説明

インクジェットヘッド

【課題】軸方向に伸縮する圧力発生素子を用いたインクジェットヘッドであっても、1本の圧力発生素子の変位量には限界があることと、駆動パルスを変えてインク滴の大きさを可変にして印刷する際に、駆動周波数は圧力発生素子の固有振動数によって制限されるためで、結果として主ずるインク滴の吐出制御にも限界があった。
【解決手段】インクの吐出効率の向上、高周波数を目的として、複数の圧力室12と該圧力室12の各々に連通するノズル開口10と前記圧力室12の一部を形成する振動板9を備え、一端が該振動板9に固定された圧電変素子の軸方向の伸縮により前記振動板9を変形させてノズル開口10からインク滴を吐出するインクジェットヘッドにおいて、前記圧力室12の各々には2つの圧電素子が当接し、かつ圧力室12の中心に向かって配置されていることを特徴とすることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印字信号に応じてインク滴を吐出して、記録紙等の記録媒体上にインク像を形成するインクジェット記録装置に用いる高密度インクジェットヘッドに関し、より詳細には、複数の圧力室と該圧力室の各々に連通するノズル開口と前記圧力室の一部を形成する振動板を備え、一端が該振動板に固定された圧電変素子の伸縮により前記振動板を変形させてノズル開口からインク滴を吐出するインクジェットヘッドにおいて、前記圧力室の各々には二つの圧電素子が当接し、かつ圧力室の中心に向かって配置されていることを特徴とするインクジェットヘッドの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平5−246024号公報によれば圧力室が、ベース基板と圧力室に連続する電歪材料薄板との間に形成され、圧力室に対し弾性薄板2が電歪材料薄板面1に備わり、圧力発生素子を構成する。
【0003】
この例では、インクを吐出する複数のノズルとインク供給路を形成したベース基板と、電極を両面に形成した電歪材料薄板と弾性薄板からなる圧力発生素子と、前記ベース基板と前記圧力発生素子とを貼り合わせて形成される複数の圧力室と、前記圧力発生素子に電圧を印加する電圧印加手段とを有するインクジェットヘッドにおいて、前記圧力室が、前記ベース基板と、複数の圧力室に連続する前記電歪材料薄板との間に形成され、前記圧力室のそれぞれに対して、前記弾性薄板が前記電歪材料薄板面に備わり、複数の圧力発生素子を構成する事を開示している。
【0004】
ところが、前記特開平5−246024号公報のインクジェットヘッドの圧電変換器はたわみ変形型であるため、変位量は比較的取り出せるが、たわみ振動に関する固有振動数は低く、緩慢に振動板を押圧する。このため、圧電変換器を高速度で伸縮させることが難しく、また、圧力室の大きさを圧電変換器のたわみ変形に合わせ大きくしなくてはならないため、圧力室を高密度に配置させたインクジェットヘッドを実現することがむずかしい。
【0005】
これに対し、特開2001−347674公報等では、圧力発生素子は軸方向に伸縮し、その伸縮に関する固有振動数は非常に高いため、高速度変位であり、速いインク滴吐出速度を可能とする。変位量は数μmである。
【0006】
また、特登録3191557号等では、軸方向に伸縮する圧力発生素子を用いた、高密度化と量産性を兼ねたインクジェットヘッドの構成と製造方法を開示している。
【0007】
さらには、軸方向に伸縮する圧力発生素子を用いて、駆動パルス構成によって、ノズル開口におけるメニスカスの挙動を制御し、口径サイズの大きなノズル開口から小さなインク滴を吐出させることができるインクジェット式記録装置及びその記録ヘッドの駆動方法を開示している。例えば、特開2001−150672においては、メニスカスを大きく引き込む充電要素Pwc1と、メニスカスを少し押し出す放電要素Pwd1と、メニスカスを小さく引き込む充電要素Pwc2とを順に接続して駆動パルス構成することにより、ノズル開口に連なる圧力室内の圧力を駆動信号に応じて変動させてインクの吐出を行う記録ヘッドを備え、極小インク滴による印刷時にはマイクロドット駆動パルスを用い、より大きなインク滴による印刷時には駆動パルスを変えてインク滴の大きさを可変にして印刷する方法を開示している。
【0008】
上記の例は、いずれも1つの圧力室に対して1つの圧力変換素子を配した例であるが、Xaar方式では圧電体の厚板の表面に圧力室となる溝を並列に加工し、その壁の両面に電極を形成して両壁から圧力を加えてインクを吐出させる。
【0009】
また、トライデント インターナショナル、インコーポレイティドは軸方向に伸縮する2本の圧力発生素子を両側から並列に配置し、圧力発生素子の先端が直角にぶつかる圧力室を含むインク流路が合わさった所にあるノズルから、圧力発生素子と同軸方向にインクを吐出させる方式を用いている。
【特許文献1】特開平5−246024号公報
【特許文献2】特開2001−347674号公報
【特許文献3】特登録3191557号公報
【特許文献4】特開2001−150672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特開2001−347674公報、特登録3191557号および特開2001−150672等の、軸方向に伸縮する圧力発生素子を用いたインクジェットヘッドであっても、次のような問題点があった。
【0011】
1つは、1本の圧力発生素子の変位量には限界があること。2つ目は、駆動パルスを変えてインク滴の大きさを可変にして印刷する際に、駆動周波数は圧力発生素子の固有振動数によって制限されるためで、結果として主ずるインク滴の吐出制御にも限界があった。
【0012】
Xaar方式は長尺化が可能だが、圧電体の分極と垂直方向に電圧をかけなくてはならないため、分極劣化が生じ耐久性に問題があった。また、トライデント インターナショナル、インコーポレイティドの方式では圧力発生素子の力点から圧力室およびノズルまでの距離が長いため、吐出効率が悪くなるという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明では、複数の圧力室と該圧力室の各々に連通するノズル開口と前記圧力室の一部を形成する振動板を備え、一端が該振動板に固定された圧電変素子の軸方向の伸縮により前記振動板を変形させてノズル開口からインク滴を吐出するインクジェットヘッドにおいて、前記圧力室の各々には2つの圧電素子が当接し、かつ圧力室の中心に向かって配置されていることを特徴とするインクジェットヘッドの構成を提示する。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、次の効果を奏する。即ち、複数の圧力室と該圧力室の各々に連通するノズル開口と前記圧力室の一部を形成する振動板を備え、一端が該振動板に固定された圧電変素子の伸縮により前記振動板を変形させてノズル開口からインク滴を吐出するインクジェットヘッドにおいて、前記圧力室の各々には二つの圧電素子が当接し、かつ圧力室の中心に向かって配置されていることによって、圧電振動子ユニット4の振動によるベクトルが圧力室12の中心に効率良く伝わるため、インクの吐出効率が向上する。
【0015】
また、圧電振動子ユニット4が一本の場合と比較し最大2倍の圧力室12の容積変化をもたらすためインクの吐出量をこれに応じて約2倍まで変化させることが出来る。
【0016】
さらに、2本の圧電振動子ユニット4を用いることにより、メニスカスを引き込む充電要素と、メニスカスを押し出す放電要素とを1本の圧電振動子ユニット4を用いて交互に行ってインク滴の大きさを可変にするよりも、高い周波数でインク滴を吐出させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明によるインクジェットヘッドの第一の実施形を示す断面図である。この図でノズルプレート8はドット形成密度に対応した所定ピッチで複数のノズル開口10を紙面垂直方向に列状に穿設した板部材であり、図では一つのノズル開口10をノズル開口10の列に垂直な平面における断面を示している。
【0019】
例示した記録ヘッド1はケース2と、このケース2の先端面に接合された流路ユニット3と、ケース2の内部に収納した圧電振動子ユニット4とにより概略構成されている。
【0020】
ケース2は、圧電振動子ユニット4を収容するための収容室5を内部に形成したブロック形状であり、例えば樹脂材によって成型される。そして、収容室5は、流路ユニット3との接合面から反対面までケース2を貫通して形成される。
【0021】
流路ユニット3は、流路形成基板7の一方の面にノズルプレート8を、そして流路形成基板7の他方の面に振動板9を接合した構成である。
【0022】
ノズルプレート8は例えば金属材、本実施形態ではステンレス板により構成してある。
【0023】
流路形成基板7は、例えばシリコンウエハーによって形成され、このシリコンウエハーをエッチング加工することにより所定パターンに区画して、各ノズル開口10と連通する複数の圧力室12、インクを貯留する共通のリザーバ11、及び、リザーバ11から各圧力室12へ連通する複数のインク供給路13となる隔壁を適宜に形成する。なお、リザーバ11にはインク供給管6と接続する接続口を設けてあり、インク供給管6側から供給されてきたインクをこの接続口を通じてリザーバ11内に流入させる。
【0024】
また、ダンパー14には大気と連通する連通管15を設けてあり、リザーバ11内の圧力を緩衝させる役割を行っている。
【0025】
振動板9は、圧力室12の隔壁の一部を構成する部材であり、弾性を有する薄手の板材により形成されており、各圧力室12に対応する部分はブロック状に突出させてアイランド部16(島部)とし、アイランド部16を囲む薄肉の部分を弾性部17とする。
【0026】
アイランド部16は例えば、振動板9上に所定パターンのレジストを形成する。レジストを形成したならば、レジストを形成した振動板9上に電鋳を施して列設する。このアイランド部16は、圧力室12の配列方向の幅が狭く、この配列方向に対して直交する方向に細長い形状にする。
【0027】
圧電振動子ユニット4は図に示すように、自由端部が固定基板の縁から外側に突出したいわゆる片持ち梁の状態で固定部材接合されている。この圧電振動子ユニット4は、振動子の先端を流路ユニット3側の開口から臨ませた状態で収容室5内に収容されており、固定基板が収容室5の内壁に接着等により固着されている。そして、この収容状態で、先端面を振動板9の対応するアイランド部16に接着剤等により接合する。
【0028】
圧電振動子ユニット4は図に示すように、矢印方向に伸縮する。電極層は銀−パラジウムなどの良電導性の金属材料により形成されており、圧電体はチタン酸ジルコン酸鉛などの圧電材料により形成される。
【0029】
圧電振動子ユニット4に駆動信号を供給すると個別電位が生じ、電位差に応じて圧電体が機械的に変位して長手方向(矢印)に伸縮する。そして、この駆動振動子の伸縮に伴って振動板9のアイランド部16及び弾性部17が変位し、対応する圧力室12が膨張あるいは収縮する。この圧力室12の容積変化によって圧力室12内のインクに圧力変動が生じるので、この圧力変動を利用してノズル開口10からインク滴を吐出させる。
【0030】
本例では1つの圧力室12に対し2本の圧電振動子ユニット4を圧電振動子ユニット4の振動方向が圧力室12のほぼ中心に向かう様対向して配置する。これによって、圧電振動子ユニット4の振動によるベクトルが圧力室12の中心に効率良く伝わるため、インクの吐出効率が向上する。
【0031】
また、本発明では以下の様に従来例と比較し約2倍の最大吐出量と小インク滴による印刷時の高周波数駆動を達成出来る。
【0032】
すなわち、圧電振動子ユニット4を2本同時駆動することにより、一本の場合と比較し最大2倍の圧力室12の容積変化をもたらすため、インクの吐出量をこれに応じて約2倍まで変化させることが出来る。
【0033】
さらに、2本の圧電振動子ユニット4を用いて、それぞれの圧電振動子がメニスカスを引き込む充電要素と、メニスカスを押し出す放電要素とを交互に行うことにより、1本の圧電振動子ユニット4を用いてインク滴の大きさを可変にするよりも小インク滴による印刷時の高周波数駆動を達成出来る。以下、図4および図5を用いて説明する。
【0034】
図4は、1本の圧電振動子がメニスカスを引き込む充電要素と、メニスカスを押し出す放電要素とを交互に行うことにより、小インク滴による印刷時の駆動を示している。
【0035】
図4(a)の下向きの台形部はメニスカスを引き込む圧電振動子に与える駆動波形、その後の上向きの台形部はメニスカスを押し出す駆動波形を示しており、同じ波形の繰り返しが周期を示している。図4(b)は前記駆動波形によって生じる実際の圧電振動子の振動を示したものであるが、実際は圧電振動子の固有振動による減衰振動によって振動は波打っているために、振動が収まるまでは周期を詰めることが出来ない。
【0036】
ところが、同じ周期でメニスカスを引き込む駆動波形とメニスカスを押し出す駆動波形とを別々に圧電振動子に与えるとそれぞれ図4(c)、図4(d)に示す様に圧電振動子の減衰振動が収まってから間が空くためにその分周期を短く出来ることが分かる。
【0037】
よって、本発明では図5(a)および図5(c)の様に2本の圧電振動子ユニット4に、それぞれの圧電振動子が図5(a)の様にメニスカスを引き込む駆動波形と、図5(b)の様にメニスカスを押し出す駆動波形とを交互に与え、それによって、無理なく図5(b)および図5(d)の様に圧電振動子の減衰振動が収まってから次の駆動パルスを印加することによって高周波数駆動を達成出来る。
【0038】
図2は本発明によるインクジェットヘッドの他の実施形を示す断面図である。
本例では第1の実施例と同様1つの圧力室12に対し2本の圧電振動子ユニット4を圧電振動子ユニット4の振動方向が圧力室12のほぼ中心に向かう様配置する。ただし、本例では圧電振動子ユニット4は圧力室12を斜めから挟み込む様にして配される。これによって、1つのインクジェットヘッドのケース2の中に圧電振動子ユニット4を複数列配置することが出来るため、多色ヘッドを構成することが可能である。
【0039】
図3は従来のインクジェットヘッドの構造を示す断面図である。従来例では1つの圧力室12に対し圧電振動子ユニット4は1本だけ配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明によるインクジェットヘッドの第一の実施形を示す断面図
【図2】本発明によるインクジェットヘッドの他の実施形を示す断面図
【図3】従来のインクジェットヘッドの実施形を示す断面図
【図4】従来のインクジェットヘッドの駆動波形を示す図
【図5】本発明によるインクジェットヘッドの駆動波形を示す図
【符号の説明】
【0041】
1 記録ヘッド
2 ケース
3 流路ユニット
4 圧電振動子ユニット
5 収容室
6 インク供給管
7 流路形成基板
8 ノズルプレート
9 振動板
10 ノズル開口
11 リザーバ
12 圧力室
13 インク供給路
14 ダンパー
15 大気連通口
16 アイランド部(島部)
17 弾性部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧力室と該圧力室の各々に連通するノズル開口と前記圧力室の一部を形成する振動板を備え、一端が該振動板に固定された圧電変素子の伸縮により前記振動板を変形させてノズル開口からインク滴を吐出するインクジェットヘッドにおいて、前記圧力室の各々には二つの圧電素子が当接し、かつ圧力室の中心に向かって配置されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
圧力室の各々には二つの圧電素子が対向して当接していることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項3】
圧力室の各々には二つの圧電素子が斜め後方から挟み込む様にして配されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。
【請求項4】
二つの圧電素子が2本同時駆動、または、それぞれの圧電振動子がメニスカスを引き込む充電要素と、メニスカスを押し出す放電要素とを交互に行うことを特徴とする請求項1から3に記載のインクジェットヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−126583(P2008−126583A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315894(P2006−315894)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】