説明

インクジェットプリンタ、インク回収部材、及びインク回収方法

【課題】気流の流路を塞ぐことなくインクを回収する。
【解決手段】インクジェットプリンタ20は、インクを回収するフラッシングボックス10を備えている。フラッシングボックス10は、中空構造であり、インクを液化するメッシュ2と、メッシュ2の重力方向下側に位置し、インクヘッド32から吐出されたインクを受容する開口部1と、開口部1の重力方向下側に連通し、開口部1から流入したインクを貯留するインクだまり部3と、外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気ファン4とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ、インク回収部材、及びインク回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式のプリンタ(インクジェットプリンタ)においては、インクヘッドに設けられたノズル開口から印刷媒体上にインクを吐出することによって、印刷を行う。このため、例えば長期間インクを吐出しなかったノズルには、乾燥して固化したインクや、ごみ、埃等によりノズル開口に目詰まりが生じ、ノズル開口からインクが正常に吐出されなくなってしまう。
【0003】
このような問題を解決するために、特許文献1に記載のインクジェットプリンタは、印刷媒体から離れた位置にインクヘッドを移動させ、その位置においてノズル開口から印刷には関係しないインクの吐出(フラッシング)を行うことによって、ノズル開口の目詰まりを防ぐように構成されている。特許文献1のインクジェットプリンタには、インクヘッドから吐出されたインクを受容するフラッシングボックスが取り付けられており、インクヘッドからフラッシングボックスに向けてインクを吐出することによって、インクヘッドをメンテナンスすることができる。
【0004】
特許文献1に記載のフラッシングボックスは、その内部に、第1受容室、第1受容室の下部に連通する第2受容室、第1受容室の上部に設けられた受容開口部、及び第2受容室の上部側に、内壁を介して第1受容室に隣接して設けられた排気ファンを備えている。また、受容開口部には、その開口部を覆うようにメッシュが設けられている。インクヘッドから吐出されたインクは、排気ファンによりフラッシングボックス内に生じた空気流によって、第1受容室の受容開口部に吸い寄せられて第1受容室に導かれる。第1受容室に導かれたインクは、排気ファンにより生じた空気流により、第1受容室に連通する下部から第2受容室に導かれる。ここで、第2受容室の側壁には、複数の板状体が互い違いに設けられており、第2受容室に導かれたインクは、当該板状体の下面に付着して液滴化して排出口方向に滴下し、廃液タンクに回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−291977号公報(2009年12月17日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のフラッシングボックスにおいては、排気ファンにより生じた空気流の方向と、第2受容室の板状体により液滴化したインクの滴下方向とが逆行しているので、インクの滴下が阻害される。インクの滴下が阻害され、板状体により形成される通路にインクが溜まると、これが固化することで、流路を閉塞してしまう恐れがある。その結果、廃液タンクへのインクの回収が妨げられるのみならず、回収したインクが排気ファンから外部に飛散してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、回収したインクを円滑に排出することによって、インクを回収するフラッシングボックス内の気流の流路を閉塞させることなく、インクヘッドのメンテナンスを行うことが可能なインクジェットプリンタ、当該プリンタに設けられるインク回収部材、及びインク回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクジェットプリンタは、上記問題を解決するために、インクを吐出するノズルを備えたインクヘッドと、前記インクヘッドから吐出されたインクを回収するインク回収部材とを備え、前記インク回収部材は、その内部にインクを受容する中空構造であり、前記インクヘッドから吐出されたインクが入り込む開口部と、前記開口部から、その重力方向下側に連通し、前記開口部から流入したインクを貯留する貯留部と、前記開口部と前記貯留部との間にあり、霧状のインクを液化するインク液化部材と、前記インク回収部材の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気手段とを備えている。
【0009】
前記の構成によれば、排気手段によってインク回収部材の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させるので、インク回収部材内において、排気手段によって生じる気流の流れと、インク液化部材で液滴化したインクの滴下方向(重力方向)とが同一方向となる。したがって、液滴化したインクがよりスムーズに貯留部に流れ、インクミストが乾燥又は固化して流路が閉塞するのを防ぐことができる。その結果、インクヘッドのメンテナンスを好適に行うことができる。
【0010】
また、本発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記排気手段は、前記インク液化部材と前記貯留部との間に設けられていることが好ましい。前記の構成によれば、インク液化部材を通過したインクは、重力方向下側に滴下して貯留部に到達し、排気手段によって生じる、開口部からインク回収部材の内部へと流れる気流の流路にインクが蓄積しない。したがって、気流の流路が閉塞せず、インクの回収及び排出を円滑に行うことができる。
【0011】
また、本発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記排気手段は、前記インク液化部材と前記貯留部との間から分岐した空気流路に設けられていることが好ましい。前記の構成によれば、排気手段がインク液化部材から貯留部までのインクの通路上に設けられていないので、貯留されるインクや、貯留後のインクの排出によって排気手段が悪影響を受けない。
【0012】
また、本発明に係るインクジェットプリンタは、インクを吐出する対象の印刷媒体を支持する支持部をさらに備え、前記インク回収部材は、前記支持部の外側に設けられていることが好ましい。このように、インク回収部材が印刷媒体から離れた部分に設けられているので、インクヘッドのメンテナンス時に吐出されたインクによって印刷媒体が汚れるのを防ぐことができる。
【0013】
さらに、本発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記インク回収部材は、前記開口部と前記貯留部とを接続する中空部をさらに備え、前記中空部は、前記開口部から流入し、前記インク液化部材によって液化したインクが、その内壁を伝って前記貯留部に運ばれるように、前記貯留部に向かって傾斜していることが好ましい。このように、中空部の内壁が貯留部に向かって傾斜しているので、インクを貯留部に効率よく運ぶことができる。
【0014】
また、本発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記インク液化部材は、複数の網状体が積層されたものであることが好ましい。これにより、より確実にインク滴を形成させることができる。
【0015】
さらに、本発明に係るインクジェットプリンタにおいて、前記貯留部は、前記インク回収部材の外部に設けられた排出部に接続されていることが好ましい。これにより、インク回収部材が回収したインクを効率よく排出することができる。
【0016】
本発明に係るインク回収部材は、インクを吐出するノズルを備えたインクヘッドから吐出されたインクを回収するインク回収部材であって、その内部にインクを受容する中空構造であり、前記インクヘッドから吐出されたインクが入り込む開口部と、前記開口部から、その重力方向下側に連通し、前記開口部から流入したインクを貯留する貯留部と、前記開口部と前記貯留部との間にあり、霧状のインクを液化するインク液化部材と、前記インク回収部材の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気手段とを備えている。
【0017】
前記の構成によれば、気流の流れる方向とインク滴の滴下する方向とが一致するので、液滴化したインクがよりスムーズに貯留部に流れ、インクミストが乾燥又は固化して流路が閉塞するのを防ぐことができる。その結果、インクヘッドのメンテナンスを好適に行うことができる。
【0018】
本発明に係るインク回収方法は、インクを吐出するノズルを備えたインクヘッドから吐出されたインクをインク回収部材により回収するインク回収方法であって、前記インク回収部材は、その内部にインクを受容する中空構造であり、前記インクヘッドから吐出されたインクが入り込む開口部と、前記開口部から、その重力方向下側に連通し、前記開口部から流入したインクを貯留する貯留部と、前記開口部と前記貯留部との間にあり、霧状のインクを液化するインク液化部材と、前記インク回収部材の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気手段とを備えている。
【0019】
前記の構成によれば、気流の流れる方向とインク滴の滴下する方向とが一致するので、液滴化したインクがよりスムーズに貯留部に流れ、インクミストが乾燥又は固化して流路が閉塞するのを防ぐことができる。その結果、インクヘッドのメンテナンスを好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るインクジェットプリンタは、インクを吐出するノズルを備えたインクヘッドと、前記インクヘッドから吐出されたインクを回収するインク回収部材とを備え、前記インク回収部材は、その内部にインクを受容する中空構造であり、前記インクヘッドから吐出されたインクが入り込む開口部と、前記開口部から、その重力方向下側に連通し、前記開口部から流入したインクを貯留する貯留部と、前記開口部と前記貯留部との間にあり、霧状のインクを液化するインク液化部材と、前記インク回収部材の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気手段とを備えているので、気流の流れる方向とインク滴の滴下する方向とが一致するので、液滴化したインクがよりスムーズに貯留部に流れ、インクミストが乾燥又は固化して流路を閉塞するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係るフラッシングボックスの内部を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタを模式的に示す正面図である。
【図3】図2に示すインクジェットプリンタの側面図である。
【図4】インクヘッドの周辺を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜4を参照して、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は、フラッシングボックス10の内部を模式的に示す図であり、図2は、インクジェットプリンタ20を模式的に示す正面図である。図3は、図2に示すインクジェットプリンタ20の側面図であり、図4は、インクヘッド32の周辺を模式的に示す図である。インクジェットプリンタ20は、フラッシングボックス10及びインクヘッド32を備えている。
【0023】
(フラッシングボックス10)
図1に示すように、本発明に係るフラッシングボックス(インク回収部材)10は、開口部1、メッシュ(インク液化部材)2、インクだまり部(貯留部)3、及び排気ファン(排気手段)4を備えている。また、フラッシングボックス10は、空気流路5及び中空部6を含み、インク排出ポンプ9が取り付けられたインク排出経路8を介して、廃液タンク(排出部)7に連結されていてもよい。
【0024】
フラッシングボックス10は、インクジェットプリンタ20に取り付けられている。インクジェットプリンタ20において、インクヘッド32は、搭載されたインクの種類に応じて複数のノズル(図示せず)を備えており、このノズルからインクを吐出する。長期間インクの吐出が行われないノズルは、滞留するインクや、ゴミ等が付着したインクが固化して閉塞し、正常なインクの吐出が困難となる。このような問題を回避するために、各ノズルから定期的にインクを吐出させることによってインクヘッド32のメンテナンスを行う必要がある。フラッシングボックス10は、インクヘッド32のメンテナンス時に吐出される、印刷に関係しないインクを回収するものである。
【0025】
フラッシングボックス10は、図1に示すように、内部にインクを受容する中空構造であり、ブロー成形等により形成することができる。フラッシングボックス10の上面には、インクヘッド32からのインクが入り込む開口部1が設けられている。開口部1は、インクヘッド32からのインクを確実に受容するために、インクヘッド32の大きさと略同一又はより大きく開口していることが好ましい。
【0026】
インクヘッド32から吐出され、フラッシングボックス10に流入するインク滴及びインクミストは、開口部1の重力方向上側に設けられたインク液化部材であるメッシュ2に接触することによって、メッシュ2に付着する。メッシュ2に付着したインク滴及びインクミストは集合してインク滴を形成し、フラッシングボックス10の内部に滴下する。メッシュ2は、開口部1から流入したインクミストをインクだまり部3に滴下させるために、開口部1とインクだまり部3との間に位置するように設けられている。メッシュ2は、開口部1を覆うように設けられていることが好ましく、これにより、より確実にインクミストを液化することができる。
【0027】
メッシュ2は、例えば、金属材料、樹脂材料等により形成されたものを用いることができる。本実施形態においては、孔径2.5mmの孔が、孔ピッチ3.5mmで千鳥格子状に配列して設けられたパンチングメタルを用いている。また、メッシュ2は、開口部1に複数積層して設けられていてもよく、これにより、より確実にインク滴を形成させることができる。本実施形態においては、上述のパンチングメタルを4層積層して開口部1上に設けている。また、インクミストを液化する他の構成の例として、開口部1に網状体の層を少なくとも1層形成し、その内側の中空部6の内壁に複数の板状体を互い違いに設けて構成してもよい。
【0028】
開口部1から流入し、メッシュ2を通過したインクは、図1中実線矢印で示すように、気流に従って下方(重力方向)に滴下する。滴下したインクは、中空部6の内壁に到達し、中空部の内壁を伝って、開口部1の重力方向下側に位置するインクだまり部3に流れ込む。開口部1とインクだまり部3とは、中空部6によって接続されて連通している。中空部6の内壁は、インクだまり部3に向かって傾斜しており、インクだまり部3がフラッシングボックスの最も下側になり、インクがインクだまり部3に効率よく運ばれるようになっている。
【0029】
インクだまり部3は、中空部6の内壁を伝って運ばれたインクを貯留するものである。本実施形態においてインクだまり部3の底面は、中空部6の内壁に連続しており、水平である。インクだまり部3はインク排出経路8に接続されており、貯留するインクを、フラッシングボックス10の外部に設けられた廃液タンク7に排出するようになっている。これにより、インクだまり部3に貯留するインクを定期的にフラッシングボックス10の外部に排出させることができるので、大量のインクがインクだまり部3に留まることがなく、貯留するインクにより空気流路5が閉塞することがない。
【0030】
インク排出経路8は、インクだまり部3に設けられた孔を介して接続されており、この孔からインクを排出するようになっていてもよいし、インクだまり部3の上方からインク排出経路8を介してインクを吸い上げるようになっていてもよい。インクだまり部3の上方からインクを吸い上げる場合、インク排出経路8にはインク排出ポンプ9が取り付けられている。このようにインクを吸い上げることによって、インク排出経路8にインク詰まりが生じにくいので好ましい。
【0031】
フラッシングボックス10には、インクヘッド32から吐出されたインクをより確実にフラッシングボックス10内に導くために、フラッシングボックス10の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気ファン4が設けられている。また、排気ファン4よりもフラッシングボックス10の内側には、フィルタ(図示せず)が設けられていてもよい。排気ファン4としては、ブロアファン等の通常用いられるファンを好適に用いることができる。
【0032】
排気ファン4が作動すると、図1中破線矢印に示すように、開口部1からフラッシングボックス10内に入り、空気流路5を介して排気ファン4から外部へと流れる空気の流れが生じる。すなわち、空気の流れが重力方向になる。この気流によって、インクヘッド32から吐出されたインクは、開口部1に吸い寄せられ、フラッシングボックス10内に流入する。
【0033】
このように、排気ファン4によって生じる、フラッシングボックス10の外部から内部へと重力方向に流れる空気の流れは、メッシュ2から重力方向に滴下するインク滴の流れと同方向であり、空気の流れとインク滴の流れとの方向が一致するので、液滴化したインクがよりスムーズにインクだまり部3に流れ、インクミストが乾燥又は固化して流路を閉塞するのを防ぐことができる。その結果、インクヘッド32のメンテナンスを好適に行うことができる。
【0034】
また、本実施形態において、排気ファン4は、メッシュ2とインクだまり部3との間、すなわちメッシュ2の重力方向下側であり、かつインクだまり部3の重力方向上側に設けられている。したがって、メッシュ2とインクだまり部3との間に設けられた空気流路5にインクが蓄積することがないため、空気流路5が閉塞せず、インクの回収及び排出を円滑に行うことができる。
【0035】
さらに、排気ファン4は、メッシュ2とインクだまり部3との間から分岐したた空気流路5に設けられている。このように排気ファン4を設けることによって、排気ファン4がインクだまり部3に貯留されたインクにより悪影響を受けない。また、例えば、インクだまり部3に設けられた孔を介して接続されたインク排出経路8からインクを排出するようになっている場合であっても、排気ファン4が開口部1からインク排出経路8までのインクの通路上に設けられていないので、排気ファン4がインクの排出により悪影響を受けることもない。
【0036】
(インクジェットプリンタ20)
インクジェットプリンタ20の全体構成について説明する。図2及び3に示すように、インクジェットプリンタ20は、左右の支持脚21a及び21bを有する支持脚21、支持脚21により支持された中央ボディ部22、中央ボディ部22の左側に設けられた左ボディ部23、中央ボディ部22の右側に設けられた右ボディ部24、及び左ボディ部23と右ボディ部24とを繋ぐと共に、中央ボディ部22の上側に離間して平行に延びた上ボディ部25を備えて構成される。中央ボディ部22には、その上面に露出して左右に延びたプラテン(支持部)22aが設けられており、上ボディ部25の下面側にはピンチローラ25aが取り付けられている。
【0037】
左ボディ部23の内部には、上述したフラッシングボックス10、ヘッドユニット30を左右に移動させる左右移動機構(図示せず)、及びヘッドユニット30の洗浄等を行うメンテナンスステーション(図示せず)が設けられている。図4に示すように、上ボディ部25の内部には、左右に延びたガイドレール25bが設けられ、このガイドレール25bに対して左右に往復移動可能にヘッドユニット30が取り付けられている。ヘッドユニット30は、左右移動機構により駆動されて上ボディ部25の内部においてガイドレール25bに沿って左右に搬送移動されるようになっている。
【0038】
図3に示すように、右ボディ部24の上部には、カートリッジ取付部26が設けられており、カートリッジ取付部26に対して、インクの色ごとに複数のカートリッジ式のインクタンク28が前面側から着脱可能に取り付けられている。カートリッジ取付部26の内部には、インクタンク28を受容してインクを受け容れる接続部(図示せず)が設けられている。そして、この接続部から右ボディ部24及び上ボディ部25の内部を延びるインクチューブ(図示せず)が色ごとにインクヘッド32と繋がっており、インクタンク28のインクがインクチューブを解してインクヘッド32に供給されるようになっている。
【0039】
ヘッドユニット30は、図4に示すように、キャリッジ31及びインクヘッド32を主体に構成される。キャリッジ31は、その後面がガイドレール25bと嵌合しており、ガイドレール25bに沿って左右に往復移動自在となっている。インクヘッド32は、例えばマゼンダ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)、及びブラック(K)の各色のインクヘッド32M、32Y、32C、32Kから構成される。各インクヘッドの下面には、下方に向けてインクを吐出する複数のノズル開口(図示せず)が形成されている。
【0040】
図4に示すように、プラテン22aの左方側に吐出検査ユニット35が設置されており、その下方にフラッシングボックス10が取り付けられている。吐出検査ユニット35は、本体部35aの中央部分に略矩形で上下に貫通した検査領域35bが形成されている。また、その略矩形の検査領域35bの対角位置に、発光素子36と受光素子37とが配設され、発光素子36から発射された検査光が受光素子37において受光可能となっている。
【0041】
このようなインクジェットプリンタ20を用いて印刷シートに印刷を施す場合の、各部材の作動について説明する。
【0042】
印刷シートは、プラテン22a上を後方から前方に搬送されるように、インクジェットプリンタ20に載置され、プラテン22a上においてピンチローラ25aにより押さえつけられた状態で前方に搬送される。このとき、プラテン22a上に載置された印刷シートに対して、ガイドレール25bに沿ってキャリッジ31を左右に往復移動させながら、各インクヘッドの下面のノズル開口からインクを吐出させることにより、所望のパターンで印刷シートに付着させる。この動作を繰り返し行うことにより、印刷シート全体に対して所望の印刷が施されるようになっている。
【0043】
次に、インクヘッド32のフラッシング動作時の各部材の作動について説明する。上述したように、印刷を中断した状態のまま長時間経過したような場合には、ノズル開口部分においてインクが乾燥して固化していることがあり、このままの状態で印刷を施すと正常にインクが吐出されず印刷不良を引き起こすことがある。このような印刷不良の発生を未然に防止するために、フラッシング動作によりインクヘッド32のメンテナンスを行う。
【0044】
フラッシング動作を行う時には、まず、キャリッジ21をガイドレール25bの左端部近傍に移動させて、インクヘッド32のノズル開口を吐出検査ユニット35の検査領域35b(フラッシングボックス10の開口部1)の上方に位置させる(以下、この位置をフラッシング位置と称す)。このとき、吐出検査ユニット35及びフラッシングボックス10は、プラテン22aの外側に設けられているので、フラッシング動作時にプラテン22a上の印刷シートが汚れることがなく、かつ印刷シートへの印刷時に、インクヘッド32によるインクの吐出を妨げることがない。すなわち、フラッシング動作時には、印刷シートから外れた位置においてインクヘッド32からインクを吐出し、吐出されたインクをフラッシングボックス10に回収する。
【0045】
ここで例えば、インクヘッド32がフラッシング位置に移動したことが検出されたときに、排気ファン4が稼働するようにフラッシングボックス10が構成されている。これにより、フラッシングボックス10内の空気が、開口部1から排気ファン4の前に設けられたフィルタ(図示せず)を介して外部に排出されるような方向に流れるようになっている。
【0046】
インクヘッド32をフラッシングボックス10の上方に位置させた状態で、ノズル開口からインクを吐出させることにより、例えばノズル開口部分において固化したインクが一緒に吐出されてフラッシングボックス10に受容されるとともに、ノズル開口からインクを正常に吐出可能となる。開口部1には、排気ファン4により、フラッシングボックス10内に引き寄せるような空気の流れが発生しているため、吐出されたインク滴及びインクミストは、検査領域35bを重力方向に進んだ後、メッシュ2を通過して開口部1に吸い込まれ、インクだまり部3まで進む。
【0047】
このように、インクヘッド32から吐出されたインク滴及びインクミストを確実に開口部1に吸い寄せて受容し、回収することができるので、吐出検査ユニット35の上面周辺をインクで汚すことがなく、インクジェットプリンタ20を清潔に保つことができる。また、フラッシングボックス10内にインクが固化するのを防ぐため、フラッシングボックス10の交換サイクルを延ばし、インクジェットプリンタ20のランニングコストを低減することができる。さらに、メッシュ2によりインクミストが速やかに液化されて重力方向のインクだまり部3に滴下するため、排気ファン4から外部にインクミストが排出されることがなく、インクジェットプリンタ20を清潔に保つことができる。そして、開口部1から排気ファン4に至る空気の流路を短く構成しているので、排気ファン4の吸引力を確実に開口部1に作用させて、インクを確実に吸い寄せることが可能であり、インクジェットプリンタ20を汚すことなく清潔に保つことができる。
【0048】
上述したようにフラッシング動作を行い、インクヘッド32からインクを正常に吐出できる状態に回復できたか否かは、吐出検査ユニット35によって検出される。具体的に説明すると、インクヘッド32からインクを吐出させるフラッシング動作中に、吐出検査ユニット35の発光素子36から、検査領域35bを上方から下方へ進むインクに向けて検査光を発射し、その検査光が受光素子37において受光されるか否かを検出することにより判断される構成となっている。つまり、受光素子37において検査光が受光されないときは、ノズル開口から吐出されるインクによって検査光が遮られており、この場合、正常にインクの吐出ができる状態と判断される。このように、正常にインクの吐出ができる状態が検出されてフラッシング動作が終了し、キャリッジ31がガイドレール25bに沿って右方へ移動されて印刷シートに印刷が施される。
【0049】
上述の実施形態では、本発明のインクジェットプリンタの一例として、一軸印刷媒体移動、一軸プリンタヘッド移動タイプについて説明したが、本発明は他の形態のインクジェットプリンタ、例えば二軸プリンタヘッド移動タイプのインクジェットプリンタや、二軸印刷媒体移動タイプのインクジェットプリンタにも適用することができる。
【0050】
〔インク回収方法〕
本発明に係るインク回収方法は、インクを吐出するノズルを備えたインクヘッドから吐出されたインクを、フラッシングボックスにより回収するインク回収方法であって、フラッシングボックスは、その内部にインクを受容する中空構造であり、前記インクヘッドから吐出されたインクが入り込む開口部と、前記開口部から、その重力方向下側に連通し、前記開口部から流入したインクを貯留する貯留部と、前記開口部と前記貯留部との間にあり、霧状のインクを液化するインク液化部材と、フラッシングボックスの外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気ファンとを備えている。すなわち、上述したフラッシングボックス10は、本発明に係るインク回収方法に用いられるフラッシングボックスの一実施形態であり、本発明に係るインク回収方法の一実施形態は、上述の実施形態及び図1〜4の説明に準ずる。
【0051】
<付記事項>
以上のように、本発明に係るインクジェットプリンタ20の一実施形態は、インクを吐出するノズルを備えたインクヘッド32と、前記インクヘッド32から吐出されたインクを回収するフラッシングボックス10とを備え、フラッシングボックス10は、その内部にインクを受容する中空構造であり、インクヘッド32から吐出されたインクが入り込む開口部1と、開口部1から、その重力方向下側に連通し、開口部1から流入したインクを貯留するインクだまり部3と、開口部1とインクだまり部3との間にあり、霧状のインクを液化するメッシュ2と、フラッシングボックス10の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気ファン4とを備えている。
【0052】
前記の構成によれば、排気ファン4によってフラッシングボックス10の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させるので、フラッシングボックス10内において、排気ファン4によって生じる気流の流れと、メッシュ2で液滴化したインクの滴下方向(重力方向)とが同一方向となる。したがって、液滴化したインクがよりスムーズにインクだまり部3に流れ、インクミストが乾燥又は固化して流路を閉塞するのを防ぐことができる。その結果、インクヘッドのメンテナンスを好適に行うことができる。
【0053】
また、インクジェットプリンタ20において、排気ファン4は、メッシュ2とインクだまり部3との間に設けられていることが好ましい。前記の構成によれば、メッシュ2を通過したインクは、重力方向下側に滴下してインクだまり部3に到達し、排気ファン4によって生じる、開口部1からフラッシングボックス10の内部へと流れる気流の流路にインクが蓄積しない。したがって、気流の流路が閉塞せず、インクの回収及び排出を円滑に行うことができる。
【0054】
また、インクジェットプリンタ20において、排気ファン4は、メッシュ2とインクだまり部3との間に設けられていることが好ましい。前記の構成によれば、排気ファン4がメッシュ2からインクだまり部3までのインクの通路上に設けられていないので、貯留されるインクや、貯留後のインクの排出によって排気ファン4が悪影響を受けない。
【0055】
また、インクジェットプリンタ20は、印刷シートを支持するプラテン22aをさらに備え、フラッシングボックス10は、プラテン22aの外側に設けられていることが好ましい。このように、フラッシングボックス10が印刷シートから離れた部分に設けられているので、インクヘッド32のメンテナンス時に吐出されたインクによって印刷シートが汚れるのを防ぐことができる。
【0056】
さらに、インクジェットプリンタ20において、フラッシングボックス10は、開口部1とインクだまり部3とを接続する中空部6をさらに備え、中空部6は、開口部1から流入し、メッシュ2によって液化したインクが、その内壁を伝ってインクだまり部3に運ばれるように、インクだまり部3に向かって傾斜していることが好ましい。このように、中空部6の内壁がインクだまり部3に向かって傾斜しているので、インクをインクだまり部3に効率よく運ぶことができる。
【0057】
また、インクジェットプリンタ20において、メッシュ2は網状体を複数積層したものであることが好ましい。これにより、より確実にインク滴を形成させることができる。
【0058】
さらに、インクジェットプリンタ20において、インクだまり部3は、フラッシングボックス10の外部に設けられた廃液タンク7に接続されていることが好ましい。これにより、フラッシングボックス10が回収したインクを効率よく排出することができる。
【0059】
本発明に係るフラッシングボックス10の一実施形態は、インクを吐出するノズルを備えたインクヘッド32から吐出されたインクを回収するフラッシングボックス10であって、その内部にインクを受容する中空構造であり、インクヘッド32から吐出されたインクが入り込む開口部1と、開口部1から、その重力方向下側に連通し、開口部1から流入したインクを貯留するインクだまり部3と、開口部1とインクだまり部3との間にあり、霧状のインクを液化するメッシュ2と、フラッシングボックス10の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気ファン4とを備えている。
【0060】
前記の構成によれば、気流の流れる方向とインク滴の滴下する方向とが一致するので、液滴化したインクがよりスムーズにインクだまり部3に流れ、インクミストが乾燥又は固化して流路が閉塞するのを防ぐことができる。その結果、インクヘッド32のメンテナンスを好適に行うことができる。
【0061】
本発明に係るインク回収方法の一実施形態は、インクを吐出するノズルを備えたインクヘッド32から吐出されたインクをフラッシングボックス10により回収するインク回収方法であって、フラッシングボックス10は、その内部にインクを受容する中空構造であり、インクヘッド32から吐出されたインクが入り込む開口部1と、開口部1から、その重力方向下側に連通し、開口部1から流入したインクを貯留するインクだまり部3と、開口部1とインクだまり部3との間にあり、霧状のインクを液化するメッシュ2と、フラッシングボックス10の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気ファン4とを備えている。
【0062】
前記の構成によれば、気流の流れる方向とインク滴の滴下する方向とが一致するので、液滴化したインクがよりスムーズにインクだまり部3に流れ、インクミストが乾燥又は固化して流路が閉塞するのを防ぐことができる。その結果、インクヘッド32のメンテナンスを好適に行うことができる。
【0063】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、マルチパスプリント等の印刷分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 開口部
2 メッシュ(インク液化部材)
3 インクだまり部(貯留部)
4 排気ファン(排気手段)
6 中空部
7 廃液タンク(排出部)
10 フラッシングボックス(インク回収部材)
20 インクジェットプリンタ
22a プラテン(支持部)
32 インクヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルを備えたインクヘッドと、
前記インクヘッドから吐出されたインクを回収するインク回収部材とを備え、
前記インク回収部材は、その内部にインクを受容する中空構造であり、
前記インクヘッドから吐出されたインクが入り込む開口部と、
前記開口部から、その重力方向下側に連通し、前記開口部から流入したインクを貯留する貯留部と、
前記開口部と前記貯留部との間にあり、霧状のインクを液化するインク液化部材と、
前記インク回収部材の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気手段と
を備えていることを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記排気手段は、前記インク液化部材と前記貯留部との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記排気手段は、前記インク液化部材と前記貯留部との間から分岐した空気流路に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
インクを吐出する対象の印刷媒体を支持する支持部をさらに備え、
前記インク回収部材は、前記支持部の外側に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記インク回収部材は、前記開口部と前記貯留部とを接続する中空部をさらに備え、
前記中空部は、前記開口部から流入し、前記インク液化部材によって液化したインクが、その内壁を伝って前記貯留部に運ばれるように、前記貯留部に向かって傾斜していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記インク液化部材は、複数の網状体が積層されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記貯留部は、前記インク回収部材の外部に設けられた排出部に接続されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
インクを吐出するノズルを備えたインクヘッドから吐出されたインクを回収するインク回収部材であって、
その内部にインクを受容する中空構造であり、
前記インクヘッドから吐出されたインクが入り込む開口部と、
前記開口部から、その重力方向下側に連通し、前記開口部から流入したインクを貯留する貯留部と、
前記開口部と前記貯留部との間にあり、霧状のインクを液化するインク液化部材と、
前記インク回収部材の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気手段と
を備えていることを特徴とするインク回収部材。
【請求項9】
インクを吐出するノズルを備えたインクヘッドから吐出されたインクをインク回収部材により回収するインク回収方法であって、
前記インク回収部材は、その内部にインクを受容する中空構造であり、
前記インクヘッドから吐出されたインクが入り込む開口部と、
前記開口部から、その重力方向下側に連通し、前記開口部から流入したインクを貯留する貯留部と、
前記開口部と前記貯留部との間にあり、霧状のインクを液化するインク液化部材と、
前記インク回収部材の外部から内部へと重力方向に流れる気流を発生させる排気手段と
を備えていることを特徴とするインク回収方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−56520(P2013−56520A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197690(P2011−197690)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】