インクジェットヘッド
【課題】端部チャンネル付近における吐出特性の不均一化を抑制し、均一な吐出特性を有するインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】最も外側からn番目までのチャンネルの個別インク室3の容積を、その他の個別インク室3の平均容積より小さくすることにより、最も外側からn番目までのチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度および吐出体積は、その他のチャンネルから吐出される液滴の平均飛翔速度や平均吐出体積に近づき、吐出特性を均一化することができる。
【解決手段】最も外側からn番目までのチャンネルの個別インク室3の容積を、その他の個別インク室3の平均容積より小さくすることにより、最も外側からn番目までのチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度および吐出体積は、その他のチャンネルから吐出される液滴の平均飛翔速度や平均吐出体積に近づき、吐出特性を均一化することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ノズルから液滴を吐出するインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタにおいては、インパクト印字装置に代わって、カラー化、多階調化に対応しやすいインクジェット方式などのノンインパクト印字装置が急速に普及している。これに用いるインク噴射装置としてのインクジェットヘッドとしては、特に、印字に必要な液滴のみを噴射するというドロップ・オン・デマンド型が、噴射効率の良さ、低コスト化の容易さなどから注目されている。ドロップ・オン・デマンド型としては、カイザー(Kyser)方式やサーマルジェット方式が主流となっている。
【0003】
しかし、カイザー方式は、小型化が困難で高密度化に不向きであるという欠点を有していた。また、サーマルジェット方式は、高密度化には適しているものの、ヒータでインクを加熱してインク内にバブル(泡)を生じさせて、そのバブルのエネルギーを利用して噴射させる方式であるため、インクの耐熱性が要求され、また、ヒータの長寿命化も困難であり、エネルギー効率が悪いため、消費電力も大きくなるという問題を有していた。
【0004】
このような各方式の欠点を解決するものとして、圧電材料のシェアモード変形を利用したインクジェット方式が提案されている。この方式は、圧電材料からなるインクチャンネルの壁(以下、「チャンネル壁」という。)の両側面に形成した電極を用いて、圧電材料の分極方向と直交する方向に電界を生じさせることで、シェアモードでチャンネル壁を変形させ、その際に生じる圧力波変動を利用して液滴を吐出するものであり、ノズルの高密度化、低消費電力化、高駆動周波数化に適している。
【0005】
近年はこのシェアモード変形を利用したインクジェットヘッドを産業用途に利用することが盛んに行われるようになり始めている。例えば、インクとして導電部材を吐出することによって配線を描画したり、R,G,Bの各色のインクを吐出することによってカラーフィルタを作製したり、熱硬化性または紫外線(UV)硬化性のインクを吐出することによって、マイクロレンズやスペーサなどのような3次元構造物を作製したり、といった応用が進められている。
【0006】
上述したような多岐にわたる用途への展開に応じて、インクジェットによる描画には、より高精細で高品質な画質が求められてきている。このため、インクジェットヘッドには高密度に配置したノズルと、吐出特性の均一性が求められている。
【0007】
ここでインクジェットヘッドの構造について説明する。インクジェットヘッドは、複数の個別インク室と、前記複数の個別インク室に対応する複数のノズルと、前記複数の個別インク室に連通する共通インク室とから構成されている。各個別インク室が開口する一方の端部は共通インク室に連通しており、他方の端部はノズルと連通している。共通インク室から各個別インク室へインクが供給され、ノズルから液滴を吐出する。共通インク室は、マニホールドと、マニホールドに接続されたインク配管を介して外部に設置されたインクタンクと接続されている。
【0008】
液滴吐出機構は、例えばシェアモードのインクジェットヘッドの場合には、個別インク室を隔てている隔壁の壁面に形成された金属電極に電圧を印加することにより隔壁が変形し、この変形による個別インク室の容積の変化に伴って発生した圧力波の変動を利用してノズルから液滴を吐出させる。以下、個別インク室と、個別インク室に対応したノズルの2つをあわせた部分をチャンネルと表記する。
【0009】
このとき、吐出したチャンネル内で発生させた圧力波は、液滴吐出後に自然と減衰していくが、数十〜数百μsec程度は残留している。この残留した圧力波を以降は残留圧力波と呼ぶこととする。残留圧力波は、共通インク室を介して隣接もしくは近接するチャンネルへも伝播する。このように残留圧力波の影響がある時期に、隣接もしくは近接するチャンネルを吐出させる場合、吐出させるために新たに発生させた圧力波と残留圧力波とが合成、もしくは打ち消しあって、本来の圧力波とは変化して吐出を阻害して飛翔速度や吐出体積が変化してしまう。
【0010】
残留圧力波が自然と減衰して弱まるまで次の吐出を待つことによってこのような圧力波の変化は回避できるが高周波数の描画ができなくなるため描画時間が長くなりタクトタイムが増大することとなり好ましくない。
【0011】
また、上述したように高密度にノズルを配置した場合、隣接したチャンネル間の距離が近くなる。隣接したチャンネル間の距離が近くなるほど、隣接チャンネルを吐出した際の残留圧力波の影響を受けやすくなる。また残留圧力波の影響を受けるチャンネルの範囲が広がる。
【0012】
残留圧力波として大きく影響を及ぼすものは次の2つが挙げられる。一つ目は同時に吐出している、近接したチャンネルによる残留圧力波であり、同相残留圧力波と呼ぶこととする。2つ目は同時には吐出していないがタイミングをずらして吐出する、近接したチャンネルによる残留圧力波であり、異相残留圧力波と呼ぶこととする。あるチャンネルを吐出する場合には、少なくとも最も近くの同相残留圧力波と異相残留圧力波の影響を受けることとなる。
【0013】
また、高密度にノズルを配置した場合隣接する個別インク室間を隔てている隔壁の厚みも小さくなる。個別インク室間の隔壁の厚みが小さくなると、各隔壁の剛性が低下するため、隔壁を介して残留圧力波の影響を受けやすくなる。
【0014】
しかしながら、高密度に配列した複数のチャンネルの両端および両端に近接するチャンネル以外の大半のチャンネルは、両側に並んだ無数のチャンネルから残留圧力波による影響を受けるため、残留圧力波による影響に差はない。
【0015】
一方、高密度に配列した複数のチャンネルの両端付近に位置するチャンネルは、外側のチャンネルが他方と比べて極端に少ないため、外側からの残留圧力波によるは少ない。最も外側のチャンネルに関しては、片側には全くチャンネルがないため、片側からしか残留圧力波による影響を受けない。さらにこの最も外側のチャンネルの、最も外側の壁面の厚みは、各チャンネル間の隔壁の厚みよりもはるかに厚いため剛性が異なる。
【0016】
このように中央付近のチャンネルと両端付近のチャンネルとでは、残留圧力波による影響が大きく異なるため、中央部付近のチャンネルと端部付近のチャンネルとでは吐出特性(飛翔速度・吐出体積)の不均一化が発生する。
【0017】
具体的には、最も外側のチャンネルおよび外側に近接するチャンネルでは片側からの残留圧力波による影響が非常に小さいため、中央付近のチャンネルと比較して駆動効率が良くなり、同じ駆動電圧を印加した場合には飛翔速度および吐出体積は大きくなる。
【0018】
インクジェットヘッドを搭載した装置で描画を行う場合、タクトタイムを短縮するためにはインクジェットヘッドもしくは描画対象を走査しながら吐出する必要があるため、飛翔速度のばらつきは着弾位置のばらつきとなって描画品質を低下させる。同様に、吐出体積がばらついた場合にも、インクジェットヘッドから吐出された1滴の液滴によって描画される領域が異なるため描画品質を低下させることとなる。
【0019】
このような両端部のチャンネルの吐出特性の不均一性を抑制する従来技術としては、擬似個別インク室を形成する方法(特開2005−74860号公報:特許文献1参照)がある。
【0020】
また、チャンネル間の吐出特性を均一化する従来技術としては、チャンネル毎に印加する駆動電圧を変更する方法(特開2004−90621号公報:特許文献2参照)がある。
【特許文献1】特開2005−74860号公報
【特許文献2】特開2004−90621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述したように、インクジェットによる描画には、高密度に配置したノズル孔と、均一な吐出特性が求められる。
【0022】
しかしながら、ノズル孔を高密度で配置すると、中央部付近のチャンネルと両端部付近のチャンネルとでは、近接するチャンネルの残留圧力波による影響が異なるため、吐出特性が均一でなくなり、両端近傍のチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度や吐出体積が大きくなる。
【0023】
例えば、上述の特許文献1の構成は、実際には吐出することができないダミーの個別インク室を形成するための領域が必要となるため、インクジェットヘッドによって描画できる範囲と比較してインクジェットヘッド自体は大型化する。このような場合には、例えば大型の紙などの全面に描画するために、複数のインクジェットヘッドを高密度に配置することが困難になる。
【0024】
また、擬似個別インク室がノズル孔を有していない場合には、擬似個別インク室が開口する一端は、行き止まりとなるため、インクや入り込んだ気泡が滞留してしまう。例えば、ビーズを含有するインクを使用した場合などには、ビーズの沈降を引き起こす虞がある。また、この擬似個別インク室に気泡が入り込んだ場合には、気泡の排出が困難である。擬似個別インク室内に残留した気泡は、インクを吐出するための圧力波伝播の妨げとなったり、流動して個別インク室内に入り込んだりして、吐出特性の低下や不吐出を発生させる虞がある。
【0025】
さらに、特許文献2の構成は、チャンネル毎に電圧を変更するための手段が必要であり、大幅なコスト上昇が発生する。
【0026】
そこで、この発明の課題は、端部チャンネル付近における吐出特性の不均一化を抑制し、均一な吐出特性を有するインクジェットヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するため、この発明のインクジェットヘッドは、
X方向に延在してX方向に交差するY方向に互いに間隔をおいて配列された複数の個別インク室と、
上記各個別インク室に対応して配置され上記各個別インク室に連通する複数のノズル孔と
を備え、
Y方向の両側で最も外側に位置する上記個別インク室のうちの少なくともY方向の一方側の上記個別インク室の容積は、この少なくともY方向の一方側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいことを特徴としている。
【0028】
この発明のインクジェットヘッドによれば、Y方向の両側で最も外側に位置する上記個別インク室のうちの少なくともY方向の一方側の上記個別インク室の容積は、この少なくともY方向の一方側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいので、全チャンネル(全個別インク室)に対して同じ駆動電圧を印加した際に、少なくともY方向の一方側の最も外側に位置する個別インク室の容積変化を、それ以外の個別インク室の平均容積変化よりも小さくすることができる。
【0029】
このため、少なくともY方向の一方側の最も外側に位置するチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度および吐出体積は、その他のチャンネルから吐出された液滴の平均飛翔速度や平均吐出体積に近づき、吐出特性を均一化することができる。
【0030】
これに対して、全個別インク室の容積を同じにした場合、最も外側に位置するチャンネルは、端部側からの残留圧力波の影響がないため、全チャンネルに対して同じ駆動電圧を印加した場合には、最も外側に位置する個別インク室から吐出される液滴の飛翔速度や吐出体積が全チャンネルの平均の飛翔速度や吐出体積に対して大きくなる。このため、吐出特性が不均一になる。
【0031】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、Y方向の両側の個別インク室の容積は、このY方向の両側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さい。
【0032】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、Y方向の両側の個別インク室の容積は、このY方向の両側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいので、Y方向の両側の個別インク室の吐出特性の不均一化を抑制し、吐出特性を一層均一にできる。
【0033】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、
Y方向にn個(nは自然数)ずつ離れた位置にある上記個別インク室の全てが、同時に、液滴を吐出する状態で、
上記少なくともY方向の一方側の個別インク室に関して、最も外側の上記個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さい。
【0034】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、Y方向にn個ずつ離れた位置にある上記個別インク室の全てが、同時に、液滴を吐出する状態で、上記少なくともY方向の一方側の個別インク室に関して、最も外側の上記個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さいので、同時に吐出することができるチャンネルがn個離れているとき、最も外側からn番目までのチャンネルは、端部方向に同時に吐出できるチャンネルがないため、端部方向からは同相残留圧力波の影響を受けない。
【0035】
そして、最も外側からn番目までの、残留圧力波による影響が少ないチャンネルの個別インク室の容積を、その他の個別インク室の平均容積より小さくすることにより、最も外側からn番目までのチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度および吐出体積は、全チャンネルから吐出された液滴の平均飛翔速度や平均吐出体積に近づき、吐出特性を均一化することができる。
【0036】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積、および、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降で、かつ、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さい。
【0037】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積、および、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降で、かつ、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さいので、Y方向の両側のn番目までの位置にある個別インク室の吐出特性の不均一化を抑制し、吐出特性を一層均一にできる。
【0038】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記最も外側の個別インク室から数えてn番目に位置する個別インク室から上記最も外側の個別インク室に向かって、上記個別インク室の容積が連続して減少する。
【0039】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記最も外側の個別インク室から数えてn番目に位置する個別インク室から上記最も外側の個別インク室に向かって、上記個別インク室の容積が連続して減少するので、連続して変化する残留圧力波の影響に応じて、個別インク室の容積を連続して変化させることにより吐出特性を均一化することができる。
【0040】
例えば、最も外側のチャンネルでは、端部方向からは同相残留圧力波も異相残留圧力波も受けない。一方、最も外側のチャンネルからn番目のチャンネルでは、端部方向からは異相残留圧力波の影響は受けるが同相残留圧力波の影響は受けない。このため、残留圧力波による影響は、最も外側のチャンネルが最も小さく、外側のチャンネルから数えてn番目のチャンネルに向かって連続して増加していく。このように、連続して変化する残留圧力波に応じて、個別インク室の容積も連続して変化させることにより、吐出特性を均一化することができる。
【0041】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向の長さが短い。
【0042】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向の長さが短いので、ノズルプレートを接着する面に開口している個別インク室の開口部面積を、全て同じとしたまま、個別インク室の容積を小さくすることができる。このため、ノズルプレート接着の精度を上げる必要がなく歩留まりの低下を抑制できる。
【0043】
これに対して、ノズルプレートを接着する面に開口する個別インク室の開口部面積が小さくなると、その小さくなった個別インク室の開口部に対応するノズル孔を、位置合わせして接着する必要があるため、ノズルプレートを接着するときに高い接着精度が必要となる。
【0044】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向に直交する平面と交わる面積が小さい。
【0045】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向に直交する平面と交わる面積が小さいので、個別インク室の断面積を変えることによって、個別インク室の容積を変化させている。この場合、吐出する液滴の飛翔速度と吐出体積のそれぞれに与える影響がほぼ等しくなるため、飛翔速度と吐出体積の両方をより均一化することができる。また、このような加工は、加工に使用するダイシングブレードの厚みや切り込み量を変えることで比較的簡単に加工することができる。
【0046】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向およびY方向に直交するZ方向の深さが浅い。
【0047】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向およびY方向に直交するZ方向の深さが浅いので、吐出した液滴の飛翔速度と吐出体積に与える影響の差が小さい。このため、吐出した液滴の飛翔速度と吐出体積の両方を均一化することができ、且つ、使用するダイシングブレードの切り込み量を変えるだけで非常に容易に加工することができる。
【0048】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記容積の小さい個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積は、他の上記個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積の平均よりも大きい。
【0049】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記容積の小さい個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積は、他の上記個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積の平均よりも大きいので、容積を小さくした個別インク室に、大きい開口面積のノズル孔を対応させることで、飛翔速度の変化率と吐出体積の変化率を任意に調整することができて、飛翔速度と吐出体積の両方をより均一にすることができる。
【0050】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記複数の個別インク室は、Y方向に互いに等間隔に配列されている。
【0051】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記複数の個別インク室は、Y方向に互いに等間隔に配列されているので、ノズル孔が開口する間隔が等間隔であるため、描画した液滴も等間隔となり、全てのチャンネルが描画に対して有効となる。
【発明の効果】
【0052】
この発明のインクジェットヘッドによれば、Y方向の両側で最も外側に位置する上記個別インク室のうちの少なくともY方向の一方側の上記個別インク室の容積は、この少なくともY方向の一方側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいので、端部チャンネル付近における吐出特性の不均一化を抑制し、均一な吐出特性を有するインクジェットヘッドを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0054】
(第1の実施形態)
図1Aは、この発明のインクジェットヘッドの第1実施形態である斜視図を示している。図1Bは、図1AのA−A断面図である。図1Cは、図1AのB−B断面図である。図2は、図1Aのノズルプレートを外した状態を示す斜視図である。
【0055】
図1A〜図1Cおよび図2に示すように、インクジェットヘッドは、圧電部材1と、この圧電部材1のZ方向上面に取り付けられたカバー部材2と、圧電部材1およびカバー部材2のX方向側面に取り付けられたノズルプレート6とを有する。
【0056】
圧電部材1の上面には、個別インク溝としての深溝部3aと、この深溝部3aに連なる浅溝部5とが、設けられている。複数の深溝部3aおよび浅溝部5は、それぞれ、X方向に延在してY方向に互いに間隔をおいて配列されている。複数の深溝部3aおよび浅溝部5は、Y方向に互いに等間隔に配列されている。
【0057】
深溝部3aおよび浅溝部5は、Z方向に深さを有する。深溝部3aおよび浅溝部5は、X方向に開口している。隣り合う深溝部3a,3aの間には、隔壁3bが形成される。
【0058】
X方向とY方向とは、互いに、直交しているが、交差していればよい。Z方向は、X方向およびY方向に直交する。
【0059】
カバー部材2は、共通インク溝4aが設けられた本体部20と、共通インク溝4aに取り付けられた調整部材19とを有する。共通インク溝4aは、本体部20のZ方向下面に設けられ、Y方向に延在して開口している。ノズルプレート6は、各深溝部3aに対応するノズル孔6aを有する。
【0060】
圧電部材1の深溝部3aとカバー部材2の共通インク溝4aとが、対向するように配置されて、深溝部3aにおけるカバー部材2で覆われた部分が、個別インク室3を形成する。共通インク溝4aにおける圧電部材1で覆われた部分が、共通インク室4を形成する。
【0061】
複数の個別インク室3は、X方向に延在してY方向に互いに間隔をおいて配列されている。複数の個別インク室3は、Y方向に互いに等間隔に配列されている。複数のノズル孔6aは、各個別インク室3に対応して配置され各個別インク室3に連通する。そして、インクは、共通インク室4を通過して、個別インク室3をX方向に流れて、ノズル孔6aから吐出される。
【0062】
Y方向に3個ずつ離れた位置にある個別インク室3の全てが、同時に、液滴を吐出する。つまり、インクジェットヘッドの駆動は、3相駆動である。
【0063】
Y方向の一方側の最も外側の個別インク室3から数えて3番目までの位置にある各個別インク室3の容積、および、Y方向の他方側の最も外側の個別インク室3から数えて3番目までの位置にある各個別インク室3の容積は、Y方向の一方側の最も外側の個別インク室3から数えて4番目以降で、かつ、Y方向の他方側の最も外側の個別インク室3から数えて4番目以降に位置する個別インク室3の容積の平均よりも小さい。
【0064】
最外端から3番目までの位置にある個別インク室3は、図1Bに示すように、カバー部材2の本体部20および調整部材19に覆われた部分である。最外端から4番目以降に位置する個別インク室3は、図1Cに示すように、カバー部材2の本体部20に覆われた部分である。つまり、図1Bに示す容積の小さい個別インク室3は、図1Cに示す他の個別インク室3と比べて、個別インク室3におけるX方向(インクが流れる方向)の長さが短い。
【0065】
次に、上記構成のインクジェットヘッドの製造方法を説明する。
【0066】
まず、図3に示すように、圧電部材1として、あらかじめ分極境界部1aで分極方向が相反するように分極処理が施された基板を用意した。分極境界部1aは、後にダイシングマシンにより溝加工を行う圧電部材1の面から、150μm離れた位置にある。
【0067】
そして、ダイシングマシンのダイシングブレード16を用いて、圧電部材1に溝を形成し、図4A〜図4Cに示すように、圧電部材1に所定の間隔で深溝部3a(個別インク溝)と浅溝部5とを形成した。隣接する深溝部3aの間に、隔壁3bを形成した。なお、溝の加工には、全てダイシングマシンを用いている。図4Aは、圧電部材1の平面図を示し、図4Bは、図4AのC−C断面図を示し、図4Cは、図4AのD−D断面図を示す。
【0068】
深溝部3aにおいて、深さは約300μm、幅は約100μm、長さは約1mmとした。深溝部3aの深さを約300μmとすることにより、分極境界部1aは深溝部3aの深さ方向における中心付近に位置することとなる。
【0069】
一方、浅溝部5は、幅約100μm、深さ約20μm、長さ約500μmである。浅溝部5は、ダイシングマシンによる加工の際に、ダイシングブレード16の切り込み量を小さくすることにより容易に形成することができる。
【0070】
次に、圧電部材1の溝加工を施した面に対してアルミニウムをスパッタリングにより成膜した後、圧電部材1の溝加工を施した面を5μmほど研削した。この研削により、隔壁3bの上部に形成されたアルミニウム膜を除去した。このようにして、深溝部3aの内壁と底面、さらに浅溝部5の内壁と底面にだけアルミニウム膜を残すことができる。
【0071】
浅溝部5の内壁および底面に成膜したアルミニウム膜と、深溝部3aの内壁および底面に成膜されたアルミニウム膜とは電気的に接続されている。さらに、浅溝部5の内壁および底面に成膜されたアルミニウム膜は、後の工程で、外部から駆動電圧を印加するための電圧印加機構と電気的に接続される。
【0072】
電圧印加機構は制御PCと接続され、印加する電圧を制御することができる。外部の電圧印加機構から浅溝部5の内壁及び底面に成膜されたアルミニウム膜を介して、深溝部3aの内壁及び底面に成膜されたアルミニウム膜に電圧が印加され、隔壁3bがせん断変形することにより個別インク室3内に圧力波が発生してノズル孔6aから液滴を吐出することができる。
【0073】
続いて、図5A〜図5Cに示すように、カバー部材2の本体部20に、Z方向の深さ約1mm、X方向の幅約1.65mmの共通インク溝4aを形成した。本体部20のZ方向の厚さは、およそ2mmである。X方向が0.15mmの幅の直方体の調整部材19を、共通インク溝4aに接着した。図5Aは、カバー部材2の底面図を示し、図5Bは、図5AのE−E断面図を示し、図5Cは、図5AのF−F断面図を示す。
【0074】
この調整部材19を接着する位置は、両端から3番目のチャンネル(個別インク溝3a)とは交わらない位置とした。
【0075】
そして、カバー部材2における共通インク溝4aを形成した面に、接着剤を塗布して、圧電部材1の深溝部3aを形成した面と、カバー部材2の共通インク溝4aを形成した面とを接着した。
【0076】
接着剤の塗布方法としては、金属ローラで接着剤を塗り広がらせる方法や、正確な膜厚で塗布することができるバーコータ方式が望ましい。本実施の形態では、バーコータ方式を用いた。このとき塗布した接着剤の厚さは、およそ5μmである。
【0077】
このように、カバー部材2を圧電部材1と接着することにより、図1Cに示すように、両端から3番目までのチャンネルの個別インク室3の長さは、0.85mmとなり、図1Bに示すように、両端から4番目以降のチャンネルの個別インク室3の長さは、1mmとなる。
【0078】
つまり、最も外側から3番目までのチャンネルの個別インク室3の容積は、0.0255mm3となり、両端から4番目以降のチャンネルの個別インク室3の容積は、0.03mm3となって、両端から3番目までの個別インク室3の容積は、両端から4番目以降の個別インク室3の容積よりも小さくなる。
【0079】
カバー部材2と圧電部材1を接着した状態において、共通インク室4が開口する面を、図6Aに示し、個別インク室3が開口する面を、図6Bに示す。
【0080】
図6Aに示すように、切断箇所Aをダイシングマシンによって切断することにより、ノズルプレート6を接着するノズル面11を形成する。
【0081】
このように切断箇所Aで切断する理由は、圧電部材1とカバー部材2の接着時の位置ずれによる段差をノズル面11に残さないためである。ノズル面11に段差があった場合、ノズルプレート6のうねりとなり、ノズル孔6aの開口する角度が変わるため、吐出した液滴の着弾精度を低下させる虞がある。
【0082】
続いて、図6Bに示すように、2箇所の切断箇所Bを切断することにより、マニホールド13(図7参照)を接着するマニホールド面12を形成する。切断箇所Bで切断する理由も、マニホールド面12に段差を形成しないためである。マニホールド面12に段差があった場合、マニホールド13とマニホールド面12との接着面からインク漏れが発生する虞がある。
【0083】
このようにして製造したインクジェットヘッドは、図2に示すように、平坦な形状のノズル面11およびマニホールド面12を有する。
【0084】
その後、ノズル面11にノズルプレート6を接着する。ノズルプレート6は、エキシマレーザによって加工された複数のノズル孔6aを有し、各ノズル孔6aは、複数の個別インク室3のそれぞれに連通し、液滴を外部に吐出する。
【0085】
上述のように製造されたインクジェットヘッドには、例えば、図7に示すように、マニホールド面12にマニホールド13を接着する。マニホールド13には、インク配管14が接続されており、インク配管は、インクを貯蔵しているインクタンク15に、接続されている。
【0086】
インクタンク15からインク配管14へ、さらにインク配管14からマニホールド13を介して共通インク室4にインクが供給され、さらに共通インク室4から個別インク室3にインクが供給されて、ノズル孔6aからインクが吐出される。
【0087】
また、インクジェットヘッドの個別インク溝の金属膜に、外部から駆動電圧を印加するための電圧印加機構7を電気的に接続する。電圧印加機構7は、制御PC8に接続され、印加する電圧を制御される。
【0088】
次に、上記構成のインクジェットヘッドの吐出特性(飛翔速度と吐出体積)の検査を説明する。上記構成のインクジェットヘッドを駆動し、インクの漏洩がないことを確認してから、吐出特性を検査した。
【0089】
この検査システムの模式図を、図7に示す。まず、飛翔速度は、駆動波形に同期させた信号をトリガ信号として、液滴の吐出から100μsec後と400μsec後に、制御PC8に制御されたLED9を、2回発光させ、飛翔している液滴17を、CCDカメラ10で撮像して、モニタ(図示しない)に表示させて観察した。このとき、100μsec後の液滴と400μsec後の液滴の距離が、300μsec間に飛翔している液滴17が進んだ距離であるため、飛翔速度を算出することができる。
【0090】
また、吐出体積は、一定周波数で吐出させながらインクジェットヘッドの下に配置した電子天秤18に数万滴の液滴を吐出して、重量変化から算出した。
【0091】
ここで、同時に吐出することができるチャンネル同士は、3個離れている。同時に吐出できるチャンネル、つまり同相チャンネル間の駆動周波数を、10KHzとし、同時に吐出することができないチャンネル、つまり異相チャンネル間の駆動周波数を、30KHzとした。このような駆動方法を、3相駆動とよぶ。
【0092】
3相駆動により液滴17が飛翔した状態について、図8を用いて説明する。同相チャンネル間の駆動周波数は、10KHzであるため、あるチャンネルが液滴17を吐出してから100μsec後に、同じチャンネルから次の吐出が行われる。また、異相チャンネル間の駆動周波数は、30KHzであるため、33μsec毎に異相チャンネルから液滴が吐出される。
【0093】
このようにして計測された飛翔速度と吐出体積の検査結果について、図9に示す。図9から分かるように、インクジェットヘッドから吐出された液滴の飛翔速度および吐出体積のばらつきが低減していることが確認できた。つまり、個別インク室3の容積を小さくすることにより、吐出した液滴の飛翔速度と吐出体積のばらつきを低減できることを確認した。
【0094】
次に、比較例として、図10Aおよび図10Bに示すカバー部材について、上述の本発明と同様の方法を用いて、飛翔速度および吐出体積を測定した。
【0095】
図10Aおよび図10Bに示すように、比較例としてのカバー部材102では、図5Aの本発明のカバー部材2と比べて、調整部材19がなく、共通インク溝104aのX方向の幅が小さい点が相違する。つまり、共通インク溝104aのX方向の幅は、約1.5mmとなる。このため、カバー部材102と圧電部材1の個別インク溝とで形成される個別インク室の長さは、全て、1mmとなって、個別インク室の容積は、全て。およそ0.03mm3となる。
【0096】
そして、上記カバー部材102を用いて作成されたインクジェットヘッドについて、飛翔速度および吐出体積の測定結果を図11に示す。図11から分かるように、両端から3番目までのチャンネルから吐出された液滴の飛翔速度は、4番目以降のチャンネルから吐出された液滴の飛翔速度よりも大きく、最も外側のチャンネルから吐出された液滴の飛翔速度は、最大であり5%程度大きかった。また、この両端から3番目までのチャンネルから吐出された液滴の吐出体積も、4番目以降のチャンネルの平均吐出体積よりも大きく、最も外側のチャンネルは、最大であり3.5%程度大きかった。
【0097】
このように両端付近のチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度および吐出体積が、両端付近以外のチャンネルのそれより大きいのは、両端付近のチャンネルと、両端付近以外のチャンネルとでは、残留圧力波による影響が異なるためである。
【0098】
この残留圧力波による影響とは、あるチャンネルを吐出した際に発生した圧力波が、連通する共通インク室4を介して近接するチャンネルに影響を及ぼすことを指す。
【0099】
隣接するチャンネル(個別インク室3)による残留圧力波による影響について、図12を用いて説明する。図12中の点線の矢印が、隣接するチャンネルから受ける残留圧力波による影響を表す。
【0100】
両端付近以外のチャンネルでは、両側に無数にチャンネルが並んでいるため、両側から残留圧力波による影響を等しく受ける。しかし、両端付近のチャンネルは、端部側のチャンネルが少ないため、端部方向からの残留圧力波による影響が他方に比べて小さい。この端部側からと他方からの残留圧力波による影響の違いが飛翔速度や吐出速度の不均一さを生む。
【0101】
上記構成のインクジェットヘッドによれば、Y方向の一方側の最も外側の個別インク室3から数えて3番目までの位置にある各個別インク室3の容積、および、Y方向の他方側の最も外側の個別インク室3から数えて3番目までの位置にある各個別インク室3の容積は、Y方向の一方側の最も外側の個別インク室3から数えて4番目以降で、かつ、Y方向の他方側の最も外側の個別インク室3から数えて4番目以降に位置する個別インク室3の容積の平均よりも小さいので、全チャンネル(全個別インク室3)に対して同じ駆動電圧を印加した際に、3番目までの個別インク室3の容積変化を、それ以外の個別インク室3の平均容積変化よりも小さくすることができる。
【0102】
同時に吐出することができるチャンネルが3個離れているとき、最も外側から3番目までのチャンネルは、端部方向に同時に吐出できるチャンネルがないため、端部方向からは同相残留圧力波の影響を受けない。
【0103】
そして、最も外側から3番目までの、残留圧力波による影響が少ないチャンネルの個別インク室3の容積を、その他の個別インク室3の平均容積より小さくすることにより、最も外側から3番目までのチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度および吐出体積は、その他のチャンネルから吐出される液滴の平均飛翔速度や平均吐出体積に近づき、吐出特性を均一化することができる。
【0104】
また、上記構成のインクジェットヘッドによれば、容積の小さい個別インク室3は、他の個別インク室3と比べて、個別インク室3におけるX方向の長さが短いので、ノズルプレート6を接着する面に開口している個別インク室3の開口部面積を、全て同じとしたまま、個別インク室3の容積を小さくすることができる。このため、ノズルプレート6接着の精度を上げる必要がなく歩留まりの低下を抑制できる。
【0105】
これに対して、ノズルプレート6を接着する面に開口する個別インク室3の開口部面積が小さくなると、その小さくなった個別インク室3の開口部に対応するノズル孔6aを、位置合わせして接着する必要があるため、ノズルプレート6を接着するときに高い接着精度が必要となる。
【0106】
また、上記構成のインクジェットヘッドによれば、複数の個別インク室3は、Y方向に互いに等間隔に配列されているので、ノズル孔6aが開口する間隔が等間隔であるため、描画した液滴も等間隔となり、全てのチャンネルが描画に対して有効となる。
【0107】
(第2の実施形態)
図13は、この発明のインクジェットヘッドの第2の実施形態を示している。上記第1の実施形態と相違する点を説明すると、この第2の実施形態では、カバー部材の形状が相違する。なお、その他の構造は、上記第1の実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
【0108】
図13に示すように、カバー部材2Aは、底面からみて台形の調整部材19Aを有する。この調整部材19Aの斜辺部分により、最も外側の個別インク室3から数えて3番目に位置する個別インク室3から最も外側の個別インク室3に向かって、個別インク室3の容積が連続して減少する。
【0109】
このカバー部材2Aの製造方法について説明する。
【0110】
まず、カバー部材2Aに、上記第1の実施形態と同様の方法で、共通インク溝4aを形成した。その後、X方向の幅が0.15mmである台形柱型の調整部材19Aを、台形面の下底辺(長辺側)が外向きになるように、共通インク溝4aに接着した。
【0111】
この調整部材19Aは、最も外側のチャンネルとは交わらず、最も外側から4番目のチャンネルは台形面の上底辺(短辺側)と交わるように位置決めを行って接着した。このようにして加工したカバー部材2Aを圧電部材1と接着することにより、最も外側のチャンネルから、最も外側から4番目までの個別インク室3の長さを、0.85mm、0.9mm、0.95mm、1mmと連続的に変化させることができる。最も外側から5番目以降のチャンネルの個別インク室3の長さは1mmである。
【0112】
つまり、個別インク室3の容積は、最も外側の個別インク室3から順に、0.0255mm3、0.027なりmm3、0.0285mm3、0.03mm3となる。最も外側から5番目以降の個別インク室3の容積は、0.03mm3である。
【0113】
このインクジェットヘッドに対して、上記第1の実施形態と同様の方法を用いて、飛翔速度および吐出体積を測定した。インクジェットヘッドの測定結果を、図14に示す。
【0114】
図14から分かるように、インクジェットヘッドから吐出された液滴の飛翔速度および吐出体積のばらつきが低減していることが確認できた。つまり、個別インク室3の容積を、最も外側のチャンネル方向に連続して小さくすることにより、より飛翔速度と吐出体積を均一化できることが確認した。
【0115】
上記構成のインクジェットヘッドによれば、最も外側の個別インク室3から数えて3番目に位置する個別インク室3から最も外側の個別インク室3に向かって、個別インク室3の容積が連続して減少するので、連続して変化する残留圧力波の影響に応じて、個別インク室3の容積を連続して変化させることにより吐出特性を均一化することができる。
【0116】
例えば、最も外側のチャンネルでは、端部方向からは同相残留圧力波も異相残留圧力波も受けない。一方、最も外側のチャンネルから3番目のチャンネルでは、端部方向からは異相残留圧力波の影響は受けるが同相残留圧力波の影響は受けない。このため、残留圧力波による影響は、最も外側のチャンネルが最も小さく、外側のチャンネルから数えて3番目のチャンネルに向かって連続して増加していく。このように、連続して変化する残留圧力波に応じて、個別インク室3の容積も連続して変化させることにより、吐出特性を均一化することができる。
【0117】
(第3の実施形態)
次に、上記第1、上記第2実施形態とは相違するインクジェットヘッドについて、説明する。
【0118】
まず、個別インク室の長さのみ、幅のみ、深さのみを変更させた圧電部材を作製した。それぞれの圧電部材に、上記第1の実施形態と同じ方法で、図10Aのカバー部材102を貼り合わせて、インクジェットヘッドを作製した。
【0119】
個別インク室3の幅を変える方法としては、ダイシングブレードの幅を薄くすることで対応した。また、ダイシングブレードの厚みは変えずに、一つの深溝部3aに対してのダイシングブレードの走査回数を変えることにより幅が異なる深溝部(個別インク溝)3aを形成することもできる。個別インク室3の深さは、ダイシングブレードの切り込み量を小さくして深溝部3aを浅くした。
【0120】
このようにして個別インク室3の容積を変更したインクジェットヘッドに対して、上記第1の実施形態と同様の方法を用いて、吐出した液滴の飛翔速度および吐出体積を測定した。
【0121】
この結果から求められた、各項目の飛翔速度変化率をX軸、吐出体積変化率をY軸としたプロットを図15に示す。図15には、個別インク室3の容積を変えずに、個別インク室3に対応したノズル孔6aにおける、吐出方向における開口面積を変化させた場合の飛翔速度と吐出速度の変化についても、表している。
【0122】
図15中の傾き1の直線に傾きが近いパラメータほど、吐出した液滴の飛翔速度への影響と吐出体積への影響とが同程度あることを表している。つまり、図15の傾きが1より大きい項目は、吐出した液滴の飛翔速度よりも吐出体積に大きく影響を及ぼす項目である。
【0123】
そして、残留圧力波による影響が異なるために発生する飛翔速度の増加率が、吐出体積の増加率よりも大きいような場合では、傾きは1よりも小さい方が好ましい。図15から判断して、個別インク室3の幅もしくは深さを変える、つまり個別インク室3のインクの流れる方向に対しての断面積を小さくするほうが、個別インク室3の長さを変えるよりも、傾きが小さいため、飛翔速度と吐出体積の均一化に好ましいことが分かった。
【0124】
ただし、個別インク室3の断面積を変えても、傾きは1よりも小さくなることはなく、個別インク室3の容積変化だけでは飛翔速度と吐出体積の両方に対してある程度は均一化することはできるが、完全に両方を均一にすることはできないことが分かった。
【0125】
一方で、ノズル孔6aの開口面積に関しては、傾きが負であり、ノズル孔6aの開口面積を変えることにより、吐出した液滴の飛翔速度および吐出体積の両方を減少させることが不可能であることが分かった。
【0126】
しかしながら、個別インク室3の容積変化と、ノズル孔6aの液滴吐出方向の開口面積変化を組み合わせることにより、飛翔速度の変化率と吐出体積の変化率との関係を調整することができる。
【0127】
例えば、図16Aに示すように、個別インク室3の深さとノズル孔6aの開口面積の関係をもつインクジェットヘッドの場合には、飛翔速度の変化率と吐出体積の変化率は、図16Bに示すように、傾きはほぼ1となる。
【0128】
つまり、飛翔速度と吐出体積の変化率の傾きは、そのインクジェットヘッド構造にあわせて、個別インク室3の容積とノズル孔6aの開口面積を変化させることで、任意の傾きとすることが可能である。つまり、個別インク室3の容積を小さくし、対応するノズル孔6aの開口面積を大きくすることで、飛翔速度と吐出体積の両方を均一化することができることがわかった。
【0129】
そこで、この第3の施形態のインクジェットヘッドの構成について図17を用いて説明する。インクジェットヘッドでは、最も外側のチャンネルから3番目のチャンネルまでの個別インク室3の深さを、最も外側のチャンネルの個別インク室3の深さが最も小さくなるように連続して小さくした。このとき、最も外側のチャンネルの個別インク室3の深さは、全個別インク室3の深さの平均である約300μmよりも5%程度小さい285μmとした。
【0130】
さらに、容積を小さくした個別インク室3に対応するノズル孔6aの開口面積を、最も外側のチャンネルのノズル孔6aが最も大きくなるように連続して大きくした。このとき、最も外側のチャンネルに対応するノズル孔6aの開口面積は、全チャンネルのノズル孔6aの開口面積の平均500μm2よりも10%程度大きくした。
【0131】
要するに、このインクジェットヘッドでは、カバー部材2Bとして、図10Aのカバー部材102を用い、圧電部材1Aとして、深溝部3aの深さを変化させ、ノズルプレート6Aとして、ノズル孔6aの大きさを変化させている。
【0132】
このようにして作製したインクジェットヘッドの飛翔速度および吐出体積の検査結果を図18に示す。吐出した液滴の飛翔速度および吐出体積の両方を均一化することができていることが確認できた。
【0133】
上記構成のインクジェットヘッドによれば、容積の小さい個別インク室3は、他の個別インク室3と比べて、個別インク室3におけるX方向に直交する平面と交わる面積が小さいので、個別インク室3の断面積を変えることによって、個別インク室3の容積を変化させている。この場合、吐出する液滴の飛翔速度と吐出体積のそれぞれに与える影響がほぼ等しくなるため、飛翔速度と吐出体積の両方をより均一化することができる。また、このような加工は、加工に使用するダイシングブレードの厚みや切り込み量を変えることで比較的簡単に加工することができる。
【0134】
また、容積の小さい個別インク室3は、他の個別インク室3と比べて、個別インク室3におけるX方向およびY方向に直交するZ方向の深さが浅いので、吐出した液滴の飛翔速度と吐出体積に与える影響の差が小さい。このため、吐出した液滴の飛翔速度と吐出体積の両方を均一化することができ、且つ、使用するダイシングブレードの切り込み量を変えるだけで非常に容易に加工することができる。
【0135】
また、容積の小さい個別インク室3に連通するノズル孔6aの開口面積は、他の個別インク室3に連通するノズル孔6aの開口面積の平均よりも大きいので、容積を小さくした個別インク室3に、大きい開口面積のノズル孔6aを対応させることで、飛翔速度の変化率と吐出体積の変化率を任意に調整することができて、飛翔速度と吐出体積の両方をより均一にすることができる。
【0136】
なお、この発明は上述の実施形態に限定されない。例えば、本実施形態では、最も外側から3番目のチャンネルの個別インク室3の容積までを変化させているが、これに限られるものではない。最も外側のチャンネルだけでも同様の効果が得られるし、最も外側から3番目以降のチャンネルの容積を変えることによって、この効果が失われることはない。
【0137】
つまり、Y方向の両側で最も外側に位置する個別インク室のうちの少なくともY方向の一方側の個別インク室の容積が、この少なくともY方向の一方側の個別インク室を除いた他の個別インク室の容積の平均よりも小さくてもよい。
【0138】
また、Y方向の両側の個別インク室の容積が、このY方向の両側の個別インク室を除いた他の個別インク室の容積の平均よりも小さくてもよい。
【0139】
また、Y方向にn個(nは自然数)ずつ離れた位置にある個別インク室の全てが、同時に、液滴を吐出する状態で、少なくともY方向の一方側の個別インク室に関して、最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある各個別インク室の容積が、最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する個別インク室の容積の平均よりも小さくてもよい。
【0140】
また、本実施形態では、シェアモード型のインクジェットヘッドについて比較を行っているが、これに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1A】本発明のインクジェットヘッドの一実施形態を示す斜視図である。
【図1B】図1AのA−A断面図である。
【図1C】図1AのB−B断面図である。
【図2】インクジェットヘッドのノズルプレートを外した状態を示す斜視図である。
【図3】溝形成を説明する斜視図である。
【図4A】圧電部材の平面図である。
【図4B】図4AのC−C断面図である。
【図4C】図4AのD−D断面図である。
【図5A】カバー部材の平面図である。
【図5B】図5AのE−E断面図である。
【図5C】図5AのF−F断面図である。
【図6A】インクジェットヘッドの切断位置Aを説明する側面図である。
【図6B】インクジェットヘッドの切断位置Bを説明する側面図である。
【図7】インクジェットヘッドの吐出特性検査のシステムを示す簡略構成図である。
【図8】インクジェットヘッドの駆動状態を説明する説明図である。
【図9】インクジェットヘッドの検査結果を示すグラフである。
【図10A】比較例としてのカバー部材の平面図である。
【図10B】図10AのG−G断面図である。
【図11】比較例としてのインクジェットヘッドの検査結果を示すグラフである。
【図12】残留圧力波を説明する説明図である。
【図13】他のカバー部材の平面図である。
【図14】他のインクジェットヘッドの検査結果を示すグラフである。
【図15】各パラメータの飛翔速度変化率と吐出体積変化率の関係を表すグラフである。
【図16A】個別インク室の深さに対応したノズル開口面積を表すグラフである。
【図16B】各パラメータの飛翔速度変化率と吐出体積変化率の関係を表すグラフである。
【図17】他のインクジェットヘッドを示す正面図である。
【図18】他のインクジェットヘッドの検査結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0142】
1,1A 圧電部材
1a 分極境界部
2,2A,2B カバー部材
3 個別インク室
3a 深溝部(個別インク溝)
3b 隔壁
4 共通インク室
4a 共通インク溝
5 浅溝部
6,6A ノズルプレート
6a ノズル孔
7 電圧印加機構
8 制御PC
9 LED
10 CCDカメラ
11 ノズル面
12 マニホールド面
13 マニホールド
14 インク配管
15 インクタンク
16 ダイシングブレード
17 飛翔している液滴
18 電子天秤
19,19A 調整部材
20 本体部
【技術分野】
【0001】
この発明は、ノズルから液滴を吐出するインクジェットヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリンタにおいては、インパクト印字装置に代わって、カラー化、多階調化に対応しやすいインクジェット方式などのノンインパクト印字装置が急速に普及している。これに用いるインク噴射装置としてのインクジェットヘッドとしては、特に、印字に必要な液滴のみを噴射するというドロップ・オン・デマンド型が、噴射効率の良さ、低コスト化の容易さなどから注目されている。ドロップ・オン・デマンド型としては、カイザー(Kyser)方式やサーマルジェット方式が主流となっている。
【0003】
しかし、カイザー方式は、小型化が困難で高密度化に不向きであるという欠点を有していた。また、サーマルジェット方式は、高密度化には適しているものの、ヒータでインクを加熱してインク内にバブル(泡)を生じさせて、そのバブルのエネルギーを利用して噴射させる方式であるため、インクの耐熱性が要求され、また、ヒータの長寿命化も困難であり、エネルギー効率が悪いため、消費電力も大きくなるという問題を有していた。
【0004】
このような各方式の欠点を解決するものとして、圧電材料のシェアモード変形を利用したインクジェット方式が提案されている。この方式は、圧電材料からなるインクチャンネルの壁(以下、「チャンネル壁」という。)の両側面に形成した電極を用いて、圧電材料の分極方向と直交する方向に電界を生じさせることで、シェアモードでチャンネル壁を変形させ、その際に生じる圧力波変動を利用して液滴を吐出するものであり、ノズルの高密度化、低消費電力化、高駆動周波数化に適している。
【0005】
近年はこのシェアモード変形を利用したインクジェットヘッドを産業用途に利用することが盛んに行われるようになり始めている。例えば、インクとして導電部材を吐出することによって配線を描画したり、R,G,Bの各色のインクを吐出することによってカラーフィルタを作製したり、熱硬化性または紫外線(UV)硬化性のインクを吐出することによって、マイクロレンズやスペーサなどのような3次元構造物を作製したり、といった応用が進められている。
【0006】
上述したような多岐にわたる用途への展開に応じて、インクジェットによる描画には、より高精細で高品質な画質が求められてきている。このため、インクジェットヘッドには高密度に配置したノズルと、吐出特性の均一性が求められている。
【0007】
ここでインクジェットヘッドの構造について説明する。インクジェットヘッドは、複数の個別インク室と、前記複数の個別インク室に対応する複数のノズルと、前記複数の個別インク室に連通する共通インク室とから構成されている。各個別インク室が開口する一方の端部は共通インク室に連通しており、他方の端部はノズルと連通している。共通インク室から各個別インク室へインクが供給され、ノズルから液滴を吐出する。共通インク室は、マニホールドと、マニホールドに接続されたインク配管を介して外部に設置されたインクタンクと接続されている。
【0008】
液滴吐出機構は、例えばシェアモードのインクジェットヘッドの場合には、個別インク室を隔てている隔壁の壁面に形成された金属電極に電圧を印加することにより隔壁が変形し、この変形による個別インク室の容積の変化に伴って発生した圧力波の変動を利用してノズルから液滴を吐出させる。以下、個別インク室と、個別インク室に対応したノズルの2つをあわせた部分をチャンネルと表記する。
【0009】
このとき、吐出したチャンネル内で発生させた圧力波は、液滴吐出後に自然と減衰していくが、数十〜数百μsec程度は残留している。この残留した圧力波を以降は残留圧力波と呼ぶこととする。残留圧力波は、共通インク室を介して隣接もしくは近接するチャンネルへも伝播する。このように残留圧力波の影響がある時期に、隣接もしくは近接するチャンネルを吐出させる場合、吐出させるために新たに発生させた圧力波と残留圧力波とが合成、もしくは打ち消しあって、本来の圧力波とは変化して吐出を阻害して飛翔速度や吐出体積が変化してしまう。
【0010】
残留圧力波が自然と減衰して弱まるまで次の吐出を待つことによってこのような圧力波の変化は回避できるが高周波数の描画ができなくなるため描画時間が長くなりタクトタイムが増大することとなり好ましくない。
【0011】
また、上述したように高密度にノズルを配置した場合、隣接したチャンネル間の距離が近くなる。隣接したチャンネル間の距離が近くなるほど、隣接チャンネルを吐出した際の残留圧力波の影響を受けやすくなる。また残留圧力波の影響を受けるチャンネルの範囲が広がる。
【0012】
残留圧力波として大きく影響を及ぼすものは次の2つが挙げられる。一つ目は同時に吐出している、近接したチャンネルによる残留圧力波であり、同相残留圧力波と呼ぶこととする。2つ目は同時には吐出していないがタイミングをずらして吐出する、近接したチャンネルによる残留圧力波であり、異相残留圧力波と呼ぶこととする。あるチャンネルを吐出する場合には、少なくとも最も近くの同相残留圧力波と異相残留圧力波の影響を受けることとなる。
【0013】
また、高密度にノズルを配置した場合隣接する個別インク室間を隔てている隔壁の厚みも小さくなる。個別インク室間の隔壁の厚みが小さくなると、各隔壁の剛性が低下するため、隔壁を介して残留圧力波の影響を受けやすくなる。
【0014】
しかしながら、高密度に配列した複数のチャンネルの両端および両端に近接するチャンネル以外の大半のチャンネルは、両側に並んだ無数のチャンネルから残留圧力波による影響を受けるため、残留圧力波による影響に差はない。
【0015】
一方、高密度に配列した複数のチャンネルの両端付近に位置するチャンネルは、外側のチャンネルが他方と比べて極端に少ないため、外側からの残留圧力波によるは少ない。最も外側のチャンネルに関しては、片側には全くチャンネルがないため、片側からしか残留圧力波による影響を受けない。さらにこの最も外側のチャンネルの、最も外側の壁面の厚みは、各チャンネル間の隔壁の厚みよりもはるかに厚いため剛性が異なる。
【0016】
このように中央付近のチャンネルと両端付近のチャンネルとでは、残留圧力波による影響が大きく異なるため、中央部付近のチャンネルと端部付近のチャンネルとでは吐出特性(飛翔速度・吐出体積)の不均一化が発生する。
【0017】
具体的には、最も外側のチャンネルおよび外側に近接するチャンネルでは片側からの残留圧力波による影響が非常に小さいため、中央付近のチャンネルと比較して駆動効率が良くなり、同じ駆動電圧を印加した場合には飛翔速度および吐出体積は大きくなる。
【0018】
インクジェットヘッドを搭載した装置で描画を行う場合、タクトタイムを短縮するためにはインクジェットヘッドもしくは描画対象を走査しながら吐出する必要があるため、飛翔速度のばらつきは着弾位置のばらつきとなって描画品質を低下させる。同様に、吐出体積がばらついた場合にも、インクジェットヘッドから吐出された1滴の液滴によって描画される領域が異なるため描画品質を低下させることとなる。
【0019】
このような両端部のチャンネルの吐出特性の不均一性を抑制する従来技術としては、擬似個別インク室を形成する方法(特開2005−74860号公報:特許文献1参照)がある。
【0020】
また、チャンネル間の吐出特性を均一化する従来技術としては、チャンネル毎に印加する駆動電圧を変更する方法(特開2004−90621号公報:特許文献2参照)がある。
【特許文献1】特開2005−74860号公報
【特許文献2】特開2004−90621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上述したように、インクジェットによる描画には、高密度に配置したノズル孔と、均一な吐出特性が求められる。
【0022】
しかしながら、ノズル孔を高密度で配置すると、中央部付近のチャンネルと両端部付近のチャンネルとでは、近接するチャンネルの残留圧力波による影響が異なるため、吐出特性が均一でなくなり、両端近傍のチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度や吐出体積が大きくなる。
【0023】
例えば、上述の特許文献1の構成は、実際には吐出することができないダミーの個別インク室を形成するための領域が必要となるため、インクジェットヘッドによって描画できる範囲と比較してインクジェットヘッド自体は大型化する。このような場合には、例えば大型の紙などの全面に描画するために、複数のインクジェットヘッドを高密度に配置することが困難になる。
【0024】
また、擬似個別インク室がノズル孔を有していない場合には、擬似個別インク室が開口する一端は、行き止まりとなるため、インクや入り込んだ気泡が滞留してしまう。例えば、ビーズを含有するインクを使用した場合などには、ビーズの沈降を引き起こす虞がある。また、この擬似個別インク室に気泡が入り込んだ場合には、気泡の排出が困難である。擬似個別インク室内に残留した気泡は、インクを吐出するための圧力波伝播の妨げとなったり、流動して個別インク室内に入り込んだりして、吐出特性の低下や不吐出を発生させる虞がある。
【0025】
さらに、特許文献2の構成は、チャンネル毎に電圧を変更するための手段が必要であり、大幅なコスト上昇が発生する。
【0026】
そこで、この発明の課題は、端部チャンネル付近における吐出特性の不均一化を抑制し、均一な吐出特性を有するインクジェットヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するため、この発明のインクジェットヘッドは、
X方向に延在してX方向に交差するY方向に互いに間隔をおいて配列された複数の個別インク室と、
上記各個別インク室に対応して配置され上記各個別インク室に連通する複数のノズル孔と
を備え、
Y方向の両側で最も外側に位置する上記個別インク室のうちの少なくともY方向の一方側の上記個別インク室の容積は、この少なくともY方向の一方側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいことを特徴としている。
【0028】
この発明のインクジェットヘッドによれば、Y方向の両側で最も外側に位置する上記個別インク室のうちの少なくともY方向の一方側の上記個別インク室の容積は、この少なくともY方向の一方側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいので、全チャンネル(全個別インク室)に対して同じ駆動電圧を印加した際に、少なくともY方向の一方側の最も外側に位置する個別インク室の容積変化を、それ以外の個別インク室の平均容積変化よりも小さくすることができる。
【0029】
このため、少なくともY方向の一方側の最も外側に位置するチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度および吐出体積は、その他のチャンネルから吐出された液滴の平均飛翔速度や平均吐出体積に近づき、吐出特性を均一化することができる。
【0030】
これに対して、全個別インク室の容積を同じにした場合、最も外側に位置するチャンネルは、端部側からの残留圧力波の影響がないため、全チャンネルに対して同じ駆動電圧を印加した場合には、最も外側に位置する個別インク室から吐出される液滴の飛翔速度や吐出体積が全チャンネルの平均の飛翔速度や吐出体積に対して大きくなる。このため、吐出特性が不均一になる。
【0031】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、Y方向の両側の個別インク室の容積は、このY方向の両側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さい。
【0032】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、Y方向の両側の個別インク室の容積は、このY方向の両側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいので、Y方向の両側の個別インク室の吐出特性の不均一化を抑制し、吐出特性を一層均一にできる。
【0033】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、
Y方向にn個(nは自然数)ずつ離れた位置にある上記個別インク室の全てが、同時に、液滴を吐出する状態で、
上記少なくともY方向の一方側の個別インク室に関して、最も外側の上記個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さい。
【0034】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、Y方向にn個ずつ離れた位置にある上記個別インク室の全てが、同時に、液滴を吐出する状態で、上記少なくともY方向の一方側の個別インク室に関して、最も外側の上記個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さいので、同時に吐出することができるチャンネルがn個離れているとき、最も外側からn番目までのチャンネルは、端部方向に同時に吐出できるチャンネルがないため、端部方向からは同相残留圧力波の影響を受けない。
【0035】
そして、最も外側からn番目までの、残留圧力波による影響が少ないチャンネルの個別インク室の容積を、その他の個別インク室の平均容積より小さくすることにより、最も外側からn番目までのチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度および吐出体積は、全チャンネルから吐出された液滴の平均飛翔速度や平均吐出体積に近づき、吐出特性を均一化することができる。
【0036】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積、および、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降で、かつ、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さい。
【0037】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積、および、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降で、かつ、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さいので、Y方向の両側のn番目までの位置にある個別インク室の吐出特性の不均一化を抑制し、吐出特性を一層均一にできる。
【0038】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記最も外側の個別インク室から数えてn番目に位置する個別インク室から上記最も外側の個別インク室に向かって、上記個別インク室の容積が連続して減少する。
【0039】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記最も外側の個別インク室から数えてn番目に位置する個別インク室から上記最も外側の個別インク室に向かって、上記個別インク室の容積が連続して減少するので、連続して変化する残留圧力波の影響に応じて、個別インク室の容積を連続して変化させることにより吐出特性を均一化することができる。
【0040】
例えば、最も外側のチャンネルでは、端部方向からは同相残留圧力波も異相残留圧力波も受けない。一方、最も外側のチャンネルからn番目のチャンネルでは、端部方向からは異相残留圧力波の影響は受けるが同相残留圧力波の影響は受けない。このため、残留圧力波による影響は、最も外側のチャンネルが最も小さく、外側のチャンネルから数えてn番目のチャンネルに向かって連続して増加していく。このように、連続して変化する残留圧力波に応じて、個別インク室の容積も連続して変化させることにより、吐出特性を均一化することができる。
【0041】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向の長さが短い。
【0042】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向の長さが短いので、ノズルプレートを接着する面に開口している個別インク室の開口部面積を、全て同じとしたまま、個別インク室の容積を小さくすることができる。このため、ノズルプレート接着の精度を上げる必要がなく歩留まりの低下を抑制できる。
【0043】
これに対して、ノズルプレートを接着する面に開口する個別インク室の開口部面積が小さくなると、その小さくなった個別インク室の開口部に対応するノズル孔を、位置合わせして接着する必要があるため、ノズルプレートを接着するときに高い接着精度が必要となる。
【0044】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向に直交する平面と交わる面積が小さい。
【0045】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向に直交する平面と交わる面積が小さいので、個別インク室の断面積を変えることによって、個別インク室の容積を変化させている。この場合、吐出する液滴の飛翔速度と吐出体積のそれぞれに与える影響がほぼ等しくなるため、飛翔速度と吐出体積の両方をより均一化することができる。また、このような加工は、加工に使用するダイシングブレードの厚みや切り込み量を変えることで比較的簡単に加工することができる。
【0046】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向およびY方向に直交するZ方向の深さが浅い。
【0047】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向およびY方向に直交するZ方向の深さが浅いので、吐出した液滴の飛翔速度と吐出体積に与える影響の差が小さい。このため、吐出した液滴の飛翔速度と吐出体積の両方を均一化することができ、且つ、使用するダイシングブレードの切り込み量を変えるだけで非常に容易に加工することができる。
【0048】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記容積の小さい個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積は、他の上記個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積の平均よりも大きい。
【0049】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記容積の小さい個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積は、他の上記個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積の平均よりも大きいので、容積を小さくした個別インク室に、大きい開口面積のノズル孔を対応させることで、飛翔速度の変化率と吐出体積の変化率を任意に調整することができて、飛翔速度と吐出体積の両方をより均一にすることができる。
【0050】
また、一実施形態のインクジェットヘッドでは、上記複数の個別インク室は、Y方向に互いに等間隔に配列されている。
【0051】
この実施形態のインクジェットヘッドによれば、上記複数の個別インク室は、Y方向に互いに等間隔に配列されているので、ノズル孔が開口する間隔が等間隔であるため、描画した液滴も等間隔となり、全てのチャンネルが描画に対して有効となる。
【発明の効果】
【0052】
この発明のインクジェットヘッドによれば、Y方向の両側で最も外側に位置する上記個別インク室のうちの少なくともY方向の一方側の上記個別インク室の容積は、この少なくともY方向の一方側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいので、端部チャンネル付近における吐出特性の不均一化を抑制し、均一な吐出特性を有するインクジェットヘッドを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0054】
(第1の実施形態)
図1Aは、この発明のインクジェットヘッドの第1実施形態である斜視図を示している。図1Bは、図1AのA−A断面図である。図1Cは、図1AのB−B断面図である。図2は、図1Aのノズルプレートを外した状態を示す斜視図である。
【0055】
図1A〜図1Cおよび図2に示すように、インクジェットヘッドは、圧電部材1と、この圧電部材1のZ方向上面に取り付けられたカバー部材2と、圧電部材1およびカバー部材2のX方向側面に取り付けられたノズルプレート6とを有する。
【0056】
圧電部材1の上面には、個別インク溝としての深溝部3aと、この深溝部3aに連なる浅溝部5とが、設けられている。複数の深溝部3aおよび浅溝部5は、それぞれ、X方向に延在してY方向に互いに間隔をおいて配列されている。複数の深溝部3aおよび浅溝部5は、Y方向に互いに等間隔に配列されている。
【0057】
深溝部3aおよび浅溝部5は、Z方向に深さを有する。深溝部3aおよび浅溝部5は、X方向に開口している。隣り合う深溝部3a,3aの間には、隔壁3bが形成される。
【0058】
X方向とY方向とは、互いに、直交しているが、交差していればよい。Z方向は、X方向およびY方向に直交する。
【0059】
カバー部材2は、共通インク溝4aが設けられた本体部20と、共通インク溝4aに取り付けられた調整部材19とを有する。共通インク溝4aは、本体部20のZ方向下面に設けられ、Y方向に延在して開口している。ノズルプレート6は、各深溝部3aに対応するノズル孔6aを有する。
【0060】
圧電部材1の深溝部3aとカバー部材2の共通インク溝4aとが、対向するように配置されて、深溝部3aにおけるカバー部材2で覆われた部分が、個別インク室3を形成する。共通インク溝4aにおける圧電部材1で覆われた部分が、共通インク室4を形成する。
【0061】
複数の個別インク室3は、X方向に延在してY方向に互いに間隔をおいて配列されている。複数の個別インク室3は、Y方向に互いに等間隔に配列されている。複数のノズル孔6aは、各個別インク室3に対応して配置され各個別インク室3に連通する。そして、インクは、共通インク室4を通過して、個別インク室3をX方向に流れて、ノズル孔6aから吐出される。
【0062】
Y方向に3個ずつ離れた位置にある個別インク室3の全てが、同時に、液滴を吐出する。つまり、インクジェットヘッドの駆動は、3相駆動である。
【0063】
Y方向の一方側の最も外側の個別インク室3から数えて3番目までの位置にある各個別インク室3の容積、および、Y方向の他方側の最も外側の個別インク室3から数えて3番目までの位置にある各個別インク室3の容積は、Y方向の一方側の最も外側の個別インク室3から数えて4番目以降で、かつ、Y方向の他方側の最も外側の個別インク室3から数えて4番目以降に位置する個別インク室3の容積の平均よりも小さい。
【0064】
最外端から3番目までの位置にある個別インク室3は、図1Bに示すように、カバー部材2の本体部20および調整部材19に覆われた部分である。最外端から4番目以降に位置する個別インク室3は、図1Cに示すように、カバー部材2の本体部20に覆われた部分である。つまり、図1Bに示す容積の小さい個別インク室3は、図1Cに示す他の個別インク室3と比べて、個別インク室3におけるX方向(インクが流れる方向)の長さが短い。
【0065】
次に、上記構成のインクジェットヘッドの製造方法を説明する。
【0066】
まず、図3に示すように、圧電部材1として、あらかじめ分極境界部1aで分極方向が相反するように分極処理が施された基板を用意した。分極境界部1aは、後にダイシングマシンにより溝加工を行う圧電部材1の面から、150μm離れた位置にある。
【0067】
そして、ダイシングマシンのダイシングブレード16を用いて、圧電部材1に溝を形成し、図4A〜図4Cに示すように、圧電部材1に所定の間隔で深溝部3a(個別インク溝)と浅溝部5とを形成した。隣接する深溝部3aの間に、隔壁3bを形成した。なお、溝の加工には、全てダイシングマシンを用いている。図4Aは、圧電部材1の平面図を示し、図4Bは、図4AのC−C断面図を示し、図4Cは、図4AのD−D断面図を示す。
【0068】
深溝部3aにおいて、深さは約300μm、幅は約100μm、長さは約1mmとした。深溝部3aの深さを約300μmとすることにより、分極境界部1aは深溝部3aの深さ方向における中心付近に位置することとなる。
【0069】
一方、浅溝部5は、幅約100μm、深さ約20μm、長さ約500μmである。浅溝部5は、ダイシングマシンによる加工の際に、ダイシングブレード16の切り込み量を小さくすることにより容易に形成することができる。
【0070】
次に、圧電部材1の溝加工を施した面に対してアルミニウムをスパッタリングにより成膜した後、圧電部材1の溝加工を施した面を5μmほど研削した。この研削により、隔壁3bの上部に形成されたアルミニウム膜を除去した。このようにして、深溝部3aの内壁と底面、さらに浅溝部5の内壁と底面にだけアルミニウム膜を残すことができる。
【0071】
浅溝部5の内壁および底面に成膜したアルミニウム膜と、深溝部3aの内壁および底面に成膜されたアルミニウム膜とは電気的に接続されている。さらに、浅溝部5の内壁および底面に成膜されたアルミニウム膜は、後の工程で、外部から駆動電圧を印加するための電圧印加機構と電気的に接続される。
【0072】
電圧印加機構は制御PCと接続され、印加する電圧を制御することができる。外部の電圧印加機構から浅溝部5の内壁及び底面に成膜されたアルミニウム膜を介して、深溝部3aの内壁及び底面に成膜されたアルミニウム膜に電圧が印加され、隔壁3bがせん断変形することにより個別インク室3内に圧力波が発生してノズル孔6aから液滴を吐出することができる。
【0073】
続いて、図5A〜図5Cに示すように、カバー部材2の本体部20に、Z方向の深さ約1mm、X方向の幅約1.65mmの共通インク溝4aを形成した。本体部20のZ方向の厚さは、およそ2mmである。X方向が0.15mmの幅の直方体の調整部材19を、共通インク溝4aに接着した。図5Aは、カバー部材2の底面図を示し、図5Bは、図5AのE−E断面図を示し、図5Cは、図5AのF−F断面図を示す。
【0074】
この調整部材19を接着する位置は、両端から3番目のチャンネル(個別インク溝3a)とは交わらない位置とした。
【0075】
そして、カバー部材2における共通インク溝4aを形成した面に、接着剤を塗布して、圧電部材1の深溝部3aを形成した面と、カバー部材2の共通インク溝4aを形成した面とを接着した。
【0076】
接着剤の塗布方法としては、金属ローラで接着剤を塗り広がらせる方法や、正確な膜厚で塗布することができるバーコータ方式が望ましい。本実施の形態では、バーコータ方式を用いた。このとき塗布した接着剤の厚さは、およそ5μmである。
【0077】
このように、カバー部材2を圧電部材1と接着することにより、図1Cに示すように、両端から3番目までのチャンネルの個別インク室3の長さは、0.85mmとなり、図1Bに示すように、両端から4番目以降のチャンネルの個別インク室3の長さは、1mmとなる。
【0078】
つまり、最も外側から3番目までのチャンネルの個別インク室3の容積は、0.0255mm3となり、両端から4番目以降のチャンネルの個別インク室3の容積は、0.03mm3となって、両端から3番目までの個別インク室3の容積は、両端から4番目以降の個別インク室3の容積よりも小さくなる。
【0079】
カバー部材2と圧電部材1を接着した状態において、共通インク室4が開口する面を、図6Aに示し、個別インク室3が開口する面を、図6Bに示す。
【0080】
図6Aに示すように、切断箇所Aをダイシングマシンによって切断することにより、ノズルプレート6を接着するノズル面11を形成する。
【0081】
このように切断箇所Aで切断する理由は、圧電部材1とカバー部材2の接着時の位置ずれによる段差をノズル面11に残さないためである。ノズル面11に段差があった場合、ノズルプレート6のうねりとなり、ノズル孔6aの開口する角度が変わるため、吐出した液滴の着弾精度を低下させる虞がある。
【0082】
続いて、図6Bに示すように、2箇所の切断箇所Bを切断することにより、マニホールド13(図7参照)を接着するマニホールド面12を形成する。切断箇所Bで切断する理由も、マニホールド面12に段差を形成しないためである。マニホールド面12に段差があった場合、マニホールド13とマニホールド面12との接着面からインク漏れが発生する虞がある。
【0083】
このようにして製造したインクジェットヘッドは、図2に示すように、平坦な形状のノズル面11およびマニホールド面12を有する。
【0084】
その後、ノズル面11にノズルプレート6を接着する。ノズルプレート6は、エキシマレーザによって加工された複数のノズル孔6aを有し、各ノズル孔6aは、複数の個別インク室3のそれぞれに連通し、液滴を外部に吐出する。
【0085】
上述のように製造されたインクジェットヘッドには、例えば、図7に示すように、マニホールド面12にマニホールド13を接着する。マニホールド13には、インク配管14が接続されており、インク配管は、インクを貯蔵しているインクタンク15に、接続されている。
【0086】
インクタンク15からインク配管14へ、さらにインク配管14からマニホールド13を介して共通インク室4にインクが供給され、さらに共通インク室4から個別インク室3にインクが供給されて、ノズル孔6aからインクが吐出される。
【0087】
また、インクジェットヘッドの個別インク溝の金属膜に、外部から駆動電圧を印加するための電圧印加機構7を電気的に接続する。電圧印加機構7は、制御PC8に接続され、印加する電圧を制御される。
【0088】
次に、上記構成のインクジェットヘッドの吐出特性(飛翔速度と吐出体積)の検査を説明する。上記構成のインクジェットヘッドを駆動し、インクの漏洩がないことを確認してから、吐出特性を検査した。
【0089】
この検査システムの模式図を、図7に示す。まず、飛翔速度は、駆動波形に同期させた信号をトリガ信号として、液滴の吐出から100μsec後と400μsec後に、制御PC8に制御されたLED9を、2回発光させ、飛翔している液滴17を、CCDカメラ10で撮像して、モニタ(図示しない)に表示させて観察した。このとき、100μsec後の液滴と400μsec後の液滴の距離が、300μsec間に飛翔している液滴17が進んだ距離であるため、飛翔速度を算出することができる。
【0090】
また、吐出体積は、一定周波数で吐出させながらインクジェットヘッドの下に配置した電子天秤18に数万滴の液滴を吐出して、重量変化から算出した。
【0091】
ここで、同時に吐出することができるチャンネル同士は、3個離れている。同時に吐出できるチャンネル、つまり同相チャンネル間の駆動周波数を、10KHzとし、同時に吐出することができないチャンネル、つまり異相チャンネル間の駆動周波数を、30KHzとした。このような駆動方法を、3相駆動とよぶ。
【0092】
3相駆動により液滴17が飛翔した状態について、図8を用いて説明する。同相チャンネル間の駆動周波数は、10KHzであるため、あるチャンネルが液滴17を吐出してから100μsec後に、同じチャンネルから次の吐出が行われる。また、異相チャンネル間の駆動周波数は、30KHzであるため、33μsec毎に異相チャンネルから液滴が吐出される。
【0093】
このようにして計測された飛翔速度と吐出体積の検査結果について、図9に示す。図9から分かるように、インクジェットヘッドから吐出された液滴の飛翔速度および吐出体積のばらつきが低減していることが確認できた。つまり、個別インク室3の容積を小さくすることにより、吐出した液滴の飛翔速度と吐出体積のばらつきを低減できることを確認した。
【0094】
次に、比較例として、図10Aおよび図10Bに示すカバー部材について、上述の本発明と同様の方法を用いて、飛翔速度および吐出体積を測定した。
【0095】
図10Aおよび図10Bに示すように、比較例としてのカバー部材102では、図5Aの本発明のカバー部材2と比べて、調整部材19がなく、共通インク溝104aのX方向の幅が小さい点が相違する。つまり、共通インク溝104aのX方向の幅は、約1.5mmとなる。このため、カバー部材102と圧電部材1の個別インク溝とで形成される個別インク室の長さは、全て、1mmとなって、個別インク室の容積は、全て。およそ0.03mm3となる。
【0096】
そして、上記カバー部材102を用いて作成されたインクジェットヘッドについて、飛翔速度および吐出体積の測定結果を図11に示す。図11から分かるように、両端から3番目までのチャンネルから吐出された液滴の飛翔速度は、4番目以降のチャンネルから吐出された液滴の飛翔速度よりも大きく、最も外側のチャンネルから吐出された液滴の飛翔速度は、最大であり5%程度大きかった。また、この両端から3番目までのチャンネルから吐出された液滴の吐出体積も、4番目以降のチャンネルの平均吐出体積よりも大きく、最も外側のチャンネルは、最大であり3.5%程度大きかった。
【0097】
このように両端付近のチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度および吐出体積が、両端付近以外のチャンネルのそれより大きいのは、両端付近のチャンネルと、両端付近以外のチャンネルとでは、残留圧力波による影響が異なるためである。
【0098】
この残留圧力波による影響とは、あるチャンネルを吐出した際に発生した圧力波が、連通する共通インク室4を介して近接するチャンネルに影響を及ぼすことを指す。
【0099】
隣接するチャンネル(個別インク室3)による残留圧力波による影響について、図12を用いて説明する。図12中の点線の矢印が、隣接するチャンネルから受ける残留圧力波による影響を表す。
【0100】
両端付近以外のチャンネルでは、両側に無数にチャンネルが並んでいるため、両側から残留圧力波による影響を等しく受ける。しかし、両端付近のチャンネルは、端部側のチャンネルが少ないため、端部方向からの残留圧力波による影響が他方に比べて小さい。この端部側からと他方からの残留圧力波による影響の違いが飛翔速度や吐出速度の不均一さを生む。
【0101】
上記構成のインクジェットヘッドによれば、Y方向の一方側の最も外側の個別インク室3から数えて3番目までの位置にある各個別インク室3の容積、および、Y方向の他方側の最も外側の個別インク室3から数えて3番目までの位置にある各個別インク室3の容積は、Y方向の一方側の最も外側の個別インク室3から数えて4番目以降で、かつ、Y方向の他方側の最も外側の個別インク室3から数えて4番目以降に位置する個別インク室3の容積の平均よりも小さいので、全チャンネル(全個別インク室3)に対して同じ駆動電圧を印加した際に、3番目までの個別インク室3の容積変化を、それ以外の個別インク室3の平均容積変化よりも小さくすることができる。
【0102】
同時に吐出することができるチャンネルが3個離れているとき、最も外側から3番目までのチャンネルは、端部方向に同時に吐出できるチャンネルがないため、端部方向からは同相残留圧力波の影響を受けない。
【0103】
そして、最も外側から3番目までの、残留圧力波による影響が少ないチャンネルの個別インク室3の容積を、その他の個別インク室3の平均容積より小さくすることにより、最も外側から3番目までのチャンネルから吐出される液滴の飛翔速度および吐出体積は、その他のチャンネルから吐出される液滴の平均飛翔速度や平均吐出体積に近づき、吐出特性を均一化することができる。
【0104】
また、上記構成のインクジェットヘッドによれば、容積の小さい個別インク室3は、他の個別インク室3と比べて、個別インク室3におけるX方向の長さが短いので、ノズルプレート6を接着する面に開口している個別インク室3の開口部面積を、全て同じとしたまま、個別インク室3の容積を小さくすることができる。このため、ノズルプレート6接着の精度を上げる必要がなく歩留まりの低下を抑制できる。
【0105】
これに対して、ノズルプレート6を接着する面に開口する個別インク室3の開口部面積が小さくなると、その小さくなった個別インク室3の開口部に対応するノズル孔6aを、位置合わせして接着する必要があるため、ノズルプレート6を接着するときに高い接着精度が必要となる。
【0106】
また、上記構成のインクジェットヘッドによれば、複数の個別インク室3は、Y方向に互いに等間隔に配列されているので、ノズル孔6aが開口する間隔が等間隔であるため、描画した液滴も等間隔となり、全てのチャンネルが描画に対して有効となる。
【0107】
(第2の実施形態)
図13は、この発明のインクジェットヘッドの第2の実施形態を示している。上記第1の実施形態と相違する点を説明すると、この第2の実施形態では、カバー部材の形状が相違する。なお、その他の構造は、上記第1の実施形態と同じであるため、その説明を省略する。
【0108】
図13に示すように、カバー部材2Aは、底面からみて台形の調整部材19Aを有する。この調整部材19Aの斜辺部分により、最も外側の個別インク室3から数えて3番目に位置する個別インク室3から最も外側の個別インク室3に向かって、個別インク室3の容積が連続して減少する。
【0109】
このカバー部材2Aの製造方法について説明する。
【0110】
まず、カバー部材2Aに、上記第1の実施形態と同様の方法で、共通インク溝4aを形成した。その後、X方向の幅が0.15mmである台形柱型の調整部材19Aを、台形面の下底辺(長辺側)が外向きになるように、共通インク溝4aに接着した。
【0111】
この調整部材19Aは、最も外側のチャンネルとは交わらず、最も外側から4番目のチャンネルは台形面の上底辺(短辺側)と交わるように位置決めを行って接着した。このようにして加工したカバー部材2Aを圧電部材1と接着することにより、最も外側のチャンネルから、最も外側から4番目までの個別インク室3の長さを、0.85mm、0.9mm、0.95mm、1mmと連続的に変化させることができる。最も外側から5番目以降のチャンネルの個別インク室3の長さは1mmである。
【0112】
つまり、個別インク室3の容積は、最も外側の個別インク室3から順に、0.0255mm3、0.027なりmm3、0.0285mm3、0.03mm3となる。最も外側から5番目以降の個別インク室3の容積は、0.03mm3である。
【0113】
このインクジェットヘッドに対して、上記第1の実施形態と同様の方法を用いて、飛翔速度および吐出体積を測定した。インクジェットヘッドの測定結果を、図14に示す。
【0114】
図14から分かるように、インクジェットヘッドから吐出された液滴の飛翔速度および吐出体積のばらつきが低減していることが確認できた。つまり、個別インク室3の容積を、最も外側のチャンネル方向に連続して小さくすることにより、より飛翔速度と吐出体積を均一化できることが確認した。
【0115】
上記構成のインクジェットヘッドによれば、最も外側の個別インク室3から数えて3番目に位置する個別インク室3から最も外側の個別インク室3に向かって、個別インク室3の容積が連続して減少するので、連続して変化する残留圧力波の影響に応じて、個別インク室3の容積を連続して変化させることにより吐出特性を均一化することができる。
【0116】
例えば、最も外側のチャンネルでは、端部方向からは同相残留圧力波も異相残留圧力波も受けない。一方、最も外側のチャンネルから3番目のチャンネルでは、端部方向からは異相残留圧力波の影響は受けるが同相残留圧力波の影響は受けない。このため、残留圧力波による影響は、最も外側のチャンネルが最も小さく、外側のチャンネルから数えて3番目のチャンネルに向かって連続して増加していく。このように、連続して変化する残留圧力波に応じて、個別インク室3の容積も連続して変化させることにより、吐出特性を均一化することができる。
【0117】
(第3の実施形態)
次に、上記第1、上記第2実施形態とは相違するインクジェットヘッドについて、説明する。
【0118】
まず、個別インク室の長さのみ、幅のみ、深さのみを変更させた圧電部材を作製した。それぞれの圧電部材に、上記第1の実施形態と同じ方法で、図10Aのカバー部材102を貼り合わせて、インクジェットヘッドを作製した。
【0119】
個別インク室3の幅を変える方法としては、ダイシングブレードの幅を薄くすることで対応した。また、ダイシングブレードの厚みは変えずに、一つの深溝部3aに対してのダイシングブレードの走査回数を変えることにより幅が異なる深溝部(個別インク溝)3aを形成することもできる。個別インク室3の深さは、ダイシングブレードの切り込み量を小さくして深溝部3aを浅くした。
【0120】
このようにして個別インク室3の容積を変更したインクジェットヘッドに対して、上記第1の実施形態と同様の方法を用いて、吐出した液滴の飛翔速度および吐出体積を測定した。
【0121】
この結果から求められた、各項目の飛翔速度変化率をX軸、吐出体積変化率をY軸としたプロットを図15に示す。図15には、個別インク室3の容積を変えずに、個別インク室3に対応したノズル孔6aにおける、吐出方向における開口面積を変化させた場合の飛翔速度と吐出速度の変化についても、表している。
【0122】
図15中の傾き1の直線に傾きが近いパラメータほど、吐出した液滴の飛翔速度への影響と吐出体積への影響とが同程度あることを表している。つまり、図15の傾きが1より大きい項目は、吐出した液滴の飛翔速度よりも吐出体積に大きく影響を及ぼす項目である。
【0123】
そして、残留圧力波による影響が異なるために発生する飛翔速度の増加率が、吐出体積の増加率よりも大きいような場合では、傾きは1よりも小さい方が好ましい。図15から判断して、個別インク室3の幅もしくは深さを変える、つまり個別インク室3のインクの流れる方向に対しての断面積を小さくするほうが、個別インク室3の長さを変えるよりも、傾きが小さいため、飛翔速度と吐出体積の均一化に好ましいことが分かった。
【0124】
ただし、個別インク室3の断面積を変えても、傾きは1よりも小さくなることはなく、個別インク室3の容積変化だけでは飛翔速度と吐出体積の両方に対してある程度は均一化することはできるが、完全に両方を均一にすることはできないことが分かった。
【0125】
一方で、ノズル孔6aの開口面積に関しては、傾きが負であり、ノズル孔6aの開口面積を変えることにより、吐出した液滴の飛翔速度および吐出体積の両方を減少させることが不可能であることが分かった。
【0126】
しかしながら、個別インク室3の容積変化と、ノズル孔6aの液滴吐出方向の開口面積変化を組み合わせることにより、飛翔速度の変化率と吐出体積の変化率との関係を調整することができる。
【0127】
例えば、図16Aに示すように、個別インク室3の深さとノズル孔6aの開口面積の関係をもつインクジェットヘッドの場合には、飛翔速度の変化率と吐出体積の変化率は、図16Bに示すように、傾きはほぼ1となる。
【0128】
つまり、飛翔速度と吐出体積の変化率の傾きは、そのインクジェットヘッド構造にあわせて、個別インク室3の容積とノズル孔6aの開口面積を変化させることで、任意の傾きとすることが可能である。つまり、個別インク室3の容積を小さくし、対応するノズル孔6aの開口面積を大きくすることで、飛翔速度と吐出体積の両方を均一化することができることがわかった。
【0129】
そこで、この第3の施形態のインクジェットヘッドの構成について図17を用いて説明する。インクジェットヘッドでは、最も外側のチャンネルから3番目のチャンネルまでの個別インク室3の深さを、最も外側のチャンネルの個別インク室3の深さが最も小さくなるように連続して小さくした。このとき、最も外側のチャンネルの個別インク室3の深さは、全個別インク室3の深さの平均である約300μmよりも5%程度小さい285μmとした。
【0130】
さらに、容積を小さくした個別インク室3に対応するノズル孔6aの開口面積を、最も外側のチャンネルのノズル孔6aが最も大きくなるように連続して大きくした。このとき、最も外側のチャンネルに対応するノズル孔6aの開口面積は、全チャンネルのノズル孔6aの開口面積の平均500μm2よりも10%程度大きくした。
【0131】
要するに、このインクジェットヘッドでは、カバー部材2Bとして、図10Aのカバー部材102を用い、圧電部材1Aとして、深溝部3aの深さを変化させ、ノズルプレート6Aとして、ノズル孔6aの大きさを変化させている。
【0132】
このようにして作製したインクジェットヘッドの飛翔速度および吐出体積の検査結果を図18に示す。吐出した液滴の飛翔速度および吐出体積の両方を均一化することができていることが確認できた。
【0133】
上記構成のインクジェットヘッドによれば、容積の小さい個別インク室3は、他の個別インク室3と比べて、個別インク室3におけるX方向に直交する平面と交わる面積が小さいので、個別インク室3の断面積を変えることによって、個別インク室3の容積を変化させている。この場合、吐出する液滴の飛翔速度と吐出体積のそれぞれに与える影響がほぼ等しくなるため、飛翔速度と吐出体積の両方をより均一化することができる。また、このような加工は、加工に使用するダイシングブレードの厚みや切り込み量を変えることで比較的簡単に加工することができる。
【0134】
また、容積の小さい個別インク室3は、他の個別インク室3と比べて、個別インク室3におけるX方向およびY方向に直交するZ方向の深さが浅いので、吐出した液滴の飛翔速度と吐出体積に与える影響の差が小さい。このため、吐出した液滴の飛翔速度と吐出体積の両方を均一化することができ、且つ、使用するダイシングブレードの切り込み量を変えるだけで非常に容易に加工することができる。
【0135】
また、容積の小さい個別インク室3に連通するノズル孔6aの開口面積は、他の個別インク室3に連通するノズル孔6aの開口面積の平均よりも大きいので、容積を小さくした個別インク室3に、大きい開口面積のノズル孔6aを対応させることで、飛翔速度の変化率と吐出体積の変化率を任意に調整することができて、飛翔速度と吐出体積の両方をより均一にすることができる。
【0136】
なお、この発明は上述の実施形態に限定されない。例えば、本実施形態では、最も外側から3番目のチャンネルの個別インク室3の容積までを変化させているが、これに限られるものではない。最も外側のチャンネルだけでも同様の効果が得られるし、最も外側から3番目以降のチャンネルの容積を変えることによって、この効果が失われることはない。
【0137】
つまり、Y方向の両側で最も外側に位置する個別インク室のうちの少なくともY方向の一方側の個別インク室の容積が、この少なくともY方向の一方側の個別インク室を除いた他の個別インク室の容積の平均よりも小さくてもよい。
【0138】
また、Y方向の両側の個別インク室の容積が、このY方向の両側の個別インク室を除いた他の個別インク室の容積の平均よりも小さくてもよい。
【0139】
また、Y方向にn個(nは自然数)ずつ離れた位置にある個別インク室の全てが、同時に、液滴を吐出する状態で、少なくともY方向の一方側の個別インク室に関して、最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある各個別インク室の容積が、最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する個別インク室の容積の平均よりも小さくてもよい。
【0140】
また、本実施形態では、シェアモード型のインクジェットヘッドについて比較を行っているが、これに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1A】本発明のインクジェットヘッドの一実施形態を示す斜視図である。
【図1B】図1AのA−A断面図である。
【図1C】図1AのB−B断面図である。
【図2】インクジェットヘッドのノズルプレートを外した状態を示す斜視図である。
【図3】溝形成を説明する斜視図である。
【図4A】圧電部材の平面図である。
【図4B】図4AのC−C断面図である。
【図4C】図4AのD−D断面図である。
【図5A】カバー部材の平面図である。
【図5B】図5AのE−E断面図である。
【図5C】図5AのF−F断面図である。
【図6A】インクジェットヘッドの切断位置Aを説明する側面図である。
【図6B】インクジェットヘッドの切断位置Bを説明する側面図である。
【図7】インクジェットヘッドの吐出特性検査のシステムを示す簡略構成図である。
【図8】インクジェットヘッドの駆動状態を説明する説明図である。
【図9】インクジェットヘッドの検査結果を示すグラフである。
【図10A】比較例としてのカバー部材の平面図である。
【図10B】図10AのG−G断面図である。
【図11】比較例としてのインクジェットヘッドの検査結果を示すグラフである。
【図12】残留圧力波を説明する説明図である。
【図13】他のカバー部材の平面図である。
【図14】他のインクジェットヘッドの検査結果を示すグラフである。
【図15】各パラメータの飛翔速度変化率と吐出体積変化率の関係を表すグラフである。
【図16A】個別インク室の深さに対応したノズル開口面積を表すグラフである。
【図16B】各パラメータの飛翔速度変化率と吐出体積変化率の関係を表すグラフである。
【図17】他のインクジェットヘッドを示す正面図である。
【図18】他のインクジェットヘッドの検査結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0142】
1,1A 圧電部材
1a 分極境界部
2,2A,2B カバー部材
3 個別インク室
3a 深溝部(個別インク溝)
3b 隔壁
4 共通インク室
4a 共通インク溝
5 浅溝部
6,6A ノズルプレート
6a ノズル孔
7 電圧印加機構
8 制御PC
9 LED
10 CCDカメラ
11 ノズル面
12 マニホールド面
13 マニホールド
14 インク配管
15 インクタンク
16 ダイシングブレード
17 飛翔している液滴
18 電子天秤
19,19A 調整部材
20 本体部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X方向に延在してX方向に交差するY方向に互いに間隔をおいて配列された複数の個別インク室と、
上記各個別インク室に対応して配置され上記各個別インク室に連通する複数のノズル孔と
を備え、
Y方向の両側で最も外側に位置する上記個別インク室のうちの少なくともY方向の一方側の上記個別インク室の容積は、この少なくともY方向の一方側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットヘッドにおいて、
Y方向の両側の個別インク室の容積は、このY方向の両側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェットヘッドにおいて、
Y方向にn個(nは自然数)ずつ離れた位置にある上記個別インク室の全てが、同時に、液滴を吐出する状態で、
上記少なくともY方向の一方側の個別インク室に関して、最も外側の上記個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積、および、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降で、かつ、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項5】
請求項3または4に記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記最も外側の個別インク室から数えてn番目に位置する個別インク室から上記最も外側の個別インク室に向かって、上記個別インク室の容積が連続して減少することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つに記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向の長さが短いことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一つに記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向に直交する平面と交わる面積が小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一つに記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向およびY方向に直交するZ方向の深さが浅いことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一つに記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記容積の小さい個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積は、他の上記個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積の平均よりも大きいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一つに記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記複数の個別インク室は、Y方向に互いに等間隔に配列されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項1】
X方向に延在してX方向に交差するY方向に互いに間隔をおいて配列された複数の個別インク室と、
上記各個別インク室に対応して配置され上記各個別インク室に連通する複数のノズル孔と
を備え、
Y方向の両側で最も外側に位置する上記個別インク室のうちの少なくともY方向の一方側の上記個別インク室の容積は、この少なくともY方向の一方側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェットヘッドにおいて、
Y方向の両側の個別インク室の容積は、このY方向の両側の個別インク室を除いた他の上記個別インク室の容積の平均よりも小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインクジェットヘッドにおいて、
Y方向にn個(nは自然数)ずつ離れた位置にある上記個別インク室の全てが、同時に、液滴を吐出する状態で、
上記少なくともY方向の一方側の個別インク室に関して、最も外側の上記個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積、および、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えてn番目までの位置にある上記各個別インク室の容積は、上記Y方向の一方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降で、かつ、上記Y方向の他方側の最も外側の個別インク室から数えて(n+1)番目以降に位置する上記個別インク室の容積の平均よりも小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項5】
請求項3または4に記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記最も外側の個別インク室から数えてn番目に位置する個別インク室から上記最も外側の個別インク室に向かって、上記個別インク室の容積が連続して減少することを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つに記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向の長さが短いことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一つに記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向に直交する平面と交わる面積が小さいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一つに記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記容積の小さい個別インク室は、他の上記個別インク室と比べて、上記個別インク室におけるX方向およびY方向に直交するZ方向の深さが浅いことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一つに記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記容積の小さい個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積は、他の上記個別インク室に連通する上記ノズル孔の開口面積の平均よりも大きいことを特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一つに記載のインクジェットヘッドにおいて、
上記複数の個別インク室は、Y方向に互いに等間隔に配列されていることを特徴とするインクジェットヘッド。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−105334(P2010−105334A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281570(P2008−281570)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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