インクジェットヘッドの製造方法
【課題】ヘッドチップの一端面上に凸部が存在する場合でもノズル間の封止不良を防止できるインクジェットヘッドの製造方法の提供。
【解決手段】チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法において、ノズルプレートが接着されるヘッドチップの一端面の全面とヘッドチップの一端面の近傍のチャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、ヘッドチップの他端面に位置するチャネルの入口からチャネルの出口に向かう空気流を形成して、チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部をヘッドチップの一端面側へ押し出す接着剤押し出し工程と、ヘッドチップの一端面に対しノズルプレートを接着する接着工程とを備えることを特徴とする。
【解決手段】チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法において、ノズルプレートが接着されるヘッドチップの一端面の全面とヘッドチップの一端面の近傍のチャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、ヘッドチップの他端面に位置するチャネルの入口からチャネルの出口に向かう空気流を形成して、チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部をヘッドチップの一端面側へ押し出す接着剤押し出し工程と、ヘッドチップの一端面に対しノズルプレートを接着する接着工程とを備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出するインクジェットヘッドの製造方法に関し、詳しくは、ノズル間の封止不良を防止するインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チャネルを区画する駆動壁に形成した電極に電圧を印加することにより駆動壁をせん断変形させ、そのときチャネル内に発生する圧力を利用してチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたシェアモード型のインクジェットヘッドとして、圧電素子からなる駆動壁とチャネルとが交互に並設されると共に、前面及び後面にそれぞれチャネルの開口部が配置された所謂ハーモニカタイプのヘッドチップを有するインクジェットヘッドが知られている(特許文献1、2)。
【0003】
特許文献3の第1の実施形態におけるインクジェットヘッド(10)では、インクチャネルとしての複数の溝(2)に金属製薄膜の電極(4)を製膜した圧電性の基板(1)を備え、基板の前面(前端面)(1a)と各溝の内面とにポリパラキシリレン膜(6)が製膜され、ポリパラキシリレン膜に親液化処理が施され、ポリパラキシリレン膜を介して基板の前面に接着剤でノズルプレートが接着されており、ポリパラキシリレン膜の親液化処理により基板とノズルプレートとの接着強度を堅牢に維持している(段落番号0030〜0038参照)。
【0004】
なお、特許文献4には、ヘッドチップの一端面上に形成されたポリパラキシリレン膜を除去して、ヘッドチップとノズルプレートを、ポリパラキシリレン膜を介さずに接着剤で接着する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−90374号公報
【特許文献2】特開2006−35454号公報
【特許文献3】特開2002−307692号公報
【特許文献4】特開2005−153510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、インクジェットヘッドの製造においては、ノズル間の封止不良が課題となっている。
【0007】
ノズル間の封止不良には、いくつかの発生原因があり、本発明者の研究結果、たとえば、ヘッドチップの一端面(ノズルプレート接着面)上に埃などの異物が付着する等により凸部が形成されると、異物に起因する凸部の周辺において接着剤の抜けが発生し、ノズルプレート貼り付け時に、ノズル間の封止不良が誘発されることを見出した。
【0008】
また、本発明者は、凸部の発生原因は、上記に限らず、ヘッドチップの一端面にポリパラキシリレン膜などの保護膜を形成する場合(特許文献3の第1の実施形態参照)、保護膜の成膜反応に伴って異常粒成長部を生成することがあったり、保護膜が形成される面に異物が存在した場合、保護膜が異物を巻き込んで凸部を生成することがあり、これがヘッドチップの一端面上から凸部として突出し易いことも見出した。
【0009】
また特許文献4の技術においても、凸部を生成するおそれがあった。すなわち、ポリパラキシリレン膜を除去する際に、徹底した処理を施そうとすると、ヘッドチップの一端面上だけでなく、チャネル側壁のポリパラキシリレン膜までもが過剰に除去され、そのため除去処理は制限され、時としてヘッドチップの一端面上に、ポリパラキシリレン膜が局所的に残留して凸部を形成する場合がある。
【0010】
本発明者は検証により、これら凸部の突出高さが20μm程度にまで達することを確認している。
【0011】
以下に、図13を参照して、凸部によるノズル間の封止不良の発生のメカニズムを説明する。
【0012】
図13(a)に示すように、ヘッドチップ201の一端面205への接着剤Bの塗布では、接着剤Bが塗布された転写シートSが用いられる。
【0013】
図13(b)に示すように、ヘッドチップ201の一端面205を接着剤Bと接触させる。このとき、一端面205上に凸部Eが存在する場合、凸部Eの周辺は、該凸部Eにより接着剤Bに対して持ち上げられ、接着剤Bと接触できない状態となる。
【0014】
その結果、図13(c)に示すように、凸部Eの周辺において、接着剤Bが未転写となる部位や、塗布厚みが薄い部位が生じる。
【0015】
図13(d)及び図13(d)の要部拡大図である図13(e)に示すように、接着剤Bが塗布されたヘッドチップ201の一端面205に、ノズルプレート202が接着される。この時、接着剤Bが未転写となる部位や、塗布厚みが薄い部位では、ノズルプレートとの接着が十分に行われず、ノズル間の封止不良が発生する。
【0016】
本発明者は、ヘッドチップ201の一端面205上に凸部Eが存在する場合でもノズル間の封止不良を防止できるインクジェットヘッドの製造方法の提供について鋭意検討し、本発明に至った。
【0017】
そこで、本発明の課題は、ヘッドチップの一端面上に凸部が存在する場合でもノズル間の封止不良を防止できるインクジェットヘッドの製造方法を提供することにある。
【0018】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0020】
請求項1記載の発明は、チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に、接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレートが接着される前記ヘッドチップの一端面の全面と前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記ヘッドチップの他端面に位置する前記チャネルの入口から前記チャネルの出口に向かう空気流を形成して、前記チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部を前記ヘッドチップの一端面側へ押し出す接着剤押し出し工程と、
前記接着剤押し出し工程後に、前記ヘッドチップの一端面に対し前記ノズルプレートを接着する接着工程と、
を備えることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【0021】
請求項2記載の発明は、チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に、接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法において、
該ノズルプレートが接着される前記ヘッドチップの一端面の全面と前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記チャネルの出口から前記ヘッドチップの他端面に位置する前記チャネルの入口に向かう空気流を形成して、塗布された接着剤の余剰部分を前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面側へ押し込む接着剤押し込み工程と、
前記接着剤押し込み工程後に、前記チャネルの入口から前記チャネルの出口に向かう空気流を形成して、前記チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部を前記ヘッドチップの一端面側へ押し出す接着剤押し出し工程と、
前記接着剤押し出し工程後に、前記ヘッドチップの一端面に対し前記ノズルプレートを接着する接着工程と、
を備えることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【0022】
請求項3記載の発明は、前記接着剤層形成工程において、表面に接着剤が塗布された接着剤転写シートの接着剤に、前記ヘッドチップの一端面を接触させると共に、該接着剤に対して該一端面を埋浸する、又は、埋浸した状態で揺動して、前記接着剤層を形成することを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0023】
請求項4記載の発明は、前記接着剤の粘度は、2Pa・s以上かつ30Pa・s以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0024】
請求項5記載の発明は、前記接着剤は、スペーサ粒子が分散されたエポキシ系接着剤であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0025】
請求項6記載の発明は、前記接着剤押し出し工程における前記空気流の圧力は、0.3MPa以上かつ1.2MPa以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0026】
請求項7記載の発明は、前記接着剤押し込み工程における前記空気流の圧力は、0.3MPa以上かつ1.2MPa以下の範囲であることを特徴とする請求項2〜6の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、チャネル詰まりやノズル詰まりを生じることなく、ヘッドチップの一端面上に凸部が存在する場合でもノズル間の封止不良を防止できるインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ヘッドチップの一例を示す斜視図
【図2】図1のII−II線断面図
【図3】図1のIII−III線断面図
【図4】ヘッドチップの他の例を示す断面図
【図5】ヘッドチップの他の例を示す斜視図
【図6】接着剤層形成工程により形成される接着剤層の一例を説明する図
【図7】接着剤層形成工程の一例を説明する図
【図8】接着剤押し出し工程の一例を説明する図
【図9】接着剤層の断面形状を示す断面図
【図10】接着剤押し込み工程の一例を説明する図
【図11】空気流の形成方法の一例を説明する図
【図12】スペーサ粒子の作用を説明する図
【図13】従来技術に係るインクジェットヘッドの製造方法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0030】
まず、インクジェットヘッドの製造方法の第1発明についての実施の形態(以下、本態様あるいは本形態という)を説明する。
【0031】
本態様は、チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に、接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法に適用される。
【0032】
本態様が対象とする前記ヘッドチップは、インクの流路としてチャネル11を備え、ヘッドチップ100の一端面10a及び他端面10bに、それぞれチャネル11の出口11a及び入口11bが形成されたものであれば、格別限定されない。
【0033】
本態様が対象とするヘッドチップの一例として、チャネルを区画する駆動壁に形成した電極に電圧を印加することにより駆動壁をせん断変形させ、そのときチャネル内に発生する圧力を利用してチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたシェアモード型のインクジェットヘッドに用いられるヘッドチップについて説明する。
【0034】
図1は本形態に適用されるヘッドチップの一例を示す斜視図であり、図2は図1のII−II線断面図であり、図3は図1のIII−III線断面図である。
【0035】
図1において、ヘッドチップ100は、2枚の基板1a、1bを互いに接合したチャネル基板1を有している。チャネル基板1には、チャネル11として、インクの流路となるインクチャネル(溝)と空気の流路となる空気チャネル(溝)とが、互いに平行な状態で交互に形成されており、各々のチャネル11間に各基板1a、1bから構成された隔壁13が存している。
【0036】
チャネル基板1を構成する基板1a、1bは電界を加えると変形する圧電材料から構成されており、分極方向が互いに反対向きとなるように接合されている。各基板1a、1bを構成する圧電材料としては有機材料又は非金属材料が挙げられる。
【0037】
図1中、チャネル基板1の上部には、チャネル11を覆うカバー基板2が貼り付けられている。カバー基板2は上記各基板1a、1bと同じ圧電材料から構成されており、好ましくは脱分極された状態で、チャネル基板1の上部に貼り付けられている。
【0038】
図2に示す通り、チャネル11の各チャネルの側壁及び底壁には、金属製の電極膜6が断面視してU字状に製膜されている。各電極膜6には、導通用の配線を介して2枚の両基板1a、1bを駆動させる駆動回路(図示略)が接続されている。
【0039】
この態様では、図2に示すように、各電極膜6の内壁には、電極膜6の保護膜として機能する絶縁性の保護膜7が形成されている。図の例では、保護膜7は、断面視して四角形状に製膜されている。保護膜としては、ポリパラキシリレン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などの有機膜、SiO2、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの無機膜などの絶縁性材料から構成された膜を好ましく例示でき、特に、ポリパラキシリレンから構成された膜が好適である。
【0040】
図3に示すように、ヘッドチップ100の一例において、保護膜7は、チャネル内における各電極膜6の内壁から、チャネル基材の一端面までを連続的に被覆するように形成され、その上面が、ヘッドチップ100の一端面10aを形成している。
【0041】
次に、本態様に適用されるヘッドチップの他の例について説明する。
【0042】
図4に示す通り、ヘッドチップの他の例では、上述した例に係るヘッドチップ100においてチャネル基材の端面を被覆するように形成された保護膜が、例えば公知の研磨処理、レーザー照射処理、酸素プラズマエッチング処理などを施すことにより、チャネル基材の端面10の全面にわたって除去されているものが挙げられる。
【0043】
これにより、ヘッドチップの他の例においては、チャネル基材の端面が、ヘッドチップ100の一端面10aを形成している。
【0044】
以上、シェアモード型のインクジェットヘッドに用いられるヘッドチップの例について説明したが、本形態に適用されるヘッドチップはこれに限定されるものではない。
【0045】
例えば、特開平11−165419号公報に示されるように、電極膜及び保護膜の何れも有さずに、チャネルが形成された基板そのものの端面が、ヘッドチップ100の一端面10aを形成するものであってもよい。また、ヘッドチップ100において、チャネル11の出口11aが位置する一端面10aと、チャネル11の入口11bが位置する他端面10bとの位置関係は、図1に示すような、それぞれが前端面及び後端面を成すものであってもよいし、これに限定されず、例えば図5に示すように、一端面10aと他端面10bとが互いに直交し、ヘッドチップの内部でチャネル11が折れ曲がったものであってもよい。
【0046】
本形態では、製法を実施する上で、まず、以上に説明した構成を有するヘッドチップを準備する。
【0047】
次いで、図6に示すように、ヘッドチップにノズルプレート接着用の接着剤を塗布する接着剤層形成工程において、ノズルプレートが接着されるヘッドチップ100の一端面10aの全面と、ヘッドチップ100の一端面10aの近傍のチャネル11内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層Bを形成する。
【0048】
「跨って接着剤を塗布する」とは、一端面10a側に形成される接着剤層(以下、一端面側接着剤層という)B1と、チャネル11内の側壁面側に形成される接着剤層(以下、側壁面側接着剤層という)B2とが連設するように接着剤を塗布することを指す。
【0049】
接着剤層形成工程における、接着剤の塗布方法は限定されず、例えば印刷法、ディスペンサーやローラーや刷毛などを用いて塗布する方法等を例示できる。インクの吐出精度を向上するためには、ヘッドチップ100の一端面10aの全面に均一に接着剤を塗布することが好ましく、そのためには、表面に接着剤が塗布されたシート(接着剤転写シート)を用いて塗布することが好ましい。
【0050】
図7を参照して接着剤層形成工程の一例について説明する。
【0051】
接着剤層形成工程における、図7(a)において、20は接着剤転写シートであり、シート21の表面に接着剤22が塗布されている。接着剤転写シート20は、好ましくは、ワイヤーバー等を用いて、シート21上に規定量の接着剤22が均一に塗布されている。
【0052】
図7(b)に示すように、接着剤転写シート20の接着剤22に、ヘッドチップ100の一端面10aを接触させる。このとき、接着剤22に対して一端面10aを埋浸する、又は、埋浸した状態で揺動する(揺動手段は格別問わない)ことによって、一端面10aの近傍のチャネル11内の側壁面に接着剤が塗布されると共に、ヘッドチップ100の一端面10a上に凸部Eが存在する場合であっても一端面10aの全面に接着剤が塗布されるので好ましい。
【0053】
次いで、接着剤転写シート20の接着剤22と、ヘッドチップ100の一端面10aとの接触を解除する。図7(c)及び図7(c)の要部拡大図である図7(d)に示すように、ヘッドチップ100の一端面10aの全面と、ヘッドチップ100の一端面10aの近傍のチャネル11内の側壁面とに跨って接着剤が塗布されて接着剤層Bが形成される。
【0054】
ここで、側壁面側接着剤層B2の側壁下端からの立ち上がり高さは、好ましくは、チャネル11の側壁下端から50μm程度である。
【0055】
次に、本態様では、接着剤層形成工程後に、図8に示すように、ヘッドチップ100の他端面10bに位置するチャネル11の入口11bから、チャネル11の出口11aに向かう空気流を形成して、チャネル11内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部をヘッドチップ100の一端面10a側へ押し出す接着剤押し出し工程を備えている。
【0056】
ここで、チャネル11内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部というのは、側壁面側接着剤層B2の厚み10〜50μm程度の塗布膜厚を、厚さ1〜10μm程度の塗布膜厚に減少させる減少部分に相当する塗布部分であり、この一部に相当する接着剤は、接着剤押し出しによって、一端面側接着剤層B1側に移動する。
【0057】
ヘッドチップ100の他端面10bに位置するチャネル11の入口11bから一端面10aに位置するチャネル11の出口11aに向かう空気流の形成は、特に限定されるものではないが、他端面10b側からの送風、又は、一端面10a側からの空気吸引により行うことができる。
【0058】
接着剤押し出し工程後に、ヘッドチップ100の一端面10aに対し、ノズルプレート3を接着する(接着工程)。また、ヘッドチップ100の他端面に接着剤でバックプレートを接着し、さらに接着剤でバックプレートのヘッドチップ100の反対側にインクマニホールドを接着してインクジェットヘッドが作製される。
【0059】
以上に述べたように、本態様では、接着剤層形成工程において形成された側壁面側接着剤層B2の接着剤の一部を、接着剤押し出し工程において、一端面側接着剤層B1側に押し出すが故に、ヘッドチップ100の一端面10a上のチャネル出口11aの近傍のみの膜厚を増して、凸部(図6〜8で符号Eで示す)の突出高さ以上に増加することができる(図8破線包囲領域)。
【0060】
特にヘッドチップ100の一端面10a上のチャネル出口11aの近傍は、ノズル間の封止不良(接着剤抜け)が生じやすい部位であり、また封止不良の発端部となる部位である。
【0061】
ヘッドチップ100の一端面10a上のチャネル出口11aの近傍の接着剤膜厚を凸部Eの突出高さ以上に増加させることで、凸部Eの突出が接着剤により吸収されて、チャネル出口11aの近傍がノズルプレートに対して十分に接着されるので、封止不良を好適に防止できる効果が得られる。
【0062】
接着剤の膜厚を、一端面上の全面に亘って増加する場合と比較すると、接着剤塗布量を減らすことが出来るため、ノズルプレート接着時の接触による外力やノズルプレートの自重によるノズル孔内への接着剤流れ込みによるノズル詰まりを減らす効果が得られる。
【0063】
更に、接着剤押し出し後の側壁面側接着剤層B2の形態は、その一部が除去された形態であるので、ノズルプレートを接着した際に、接着剤層Bとノズル孔との距離が保たれやすく、接着剤がノズル孔内に流れ込み難い。このこともノズル詰まりの防止に寄与する。
【0064】
接着剤押し出し後の側壁面側接着剤層B2の形態は、その一部が除去された形態であり、具体的には、表面が扁平状かあるいは凹面状をなしていることが好ましく、たとえば図9に示すように、ノズルプレート4を接着後において、接着剤層Bの断面形状Cが、インク流路に対して略凹面状となることが好ましい。このような略凹面状の形態は、空気流によって押し出す手法で形成しやすいので、空気流を用いることは好ましい。インク流路に対して略凹面状であれば、インクの流路に対して圧力損失となる部位がなく、スムーズな流路が確保されるので、チャネルの接着剤による詰まりを防止するだけでなく、インク吐出精度を向上する効果が得られる。
【0065】
本態様における前記接着剤層形成工程において、接着剤転写シートを用いる場合は、接着剤転写シート20におけるシート21上の接着剤22の塗布厚みが、ヘッドチップ100の一端面10a上からの凸部の突出高さに満たない場合であっても、容易に、一端面10aの全面に接着剤が塗布することができる。これは、接着剤22に対して一端面10aを埋浸する、又は、埋浸した状態で揺動することによって、一端面10aとシート21との間から押し退けられた接着剤22がシート21から盛り上がり、従来は塗布が困難であった凸部Eの周辺に対しても、容易に接着剤が接触し、塗布を行うことが可能となることによる。一端面10aとシート21との間から押し退けられて、シート21から盛り上がった接着剤22は、さらに、チャネル11の内部にも入り込み、チャネル11側壁におけるヘッドチップ100の一端面10aの近傍にも塗布されて、側壁面側接着剤層B2を好適に形成することができる。
【0066】
本態様において、接着剤は、スペーサ粒子が分散されたエポキシ系接着剤であることが好ましい。
【0067】
第1の発明において、一端面側接着剤層B1側に接着剤を押し出すことにより、ノズルプレート4貼り付け後に、接着剤がノズル孔41内に流れ込むことを防止できているが、スペーサ粒子Pの存在によりこの防止効果はさらに増す。すなわち図10に示すように、接着剤層Bを形成する接着剤中にスペーサ粒子Pが分散していることにより、くさび効果(充填剤としての効果)を発揮するからである。
【0068】
特に、凸部Eの一端面10aからの突出高さが大きい場合に対応できるように、ヘッドチップ100の一端面10aを被覆する一端面側接着剤層B1の厚みを大きくする場合、スペーサ粒子を用いることは好ましいことである。具体的には、ノズルプレート接着後の一端面側接着剤層B1の厚みを10μm以上とする場合に、スペーサ粒子を用いることが好ましい。
【0069】
また、凸部Eの突出高さ以上の粒子径を有するスペーサ粒子を用いることで、ノズルプレートを接着した際に、ノズルプレートと一端面10aとの間の凸部Eに起因する接着不良を回避できる効果が得られる。
【0070】
参考として、特許文献3の第1の実施形態に示されるように、ヘッドチップ100の一端面10aがポリパラキシリレン膜などの保護膜から形成されている場合、ヘッドチップ100の一端面10aには、保護膜の成膜反応に伴って異常粒成長部が突出することがある。また、保護膜がポリパラキシリレン膜である場合、成膜時において、ヘッドチップ100の一端面10aに浮遊塵埃が付着し、この浮遊塵埃を巻き込んでポリパラキシリレン膜が形成される場合がある。本発明者の知見によれば、これらの原因により、通常の製造環境下(浮遊塵埃が少ないクラス1000程度の通常のクリーン環境下)においてポリパラキシリレン膜の成膜を行う場合、異常粒成長部や異物巻き込み部(凸部E)の突出高さは、3μmから最大で20μm程度に及ぶ場合がある。浮遊塵埃が特に少ないクラス100以下のクリーン環境下においてポリパラキシリレン膜の成膜を行う場合、凸部Eは、3〜5μm程度の突出高さとなる。
【0071】
一方、特許文献4には、ヘッドチップ100の一端面上10aに形成されたポリパラキシリレン膜を除去して、ヘッドチップ100の一端面10aとノズルプレート3を、ポリパラキシリレン膜を介さずに接着剤で接着する技術が開示されている。ところが、ポリパラキシリレン膜を除去する際には、徹底した処理を施そうとすると、ヘッドチップの一端面上だけでなく、チャネル側壁のポリパラキシリレン膜までもが過剰に除去される恐れがある。そのため除去処理は制限され、時としてヘッドチップの一端面上に、ポリパラキシリレン膜が局所的に残留して、最大で10μm程度の凸部を形成する場合がある。
【0072】
さらに、製造工程において、ヘッドチップ100の一端面10aに室内の浮遊塵埃が付着する場合がある。室内の浮遊塵埃のサイズは、通常0.01〜20μmであり、これが付着した場合は、凸部の突出高さが20μmに及ぶ場合もある。
【0073】
前記スペーサ粒子の粒子径は、10μm以上かつ20μm以下の範囲から選択されることが好ましい(粒子径の測定は、コールカウンター法による。)。スペーサ粒子は、インクチャネル内においてインク流路の障害となる場合があるため、接着剤押し出し工程において、チャネルの外部に押し出されることが望ましいが、10μmに満たない場合は、空気流の圧力を受け難いためチャネル内部に残留する場合がある。20μmを超える場合は、それ以上の効果が得られ難く、また接着が不安定となる問題がある。
【0074】
スペーサ粒子としては、限定されるものではないが、例えば、無機粒子や高分子樹脂粒子、金属粒子などが挙げられる。
【0075】
スペーサ粒子の形状は、球状、立方体状等、限定されるものではないが、球状であることが好ましい。球状であれば、ノズルプレート3接着時において、凸部Eとノズルプレート3との間に挟まれても、転がることにより好適に抜け出すことができ、ヘッドチップ100の一端面10aとノズルプレート3との平行がより保たれやすくなる効果が得られる。
【0076】
接着剤には、スペーサ粒子が1重量%以上かつ8重量%以下の範囲で分散されていることが好ましい。1重量%に満たない場合は、スペーサ粒子による十分な効果が得られず、8重量%を超える場合は、粒子同士が凝集し易くなるなど、接着剤の接着性能を低下させる。
【0077】
接着剤中へのスペーサ粒子の添加・分散は、接着剤層形成工程の前に行ってもよいし、接着剤層形成工程の後に行ってもよい。
【0078】
接着剤層形成工程の前に行う場合は、接着剤転写シート上の接着剤に対してヘッドチップ100の一端面10aを埋浸する、又は、埋浸した状態で揺動する際に、一端面10aが全面に亘ってスペーサ粒子に支持されるため、一端面10aが凸部Eを有していても、一端面10aと接着剤を平行に接触させることができ、一端面10aの全面に接着剤を均一に塗布できるため、接着剤抜けを更に防止すると共に、インクジェットヘッドのインク吐出精度を向上させる効果が得られる。
【0079】
ところで、スペーサ粒子を用いる場合は、ヘッドチップ100の一端面10a上に塗布される一端面側接着剤層B1の厚みを、好ましくはスペーサ粒子の粒子径以上となるように、厚く塗布することが好ましい。このような塗布を行うためには、接着剤転写シート上の接着剤の厚みを十分に厚くすること、好ましくはスペーサ粒子径の2倍以上とすることが好ましい。
【0080】
以下、第2発明の好ましい実施形態について説明する。
【0081】
例えば上記のように、接着剤を厚く塗布する場合、図11に示したように、チャネル11の出口11aを塞ぐように接着剤膜B’が形成される場合がある。
【0082】
そこで、第2発明では、第1発明における接着剤層形成工程の後に、ヘッドチップ100の一端面10aに位置するチャネル11の出口11aから他端面10bに位置するチャネル11の入口11aに向かう空気流を形成して、塗布された接着剤の余剰部分(例えば上述の接着剤膜B’)を、チャネル11内の側壁面側へ押し込む接着剤押し込み工程を備える。これにより、後段の接着剤押し出し工程において、接着剤が飛び散って周囲を汚染することを回避できる。
【0083】
ヘッドチップ100の一端面10aに位置するチャネル11の出口11aから他端面10bに位置するチャネル11の入口11aに向かう空気流の形成は、特に限定されるものではないが、一端面10a側からの送風、又は、他端面10b側からの空気吸引により行うことができる。
【0084】
その他の第2発明の構成については、第1発明の構成についてなされた説明が援用される。
【0085】
以上に説明したように、インクジェットヘッドの製造方法の第1発明及び第2発明では、接着剤押し出し工程及び接着剤押し込み工程において、接着剤層Bを形成する接着剤を、空気流により変形・移動せしめる構成を有している。
【0086】
上記の変形・移動を好適に行う上で、接着剤の粘度、及び、空気流の設定は重要である。
【0087】
接着剤の粘度は、2Pa・s以上かつ30Pa・s以下の範囲であることが好ましい。接着剤の粘度が上記範囲に満たない場合、空気流による圧力で、接着剤が周囲に飛び散って汚染を生じる恐れがあり、上記範囲を超える場合、空気流による変形・移動が困難となる。
【0088】
また、接着剤押し出し工程及び接着剤押し込み工程における空気流の圧力は0.3MPa以上かつ1.2MPa以下の範囲で、接着剤の粘度や塗布量に応じて適宜選択されることが好ましい。空気流の圧力が上記範囲に満たない場合、接着剤の変形・移動が困難となり、上記範囲を超える場合、空気流による圧力で、接着剤が周囲に飛び散って汚染を生じる恐れがある。
【0089】
また、空気流を形成する継続時間は、1秒以上かつ10秒以下の範囲で、接着剤の粘度や塗布量に応じて適宜選択されることが好ましい。空気流を形成する継続時間が上記範囲に満たない場合、接着剤の変形・移動が困難となり、上記範囲を超える場合、処理時間に対してそれ以上の変形・移動が生じ難く、生産性を低下する。
【0090】
空気流を形成する空気流形成手段は限定されず、送風によるもの、又は、空気吸引によるものの何れであってもよい。
【0091】
送風により空気流を形成する空気流形成手段としては、エアーブローガン、エアーダスター、エアーナイフ等を好ましく例示でき、空気吸引により空気流を形成する空気流形成手段としては、真空吸引ポンプ等を好ましく例示できる。
【0092】
空気流形成手段が備える空気噴射口(ノズル)の形状は特に限定されず、シングルノズルタイプや、多数のノズルが並設されたフラットタイプ等が挙げられる。特に本発明においては、複数のチャンネル11に対して、同時に、均一な空気流を形成する上で、フラットタイプを好ましく用いることができる。
【0093】
図12は、空気流の形成方法の一例を説明する図である。
【0094】
図12において、30は送風を行う空気流形成手段であり、図示の例では多数のノズル31が並設されたフラットタイプのノズルを備えている。空気流形成手段30は、ヘッドチップ100の他端面10bに対して平行に配置され、空気流形成手段30の各々のノズル31の空気噴射口32と他端面10bとの距離Dは、好ましくは、0mm以上かつ30mm以下の範囲である。なお、別の態様として、一端面10a側に空気流形成手段を配置する場合は、接着剤との接触を避けることが好ましい。
【0095】
図示の例では、全てのチャネル11に対して同時に空気流を形成しているが、これに限定されるものではなく、1以上のチャネル11に順次空気流を形成してもよい。各々のチャネル11に均一な空気流を形成するために、各々のチャネル11毎にノズル31を設けることも好ましいことである。
【0096】
また、例えば、接着剤押し込み工程を備える場合では、送風と空気吸引の切り替えが可能な空気流形成手段を用いて、他端面10b側に設置した空気流形成手段から、接着剤押し込み工程においては空気吸引し、接着剤押し出し工程においては送風するという切り替えを行うことにより、工程の簡略化及び効率化を図ることが可能である。
【0097】
本発明のインクジェットヘッドの製造方法によって製造されたインクジェットヘッドは、ヘッドチップ100の一端面10aに対し、ノズルプレート3を接着する接着剤層が、側壁面側接着剤層を有しているため、長期使用によるノズル間の封止不良を防止する効果が得られる。
【0098】
つまり、側壁面側接着剤層を有さず、ヘッドチップの一端面上の接着剤のみによって、ノズルプレートと接着されている場合には、使用時において、チャネルの内部にインク吐出圧が形成されると、インクの流体圧が、ヘッドチップとヘッドチップの一端面上の接着剤との間の僅かな隙間に対して、くさび状に作用して、長期使用によりノズル間の封止不良を生じる恐れがある。
【0099】
これに対して、側壁面側接着剤層を有する場合は、インクの流体圧の作用を受け難く、長期使用時においてもノズル間の封止不良が防止される。
【0100】
また、特に、接着剤が長期使用により劣化した際においても、立ち上がり部により、ヘッドチップ100の一端面10aに対するノズルプレート3の位置ずれが生じ難く、高い接着強度が保持され、長期に亘ってインク吐出精度が保たれるという効果を奏する。
【0101】
さらに、図9に示したように、接着剤層Bの断面形状Cが、インク流路に対して略凹曲線状であることが好ましい。この結果、ノズル孔41に向かってインク流路が滑らかに収束していくことになるため、インク吐出精度を向上する効果を奏する。
【0102】
なお、上記接着剤層Bの断面形状Cは、本発明の方法によらずに形成することも可能であり、結果としてその形状が維持されていればよい。
【実施例】
【0103】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0104】
(実施例1)
浮遊塵埃が特に少ないクラス100以下のクリーン環境下において、以下の方法でインクジェットヘッドを製造した。
【0105】
(1)ヘッドチップの製造
始めに、厚さ150μm,厚さ900μmの2枚のPZT板を150℃に熱した絶縁油に漬けて、10KVの直流電圧を掛けて分極を行い、エポキシ系接着剤で2枚のPZT板を分極方向が反対になるように接着した。
【0106】
次いで、PZT板の表面に、東京応化工業社製ポジ型フォトレジスト「PMERP−LA100」を、乾燥膜厚5μmになる様にスピンコートし、100℃のオーブンに30分間入れてキュアーした後、PZT板の表面からダイヤモンドブレードを使用して、前後方向に伸びる幅70μm、深さ300μmのインク流路用のインクチャネルと、前後方向に伸びる幅70μm、深さ300μmの空気溝用の空気チャネルを交互に70μm間隔で研削してチャネル基板を形成した後、超音波洗浄して研削屑を取り除き、Ni−Bの無電解めっきを施した。
【0107】
無電解めっきでは、最初に、チャネル基板を、50℃に加熱した(株)ワールドメタル製の脱脂液「PT−0」(有機酸塩0.4%+無機アルカリ塩0.2%+ノニオン活性剤0.5%、pH=1)に30秒間つけて洗浄した。水洗後、(株)ワールドメタル製のエッチング液「PT−1」(無機酸塩5%+アンモニヤ系硫酸塩4%、弗素系塩1.5%、pH=2)に30秒間漬け、水洗した後、(株)ワールドメタル製の酸化液「PT−2」(有機酸塩15%+無機塩2%、pH=1)に30秒間漬けた。更に水洗した後、(株)ワールドメタル製の塩化第一錫溶液「PT−3」(有機酸塩0.4%+無機酸塩0.8%+塩化第一錫0.6%+NaCl3.5%、pH=1)に30秒間漬け、軽く水洗して、(株)ワールドメタル製の塩化パラジウム溶液「PT−4」(有機酸塩1%+無機酸塩3%+塩化パラジウム0.1%、pH=1)に45秒漬けた。これを水洗後、「PT−3」と「PT−4」による処理をもう一度繰り返した。
【0108】
次いで、前処理の終ったチャネル基板を、60℃に加熱した(株)ワールドメタル製のニッケル−ホウ素無電解めっき液「ニボロン70」に界面活性剤「AP555」を添加した液で、20分間、垂直方向に2.5cm/secの速度で揺動させながらめっきし、1.5μmのめっき金属を形成した。
【0109】
次いで、東京応化工業社製のレジスト剥離液「PS」にめっき済みのチャネル基板を浸漬して、レジストを取り除き、セラミックス製の試料取り付け板の上に、めっき済みのチャネル基板の前壁を上に向けてワックスでチャネル基板を固定し、これを(株)日本エンギス製のハイプラスラッピング機の回転するラッピングプレート上に載せて、粒径3μmのダイヤモンドスラリーを噴射しながら、3分間、チャネル基板の前壁を研磨してめっき金属を除去した。
【0110】
引き続き、チャネル基板の後壁と底面に析出しためっき金属を、波長532nmのYAGレーザーで、約50J/cm2のエネルギー密度で除去してめっき除去部を形成し、これにより各チャネル部間の電極を分離してヘッド配線とした。
【0111】
次いで、上記チャネル基板と同一のPZT板を脱分極してカバー基板を作製した。カバー基板を作製したら、そのカバー基板をチャネル基板に接着し、CVD処理によりチャネル基板(インクチャネル及び空気チャネルの壁面を含む。)にポリパラキシリレン膜を製膜し、ヘッドチップを得た。
【0112】
(2)接着剤転写シートの調製
平坦なフィルム上に、ワイヤーバーを用いて、粘度が3.0Pa・s、ガラス転移温度が118℃、100℃における硬化時間が1時間のエポキシ系接着剤(低粘度接着剤)を、接着剤が6μmの膜厚になるように塗布し、接着剤転写シートAを調製した。なお、フィルム上の接着剤が6μmの膜厚である場合、後段の接着剤層形成工程においてヘッドチップの一端面上に塗布される接着剤の膜厚は、フィルム上の接着剤の膜厚の半分となることから3μmであると推定される。
【0113】
(3)接着剤層形成工程
上記接着剤転写シートAの接着剤に、ヘッドチップの一端面を接触させると共に、該接着剤に対して該一端面を埋浸し、ノズルプレートが接着される前記ヘッドチップの一端面の全面と前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成した。
【0114】
(4)接着剤押し出し工程
さらに、ヘッドチップの他端面に位置するチャネルの入口から、ヘッドチップの一端面に位置するチャネルの出口に向かう空気流を形成して、チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部を、ヘッドチップの一端面側へ押し出す処理を施した。
【0115】
接着剤押し出し工程における空気流の形成は、ヘッドチップの他端面から、図12に示すような自作のフラットタイプノズルを備えたエアーブローガン(チヨダエンジニアリング社製「BG50」)により送風することにより行った。その際、送風圧力を0.5MPaとし、図12の例と同様にフラットタイプノズルの空気噴射口とヘッドチップの他端面との距離を10mmとし、空気流を形成する継続時間を3秒とした。
【0116】
(5)ノズルプレート接着工程
上記の通り接着剤層を形成したら、レーザーによりノズルが形成されたポリイミド製のノズルプレートを、ヘッドチップの一端面(接着剤が転写された面)に押し当て、ヘッドチップにノズルプレートを接着した。
【0117】
ヘッドチップの一端面を形成する絶縁性保護膜の上面とノズルプレートとの間における接着剤厚さは接着剤転写シートに塗布された接着剤の膜厚の半分の厚さとした。
【0118】
ノズルプレートを接着したら、ノズルプレートを取り付けたヘッドチップを常温で48時間放置し、その後100℃で1時間加熱した。
【0119】
(6)インクジェットヘッドの作製
次いで、ノズルプレートを取り付けたヘッドチップに、バックプレート、インクマニホールドなどをそれぞれ取り付け、インクジェットヘッドを作製した。
【0120】
(比較例1)
実施例1において、接着剤層形成工程が、上記接着剤転写シートAの接着剤に、ヘッドチップの一端面を接触させるのみによって、接着剤を塗布したこと、及び、接着剤押し出し工程を省略したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。
【0121】
(比較例2)
実施例1において、接着剤押し出し工程を省略した以外は、実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。
【0122】
(実施例2)
実施例1におけるインクジェットヘッド製造環境を、浮遊塵埃が少ないクラス1000程度の通常のクリーン環境下に代えた。
【0123】
また、実施例1において、接着剤転写シートAに代えて、以下のように調製した接着剤転写シートBを用いた。
【0124】
<接着剤転写シートBの調製>
粘度が25.0Pa・s、ガラス転移温度が131℃、100℃における硬化時間が1時間のエポキシ系接着剤(高粘度接着剤)に、粒径20μmのスペーサ粒子(宇部日東化成社製「ハイプレシカTS N3N」)を接着剤に対して2重量%添加し、攪拌機にて1分間攪拌して、スペーサ粒子を接着剤中に分散させた後に、平坦なフィルム上に、ワイヤーバーを用いて、接着剤が50μmの膜厚になるように塗布して接着剤転写シートBを調製した。
【0125】
なお、フィルム上の接着剤が50μmの膜厚である場合、後段の接着剤層形成工程においてヘッドチップの一端面上に塗布される接着剤の膜厚は、フィルム上の接着剤の膜厚の半分となることから25μmであると推定される。
【0126】
上記以外は、実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。
【0127】
(実施例3)
実施例1におけるインクジェットヘッド製造環境を、浮遊塵埃が少ないクラス1000程度の通常のクリーン環境下に代えた。
【0128】
また、実施例1において、接着剤転写シートAに代えて、実施例2で調製した接着剤転写シートBを用いた。
【0129】
更に、実施例1において、接着剤層形成工程後に、チャネルの出口からヘッドチップの他端面に位置するチャネルの入口に向かう空気流を形成して、塗布された接着剤の余剰部分をヘッドチップの一端面の近傍のチャネル内の側壁面側へ押し込む処理を施した(接着剤押し込み工程)後に、実施例1と同様の接着剤押し出し工程に供した。
【0130】
接着剤を押し込む際の空気流の形成は、ヘッドチップの一端面から、実施例2において接着剤の押し出しに用いたものと同様のフラットタイプノズルを備えたエアーフローガンにより送風することにより行った。その際、送風圧力を0.5MPaとし、フラットタイプノズルの空気噴射口とヘッドチップの一端面との距離を20mmとし、空気流を形成する継続時間を3秒とした。
【0131】
(比較例3)
実施例1におけるインクジェットヘッド製造環境を、浮遊塵埃が少ないクラス1000程度の通常のクリーン環境下に代えた。
【0132】
また、実施例1において、接着剤転写シートAに代えて以下の接着剤転写シートCを用いた。
【0133】
<接着剤転写シートCの調製>
粘度が25.0Pa・s、ガラス転移温度が131℃、100℃における硬化時間が1時間のエポキシ系接着剤(高粘度接着剤)を、平坦なフィルム上に、ワイヤーバーを用いて、接着剤が50μmの膜厚になるように塗布してなる接着剤転写シートCを用いた。
なお、フィルム上の接着剤が50μmの膜厚である場合、後段の接着剤層形成工程においてヘッドチップの一端面上に塗布される接着剤の膜厚は、フィルム上の接着剤の膜厚の半分となることから25μmであると推定される。
【0134】
更に、実施例1において、接着剤層形成工程において、上記接着剤転写シートCの接着剤に、ヘッドチップの一端面を接触させるのみによって接着剤を塗布し、更に、接着剤押し出し工程を省略した。
【0135】
上記以外は、実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。
【0136】
(比較例4)
実施例1におけるインクジェットヘッド製造環境を、浮遊塵埃が少ないクラス1000程度の通常のクリーン環境下に代えた。
【0137】
また、接着剤転写シートAに代えて、比較例3で調製した接着剤転写シートCを用い、更に、接着剤押し出し工程を省略した。
【0138】
上記以外は、実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。
【0139】
[評価]
上記の各実施例及び比較例のインクジェットヘッドについて、以下の評価を行った。
【0140】
1.ヘッドチップの一端面上における凸部の突出高さの測定
ニコン社製「CNC画像測定システムNEXIV」を用いて、各実施例及び比較例において接着剤層形成工程に供されるヘッドチップの一端面上における凸部の突出高さを測定した。
【0141】
実施例1、及び、比較例1、2のインクジェットヘッドは、浮遊塵埃が特に少ないクラス100以下のクリーン環境で製造されたものであり、ヘッドチップの一端面に、浮遊塵埃の付着は見られなかったが、ポリパラキシリレン膜の成膜過程において生成する異常粒成長部が最大5μmの凸部を形成していることが確認された。
【0142】
一方、実施例2、3、及び、比較例3、4は、浮遊塵埃が少ないクラス1000程度のクリーン環境で製造されたものであるが、ヘッドチップの一端面に、ポリパラキシリレン膜の成膜過程において生成する異常粒成長部が最大5μmの凸部を形成していることに加えて、保護膜が浮遊塵埃を巻き込んだことや、保護膜上に浮遊塵埃が付着したことによる最大20μm程度の凸部が形成されていることが確認された。
【0143】
2.ノズルプレート貼り付け性
各実施例及び比較例で得られたインクジェットヘッドについて、ノズルプレート貼り付け結果を評価した。
【0144】
各インクジェットヘッドで接着剤抜けやチャネル詰まりがあった場合はNGとし、異常がない場合はOKとした。
【0145】
各実施例及び比較例について各々10個のインクジェットヘッドを検査し、10個ともOKの場合を○とし、NGが一つでもあった場合を×とした。また、NGではないが、それ以外の不具合(実用上問題のない範囲)がある場合を△とした。
【0146】
結果を表1に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
<評価>
比較例1〜4の結果より、ヘッドチップの一端面を接触させるのみ、あるいは接着剤に対して該一端面を埋浸し、埋浸した状態で揺動して、接着剤押し出し処理を省略した場合、接着剤抜けや接着剤詰まりを生じることがわかる。
【0149】
これに対して、接着剤に対してヘッドチップの一端面を埋浸し、埋浸した状態で揺動した後、更に、接着剤押し出し処理を施した実施例1〜3では、接着剤抜けや接着剤詰まりが生じないことが分かる。
【0150】
特に、実施例2、3では、接着剤厚さを、従来の通常の膜厚(1〜10μm程度)の倍以上である25μmとしても、ノズル孔内に接着剤が流れ込むことがなかった。
【0151】
なお、実施例2では、接着剤層形成工程後に、チャネルの出口を塞ぐ接着剤膜が形成されていることが確認され、接着剤押し出し工程において、実用上問題のない範囲ではあるが接着剤が飛び散ることがあった。これについて本発明者は追加試験を行い、接着剤押し出し工程に用いる空気流の圧力を調整することで、接着剤が飛び散ることを防止できることを確認している。
【0152】
これに対して、接着剤層形成工程と接着剤押し出し工程との間に接着剤押し込み処理を施した実施例3では、接着剤が飛び散ることが容易且つ完全に防止された。
【0153】
また、実施例1では、接着剤層形成工程後におけるヘッドチップの一端面上の接着剤厚みが3μmと推定される。ヘッドチップの一端面上に最大5μmの凸部が存在するにもかかわらず、接着剤抜けや接着剤詰まりが防止されていることから、接着剤押し出し工程において、側壁面側接着剤層の一部が、一端面側接着剤層側に押し出されて、一端面上の特にノズル孔周辺における接着剤厚みを5μm以上に増加させていることが推定される。
【符号の説明】
【0154】
1:ヘッドチップ
10a:一端面
10b:他端面
11:チャネル
11a:出口
11b:入口
20:接着剤転写シート
30:空気流形成手段
40:ノズルプレート
41:ノズル孔
B:接着剤層
B1:一端面側接着剤層
B2:側壁面側接着剤層
E:凸部
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出するインクジェットヘッドの製造方法に関し、詳しくは、ノズル間の封止不良を防止するインクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チャネルを区画する駆動壁に形成した電極に電圧を印加することにより駆動壁をせん断変形させ、そのときチャネル内に発生する圧力を利用してチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたシェアモード型のインクジェットヘッドとして、圧電素子からなる駆動壁とチャネルとが交互に並設されると共に、前面及び後面にそれぞれチャネルの開口部が配置された所謂ハーモニカタイプのヘッドチップを有するインクジェットヘッドが知られている(特許文献1、2)。
【0003】
特許文献3の第1の実施形態におけるインクジェットヘッド(10)では、インクチャネルとしての複数の溝(2)に金属製薄膜の電極(4)を製膜した圧電性の基板(1)を備え、基板の前面(前端面)(1a)と各溝の内面とにポリパラキシリレン膜(6)が製膜され、ポリパラキシリレン膜に親液化処理が施され、ポリパラキシリレン膜を介して基板の前面に接着剤でノズルプレートが接着されており、ポリパラキシリレン膜の親液化処理により基板とノズルプレートとの接着強度を堅牢に維持している(段落番号0030〜0038参照)。
【0004】
なお、特許文献4には、ヘッドチップの一端面上に形成されたポリパラキシリレン膜を除去して、ヘッドチップとノズルプレートを、ポリパラキシリレン膜を介さずに接着剤で接着する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−90374号公報
【特許文献2】特開2006−35454号公報
【特許文献3】特開2002−307692号公報
【特許文献4】特開2005−153510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、インクジェットヘッドの製造においては、ノズル間の封止不良が課題となっている。
【0007】
ノズル間の封止不良には、いくつかの発生原因があり、本発明者の研究結果、たとえば、ヘッドチップの一端面(ノズルプレート接着面)上に埃などの異物が付着する等により凸部が形成されると、異物に起因する凸部の周辺において接着剤の抜けが発生し、ノズルプレート貼り付け時に、ノズル間の封止不良が誘発されることを見出した。
【0008】
また、本発明者は、凸部の発生原因は、上記に限らず、ヘッドチップの一端面にポリパラキシリレン膜などの保護膜を形成する場合(特許文献3の第1の実施形態参照)、保護膜の成膜反応に伴って異常粒成長部を生成することがあったり、保護膜が形成される面に異物が存在した場合、保護膜が異物を巻き込んで凸部を生成することがあり、これがヘッドチップの一端面上から凸部として突出し易いことも見出した。
【0009】
また特許文献4の技術においても、凸部を生成するおそれがあった。すなわち、ポリパラキシリレン膜を除去する際に、徹底した処理を施そうとすると、ヘッドチップの一端面上だけでなく、チャネル側壁のポリパラキシリレン膜までもが過剰に除去され、そのため除去処理は制限され、時としてヘッドチップの一端面上に、ポリパラキシリレン膜が局所的に残留して凸部を形成する場合がある。
【0010】
本発明者は検証により、これら凸部の突出高さが20μm程度にまで達することを確認している。
【0011】
以下に、図13を参照して、凸部によるノズル間の封止不良の発生のメカニズムを説明する。
【0012】
図13(a)に示すように、ヘッドチップ201の一端面205への接着剤Bの塗布では、接着剤Bが塗布された転写シートSが用いられる。
【0013】
図13(b)に示すように、ヘッドチップ201の一端面205を接着剤Bと接触させる。このとき、一端面205上に凸部Eが存在する場合、凸部Eの周辺は、該凸部Eにより接着剤Bに対して持ち上げられ、接着剤Bと接触できない状態となる。
【0014】
その結果、図13(c)に示すように、凸部Eの周辺において、接着剤Bが未転写となる部位や、塗布厚みが薄い部位が生じる。
【0015】
図13(d)及び図13(d)の要部拡大図である図13(e)に示すように、接着剤Bが塗布されたヘッドチップ201の一端面205に、ノズルプレート202が接着される。この時、接着剤Bが未転写となる部位や、塗布厚みが薄い部位では、ノズルプレートとの接着が十分に行われず、ノズル間の封止不良が発生する。
【0016】
本発明者は、ヘッドチップ201の一端面205上に凸部Eが存在する場合でもノズル間の封止不良を防止できるインクジェットヘッドの製造方法の提供について鋭意検討し、本発明に至った。
【0017】
そこで、本発明の課題は、ヘッドチップの一端面上に凸部が存在する場合でもノズル間の封止不良を防止できるインクジェットヘッドの製造方法を提供することにある。
【0018】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0020】
請求項1記載の発明は、チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に、接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレートが接着される前記ヘッドチップの一端面の全面と前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記ヘッドチップの他端面に位置する前記チャネルの入口から前記チャネルの出口に向かう空気流を形成して、前記チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部を前記ヘッドチップの一端面側へ押し出す接着剤押し出し工程と、
前記接着剤押し出し工程後に、前記ヘッドチップの一端面に対し前記ノズルプレートを接着する接着工程と、
を備えることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【0021】
請求項2記載の発明は、チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に、接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法において、
該ノズルプレートが接着される前記ヘッドチップの一端面の全面と前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記チャネルの出口から前記ヘッドチップの他端面に位置する前記チャネルの入口に向かう空気流を形成して、塗布された接着剤の余剰部分を前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面側へ押し込む接着剤押し込み工程と、
前記接着剤押し込み工程後に、前記チャネルの入口から前記チャネルの出口に向かう空気流を形成して、前記チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部を前記ヘッドチップの一端面側へ押し出す接着剤押し出し工程と、
前記接着剤押し出し工程後に、前記ヘッドチップの一端面に対し前記ノズルプレートを接着する接着工程と、
を備えることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【0022】
請求項3記載の発明は、前記接着剤層形成工程において、表面に接着剤が塗布された接着剤転写シートの接着剤に、前記ヘッドチップの一端面を接触させると共に、該接着剤に対して該一端面を埋浸する、又は、埋浸した状態で揺動して、前記接着剤層を形成することを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0023】
請求項4記載の発明は、前記接着剤の粘度は、2Pa・s以上かつ30Pa・s以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0024】
請求項5記載の発明は、前記接着剤は、スペーサ粒子が分散されたエポキシ系接着剤であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0025】
請求項6記載の発明は、前記接着剤押し出し工程における前記空気流の圧力は、0.3MPa以上かつ1.2MPa以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【0026】
請求項7記載の発明は、前記接着剤押し込み工程における前記空気流の圧力は、0.3MPa以上かつ1.2MPa以下の範囲であることを特徴とする請求項2〜6の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、チャネル詰まりやノズル詰まりを生じることなく、ヘッドチップの一端面上に凸部が存在する場合でもノズル間の封止不良を防止できるインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ヘッドチップの一例を示す斜視図
【図2】図1のII−II線断面図
【図3】図1のIII−III線断面図
【図4】ヘッドチップの他の例を示す断面図
【図5】ヘッドチップの他の例を示す斜視図
【図6】接着剤層形成工程により形成される接着剤層の一例を説明する図
【図7】接着剤層形成工程の一例を説明する図
【図8】接着剤押し出し工程の一例を説明する図
【図9】接着剤層の断面形状を示す断面図
【図10】接着剤押し込み工程の一例を説明する図
【図11】空気流の形成方法の一例を説明する図
【図12】スペーサ粒子の作用を説明する図
【図13】従来技術に係るインクジェットヘッドの製造方法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0030】
まず、インクジェットヘッドの製造方法の第1発明についての実施の形態(以下、本態様あるいは本形態という)を説明する。
【0031】
本態様は、チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に、接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法に適用される。
【0032】
本態様が対象とする前記ヘッドチップは、インクの流路としてチャネル11を備え、ヘッドチップ100の一端面10a及び他端面10bに、それぞれチャネル11の出口11a及び入口11bが形成されたものであれば、格別限定されない。
【0033】
本態様が対象とするヘッドチップの一例として、チャネルを区画する駆動壁に形成した電極に電圧を印加することにより駆動壁をせん断変形させ、そのときチャネル内に発生する圧力を利用してチャネル内のインクをノズルから吐出させるようにしたシェアモード型のインクジェットヘッドに用いられるヘッドチップについて説明する。
【0034】
図1は本形態に適用されるヘッドチップの一例を示す斜視図であり、図2は図1のII−II線断面図であり、図3は図1のIII−III線断面図である。
【0035】
図1において、ヘッドチップ100は、2枚の基板1a、1bを互いに接合したチャネル基板1を有している。チャネル基板1には、チャネル11として、インクの流路となるインクチャネル(溝)と空気の流路となる空気チャネル(溝)とが、互いに平行な状態で交互に形成されており、各々のチャネル11間に各基板1a、1bから構成された隔壁13が存している。
【0036】
チャネル基板1を構成する基板1a、1bは電界を加えると変形する圧電材料から構成されており、分極方向が互いに反対向きとなるように接合されている。各基板1a、1bを構成する圧電材料としては有機材料又は非金属材料が挙げられる。
【0037】
図1中、チャネル基板1の上部には、チャネル11を覆うカバー基板2が貼り付けられている。カバー基板2は上記各基板1a、1bと同じ圧電材料から構成されており、好ましくは脱分極された状態で、チャネル基板1の上部に貼り付けられている。
【0038】
図2に示す通り、チャネル11の各チャネルの側壁及び底壁には、金属製の電極膜6が断面視してU字状に製膜されている。各電極膜6には、導通用の配線を介して2枚の両基板1a、1bを駆動させる駆動回路(図示略)が接続されている。
【0039】
この態様では、図2に示すように、各電極膜6の内壁には、電極膜6の保護膜として機能する絶縁性の保護膜7が形成されている。図の例では、保護膜7は、断面視して四角形状に製膜されている。保護膜としては、ポリパラキシリレン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などの有機膜、SiO2、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの無機膜などの絶縁性材料から構成された膜を好ましく例示でき、特に、ポリパラキシリレンから構成された膜が好適である。
【0040】
図3に示すように、ヘッドチップ100の一例において、保護膜7は、チャネル内における各電極膜6の内壁から、チャネル基材の一端面までを連続的に被覆するように形成され、その上面が、ヘッドチップ100の一端面10aを形成している。
【0041】
次に、本態様に適用されるヘッドチップの他の例について説明する。
【0042】
図4に示す通り、ヘッドチップの他の例では、上述した例に係るヘッドチップ100においてチャネル基材の端面を被覆するように形成された保護膜が、例えば公知の研磨処理、レーザー照射処理、酸素プラズマエッチング処理などを施すことにより、チャネル基材の端面10の全面にわたって除去されているものが挙げられる。
【0043】
これにより、ヘッドチップの他の例においては、チャネル基材の端面が、ヘッドチップ100の一端面10aを形成している。
【0044】
以上、シェアモード型のインクジェットヘッドに用いられるヘッドチップの例について説明したが、本形態に適用されるヘッドチップはこれに限定されるものではない。
【0045】
例えば、特開平11−165419号公報に示されるように、電極膜及び保護膜の何れも有さずに、チャネルが形成された基板そのものの端面が、ヘッドチップ100の一端面10aを形成するものであってもよい。また、ヘッドチップ100において、チャネル11の出口11aが位置する一端面10aと、チャネル11の入口11bが位置する他端面10bとの位置関係は、図1に示すような、それぞれが前端面及び後端面を成すものであってもよいし、これに限定されず、例えば図5に示すように、一端面10aと他端面10bとが互いに直交し、ヘッドチップの内部でチャネル11が折れ曲がったものであってもよい。
【0046】
本形態では、製法を実施する上で、まず、以上に説明した構成を有するヘッドチップを準備する。
【0047】
次いで、図6に示すように、ヘッドチップにノズルプレート接着用の接着剤を塗布する接着剤層形成工程において、ノズルプレートが接着されるヘッドチップ100の一端面10aの全面と、ヘッドチップ100の一端面10aの近傍のチャネル11内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層Bを形成する。
【0048】
「跨って接着剤を塗布する」とは、一端面10a側に形成される接着剤層(以下、一端面側接着剤層という)B1と、チャネル11内の側壁面側に形成される接着剤層(以下、側壁面側接着剤層という)B2とが連設するように接着剤を塗布することを指す。
【0049】
接着剤層形成工程における、接着剤の塗布方法は限定されず、例えば印刷法、ディスペンサーやローラーや刷毛などを用いて塗布する方法等を例示できる。インクの吐出精度を向上するためには、ヘッドチップ100の一端面10aの全面に均一に接着剤を塗布することが好ましく、そのためには、表面に接着剤が塗布されたシート(接着剤転写シート)を用いて塗布することが好ましい。
【0050】
図7を参照して接着剤層形成工程の一例について説明する。
【0051】
接着剤層形成工程における、図7(a)において、20は接着剤転写シートであり、シート21の表面に接着剤22が塗布されている。接着剤転写シート20は、好ましくは、ワイヤーバー等を用いて、シート21上に規定量の接着剤22が均一に塗布されている。
【0052】
図7(b)に示すように、接着剤転写シート20の接着剤22に、ヘッドチップ100の一端面10aを接触させる。このとき、接着剤22に対して一端面10aを埋浸する、又は、埋浸した状態で揺動する(揺動手段は格別問わない)ことによって、一端面10aの近傍のチャネル11内の側壁面に接着剤が塗布されると共に、ヘッドチップ100の一端面10a上に凸部Eが存在する場合であっても一端面10aの全面に接着剤が塗布されるので好ましい。
【0053】
次いで、接着剤転写シート20の接着剤22と、ヘッドチップ100の一端面10aとの接触を解除する。図7(c)及び図7(c)の要部拡大図である図7(d)に示すように、ヘッドチップ100の一端面10aの全面と、ヘッドチップ100の一端面10aの近傍のチャネル11内の側壁面とに跨って接着剤が塗布されて接着剤層Bが形成される。
【0054】
ここで、側壁面側接着剤層B2の側壁下端からの立ち上がり高さは、好ましくは、チャネル11の側壁下端から50μm程度である。
【0055】
次に、本態様では、接着剤層形成工程後に、図8に示すように、ヘッドチップ100の他端面10bに位置するチャネル11の入口11bから、チャネル11の出口11aに向かう空気流を形成して、チャネル11内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部をヘッドチップ100の一端面10a側へ押し出す接着剤押し出し工程を備えている。
【0056】
ここで、チャネル11内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部というのは、側壁面側接着剤層B2の厚み10〜50μm程度の塗布膜厚を、厚さ1〜10μm程度の塗布膜厚に減少させる減少部分に相当する塗布部分であり、この一部に相当する接着剤は、接着剤押し出しによって、一端面側接着剤層B1側に移動する。
【0057】
ヘッドチップ100の他端面10bに位置するチャネル11の入口11bから一端面10aに位置するチャネル11の出口11aに向かう空気流の形成は、特に限定されるものではないが、他端面10b側からの送風、又は、一端面10a側からの空気吸引により行うことができる。
【0058】
接着剤押し出し工程後に、ヘッドチップ100の一端面10aに対し、ノズルプレート3を接着する(接着工程)。また、ヘッドチップ100の他端面に接着剤でバックプレートを接着し、さらに接着剤でバックプレートのヘッドチップ100の反対側にインクマニホールドを接着してインクジェットヘッドが作製される。
【0059】
以上に述べたように、本態様では、接着剤層形成工程において形成された側壁面側接着剤層B2の接着剤の一部を、接着剤押し出し工程において、一端面側接着剤層B1側に押し出すが故に、ヘッドチップ100の一端面10a上のチャネル出口11aの近傍のみの膜厚を増して、凸部(図6〜8で符号Eで示す)の突出高さ以上に増加することができる(図8破線包囲領域)。
【0060】
特にヘッドチップ100の一端面10a上のチャネル出口11aの近傍は、ノズル間の封止不良(接着剤抜け)が生じやすい部位であり、また封止不良の発端部となる部位である。
【0061】
ヘッドチップ100の一端面10a上のチャネル出口11aの近傍の接着剤膜厚を凸部Eの突出高さ以上に増加させることで、凸部Eの突出が接着剤により吸収されて、チャネル出口11aの近傍がノズルプレートに対して十分に接着されるので、封止不良を好適に防止できる効果が得られる。
【0062】
接着剤の膜厚を、一端面上の全面に亘って増加する場合と比較すると、接着剤塗布量を減らすことが出来るため、ノズルプレート接着時の接触による外力やノズルプレートの自重によるノズル孔内への接着剤流れ込みによるノズル詰まりを減らす効果が得られる。
【0063】
更に、接着剤押し出し後の側壁面側接着剤層B2の形態は、その一部が除去された形態であるので、ノズルプレートを接着した際に、接着剤層Bとノズル孔との距離が保たれやすく、接着剤がノズル孔内に流れ込み難い。このこともノズル詰まりの防止に寄与する。
【0064】
接着剤押し出し後の側壁面側接着剤層B2の形態は、その一部が除去された形態であり、具体的には、表面が扁平状かあるいは凹面状をなしていることが好ましく、たとえば図9に示すように、ノズルプレート4を接着後において、接着剤層Bの断面形状Cが、インク流路に対して略凹面状となることが好ましい。このような略凹面状の形態は、空気流によって押し出す手法で形成しやすいので、空気流を用いることは好ましい。インク流路に対して略凹面状であれば、インクの流路に対して圧力損失となる部位がなく、スムーズな流路が確保されるので、チャネルの接着剤による詰まりを防止するだけでなく、インク吐出精度を向上する効果が得られる。
【0065】
本態様における前記接着剤層形成工程において、接着剤転写シートを用いる場合は、接着剤転写シート20におけるシート21上の接着剤22の塗布厚みが、ヘッドチップ100の一端面10a上からの凸部の突出高さに満たない場合であっても、容易に、一端面10aの全面に接着剤が塗布することができる。これは、接着剤22に対して一端面10aを埋浸する、又は、埋浸した状態で揺動することによって、一端面10aとシート21との間から押し退けられた接着剤22がシート21から盛り上がり、従来は塗布が困難であった凸部Eの周辺に対しても、容易に接着剤が接触し、塗布を行うことが可能となることによる。一端面10aとシート21との間から押し退けられて、シート21から盛り上がった接着剤22は、さらに、チャネル11の内部にも入り込み、チャネル11側壁におけるヘッドチップ100の一端面10aの近傍にも塗布されて、側壁面側接着剤層B2を好適に形成することができる。
【0066】
本態様において、接着剤は、スペーサ粒子が分散されたエポキシ系接着剤であることが好ましい。
【0067】
第1の発明において、一端面側接着剤層B1側に接着剤を押し出すことにより、ノズルプレート4貼り付け後に、接着剤がノズル孔41内に流れ込むことを防止できているが、スペーサ粒子Pの存在によりこの防止効果はさらに増す。すなわち図10に示すように、接着剤層Bを形成する接着剤中にスペーサ粒子Pが分散していることにより、くさび効果(充填剤としての効果)を発揮するからである。
【0068】
特に、凸部Eの一端面10aからの突出高さが大きい場合に対応できるように、ヘッドチップ100の一端面10aを被覆する一端面側接着剤層B1の厚みを大きくする場合、スペーサ粒子を用いることは好ましいことである。具体的には、ノズルプレート接着後の一端面側接着剤層B1の厚みを10μm以上とする場合に、スペーサ粒子を用いることが好ましい。
【0069】
また、凸部Eの突出高さ以上の粒子径を有するスペーサ粒子を用いることで、ノズルプレートを接着した際に、ノズルプレートと一端面10aとの間の凸部Eに起因する接着不良を回避できる効果が得られる。
【0070】
参考として、特許文献3の第1の実施形態に示されるように、ヘッドチップ100の一端面10aがポリパラキシリレン膜などの保護膜から形成されている場合、ヘッドチップ100の一端面10aには、保護膜の成膜反応に伴って異常粒成長部が突出することがある。また、保護膜がポリパラキシリレン膜である場合、成膜時において、ヘッドチップ100の一端面10aに浮遊塵埃が付着し、この浮遊塵埃を巻き込んでポリパラキシリレン膜が形成される場合がある。本発明者の知見によれば、これらの原因により、通常の製造環境下(浮遊塵埃が少ないクラス1000程度の通常のクリーン環境下)においてポリパラキシリレン膜の成膜を行う場合、異常粒成長部や異物巻き込み部(凸部E)の突出高さは、3μmから最大で20μm程度に及ぶ場合がある。浮遊塵埃が特に少ないクラス100以下のクリーン環境下においてポリパラキシリレン膜の成膜を行う場合、凸部Eは、3〜5μm程度の突出高さとなる。
【0071】
一方、特許文献4には、ヘッドチップ100の一端面上10aに形成されたポリパラキシリレン膜を除去して、ヘッドチップ100の一端面10aとノズルプレート3を、ポリパラキシリレン膜を介さずに接着剤で接着する技術が開示されている。ところが、ポリパラキシリレン膜を除去する際には、徹底した処理を施そうとすると、ヘッドチップの一端面上だけでなく、チャネル側壁のポリパラキシリレン膜までもが過剰に除去される恐れがある。そのため除去処理は制限され、時としてヘッドチップの一端面上に、ポリパラキシリレン膜が局所的に残留して、最大で10μm程度の凸部を形成する場合がある。
【0072】
さらに、製造工程において、ヘッドチップ100の一端面10aに室内の浮遊塵埃が付着する場合がある。室内の浮遊塵埃のサイズは、通常0.01〜20μmであり、これが付着した場合は、凸部の突出高さが20μmに及ぶ場合もある。
【0073】
前記スペーサ粒子の粒子径は、10μm以上かつ20μm以下の範囲から選択されることが好ましい(粒子径の測定は、コールカウンター法による。)。スペーサ粒子は、インクチャネル内においてインク流路の障害となる場合があるため、接着剤押し出し工程において、チャネルの外部に押し出されることが望ましいが、10μmに満たない場合は、空気流の圧力を受け難いためチャネル内部に残留する場合がある。20μmを超える場合は、それ以上の効果が得られ難く、また接着が不安定となる問題がある。
【0074】
スペーサ粒子としては、限定されるものではないが、例えば、無機粒子や高分子樹脂粒子、金属粒子などが挙げられる。
【0075】
スペーサ粒子の形状は、球状、立方体状等、限定されるものではないが、球状であることが好ましい。球状であれば、ノズルプレート3接着時において、凸部Eとノズルプレート3との間に挟まれても、転がることにより好適に抜け出すことができ、ヘッドチップ100の一端面10aとノズルプレート3との平行がより保たれやすくなる効果が得られる。
【0076】
接着剤には、スペーサ粒子が1重量%以上かつ8重量%以下の範囲で分散されていることが好ましい。1重量%に満たない場合は、スペーサ粒子による十分な効果が得られず、8重量%を超える場合は、粒子同士が凝集し易くなるなど、接着剤の接着性能を低下させる。
【0077】
接着剤中へのスペーサ粒子の添加・分散は、接着剤層形成工程の前に行ってもよいし、接着剤層形成工程の後に行ってもよい。
【0078】
接着剤層形成工程の前に行う場合は、接着剤転写シート上の接着剤に対してヘッドチップ100の一端面10aを埋浸する、又は、埋浸した状態で揺動する際に、一端面10aが全面に亘ってスペーサ粒子に支持されるため、一端面10aが凸部Eを有していても、一端面10aと接着剤を平行に接触させることができ、一端面10aの全面に接着剤を均一に塗布できるため、接着剤抜けを更に防止すると共に、インクジェットヘッドのインク吐出精度を向上させる効果が得られる。
【0079】
ところで、スペーサ粒子を用いる場合は、ヘッドチップ100の一端面10a上に塗布される一端面側接着剤層B1の厚みを、好ましくはスペーサ粒子の粒子径以上となるように、厚く塗布することが好ましい。このような塗布を行うためには、接着剤転写シート上の接着剤の厚みを十分に厚くすること、好ましくはスペーサ粒子径の2倍以上とすることが好ましい。
【0080】
以下、第2発明の好ましい実施形態について説明する。
【0081】
例えば上記のように、接着剤を厚く塗布する場合、図11に示したように、チャネル11の出口11aを塞ぐように接着剤膜B’が形成される場合がある。
【0082】
そこで、第2発明では、第1発明における接着剤層形成工程の後に、ヘッドチップ100の一端面10aに位置するチャネル11の出口11aから他端面10bに位置するチャネル11の入口11aに向かう空気流を形成して、塗布された接着剤の余剰部分(例えば上述の接着剤膜B’)を、チャネル11内の側壁面側へ押し込む接着剤押し込み工程を備える。これにより、後段の接着剤押し出し工程において、接着剤が飛び散って周囲を汚染することを回避できる。
【0083】
ヘッドチップ100の一端面10aに位置するチャネル11の出口11aから他端面10bに位置するチャネル11の入口11aに向かう空気流の形成は、特に限定されるものではないが、一端面10a側からの送風、又は、他端面10b側からの空気吸引により行うことができる。
【0084】
その他の第2発明の構成については、第1発明の構成についてなされた説明が援用される。
【0085】
以上に説明したように、インクジェットヘッドの製造方法の第1発明及び第2発明では、接着剤押し出し工程及び接着剤押し込み工程において、接着剤層Bを形成する接着剤を、空気流により変形・移動せしめる構成を有している。
【0086】
上記の変形・移動を好適に行う上で、接着剤の粘度、及び、空気流の設定は重要である。
【0087】
接着剤の粘度は、2Pa・s以上かつ30Pa・s以下の範囲であることが好ましい。接着剤の粘度が上記範囲に満たない場合、空気流による圧力で、接着剤が周囲に飛び散って汚染を生じる恐れがあり、上記範囲を超える場合、空気流による変形・移動が困難となる。
【0088】
また、接着剤押し出し工程及び接着剤押し込み工程における空気流の圧力は0.3MPa以上かつ1.2MPa以下の範囲で、接着剤の粘度や塗布量に応じて適宜選択されることが好ましい。空気流の圧力が上記範囲に満たない場合、接着剤の変形・移動が困難となり、上記範囲を超える場合、空気流による圧力で、接着剤が周囲に飛び散って汚染を生じる恐れがある。
【0089】
また、空気流を形成する継続時間は、1秒以上かつ10秒以下の範囲で、接着剤の粘度や塗布量に応じて適宜選択されることが好ましい。空気流を形成する継続時間が上記範囲に満たない場合、接着剤の変形・移動が困難となり、上記範囲を超える場合、処理時間に対してそれ以上の変形・移動が生じ難く、生産性を低下する。
【0090】
空気流を形成する空気流形成手段は限定されず、送風によるもの、又は、空気吸引によるものの何れであってもよい。
【0091】
送風により空気流を形成する空気流形成手段としては、エアーブローガン、エアーダスター、エアーナイフ等を好ましく例示でき、空気吸引により空気流を形成する空気流形成手段としては、真空吸引ポンプ等を好ましく例示できる。
【0092】
空気流形成手段が備える空気噴射口(ノズル)の形状は特に限定されず、シングルノズルタイプや、多数のノズルが並設されたフラットタイプ等が挙げられる。特に本発明においては、複数のチャンネル11に対して、同時に、均一な空気流を形成する上で、フラットタイプを好ましく用いることができる。
【0093】
図12は、空気流の形成方法の一例を説明する図である。
【0094】
図12において、30は送風を行う空気流形成手段であり、図示の例では多数のノズル31が並設されたフラットタイプのノズルを備えている。空気流形成手段30は、ヘッドチップ100の他端面10bに対して平行に配置され、空気流形成手段30の各々のノズル31の空気噴射口32と他端面10bとの距離Dは、好ましくは、0mm以上かつ30mm以下の範囲である。なお、別の態様として、一端面10a側に空気流形成手段を配置する場合は、接着剤との接触を避けることが好ましい。
【0095】
図示の例では、全てのチャネル11に対して同時に空気流を形成しているが、これに限定されるものではなく、1以上のチャネル11に順次空気流を形成してもよい。各々のチャネル11に均一な空気流を形成するために、各々のチャネル11毎にノズル31を設けることも好ましいことである。
【0096】
また、例えば、接着剤押し込み工程を備える場合では、送風と空気吸引の切り替えが可能な空気流形成手段を用いて、他端面10b側に設置した空気流形成手段から、接着剤押し込み工程においては空気吸引し、接着剤押し出し工程においては送風するという切り替えを行うことにより、工程の簡略化及び効率化を図ることが可能である。
【0097】
本発明のインクジェットヘッドの製造方法によって製造されたインクジェットヘッドは、ヘッドチップ100の一端面10aに対し、ノズルプレート3を接着する接着剤層が、側壁面側接着剤層を有しているため、長期使用によるノズル間の封止不良を防止する効果が得られる。
【0098】
つまり、側壁面側接着剤層を有さず、ヘッドチップの一端面上の接着剤のみによって、ノズルプレートと接着されている場合には、使用時において、チャネルの内部にインク吐出圧が形成されると、インクの流体圧が、ヘッドチップとヘッドチップの一端面上の接着剤との間の僅かな隙間に対して、くさび状に作用して、長期使用によりノズル間の封止不良を生じる恐れがある。
【0099】
これに対して、側壁面側接着剤層を有する場合は、インクの流体圧の作用を受け難く、長期使用時においてもノズル間の封止不良が防止される。
【0100】
また、特に、接着剤が長期使用により劣化した際においても、立ち上がり部により、ヘッドチップ100の一端面10aに対するノズルプレート3の位置ずれが生じ難く、高い接着強度が保持され、長期に亘ってインク吐出精度が保たれるという効果を奏する。
【0101】
さらに、図9に示したように、接着剤層Bの断面形状Cが、インク流路に対して略凹曲線状であることが好ましい。この結果、ノズル孔41に向かってインク流路が滑らかに収束していくことになるため、インク吐出精度を向上する効果を奏する。
【0102】
なお、上記接着剤層Bの断面形状Cは、本発明の方法によらずに形成することも可能であり、結果としてその形状が維持されていればよい。
【実施例】
【0103】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0104】
(実施例1)
浮遊塵埃が特に少ないクラス100以下のクリーン環境下において、以下の方法でインクジェットヘッドを製造した。
【0105】
(1)ヘッドチップの製造
始めに、厚さ150μm,厚さ900μmの2枚のPZT板を150℃に熱した絶縁油に漬けて、10KVの直流電圧を掛けて分極を行い、エポキシ系接着剤で2枚のPZT板を分極方向が反対になるように接着した。
【0106】
次いで、PZT板の表面に、東京応化工業社製ポジ型フォトレジスト「PMERP−LA100」を、乾燥膜厚5μmになる様にスピンコートし、100℃のオーブンに30分間入れてキュアーした後、PZT板の表面からダイヤモンドブレードを使用して、前後方向に伸びる幅70μm、深さ300μmのインク流路用のインクチャネルと、前後方向に伸びる幅70μm、深さ300μmの空気溝用の空気チャネルを交互に70μm間隔で研削してチャネル基板を形成した後、超音波洗浄して研削屑を取り除き、Ni−Bの無電解めっきを施した。
【0107】
無電解めっきでは、最初に、チャネル基板を、50℃に加熱した(株)ワールドメタル製の脱脂液「PT−0」(有機酸塩0.4%+無機アルカリ塩0.2%+ノニオン活性剤0.5%、pH=1)に30秒間つけて洗浄した。水洗後、(株)ワールドメタル製のエッチング液「PT−1」(無機酸塩5%+アンモニヤ系硫酸塩4%、弗素系塩1.5%、pH=2)に30秒間漬け、水洗した後、(株)ワールドメタル製の酸化液「PT−2」(有機酸塩15%+無機塩2%、pH=1)に30秒間漬けた。更に水洗した後、(株)ワールドメタル製の塩化第一錫溶液「PT−3」(有機酸塩0.4%+無機酸塩0.8%+塩化第一錫0.6%+NaCl3.5%、pH=1)に30秒間漬け、軽く水洗して、(株)ワールドメタル製の塩化パラジウム溶液「PT−4」(有機酸塩1%+無機酸塩3%+塩化パラジウム0.1%、pH=1)に45秒漬けた。これを水洗後、「PT−3」と「PT−4」による処理をもう一度繰り返した。
【0108】
次いで、前処理の終ったチャネル基板を、60℃に加熱した(株)ワールドメタル製のニッケル−ホウ素無電解めっき液「ニボロン70」に界面活性剤「AP555」を添加した液で、20分間、垂直方向に2.5cm/secの速度で揺動させながらめっきし、1.5μmのめっき金属を形成した。
【0109】
次いで、東京応化工業社製のレジスト剥離液「PS」にめっき済みのチャネル基板を浸漬して、レジストを取り除き、セラミックス製の試料取り付け板の上に、めっき済みのチャネル基板の前壁を上に向けてワックスでチャネル基板を固定し、これを(株)日本エンギス製のハイプラスラッピング機の回転するラッピングプレート上に載せて、粒径3μmのダイヤモンドスラリーを噴射しながら、3分間、チャネル基板の前壁を研磨してめっき金属を除去した。
【0110】
引き続き、チャネル基板の後壁と底面に析出しためっき金属を、波長532nmのYAGレーザーで、約50J/cm2のエネルギー密度で除去してめっき除去部を形成し、これにより各チャネル部間の電極を分離してヘッド配線とした。
【0111】
次いで、上記チャネル基板と同一のPZT板を脱分極してカバー基板を作製した。カバー基板を作製したら、そのカバー基板をチャネル基板に接着し、CVD処理によりチャネル基板(インクチャネル及び空気チャネルの壁面を含む。)にポリパラキシリレン膜を製膜し、ヘッドチップを得た。
【0112】
(2)接着剤転写シートの調製
平坦なフィルム上に、ワイヤーバーを用いて、粘度が3.0Pa・s、ガラス転移温度が118℃、100℃における硬化時間が1時間のエポキシ系接着剤(低粘度接着剤)を、接着剤が6μmの膜厚になるように塗布し、接着剤転写シートAを調製した。なお、フィルム上の接着剤が6μmの膜厚である場合、後段の接着剤層形成工程においてヘッドチップの一端面上に塗布される接着剤の膜厚は、フィルム上の接着剤の膜厚の半分となることから3μmであると推定される。
【0113】
(3)接着剤層形成工程
上記接着剤転写シートAの接着剤に、ヘッドチップの一端面を接触させると共に、該接着剤に対して該一端面を埋浸し、ノズルプレートが接着される前記ヘッドチップの一端面の全面と前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成した。
【0114】
(4)接着剤押し出し工程
さらに、ヘッドチップの他端面に位置するチャネルの入口から、ヘッドチップの一端面に位置するチャネルの出口に向かう空気流を形成して、チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部を、ヘッドチップの一端面側へ押し出す処理を施した。
【0115】
接着剤押し出し工程における空気流の形成は、ヘッドチップの他端面から、図12に示すような自作のフラットタイプノズルを備えたエアーブローガン(チヨダエンジニアリング社製「BG50」)により送風することにより行った。その際、送風圧力を0.5MPaとし、図12の例と同様にフラットタイプノズルの空気噴射口とヘッドチップの他端面との距離を10mmとし、空気流を形成する継続時間を3秒とした。
【0116】
(5)ノズルプレート接着工程
上記の通り接着剤層を形成したら、レーザーによりノズルが形成されたポリイミド製のノズルプレートを、ヘッドチップの一端面(接着剤が転写された面)に押し当て、ヘッドチップにノズルプレートを接着した。
【0117】
ヘッドチップの一端面を形成する絶縁性保護膜の上面とノズルプレートとの間における接着剤厚さは接着剤転写シートに塗布された接着剤の膜厚の半分の厚さとした。
【0118】
ノズルプレートを接着したら、ノズルプレートを取り付けたヘッドチップを常温で48時間放置し、その後100℃で1時間加熱した。
【0119】
(6)インクジェットヘッドの作製
次いで、ノズルプレートを取り付けたヘッドチップに、バックプレート、インクマニホールドなどをそれぞれ取り付け、インクジェットヘッドを作製した。
【0120】
(比較例1)
実施例1において、接着剤層形成工程が、上記接着剤転写シートAの接着剤に、ヘッドチップの一端面を接触させるのみによって、接着剤を塗布したこと、及び、接着剤押し出し工程を省略したこと以外は、実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。
【0121】
(比較例2)
実施例1において、接着剤押し出し工程を省略した以外は、実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。
【0122】
(実施例2)
実施例1におけるインクジェットヘッド製造環境を、浮遊塵埃が少ないクラス1000程度の通常のクリーン環境下に代えた。
【0123】
また、実施例1において、接着剤転写シートAに代えて、以下のように調製した接着剤転写シートBを用いた。
【0124】
<接着剤転写シートBの調製>
粘度が25.0Pa・s、ガラス転移温度が131℃、100℃における硬化時間が1時間のエポキシ系接着剤(高粘度接着剤)に、粒径20μmのスペーサ粒子(宇部日東化成社製「ハイプレシカTS N3N」)を接着剤に対して2重量%添加し、攪拌機にて1分間攪拌して、スペーサ粒子を接着剤中に分散させた後に、平坦なフィルム上に、ワイヤーバーを用いて、接着剤が50μmの膜厚になるように塗布して接着剤転写シートBを調製した。
【0125】
なお、フィルム上の接着剤が50μmの膜厚である場合、後段の接着剤層形成工程においてヘッドチップの一端面上に塗布される接着剤の膜厚は、フィルム上の接着剤の膜厚の半分となることから25μmであると推定される。
【0126】
上記以外は、実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。
【0127】
(実施例3)
実施例1におけるインクジェットヘッド製造環境を、浮遊塵埃が少ないクラス1000程度の通常のクリーン環境下に代えた。
【0128】
また、実施例1において、接着剤転写シートAに代えて、実施例2で調製した接着剤転写シートBを用いた。
【0129】
更に、実施例1において、接着剤層形成工程後に、チャネルの出口からヘッドチップの他端面に位置するチャネルの入口に向かう空気流を形成して、塗布された接着剤の余剰部分をヘッドチップの一端面の近傍のチャネル内の側壁面側へ押し込む処理を施した(接着剤押し込み工程)後に、実施例1と同様の接着剤押し出し工程に供した。
【0130】
接着剤を押し込む際の空気流の形成は、ヘッドチップの一端面から、実施例2において接着剤の押し出しに用いたものと同様のフラットタイプノズルを備えたエアーフローガンにより送風することにより行った。その際、送風圧力を0.5MPaとし、フラットタイプノズルの空気噴射口とヘッドチップの一端面との距離を20mmとし、空気流を形成する継続時間を3秒とした。
【0131】
(比較例3)
実施例1におけるインクジェットヘッド製造環境を、浮遊塵埃が少ないクラス1000程度の通常のクリーン環境下に代えた。
【0132】
また、実施例1において、接着剤転写シートAに代えて以下の接着剤転写シートCを用いた。
【0133】
<接着剤転写シートCの調製>
粘度が25.0Pa・s、ガラス転移温度が131℃、100℃における硬化時間が1時間のエポキシ系接着剤(高粘度接着剤)を、平坦なフィルム上に、ワイヤーバーを用いて、接着剤が50μmの膜厚になるように塗布してなる接着剤転写シートCを用いた。
なお、フィルム上の接着剤が50μmの膜厚である場合、後段の接着剤層形成工程においてヘッドチップの一端面上に塗布される接着剤の膜厚は、フィルム上の接着剤の膜厚の半分となることから25μmであると推定される。
【0134】
更に、実施例1において、接着剤層形成工程において、上記接着剤転写シートCの接着剤に、ヘッドチップの一端面を接触させるのみによって接着剤を塗布し、更に、接着剤押し出し工程を省略した。
【0135】
上記以外は、実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。
【0136】
(比較例4)
実施例1におけるインクジェットヘッド製造環境を、浮遊塵埃が少ないクラス1000程度の通常のクリーン環境下に代えた。
【0137】
また、接着剤転写シートAに代えて、比較例3で調製した接着剤転写シートCを用い、更に、接着剤押し出し工程を省略した。
【0138】
上記以外は、実施例1と同様にしてインクジェットヘッドを作製した。
【0139】
[評価]
上記の各実施例及び比較例のインクジェットヘッドについて、以下の評価を行った。
【0140】
1.ヘッドチップの一端面上における凸部の突出高さの測定
ニコン社製「CNC画像測定システムNEXIV」を用いて、各実施例及び比較例において接着剤層形成工程に供されるヘッドチップの一端面上における凸部の突出高さを測定した。
【0141】
実施例1、及び、比較例1、2のインクジェットヘッドは、浮遊塵埃が特に少ないクラス100以下のクリーン環境で製造されたものであり、ヘッドチップの一端面に、浮遊塵埃の付着は見られなかったが、ポリパラキシリレン膜の成膜過程において生成する異常粒成長部が最大5μmの凸部を形成していることが確認された。
【0142】
一方、実施例2、3、及び、比較例3、4は、浮遊塵埃が少ないクラス1000程度のクリーン環境で製造されたものであるが、ヘッドチップの一端面に、ポリパラキシリレン膜の成膜過程において生成する異常粒成長部が最大5μmの凸部を形成していることに加えて、保護膜が浮遊塵埃を巻き込んだことや、保護膜上に浮遊塵埃が付着したことによる最大20μm程度の凸部が形成されていることが確認された。
【0143】
2.ノズルプレート貼り付け性
各実施例及び比較例で得られたインクジェットヘッドについて、ノズルプレート貼り付け結果を評価した。
【0144】
各インクジェットヘッドで接着剤抜けやチャネル詰まりがあった場合はNGとし、異常がない場合はOKとした。
【0145】
各実施例及び比較例について各々10個のインクジェットヘッドを検査し、10個ともOKの場合を○とし、NGが一つでもあった場合を×とした。また、NGではないが、それ以外の不具合(実用上問題のない範囲)がある場合を△とした。
【0146】
結果を表1に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
<評価>
比較例1〜4の結果より、ヘッドチップの一端面を接触させるのみ、あるいは接着剤に対して該一端面を埋浸し、埋浸した状態で揺動して、接着剤押し出し処理を省略した場合、接着剤抜けや接着剤詰まりを生じることがわかる。
【0149】
これに対して、接着剤に対してヘッドチップの一端面を埋浸し、埋浸した状態で揺動した後、更に、接着剤押し出し処理を施した実施例1〜3では、接着剤抜けや接着剤詰まりが生じないことが分かる。
【0150】
特に、実施例2、3では、接着剤厚さを、従来の通常の膜厚(1〜10μm程度)の倍以上である25μmとしても、ノズル孔内に接着剤が流れ込むことがなかった。
【0151】
なお、実施例2では、接着剤層形成工程後に、チャネルの出口を塞ぐ接着剤膜が形成されていることが確認され、接着剤押し出し工程において、実用上問題のない範囲ではあるが接着剤が飛び散ることがあった。これについて本発明者は追加試験を行い、接着剤押し出し工程に用いる空気流の圧力を調整することで、接着剤が飛び散ることを防止できることを確認している。
【0152】
これに対して、接着剤層形成工程と接着剤押し出し工程との間に接着剤押し込み処理を施した実施例3では、接着剤が飛び散ることが容易且つ完全に防止された。
【0153】
また、実施例1では、接着剤層形成工程後におけるヘッドチップの一端面上の接着剤厚みが3μmと推定される。ヘッドチップの一端面上に最大5μmの凸部が存在するにもかかわらず、接着剤抜けや接着剤詰まりが防止されていることから、接着剤押し出し工程において、側壁面側接着剤層の一部が、一端面側接着剤層側に押し出されて、一端面上の特にノズル孔周辺における接着剤厚みを5μm以上に増加させていることが推定される。
【符号の説明】
【0154】
1:ヘッドチップ
10a:一端面
10b:他端面
11:チャネル
11a:出口
11b:入口
20:接着剤転写シート
30:空気流形成手段
40:ノズルプレート
41:ノズル孔
B:接着剤層
B1:一端面側接着剤層
B2:側壁面側接着剤層
E:凸部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に、接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレートが接着される前記ヘッドチップの一端面の全面と前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記ヘッドチップの他端面に位置する前記チャネルの入口から前記チャネルの出口に向かう空気流を形成して、前記チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部を前記ヘッドチップの一端面側へ押し出す接着剤押し出し工程と、
前記接着剤押し出し工程後に、前記ヘッドチップの一端面に対し前記ノズルプレートを接着する接着工程と、
を備えることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に、接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法において、
該ノズルプレートが接着される前記ヘッドチップの一端面の全面と前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記チャネルの出口から前記ヘッドチップの他端面に位置する前記チャネルの入口に向かう空気流を形成して、塗布された接着剤の余剰部分を前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面側へ押し込む接着剤押し込み工程と、
前記接着剤押し込み工程後に、前記チャネルの入口から前記チャネルの出口に向かう空気流を形成して、前記チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部を前記ヘッドチップの一端面側へ押し出す接着剤押し出し工程と、
前記接着剤押し出し工程後に、前記ヘッドチップの一端面に対し前記ノズルプレートを接着する接着工程と、
を備えることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記接着剤層形成工程において、表面に接着剤が塗布された接着剤転写シートの接着剤に、前記ヘッドチップの一端面を接触させると共に、該接着剤に対して該一端面を埋浸する、又は、埋浸した状態で揺動して、前記接着剤層を形成することを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記接着剤の粘度は、2Pa・s以上かつ30Pa・s以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記接着剤は、スペーサ粒子が分散されたエポキシ系接着剤であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記接着剤押し出し工程における前記空気流の圧力は、0.3MPa以上かつ1.2MPa以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記接着剤押し込み工程における前記空気流の圧力は、0.3MPa以上かつ1.2MPa以下の範囲であることを特徴とする請求項2〜6の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項1】
チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に、接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルプレートが接着される前記ヘッドチップの一端面の全面と前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記ヘッドチップの他端面に位置する前記チャネルの入口から前記チャネルの出口に向かう空気流を形成して、前記チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部を前記ヘッドチップの一端面側へ押し出す接着剤押し出し工程と、
前記接着剤押し出し工程後に、前記ヘッドチップの一端面に対し前記ノズルプレートを接着する接着工程と、
を備えることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
チャネルが形成されたヘッドチップの該チャネルの出口が位置する一端面に、接着剤を介してノズルプレートが接着されたインクジェットヘッドの製造方法において、
該ノズルプレートが接着される前記ヘッドチップの一端面の全面と前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面とに跨って接着剤を塗布して接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記チャネルの出口から前記ヘッドチップの他端面に位置する前記チャネルの入口に向かう空気流を形成して、塗布された接着剤の余剰部分を前記ヘッドチップの一端面の近傍の前記チャネル内の側壁面側へ押し込む接着剤押し込み工程と、
前記接着剤押し込み工程後に、前記チャネルの入口から前記チャネルの出口に向かう空気流を形成して、前記チャネル内の側壁面に形成された接着剤層を成す接着剤の一部を前記ヘッドチップの一端面側へ押し出す接着剤押し出し工程と、
前記接着剤押し出し工程後に、前記ヘッドチップの一端面に対し前記ノズルプレートを接着する接着工程と、
を備えることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記接着剤層形成工程において、表面に接着剤が塗布された接着剤転写シートの接着剤に、前記ヘッドチップの一端面を接触させると共に、該接着剤に対して該一端面を埋浸する、又は、埋浸した状態で揺動して、前記接着剤層を形成することを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記接着剤の粘度は、2Pa・s以上かつ30Pa・s以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記接着剤は、スペーサ粒子が分散されたエポキシ系接着剤であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記接着剤押し出し工程における前記空気流の圧力は、0.3MPa以上かつ1.2MPa以下の範囲であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記接着剤押し込み工程における前記空気流の圧力は、0.3MPa以上かつ1.2MPa以下の範囲であることを特徴とする請求項2〜6の何れかに記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−16934(P2012−16934A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157301(P2010−157301)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】
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