説明

インクジェットプリンター用油性インク組成物の製造方法およびインク組成物

【課題】インク組成物製造原料中のCa化合物を除去精製することなく、Ca化合物に由来するインクジェットプリンターのインク吐出不良を起こさない吐出安定性が優れたインク組成物の製造方法、およびインク組成物を提供すること。
【解決手段】少なくともCa化合物を未除去の顔料(a)と、Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)および/またはCa化合物溶解性有機溶媒(c)と、定着樹脂(d)とを一般式(1)で表される化合物(s)を含有する有機溶媒(e)に分散することからなり、上記分散剤(b)を使用しない場合はb以外の顔料分散剤(f)を使用することを特徴とするインクジェットプリンター用油性インク組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンター用油性インク組成物の製造方法(以下、単に[インク組成物の製造方法]という)に関し、詳しくは、Ca化合物に由来するインクジェットプリンターのインク吐出不良を起こさない吐出安定性が優れたインク組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェットプリンターを作動させて長時間にわたりプリントを行った際、あるいは長時間にわたりプリントを行わなかった場合に、しばしば、上記プリンターのインク吐出ノズルの先端に不溶性の沈殿物が沈殿堆積する。このことは、インクジェットプリンターよりインクを被プリント体に噴射する方向、インク滴の粒、あるいはインクの噴射速度などが著しく変化し、写真プリントの画像再現性に悪影響を及ぼし安定したプリントができない。
【0003】
上記の不溶性の沈殿物は、インクジェットプリンターインクを製造する際に、原料中に存在するアルカリ土類金属、とくにCaの難溶性塩などのCa化合物に由来する不純物からなる沈殿物の影響もある。
【0004】
上記のCa化合物に由来する不純物は、インクジェットプリンターインクの着色剤である未精製の顔料中に多く存在している。また、上記の不純物は、インクジェットプリンターに使用されているインク容器を構成する材料である高分子樹脂の安定剤としてのステアリン酸のCa塩などの脂肪酸のCa塩や、脂肪酸と遊離のCa化合物が化学反応して生成する脂肪酸のCa塩などがインク中に溶出してくる。また、プリンターのインク流路内に析出してくる。上記のステアリン酸カルシウムは、プリンターのヘッドノズルの手前にある金属フィルターに堆積し、インクの吐出不良となる。
【0005】
上記の不純物による吐出不良を改善するためにある種のインクジェット記録用インク(特許文献1)の製造が開示されている。特許文献1に開示のインクの製造は、前もって、Na形キレート樹脂カラムなどのイオン交換樹脂を使用して着色剤中のCa化合物などの金属化合物を除去精製し、精製後、該着色剤を用いてインク組成物を製造している。
【0006】
しかしながら、これらの物質を除去するための精製には時間と費用がかかるために、得られるインクも高価になってしまう。また、精製した原料を使用したとしてもその管理に手間がかかる。その他、原料だけでなく、前記の不純物のコンタミが考えられる製造工程やインクジェットプリンターに使用されているインク容器、インク流路などを構成する樹脂などのプリンター部材の選定管理が必要となる。
【0007】
上述のことから、とくに使用する原料を精製することなく吐出安定性が優れたインク組成物の製造方法が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平2−2906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、インク組成物製造原料中のCa化合物を除去精製することなく、Ca化合物に由来するインクジェットプリンターのインク吐出不良を起こさない吐出安定性が優れたインク組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、精製していないCa化合物を未除去の顔料を用い、その他、下記の特定の成分を用いることからなるインク組成物の製造方法が、Ca化合物に由来するインクジェットプリンターのフィルター詰まりを発生させないで、印字物にドット抜けや異物が発現しない長期吐出安定性を有するインク組成物が得られることを見出した。
【0011】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、少なくともCa化合物を未除去の顔料(a)と、Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)および/またはCa化合物溶解性有機溶媒(c)と、定着樹脂(d)とを下記一般式(1)で表される化合物(s)を含有する有機溶媒(e)に分散することからなり、上記分散剤(b)を使用しない場合はb以外の顔料分散剤(f)を使用することを特徴とするインクジェットプリンター用油性インク組成物の製造方法を提供する。

(上記式中のX1はアルキル基を、X2は水素原子またはアルキル基を、nは1〜4の整数を表す。)
【0012】
また、本発明の好ましい実施形態では、前記顔料(a)の金属換算のCa金属含有量が、400ppm〜2000ppmであり、前記顔料(a)が、グリーン顔料、シアン(ブルー)顔料、マゼンタ顔料、またはイエロー顔料であり、前記Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)が、ポリカプロラクトン系高分子分散剤、脂肪酸エステル系高分子分散剤、およびポリエーテル系高分子分散剤の群から選ばれる少なくとも1種であり、前記Ca化合物溶解性有機溶媒(c)が、下記一般式(2)で表される化合物(x)および下記一般式(3)で表される化合物(y)から選ばれる少なくとも1種であり、

(上記式中のX3は炭素数が2〜7のアルキル基を、nは1〜7の整数を表す。)

(上記式中のX4は炭素数が1〜5のアルキル基を表す。)
前記Ca化合物溶解性有機溶媒(c)が、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、乳酸エチル、および乳酸ブチルから選ばれる少なくとも1種であり、前記Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)およびCa化合物溶解性有機溶媒(c)の各々の配合量が、インク組成物総量中において(b)が0〜10質量%および/または(c)が0〜40質量%を占める量(いずれもが同時に0にならない)であり、前記化合物(s)が、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれる少なくとも1種であり、および前記顔料分散剤(f)が、ウレタン系高分子分散剤、アクリル系高分子分散剤、およびリン酸エステル系高分子分散剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記のインク組成物の製造方法により得られた金属換算のCa金属含有量が10ppm〜100ppmであることを特徴とするインクジェットプリンター用油性インク組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のインク組成物の製造方法は、インク組成物製造原料中にCa化合物が含有していても、Ca化合物に由来するインクジェットプリンターのインク吐出不良を起こさない吐出安定性が優れたインク組成物を得るのに有効である。とくに、顔料に由来するCa化合物を除去精製した顔料を使用する必要がないために、精製に伴う時間、費用を削減できることから製造コストの低減化が行える。さらに、本製造方法によって得られたインク組成物は、インクジェットプリンター内のインク容器、インク流路などインク組成物と接触する高分子樹脂材料から流入すると考えられるCa化合物の影響も排除できるなど、プリンター部材の特別な選定管理が必要とならないなどの効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、少なくとも精製していないCa化合物を未除去の顔料(a)と、特定のCa化合物溶解性顔料分散剤(b)および/またはCa化合物溶解性有機溶媒(c)と、定着樹脂(d)とを特定の化合物(s)を含有する有機溶媒(e)に分散することからなり、上記分散剤(b)を使用しない場合は、b以外の顔料分散剤(f)を使用することにより製造するインク組成物の製造方法である。すなわち、上記のCa化合物を未除去の顔料(a)に、特定のCa化合物溶解性顔料分散剤(b)およびCa化合物溶解性有機溶媒(c)のいずれか一方、あるいは両方を配合し、上記特定の有機溶媒(e)中に定着樹脂(d)と共に分散する。上記の分散剤(b)を使用しない場合は、Ca化合物溶解性有機溶媒(c)と分散剤(b)以外の顔料分散剤(f)を併用することができる。また、Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)に顔料分散剤(f)を配合することもできる。
【0016】
本発明で使用する上記顔料(a)は、顔料中に混入しているCa化合物を、イオン交換樹脂法などの従来の精製処理によって除去、あるいは削減していないCa化合物未除去の顔料である。上記の顔料(a)は、インクジェットプリント用として使用できる有機顔料、無機顔料、カーボンブラックであればいずれのものも使用することができる。
【0017】
上記の顔料(a)としては、例えば、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系、ピランスロンオレンジ、ピランスロンレッドなどのピランスロン系、パーマネントレッド2B、ピグメントスカーレット、リトールレッドなどの溶性アゾ顔料、ベンジジンエロー、ハンザエロー、トルイジンレッドなどの不溶性アゾ顔料、キノフタロンエローなどのキノフタロン系、チオインジゴ系、ベンズイミダゾロン系、アントラキノン系、アゾレーキ系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリノン系、キナクリドン系、イソインドリン系、キノクサリンジオン系などの有機顔料;酸化チタン、群青、紺青、弁柄、亜鉛華、硫酸バリウムなどの無機顔料などが挙げられる。
【0018】
上記顔料はとくに特定するものではないが、好ましくはその金属換算のCa金属含有量が400ppm〜2000ppmで未精製である顔料が、本発明の製造方法で使用することができる。上記のCa金属含有量が上記上限を超えると、得られるインク組成物のCa化合物に由来するインクジェットプリンターのフィルター詰まりを解消するのに充分でない。一方、Ca含有量が上記下限未満のものも、本発明で使用することができる。
【0019】
上記の顔料の具体例としては、例えば、C.Iピグメントブルー15:3、C.Iピグメントブルー15:4、C.Iピグメントブルー15:6、C.Iピグメントグリーン7、C.Iピグメントグリーン36、C.Iピグメントグリーン58、C.Iピグメントレッド122、C.Iピグメントイエロー74、C.Iピグメントイエロー128、C.Iピグメントイエロー138、C.Iピグメントイエロー139、C.Iピグメントイエロー213、C.Iピグメントイエロー150、C.Iピグメントイエロー180、C.Iピグメントバイオレット19、C.Iピグメントオレンジ43、C.Iピグメントオレンジ61、C.Iピグメントオレンジ64、C.Iピグメントオレンジ71、C.Iピグメントオレンジ73、カーボンブラックなどのCa化合物未除去の精製していないものが挙げられる。
【0020】
本発明に使用する顔料(a)としては、好ましくは前記のCa金属含有量の範囲内のグリーン顔料、シアン(ブルー)顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料が挙げられる。上記顔料としては、例えば、金属換算でCa金属含有量が1300ppmの未精製C.Iピグメントグリーン36、金属換算でCa金属含有量が550ppmの未精製C.Iピグメントブルー15:4、金属換算でCa金属含有量が600ppmの未精製C.Iピグメントレッド122、金属換算でCa金属含有量が450ppmの未精製C.Iピグメントイエロー180などが挙げられる。本発明における金属換算のCa金属含有量は、下記のCa金属含有量測定方法により測定した値である。
【0021】
(Ca金属含有量測定方法)
ICP−OES法(誘導結合プラズマ発光分光分析法)により、VARIAN社製の[Vista−Pro]を使用して測定した。
【0022】
また、本発明で使用するCa化合物溶解性顔料分散剤(b)は、前記のCa化合物を未除去の顔料(a)に対する溶解および分散性が優れた顔料分散剤である。上記の顔料分散剤(b)としては、好ましくはポリカプロラクトン系高分子分散剤、脂肪酸エステル系高分子分散剤、およびポリエーテル系高分子分散剤の群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。上記の高分子分散剤は、単独でも、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0023】
前記のポリカプロラクトン系高分子分散剤としては、例えば、味の素ファインテクノ(株)製の[アジスパーPB821]、[アジスパーPB822]、[アジスパーPB823]、[アジスパーPB824]、[アジスパーPB827]、ルーブリゾール社製の[SOLSPERSE28000]、[SOLSPERSE24000]、[SOLSPERSE32000]、[SOLSPERSE33000]、[SOLSPERSE39000]などが挙げられる。
【0024】
また、脂肪酸エステル系高分子分散剤としては、例えば、ビックケミー社製の[Disperbyk108]、[Disperbyk191]、[DisperbykP104]、[Anti−Terra−U];味の素ファインテクノ(株)製の[アジスパーPN411]、[アジスパーPA111]、[アジスパーPB817];エフカケミカルズ社製の[EFKA1501]、[EFKA1502]、[EFKA1503];ルーブリゾール社製の[SOLSPERSE18000]、[SOLSPERSE19000]、[SOLSPERSE21000];共栄社化学(株)製の[フローレンD90]、[フローレンTG−740W]などが挙げられる。
【0025】
また、ポリエーテル系高分子分散剤としては、例えば、ビックケミー社製の[Disperbyk181]、[Disperbyk183]、[Disperbyk187]、[Disperbyk190]、[Disperbyk2070];共栄社化学(株)製の[フローレンTG−650]などが挙げられる。
【0026】
また、前記の顔料分散剤(f)は、前記の顔料分散剤(b)以外の顔料分散剤であり、例えば、ウレタンポリカプロラクトン系高分子分散剤、有機酸系高分子分散剤、アクリル系高分子分散剤、ウレタン系高分子分散剤、リン酸エステル系高分子分散剤、その他公知のインクジェットプリントインク用高分子分散剤など、およびこれらの混合物など、好ましくは、ウレタン系高分子分散剤、アクリル系高分子分散剤、およびリン酸エステル系高分子分散剤から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。上記の顔料分散剤(f)としては、ビックケミー社製の[Disperby163]、[Disperby2050]、楠本化成(株)製の[ディスパロンDA−325]などの商品名で入手して本発明で使用することができる。なお、上記の顔料分散剤(f)は、前記のCa化合物溶解性顔料分散剤(b)およびCa化合物溶解性有機溶媒(c)のいずれかと併用せず単独で使用すると、前記Ca化合物を未除去の顔料(a)に由来するインクジェットプリンターノズルに吐出不良を起こしやすいので好ましくない。
【0027】
また、本発明で使用するCa化合物溶解性有機溶媒(c)は、前記のCa化合物を未除去の顔料(a)中のCa化合物に対する溶解性が優れたものである。上記のCa化合物としては、例えば、有機および無機のCa塩などのインクジェットプリンターのインク流路内に析出しやすいCa化合物である。
【0028】
上記のCa化合物溶解性有機溶媒(c)は、Ca化合物に対する溶解性が優れたものであればいずれのものも使用することができるが、好ましくは、下記一般式(2)で表される化合物(x)および下記一般式(3)で表される化合物(y)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。

(上記式中のX3は炭素数が2〜7のアルキル基を、nは1〜7の整数を表す。)

(上記式中のX4は炭素数が1〜5のアルキル基を表す。)
【0029】
前記の化合物(x)としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールt−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類が挙げられる。
【0030】
前記の化合物(y)としては、例えば、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチルなどの乳酸エステルが挙げられる。
【0031】
前記Ca化合物溶解性有機溶媒(c)は、とくに好ましくは前記一般式(2)において、X3が炭素数4のアルキル基で、nは1〜4の整数のものであり、また前記一般式(3)において、X4が炭素数2〜4のアルキル基のものが挙げられる。上記Ca化合物溶解性有機溶媒(c)としては、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、乳酸エチル、および乳酸ブチルから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、それらは各々を単独でも、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
前記Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)およびCa化合物溶解性有機溶媒(c)の各々の配合量は、好ましくはインク組成物総量中において(b)が0〜10質量%および/または(c)が0〜40質量%を占める量(いずれもが同時に0にならない)である。すなわち、上記のCa化合物溶解性顔料分散剤(b)およびCa化合物溶解性有機溶媒(c)は、本発明の製造方法において、上記の配合量の範囲において、各々が単独でも、あるいは両方を混合して使用することができる。
【0033】
また、本発明で使用する定着樹脂(d)は、前記の顔料(a)を印刷基材に定着させる非水溶性樹脂であり、得られるインク組成物中に分散相溶する公知の天然または合成樹脂で本発明の目的を妨げないものであればいずれも使用することができる。上記の定着樹脂としては、アクリル系樹脂;塩化ビニル酢酸ビニル系共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ブチラール樹脂などのビニル系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;繊維素系樹脂;エポキシ系樹脂;ロジン変性フェノール樹脂などのロジン誘導体;石油系樹脂などが挙げられる。上記の非水溶性樹脂は、単独でも、あるいは2種以上を適宜に混合して使用することができる。好ましくはアクリル系樹脂単独、もしくはアクリル系樹脂と塩化ビニル酢酸ビニル系共重合樹脂の混合物が挙げられる。
【0034】
上記のアクリル系樹脂としては、(メタ)アクリレート([(メタ)アクリレート]とはアクリレートおよびメタクリレート双方を意味する)からなる重合体およびその共重合体などが挙げられる。上記の(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、またはブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。上記の重合体および共重合体としては、具体的には、例えば、メチルメタクリレート重合体、メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリレート共重合体、その他、(メタ)アクリレートを主成分として、これらに、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリルアミド、ビニルトルエン、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸ヒドロキシエチルなどのコモノマーの共重合体など、およびそれらの混合物が挙げられる。上記のアクリル系樹脂としては、ローム&ハース社から[パラロイドB−60]の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0035】
また、前記の塩化ビニル酢酸ビニル系共重合樹脂としては、例えば、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/ヒドロキシアルキルアクリレート共重合体など、およびそれらの混合物が挙げられる。上記の塩化ビニル酢酸ビニル系共重合樹脂としては、ダウ・ケミカル社から[VYHH]の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0036】
上記のアクリル系樹脂(A)と塩化ビニル酢酸ビニル系共重合樹脂(B)とを併用する場合、好ましくはその配合割合はB/A=10/100〜70/100(質量比)である。
【0037】
本発明で使用される有機溶媒(e)は、下記一般式(1)で表される化合物(s)を含有するものであり、好ましくは上記化合物(s)を単独でも、あるいは該溶媒総量中に10質量%〜100質量%含有している。

(上記式中のX1はアルキル基を、X2は水素原子またはアルキル基を、nは1〜4の整数を表す。)
【0038】
上記の化合物(s)としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコールから誘導されるグリコールエーテルアセテートが挙げられる。上記の化合物(s)は、単独で用いても、あるいは2種以上を適宜に混合して使用することができる。上記化合物(s)の具体例としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなど、好ましくはエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0039】
前記の有機溶媒(e)は、上記の化合物(s)を必須成分として、その他公知のインクジェットプリント油性インク用の他の有機溶媒とを併用して使用することができる。
【0040】
上記の他の有機溶媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、γ−ラウロラクトンなどのγ−ラクトン類、δ−バレロラクトンなどのδ−ラクトン類、ε−カプロラクトンなどのε−ラクトン類などのラクトン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリンなどの多価アルコール;メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、2−メトキシプロピオン酸メチルなどのエステル類;メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどの多価アルコール誘導体;その他公知のインクジェットプリント油性インク用の有機溶媒などが挙げられる。上記の有機溶媒は、単独で使用しても、あるいは2種以上を適宜に混合して使用することができる。
【0041】
また、本発明では、必要に応じて、帯電防止剤、粘度調整剤、レベリング剤、スリップ剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を本発明の目的を妨げない範囲において添加して使用することができる。
【0042】
[インク組成物の製造方法]
本発明のインク組成物の製造方法は、前記のCa化合物未除去の顔料(a)と、Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)およびCa化合物溶解性有機溶媒(c)のいずれか一方、あるいは両方と、定着樹脂(d)とを前記の化合物(s)を含有する有機溶媒(e)に適宜に配合し、公知の方法で均一に混練分散して製造する。なお、上記のCa化合物溶解性顔料分散剤(b)を使用しない場合は、該分散剤(b)以外の前記の顔料分散剤を使用して製造することができる。その製造方法としては、例えば、前記の有機溶媒(e)中に、上記のCa化合物未除去の顔料(a)と、Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)と、Ca化合物溶解性有機溶媒(c)とを添加し、あるいはCa化合物溶解性顔料分散剤(b)を使用しないで顔料分散剤(f)を添加し、ディゾルバーで1,000rpmにて1時間均一に撹拌した後、上記顔料(a)の粒子がグランドゲージで5μm以下になるまでジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散する。さらに0.3mmのジルコニアビーズを充填したナノミルにて顔料(a)の平均粒子径が250nm以下になるまで分散を行い、顔料分散液を得る。該顔料分散液を1,500rpmで撹拌させながら、前記定着樹脂(d)を添加し、さらに有機溶媒(e)を適量添加しながら均一に混練分散して、その溶液粘度が25℃において2〜18mPa・s、好ましくは6〜15mPa・sになるように調製して本発明のインク組成物を製造した。上記の粘度は、アントンパール社製の「AMVn」粘度計を用いて測定した値である。また、上記顔料の粒子径は、日機装(株)製の「マイクロトラックUPA150」を用いて測定した値である。
【0043】
前記のインク組成物の製造方法により得られたインク組成物は、金属換算のCa金属含有量が10ppm〜100ppmである。上記のインク組成物中のCa金属含有量が上記上限を超えるとCa化合物に由来するインクジェットプリンターのフィルター詰まりを解消するのに充分でない。一方、Ca金属含有量が上記下限未満であっても、使用することができる。本発明のインク組成物は、ピエゾ式インクジェットプリンター用インク組成物としてCa化合物に由来するプリンターのフィルター詰まりを発生させないで有効に使用することができる。
【実施例】
【0044】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。文中「部」または「%」とあるのはとくに断りのない限り質量基準である。なお、本発明は下記に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1〜14)
Ca化合物を未除去の顔料(a)と、Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)と、Ca化合物溶解性有機溶媒(c)と、定着樹脂(d)と、有機溶媒(e)と、顔料分散剤(f)とを使用して表1および表2のように各々の成分を配合して、前記の[インク組成物の製造方法]により、アントンパール社製「AMVn」粘度計にて粘度が7.5〜11.0mPa・s(25℃)になるように均一に混練分散して本発明のインク組成物V1〜V14を製造した。上記のインク組成物の製造方法は、まず顔料分散液を調製し、次に該顔料分散液を1,500rpmで均一に撹拌しながら、定着樹脂(d)と有機溶媒(e)の残部を配合して製造したものである。
【0046】
(比較例1〜5)
実施例のインク組成物の製造方法と同様にして、表3のように各々の成分を配合し比較例のインク組成物W1〜W5を製造した。
【0047】
上記のCa化合物を未除去の顔料(a)、Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)、Ca化合物溶解性有機溶媒(c)、定着樹脂(d)、有機溶媒(e)、および顔料分散剤(f)は下記のとおりである。
・Ca化合物を未除去の顔料(a)
a1:グリーン顔料(C.Iピグメントグリーン36、金属換算のCa金属含有量1300ppm)
a2:シアン顔料(C.Iピグメントブルー15:4、金属換算のCa金属含有量550ppm)
a3:マゼンタ顔料(C.Iピグメントレッド122、金属換算のCa金属含有量600ppm)
a4:イエロー顔料(C.Iピグメントイエロー180、金属換算のCa金属含有量450ppm)
【0048】
・Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)
b1:脂肪酸エステル系高分子分散剤(ビックケミー社製の[Disperbyk108])
b2:脂肪酸エステル系高分子分散剤(共栄社化学(株)製の[フローレンD90])
b3:ポリエーテル系高分子分散剤(ビックケミー社製の[Disperbyk187])
b4:ポリエーテル系高分子分散剤(ビックケミー社製の[Disperbyk2070])
b5:ポリカプロラクトン系高分子分散剤(ルーブリゾール社製の[SOLSPERSE32000])
b6:ポリカプロラクトン系高分子分散剤(味の素ファインテクノ(株)製の[アジスパーPB821])
【0049】
・Ca化合物溶解性有機溶媒(c)
c1:テトラエチレングリコールモノブチルエーテル
c2:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
c3:乳酸ブチル
【0050】
・定着樹脂(d)
d1:アクリル系樹脂(ローム&ハース社製の[パラロイドB−60])
d2:塩化ビニル酢酸ビニル共重合体(ダウ・ケミカル社製の[VYHH])
【0051】
・有機溶媒(e)
(化合物(s))
s1:エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
s2:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート
s3:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
(その他の有機溶媒m)
m1:トリエチレングリコールモノメチルエーテル
m2:テトラエチレングリコールジメチルエーテル
m3:γ−ブチロラクトン
m4:ジエチレングリコールジエチルエーテル
m5:シクロヘキサノン
m6:酢酸ブチル
【0052】
・顔料分散剤(f)
f1:ウレタン系高分子分散剤(ビックケミー社製の[Disperby163])
f2:アクリル系高分子分散剤(ビックケミー社製の[Disperby2050])
f3:リン酸エステル系高分子分散剤(楠本化成(株)製の[ディスパロンDA−325])
【0053】

【0054】

【0055】

【0056】
上記で得られた各々のインク組成物を、インクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、MJ−8000C)を使用して、200μmのポリ塩化ビニルシート(リンテック社製、ビューカル900)に印字し、印字時のインク吐出安定性およびフィルター詰まりに関して下記の測定方法により評価した。また、上記インク中の金属換算のCa金属含有量を前記の(Ca金属含有量測定方法)により測定した。評価結果を表4および5に示す。
【0057】
[吐出安定性]
高デューティーの画像パターンを20日間連続して印字を実施し、その中でクリーニングで回復不能なドット抜けの発生を評価した。印字サンプルからクリーニング後のドット抜けの回復性を目視観察する。
評価:
○:クリーニングによりドット抜けが回復する。
×:クリーニングを実施しても回復しない。
【0058】
[フィルター詰まり]
印字安定性(吐出安定性)評価実施後、フィルター部を分解し、1000倍の金属顕微鏡にて、フィルターへの異物詰まりの有無を観察する。
評価:
○:金属フィルターへの異物詰まりがない。
×:金属フィルターへの異物詰まりが認められる。
【0059】

【0060】

【0061】
前記の評価結果より、本発明のインク組成物の製造方法は、該インク組成物を製造する原料に、インクジェットプリンターのインク吐出不良を発生させるCa化合物を含有して製造しても、インク吐出不良を起こすことなく吐出安定性の優れたインク組成物が得られることが実証された。さらに、上記インク組成物と接触するインクジェットプリンターのインク容器、インク流路内などを構成する高分子樹脂材料から溶出するCa化合物に由来すると考えられるインク吐出不良も解消されている。一方、比較例では、実施例程度のCa化合物が含有していても吐出安定性が悪い状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、本発明のインク組成物の製造方法は、インク組成物を製造する原料にCa化合物が含有していても、インク吐出不良を起こすことなく吐出安定性の優れたインク組成物が得られることから、とくに、顔料に由来するCa化合物を除去精製する必要がないために製造コストの低減化ができ、さらに、インクジェットプリンター内のインク接触部材の高分子樹脂材料からのCa化合物の影響も排除できることから、ピエゾ式インクジェットプリンターなどのインク組成物として有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともCa化合物を未除去の顔料(a)と、Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)および/またはCa化合物溶解性有機溶媒(c)と、定着樹脂(d)とを下記一般式(1)で表される化合物(s)を含有する有機溶媒(e)に分散することからなり、上記分散剤(b)を使用しない場合はb以外の顔料分散剤(f)を使用することを特徴とするインクジェットプリンター用油性インク組成物の製造方法。

(上記式中のX1はアルキル基を、X2は水素原子またはアルキル基を、nは1〜4の整数を表す。)
【請求項2】
前記顔料(a)の金属換算のCa金属含有量が、400ppm〜2000ppmである請求項1に記載のインク組成物の製造方法。
【請求項3】
前記顔料(a)が、グリーン顔料、シアン(ブルー)顔料、マゼンタ顔料、またはイエロー顔料である請求項1または2に記載のインク組成物の製造方法。
【請求項4】
前記Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)が、ポリカプロラクトン系高分子分散剤、脂肪酸エステル系高分子分散剤、およびポリエーテル系高分子分散剤の群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインク組成物の製造方法。
【請求項5】
前記Ca化合物溶解性有機溶媒(c)が、下記一般式(2)で表される化合物(x)および下記一般式(3)で表される化合物(y)から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインク組成物の製造方法。

(上記式中のX3は炭素数が2〜7のアルキル基を、nは1〜7の整数を表す。)

(上記式中のX4は炭素数が1〜5のアルキル基を表す。)
【請求項6】
前記Ca化合物溶解性有機溶媒(c)が、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、乳酸エチル、および乳酸ブチルから選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載のインク組成物の製造方法。
【請求項7】
前記Ca化合物溶解性顔料分散剤(b)およびCa化合物溶解性有機溶媒(c)の各々の配合量が、インク組成物総量中において(b)が0〜10質量%および/または(c)が0〜40質量%を占める量(いずれもが同時に0にならない)である請求項1に記載のインク組成物の製造方法。
【請求項8】
前記化合物(s)が、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインク組成物の製造方法。
【請求項9】
前記顔料分散剤(f)が、ウレタン系高分子分散剤、アクリル系高分子分散剤、およびリン酸エステル系高分子分散剤から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のインク組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のインク組成物の製造方法により得られた、金属換算のCa金属含有量が10ppm〜100ppmであることを特徴とするインクジェットプリンター用油性インク組成物。

【公開番号】特開2010−270220(P2010−270220A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123257(P2009−123257)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】