説明

インクジェットヘッドの製造方法

【課題】 圧電部材の所定領域だけに、無電解メッキによって電極を形成する。
【解決手段】 インクジェットヘッドの製造方法は、圧電部材のうち、インクを吐出させる駆動部以外の領域に対して、前記圧電部材よりも緻密な絶縁層を形成し、前記駆動部および前記絶縁層に対して無電解メッキを行うことにより、前記駆動部に駆動電圧を印加するための電極を形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無電解メッキによって形成された電極を有するインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドでは、圧電部材を変形させることにより、インクを吐出させている。圧電部材には、圧電部材に電圧を印加するための電極が形成されている。電極は、無電解メッキによって形成することがある。無電解メッキとは、メッキさせたい金属イオンを溶かした溶液(無電解メッキ液)を用いて、化学反応によって金属を析出させることをいう。
【0003】
電極を形成する第1の方法としては、圧電部材のうち、電極を形成しない部分をマスキングしてから、無電解メッキの前処理(例えば、エッチング)を行う。マスクを剥離した後に、前処理の部分において、無電解メッキによってメッキを析出させることにより、電極を形成することができる。
【0004】
電極を形成する第2の方法としては、圧電部材の全面に対して無電解メッキによってメッキを形成する。電極を形成する部分をマスキングした状態において、他の部分のメッキをエッチングによって除去することにより、電極を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−341073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧電部材は、細かい粒子の焼結体であるため、第1の方法では、マスクおよび圧電部材の間に、前処理の液がしみ込んでしまい、電極を形成しない部分にメッキが析出してしまうおそれがある。また、第2の方法では、エッチングを行っても、粒子間に析出したメッキが残ってしまうおそれがある。また、メッキの染み出しが発生してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の実施形態であるインクジェットヘッドの製造方法は、圧電部材のうち、インクを吐出させる駆動部以外の領域に対して、前記圧電部材よりも緻密な絶縁層を形成し、前記駆動部および前記絶縁層に対して無電解メッキを行うことにより、前記駆動部に駆動電圧を印加するための電極を形成する、ことを特徴とする。
【0008】
第2の実施形態は、圧電部材に電圧を印加するための電極を前記圧電部材に形成する方法であって、前記圧電部材の第1領域に対して、前記圧電部材よりも緻密な絶縁層を形成し、前記第1領域と、前記第1領域以外の第2領域に対して無電解メッキを行うことにより、前記電極を形成する、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態であるインクジェットヘッドの断面図である。
【図2】第1の実施形態であるインクジェットヘッドの断面図である。
【図3】第1の実施形態であるインクジェットヘッドの動作を説明する図である。
【図4】第1の実施形態であるインクジェットヘッドの動作を説明する図である。
【図5】第1の実施形態であるインクジェットヘッドの製造工程を示す図である。
【図6】第1の実施形態であるインクジェットヘッドの製造工程を示す図である。
【図7】第1の実施形態であるインクジェットヘッドの製造工程を示す図である。
【図8】第1の実施形態であるインクジェットヘッドの製造工程を示す図である。
【図9】第1の実施形態であるインクジェットヘッドの製造工程を示す図である。
【図10】インク供給装置の概略図である。
【図11】第2の実施形態であるインクジェットヘッドの外観図である。
【図12】第2の実施形態であるインクジェットヘッドの断面図である。
【図13】第2の実施形態であるインクジェットヘッドの製造工程を示す図である。
【図14】第2の実施形態であるインクジェットヘッドの製造工程を示す図である。
【図15】第2の実施形態であるインクジェットヘッドの製造工程を示す図である。
【図16】第2の実施形態であるインクジェットヘッドの製造工程を示す図である。
【図17】第3の実施形態であるインクジェットヘッドの外観図である。
【図18】第3の実施形態であるインクジェットヘッドの断面図である。
【図19】第3の実施形態において、圧電部材の駆動部の構成を示す図である。
【図20】第3の実施形態において、圧電部材の駆動部の形成工程を示す図である。
【図21】第3の実施形態において、圧電部材の駆動部の形成工程を示す図である。
【図22】第3の実施形態において、圧電部材の駆動部の形成工程を示す図である。
【図23】第3の実施形態において、圧電部材の駆動部の形成工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
第1の実施形態におけるインクジェットヘッドについて説明する。
【0011】
インクジェットヘッド1の構造について、図1および図2を用いて説明する。図1は、インクジェットヘッドの断面図である。図2は、図1の紙面と直交する面におけるインクジェットヘッドの断面図である。
【0012】
インクジェットヘッド1は、基板10を有する。基板10は、2つの圧電部材11,12を積層することによって構成される。圧電部材11,12としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いることができる。
【0013】
2つの圧電部材11,12は、分極処理が施されており、図2に示すように、2つの圧電部材11,12の分極方向P1,P2は、互いに異なる。矢印P1の方向は、圧電部材11の分極方向であり、矢印P2の方向は、圧電部材12の分極方向である。圧力室13を構成する圧電部材11,12は、電極50で覆われている。
【0014】
基板10は、圧力室13を有する。図2に示すように、複数の圧力室13は、一方向に並んでいる。圧力室13は、圧電部材11,12によって構成されており、圧力室13を構成する圧電部材11,12が、駆動部に相当する。
【0015】
圧力室13の内壁面には、電極が形成されている。電極は、圧力室13を構成する圧電部材11,12に電圧を印加するために用いられる。圧力室13の内壁面に形成された電極は、基板10の表面に形成された電極を介して、駆動回路に接続されている。駆動回路は、圧電部材11,12に対して所定の駆動パターンで電圧を印加する。
【0016】
枠部材20は、基板10の表面に設けられており、圧力室13の一部を塞いでいる。枠部材20は、開口部21を有しており、開口部21は、圧力室13とつながっている。
【0017】
蓋部材30は、枠部材20に固定されている。蓋部材30は、開口部31を有しており、開口部31は、枠部材20の開口部21とつながっている。開口部21,31は、インクを圧力室13に導くための通路となる。開口部31は、チューブを介してインクタンクと接続されている。
【0018】
ノズルプレート40は、基板10の端面に固定されており、圧力室13を塞いでいる。ノズルプレート40は、枠部材20および蓋部材30にも固定されている。ノズルプレート40は、ノズル41を有しており、ノズル41は、圧力室13とつながっている。ノズル41は、各圧力室13に対応して設けられている。
【0019】
次に、インクジェットヘッド1の動作について、図3および図4を用いて説明する。圧力室13を構成する圧電部材11,12に電極50から電圧を印加すると、図3および図4に示すように、圧電部材11,12を変形させることができる。
【0020】
図3に示す状態では、圧電部材11,12の変形によって、圧力室13Aの容積が増加している。圧力室13Aの容積を増加させることにより、圧力室13Aの内部にインクを取り込むことができる。すなわち、インクが、開口部31,21を通過して、圧力室13Aに移動する。圧力室13Aと隣り合う圧力室13Bでは、圧電部材11,12の変形によって、容積が減少している。
【0021】
図4に示す状態では、圧電部材11,12の変形によって、圧力室13Aの容積が減少している。圧力室13Aの容積を減少させることにより、圧力室13Aの内圧を上昇させて、圧力室13Aに取り込まれたインクを吐出させることができる。圧力室13A内のインクは、ノズル41を通過して、インクジェットヘッド1の外部に吐出する。圧力室13Aと隣り合う圧力室13Bでは、圧電部材11,12の変形によって、容積が増加している。
【0022】
次に、インクジェットヘッド1の製造方法について、図5から図9を用いて説明する。
【0023】
まず、図5に示すように、平板状の圧電部材11,12を積層することにより、基板10を形成する。圧電部材11,12は、図2を用いて説明したように、矢印P1,P2の方向に分極されている。基板10の表面に、ガラスコーティング層70を形成する。ガラスコーティング層70は、圧電部材11の表面に形成されており、本実施形態では、基板10の表面全体に形成されている。ガラスコーティング層70を構成するガラスコーティング剤としては、例えば、墨東化成製のシラグシタールを用いることができる。
【0024】
ガラスコーティング層70は、公知の方法を用いて、基板10に形成することができる。具体的には、ドライコート法やウェットコート法を用いて、ガラスコーティング層70を形成することができる。コーティング層70を形成するときの温度が高すぎると、基板10(圧電部材11,12)が劣化するおそれがあるため、この点を考慮して、コーティング層70を形成することが好ましい。例えば、コーティング層70を形成するときの温度として、基板10(圧電部材11,12)のキュリー温度の半分以下とすることができる。
【0025】
次に、図6に示すように、ガラスコーティング層70が形成された基板10に、複数の溝71を形成する。溝71は、圧力室13に相当する。溝71は、例えば、ダイヤモンドカッターを用いて形成することができる。溝71を形成する位置や数は、インクジェットヘッド1の構造等を考慮して、適宜設定することができる。本実施形態では、複数の溝71が一方向に並べて形成され、複数の溝71の列が2つ設けられている。
【0026】
次に、ガラスコーティング層70の表面全体にレジストを塗布し、電極を形成しない領域だけにレジストが残るように、露光および現像を行う。そして、メッキの前処理を施すことにより、電極を形成する領域に対してメッキ核を形成する。レジストを剥離すれば、電極を形成する領域だけに、メッキ核が存在することになる。
【0027】
本実施形態では、溝71を形成した後に、レジストを塗布しているが、溝71を形成する前に、レジストを塗布することができる。具体的には、ガラスコーティング層70の表面全体にレジストを塗布した後に、電極を形成しない領域だけにレジストが残るように、露光および現像を行う。そして、電極を形成する領域の所定位置に溝71を形成することができる。
【0028】
液状レジストを用いる場合には、レジストを塗布した後に、溝71を形成することが好ましい。溝71を形成した後に、液状レジストを塗布すると、液状レジストが溝71に詰まってしまい、レジストを除去し難くなることがある。溝71を形成した後に、レジストを塗布するときには、ドライフィルムレジストや電着レジストを用いることが好ましい。ドライフィルムレジストや電着レジストを用いれば、レジストが溝71に詰まってしまうのを防止することができる。
【0029】
次に、無電解Niメッキを施すことにより、メッキ核が存在する領域において、電極72,73が形成される(図7参照)。電極72は、溝71に形成されており、圧電部材11,12に接触している。電極72は、図3で説明した電極50に相当する。電極73は、溝71以外の所定領域に形成されており、ガラスコーティング層70の表面に形成されている。すなわち、電極73および圧電部材11の間には、ガラスコーティング層70がある。
【0030】
次に、ニッケルの電極72,73上に、電解メッキによって、金メッキを形成する。金メッキを形成することにより、電極72,73の抵抗値を下げて、電極72,73のバラツキを低減できる。また、酸化膜の形成を抑制するために、金メッキを用いることができる。複数の電極72,73が一部で繋がっていれば、電解メッキを容易に行うことができる。複数の電極72,73が繋がっている部分は、電解メッキを行った後に、除去すればよい。
【0031】
次に、図8に示すように、電極72,73の上面に、2つの枠部材80を配置する。各枠部材80は、溝71(電極72)の列に沿って配置される。枠部材80は、2つの開口部81を有しており、各開口部81の内側には、溝71(電極72)の列がある。枠部材80は、図1で説明した枠部材20に相当し、開口部81は、枠部材20の開口部21に相当する。
【0032】
図8に示す部材を、3つの切断線CLに沿って切断すると、図9に示す構造体が得られる。図9において、枠部材20に蓋部材30を固定すれば、図1で説明したインクジェットヘッド1が得られる。図9に示すように、枠部材20の開口部21にインクを供給すれば、開口部21の内側に位置している複数の溝71(圧力室13)にインクを供給することができる。
【0033】
本実施形態の製造方法によれば、無電解メッキを行う前に、圧電部材11の表面をガラスコーティング層70で覆うことにより、無電解メッキの前処理液が圧電部材11の粒子間にしみ込んでしまうのを防止することができる。前処理液が圧電部材11の粒子間にしみ込むのを防止することにより、所定領域だけに電極72,73を形成することができる。ガラスコーティング層70は、圧電部材11よりも緻密質であるため、メッキの染み出しを防止することができる。
【0034】
本実施形態では、コーティング層70の材料として、ガラスコーティング剤を用いているが、他の材料を用いることができる。コーティング層70の材料として、例えば、ポリイミド(PI)といった有機材料を用いることができる。コーティング層70の材料は、絶縁性を有しており、無電解メッキを行うことができればよい。そして、コーティング層70は、基板10(圧電部材11,12)よりも緻密質であればよい。
【0035】
インクジェットヘッド1の製造工程を考慮すると、コーティング層70は、無電解メッキ以外の処理(例えば、エッチング)に耐えることが好ましい。また、インクジェットヘッド1を使用するとき、コーティング層70は、インクと接触するために、インクに耐えることが好ましい。
【0036】
本実施形態では、基板10の表面全体にガラスコーティング層70を形成しているが、基板10の一部の領域だけに、ガラスコーティング層70を形成することができる。具体的には、少なくとも電極72が形成される領域に対して、ガラスコーティング層70を形成することができる。
【0037】
電極72,73を形成する方法は、本実施形態で説明した方法に限らない。溝71の表面に電極72が形成され、ガラスコーティング層70の表面に電極73が形成されればよい。例えば、図6に示す状態において、ガラスコーティング層70の全面に無電解メッキを施しておく。次に、電極72,73を形成する領域にマスクを形成しておき、電極72,73を形成しない領域のメッキをエッチングによって除去することができる。
【0038】
(第2の実施形態)
第2の実施形態であるインクジェットヘッドについて説明する。
【0039】
本実施形態であるインクジェットヘッド1にインクを供給するインク供給装置100について、図10を用いて説明する。
【0040】
インクジェットヘッド1のインク供給口1aには、チューブ101を介して第1インクタンク111が接続されている。第1インクタンク111には、インクIが収容されており、第1ポンプ121の動作(圧力調整)によって、第1インクタンク111内のインクIがチューブ101を介してインク供給口1aに供給される。
【0041】
第1ポンプ121は、チューブ102を介して第1インクタンク111と接続されている。第1インクタンク111内の気圧は、第1ポンプ121により調整されており、大気圧よりも高い状態に保たれている。第1インクタンク111内のインクIを、チューブ101を介してインクジェットヘッド1に供給することができる。第1ポンプ121に付した矢印は、第1ポンプ121の動作による空気の移動方向を示している。
【0042】
インクジェットヘッド1のインク排出口1bには、チューブ103を介して第2インクタンク112が接続されており、インク排出口1bから排出されたインクが第2インクタンク112に収容される。第2インクタンク112内のインクIは、輸送ポンプ122の動作によって、チューブ105を通過して第1インクタンク111に導かれる。インクIは、第1インクタンク111、インクジェットヘッド1および第2インクタンク112の経路で循環している。輸送ポンプ122に付した矢印は、輸送ポンプ122の動作に伴うインクIの移動方向を示している。
【0043】
第2インクタンク112には、チューブ104を介して第2ポンプ123が接続されている。第2ポンプ123は、第2インクタンク112内の気圧を大気圧よりも低い状態に保つように調整している。第2ポンプ123に付した矢印は、第2ポンプ123の動作(圧力調整)による空気の移動方向を示している。
【0044】
駆動回路130は、インクジェットヘッド1に駆動信号を送る。インクジェットヘッド1は、駆動回路130からの駆動信号を受けて、インクを吐出する。
【0045】
次に、本実施形態であるインクジェットヘッドの構造について説明する。図11は、本実施形態であるインクジェットヘッドの外観図である。図12は、図11のX1−X1断面図である。図11および図12において、X軸、Y軸およびZ軸は、互いに直交する軸である。
【0046】
基板10の上面には、駆動部14が設けられている。駆動部14は、2つの圧電部材11,12を積層することによって構成される。基板10は、例えば、アルミナやPZTで形成することができる。圧電部材11,12は、例えば、PZTで形成することができる。第1の実施形態と同様に、圧電部材11,12は、互いに逆の方向に分極されている。
【0047】
図11に示すように、複数の駆動部14がY方向に並んでおり、複数の駆動部14の列が2つ設けられている。Y方向で隣り合う2つの駆動部14の間には、圧力室があり、2つの駆動部14が変形することにより、圧力室の容積を変化させることができる。駆動部14の動作は、図3および図4で説明した場合と同様である。
【0048】
圧力室を構成する駆動部14の壁面には、電極が形成されている。電極を介して駆動部14に電圧を印加すれば、駆動部14を変形させることができる。駆動部14の変形によって圧力室の容積を増加させれば、圧力室にインクを取り込むことができる。駆動部14の変形によって圧力室の容積を減少させれば、インクを吐出させることができる。
【0049】
基板10は、供給口10aおよび排出口10bを有する。供給口10aは、X方向で隣り合う2つの駆動部14の間にある。排出口10bは、駆動部14に対して、供給口10aの側とは反対側にある。基板10の上面には、枠部材20が配置されており、枠部材20は、複数の駆動部14を囲んでいる。駆動部14および枠部材20の上面には、ノズルプレート40が固定されている。
【0050】
ノズルプレート40は、複数のノズル41を有しており、各ノズル41は、圧力室に対応して設けられている。図11に示すように、複数のノズル41は、Y方向に並んでおり、複数のノズル41の列が、2つ設けられている。本実施形態では、Y方向に並ぶ複数のノズル41を2つ設けているが、Y方向に並ぶ複数のノズル41を1つだけ設けることもできる。ノズル41の数は、適宜設定できる。
【0051】
次に、本実施形態であるインクジェットヘッドの動作について説明する。図12に示す矢印は、インクの移動方向を示している。
【0052】
インクは、供給口10aからインクジェットヘッド1の内部に移動する。供給口10aを通過したインクは、供給口10aに対してX方向の両側に進む。供給口10aからのインクは、圧力室に移動する。インクが圧力室内にあるときに、駆動部14が変形すれば、圧力室内のインクがノズル41を通過して、インクジェットヘッド1の外部に吐出することができる。圧力室を通過したインクは、基板10の排出口10bに向かって移動する。
【0053】
供給口10aから排出口10bに向かってインクが移動すれば、インクジェットヘッド1の内部に気泡が発生しても、インクの移動によって気泡をインクジェットヘッド1の外部に排出することができる。また、供給口10aから排出口10bに向かってインクが移動し続ければ、インクジェットヘッド1の内部におけるインクの温度変化を抑制することができる。
【0054】
次に、インクジェットヘッド1の製造方法について、図13から図16を用いて説明する。
【0055】
図13に示すように、基板10の表面に駆動部14を形成する。駆動部14は、例えば、2つの圧電部材11,12を積層した後に、図13に示す形状に加工することができる。基板10および駆動部14の表面に対して、第1の実施形態と同様に、ガラスコーティング層70を形成する。ガラスコーティング層70は、圧電部材11や基板10よりも緻密質な層である。
【0056】
本実施形態では、基板10および駆動部14の表面全体に対して、ガラスコーティング層70を形成している。本実施形態においても、コーティング層70の材料として、ガラスコーティング剤以外の材料、例えば、ポリイミド(PI)といった有機材料を用いることができる。
【0057】
ガラスコーティング層70を形成するときには、ドライコート法を用いることが好ましい。ウェットコート法によってガラスコーティング層70を形成するときには、駆動部14の基端部分にコーティング剤が溜まりやすくなってしまう。
【0058】
次に、第1の実施形態で説明したように、ガラスコーティング層70の表面に対して、無電解メッキによって電極73を形成する。具体的には、ガラスコーティング層70の表面全体にレジストを塗布し、電極73を形成しない領域だけにレジストが残るように、露光および現像を行う。
【0059】
次に、図14に示す駆動部14に対して、溝(圧力室)13を形成する。図15に示すように、複数の溝13を形成することにより、Y方向に並んだ複数の駆動部14が形成される。そして、溝13およびレジストが形成されていない領域に対して、無電解メッキによって電極72,73を形成する。
【0060】
図15に示す構造体を2つ用意すれば、図16に示すように、インクジェットヘッド1の一部を構成することができる。基板10には、排出口10bが形成されている。
【0061】
本実施形態においても、無電解メッキによって、電極73を形成する前に、基板10や駆動部14の表面にガラスコーティング層70を形成しておくことにより、メッキの前処理液が基板10や駆動部14の粒子間にしみ込むのを防止することができる。
【0062】
(第3の実施形態)
第3の実施形態であるインクジェットヘッドについて説明する。図17は、本実施形態であるインクジェットヘッドの外観図であり、図18は、図17のX2−X2断面図である。図17において、X軸、Y軸およびZ軸は、互いに直交する軸である。X軸、Y軸およびZ軸の関係は、図18から図23においても同様である。
【0063】
インクジェットヘッド1は、積層構造を有しており、最上層から下方層に向かって、圧電部材201、振動板202、キャビティプレート203、スペーサプレート204、マニホールドプレート205,206、ノズルプレート40が重ねられている。ノズルプレート40は、複数のノズル41を有する。振動板202は、インクを取り込むための供給口209を有する。
【0064】
スペーサプレート204およびマニホールドプレート205,206は、ノズル41に対応した開口部が形成されており、これらの開口部によって液室207が構成されている。液室207内のインクは、ノズル41に導かれる。
【0065】
圧電部材201は、振動板202上に成膜され、分極処理が施されている。本実施形態では、分極方向が、振動板202の面に対して垂直な方向となっている。圧電部材201の上面(振動板202と反対側の面)には、各液室207に対応する電極208が形成されている。図19に示すように、電極208は、X方向に延びている。振動板202は、導電性金属で形成されており、振動板202および電極208が圧電部材201を挟んでいる。
【0066】
複数の電極208には、配線が接続されており、駆動部からの電圧が印加される。電極208に電圧を印加すると、分極方向と同一方向に電界が形成される。電極208は、正極とし、振動板202は、接地極としている。電圧が印加された電極208の直下に位置する圧電部材201(駆動部に相当する)が駆動され、圧電部材201が分極方向と直交する方向に収縮する。振動板202は縮まないため、振動板202および圧電部材201は、液室207の側に凸となるように変形する。
【0067】
振動板202および圧電部材201が液室207の側に凸となるように変形すると、液室207内の容積が低下して、液室207の内圧が上昇する。液室207の内圧が上昇することにより、液室207内のインクがノズル41から吐出する。電極208への電圧の印加を停止すれば、圧電部材201および振動板202は、湾曲形状から平板形状に戻り、液室207の容積が元に戻る。液室207は、減圧状態となるため、液室207にインクが取り込まれる。
【0068】
次に、圧電部材201に電極208を形成する方法について、図20から図23を用いて説明する。図20から図23は、圧電部材201を同一方向から見たときの図である。
【0069】
まず、図20に示す平板状の圧電部材201を用意しておき、図21に示すように、圧電部材201の表面にガラスコーティング層70を形成する。ガラスコーティング層70は、圧電部材201よりも緻密質な層である。
【0070】
図21に示すように、圧電部材201のうち、電極208を形成する一部の領域R1には、ガラスコーティング層70が形成されていない。領域R1は、電極208の一部に相当する領域である。例えば、領域R1をマスキングした状態で、圧電部材201の表面に、ガラスコーティング剤を塗布することができる。ガラスコーティング剤を塗布した後にマスクを剥がせば、図21に示すガラスコーティング層70を形成することができる。
【0071】
次に、図22に示すように、ガラスコーティング層70が形成された面に対して、無電解メッキによって導電層74を形成する。導電層74は、ニッケルメッキによって構成されている。導電層74は、圧電部材201の全面に対して形成される。ニッケルメッキを形成した後に、電解メッキによって金メッキを形成することができる。
【0072】
次に、導電層74のうち、電極208を形成する領域以外の領域をエッチングによって除去する。電極208を形成する領域は、領域R1および領域R2である。領域R1では、導電層74が圧電部材201に接触している。領域R2では、導電層74および圧電部材201の間に、ガラスコーティング層70がある。
【0073】
本実施形態では、領域R2において、導電層74および圧電部材201の間にガラスコーティング層70を設けている。ガラスコーティング層70を設けることにより、無電解メッキを行っても、メッキの染み出しを防止することができる。特に、領域R2は、互いに近づいた位置に形成されているため、領域R2に対してガラスコーティング層70を形成することにより、互いに近づいた2つの領域R2の間において、メッキの染み出しを防止することができる。
【0074】
上述した実施形態では、インクジェットヘッド1の製造方法について説明したが、インクジェットヘッド1の製造方法以外にも適用することができる。すなわち、無電解メッキによって圧電部材に電極を形成するときには、本発明を適用することができる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
1:インクジェットヘッド、10:基板、11:圧電部材、12:圧電部材、
13:圧力室、20:枠部材、21:開口部、30:蓋部材、31:開口部、
40:ノズルプレート、41:ノズル、50:電極



【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電部材のうち、インクを吐出させる駆動部以外の領域に対して、前記圧電部材よりも緻密な絶縁層を形成し、
前記駆動部および前記絶縁層に対して無電解メッキを行うことにより、前記駆動部に駆動電圧を印加するための電極を形成する、
ことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記駆動部以外の領域のうち、少なくとも前記電極が形成される領域に対して、前記絶縁層を形成することを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記絶縁層を形成した後に、前記電極を形成しない領域をレジスト層で覆い、
前記レジスト層を形成した後に、前記無電解メッキを行い、
前記無電解メッキを行った後に、前記レジスト層を除去することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記駆動部および前記絶縁層に対して、前記無電解メッキにより導電層を形成し、
前記導電層のうち、前記電極として用いない領域を除去することにより、前記電極を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
分極方向が逆方向となる複数の圧電部材を積層することにより、前記駆動部を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
ガラスコーティング剤を用いて前記絶縁層を形成することを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記無電解メッキを行った後に、電解メッキを行うことにより、前記電極を形成することを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項8】
圧電部材に電圧を印加するための電極を前記圧電部材に形成する方法であって、
前記圧電部材の第1領域に対して、前記圧電部材よりも緻密な絶縁層を形成し、
前記第1領域と、前記第1領域以外の第2領域に対して無電解メッキを行うことにより、前記電極を形成する、
ことを特徴とする電極形成方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2012−148427(P2012−148427A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7125(P2011−7125)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】