インクジェットヘッドおよび該ヘッドの製造方法
【課題】インクを吐出するための吐出口を有する吐出エレメントと、外部から導入されたインクを貯留するとともに、インクを吐出エレメントに供給するために貯留部と、を具えたインクジェットヘッドにおいて、その大型化を伴わずに好ましいインク供給性を得るとともに、部品点数を少なくし、組立工程を簡略化して低廉化に資する。
【解決手段】一面が開放された箱形状を有する貯留室形成部材211と、これに接合する蓋部材212とにより貯留部を構成する。貯留室形成部材211を、開放面に対向する底面上に設けられた内壁によって包囲され、外部からインクを直接導入するインク導入室230となる部分と、その外側にあって吐出エレメント150へのインク供給室となる部分とに仕切り、インク導入室230となる部分の底面と対向する面にフィルタを配置し、フィルタを介してインク導入室230とインク供給室とが連通するようにする。
【解決手段】一面が開放された箱形状を有する貯留室形成部材211と、これに接合する蓋部材212とにより貯留部を構成する。貯留室形成部材211を、開放面に対向する底面上に設けられた内壁によって包囲され、外部からインクを直接導入するインク導入室230となる部分と、その外側にあって吐出エレメント150へのインク供給室となる部分とに仕切り、インク導入室230となる部分の底面と対向する面にフィルタを配置し、フィルタを介してインク導入室230とインク供給室とが連通するようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出するインクジェットヘッドおよび該ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録方式は、記録時の発生騒音が極めて小さく、かつ高速記録が可能であり、普通紙に記録を行うことができる記録方式である。インクジェットヘッドとしては種々の吐出方式を採るものがある。しかしその中でも、インクを吐出するためのエネルギを発生する素子に発熱素子を用い、当該発熱に伴うインクの沸騰を利用して吐出を行う方式のものは、発熱素子の高集積化が容易なことから、インクジェットヘッドの主流となっている。
【0003】
図10(a)はインクジェットヘッドの従来例を示す斜視図、図10(b)はその吐出口付近(部分Xb)の拡大図、図11は図10(a)の分解斜視図である。また、図12はインクジェットヘッドの構成要素であるジョイントケースの上面図、図13はジョイントケースの縦断面図である。
【0004】
図14(a)およびは(b)は、それぞれ、図10(a)に示すインクジェットヘッドの正面図および背面図である。図15(a)は図14(a)のXVa−XVa線断面図、同図(b)は同図(a)の一部を拡大して示す図であり、吐出エレメント近傍(部分XVb)を示す縦断面図、同図(c)は同図(b)の一部を拡大して示す図であり、吐出口近傍を示す縦断面図である。
【0005】
インクジェットヘッドの外装は、概してインク貯留ケース1200とジョイントケース1300とからなり、パイプ1301および1302をそれぞれに接合させて両者間のインク路が形成される。また、ジョイントケース1300にはジョイントカバー1218を超音波溶着するとともに、各部の封止を行うことでインク通路部材1210が構成される。
【0006】
ジョイントケース1300は外部(インクジェット記録装置本体)のインク供給系(不図示)と連結するジョイントユニット1219をなし、インク供給系からインクを導入するため、およびインク供給系にインクを導出するためのジョイント1240および1245を有する。これらのジョイント1240および1245は、それぞれ、パイプ1301に連通するインク導入路および導出路に連通し、それらインク導入路および導出路の途中には、インク供給系からの、およびインク供給系への塵埃の移動を阻止するフィルタ1215および1216が配設されている。
【0007】
インク通路部材1210ないしインク貯留ケース1200には、吐出エレメント1150を位置合せして接合し、両者を互いに押圧した状態で固定ビス1112により止めることで、インクジェットヘッドが完成する。
【0008】
吐出エレメント1150には、インクを吐出するための複数の吐出口1151と、その吐出口1151に供給されるインクを貯留する共通液室1153と、各吐出口1151と共通液室1153とを連通する複数の液路1152と、が備えられる。各液路1152の一部には、インクを吐出するために利用されるエネルギとして、熱エネルギを発生する発熱素子1154が設けられている。また、共通液室1153には、インク貯留ケース1200に設けられたインク貯留室1214から供給口1155を介してインクが供給される。なお、インク貯留室1214は、共通液室1155と同等以上の断面寸法および等しい断面形状を有している。
【0009】
吐出エレメント1150は、発熱素子が形成された単結晶Si基板1160に対し、成膜技術と露光装置とにより光感光性の樹脂を成膜することで吐出口壁1161を形成し、さらに単結晶Siに異方性エッチング処理を施してなる天板1165を接合することで構成される。
【0010】
1110はセラミック製のプレートであり、吐出エレメント1150の位置を定めるとともに、発熱素子1154の駆動に伴って発生する熱のうちインク吐出に関与しない不要な熱エネルギを放熱させる役目を担う。プレート1110は、例えばアルミナ(Al2O3)等の線膨張係数の低い材質で作製される。このプレート1110に対し、吐出エレメント1150は精密に位置決めされて固定される。この際、熱硬化性のボンディング剤により固定が行われるが、上記放熱を行うためには吐出エレメント1150からプレート1110に伝熱を行う必要があるので、ボンディング剤としては例えばAg(銀)を混入した接着剤を使用することができる。そして、そのボンディング剤を硬化させるために温度炉へ投入し、焼結させることで、吐出エレメント1150とプレート1110との固定が完了する。
【0011】
次に、吐出エレメント1150に対しては、記録装置本体から供給される電気信号に応じて発熱素子1154を駆動するための配線を有した電気配線基板1120が接続される。また、電気配線基板1120には、所要の情報を書込み可能な記憶素子1125が搭載される。電気配線基板1120は、吐出エレメント1150とプレート1110との一体物に貼り付けられ、吐出エレメント1150および電気配線基板1120は電気配線1190を介して接続される。
【0012】
次に、インクジェットヘッド内のインク流れについて説明する。
インクは外部のインク供給系からジョイント1240を介して導入され、フィルタ1215により濾過されながら、矢印(あ)および矢印(い)に沿って流れた後(図12および図13)、パイプ1301を通ってインク貯留室1214へ流れ込み、さらに共通液室1155にインクが供給される。
【0013】
ここで、インク吐出に伴って生じるインクの流れは、図15(c)に示すように、インク貯留室1214の内部での進行方向および共通液室1155への流入方向(矢印(お))に対して直交する、液路液路1152の延在方向ないし吐出方向(矢印(お−1))である。
【0014】
一方、共通液室1155に供給される以外のインクは、パイプ1302を介し、矢印(う)に沿って流れ、フィルタ1216を介してジョイント1245に戻り、さらに矢印(え)に沿って外部のインク供給系に還流する(図14(a)、(b)、図12および図13)。この流れにより、インク貯留室1214内に存在する気泡はインクジェットヘッド外に押し流され、最適な状態でインク吐出を行うことが可能になる。また、インク供給系に還流したインクは適切な脱気や清浄化が行われた後、再びインクジェットヘッドに供給可能である。
【0015】
【特許文献1】特開平11−348291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、インクジェットヘッドはインクの吐出周波数がインクジェット記録装置の性能に直接関わってくる。すなわち、吐出周波数が高いほど、高速かつ高品位の記録を行うことが可能となるからである。そして、インクの吐出周波数を向上させるためには、高流量のインクがインクジェットヘッドないし共通液室1153に円滑に供給される必要がある。
【0017】
しかし上述した構成のインクジェットヘッドでは、次のような課題がある。
まず、図14(a)および(b)に示される矢印(あ)の流れは、インクの供給性に対して直接影響するので、この流れの途中に配されるフィルタ1215の面積を大きくすることが強く望ましい。しかしながら、これに伴いジョイント部分も大型化せざるを得ないので、インクジェットヘッド自体の寸法が増大してしまうという問題が生じる。
【0018】
また、共通液室1153に流れ込むまでにもインクの流れが様々に屈曲しているので、インクの流れに対し大きな抵抗が生じている。そのため、10kHz程度の高周波吐出を数秒間継続しただけで、吐出後の液路へのインク再充填(リフィル)が円滑に行われなくなり、記録がかすれる現象が発生してしまう。
【0019】
さらに、上記インクジェットヘッドは、多数の部材を組み立ててインク流路が形成されている。そのため、ジョイントケース1300とフィルタとの熱溶着部や、インク貯留室ケース1200とジョイントケース1300とを連通させるパイプ1301および1302の接合部等に関し、確実な接続がなされているかについて各々検査を行う必要があり、組立工程が複雑化し、そのためインクジェットヘッドの製造コストが増大するという問題がある。
【0020】
本発明は、以上の問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、
・インクジェットヘッドの大型化を伴わずに好ましいインク供給性を得ること、
・インクジェットヘッド内の流路抵抗を減じ、高周波吐出に対応することで、高速かつ高品位の記録を可能とすること、および
・部品点数を少なくし、組立工程を簡略化してインクジェットヘッドの低廉化に資すること
を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そのために、本発明は、インクを吐出するための吐出口を有する吐出エレメントと、外部から導入されたインクを貯留するとともに、前記インクを前記吐出エレメントに供給するために貯留部と、を具えたインクジェットヘッドにおいて、
前記貯留部は、一面が開放された箱形状を有する第1部材と、当該開放面を覆って前記第1部材に接合する第2部材とにより構成されるとともに、前記インクが直接導入されるインク導入室と、前記吐出エレメントに直接インクを供給するインク供給室とに区画され、
前記第1部材は、前記開放面に対向する底面上に設けられた内壁によって包囲される前記インク導入室となる部分と、その外側にあって前記インク供給室となる部分とに仕切られ、
前記インク導入室となる部分の前記底面と対向する面にフィルタが配置され、該フィルタを介して前記インク導入室と前記インク供給室とが連通することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記インクジェットヘッドを製造する方法であって、
レーザ光を吸収する材料で構成され、前記フィルタが配置された前記第1部材を用意する工程と、
該第1部材上にレーザ光を透過する材料で構成された前記第2部材を配する工程と、
前記第1部材と前記第2部材との接合部に、前記第2部材の側からレーザ光を照射することで前記第1部材と前記第2部材とを溶着する工程と、
を具えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、インクが直接導入されるインク導入室と、前記吐出エレメントに直接インクを供給するインク供給室とを有する貯留部を主に2部材で構成し、かつ両室を比較的大面積のフィルタを介して連通させることができる。これにより、インクジェットヘッドの大型化を伴わずに好ましいインク供給性を得ることができるとともに、インクジェットヘッド内の流路抵抗を減じ、高周波吐出に対応することで、高速かつ高品位の記録に資することが可能となる。また、上記2部材を簡易的かつ高信頼性の手段であるレーザ溶着により接合することで貯留部が構成されるので、部品点数が少なく、組立工程を簡略化してインクジェットヘッドの低廉化に資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
図1〜図7は本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドを示す。ここで、図1(a)はその主要部の斜視図、図1(b)はその吐出口付近(部分Ib)を拡大して示す斜視図である。図2(a)は図1(a)の分解斜視図、図2(b)はその吐出エレメント付近(部分IIb)を拡大して示す斜視図である。また、図3は図1におけるインク貯留室ケースの正面図、図4はその蓋部材を取り外してインク貯留室ケース本体(インク貯留室形成部材)の内部構成を示した正面図である。図5はインク貯留室形成部材と蓋部材との接合方法を説明するための図である。図6は図2(a)のVI−VI線に沿った断面図、図7(a)は図6における吐出エレメント近傍(部分VIIa)の詳細、図7(b)は同図(a)の一部(部分VIIb)の詳細、さらに図7(c)は同図(b)の一部(部分VIIc)の詳細をそれぞれ示す図である。
【0025】
インク貯留室ケース210は、吐出エレメントに供給するために外部から導入されたインクを貯留する貯留部である。インク貯留室ケース210は、概して、一面が開放された扁平な箱形状を有する第1部材であるインク貯留室形成部材211と、その開放面を閉塞するように配置されて接合される第2部材であるインク貯留室蓋部材212とを有し、それらの接合によって形成される内部空間にインクの貯留室ないし所要のインク流路が画成される。
【0026】
インク貯留室形成部材211には、インク供給系からインクを導入するための導入ジョイント部240およびインク供給系にインクを導出するための導出ジョイント部245が設けられている。インク貯留室形成部材211は、導入ジョイント部240および導出ジョイント部245にそれぞれ接続されるインク導入室230およびインク供給室235に区画されている。
【0027】
ここで、一面が開放された箱形状のインク貯留室形成部材211の当該開放面と対向する底面上には、インク貯留室形成部材211の外側壁の高さより低い高さの内壁211Wが配置されている。つまり、インク貯留室形成部材211は、内壁によって包囲された部分と、その外側とに仕切られている。そして、内壁211Wによって包囲された部分の開放面にフィルタ215が配置されることでインク導入室230が画成され、さらにインク貯留室形成部材211に対してインク貯留室蓋部材212を接合することでインク供給室235が画成される。すなわち、インク導入室230と、フィルタ215と、インク供給室235の一部とは、インク室ケース210の厚み方向にオーバーラップしており、両室はフィルタ215を介してインク連通することになる。そして、インク導入室230には導入ジョイント部240を介して外部のインク供給系からインクが直接導入されるとともに、フィルタ215がインク供給系からの塵埃の移動を阻止するインク導入側フィルタとして機能する。
【0028】
また、インク供給室235と導出ジョイント部245との接続部分には、インク導出側フィルタ216が設けられている。なお、後述する吐出エレメント150の直近において、吐出エレメント150内への塵埃の移動を阻止する中間フィルタが設けられていてもよい。
【0029】
ここで、インク導入側フィルタ215は、吐出エレメント150へのインク供給に先立ってインクが通過するフィルタである。従ってインク導入側フィルタ215は、インクジェットヘッド100の高周波駆動ないし高速度記録に対応したインク供給性を実現するべく、インクの流れを阻害しない面積とされていること、すなわちできるだけ大面積であることが強く望ましい。本実施形態では、インク貯留室形成部材211を内壁211Wによって区画することでインク導入室230となる部分を仕切り、内壁211W上にインク導入側フィルタ215を配置する構成としている。すなわち、フィルタ215に対しては、インク導入室230の開放面の面積に等しい面積を確保できることになる。換言すれば、インク貯留室形成部材211の寸法内において、適切な開放面の面積を有するインク導入室230を画成し、その面積内で可能な限り大きいフィルタ215を配置することができるようになる。
【0030】
一方、インクジェットヘッド100内に存在し得る空気をヘッド外のインク供給系へ効果的に排出するためには、インクが低流速・高圧力で導出されることが望ましい。このため、インク導出側フィルタ216については、インク供給室235と導出ジョイント部245との接続部分に配置され、その面積が小さいものとなっている。
【0031】
なお、本実施形態で使用される各部フィルタは、金属の繊維を8μm四方の間隔で織込んで形成したものであり、この寸法以上の塵埃がトラップされることになる。各フィルタは熱溶着により取り付けが可能である。
【0032】
これらのフィルタ215および216が取り付けられたインク貯留室形成部材211に対して、インク貯留室蓋部材212を所定の位置に位置決めし、接合することで、インク貯留室ケース210が完成する。
【0033】
ここで、図5を用いて当該接合方法について説明する。
本実施形態では、インク貯留室蓋部材212とインク貯留室形成部材211とを位置合わせした状態で、インク貯留室蓋部材212側に光透過性の材質(例えばガラス)でなる部材311を配置し、インク貯留室蓋部材212をインク貯留室形成部材211に押し付ける方向に押圧する(矢印X方向)。このときの押圧力は、インク貯留室蓋部材212がインク貯留室形成部材211に密着する圧力とする必要があるが、インク貯留室蓋部材212が0.8mm程度の肉厚の樹脂等で作成されていれば、比較的低い押圧力で反りや曲がりが矯正され、密着し易くなる。
【0034】
この状態で部材311側に配置したレーザ溶着システム320からレーザ光310を照射することで、溶着によりインク貯留室形成部材211とインク貯留室蓋部材212とを接合する。このためには、インク貯留室蓋部材212をレーザ光を透過する色の材質とする必要があり、本実施形態では乳白色ないしは薄茶色の材質でなる樹脂でインク貯留室蓋部材212を形成することで、940nm波長のレーザ光が透過できるようにしている。
【0035】
レーザ溶着システム320は、部材311およびインク貯留室蓋部材212を介し、インク貯留室形成部材211の外壁上面、流路境界部および支柱の上面を含む接合部219(ハッチを付して示す)に沿ってレーザ光310を照射する。照射条件は、例えば、
波長:940nm
レーザスポット径:0.6mm
エネルギ:60W
レーザスポット移動速度:10mm/s
とすることができる。
【0036】
レーザ溶着法およびこれに適した材料には、例えば特許文献1に開示された技術を用いることが可能である。適用されるレーザ溶着システムは様々なメーカから入手可能であり、実施形態のインクジェットヘッドないしインク貯留ケースの仕様に適合する範囲内のものであればいずれが使用されてもよい。照射されたレーザ光310はインク貯留室形成部材211に吸収される。すなわち、インク貯留室形成部材211の接合部表面に熱が蓄積され、表面が溶融する。このとき発生した熱がインク貯留室蓋部材212にも伝えられ、インク貯留室蓋部材212も溶融することで、インク貯留室蓋部材212およびインク貯留室形成部材211の溶融した表面同士が融着されるわけである。
【0037】
なお、インク貯留室蓋部材212とインク貯留室形成部材211との接合部は密着性を必要とするため、両者の接合部は高い平面度を有していることが強く望ましく、かつそれぞれは同一平面上に構成された接合面として形成されている。これにより、インク貯留室蓋部材212とインク貯留室形成部材211とは、簡易的かつ信頼性の高い手段であるによりレーザ溶着システム320を用いて接合可能となり、部品組立の簡略化および高信頼性を確保できるわけである。
【0038】
また、本実施形態では接合部同士の溶着により最終的にインク貯留室ないしインク流路が画成されるが、インク貯留室形成部材211の内壁や流路境界部を適切に定めることで、種々の内部構成を得ることが可能となる。
【0039】
さらに、インク貯留室形成部材211およびインク貯留室蓋部材212には、上述のようなレーザ溶着に適した材質であれば適宜のものを使用することができる。しかしインクジェットヘッド100に使用されるインクに侵されず、かつ駆動に伴って発生する高温・高圧による析出が生じない材質であることが強く望ましい。また、接合部にレーザ光の反射率の低い、ないしはレーザ光の吸収率の高い材料層を形成しておくことで、レーザ光を効率よく熱エネルギに変換するようにすることも可能である。
【0040】
上述のように本例では、インク貯留室形成部材211およびインク貯留室蓋部材212は、接着剤を使用することなくレーザ溶着により接合されている。これは、耐インク性や、吐出エレメントの液路ないし吐出口に目詰まり等を生じさせ得る析出物の発生を防止する上で有効である。
【0041】
一方、吐出エレメント150は、従来とほぼ同様の構成を有する。すなわち吐出エレメント150には、図6および図7(a)〜(c)に示すように、インクを吐出するための複数の吐出口151と、その吐出口151に供給されるインクを貯留する共通液室153と、各吐出口151と共通液室153とを連通する複数の液路152と、が備えられる。各液路152の一部には、インクを吐出するために利用されるエネルギとして、熱エネルギを発生する発熱素子154が設けられている。また、共通液室153には、インク貯留ケース120に設けられたインク供給室235から供給口155を介してインクが供給される。
【0042】
吐出エレメント150は、発熱素子が形成された単結晶Siの基体に対し、成膜技術と露光装置とにより光感光性の樹脂を成膜することで吐出口壁161を形成した基板160を有する。そしてその基板160に対し、単結晶Siに異方性エッチング処理を施して共通液室155へのインク導入口等を形成しなる天板165を接合することで構成される。
【0043】
セラミック製のプレート110は、吐出エレメント150の位置を定めてこれを支持するとともに、発熱素子154の駆動に伴って発生する熱のうちインク吐出に関与しない不要な熱エネルギを放熱させる役目を担う。プレート110は、例えばアルミナ(Al2O3)等の線膨張係数の低い材質で作製される。このプレート110に対し、吐出エレメント150は精密に位置決めされて固定される。この際、熱硬化性のボンディング剤により固定が行われるが、上記放熱を行うためには吐出エレメント150からプレート110に伝熱を行う必要があるので、ボンディング剤としては例えばAg(銀)を混入した接着剤を使用することができる。そして、そのボンディング剤を硬化させるために温度炉へ投入し、焼結させることで、吐出エレメント150とプレート110との固定が完了する。
【0044】
吐出エレメント150に対しては、記録装置本体から供給される電気信号に応じて発熱素子154を駆動するための配線190を有した電気配線基板120が接続される。また、電気配線基板120には、所要の情報を書込み可能な記憶素子125が搭載される。電気配線基板120は、吐出エレメント150とプレート110との一体物に貼り付けられ、吐出エレメント150および電気配線基板120は電気配線190を介して接続される。以上によりインクジェットヘッド本体が構成される。
【0045】
かかるインクジェットヘッド本体と上述のインク貯留室ケース210とを、図1(a)、図2(a)および図6に示すように取り付けることでインクジェットヘッド100が完成し、内部インク流路が形成される。インクジェットヘッド本体はインク貯留室ケース210の一側面に取り付けられるので、インクジェットヘッド100の組立は一方向から行うこと、すなわち組立時にインクジェットヘッド100の向きを変えることなく組立てを行うことが可能である。
【0046】
次に、インクジェットヘッド100内のインク流れについて説明する。
図4および図6に示すように、インクは、外部のインク供給系からジョイント部240を介し、その内部に設けた流路240Aを通ってインク導入室230に流れ込む(矢印(か))。そしてインクは、導入側フィルタ215により濾過されながら、インク供給室235へ流れ込み(矢印(き))、さらに共通液室155に供給される(矢印(く))。共通液室155に供給される以外のインクは、インク供給室235から導出側フィルタ216に向かって流れ(矢印(け))、フィルタ216を通過した後にジョイント部245を介して外部のインク供給系に排出される(矢印(こ))。この過程で、インク供給室235内に存在し得る気体も押し出される。
【0047】
本実施形態においては、インク貯留室ケース210内を第1およびインク供給室230および235に区画し、両者間に大面積のフィルタ215を配置するとともに、前者がジョイント部240に、後者が共通液室155に流体接続されるようにしている。すなわち、インクは狭隘な流路に配置されるフィルタを介することなく直接インク導入室230に流れ込み、大面積のフィルタ215を通ってインク供給室235に至り、ここから共通液室155に直接供給されるものとなる。従って、インクの流れは、従来例に比して屈曲が格段に少なく、図6に示されるようにほぼ直線的なものとなるとともに、フィルタによる流れの損失も少ない。これにより、高流量のインクがインクジェットヘッドないし共通液室1153に円滑に供給可能となり、インクの吐出周波数の向上に対応して、高速かつ高品位の記録に資することができるものとなる。
【0048】
また、本実施形態に係るインクジェットヘッドでは、用意したインク貯留室形成部材211とインク貯留室蓋部材212とを接合するのみで、つまり2部品を接合するのみで、内部流路が形成されたインク貯留ケース210を組み立てることができる。これは、フィルタ1215および1216が配置されるジョイントケース1300ないしジョイントカバー1218、インク貯留ケース1200およびパイプ1301および1302を構成要素とする、構成部品点数の多い従来例に比して、組立上非常に有利である。部品点数が多いほど、各部の位置決めに意を払わなければならず、また溶着ないし接着箇所の数が増すことで、組立工定数が多くなるからである。
【0049】
以上のように、本実施形態に係るインクジェットヘッドは、大型化を伴わずに好ましいインク供給性を得、高周波吐出に対応することで高速かつ高品位の記録を可能とするとともに、部品点数が少なく組立工程が簡略化されることで低廉なものとなる。
【0050】
次に、上記構成のインクジェットヘッドの適用例について説明する。
図8は本発明に係るインクジェットヘッドを備えた画像形成装置の一例として、フルカラーのインクジェット記録装置(以下、プリンタと言う)の概略を示す図である。
【0051】
図8に示すプリンタ1000は、給紙装置50、排紙装置60、画像形成部45、搬送装置70およびインク供給装置90などの機構部および複数のインクタンク1を備えている。
【0052】
給紙装置50により搬送装置70に給紙されたシート状の記録媒体(以下、シートと言う)51は、搬送装置70により画像形成部45に対して搬送される。当該搬送の過程で、後述の制御ユニット103等の指示に基づいて吐出口151よりインクが吐出され、シート51に文字やイメージなどが形成される。シート51は、画像形成部45を通過して引き続き搬送装置70により搬送され、排紙装置60に積載されて行く。
【0053】
画像形成部45には、インクジェット方式のインクジェットヘッド100が複数色のインクに対応して配置されている。インクジェットヘッド100は、シート51の搬送方向と異なる方向(例えば直交する方向)に、シート51の幅に対応した範囲にわたってインク吐出口を配列してなるものである。各インク吐出口に対しては、インクを吐出するために利用されるエネルギとして、インクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する発熱素子が設けられる。
【0054】
インクタンク1は、複数色のインクに対応して複数設けられ、それぞれについてインクジェットヘッドとの間のインク供給系が構成される。ここで、インクは形成する画像の内容に応じ、使用頻度の高い色ほど消費が速く進むので、収納しているインクの残量が実質的に無くなったインクタンク1のみを交換することができるよう、プリンタ1000に対し独立に着脱が可能な構成となっている。
【0055】
図9は図8のプリンタを含む制御系の構成例を示すブロック図である。
プリンタ1000は、USBやセントロニクス仕様の汎用インターフェースを介してホストコンピュータ等の外部機器101と接続され、外部機器101から転送される印刷情報に基づいて画像形成を行う。ここで、印刷情報には、所定のプリンタ言語に基づく文字コードデータ,図形描画命令,イメージデータ等の画像情報や、用紙切替、排紙口切替等の装置制御情報が含まれる。
【0056】
プリンタ1000は、上記各機構部を動作させるための制御に関与する各部として、操作パネル102、制御ユニット103および排紙オプション装置60を備えている。
【0057】
ここで、操作パネル102は、各種スイッチ(ボタン)のほか、LCDやLED表示器よりなる表示装置等により構成されるマン・マシンインターフェースとして機能する。すなわち、ユーザは操作パネル102上の各種スイッチを介してプリンタ1000に指示を与えることができるとともに、表示装置を介して装置状態の情報等を得ることができる。なお、ユーザにより指示ないし設定された各種データ等は、例えばNVRAM等の不揮発メモリに記憶され、管理される。
【0058】
制御ユニット103は、上記印刷情報に基いて、インクジェットヘッド100内の発熱素子を選択的に駆動するための駆動データを生成する。当該駆動データに基いて発熱素子が駆動されることでインクが沸騰し、これに応じて対応したインク吐出口よりインクが吐出されて、文字やイメージがシート51上に形成される。
【0059】
しかしながら、連続した画像形成を行っていくと、インク吐出に費やされた以外の熱エネルギがインクに蓄積され、インクの温度が上昇してインク内の溶存気体が発泡し、気泡となることがある。この気泡が発熱素子上の液路に存在していると、駆動に伴う発熱素子の沸騰が不完全となり、対応する吐出口からのインク吐出動作が不能または不良となることで、画像形成が正常に行われなくなる恐れがある。そこで制御ユニット103は、所定の周期または適宜のタイミングにて、インクジェットヘッド100および外部インク供給装置90間でインクを循環させる命令を出す。
【0060】
制御ユニット103は、具体的にはビデオコントローラ106、エンジンコントローラ107およびオプションコントローラ108を有する。
【0061】
ここで、ビデオコントローラ106は、汎用インターフェースを介して外部機器101と接続され、外部機器101から転送されてくる印刷情報を受信し、これに所要の演算等を施すことで、インク吐出動作を規定するドットデータ等からなる2値または多値の情報を生成し、ビデオインターフェース109を介してエンジンコントローラ107に対して当該情報を送信する。また、これと共に、統括インターフェース110を介してオプションコントローラ108に対して排紙を指定するためのコマンド等を送信する。
【0062】
エンジンコントローラ108は、シート51の搬送に適切に同期させながら、ビデオコントローラ106から転送されるドットデータに基づいてインクジェットヘッド100の発熱素子を駆動する。また、オプションコントローラ108に対して排紙タイミングの指示を行う。
【0063】
オプションコントローラ108は、図示しないCPU、ROMおよびRAM等を備え、プリンタ1000の各種オプション装置に具備されるオプションコントローラユニットと通信を行い、各種のオプション装置を統括的に制御可能である。図2では、オプション装置として、指示に応じた排紙動作を行うオプション装置60が例示されている。オプションコントローラ108は、ビデオコントローラ106から転送される排紙情報指定およびエンジンコントローラ108からの排紙情報指定等に基づき、インターフェース111を介して排紙オプション装置60の動作を制御する。
【0064】
なお、インクジェットヘッドの個数ないし対応する色調数はあくまでも例示であって、本発明を制限するものではない。また、インクジェットヘッドの吐出エレメントについても、上述したような発熱素子を有する形態のもののほか、ピエゾ素子等の電気機械的エネルギ変換素子を有するものなど、適宜の形態のものを用い得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの主要部の斜視図、(b)はその吐出口付近(部分Ib)を拡大して示す斜視図である。
【図2】(a)は図1(a)の分解斜視図、図2(b)はその吐出エレメント付近(部分IIb)を拡大して示す斜視図である。
【図3】図1におけるインク貯留室ケースの正面図である。
【図4】蓋部材を取り外してインク貯留室ケース本体(インク貯留室形成部材)の内部構成を示した正面図である。
【図5】インク貯留室形成部材と蓋部材との接合方法を説明するための図である。
【図6】図2(a)のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】(a)は図6における吐出エレメント近傍(部分VIIa)の詳細を示す拡大図、(b)はその一部(部分VIIb)の詳細を示す拡大図、(c)はその一部(部分VIIc)の詳細を示す拡大図である。
【図8】本発明に係るインクジェットヘッドを備えた画像形成装置の一例として、フルカラーのインクジェット記録装置(以下、プリンタと言う)の概略を示す図である。
【図9】図8のプリンタを含む制御系の構成例を示すブロック図である。
【図10】(a)はインクジェットヘッドの従来例を示す斜視図、(b)はその吐出口付近(部分Xb)の拡大図である。
【図11】図10(a)の分解斜視図である。
【図12】図10(a)のインクジェットヘッドの構成要素であるジョイントケースの上面図である。
【図13】図10(a)のインクジェットヘッドの構成要素であるジョイントケースの縦断面図である。
【図14】(a)およびは(b)は、それぞれ、図10(a)に示すインクジェットヘッドの正面図および背面図である。
【図15】(a)は図14(a)のXVa−XVa線断面図、(b)はその一部を拡大して示す図であり、吐出エレメント近傍(部分XVb)を示す縦断面図、(c)はさらにその一部を拡大して示す図であり、吐出口近傍(部分XVc)を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0066】
100 インクジェットヘッド
150 吐出エレメント
151 吐出口
153 共通液室
210 インク貯留室ケース
211 インク貯留室形成部材
211W インク貯留室形成部材内壁
212 インク貯留室蓋部材
230 インク導入室
235 インク供給室
215、216 フィルタ
320 レーザ溶着システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を吐出するインクジェットヘッドおよび該ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドを用いて記録を行うインクジェット記録方式は、記録時の発生騒音が極めて小さく、かつ高速記録が可能であり、普通紙に記録を行うことができる記録方式である。インクジェットヘッドとしては種々の吐出方式を採るものがある。しかしその中でも、インクを吐出するためのエネルギを発生する素子に発熱素子を用い、当該発熱に伴うインクの沸騰を利用して吐出を行う方式のものは、発熱素子の高集積化が容易なことから、インクジェットヘッドの主流となっている。
【0003】
図10(a)はインクジェットヘッドの従来例を示す斜視図、図10(b)はその吐出口付近(部分Xb)の拡大図、図11は図10(a)の分解斜視図である。また、図12はインクジェットヘッドの構成要素であるジョイントケースの上面図、図13はジョイントケースの縦断面図である。
【0004】
図14(a)およびは(b)は、それぞれ、図10(a)に示すインクジェットヘッドの正面図および背面図である。図15(a)は図14(a)のXVa−XVa線断面図、同図(b)は同図(a)の一部を拡大して示す図であり、吐出エレメント近傍(部分XVb)を示す縦断面図、同図(c)は同図(b)の一部を拡大して示す図であり、吐出口近傍を示す縦断面図である。
【0005】
インクジェットヘッドの外装は、概してインク貯留ケース1200とジョイントケース1300とからなり、パイプ1301および1302をそれぞれに接合させて両者間のインク路が形成される。また、ジョイントケース1300にはジョイントカバー1218を超音波溶着するとともに、各部の封止を行うことでインク通路部材1210が構成される。
【0006】
ジョイントケース1300は外部(インクジェット記録装置本体)のインク供給系(不図示)と連結するジョイントユニット1219をなし、インク供給系からインクを導入するため、およびインク供給系にインクを導出するためのジョイント1240および1245を有する。これらのジョイント1240および1245は、それぞれ、パイプ1301に連通するインク導入路および導出路に連通し、それらインク導入路および導出路の途中には、インク供給系からの、およびインク供給系への塵埃の移動を阻止するフィルタ1215および1216が配設されている。
【0007】
インク通路部材1210ないしインク貯留ケース1200には、吐出エレメント1150を位置合せして接合し、両者を互いに押圧した状態で固定ビス1112により止めることで、インクジェットヘッドが完成する。
【0008】
吐出エレメント1150には、インクを吐出するための複数の吐出口1151と、その吐出口1151に供給されるインクを貯留する共通液室1153と、各吐出口1151と共通液室1153とを連通する複数の液路1152と、が備えられる。各液路1152の一部には、インクを吐出するために利用されるエネルギとして、熱エネルギを発生する発熱素子1154が設けられている。また、共通液室1153には、インク貯留ケース1200に設けられたインク貯留室1214から供給口1155を介してインクが供給される。なお、インク貯留室1214は、共通液室1155と同等以上の断面寸法および等しい断面形状を有している。
【0009】
吐出エレメント1150は、発熱素子が形成された単結晶Si基板1160に対し、成膜技術と露光装置とにより光感光性の樹脂を成膜することで吐出口壁1161を形成し、さらに単結晶Siに異方性エッチング処理を施してなる天板1165を接合することで構成される。
【0010】
1110はセラミック製のプレートであり、吐出エレメント1150の位置を定めるとともに、発熱素子1154の駆動に伴って発生する熱のうちインク吐出に関与しない不要な熱エネルギを放熱させる役目を担う。プレート1110は、例えばアルミナ(Al2O3)等の線膨張係数の低い材質で作製される。このプレート1110に対し、吐出エレメント1150は精密に位置決めされて固定される。この際、熱硬化性のボンディング剤により固定が行われるが、上記放熱を行うためには吐出エレメント1150からプレート1110に伝熱を行う必要があるので、ボンディング剤としては例えばAg(銀)を混入した接着剤を使用することができる。そして、そのボンディング剤を硬化させるために温度炉へ投入し、焼結させることで、吐出エレメント1150とプレート1110との固定が完了する。
【0011】
次に、吐出エレメント1150に対しては、記録装置本体から供給される電気信号に応じて発熱素子1154を駆動するための配線を有した電気配線基板1120が接続される。また、電気配線基板1120には、所要の情報を書込み可能な記憶素子1125が搭載される。電気配線基板1120は、吐出エレメント1150とプレート1110との一体物に貼り付けられ、吐出エレメント1150および電気配線基板1120は電気配線1190を介して接続される。
【0012】
次に、インクジェットヘッド内のインク流れについて説明する。
インクは外部のインク供給系からジョイント1240を介して導入され、フィルタ1215により濾過されながら、矢印(あ)および矢印(い)に沿って流れた後(図12および図13)、パイプ1301を通ってインク貯留室1214へ流れ込み、さらに共通液室1155にインクが供給される。
【0013】
ここで、インク吐出に伴って生じるインクの流れは、図15(c)に示すように、インク貯留室1214の内部での進行方向および共通液室1155への流入方向(矢印(お))に対して直交する、液路液路1152の延在方向ないし吐出方向(矢印(お−1))である。
【0014】
一方、共通液室1155に供給される以外のインクは、パイプ1302を介し、矢印(う)に沿って流れ、フィルタ1216を介してジョイント1245に戻り、さらに矢印(え)に沿って外部のインク供給系に還流する(図14(a)、(b)、図12および図13)。この流れにより、インク貯留室1214内に存在する気泡はインクジェットヘッド外に押し流され、最適な状態でインク吐出を行うことが可能になる。また、インク供給系に還流したインクは適切な脱気や清浄化が行われた後、再びインクジェットヘッドに供給可能である。
【0015】
【特許文献1】特開平11−348291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ところで、インクジェットヘッドはインクの吐出周波数がインクジェット記録装置の性能に直接関わってくる。すなわち、吐出周波数が高いほど、高速かつ高品位の記録を行うことが可能となるからである。そして、インクの吐出周波数を向上させるためには、高流量のインクがインクジェットヘッドないし共通液室1153に円滑に供給される必要がある。
【0017】
しかし上述した構成のインクジェットヘッドでは、次のような課題がある。
まず、図14(a)および(b)に示される矢印(あ)の流れは、インクの供給性に対して直接影響するので、この流れの途中に配されるフィルタ1215の面積を大きくすることが強く望ましい。しかしながら、これに伴いジョイント部分も大型化せざるを得ないので、インクジェットヘッド自体の寸法が増大してしまうという問題が生じる。
【0018】
また、共通液室1153に流れ込むまでにもインクの流れが様々に屈曲しているので、インクの流れに対し大きな抵抗が生じている。そのため、10kHz程度の高周波吐出を数秒間継続しただけで、吐出後の液路へのインク再充填(リフィル)が円滑に行われなくなり、記録がかすれる現象が発生してしまう。
【0019】
さらに、上記インクジェットヘッドは、多数の部材を組み立ててインク流路が形成されている。そのため、ジョイントケース1300とフィルタとの熱溶着部や、インク貯留室ケース1200とジョイントケース1300とを連通させるパイプ1301および1302の接合部等に関し、確実な接続がなされているかについて各々検査を行う必要があり、組立工程が複雑化し、そのためインクジェットヘッドの製造コストが増大するという問題がある。
【0020】
本発明は、以上の問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、
・インクジェットヘッドの大型化を伴わずに好ましいインク供給性を得ること、
・インクジェットヘッド内の流路抵抗を減じ、高周波吐出に対応することで、高速かつ高品位の記録を可能とすること、および
・部品点数を少なくし、組立工程を簡略化してインクジェットヘッドの低廉化に資すること
を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そのために、本発明は、インクを吐出するための吐出口を有する吐出エレメントと、外部から導入されたインクを貯留するとともに、前記インクを前記吐出エレメントに供給するために貯留部と、を具えたインクジェットヘッドにおいて、
前記貯留部は、一面が開放された箱形状を有する第1部材と、当該開放面を覆って前記第1部材に接合する第2部材とにより構成されるとともに、前記インクが直接導入されるインク導入室と、前記吐出エレメントに直接インクを供給するインク供給室とに区画され、
前記第1部材は、前記開放面に対向する底面上に設けられた内壁によって包囲される前記インク導入室となる部分と、その外側にあって前記インク供給室となる部分とに仕切られ、
前記インク導入室となる部分の前記底面と対向する面にフィルタが配置され、該フィルタを介して前記インク導入室と前記インク供給室とが連通することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記インクジェットヘッドを製造する方法であって、
レーザ光を吸収する材料で構成され、前記フィルタが配置された前記第1部材を用意する工程と、
該第1部材上にレーザ光を透過する材料で構成された前記第2部材を配する工程と、
前記第1部材と前記第2部材との接合部に、前記第2部材の側からレーザ光を照射することで前記第1部材と前記第2部材とを溶着する工程と、
を具えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、インクが直接導入されるインク導入室と、前記吐出エレメントに直接インクを供給するインク供給室とを有する貯留部を主に2部材で構成し、かつ両室を比較的大面積のフィルタを介して連通させることができる。これにより、インクジェットヘッドの大型化を伴わずに好ましいインク供給性を得ることができるとともに、インクジェットヘッド内の流路抵抗を減じ、高周波吐出に対応することで、高速かつ高品位の記録に資することが可能となる。また、上記2部材を簡易的かつ高信頼性の手段であるレーザ溶着により接合することで貯留部が構成されるので、部品点数が少なく、組立工程を簡略化してインクジェットヘッドの低廉化に資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
図1〜図7は本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドを示す。ここで、図1(a)はその主要部の斜視図、図1(b)はその吐出口付近(部分Ib)を拡大して示す斜視図である。図2(a)は図1(a)の分解斜視図、図2(b)はその吐出エレメント付近(部分IIb)を拡大して示す斜視図である。また、図3は図1におけるインク貯留室ケースの正面図、図4はその蓋部材を取り外してインク貯留室ケース本体(インク貯留室形成部材)の内部構成を示した正面図である。図5はインク貯留室形成部材と蓋部材との接合方法を説明するための図である。図6は図2(a)のVI−VI線に沿った断面図、図7(a)は図6における吐出エレメント近傍(部分VIIa)の詳細、図7(b)は同図(a)の一部(部分VIIb)の詳細、さらに図7(c)は同図(b)の一部(部分VIIc)の詳細をそれぞれ示す図である。
【0025】
インク貯留室ケース210は、吐出エレメントに供給するために外部から導入されたインクを貯留する貯留部である。インク貯留室ケース210は、概して、一面が開放された扁平な箱形状を有する第1部材であるインク貯留室形成部材211と、その開放面を閉塞するように配置されて接合される第2部材であるインク貯留室蓋部材212とを有し、それらの接合によって形成される内部空間にインクの貯留室ないし所要のインク流路が画成される。
【0026】
インク貯留室形成部材211には、インク供給系からインクを導入するための導入ジョイント部240およびインク供給系にインクを導出するための導出ジョイント部245が設けられている。インク貯留室形成部材211は、導入ジョイント部240および導出ジョイント部245にそれぞれ接続されるインク導入室230およびインク供給室235に区画されている。
【0027】
ここで、一面が開放された箱形状のインク貯留室形成部材211の当該開放面と対向する底面上には、インク貯留室形成部材211の外側壁の高さより低い高さの内壁211Wが配置されている。つまり、インク貯留室形成部材211は、内壁によって包囲された部分と、その外側とに仕切られている。そして、内壁211Wによって包囲された部分の開放面にフィルタ215が配置されることでインク導入室230が画成され、さらにインク貯留室形成部材211に対してインク貯留室蓋部材212を接合することでインク供給室235が画成される。すなわち、インク導入室230と、フィルタ215と、インク供給室235の一部とは、インク室ケース210の厚み方向にオーバーラップしており、両室はフィルタ215を介してインク連通することになる。そして、インク導入室230には導入ジョイント部240を介して外部のインク供給系からインクが直接導入されるとともに、フィルタ215がインク供給系からの塵埃の移動を阻止するインク導入側フィルタとして機能する。
【0028】
また、インク供給室235と導出ジョイント部245との接続部分には、インク導出側フィルタ216が設けられている。なお、後述する吐出エレメント150の直近において、吐出エレメント150内への塵埃の移動を阻止する中間フィルタが設けられていてもよい。
【0029】
ここで、インク導入側フィルタ215は、吐出エレメント150へのインク供給に先立ってインクが通過するフィルタである。従ってインク導入側フィルタ215は、インクジェットヘッド100の高周波駆動ないし高速度記録に対応したインク供給性を実現するべく、インクの流れを阻害しない面積とされていること、すなわちできるだけ大面積であることが強く望ましい。本実施形態では、インク貯留室形成部材211を内壁211Wによって区画することでインク導入室230となる部分を仕切り、内壁211W上にインク導入側フィルタ215を配置する構成としている。すなわち、フィルタ215に対しては、インク導入室230の開放面の面積に等しい面積を確保できることになる。換言すれば、インク貯留室形成部材211の寸法内において、適切な開放面の面積を有するインク導入室230を画成し、その面積内で可能な限り大きいフィルタ215を配置することができるようになる。
【0030】
一方、インクジェットヘッド100内に存在し得る空気をヘッド外のインク供給系へ効果的に排出するためには、インクが低流速・高圧力で導出されることが望ましい。このため、インク導出側フィルタ216については、インク供給室235と導出ジョイント部245との接続部分に配置され、その面積が小さいものとなっている。
【0031】
なお、本実施形態で使用される各部フィルタは、金属の繊維を8μm四方の間隔で織込んで形成したものであり、この寸法以上の塵埃がトラップされることになる。各フィルタは熱溶着により取り付けが可能である。
【0032】
これらのフィルタ215および216が取り付けられたインク貯留室形成部材211に対して、インク貯留室蓋部材212を所定の位置に位置決めし、接合することで、インク貯留室ケース210が完成する。
【0033】
ここで、図5を用いて当該接合方法について説明する。
本実施形態では、インク貯留室蓋部材212とインク貯留室形成部材211とを位置合わせした状態で、インク貯留室蓋部材212側に光透過性の材質(例えばガラス)でなる部材311を配置し、インク貯留室蓋部材212をインク貯留室形成部材211に押し付ける方向に押圧する(矢印X方向)。このときの押圧力は、インク貯留室蓋部材212がインク貯留室形成部材211に密着する圧力とする必要があるが、インク貯留室蓋部材212が0.8mm程度の肉厚の樹脂等で作成されていれば、比較的低い押圧力で反りや曲がりが矯正され、密着し易くなる。
【0034】
この状態で部材311側に配置したレーザ溶着システム320からレーザ光310を照射することで、溶着によりインク貯留室形成部材211とインク貯留室蓋部材212とを接合する。このためには、インク貯留室蓋部材212をレーザ光を透過する色の材質とする必要があり、本実施形態では乳白色ないしは薄茶色の材質でなる樹脂でインク貯留室蓋部材212を形成することで、940nm波長のレーザ光が透過できるようにしている。
【0035】
レーザ溶着システム320は、部材311およびインク貯留室蓋部材212を介し、インク貯留室形成部材211の外壁上面、流路境界部および支柱の上面を含む接合部219(ハッチを付して示す)に沿ってレーザ光310を照射する。照射条件は、例えば、
波長:940nm
レーザスポット径:0.6mm
エネルギ:60W
レーザスポット移動速度:10mm/s
とすることができる。
【0036】
レーザ溶着法およびこれに適した材料には、例えば特許文献1に開示された技術を用いることが可能である。適用されるレーザ溶着システムは様々なメーカから入手可能であり、実施形態のインクジェットヘッドないしインク貯留ケースの仕様に適合する範囲内のものであればいずれが使用されてもよい。照射されたレーザ光310はインク貯留室形成部材211に吸収される。すなわち、インク貯留室形成部材211の接合部表面に熱が蓄積され、表面が溶融する。このとき発生した熱がインク貯留室蓋部材212にも伝えられ、インク貯留室蓋部材212も溶融することで、インク貯留室蓋部材212およびインク貯留室形成部材211の溶融した表面同士が融着されるわけである。
【0037】
なお、インク貯留室蓋部材212とインク貯留室形成部材211との接合部は密着性を必要とするため、両者の接合部は高い平面度を有していることが強く望ましく、かつそれぞれは同一平面上に構成された接合面として形成されている。これにより、インク貯留室蓋部材212とインク貯留室形成部材211とは、簡易的かつ信頼性の高い手段であるによりレーザ溶着システム320を用いて接合可能となり、部品組立の簡略化および高信頼性を確保できるわけである。
【0038】
また、本実施形態では接合部同士の溶着により最終的にインク貯留室ないしインク流路が画成されるが、インク貯留室形成部材211の内壁や流路境界部を適切に定めることで、種々の内部構成を得ることが可能となる。
【0039】
さらに、インク貯留室形成部材211およびインク貯留室蓋部材212には、上述のようなレーザ溶着に適した材質であれば適宜のものを使用することができる。しかしインクジェットヘッド100に使用されるインクに侵されず、かつ駆動に伴って発生する高温・高圧による析出が生じない材質であることが強く望ましい。また、接合部にレーザ光の反射率の低い、ないしはレーザ光の吸収率の高い材料層を形成しておくことで、レーザ光を効率よく熱エネルギに変換するようにすることも可能である。
【0040】
上述のように本例では、インク貯留室形成部材211およびインク貯留室蓋部材212は、接着剤を使用することなくレーザ溶着により接合されている。これは、耐インク性や、吐出エレメントの液路ないし吐出口に目詰まり等を生じさせ得る析出物の発生を防止する上で有効である。
【0041】
一方、吐出エレメント150は、従来とほぼ同様の構成を有する。すなわち吐出エレメント150には、図6および図7(a)〜(c)に示すように、インクを吐出するための複数の吐出口151と、その吐出口151に供給されるインクを貯留する共通液室153と、各吐出口151と共通液室153とを連通する複数の液路152と、が備えられる。各液路152の一部には、インクを吐出するために利用されるエネルギとして、熱エネルギを発生する発熱素子154が設けられている。また、共通液室153には、インク貯留ケース120に設けられたインク供給室235から供給口155を介してインクが供給される。
【0042】
吐出エレメント150は、発熱素子が形成された単結晶Siの基体に対し、成膜技術と露光装置とにより光感光性の樹脂を成膜することで吐出口壁161を形成した基板160を有する。そしてその基板160に対し、単結晶Siに異方性エッチング処理を施して共通液室155へのインク導入口等を形成しなる天板165を接合することで構成される。
【0043】
セラミック製のプレート110は、吐出エレメント150の位置を定めてこれを支持するとともに、発熱素子154の駆動に伴って発生する熱のうちインク吐出に関与しない不要な熱エネルギを放熱させる役目を担う。プレート110は、例えばアルミナ(Al2O3)等の線膨張係数の低い材質で作製される。このプレート110に対し、吐出エレメント150は精密に位置決めされて固定される。この際、熱硬化性のボンディング剤により固定が行われるが、上記放熱を行うためには吐出エレメント150からプレート110に伝熱を行う必要があるので、ボンディング剤としては例えばAg(銀)を混入した接着剤を使用することができる。そして、そのボンディング剤を硬化させるために温度炉へ投入し、焼結させることで、吐出エレメント150とプレート110との固定が完了する。
【0044】
吐出エレメント150に対しては、記録装置本体から供給される電気信号に応じて発熱素子154を駆動するための配線190を有した電気配線基板120が接続される。また、電気配線基板120には、所要の情報を書込み可能な記憶素子125が搭載される。電気配線基板120は、吐出エレメント150とプレート110との一体物に貼り付けられ、吐出エレメント150および電気配線基板120は電気配線190を介して接続される。以上によりインクジェットヘッド本体が構成される。
【0045】
かかるインクジェットヘッド本体と上述のインク貯留室ケース210とを、図1(a)、図2(a)および図6に示すように取り付けることでインクジェットヘッド100が完成し、内部インク流路が形成される。インクジェットヘッド本体はインク貯留室ケース210の一側面に取り付けられるので、インクジェットヘッド100の組立は一方向から行うこと、すなわち組立時にインクジェットヘッド100の向きを変えることなく組立てを行うことが可能である。
【0046】
次に、インクジェットヘッド100内のインク流れについて説明する。
図4および図6に示すように、インクは、外部のインク供給系からジョイント部240を介し、その内部に設けた流路240Aを通ってインク導入室230に流れ込む(矢印(か))。そしてインクは、導入側フィルタ215により濾過されながら、インク供給室235へ流れ込み(矢印(き))、さらに共通液室155に供給される(矢印(く))。共通液室155に供給される以外のインクは、インク供給室235から導出側フィルタ216に向かって流れ(矢印(け))、フィルタ216を通過した後にジョイント部245を介して外部のインク供給系に排出される(矢印(こ))。この過程で、インク供給室235内に存在し得る気体も押し出される。
【0047】
本実施形態においては、インク貯留室ケース210内を第1およびインク供給室230および235に区画し、両者間に大面積のフィルタ215を配置するとともに、前者がジョイント部240に、後者が共通液室155に流体接続されるようにしている。すなわち、インクは狭隘な流路に配置されるフィルタを介することなく直接インク導入室230に流れ込み、大面積のフィルタ215を通ってインク供給室235に至り、ここから共通液室155に直接供給されるものとなる。従って、インクの流れは、従来例に比して屈曲が格段に少なく、図6に示されるようにほぼ直線的なものとなるとともに、フィルタによる流れの損失も少ない。これにより、高流量のインクがインクジェットヘッドないし共通液室1153に円滑に供給可能となり、インクの吐出周波数の向上に対応して、高速かつ高品位の記録に資することができるものとなる。
【0048】
また、本実施形態に係るインクジェットヘッドでは、用意したインク貯留室形成部材211とインク貯留室蓋部材212とを接合するのみで、つまり2部品を接合するのみで、内部流路が形成されたインク貯留ケース210を組み立てることができる。これは、フィルタ1215および1216が配置されるジョイントケース1300ないしジョイントカバー1218、インク貯留ケース1200およびパイプ1301および1302を構成要素とする、構成部品点数の多い従来例に比して、組立上非常に有利である。部品点数が多いほど、各部の位置決めに意を払わなければならず、また溶着ないし接着箇所の数が増すことで、組立工定数が多くなるからである。
【0049】
以上のように、本実施形態に係るインクジェットヘッドは、大型化を伴わずに好ましいインク供給性を得、高周波吐出に対応することで高速かつ高品位の記録を可能とするとともに、部品点数が少なく組立工程が簡略化されることで低廉なものとなる。
【0050】
次に、上記構成のインクジェットヘッドの適用例について説明する。
図8は本発明に係るインクジェットヘッドを備えた画像形成装置の一例として、フルカラーのインクジェット記録装置(以下、プリンタと言う)の概略を示す図である。
【0051】
図8に示すプリンタ1000は、給紙装置50、排紙装置60、画像形成部45、搬送装置70およびインク供給装置90などの機構部および複数のインクタンク1を備えている。
【0052】
給紙装置50により搬送装置70に給紙されたシート状の記録媒体(以下、シートと言う)51は、搬送装置70により画像形成部45に対して搬送される。当該搬送の過程で、後述の制御ユニット103等の指示に基づいて吐出口151よりインクが吐出され、シート51に文字やイメージなどが形成される。シート51は、画像形成部45を通過して引き続き搬送装置70により搬送され、排紙装置60に積載されて行く。
【0053】
画像形成部45には、インクジェット方式のインクジェットヘッド100が複数色のインクに対応して配置されている。インクジェットヘッド100は、シート51の搬送方向と異なる方向(例えば直交する方向)に、シート51の幅に対応した範囲にわたってインク吐出口を配列してなるものである。各インク吐出口に対しては、インクを吐出するために利用されるエネルギとして、インクに膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する発熱素子が設けられる。
【0054】
インクタンク1は、複数色のインクに対応して複数設けられ、それぞれについてインクジェットヘッドとの間のインク供給系が構成される。ここで、インクは形成する画像の内容に応じ、使用頻度の高い色ほど消費が速く進むので、収納しているインクの残量が実質的に無くなったインクタンク1のみを交換することができるよう、プリンタ1000に対し独立に着脱が可能な構成となっている。
【0055】
図9は図8のプリンタを含む制御系の構成例を示すブロック図である。
プリンタ1000は、USBやセントロニクス仕様の汎用インターフェースを介してホストコンピュータ等の外部機器101と接続され、外部機器101から転送される印刷情報に基づいて画像形成を行う。ここで、印刷情報には、所定のプリンタ言語に基づく文字コードデータ,図形描画命令,イメージデータ等の画像情報や、用紙切替、排紙口切替等の装置制御情報が含まれる。
【0056】
プリンタ1000は、上記各機構部を動作させるための制御に関与する各部として、操作パネル102、制御ユニット103および排紙オプション装置60を備えている。
【0057】
ここで、操作パネル102は、各種スイッチ(ボタン)のほか、LCDやLED表示器よりなる表示装置等により構成されるマン・マシンインターフェースとして機能する。すなわち、ユーザは操作パネル102上の各種スイッチを介してプリンタ1000に指示を与えることができるとともに、表示装置を介して装置状態の情報等を得ることができる。なお、ユーザにより指示ないし設定された各種データ等は、例えばNVRAM等の不揮発メモリに記憶され、管理される。
【0058】
制御ユニット103は、上記印刷情報に基いて、インクジェットヘッド100内の発熱素子を選択的に駆動するための駆動データを生成する。当該駆動データに基いて発熱素子が駆動されることでインクが沸騰し、これに応じて対応したインク吐出口よりインクが吐出されて、文字やイメージがシート51上に形成される。
【0059】
しかしながら、連続した画像形成を行っていくと、インク吐出に費やされた以外の熱エネルギがインクに蓄積され、インクの温度が上昇してインク内の溶存気体が発泡し、気泡となることがある。この気泡が発熱素子上の液路に存在していると、駆動に伴う発熱素子の沸騰が不完全となり、対応する吐出口からのインク吐出動作が不能または不良となることで、画像形成が正常に行われなくなる恐れがある。そこで制御ユニット103は、所定の周期または適宜のタイミングにて、インクジェットヘッド100および外部インク供給装置90間でインクを循環させる命令を出す。
【0060】
制御ユニット103は、具体的にはビデオコントローラ106、エンジンコントローラ107およびオプションコントローラ108を有する。
【0061】
ここで、ビデオコントローラ106は、汎用インターフェースを介して外部機器101と接続され、外部機器101から転送されてくる印刷情報を受信し、これに所要の演算等を施すことで、インク吐出動作を規定するドットデータ等からなる2値または多値の情報を生成し、ビデオインターフェース109を介してエンジンコントローラ107に対して当該情報を送信する。また、これと共に、統括インターフェース110を介してオプションコントローラ108に対して排紙を指定するためのコマンド等を送信する。
【0062】
エンジンコントローラ108は、シート51の搬送に適切に同期させながら、ビデオコントローラ106から転送されるドットデータに基づいてインクジェットヘッド100の発熱素子を駆動する。また、オプションコントローラ108に対して排紙タイミングの指示を行う。
【0063】
オプションコントローラ108は、図示しないCPU、ROMおよびRAM等を備え、プリンタ1000の各種オプション装置に具備されるオプションコントローラユニットと通信を行い、各種のオプション装置を統括的に制御可能である。図2では、オプション装置として、指示に応じた排紙動作を行うオプション装置60が例示されている。オプションコントローラ108は、ビデオコントローラ106から転送される排紙情報指定およびエンジンコントローラ108からの排紙情報指定等に基づき、インターフェース111を介して排紙オプション装置60の動作を制御する。
【0064】
なお、インクジェットヘッドの個数ないし対応する色調数はあくまでも例示であって、本発明を制限するものではない。また、インクジェットヘッドの吐出エレメントについても、上述したような発熱素子を有する形態のもののほか、ピエゾ素子等の電気機械的エネルギ変換素子を有するものなど、適宜の形態のものを用い得ることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの主要部の斜視図、(b)はその吐出口付近(部分Ib)を拡大して示す斜視図である。
【図2】(a)は図1(a)の分解斜視図、図2(b)はその吐出エレメント付近(部分IIb)を拡大して示す斜視図である。
【図3】図1におけるインク貯留室ケースの正面図である。
【図4】蓋部材を取り外してインク貯留室ケース本体(インク貯留室形成部材)の内部構成を示した正面図である。
【図5】インク貯留室形成部材と蓋部材との接合方法を説明するための図である。
【図6】図2(a)のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】(a)は図6における吐出エレメント近傍(部分VIIa)の詳細を示す拡大図、(b)はその一部(部分VIIb)の詳細を示す拡大図、(c)はその一部(部分VIIc)の詳細を示す拡大図である。
【図8】本発明に係るインクジェットヘッドを備えた画像形成装置の一例として、フルカラーのインクジェット記録装置(以下、プリンタと言う)の概略を示す図である。
【図9】図8のプリンタを含む制御系の構成例を示すブロック図である。
【図10】(a)はインクジェットヘッドの従来例を示す斜視図、(b)はその吐出口付近(部分Xb)の拡大図である。
【図11】図10(a)の分解斜視図である。
【図12】図10(a)のインクジェットヘッドの構成要素であるジョイントケースの上面図である。
【図13】図10(a)のインクジェットヘッドの構成要素であるジョイントケースの縦断面図である。
【図14】(a)およびは(b)は、それぞれ、図10(a)に示すインクジェットヘッドの正面図および背面図である。
【図15】(a)は図14(a)のXVa−XVa線断面図、(b)はその一部を拡大して示す図であり、吐出エレメント近傍(部分XVb)を示す縦断面図、(c)はさらにその一部を拡大して示す図であり、吐出口近傍(部分XVc)を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0066】
100 インクジェットヘッド
150 吐出エレメント
151 吐出口
153 共通液室
210 インク貯留室ケース
211 インク貯留室形成部材
211W インク貯留室形成部材内壁
212 インク貯留室蓋部材
230 インク導入室
235 インク供給室
215、216 フィルタ
320 レーザ溶着システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための吐出口を有する吐出エレメントと、吐出エレメントに供給するために外部から導入されたインクを貯留する貯留部と、を具えたインクジェットヘッドにおいて、
前記貯留部は、一面が開放された箱形状を有する第1部材と、当該開放面を覆って前記第1部材に接合する第2部材とにより構成されるとともに、前記インクが直接導入されるインク導入室と、前記吐出エレメントに直接インクを供給するインク供給室とに区画され、
前記第1部材は、前記開放面に対向する底面上に設けられた内壁によって包囲される前記インク導入室となる部分と、その外側にあって前記インク供給室となる部分とに仕切られ、
前記インク導入室となる部分の前記底面と対向する面にフィルタが配置され、該フィルタを介して前記インク導入室と前記インク供給室とが連通することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記インク供給室から前記吐出エレメントに供給されなかったインクを前記外部に導出する導出部を有し、該導出部には前記フィルタよりも小面積のフィルタが配置されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項1に記載のインクジェットヘッドを製造する方法であって、
レーザ光を吸収する材料で構成され、前記フィルタが配置された前記第1部材を用意する工程と、
該第1部材上にレーザ光を透過する材料で構成された前記第2部材を配する工程と、
前記第1部材と前記第2部材との接合部に、前記第2部材の側からレーザ光を照射することで前記第1部材と前記第2部材とを溶着する工程と、
を具えたことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記接合部は、平滑な面として同一平面上に構成された複数の接合面として形成されていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項1】
インクを吐出するための吐出口を有する吐出エレメントと、吐出エレメントに供給するために外部から導入されたインクを貯留する貯留部と、を具えたインクジェットヘッドにおいて、
前記貯留部は、一面が開放された箱形状を有する第1部材と、当該開放面を覆って前記第1部材に接合する第2部材とにより構成されるとともに、前記インクが直接導入されるインク導入室と、前記吐出エレメントに直接インクを供給するインク供給室とに区画され、
前記第1部材は、前記開放面に対向する底面上に設けられた内壁によって包囲される前記インク導入室となる部分と、その外側にあって前記インク供給室となる部分とに仕切られ、
前記インク導入室となる部分の前記底面と対向する面にフィルタが配置され、該フィルタを介して前記インク導入室と前記インク供給室とが連通することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
前記インク供給室から前記吐出エレメントに供給されなかったインクを前記外部に導出する導出部を有し、該導出部には前記フィルタよりも小面積のフィルタが配置されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項1に記載のインクジェットヘッドを製造する方法であって、
レーザ光を吸収する材料で構成され、前記フィルタが配置された前記第1部材を用意する工程と、
該第1部材上にレーザ光を透過する材料で構成された前記第2部材を配する工程と、
前記第1部材と前記第2部材との接合部に、前記第2部材の側からレーザ光を照射することで前記第1部材と前記第2部材とを溶着する工程と、
を具えたことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記接合部は、平滑な面として同一平面上に構成された複数の接合面として形成されていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−87373(P2008−87373A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271931(P2006−271931)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】
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