は、大気連通口シール121と一体となることとしたが、それぞれが貼り合わされることとしても良い。
【0067】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態におけるインクジェットカートリッジの物流形態について説明する。なお、上記第一実施形態または第二実施形態と同様に構成できる部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0068】
図6には、本発明の第三実施形態におけるインクジェットカートリッジの物流形態501が示されている。本実施形態のシール部材127は、エラストマーによって形成されている。そして、インクタンク部103におけるインク供給口110と記録ヘッド部104との間のインク供給路150に、圧縮されたエラストマーのシール部材127が配置されている。
【0069】
エラストマーによって形成されるシール部材127の材料としては、ガスバリアー性の高い塩素化ブチルゴムや、水素化ニトリルゴム(H−NBR)が適当であるが、樹脂系エラストマーでも採用することができる。シール部材127は、インクジェットカートリッジ501の外部に突出し、その端部にはユーザーの手で摘むことが可能な長さでタブ128が形成されている。
【0070】
本実施形態のシール部材127を用いれば、弾性を有するエラストマーの圧入によってシール部材127がインク供給路150に配置される。従って、本実施形態のインクジェットカートリッジは、第一実施形態の効果に加え、シール部材の折り曲げ加工が省かれることでインク供給路150における密閉が容易に行われるという効果を奏することになる。また、シール部材の貼付を大量に行う場合、機械によって行われることもあるが、薄いフィルム状のシール部材を折り曲げ、摘み、記録ヘッド部の所定位置に貼付することは、機械にとっては難しい工程となる。そのような工程がエラストマーの圧入に代えられるので、シール部材の貼付工程を行う機械が簡単な作業を行う機械で済み、シール部材の貼付工程を行うのに低コストで行うことができる。
【0071】
(第四実施形態)
次に、第四実施形態におけるインクジェットカートリッジの物流形態について説明する。なお、上記第一実施形態ないし第三実施形態と同様に構成できる部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0072】
図7には、本発明の第四実施形態におけるインクジェットカートリッジの物流形態601が示されている。
【0073】
本実施形態のインクジェットカートリッジ601では、記録ヘッド部104の内部に物流用液体が充填されていない。第一実施形態では、記録ヘッド部の内部を物流の際にも常時液体に晒された状態とするために、記録ヘッド部の内部に物流用液体を貯留することとした。しかしながら、本実施形態では図7に示されるように、記録ヘッド部104が乾燥した状態で出荷されることとした。それに伴い、吐出口用シール部材122が不要となる。物流中において記録ヘッド部104の内部に物流用液体がなくなるので、物流中における物流用液体の漏れや蒸発に対応させる必要がなく、インクジェットカートリッジ601の梱包はより簡易なもので良い。従って、物流の際のインクジェットカートリッジ601の梱包を低コストで行うことが可能になるので、インクジェットカートリッジ601における出荷時のコストが抑えられる。
【0074】
第一実施形態では、記録ヘッド部を形成する材料が乾燥に対して耐食性あるいは耐久性を有していない可能性があれば、記録ヘッド部の内部に物流用液体を封入し、吐出口を吐出口用シール部材によって塞ぐ構成とすることとした。しかしながら、記録ヘッド部を形成する材料が乾燥に対して耐食性及び耐久性を有していることが確認されていれば、本実施形態のように、記録ヘッド部の内部には液体を封入しないこととしても良い。
【0075】
記録ヘッド部の材料については、コスト、用途、あるいはその他の要因に応じて選択される。記録ヘッド部内部の物流用液体の有無については、選択される記録ヘッド部の材料に応じて選択されれば良い。
【0076】
なお、本実施形態のインクジェットカートリッジ601のように、記録ヘッド部104の内部に物流用液体を充填しない構成は、第二の実施形態または第三の実施形態に適用されても良い。
【0077】
(第五実施形態)
次に、第五実施形態におけるインクジェットカートリッジの物流形態について説明する。なお、上記第一実施形態ないし第四実施形態と同様に構成できる部分については図中同一符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0078】
図8には、本発明の第五実施形態におけるインクジェットカートリッジの物流形態701が示されている。
【0079】
第一実施形態のインクジェットカートリッジでは、シールゲート125がシール部材118のようやく通ることができる程度の狭い開口になっていることで、インクの蒸発が少なく抑えられることとした。しかし、本実施形態では、エラストマーによって形成されたシール用枠材152がインク供給路150を囲むようにシール部材118を押圧した状態で配置されている。本実施形態では、シール部材118がシールゲート125と当接してインクの蒸発を抑える必要がなく、シールゲート125が開口された状態となっている。
【0080】
シール用枠材152は弾性を有しており、記録ヘッド部104を構成する壁面とシール部材118とによって圧縮されながら挟まれることで固定される。これにより、インク供給路150における密封性がより高まり、インクタンク部103内部に貯留されているインクの蒸発がさらに抑えられる。従って、インクジェットカートリッジ701がユーザーの手に届いたときに、インクが減少していること及びそれによるインクの増粘を抑えることができ、品質を高く維持したままインクジェットカートリッジ701をユーザーに提供することができる。
【0081】
シール部材118は使用される際に抜き取られるが、本実施形態では、シール用枠材152は管状に形成されており、シール部材118を除去した後にインク供給路部材130の一部となってインク供給路150の一部を形成する。そして、シール用枠材152がインクの流通可能な流路を画成する。シール用枠材152はそのまま同じ位置に残りつつ速やかに弾性作用によりインクタンク部103におけるインク供給口110の周囲と密着する。
【0082】
なお、本実施形態ではシールゲート125を開口させることとしたが、シール部材118をシールゲート125に当接させることとし、さらにインクの蒸発を抑える構成としても良い。また、本実施形態によるシール用枠材152は、第二、第三及び第四の実施形態に適用されても良い。また、本実施形態は、第四実施形態のように記録ヘッド部104内部に物流用液体が充填されてなく、吐出口用シール部材122が不要となっているが、第一実施形態のように、記録ヘッド部104内部に物流用液体が充填されていても良い。また、第一の実施形態におけるシールゲート125に加えて、本実施形態のシール用枠材152が配置されることとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第一実施形態における、シール部材が剥がされた後の状態のインクジェットカートリッジの断面図である。
【図2】図1のインクジェットカートリッジが、インクジェット記録装置本体側のキャリッジに取り付けられようとしている状態を示す説明図である。
【図3】図1のインクジェットカートリッジが、インクジェット記録装置本体側のキャリッジに取り付けられた後の状態を示す説明図である。
【図4】本発明の第一実施形態における物流時のインクジェットカートリッジの断面図である。
【図5】本発明の第二実施形態における物流時のインクジェットカートリッジの断面図である。
【図6】本発明の第三実施形態における物流時のインクジェットカートリッジの断面図である。
【図7】本発明の第四実施形態における物流時のインクジェットカートリッジの断面図である。
【図8】本発明の第五実施形態における物流時のインクジェットカートリッジの断面図である。
【図9】従来のインクジェットカートリッジの一形態を示す断面図である。
【図10】従来のインクジェットカートリッジの別の形態における物流時の状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
101、301、401、501、601、701 インクジェットカートリッジ
102 吐出口
103 インクタンク部
104 記録ヘッド部
106 吸収体
111 圧接部材
112 大気連通口
118、126 シール部材
121 大気連通口シール
130 インク供給路部材
150 インク供給路
152 シール用枠材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収容するインクタンク部と、
前記インクタンク部に収容されたインクが供給され、該供給されたインクを吐出する記録ヘッド部と、
前記インクタンク部と前記記録ヘッド部のそれぞれに設けられ、前記インクタンク部と前記記録ヘッド部とを接続して当該インクタンク部から記録ヘッド部へインクを供給するためのそれぞれのインク供給路部材を有するインクジェットカートリッジにおいて、
前記インクタンク部側のインク供給路部材と前記記録ヘッド部側のインク供給路部材との間にシール部材が挟まれるように配置されたことを特徴とするインクジェットカートリッジ。
【請求項2】
前記シール部材は、前記インク供給路部材の少なくとも一方が前記シール部材を挟んでインクタンク部側または記録ヘッド部側に押し込まれた状態で配置されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットカートリッジ。
【請求項3】
前記シール部材は、インクタンク部側のインク供給路部材がインクタンク部側に押し込まれた状態でインクタンク部の壁面に接着され、前記インクタンク部側のインク供給路部材を覆うように配置されることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットカートリッジ。
【請求項4】
前記シール部材は、インクタンク部側のインク供給路部材を覆うと共に、記録ヘッド部側のインク供給路部材のインクタンク部側を覆うように配置され、
前記記録ヘッド部には、前記インクタンク部から供給されたインクを吐出可能に開口された吐出口が形成されると共に、前記吐出口を覆うように吐出口用シール部材が配置され、
前記シール部材及び前記吐出口用シール部材によって一部が画成された空間には、物流用液体が充填されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクジェットカートリッジ。
【請求項5】
前記記録ヘッド部の内部は、液体が充填されずに乾燥した状態であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクジェットカートリッジ。
【請求項6】
前記インクタンク部には、前記インクタンク部の内部と、インクジェットカートリッジの外部との間を連通させる大気連通口が形成されており、
前記シール部材は、前記大気連通口を覆うことが可能なようにインクジェットカートリッジに沿って延びていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインクジェットカートリッジ。
【請求項7】
前記シール部材を除去した後に前記インク供給路部材の一部となって内部にインクが流通可能な流路を画成し、弾性を有するシール用枠材が、前記シール部材を押圧した状態でインク供給路部材を覆うように配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のインクジェットカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−302658(P2008−302658A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−154039(P2007−154039)
【出願日】平成19年6月11日(2007.6.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】