説明

インクジェットプリンタ

【課題】本発明は、簡易な構成によりインク循環経路に循環されるインクの加熱効率並びに冷却効率を向上することができる、インク循環方式を採用するインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】インク循環方式を採用するインクジェットプリンタのインク循環システム1はインク循環温度を調整するインク温度調整ユニット5を備える。インク温度調整ユニット5は、第2のインク循環経路42及び第1のインク循環経路32に接続されインクの冷却に使用する第1の温度調整用経路51と、この第1の温度調整用経路51に対して分岐されて第2のインク循環経路42及び第1の温度調整用経路51と集合されて第1のインク循環経路32に接続され、第1のインク循環経路32側において第1の温度調節用経路51の流路抵抗に比べて流路抵抗が高く、インクの加熱に使用する第2の温度調整用経路52とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタに関し、特にインク循環方式を採用し、循環されるインクの温度を調整する機能を有するインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
低価格で高速カラー印刷が可能なインクジェットプリンタの普及が目覚ましい。インクジェットプリンタは、パーソナルコンピュータ等の端末に接続され、この端末において製作された文字、イラスト、記号等の画像データを取り込み、用紙に印刷を行う。また、スキャナやファクシミリと一体化された複合型のインクジェットプリンタにおいては、スキャナユニットから取り込んだ画像データの印刷を行うことができ、或いはファクシミリにより転送された画像データの印刷を行うことができる。
【0003】
インクジェットプリンタにおいて良好な印刷結果を得るために、印刷に使用されるインクの性能を保証する温度範囲が定められている。このようなインクの性能を保証するには、下記特許文献1に開示された、インクを循環させるインク循環方式を採用するインクジェットプリンタが有効である。このインクジェットプリンタは、インクを温めるヒータと、インクを冷やす冷却器とを備えている。インクの温度が低くすぎて、インクの性能を保証する温度範囲を逸脱するときには、ヒータを用いてインクが温められる。また、インクの温度が高すぎて、インクの性能を保証する温度範囲を逸脱するときには、冷却器を用いてインクが冷却される。ヒータ及び冷却器はインク循環経路に沿ってこのインク循環経路を中心にその両側に併設され、インク循環機構の小型化が図られている。
【0004】
ところが、この種のインク循環方式を採用するインクジェットプリンタにおいては、インク循環経路を流れるインクがヒータを用いて温められても、ヒータに併設された冷却器にインクの熱が奪われてしまう。このため、加熱効率が悪く、インクの性能を保証するにはヒータからの熱エネルギを増加する必要があり、インクジェットプリンタの消費電力が増大してしまう。
【0005】
下記特許文献2には、このような技術的課題を解決することができる印刷装置が開示されている。この印刷装置は、インク循環経路中にヒータを経由するヒータ側経路と、冷却器を経由する冷却器側経路と、ヒータ側経路と冷却器側経路とのいずれかを切り替える電磁弁と、この電磁弁をソフトウエア処理により制御する制御部とを備えている。制御部からの制御によって電磁弁を駆動し、ヒータ側経路へのインクの流れと冷却器側経路へのインクの流れとを切り替えることができる。つまり、この印刷装置においては、ヒータ側経路に流れるインクをヒータを用いて効率良く温めることができ、又電磁弁によって経路を切り替え、冷却器側経路に流れるインクを冷却器を用いて効率良く冷やすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−88575号公報
【特許文献2】特開2009−255327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の特許文献2に開示された印刷装置においては、以下の点について配慮がなされていなかった。すなわち、インク循環経路のヒータ側経路と冷却器側経路との切り替えには電磁弁並びにそれを制御するソフトウエアを含む制御システムが必要となり、これらの部品点数が増大する。更に、この部品点数の増大に伴い、印刷装置の機械的構造や制御システムが複雑になり、結果として印刷装置の製作コストや製品コストが増大する。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものである。従って、本発明は、簡易な構成によりインク循環経路に循環されるインクの冷却効率を維持しつつ加熱効率を向上することができる、インク循環方式を採用するインクジェットプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の実施例に係る特徴は、インク循環方式を採用するインクジェットプリンタにおいて、インクジェット型プリントヘッドと、プリントヘッドに接続されプリントヘッドにインクを供給する第1のインク循環経路と、プリントヘッドに接続されプリントヘッドから排出されるインクを循環させる第2のインク循環経路と、インク温度調整ユニットとを備え、インク温度調整ユニットは、第1のインク循環経路及び第2のインク循環経路に接続され、インクの冷却に使用される第1の温度調整用経路と、第1のインク循環経路に第1の温度調整用経路とは分岐して接続されるとともに、第2のインク循環経路に第1の温度調整用経路と集合して接続され、少なくとも第1のインク循環経路側において第1の温度調節用経路の流路抵抗に比べて流路抵抗が高く、インクの加熱に使用される第2の温度調整用経路とを備える。
【0010】
上記インクジェットプリンタにおいて、インク温度調整ユニットの第1の温度調整用経路及び第2の温度調整用経路には同時にインクが循環されることが好ましい。
【0011】
また、上記インクジェットプリンタにおいて、インク温度調整ユニットの第2の温度調整用経路の流路抵抗は、第1の温度調整用経路、第2の温度調整用経路のそれぞれに循環されるインクの温度が同一の場合において、第1の温度調整用経路の流路抵抗に比べて高く、第2の温度調整用経路に循環されるインクの流量は、第1の温度調整用経路に循環されるインクの温度に対して第2の温度調整用経路に循環されるインクの温度が一定温度以上高くなった場合において、第1の温度調整用経路に循環されるインクの流量に対して多いことが好ましい。
【0012】
また、上記インクジェットプリンタにおいて、インク温度調整ユニットの第2の温度調整用経路は、部分的に経路径を縮小し、又は部分的に経路長を長くし、又は部分的に経路内壁の粗さを粗くして流路抵抗を高く設定していることが好ましい。
【0013】
また、上記インクジェットプリンタにおいて、インク温度調整ユニットは、第1のインク循環経路側の第1の表面から第2のインク循環経路側の第2の表面に達する第1の熱交換経路を有する第1の熱交換ブロックと、第1のインク循環経路側の第3の表面から第2のインク循環経路側の第4の表面に達する第2の熱交換経路を有する第2の熱交換ブロックと、第1の熱交換ブロックの第1の表面上及び第2の熱交換ブロックの第3の表面上に配設され、第1の熱交換経路と第1のインク循環経路とを接続する第1の集合経路及び第2の熱交換経路と第1のインク循環経路とを接続する第2の集合経路を有する集合部と、第1の熱交換ブロックの第2の表面上及び第2の熱交換ブロックの第4の表面上に配設され、第1の熱交換経路と第2のインク循環経路とを接続する第1の分岐経路及び第2の熱交換経路と第2のインク循環経路とを接続する第2の分岐経路を有する分岐部と、を更に備え、第1の温度調整用経路は、分岐部の第1の分岐経路、第1の熱交換ブロックの第1の熱交換経路及び集合部の第1の集合経路を連接して構築され、第2の温度調整用経路は、分岐部の第2の分岐経路、第2の熱交換ブロックの第2の熱交換経路及び集合部の第2の集合経路を連接して構築されていることが好ましい。
【0014】
また、上記インクジェットプリンタにおいて、インク温度調整ユニットの第2の温度調整用経路に沿って配設され、この第2の温度調整用経路内を循環するインクを加熱する加熱ユニットと、第1の温度調整用経路に沿って配設され、この第1の温度調整用経路内を循環するインクを冷却する冷却ユニットと、を更に備えることが好ましい。
【0015】
また、上記インクジェットプリンタにおいて、第1のインク循環経路の他端に接続され、この第1のインク循環経路を通してプリントヘッドに供給されるインクを貯溜する第1のインクタンクと、第2のインク循環経路の他端に接続され、この第2のインク循環経路を通してプリントヘッドから排出され循環させるインクを貯溜する第2のインクタンクと、を更に備え、インク温度調整ユニットは第1のインクタンクと第2のインクタンクとの間に配設され、インク温度調整ユニットの第1の温度調整用経路及び第2の温度調整用経路は、第1のインクタンクを通して第1のインク循環経路に接続されるとともに、第2のインクタンクを通して第2のインク循環経路に接続されることが好ましい。
【0016】
更に、上記インクジェットプリンタにおいて、インク温度調整ユニットの第2の熱交換ブロックは第1の熱交換ブロックに対して一定間隔離間して併設され、加熱ユニットは少なくとも第1の熱交換ブロックと第2の熱交換ブロックとの間において第2の熱交換ブロックに装着されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡易な構成によりインク循環経路に循環されるインクの冷却効率を維持しつつ加熱効率を向上することができる、インク循環方式を採用するインクジェットプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1に係るインクジェットプリンタのインク循環システムの構成図である。
【図2】実施例1に係るインクジェットプリンタのプリント機構を示す概略図である。
【図3】図1に示すインク循環システムに組み込まれるインク温度調整ユニットの分解斜視図である。
【図4】(A)は図3に示すインク温度調整ユニットの要部上面図、(B)は同図3に示すインク温度調整ユニットの要部下面図である。
【図5】(A)は図3に示すインク温度調整ユニットにおいて同一温度におけるインクの循環状態を説明する断面図、(B)は同インク温度調整ユニットにおいて加熱におけるインクの循環状態を説明する断面図、(C)は同インク温度調整ユニットにおいて冷却時におけるインクの循環状態を説明する断面図である。
【図6】(A)は実施例1に係るインク温度調整ユニットにおけるインク循環流量の計算に使用するモデル(インク温度調整ユニット)の斜視図、(B)はそのモデルの断面図である。
【図7】実施例1に係るインク温度調整ユニットにおけるインク温度とインク粘度との関係を示す図である。
【図8】実施例1に係るインク温度調整ユニットにおける流路抵抗と流量との関係を説明する第1の計算結果を示す図である。
【図9】実施例1に係るインク温度調整ユニットにおける流路抵抗と流量との関係を説明する第2の計算結果を示す図である。
【図10】(B)は実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第1の変形例を説明する要部断面図、(A)はこのインク温度調整ユニットの第1の変形例を説明する上面図である。
【図11】(B)は実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第2の変形例を説明する要部断面図、(A)はこのインク温度調整ユニットの第2の変形例を説明する上面図である。
【図12】(B)は実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第3の変形例を説明する要部断面図、(A)はこのインク温度調整ユニットの第3の変形例を説明する上面図である。
【図13】(B)は実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第4の変形例を説明する要部断面図、(A)はこのインク温度調整ユニットの第4の変形例を説明する上面図である。
【図14】(B)は実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第5の変形例を説明する要部断面図、(A)はこのインク温度調整ユニットの第5の変形例を説明する上面図である。
【図15】(B)は実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第6の変形例を説明する要部断面図、(A)はこのインク温度調整ユニットの第6の変形例を説明する上面図である。
【図16】(B)は実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第7の変形例を説明する要部断面図、(A)はこのインク温度調整ユニットの第7の変形例を説明する上面図である。
【図17】(B)は実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第8の変形例を説明する要部断面図、(A)はこのインク温度調整ユニットの第8の変形例を説明する上面図である。
【図18】(B)は実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第9の変形例を説明する要部断面図、(A)はこのインク温度調整ユニットの第9の変形例を説明する上面図である。
【図19】実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第10の変形例を説明する要部断面図である。
【図20】実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第11の変形例を説明する要部断面図である。
【図21】実施例1に係るインクジェットプリンタにおいてインク温度調整ユニットの第12の変形例を説明する要部断面図である。
【図22】本発明の実施例2に係るインクジェットプリンタのインク温度調整ユニットの要部斜視図である。
【図23】図22に示すインク温度調整ユニットの要部上面図である。
【図24】本発明の実施例3に係るインクジェットプリンタのインク温度調整ユニットの要部斜視図である。
【図25】図24に示すインク温度調整ユニットの要部上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる。
【0020】
また、以下に示す実施例はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は各構成部品の配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0021】
(実施例1)
本発明の実施例1は、インク循環方式を採用するカラーインクジェットプリンタに本発明を適用した例を説明するものである。なお、実施例1及びそれ以降に説明する実施例おいて、理解を容易にするために1色分のインク例えばブラックインクのインク循環システムについて説明するが、それ以外の色具体的にはシアンインク、マゼンダインク、イエローインクのそれぞれのインク循環システムにはその構成や説明を省略するが同様の構成が採用される。つまり、カラーインクジェットプリンタには4色分のインクを各々独立に循環させる4つのインク循環システムが組み込まれる。また、本発明は、必ずしもカラーインクジェットプリンタにのみ適用されるのではなく、グレースケールを含むモノクロインクジェットプリンタにも適用可能である。
【0022】
[インクジェットプリンタの装置構成]
図2に示すように、実施例1に係るインク循環方式を採用するインクジェットプリンタ10は、プリントする用紙を供給し、この用紙にプリントを行い、このプリントされた用紙を排出する用紙搬送機構を有する。インクジェットプリンタ10において、符号を付けていない筐体の左側側面にはこの筐体から外側に突出する着脱自在の給紙台101が配設され、筐体内部には複数の給紙トレイ102、103、104及び105が配設されている。これらの給紙台101及び給紙トレイ102〜105には未プリント(印刷前)の用紙が格納されている。また、インクジェットプリンタ10の筐体の左側上部には排紙台110が配設されている。排紙台110にはプリント済み(印刷後)の用紙が排出される。
【0023】
インクジェットプリンタ10は、給紙台101等から供給される用紙の搬送方向に対して直交する方向に多数のノズルが配列されたプリントヘッド2を複数備えている。それぞれのプリントヘッド2は、ブラックインク、シアンインク、マゼンダインク、イエローインクを吐出し、ライン単位においてプリントを行う。実施例1に係るインクジェットプリンタ10は、インクジェット方式を採用するカラーインクジェットプリンタである。なお、実施例1に係るインクジェットプリンタ10は、ライン単位においてプリントを行う方式だけに限定されるものではなく、ライン方向に走査してプリントを行うシリアル方式に適用してもよい。
【0024】
[インクジェットプリンタのプリント動作]
前述の図2に示すインクジェットプリンタ10のプリント動作は以下の通りである。まず最初に、給紙台101、給紙トレイ102〜105のいずれかから供給された未プリント状態の用紙は、特に符号を付していないが、ローラ等により構築される駆動機構によって筐体内の給紙系搬送路に沿って搬送され、レジスト部121に導かれる。レジスト部121は、搬送された用紙の供給方向先端の位置合わせ、斜行修正等を行う機能を有し、給紙系搬送路に対して垂直方向に配設された一対のレジストローラを備えている。レジスト部121に搬送された用紙はここで一旦停止され後、所定のタイミングにおいてプリントヘッド2が配列されたプリントユニット(印刷部)の方向に搬送される。
【0025】
プリントヘッド2に給紙系搬送路を介して対向する領域には環状の搬送ベルト120が配設され、この搬送ベルト120はプリント条件により定められる速度において用紙の搬送を行う。この搬送ベルト120を用いて搬送される用紙に対してプリントヘッド2は各色インクを吐出し、カラープリント、モノクロプリント又はグレースケールプリントが行われる。
【0026】
プリント済みの用紙は、駆動機構によって排紙系搬送路に沿って搬送され、片面プリントの場合にはそのまま排紙台110に導かれて排紙される。また、両面プリントの場合には、片面プリント済みの用紙が排紙系搬送路から切換機構122を通してスイッチバック経路111に導かれ、この用紙はプリント面を反転させて再び給紙系搬送路に戻される。片面プリントの場合と同様に、給紙系搬送路に戻された用紙は、レジスト部121からプリントユニットに搬送され、ここでプリントを行った後、排紙系経路を通して排紙台110に排紙される。
【0027】
[インク循環システムの構成]
実施例1に係るインクジェットプリンタ10は、図1に示すインク循環システム1を備えている。このインク循環システム1は、前述の図2において説明したインクジェット型プリントヘッド2と、プリントヘッド2に一端が接続されプリントヘッド2にインクを供給する第1のインク循環経路32と、プリントヘッド2に一端が接続されプリントヘッド2から排出されるインクを循環させる第2のインク循環経路42と、インク温度調整ユニット5とを備えている。インク温度調整ユニット5は、第2のインク循環経路42の他端に一端が接続され、第1のインク循環経路32の他端に他端が接続され、インクの冷却に使用する第1の温度調整用経路51と、この第1の温度調整用経路51に対して分岐されて第2のインク循環経路42の他端に一端が接続され、第1の温度調整用経路51と集合されて第1のインク循環経路32の他端に他端が接続され、少なくとも第1のインク循環経路32側において第1の温度調節用経路51の流路抵抗に比べて流路抵抗が高く、インクの加熱に使用する第2の温度調整用経路52とを備えている。
【0028】
図1に示すインク循環システム1は1色分である。実施例1に係るインクジェットプリンタ10はカラーインクジェットプリンタであるので、図示しないが同様のインク循環システム1は他に3つ組み込まれ、インクジェットプリンタ10には合計4個のインク循環システム1が組み込まれている。
【0029】
更に、インク循環システム1においては、第1のインク循環経路32の他端に接続され、この第1のインク循環経路32を通してプリントヘッド2に供給されるインクを貯溜する第1のインクタンク(上流タンク)31と、第2のインク循環経路42の他端に接続され、この第2のインク循環経路42を通してプリントヘッド2から排出され循環させるインクを貯溜する第2のインクタンク(下流タンク)43とを備えている。第1のインクタンク31にはインク温度調整ユニット5を通して良好なプリント結果を得ることができる温度に調整されたインクが循環し貯溜される。この第1のインクタンク31には、循環されるインクの圧力を調整する大気開放弁34が配設されている。第1のインクタンク31は、プリントヘッド2に供給されるインクの流量並びに圧力を一定に保持する機能を有している。第2のインクタンク43にはプリントヘッド2においてプリントに使用されなかった余剰のインクが回収され貯溜される。第2のインクタンク43とインク温度調整ユニット5との間にはインク循環ポンプ44が配設されている。このインク循環ポンプ44は第2のインクタンク43に回収されたインクをインク温度調整ユニット5を通して第1のインクタンク31に押し上げる。また、第2のインクタンク43には圧力調整器45が接続されている。第2のインクタンク43は、第1のインクタンク31と同様に、循環されるインクの流量並びに圧力を一定に保持する機能を有している。
【0030】
なお、図示しないが、実施例1に係るインク循環システム1には、第2のインク循環経路42又は第2のインクタンク43に接続されたインクボトルが配設されていてもよい。インクボトルは循環されるインク量が減少した場合にインクを補充する機能を持つ。
【0031】
プリントヘッド2はこの数に限定されるものではないが4個のヘッド21、22、23及び24を備え、これらのヘッド21〜24は第1のインク循環経路32の一端にインク分配器33を通して並列に接続されている。インク分配器33は、第1のインク循環経路32からヘッド21〜24のそれぞれに均等にインクを供給する機能を有する。また、ヘッド21〜24のそれぞれはインク集配器41を通して第2のインク循環経路42の一端に接続されている。インク集配器41は、ヘッド21〜24において使用されない余剰のインクを回収し、第2のインク循環経路42に供給する機能を有する。
【0032】
プリントヘッド2のそれぞれのヘッド21〜24には温度検出センサ201〜204が配設されている。この温度検出センサ201〜204は制御ユニット6に接続されている。温度検出センサ201〜204はヘッド21〜24においてインクの温度を検出する機能を有し、この検出された温度は制御ユニット6においてモニタを行っている。なお、温度検出センサ201〜204はプリント直前若しくは直後のインクの温度を最も正確に計測するためにヘッド21〜24に配設されている。ある程度、温度の測定精度が許容される場合には、温度検出センサはインク分配器33、インク集配器41、第1のインク循環経路42、第1のインクタンク31、第2のインク循環経路42、第2のインクタンク43等の少なくともいずれかに配設してもよい。
【0033】
インク温度調整ユニット5は、インク循環システム1において、第1のインクタンク31と第2のインクタンク43との間、詳細には第1のインクタンク31とインク循環ポンプ44を介在した第2のインクタンク43との間に配設されている。インク温度調整ユニット5の第1の温度調整用経路51及び第2の温度調整用経路52は、第1のインクタンク31を通して第1のインク循環経路32に接続されるとともに、第2のインクタンク43を通して第2のインク循環経路42に接続されている。
【0034】
実施例1に係るインク温度調整ユニット5はその内部に加熱ユニット56と冷却ユニット54及び55とを内蔵している。加熱ユニット56は、第1の温度調整用経路51側とは反対側(図1中、右側)において、第2の温度調整用経路52に沿って配設され、この第2の温度調整用経路52内を循環するインクを加熱する機能を有する。このような構造に限定されるものではないが、実施例1においては、インク温度調整ユニット5の小型化を図るために、加熱ユニット56には薄いシート形状の加熱ヒータが使用される。加熱ユニット56は制御ユニット6に接続されている。制御ユニット6は、プリントヘッド2に配設されたインク温度検出センサ201〜204を用いて計測されたインクの温度に応じて、加熱ユニット56のオン及びオフの制御を行う。
【0035】
一方、実施例1に係るインク温度調整ユニット5において、冷却ユニット54には熱伝導性に優れたアルミニウム、銅若しくはそれらの合金を用いて製作された放熱フィンが使用され、冷却ユニット55には冷却ユニット54から放出される熱を強制的にインクジェットプリンタ10の外部に放熱する冷却ファンが使用される。冷却ユニット54は、第2の温度調整用経路52側とは反対側(図1中、左側)において、第1の温度調整用経路51に沿って配設され、この第1の温度調整用経路51内を循環するインクを冷却する機能を有する。冷却ユニット55は、第1の温度調整用経路51との間に冷却ユニット54を介在し、第1の温度調整用経路51に沿って配設され、この第1の温度調整用経路51内を循環するインクを冷却する機能を有する。冷却ユニット55は制御ユニット6に接続されている。制御ユニット6は、プリントヘッド2に配設されたインク温度検出センサ201〜204を用いて計測されたインクの温度に応じて、冷却ユニット55のオン及びオフの制御を行う。
【0036】
なお、冷却ユニット54、55はここでの例示に必ずしも限定されるものではなく、冷却ユニットには水冷方式、電気方式なども採用することができる。また、冷却ユニットにはこれらの方式を併用することもできる。
【0037】
[インク循環システムのインク循環動作]
図1に示すインク循環システム1の全体のインク循環動作は以下の通りである。
【0038】
まず、第1のインクタンク31に貯溜されたインクが第1のインク循環経路32、インク分配器33のそれぞれを通してプリントヘッド2の各ヘッド21〜24に供給される。第1のインクタンク31に貯溜されているインクは、インク温度調整ユニット5を通して循環されたインクであり、良好なプリント結果を得られる温度に調整されている。
【0039】
プリントヘッド2においては用紙にプリントを行うために供給されたインクが消費される。プリントに使用されなかった余剰のインクはインク集配器41を通して回収され、この回収されたインクは第2のインク循環経路42を通して第2のインクタンク43に回収され貯溜される。
【0040】
第2のインクタンク43に貯溜されたインクは逐次インク循環ポンプ44を通してインク温度調整ユニット5に送られる。ここで、プリントヘッド2に装着されたインク温度検出センサ201〜204は循環されるインクの温度を計測し、この結果を制御ユニット6に送信する。制御ユニット6は、このインクの温度の計測結果から、良好なプリント結果を得られるインクの温度か否かを判断し、この判断結果に基づき冷却ユニット55又は加熱ユニット56の動作の制御を行う。良好なプリント結果を保証することができる範囲を逸脱し、インクの温度が低い場合には、制御ユニット6は加熱ユニット56を起動し、インク温度調整ユニット5を通過するインクの温度が高くなるように調整される。逆に、インクの温度が高い場合には、冷却ユニット54及び55によって、インク温度調整ユニット5を通過するインクの温度が低くなるように調整される。なお、ここでは、2種類の冷却ユニット54及び55が使用されており、インク温度調整ユニット5に循環されるインク温度や周囲の環境温度によっては、冷却ユニット55は稼働させずに、冷却ユニット54によって冷却を行うことができる。
【0041】
インク温度調整ユニット5において温度調整がなされたインクは、再び第1のインクタンク31に循環され、この第1のインクタンク31に貯溜される。
【0042】
[インク温度調整ユニットの構成]
前述の図1に示すように、実施例1に係るインク温度調整ユニット5は、第1の温度調整用経路51と、第2の温度調整用経路52と、冷却ユニット54及び55と、加熱ユニット56とを備えている。ここで、冷却ユニット54、55、加熱ユニット56の少なくともいずれか1つはこのインク温度調整ユニット5の外付け装置として構築してもよい。
【0043】
図3、図4(A)及び図4(B)に示すように、実施例1に係るインク温度調整ユニット5は、第1の熱交換ブロック510と、第2の熱交換ブロック520と、集合部532と、分岐部531とを備えている。第1の熱交換ブロック510は、第1のインク循環経路32側の第1の表面(図3中、上側表面)から第2のインク循環経路42側の第2の表面(図3中、下側裏面)に達する第1の熱交換経路511を有する。第1の熱交換ブロック510は、第1の熱交換経路511に流れるインクの熱を冷却ユニット54に効率良く伝達することができるように、冷却ユニット54との接触面が大きく、第1の熱交換経路511と冷却ユニット54との距離が短い、ここでは直方体形状により構成されている。第1の熱交換ブロック510の材料には熱伝導性に優れたアルミニウム、銅若しくはそれらの合金等の金属材料が好ましく使用されるが、これに限られるものではない。第1の熱交換経路511は、この本数に限定されるものではないが、ここの説明においては並列に3本配列されている。第1の熱交換経路511は、この説明においては正方形形状の開口を有し、均一な断面積を有する貫通孔である。第1の熱交換ブロック510は、例えばアルミニウム若しくはその合金を材料として使用する場合、例えば鋳造特にアルミダイキャスト法を用いて製作される。
【0044】
第2の熱交換ブロック520は、第1のインク循環経路32側の第3の表面(図3中、上側表面)から第2のインク循環経路42側の第4の表面(図3中、下側裏面)に達する第2の熱交換経路521を有する。第2の熱交換ブロック520は、加熱ユニット56から第2の熱交換経路521(及び522)に流れるインクに効率良く熱を伝達し、インクを温めることができるように、加熱ユニット56との接触面が大きく、第2の熱交換経路521と加熱ユニット56との距離が短い、ここでは第1の熱交換ブロック510と同様に直方体形状により構成されている。ここでは、第1の熱交換ブロック510の外径サイズに対して第2の熱交換ブロック520の外径サイズは同等に設定されている。第2の熱交換ブロック520の材料には第1の熱交換ブロック510の材料と同様の材料が使用されている。また、第2の熱交換経路の本数は、この本数に限定されるものではないが、第1の熱交換経路511の本数と同様に並列に3本配列されている。ここでは第2の熱交換経路521は、第2のインク循環経路42側の第4の表面から第3の表面まで至らない区間において、第1の熱交換経路511の開口の形状と同様の正方形形状を持ちかつ同等のサイズに設定され、均一な断面積を有する貫通孔である。第2の熱交換ブロック520は、第1の熱交換ブロック510と同様の材料を用い同様の加工法を用いて製作される。
【0045】
ここで、第2の熱交換ブロック520において、第2の熱交換経路521の第3の表面に至らない箇所から第3の表面までの区間、つまり第2の熱交換経路521の第1のインク循環経路32側の一部には、この第2の熱交換経路521の流路抵抗を増加する抵抗経路521が配設されている。実施例1に係るインク温度調整ユニット5は、インクの循環中、第1の温度調整用経路51及び第2の温度調整用経路52に同時にインクを循環する機構を採用しており、第1の温度調整用経路51及び第2の温度調整用経路52には常時インクが循環されている(流れている)。第2の温度調整用経路52に抵抗経路522を配設することによって、この第2の温度調整用経路52の流路抵抗は、第1の温度調整用経路51、第2の温度調整用経路52のそれぞれに循環されるインクの温度が同一の場合において、第1の温度調整用経路51の流路抵抗に比べて高くなる。更に、第2の温度調整用経路52に抵抗経路522を配設することによって、第2の温度調整用経路52に循環されるインクの流量は、第1の温度調整用経路51に循環されるインクの温度に対して第2の温度調整用経路52に循環されるインクの温度が一定温度以上高くなった場合において、第1の温度調整用経路51に循環されるインクの流量に対して多くなる。
【0046】
実施例1に係るインク温度調整ユニット5は、インクの流路抵抗がインク温度の上昇に伴い減少する性質に着目し、第1の温度調整用経路51、第2の温度調整用経路52のそれぞれに循環されるインクの温度を調整することによって、インクの第1の温度調整用経路51、第2の温度調整用経路52のそれぞれに循環される流量をインク自身が自己調整する機能を有している。つまり、インク温度調整ユニット5は、インク温度が良好なプリント結果を得ることができる温度範囲より高い場合には、インクの冷却に使用される第1の温度調整用経路51に循環されるインクの流量を自動的に増加し、インク温度が良好なプリント結果を得ることができる温度範囲より低い場合には、インクの加熱に使用される第2の温度調整用経路52に循環されるインク流量を自動的に増加する機能を有する。この第1の温度調整用経路51、第2の温度調整用経路52のそれぞれに循環されるインクの流量調整には、電磁弁のような機械的手段や電磁弁を制御する制御システムを組み込む必要はない。
【0047】
実施例1に係る抵抗経路522は、第2の熱交換経路521の開口形状と同一の正方形形状であって一回り小さいサイズを有する相似形状により形成され、この経路に沿って均一な断面積を有している。この抵抗経路522の変形例は後に説明する。
【0048】
インク温度調整ユニット5の集合部532は、第1の熱交換ブロック510の第1の表面上及び第2の熱交換ブロック520の第3の表面上つまり図3中上方に配設され、第1の熱交換経路511と第1のインク循環経路32(実際には第1のインクタンク31)とを接続する第1の集合経路5321及び第2の熱交換経路521(実際にはその抵抗経路522)と第1のインク循環経路32(実際には第1のインクタンク31)とを接続する第2の集合経路5322を有する。この集合部532は、第1の熱交換経路511に循環されるインクと第2の熱交換経路521に循環されるインクとを合流させ、温度調整がなされたこの合流されたインクを第1のインクタンク31に循環させる機能を有する。集合部532は、第1の熱交換ブロック510及び第2の熱交換ブロック520側の底面積が第1のインク循環経路32側の上面積に比べて大きい台形形状により構成されている。第1の集合経路5321及び第2の集合経路5322の2つの経路が1つに集合される複雑な内部形状を有するので、実施例1に係る集合部532は、その製作が容易な例えば樹脂材料を用い、金型を用いて成形する手法により製作されている。集合部532の第1の熱交換ブロック510及び第2の熱交換ブロック520への装着には、インク漏れを防止するパッキンを用いるか、又はパッキンの機能を有する接着剤が使用されている。
【0049】
分岐部531は、第1の熱交換ブロック510の第2の表面上及び第2の熱交換ブロック520の第4の表面上つまり図3中下方に配設され、第1の熱交換経路511と第2のインク循環経路42(実施際にはインク循環ポンプ44)とを接続する第1の分岐経路5311及び第2の熱交換経路52と第2のインク循環経路42(実際にはインク循環ポンプ44)とを接続する第2の分岐経路5312を有する。分岐部531は、第2のインク循環経路42から第1の熱交換経路511に循環されるインクと第2の熱交換経路521に循環されるインクとを分流させる機能を有する。分岐部531は、第1の熱交換ブロック510及び第2の熱交換ブロック520側の底面積が第2のインク循環経路42側の上面積に比べて大きい台形形状により構成されている。第1の分岐経路5311及び第2の分岐経路5312の2つの経路が1つに集合される複雑な内部形状を有するので、実施例1に係る分岐部531は、集合部532と同様に例えば樹脂材料を用い、同様の手法により製作されている。分岐部531の第1の熱交換ブロック510及び第2の熱交換ブロック520への装着方法は集合部532の装着方法と同様である。
【0050】
実施例1に係るインク温度調整ユニット5のインクの冷却に使用する第1の温度調整用経路51は、分岐部531の第1の分岐経路5311、第1の熱交換ブロック510の第1の熱交換経路511及び集合部532の第1の集合経路5321を連接して構築されている。同様に、インクの加熱に使用する第2の温度調整用経路52は、分岐部531の第2の分岐経路5312、第2の熱交換ブロック520の第2の熱交換経路521並びに抵抗経路522及び集合部532の第2の集合経路5322を連接して構築されている。
【0051】
第1の熱交換ブロック510と第2の熱交換ブロック520との間は適度な空間を持って離間され、この状態において第1の熱交換ブロック510及び第2の熱交換ブロック520は挟持体57によって挟まれ保持される。第1の熱交換ブロック510と第2の熱交換ブロック520との間の空間には熱伝導性が悪い空気が入り込み、この空気を用いて双方の間は熱的に遮断されている。つまり、第1の熱交換ブロック510と第2の熱交換ブロック520との間には熱交換が生じにくくなっており、インクの冷却効率、加熱効率のそれぞれを向上することができる。
【0052】
挟持体57は、第1の熱交換ブロック510の対向する両側面、第2の熱交換ブロック520の対向する両側面及び第2の熱交換ブロック520の加熱ユニット56側の側面に沿い、上方から見てコの字形状を有する。挟持体57は、第2の熱交換ブロック520との間に加熱ユニット56を取り囲むように配設され、加熱ユニット56から発生する熱を第2の熱交換ブロック520に効率良く伝達する。挟持体57は例えば金属製の材料に折り曲げ加工を施して製作される。また、挟持体57は例えば樹脂材料を用い、成形により製作してもよい。
【0053】
[インク温度調整ユニットのインク循環動作]
実施例1に係るインク温度調整ユニット5のインク循環動作は以下の通りである。図5(A)に示すインク温度調整ユニット5は、加熱ユニット56、冷却ユニット54及び55のいずれも稼働していない状態である。プリントヘッド2から回収されたインクは第2のインク循環経路42、第2のインクタンク43、インク循環ポンプ44のそれぞれを通してインク温度調整ユニット5に流れる。このインクは、インク温度調整ユニット5の分岐部531に流入され、分岐部531の第1の分岐経路5311、第1の熱交換ブロック510の第1の熱交換経路511及び集合部532の第1の集合経路5321により構築される第1の温度調整用経路51を通して第1のインクタンク31に循環される。一方、分岐部531に流入されたインクはその第2の分岐経路5312に分流され、このインクは第2の熱交換ブロック520の第2の熱交換経路521、抵抗経路522及び集合部532の第2の集合経路5322により構築される第2の温度調整用経路52を通して第1の温度調整用経路51に流れるインクと合流した後に第1のインクタンク31に循環される。
【0054】
ここで、第1の温度調整用経路51、第2の温度調整用経路52のそれぞれに流れるインクの温度差がほとんど生じない場合、第2の温度調整用経路52には抵抗経路522が配設されているので、第2の温度調整用経路52に流れるインクの流量は第1の温度調整用経路51に流れるインクの流量に比べて少なくなる。
【0055】
図5(B)に示すインク温度調整ユニット5は加熱ユニット56を稼働した状態である。つまり、インクの温度が低く、良好なプリント結果を得ることができる温度の範囲に満たない場合、インク温度調整ユニット5は加熱ユニット56を用いてインクを加熱する。前述の図5(A)に示すインク温度調整ユニット5において、第2の温度調整用経路52の第2の熱交換経路521の出口付近(第1のインク循環経路32側の一部)には抵抗経路522が配設されているので、その出口付近に至るまでの第2の熱交換経路521に流れるインクの流速は、第1の熱交換経路511に流れるインクの流速に比べて遅くなる。つまり、第2の温度調整用経路521にインクが滞留している時間が長くなり、この状態において加熱ユニット56から加熱を行えば、第2の温度調整用経路52を流れるインクを効率良く温めることができる。
【0056】
加熱ユニット56の稼働によってインクの温度が上昇していくと、インクの粘度が低下し、インクの流路抵抗が減少するので、図5(B)に示すように、抵抗経路522を流れるインクの流量が増加し、結果的に第2の温度調整用経路52を流れるインクの流量が増加する。つまり、第2の温度調整用経路52に流れるインクの循環を良くし、加熱ユニット56を用いて加速的にインク温度を高めることができる。
【0057】
図5(C)に示すインク温度調整ユニット5は、冷却ユニット54を利用した状態、又は冷却ユニット54の利用と併せて冷却ユニット55を稼働した状態である。つまり、インク温度は、加熱ユニット56の稼働に伴い上昇し、又プリント動作が連続して実行されプリントヘッド2やインクジェットプリンタ10の各部の動作によって発生する熱に伴い上昇する。このようにしてインクの温度が、良好なプリント結果を得ることができる温度の範囲を越えた場合、インク温度調整ユニット5は冷却ユニット54、又は冷却ユニット54及び55を用いてインクを冷却する。
【0058】
例えば、前述の図5(B)に示すインク温度調整ユニット5において、良好なプリント結果を得ることができる温度の範囲を越えた場合、冷却ユニット54によって又は併せて冷却ユニット55が稼働し、第1の温度調整用経路51に流れるインクが冷却される。併せて、加熱ユニット56の稼働が停止され又は停止されているので、第2の温度調整用経路52に流れるインクは冷却される。この第2の温度調整用経路52に流れるインクの温度が低下すると、インクの粘性が高くなり、インクの流路抵抗が増加する。前述の図5(A)に示す状態に近づき、第2の温度調整用経路52の第2の熱交換経路521の出口付近には抵抗経路522が配設されているので、この抵抗経路522におけるインクの流れが抑制され、その分、図5(C)に示すように、第1の温度調整用経路51に流れるインクの流量が増加する。つまり、第1の温度調整用経路51に流れるインクの流量が増加され、このインクの熱は第1の温度調整用経路51において冷却ユニット54、55に伝達され(熱交換がなされ)、インクを効率良く冷却することができる。
【0059】
このようにインク温度調整ユニット5においては、第2のインク循環経路42から分岐され、第1のインク循環経路32に集合される第1の温度調整用経路51及び第2の温度調整用経路52を備え、更に第2の温度調整用経路52に抵抗経路522を備えるとともに、インクの温度の上昇に従い流路抵抗が減少するインクの特性を利用することによって、第1の温度調整用経路51、第2の温度調整用経路52に流れるインクの循環流量を自己調整することができる(インク自身が自動的に流量を調整することができる)。つまり、インク温度調整ユニット5は、インクの温度が高い場合には、冷却に使用される第1の温度調整用経路51に流れるインクの流量を自己調整によって増加し、冷却効率を高め、インク温度が低い場合には、加熱に使用される第1の温度調整用経路52に流れるインクの流量を自己調整によって増加し、加熱効率を高められる。
【0060】
[インク温度調整ユニットにおけるインク流量と流路抵抗との関係]
次に、実施例1に係るインク温度調整ユニット5において、第1の温度調整用経路51と第2の温度調整用経路52とに流れるインクの流量と抵抗経路522との具体的な関係の一例は以下の通りである。
【0061】
ここでの計算に使用されるインク温度調整ユニット(モデル)5は、図5(A)及び図5(B)に示すように、冷却に使用される第1の熱交換ブロック510のインク循環方向の長さはL、第1の温度調整用経路51の第1の熱交換経路511の開口形状は円形状に設定されその直径はΦAである。第1の熱交換ブロック510には合計6本の第1の熱交換経路511が等間隔において並列に配列されている。第1の熱交換ブロック510は後述する図8及び図9を用いた説明において「熱交換器A」と表記する。
【0062】
また、加熱に使用される第2の熱交換ブロック520のインク循環方向の長さは第1の熱交換ブロック510と同様にLである。第2の温度調整用経路51の第2の熱交換経路521の第4の表面からの長さはL1、第2の熱交換経路521の開口形状は円形状に設定され、その直径はΦB1である。第2の熱交換経路521に配設された抵抗経路522の第3の表面からの長さはL2、抵抗経路522の開口形状は円形状に設定され、その直径はΦB2である。第2の熱交換ブロック520には合計6本の第2の熱交換経路521が等間隔において並列に配列され、同様にこの第2の熱交換経路521に直結して合計6本の抵抗経路522が等間隔において並列に配列されている。第2の熱交換ブロック520は後述する図8及び図9を用いた説明において「熱交換器B」と表記する。
【0063】
実施例1に係るインク循環システム1において、図7に示すように、使用されるインクは、温度(℃)の上昇に従いインク粘度(mPa・s)が低下する性質を有する。例えば、インクジェットプリンタ10の使用可能環境温度が10℃〜35℃に設定されている場合、インク温度が10℃のときのインク粘度は18.0mPa・sであり、インク温度が35℃に上昇したときのインク粘度は7.4mPa・sになる。
【0064】
第1の熱交換経路511、第2の熱交換経路521、抵抗経路522の各経路において、インク流量(mL/s)及び流路抵抗(Pa・s/m3)は以下の手順に従い算出される。まず、経路の層流円管内の圧力損失は下記(1)式に基づき算出される。
【0065】
ΔP=8・μ・u・l/r2 …(1)
ここで、(1)式中、ΔPは差圧、μは粘性係数、uは平均流速、lは経路長(L、L1又はL2)、rは半径(ΦA/2、ΦB1/2、ΦB2/2)である。経路の円管内の流量は下記(2)式に基づき算出される。
【0066】
Q=u・A=u・(π・r2) …(2)
(2)式中、Qは経路内の流量、Aは経路の円管内の断面積である。この流量を計算する(2)式は経路内の圧力損失と流路抵抗とを含めた下記(3)式により表すことができる。
【0067】
Q=ΔP/R …(3)
(3)式中、Rは経路の流路抵抗である。上記(3)式に上記(1)式及び(2)式を代入し展開すると、流路抵抗を下記(4)式に基づき算出することができる。
【0068】
R=8・μ・l/(π・r4) …(4)
上記計算式を用いて、インク温度調整ユニット5の第1の熱交換経路511及び第2の熱交換経路521に循環されるインクの流量と流路抵抗との温度依存性を図8に示すように算出することができる。ここで、熱交換器A(第1の熱交換ブロック510)の第1の熱交換経路511の長さLは300mm、直径ΦAは4mm、熱交換器B(第2の熱交換ブロック520)の第2の熱交換経路521の長さL1は190mm、直径ΦB1は4mm、抵抗経路522の長さL2は110mm、直径ΦB2は3.9mmに設定される。図8中、横軸は段階的(ここでは5℃毎)に変化する温度上昇に対する流路抵抗(Pa・s/m3)を示す。この温度はインク温度調整ユニット5に入ってくるインクの温度である。縦軸は、双方の経路の合計の流路抵抗(Pa・s/m3)、熱交換器Aの流量(mL/s)、熱交換器Bの流量(mL/s)、熱交換器Aの流量を1としたときの熱交換器Bの流量比(A/B)のそれぞれを示す。流路抵抗、流量、流量比の各項目には、第1の温度調整用経路511、第2の温度調整用経路521のそれぞれに循環されるインクの温度差毎、具体的には同温、5℃、10℃、15℃及び20℃の温度差毎に算出された結果が示されている。この温度差はインク温度調整ユニット5から出るときのインクの温度である。
【0069】
(1)インク温度が同温(低温)のときのインク流量と流路抵抗との関係
インク温度調整ユニット5は前述の図5(A)に示す状態にあり、インク循環システム1の経路内のインク温度が10℃、インク温度調整ユニット5の熱交換器Aの第1の熱交換経路511に循環されるインク温度が10℃、熱交換器Bの第2の熱交換経路521に循環されるインク温度が10℃の同温のとき、以下の計算結果が算出される。
【0070】
6本の第1の熱交換経路511の流路抵抗:1.433×10-4Pa・s/m3
6本の第2の熱交換経路521の流路抵抗:9.077×10-5Pa・s/m3
6本の抵抗経路522の流路抵抗 :5.815×10-5Pa・s/m3
合計の流路抵抗 :7.303×10-5Pa・s/m3
熱交換器Aの流量 :1.529mL/s
熱交換器Bの流量 :1.471mL/s
流量比 :0.96
この算出結果から、インク温度調整ユニット5の第1の熱交換経路511と第2の交換経路521とに流れるインクの温度が同温の場合には、抵抗経路522に基づく流路抵抗が存在する分、第2の熱交換経路521に流れるインクの流量が減少する。第2の熱交換経路521に流れるインクの流量は第1の熱交換経路511に流れるインクの流量の0.96倍である。
【0071】
(2)インクが加熱されたときのインク流量と流路抵抗との関係
インク温度調整ユニット5は前述の図5(B)に示す状態にあり、インク循環システム1の経路内のインク温度が10℃、加熱ユニット56を稼働し、インク温度調整ユニット5の熱交換器Bの第2の熱交換経路521に循環されるインク温度が15℃上昇して25℃に達したとき、以下の計算結果が算出される。
【0072】
合計の流路抵抗 :6.625×10-5Pa・s/m3
熱交換器Aの流量 :1.387mL/s
熱交換器Bの流量 :1.613mL/s
流量比 :1.16
この算出結果から、インク温度調整ユニット5において、加熱ユニット56を稼働し、第2の温度調整用経路52を加熱する場合には、抵抗経路522を含む第2の熱交換経路521に流れるインクの粘度が低下し、流路抵抗が減少し、第2の熱交換経路521に流れるインクの流量が増加する。第1の熱交換経路511に流れるインクの流量は相対的に減少する。第2の熱交換経路522に流れるインクの流量は第1の熱交換経路511に流れるインクの流量の1.16倍に達する。
【0073】
(3)インク温度が同温(高温)のときのインク流量と流路抵抗との関係
インク温度調整ユニット5は前述の図5(A)に示す状態にあり、インク循環システム1の経路内のインク温度が40℃、インク温度調整ユニット5の熱交換器Aの第1の熱交換経路511に循環されるインク温度が40℃、熱交換器Bの第2の熱交換経路521に循環されるインク温度が40℃の同温のとき、以下の計算結果が算出される。
【0074】
6本の第1の熱交換経路511の流路抵抗:5.140×10-5Pa・s/m3
6本の第2の熱交換経路521の流路抵抗:3.256×10-5Pa・s/m3
6本の抵抗経路522の流路抵抗 :2.086×10-5Pa・s/m3
合計の流路抵抗 :2.619×10-5Pa・s/m3
熱交換器Aの流量 :1.529mL/s
熱交換器Bの流量 :1.471mL/s
流量比 :0.96
この算出結果から、インク温度調整ユニット5の第1の温度調整用経路51と第2の温度調整用経路52とに流れるインクの温度が同温の場合には、上記(1)の計算結果と同様に、抵抗経路522に基づく流路抵抗が存在する分、第2の熱交換経路521に流れるインクの流量が減少する。第2の熱交換経路521に流れるインクの流量は第1の熱交換経路51に流れるインクの流量の0.96倍である。
【0075】
(4)インクが冷却されたときのインク流量と流路抵抗との関係
インク温度調整ユニット5は前述の図5(C)に示す状態にあり、インク循環システム1の経路内のインク温度が40℃、冷却ユニット54によって、又は冷却ユニット54に併せて冷却ユニット55を稼働し、インク温度調整ユニット5の熱交換器Aの第1の熱交換経路511に循環されるインク温度が5℃下降して35℃に達したとき、以下の計算結果が算出される。
【0076】
合計の流路抵抗 :2.713×10-5Pa・s/m3
熱交換器Aの流量 :1.476mL/s
熱交換器Bの流量 :1.524mL/s
流量比 :1.03
この算出結果から、インク温度調整ユニット5において、冷却ユニット54によって、又は冷却ユニット54に併せて冷却ユニット55を稼働し、第1の温度調整用経路51を冷却する場合には、抵抗経路522を含む第2の熱交換経路521に流れるインクの粘度が増加し、流路抵抗が増加し、第2の熱交換経路521に流れるインクの流量が減少する。そして、第1の熱交換経路511に流れるインクの流量は相対的に増加する。第2の熱交換経路521に流れるインクの流量は第1の熱交換経路51に流れるインクの流量の1.03倍に減少する。
【0077】
図9は、インク温度調整ユニット5の熱交換器Aの第1の熱交換経路511のサイズ、熱交換器Bの抵抗経路522のサイズを変えて、第1の熱交換経路511及び第2の熱交換経路521に循環されるインクの流量と流路抵抗との温度依存性を算出した算出結果である。ここで、熱交換器A(第1の熱交換ブロック510)の第1の熱交換経路511の長さLは300mm、直径ΦAは3mm、熱交換器B(第2の熱交換ブロック520)の第2の熱交換経路521の長さL1は190mm、直径ΦB1は4mm、抵抗経路522の長さL2は110mm、直径ΦB2は2.4mmに設定される。図9中の横軸及び横軸の各項目は図8中の横軸及び縦軸の各項目と同一である。
【0078】
(5)インク温度が同温(低温)のときのインク流量と流路抵抗との関係
インク温度調整ユニット5は前述の図5(A)に示す状態にあり、インク循環システム1の経路内のインク温度が10℃、インク温度調整ユニット5の熱交換器Aの第1の熱交換経路511に循環されるインク温度が10℃、熱交換器Bの第2の熱交換経路521に循環されるインク温度が10℃の同温のとき、以下の計算結果が算出される。
【0079】
6本の第1の熱交換経路511の流路抵抗:4.530×10-4Pa・s/m3
6本の第2の熱交換経路521の流路抵抗:9.077×10-5Pa・s/m3
6本の抵抗経路522の流路抵抗 :4.055×10-4Pa・s/m3
合計の流路抵抗 :2.368×10-4Pa・s/m3
熱交換器Aの流量 :1.568mL/s
熱交換器Bの流量 :1.432mL/s
流量比 :0.91
この算出結果から、インク温度調整ユニット5の第1の熱交換経路511と第2の交換経路521とに流れるインクの温度が同温の場合には、抵抗経路522に基づく流路抵抗が存在する分、第2の熱交換経路521に流れるインクの流量が減少する。第2の熱交換経路521に流れるインクの流量は第1の熱交換経路511に流れるインクの流量の0.91倍である。
【0080】
(6)インクが加熱されたときのインク流量と流路抵抗との関係
インク温度調整ユニット5は前述の図5(B)に示す状態にあり、インク循環システム1の経路内のインク温度が10℃、加熱ユニット56を稼働し、インク温度調整ユニット5の熱交換器Bの第2の熱交換経路521に循環されるインク温度が15℃上昇して25℃に達したとき、以下の計算結果が算出される。
【0081】
合計の流路抵抗 :1.865×10-4Pa・s/m3
熱交換器Aの流量 :1.235mL/s
熱交換器Bの流量 :1.765mL/s
流量比 :1.43
この算出結果から、インク温度調整ユニット5において、加熱ユニット56を稼働し、第2の温度調整用経路52を加熱する場合には、抵抗経路522を含む第2の熱交換経路521に流れるインクの粘度が低下し、流路抵抗が減少し、第2の熱交換経路521に流れるインクの流量が増加する。第1の熱交換経路511に流れるインクの流量は相対的に減少する。第2の熱交換経路522に流れるインクの流量は第1の熱交換経路511に流れるインクの流量の1.43倍に達する。
【0082】
図9に示す例においては、第2の熱交換経路521の直径ΦB1に対して第1の熱交換経路511の直径ΦAが小さく設定され、更に第1の熱交換経路511の直径ΦAは抵抗経路の直径ΦB2に対して大きく設定されている。第1の熱交換経路511の直径ΦAが小さく設定されることによって、第2の熱交換経路522に流れるインクの流量は増大する。
【0083】
(7)インク温度が同温(高温)のときのインク流量と流路抵抗との関係
インク温度調整ユニット5は前述の図5(A)に示す状態にあり、インク循環システム1の経路内のインク温度が40℃、インク温度調整ユニット5の熱交換器Aの第1の熱交換経路511に循環されるインク温度が40℃、熱交換器Bの第2の熱交換経路521に循環されるインク温度が40℃の同温のとき、以下の計算結果が算出される。
【0084】
6本の第1の熱交換経路511の流路抵抗:1.625×10-4Pa・s/m3
6本の第2の熱交換経路521の流路抵抗:3.256×10-5Pa・s/m3
6本の抵抗経路522の流路抵抗 :1.454×10-4Pa・s/m3
合計の流路抵抗 :8.494×10-5Pa・s/m3
熱交換器Aの流量 :1.568mL/s
熱交換器Bの流量 :1.432mL/s
流量比 :0.91
この算出結果から、インク温度調整ユニット5の第1の温度調整用経路51と第2の温度調整用経路52とに流れるインクの温度が同温の場合には、上記(1)の計算結果と同様に、抵抗経路522に基づく流路抵抗が存在する分、第2の熱交換経路521に流れるインクの流量が減少する。第2の熱交換経路521に流れるインクの流量は第1の熱交換経路51に流れるインクの流量の0.91倍である。
【0085】
(8)インクが冷却されたときのインク流量と流路抵抗との関係
インク温度調整ユニット5は前述の図5(C)に示す状態にあり、インク循環システム1の経路内のインク温度が40℃、冷却ユニット54によって、又は冷却ユニット54に併せて冷却ユニット55を稼働し、インク温度調整ユニット5の熱交換器Aの第1の熱交換経路511に循環されるインク温度が5℃下降して35℃に達したとき、以下の計算結果が算出される。
【0086】
合計の流路抵抗 :8.806×10-5Pa・s/m3
熱交換器Aの流量 :1.516mL/s
熱交換器Bの流量 :1.484mL/s
流量比 :0.98
この算出結果から、インク温度調整ユニット5において、冷却ユニット54によって、又は冷却ユニット54に併せて冷却ユニット55を稼働し、第1の温度調整用経路51を冷却する場合には、抵抗経路522を含む第2の熱交換経路521に流れるインクの粘度が増加し、流路抵抗が増加し、第2の熱交換経路521に流れるインクの流量が減少する。そして、第1の熱交換経路511に流れるインクの流量は相対的に増加する。第2の熱交換経路521に流れるインクの流量は第1の熱交換経路51に流れるインクの流量の0.98倍に減少する。
【0087】
[インク温度調整ユニットの変形例]
前述の実施例1に係るインクジェットプリンタ10において、インク温度調整ユニット5の抵抗経路522は以下に説明する第1の変形例〜第12の変形例のように変形可能である。
【0088】
第1の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、前述の図6(A)及び図6(B)に示す計算モデルにおいても説明したが、図10(A)及び図10(B)に示すように、第1の熱交換ブロック510の第1の熱交換経路511、第2の熱交換ブロック520の第2の熱交換経路521及び抵抗経路522の開口形状を円形状により構成している。抵抗経路522は第1のインク循環経路32側つまり第2の熱交換ブロック520の出口付近に配設され、抵抗経路522の直径は第2の熱交換経路521(及び第1の熱交換経路511)の直径に対して小さく設定されている。抵抗経路522は第2の熱交換経路521の経路径を部分的に縮小した構造になっている。
【0089】
第2の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図11(A)及び図11(B)に示すように、第1の変形例に係るインク温度調整ユニット5と基本的な構成は同様であるが、抵抗経路522のインク循環方向の管径を徐々に小さく、抵抗経路522の断面形状をテーパ形状に構成している。抵抗経路522の第2の熱交換経路521との連結部分の直径はこの第2の熱交換経路521の直径と同一である。抵抗経路522の第1のインク循環経路32側の直径は第2の熱交換経路521との連結部分の直径に比べて小さい。
【0090】
第3の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図12(A)及び図12(B)に示すように、第2の熱交換経路521の出口側近傍の途中に、第2の熱交換経路521の直径よりも小さな直径を有する抵抗経路522を配設している。
【0091】
第4の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図13(A)及び図13(B)に示すように、第1の変形例に係るインク温度調整ユニット5と基本的な構成は同様であるが、円形状の開口形状を有する第1の熱交換経路511及び第2の熱交換経路521に対して、抵抗経路522の開口形状を正方形形状に構成しその流路抵抗を増加している。
【0092】
第5の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図14(A)及び図14(B)に示すように、第4の変形例に係るインク温度調整ユニット5の更なる変形例であり、抵抗経路522の開口形状を三角形形状に構成しその流路抵抗を増加している。
【0093】
第6の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図15(A)及び図15(B)に示すように、抵抗経路522を第2の熱交換ブロック520内においてインク循環方向に向かって蛇行させ、この抵抗経路522の流路抵抗を増加している。
【0094】
第7の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図16(A)及び図16(B)に示すように、第2の熱交換ブロック520の抵抗経路522の部分の材質を流路抵抗が増加する材料に代えたものである。つまり、抵抗経路522は、部分的に経路内壁の粗さを粗くし、流路抵抗を増加している。抵抗経路522の実効的な流路抵抗が高くなれば、第2の熱交換経路521の直径と抵抗経路522の直径とは同一に設定されていてもよい。
【0095】
第8の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図17(A)及び図17(B)に示すように、第2の熱交換ブロック520の抵抗経路522を第2の熱交換経路521の直径に比べて小さい直径を有する複数本並列に配列した経路により構成している。この抵抗経路522の部分は、第7の変形例に係るインク温度調整ユニット5と同様に、第2の熱交換ブロック520とは別の加工し易い材料により製作してもよい。
【0096】
第9の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図18(A)及び図18(B)に示すように、第2の熱交換ブロック520の抵抗経路522を複数の孔を有するメッシュ部材により構成している。
【0097】
第10の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図19に示すように、前述の抵抗経路522の機能を、第2の熱交換ブロック520に備えるのではなく、集合部532の第2の集合経路5322に備えたものである。つまり、この集合部532の第2の集合経路5322の直径が第2の熱交換経路521の直径に比べて小さく設定されている。なお、分岐部531の第1の熱交換経路511に接続される第1の分岐経路5311は、第2の集合経路5322と同様に直径が小さく設定されているが、実施例1に係る抵抗経路522としては機能しない。むしろ、分岐部531と集合部532とを同一構造により製作することができる利点がある。
【0098】
第11の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図20に示すように、前述の抵抗経路522の機能と同様の機能を有する抵抗経路5332を有するブロック533を製作し、このブロック533を第2の熱交換ブロック520と集合部532との間に配設している。ブロック533の抵抗経路5332と第2の熱交換ブロック520の第2の熱交換経路521、集合部532の第2の集合経路5322のそれぞれとは連接されている。抵抗経路5332の直径は第2の熱交換経路521の直径に比べて小さい。なお、ブロック533は第1の熱交換ブロック510と集合部532との間にも配設され、このブロック533には第1の熱交換ブロック510の第1の熱交換経路511と集合部532の第1の集合経路5321とを連接する経路5331が配設されている。
【0099】
第12の変形例に係るインク温度調整ユニット5は、図21に示すように、第2の熱交換ブロック520の第2の熱交換経路521の経路径をインク循環方向に向かって段階的に縮小し、この経路径を縮小した領域を抵抗経路522として機能させている。ここでは、第1の熱交換ブロック510の第1の熱交換経路511の経路径をインク循環方向に向かって段階的に拡大しているが、この第1の熱交換経路511は実施例1に係る抵抗経路522として機能しない。
【0100】
[実施例1の特徴]
以上説明したように、実施例1に係るインクジェットプリンタ10は、第2のインク循環経路42からインクの循環を分岐し、第1のインク循環経路32にインクの循環を集合される第1の温度調整用経路51及び第2の温度調整用経路52を有し、第2の温度調整用経路52に抵抗経路522を有し、インクの循環流量を自己調整することができるインク温度調整ユニット5を備える。このインク温度調整ユニット5においては、循環されるインクを加熱したいときに第2の温度調整用経路52に流れるインクの流量を増加し、冷却したいときに第1の温度調整用経路52に流れるインクの流量を増加することが自動的に行える。従って、電磁弁並びにその制御システムを用いることなく、簡易な構成において、インク循環システム1に循環されるインクの加熱効率並びに冷却効率を向上することができる。
【0101】
また、実施例1に係るインク温度調整ユニット5は、このように簡易な構成を有することから、製作が容易になり、製作コストを減少することができる。結果的に、インクジェットプリンタ10の構成が簡易になり、製作が容易になるとともに、製作コストを削減すことができる。
【0102】
また、実施例1に係るインク温度調整ユニット5においては、熱交換に用いる第1の熱交換ブロック510及び第2の熱交換ブロック520に対して、若干複雑な内部経路を有する、インクを分岐させる分岐部531及びインクを集合させる集合部532を別部品として備えたので、製作を容易に行うことができる。
【0103】
(実施例2)
本発明の実施例2は、前述の実施例1に係るインクジェットプリンタ10のインク温度調整ユニット5において、加熱ユニット56の配置位置を代えた例を説明するものである。
【0104】
実施例2に係るインク温度調整ユニット5は、図22及び図23に示すように、基本的な構造は前述の実施例1に係るインク温度調整ユニット5と同様であるが、第2の熱交換ブロック520を第1の熱交換ブロック510に対して一定間隔離間して併設し、第1の熱交換ブロック510と第2の熱交換ブロック520との間において第2の熱交換ブロック520に加熱ユニット56を装着している。加熱ユニット56の構成は前述の実施例1に係る加熱ユニット56の構成と同一である。
【0105】
このように構成される実施例2に係るインクジェットプリンタ10のインク温度調整ユニット5においては、第1の熱交換ブロック510と第2の熱交換ブロック520との間に加熱ユニット56を配設している。この加熱ユニット56を配設したことにより、第1の熱交換ブロック510と第2の熱交換ブロック520との間の熱伝達経路が遮断され、第2の熱交換ブロックの第2の熱交換経路521に流れるインクの熱の第1の熱交換ブロック510側への流れを抑制することができる。更に、第2の熱交換経路521は第1の熱交換ブロック510側から加熱されるので、第2の熱交換経路521に流れるインクの加熱効率を向上することができる。
【0106】
(実施例3)
本発明の実施例3は、前述の実施例1に係るインクジェットプリンタ10のインク温度調整ユニット5と実施例2に係るインクジェットプリンタ10のインク温度調整ユニット5とを組み合わせた例を説明するものである。
【0107】
実施例3に係るインク温度調整ユニット5は、図24及び図25に示すように、実施例1に係るインク温度調整ユニット5の加熱ユニット56と同等の位置に配設された第1の加熱ユニット561と、実施例2に係るインク温度調整ユニット5の加熱ユニット56と同等の位置に配設された第2の加熱ユニット562とを備えた加熱ユニット56を備えている。
【0108】
このように構成される実施例3に係るインクジェットプリンタ10のインク温度調整ユニット5においては、実施例1に係るインク温度調整ユニット5により得られる効果と実施例2に係るインク温度調整ユニット5により得られる効果とを組み合わせた効果を奏することができる。
【0109】
(その他の実施例)
上記のように、本発明を実施例1乃至実施例3によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものでない。本発明は様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術に適用することができる。例えば、前述の実施例に係るインク温度調整ユニットは循環されるインクを冷却する第1の温度調整用経路51と加熱する第2の温度調整用経路52とを備えているが、本発明は、上記実施例において説明した冷却と加熱との間の温度に調整する第3の温度調整用経路、更にはそれ以上の温度調整用経路を更に備えてもよい。
【0110】
また、前述の実施例に係るインク温度調整ユニット5は2つの冷却ユニット54及び55を備えているが、本発明はいずれか一方の冷却ユニット54か55を備えていればよい。
【0111】
また、冒頭において説明したように、本発明は、カラーインクジェットプリンタに限定されるものではなく、モノクロインクジェットプリンタにも適用可能である。また、本発明は、スキャナ機能やファクシミリ機能を備えた複合型のインクジェットプリンタに適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、簡易な構成によりインク循環経路に循環されるインクの加熱効率並びに冷却効率を向上することができる、インク循環方式を採用するインクジェットプリンタに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0113】
1…インク循環システム、2…プリントヘッド、21〜24…ヘッド、201〜204…温度検出センサ、31…第1のインクタンク、32…第1のインク循環経路、33…インク分配器、41…インク集配器、42…第2のインク循環経路、43…第2のインクタンク、44…インク循環ポンプ、45…圧力調整器、5…インク温度調整ユニット、51…第1の温度調整用経路、510…第1の熱交換ブロック、511…第1の熱交換経路、52…第2の温度調整用経路、520…第2の熱交換ブロック、521…第2の熱交換経路、522、5332…抵抗経路、531…分岐部、5311…第1の分岐経路、5312…第2の分岐経路、532…集合部、5321…第1の集合経路、5322…第2の集合経路、533…ブロック、54、55…冷却ユニット、56…加熱ユニット、561…第1の加熱ユニット、562…第2の加熱ユニット、10…インクジェットプリンタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット型プリントヘッドと、
前記プリントヘッドに接続され前記プリントヘッドにインクを供給する第1のインク循環経路と、
前記プリントヘッドに接続され前記プリントヘッドから排出される前記インクを循環させる第2のインク循環経路と、
インク温度調整ユニットと、を備え、
前記インク温度調整ユニットは、
前記第1のインク循環経路及び前記第2のインク循環経路に接続され、前記インクの冷却に使用される第1の温度調整用経路と、
前記第1のインク循環経路に前記第1の温度調整用経路とは分岐して接続されるとともに、前記第2のインク循環経路に前記第1の温度調整用経路と集合して接続され、少なくとも前記第1のインク循環経路側において前記第1の温度調節用経路の流路抵抗に比べて流路抵抗が高く、前記インクの加熱に使用される第2の温度調整用経路と、を備えたことを特徴とするインク循環方式を採用するインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記インク温度調整ユニットの前記第1の温度調整用経路及び前記第2の温度調整用経路には同時に前記インクが循環されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記インク温度調整ユニットの前記第2の温度調整用経路の流路抵抗は、前記第1の温度調整用経路、前記第2の温度調整用経路のそれぞれに循環される前記インクの温度が同一の場合において、前記第1の温度調整用経路の流路抵抗に比べて高く、
前記第2の温度調整用経路に循環される前記インクの流量は、前記第1の温度調整用経路に循環される前記インクの温度に対して前記第2の温度調整用経路に循環される前記インクの温度が一定温度以上高くなった場合において、前記第1の温度調整用経路に循環される前記インクの流量に対して多い
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記インク温度調整ユニットの前記第2の温度調整用経路は、部分的に経路径を縮小し、又は部分的に経路長を長くし、又は部分的に経路内壁の粗さを粗くして流路抵抗を高く設定していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記インク温度調整ユニットは、
前記第1のインク循環経路側の第1の表面から前記第1のインク循環経路側の第2の表面に達する第1の熱交換経路を有する第1の熱交換ブロックと、
前記第2のインク循環経路側の第3の表面から前記第2のインク循環経路側の第4の表面に達する第2の熱交換経路を有する第2の熱交換ブロックと、
前記第1の熱交換ブロックの前記第1の表面上及び前記第2の熱交換ブロックの前記第3の表面上に配設され、前記第1の熱交換経路と前記第1のインク循環経路とを接続する第1の集合経路及び前記第2の熱交換経路と前記第1のインク循環経路とを接続する第2の集合経路を有する集合部と、
前記第1の熱交換ブロックの前記第2の表面上及び前記第2の熱交換ブロックの前記第4の表面上に配設され、前記第1の熱交換経路と前記第2のインク循環経路とを接続する第1の分岐経路及び前記第2の熱交換経路と前記第2のインク循環経路とを接続する第2の分岐経路を有する分岐部と、を更に備え、
前記第1の温度調整用経路は、前記分岐部の前記第1の分岐経路、前記第1の熱交換ブロックの前記第1の熱交換経路及び前記集合部の前記第1の集合経路を連接して構築され、
前記第2の温度調整用経路は、前記分岐部の前記第2の分岐経路、前記第2の熱交換ブロックの前記第2の熱交換経路及び前記集合部の前記第2の集合経路を連接して構築されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記インク温度調整ユニットの前記第2の温度調整用経路に沿って配設され、この第2の温度調整用経路内を循環する前記インクを加熱する加熱ユニットと、
前記第1の温度調整用経路に沿って配設され、この第1の温度調整用経路内を循環する前記インクを冷却する冷却ユニットと、
を更に備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記第1のインク循環経路の他端に接続され、この第1のインク循環経路を通して前記プリントヘッドに供給される前記インクを貯溜する第1のインクタンクと、
前記第2のインク循環経路の他端に接続され、この第2のインク循環経路を通して前記プリントヘッドから排出され循環させる前記インクを貯溜する第2のインクタンクと、を更に備え、
前記インク温度調整ユニットは前記第1のインクタンクと前記第2のインクタンクとの間に配設され、
前記インク温度調整ユニットの前記第1の温度調整用経路及び前記第2の温度調整用経路は、前記第1のインクタンクを通して前記第1のインク循環経路に接続されるとともに、前記第2のインクタンクを通して前記第2のインク循環経路に接続されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記インク温度調整ユニットの前記第2の熱交換ブロックは前記第1の熱交換ブロックに対して一定間隔離間して併設され、
前記加熱ユニットは前記第1の熱交換ブロックと前記第2の熱交換ブロックとの間において前記第2の熱交換ブロックに装着されることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のインクジェットプリンタ。

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2011−207065(P2011−207065A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77470(P2010−77470)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】